説明

逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法

【課題】コバルトを抽出したアミン系抽出剤からコバルトを塩酸酸性水溶液で逆抽出して得られる鉄及び亜鉛クロロ錯イオンを含むアミン系抽出剤(A)をスクラビングして再生する際に、そのまま溶媒抽出工程の抽出段で繰り返し再利用することができるように再生することができる逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法を提供する。
【解決手段】下記の(1)〜(3)の手順を含むことを特徴とする。
(1)アミン系抽出剤(A)に、亜硫酸イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、鉄(III)クロロ錯イオンを2価に還元し、抽出剤(B)を得る。
(2)抽出剤(B)に、酸化剤を含有する水溶液を混合して攪拌し、亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、抽出剤(C)を得る。
(3)抽出剤(C)に、塩化物イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、硫酸イオンを塩化物イオンで置換し、鉄及び亜鉛を除去した抽出剤を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法に関し、さらに詳しくは、ニッケル及びコバルトを含む塩酸酸性水溶液からコバルトを抽出しニッケルと分離する溶媒抽出方法において、コバルトを抽出したアミン系抽出剤からコバルトを塩酸酸性水溶液で逆抽出して得られる、鉄(III)クロロ錯イオン及び亜鉛クロロ錯イオンを含むアミン系抽出剤をスクラビングして再生する際に、鉄及び亜鉛を効率良く除去するとともに、そのまま溶媒抽出工程の抽出段で繰り返し再利用することができるように、アミン系抽出剤の抽出能力を再生することができる、逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル製錬の原料鉱石には若干のコバルトが共存する場合が多いため、ニッケル製錬においては、ニッケルとともにコバルトを回収することが一般的である。ニッケルとコバルトの分離方法としては、ニッケルとコバルトとで酸化されやすい傾向にわずかな差があることを利用して、ニッケルとコバルトを含有する水溶液を酸化しながら中和を行う酸化中和法を用いて、コバルトの沈殿を分離することが行なわれていた。しかしながら、前記酸化中和法では、十分にコバルトを分離するためには、生成するコバルト殿物中に多くのニッケルの共沈殿をともなうため、一旦分離したコバルト殿物の再処理工程が別途必要となるという生産効率上の問題があり、特にニッケル水溶液中のコバルト濃度が高い場合には望ましい方法とは言えなかった。
【0003】
このため、近年、有機溶媒からなる抽出剤を利用してニッケルとコバルトを分離する溶媒抽出法が広く用いられるようになってきた。溶媒抽出法では、比較的簡単な設備で抽出元液に含有されるニッケルとコバルトとを分離することができ、コスト削減や品質の向上に大きな効果がある。ここで、ニッケルとコバルトとの分離に用いられる抽出剤としては、例えばCytec社製の商品名Cyanex272で代表される燐酸エステル系酸性抽出剤、又はTNOAで代表されるアミン系抽出剤が知られている。
【0004】
なお、溶媒抽出の原料水溶液(抽出元液)が塩化物水溶液である場合は、コバルトとニッケルの分離性能、クラッド発生の可能性、コストなどの点を考慮して、燐酸エステル系よりもアミン系の抽出剤を用いることが多い。この場合、溶媒抽出工程は、有機相を構成するアミン系抽出剤により原料水溶液中に含有される対象金属のクロロ錯イオンを抽出剤上に担持する抽出段と、それに続く、水相を形成する水溶液により有機相に担持された対象金属を脱離する逆抽出段と、次いで水相を形成する水溶液により有機相に残留した成分を脱離又は置換反応で有機相から分離除去するスクラビング段を含む。
【0005】
ところで、溶媒抽出操作において、アミン系抽出剤は、次のような特性を有している。
アミン系抽出剤は、通常、下記の化学反応式1にしたがって、塩酸付加することにより、十分な抽出特性を有するようになり、下記の化学反応式2に従ってクロロ錯イオンの抽出が行われるので、優れたコバルトとニッケルの分離特性を示す。
【0006】
【化1】

この反応により、アミン(RN:)は、塩酸により塩酸付加されたアミンを生成する。
【0007】
【化2】

(式中Mは、Zn、Fe、Cu、Co等のクロロ錯イオンを形成する金属種を表す。)
【0008】
この反応により、Zn、Fe、Cu、Co等のクロロ錯イオンを形成する金属種が抽出され、金属クロロ錯イオンを担持したアミンを生成する。なお、ニッケルはクロロ錯イオンを形成しないので、抽出残液に残留して分離される。したがって、ニッケル水溶液中に、コバルトよりもクロロ錯体の形成能が高い、すなわち強く担持される金属、例えば鉄、亜鉛等のクロロ錯イオンが含まれている場合には、これらの金属が優先的に抽出され、抽出剤中に蓄積されるので、コバルトの抽出量が低下するという問題が生じる。
【0009】
このために、例えば、抽出能力を回復する再生処理として、逆抽出後の抽出剤を水洗浄して蓄積した不純物を除去することが行なわれてきた。前記水洗浄では、抽出剤に水を加えて混合し、抽出剤中の不純物元素がクロロ錯イオンを形成できない塩化物濃度になるまで希釈し、不純物元素を抽出剤から脱離させ、抽出剤の抽出能力を再生するものである。
しかしながら、クロロ錯イオンが形成できないレベルにまで希釈するには、例えば、鉄の場合には、抽出剤中の塩化物濃度を1g/L程度以下まで低下させなければならず、大量の水が必要となって、水バランスや排水処理工程の負荷を考えると工業的に有利な方法ではない。
【0010】
そのため、他の方法として、スクラビング段において、強アルカリ水溶液と接触させ、中和して抽出剤に蓄積しているクロロ錯イオンを除去する方法が提案されている。なお、このようなアルカリ中和による方法では、一般的には、下記の化学反応式3に従って、水酸化ナトリウム等のアルカリ液を抽出剤と接触させ、水酸化物として金属クロロ錯イオンを除去する。
【0011】
【化3】

(式中のMは、Zn、Fe等のクロロ錯イオンを形成する金属種を表す。)
【0012】
この際、鉄は水酸化物殿物として、また亜鉛は水酸化物殿物又はヒドロキソ錯イオンとして抽出剤から除去されるが、水酸化物は、クラッドと呼ばれる澱物を形成し、設備配管を閉塞する原因となりやすく、抽出剤の再使用が困難となることが多い。このため洗浄後に抽出剤とクラッドとを濾過して分離する工程を設けることが必要となるが、クラッドは難濾過性であるため、設備がかさみ費用と手間を要していた。また、水酸化ナトリウムは操業資材としては高価であり、回収メリットの小さい鉄及び亜鉛の除去に使用することは望ましくないことに加えて、さらに、上記アルカリ中和によって、アミン系抽出剤自体がフリーアミンの状態に戻ってしまうため、その抽出能力を完全に再生するためには、この後、塩酸付加又は硫酸付加を行わなければならないという問題があった。
【0013】
この解決策としては、例えば、第三級アミンの非水溶性抽出剤溶液を抽出剤として金属を溶媒抽出する工程で、第三級アミンと結合力の強い成分の蓄積した該抽出剤を、塩化カリウムを共存するシユウ酸カリウム水溶液と接触させ、該抽出溶媒中の第三級アミンとの結合力の強い成分を逆抽出して該抽出溶媒を再生し、該逆抽出後液に水酸化カリウムを添加して該第三級アミンとの結合力の強い成分を水酸化物として沈降分離して再生し、該再生逆抽出液を抽出溶媒の再生工程に循環する抽出剤の再生方法(例えば、特許文献1参照。)が提案されている。この方法を用いることにより、アミン系抽出剤に蓄積した鉄などの不純物元素を分離して抽出剤の抽出能力を再生することができる。
【0014】
しかしながら、この方法で用いるシュウ酸カリウムは、コストが高く、さらに劇物であり、実操業に用いると排水処理工程での負荷の増加、環境上や安全面でのリスク要因の増加などの懸念がある。また、水酸化カリウムを添加して不純物を水酸化物の形態で沈殿させると、微細な澱物が生成して濾過設備の負荷が増えたり、一部の澱物は抽出剤中にクラッドとして残留したりして、操業が困難となる恐れもあるなどの問題があった。
【0015】
さらに、他の方法として、塩化物錯体としてアミン上に担持する金属と錯化したアミンを含有する液体有機相と、硫酸イオン、硝酸イオンおよび/またはリン酸イオンを含有し塩化物イオンを含まない水溶液とを接触させて、金属をストリッピングし、およびストリッピングされた有機相を塩化物イオン含有溶液と接触させて、アミンを塩素付加することからなる、アミンの金属担持能力の再生方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。このような、アミン系抽出剤に塩化物以外の硫酸などイオン強度の大きな酸を接触させて洗浄し、その後、塩酸溶液と接触させて抽出剤を塩素付加して再生する方法では、抽出剤の中に澱物が発生することなしに不純物元素を分離して抽出能力を再生できる特長がある。
【0016】
しかしながら、抽出剤中に存在する塩化物錯体の不純物元素を除去するには、抽出剤中の塩化物濃度を1g/L以下の低濃度に低減することが必要とされている。塩化物濃度を低減するために、多量の酸を含んだ溶液を抽出剤に混合して希釈すると、使用する酸のコストがかかる。また、多量の廃液が発生するので、中和し、澱物を分離し、排水処理を経て処理するには、大掛かりな設備と多くの手間を要するなど容易ではなかった。また、抽出剤中に硫酸イオンが残留するので、この抽出剤を再び抽出に用いた際には、抽出元液に硫酸イオンが混入する恐れがある。塩化物系の抽出液に硫酸イオンが混入すると、後工程の電解採取で電極を劣化し、電解槽の電圧を上昇させてコストを上昇させる。さらに上記方法で不純物元素を除去した後の抽出剤には塩酸などの塩化物を含む溶液と接触させて塩素付加する処理を行わなければならず、手間とコストを要するものとなっていた。
【0017】
以上の状況から、鉄、亜鉛等の金属のクロロ錯イオンを担持したアミン系抽出剤の抽出能力を再生する際に、殿物及びクラッドの形成が伴われないこと、不純物元素を除去した後の抽出剤に塩素付加する処理が不要で操業資材コストが低いこと等が達成される、より効率的なスクラビング方法が求められている。
【0018】
【特許文献1】特公平3−40089号公報(第1頁)
【特許文献2】特許第3844752号明細書(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、ニッケル及びコバルトを含む塩酸酸性水溶液からコバルトを抽出しニッケルと分離する溶媒抽出方法において、コバルトを抽出したアミン系抽出剤からコバルトを塩酸酸性水溶液で逆抽出して得られる、鉄(III)クロロ錯イオン及び亜鉛クロロ錯イオンを含むアミン系抽出剤をスクラビングして再生する際に、鉄及び亜鉛を効率良く除去するとともに、そのまま溶媒抽出工程の抽出段で繰り返し再利用することができるように、アミン系抽出剤の抽出能力を再生することができる、逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記目的を達成するために、コバルトを抽出したアミン系抽出剤からコバルトを塩酸酸性水溶液で逆抽出して得られる鉄(III)クロロ錯イオン及び亜鉛クロロ錯イオンを含むアミン系抽出剤(A)の抽出能力を再生する方法について、鋭意研究を重ねた結果、前記アミン系抽出剤(A)を、亜硫酸イオンを含有する水溶液でのスクラビング((1)の手順)、酸化剤を含んだ水溶液でのスクラビング((2)の手順)、及び塩化物イオンを含有する水溶液でのスクラビング((3)の手順)を特定の条件で逐次実施したところ、鉄、亜鉛等の金属クロロ錯イオンが効率良く除去されるとともに、そのまま抽出段で再利用することができるように抽出剤の抽出能力を再生することができることを見出し、本発明を完成した。さらに、亜硫酸イオンを含有する水溶液でのスクラビング((1)の手順)に続いて、(2)及び(3)の手順の代わりに、酸化剤を添加し、かつ塩化物イオンを含有する水溶液でスクラビングする手順((4)の手順)を特定の条件で実施すれば、スクラビングの手順が簡素化されるのでより有利である。
【0021】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、ニッケル及びコバルトを含む塩酸酸性水溶液からコバルトを抽出しニッケルと分離する溶媒抽出方法において、コバルトを抽出したアミン系抽出剤からコバルトを塩酸酸性水溶液で逆抽出して得られる、鉄(III)クロロ錯イオン及び亜鉛クロロ錯イオンを含むアミン系抽出剤(A)をスクラビングする方法であって、
下記の(1)〜(3)の手順を含むことを特徴とする逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法が提供される。
(1)前記アミン系抽出剤(A)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように亜硫酸イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(A)中の鉄(III)クロロ錯イオンを2価に還元し、次いで、静置した後、形成された鉄(II)クロロ錯イオン及び亜硫酸亜鉛を含有する水溶液を分離して、亜硫酸イオンを含有するアミン系抽出剤(B)を得る。
(2)前記アミン系抽出剤(B)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように酸化剤を含有する水溶液、或いは酸化剤及び水を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(B)中の亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、次いで、静置した後、形成された硫酸水溶液を分離して、硫酸イオンを含有するアミン系抽出剤(C)を得る。
(3)前記アミン系抽出剤(C)に、塩化物イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(C)中の硫酸イオンを塩化物イオンで置換し、次いで、静置した後、形成された硫酸イオンを含有する水溶液を分離して、鉄及び亜鉛を除去したアミン系抽出剤(D)を得る。
【0022】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記(2)と(3)の手順の代わりに、次の(4)の手順を含むことを特徴とする逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法が提供される。
(4)前記アミン系抽出剤(B)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように、酸化剤を添加し、かつ塩化物イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(B)中の亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、かつ該硫酸イオンを塩化物イオンで置換し、次いで、静置した後、形成された硫酸イオンを含有する水溶液を分離して、鉄及び亜鉛を除去したアミン系抽出剤(D)を得る。
【0023】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記(1)の手順において、亜硫酸イオンを含有する水溶液は、亜硫酸水であることを特徴とする逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法が提供される。
【0024】
また、本発明の第4の発明によれば、第1の発明において、前記(2)の手順において、酸化剤は、過酸化水素であることを特徴とする逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法が提供される。
【0025】
また、本発明の第5の発明によれば、第2の発明において、前記(4)の手順において、酸化剤は、過酸化水素であり、かつ塩化物イオンを含有する水溶液は、塩酸又は塩化ナトリウム水溶液であることを特徴とする逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法が提供される。
【0026】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5いずれかの発明において、前記アミン系抽出剤は、TNOA、又はTIOAから選ばれる少なくとも1種の3級アミンと芳香族炭化水素からなる希釈剤を含み、かつ該3級アミンを、全量に対し10〜40容量%含有することを特徴とする逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法は、ニッケル及びコバルトを含む塩酸酸性水溶液からコバルトを抽出しニッケルと分離する溶媒抽出方法において、コバルトを抽出したアミン系抽出剤からコバルトを塩酸酸性水溶液で逆抽出して得られる鉄(III)クロロ錯イオン及び亜鉛クロロ錯イオンを含むアミン系抽出剤をスクラビングして再生する際に、鉄及び亜鉛を効率良く除去するとともに、そのまま溶媒抽出工程の抽出段で繰り返し再利用することができるように、アミン系抽出剤の抽出能力を再生することができるので、その工業的価値は極めて大きい。しかも、この際、本発明の方法では、特別な設備を必要とせずミキサーセトラー、パルスカラム等の一般的な抽出装置がそのまま使用することができる上、殿物及びクラッドが形成されないこと、操業資材コストが低いこと、水で希釈して抽出剤中の塩化物イオン濃度を低下させる必要がないのでスクラビング液量が少ないこと等、も達成されるので、従来の方法に比べてより有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明の逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法は、ニッケル及びコバルトを含む塩酸酸性水溶液からコバルトを抽出しニッケルと分離する溶媒抽出方法において、コバルトを抽出したアミン系抽出剤からコバルトを塩酸酸性水溶液で逆抽出して得られる、鉄(III)クロロ錯イオン及び亜鉛クロロ錯イオンを含むアミン系抽出剤(A)をスクラビングする方法であって、
下記の(1)〜(3)の手順を含むことを特徴とする。
(1)前記アミン系抽出剤(A)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように亜硫酸イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(A)中の鉄(III)クロロ錯イオンを2価に還元し、次いで、静置した後、形成された鉄(II)クロロ錯イオン及び亜硫酸亜鉛を含有する水溶液を分離して、亜硫酸イオンを含有するアミン系抽出剤(B)を得る。
(2)前記アミン系抽出剤(B)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように酸化剤を含有する水溶液、或いは酸化剤及び水を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(B)中の亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、次いで、静置した後、形成された硫酸水溶液を分離して、硫酸イオンを含有するアミン系抽出剤(C)を得る。
(3)前記アミン系抽出剤(C)に、塩化物イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(C)中の硫酸イオンを塩化物イオンで置換し、次いで、静置した後、形成された硫酸イオンを含有する水溶液を分離して、鉄及び亜鉛を除去したアミン系抽出剤(D)を得る。
【0029】
さらに、本発明の逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法としては、前記(2)と(3)の手順の代わりに、次の(4)の手順を含むことができる。
(4)前記アミン系抽出剤(B)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように、酸化剤を添加し、かつ塩化物イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(B)中の亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、かつ該硫酸イオンを塩化物イオンで置換し、次いで、静置した後、形成された硫酸イオンを含有する水溶液を分離して、鉄及び亜鉛を除去したアミン系抽出剤(D)を得る。
【0030】
本発明において、上記アミン系抽出剤(A)と接触させて平衡させるスクラビング液として、まず亜硫酸イオンを含有する水溶液を用いて鉄及び亜鉛を除去することが重要である。その後、得られたアミン系抽出剤(B)中に残留する亜硫酸イオンを酸化し、塩化物イオンと置換する手順が伴われる。
すなわち、一般的には、塩化物イオンを含まないスクラビング液を用いて、これを鉄、亜鉛等の金属が蓄積されたアミン系抽出剤に多段数で接触させることで、クロロ錯イオンが解消されるレベルまで塩化物イオンを低下させて、前記金属を除去することができるが、単純にスクラビングを繰り返すだけでは鉄又は亜鉛のようにクロロ錯イオン形成能が高い金属の除去においては、平衡する水相の塩化物イオン濃度が十分に低くなるように希釈するための大量のスクラビング液が必要となる。
【0031】
これに対し、本発明の方法では、まず、亜硫酸イオンにより、抽出剤中の3価の鉄イオンで構成されたクロロ錯イオン(鉄(III)クロロ錯イオン)を、2価の鉄イオンで構成されたクロロ錯イオン(鉄(II)クロロ錯イオン)に還元することにより、アミン系抽出剤には抽出できない形態に変換し、抽出剤から脱離させるものである。同時に、亜硫酸イオンにより、抽出剤中の亜鉛クロロ錯イオンを亜硫酸亜鉛に変換し、抽出剤から脱離させるものである。次いで、抽出剤に抽出され含有された亜硫酸イオンは、硫酸イオンに酸化され、最後に、抽出剤に残留する硫酸イオンは塩化物水溶液により除去される。
すなわち、アミン系抽出剤中に蓄積した鉄や亜鉛は、該抽出剤中の塩化物濃度に影響されずに脱離されるので、希釈などによって塩化物濃度を1g/L以下まで低減する必要がない。したがって、殿物及びクラッドが形成されないこと、操業資材コストが低いこと、水で希釈して抽出剤中の塩化物イオン濃度を低下させる必要がないのでスクラビング液量が少ないこと等、も達成される
【0032】
本発明の方法に用いる溶媒抽出方法としては、ニッケル及びコバルトを含む塩酸酸性水溶液からコバルトを抽出しニッケルと分離するものである。
前記溶媒抽出方法に用いる溶媒抽出工程としては、特に限定されるものではないが、有機相を構成するアミン系抽出剤により酸性塩化物水溶液中に含有される金属クロロ錯イオンを該抽出剤上に担持する抽出段と、それに続く、水相を形成する水溶液により該有機相の抽出剤上に担持されたコバルトを脱離する逆抽出段と、次いで水相を形成する水溶液により該有機相に残留した成分を脱離又は置換反応で分離除去するスクラビング段とを含むものである。なお、前記抽出段では、アミン系抽出剤からなる有機相と酸性塩化物水溶液からなる水相が混合接触され、該水溶液中に含有されるコバルトクロロ錯イオンが抽出剤上に担持され、ニッケルを抽出残液中に残留させる。この際、鉄、亜鉛、銅等のクロロ錯イオンが共存すると、抽出剤上に担持されてしまう。また、それに続く逆抽出段では、抽出段からの有機相と希塩酸水溶液からなる水相が混合接触され、有機相に担持されたコバルトを水相へ移行させて分離する。
【0033】
本発明の方法に用いるアミン系抽出剤(A)としては、ニッケル及びコバルトを含む塩酸酸性水溶液からコバルトを抽出しニッケルと分離する溶媒抽出方法において、コバルトを抽出したアミン系抽出剤からコバルトを塩酸酸性水溶液で逆抽出して得られる鉄(III)クロロ錯イオン及び亜鉛クロロ錯イオンを含むものである。
上記アミン系抽出剤の組成としては、特に限定されるものではなく、ニッケルとコバルトとの選択性に優れる3級アミンが用いられるが、この中で、TNOA、又はTIOAから選ばれる少なくとも1種の3級アミンが好ましく、TNOAがより好ましい。なお、前記3級アミンは、有機相の粘性と抽出効率から、必要により、芳香族炭化水素からなる希釈剤と混合されて、アミン系抽出剤の全量に対し10〜40容量%含有するようにして用いることができる。
【0034】
以下、本発明の方法を各手順に沿って説明する。
1.(1)の手順
上記(1)の手順は、上記アミン系抽出剤(A)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように亜硫酸イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(A)中の鉄(III)クロロ錯イオンを2価に還元し、次いで、静置した後、形成された鉄(II)クロロ錯イオン及び亜硫酸亜鉛を含有する水溶液を分離して、亜硫酸イオンを含有するアミン系抽出剤(B)を得る手順である。ここでは、鉄については、鉄(II)クロロ錯イオンが、鉄(III)クロロ錯イオンとは異なり、アミン系抽出剤には抽出されない性質があること、及び、亜鉛については、クロロ錯イオンよりも亜硫酸塩を形成しやすい傾向があり、形成された亜硫酸亜鉛は、一部がアミン系抽出剤に抽出されるが、大部分は抽出剤から脱離することができることを利用する。
【0035】
上記(1)の手順に用いる亜硫酸イオンを含有する水溶液としては、特に限定されるものではなく、亜硫酸水、亜硫酸ナトリウム水溶液、亜硫酸カリウム水溶液、ヒドラジン等が用いられるが、この中で、安価かつ取扱いが容易な亜硫酸ガスを水に飽和させることにより得られ、かつ設備材質や排水処理などへの負荷も少ない亜硫酸水が好ましい。
【0036】
上記(1)の手順に用いる酸化還元電位としては、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が、80〜550mVに、好ましくは、150〜250mVになるように、亜硫酸イオンの添加量を調整して制御される。すなわち、亜硫酸イオンの添加量は、反応効率によって異なるので一概には決められないが、酸化還元電位を測定し、所定の範囲に維持することにより制御される。ここで、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が550mVを超えると、鉄(III)クロロ錯イオンの還元が不十分である。一方、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)の下限としては、鉄や亜鉛が金属状態で析出するおそれがなく、かつ亜硫酸イオンと硫酸イオンが平衡する80mVが好ましい。
【0037】
2.(2)の手順
上記(2)の手順は、上記アミン系抽出剤(B)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように、酸化剤を含有する水溶液、或いは酸化剤及び水を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(B)中の亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、次いで、静置した後、形成された硫酸水溶液を分離して、硫酸イオンを含有するアミン系抽出剤(C)を得る手順である。
すなわち、アミン系抽出剤の選択性は、一定濃度以上の塩化物イオン濃度の範囲においては、亜硫酸イオンの方が塩化物イオンよりも強い傾向がある。このため、上記アミン系抽出剤(B)には、亜硫酸イオンの一部が蓄積され残留するので、アミン系抽出剤のコバルト抽出能力を再生するためには、(1)の手順のみでは、未だ不十分である。したがって、本手順では、アミン系抽出剤(B)中の亜硫酸イオンを、アミン系抽出剤には抽出され難い硫酸イオンに酸化し脱離させるものである。なお、上記アミン系抽出剤(B)中に一部残留した亜鉛及び鉄も、同時に脱離される。
【0038】
上記(2)の手順に用いる酸化剤としては、特に限定されるものではなく、過酸化水素又は次亜塩素酸を含有する水溶液を添加したり、或いは水の共存下に、酸素、空気、塩素、オゾン等のガスを吹き込むことにより行なわれる。
【0039】
上記(2)の手順に用いる酸化還元電位としては、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が、80〜550mVに、好ましくは、150〜550mVになるように、酸化剤の添加量を調整して制御される。すなわち、アミン系抽出剤(B)が過剰に酸化されると、アミン系抽出剤(B)中に残存している鉄や亜鉛などの不純物元素イオンがクロロ錯イオンを再度形成し、再抽出されたり、アミン系抽出剤自身が酸化されて劣化したりする恐れがある。ここで、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が550mVを超えると、アミン系抽出剤自身が酸化される。一方、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80mV未満では、亜硫酸イオンから硫酸イオンへの酸化が不十分である。
【0040】
3.(3)の手順
上記(3)の手順は、上記アミン系抽出剤(C)に、塩化物イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(C)中の硫酸イオンを塩化物イオンで置換し、次いで、静置した後、形成された硫酸イオンを含有する水溶液を分離して、鉄及び亜鉛を除去したアミン系抽出剤(D)を得る手順である。
すなわち、上記(2)の手順で、酸化されて生成した硫酸イオンは、大部分はアミン系抽出剤から分離されるが、一部はアミン系抽出剤に巻き込まれ残留する。このため、そのまま溶媒抽出工程の抽出段で繰り返し再利用することができるように、アミン系抽出剤の抽出能力を再生するためには、このような硫酸イオンを除去することが望ましい。本手順では、塩化物水溶液を用いてアミン系抽出剤(C)をスクラビングすることで、不純物元素に随伴するなどしてアミン系抽出剤(A)中から持ち去られた塩化物イオンを補充しつつ、同時に硫酸イオンを除去するものである。これにより、アルカリや水で抽出剤を洗浄した場合に必要とされるアミンへの塩素付加の操作は、不要となる。また、アミン系抽出剤(C)中に含有された硫酸イオンは分離されるので、溶媒抽出工程の抽出段での抽出元液への混入が防止され、硫酸イオンの混入による電解採取工程での電極の劣化や電解槽の電圧上昇を抑制することができる。
【0041】
上記(3)の手順に用いる塩化物イオンを含有する水溶液としては、特に限定されるものではないが、塩酸、塩化ナトリウム水溶液又は塩化カリウム水溶液が用いられるが、pH調整を行う必要がなく、かつ排水量を削減し薬剤を節約できる塩化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0042】
上記(3)の手順に用いる塩化物イオンを含有する水溶液中の塩化物イオン濃度としては、特に限定されるものではないが、100g/Lから溶媒抽出工程での抽出元液の塩化物イオン濃度までの範囲とすればよい。すなわち、アミン系抽出剤と塩化物イオンとの選択性は、一定の塩化物イオン濃度の範囲では、亜硫酸イオンより弱く、硫酸イオンよりも強いので、上記範囲とすることにより、上記選択性を維持することができる。
【0043】
4.(4)の手順
上記(4)の手順は、上記アミン系抽出剤(B)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように、酸化剤を添加し、かつ塩化物イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(B)中の亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、かつ該硫酸イオンを塩化物イオンで置換し、次いで、静置した後、形成された硫酸イオンを含有する水溶液を分離して、鉄及び亜鉛を除去したアミン系抽出剤(D)を得る手順である。
【0044】
上記(4)の手順で用いる酸化還元電位の制御としては、上記(2)の手順と同様に所定の条件で行なわれる。ここで、酸化剤の添加方法としては、過酸化水素又は次亜塩素酸を含有する水溶液を塩化物イオンを含有する水溶液と同時に添加したり、或いは塩化物イオンを含有する水溶液を混合した後、酸素、空気、塩素、オゾン等のガスを吹き込むことにより行なわれる
【0045】
上記(1)〜(4)の手順で用いるスクラビングの方法としては、バッチ式、又は向流、並流等の連続式が用いられるが、各手順において、有機相と水相が十分に接触されるように、例えば撹拌により混合接触され、その後静置分離される一般的に工業化されているミキサーセトラー方式等の多段の溶媒抽出装置が用いられる。また、液温度としては、特に限定されるものではなく、20〜40℃が好ましい。また、有機相の水相に対する体積比(有機相/水相比)としては、特に限定されるものではなく、5〜1/5が好ましく、3〜1がより好ましい。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析は、ICP発光分析法で行った。なお、有機相は化学分解し、除去残の金属成分を分析した。
【0047】
(実施例1)
アミン系抽出剤として、花王(株)製のTNOAに、(株)ジャパンエナジー社製のEMクリーン3000を加えて濃度が30容量%になるように希釈したものを用い、該抽出剤と試薬溶解液とを混合してコバルトを有機相に抽出し、続いて該有機相中からコバルト錯イオンを逆抽出して、逆抽出後のアミン系抽出剤を調製した。表1に、逆抽出後のアミン系抽出剤の金属成分組成を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
まず、上記逆抽出後のアミン系抽出剤を用いて、亜硫酸水によるスクラビング(上記(1)の手順)を行った。
上記逆抽出後のアミン系抽出剤30mLをガラスビーカーに分取し、有機相と水相との体積比が1対1となるように、ガラスビーカー内に飽和亜硫酸水30mLを混合し、スターラーにて10分間攪拌した。攪拌後、10分間静置して有機相と水相とを分離し、水相のみを抜き出した。この一連の操作を、合計3回繰り返した。なお、各スクラビングで、澱物の発生は見られなかった。その後、各スクラビングでのアミン系抽出剤中に残存した不純物元素濃度とアミン系抽出剤からの不純物元素除去率を求めた。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
表2より、上記逆抽出後のアミン系抽出剤を飽和亜硫酸水で3回スクラビングすることにより、鉄や亜鉛の95%以上を除去することができることが分かる。なお、このときのスクラビング後の水溶液の酸化還元電位(ORP)は、銀/塩化銀電極基準で185mVに調整された。
【0052】
次いで、上記(1)の手順で得られたアミン系抽出剤を用いて、上記(2)及び(3)の手順を行なったところ、そのまま溶媒抽出工程の抽出段で繰り返し再利用することができるように抽出能力が再生された、鉄及び亜鉛を除去したアミン系抽出剤が得られた。
【0053】
(比較例1)
実施例1と同様の逆抽出後のアミン系抽出剤を用い、逆抽出後のアミン系抽出剤と5Mの水酸化ナトリウム水溶液を体積比で1:1となるようにガラスビーカーに入れ、スターラーにて10分間攪拌した。攪拌後、10分間静置して有機相と水相とを分離した。その後、アミン系抽出剤中に残存した不純物元素濃度とアミン系抽出剤からの不純物元素除去率を求めた。結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
表3より、抽出剤中の不純物元素が十分に除去できる一方、澱物が発生するため濾過の手間と時間を要し、実用的でないことが分かる。
【0056】
(実施例2〜6、比較例2)
アミン系抽出剤として、花王(株)製のTNOAに、(株)ジャパンエナジー社製のEMクリーン3000を加えて濃度が30容量%になるように希釈したものを用い、この抽出剤と試薬溶解液とを混合し、コバルトを有機相に抽出し、続いて該有機相中からコバルト錯イオンを逆抽出して、逆抽出後のアミン系抽出剤を調製した。表4に、逆抽出後のアミン系抽出剤の金属成分組成を示す。
【0057】
【表4】

【0058】
まず、上記逆抽出後のアミン系抽出剤を用いて、スクラビングでの有機相と水相の体積比及びスクラビング回数を変えて、飽和亜硫酸水によるスクラビング(上記(1)の手順)を行った。
上記逆抽出後のアミン系抽出剤20mLをガラスビーカーに分取し、有機相と水相との体積比が所定値となるように、ガラスビーカー内に飽和亜硫酸水を混合し、スターラーにて10分間攪拌した。攪拌後、10分間静置して有機相と水相とを分離し、水相のみを抜き出した。ここで、有機相と水相との体積比及びスクラビング回数の条件としては、1:1及び3回で全スクラビングでの有機相と水相の体積比は1:3(実施例2)、1:3及び1回で全スクラビングでの有機相と水相の体積比は1:3(実施例3)、1:1及び2回で全スクラビングでの有機相と水相の体積比は1:2(実施例4)、1:2及び1回で全スクラビングでの有機相と水相の体積比は1:2(実施例5)、並びに1:1及び1回で全スクラビングでの有機相と水相の体積比は1:1(実施例6)であった。なお、各スクラビングで、澱物の発生は見られなかった。その後、各スクラビングでのアミン系抽出剤中に残存した不純物元素濃度とアミン系抽出剤からの不純物元素除去率、及び有機相中から除去された塩化物イオン/金属イオンのモル比を求めた。結果を表5、6に示す。
【0059】
【表5】

【0060】
【表6】

【0061】
表5より、全スクラビングでの有機相と水相の体積比が同様であれば、アミン系抽出剤からの不純物元素除去率はほぼ同一であることが分かる。すなわち、スクラビング液の亜硫酸イオン濃度が同じであれば、抽出剤とスクランブル液を等量として抽出剤を繰り返し洗浄する多段洗浄の場合も、有機相に対する洗浄液の割合を増やして一度に洗浄する場合でも、不純物元素除去率は同じであることが分かる。
表6より、有機相から除去された塩化物イオンと金属イオンのモル比は、いずれも約3〜4であり、クロロ錯イオンとして存在する鉄又は亜鉛が脱離されたことが分かる。
【0062】
次いで、実施例3の上記(1)の手順で得られたアミン系抽出剤を用いて、上記(2)の手順を行なった。
ここで、亜硫酸水による還元後のアミン系抽出剤(イオウを濃度1.16mol/Lで含有する。)30mLをガラスビーカーに分取し、有機相と水相との体積比が1対1となるように、ガラスビーカー内に、過酸化水素量を変えた過酸化水素水(実施例3−1〜3−4、比較例2)を混合し、スターラーにて10分間攪拌した。攪拌後、10分間静置して有機相と水相とを分離した。その後、抽出剤から除去されたイオウ濃度、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(ORP)及びスクラビング後の抽出剤の色変化を求めた。なお、スクラビング後の抽出剤が橙色に変化した場合、抽出剤の酸化及び劣化を表す。結果を表7に示す。
【0063】
【表7】

【0064】
表7より、過酸化水素量が増加するに伴って除去されたイオウ濃度が増加し、抽出剤中に残存した亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化して抽出剤から除去することが分かる。しかしながら、比較例2では、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が550mVを超えて、スクラビング後の抽出剤が橙色に変化することが分かる。
【0065】
最後に、実施例3−1〜3−4の上記(1)及び(2)の手順で得られたアミン系抽出剤を用いて、(3)の手順を行なったところ、そのまま溶媒抽出工程の抽出段で繰り返し再利用することができるように抽出能力が再生された、鉄及び亜鉛を除去したアミン系抽出剤が得られた。
【0066】
(実施例7)
実施例4において飽和亜硫酸水でスクラビングして得たアミン系抽出剤を用いて、(3)の手順を行なった。
前記アミン系抽出剤(イオウを濃度0.81mol/Lで含有する。)30mLに、有機相と水相との体積比が1対1となるように、塩化物イオンを含有する水溶液中に、濃度0.54mol/Lになるように過酸化水素水(濃度34.5質量%)を添加した。なお、酸化剤の添加量としては、上記アミン系抽出剤中のイオウ濃度に対し67%になるように設定したものである。ここで、(3)の手順の塩化物イオンを含有する水溶液として、飽和塩化ナトリウム水溶液を用いた。
その結果、抽出剤から除去されたイオウ濃度は、(2)の手順で0.46、及び(3)の手順で0.23で、合計0.69であり、(2)の手順だけでは不十分で、(3)の手順で十分な硫酸の脱離が行なわれることが分かる。
【0067】
(実施例8〜11)
実施例4において飽和亜硫酸水でスクラビングして得たアミン系抽出剤を用いて、(4)の手順を行なった。
前記アミン系抽出剤(イオウを濃度0.81mol/Lで含有する。)30mLに、濃度0.54mol/Lになるように過酸化水素水(濃度34.5質量%)を添加した塩化物イオンを含有する水溶液を、有機相と水相の体積比が1/1となるように混合し、スターラーにて10分間攪拌した。攪拌後、10分間静置して有機相と水相とを分離した。なお、酸化剤の添加量としては、上記アミン系抽出剤中のイオウ濃度に対し67%になるように設定したものである。ここで、塩化物イオンを含有する水溶液として、2M塩酸(実施例8)。5M塩酸(実施例9)、2M塩化ナトリウム水溶液(実施例10)、及び6.1M塩化ナトリウム水溶液(実施例11)を用いた。その後、抽出剤から除去されたイオウ濃度を求めた。結果を表8に示す。
【0068】
【表8】

【0069】
表8より、酸化剤を含有する塩化物水溶液によりスクラビングすることにより、実施例7と同程度に硫酸の除去が行なえることが分かる。
【0070】
以上から明らかなように、実施例1〜7では、鉄及び亜鉛を含有するアミン系抽出剤を、亜硫酸イオンを含有する水溶液でのスクラビング((1)の手順)、酸化剤を含んだ水溶液でのスクラビング((2)の手順)、及び塩化物イオンを含有する水溶液でのスクラビング((3)の手順)を特定の条件で逐次実施し、或いは実施例8〜11では、酸化剤を添加しながら、塩化物イオンを含有する水溶液でスクラビングする手順で行い、本発明の方法に従って行われたので、クラッドの形成もなく、かつ少ないスクラビング液量で効率良く抽出剤中の鉄、亜鉛及び銅を除去することができること、及びそのまま抽出段で繰り返し再利用することができるように抽出剤の抽出能力を再生することができることが分かる。これに対して、比較例1、2では、スクラビングがこれらの条件に合わないので、クラッドの生成又は抽出剤の酸化によって満足すべき結果が得られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上のように、本発明の逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法は、ニッケル及びコバルトを含む塩酸酸性水溶液からコバルトを抽出しニッケルと分離する溶媒抽出方法において、コバルトを抽出したアミン系抽出剤からコバルトを塩酸酸性水溶液で逆抽出して得られる鉄(III)クロロ錯イオン及び亜鉛クロロ錯イオンを含むアミン系抽出剤をスクラビングして再生する方法として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル及びコバルトを含む塩酸酸性水溶液からコバルトを抽出しニッケルと分離する溶媒抽出方法において、コバルトを抽出したアミン系抽出剤からコバルトを塩酸酸性水溶液で逆抽出して得られる、鉄(III)クロロ錯イオン及び亜鉛クロロ錯イオンを含むアミン系抽出剤(A)をスクラビングする方法であって、
下記の(1)〜(3)の手順を含むことを特徴とする逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法。
(1)前記アミン系抽出剤(A)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように亜硫酸イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(A)中の鉄(III)クロロ錯イオンを2価に還元し、次いで、静置した後、形成された鉄(II)クロロ錯イオン及び亜硫酸亜鉛を含有する水溶液を分離して、亜硫酸イオンを含有するアミン系抽出剤(B)を得る。
(2)前記アミン系抽出剤(B)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように酸化剤を含有する水溶液、或いは酸化剤及び水を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(B)中の亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、次いで、静置した後、形成された硫酸水溶液を分離して、硫酸イオンを含有するアミン系抽出剤(C)を得る。
(3)前記アミン系抽出剤(C)に、塩化物イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(C)中の硫酸イオンを塩化物イオンで置換し、次いで、静置した後、形成された硫酸イオンを含有する水溶液を分離して、鉄及び亜鉛を除去したアミン系抽出剤(D)を得る。
【請求項2】
前記(2)と(3)の手順の代わりに、次の(4)の手順を含むことを特徴とする請求項1に記載の逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法。
(4)前記アミン系抽出剤(B)に、スクラビング後の水溶液の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が80〜550mVになるように、酸化剤を添加し、かつ塩化物イオンを含有する水溶液を混合して攪拌し、該アミン系抽出剤(B)中の亜硫酸イオンを硫酸イオンに酸化し、かつ該硫酸イオンを塩化物イオンで置換し、次いで、静置した後、形成された硫酸イオンを含有する水溶液を分離して、鉄及び亜鉛を除去したアミン系抽出剤(D)を得る。
【請求項3】
前記(1)の手順において、亜硫酸イオンを含有する水溶液は、亜硫酸水であることを特徴とする請求項1又は2に記載の逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法。
【請求項4】
前記(2)の手順において、酸化剤は、過酸化水素であることを特徴とする請求項1に記載の逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法。
【請求項5】
前記(4)の手順において、酸化剤は、過酸化水素であり、かつ塩化物イオンを含有する水溶液は、塩酸又は塩化ナトリウム水溶液であることを特徴とする請求項2に記載の逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法。
【請求項6】
前記アミン系抽出剤は、TNOA、又はTIOAから選ばれる少なくとも1種の3級アミンと芳香族炭化水素からなる希釈剤を含み、かつ該3級アミンを、全量に対し10〜40容量%含有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の逆抽出後のアミン系抽出剤のスクラビング方法。

【公開番号】特開2010−37625(P2010−37625A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−204105(P2008−204105)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】