説明

近赤外線吸収色素及び近赤外線遮断フィルター

【課題】質量吸光係数の大きいジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素と該色素を用いて作製した耐湿熱性に優れる近赤外線遮断フィルターを提供すること。
【解決手段】フルオロアルキル基が置換したホウ酸アニオン又はリン酸アニオンを用いたジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素及び該色素を用いた近赤外線遮断フィルターである。該色素を用いた近赤外線遮断フィルターは耐湿熱性に優れるため、長期にわたって近赤外線吸収能力が低下しないものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外光領域に吸収を有するジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素と該色素を用いた近赤外線遮断フィルターに関し、さらに詳細には、近赤外線吸収効果に優れた近赤外吸収色素及び耐湿熱性に優れた近赤外線遮断フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの大型化、薄型化の要求が高まる中、プラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」と略記する)が一般に広く普及し始めている。
【0003】
PDPからは近赤外線が放出され、近赤外線リモコンを使用した電子機器が誤動作を起こしてしまうことから、近赤外線吸収色素を用いたフィルターで近赤外線を遮断する必要がある。また、光学レンズ、自動車用ガラス、建材用ガラス等の用途にも近赤外線遮断フィルターが広く利用されている。
【0004】
これらの用途に用いられる、近赤外線遮断フィルターは、可視光領域を透過しつつ、効果的に近赤外光領域を吸収し、更に、耐湿熱性の高い特性が求められる。従来では、ジイモニウム塩を含有する各種近赤外線遮断フィルターが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
該公報には、ジイモニウム塩系の近赤外線吸収色素が各種例示されているが、アニオン成分がビス(ヘキサフルオロアンチモン酸)であるN,N,N’,N’−テトラキス{p−ジ(n−ブチル)アミノフェニル}−p−フェニレンジイモニウム塩が一般的に用いられている。
【0006】
しかしながら、該色素を用いた近赤外線遮断フィルターは、耐湿熱性が不十分である。これはアニオンであるヘキサフルオロアンチモン酸イオンが水分の影響を受けやすく、ジイモニウム塩の安定性が悪いためである。これにより、ジイモニウム塩が分解して近赤外線吸収能力が低下する欠点があった。さらに、分解により生成したアミニウム塩が可視光線領域に吸収を生じることから、可視光透過率が低下し、黄色に呈色して色調を損なってしまう欠点があった。
【0007】
これらの欠点は、特にジイモニウム塩のアニオンが無機系イオンである近赤外吸収色素において顕著に見られるため、例えば、特許文献2では有機系イオンであるスルホンイミドをアニオン成分としたジイモニウム塩が開示されている。
【0008】
しかしながら、スルホンイミド等の有機系イオンは分子量が大きいため、質量吸光係数が小さくなる。その結果、近赤外線遮断フィルターなどに使用する際、十分な近赤外線遮断能を得るには色素使用量が多くなり、コストが掛かるといった欠点があった。
【0009】
特許文献3には、アニオンにアリール基とハロゲン原子が置換したホウ素アニオンとジイモニウムカチオンからなる近赤外吸収色素の記載がある。これは無機系イオンであるホウ素酸アニオンに、有機基であるアリール基を導入することで、耐湿熱性を改善している。しかし、スルホンイミドイオンと同様にアニオンの分子量が大きいため、十分な質量吸光係数が得られない欠点があった。
【0010】
以上より、質量吸光係数の大きい近赤外線吸収色素と該色素を用いて作製した耐湿熱性に優れる近赤外線遮断フィルターが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−180922号公報
【特許文献2】特開2006−143674号公報
【特許文献3】特開2008−224926号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、質量吸光係数の大きい近赤外線吸収色素と該色素を用いて作製した耐湿熱性に優れる近赤外線遮断フィルターを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは鋭意検討した結果、フルオロアルキル基が置換したホウ酸アニオン又はリン酸アニオンであるジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素及び該色素を用いた近赤外線遮断フィルターが上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下に示すものである。
【0015】
第一の発明は、下記一般式(1)又は(2)で表されるジイモニウム塩からなることを特徴とする近赤外線吸収色素である。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

(式(1)又は(2)中、R〜R14は、それぞれ同一でも異なってもよい水素原子、ハロゲン原子、有機基を示し、XはRBF4−m、RPF6−nを示す。R又はRはフルオロアルキル基を示す。mは1〜4、nは1〜6の整数である。)
【0018】
第二の発明は、R又はRが炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であることを特徴とする第一の発明に記載の近赤外線吸収色素である。
【0019】
第三の発明は、R又はRがトリフルオロメチル基であることを特徴とする第一又は第二の発明に記載の近赤外線吸収色素である。
【0020】
第四の発明は、第一から第三の発明のいずれかに記載の近赤外線吸収色素を含有させてなることを特徴とする近赤外線遮断フィルターである。
【発明の効果】
【0021】
本発明のジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素は質量吸光係数が大きく、該色素を用いた近赤外線遮断フィルターは耐湿熱性に優れるものであり、長期にわたって高い近赤外線吸収能力を維持することが可能な近赤外線遮断フィルターを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のジイモニウム塩について説明する。
【0023】
本発明の近赤外線吸収色素は、下記一般式(1)又は(2)で表されるジイモニウム塩である。
【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
上記一般式(1)又は(2)中、R〜R14はそれぞれ同一でも異なってもよい水素原子、ハロゲン原子、有機基を示し、XはRBF4−m、RPF6−nを示す。R又はRはフルオロアルキル基を示す。mは1〜4、nは1〜6の整数である。
【0027】
前期ハロゲン原子は、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、好ましくはフッ素原子である。前期有機基は、フェニル基、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のハロゲン化アルキル基、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のシアノアルキル基、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基、置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキルフェニル基、シクロアルキル環を有するアルキル基が挙げられる。
【0028】
置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、iso-ブチル基、n-ペンチル基、n−ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-デシル基、n-ドデシル基、n−オクタデシル基等の炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、好ましくは炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルキル基である。
【0029】
置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のフッ化アルキル基は下記一般式(3)で表される。
【0030】
【化5】

【0031】
上記一般式(3)中、Yはハロゲン原子を示し、pは1〜12の整数、qは1〜25の整数を示す。
【0032】
上記ハロゲン原子としては特に限定はないが、一般式(1)又は(2)を用いた近赤外線遮断フィルターの耐湿熱性を向上させる効果に優れる点から、特にフッ素原子、すなわちフッ化アルキル基が好ましい。
【0033】
上記フッ化アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、5,5,5−トリフルオロペンチル基、6,6,6−トリフルオロヘキシル基、8,8,8−トリフルオロオクチル基、2−メチル−3,3,3−トリフルオロプロピル基、ペルフルオロエチル基、ペルフルオロプロピル基、ペルフルオロブチル基、ペルフルオロヘキシル基、ペルフルオロオクチル基、2−トリフルオロメチル−ペルフルオロプロピル基等が挙げられる。
【0034】
上記置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のシアノアルキル基としては特に限定はないが、例えばプロピオニトリル基、ブチロニトリル基、ペンチルニトリル基、1−メチルプロピオニトリル基等が挙げられる。好ましくは炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のシアノニトリル基であり、置換されているシアノ基の数は1〜3個が好ましい。
【0035】
上記置換基を有していてもよい直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、2-メトキシエトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、メトキシブチル基、メトキシヘキシル基、メトキシオクチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、エトキシブチル基、エトキシヘキシル基、エトキシオクチル基、プロポキシメチル基、プロポキシプロピル基、プロポキシヘキシル基、ブトキシエチル基等が挙げられ、好ましくは炭素数1〜10の直鎖又は分岐鎖のアルコキシ基である。
【0036】
上記置換基を有してもよい直鎖又は分岐鎖のアルキルフェニル基としては、メチルフェニル基、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニル−α−メチルプロピル基、フェニル−β−メチルプロピル基、フェニルブチル基、フェニルペンチル基等が挙げられる。炭素数が1〜8の直鎖又は分岐鎖のアルキル基を有するものが好ましく、また、フェニル基にアルキル基、水酸基、スルホン酸基、アルキルスルホン酸基、ニトロ基、アミノ基、アルコキシ基、ハロゲン化アルキル基及びハロゲンからなる群から選ばれる少なくとも1種の置換基を有していてもよい。
【0037】
上記シクロアルキル環を有するアルキル基は下記一般式(4)で表わされる。
【0038】
【化6】

【0039】
上記一般式(4)中、Aは炭素数1〜10の直鎖又は分岐状のアルキル基を示し、rは3〜12の整数を示す。
【0040】
上記一般式(4)中、Aは炭素数1〜4が好ましく、rは5〜8が好ましく、特に5又は6が好ましく挙げられる。具体的には、シクロヘキシルメチル基、2−シクロヘキシルエチル基、2−シクロヘキシルプロピル基、3−シクロヘキシルプロピル基、4−シクロヘキシルブチル基等が挙げられる。特に好ましくはシクロヘキシルメチル基である。
【0041】
上記一般式(1)又は(2)中のXはRBF4−m、RPF6−nを示す。mは1〜4、nは1〜6の整数である。耐湿熱性より、RBF4−mが好ましく挙げられる。また、質量吸光係数よりn及びmが1又は2であるものが好ましく、特にn及びmが1であるものが好ましく挙げられる。
【0042】
又はRはフルオロアルキル基であり、炭素数1〜4のフルオロ基がより好ましく、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基がさらに好ましく、炭素数1又は2のパーフルオロアルキル基が特に好ましく挙げられる。R又はRの具体例としては、トリフルオロメチル基(CF基)、ペンタフルオロエチル基(C基)、ヘプタフルオロプロピル基(C基)、ノナフルオロブチル基(C基)等が挙げられ、トリフルオロメチル基(CF基)、ペンタフルオロエチル基(C基)が好ましく挙げられ、トリフルオロメチル基(CF基)が特に好ましく挙げられる。
【0043】
又はRがアルキル基では、耐水性に劣り、また、電気陰性度が低いため、ジイモニウム塩が得られにくくなる。これに対し、フッ素が置換しているアルキル基では、耐水性に優れ、かつ、電子吸引性のフッ化アルキルにより電気陰性度が高くなるため、2価のジイモニウム塩が得られやすくなる。
【0044】
の具体例としては、CFBF、CBF、CBF、(CFBF、(CFBF、(CFB、CFPF、CPF、CPF、(CFPF、(CFPF、(CFPF、(CFP等が挙げられ、質量吸光係数に優れる点よりCFBF、CBF、CFPF、CPF、が好ましく挙げられ、CFBFが特に好ましく挙げられる。
【0045】
アニオンとして本発明のRBF4−m、RPF6−nを有するジイモニウム塩を用いた近赤外遮断フィルターの耐湿熱性が向上する理由として、従来、近赤外遮断フィルムに用いるジイモニウム塩のアニオンは、主にSbF、PF、BF等の無機アニオンが用いられているが、これらのアニオンは水分の影響を受けやすいため、ジイモニウム塩の安定性が悪くなる。これに対し、本発明で用いられるアニオンは電子吸引性のフッ化アルキル基を置換した無機アニオンであり、アニオンの耐水性を向上させたことで、優れた耐湿熱性を有する近赤外遮断フィルターが得られる。さらに、置換する有機基の分子量を小さくすることで、質量吸光係数の優れた近赤外線吸収色素が得られ、より安価な近赤外線遮断フィルターの製造に資するものである。
【0046】
本発明の一般式(1)で表されるジイモニウム塩は、例えば特許文献(特公昭43−25335)に記載された方法に準じた方法で製造することができる。即ち、p−フェニレンジアミンと1−クロロ−4−ニトロベンゼンをウルマン反応させて得られた生成物を還元することにより下記一般式(5)であるN,N,N’,N’−テトラキス(アミノフェニル)−p−フェニレンジアミンを得ることができる。
【0047】
【化7】

【0048】
上記一般式(5)で表されるアミノ体をN−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」と略記する)等の極性溶媒中、R〜R14に対応するヨウ化物と、脱ヨウ素化剤としてアルキル金属の炭酸塩を加え、30〜150℃、好ましくは70〜120℃で反応させる。得られたものにXの銀塩を加え、NMP、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル等の有機溶媒中、温度30〜150℃、好ましくは40〜80℃で反応させ、析出した銀を濾別した後、水、酢酸エチル、ヘキサン等の溶媒を加え生じた沈殿を濾別して、ジイモニウム塩を得ることができる。
【0049】
の銀塩の合成方法は、Xのカリウム塩(KX)とAgNOとの塩交換で得ることができる。Xのカリウム塩(KX)は例えば文献(J.J.Am.Chem.Soc.1960,82,5298−5301)に記載された方法に準じた方法で製造することができる。
即ち、(CHSn−Sn(CHとCFIをモル比1:1で混合し、−196℃から20℃まで6時間かけて徐々に温度を上げて撹拌しながら反応させ、(CHSnCFを得る。得られた(CHSnCFとBFをモル比1:1で混合させて反応し、(CHSn[CFBFを得る。(CHSn[CFBFとフッ化カリウムを反応させて、K[CFBF]を得る。
これより得られたK[CFBF]とAgNOを用いて塩交換することで、Ag[CFBF]を得ることができる。
同様の方法により、BFをPFに代えることで、Ag[CFPF]を得ることができ、CFIをCIに代えることで、Ag[CBF]、Ag[CPF]を得ることができる。また、BFをK[CFBF]等とすることで、K[(CFBF]、K[(CFBF]、K[(CFB]を得ることができる。
【0050】
本発明のジイモニウム塩は、アニオンにRBF4−m、RPF6−nを用いることで、質量吸光係数が大きい近赤外線吸収色素が得られ、それを用いた近赤外線遮断フィルターは耐湿熱性に優れる特徴を有する。
【0051】
本発明のジイモニウム塩は、近赤外線吸収色素として有用であり、これを利用し、キャスト法や溶融押し出し法等の公知の方法により、近赤外線遮断フィルターを作製することができる。
【0052】
このうちキャスト法は、本発明のジイモニウム塩を高分子樹脂及び溶剤を混合させた後、ポリエステルやポリカーボネート等の透明なフィルム、パネル又はガラス基板上に該溶液を塗布、乾燥させてフィルム状に成膜させる方法である。
【0053】
上記樹脂としては、透明な樹脂が用いられ、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、ウレタン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイソシアネート、ポリアクリレート、エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0054】
また、上記溶媒としては、樹脂を溶解することが可能であれば特に限定はされないが、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等の有機溶剤又はこれらを混合させた溶媒を用いることができる。
【0055】
溶融押し出し法は、本発明のジイモニウム塩を高分子樹脂中に、溶融、混錬させた後、押し出し成型によりパネル状に成型させるものである。
【0056】
上記樹脂としては、透明な樹脂が用いられ、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0057】
近赤外層の厚みは、0.3〜50.0μmの範囲にすることが好ましい。0.3μm未満では、近赤外線吸収能が不十分であり、50.0μm超では、成形時における有機溶媒が残留してしまう欠点がある。
【0058】
本発明のジイモニウム塩は、近赤外線吸収色素としてこれを単独で用いるか、或いは、波長850nm付近の近赤外線吸収性能を補うため、フタロシアニン類、ジチオール系金属錯体、スクアリリウム系金属錯体等の公知色素を添加させて用いることもできる。また、耐光性を向上させるためにベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系等の紫外線吸収色素を添加して用いてもよい。
【0059】
特に850nm付近に最大吸収波長(λmax)を有する色素を配合すると、ジイモニウム塩の最大吸収波長(λmax)が1000nm付近にあることから、幅広い領域の近赤外を効率よく吸収でき、使用する色素量を少なくすることができる。そのため、コストが低減できる、色素の劣化が生じにくくなる、近赤外遮断フィルムを製造する際に色素を有機溶媒に十分溶解させることができる等の利点がある。
【0060】
本発明の近赤外線遮断フィルターの近赤外線透過率は、近赤外線吸収色素であるジイモニウム塩の高分子樹脂に対する混合率を変えることで制御でき、該色素の高分子樹脂に対する混合率は0.01〜30%の範囲である。混合率が0.01%未満の場合は近赤外線遮断能力が不十分であり、30%以上の場合は可視光線透過率が低下する欠点がある。
【0061】
本発明のジイモニウム塩である近赤外線吸収色素は、そのアニオン成分が、分子量の小さい有機基を置換した無機アニオンであり、該色素を用いた近赤外線遮断フィルターは、耐湿熱性に優れ、長期にわたって高い赤外線吸収能力を有する特徴がある。
【実施例】
【0062】
以下、発明を実施例に基づき説明する。なお、本発明は、実施例により、なんら限定されるものではない。
【0063】
(実施例1)
ジメチルホルムアミド200部に、トリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)を10部及びN,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン24.1部を加え、60℃で3時間反応させて、生成した銀をろ別した。
ついで、得られたろ液に水200部を添加し、生成した沈殿物をろ過後、乾燥を行い、トリフルオロメチルトリフルオロホウ酸−N,N,N‘,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンを27.0部得た。
【0064】
次に、アクリルラッカー系樹脂(綜研化学(株)登録商標フォレットGS−1000)30部にメチルエチルケトン43部及びトルエン23部を加えた溶液に、該ジイモニウム塩3部を溶解させた。この溶液を、隙間寸法200μmのバーコーターを使用して、市販のポリエステル樹脂フィルム(厚み50μm)上に塗布した。得られたフィルムを温度100℃で3分乾燥させて、近赤外線遮断フィルターを得た。
【0065】
(実施例2)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメチルペンタフルオロリン酸銀(Ag(CFBF)を用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0066】
(実施例3)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメチルペンタフルオロリン酸銀(Ag(CFBF)を用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0067】
(実施例4)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメチルペンタフルオロリン酸銀(Ag(CFB)を用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0068】
(実施例5)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメチルペンタフルオロリン酸銀(AgCFPF)を用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0069】
(実施例6)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)を、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンに代えて、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0070】
(実施例7)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメチルペンタフルオロリン酸銀(Ag(CFBF)を、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンに代えて、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0071】
(実施例8)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメチルペンタフルオロリン酸銀(Ag(CFBF)を、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンに代えて、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0072】
(実施例9)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメチルペンタフルオロリン酸銀(Ag(CFB)を、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンに代えて、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0073】
(実施例10)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメチルペンタフルオロリン酸銀(AgCFPF)を、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンに代えて、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0074】
(比較例1)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)を用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0075】
(比較例2)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)を用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0076】
(比較例3)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸銀(AgB(C)を用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0077】
(比較例4)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム(KCFSO)を用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0078】
(比較例5)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、
ビス(フルオロスルホニル)イミド酸銀(Ag(FSON)を用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0079】
(比較例6)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、テトラフルオロホウ酸銀(AgBF)を、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンに代えて、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0080】
(比較例7)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、ヘキサフルオロリン酸銀(AgPF)を、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンに代えて、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0081】
(比較例8)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ホウ酸銀(AgB(C)を、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンに代えて、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
(比較例9)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム(KCFSO)を、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンに代えて、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0082】
(比較例10)
実施例1のトリフルオロメチルトリフルオロホウ酸銀(AgCFBF)に代えて、
ビス(フルオロスルホニル)イミド酸銀(Ag(FSON)を、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミンに代えて、トリス(p−ジブチルアミノフェニル)アミンを用いた以外は、実施例1と同様にしてジイモニウム塩と近赤外線遮断フィルターを得た。
【0083】
実施例1〜10、比較例1〜10より得られたジイモニウム塩の極大吸収波長(λmax)(溶媒:アセトニトリル)における質量吸光係数を測定した。質量吸光係数(l/g・cm)は、1グラム当たりの吸光度を表し、吸光度を濃度(g/l)で割って求めた。
また、得られた近赤外線遮断フィルターを温度60℃、湿度95%の雰囲気下に保存して耐湿熱性試験を行い、波長950nm及び480nmにおける透過率を測定した。耐湿熱性の評価は、試験前後の透過率の差が3%未満の場合は◎、3%以上〜6%未満の場合は○、6%以上〜9%未満の場合は△、9%以上の場合は×とした。質量吸光係数と耐湿熱性試験の結果を表1,2に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

【0086】
表1より、実施例1〜5において、質量吸光係数は有機基が置換した無機アニオンを用いた比較例3より30〜40程度大きく、無機アニオンを用いた比較例1,2や分子量の小さい有機アニオンを用いた比較例4,5と同等に大きく、かつ、耐湿熱性は比較例1〜5よりも優れていることがわかる。
表2より、実施例6〜10において、質量吸光係数は有機基が置換した無機アニオンを用いた比較例8より30〜40程度大きく、無機アニオンを用いた比較例6,7や分子量の小さい有機アニオンを用いた比較例9,10と同等に大きく、かつ、耐湿熱性は比較例6〜10よりも優れていることがわかる。
以上のように、本発明の近赤外線色素は質量吸光係数が大きく、かつ、該色素を用いた近赤外線遮断フィルターは耐湿熱性に優れていることが明らかになった。特にアニオンにCFBFアニオンを用いたものでは質量吸光係数が大きく、耐湿熱性に優れていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のジイモニウム塩からなる近赤外線吸収色素を用いた近赤外線遮断フィルターは耐湿熱性に優れ、長期にわたって近赤外線吸収能力が低下しないものであり、PDP用、自動車ガラス用、建材ガラス用等種々の用途に用いることが可能であり、特にPDP用近赤外線遮断フィルターとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】実施例1で作製した近赤外線遮断フィルターの透過率を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2)で表されるジイモニウム塩からなることを特徴とする近赤外線吸収色素。
【化1】

【化2】

(式(1)又は(2)中、R〜R14は、それぞれ同一でも異なってもよい水素原子、ハロゲン原子、有機基を示し、XはRBF4−m、RPF6−nを示す。R又はRはフルオロアルキル基を示す。mは1〜4、nは1〜6の整数である。)
【請求項2】
又はRが炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線吸収色素。
【請求項3】
又はRがトリフルオロメチル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載の近赤外線吸収色素。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の近赤外線吸収色素を含有させてなることを特徴とする近赤外線遮断フィルター。

【図1】
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【公開番号】特開2011−26377(P2011−26377A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170666(P2009−170666)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】