説明

送電鉄塔の回線標示装置

【課題】施工時に天候に影響を受けることなく、一度の昇塔で容易に施工を完了できるとともに、鉄塔本体との継ぎボルト部の上に装着することを可能とすることにより、活線に近づくような危険性を回避することができる送電鉄塔の回線標示装置を提供すること。
【解決手段】着色した合成樹脂製の筒状のネット部材3を用い、このネット部材3に形成した筒軸方向の切れ目31から腕金部2を通すことによって腕金部2に装着するとともに、腕金部2に外接する筒状を形成するように切れ目31を固定部材4により閉鎖する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電鉄塔の腕金部に回線標示を施す送電鉄塔の回線標示装置に関し、特に、施工時に天候に影響を受けることなく、一度の昇塔で容易に施工を完了できるとともに、鉄塔本体との継ぎボルト部の上に装着することを可能とすることにより、活線に近づくような危険性を回避することができる送電鉄塔の回線標示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、送電線作業時の回線誤認による感電事故や停電事故防止対策として、送電鉄塔の腕金部に回線標示塗装を実施しているが、経年に伴う補修塗装作業の増加が予想される中、市街地化の広まりや、昨今の権利意識の高まりから塗料飛散によるトラブル発生しているが、完全な塗料飛散対策は取りにくく、このため、特に、市街地での回線標示塗装やその補修塗装の実施が困難になってきている。
また、回線標識塗装は、活線に近いものの1基当たりの施工数量が少なく、設備停止取得が困難な昨今の近況から活線での作業がほとんどであり、感電事故等の危険性があるという問題があった。
また、従来の塗装による回線標示部は、特に、降雨時や積雪時に作業する場合に、回線標示部の塗装によって滑りやすくなり、転落の危険性があるという問題があった。
さらに、鉄塔本体との継ぎボルト部を避けて回線標識塗装をする必要があることから、腕金部の先端側に塗装を施すことになり、活線に近づくため危険であった。
【0003】
また、このような塗装による回線標示では、旧塗装のケレン(塗装前下地処理)が悪いと耐用年数が大幅に低下する。
塗装作業は品質管理が難しく、天候に大きく左右されるとともに、併架線路(4回線等)の場合、子線路の回線標示には帯入れを実施することから、2度塗り、すなわち2回の昇塔が必要になるなどの不都合を有している。
【0004】
一方、上記の回線標示塗装に代わるものとして、鉄塔のアングル材に長手方向に沿って着脱自在に取り付られる2個1対のカバー体からなり、カバー体間にアングル材を配して閉止することにより取り付けられるようにした鉄塔用標識体が提案されている(特許文献1参照)。
この鉄塔用標識体は、鉄塔のアングル材に強固に取り付けることができるという利点がある反面、カバー体間にアングル材を配して閉止することにより取り付けられるようにするものであるため、鉄塔本体との継ぎボルト部に装着することができず、その取付位置が制限されるという問題に加え、この鉄塔用標識体を取り付けることにより、足場が悪くなり、転落の危険性があるという問題があった。
【特許文献1】特許第3148068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の送電鉄塔の回線標示装置が有する問題点に鑑み、施工時に天候に影響を受けることなく、一度の昇塔で容易に施工を完了できるとともに、鉄塔本体との継ぎボルト部の上に装着することを可能とすることにより、活線に近づくような危険性を回避することができる送電鉄塔の回線標示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の送電鉄塔の回線標示装置は、送電鉄塔の腕金部に回線標示を施す送電鉄塔の回線標示装置において、着色した合成樹脂製の筒状のネット部材を用い、該ネット部材に形成した筒軸方向の切れ目から腕金部を通すことによって腕金部に装着するとともに、腕金部に外接する筒状を形成するように前記切れ目を固定部材により閉鎖したことを特徴とする。
【0007】
この場合において、ネット部材を、鉄塔本体との継ぎボルト部に装着することができる。
【0008】
また、ネット部材を、長尺のネット部材と、該長尺のネット部材の上に重ねて装着した、長尺のネット部材とは異なる色の短尺のネット部材とで構成することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の送電鉄塔の回線標示装置によれば、送電鉄塔の腕金部に回線標示を施す送電鉄塔の回線標示装置において、着色した合成樹脂製の筒状のネット部材を用い、該ネット部材に形成した筒軸方向の切れ目から腕金部を通すことによって腕金部に装着するとともに、腕金部に外接する筒状を形成するように前記切れ目を固定部材により閉鎖することから、従来の塗装による回線標示に比較し、施工時に天候に影響を受けることなく、一度の昇塔で容易に施工を完了できるとともに、鉄塔本体との継ぎボルト部の上に装着することが可能であることから、送電鉄塔の本体付近に簡単に取付ができ、これにより、腕金部の先端側で活線に近づくような危険性を回避することができる。
また、合成樹脂製の筒状のネット部材は、筒軸方向の切れ目から腕金部を通すことによって、簡易かつ安全に短時間で取付が可能であり、また、視認性も高く耐候性にも優れることから、長期にわたってメンテナンスの必要性がなく、ランニングコストを低減することができる。
また、ネット部材は、網目が滑り止め効果を発揮するため、従来の塗装による回線標示部と比較して、降雨時や積雪時でも滑りにくく、転落の危険性を低減できる。
そして、ネット部材の切れ目の端部は、重なったり離間してもよいことから、この部分で巻径を調節し、1種類のネット部材で、複数の太さの腕金部に取り付けることができる。
【0010】
また、ネット部材を、鉄塔本体との継ぎボルト部に装着することにより、ボルトとの掛合によりネット部材のずれを防止するとともに、ネット部材の網目からボルトの状態を確認することができ、さらに、通気性を確保して水の滞留を防止しボルトを錆びにくくすることができる。
【0011】
また、ネット部材を、長尺のネット部材と、該長尺のネット部材の上に重ねて装着した、長尺のネット部材とは異なる色の短尺のネット部材とで構成することにより、回線標示を多様化することができるとともに、回線標示の帯入れを、従来の塗装のように乾燥時間を待って2度塗りすることなく、一度の昇塔で容易に施工することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の送電鉄塔の回線標示装置の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
図1〜図3に、本発明の送電鉄塔の回線標示装置の一実施例を示す。
この送電鉄塔の回線標示装置は、送電鉄塔1の腕金部2に回線標示を施すためのもので、着色した合成樹脂製の筒状のネット部材3を用い、該ネット部材3に形成した筒軸方向の切れ目31から腕金部2を通すことによって腕金部2に装着するとともに、腕金部2に外接する筒状を形成するように前記切れ目31を固定部材4により閉鎖するようにしている。
【0014】
ネット部材3は、本実施例では、鉄塔本体11との継ぎボルト部21に装着されるとともに、ベースとなる長尺のネット部材3Aの上に、帯入れのために、長尺のネット部材3Aとは異なる色の短尺のネット部材3Bが重ねて装着されている。
なお、ネット部材3の装着箇所は、その取り付けに当たって構造的に何ら制約がないため、本実施例に示す鉄塔本体11との継ぎボルト部21の位置に限定されるものではなく、自由に装着位置を設定することができる。
そして、本実施例では、この外側に重ねた短尺のネット部材3Bの外周を、固定部材4としてのステンレスバンドからなる結束部材で締着することにより、2重のネット部材3の切れ目31を閉鎖している。
なお、本実施例では、ネット部材3を2重に巻回するようにしているが、ネット部材3は、例えば、1重や3重以上に巻回することもできる。
【0015】
送電鉄塔1は、図3に示すように、幹となる鉄塔本体11と、この鉄塔本体11の上部で横方向に延設された複数の腕金部2とからなり、送電線(図示省略)は各腕金部2の先端付近に吊設されている。
鉄塔本体11と腕金部2の主要部分はアングル材からなり、腕金部2は、継ぎボルト部21で、鉄塔本体11と腕金部2のアングル材同士を複数のボルト22で固定することにより、横方向に延設されている。
【0016】
一方、ネット部材3は、白や赤、黄、青、黒等に適宜に着色されたものを用いる。この色は、ネット部材3を構成する合成樹脂そのものの色であるため、ネット部材3の表面が損耗しても剥げたりすることはない。
また、ネット部材3は、本実施例では、縦糸及び横糸のピッチが約10mm、糸の太さが約5mmとしているが、これに限定されず、ネット部材3の縦糸及び横糸のピッチを5〜20mm程度、糸の太さを2〜8mm程度とすることにより、良好な視認性や通気性、耐候性、適度な剛性を保持することができる。
なお、このネット部材3の断面形状は、腕金部2を構成するアングル材に外接する筒状を形成するものであれば特に限定されず、円形や矩形、多角形等、任意の形状のものを用いることができる。
【0017】
また、このネット部材3は、特に限定されるものではないが、例えば、周上に縦糸を連続押し出ししながら横糸を溶融着することで筒状のネット部材3を連続的に製造し(特開昭60−78716号公報参照。タキロン社製「トリカルパイプ」(商品名))、その後、筒状のネット部材3に筒軸方向の切れ目31を形成することにより得ることができる。
このように、製造時に筒状に形成したネット部材3を用いる場合には、ネット部材3を改めて筒状に形成する必要がなく、作業性を向上することができるが、製造時に平面状に形成したネット部材を用いることもでき、この場合は、装着作業を行う際に、筒状にするようにする。
なお、ネット部材3の目の形状は、本実施例の縦糸に横糸が溶融着した一体角目構造のほか、菱目のものを用いることができる。
【0018】
また、ネット部材3を構成する合成樹脂には、特に限定されるものではないが、好ましくは、紫外線劣化防止剤を配合した高密度ポリエチレン樹脂を用いるようにする。
これにより、ネット部材3の耐久性を一層向上することができる。
そして、ネット部材3を構成する合成樹脂には、比較的硬質の材料を用いることが好ましく、これにより、ネット部材3を取り付ける際の作業性及び腕金部2に装着した後の保形性を向上することができ、さらに、腕金部2に外接する筒状を形成することと相俟って、足場としての安定性が増し、作業者の安全性を確保できる。
そして、このようにして得たネット部材3は、縦糸に横糸が溶融着した一体角目構造(又は菱目構造)であることと相俟って、特に、低温下における繰り返し応力に対する耐久性に優れ、鉄塔に装着された過酷な環境下での長期間(10年程度)の使用に十分耐えることができる。
【0019】
また、このネット部材3は、筒軸方向に形成した切れ目31を固定部材4により閉鎖した状態で腕金部2に外接する筒状を形成することから、腕金部2に装着する際にネット部材3が腕金部2に自然に巻き付くようになり、ネット部材3を取り付ける際の作業性及び腕金部2に装着した後の保形性を向上することができる。
【0020】
また、ネット部材3の切れ目31を閉鎖する固定部材4として、本実施例では、ステンレスバンドからなる結束部材を用いたが、これに限定されず、ネット部材3の外周を締着することができる汎用の金属製や合成樹脂製のバンド状の結束部材やネット部材3の端縁同士を固着することができる汎用の金属製や合成樹脂製の嵌合形式のファスナ部材等を用いることができる。
【0021】
そして、この回線標示装置を構築するに当たっては、図1〜図2に示すように、ネット部材3を、ネット部材3に形成した筒軸方向の切れ目31に鉄塔の腕金部2を通すことによって腕金部2に装着するとともに、腕金部2に外接する筒状を形成するように切れ目31を固定部材4により閉鎖することにより、ネット部材3を腕金部2に取り付けることができる。
また、この際、ネット部材3の切れ目31の端部は、重なるようにしてもよいし、多少離間するようにしてもよく、この部分で巻径を調節し、複数の太さの腕金部2に取り付けることができる。
【0022】
かくして、本実施例の送電鉄塔の回線標示装置は、送電鉄塔1の腕金部2に回線標示を施す送電鉄塔の回線標示装置において、着色した合成樹脂製の筒状のネット部材3を用い、該ネット部材3に形成した筒軸方向の切れ目31から腕金部2を通すことによって腕金部2に装着するとともに、腕金部2に外接する筒状を形成するように前記切れ目31を固定部材4により閉鎖することから、従来の塗装による回線標示に比較し、施工時に天候に影響を受けることなく、一度の昇塔で容易に施工を完了できるとともに、鉄塔本体11との継ぎボルト部21の上に装着することが可能であることから、送電鉄塔1の本体11付近に簡単に取付ができ、これにより、腕金部2の先端側で活線に近づくような危険性を回避することができる。
また、合成樹脂製の筒状のネット部材3は、筒軸方向の切れ目31から腕金部2を通すことによって、簡易かつ安全に短時間で取付が可能であり、また、視認性も高く耐候性にも優れることから、長期にわたってメンテナンスの必要性がなく、ランニングコストを低減することができる。
また、ネット部材3は、網目が滑り止め効果を発揮するため、従来の塗装による回線標示部と比較して、降雨時や積雪時でも滑りにくく、転落の危険性を低減できる。
そして、ネット部材3の切れ目31の端部は、重なったり離間してもよいことから、この部分で巻径を調節し、1種類のネット部材3で、複数の太さの腕金部2に取り付けることができる。
【0023】
この場合、ネット部材3を、鉄塔本体11との継ぎボルト部21に装着することにより、ボルト22との掛合によりネット部材3のずれを防止するとともに、ネット部材3の網目からボルト22の状態を確認することができ、さらに、通気性を確保して水の滞留を防止しボルト22を錆びにくくすることができる。
【0024】
また、ネット部材3を、長尺のネット部材3Aと、該長尺のネット部材3Aの上に重ねて装着した、長尺のネット部材3Aとは異なる色の短尺のネット部材3Bとで構成することにより、回線標示を多様化することができるとともに、回線標示の帯入れを、従来の塗装のように乾燥時間を待って2度塗りすることなく、一度の昇塔で容易に施工することができる。
【0025】
以上、本発明の送電鉄塔の回線標示装置について、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、実施例に記載した構成を適宜組み合わせるなど、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の送電鉄塔の回線標示装置は、施工時に天候に影響を受けることなく、一度の昇塔で容易に施工を完了できるとともに、鉄塔本体との継ぎボルト部の上に装着できることから、送電鉄塔の本体付近に簡単に取付ができ、活線に近づくような危険性を回避することができるという特性を有していることから、送電鉄塔の回線標示の用途に広く好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の送電鉄塔の回線標示装置の一実施例を示す分解斜視図である。
【図2】同回線標示装置を示し、(a)は、取付手順の第1工程を示す斜視図、(b)は同第2工程を示す斜視図、(c)は取付完了時の状態を示す斜視図、(d)は同断面図である。
【図3】送電鉄塔を示し、(a)は一部を省略した正面図、(b)は上段の腕金部の平面図、(c)は中段の腕金部の平面図、(d)は下段の腕金部の平面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 送電鉄塔
11 鉄塔本体
2 腕金部
21 継ぎボルト部
22 ボルト
3 ネット部材
3A 長尺のネット部材
3B 短尺のネット部材
31 切れ目
4 固定部材(結束部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電鉄塔の腕金部に回線標示を施す送電鉄塔の回線標示装置において、着色した合成樹脂製の筒状のネット部材を用い、該ネット部材に形成した筒軸方向の切れ目から腕金部を通すことによって腕金部に装着するとともに、腕金部に外接する筒状を形成するように前記切れ目を固定部材により閉鎖したことを特徴とする送電鉄塔の回線標示装置。
【請求項2】
ネット部材を、鉄塔本体との継ぎボルト部に装着したことを特徴とする請求項1記載の送電鉄塔の回線標示装置。
【請求項3】
ネット部材を、長尺のネット部材と、該長尺のネット部材の上に重ねて装着した、長尺のネット部材とは異なる色の短尺のネット部材とで構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の送電鉄塔の回線標示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−99501(P2008−99501A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281030(P2006−281030)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000242644)北陸電力株式会社 (112)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【出願人】(591008823)株式会社カナエ (14)
【Fターム(参考)】