説明

透光性セラミック

【課題】高い屈折率とともに高い発光効率を有する透光性セラミックを提供する。
【解決手段】透光性セラミックは、組成式Ba{Zr,Mg,Taで表される化合物を主成分とし、この主成分に対して、副成分としてNdO1.5がαモル部(ただし、αは0.002≦α≦0.02を満たす)添加されている(ただし、x、y、z、vは、すべてモル比を示し、x+y+z=1、3.980−α≦4x+2y+5z≦4.000、1.000(1+α)≦v≦1.050(1+α)、0.125≦x≦0.400をそれぞれ満たす)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には透光性セラミックに関し、特定的には光学部品として有用な蛍光特性を有する透光性セラミックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学部品の材料としてガラス、プラスチック等が用いられている。また、近年、光学部品を用いた光学素子または光学装置には、益々小型化、薄型化が要求されている。しかし、ガラスやプラスチックは屈折率が低いので、これらの材料を用いて光学部品を構成した場合、光学部品を小型化または薄型化するには限界がある。
【0003】
このため、光学部品のさらなる小型化、薄型化を実現するために、高い屈折率を有する透光性セラミックの組成が、たとえば、特開2004−75512号公報(以下、特許文献1という)で提案されている。
【0004】
具体的には、特許文献1に記載された透光性セラミックの組成は、Ba{(Sn,Zr),Mg,Ta}O系の化合物で、屈折率が2.0以上、直線透過率が20%以上で、複屈折を生じないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−75512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された透光性セラミックの組成では、屈折率が高いが、発光効率が十分でないため、光学部品として有用な蛍光特性を有する透光性セラミックを得ることができない。このため、特許文献1に開示された透光性セラミックは、透光性とともに良好な蛍光特性が要求される光学部品の一例として、たとえば、光増幅器に適用することができない。
【0007】
そこで、この発明の目的は、高い屈折率とともに高い発光効率を有する透光性セラミックを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に従った透光性セラミックは、組成式Ba{Zr,Mg,Taで表される化合物を主成分とし、この主成分に対して、副成分としてNdO1.5がαモル部(ただし、αは0.002≦α≦0.02を満たす)添加されている(ただし、x、y、z、vは、すべてモル比を示し、x+y+z=1、3.980−α≦4x+2y+5z≦4.000、1.000(1+α)≦v≦1.050(1+α)、0.125≦x≦0.400をそれぞれ満たす)。
【発明の効果】
【0009】
本発明の透光性セラミックは、高い透光性、高い屈折率とともに高い発光効率を有するので、透光性とともに良好な蛍光特性が要求される光学部品の材料に適用することができ、光学部品を用いた光学素子または光学装置の小型化や薄型化に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料について吸収係数を算出した例を示す図である。
【図2】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料から発光する蛍光スペクトルを測定するために励起光源として用いられたレーザーダイオードのスペクトル分布を示す図である。
【図3】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料から発光する蛍光スペクトルを測定するための装置の概略的な構成を示す図である。
【図4】本発明の実施例で作製した透光性セラミックの試料から発光する蛍光スペクトルの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の透光性セラミックは、組成式Ba{Zr,Mg,Taで表されるペロブスカイト型化合物を主成分として含み、この主成分に対して、副成分としてNdO1.5がαモル部添加されている。ここで、αは0.002≦α≦0.02を満たし、x、y、z、vは、すべてモル比を示し、x+y+z=1、3.980−α≦4x+2y+5z≦4.000、1.000(1+α)≦v≦1.050(1+α)、0.125≦x≦0.400をそれぞれ満たす。
【0012】
上記の組成の透光性セラミックは、透光性として、たとえば、波長が633nmの可視光における直線透過率が肉厚2mmにて50%以上である特性を示す。また、上記の組成範囲に限定することにより、上記の直線透過率が肉厚2mmにて50%以上、屈折率が2.0以上であるとともに、高い発光効率を示し、たとえば、本発明の透光性セラミックと同程度のNdがドープされたシリケートガラスよりも高い発光効率を示すことができる。
【0013】
本発明の透光性セラミックの組成において、αが0.002未満では、上記のような十分な蛍光特性を得ることができない。αが0.02を超えると、発光効率が低下する。
【0014】
本発明の透光性セラミックの組成において、4x+2y+5zが3.980−α未満では、セラミックが失透する。4x+2y+5zが4.000を超えると、発光効率が低下する。
【0015】
本発明の透光性セラミックの組成において、vが1.000(1+α)未満では、発光効率が低下する。vが1.050(1+α)を超えると、セラミックが失透する。
【0016】
本発明の透光性セラミックの組成において、xが0.125未満、または0.400を超えると、セラミックが失透する。
【0017】
なお、Snを含有させると発光効率が低下するので、本発明の透光性セラミックの組成にはSnが含まれていない。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の透光性セラミックを作製した実施例について説明する。
【0019】
表1に示すように主成分と副成分の組成を有する試料No.1〜50の透光性セラミックの試料を作製した。表1において※印が付されている試料No.は、上記で規定される本発明の透光性セラミックの組成の範囲外の組成を有する試料であることを示す。
【0020】
[試料No.1〜50の試料の作製]
まず、主成分の出発原料として、BaCO、SnO、ZrO、MgCO、Ta、副成分の出発原料としてNdを準備した。これらの原料を表1に示す組成になるように秤量した後、ボールミルにて20時間湿式混合した。この混合物を乾燥させた後、大気中にて1300℃の温度で3時間仮焼することにより、仮焼物を得た。この仮焼物を、水および有機分散剤とともにボールミルに入れて、12時間湿式粉砕した。この粉砕物を、湿式成形にて直径が30mm、厚みが5mmの円板状に成形した。この成形物を同組成からなる粉体に埋め、酸素濃度が約98%の酸素雰囲気下で、1650℃の温度にて20時間保持して焼成することにより、焼結体を得た。
【0021】
【表1】

【0022】
得られた焼結体について、厚みが2.0mmになるように研磨した後、表面を鏡面研磨した。このようにして得られた各試料の基板について、株式会社島津製作所製の分光光度計(型番UV−2500)を用いて透過率の測定を行った。得られたスペクトルの最大値で規格化して基板の内部透過率とした。得られた内部透過率Tを用いて、式「K=ln(1/T)/0.2」により、吸収係数K(cm−1)を算出した。試料No.1、3および4の試料について算出した吸収係数スペクトルの例を図1に示す。
【0023】
次に、図2に示されるスペクトル分布を有し、波長が808nmのLD(レーザーダイオード)を励起光源として用い、図3に示されるように構成された測定装置を用いて、LDの出力を100mWに固定して、各試料の基板の蛍光スペクトルの測定を行った。
【0024】
図3に示すように、基板1の前方にレンズ2を配置した。レンズ2の前方には、励起光源としてのLD4を基板1に入射させるために反射板3を配置した。反射板3の前方には、レンズ5を配置し、基板1から発した蛍光を光ファイバー6を通じてスペクトラムアナライザ7で検出してPC(パーソナルコンピュータ)8にて発光強度、発光効率等を算出して各試料を評価した。
【0025】
試料No.1、3および4の基板1について測定した蛍光スペクトルの測定結果の例を図4に示す。ここで、図3に示された測定装置においては、厚みが2mm以上の透明体である基板1であれば、レンズ2の焦点位置を基板1の中央部に設定することにより、試料間のスペクトル強度の相対比較が可能となる。
【0026】
PC8を用いて、得られた各試料の基板1の蛍光スペクトル強度を1000nm〜1200nmの波長範囲で積分し、基板1の発光強度IPL[arb.]を求めた。また、波長が808nmのLD4のスペクトル分布と吸収係数の積をとり、LDによる吸収量kLD[arb.]を算出した。
【0027】
最後に発光効率の簡易指標としてη=IPL/kLD[arb.]を算出した。
【0028】
比較のため、光学部品の一例である光増幅器に用いられる透光性材料として、3モル%のNdがドープされたシリケートガラスの基板(直径が10mm、厚みが2mm)を準備し、上記と同様にして、発光強度、LDによる吸収量、発光効率を算出した。
【0029】
以上の測定結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
表2に示す結果から、本発明の組成範囲内の透光性セラミックの試料の基板では、3モル%のNdがドープされたシリケートガラスの基板よりも発光効率が優れたものが得られることがわかる。また、本発明の組成範囲を外れた透光性セラミックの試料の基板では、発光効率が低下することがわかる。したがって、本発明の透光性セラミックの組成範囲は、発光効率の高い臨界的な領域として見出されたものである。
【0032】
なお、本発明の組成範囲内の透光性セラミックの試料は、20%以上の直線透過率を示し、2.0以上の屈折率を示した。このことから、本発明の透光性セラミックの試料は、高い透光性、高い屈折率とともに高い発光効率を有するので、透光性とともに良好な蛍光特性が要求される光学部品の材料に適用することができ、光学部品を用いた光学素子または光学装置の小型化や薄型化に寄与することができる。
【0033】
今回開示された実施の形態と実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施の形態と実施例ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正や変形を含むものであることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の透光性セラミックは、高い透光性、高い屈折率とともに高い発光効率を有するので、透光性とともに良好な蛍光特性が要求される光学部品の材料、たとえば、光増幅器の材料に適用することができる。
【符号の説明】
【0035】
1:基板、2,5:レンズ、3:反射板、4:LD、6:光ファイバー、7:スペクトラムアナライザ、8:PC。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式Ba{Zr,Mg,Taで表される化合物を主成分とし、この主成分に対して、副成分としてNdO1.5がαモル部(ただし、前記αは0.002≦α≦0.02を満たす)添加されている(ただし、前記x、y、z、vは、すべてモル比を示し、x+y+z=1、3.980−α≦4x+2y+5z≦4.000、1.000(1+α)≦v≦1.050(1+α)、0.125≦x≦0.400をそれぞれ満たす)、透光性セラミック。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−1229(P2011−1229A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146581(P2009−146581)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】