説明

送電線自動復旧システム

【課題】試充電によって電力系統へ与えるショックなどのリスクを低減できる送電線自動復旧システムを提供する。
【解決手段】送電線Lの受電端側に設置されたFL機能付自動復旧装置20は、受電端母線B1の第2の母線電圧V2および送電線Lの受電端側を流れる第2の線路電流I2に基づいて事故点インピーダンスZを算出する事故点インピーダンス算出回路21と、算出された事故点インピーダンスZに基づいて送電線事故の事故点が送電線Lの中間点よりも遠いか否かを判定する事故点判定回路22と、事故点判定回路22が「事故点が送電線の中間点よりも遠い」と判定した場合に、送電線Lの送電端側に設置された自動復旧装置10よりも早く送電線Lの試充電を実施するための遮断器投入信号発生回路23および遮断器投入信号出力回路24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループ状電力系統において送電線事故後に送電線を試充電するのに好適な送電線自動復旧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、送電線事故後に送電線を試充電するために自動復旧装置(ARE)が使用されているが、ループ状電力系統では、各送電線において送電端(短絡容量が大きい方の母線側)と受電端(短絡容量が小さい方の母線側)とを予め設定し、事故点に拘わらず送電端側の自動復旧装置から送電線の試充電を行っている。
【0003】
なお、下記の特許文献1には、多端子送電系統において先行端休止に拘わらず再閉路可能とするように、送電線端子毎に再閉路投入する順序を設定し、系統の運用状態(片端切など)によって各端子の投入順序(先行および後続)を入れ替えるようにした、保護継電装置の再閉路回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−125460号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、事故点が送電線の送電端の近傍(特に、送電端の至近端)である場合には、送電端側の自動復旧装置から試充電を行うと、試充電によって電力系統へ与えるショック(電圧低下、発電機安定度低下および変電機器へ与える影響)などのリスクが高まるという問題があった。
【0006】
なお、上記の特許文献1に開示された保護継電装置の再閉路回路は、先行端の運用および休止(系統状態の変化)によって各端子の投入順序を入れ替えるものであり、事故点によって各端子の投入順序を入れ替えるものではないため、上述した問題を解決することはできない。
【0007】
本発明の目的は、試充電によって電力系統へ与えるショックなどのリスクを低減することができる送電線自動復旧システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の送電線自動復旧システムは、ループ状電力系統において送電線事故後に送電線(L)を試充電するための送電線自動復旧システムであって、前記送電線の一端側に設置された第1の自動復旧装置(10)と、前記送電線の他端側に設置された第2の自動復旧装置(20)とを具備し、前記第2の自動復旧装置が、前記送電線の前記他端側の電圧(V1;V2)および該送電線の前記他端側を流れる線路電流(I1;I2)に基づいて算出した事故点インピーダンス(Z)が所定の値よりも大きいと、前記第1の自動復旧装置よりも早く前記送電線の試充電を実施するための手段(21〜24)を備えることを特徴とする。
ここで、前記第2の自動復旧装置の第2の整定値が、前記第1の自動復旧装置の第1の整定値よりも小さく設定されており、前記第2の自動復旧装置が、前記電圧および前記線路電流に基づいて前記事故点インピーダンスを算出するための事故点インピーダンス算出手段(21)と、該事故点インピーダンス算出手段によって算出された前記事故点インピーダンスに基づいて前記送電線事故の事故点が前記送電線の中間点よりも遠いか否かを判定するための事故点判定手段(22)と、該事故点判定手段が「事故点が送電線の中間点よりも遠い」と判定した場合に、前記送電線の無電圧状態が前記第2の整定値による時間以上継続すると該送電線の試充電を実施するための試充電実施手段(23,24)とを備えてもよい。
前記事故点判定手段が、前記事故点インピーダンス算出手段によって算出された前記事故点インピーダンスが前記送電線の線路インピーダンス(ZL)の半分の値よりも大きいと、「事故点が送電線の中間点よりも遠い」と判定してもよい。
前記第2の自動復旧装置の前記第2の整定値が、前記送電線に設置された遮断器の性能に応じて設定される整定値と同じであってもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の送電線自動復旧システムは、以下に示す効果を奏する。
(1)事故点から遠い方の自動復旧装置から試充電を実施させることができるため、試充電によって電力系統へ与えるショックなどのリスクを低減することができる。
(2)電力系統へ与えるショックを抑えることができるため、機器損壊防止、電圧低下の軽減および発電機脱落の防止を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施例による送電線自動復旧システムについて説明するための図である。
【図2】図1に示したFL機能付自動復旧装置20の構成を示すブロック図である。
【図3】図1に示した自動復旧装置10およびFL機能付自動復旧装置20の動作について説明するための図である。
【図4】図1に示したFL機能付自動復旧装置20を送電線Lの送電端に設置するとともに図1に示した自動復旧装置10を送電線Lの受電端に設置した場合の自動復旧装置10およびFL機能付自動復旧装置20の動作について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記の目的を、受電端母線の母線電圧および送電線の受電端側を流れる線路電流に基づいて事故点インピーダンスを算出し、算出した事故点インピーダンスに基づいて事故点が送電線の中間点よりも遠いか否かを判定し、「事故点が送電線の中間点よりも遠い」と判定すると送電線の送電端側の自動復旧装置よりも早く試充電を実施する機能を送電線の受電端側の自動復旧装置に備えさせることにより実現した。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明の送電線自動復旧システムの実施例について図面を参照して説明する。
本発明の一実施例による送電線自動復旧システムは、図1に示すように、送電線Lの送電端側(送電端母線B1側)に設置された自動復旧装置10と、送電線Lの受電端側(受電端母線B2側)に設置されたFL機能付自動復旧装置20とを具備する。
【0013】
自動復旧装置10は、送電線Lの事故発生後に送電端母線B1に設置された第1の計器用変成器PD1から入力される第1の母線電圧V1と送電線Lの送電端側に設置された第1の変流器CT1から入力される第1の線路電流I1とに基づいて試充電動作を行うものであり、整定値(無電圧時間)が65sと従来の自動復旧装置の整定値=60s(送電線Lの送電端側に設置された第1の遮断器11の性能に応じて設定される。)よりも長く設定されている点で、従来の自動復旧装置と異なる。
【0014】
FL機能付自動復旧装置20は、送電線Lの事故発生後に受電端母線B2に設置された第2の計器用変成器PD2から入力される第2の母線電圧V2と送電線Lの受電端側に設置された第2の変流器CT2から入力される第2の線路電流I2とに基づいて試充電動作を行う点と、整定値(無電圧時間)が60s(送電線Lの受電端側に設置された第2の遮断器12の性能に応じて設定される。)に設定されている点とでは、従来の自動復旧装置と同様である。
しかし、FL機能付自動復旧装置20は、距離継電器と同様にして送電線Lの事故時に第2の母線電圧V2と第2の線路電流I2とに基づいて事故点インピーダンスZ(=V2/I2)を算出し、算出した事故点インピーダンスZに基づいて事故点が送電線Lの中間点よりも遠いか否かを判定し、「事故点が送電線Lの中間点よりも遠い」と判定した場合には第2の遮断器12を投入して自動復旧装置10よりも早く送電線Lの試充電を実施する点で、従来の自動復旧装置と異なる。
【0015】
そのため、FL機能付自動復旧装置20は、図2に示すように、事故点インピーダンス算出回路21と、事故点判定回路22と、遮断器投入信号発生回路23と、遮断器投入信号出力回路24とを備える。
【0016】
ここで、事故点インピーダンス算出回路21は、第2の母線電圧V2を第2の線路電流I2で割ることにより事故点インピーダンスZ(=V2/I2)を算出する。
【0017】
事故点判定回路22は、事故点インピーダンス算出回路21によって算出された事故点インピーダンスZが送電線Lの送電端母線B1から受電端母線B2までの線路インピーダンスZLの半分の値(=ZL/2)よりも大きいか否かを調べ、事故点インピーダンスZが線路インピーダンスZLの半分の値よりも大きい(Z>ZL/2)場合には「事故点が送電線Lの中間点よりも遠い」と判定し、一方、事故点インピーダンスZが線路インピーダンスZLの半分の値以下である(Z≦ZL/2)場合には「事故点が送電線Lの中間点よりも近い」と判定する。
【0018】
遮断器投入信号発生回路23は、「事故点が送電線Lの中間点よりも遠い」旨の判定結果を示す事故点判定結果信号(たとえば、ハイレベルの信号)が事故点判定回路22から入力されると、第2の遮断器12を投入させるための第2の遮断器投入信号S2を発生したのちに遮断器投入信号出力回路24に出力する。
【0019】
遮断器投入信号出力回路24は、第2の母線電圧V2が0Vとなった時点から整定値=60s以上継続する(すなわち、無電圧状態が60s以上継続する)と、遮断器投入信号発生回路23から入力される第2の遮断器投入信号S2を第2の遮断器12に出力する。
これにより、図3(a)に示すように、第2の遮断器投入信号S2によって第2の遮断器12が投入されて、送電線Lの試充電が実施される。
このとき、送電線Lの送電端側に設置された自動復旧装置10は、整定値=65sとFL機能付自動復旧装置20の整定値=60sよりも長く設定されているため、従来の自動復旧装置と同様に、FL機能付自動復旧装置20による試充電実施後の受電動作を行う。
【0020】
一方、「事故点が送電線Lの中間点よりも近い」旨の判定結果を示す事故点判定結果信号(たとえば、ロウレベルの信号)が事故点判定回路22から入力された場合には、遮断器投入信号発生回路23は第2の遮断器投入信号S2を発生しない。
【0021】
したがって、この場合には、自動復旧装置10が第1の母線電圧V1が0Vとなった時点から整定値=65s以上継続する(すなわち、無電圧状態が65s以上継続する)と、第1の遮断器11を投入させるための第1の遮断器投入信号S1を第1の遮断器11に出力する。
これにより、図3(b)に示すように、第1の遮断器投入信号S1によって第1の遮断器11が投入されて、送電線Lの試充電が実施される。
このとき、FL機能付自動復旧装置20は、従来の自動復旧装置と同様に、自動復旧装置10による試充電実施後の受電動作を行う。
【0022】
以上の説明では、自動復旧装置10を送電線Lの送電端側に設置するとともにFL機能付自動復旧装置20を送電線Lの受電端側に設置したが、図4(a),(b)に示すようにFL機能付自動復旧装置20を送電線Lの送電端側に設置するとともに自動復旧装置10を送電線Lの受電端側に設置してもよい。
【0023】
この場合には、FL機能付自動復旧装置20の事故点インピーダンス算出回路21は、第1の母線電圧V1を第1の線路電流I1で割ることにより事故点インピーダンスZ(=V1/I1)を算出する。
【0024】
事故点判定回路22は、事故点インピーダンス算出回路21によって算出された事故点インピーダンスZが線路インピーダンスZLの半分の値(=ZL/2)よりも大きいか否かを調べ、事故点インピーダンスZが線路インピーダンスZLの半分の値よりも大きい(Z>ZL/2)場合には「事故点が送電線Lの中間点よりも遠い」と判定し、一方、事故点インピーダンスZが線路インピーダンスZLの半分の値以下である(Z≦ZL/2)場合には「事故点が送電線Lの中間点よりも近い」と判定する。
【0025】
遮断器投入信号発生回路23は、「事故点が送電線Lの中間点よりも遠い」旨の判定結果を示す事故点判定結果信号(たとえば、ハイレベルの信号)が事故点判定回路22から入力されると、第1の遮断器11を投入させるための第1の遮断器投入信号S1を発生したのちに遮断器投入信号出力回路24に出力する。
【0026】
遮断器投入信号出力回路24は、第1の母線電圧V1が0Vとなった時点から整定値=60s以上継続する(すなわち、無電圧状態が60s以上継続する)と、遮断器投入信号発生回路23から入力される第1の遮断器投入信号S1を第1の遮断器11に出力する。
これにより、図4(a)に示すように、第1の遮断器投入信号S1によって第1の遮断器11が投入されて、送電線Lの試充電が実施される。
このとき、送電線Lの受電端側に設置された自動復旧装置10は、整定値=65sとFL機能付自動復旧装置20の整定値=60sよりも長く設定されているため、従来の自動復旧装置と同様に、FL機能付自動復旧装置20による試充電実施後の受電動作を行う。
【0027】
一方、「事故点が送電線Lの中間点よりも近い」旨の判定結果を示す事故点判定結果信号(たとえば、ロウレベルの信号)が事故点判定回路22から入力された場合には、遮断器投入信号発生回路23は第1の遮断器投入信号S1を発生しない。
【0028】
したがって、この場合には、自動復旧装置10が第2の母線電圧V2が0Vとなった時点から整定値=65s以上継続する(すなわち、無電圧状態が65s以上継続する)と、第2の遮断器12を投入させるための第2の遮断器投入信号S2を第2の遮断器12に出力する。
これにより、図4(b)に示すように、第2の遮断器投入信号S2によって第2の遮断器12が投入されて、送電線Lの試充電が実施される。
このとき、FL機能付自動復旧装置20は、従来の自動復旧装置と同様に、自動復旧装置10による試充電実施後の受電動作を行う。
【符号の説明】
【0029】
1,12 第1および第2の遮断器
10 自動復旧装置
20 FL機能付自動復旧装置
21 事故点インピーダンス算出回路
22 事故点判定回路
23 遮断器投入信号発生回路
24 遮断器投入信号出力回路
1,B2 送電端側および受電端母線
L 送電線
PD1,PD2 第1および第2の計器用変成器
CT1,CT2 第1および第2の変流器
1,V2 第1および第2の母線電圧
1,I2 第1および第2の線路電流
1,S2 第1および第2の遮断器投入信号
Z 事故点インピーダンス
ZL 線路インピーダンス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループ状電力系統において送電線事故後に送電線(L)を試充電するための送電線自動復旧システムであって、
前記送電線の一端側に設置された第1の自動復旧装置(10)と、
前記送電線の他端側に設置された第2の自動復旧装置(20)とを具備し、
前記第2の自動復旧装置が、前記送電線の前記他端側の電圧(V1;V2)および該送電線の前記他端側を流れる線路電流(I1;I2)に基づいて算出した事故点インピーダンス(Z)が所定の値よりも大きいと、前記第1の自動復旧装置よりも早く前記送電線の試充電を実施するための手段(21〜24)を備える、
ことを特徴とする、送電線自動復旧システム。
【請求項2】
前記第2の自動復旧装置の第2の整定値が、前記第1の自動復旧装置の第1の整定値よりも小さく設定されており、
前記第2の自動復旧装置が、
前記電圧および前記線路電流に基づいて前記事故点インピーダンスを算出するための事故点インピーダンス算出手段(21)と、
該事故点インピーダンス算出手段によって算出された前記事故点インピーダンスに基づいて前記送電線事故の事故点が前記送電線の中間点よりも遠いか否かを判定するための事故点判定手段(22)と、
該事故点判定手段が「事故点が送電線の中間点よりも遠い」と判定した場合に、前記送電線の無電圧状態が前記第2の整定値による時間以上継続すると該送電線の試充電を実施するための試充電実施手段(23,24)とを備える、
ことを特徴とする、請求項1記載の送電線自動復旧システム。
【請求項3】
前記事故点判定手段が、前記事故点インピーダンス算出手段によって算出された前記事故点インピーダンスが前記送電線の線路インピーダンス(ZL)の半分の値よりも大きいと、「事故点が送電線の中間点よりも遠い」と判定することを特徴とする、請求項2記載の送電線自動復旧システム。
【請求項4】
前記第2の自動復旧装置の前記第2の整定値が、前記送電線に設置された遮断器の性能に応じて設定される整定値と同じであることを特徴とする、請求項2または3記載の送電線自動復旧システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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