説明

逆入力遮断クラッチ

【課題】 負荷からの逆入力トルクが一方向に限られる場合に適用可能な、簡易な構成の逆入力遮断クラッチを提供する。
【解決手段】 逆入力遮断クラッチ101は、駆動部11と負荷12との間に設けられ、ハウジング20、回転軸15、保持筒401、軸受け61、62、ワンウェイクラッチ30およびねじりコイルばね50を備える。ねじりコイルばね50のコイル部51は、延出部52を基準として逆転方向に巻回され、内径を拡げた状態で回転軸15の外周面に挿着される。回転軸15に負荷12から正転方向の逆入力トルクToが入力されると、保持筒401は、ワンウェイクラッチ30によって回転不能となる。さらに、逆入力トルクToが限界トルクTxより小さくなるように限界トルクTxを設定することで、回転軸15は、コイル部51の内周面と回転軸15の外周面との摩擦力によって回転が拘束される。すなわち、逆入力トルクToを遮断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力側からの入力トルクを出力側に伝達し、出力側からの逆入力トルクを遮断する逆入力遮断クラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、入力側からの入力トルクを出力側に伝達し、出力側からの逆入力トルクを遮断する逆入力遮断クラッチが知られている。例えば、特許文献1の図1に開示された逆入力遮断クラッチは、出力軸23(出力側部材)と固定外輪21(静止側部材)とが同軸に配置される。出力軸23の外壁を構成するカム面31a、31bと固定外輪21の内周面との間のポケット29には、一対のローラ30a、30bが収容される。また、ポケット29の周方向の端部にはクサビ隙間が形成される。一対のローラは、その間に設けられた弾性部材42a、42bによって、周方向の互いに離反する方向へ付勢され、カム面31a、31bと固定外輪21との間に押し当てられている。
【0003】
入力軸22(入力側部材)が停止した状態で、負荷からの逆入力トルクが出力軸23に作用した場合、一対のローラ30a、30bがカム面31a、31bと固定外輪21との間のクサビ隙間に入り込むことによって、出力軸23の回転がロックされる。その結果、負荷からの逆入力トルクは遮断され、入力軸22へは伝達されない。
一方、入力軸22が例えば図1の時計方向に回転した場合、入力軸22の柱部22bがクサビ隙間からローラ30aを押し出すことによりロックが解除され、出力軸23が回転可能となる。その結果、入力軸22からのトルクが出力軸23に伝達される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−343601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の逆入力遮断クラッチは、負荷からの逆入力トルクが正逆いずれの方向に作用する場合にも逆入力トルクを遮断することができる。しかし、負荷からの逆入力トルクが、例えば重力や燃焼圧等に起因する場合、逆入力トルクの方向は一方向に限定される。このような用途では、部品点数が多く構成が複雑な特許文献1の逆入力遮断クラッチは、機能が過剰である。したがって、負荷からの逆入力トルクが一方向に限られる場合に適用可能な、より簡易な構成の逆入力遮断クラッチが求められる。
【0006】
また、特許文献1の逆入力遮断クラッチでは、ロック状態(逆入力遮断状態)から入力軸22の回転によってロックが解除されたとき、入力軸22の回転方向と逆入力トルクの方向が同方向であれば、出力軸23は逆入力トルクによって回転し始める。このとき、入力軸22の回転よりも出力軸23の回転が速い場合、入力軸22の柱部22bによって一旦押し出されたローラ(30aまたは30b)が出力軸23の回転によって再度クサビ隙間に入り込み、ロック状態となる。その後、ローラは、回転し続けている入力軸23によってクサビ隙間から押し出され、ロックが解除されて出力軸23が回転し始めることでクサビ隙間に入り込む、という動作を繰り返す。
このように、入力軸22と出力軸23との相対速度によって、ロック状態とロック解除状態とを繰り返す現象を「追いつきロック現象」という。追いつきロック現象は、逆入力遮断クラッチの異常摩耗や異音を発生させる。また、逆入力遮断クラッチを駆動部と負荷との間に設け、駆動部によって負荷の回転を制御するシステムにおいて、制御性や応答性を悪化させる要因となる。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、負荷からの逆入力トルクが一方向に限られる場合に適用可能な、簡易な構成の逆入力遮断クラッチを提供することにある。また、追いつきロック現象の発生を回避する逆入力遮断クラッチを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の逆入力遮断クラッチは、正転方向および逆転方向の駆動トルクを発生する駆動部と当該駆動トルクが出力される負荷との間に設けられ、負荷からの正転方向の逆入力トルクが駆動部に伝達されることを防止する装置である。
本発明の逆入力遮断クラッチは、駆動部への伝達を遮断すべき負荷からの逆入力トルクが一方向に限られる場合に適用される。例えば、負荷からの逆入力トルクが重力や燃焼圧等に起因する場合がこれに該当する。この逆入力トルクの作用方向を「正転方向」、その反対方向を「逆転方向」と定義し、以下、この正逆転方向に基づいて、本発明に係る構成を特定する。なお、この「正転方向」が、駆動部側から視て時計回転方向であるか反時計回転方向であるかは、実施形態によりいずれでもよい。
【0009】
この逆入力遮断クラッチは、静止部材、回転軸、保持筒、軸受け、一方向回転部材およびねじりコイルばねを備える。
静止部材は、収容穴を有する
回転軸は、収容穴の中心に挿通され、一方の端部である入力端が駆動部に接続され他方の端部である出力端が負荷に接続される。
保持筒は、収容穴の内壁と回転軸との間に、収容穴および回転軸と同軸に設けられる。
軸受けは、保持筒の内壁に挿着され、回転軸を回転可能に支持する。
【0010】
一方向回転部材は、収容穴の内壁と保持筒の外壁との間に挿着され、保持筒を正転方向へ回転不能に保持し、且つ保持筒を逆転方向へ空転させる。
ねじりコイルばねは、コイル状に巻回されたコイル部と、当該コイル部の一端から径外方向に延び保持筒に係止される延出部とからなり、コイル部に対する延出部の回転方向の相対位置を所定の中立位置に維持するように付勢する。コイル部は、延出部を基準として逆転方向に巻回され、内径を拡げた状態で回転軸の外周面に挿着される。
【0011】
以上の構成による逆入力遮断クラッチの作用は、次のようである。
(1)回転軸に所定の限界トルクより小さい正転方向のトルクが入力されたとき、保持筒は、一方向回転部材によって回転不能となり、回転軸は、コイル部の内周面と回転軸の外周面との摩擦力によって回転が拘束される。
(2)回転軸に所定の限界トルクより大きい正転方向のトルクが入力されたとき、保持筒は、一方向回転部材によって回転不能となり、回転軸は、コイル部の内径を拡げつつコイル部の内周面と回転軸の外周面との摩擦力に打ち克って回転(正転)する。
(3)回転軸に逆転方向のトルクが入力されたとき、保持筒は、一方向回転部材によって静止部材に対して空転することにより、回転軸と一体に回転(逆転)する。
【0012】
上記(1)、(2)は、回転軸への入力トルクが正転方向の場合の作用である。
ここで、「所定の限界トルク」とは、そのトルクを回転軸の半径で除した回転軸の接線方向の力が、コイル部の内周面と回転軸の外周面との摩擦力に釣り合うときのトルクに相当する。したがって、入力トルクが所定の限界トルクより小さいとき、回転軸は回転が拘束される。また、コイル部は逆転方向に巻回されるため、入力トルクが所定の限界トルクより大きいとき、回転軸が正転すると巻回が解かれ、内径が拡がる。よって、コイル部の内周面と回転軸の外周面との摩擦力が低下し、回転軸は継続して正転する。
【0013】
そこで、「所定の限界トルク」を、負荷から入力され得る逆入力トルクの最大値よりも大きく設定することで、逆入力トルクにより回転軸が回転する状況は発生し得なくなる。すなわち、逆入力トルクを確実に遮断することができる。なお、所定の限界トルクは、ねじりコイルばねの材質やばね特性、コイル部と回転軸との接触面積、挿着時の締め代等によって調整することができる。
【0014】
このように、本発明の逆入力遮断クラッチは、従来技術の逆入力遮断クラッチに比べ、複数のローラやローラ間の弾性部材を必要としない簡易な構成で正転方向の逆入力トルクを遮断することができる。
また、上述した従来技術の逆入力遮断クラッチは、独立した入力軸と出力軸とから構成されているため、それらの相対速度によって「追いつきロック現象」を発生させるという問題があった。それに対し、本発明の逆入力遮断クラッチは、回転軸が単一に形成されるため、追いつきロック現象を根本的に回避することができる。
【0015】
なお、本発明の前提の構成として、駆動部は、正逆転の両方向の駆動トルクを発生し、負荷を回転駆動することとした。仮に駆動部が駆動トルクを逆転方向にしか発生しなければ、一方向回転部材のみを用いることで、回転軸の逆転を許容し、正転を禁止することができる。或いは、仮に駆動部が駆動トルクを正転方向にしか発生しなければ、入力側(駆動部側)から出力側(負荷側)へトルクを伝達し、出力側から入力側へはトルクを伝達しない装置(例えば、市販品のトルクダイオード(登録商標))を用いることで、逆入力を遮断するという機能を果たすことができる。すなわち、本発明を必要とするまでもない。
よって、本発明の逆入力遮断クラッチは、駆動部による駆動トルクは正逆転の両方向に発生し、負荷からの逆入力トルクは正転方向のみに作用する場合に、特に有効である。
【0016】
請求項2に記載の発明によると、ねじりコイルばねのコイル部は、線材の断面形状が方形である角ばね材で形成される。
これにより、コイル部の内周面と回転軸の外周面との接触面積を大きく確保することができる。したがって、コイル部の内周面と回転軸の外周面との摩擦力を高め、限界トルクを高めることができる。よって、より大きな正転方向の逆入力トルクに対し、駆動部への伝達を遮断可能となる。
また、コイル部の剛性を高め、ねじりコイルばねの形状の維持に有利となる。
【0017】
請求項3に記載の発明によると、軸受けは、ねじりコイルばねの軸方向の一方側および他方側で保持筒の内壁に挿着される。また、保持筒は、二つの軸受け及び保持筒の内壁によって区画されるばね室と保持筒の外部とを連通する連通孔が形成される。
これにより、回転軸の回転時にねじりコイルばねとの摩擦熱によって膨張し、また回転軸の停止後の温度降下により収縮するばね室内の空気を、連通孔を経由して外部と呼吸させることができる。さらに、ねじりコイルばねが摩耗した場合、摩耗粉を連通孔から排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1実施形態による逆入力遮断クラッチの(a)軸方向断面模式図、(b)(a)のb−b線断面模式図である。
【図2】ワンウェイクラッチの構成および作用を説明する模式図である。
【図3】回転軸に正転方向のトルクが作用するときの逆入力遮断クラッチの作用を説明する模式図であり、(a)は入力トルクが限界トルクより小さいとき、(b)は入力トルクが限界トルクより大きいときを示す。
【図4】回転軸に逆転方向のトルクが作用するときの逆入力遮断クラッチの作用を説明する模式図である。
【図5】本発明の(a)第2実施形態、(b)第3実施形態による逆入力遮断クラッチの軸方向断面図である。
【図6】本発明の(a)第4実施形態、(b)第5実施形態による逆入力遮断クラッチの軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態による逆入力遮断クラッチを図面に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1に示すように、本発明の第1実施形態の逆入力遮断クラッチ101は、正転方向および逆転方向の駆動トルクTiを発生し回転軸15を駆動するモータ等の駆動部11と、回転軸15の駆動トルクが出力される負荷12との間に設けられる。逆入力遮断クラッチ101は、駆動部11からの駆動トルクTiを負荷12へ伝達する一方、負荷12からの逆入力トルクToが駆動部11に伝達されないように、逆入力トルクToを遮断する装置である。
逆入力遮断クラッチ101は、回転軸15、ハウジング20、保持筒401、軸受け61、62、ワンウェイクラッチ30、ねじりコイルばね50等を備えている。
【0020】
回転軸15は、一方の端部である入力端16が駆動部11に接続され、他方の端部である出力端17が負荷12に接続される。
「静止部材」としてのハウジング20は、中心に回転軸15が挿通される収容穴21を有する。
保持筒401は、収容穴21の内壁22と回転軸15との間に、これらと同軸に設けられる。保持筒401の内壁42には、ねじりコイルばね50の延出部52を係止する係止溝43が形成されている。
【0021】
軸受け61、62は、保持筒401の内壁42に圧入等によって挿着され、回転軸15を保持筒401に対して回転可能に支持する。本実施形態では、軸受け61はねじりコイルばね50の入力端16側に設けられ、軸受け62はねじりコイルばね50の出力端17側に設けられる。軸受け61、62、及び保持筒401の内壁42によってばね室44が区画される。
【0022】
「一方向回転部材」は、一般に、内輪の一方向への回転を外輪に伝達し、内輪の他方向への回転に対して外輪を空転させる部材である。本実施形態では、「一方向回転部材」としてのワンウェイクラッチ30は、外輪31がハウジング20の収容穴21に接合され、内輪は保持筒401によって構成される。
【0023】
ここで、本実施形態における回転方向を、入力端16側から視て時計方向の回転を「正転」、入力端16側から視て反時計方向の回転を「逆転」というように定義する。また、負荷12からの逆入力トルクToは、例えば重力や燃焼圧等に起因するものであって、正転方向にのみ作用するものとする。
ワンウェイクラッチ30は、内輪の正転を外輪に伝達し、内輪の逆転に対して外輪を空転させる。つまり、ワンウェイクラッチ30は、逆入力トルクToの方向と同一方向の回転に対し伝達状態となり、逆入力トルクToの方向と反対方向の回転に対し空転状態となるように設定される。
【0024】
ワンウェイクラッチ30の具体的な構成について、図2を参照して説明する。図2は、図1(a)における入力端16側から視た図であり、図1(b)と同様、図2の時計回転方向が正転方向に相当し、反時計回転方向が逆転方向に相当する。なお、図1(b)では、外輪31のくさび部31aおよびコロ33を代表として1箇所のみ破線で示している。
ワンウェイクラッチ30は、それ自体が外輪31、複数のコロ33およびスプリング34から構成され、内輪32と組み合わせて用いられる。本実施形態では、保持筒401が内輪32を構成する。また、本実施形態では、外輪31は、ハウジング20の収容穴21の内壁22に圧入等により接合されているため(図1(b)参照)、回転不能である。
【0025】
複数のコロ33は、外輪31と内輪32(保持筒401の外壁41)とに挟まれる環状の隙間に配置されている。外輪31の内壁に、各コロ33に対応するくさび部31aが形成されている。くさび部31aは、正転方向でコロ33が噛み込み、逆転方向でコロ33がフリーとなる形状に形成されている。スプリング34は、コロ33とコロ33との間に設けられ、コロ33を外輪31側へ押し付けている。
図2(a)に示すスタンバイ状態において、外輪31および内輪32(保持筒401)は停止しており、コロ33はくさび部31aに押し付けられている。
【0026】
図2(b)は、内輪32(保持筒401)が外輪31に対して正転する場合を示す。
図中実線矢印で示すように、コロ33がくさび部31aに噛み込み、内輪32(保持筒401)の回転力がコロ33を介して外輪31に伝達される。ここで、内輪32(保持筒401)の回転数をRin、外輪31の回転数をRoutとし、正転方向の回転数を正、逆転方向の回転数を負とする。本実施形態では、常に「Rout=0」であるから、内輪32(保持筒401)が正転すると、「Rin>Rout(=0)」となり、「伝達状態」となる。このとき、仮に外輪31がフリーに回転できる態様では、外輪31は内輪32と共に回転する。しかし、本実施形態では外輪31が回転不能であるため、内輪32(保持筒401)が外輪31に対し回転不能となる「ロック状態」が成立する。
【0027】
図2(c)は、内輪32(保持筒401)が外輪31に対して逆転する場合を示す。
図中破線矢印および「×」印で示すように、コロ33が外輪31と内輪32(保持筒401)との間を滑り、内輪32(保持筒401)は空転する。つまり、内輪32(保持筒401)が逆転すると、「Rin<Rout(=0)」となり、「空転状態」が成立する。
【0028】
次に、図1に戻り、ねじりコイルばね50について説明する。
ねじりコイルばね50は、コイル状に巻回されたコイル部51と、コイル部51の一端から径外方向に延びる延出部52とからなる。図1(b)に示すように、本実施形態ではコイル部51は、入力端16側に設けられる延出部52を基準として逆転方向、すなわち逆入力トルクToの方向と反対方向に巻回される。また、コイル部51は、線材の断面形状が方形である角ばね材で形成される。
【0029】
ねじりコイルばね50は、コイル部51の内径を拡げた状態で回転軸15の外周面に挿着される。コイル部51は、角ばね材で形成されるため、回転軸15の外周面に広い面積で当接し、コイル部51の内周面と回転軸15の外周面との摩擦力を比較的高くすることができる。また、コイル部51の剛性を高め、ねじりコイルばね50の形状の維持に有利となる。延出部52は、保持筒401の内壁42に形成された係止溝43に係止される。
ねじりコイルばね50は、コイル部51に対する延出部52の回転方向の相対位置を所定の中立位置に維持するように付勢する。
【0030】
これにより、保持筒401の外壁41がフリー状態だと仮定すれば、ねじりコイルばね50は、回転軸15が回転したとき、摩擦力によって、回転軸15に追従して回転する。また、保持筒401は、ねじりコイルばね50の延出部52が係止溝43に係止されることで、ねじりコイルばね50に追従して回転する。
ところが、保持筒401は、上記のようにワンウェイクラッチ30の内輪32として構成されるため、以下に説明するように、条件によって作動のしかたが変化する。
【0031】
次に、逆入力遮断クラッチ101の作動について、図3、図4を参照して説明する。
図3(a)、(b)は、回転軸15が正転するときの逆入力遮断クラッチ101の作用を示す。回転軸15に正転方向に作用するトルクは、駆動部11からの駆動トルクTiの場合、負荷12からの逆入力トルクToの場合、又は駆動トルクTiと逆入力トルクToとの合成トルクの場合があり得る。ここで、負荷12からの逆入力トルクToは、後述する「限界トルクTx」より小さいものとする。
【0032】
図3(a)は、回転軸15に正転方向に作用する駆動トルクTi、逆入力トルクTo、又はこれらの合成トルクが限界トルクTxより小さい場合を示す。ここで限界トルクTxとは、そのトルクを回転軸15の半径で除した回転軸15の接線方向の力が、コイル部51の内周面と回転軸15の外周面との摩擦力に釣り合うときのトルクをいう。
【0033】
この場合、保持筒401がねじりコイルばね50を介して回転軸15と一体に正転しようとすると、ワンウェイクラッチ30が伝達状態となるため(図2(b)参照)、静止状態のハウジング20に対して保持筒401がロックされる。そのため、保持筒401に保持されるねじりコイルばね50も回転しない。そして、回転軸15に作用する正転方向のトルクが限界トルクTxより小さいので、回転軸15は、ねじりコイルばね50に対して回転が拘束される。よって、回転軸15は回転することができない。図3(a)の破線のC字状矢印は「回転しない」ことを示している。
【0034】
これにより、回転軸15に作用するトルクが負荷12からの逆入力トルクToの場合、逆入力遮断クラッチ101は、逆入力トルクToが駆動部11に伝達されないよう、逆入力トルクToを遮断することができる。
【0035】
図3(b)は、回転軸15に正転方向に作用する駆動トルクTiが限界トルクTxより大きい場合を示す。この場合、保持筒401およびねじりコイルばね50は、図3(a)の場合と同様、回転しない。しかし、回転軸15に作用する正転方向の駆動トルクTiが限界トルクTxより大きいので、回転軸15は、コイル部51の内周面との摩擦力に打ち克って回転する。
【0036】
また、ねじりコイルばね50のコイル部51は、入力端16から視て逆転方向に巻回されているため、回転軸15が正転することにより、コイル部51の内周面は巻回が解かれ、内周が拡がる方向に力を受ける。コイル部51の内径が拡径するため、回転軸15とねじりコイルばね50との摩擦力が低減し、回転軸15はさらに継続して正転可能となる。よって、駆動部11からの駆動トルクTiを負荷12へトルクTioとして伝達することができる。図3(b)の実線のC字状矢印は「回転(正転)する」ことを示している。
【0037】
ところで、「負荷12からの逆入力トルクToは、限界トルクTxより小さいものとする」としたのは、仮に、逆入力トルクToが限界トルクTxを超える場合があり得ると、そのトルク領域では逆入力トルクを遮断することができないからである。したがって、負荷12から入力され得る逆入力トルクToの最大値に基づいて、そのトルクから計算した回転軸15の接線方向の力よりもコイル部51の内周面と回転軸15の外周面との摩擦力が大きくなるように、限界トルクTxの値を設定する必要がある。具体的には、限界トルクTxは、ねじりコイルばね50の材質やばね特性、コイル部51と回転軸15との接触面積、挿着時の締め代等によって調整することができる。
一方、駆動部11の出力は、正転方向の駆動トルクTiが必ず限界トルクTxを超えるように設定されることが望ましい。
【0038】
次に、図4は、回転軸15が逆転するときの逆入力遮断クラッチ101の作用を示す。回転軸15に逆転方向に作用するトルクは、駆動部11からの駆動トルクTiである。
この場合、保持筒401がねじりコイルばね50を介して回転軸15と一体に逆転しようとすると、ワンウェイクラッチ30が空転状態となり(図2(c)参照)、保持筒401はフリーに回転する。そのため、駆動トルクTiの大きさに関係なく、回転軸15は、保持筒40およびねじりコイルばね50と共に逆転する。よって、駆動部11からの駆動トルクTiを負荷12へトルクTioとして伝達することができる。図4の実線のC字状矢印は「回転(逆転)する」ことを示している。
【0039】
このように、本実施形態の逆入力遮断クラッチ101は、負荷12からの逆入力トルクToの方向が正転方向のみの一方向に限られる場合に、簡易な構成で逆入力トルクToを遮断する装置を実現することができる。また、回転軸15は単一の構成であって、独立した入力軸と出力軸とを有しないため、従来技術にみられるような「追いつきロック現象」の発生を根本的に回避することができる。
【0040】
(第2、第3実施形態)
次に、本発明の第2、第3実施形態の逆入力遮断クラッチについて、図5を参照して説明する。以下の実施形態の説明では、第1実施形態と実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0041】
図5(a)に示すように、第2実施形態の逆入力遮断クラッチ102は、保持筒402に、ばね室44と保持筒402の外部とを連通する連通孔45が形成されている。これにより、回転軸15の回転時にねじりコイルばね50との摩擦熱によって膨張し、また回転軸15の停止後の温度降下により収縮するばね室44内の空気を、連通孔45を経由して外部と呼吸させることができる。さらに、ねじりコイルばね50が摩耗した場合、摩耗粉を連通孔45から排出することができる。
【0042】
図5(b)に示すように、第3実施形態の逆入力遮断クラッチ103は、保持筒403のばね室44内にグリースGrが封入されている。これにより、回転軸15とねじりコイルばね50との摺動部を潤滑し、摩擦熱の発生を抑制することができる。
【0043】
(第4、第5実施形態)
次に、本発明の第4、第5実施形態の逆入力遮断クラッチについて、図6を参照して説明する。第4、第5実施形態の逆入力遮断クラッチは、回転軸15を支持する軸受けの構成が第1実施形態と異なる。すなわち、第1実施形態では、ねじりコイルばね50の軸方向の両側に軸受け61、62が設けられるのに対し、第4、第5実施形態では、ねじりコイルばね50の軸方向の片側に軸受けが設けられる。
【0044】
図6(a)に示すように、第4実施形態の逆入力遮断クラッチ104は、保持筒404が入力端16側に延長されて設けられている。そして、ねじりコイルばね50の入力端16側で保持筒404の内壁42に圧入された一つの軸長の長い軸受け64が回転軸15を支持している。また、回転軸15の出力端17側には、保持筒404の端部に形成された雌ねじ部46にプラグ70が螺合されている。
【0045】
ねじりコイルばね50は、長期の使用により回転軸15との接触部が摩耗する可能性があるため、摩耗粉を清掃する修理を施したり交換したりするニーズが生じる。ところが、第1実施形態のように保持筒401の両端部に軸受け61、62が圧入された態様では、ねじりコイルばね50の修理または交換のために軸受け61、62を取り外すことは容易でない。これに対し、第4実施形態では、ねじを緩めてプラグ70を容易に取り外すことができるため、ねじりコイルばね50を修理または交換することが可能となる。
【0046】
図6(b)に示すように、第5実施形態の逆入力遮断クラッチ105は、ねじりコイルばね50の入力端16側に二つの軸受け61、65が設けられている。軸受け61は、第1実施形態と同様、保持筒405の内壁42に圧入されて回転軸15を支持する。また、軸受け65は、保持筒405よりも入力端16側でハウジング20の収容穴21に直接圧入されて回転軸15を支持する。軸受け61と軸受け65とは、回転軸15の芯振れを防止可能な程度に距離をおいて配置される。
【0047】
また、回転軸15の出力端17側には、第4実施形態と同様、保持筒405の端部に形成された雌ねじ部46にプラグ70が螺合されている。これにより、第4実施形態と同様、プラグ70を容易に取り外すことができ、ねじりコイルばね50の修理または交換に有利である。
【0048】
(その他の実施形態)
上記実施形態では、負荷からの逆入力トルクが回転軸15に入力される「正転方向」が入力端16側から視て時計方向に相当する。言うまでもなく他の実施形態では、負荷からの逆入力トルクの方向が、入力端16側から視て反時計方向に相当する場合がある。その場合、逆入力遮断クラッチ30が伝達または空転状態となる回転方向、及び、ねじりコイルばね50のコイル部51の巻回方向は、上記実施形態と逆になる。
【0049】
また、ねじりコイルばね50のコイル部51は、上記実施形態のように角ばね材で形成される態様に限らない。例えば、負荷から入力され得る逆入力トルクの最大値が比較的小さい場合等には、限界トルクTxを比較的小さく設定することができるため、一般的な丸線のばね材でコイル部を形成してもよい。
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
101〜105・・・逆入力遮断クラッチ、
11 ・・・駆動部、
12 ・・・負荷、
15 ・・・回転軸、
16 ・・・入力端、
17 ・・・出力端、
20 ・・・ハウジング(静止部材)、
21 ・・・収容穴、
30 ・・・ワンウェイクラッチ(一方向回転部材)、
401〜405・・・保持筒、
41 ・・・外壁、
42 ・・・内壁、
43 ・・・係止溝、
44 ・・・ばね室、
45 ・・・連通孔、
46 ・・・雌ねじ部、
50 ・・・ねじりコイルばね、
51 ・・・コイル部、
52 ・・・延出部、
61、62、64、65・・・軸受け、
70 ・・・プラグ、
Gr ・・・グリース、
Ti ・・・駆動トルク、
To ・・・逆入力トルク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正転方向および逆転方向の駆動トルクを発生する駆動部と当該駆動トルクが出力される負荷との間に設けられ、前記負荷からの前記正転方向の逆入力トルクが前記駆動部に伝達されることを防止する逆入力遮断クラッチであって、
収容穴を有する静止部材と、
前記収容穴の中心に挿通され、一方の端部である入力端が駆動部に接続され他方の端部である出力端が負荷に接続される回転軸と、
前記収容穴の内壁と前記回転軸との間に、前記収容穴および前記回転軸と同軸に設けられる保持筒と、
前記保持筒の内壁に挿着され、前記回転軸を回転可能に支持する軸受けと、
前記収容穴の内壁と前記保持筒の外壁との間に挿着され、前記保持筒を前記正転方向へ回転不能に保持し、且つ前記保持筒を前記逆転方向へ空転させる一方向回転部材と、
コイル状に巻回されたコイル部と、当該コイル部の一端から径外方向に延び前記保持筒に係止される延出部とからなり、前記コイル部に対する前記延出部の回転方向の相対位置を所定の中立位置に維持するように付勢するねじりコイルばねであって、前記コイル部は、前記延出部を基準として前記逆転方向に巻回され、内径を拡げた状態で前記回転軸の外周面に挿着されるねじりコイルばねと、
を備え、
前記回転軸に所定の限界トルクより小さい前記正転方向のトルクが入力されたとき、前記保持筒は、前記一方向回転部材によって回転不能となり、前記回転軸は、前記コイル部の内周面と前記回転軸の外周面との摩擦力によって回転が拘束され、
前記回転軸に前記所定の限界トルクより大きい前記正転方向のトルクが入力されたとき、前記保持筒は、前記一方向回転部材によって回転不能となり、前記回転軸は、前記コイル部の内径を拡げつつ前記コイル部の内周面と前記回転軸の外周面との摩擦力に打ち克って回転し、
前記回転軸に前記逆転方向のトルクが入力されたとき、前記保持筒は、前記一方向回転部材によって前記静止部材に対して空転することにより、前記回転軸と一体に回転することを特徴とする逆入力遮断クラッチ。
【請求項2】
前記ねじりコイルばねの前記コイル部は、線材の断面形状が方形である角ばね材で形成されることを特徴とする請求項1に記載の逆入力遮断クラッチ。
【請求項3】
前記軸受けは、前記ねじりコイルばねの軸方向の一方側および他方側で前記保持筒の内壁に挿着され、
前記保持筒は、二つの前記軸受け及び前記保持筒の内壁によって区画されるばね室と前記保持筒の外部とを連通する連通孔が形成されることを特徴とする請求項1または2に記載の逆入力遮断クラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−113328(P2013−113328A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257624(P2011−257624)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)