説明

迷走神経刺激装置

【課題】耳介をその厚さ方向に貫通する迷走神経耳介枝に対して効果的に電気的な刺激を与える。
【解決手段】耳介Aを厚さ方向に挟んで表裏面に接触させられる一対の電極5,6,7と、これらの電極5,6,7を、近接離間可能に連結する連結部3,4,3a,4aと、電極間5,6,7に刺激信号を出力する刺激信号発生部11とを備える迷走神経刺激装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、迷走神経刺激装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、外耳道内あるいは耳の後ろの頭皮上に配置された電極を介して、耳介神経枝を電気的に刺激する迷走神経刺激装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−522725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の刺激装置は、耳介神経枝の長さ方向の一点において局所的に電気的な刺激を加えるものであるため、迷走神経に効果的に刺激を与えることができないという不都合がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、耳介をその厚さ方向に貫通する迷走神経耳介枝に対して効果的に電気的な刺激を与えることができる迷走神経刺激装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、耳介を厚さ方向に挟んで表裏面に接触させられる一対の電極と、これらの電極を、近接離間可能に連結する連結部と、前記電極間に刺激信号を出力する刺激信号発生部とを備える迷走神経刺激装置を提供する。
【0006】
本発明によれば、連結部により一対の電極の距離を耳介の厚さより十分に大きく離間させた状態で、耳介を厚さ方向に挟む位置に一対の電極を配置して、連結部により一対の電極を相互に近接させることにより、一対の電極を耳介の表裏面に接触させて耳介を厚さ方向に挟むことができる。これにより、耳介の厚さ方向に延びる迷走神経耳介枝の長手方向に離れた位置に一対の電極を配置することができる。この状態で、刺激信号発生部を作動させることにより、一対の電極間に刺激信号を出力すると、間隔をあけて配置された電極間に加わる刺激信号が、迷走神経耳介枝の長手方向に伝播することになり、迷走神経に効果的に刺激を与えることができる。
【0007】
上記発明においては、前記電極が、耳介後面に接触配置される本体電極と、該本体電極に前記連結部により揺動可能に取り付けられた揺動部材に固定され、耳介前面に対して接触または離間させられる可動電極とを備えていてもよい。
このようにすることで、本体電極を耳介後面に接触配置した状態で、本体電極に対して揺動部材を揺動させ、耳介前面に可動電極を近接させていき、耳介を厚さ方向に挟む位置に本体電極と可動電極とを配置することができる。形状の個人差が比較的少ない耳介後面に本体電極を安定的に配置した状態で、揺動部材を揺動させることで、耳介への装着を容易に行うことができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記揺動部材が、その揺動中心から前記可動電極までの距離を変更するように伸縮可能に設けられていてもよい。
このようにすることで、耳介の長さの個人差に応じて、揺動部材を伸縮させて可動電極の接触位置を所望の位置に調節することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記揺動部材が、前記本体電極の両端に配置されるとともに、各前記揺動部材に、前記可動部材が固定され、前記本体電極が、2つの前記揺動部材の揺動中心間の距離を変更するように伸縮可能に設けられていてもよい。
このようにすることで、本体電極を耳介後面に耳介の長さ方向に沿って配置したときに、耳介の長さの個人差に応じて本体電極を伸縮させることにより、本体電極の両端に配置された揺動中心を耳介の長さ方向の両端近傍に配置することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記本体電極に対して前記揺動部材の揺動中心の角度を変更可能な角度調節部が設けられていてもよい。
このようにすることで、角度調節部により揺動中心の角度を変更することで、耳介の形状の個人差に合わせて、適切な方向に揺動部材を揺動させて、一対の電極によって無理なく耳介を厚さ方向に挟むことができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記揺動部材に複数の前記可動電極が固定されていてもよい。
このようにすることで、迷走神経耳介枝を複数箇所において刺激することができ、より効果的に刺激を与えることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耳介をその厚さ方向に貫通する迷走神経耳介枝に対して効果的に刺激を与えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る迷走神経刺激装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の迷走神経刺激装置の耳介への装着方法を示す図である。
【図3】図1の迷走神経刺激装置の揺動部材の揺動の変形例を示す部分的な斜視図である。
【図4】図1の迷走神経刺激装置の揺動部材の揺動の他の変形例を示す部分的な斜視図である。
【図5】図1の迷走神経刺激装置の変形例を示す全体構成図である。
【図6】図1の迷走神経刺激装置の他の変形例を示す全体構成図である。
【図7】本発明の迷走神経刺激装置をツルの端部に取り付けた眼鏡を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る迷走神経刺激装置1について図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る迷走神経刺激装置1は、図1に示されるように、耳介A後面の形状に沿って接触するように湾曲した略C字状の装置本体2と、該装置本体2の両端に揺動可能に取り付けられた2本の揺動部材(連結部)3,4と、該揺動部材3,4の先端に固定された略球体状の可動電極5,6とを備えている。
【0015】
装置本体2には、その略C字形状の内側表面に沿って配置された本体電極7と、内部に配置され、本体電極7と可動電極5,6との間に刺激信号(電圧信号)を加える刺激信号発生部11およびバッテリ(図示略)とが設けられている。図中、符号8は、電源スイッチ、符号9は刺激信号発生部による刺激強度を調節するための操作部、符号10は、バッテリに充電するために外部の充電装置(図示略)に接続するコネクタである。
【0016】
揺動部材3,4は、装置本体2とは逆方向に円弧状に湾曲する棒状部材であって、装置本体2の両端に配置された略平行な軸線3a,4a回りにそれぞれ揺動可能に取り付けられている。揺動部材3,4内部には、装置本体2に内蔵されている刺激信号発生部と揺動部材3,4先端の可動電極5,6とを接続する配線が配置されている。
【0017】
各揺動部材3,4は、軸線3a.4a回りに一方向に揺動させることにより、可動電極5,6と本体電極7との距離を拡大し、他方向に揺動させることにより、可動電極5,6と本体電極7とを近づけることができるようになっている。各揺動部材3,4は装置本体2の略半分の長さを有しており、可動電極5,6を本体電極2に近接させると、本体電極2の略中央位置近傍に近接するようになっている。
【0018】
刺激信号発生部11は、電源スイッチ9がON状態とされると、操作部9によって調節された刺激強度の刺激信号を本体電極7と可動電極5,6との間に印加するようになっている。刺激信号は、例えば、パルス電圧信号であって、その刺激強度は、パルスの振幅、パルス幅、パルス間隔等で調節できるようになっている。
【0019】
このように構成された本実施形態に係る迷走神経刺激装置1の作用について、以下に説明する。
本実施形態に係る迷走神経刺激装置1を患者の耳介Aに装着するには、図2(a)に示されるように、装置本体2に対して揺動部材3,4を揺動させることにより本体電極7と可動電極5,6との間の距離を広げた状態で、図2(b)に示されるように、装置本体2の内側面に配置された本体電極7が耳介A後面に接触するようにあてがう。そして、図2(c)に示されるように、2つの揺動部材3,4を軸線3a,4a回りに揺動させることにより、揺動部材3,4先端の可動電極5,6を本体電極2に近接させていく。
【0020】
可動電極5,6が耳介Aの前面の略中央に接触するまで揺動させることにより、耳介Aが、その厚さ方向に本体電極7と可動電極5,6とにより挟まれる。これにより、迷走神経刺激装置1が患者の耳介Aに装着され、迷走神経を刺激する準備が完了する。
【0021】
この状態で、電源スイッチ8をオン状態に切り替えるとともに、操作部9を操作して刺激強度を調節することにより、適正な刺激強度の刺激信号を刺激信号発生部11から本体電極7と可動電極5,6との間に印加することができる。
【0022】
この場合において、本実施形態に係る迷走神経刺激装置1によれば、本体電極7と可動電極5,6とが耳介Aをその厚さ方向に挟んで耳介Aの後面および前面に接触状態に配置されているので、両電極5,6,7は、耳介A内部を厚さ方向に沿って延びる迷走神経耳介枝の長さ方向に間隔をあけて配置されることになる。
【0023】
これにより、刺激信号は、迷走神経耳介枝に長さ方向に間隔をあけて配置された電極5,7および電極6,7間に印加されるので、迷走神経耳介枝の長さ方向の略同一位置に印加される従来の場合と比較して、長い範囲に刺激を与えることができ、効果的に刺激を与えることができるという利点がある。
【0024】
また、本実施形態に係る迷走神経刺激装置1によれば、耳介A後面に接触配置される本体電極7に対して揺動部材3,4を揺動させて可動電極5,6を近接または離間させるので、個人差の比較的少ない形状を有する耳介A後面に装置本体2を安定的に配置した状態で、装置本体2に対して揺動部材3,4を揺動させて両電極5,6,7間に耳介Aを挟み、容易に装着することができる。装置本体2および揺動部材3,4は互いに逆方向に湾曲しているので、耳介Aの他の部分が両者2,3,4間に挟み込まれることなく、一対の電極5,6,7によって耳介Aを厚さ方向に挟むことができる。
【0025】
なお、本実施形態においては、本体装置2の両端に2つの揺動部材3,4を介して2つの可動電極5,6を配置した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、単一の揺動部材3を介して単一の可動電極5が配置されていてもよい。また、本体装置2の一端または両端に、それぞれ複数の可動電極5,6が1以上の揺動部材3,4を介して配置されていてもよい。
【0026】
また、揺動部材3,4の揺動方向については、耳介Aの形の個人差に応じて、2つの電極5,6,7が耳介Aの表裏面にフィットするように調節可能に設けられていてもよい。例えば、図3および図4に示されるように、揺動部材3,4を揺動させる軸線に交差する他の軸線回りに揺動可能に設けられていてもよい。
【0027】
図3に示す例では、揺動部材3,4が軸線3a,4aに直交する他の軸線3b,4b回りに揺動させられるようになっている。また、図4に示す例では、さらに、装置本体2の端部が湾曲可能に設けられている。符号12は角度調節用に湾曲可能な蛇腹である。
【0028】
また、耳介Aの寸法には個人差があるので、装置本体2の両端に揺動部材3,4を配置する場合に、全ての患者の耳介Aに装着可能とするためには、装置本体2および揺動部材3,4の長さを十分に大きく設定しておかなければならないが、大きすぎると各患者の耳介Aにフィットさせることができない。そこで、図5に示されるように、装置本体2および揺動部材3,4をテレスコピックに伸縮可能に構成しておくことにしてもよい。このようにすることで、これらを伸縮させて各患者の耳介Aの長さにぴったりと適合させ、装着容易性を向上することができる。
【0029】
なお、装置本体2の一端のみに揺動部材3を揺動可能に取り付けている場合には、揺動部材3のみを伸縮可能に設けておくこととしてもよい。このようにすることで、耳介Aの寸法の個人差に拘わらず、可動電極5を耳介Aの略中央に配置することが可能となる。
【0030】
また、装置本体2および揺動部材3,4の形状は、上記形状に限定されるものではなく、図6に示されるように、耳介Aの後面を広い範囲にわたって面で覆う形状の本体電極7を有する装置本体2および耳介Aの前面を広い範囲にわたって面で覆う形状の可動電極5を備えた揺動部材3を採用することにしてもよい。
【0031】
また、迷走神経刺激専用の装置として構成してもよいし、図7に示されるように、眼鏡20のツルの後端に配置した兼用の装置として構成してもよい。
【符号の説明】
【0032】
A 耳介
1 迷走神経刺激装置
3,4 揺動部材(連結部)
3a,4a 軸線(連結部)
3b,4b 軸線(角度調節部)
5,6 可動電極(電極)
7 本体電極(電極)
11 刺激信号発生部
12 蛇腹(角度調節部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耳介を厚さ方向に挟んで表裏面に接触させられる一対の電極と、
これらの電極を、近接離間可能に連結する連結部と、
前記電極間に刺激信号を出力する刺激信号発生部とを備える迷走神経刺激装置。
【請求項2】
前記電極が、耳介後面に接触配置される本体電極と、該本体電極に揺動可能に取り付けられた揺動部材に固定され、耳介前面に対して接触または離間させられる可動電極とを備える請求項1に記載の迷走神経刺激装置。
【請求項3】
前記揺動部材が、その揺動中心から前記可動電極までの距離を変更するように伸縮可能に設けられている請求項2に記載の迷走神経刺激装置。
【請求項4】
前記揺動部材が、前記本体電極の両端に配置されるとともに、
各前記揺動部材に、前記可動部材が固定され、
前記本体電極が、2つの前記揺動部材の揺動中心間の距離を変更するように伸縮可能に設けられている請求項2または請求項3に記載の迷走神経刺激装置。
【請求項5】
前記本体電極に対して前記揺動部材の揺動中心の角度を変更可能な角度調節部が設けられている請求項2から請求項4のいずれかに記載の迷走神経刺激装置。
【請求項6】
前記揺動部材に複数の前記可動電極が固定されている請求項2から請求項5のいずれかに記載の迷走神経刺激装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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