説明

逆育種

【課題】ヘテロ接合の非ヒト出発生物から効果的にホモ接合生物を作出する方法の提案。
【解決手段】ヘテロ接合出発生物を用意すること、前記出発生物に半数体細胞を生産させること、そのようにして得た半数体細胞からホモ接合生物を作製すること、そして所望の染色体セットを有する生物を選択することを含み、限られた数の遺伝的に異なる半数体細胞が得られるように、前記半数体細胞の生産中に組換えが起こらないことを特徴とする方法であり、組換えは防止または抑制することもできる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ接合の非ヒト出発生物から効率よくホモ接合生物を作出する方法に関する。特に本発明は、雑種子孫生産用の親系統を作出するための植物育種におけるこの方法の使用に関する。さらに本発明は、この方法に使用するDNA構築物、この方法に使用する遺伝子を選択するためのプライマー対、本方法の結果である生物を交配することによって得ることができるF1雑種生物、および本方法がもたらす種子に関する。
【背景技術】
【0002】
植物育種は人類が達成したもっとも古い成果の一つである。これは、人類が、制御された条件下で植物を生育し、信頼できる食物供給源となるタイプを選択することによって、植物を栽培化したときに始まった。多くの新品種の高い収量の一因となっているもっとも重要な特徴は、それらの雑種性である。もっとも劇的な例は、1932年に初めて大量に導入され、現在では米国におけるトウモロコシ作付面積の約95%を占めている雑種トウモロコシである。交雑品種は現在、モロコシ、サトウダイコン、ヒマワリ、タマネギ、トウゴマ、アブラナ、リーキ、キュウリ、トマト、ホウレンソウ、メロン、コショウ、ニンジン、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリ、ラディッシュ、ナスなどの作物、キノコなどの菌類、ならびに家禽および魚類などの動物で入手することができる。
【0003】
J.SneepとA.Hendriksen(1979,Pudoc,Centrefor AgriculturalPublishing andDocumentation,Wageningen)は、過去数十年の間に応用に成功した植物育種法であって、現在栽培されている品種をもたらす方法を、いくつか教示している。J.SneepとA.Hendriksen(1979)(前掲書,p.104−233)は、「Currentbreedingmethods」という章で、一般的な育種技術を述べると共に、例えばジャガイモ、サトウダイコン、トウモロコシ、ヒマワリなど、多くの作物に関して具体的な育種技術も記述している。
一般的には、市販の種子から得ることができる植物(実用品種)、遺伝子バンク登録データ、在来種などのコレクションから選択が行われる。このコレクションから「最善」の植物を選択し、常法により交配させる。このように伝統的には、純系または均質な集団が育種によって得られる。
【0004】
一般的には、市販の種子から得ることができる植物(実用品種)、遺伝子バンク登録データ、在来種などのコレクションから選択が行われる。このコレクションから「最善」の植物を選択し、常法により交配させる。このように伝統的には、純系または均質な集団が育種によって得られる。
【0005】
植物育種は、ある植物種の生殖質内に存在する遺伝的変異の利用に基づいて、改良された作物品種を作出するという目的を持っている。遺伝的変異は伝統的には、遺伝的に異なる2つの植物を交配して雑種後代を作製することによって得られる。ある後代植物の遺伝子型は、雄性配偶子と雌性配偶子との合体によって接合子をもたらし、そこから最終的に当該後代植物が発生することになったその雄性配偶子と雌性配偶子の遺伝子型の組み合わせの結果である。配偶子は植物の生活環における配偶世代によって形成されるので、配偶子の遺伝的変異は配偶体の遺伝子型に反映される。配偶体は、植物の生活環における造胞世代によって生産される胞子から分化する。胞子は、植物の生殖器官中の分化した細胞から、減数分裂と呼ばれる特別な細胞分裂プロセスによって生産される。
【0006】
減数分裂中に起こる染色体分離と染色体組換えは、二倍体ゲノムから配偶体の半数体ゲノムへの、遺伝因子の独立した再分配と新しい組み合わせの生成を引き起こすプロセスである。1つの後代植物の遺伝子型は、融合して新しい胞子体を形成する1つの雄性配偶子と1つの雌性配偶子の遺伝子型の組み合わせである。したがって減数分裂は生きているどの生物の生活環においても、遺伝的変異性を生む中心的プロセスであるとみなすことができる。
【0007】
この変異性は、新しい性質を有する所望の植物を取得するために利用される。雑種における両親の異なる性質の組み合わせは、ホモ接合(親)植物よりも有利であることが多い。しかしそのような雑種の作出はかなり面倒である。F1雑種の場合は、まず、例えば何世代もの同系交配と選択などによって、いくつかの想定上の親系統をホモ接合にした後、それらをさまざまな組み合わせで交配して、その組み合わせ能力を調べる。次に、もっとも良い組み合わせとそれらの各親系統とを維持して、実用F1品種とする。
【0008】
しかし、まず最初にホモ接合親系統を作出する必要があり、次にそれらのホモ接合親系統のうちの2つからなる所望の組み合わせを選択する必要があるので、望ましい雑種を取得する通常の方法にはかなりの時間がかかる。このプロセスは数世代を要する。
【0009】
また、家畜などの動物、例えばウシ、ブタや、サケなどの魚、およびキノコなどの菌類の場合にも、雑種が望ましいかもしれないが、動物は性的に成熟して繁殖するまでにさらに長い時間を要するので、ホモ接合系統を作出し、それらの最善な組み合わせを選択して雑種を作出するには、さらに長い時間が必要である。本発明が役立ちうる動物の例には、ニジマスや、ゼブラフィッシュなどの観賞魚が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
<発明の概要>
したがって、雑種作出用のホモ接合親系統を得るための代替方法を提供することが、本発明の第1の目的である。
【0011】
本発明の第2の目的は、望ましい親形質をヘテロ接合子孫で組み合わせる際の自由度をさらに増大させるために、この方法を使用することである。
【0012】
本願では植物だけに言及する場合がある。しかし、そのような場合でも、植物以外は考えられないことが文脈から明らかでない限り、菌類または動物に置き換えて読むことができる。
【0013】
本発明によれば、驚くべきことに、伝統的な育種の逆が可能であること、すなわちヘテロ接合植物から出発してホモ接合親系統を作出することが可能であることがわかった。それらホモ接合親系統は、交配することにより、元のヘテロ接合植物または動物を、所望であれば大量にでも、復元することができる。驚くべきことに、個々のヘテロ接合植物は、栄養生殖を行わなくても、選択した元の植物に由来する2つのホモ接合系統の交配の結果として、ヘテロ接合(F1雑種)品種に変換することができる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
したがって本発明は、ヘテロ接合非ヒト出発生物から効率よくホモ接合生物を作出する方法であって、
a)ヘテロ接合出発生物を用意するステップと、
b)前記出発生物に半数体細胞を生産させるステップと、
c)そのようにして得た半数体細胞からホモ接合生物を作製するステップと
d)所望の染色体セットを有する生物を選択するステップと、
を含み、限られた数の異なる半数体細胞が得られるように、前記半数体細胞の生産中に、本質的に組換えが起こらないことを特徴とする方法に関する。
【0015】
本発明の好ましい一実施形態では、出発生物が半数体細胞の形成時に組換えを起こす能力を持たないという理由で選択される場合とは対照的に、組換えが少なくとも部分的に防止または抑制される。
【0016】
本方法はヒトを除く動物、植物及び菌類に使用することができる。
【0017】
組換えを防止または抑制することにより、自然交配ごとに生じる通常の変異を制限し、さらには回避することができる。その結果として、異なる染色体セットを有する半数体細胞の数は、かなり減少する。そのため、所望の染色体セットを有する細胞またはそこから再生される生物を、極めて容易に同定することができる。
【0018】
そのような細胞またはそこから再生される生物の染色体セットを倍加すると、ホモ接合細胞またはホモ接合生物が生じる。次に、そのような生物を、同じドナー生物から同じ方法で作出されたもう一つのホモ接合生物との交配に使用して、雑種生物を作出することができる。
【0019】
「所望の染色体セット」は多くの変異体の1つであることができる。元の出発雑種を作出しようとする場合は、本発明によって作出される2つのホモ接合生物が、全体として、まさしく出発生物の染色体セットを有するべきである。これは、両親が、その雑種を形成した配偶子と同じ染色体セットを有する場合に達成される。しかし、新しい母系統は、元の母系配偶子の染色体の一部分のみと、元の父系配偶子の他の部分とを有する場合もありうる(「染色体置換」)。その場合も、同じ雑種の作出を望むのであれば、他方の親は、その相補物を有するべきである。
【0020】
しかし、植物育種では、元親の染色体のすべてではない1つまたはそれ以上を有する新しい系統を、異なる親と組み合わせることもできる。したがって、新しいホモ接合系統そのものが、新たな所望の最終産物になりうる。これは、元親の染色体組成を有する系統にも、染色体の新しい組み合わせを有する系統にもあてはまる。
【0021】
組換えは、さまざまな手段によって、特にドミナントトランスジェニック法、ドミナントネガティブ突然変異または化学物質による処理などによって、防止または抑制することができる。
【0022】
第1の実施形態では、組換えの防止または抑制が、組換えに関与する1つまたはそれ以上の標的遺伝子を妨害することによって達成される。標的遺伝子としては、二本鎖切断、染色体対合、乗換えおよび姉妹染色分体の分離に関与するものを挙げることができる。
【0023】
二本鎖切断の形成に関与する標的遺伝子(GenBankアクセッション番号)は、酵母で同定されたSPO11(J02987.1)、MER1(M31304.1)、MER2(M38340.1)、MRE2(D11461.1)、MEI4(M84765.1)、REC102(M74045.1)、REC104(Z15007.1)、REC114(Z14315.1)、MEK1/MRE4(X63112.1)、RED1(X16183.1)、HOP1(J04877.1)、RAD50(X14814.1)、MRE11(U60829.1)、XRS2(L22856.1)、または他の種に由来するそれらの機能的ホモログである。
【0024】
染色体対合および/または鎖交換反応に関与する標的遺伝子(GenBankアクセッション番号)は、酵母で同定されたRAD54/TID1(M63232.1)、DMC1(M87549.1)、MND1(タンパク質アクセッションNP_011332.1)、SAE2(U49447.1)、SAE3(U82546.1)、RED1(X16183.1)、HOP1(J04877.1)、HOP2(AF078740.1)、REC8(AJ223299.1)、MER1(M31304.1)、MRE2(D11461.1)、ZIP1(L06487.1)、ZIP2(タンパク質アクセッション:NP_011265.1)、MEI5(L03182.1)、RAD51(X64270.1)、RAD52(M10249.1)、RAD55(U01144.1)、RAD57(M65061.1)、RPA(M60262.1)、SMC3(Y14278.1)、SCC1(Y14280.1)、MSH2(M84170.1)、MSH3(M96250.1)、MSH6(AL031545)、PMS1(M29688.1)、MER3(P51979)、DDC1(タンパク質アクセッションNP_015130.1)、MMS4(U14000.1)、シロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)で同定されたSOLODANCERS(AJ457977.1)、KU70(AF283759.1)、KU80(AF283758.1)、線虫(Caenorhabditiselegans)で同定されたHIM6(AY095296.1)、CDS1(Y60A3A.12)、CDS2(T08D2.7)、ラット(Rattusnorvegicus)で同定されたSCP3(X75785.10)、キイロショウジョウバエ(Drosophilamelanogaster)で同定されたMEI218(U35631.2)、または他の種に由来するそれらの機能的ホモログである。
【0025】
組換え複合体が形成された後(二重ホリディ接合部)、これらは乗換え事象か非乗換え事象(遺伝子変換と呼ばれる)のどちらかを起こす。ほとんどの組換え複合体は遺伝子変換をもたらし、わずかな乗換え事象だけが組換えをもたらす。減数分裂のこの最後の時期を妨害して、より多くの遺伝子変換が起こるようにすれば、組換え頻度の低下が起こるが、その妨害は、次に挙げる遺伝子からなる群より選択される標的遺伝子(GenBankアクセッション番号)を介して達成することができる。酵母由来のSGS1(U22341.1)、MSH4(U13999.1)、MSH5(L42517.1)、ZIP1(L06487.1)、ZIP2(タンパク質アクセッション:NP_011265.1)、MLH1(U07187.1)、MEC1(U31109.1)、MLH3(タンパク質アクセッション:NP_015161.1)または他の種に由来するそれらの機能的ホモログ。
【0026】
本発明では、上記の遺伝子が最初に同定された生物に由来する上記の遺伝子を利用するか、または他の生物(例えば植物)の対応する遺伝子であって同じ名称および/または同じ機能を有するもの(本明細書では「他の種に由来するそれらの機能的ホモログ」と呼ぶ)を利用することができる。減数分裂期組換えに関与する上記遺伝子の機能的ホモログは、減数分裂期組換えを抑制すべき植物または他の種における改変の潜在的標的となる。それらがコードしている産物が同じまたは類似する生物学的機能を果たすという事実は、これらの遺伝子が機能的ホモログでない遺伝子よりも有意に高いレベルの一致度を有するということを、必ずしも意味しない。
【0027】
本発明によれば、(候補)標的遺伝子とは、ある生物のゲノム内に存在する遺伝子であって、その発現を定量的および/または定性的に改変することにより、減数分裂期組換えを起こしていない機能的半数体胞子または前記遺伝子が改変されていない場合と比較して減数分裂期組換えを起こしている頻度が少ない機能的半数体胞子の形成を特徴とする減数分裂プロセスの改変が、前記生物内で起こるような遺伝子と定義される。
【0028】
相同であってもよいが必ずしもその必要はないさまざまな遺伝子およびそれらの機能的ホモログが(候補)標的遺伝子になりうる。本発明の標的遺伝子に唯一共通する特徴は、それらを改変すると減数分裂期組換えが抑制されるという事実である。
【0029】
改変する標的遺伝子を選択したら、改変は、さまざまな方法で達成することができる。
【0030】
第1の実施形態では、標的遺伝子の妨害が、その転写を防止することからなる。これは、標的遺伝子プロモーターに対するRNAオリゴヌクレオチド、DNAオリゴヌクレオチドまたはRNAi分子を使って達成することができる。
【0031】
もう一つの選択肢として、標的遺伝子プロモーターに作用する負の転写因子の発現によって転写を妨げる。そのような負の転写因子は天然の因子でも人工的な因子でもよい。人工的な負の転写因子は、一般的な転写抑制因子にカップリングした改変多指(polydactyl)ジンクフィンガー型転写因子の過剰発現によって、使用することができる。
【0032】
さらにもう一つの実施形態によれば、標的遺伝子の妨害は、標的遺伝子mRNAを不安定化すること、特にアンチセンスRNA、RNAi分子、ウイルス誘導性遺伝子サイレンシング(VIGS)分子、共抑制因子分子、RNAオリゴヌクレオチドまたはDNAオリゴヌクレオチドから選択される、標的遺伝子mRNAに相補的な核酸分子を使って不安定化することからなる。
【0033】
もう一つの実施形態として、標的遺伝子の妨害は、標的遺伝子の発現産物を阻害することからなる。これは、1つまたはそれ以上のドミナントネガティブ核酸構築物の発現産物、標的遺伝子産物と相互作用する1つまたはそれ以上の抑制因子の過剰発現、または1つもしくは複数の化学化合物を使って達成することができる。
【0034】
さらに、標的遺伝子の妨害は、標的遺伝子中に1つまたはそれ以上の突然変異を導入してその生物学的機能の混乱を引き起こすことからなることもできる。前記1つまたはそれ以上の突然変異は、1つまたはそれ以上の化学化合物および/または物理的手段および/または遺伝要素の挿入によってランダムに導入することができる。適切な化学化合物はエチルメタンスルホネート、ニトロソメチルウレア、ヒドロキシルアミン、プロフラビン、N−メチル−N−ニトロソグアニジン、N−エチル−N−ニトロソウレア、N−メチル−N−ニトロ−ニトロソグアニジン、硫酸ジエチル、エチレンイミン、アジ化ナトリウム、ホルマリン、ウレタン、フェノールおよび酸化エチレンである。使用することができる物理的手段には、UV照射、高速中性子ばく露、X線およびガンマ線照射が含まれる。遺伝要素はトランスポゾン、T−DNA、またはレトロウイルス要素である。
【0035】
突然変異は、相同組換えまたはオリゴヌクレオチドに基づく突然変異誘発によって、特異的に導入することもできる。
【0036】
本発明のさらにもう一つの実施形態によれば、組換えの防止または抑制は、紡錘体の形成を妨げる化学化合物によって、または異数性を誘導する化学化合物によって達成される。
【0037】
半数体細胞が形成される前または半数体細胞が形成されている間に組換えが防止または抑制されるように出発植物を処理した後、これらの細胞を単離して、完全な植物の再生に使用する。そのような植物は半数体であり、自発的にまたは他の手段、例えばコルヒチンによる処理などによって、二倍体になることができる。
【0038】
半数体細胞は、胞子母細胞などの生殖系列細胞に由来するか、または自然のプロセスもしくは誘導されたプロセスによって半数体になった体細胞に由来することができる。
【0039】
半数体植物が二倍体化すれば、それはすべての染色体についてホモ接合であり、さまざまな目的に使用することができる。
【0040】
種皮または内胚乳の分子解析により、逆育種の対象である雑種の元親の染色体組成を導き出すこと(いわゆる「元親系統レスキュー(originalparentallineresuce)」)が可能である。内胚乳は2倍の母系遺伝子量を含む。定量的アッセイを使って、どの染色体が母親(二倍の遺伝子量)に由来し、どれが父親(一倍の遺伝子量)に由来するかを決定することができる。種皮は母系由来であり、母親に由来する染色体組成を表す。
【発明の効果】
【0041】
F1雑種の作出は、ここに、完全に逆の順序で行うことができるようになった。いわゆる元親系統を選択して、適切な組み合わせを試験する代わりに、好適であると予想される対立遺伝子の組み合わせを有するヘテロ接合植物を選択し、同じ植物のF1雑種種子の生産に使用することができる対応する親系統を、この植物から得ることができる。このプロセスを本明細書では「逆育種(reversebreeding)」と呼ぶ。
【0042】
重要なことに、後述するとおり、出発遺伝子型そのものの効率のよい再現だけでなく、個々の染色体を選択して、それをホモ接合母系、ホモ接合父系またはヘテロ接合型のいずれかに回収することもできるので、逆育種技術により、植物育種プロセスにおける自由度がかなり増大する。
【0043】
逆育種は、減数分裂期組換えの防止を、効率のよい親系統作製方法と併用することによって、効果的に行うことができ、これは、好ましい一実施形態では、倍加半数体植物の作出および/または分子遺伝子タイピング技術に関係する。他の方法は、第二世代復旧(secondgenerationrestitution)と、自家受粉である。後者の場合は、組換えが防止または抑制された植物を自殖させて自殖種子を生産する。次に、分子遺伝子タイピング技術を使って、そのS1でホモ接合植物を同定する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】BoDMC1の部分ヌクレオチド配列(配列番号1)。
【図2】BcDMC1の部分ヌクレオチド配列(配列番号2)。
【図3】LeDMC1の部分ヌクレオチド配列(配列番号3)。
【図4】SmDMC1の部分ヌクレオチド配列(配列番号4)。
【図5】NtDMC1の部分ヌクレオチド配列(配列番号5)。
【図6】BoSPO11の部分ヌクレオチド配列(配列番号6)。
【図7】BcSPO11の部分ヌクレオチド配列(配列番号7)。
【図8】AtMSH5の部分ヌクレオチド配列(配列番号8)。
【図9】翻訳されたAtMSH5配列と、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomycescerevisiae)、ヒト(Homo sapiens)、マウス(Mus musculus)および線虫(Caenorhabditiselegans)由来のMSH5オルソログ(候補配列)との一致レベルを示す、AtMSH5部分ヌクレオチド配列(問い合わせ配列)のBLASTX解析の結果。
【図10】pRZ51の地図。RB=右境界配列、LB=左境界配列、spec=スペクチノマイシン/ストレプトマイシン耐性、35Spr=CaMV35Sプロモーター、Bc−DMC=BcDMC1、OCS−ter=オクトピンシンターゼプロモーター、Pnos=ノパリンシンターゼプロモーター、NPTII=ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII、Tnos=ノパリンシンターゼポリアデニル化シグナル。
【図11】pRZ52の地図。RB=右境界配列、LB=左境界配列、spec=スペクチノマイシン/ストレプトマイシン耐性、35Spr=CaMV35Sプロモーター、Bc−SPO11=BcSPO11、OCS−ter=オクトピンシンターゼプロモーター、Pnos=ノパリンシンターゼプロモーター、NPTII=ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII、Tnos=ノパリンシンターゼポリアデニル化シグナル。
【図12】pRZ54の地図。RB=右境界配列、LB=左境界配列、spec=スペクチノマイシン/ストレプトマイシン耐性、35Spr=CaMV35Sプロモーター、AtMSH5=AtMSH5、OCS−ter=オクトピンシンターゼプロモーター、Pnos=ノパリンシンターゼプロモーター、NPTII=ネオマイシンホスホトランスフェラーゼII、Tnos=ノパリンシンターゼポリアデニル化シグナル。
【図13】BoMSH5の部分ヌクレオチド配列(配列番号17)
【図14】LeMSH5の部分ヌクレオチド配列(配列番号18)
【図15】SmMSH5の部分ヌクレオチド配列(配列番号19)
【図16】NtMSH5の部分ヌクレオチド配列(配列番号20)
【発明を実施するための形態】
【0045】
<発明の詳細な説明>
したがって本発明は、半数体細胞を作出するためのプロセスにおける組換えの防止または抑制、ならびにこれらの細胞からのホモ接合系統の作出に関する。
【0046】
半数体細胞は減数分裂の結果であることができる。また半数体細胞は体細胞からも得られる。後者の場合は化学化合物を使って細胞を半数体化することができる。もう一つの選択肢として、還元的分割(reductionalgrouping)を誘導する。還元的分割では、染色体が紡錘糸の助けを借りず、DNA複製も伴わずに、娘細胞に分配される。細胞分裂後に、半数体細胞が形成される。還元的分割は(根)分裂組織またはプロトプラストをカフェインなどの化学物質で処理することによって、またはその化学物質の遺伝子標的を遺伝子構築物で中和することによって誘導することができる。中和構築物の構成的発現は致死性であるだろうから、この構築物の発現は誘導性でなければならない。
【0047】
しかし本発明によれば、半数体細胞は、好ましくは減数分裂プロセスによって得られる。減数分裂のプロセスは、生きている生物の生活環において、遺伝的変異が生成する中心的事象を形成する。またこれは、植物の生活環で交互に出現する二倍性胞子体世代と半数性配偶体世代の間の移行を特徴づけるプロセスでもある。減数分裂を起こす雌性生殖器官中の特殊な細胞は、大胞子母細胞と呼ばれ、子房内部の分化した胚珠に埋まっている。胚珠形成では、多くの有糸分裂事象が、下皮細胞から発生する数個の胚原細胞のうち胚珠一つにつき一つの大胞子母細胞の分化をもたらす。
【0048】
雄性生殖組織(葯)では、類似のプロセスによって小胞子母細胞の形成が起こる。ただし胚原細胞は小胞子母細胞に分化する前に数回の有糸分裂を起こす。結果として、それぞれの葯は多数の小細胞母細胞を含むことになる。
【0049】
これらの分化プロセスの初期機能に障害を有するトウモロコシおよびアラビドプシス(Arabidopsis)の突然変異体がいくつか同定されている。トウモロコシのmac1(multiplearchesporialcells)突然変異体は、下皮細胞を有糸分裂経路から減数分裂経路に引き出すのに役割を果たす遺伝子に障害を持っている(Sheridan,W.F.ら(1999)Genetics153,933−941)。アラビドプシス(Arabidopsis)のspl(sporocyteless)突然変異体は、胚原細胞からの大胞子母細胞および小胞子母細胞の分化に障害を持っている(Yang,W−Cら(1999)GenesDev.13,2108−2117)。
【0050】
減数母細胞と総称される大胞子母細胞と小胞子母細胞は減数分裂を起こし、その結果、減数母細胞1つにつき4つの半数体胞子を生成する。4つの雌性胞子または大胞子のうち3つはカロースの沈着によって変性する。生き残った大胞子は、3回の核分裂とそれに続く細胞形成を経て、雌性配偶体または胚嚢に分化する。
【0051】
4つの雄性胞子または小胞子は通常は一緒にとどまって、いわゆる四分子構造を形成する。小胞子から雄性配偶体が分化すると、この四分子構造は解消され、雄性配偶体または花粉は自由な物体として挙動するようになる。
【0052】
雌性減数母細胞と雄性減数母細胞の形成ならびに大胞子および小胞子のそれぞれ胚嚢および花粉への分化につながる細胞プロセスには有意な相違があるものの、雌性および雄性減数分裂中に起こる細胞学的事象は極めて類似しており、共通する遺伝子産物の関与が示唆される。
【0053】
しかし、これは必ずしも、雌性および雄性減数分裂中の各事象が同一の遺伝子座によって制御されることを意味しない。例えばアラビドプシス(Arabidopsis)の場合、雄性減数分裂にはASK1遺伝子が特異的に関与する(Yang,M.ら(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.USA96,11416−11421)。一方、SWI1(Motamayor,J.C.(2000)Sex.PlantReprod.12,209−218)、DYAD(Siddiqi,I.ら(2000)Development127,197−207)およびANTIKEVORKIAN(Yang,W−C.およびSundaresan(2000)Curr.Opin.PlantBiol.3,53−57)は雌性減数分裂に特異的である。
【0054】
減数分裂中は、多くの細胞学的な時期が識別され、植物では各時期について多くの突然変異体が記載されている。
【0055】
減数分裂前期と呼ばれる初期には、多くの段階が認められる。レプトテン期と呼ばれる最初の段階では、複製された2つの姉妹染色分体からなる個々の染色体が凝縮を開始し、より短く密になる。同時に、核膜が崩壊し始め、相同染色体が会合を開始する。次の段階はザイゴテン期と呼ばれ、ここでは染色体が完全に凝縮し、相同染色体が整列し、いわゆる対合複合体(SC)の形成が始まる。アラビドプシス(Arabidopsis)のdif1/syn1突然変異体はSCの形成が損なわれている(Bhatt,A.M.ら(1999)PlantJ.19,463−472;Bai,X.ら(1999)PlantCell11,417−430)。DIF1/SYN1遺伝子産物は、対合と組換えにおいて機能する酵母コヒーシンREC8/RAD21に相同である。パキテン期には、SCの形成がすべての染色体で完了する。この段階で、減数分裂期組換えが起こり、それは二本鎖切断の形成に続いて相同染色体間で染色分体交換が起こることによって開始される。非姉妹染色分体間で樹立され対合複合体の不在下でも存在する物理的連結をキアズマという。ディプロテン期およびディアキネシス期には染色体が完全に凝縮し、核膜は消失し、紡錘糸が形成されている。次に、中期Iでは、相同染色体の対が細胞の赤道面に並ぶ。次に、後期Iでは、多くの組換え事象を起こしている可能性があってセントロメアによって束ねられている、それぞれ2つの姉妹染色分体からなる相同染色体が、相対する細胞極に向かって移動する。終期Iでは、極への移動が完了し、紡錘体が消失し、細胞は分裂を開始する。
【0056】
次に、これらの細胞は、凝縮した染色体が赤道面に整列することを特徴とする前期IIに入る。紡錘複合体が形成されつつある。中期IIでは、染色体が赤道面に完全に整列し、紡錘複合体が完成する。後期IIと呼ばれる次の時期では、セントロメアが分裂し、姉妹染色分体が相対した極に向かって移動する。終期IIでは、この移動プロセスが完了し、紡錘複合体が消失し始め、細胞分裂が始まる。続いて染色体は、コイルを解いた染色体が核膜内部に存在することを特徴とする間期の様相を取り戻す。
【0057】
減数分裂IIの最終産物は、4つ一組の遺伝的に異なる半数体細胞であり、これらは有糸分裂を経て配偶体に発育することができる。配偶体は配偶子を生産し、その配偶子は融合すると接合子の形成をもたらし、その接合子は、次世代の胞子体に成長することができる胚に発育する。
【0058】
胞子体に存在する遺伝的変異は、接合子の形成時に融合された雌性配偶子および雄性配偶子の遺伝子型によって決定される。したがって、この遺伝的変異は、組換え事象による元親の染色体および染色体領域の遺伝子再分配をもたらす減数分裂の際に雌性胞子および雄性胞子が形成される時に生成する。
【0059】
減数分裂および減数分裂期組換えは、さまざまな生物において、さまざまなレベルで、さまざまな程度に研究されてきた、複雑なプロセスである。減数分裂期組換えが起こる分子機序はまだ完全には明らかになっていない。1つのモデルは二本鎖切断(DSB)修復モデルである。このモデルによると、減数分裂期組換えは、2つの相互作用している非姉妹染色分体の1つに二本鎖切断(DSB)が形成されることによって始まる。DSBの形成はタンパク質によって開始される。このタンパク質は酵母で同定されており、そこではSPO11タンパク質と呼ばれている。酵母のSPO11タンパク質のホモログは、REC12という名称でシゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomycespombe)に、またアラビドプシス(Arabidopsis)、ショウジョウバエ(Drosophila)、カエノラブディティス(Caenorhabditis)、マウスおよびヒトにも見いだされている。アラビドプシス(Arabidopsis)は、パラローガスなSPO11遺伝子を3つ含むことがわかっている、現時点で唯一の真核生物である。SPO11タンパク質内に存在するホモロジーは、5つの保存されたモチーフに限定されている。
【0060】
DSB形成に続いて、酵母のMRE11、RAD50およびXRS2/NBS1が関与するタンパク質複合体によって誘起されるエキソヌクレアーゼ活性が、切断部位の5’末端を3’方向に切除して、2つの3’−OH一本鎖テールをもたらす。これらのテールのうち一方は、対形成した染色分体の二本鎖DNAに、相補鎖との塩基対形成を介して侵入する。鎖侵入にはRecA様タンパク質が関与し、そのうちDMC1は減数分裂期組換えに特異的である。DNA修復機構により、2つのホリディ接合部を含む二分子中間体が形成され、酵母ではこれにタンパク質MSH4、MSH5およびMLH1が関与する。リゾルベースを含むホリディ接合部解消系は、遺伝子変換または乗換えをもたらしうる。
【0061】
減数分裂期組換えに特異的な、または有糸分裂期DSBにもミスマッチ修復にも関与しうる、このプロセスに関与するタンパク質は、数多く同定されている。これらのタンパク質の多くは、そのホモログがシロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)などの植物系で同定されつつあり、対応する遺伝子がクローニングされている。SPO11タンパク質の植物ホモログはシロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)で同定され、AtSPO11およびAtDMC1と呼ばれている(Couteau,F.ら(1999)PlantCell 11,1623−1634)。これらは二価染色体安定化と染色体分離に関与する。
【0062】
本発明によれば、出発生物における組換えは、防止または抑制されるべきである。この防止または抑制は、組換え事象のさまざまなレベルで達成することができる。二本鎖切断が起こらない場合、乗換えが損なわれている場合、および染色体が対形成できない場合には、組換えは起こりえない。これらすべての事象にさまざまな遺伝子が関与する。これらの遺伝子の1つまたはそれ以上の機能を損なうことにより、組換えの防止(オン/オフ)または抑制(レベル低下)が起こる。本願ではそのような遺伝子を「(候補)標的遺伝子」と呼ぶ。
【0063】
これらの遺伝子の機能の妨害は、共抑制、アンチセンスダウンレギュレーションまたはRNA干渉などのホモロジー依存的遺伝子サイレンシング機構に基づく数多くの方法、または標的タンパク質の機能を妨害するタンパク質の発現に基づく数多くの方法によって達成することができる。後者の方法は例えばドミナントネガティブ法によるダウンレギュレーションである。
【0064】
ホモロジー依存的な遺伝子サイレンシング法を利用する場合、サイレンシング効果を達成するために使用する遺伝子構築物は、標的遺伝子の一領域に対して、ヌクレオチドレベルで、ある一致率を有するDNA断片を含むべきであり、その一致率とは、減数分裂期組換えを起こしていない完全な染色体セットまたは標的遺伝子がダウンレギュレートされていない場合と比較して減数分裂期組換えを起こしている頻度が少ない完全な染色体セットを含む生存可能な半数体胞子の形成が起こる程度まで、当該標的遺伝子をダウンレギュレートするのに十分であるような一致率であるべきである。この結果は、遺伝子のランダムな断片を選択することによって、またはコードされているタンパク質の保存されたドメインをコードする遺伝子のセグメントをサイレンシング断片として選択することによって、達成することができる。
【0065】
サイレンシングDNA断片と、与えられた作物種のゲノム中に存在する当該遺伝子の機能的ホモログの特定領域との間の一致率が、十分なレベルのダウンレギュレーションが達成されるほど十分でない場合は、当該遺伝子の機能的ホモログそのものの断片を使って、この機能的ホモログが由来する作物種内で、この機能的ホモログのダウンレギュレーションを達成することができる。
【0066】
他の作物種に存在する機能的ホモログは、十分なホモロジーがあれば、上記のサイレンシングDNA断片を使ってダウンレギュレートすることができる。
【0067】
本発明の好ましい一実施形態では、標的遺伝子の改変が、作物種の遺伝子操作によって達成される。標的遺伝子の改変の性質は、標的遺伝子の発現量が低下することを意味するダウンレギュレーションであってもよいし、標的遺伝子の発現量が増加すること、また要すれば、自然の発現とは異なる時点に起こることを意味する異所性(過剰)発現であってもよい。異所性(過剰)発現の場合、組換えに関与する標的遺伝子は抑制因子機能を有する。
【0068】
標的遺伝子のダウンレギュレーションには、標的遺伝子とのホモロジーに基づくさまざまな方法を使用することができる。
【0069】
ある実施形態では、標的遺伝子のダウンレギュレーションが、アンチセンス技術と呼ばれる方法によって達成される。この方法では、遺伝子を、転写プロモーターに対して逆方向に発現させる。これは、通常はRNAとして発現される遺伝子のセグメントが転写プロモーターに対して逆向きになっている遺伝子構築物を植物のゲノムに導入することによって達成することができる。通常、そのような構築物は、アンチセンス構築物と呼ばれる。アンチセンス構築物が植物内で発現すると、その植物は、テンプレートとしてその遺伝子構築物のコーディング鎖を使用して合成される(それゆえにコーディング鎖に相補的な)RNA分子を生産するようになる。アンチセンス構築物の発現は、同じ植物内に存在する遺伝子であって、発現するとアンチセンスRNAに相補的なRNAの合成をもたらす1つまたはそれ以上の遺伝子が効果的にサイレンシングされるという結果をもたらす。
【0070】
もう一つの実施形態では、標的遺伝子のダウンレギュレーションが、共抑制技術と呼ばれる方法によって達成される。この方法では、遺伝子を転写プロモーターに対してセンス方向に発現させる。これは、通常はRNAとして発現される遺伝子のセグメントが転写プロモーターに対して天然遺伝子と同じ向きになっている遺伝子構築物を植物のゲノムに導入することによって達成することができる。通常、そのような構築物は、共抑制構築物またはセンス共抑制構築物と呼ばれる。
【0071】
共抑制構築物が植物内で発現すると、その植物は、テンプレートとしてその遺伝子構築物の非コーディング鎖を使用して合成される(それゆえに非コーディング鎖に相補的な)RNA分子を生産するようになる。通常、このタイプのRNAを共抑制RNAという。共抑制構築物の発現は、同じ植物内に存在する遺伝子であって、発現すると相同RNAの合成をもたらす1つまたはそれ以上の遺伝子が効果的にサイレンシングされるという結果をもたらす。
【0072】
さらにもう一つの実施形態では、標的遺伝子のダウンレギュレーションが、RNA干渉(RNAi)と呼ばれる方法によって達成される。RNAiは、二本鎖RNA(dsRNA)分子がそのdsRNAに対してホモロジーを有する遺伝子の遺伝子サイレンシングを極めて効果的に媒介するという現象を指す一般用語である。dsRNAが誘発する内在性遺伝子のサイレンシングは、転写後遺伝子サイレンシング(RNA転写物が合成され迅速かつ特異的に分解されるという現象)の結果である。RNAiは最初は線虫(Caenorhabditiselegans)で作動することが実証された(Fire,A.ら(1998)Nature391,806−811)。RNAiは植物を含む他の生物で有効であることも実証されている(Chuang,C−F.およびMeyerowitz,E.M.(2000)Proc.Natl.Acad.Sci.USA97,4985−4990)。自己相補的であり、それゆえに二重鎖またはヘアピンRNAを形成することができるRNAを発現するように設計された導入遺伝子は、ウイルス抵抗性および遺伝子サイレンシングの誘発に極めて有効であることが明らかにされている(Smith,N.A.ら(2000)Nature407,319−320)。
【0073】
本発明のさらにもう一つの実施形態として、標的遺伝子の抑制は、プロモーターを介した標的遺伝子の特異的転写サイレンシングによって達成することもできる。これは、標的遺伝子のプロモーター領域の一部と同一なヌクレオチド配列を有する二本鎖RNA分子の合成をもたらすRNAi構築物の発現によって達成することができる。遺伝子のプロモーター領域は、その遺伝子の転写が開始される位置の(転写方向に対して)上流に位置する。
【0074】
本発明のさらにもう一つの実施形態として、標的遺伝子の抑制は、ウイルス誘導性遺伝子サイレンシングまたはVIGSと一般に呼ばれている方法論によって達成することもできる(Ratcliffら(2001)PlantJ.25,237−245)。このような方法では、効果的かつ特異的な遺伝子サイレンシングが、サイレンシングする必要がある遺伝子に相同なインサートを有する植物ウイルスに植物を感染させることによって達成される。VIGS系の利点は、標的遺伝子のサイレンシングを行う植物種に合わせて植物形質転換プロトコールを開発する必要がないことである。
【0075】
これらすべての実施形態で、サイレンシング構築物(アンチセンスRNA、共抑制、RNAiもしくはヘアピン構築物、またはVIGSベクター)は、好ましくは、サイレンシングする必要がある標的配列(遺伝子またはプロモーター)と同一なDNA断片を含む。しかし一致率は50〜100%、好ましくは60〜100%、より好ましくは70〜100%、さらに好ましくは80〜100%、もっとも好ましくは90〜100%の範囲であってもよい。
【0076】
サイレンシング構築物中のDNA断片の長さは、少なくとも20ヌクレオチドであるべきだが、それより長くてもよく、サイレンシングする必要がある完全長標的配列までの長さをとりうる。
【0077】
サイレンシング分子の合成に使用される転写プロモーターは、構成的プロモーターであっても、発生的に調節されるプロモーターであってもよい。プロモーターは化学化合物などによって誘導できるものであってもよい。
【0078】
サイレンシング構築物の発現とサイレンシングする必要がある標的遺伝子の発現は同時に起こることが好ましい。しかし、必ずしもそうではなく、遺伝子のプロモーターを介したサイレンシングの場合には、これは当てはまらない。なぜならこの方法は、転写物が形成されないように転写を回避するものだからである。その他、転写産物が生産された後に、その転写産物を中和する技術もある。
【0079】
本発明のさらにもう一つの実施形態として、標的遺伝子の抑制は、RNAオリゴヌクレオチドの導入による標的遺伝子の特異的サイレンシングによって達成することもできる(Tijstermanら(2002)Science295,694−697)。これは、標的遺伝子のプロモーター領域または転写領域の一部と同一なヌクレオチド配列を有するRNAオリゴヌクレオチドを化学合成し、そのサイレンシングオリゴヌクレオチドを細胞中に導入することによって達成することができる。本発明のこの具体的実施形態の利点は、ある標的作物で逆育種を達成するのにトランスジェニック法を採用する必要がないということである。
【0080】
ホモロジー依存的な遺伝子サイレンシング機序を利用する他の実施形態と同様に、標的遺伝子をサイレンシングするために用いられるRNAオリゴヌクレオチドは、好ましくは、サイレンシングする必要がある標的遺伝子のプロモーターまたは転写領域の一部と同一なヌクレオチド配列を有する。しかし一致率は50〜100%、好ましくは70〜100%、さらに好ましくは80〜100%、もっとも好ましくは90〜100%の範囲であってもよい。一本鎖RNAオリゴヌクレオチドは、標的遺伝子のプロモーターまたは転写領域のDNAのセンス鎖またはアンチセンス鎖と同一であることができる。もう一つの選択肢として、一本鎖RNAオリゴヌクレオチドを使用する代わりに、あたかもRNAオリゴヌクレオチドであるかのように設計されたヌクレオチド配列を有する一本鎖DNAオリゴヌクレオチドを使用することもできる。さらに、二本鎖RNAおよびDNAオリゴヌクレオチドも使用することができる。
【0081】
オリゴヌクレオチドは、当業者に周知の方法によって植物または植物細胞中に導入することができる。それらには、例えばポリエチレンを使ったプロトプラストへの取り込みまたは粒子銃による植物または植物部分への取り込みなどがあるが、これに限るわけではない。
【0082】
標的遺伝子の抑制がRNA干渉、VIGS、オリゴヌクレオチドなどのホモロジーに基づく方法によって行われる場合は、標的配列に相同な配列であって、組換え抑制または組換え防止の対象となる種のゲノム中に存在する配列の検索を行うことが好ましい。「相同な」という用語は、ここでは、「ホモロジーに基づく標的遺伝子の抑制を達成するために使用される核酸断片に対して、標的遺伝子以外の配列の抑制をもたらす一致レベルを有すること」を意味するものとする。そのような配列が見つかる場合は、ゲノムの他の部分との干渉を回避するために、サイレンシング配列の設計には、標的遺伝子の別の断片を使用することが望ましいだろう。
【0083】
もう一つの実施形態として、標的遺伝子の活性の抑制は、当業者に周知の方法であるドミナントネガティブ構築物の過剰発現によって達成することもできる。そのような方法では、あるタンパク質または改変タンパク質をコードする遺伝子を、本発明に従って標的遺伝子を抑制する必要がある作物種で過剰発現させる。そのようなタンパク質をコードする遺伝子は通常、ドミナントネガティブ遺伝子と呼ばれる。というのも、(過剰)発現の効果は、優性遺伝因子として受け継がれ、特異的な機能喪失を引き起こしているからである。ドミナントネガティブ構築物を合成するために用いられる転写プロモーターは、構成的プロモーターであってもよいし、発生的に調節されるプロモーターであってもよい。ドミナントネガティブ構築物のプロモーターは化学化合物などによって誘導できるものであってもよい。
【0084】
ドミナントネガティブ構築物と抑制する必要がある標的遺伝子の発現は、標的遺伝子の効果的な抑制が起こるように、空間的および時間的に調節されるべきである。ドミナントネガティブ構築物と標的遺伝子のプロモーターは、それらが当該植物の本質的に同じ部分で本質的に同時に発現するように調節されることが好ましいが、必ずしもそうではない。
【0085】
本発明のさらにもう一つの実施形態によれば、標的遺伝子の抑制は、標的遺伝子の天然抑制因子の過剰発現によって達成される。そのような抑制因子として、標的遺伝子のプロモーターに作用する負の転写因子、または標的遺伝子の遺伝子産物とその遺伝子産物がそれ本来の機能を果たしえなくなるような形で相互作用するタンパク質を挙げることができる。抑制因子構築物と抑制する必要がある標的遺伝子の発現は、標的遺伝子の効果的な抑制が起こるように、空間的および時間的に調節されるべきである。抑制因子構築物と標的遺伝子のプロモーターは、空間的および時間的活性に関してよく似た方法で調節されること、すなわち当該植物の本質的に同じ部位で同時に発現されることが好ましいが、必ずしもそうではない。抑制因子構築物のプロモーターは、化学化合物などによって誘導できるものであってもよい。
【0086】
本発明の具体的一実施形態では、雌性または雄性減数分裂期組換えの抑制を特異的にもたらすような、標的遺伝子を改変するサイレンシング構築物を使用する。これは、雌性減数分裂期組換えまたは雄性減数分裂期組換えのどちらかで特異的に活性を示す遺伝子産物の活性を妨害することによって達成することができる。もう一つの選択肢として、これは、雌性または雄性減数分裂中に特異的に活性を示すサイレンシング構築物を使って達成することもできる。後者の種類の構築物は、雌性もしくは雄性減数分裂期組換えに特異的に関与する標的遺伝子を妨害するか、または雌性減数分裂期組換えと雄性減数分裂期組換えの両方に関与する標的遺伝子を妨害することができる。
【0087】
本発明のこの具体的実施形態は、減数分裂期組換えの抑制が胞子の品質の低下、例えば機能的な半数体胞子の数の減少などをもたらす場合に、実用的である。雌性減数分裂期組換えは抑制されるが雄性減数期組換えは抑制されない植物を効率のよい花粉源として使用することによって新しい雑種を作出することができ、逆に、雄性減数分裂期組換えが抑制される植物は効率のよい雌系統として、新しい雑種の作出に使用することができる。
【0088】
トランスジェニック法を使って組換えを防止または抑制する場合は、いわゆるキメラ遺伝子構築物を、例えばSambrook,JおよびRussell,D.W.「Molecularcloning,alaboratory manual」(第3版,Cold SpringHarbor LaboratoryPress,ニューヨーク州コールドスプリングハーバー)などに記載されている当業者に周知の標準的分子クローニング技術を使って作製することができる。そのような構築物は、さまざまな供給源に由来するさまざまなDNA断片からなっているという意味で「キメラ」である。
【0089】
活性、特に標的遺伝子の転写または翻訳、さらには転写物プロセシング、タンパク質修飾、タンパク質ターゲティング、複合体形成および活性を改変するために作製されるキメラ構築物は、通常、減数分裂期組換えの抑制を達成するために使用されているDNA断片に作動可能に連結されたプロモーター配列およびポリアデニル化シグナル配列を、機能的なキメラ遺伝子構築物が生成するような形で含んでいる。
【0090】
キメラ遺伝子構築物を植物のゲノムに導入するには、例えばSambrook,JおよびRussell,D.W.「Molecularcloning,a laboratorymanual」(第3版,ColdSpring HarborLaboratoryPress,ニューヨーク州コールドスプリングハーバー)などに記載されている当業者に周知の標準的分子クローニング技術を使って、形質転換ベクターを作製する。
【0091】
本発明に従って使用することができるプロモーター配列には、CaMV 35Sプロモーター(例えば構成的プロモーター(Odell,J.T.ら(1985)Nature 313,810−812)、アラビドプシス(Arabidopsis)アクチン2プロモーター(An,Y.Q.(1996)PlantJ.10,107−121)、トウモロコシ・ユビキチン1プロモーター(Drakakaki,G.ら(2000)TransgenicRes.9,445−452)、イネ・アクチン1プロモーター(McElroy,D.ら(1990)PlantCell2,163−171)およびアラビドプシス(Arabidopsis)ファルネシル二リン酸シンターゼ1Sプロモーター(Cunillera,N.ら(2000)PlantMolec.Biol.44,474−485)などの構成的プロモーター、またはアラビドプシス(Arabidopsis)アクチン11プロモーター(Huang,S.ら(1997)PlantMolec.Biol.33,125−139)、アラビドプシス(Arabidopsis)DMC1プロモーター(Klimyuk,V.I.およびJones,J.D.(1997)PlantJ.11,1−14)またはアラビドプシス(Arabidopsis)SPO11−1プロモーター(Grelon,M.(2001)EMBOJ.3,589−600)などの発生的に調節されるプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。
【0092】
その他、発生的に調節されるプロモーターは、標的遺伝子自体に由来してもよい。
【0093】
使用することができる誘導性プロモーター系は、エタノール誘導性遺伝子スイッチ系(Caddick,M.X.ら(1998)Nat.Biotechnol.16,177−180)およびグルココルチコイド誘導系(Schena,M.ら(1991)Porc.Natl.Acad.Sci.USA.88,10421−10425)である。
【0094】
本発明の構築物に使用してもよいポリアデニル化配列には、例えばアグロバクテリウム(Agrobacterium)オクトピンシンターゼポリアデニル化シグナル(MacDonaldら(1991)NucleicAcids.Res.19,5575−5581)、エンドウ・リブロース二リン酸カルボキシラーゼポリアデニル化シグナル(Hunt,A.G.およびMacDonaldM.H.(1989)Plant Molec.Biol.13,125−138)などがあるが、これらに限るわけではない。
【0095】
本発明のさらにもう一つの態様によれば、組換えの防止または抑制は、当該生物のゲノム中に変異をランダムに誘発し、所望する組換えの抑制または防止をもたらす変異を標的遺伝子内に獲得した突然変異体を選択することによって達成することもできる。
【0096】
本発明のこの態様の好ましい実施形態では、標的遺伝子の改変が、当該作物種の突然変異誘発によって達成される。植物ゲノムには、例えばエチルメタンスルホネートまたはニトロソメチルウレアによる処理のような化学的手段、モルフォジェニックス(Morphogenics)技術(BioWorldToday(2000),11(108),1−2)、またはUV照射、高速中性子ばく露などの物理的手段、またはトランスポゾンもしくはT−DNAを使った挿入突然変異誘発によって、ランダムな突然変異を導入することができる。特異的突然変異は、相同組換え(Paszkowski,J.ら(1988)EMBOJ.7,4021−4026;Mengiste,T.およびPaszkowski,J.(1999)Biol.Chem.380,749−758;Vergunst,A.C.およびHooykaas,P.J.J.(1999)Crit.Rev.PlantSci.18,1−31)またはオリゴヌクレオチドに基づく突然変異誘発(Oh,T.J.およびMay,G.D.(2001)Curr.Opin.Biotechnol.12,169−172)によって植物ゲノム中に挿入することができる。
【0097】
標的遺伝子が突然変異した植物は、標的遺伝子内に存在する異常を検出することができるTILLING(Colbert,T.(2001)PlantPhysiol.126,480−484)やDELETAGENE(Li,X.ら(2001)12thInternationalconference on Arabidopsis research(Abstractnr.2))などのスクリーニング方法によって、容易に同定することができる。
【0098】
好ましくは、標的遺伝子の改変が条件付、すなわち、その突然変異体表現型が、当該植物を特定の環境条件(例えば特定の温度)にばく露した場合にのみ顕性になる突然変異体を選択する。これにより、植物を特定環境にばく露することによってのみ改変を誘導することが可能になる。改変が顕性にならない条件では、突然変異体を通常の交配と種子生産に使用することができる。
【0099】
本発明のさらにもう一つの好ましい実施形態では、標的遺伝子の産物を妨害することで減数分裂期組換えの阻害または減少をもたらす特異的化学化合物で当該作物種を処理することによって、標的遺伝子の改変が達成される。そのような化学化合物の一例は、トポイソメラーゼIIの阻害によって減数分裂期組換えの阻害をもたらすエトポシドである(Russell,L.B.ら(2000)Mutat.Res.464,201−212)。
【0100】
本発明のさらにもう一つの好ましい実施形態として、減数分裂前の細胞を一定の化学化合物で処理することにより、異数性を化学的に誘導することができる。これは、これらの前減数分裂細胞を含む蕾を、浸漬または噴霧で、化学処理することによって行うことができる。特許出願WO0054574に示されているように、このような方法を適用して、減数分裂期組換えの改変を効果的に行うことができる。化学化合物が異数性を誘導する機序は必ずしも明らかではないが、有糸分裂および減数分裂中の紡錘体機構、隔膜形成体機能およびキアズマ形成の妨害によって異数性が起こりうることを示す実験的証拠がある。異数性を誘導するために適用することができる化学物質は、例えばエトポシド、ポドフィリン、ベノミル、マレイン酸ヒドラジド、アトラジン、ブタクロル、APM、グリセオフルビン、ビンブラスチン硫酸、ジアゼパム、コルヒチン、塩化カドミウム、エコナゾール、ピリメタミン、チアベンダゾール、チメロザールまたはノコダゾールなどの化学物質から選択されるが、これらに限るわけではない。異数性誘導化学化合物とそれらの作用様式ならびにそれらの有効濃度に関するさらなる詳細は、C.B.S.R.Sharma(1990)Mutagenesis5,105−125とその参考文献ならびにSandhuら(1991)Mutagenesis6,369−373に記載されている。
【0101】
異数性を誘導する化学化合物で蕾を処理した後、処理した蕾から胞子を単離し、それを再生させることができる。ホモ接合植物は、染色体数の倍加によって、例えば自発的倍加がまだ起こっていない場合にはコルヒチンによる処理などによって得ることができる。この方法によって得られる倍加半数体植物の集団を、特定染色体上に存在することがわかっているマーカー対立遺伝子の分子検出により、完全な一揃いの染色体の存在について解析することができる。
【0102】
雌性発生は、化学物質処理によって達成される逆育種を応用するのにとりわけ適している。そのような方法では、雌性発生を応用するために使用される組織培養培地によって、特定化学物質を適用することができる。殺菌した子房を、減数分裂期組換えを防止する化学化合物で直接的に処理することもできるだろう。この形態の雌性発生が逆育種に適している理由は、雌性発生組織培養用の外植体として採取された子房組織の胚珠では、そのすべてではないにしても一部において、減数分裂がまだ起こっているということである。
【0103】
減数分裂期組換えが起こる段階の前にインビトロ操作することが可能な他の培養技術も、本発明での使用に適している。
【0104】
上記の場合、半数体は減数分裂の結果だった。しかし、体細胞から出発して半数体細胞を作出することもできる。
【0105】
したがって、本発明のさらにもう一つの好ましい実施形態として、組換えを起こしていない元親の染色体を含む植物の作出は、紡錘糸の助けを借りずに細胞内で染色体分離を引き起こすカフェインなどの化学化合物で植物、植物器官または植物細胞を処理することによって達成することができる。ほとんどの場合、染色体は2つの群に均等に分離し、それらは細胞質分裂後に、半数体細胞をもたらす。自発的な倍加がまだ起こっていない場合は、例えばコルヒチンなどによってこれらの細胞中の染色体を倍加させ、植物に再生させることができる。
【0106】
染色体は組換えを起こさずに分離するので、それらの構成は、元親における構成とまだ同じである。さらに、半数体細胞が形成されるので、染色体数の倍加により、完全にホモ接合の植物が得られる。しかし、染色体の分布はランダムであるため、得られるホモ接合植物は、母系および父系染色体対の考えうる組み合わせのすべてを含みうる。
【0107】
この方法は、組換えを起こしていない半数の染色体を含む祖先細胞を作出するために体細胞を使用する逆育種の具体的一実施形態である。したがってこの方法は、減数分裂期組換えを抑制する必要がない逆育種の一形態である。これは、逆育種が、外観上異なる方法によって達成することができる新規な育種概念であることを表している。
【0108】
標的作物種で発現させた場合に、遺伝子の発現を、減数分裂期組換えを起こしていない完全な染色体セットまたはこれらの遺伝子が改変されていない場合と比較して減数分裂期組換えを起こしている頻度が少ない完全な染色体セットを含む生存可能な半数体胞子の形成をもたらすことができるような形で、定量的および/または定性的に改変するサイレンシング構築物を本発明に従って作製し終えたら、本発明に従って処理しようとする作物種を、そのような構築物で形質転換する必要がある。
【0109】
現在、植物のゲノムにDNA分子を送達し、安定に組込み、発現させることを可能にする多種多様な技術が存在する。特定遺伝子構築物で形質転換した植物細胞をトランスジェニック植物に再生させるには、これらの植物形質転換技術を適切な組織培養技術と組み合わせる必要がある。
【0110】
ある周知の植物形質転換技術は、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacteriumtumefaciens)と呼ばれる細菌種が自然に持っている、植物細胞のゲノムにDNAのセグメントを送達し安定に組み込むという能力に基づいている(Zambryski,P.ら(1989)Cell56,193−201)。T−DNAと呼ばれるこのDNA片は、通常、細菌細胞内に存在するプラスミド上にある。天然のT−DNAはDNAの送達と組込みにとって重要な機能を含まず、原則として任意のDNAであることができる。T−DNAを含むプラスミドはバイナリーベクター(Bevan,M.(1984)NucleicAcidsRes.12,8711−8721)または融合構造体(cointegrate)ベクター(Fraley,R.T.ら(1983)Proc.Natl.Acad.Sci.USA80,4803−4807)であることができる。
【0111】
植物形質転換ベクターを含むアグロバクテリウム(Agrobacterium)細胞は、外植体中に存在する細胞にT−DNAを送達するために、葉または実生から得た外植体と共培養することができる(Horsch,R.ら(1985)Science227,1229−1231)。
【0112】
組織培養培地で外植体をインキュベートすると、器官形成または胚形成により、外植体中に存在する細胞の再生が起こる。多くの系では、この再生ステップに先立って、さまざまな長さのカルス期がある。通常、T−DNAは、形質転換植物細胞中で発現したときに抗生物質カナマイシンもしくはハイグロマイシンまたは除草剤グリホサートまたはグルホシネート−アンモニウムなどの植物毒性化合物に対する耐性を付与することができる選択マーカー遺伝子を含む。外植体の細胞の再生に際してこれらの植物毒性化合物を組織培養培地に添加すると、非形質転換細胞または選択マーカー遺伝子を十分に発現させない形質転換細胞の成長が妨げられる。
【0113】
この原理に従って、次に挙げるようなさまざまな作物種用に、多くの形質転換プロトコールが開発されている。ジャガイモ(DeBlock,M.(1988)Theoretical and Applied Genetics76,767−774)、レタス(Michelmore,R.(1987)Plant Cell Reports6,439−442)、トマト(McCormick,S.(1986)PlantCell Reports5,81−84)、コショウ、キュウリ(Trulson,A(1986)Theoreticaland AppliedGenetics73,11−15)、ニンジン(Scott,R.J.およびDraper,J.(1987)PlantMolecular Biology8,265−274)、カリフラワー(DeBlock,M.(1988)PlantPhysiol.91,694−701)、ブロッコリ(Christy,M.C.およびEarle,M.D.(1989)AustralianSocietyof PlantPhysiologists,29th Annual Meeting,Abstract40)、ナス(Guri,A.およびSink,K.C.(1988)J.ofPlantPhysiol.133,52−55)、サトウダイコン(Gasser,C.S.およびFraley,R.T.(1989)Science244,1293−1299)、アスパラガス(Conner,A.J.ら(1988)NinthAustralian PlantBreedingConference,Proceedings.AgriculturalResearch Institute,WaggaWagga,p.131−132)、ヒマワリ(Bidney,D.(1992)PlantMol.Biol.18,301−313)、アブラナ(ThomzikJ.E.(1995)MethodsMol.Biol.44,77−89)、トウモロコシ(Ishida,Y(1996)Nat.Biotechnol.14,745−750)、コムギ(Cheng,M.ら(1997)PlantPhysiol.115,971−980)、イネ(Chan,M.T.(1993)PlantMolec.Biol.22,491−506)。
【0114】
植物形質転換を行うための代替法として、DNA送達がカルシウム、ポリエチレングリコール、またはエレクトロポレーションによって媒介されるプロトプラストの形質転換が挙げられる(Pazkowskiら(1984)EMBOJ.3,2717−2722;Potrykusら(1985)Molec.Gen.Genet.199,169−177;Frommら(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.USA82,5824−5828;Shimamoto(1989)Nature338,274−276)。その他、炭化ケイ素ウィスカー(Dunwell,J.M.(1999)MethodsMol.Biol.111,375−382)、マイクロインジェクション(Holm,P.B.ら(2000)TransgenicRes.9,21−32))またはバイオリスティックス(Kleinら(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA85,4305−4309;Becker,D(1994)PlantJ.5,299−307)による形質転換などの方法がある。これらの方法はすべて本発明に有用である。
【0115】
まず、サイレンシング構築物を獲得した作物の形質転換体は、選択マーカー遺伝子を発現させるトランスジェニック細胞を選択的に再生させるために使用した選択剤に対する耐性という、それらの表現型によって同定される。次に、耐性形質転換体を分子的にさらに特徴づけて、形質転換DNAの組込みパターンを調べる。このような解析を行うにはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)やサザンブロット法などの多くの技術を利用することができ、それらは当業者には周知である(例えばSambrook,JおよびRussell,D.W.「Molecularcloning,a laboratorymanual」(第3版,2001,ColdSpring HarborLaboratoryPress,ニューヨーク州コールドスプリングハーバー)に記載されている技術を参照されたい)。好ましくは、形質転換DNAの完全なコピーを1つ含んでいる形質転換体を選択して、さらに解析する。しかし、複数コピーの形質転換DNAを含む形質転換体も有用である。形質転換体のゲノム中の形質転換DNAが発現されるかどうかを解析するには、形質転換体を、形質転換DNAが存在する結果として改変されると予想されるRNAまたはタンパク質種に関して解析することができる。
【0116】
当業者に周知の技術により、トランスジェニック植物を、導入した遺伝子の発現に関して、または導入した遺伝子が標的遺伝子の発現に対して持っている影響に関して、ノーザンブロット法、RT−PCR法、インサイチューハイブリダイゼーション、マイクロアレイ、ウェスタンブロット法、酵素活性測定を使って解析することができる。
【0117】
標的遺伝子の発現に改変が起こった結果として生じる表現型の変化も起こりうるが、これは必ずしもそうなるとは限らない。標的遺伝子のダウンレギュレーションによる減数分裂期組換えの抑制が表現型の変化をもたらしうるという事実は、アラビドプシス(Arabidopsis)のAtSPO11−1遺伝子におけるノックアウト突然変異の例によって示される(Grelon,M.ら(2001)EMBOJ.20,589−600)。アラビドプシス(Arabidopsis)におけるAtSPO11−1遺伝子の発現量が低下するかゼロになった結果として、減数分裂前期Iの最後の時点で二価染色体の形成が著しく減少する。これは、減数分裂乗換え事象がなくそれゆえにキアズマが存在しない結果として二価染色体の安定性が低下すると考えることによって説明することができる。この異常にもかかわらず、このアラビドプシス(Arabidopsis)突然変異体の染色体は、減数分裂中に分離する。ただし、その向きはランダムで、多くの不均衡な非機能的配偶子が生じる。これは、巨視的には、そのような突然変異体植物が半不稔であるという事実、すなわち形成される機能的な花粉および胚嚢が著しく減少し、それゆえに結実が著しく減少するという事実によって観察することができる。この稔性低下表現型は丸ごとの植物のレベルで容易に観察することができるので、標的遺伝子が遺伝子操作、突然変異誘発または化学処理によって改変されている植物を、この現象を利用して同定することができる。この特定の例ではこの表現型上の効果が認められたが、他の系でこの標的遺伝子または他の標的遺伝子の改変した場合には、必ずしも、これが常に同じ程度に起こるとは限らない。標的遺伝子の改変の結果として、アラビドプシス(Arabidopsis)におけるAtSPO11−1に関して記載されているような形で、半不稔性が生じる場合、機能的配偶子の数は、半数体染色体の数の関数として相対的に低くなる。
【0118】
機能的配偶子の%は、式:(1/2)n×100%によって見積もることができる。式中、nは半数体染色体数である。結実の限界が雌性配偶子によって決定される場合、形成される種子の%は、同じ式によって計算することができる。12個の半数体染色体を持ち、AtSPO11−1の機能的ホモログをダウンレギュレートした場合に同じ表現型を示すアマトウガラシ(Capsicumannuum L.)のような作物の場合は、生存可能な種子は1/4096×100%=0.024%しか生産されない。生存可能な種子がこのように少量では、植物育種における減数分裂期組換えの抑制の産業上に利用可能性が危うくなる。この課題は、減数分裂期組換えが抑制される植物の胞子を倍加半数体植物に再生させることによって、緩和することができる。
【0119】
したがって、本発明のもう一つの態様では、DH作出を使って、本方法の効率を向上させる。半数体胞子からの二倍体植物の作出は、完全にホモ接合である植物の作出を促進するために植物育種で広く用いられる組織培養技術である。通常、この技術は倍加半数体またはDH技術と呼ばれる。半数体植物または一倍体植物では、一つのゲノムが一倍だけ存在する。これは全ての遺伝子が半接合状態で存在することを意味する。下等植物生物では、半数体が優勢な状態である場合もあり、コケ類の配偶子はこれにあたる。しかし作物植物では、目立たない寄生配偶体、花粉粒、花粉管、および胚嚢を除けば、半数体は優勢な状態ではない。
【0120】
半数体植物は、一価染色体であるため、通常は、不稔である。しかし、半数体染色体内容物の自発的倍加によって得られる、または染色体倍加剤などの他の手段によって達成される倍加半数体は、植物育種における最も有益な手段の一つである。倍加半数体植物は遺伝的にホモ接合であり、したがって理論的には何世代もの同系交配によらなければ達成することができない究極の純粋育種系統である。
【0121】
半数体植物は、未受精胚珠の半数体細胞(雌性発生)または葯の半数体細胞(雄性発生)から発生する。自然半数体の頻度はかなり低く、単為生殖の場合で1000あたり約1、雄性発生の場合で1000あたり約0.1である。自然に存在する半数体の効率は低いので、同系交配を部分的にまたは完全に置き換えるのに十分な数の倍加半数体を植物育種家が得ることができるように、長年にわたって、インビトロ組織培養法が開発されてきた。葯培養および小胞子培養は、次に挙げるような多くの作物種でホモ接合系統の作出に使用される確立した技術である。トウモロコシ(ZeamaysL.;Gaillardら.Plant Cell Reports,10:55−58(1991))、イネ(OryzasativaL.;Rainaら.Plant Cell Reports,6:43−45(1987))、アブラナ(Brassicanapus;KellerW.およびArmstrong K.Z.Pflanzenzuchting 80,100−108(1978))、オオムギ(HordeumvulgareL.;Ziauddinら,Plant Cell Reports 9:69−72(1990))、ナス(Solanummelongena L.;Tuberosa R.ら,Genet.Agr.41:267−274(1987))、ブロッコリ(Brassicaoleraceavar.Italica;Takahata Y.およびKeller W.PlantScience,74,235−242(1991))、ベニバナ(Carthamustinctorius L.;PlantCellReports 10:48−51(1991))、アスパラガス(Asparagusofficinalis;PelletierG.ら,C.R.Ac.Sci.Paris.Ser.D274,848−851(1972))。
【0122】
半数体および倍加半数体は、オオムギ(Hordeum vulgare L.)の子房の配偶体細胞から得ることもできる(SanNoeumL.,Ann.Amelior.Plantes26,751−754(1976))。子房細胞による倍加半数体の作出は、葯培養または小胞子培養に馴染まない場合が多い作物種に適している。ヒマワリ(Helianthusannuus L.;GelebartP.およびSanL.Agronomie,7,81−86(1987))、サトウダイコン(Betavulgaris L.;HosemansDおよびBossoutrotD.Z.Pflanzenzucht 91:74−77(1983))、メロン(Cucumis meloL.;Cunyら,Agronomie,12,623−630(1992))、スイカ(Citrulluslanatus(Thunb.);SariNら,Scientia Horticulturae 82,265−277(1999))、キュウリ(CucumissativusL.;Dirks R.米国特許第5,492,827号(1995))などがその例である。
【0123】
正常な二倍体ドナー植物から得られる倍加半数体植物を通常は自家受粉させる。得られた後代は遺伝的に同一であり、ホモ接合である。すなわち対立遺伝子の遺伝的分離はもはや起こらないはずである。
【0124】
倍加半数体技術を本発明による乗換えの抑制と組み合わせることにより、植物育種の極めて強力な新しい可能性がもたらされる。乗換え(染色体組換え)が排除されている植物(任意のヘテロ接合性の程度をもつもの)に倍加半数体技術を適用することによって得られる植物はすべて完全にホモ接合である。これは、組換えが抑制された植物から得られるDHの集団が、同じ集団の別のDH植物と交配させた場合に、そのDH集団の作出に使用した植物体と遺伝的に同一なF1雑種の生成をもたらす、ホモ接合DH植物を与えることを意味する。
【0125】
例えばキュウリは半数体セットとして7つの染色体を持っている。ドナー植物がどの染色体上の遺伝子についてもヘテロ接合であると理論的に想定すると、128種類の倍加半数体遺伝子型が生じうることになり、ドナー植物が2つのホモ接合元親植物間の交配によって得られた場合は、それらのうちの2つはドナー植物を構成していた元親植物と同一である。
【0126】
これに対して、同じ植物(全ての染色体がヘテロ接合で乗換えは起こらない)の自家受粉では、2187種類の(二倍体)遺伝子型が生じうることになり、ドナー植物が2つのホモ接合元親植物間の交配によって得られた場合、元親遺伝子型のそれぞれの頻度は、二倍体後代植物では16384分の1(=(0.25)7)しかない。
【0127】
十分な確率で探している遺伝子型を見いだすには、作出されるDH植物または同系交配植物の数に、ある係数をかける必要がある。所望の遺伝子型が見つかる見込みが95〜98%であると仮定すると、合理的な係数は3〜4である。そのような乗数を使っても作出すべきDHの量はなお産業上適用可能な量であるが、伝統的な自家受粉では、作出すべき次代の数が極めて大量になり、通常、商業的な育種計画の範囲には収まらなくなる。
【0128】
元親である先祖を推定して新親系統を作出することによるF1雑種の再構築は、種子または内胚乳の品質にとってより良い性質を有する代替親をその商業的F1種子生産のために開発しようとする場合に役立ちうる。
【0129】
組換えのダウンレギュレーションとそれに続く倍加半数体の作出に使用される個々の遺伝子型の再構築には、遺伝子構成は関係なく、その植物が雑種であるか未知の遺伝子組成を有する植物であるかという事実とも無関係である。
【0130】
例えばキュウリの場合、交配したときに元の植物と同じ遺伝子型を有する後代をもたらす2つの倍加半数体(DH)系統の組み合わせは理論的に64種類ある。したがって、わずか48個のキュウリDHからなるセットでも、交配により元のドナー遺伝子型を再構築するDH対を、ほぼ100%の確実さで見いだすことができる。10個の染色体を有するトウモロコシのような経済上重要な作物でさえ、わずか98組の倍加半数体の組み合わせを試験するだけで(実施例2参照)、それらの祖先を再構築する親系統が99%の確率で得られる。
【0131】
ある系統から別の系統への前記「細胞質導入」という特別な場合(実施例12に詳述する)には、特定親系統の正確な回収が望まれる。組換え抑制と倍加半数体の作出およびそれに続く自家受粉との究極の組み合わせによって、系統選抜が可能になるだけでなく、染色体組み合わせの考えうるすべての組み合わせのなかで元親系統に似ている新しい系統が得られる。キュウリを例に挙げて説明するように(実施例2)、ドナー材料から得られた元親がホモ接合であるかヘテロ接合であるかにかかわらず、交配した場合に倍加半数体の導出に使用されたドナー材料を再構築する新親植物を作出することができる。
【0132】
そのような系統だけでなく、(半数体セットとして)ドナー材料を生成する、一方の出発系統に由来する6つの染色体と他方の出発系統に由来する1つの染色体とを有する他の系統も生成する。組換え抑制および倍加半数体に使用するドナー材料が、2つのホモ接合系統(例えば倍加半数体に由来するもの)を交配することによって作製されたF1雑種であり、本明細書に開示する前記の発明を適用するのであれば、2つの出発系統と同等な親系統を回収することができる。
【0133】
また、一方の元親に由来する一つ一つの染色体対について、他方の元親に由来する他の染色体対の他のセットとの組み合わせも作製される。このような組み合わせは、個々の染色体対ごとに得ることができるが、2つの対、3つの対などでも得ることができ、最終的に、完全な染色体セットが完成する。実際上、これは、元親の染色体対のうち1つだけまたは限られた数だけが他の元親に由来する染色体対で置換されている、元親系統に近い親系統が生成することを意味する。これにより、従来の設定で可能であったものよりもはるかに多くの元親系統の組み合わせを生成させることができる。組換えは起こらず、二倍体種ではDH技術の次代は完全にホモ接合であるので、遺伝子連鎖を検出することができる。
【0134】
伝統的な遺伝学では、2つの異なる遺伝子座間の組換え頻度が、特定染色体上でのそれらの座の間の遺伝距離の尺度として使用される。2つの任意の遺伝子間の最大の組換え頻度は50%であり、この値は、遺伝子が非相同染色体上にあって、独立して組み合わせられる場合に観察される値と同じである。50%の組換えは、遺伝子が染色体上で少なくとも1回の乗換えがそれらの間でほとんど常に起こるほど遠く離れている場合に起こる。本発明によれば、突然変異、化学処理またはトランスジェニック手段(安定であるか一過性であるかを問わない)によって誘導される乗換えが起こらないので、特定染色体上にある遺伝子はすべて、それぞれの対立遺伝子型に固定される。特に倍加半数体と組み合わせると、染色体の外端に位置する遺伝子または遺伝子座は、共分離する。遺伝子が目に見えるマーカーをコードしている場合は、共分離を容易にモニターすることができるが、現在利用できるDNAフィンガープリンティング技術を使ったDNAマーカーと重要な遺伝子およびDNAマーカーそのものの間の関連研究により、連鎖解析の分解能が向上する。そのようなDNAフィンガープリンティング技術の例は、RFLP(RestrictionFragment LegnthPolymorphism(制限酵素断片長多型)Beckmann,J.S.およびSoller,M.(1983)Theor.andAppl.Genet.67,35−43)、RAPD(RandomAmplified PolymorphicDNA(ランダム増幅多型DNA)Welsh,J.およびMcClelland,M.(1990)NucleicAcidsRes.19,861−866)、SSR(Simple SequenceRepeat(単純配列反復)Wu,K−S.およびTanksley,S.D.(1993)Mol.Gen.Genet.241,225−235)およびAFLP(AmplifiedFragment LengthPolymorphism(増幅断片長多型)Vos,Pら(1995)NucleicAcidsRes.23,4407−4414))である。
【0135】
逆育種技術が、今までになしえなかった時間枠で新しい品種を作製し、かつ既存の遺伝子プール内で起こる最大限の変異を利用する潜在能力を有することは明らかである。
【0136】
本発明は、そのさらなる一態様として、「乗換え」または組換えの抑制を使った、植物における細胞質雄性不稔の導入効率の改善に関する。細胞質雄性不稔またはCMSは、植物育種に広く使用されている形質である。CMSは、ニンジン、キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、芽キャベツ、チコリおよびエンダイブなどの野菜種ならびにサトウダイコンおよびヒマワリなどの農業種で、F1雑種品種を作製するために使用される。商業的植物育種に使用されるCMSは雌性親によって受け継がれるが、CMSの表現型の出現(花粉の欠如、茶色い葯、花弁状の葯)は、雄性不稔を回復しうる核因子または不稔に影響を及ぼさない核因子(いわゆるCMS維持系統)にも依存しうる。特定の稔性育種系統にCMS形質を付与するには、CMSを保持する1系統の核ゲノムの大半を、雄性不稔に変換する必要があるゲノムで置き換えるために、いくつかの戻し交配が必要であることが当業者には知られている。CMSドナー系統は、同質遺伝子雄性稔性系統との戻し交配によって維持される。
【0137】
CMSドナーを、劣性突然変異または組換えを抑制する導入遺伝子に関してホモ接合にする。ドナー系統は、CMSおよび稔性ドナーの染色体の相違をより容易に決定することができるように、多数の核遺伝子マーカーに関して、雄性不稔に変換する必要がある系統とは遺伝的に異なっていることが好ましい。所望の同系交配系統または純系(ホモ接合またはほぼホモ接合)を、類似しているがCMSバックグラウンドを有する系統に変換するには、前記CMSホモ接合組換え抑制系統を、所望の系統の花粉で授粉することによって、第1交配を行う。得られたF1後代はCMSと所望の系統の染色体の50%を含んでいる。得られたF1植物の減数分裂では、本発明の結果として組換えが起こらない。これは、卵細胞では独立染色体組合せが起こることを意味する。半数体セットとして9個の染色体を有するキャベツ(Brassicaoleracea L.)の場合、これは、512個中1個((1/2)9)の卵細胞が、組換え抑制CMS系統の授粉に用いた前記所望の系統と同じ(ただし半数性の)遺伝子組成を有することを意味する。この卵細胞を所望の系統の花粉で再び受精させると、得られる種子は、核遺伝子に関して元の所望の系統と遺伝的に同一であるが、CMS細胞質を獲得している。したがって、所望の系統との第2の交配では、512個中1個の種子が、所望の系統と同質遺伝子型であるが、それはドナー系統のCMS細胞質を獲得している。新たに達成されたCMS/核組成では、減数分裂期組換えの抑制を担うトランスジェニック座の分離ゆえに、またトランスジェニック植物は維持されないので、トランスジェニック遺伝子/植物を維持する必要はない。
【0138】
新しいCMS/所望の核系統組合せの同定は、DNAフィンガープリンティング技術を使用すると、極めて容易である。好ましい一実施形態として、一つ一つの染色体を同定する能力を有する遺伝子マーカーを使用する。好ましい一実施形態として、一つのホモ接合組換え抑制CMSドナー系統を使って、数多くの前記所望の系統とのいくつか(独立した花)の交配を行うことができる。
【0139】
驚くべきことに、アブラナ属(Brassica sp.)、ニンジンおよびラディッシュなどのように、回復遺伝子が生殖質内に存在する植物種については、本発明により、CMS系統を維持系統に変換することもできる。この目的で本発明を応用するには、核回復遺伝子と正常な非CMS細胞質とを含む稔性植物を、減数分裂期組換えを抑制する構築物で形質転換する。そのような構築物を好ましくはホモ接合型で保有する形質転換体を花粉源として使用して、維持系統を作出する必要があるCMS系統の植物との交配を行う。得られた雑種植物は、回復遺伝子が存在するために雄性稔性であり、上記構築物をヘテロ接合型で含有することになる。上記構築物は遺伝的に優性なので、元のCMS系統に50%由来し、回復遺伝子を含む稔性植物が50%である雑種植物の染色体は、減数分裂時に組換えを起こさないだろう。次に、そのような雑種植物を花粉源として、回復遺伝子と正常な非CMS細胞質とを有する元の植物との交配に使用する。元のCMS系統に由来する染色体の特異的な検出を可能にする分子マーカーを利用して、元のCMS系統に由来する完全な一揃いの染色体を含む後代植物を選択する。次に、これらの植物を使って、倍加半数体植物を作出し、同じ分子マーカーを使って元のCMS系統に由来する完全な一揃いの染色体を含むものを選択する。得られた植物は、元のCMS系統の維持系統として使用することができる。
【0140】
好ましくは、DNAフィンガープリント法を使って、本発明の効率を向上させる。本発明の好ましい一実施形態では、DH技術と、組換えの抑制とを併用することにより、倍加半数体植物を得るときに使用した植物の染色体のランダムな組合せからなる完全な一揃いの染色体を有する完全にホモ接合の二倍体植物を、効率よく取得する。
【0141】
この実施形態は最も効率の良い実施形態であるが、完全にホモ接合であって、減数分裂期組換えが抑制された植物の染色体のランダムな組合せからなる完全な一揃いの染色体を有する植物は、他の方法を使って同定することもできる。それらの代替法には、任意の起原を有するゲノム間に存在する多型のレベルを決定するためまたはランダムに複雑度を決定するために利用することができるDNAフィンガープリンティング技術が含まれる。ホモ接合植物を選択するために、減数分裂期組換えが抑制されている植物の自家受精によって種子を生産する。これらの自家受粉種子を使って、第1同系交配世代(S1)を育てる。そのようなS1では、存在する遺伝子型の種類の総数は0.5(22n−2)+2[式中、nは染色体の半数]である。この集団の中で、異なっているが完全にホモ接合である遺伝子型の数は2であり、その他の植物はすべて、さまざまな数の染色体に関してヘテロ接合である。ホモ接合植物を同定するには、これらの植物から抽出したDNAを、DNAフィンガープリンティング技術によって解析する。S1の各植物について測定される多型の相対的レベルは、ヘテロ接合性のレベルを反映する。これにより、相対的に高レベルなホモ接合性を有する植物の割合を、S1集団において高めることができる。
【0142】
完全にホモ接合である植物を同定するために、与えられた作物種の遺伝地図上でその位置がわかっているマーカー対立遺伝子を、減数分裂期組換えが抑制される植物内での多型に関して調べることができる。原則として、組換えが完全に抑制される場合は、共優性的に測定することができる多型マーカー対立遺伝子が1染色体あたり1つあれば、S1中のホモ接合植物を同定するには十分である。染色体の半数が増加するとS1中のホモ接合植物の頻度が減少するので、この方法では、その作物種の染色体の半数が多くなるほど、より多くの資源を投入する必要がある。作物種がn個の半数体染色体を含む場合、S1中のホモ接合植物の頻度は2nである。これらのマーカーを各染色体について利用することができれば、S1の各植物について、これらのマーカー対立遺伝子がホモ接合的に存在するか、ヘテロ接合的に存在するかを決定することができる。
【0143】
減数分裂中は組換えが完全に抑制されるので、1つのマーカー対立遺伝子のホモ接合性は、同じ染色体上のすべての座について、それらのホモ接合性を示すことになる。この解析により、S1中のホモ接合植物を同定することができ、さらには、相補グループ内でホモ接合系統を分類することもできる。2つの植物を交配したときに、組換えを抑制した植物の遺伝子型が完全に回収される場合、それら2つの植物は相補的であるとみなされる。
【0144】
また、この解析により、予め決定しておいた任意の染色体セットがホモ接合的に存在し、他の染色体セットはヘテロ接合的に存在するようなF1雑種を作出することもできる。
【0145】
本発明によれば、F1雑種の内胚乳または種皮解析を使って母系遺伝子型を決定することができる。上述したように、1染色体につき最低1つの共優性マーカー対立遺伝子の存在を決定するためのアッセイを利用することができれば、減数分裂期組換えが抑制される植物で作出したS1集団の植物の各染色体の接合性を決定することができる。ホモ接合植物群のうち、減数分裂期組換えが抑制される当該植物の母植物と同じ遺伝子型を有する植物は、減数分裂期組換えが抑制される植物を種子から育てたときのその種子の種皮のDNAを解析することによって、同定することができる。種皮中のDNAは母系由来であるので、利用可能なマーカー対立遺伝子に関するアッセイを使って、種皮DNAを解析して、母系対立遺伝子の素性を明らかにすることができる。そのような解析によって得られたデータは、減数分裂期組換えが抑制される植物の母植物と同一の遺伝子型を有するS1中のホモ接合植物を同定するために利用することができる。父植物と同じ遺伝子型を有する植物は、母植物と完全に相補的な植物である。
【0146】
もう一つの方法として、母植物および父植物と同一な遺伝子型を有する植物は、減数分裂期組換えが抑制される植物を種子から育てたときのその種子の内胚乳を解析することによって、同定することもできる。内胚乳組織では母系ゲノムが父系ゲノムの2倍存在するので、内胚乳の全核DNA抽出物中のマーカー対立遺伝子の存在を定量的に測定することによって、母系対立遺伝子および父系対立遺伝子の素性を明らかにすることができる。このような解析によって得られたデータは、減数分裂期組換えが抑制される植物の母植物または父植物と同一の遺伝子型を有するS1中のホモ接合植物を同定するために利用することができる。
【0147】
一部の種では、減数分裂中の異常によって、2n親から2n配偶子(非還元配偶子)が生じる。「第二分裂復旧」という特別な場合には、不完全な第二分裂によって、非減数配偶子が生じる。その結果は、両方の2n細胞が減数細胞壁によって分離される二分子である。このようにして生産された配偶子は、乗換えと組換えがない場合にはホモ接合である。本発明では、組換えが起こるのを防止するために、この減数分裂の時期を操作する方法を示す。組換えが起こらない状態で上記第二分裂復旧によって生産された2n配偶子から再生した植物は、倍加半数体植物の機能的等価物である。SDRについては、例えばHermsenJ.「The potentialofmeiotic polyploidizationin breedingallogamous crops」IowaStateJ.Res.Vol.58,No.4,p.421−435(1984)や、MokDおよびPeloquin S.Heredity35,295−302(1975)を参照されたい。
【0148】
本発明は、あらゆる非ヒト生物での使用に適し、特に植物、とりわけ農業植物(ジャガイモ、野菜)および園芸植物(野菜、果実、花)に適し、また鉢植え植物、花壇植物、低木、木および菌類(キノコ)にも適している。本発明の方法を適用することができる作物植物には、トウモロコシ、コムギ、イネ、サトウダイコン、アブラナ、ライグラス、ヒマワリ、ダイズ、トマト、キュウリ、ホウレンソウ、コショウ、ペチュニア、ジャガイモ、タバコ、ナス、メロン、ニンジン、ラディッシュ、レタス、アブラナ属(Brassica)の野菜(キャベツ、カリフラワー、ブロッコリー、コールラビ、芽キャベツ)、リーキ、マメ、エンダイブ、チコリ、タマネギ、ジャガイモ、イチゴ、ラディッシュ、ウイキョウ、カエンサイ、セロリが含まれる。
【0149】
多くの商業植物種、例えば多くの観賞用植物および木本では、栄養繁殖またはクローン繁殖が、商業的繁殖の唯一のまたは主たる方法である。これらの種の育種計画では、優れた遺伝子型を分離集団中に、例えばF2中に同定した後、それらを維持し、栄養増殖技術によって増殖する。
【0150】
これらの種の多くでは(ヘテロ接合)植物の栄養繁殖の方法が支配的になっている。なぜなら(多くの一年生および二年生作物で行われるような)種子による雑種品種の作出には、数世代にわたる親系統の同系交配がまず必要であるが、これは、多くの木本種および樹種では、あまりにも長い時間を要するので、商業的計画には適さないからである。栄養繁殖を利用すれば、優れた遺伝子型が増殖されて遺伝的に同一な植物のストックとなり、種子繁殖雑種作物の場合のように親系統の作出に時間を「浪費」することがない。しかし栄養繁殖には明らかな欠点もある。第1に、栄養繁殖による植物生産のロジスティクスは、種子による場合よりもはるかに困難である。種子は容易に貯蔵することができ、長期間にわたって問題を生じないことも多い。商業的な量の苗木が必要な場合はいつでも種子を蒔くことができる。
【0151】
栄養繁殖される材料の場合は、変動する新しい苗木の商業的需要にこたえることが、はるかに困難である。栄養生産は労働および技術集約的であり、したがって相対的に費用がかさむ。疾病、特にウイルスは、栄養増殖につきまとう脅威である。多くのウイルスは種子では伝達されないが、栄養生殖技術によって得られるクローン子孫には容易に伝達される。そのため、一部の国では、栄養繁殖によって生産される植物の輸入を律する厳しい検疫規則が設けられている。
【0152】
栄養繁殖ではどの遺伝子型でも等しく機能するわけではない。この方法では繁殖が困難なものもある。例えば、挿し木の発根能は種およびクローン間で異なる。
【0153】
本発明の逆育種により、ヘテロ接合クローン繁殖植物の遺伝子型を再合成し、その遺伝子型を有する雑種種子を提供することができるようになった。
【0154】
本発明の文脈には以下の定義が適用される。
出発生物:本発明の方法において出発材料として使用されるヘテロ接合生物。出発生物は、必ずしも、2つの親間の交配の直接的な結果ではないが、そうである場合は、それらの親を「元親」と呼び、そのような元親の系統を「元親系統」と呼ぶ。
(新)親:本発明の方法によって得られるホモ接合生物であって、元の出発生物を再構築するために、相補的な(新)親との交配に使用することができる生物。各(新)親の系統を「(新)親系統」と呼ぶ。本発明を直接説明していない一節での「親」または「親系統」という用語の使用は、新親または新親系統を指しているとは限らないことに注意すべきである。
遺伝子型:個々の生物の遺伝子構成。
標的遺伝子:生物のゲノム内に存在する遺伝子であって、その発現を改変すると、減数分裂期組換えを受けていない染色体セットまたは前記遺伝子の発現が改変されていない場合と比較して減数分裂期組換えを起こしている頻度が低い染色体セットを含む胞子の形成を特徴とする減数分裂プロセスが、前記生物内で起こるような遺伝子。
機能的ホモログ:1つの生物内に存在するか、または異なる生物学的種に属する生物内に存在することができる、同じまたは類似する機能を有する遺伝子。
減数分裂期組換えの抑制:減数分裂中の2つの対合した染色体間での断片の交換の減少、好ましくは欠如をもたらす事象。
【0155】
以下の実施例では本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例は単なる例示であって、決して本発明を限定しようとするものではない。
【実施例1】
【0156】
倍加半数体植物の再生と組換え抑制との併用の効果
逆育種が商業的に実施可能であるためには、減数分裂期組換えが抑制される形質転換体の子孫中に存在する完全にホモ接合の植物の同定の効率が重要である。この実施例では、減数分裂期組換えが抑制される植物の子孫集団におけるホモ接合植物の頻度の増加度に関して、さまざまな作物種で解析したDH技術と組換え抑制との併用の効果を示す。
【0157】
組換えが抑制される場合、半数体染色体数がnである完全にヘテロ接合の植物は、最大2n個の遺伝的に異なる配偶子を生産することができる。そのような植物を自家受精させた場合、後代植物は、最大で0.5(22n−2)+2種類の遺伝子型という遺伝的変異性を有する。この集団には、遺伝子型は異なるが完全にホモ接合の二倍体植物が2n存在し、その他の二倍体植物はすべて、さまざまな数の染色体に関してヘテロ接合である。
【0158】
DH技術を減数分裂期組換えの抑制と組み合わせて応用すると、完全にホモ接合の後代植物だけが得られる。これらの植物は、例えば雄性発生によって小胞子から、または雌性発生によって大胞子から得られるので、遺伝的に異なる二倍体植物の最大数は、減数分裂期組換えが抑制される植物によって生産されうる遺伝的に異なる半数体配偶子の最大数、すなわち2nと一致する。
【0159】
この解析の結果を表1に示す。
【表1】

【0160】
この解析は、すべてではないとしてもほとんどの作物で、DH技術の使用は、減数分裂期組換えが抑制される形質転換体の自家受精によって得られる子孫の場合と比較して、ホモ接合植物の回収効率に著しい効果を有することを示している。
【0161】
この解析から推測されるように、効率の改善は、与えられた植物種の半数体染色体数に依存し、その改善は1桁〜3桁(すなわち10倍〜1000倍)に及ぶ。減数分裂期組換えの抑制をDH技術と併用すると、本発明の方法の商業的および実用的実現可能性が、かなり改善されると結論づけられる。
【実施例2】
【0162】
交配により出発植物の遺伝子型を再合成することができるDH植物の相補的な組合せが、組換えが完全に抑制された出発植物から得られるk個のDH植物中に見いだされる確率の、染色体数nの関数としての解析
本発明は、本発明によって得られる親系統をそのまま交配することによる、ヘテロ接合植物のF1雑種品種への変換を可能にするために、減数分裂期組換えの抑制と、DH技術のような効率改善のための技術とを併用することを教示するものである。
【0163】
この実施例では、与えられた植物種の半数体染色体数nと、減数分裂期組換えが完全に抑制されるヘテロ接合出発植物から作出されるDH植物の数kとの関数として行った、2つの倍加半数体植物からなる少なくとも1組の相補的組合せ(交配により出発植物を「再合成」することができる組合せ)が見つかる確率の解析を示す。
【0164】
与えられた作物種の半数体染色体数をnで表すと、減数分裂期組換えが完全に抑制されていて倍加半数体植物の作出に使用されるその作物種の植物から得られる遺伝子型の最大数は、2nである。この集団から無作為に選択した一対の倍加半数体植物を交配したときに、組換えを抑制しておいた遺伝子型(元の遺伝子型)と同一な遺伝子型を有するF1雑種が得られる確率は、1/2(なぜなら2/(2)である。
【0165】
全部でk個の倍加半数体植物が作出される場合、交配することができる2つの遺伝的に異なる倍加半数体植物の組合せの数は1/2k・(k−1)である。無作為に選択した2つのDHが相補的である(交配により元の遺伝子型を再合成することができる)確率は、(1/2)nである。したがって、無作為に選択した2つのDHの組合せが相補的でない確率は、1−(1/2)n=(2n−1)/2nである。倍加半数体がk個である場合は、1/2k・(k−1)の組合せを作ることができるので、このDH集団内に相補的なDHを見つけることができない確率は、((2−1)/2(1/2k・(k−1)であり、したがって2つのDHからなる少なくとも1つの相補的な組合せを見つけることができる確率は、1−((2−1)/2(1/2k・(k−1)である。
【0166】
この式を使って、元の遺伝子型が見つかる確率を最大にするために一対ずつ交配する必要がある倍加半数体植物の数を、各作物種について計算することができる。この解析の結果を表2に示す。
【0167】
【表2】

【0168】
この解析は、キュウリの場合は48個、カリフラワーの場合は128個、トマト、メロンおよびアマトウガラシの場合は256個の倍加半数体植物を使用すれば、本発明により、高い確率で、元の遺伝子型がF1雑種として再合成されることを示している。
【実施例3】
【0169】
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、キャベツ類(Brassica oleraceae)、アビシニアガラシ(Brassicacarinata)、トマト(Lycopersicon esculentum)、ナス(Solanum melongena)およびタバコ(Nicotianatabacum)由来の標的遺伝子DMC1、SPO11およびMSH5の分子クローニングと特徴づけ
GenelutePlant Genomic DNAKit(Sigma−Aldrich,オランダ・ツバインドレヒト)を使って、植物組織から全DNAを抽出する。総量30ngのDNAを使ってPCR反応を行った後、その反応産物を1%アガロースゲルで解析した。Qiagen(米国カリフォルニア州バレンシア)から市販されているRNeasyPlantMiniKitを使って、植物組織から全RNAを抽出する。次に、残存するDNAを除去するために、精製したRNAを1μlの10単位/μのRNaseフリーDNase(RocheDiagnostics,ドイツ・マンハイム)で処理する。Invitrogen(オランダ・ブレダ)のSuperscript(商標)One−StepRT−PCRとplatinum(登録商標)Taqを使ってRT−PCR反応を行った後、その反応産物を1%アガロースゲルで解析する。TAクローニングと青−白コロニースクリーニングに基づくInvitrogenのTOPOTACloning(登録商標)システム(pCR(登録商標)2.1−TOPO(登録商標))を使って、PCR産物をクローニングする。
【0170】
1.DMC1のクローニング
公表されているシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のDMC1の遺伝子配列AtDMC1(GenBankアクセッション番号U76670)に基づいて、次のヌクレオチド配列からなるプライマー対を開発した:フォワードプライマー5’−ACAGAGGCTTTTGGGGAATT−3’(配列番号9)および逆相補プライマー5’−ACAGAGGCTTTTGGGGAATT−3’(配列番号10)。PCR解析により、シロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)の花芽からRT−PCRによって380bpのcDNA断片が、またシロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)のゲノムDNAから1100bpの断片が見つかった。これはAtDMC1遺伝子の既知ゲノム配列に基づいて予想される結果である。クローニングしたPCR産物の配列を解析したところ、得られたヌクレオチド配列が公表されている配列と一致したことから、クローニングした断片はAtDMC1遺伝子の一部であることが確認された。この結果は、AtDMC1の一領域を特異的に増幅するために、開発したプライマー対を効果的に使用できることを示している。
【0171】
同じプライマー対を、キャベツ類(Brassica oleraceae)およびアビシニアガラシ(Brassica carinata)の花芽から抽出したRNAを用いるRT−PCR増幅反応に使用した。どちらの植物種でも380bpのcDNA断片が得られたので、それをクローニングし、配列決定した。キャベツ類(Brassicaoleraceae)DMC1遺伝子をBoDMC1と命名し、その380bpcDNA断片のヌクレオチド配列を図1に示す。アビシニアガラシ(Brassicacarinata)DMC1遺伝子をBcDMC1と命名し、その380bpcDNA断片のヌクレオチド配列を図2に示す。
【0172】
得られた配列とAtDMC1遺伝子との配列アラインメントにより、BoDMC1、BcDMC1およびAtDMC1の極めて高い一致度が明らかになった。異なる配列間の一致率は次のとおりである。AtDMC1とBoDMC195%、AtDMC1とBcDMC1 93%、BcDMC1とBoDMC1 96%。
【0173】
同じプライマー対を、トマト(Lycopersicon esculentum)、ナス(Solanum melongena)およびタバコ(Nicotianatabacum)の組織から抽出したゲノムDNAを用いるPCR増幅反応に使用したところ、3つの植物種すべてで、1100bpの特異的増幅産物を得た。これらの断片は、シロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)のゲノム断片の長さとよく一致する長さを有する。これらを、トマト(Lycopersiconesculentum)はLeDMC1、ナス(Solanum melongena)はSmDMC1、タバコ(Nicotiana tabacum)はNtDMC1と命名した。これらの断片をクローニングし、配列決定した。その結果をLeDMC1については図3に、SmDMC1については図4に、NtDMC1については図5に示す。BLAST解析により、これらの断片はAtDMC1cDNAと高い一致レベルを有する領域を含むことが明らかになった。
【0174】
これらのデータは全体として、これらナス科に属する種のクローニング断片が、これらの種のゲノム中に存在するAtDMC1オルソログのアンプリコンであることを示している。
【0175】
2.SPO11のクローニング
SPO11のオルソログ遺伝子のDNA断片を単離するために、シロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)SPO11−1(AtSPO11−1、アクセッションAF−302928)ゲノムDNAのうち、異なる種の既知のSPO11オルソログ間で高度に保存されている一続きのアミノ酸をコードする位置に対応するプライマーからなるプライマー対を開発した。それらのプライマーは次のヌクレオチド配列を有する。フォワードプライマー5’−AACGGGTTGGTGATGGG−3’(配列番号11)および逆相補プライマー5’−CCATATGGATCACAGTCAAC−3’(配列番号12)。PCR解析により、シロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)の花芽からRT−PCRによって350bpのcDNA断片が見つかった。これはAtSPO11−1遺伝子の既知のcDNA配列に基づいて予想される結果である。クローニングしたPCR産物の配列を解析したところ、得られたヌクレオチド配列が公表されているAtSPO11−1の配列と一致したことから、クローニングしたDNA断片はAtSPO11−1遺伝子に由来することが確認された。この結果は、AtSPO11−1の一領域を特異的に増幅するために、開発したプライマー対を効果的に使用できることを示している。
【0176】
同じプライマー対を、キャベツ類(Brassica oleraceae)およびアビシニアガラシ(Brassica carinata)の花芽から抽出したRNAを用いるRT−PCR増幅反応に使用した。どちらの植物種でも350bpのcDNA断片が得られので、それをクローニングし、配列決定した。得られた配列とAtSPO11−1遺伝子との配列アラインメントにより、両断片とAtSPO11−1遺伝子との極めて高い一致度が明らかになった。キャベツ類(Brassicaoleraceae)SPO11遺伝子をBoSPO11と命名し、その350bpcDNA断片のヌクレオチド配列を図6に示す。アビシニアガラシ(Brassicacarinata)SPO11遺伝子をBcSPO11と命名し、その350bpcDNA断片のヌクレオチド配列を図7に示す。
【0177】
PCR断片間の一致率は次のとおりである。AtSPO11−1とBoSPO1194%、AtSPO11−1とBcSPO11 93%、BoSPO11とBcSPO11 99%。
【0178】
3.MSH5のクローニング
シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)MSH5遺伝子の一部を単離するために、アルゴリズムCodehop(Roseら(1998)NucleicAcids Research26,1628−1635)を利用した。線虫(Caenorhabditiselegans)、マウス(Mus musculus)およびサッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)のMSH5オルソログのアラインメントによって生成した保存されたアミノ酸ブロックに基づいて、特異的クランプおよび縮重コア領域からなるプライマー対を作製した。次に示すプライマー対を使って、シロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)の一領域を増幅した:フォワードプライマー5’−GTTTTTTATGGCTCATATTGGATGTTTYGTNCCNGC−3’(配列番号13)および逆相補プライマー5’−TCCACAGTATTAGTTCCCTTTCCAWAYTCRTCDAT−3’(配列番号14)[ここに、YはCまたはTを意味し、NはA、T、GまたはCを意味し、WはAまたはTを意味し、RはAまたはGを意味し、DはA、GまたはTを意味する]。このプライマー対を使って、シロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)ゲノムDNAのPCR増幅を行ったところ、220bpの断片が得られたので、これをクローニングし、配列決定した。その配列を図8に示す。
【0179】
BLAST−X解析により、クローニングした断片の翻訳産物は、既知のMSH5アミノ酸配列と、アミノ酸レベルで高い一致レベルを示すことがわかった。これを図9に示す。これは、AtMSH5と名付けられたシロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)のMSH5オルソログの一部を特異的に単離するために、上記の方法を効果的に使用できることを証明している。
【0180】
他の植物MSH5配列を増幅するために、AtMSH5のヌクレオチド配列に基づいて、特異的プライマー対を作製した。このプライマー対は、フォワードプライマー5’−TgTCCCGGCTGCATCGGCCAAAATCGGC−3’(配列番号15)および逆相補プライマー5’−GAATTCGTCAATCAAAATCAGTGACCG−3’(配列番号16)という配列を持ち、シロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)ゲノムDNAでは170bpの断片を生成する。
【0181】
次に、このプライマー対を、キャベツ類(Brassica oleraceae)、トマト(Lycopersicon esculentum)、ナス(Solanummelongena)およびタバコ(Nicotiana tabacum)のゲノムDNAをテンプレートとして用いるPCR反応に使用した。すべての植物種で、170bpの増幅断片が得られた。
【0182】
これらの断片を配列決定し、その配列をBLAST−Xで解析した。結果は、得られた断片が各作物種のMSH5遺伝子を表すことを示した。これらの遺伝子を次のように命名した:トマト(Lycopersiconesculentum)MSH5:LeMSH5(図14);ナス(Solanummelongena)MSH5:SmMSH5(図15);タバコ(Nicotianatabacum)MSH5:NtMSH5(図16)およびキャベツ類(Brassicaoleracea)MSH5:BoMSH5(図13)。
【実施例4】
【0183】
標的遺伝子DMC1、SPO11およびMSH5をダウンレギュレートするためのRNA干渉(RNAi)ベクターの構築
特定植物種における標的遺伝子の活性をダウンレギュレートするために、RNA干渉を利用する。この目的のために、アビシニアガラシ(Brassicacarinata)のDMC1およびSPO11のDNA断片ならびにシロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)のMSH5遺伝子を、pKANNIBAL(Wesleyら(2001)ThePlant Journal27,581−590)に、植物内で発現させたときに自分自身に折り返して相同RNAの特異的分解を誘発するヘアピン構造を形成するRNA分子が生じるような形で挿入する。ベクターpKANNIBALはCaMV35Sプロモーターの下流かつオクトピンシンターゼポリアデニル化シグナルの上流に位置するイントロンを含んでいる。イントロンの両側にはマルチクローニング部位があって、RNA干渉標的に対応するDNAの左アームと右アームを互いに逆向きに都合よく挿入することができる。転写が起こると、イントロンはスプラインシングによって除去され、左アームと右アームは互いに折り返して、二本鎖RNAを形成する。
【0184】
DMC1、SPO11およびMSH5用の左アームを作製するために、遺伝子断片を、それらがクローニングされているベクターから、遺伝子断片の5’末端にハイブリダイズするXhoI認識部位と遺伝子断片の3’末端にハイブリダイズするKpnI認識部位とを有するプライマーを使って再増幅する。
【0185】
これらのプライマーを用いるPCRによって生成する断片をXhoIおよびKpnIで消化した後、XhoIおよびKpnIで消化したpKANNIBALに挿入する。得られたプラスミドを、DMC1を含むpRZ039、SPO11を含むpRZ040、およびMSH5を含むpRZ041と命名する。
【0186】
次に、右アームを同様にして、ただし遺伝子断片の5’末端にXbaIを生成し遺伝子断片の3’末端にHindIII部位を生成する異なるプライマーセットを用いて、作製する。右アームを消化した後、対応する左アームを含むベクターに挿入して、DMC1の場合はpRZ042、SPO11の場合はpRZ043、およびMSH5の場合はpRZ044を得た。
【0187】
最終段階として、DMC1、SPO11およびMSH5配列を逆方向反復配列として含んでいる完全なヘアピンカセットを、植物形質転換用の選択マーカーとしてネオマイシンホスホトランスフェラーゼII遺伝子を持っているpART27と呼ばれるバイナリーベクターのT−DNAのNotI部位に、NotI断片として別々に挿入する。T−DNAの完全性は配列解析によって確認した。得られたバイナリーベクター(DMC1の場合はpRZ051(図10)、SPO11の場合はpRZ052(図11)、およびMSH5の場合はpRZ054(図12)と命名)をアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacteriumtumefaciens)に、ヘルパープラスミドpRK2013を使った三親性交配法でトランスフェクトした(Dittaら(1980)Proc.Natl.Acad.Sci.USA77,7347−7351)。
【0188】
BcDMC1、BcSPO11およびAtMSH5配列と各オルソログ遺伝子とは配列一致レベルが高いので、これらの構築物は、アブラナ科のどの種でも、標的遺伝子のダウンレギュレーションに有効である。さらに、LeDMC1、SmDMC1およびNtDMC1配列は、BcDMC1cDNAに対して高い類似性を有する領域を示すので、pRZ051はナス科の種でも有効である。また、イネのDMC1遺伝子に対するBcDMC1の類似性を考えると、BcDMC1配列はさらに広く、すなわち例えばイネ、コムギ、オオムギおよびトウモロコシなどの単子葉植物種でも、使用することができる。
一般に、上述の方法は、ダウンレギュレートする必要がある他の標的遺伝子に相同なDNA断片を含む構築物の作製に使用することができる。
【実施例5】
【0189】
pRZ051、pRZ052およびpRZ054によるシロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)の形質転換
植物形質転換ベクターpRZ051、pRZ052またはpRZ054のいずれか一つを含むアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacteriumtumefaciens)C58株(ATTC33970)を、ベクターを選択するためのストレプトマイシン(100mg/L)とスペクチノマイシン(300mg/L)およびアグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacteriumtumefaciens)C58バックグラウンドを選択するためのリファンピシン(40mg/L)とゲンタマイシン(25mg/L)を含むLB培地中、29℃で一晩生育させる。
【0190】
トランスジェニック・アラビドプシス(Arabidopsis)植物を作出するために、Desfeuxら(2000)PlantPhysiology123,895−904に記載のフローラルディップ法を使用する。細菌細胞をフローラルディップ溶液(MilliQ(商標)(Millipore,オランダ・エッテンルール)1リットルにつき50gショ糖+500μlSilwett L−77界面活性剤(HelenaChemicalComp.,米国カリフォルニア州フレズノ))に再懸濁する。複数の花芽を含む抽だいした植物を、光学密度(OD)1.0〜1.5のアグロバクテリウム(Agrobacterium)細胞を含む浸漬液に、静かに撹拌しながら5〜10秒間沈める。
【0191】
接種後に、それらの植物をプラスチック容器に入れて低照度条件下で高湿度を1日間維持し、次いで、その種子を成長させる。
【0192】
50mg/Lカナマイシンを含む50%濃度のMSプレートに重層した0.1%アガロース中で、表面殺菌した種子を発芽させることによって、形質転換体を選択する。カナマイシン耐性実生を温室の土壌に移す。合計51個のカナマイシン耐性実生/構築物を成熟した植物まで栽培し、それをPCRにより、T−DNAの存在について分析した。NPTII遺伝子(NEO−FORW+NEO−REV)、CaMV35Sプロモーターからイントロンまでの領域(35S−F1+RNAi−intr−R1)、およびイントロンからOCSターミネーターまでの領域(RNAi−intr−F1+OCS−R1)のいずれかを特異的に増幅するプライマー対を設計した。これらのプライマー対の配列を以下に示す。この分析の結果、どの植物でも上記のプライマー対に特異的な増幅シグナルが得られたことから、カナマイシン耐性実生のトランスジェニック状態が確認され、RNA干渉構築物が存在することがわかる。この実験から不稔植物が確認された。
【0193】
NPTII:
NEO−FORW 5’−CAGACA ATCGGC TGCTCT GATGCC−3’(配列番号21)
NEO−REV 5’−CGTCAA GAAGGC GATAGA AGGCG−3’(配列番号22)
プロモーター−イントロン:
35S−F1 5’−AgAATgCTgACCCACAgATggTTA−3’(配列番号23)
RNAi−intr−R1 5’−CTTCgTCTTACACATCACTgTCAT−3’(配列番号24)
イントロン−ターミネーター:
RNAi−intr−F1 5’−ATgACAgTgATgTgTAAgACgAAg−3’(配列番号25)
OCS−R1 5’−TggCgCTCTATCATAgATgTCgCT−3’(配列番号26)
【実施例6】
【0194】
作物植物の形質転換とホモ接合系統の作出
1.構築物
実施例4に記載した構築物を、アグロバクテリウム(Agrobacterium)によるさまざまな作物植物の形質転換に使用した。アラビドプシス(Arabidopsis)構築物はアブラナ属(Brassica)に使用することができる。要すれば、記述のように、実施例4の構築物の遺伝子を、関連作物の相同内在性遺伝子と交換することができる。さらに、機能的相同体を使用することもできる。
【0195】
2.形質転換およびDH作出
2.1.トウモロコシ
トウモロコシゲノムへのサイレンシング構築物の組込みは、DSM6009トウモロコシプロトプラストのアグロバクテリウム(Agrobacterium)形質転換が教示されているEP−801134、US−5,489,520またはEP97114654.3に従って行う。トウモロコシ細胞中に導入されたサイレンシング構築物は、再生形質転換植物が減数分裂を起こす時に、組換えに対して、組換えが起こらないか有意に減少するように、阻害効果を与える。この阻害核酸の活性の結果として、多くの卵細胞および花粉は、正常な数から逸脱していて、受精するにも(卵細胞)または機能的花粉源としても(花粉)、部分的にまたは完全に不十分な染色体数を有することがわかった。この場合、形質転換体は雄性不稔または雌性不稔であるか、種子生産が低下する。
【0196】
しかし、一部の小胞子および花粉は、減数分裂によって生じる正常で機能的な染色体セットの染色体を持ち、そこでは(野生型と比較して)組換えが全くまたはほとんど起こっていない。これらの半数体小胞子および卵細胞は、倍加半数体を作製するための出発材料である。
【0197】
トウモロコシの半数体は、Pescitelli SおよびPetolino J(1988)Plant Cell Reports7:441−444、CoumansMら(1989)Plant Cell Reports 7:618−621、PescitelliSら(1989)Plant CellReports 7:673−676、ButerB(1997)「In VitroHaploidProduction in Higher plants」第4巻(Kluwer AcademicPublishers,編者:S Jain、SSoporyおよびR Veilleux)の37〜71頁に記載されているように、小胞子から得る。
【0198】
次に、半数体植物から自発的二倍体化によって、または化学的に、二倍体植物を作出する。好ましくは、1コピーの導入遺伝子を持っている植物を選択する。減数分裂中に起こる組換えの減少または排除により、これらの植物の一部はすべての対立遺伝子についてホモ接合である。平均すると、これらの倍加半数体のうち50%は、組換えダウンレギュレーションを起こす導入遺伝子を持ち、50%はトランスジェニック核酸を持たない。
【0199】
もう一つの選択肢として、Rotarenco V(2002)Maize Genetics Cooperation News Letter76:16に記載されているように、自然受粉および人為受粉後に、半数体誘導因子を使って、半数体トウモロコシ植物を作出した。この場合は、半数体胚を含む種子が得られた。またこの場合は、ヘミ接合ドナー材料からの分離により導入遺伝子を失っている半数体だけを維持する。
【0200】
染色体倍加は、Wan,YおよびWidholm,J(1995)Z.Pflanzenzuecht114:253−255に記載されているように行う。
【0201】
形質転換事象の反復を避けるために、1コピーの導入遺伝子を含む植物(サザンブロットまたはいわゆるインベーダー(Invader)技術を使って確認)を交配用にとっておく。
【0202】
2.2.イネ
イネの遺伝的形質転換は、Zhang BingおよびWei Zhiming(1999)Acta Phytophysiologica Sinicavol25,no 4、またはDattaおよびDatta(1999)「Methodsin molecularbiology」第111巻(RobertD.Hall編,Humana pressTotowa,ニュージャージー)の335〜347頁に従って行う。
【0203】
減数分裂中の組換えを阻害する上記阻害DNAをイネゲノムに組み込んだ後、好ましくは、1コピーの阻害DNAを含む再生植物をさらに使用し、GosalSら(1997)「In VitroHaploidProduction in Higher plants」第4巻(Kluwer AcademicPublishers.編者:S Jain、SSoporyおよびR Veilleux)の1〜35頁に従って、葯培養、小胞子培養および子房培養により、倍加半数体を作製する。
【0204】
2.3.タマネギ
本発明の方法は染色体数が比較的少ない作物にはとりわけ有効である。したがってタマネギ(2n=2x=16)は、本発明の実際的応用にとって優れた種である。タマネギでの形質転換は、Eady(1995)NewZealand Jounalof Cropand HorticulturalScience,vol23:239−250によって開発されたプロトコールに従って行う。
【0205】
ここでも、減数分裂中の組換えを阻害するサイレンシングDNAを1コピー持っている植物を維持して、KellerEおよびKorzun L.(1996)「InVitro Haploid Production in Higher plants」第3巻(Kluwer Academic Publishers,編者:SJain,SSoporyおよびR Veilleux)の51〜75頁に従って倍加半数体を作製するための出発材料として使用する。
【0206】
次に、半数体植物から自発的二倍体化によって、または化学的に、二倍体植物を作出する。
【0207】
2.4.キュウリ
半数体染色体数が7であるキュウリも、本発明が極めて有効な作物種である。サイレンシング構築物は、EP−97114654.3に開示されているように胚形性カルスにアグロバクテリウム(Agrobacterium)形質転換法によって導入するか、GanapathiAおよびPerl−Treves R.,ISHS Acta Horticulturae510:VII EucarpiaMeeting onCucurbit Geneticsand Breeding、MohiuddiniAら(2000)PlantTissue Cult10(2):167−173に従って、直接器官形成により、アグロバクテリウム(Agrobacterium)形質転換法で導入する。
【0208】
減数分裂中の組換えを阻害する形質転換DNAを1コピーだけ持っている形質転換体を同定した後、EP0 374755に記載されているように、雌性発生によって半数体を作出する。
【0209】
次に、半数体植物から自発的二倍体化によって、または化学的に、二倍体植物を作製する。
【0210】
2.5.サトウダイコン
サトウダイコンでの形質転換はHall Rら(1996)Nature Biotechnology14,1133−1138に記載されているように行う。
【0211】
次に、Pedersen HおよびKeimer B(1996)「In Vitro Haploid Production in Higherplants」第3巻(Kluwer AcademicPublishers,編者:S Jain,S SoporyおよびRVeilleux)の17〜36頁に記載されているように、倍加半数体を得る。
【0212】
2.6.アブラナ属(Brassica)の種
さまざまなアブラナ属(Brassica)の種の形質転換は、セイヨウアブラナ(Brassicanapus)の場合はMoloney Mら(1989)Plant CellReports 8,238−242に従って、ブロッコリ(Brassicaoleracea var.italica)およびキャベツ(B.oleraceavar.Capitata)の場合はMetz Tら(1995)Plant CellReports 15,287−292に従って、またカリフラワー(Brassicaoleracea var.Botrytis)の場合はBhallaPおよびSmith N(1998)MolecularBreeding 4,531−541)に従って行う。
【0213】
倍加半数体は、Palmer Cら.(1996)「In Vitro Haploid Production in Higherplants」第2巻(KluwerAcademic Publishers,編者:SJain,S SoporyおよびRVeilleux)の143〜172頁に従って行った。
【0214】
2.7.ナス
ナス(Solanum melongena)の形質転換は、Leoneら(1993)「Biotechnologyin AgricultureandForestry,vol.22,Plant Protoplasts and Genetic EngineeringIII」(Y.P.S.Bajaj編,Springer−Verlag(ハイデルベルグ))の320〜328頁に従って行う。倍加半数体はDumasdeVaulx,R.およびChambonnet(1982)Agronomie2:983−988に従って作製する。次に、半数体植物から自発的二倍体化によって、または化学的に、二倍体植物を作出する。
【実施例7】
【0215】
CMS(細胞質雄性不稔)を導入するための逆育種
CMSはF1雑種品種の作出において最も有名な植物育種手段の一つである。農業者は、彼らが購入する種子から得られる植物が均質な表現型(したがって好ましくは遺伝子型)を有することを要求する。これを達成するには、種子生産植物の自家受粉を排除する必要がある。これを行うには、手作業による雌性系統の除雄が必要であるが、これは費用がかさみ失敗も起こしやすい作業である。
【0216】
一部の作物では、自然の雄性不稔がより良くより効率的な代替手段になる。そのような作物には、例えばイネ、サトウダイコン、ニンジン、アブラナ属(Brassica)の種があるが、これらに限るわけではない。1970年まで、雑種トウモロコシのほぼすべてが、F1作出にT細胞質を使って生産されていた。
【0217】
自家受精によって繁殖された、伝統的な植物育種の結果である、または倍加半数体法を使って得られる、選択した純系は、その系統を細胞質不稔のキャリアである系統と交配することによって、雄性不稔に変換される。
【0218】
好ましくは、当業者にはよく知られているように、遺伝子マーカーを使って、例えばAFLP、RFLP、RAPD、Invaderなど(ただしこれらに限らない)によって、花粉源およびCMSドナーを遺伝学的に特徴づける。
【0219】
この実施例では、他の実施例に例示するように、雄性不稔系統を組換えに関して抑制する。この抑制がトランスジェニックに達成されたら、導入遺伝子についてホモ接合である系統を選択する。花粉源とCMSアクセプターとの交配によって得られるF1後代は、両親から染色体の50%を受け継ぐ。この世代の植物によって生産される卵細胞は、組換えが起こらない状態で生成する。これは、半数体染色体数が9であるならば(カリフラワー、ニンジンおよびサトウダイコンはこれに当てはまる)、完全な染色体セットを含む卵細胞は、512個につき1個の割合で、卵細胞または花粉源からの花粉と全く同じ染色体構成を受け継ぐことを意味している。これは、受粉が成功すれば、第2の戻し交配により、元の花粉源の染色体内容物がCMS系統の細胞質環境中に移されている種子が生じることを意味している。
【0220】
この同質遺伝子系統の同定は分子マーカーを使って行う。
【実施例8】
【0221】
本発明を利用したホモ接合CMS系統(A系統)からの維持系統(B系統)の作出
ニンジン(Daucus carota)、キャベツ類(Brassica oleracea)またはダイコン(Raphanussativus)の維持系統またはB系統を、ホモ接合細胞質雄性不稔系統またはA系統から出発して、本発明を使って作出した。多くの作物では、細胞質雄性不稔(CMS)母系統が雑種種子の生産に使用されている。CMS母系統(A系統)は、同じまたは高度に類似する核構成を有するが細胞質は正常であるために雄性稔性である系統との戻し交配によって維持される(B系統)。多くの場合、新しいA系統は、優良雄性稔性遺伝子型をCMS植物と交配し、その子孫中に、CMSを維持している組合せ(B系統、すなわち「維持系統能」を有する系統、すなわち回復遺伝子を欠く系統)を選択し、そのCMS後代を元のB系統と、得られたA系統が遺伝的にB系統に極めて類似するまで戻し交配することによって作出される。驚くべきことに、回復遺伝子が存在する種(アブラナ属、ニンジン、ラディッシュ)では、逆育種によって、対応するB系統を、任意のホモ接合CMS植物から、下記の育種スキームによって得ることができる。この育種スキームで使用する記号は次のとおりである。
=回復遺伝子あり
=維持能あり/回復遺伝子なし
またはR=標的遺伝子の活性の抑制因子あり
=標的遺伝子の活性の抑制因子なし
N=正常稔性細胞質
S=細胞質雄性不稔細胞質。
【0222】
【化1A】

【化1B】

【実施例9】
【0223】
分裂組織細胞のカフェイン処理を用いる逆育種
次亜塩素酸塩の6%溶液(市販の漂白剤、最終濃度1.5%NaOCl)に30分間浸漬した後、滅菌milliQでよくすすぐことによって、キャベツ類(Brassicaoleraceae)の種子を表面殺菌する。次に、その種子を滅菌湿潤ろ紙上で発芽させる。一次根を示す発芽種子を、70mmol/Lのカフェイン溶液に2時間浸漬した後、その種子を滅菌milliQですすぐ。
【0224】
次に、種子を滅菌湿潤ろ紙上に24時間置くことによって、種子を回復させる。植物種が異なると最適な処理も異なりうるので、最適な処理は、さまざまなカフェイン濃度、さまざまなインキュベーション時間およびさまざまな回復時間を調べることによって確立すべきである。処理の後、根端を調製し、それらを0.5μg/lの2,4−D(2,4−ジクロロフェノキシ酢酸)が入っているMS培地に移し、暗所に2週間置いてカルスを誘導することにより、分裂組織細胞を組織培養にとりだす。
【0225】
このカルス誘導の後、0.5mg/LのBAを含む培地上にカルスを置くことによって、植物を再生させた(明/暗=16/8時間、25℃)。再生後に、各染色体の遺伝子マーカーを使って、好ましくは各染色体セットについて多型であるマーカーを使って、各半数体染色体の有無を分子的に解析する。完全な一揃いの染色体を含む半数体苗条を、コルヒチンで処理することによって倍加する。
【実施例10】
【0226】
完全な染色体セットを含む半数体植物の選択後に異数性を化学誘導することによる逆育種
C.B.S.R.Sharma(1990)Mutagenesis 5,105−125とその引用文献およびSandhuら(1991)Mutagenesis 6,369−373に従って、前減数分裂状態にある若い花芽を有するキャベツ類(Brassica oleraceae)の顕花植物を、異数性を誘導することが知られているさまざまな化学化合物(エトポシド、ポドフィリン、ベノミル、マレイン酸ヒドラジド、アトラジン、ブタクロル、APM、グリセオフルビン、ビンブラスチン硫酸、ジアゼパム、コルヒチン、塩化カドミウム、エコナゾール、ピリメタミン、チアベンダゾール、チメロザールまたはノコダゾールから選択)で処理する。
【0227】
化学物質は、前減数分裂花芽を溶液に漬けるか、前減数分裂花芽に溶液を噴霧することによって適用する。ある植物の花芽の発育段階は一律でない場合があり、そのため適用する化学物質の有効性は個々の花芽ごとに異なりうるので、最大数の花芽について適切な発育段階をばく露する確率が増加するように、処理は何度も繰り返す。溶液は、上記化学化合物の他に、Agralin(SyngentaRoosendaal,オランダ)(0.25ml/100ml)などの界面活性剤を含む。
【0228】
適用後に、処理した芽にラベルを付けて、小胞子再生に最適な段階(平均すると芽が約3ミリメートルの長さになった時)まで栽培する。精製された小胞子をこれらの芽から収集し、半数体細胞の胞子体発育を誘導するのに最適な32℃で2日間のストレス処理を施した。
【0229】
再生の後、苗条を、上述のように各半数体染色体の有無について解析する。完全な一揃いの染色体を含む半数体苗条を、コルヒチンによる処理で倍加する。
【実施例11】
【0230】
現在、栄養繁殖技術によって商業的に増殖されている種に種子繁殖品種を提供するための本発明の使用
多くの商業植物種は、例えば多くの観賞用植物および木本では、栄養繁殖またはクローン繁殖が、商業的繁殖の唯一のまたは主たる方法である。これらの種の育種計画では、優れた遺伝子型を分離集団中に、例えばF2中に同定した後、それらを維持し、当業者によく知られている栄養増殖技術によって増殖する。これらの種の多くでは(ヘテロ接合)植物の栄養繁殖の方法が支配的になっている。なぜなら(多くの一年生および二年生作物で行われるような)種子による雑種品種の作出には、数世代にわたる親系統の同系交配がまず必要であるが、これは、多くの木本種および樹種では、あまりにも長い時間を要するので、商業的計画には適さないからである。栄養繁殖を利用すれば、優れた遺伝子型が増殖されて遺伝的に同一な植物のストックとなり、種子繁殖雑種作物の場合のように親系統の作出に時間を「浪費」することがない。
【0231】
しかし栄養繁殖には明らかな欠点もある。栄養繁殖による植物生産のロジスティクスは、種子による場合よりもはるかに困難である。種子は容易に貯蔵することができ、長期間にわたって問題を生じないことも多い。商業的な量の苗木が必要な場合はいつでも種子を蒔くことができる。栄養繁殖される材料の場合は、変動する新しい苗木の商業的需要にこたえることが、はるかに困難である。また、栄養生産は労働および技術集約的であり、したがって相対的に費用がかさむ。疾病、特にウイルスは、栄養増殖につきまとう脅威である。多くのウイルスは種子では伝達されないが、栄養生殖技術によって得られるクローン子孫には容易に伝達される。そのため、一部の国では、栄養繁殖によって生産される植物の輸入を律する厳しい検疫規則が設けられている。その上、栄養繁殖ではどの遺伝子型でも等しく機能するわけではない。この方法では繁殖が困難なものもある。例えば、挿し木の発根能は種およびクローン間で異なる。
【0232】
本発明の逆育種により、ヘテロ接合クローン繁殖植物の遺伝子型を再合成し、その遺伝子型を有する雑種種子を提供することができるようになった。
【0233】
リンゴ(Malus domestica)の形質転換はYepes,L.M.およびH.S.Aldwinckle1989.Genetic transformation ofapple.Abstract.UCLASymposium onPlant GeneTransfer.(ユタ州パークシティ,1989年4月1〜7日)に従って行われる。
【0234】
Zhangら(1992)Plant Breeding 108:173−176に従って倍加半数体を作製する。次に、半数体植物から自発的二倍体化によって、または化学的に、二倍体植物を作出する。
【実施例12】
【0235】
逆育種を使った雑種作物の種子生産の改善
商業的規模での雑種種子の生産では、種子の品質または量の低下につながる数多くの困難に直面しうる。これが、結果として、高品質雑種品種の商品化を妨げる場合もある。これらの困難は、例えば雑種の母系統の種子生産能が本質的に低いことや、雑種の母系統および父系統の開花期の相違、作物丈または花形態の相違(ある花型の方が他の花型より好まれるので、昆虫による他家受粉の実行が妨げられる)など、多種多様な要因によって引き起こされうる。
【0236】
本発明の逆育種を、農学的性質は優れているが種子生産量が低いという特徴(これはその雑種の商品化を魅力の少ないものにするか、さらには不可能にさえする)を有する雑種に応用することにより、元の母系統および父系統とは異なる系統を使って、その雑種を再合成することができる。品質と量がどちらも高い市販種子の生産が可能になるような系統の組合せを選択することにより、雑種の商品化は経済的に実行可能になるか、またはより魅力的になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ接合の非ヒト出発生物から効率的にホモ接合生物を作出する方法であって、
a)ヘテロ接合の出発生物を用意するステップと
b)前記出発生物に半数体細胞を生産させるステップと、
c)そのようにして得た半数体細胞からホモ接合生物を作製するステップと、
d)所望の染色体セットを有する生物を選択するステップと、
を含み、限られた数の遺伝的に異なる半数体細胞が得られるように、前記半数体細胞の生産中に組換えが起こらないことを特徴とする方法。
【請求項2】
組換えが少なくとも部分的に防止または抑制される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生物が動物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
生物が植物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
生物が菌類である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
組換えの防止または抑制が、組換えに関与する1つまたはそれ以上の標的遺伝子を妨害することによって達成される、請求項2〜5に記載の方法。
【請求項7】
標的遺伝子が二本鎖切断に関与する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
標的遺伝子が、SPO11、MER1、MER2、MRE2、MEI4、REC102、REC104、REC114、MEK1/MRE4、RED1、HOP1、RAD50、MRE11、XRS2、またはそれらの機能的ホモログからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
標的遺伝子が染色体対合および/または鎖交換に関与する、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
標的遺伝子が、RHD54/TID1、DMC1、SAE3、RED1、HOP1、HOP2、REC8、MER1、MRE2、ZIP1、ZIP2、MEI5、RAD51、RAD52、RAD54、RAD55、RAD57、RPA、SMC3、SCC1、MSH2、MSH3、MSH6、PMS1、SOLODANCERS、HIM6、CHK2、またはそれらの機能的ホモログからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
標的遺伝子が減数分裂期組換えプロセスに関与する、請求項6に記載の方法。
【請求項12】
標的遺伝子が、SGS1、MSH4、MSH5、ZIP1およびZIP2、またはそれらの機能的ホモログからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
標的遺伝子の妨害がその転写を防止することからなる、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
転写が、標的遺伝子プロモーターに対するRNAオリゴヌクレオチド、DNAオリゴヌクレオチドまたはRNAi分子を使って防止される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
転写が、標的遺伝子プロモーターに働く負に作用する転写因子の発現によって防止される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
標的遺伝子の妨害が、標的遺伝子のmRNAまたは標的遺伝子の転写物を不安定化することからなる、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
標的遺伝子mRNAが、アンチセンスRNA、RNAi分子、ウイルス誘導性遺伝子サイレンシング(VIGS)分子、共抑制因子分子、RNAオリゴヌクレオチドまたはDNAオリゴヌクレオチドからなる群より選択される、標的遺伝子mRNAまたは標的遺伝子転写物に相補的な核酸分子を使って不安定化される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
標的遺伝子の妨害が、標的遺伝子の発現産物を阻害することからなる、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
標的遺伝子発現産物が、1つまたはそれ以上のドミナントネガティブ核酸構築物の発現産物を使って阻害される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
標的遺伝子の発現産物が、標的遺伝子産物と相互作用する1つまたはそれ以上の抑制因子の(過剰)発現を使って阻害される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
標的遺伝子の発現産物が、1つまたはそれ以上の化学化合物を使って阻害される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
標的遺伝子の妨害が、標的遺伝子の生物学的機能の混乱をもたらす標的遺伝子への1つまたはそれ以上の突然変異の導入からなる、請求項6〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
1つまたはそれ以上の突然変異が、1つまたはそれ以上の化学化合物および/または物理的手段および/または遺伝要素の挿入を使ってランダムに導入される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
1つまたはそれ以上の化学化合物が、エチルメタンスルホネート、ニトロソメチルウレア、ヒドロキシルアミン、プロフラビン、N−メチル−N−ニトロソグアニジン、N−エチル−N−ニトロソウレア、N−メチル−N−ニトロ−ニトロソグアニジン、硫酸ジエチル、エチレンイミン、アジ化ナトリウム、ホルマリン、ウレタン、フェノールおよび酸化エチレンからなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
物理的手段が、UV照射、高速中性子ばく露、X線、ガンマ線照射からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
遺伝要素が、トランスポゾン、T−DNA、レトロウイルス要素からなる群より選択される、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
1つまたはそれ以上の突然変異が、相同組換えまたはオリゴヌクレオチドに基づく突然変異誘発を使って特異的に導入される、請求項22に記載の方法。
【請求項28】
組換えの防止または抑制が、紡錘体の形成を防止する化学化合物によって達成される、請求項1〜5に記載の方法。
【請求項29】
組換えの防止または抑制が、異数性を誘導する化学化合物によって達成される、請求項1〜5に記載の方法。
【請求項30】
そのようにして得られた半数体細胞からホモ接合生物を作製するステップが、倍加半数体技術を使って行われる、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
そのようにして得られた半数体細胞からホモ接合生物を作製するステップが、第二分裂復旧を使って行われる、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
そのようにして得た半数体細胞からホモ接合生物を作製するステップが、前記半数体細胞を含む植物を自家受粉させて種子の集団を生産し、分子遺伝子タイピングを使ってその集団内のホモ接合種子を同定し、そのようにして同定されたホモ接合種子から植物を生長させることによって行われる、請求項1〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
請求項1〜32のいずれか一項に記載の方法を使って得られるホモ接合生物。
【請求項34】
交配に親として使用するための請求項33に記載のホモ接合生物。
【請求項35】
組換えに関与する標的遺伝子の発現を改変するためのサイレンシング構築物であって、適切な転写開始配列および転写終結配列と、標的遺伝子のコーディング鎖の少なくとも一部のヌクレオチド配列またはその相補配列を有するサイレンシングDNA配列とを含む構築物。
【請求項36】
サイレンシングDNA配列が、標的遺伝子のヌクレオチド配列に対して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%相同なヌクレオチド配列を有する、請求項35に記載の構築物。
【請求項37】
ホモロジーが、標的遺伝子のうち、それがコードするタンパク質の生物学的機能にとって不可欠な部分について決定される、請求項36に記載の構築物。
【請求項38】
構築物がpRZ051、pRZ052、pRZ054である、請求項35〜37のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項39】
組換えに関与する標的遺伝子の発現を改変するためのサイレンシング構築物であって、適切な転写開始配列および転写終結配列と、標的遺伝子のプロモーターの少なくとも一部のヌクレオチド配列またはその相補配列を有するサイレンシングDNA配列とを含む構築物。
【請求項40】
サイレンシングDNA配列が、標的遺伝子のプロモーターに対して、少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%相同なヌクレオチド配列を有する、請求項39に記載の構築物。
【請求項41】
ホモロジーが、標的遺伝子のうち、そのプロモーターの生物学的機能にとって不可欠な部分について決定される、請求項40に記載の構築物。
【請求項42】
1.5’−ACAGAGGCTTTTGGGGAATT−3’(配列番号9)および逆相補プライマー5’−ACAGAGGCTTTTGGGGAATT−3’(配列番号10)、
2.5’−GTTTTTTATGGCTCATATTGGATGTTTYGTNCCNGC−3’(配列番号13)および逆相補プライマー5’−TCCACAGTATTAGTTCCCTTTCCAWAYTCRTCDAT−3’(配列番号14)、
3.TgTCCCGGCTGCATCGGCCAAAATCGGC−3’(配列番号15)および逆相補プライマー5’−GAATTCGTCAATCAAAATCAGTGACCG−3’(配列番号16)
からなる群より選択される、減数分裂期組換えに関与する標的遺伝子の同定に使用するためのプライマーセット。
【請求項43】
細胞質雄性不稔(CMS)の導入を行うための、請求項1〜32に記載の方法の使用。
【請求項44】
F1雑種種子の生産用親系統を作製するための、請求項1〜32に記載の方法の使用。
【請求項45】
請求項1〜32に記載の方法を使って作出される所望の染色体セットを有する植物を交配することによって得ることができるF1雑種種子。
【請求項46】
請求項1に記載の出発生物と同じ遺伝子構成を有する胚と、出発生物をもたらした種子の種皮の遺伝子構成と同じ遺伝子構成を有する種皮とを有する種子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−225803(P2009−225803A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−131984(P2009−131984)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【分割の表示】特願2003−522290(P2003−522290)の分割
【原出願日】平成14年8月23日(2002.8.23)
【出願人】(500502222)ライク・ズワーン・ザードテールト・アン・ザードハンデル・ベスローテン・フェンノートシャップ (19)
【Fターム(参考)】