説明

送信アンテナ

【課題】宇宙空間において排熱装置を極力排除して送信アンテナの発熱体からの熱を効率よく排熱しつつ、宇宙空間から入射する熱を抑制することの可能な送信アンテナを提供する。
【解決手段】アンテナ素子(34)の背面に配置して設けられた発熱体(60)と、アンテナ素子の放射面(46)に配置して設けられ、電磁波の波長を選択して可視光を透過し、赤外線を放射させる波長選択体(36)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信アンテナに係り、詳しくは宇宙空間において太陽光を集光して発電した電力を地上の電力基地へ伝送するための送信アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、宇宙空間における太陽光発電では、人工衛星に取り付けられる太陽電池パネルが知られている。人工衛星は、太陽電池パネルで発電した電力を搭載されている通信系、姿勢制御系、観測系等の各機器へ通電すると共に二次電池に蓄電し、ミッションを達成するように構成されている。
一方、宇宙空間における太陽光発電の利用方法として、以前から宇宙太陽光発電システムが検討されている。宇宙太陽光発電システムとは、例えば静止軌道上に発電衛星のような宇宙機を投入して巨大な太陽電池パネルを展開して太陽光を集光し、そこで発電した電力をマイクロ波に変換して送信アンテナを使用して地上の電力基地へ送信し、電力基地で受信したマイクロ波から変換した電力を商用電力として利用するものである(非特許文献1)。
このような宇宙太陽光発電システムでは、地上に設置された公知の太陽光発電システムとは異なり、日没や天候等に左右されず24時間安定した電力供給が可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】”マイクロ波による太陽エネルギー利用技術(M-SSPS)”、[online]、宇宙航空研究開発機構、[平成22年4月8日検索]、インターネット<URL:http://www.ard.jaxa.jp/research/hmission/hmi-mssps.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した宇宙太陽光発電システムでは、巨大な太陽電池パネルで太陽光を集光して大電力を発生させるため、システム内部、特に増幅器で多量の発熱が生じ、宇宙機の熱制御を行う上で排熱の問題が生じる。また、宇宙空間という環境では、地球からの反射熱や太陽光からの電磁波が送信アンテナに入射することによる熱の影響という問題もあるため、宇宙太陽光発電システムでは排熱装置が必要である。
【0005】
この点に関し、送信アンテナに配置されている増幅器等の発熱体にヒートパイプやラジエータ等の排熱装置を配置することが検討されてきた。
ここで、発電衛星のような宇宙機は、宇宙空間へ打ち上げるための重量制限やコスト等の点から極力小型化、軽量化したシステムである必要がある。
【0006】
しかしながら、上述した排熱装置を設置する場合、宇宙機の重量が増大し、宇宙機のシステムが複雑化してしまうという問題がある。そこで、排熱装置を極力排除するために、宇宙太陽光発電システムで検討されている従来のパッチアンテナやダイポールアンテナ等では電波放射面となる金属面が小さく放熱面として利用できず、外部から入射する熱を効率よく放熱できないという問題があり、これらの問題を解決することが従来の課題となっていた。
本発明は、上述した課題を解決すべくなされたものであり、その目的とするところは、宇宙空間において排熱装置を極力排除して発熱体からの熱を効率よく排熱しつつ、外部から入射する熱を抑制することの可能な送信アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するべく、請求項1の送信アンテナは、宇宙空間において太陽光を集光して電気エネルギーを生成し、生成した電気エネルギーをマイクロ波に変換して地上に送信する宇宙太陽光発電衛星に取り付けられた送信アンテナであって、複数のアンテナ素子からなり、該アンテナ素子の背面に配置して設けられた発熱体と、前記アンテナ素子の放射面に配置して設けられ、電磁波の波長を選択して可視光を透過し、赤外線を放射させる波長選択体とを備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の送信アンテナでは、請求項1において、前記アンテナ素子は、アンテナ基板と、前記アンテナ基板に積層された導体層と、前記波長選択体の背面に配置され、宇宙空間にマイクロ波を放射するための開口部を有した放射面導体層とを備え、前記導体層と前記放射面導体層とはビア導体で接続されていることを特徴とする。
請求項3の送信アンテナでは、請求項1または2において、前記波長選択体と前記放射面導体層との間には、紫外線及び可視光の反射率の高い導体が延びて設けられており、前記開口部と略等しい位置に第2開口部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項4の送信アンテナでは、請求項1乃至3のいずれかにおいて、前記アンテナ素子はクロススロットアンテナであることを特徴とする。
請求項5の送信アンテナでは、請求項1乃至4のいずれかにおいて、前記波長選択体は溶融石英ガラスであることを特徴とする。
請求項6の送信アンテナは、請求項1乃至5のいずれかにおいて、前記発熱体は増幅器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の送信アンテナによれば、アンテナ素子の背面に設けられた発熱体と、アンテナ素子の放射面に配置して設けられ、電磁波の波長を選択して可視光を透過し、赤外線を放射させる波長選択体とを備える。
これにより、波長選択体により宇宙空間から入射する熱を抑制することができると共に、発熱体からの熱を赤外線として効率よく輻射することができる。従って、排熱装置は削減可能であり、発電衛星を小型化、軽量化することができる。
【0011】
請求項2の送信アンテナによれば、アンテナ素子はアンテナ基板と、アンテナ基板に積層された導体層と、波長選択体の背面に設けられ、宇宙空間にマイクロ波を放射するための開口部を有した放射面導体層とから構成されており、導体層と放射面導体層とはビア導体で接続されている。
従って、アンテナ素子の背面に設けられた発熱体が発する熱はアンテナ基板、導体層からビア導体を介して放射面導体層へ伝達されるので、発熱体から発生する熱をより効率よく宇宙空間へ輻射することができる。
【0012】
請求項3の送信アンテナによれば、波長選択体と放射面導体層との間に、太陽光吸収率が低い、即ち紫外線及び可視光の反射率の高い性質を有する導体が延びて設けられ、放射面導体層に設けられた開口部と略等しい位置に第2開口部が設けられていることにより、宇宙空間から波長選択体を通過した可視光は当該導体で反射し、発熱体から放射面導体層へ伝達された熱は当該導体を通して最終的に波長選択体に伝達されるので、宇宙空間からアンテナ素子内に入射する熱をより抑制することができる。また、開口部からのマイクロ波の放射を阻害することなく発熱体からの熱を効率よく宇宙空間へ輻射することができる。
【0013】
請求項4の送信アンテナによれば、アンテナ素子はクロススロットアンテナであり、クロススロットアンテナは放射面導体層の面積がパッチアンテナやダイポールアンテナと比べて大きいため放熱面として利用することができるので、アンテナ素子内部の熱を効率的に放射することができる。
【0014】
請求項5の送信アンテナによれば、波長選択体は溶融石英ガラスであるので、太陽からの電磁波のうち紫外線を良好に反射し、かつ赤外線を放射する。これにより、アンテナ素子内部に入射する熱を抑制することができ、発熱体からの熱を赤外線として効率よく宇宙空間へ輻射することができる。
【0015】
請求項6の送信アンテナによれば、発熱体は増幅器であるので、生成した電気エネルギーから変換されたマイクロ波を増幅させることができ、増幅器はアンテナ素子の背面に設けられているので、送信するまでのマイクロ波のロスを極力抑えることができる。
また、増幅器で発生した熱を速やかにアンテナ素子へ伝導させることができ、効率よく熱を放射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る送信アンテナが設置された発電衛星を含む宇宙太陽光発電システムの概略構成図である。
【図2】図1に示した発電衛星の構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示した送信アンテナを構成するサブアレイの上面図を示す。
【図4】図3のA−A線に沿う縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る送信アンテナが設置された発電衛星を含む宇宙太陽光発電システムの概略構成図である。
図1に示すように、発電衛星(宇宙太陽光発電衛星)1は宇宙空間において太陽光を集光して電気エネルギーを生成し、生成した電気エネルギーをマイクロ波に変換して送信アンテナ18を使用して地上の電力基地2へ送信する。ここで、図1では発電衛星1を1機のみの構成としているが、発電衛星1は複数機から構成されてもよい。
【0018】
電力基地2には受信アンテナであるレクテナ4が設置されており、発電衛星1から送信されたマイクロ波をレクテナ4で受信し、マイクロ波をDC電力へ変換して送電ケーブル6を介して既存の商用電力網へ送電する。
このように地上に設けられる電力基地2において、発電衛星1から電力基地2までの距離が非常に長いため、送信アンテナ18の直径は数kmに及ぶ場合があり、電力基地2に配置されるレクテナ4の直径も数kmに及ぶ場合がある。
【0019】
このような宇宙太陽光発電システムにおける発電衛星1の構成について、図1、2に基づき説明する。
図2は図1に示した発電衛星1の構成を示したブロック図である。
集光部20は宇宙空間において太陽光を集光するものであり、反射光学系や屈折光学系等によって構成される。一例として、図1に示す発電衛星1には、一次反射鏡10、10及び二次反射鏡12、12が取り付けられており、これらが集光部20に該当する。一次反射鏡10、10の大きさは直径数km程度に及ぶ場合がある。発電衛星1の制御系は、このような一次反射鏡10、10を使用して集光した太陽光を二次反射鏡12、12へ反射させ、二次反射鏡12、12により反射された太陽光が太陽電池パネル16に集光するよう一次反射鏡10、10及び二次反射鏡12、12の姿勢を制御する。なお、一次反射鏡10、10は太陽を追尾するように制御されてもよい。
【0020】
図2に戻り、集光部20を使用して集光された太陽光を、太陽電池パネル16を含む太陽電池パネルユニット22が受光して電気エネルギーを生成する。ここで生成された電気エネルギーはDC−マイクロ波変換部24へ入力され、マイクロ波に変換される。図示しないが、送信アンテナ18の出力マイクロ波が電力基地2の方向を指向するようにマイクロ波の位相を位相調整手段により調整する。そして、送信アンテナ18から電力基地2へ向けてマイクロ波を出力する。なお、送信アンテナ18は常に地上側を指向するように電気的、機械的に制御されている。
【0021】
このような送信アンテナ18は複数のサブアレイ30から構成され、複数のアンテナ素子からなるサブアレイ30の上面図を図3に示す。
サブアレイ30は、空間に電磁波を放射する2つのスロット(開口部)32が略中央で交差してクロススロットを形成する複数個のクロススロットアンテナ素子、例えば4個のクロススロットアンテナ素子(アンテナ素子)34から構成されている。ここで、スロット32が形成されている面を上面と定義する。
【0022】
後述するように、各サブアレイ30の背面側には増幅器が接続されており、給電点Pは各クロススロットアンテナ素子34に形成されたスロット32が交差する交差部から所定の長さ離間したスロット32の部分に位置して設けられている。
各サブアレイ30の上面には波長選択体36が延びて設けられている。波長選択体36は、例えば溶融石英ガラスであり、可視光を透過し、赤外線を放射させる。波長選択体36は接着材でサブアレイ30に固定されている。
【0023】
図4に図3のA−A線に沿う縦断面図を示すように、クロススロットアンテナ素子34の背面側には絶縁体熱伝導シート40が設けられており、絶縁体熱伝導シート40の上面には銅箔で形成された導体層42が積層されている。導体層42の上方には所定の間隙を設けて銅箔で形成された給電回路面導体層44が配置して設けられ、給電回路面導体層44の上方には所定の間隙を設けて銅箔で形成された放射面導体層46が設けられており、放射面導体層46にはスロット32が形成されている。そして、導体層42と放射面導体層46とはそれぞれビア導体48で接続されている。
給電回路面導体層44は分配回路であり、図示しないがコネクタから入力された電力は当該分配回路で4分配され、さらに2分配されて各スロット32へ給電する。
【0024】
放射面導体層46の上面には、太陽光吸収率が低い、即ち紫外線及び可視光の反射率の高い導体として銀箔(導体)50が延びて設けられている。銀箔50には、放射面導体層46に形成されているスロット32と略等しい位置に開口部(第2開口部)50aが形成され、銀箔50の上面に上述の如く波長選択体36が延びて設けられている。
クロススロットアンテナ素子34内は、誘電体52で構成されている。
【0025】
複数のクロススロットアンテナ素子34の背面には増幅器(発熱体)60が配設されている。ここで、増幅器60は太陽電池パネル22で生成した電気エネルギーから変換したマイクロ波を所定の値に増幅するが、送信するまでのマイクロ波のロスを極力抑えるために、サブアレイ30の背面に配置される。
【0026】
このように、本発明に係る送信アンテナによれば、放射面導体層46の上面には可視光を透過し、赤外線を放射させる波長選択体36が延びて設けられ、サブアレイ30の背面には各クロススロットアンテナ素子34に、生成した電気エネルギーから変換したマイクロ波を増幅する増幅器60が配置されている。
従って、波長選択体36により宇宙空間からクロススロットアンテナ素子34内に入射する電磁波のエネルギーは一部の赤外線のみとなるので、クロススロットアンテナ素子34内に入射する熱を抑制することができる。
【0027】
また、増幅器60から発生する熱は赤外線として波長選択体36を通過して宇宙空間へ放熱することにより、発熱体からの発熱を効率よく宇宙空間へ放熱することができる。
従って、排熱装置は削減可能となり、発電衛星1の小型化、軽量化が可能となる。
また、波長選択体36の背面に太陽光吸収率が低く可視光に対して反射率の高い銀箔50が延びて設けられていることにより、太陽光が送信アンテナ18に入射すると、波長選択体36を可視光が通過するものの銀箔50で反射され、赤外線は波長選択体36で吸収、放射されるので、クロススロットアンテナ素子34内に入射する熱をより抑制することができる。
【0028】
さらに、クロススロットアンテナ素子34は導体層42と、放射面導体層46とがそれぞれビア導体48で接続されて構成されることにより、増幅器60から発生する熱は絶縁体熱伝導シート40、導体層42からビア導体48を介して放射面導体層46及び銀箔50へと伝達され、銀箔50から波長選択体36を介して輻射する。
【0029】
即ち、増幅器60で発生した熱は、銀箔50へ熱伝導により波長選択体36へ到達し、最終的に波長選択体36から赤外線で宇宙空間へ放熱されるので、増幅器60等で発生する熱を効率よく宇宙空間へ放熱することができる。従って、排熱装置は削減可能であり、発電衛星1の軽量化や小型化が可能である。
また、クロススロットアンテナ素子34はパッチアンテナ等と比較して放射面導体層46の面積が大きく、放射面導体層46の上面に延びて設けられた銀箔50にはスロット32と略等しい位置に開口部50aが形成されているため、放射面導体層46は放熱面としての面積がより大きくなるので、より効率よく放熱することができる。
【0030】
以上で実施形態の説明を終えるが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、上記実施形態では、波長選択体36の背面に銀箔50を配置しているが、紫外線及び可視光の反射率の高い導体であればこれに限られない。
【符号の説明】
【0031】
1 発電衛星(宇宙太陽光発電衛星)
18 送信アンテナ
30 サブアレイ
34 クロススロットアンテナ素子(アンテナ素子)
36 波長選択体
40 絶縁体熱伝導シート
42 導体層
46 放射面導体層
48 ビア導体
50 銀箔(導体)
60 増幅器(発熱体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙空間において太陽光を集光して電気エネルギーを生成し、生成した電気エネルギーをマイクロ波に変換して地上に送信する宇宙太陽光発電衛星に取り付けられた送信アンテナであって、
複数のアンテナ素子からなり、
該アンテナ素子の背面に配置して設けられた発熱体と、
前記アンテナ素子の放射面に配置して設けられ、電磁波の波長を選択して可視光を透過し、赤外線を放射させる波長選択体と、
を備えたことを特徴とする送信アンテナ。
【請求項2】
前記アンテナ素子は、
アンテナ基板と、
前記アンテナ基板に積層された導体層と、
前記波長選択体の背面に配置され、宇宙空間にマイクロ波を放射するための開口部を有した放射面導体層とを備え、
前記導体層と前記放射面導体層とはビア導体で接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の送信アンテナ。
【請求項3】
前記波長選択体と前記放射面導体層との間には、紫外線及び可視光の反射率の高い導体が延びて設けられており、前記開口部と略等しい位置に第2開口部が設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の送信アンテナ。
【請求項4】
前記アンテナ素子はクロススロットアンテナであることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれかに記載の送信アンテナ。
【請求項5】
前記波長選択体は溶融石英ガラスであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれかに記載の送信アンテナ。
【請求項6】
前記発熱体は増幅器であることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれかに記載の送信アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−100205(P2012−100205A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−248404(P2010−248404)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【出願人】(500302552)株式会社IHIエアロスペース (298)
【出願人】(000232287)日本電業工作株式会社 (71)
【出願人】(000003285)千代田化工建設株式会社 (162)
【Fターム(参考)】