説明

透光性セラミックス

【課題】本発明の目的は、簡易な方法により得られる透光性に優れたMgOの固溶体からなる透光性セラミックスを提供することにある。
【解決手段】本発明の透光性セラミックスは、第1成分に第2成分が固溶した固溶体からなるものであって、該固溶体は、単結晶または多結晶体であり、該第1成分は、MgOであり、該第2成分は、Fe、Ni、Co、Cu、Mn、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素または該元素を含む化合物であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MgOに特定の成分が固溶した固溶体からなる透光性セラミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
MgO(酸化マグネシウムまたはマグネシア)は、その結晶構造が立方晶であり複屈折が無いため、気孔や不純物の偏析を除去することにより透光性に優れた焼結体を得ることが可能である。このようなMgOは、融点が2800℃と非常に高く、耐熱性、耐アルカリ性及び高熱伝導性を有する優れた素材であることが知られている。しかしながら、MgOはその融点が極めて高いため、既存の単結晶合成技術では光学的に優れた大型結晶を合成することは困難であった。
【0003】
一方セラミックス(多結晶体)は、融点以下の比較的低い温度での合成が可能であるため、MgO同様高融点の酸化イットリウム(イットリア)やその他希土類酸化物に関して、従来より赤外用高温窓材、放電ランプ用エンベロープ、耐食部材等に適用すべく検討が盛んに行われている。
【0004】
多結晶透光性MgO焼結体に関する報告例としては、MgO粉末を有機溶媒に分散し、再仮焼して焼結性を改善する方法等が挙げられる(たとえば特許文献1)。また焼結助剤を添加する方法としては、溶液状のアルミニウム化合物を添加する方法(特許文献2)、SiO2と微量のB23を添加する方法(特許文献3)、酸化スカンジウム、酸化イッテルビウム、酸化ゲルマニウムを0.01〜0.5wt%添加し、不活性雰囲気で焼成する方法(特許文献4)等が挙げられる。
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の手法では、充分な透光性の焼結体を得ることは非常に困難であると共に、MgOの緻密化を促進する有機溶剤の役割が未解明であり、粉末の製造履歴によっては有機溶媒の添加効果が発現しない場合がある。また、上記特許文献2の手法においては、透過率に関する記述が無いために詳細は不明であるが、Al23単独で透光性の高い焼結体を作製するためには、非常に焼結性に優れた原料粉末を使用する必要がある。
【0006】
さらに、上記特許文献3の手法では、B23が微量であってもMgOの高温での機械的強度を低下させる上、低融点物である硼素化合物によって焼成炉が激しく汚染されるという欠点がある。また、特許文献4の手法においては、1700℃以上という比較的高温で焼成しているにもかかわらず、透光性も全透過率で80%程度であり、理論透過率(約88%)には遠く及ばないという欠点がある。 また、これら焼結助剤を添加する方法では、比表面積は記載されていないため詳細は不明であるが、非常に微細なMgO粉末を用いている。粉体の粒子径が小さくなるほど焼結活性は高くなるが、粒子間の摩擦力が大きくなり、均一な組織の成形体を作製することは難しくなる。また収縮が大きくなり、亀裂が発生しやすくなる等の欠点もある。
【0007】
また、上記の諸事情に共通する最大の課題は、MgO自体が極めて水分と反応しやすく、耐湿性・耐水性に大きな問題があり、例えばレンズ材料として長い時間使用するにつれ、表面が白濁し透過率が低下してしまうという致命的な問題もある。
【特許文献1】特開昭51−80313号公報
【特許文献2】特開昭59−50068号公報
【特許文献3】特開2000−281428号公報
【特許文献4】特開昭48−2883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような現状に鑑みなされたものであって、その目的とするところは、簡易な方法により得られる透光性と耐湿性・耐水性に優れたMgOの固溶体からなる透光性セラミックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の透光性セラミックスは、第1成分に第2成分が固溶した固溶体からなるものであって、該固溶体は、単結晶または多結晶体であり、該第1成分は、MgOであり、該第2成分は、Fe、Ni、Co、Cu、Mn、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素または該元素を含む化合物であることを特徴とする。
【0010】
ここで、上記透光性セラミックスは、その厚みが1mmである場合において、420〜680nmの波長領域の光の直線透過率が85%以上であることが好ましく、さらに87%以上であることが好ましい。また、上記透光性セラミックスは、焼結体であることが好ましい。
【0011】
また、上記第2成分は、ZnO、NiO、またはCuOのいずれかであることが好ましく、該固溶体に占める第2成分の比率は、0.3mol%以上5mol%以下であることが好ましい。
【0012】
また、上記透光性セラミックスは、上記固溶体以外の第二相を含まないことが好ましい。
【0013】
また、本発明は、上記の透光性セラミックスを用いたカラー液晶プロジェクター用の光学素子にも関し、さらにその光学素子を用いたカラー液晶プロジェクターにも関する。
【0014】
さらに、本発明は、上記の透光性セラミックスを製造する製造方法であって、上記固溶体の粉末または該粉末に焼結助剤を添加した混合粉末を調製する工程と、上記粉末または上記混合粉末を成形することにより成形体を得る工程と、上記成形体を焼結することにより焼結体を得る工程と、上記焼結体を熱間静水圧プレスすることにより透光性セラミックスを完成する工程と、を含む透光性セラミックスを製造する製造方法にも関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の透光性セラミックスは、簡易な方法により得ることができ、透光性と耐湿性・耐水性に優れるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
<透光性セラミックス>
本発明の透光性セラミックスは、第1成分に第2成分が固溶した固溶体からなり、該固溶体は単結晶であっても良いし、多結晶体であっても良い。このように本発明の透光性セラミックスは単結晶として作製してもよいし、多結晶体(焼結体)として作製してもよい。固溶体としたことにより融点が低下するので、サファイア単結晶の合成法として知られる安価なベルヌイ法やCZ法での合成も可能になる。また、焼結体を合成する場合でも、融点の低下により焼結温度が低下し、加圧焼結しなくても製造することが可能である。
【0017】
本発明の透光性セラミックスは、カラー液晶プロジェクターを初めとする光学材料に要求される下記のような特性を有している。
(1)光学的等方性、すなわち結晶系が立方晶であるため透光性に優れること
(2)熱伝導率が高いこと
(3)化学的に安定であること
(4)融点が低いこと
一般にMgOは、融点が2800℃と極めて高いことから単結晶を合成する際でもチョクラルスキー(CZ)法やベルヌイ法では困難であり、このため極めて高価な電融法を取らざるを得ず極めて高価な材料となっている。また、MgOの原料粉末を焼結させてセラミックスを合成する際にも、融点が高いことは焼結性の低下に通じるため、高温が必要で、かつ、ホットプレス等の加圧焼結を用いて強制的に緻密化を図らざるを得ない。
【0018】
これに対して、図1に示すようにMgOは、たとえばZnOなどの第2成分に対して幅広い組成域で固溶体を形成し、また焼結助剤等を用いない場合はその固溶体は第二相を形成せず、立方晶を維持するので光学的等方性を確保することができ、かつ第二相が粒界に存在しないので透明になり易いという特性を有している。第二相が生成しない範囲は、ZnOを第2成分とする系では、ZnOが約20mol%以下の範囲であり、Ni、Co、Cu、またはFeを第2成分とする系では、第2成分の比率の多寡に係らず全比率範囲で固溶し第二相を生成することはない(全ての組成域に渡って固溶体を形成する)。
【0019】
ZnOを第二成分とする系において、ZnOが20mol%を超えると、MgOと屈折率の異なる六方晶型のZnOが共析する(図1においてMgO(SS)+ZnO(SS)で示される領域)ので光学的に透明になりにくく、複屈折も起こりやすくなる。また、ZnOが0.3mol%未満では融点の低下の度合いが小さくなるので、単純なMgO焼結体と差がなくなる。
【0020】
本発明の透光性セラミックスは、MgOのこのような特性を利用したものである。なお、本発明の透光性セラミックスは、透光性という観点からは該固溶体以外の第二相を含まないことが好ましい。
【0021】
ところで、このようなMgOの固溶体は、ZnO等の第2成分の固溶と共に融点および液相出現温度も低下するので単結晶も焼結セラミックス(多結晶体)も両者とも合成がしやすくなるというメリットを有している。
【0022】
ここで、本発明の透光性セラミックスを構成する第1成分に第2成分が固溶した固溶体とは、第1成分であるMgOと同じ結晶構造を有し、その粉末X線回折パターンはMgOと実質的に同じであり、他のいかなる化合物の回折パターンも現れず、固溶している第2成分のイオン半径とその固溶量によって、わずかに回折角度がシフトするものを意味するものとする。基本的には、Mgのイオン半径よりも小さなイオンが固溶した場合は、MgOの格子定数が小さくなるため、回折パターンは高角度側にシフトする。
【0023】
通常、MgOは極めて水分と反応しやすいセラミックスであり、空気中の水分と反応してMg(OH)2を形成し失透していくだけでなく、やがて崩壊していく性質を持つ。このようなMgOを光学レンズとして使用すると、経時変化して表面が失透していく。この現象は特に焼結体に顕著であるが、ZnO等の第2成分を固溶させることで第1成分であるMgOの表面活性が低下し水分との反応が抑制されるので、本発明の固溶体は長期的にも化学的に安定した材料となる。
【0024】
このような本発明の透光性セラミックスは、焼結体であることが好ましい。
<第1成分>
上記固溶体を構成する本発明の第1成分は、MgOである。一般に、MgO粉末は耐湿性が低く、空気中で自然に表面がMg(OH)2に転化してしまう。このようなMgO粉末を成形後焼結すると、表面のMg(OH)2が500℃程度までの温度範囲でMgOに再度転化する。この時、大きな体積収縮が生じるために成形体の相対密度は大きく低下して極めて焼結性の低い成形体となってしまう。
【0025】
これに対して、本発明のようにMgOの固溶体粉末は耐湿性や耐水性が改善されるため、体積収縮による成形体の相対密度低下が少なく焼結性が向上するという利点を有する。この効果は、原料粉末粒径がナノサイズまで小さくなった時に顕著となる。ナノサイズ粉末は極めて焼結性が高いために、焼結温度を低下させることができるという利点があるが、固溶体ではない純粋なMgOの場合、表面が活性であるためMg(OH)2への転化が激しい。これに対して、MgO固溶体粉末を用いることにより、ナノサイズの粉末原料を使用した場合でも焼結性に優れた成形体を得ることができるという利点がある。
【0026】
もちろん、このようなMgO固溶体からなる緻密な焼結体の耐湿性・耐水性自体も、純粋なMgOからなる焼結体が有する耐湿性・耐水性に比し改善されることは言うまでもない。
【0027】
<第2成分>
上記固溶体を構成する本発明の第2成分は、Fe、Ni、Co、Cu、Mn、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素または該元素を含む化合物である。上記の通り、このような第2成分は、MgOである第1成分に固溶することにより、その融点を低下させるとともに耐湿性や耐水性を改善するという優れた特性を付与するものである。
【0028】
このような第2成分は、ZnO、NiO、またはCuOのいずれかであることが好ましく、特にZnOであることが好ましい。ZnOはそれ自体の熱伝導率が56W/mK程度と高く、また、以下の表1の通りZnとMgとはイオン半径が近似しており、ZnOがMgOに固溶した場合に格子歪みの程度が小さく、MgOの熱伝導率を大きく低下させることがないというメリットを有しているためである。
【0029】
なお、Fe、Ni、Co、Cuを用いても上記ZnOと同様に、MgOの融点は低下し、かつ固溶体を形成する効果が得られる。しかし、MgOの高い熱伝導率が大きく低下しないか否かは、これらの元素のイオン半径を考慮する必要がある。MgOの結晶系は岩塩構造(NaCl型)であり、金属原子は6配位の二価イオンとなる。以下の表1は各種元素のイオン半径(Å)、ならびにMgイオンとのイオン半径の整合性Δr(%)を示している。なお、Δrは次の式で表わされ、その絶対値が小さいものほどMgイオンのイオン半径に近似することを示している。
Δr=(Mgのイオン半径−当該元素のイオン半径)/Mgのイオン半径×100(%)
【0030】
【表1】

【0031】
表1より明らかなように、整合性Δrが最も高いのはCuであるが、CuOは光学バンドギャップ(Eg=1.4eV)が小さいため、60mol%以上固溶させると、MgCuOの光学バンドギャップが400nm以上となり、一部の可視光が吸収されることがある。一方、ZnOに続いて比較的イオン半径の整合性の高いNiは、NiOの光学バンドギャップ(Eg=3.7eV)が大きく、組成に関わらずMgNiOの光学バンドギャップは紫外域に存在するため好ましい。
【0032】
これに対して、CoはバンドギャップがZnOとほぼ同じで(Eg=3.2eV)、Niの場合と同様に、MgCoOは光学的に透明であるが、イオン半径の整合性が低いので少量の固溶でも熱伝導率は低下する傾向にある。Fe、Mnはイオン半径の整合性が最も低いので熱伝導率の低下が大きくなる傾向にある。
【0033】
経験的には、整合性Δrの絶対値が5%以下であることが好ましく、この条件を満たすZn、Ni、Cuが好ましく、特に上記の通りZnO、NiO、またはCuOのいずれかを採用することが好ましい。
【0034】
このような第2成分の上記固溶体に占める比率は、上記で定義したような本発明の固溶体が得られる範囲(図1においてMgO(SS)で示される領域)であれば特に限定されるものではないが、0.3mol%以上5mol%以下とすることが特に好ましい。5mol%を超えると熱伝導率の低下が大きく、0.3mol%未満では、熱伝導率はほとんど低下しないが、耐湿性や光学特性が純粋なMgOと変わらなくなる。
【0035】
<直線透過率>
本発明の透光性セラミックスは、条件を選べばその厚みが1mmである場合において、420〜680nmの波長領域の光の直線透過率が85%以上という優れた透光性を有するものを作製することもできる。その直線透過率は、より好ましくは87%以上である。
【0036】
一方、この直線透過率の上限はMgOの屈折率(1.75)から算出され、約88%となるのが理想である。ここで、この直線透過率とは、厚みが1mmである透光性セラミックスの表面に対する垂直方向(すなわち厚みの深さ方向)の光の透過率を示す。このような直線透過率は、分光光度計により測定することができる。
【0037】
<用途>
本発明の透光性セラミックスは、上記のような特性を有するため、通常の光学レンズに要求される物性を満足し、特にカラー液晶プロジェクター用の光学素子として用いることができる。そして本発明は、このような光学素子を用いたカラー液晶プロジェクターにも関する。
【0038】
<製造方法>
本発明の透光性セラミックスを製造する製造方法は、上記第1成分に上記第2成分が固溶した固溶体の粉末または該粉末に焼結助剤を添加した混合粉末を調製する工程と、該粉末または該混合粉末を成形することにより成形体を得る工程と、該成形体を焼結することにより焼結体を得る工程と、該焼結体を熱間静水圧プレスすることにより透光性セラミックスを完成する工程と、含む。
【0039】
上記本発明の製造方法において、固溶体の粉末または該粉末に焼結助剤を添加した混合粉末を調製する工程は、特に限定されることはなくこのような粉末を得ることができる調製方法であればいずれの方法をも採用することができる。たとえば、MgOと、ZnO等の第2成分との粉末を混合した後、一旦仮焼して固溶体に変化させ、再度粉砕することにより所望の粉末とすることができる。なお、MgOと第2成分の粉末とを用いることに代えて各元素を含む水酸化物や塩化物を原料として用いることにより所望の粉末を得ることもできる。なお、均一に混合する好ましい方法としては遊星ボールミルなどがある。遊星ボールミルで混合する場合、ボールとして汎用されるFe製ボールを使うと、Feを自然に固溶させることも可能である。
【0040】
次いで、上記で調製された粉末または混合粉末を成形することにより成形体を得る工程も、特に限定されることはなくこのような成形体を得ることができる方法であればいずれの方法をも採用することができる。
【0041】
続いて、上記で得られた成形体を焼結することにより焼結体を得る工程における焼結温度は、上記で調製された固溶体の融点に依存して変化させればよい。焼結は一部に液相が出現する温度で行なうと液相焼結となり緻密化しやすい。もちろん、固相焼結でも焼結温度が融点に近づくほど緻密化はしやすい。液相焼結を行なうと、ホットプレスなどの加圧焼結をしなくても設備的に安価な常圧焼結でも容易に緻密化させることができる。もちろん、このような液相焼結の場合でもホットプレスしても構わない。
【0042】
このような焼結体を得る工程において、一般的な焼結炉を使用することを考慮した場合、1200〜2000℃程度で焼結することが好ましいので、この温度で液相が出現するように固溶体中の固溶種、固溶量を調整することが好ましい。
【0043】
なお、焼結を容易にするため、上記の固溶体の粉末を調製する工程において、固溶体の粉末に対して焼結助剤を添加して混合粉末を調製することもできる。この場合は、上記の焼結温度や後述のHIP温度は、焼結助剤が液相に変化する温度に依存して決めればよい。焼結助剤としては、例えば、ScとAlの酸化物を適当な比率で添加する等の手段を採用することができる。なお、このような焼結助剤を用いた場合、最終的に得られる透光性セラミックスは固溶体以外の第二相を含むこととなるため、そのような第二相の含有が所望されない場合は焼結助剤を使用しないことが好ましい。
【0044】
次いで、上記で得られた焼結体(一次焼成体)を熱間静水圧プレスすることにより透光性セラミックスを完成する工程を経て、本発明の透光性セラミックスを得ることができる。このように最終的に熱間静水圧プレス(HIP)処理を施すことにより透光性セラミックス中の気孔および残留ポアが十分に排除され、透光性(420〜680nmの波長領域の光の直線透過率)が飛躍的に向上したものとなる。したがって、本発明において最終段階で熱間静水圧プレスすることは極めて重要なプロセスである。
【0045】
この熱間静水圧プレスする工程において、圧力媒体は特に限定されるものではないが、工業的に入手可能な不活性ガスを用いることが好ましい。処理温度(HIP温度)は、概ね1200℃以上とすることが好ましい。1200℃よりも低いと気孔を完全に除去することが出来ず、焼結温度を超えると粒成長が進行し、残留ポアを生じる傾向がある。このため、処理温度の上限は焼結温度を超えないことが好ましい。一方、処理圧力は500気圧以上2000気圧以下とすることが好ましい。500気圧を下回ると充分な効果が得られず、また2000気圧を超えても透光性をさらに向上させることにはならず、装置が大掛かりなものとなるため好ましくない。また、処理時間は0.5時間以上であれば充分であり、例えば0.5時間以上2時間以下とし、得られる透光性セラミックスの厚み等により種々時間を変更して行なえばよい。このような処理時間は最高温度での保持時間に依存して変化する。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(a)固溶体の粉末を調製する工程
濃度0.5M(mol・dm-3)の高純度塩化マグネシウム溶液5Lと濃度0〜0.5M(mol・dm-3)の範囲でそれぞれ濃度を変えた各高純度塩化亜鉛溶液5Lとを濃度1.0M(mol・dm-3)の炭酸ナトリウム溶液10Lに100ml/minの速さで滴下し、40℃で1日間養生を行なった。養生後、濾過及び超純水を用いた水洗を数回繰り返した後、135℃の乾燥機に入れて1日間乾燥した。得られた塩基性炭酸塩をアルミナ製坩堝に入れ、1350℃で15時間仮焼することにより、比表面積11m2/gの高純度酸化マグネシウム・亜鉛系複合粉末(すなわち第1成分であるMgOに第2成分であるZnOが固溶した固溶体の粉末)を作製し、表2記載のサンプルNo.1〜9の原料粉末を得た。
【0048】
これらの複合粉末の粉末X線回折を行なうことにより生成相を同定した。ピクノメータで複合粉末の真密度を測定し、MgOとZnOの真密度の値から、複合粉末の組成を計算した結果、仕込み原料のMgCl2とZnCl2の濃度と比例することが確認できた。
【0049】
比較として、Zn(第2成分)を添加しない粉末も調製した(サンプルNo.10と11)。また、原料粉末に対して、焼結助剤としてのSc23とAl23とを、それぞれScが950wtppm、Alが55wtppmの濃度となるように添加した原料も調製した(サンプルNo.11と12)。
【0050】
このようにして得られた各原料粉末のMgOおよび第2成分の比率(mol%)、第2成分イオン半径、Δr等を表2に示す。
【0051】
(b)成形体を得る工程
上記で調製された各原料粉末50gに、バインダーとして積水化学製PVB−BL1(商品名)を0.22g添加してエタノール20gを加え、ナイロンポット及びナイロンボールを用いて24時間混合した後回収した。
【0052】
回収後の原料粉末を成形型に装填し、直径20mm、厚さ2mmのディスク状成形体を作製した。このようにして得られた成形体の相対密度(MgOの理論値に対する密度を%表示したもの。以下同じ)をアルキメデス法により測定し、その結果を表2に示す。
【0053】
(c)焼結体を得る工程
上記で得られた各成形体を真空炉にて100℃/hrで所定の温度(表2記載の焼結温度)まで昇温し、その温度で1時間保持した後に炉内で自然冷却させた。焼成時の真空度は10-2Pa以下とした。焼結体の相対密度をアルキメデス法により測定した。また、生成相を粉末エックス線回折により確認した。それらの結果を表2に示す。なお、生成相の表記に関し、「MgO」とは生成相がMgOの立方晶であることを示し、「MgO+ZnO」とはMgOの立方晶とZnOの六方晶とが共析したことを示す。
【0054】
(d)透光性セラミックスを完成する工程
上記で得られた各焼結体をArガス中800℃/hrで所定の温度(表2記載のHIP温度)まで昇温し、1000気圧の圧力下で1時間保持してHIP処理(熱間静水圧プレス)を行なうことにより透光性セラミックス(厚み1mm)を得た。このようにして得られた透光性セラミックス(HIP体とも記す)の相対密度をアルキメデス法により測定し、その結果を表2に示す。なお、表2記載のサンプルNo.1〜9および12が本発明の実施例であり、サンプルNo.10と11が比較例である。
【0055】
<評価>
(1)直線透過率
上記で得られた各透光性セラミックスは、ダイヤモンドスラリーを用いて鏡面研磨を行ない、分光光度計にて直線透過率(厚み1mm)を測定した。その結果、波長420nm〜680nmにおける直線透過率は420nmで最も低くなるため、各実施例及び比較例のサンプルにおいては420nmにおける直線透過率を測定した。その結果を表2に示す。
【0056】
(2)耐水性
上記で得られた各透光性セラミックスの耐水性の加速試験を行なうことにより耐水性を評価した。すなわち、各透光性セラミックスを遊星ボールミルで加速度が150Gで10分間粉砕して、BET比表面積値が約0.3m2/gになるまで粉末状にし、これを98℃の沸騰水中に5時間浸漬することにより浸漬後の重量増加比率を測定した。重量増加が大きくなるほど耐水性に劣っていることを示す。その結果を表2(「耐水試験時重量増加率(wt%)」の項)に示す。
【0057】
(3)熱伝導率
上記で得られた各透光性セラミックス(厚み1mm)から直径10mmの試験片を切り出し、レーザーフラッシュ法により室温での熱伝導率を測定した。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2より明らかなように、本発明の実施例の透光性セラミックスは、比較例の透光性セラミックス(サンプルNo.10と11)に比し直線透過率に優れているとともに耐水性にも優れていた。しかもこのような本発明の実施例の透光性セラミックスは、比較的低温で作製することができることから簡易な方法により得られるものであることは明らかである。
【0060】
<実施例2>
実施例1において、(a)固溶体の粉末を調製する工程における原料として、塩化亜鉛に代えて塩化コバルト(サンプルNo.21)、塩化ニッケル(サンプルNo.22)、塩化銅(サンプルNo.23)をそれぞれ用いた以外は全て実施例1と同様して透光性セラミックスを作製し、実施例1と同様にして評価を行なった。その結果を表3に示す(表記内容は表2と同じ意味である)。なお、サンプルNo.21〜23の全てが本発明の実施例である。
【0061】
【表3】

【0062】
表3より明らかなように、Co、Ni、Cuを固溶させた場合でも実施例1のZnを固溶させた場合と同様に本発明の実施例の透光性セラミックス(サンプルNo.21〜23)は、直線透過率に優れているとともに耐水性にも優れていた。しかもこのような本発明の実施例の透光性セラミックスは、比較的低温で作製することができることから簡易な方法により得られるものであることは明らかである。
【0063】
以上の通り、本発明によれば、MgOの優れた熱伝導性、光学的透明性を生かし、耐水・耐湿性に優れた新規な透光性セラミックスを、通常よりも低温で作製することができる。
【0064】
本発明の透光性セラミックスは可視光の透過率(直線透過率)が高く、かつ高熱伝導率に起因する高い放熱性を有するので、本発明の透光性セラミックスをカラー液晶プロジェクター用の光学素子として用いると、明るさと耐久性のいずれもが良好で、優れた画像を長時間安定的に表示できるカラー液晶プロジェクターが得られる。さらに高コントラストで均一性に優れた画像を長時間安定に表示できる。本発明の透光性セラミックスを偏光板や位相差板に応用することにより、セラミックスとしてはサファイヤに匹敵し得るほどに明るく、軸合わせが不要で、昇温が少ないため偏光層や1/2波長膜などの劣化を防止して、高輝度のカラー画像を長時間安定に表示することができる。
【0065】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0066】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】MgO−ZnO系固溶体の状態図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1成分に第2成分が固溶した固溶体からなる透光性セラミックスであって、
前記固溶体は、単結晶または多結晶体であり、
前記第1成分は、MgOであり、
前記第2成分は、Fe、Ni、Co、Cu、Mn、およびZnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素または該元素を含む化合物である、透光性セラミックス。
【請求項2】
前記透光性セラミックスは、その厚みが1mmである場合において、420〜680nmの波長領域の光の直線透過率が85%以上である請求項1記載の透光性セラミックス。
【請求項3】
前記直線透過率は、87%以上である請求項2記載の透光性セラミックス。
【請求項4】
前記透光性セラミックスは、焼結体である請求項1〜3のいずれかに記載の透光性セラミックス。
【請求項5】
前記第2成分は、ZnO、NiO、またはCuOのいずれかである請求項1〜4のいずれかに記載の透光性セラミックス。
【請求項6】
前記固溶体に占める前記第2成分の比率は、0.3mol%以上5mol%以下である請求項1〜5のいずれかに記載の透光性セラミックス。
【請求項7】
前記透光性セラミックスは、前記固溶体以外の第二相を含まない請求項1〜6のいずれかに記載の透光性セラミックス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の透光性セラミックスを用いたカラー液晶プロジェクター用の光学素子。
【請求項9】
請求項8記載の光学素子を用いたカラー液晶プロジェクター。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の透光性セラミックスを製造する製造方法であって、
前記固溶体の粉末または該粉末に焼結助剤を添加した混合粉末を調製する工程と、
前記粉末または前記混合粉末を成形することにより成形体を得る工程と、
前記成形体を焼結することにより焼結体を得る工程と、
前記焼結体を熱間静水圧プレスすることにより透光性セラミックスを完成する工程と、
を含む透光性セラミックスを製造する製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−184898(P2009−184898A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29337(P2008−29337)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】