説明

透光性希土類ガリウムガーネット焼結体及びその製造方法と光学デバイス

【構成】本発明は、一般式R3Ga5O12 (RはYを含むSm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群の少なくとも1種類の希土類元素)で表される透光性希土類ガリウムガーネット焼結体であり、焼結助剤として、Ge,Sn,Sr,Baからなる群の少なくとも一員の元素を、金属換算で5wtppm〜1000wtppm未満含有する純度99.9%以上の高純度希土類酸化物粉末とバインダーを用いて、成形密度が理論密度比58%以上の成形体を成形し、それを熱処理によりバインダーを除去した後、真空中等で1400℃〜1650℃、0.5時間以上焼成する。
【効果】波長600nm〜1500nmの領域での直線透過率が75%以上の、透光性希土類ガリウムガーネット焼結体が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式R3Ga5O12 (RはYを含むSm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群の少なくとも1種類の希土類元素)で表せられる透光性希土類ガリウムガーネット焼結体、及びその製造方法に関する。本発明の焼結体は、例えば光学デバイスの磁気光学素子及びレーザー活性元素を含むレーザー発振子材料として好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
光通信システムでは、半導体レーザーから出た光が、一部光伝送路途中に設けられる接続部などからの反射光として半導体レーザーに戻ってくると、レーザー発振が不安定となり、半導体レーザー装置にとって好ましくない。そのため半導体レーザー装置には、反射光を遮断し、安定な光を得るため、ファラデー効果を利用した光アイソレーターが用いられている。更にガラス素材よりも、熱伝導率は断然高いため、固体レーザー用ホスト材料としても利用される。
【0003】
光アイソレーターは、ファラデー効果を有するファラデー回転子が備えられている。ファラデー回転子として、フローティング・ゾーン法(FZ)によって作製される希土類・鉄・ガーネット系単結晶(例えばイットリウム・鉄・ガーネット単結晶(Y3Fe5O12:以下YIG単結晶と記す。)、チョクラスキー法によって作製されるテルビウム・ガリウム・ガーネット単結晶(Tb3Ga5O12:以下、TGG単結晶と記す。)など、結晶構造が立方晶で光学的に等方であるガーネット系単結晶が使用される。
【0004】
YIG単結晶は、溶融物を冷却する際、出発原料を溶融した時の溶融組成以外に別の相が結晶内に混在してしまうため、大きな単結晶を得ることができない。さらにYIG単結晶は、光の波長領域が1000nm〜5000nmの赤外線領域の光しか透過できず、1000nm未満の近赤外線領域や可視光線領域の波長に対して用いることができないという問題がある。またTGG単結晶は従来から知られているチョクラスキー法によって作製できるが、融点が1725℃(非特許文献1)と比較的高いため、光学的に優れた大型の単結晶を得るには、経験と時間が必要とされる。固体レーザー用ホスト材料としては、例えばGd3Ga5O12(GGG)単結晶にYbをドープした固体レーザーが、非特許文献2に報告されているが、単結晶であるがために、光学的に優れた大型のものを得ることは非常に難しい。
【0005】
一方、セラミックス(多結晶体)は、原料となる粉を固めて焼成するため、単結晶のように原料を溶融させて作製する必要はなく、結晶の融点よりも遥かに低い温度で作製することができる。また、セラミックスを構成する個々の結晶粒子径を小さくすることによって強度を高くすることができる。さらにセラミックスはコンポジット化が単結晶よりも容易に作製することができるため、複数種のセラミックスを接合することによって、目的に応じた材料を作製することができる。したがってセラミックスは単結晶よりも多くの利点を有するため、単結晶と同等の透光性を有するセラミックスを作製することが求められる。
【0006】
透光性セラミックスの作製においては、焼結の際、粒成長による気孔の排出を十分に行なうことが最も重要なカギとされ、常套手段として、粒成長速度を制御するために焼結助剤が使用される。例えばY3Al5O12などAl系希土類ガーネットセラミックスは、特許文献1,2などに、焼結助剤としてSi,Mg,Caなどの元素を用いた透光性セラミックスの製造方法が報告されている。一方、Tb3Ga5O12などGa系希土類ガーネットセラミックスについては、非特許文献3で報告されているが、作製方法について記載されておらず不明である。
【特許文献1】特開平11−255559号
【特許文献2】特開2001−158660号
【非特許文献1】Laser Phys. Lett. 2 No.10 489-492(2005)
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett. 68 (16), 15 April 1996
【非特許文献3】Applied Optics/Vol.43, No.32/10 November 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、工業的に実用可能な手法により、600nm〜1500nmに渡って特異吸収波長以外で良好な透光性を有する一般式R3Ga5O12 (RはYを含むSm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群の少なくとも1種類の希土類元素)で表される透光性希土類ガリウムガーネット焼結体と光学デバイス(請求項1〜4)、及びその製造方法(請求項5,6)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、一般式R3Ga5O12 (RはYを含むSm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群の少なくとも1種類の希土類元素)で表される透光性希土類ガリウムガーネット焼結体であって、波長600nm〜1500nmにおける、特異吸収波長以外での、直線透過率が1mm厚みの焼結体で75%以上であることを特徴とする、透光性希土類ガリウムガーネット焼結体にある。
【0009】
透光性希土類ガリウムガーネット焼結体は、焼結助剤として、Ge,Sn,Sr,Baからなる群の少なくとも一員の元素を、金属換算で5wtppm〜1000wtppm含有する。より好ましくは50wtppm〜500wtppmとし、最も好ましくは、100〜500wtppmとする。
また透光性希土類ガリウムガーネット焼結体の平均結晶粒径は1μm〜30μmが好ましく、より好ましくは10μm〜25μmとする。
【0010】
本発明はまた、上記の透光性希土類ガリウムガーネット焼結体を磁気光学素子として用いた磁気光学デバイスにある。例えば本発明の透光性希土類ガリウムガーネット焼結体は、光アイソレーターのファラデー回転子として用いることができる。また、レーザー活性元素を含む固体レーザー発振子材料として用いることができる。
【0011】
本発明の透光性希土類ガリウムガーネット焼結体の製造方法は、焼結助剤として、Ge,Sn,Sr,Baからなる群の少なくとも一員の元素を、金属換算で5wtppm〜1000wtppm未満含有する純度99.9%以上の高純度希土類ガリウムガーネット粉末を、バインダーを用いて、成形密度が理論密度比58%以上の成形体に成形し、該成形体を熱処理してバインダーを除去した後、水素、アルゴンあるいはこれらの混合ガス雰囲気中、もしくは真空中1400℃〜1650℃、0.5時間以上焼成することを特徴とする。さらに、より透光性を改善するために、前記焼成後に、1000℃〜1650℃の処理温度及び49MPa〜196MPaの圧力で、熱間静水圧加熱処理(HIP)を実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するため種々検討を行なった結果、波長600nm〜1500nmの領域で特異吸収以外での直線光透過率が1mm厚みで75%以上の希土類ガリウムガーネット焼結体を見出した。焼結機構の詳細に関しては不明であるが、焼結助剤として、Ge,Sn,Sr,Baからなる群の少なくとも一員の元素を、金属換算で5wtppm〜1000wtppm未満含有することによって、粒成長を制御し、焼結体の平均結晶粒径が1μm〜30μm程度の範囲において緻密化が促進され、光透過率を向上させる効果を見出した。一方、1000wtppm以上の焼結助剤を含有量すると、粒成長を制御することができず、良好な透光性希土類ガリウムガーネット焼結体を調製できないことも見出した。
【0013】
焼成温度が1400℃未満の場合、焼結助剤の有無に関係なく、粒成長に伴う緻密化が充分に行なわれないため、不透明あるいは半透明の焼結体しか得られず、焼結体の平均結晶粒径は1μm未満である。焼成温度が1400℃〜1650℃で焼結助剤が5wtppm〜1000wtppm未満含有し、さらに成形密度を最適化することによって、焼結体の平均結晶粒径は1μm〜30μmで、透光性に優れた焼結体が得られる。一方、焼結助剤の含有量が5wtppm未満の場合、焼結助剤を5wtppm〜1000wtppm未満含有する焼結体よりも満足する透光性焼結体を得ることができない。又、焼結助剤の含有量が1000wtppm以上の焼結体は、それ以下と比較するとGe、Snなどの元素の場合、著しい粒成長促進効果による異常粒成長により、気孔を充分に排除することができず、満足した透光性焼結体を得ることができない。一方、Sr、Ba、などの元素の場合、著しい粒成長抑制効果による焼結阻害が生じるため、気孔が多数残留し、満足した透光性焼結体を得ることができない。
【0014】
1650℃を超える温度で焼成を行なった場合、異常粒成長が生じるため、気孔の排除が充分に行なうことができず、満足した透光性焼結体を得ることができない。この場合の平均結晶粒径は30μmを越える。
【0015】
したがって、焼結助剤の含有量が5wtppm〜1000wtppm未満の場合において、1400℃〜1650℃の焼成温度範囲で、平均結晶粒径が1μm〜30μmの焼結体は、優れた透光性を有する。
【0016】
成形密度が58%未満の成形体は1650℃以下の焼成温度では、十分な透光性を有する焼結体を作製することができない。恐らく成形体のパッキングが不充分なため、1650℃以下の焼成温度では、十分に気孔を排除することができないためではないかと思われる。一方、成形密度が58%以上の成形体は、1650℃以下の焼成温度で透光性に優れた燒結体を作製することができる。恐らく成形体が充分にパッキングされているため、1650℃以下の焼成温度で気孔を排除することができるためではないかと思われる。したがって、成形体の成形密度は、好ましくは58%以上であり、より好ましくは、60%以上とする。
【0017】
適切な作製条件が選ばれれば十分な直線透過率を有する焼結体が得られるが、炉内の温度分布等により気孔の排除が充分に行なわれない場合、サブミクロン以下の小さい気孔が焼結体内に多数存在するため、可視領域の透過率が低下する。このような焼結体は、熱間静水圧加圧(HIP)処理により、可視領域の透過率を改善することができる。加圧ガスは通常Arガスが用いられ、処理温度は1000℃〜1650℃が好ましい。1000℃より低いとHIP処理による効果がなく、1650℃よりも高いと異常粒成長が生じるため透過率が低下する。また、処理圧力は49MPa未満ではHIP処理による効果がなく、196MPaを超えると、装置に大きな負荷をかけることになる。
【0018】
以下に焼結体の作製方法を説明する。
【0019】
使用する原料粉末の比表面積は1 m2/g〜20m2/gが好ましく、より好ましくは3 m2/g〜10m2/g、更に好ましくは、凝集が少なく粒度分布が均一なものを使用する。比表面積が20m2/gを超えるような微紛は、活性が高く比較的低温で緻密化できる反面、成形手法が限定され、凝集粒子が多くなるため、成形密度を高くすることができない。一方、比表面積が1m2/g未満のような粗粒は、成形が容易である反面、活性が低いため、低温で緻密化させることができない。
【0020】
希土類酸化物原料粉末を用いて、所望の形状に成形する場合、セラミックスの成形方法としては、プレス成形、鋳込み成形、押し出し成形、射出成形などがあげられる。成形方法については限定されるものではなく、成形密度が58%以上となり、不純物が混入しない方法で実施すればよい。また焼結助剤を添加する際は、各種成形方法に適した手法で行なう。例えば、プレス成形の場合、ボールミル等の混合粉砕機を用いて混合を行なう際に、焼結助剤を添加する。そしてスラリー状態にした後、スプレードライなどの噴霧乾燥によって得られた成形用顆粒を用いてプレス成形を行なう。
【0021】
焼結助剤の添加については、成形体内部に均一に焼結助剤が分散させることができる手法であれば、限定されるものではない。例えば、原料合成段階や仮焼段階で添加しても良い。
【0022】
焼結助剤として、Ge,Sn,Sr,Baからなる群の少なくとも一員の元素を含む化合物を用いる。焼結助剤の純度に関しては、その添加量が微量であるため、特に限定されるものではないが、原料粉末同様、高純度なものを使用するのが好ましい。また焼結助剤を粉末で添加する場合は、その一次粒子径が原料粉末と同じ程度、若しくはそれ以下のものを使用するのが好ましい。
【0023】
成形には、成形補助剤としてバインダーが必要であり、それを焼成工程の間ですべて除去する必要がある。その際、処理温度、時間、雰囲気は使用する成形補助剤の種類によって異なるが、成形体表面が閉空孔化するまでに、バインダーを除去しないと、焼結体にひび割れが生じたり、焼結不良を及ぼす恐れがある。そのため表面の閉空孔化しない温度以下で充分に時間をかけて、バインダーを除去する。したがって処理温度としては、使用原料粉末の焼結性及び成形体の粒子の充填性によるが、通常900℃〜1250℃程度であり、それ以下の温度が好ましい。また雰囲気として大気雰囲気が一般的であるが、必要に応じてN2やAr、若しくは減圧下で行なっても良い。
【0024】
バインダーを除去した後、成形体を水素、希ガスあるいはそれらの混合雰囲気もしくは
真空中で、1400℃〜1650℃の温度で焼成する。焼成時間は0.5時間〜10時間程度が好ましい。
【0025】
更に透光性の良い焼結体を得るためには、1000℃〜1650℃の処理温度及び49MPa〜196MPa圧力でHIP処理を行なう。HIP処理時間は0.1時間〜10時間程度が好ましい。
【0026】
以上の操作によって、波長600nm〜1500nmにおける、特異吸収波長以外での、直線透過率が1mm厚みの焼結体で75%以上であることを特徴とする透光性希土類ガリウムガーネット焼結体を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
実施例1
純度99.9%以上の酸化テルビウムを硝酸で、硝酸ガリウムは超純水で溶解させ、濃度1mol/lの硝酸テルビウム溶液と濃度1mol/lの硝酸ガリウム溶液を調製した。次に、硝酸テルビウム溶液を300ml、硝酸ガリウム溶液を500ml及び濃度1mol/lの硫酸アンモニウム水溶液を150ml混合し、超純水を加えて全量を10Lとした。得られた混合液を撹拌させながら、濃度0.5mol/lの炭酸水素アンモニウム水溶液を5ml/minの滴下速度でpH8.0になるまで滴下し、撹拌を続けながら室温で2日間養生を行なった。養生後、濾過及び超純水を用いて水洗を数回繰り返した後、150℃の乾燥機に入れ2日間乾燥した。得られた前駆体粉末をアルミナ坩堝に入れ、電気炉で1150℃ 3時間仮焼を行なった。その結果、比表面積4.5m2/gのテルビウム・ガリウム・ガーネット(TGG)原料粉末を作製した。
【0029】
得られた原料粉末75g、溶媒としてエタノール50g、結合剤としてポリビニルアルコール(PVA)0.75g、可塑剤としてポリエチレングリコール(PEG)0.75g、潤滑剤としてステアリン酸0.375gを加え、ナイロンポットとナイロンボールを用いて、100時間ボールミル混合してスラリーとした。得られたスラリーを噴霧乾燥機(スプレードライ)にかけ、乾燥球状体を作製する。乾燥球状体をφ10mmの金型に入れ、20MPaで一次成形を行った後、250MPaの圧力で冷間静水圧(CIP)法により成形を行った。この成形体を10℃/hrで600℃まで昇温し、この温度で20時間保持して脱脂を行った。この成形体の相対密度は、アルキメデス法により測定した結果、60.1%であった。さらに充分脱脂を行うために、この成形体を1200℃まで昇温し、10時間保持した。その後、真空炉で1600℃、8時間焼成した。この際、昇温速度は1200℃まで300℃/hrとし、それ以上は50℃/hrとした。炉内の真空度は10-1Pa以下とした。
【0030】
得られた焼結体(1mm厚み)の両面をダイヤモンドスラリーで鏡面研磨し、分光光度計にて直線透過率を測定した。その結果を図1に示す。波長600nm〜1500nmには、特異吸収は存在しない。さらに表1に、波長600nm及び1500nmにおける直線透過率(1mm厚み)を示す。それぞれの透過率は75%以上であることが判る。
【0031】
この試料を大気中で1300℃ 2時間熱処理を行い、SEMなどにより微構造組織を観察した結果、平均結晶粒径は16.1μmであった。ここで平均結晶粒径は以下の式から算出した。
d= 1.56C/(MN)
(d:平均粒径、C:SEM等の高分解能画像で任意に引いた線の長さ、N:任意に引いた線上の結晶粒の数、M:画像の倍率M)
また、アルキメデス法により焼結体密度を求めた結果、相対密度は99.9%以上であった。
【0032】
実施例2〜11
Tb元素からY, Sm, Eu, Gd, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuの希土類元素に替えた以外は、実施例1と同様の手法(真空炉で1600℃、8時間焼成)で作製した焼結体の、平均結晶粒径と直線透過率を表1に示す。表1の結果よりすべての焼結体において優れた透光性を有することが判る。尚、測定波長600nm及び1500nm付近に特異吸収波長が存在する試料の直線透過率の値は、各測定波長よりも高波長側の特異吸収端で測定した。
【0033】
【表1】

【0034】
実施例12〜19 比較例1〜6
焼結助剤として、GeO2またはSnO2をボールミル混合前に添加した以外は、実施例1と同様の手法で、Ge,Sn含有量が異なるTGG焼結体(1mm厚み)を作製した。その結果を表2に示し、図2には代表例として実施例14のスペクトルを示す。この明細書では、焼結助剤の添加量は、焼結体に対する金属換算での添加量で示す。GeやSnの含有量が5wtppm未満では、透過率や平均結晶粒径は焼結助剤無添加のTGGとほぼ同様である。これに対し、GeやSnの含有量が5wtppm〜1000wtppm未満では、平均結晶粒径は大きく、透過率は上回っている。そしてGeの方がSnより透過率の向上が見られる。一方、GeやSnの含有量が1000wtppm以上になると、異常粒成長が生じるため、気孔を十分に排除することができず、一部気孔が残留し、焼結助剤無添加のTGGのよりも平均結晶粒径が大きくなり、透過率は低下する。
【0035】
【表2】

【0036】
比較例7
Tb元素からYの希土類元素に、Ga元素からAlに替えた以外は、実施例1と同様の手法でY3Al5O12(YAG)原料粉を作製した。この原料粉に焼結助剤としてGeO2をボールミル混合前に添加し、他の点は実施例1と同様の手法でYAG焼結体を作製した。その結果、Geを100wtppm含有したYAG(比較例7)は、多数の気孔が焼結内に存在し、焼結体の相対密度は98%程度の不透明な焼結体であった。そのため透過率を測定することはできなかった。GeがYAGの焼結助剤として有効でない原因は、以下のように推測できる。YAGをカチオンの配位数別に分類すると、Yは8配位、Alは4及び6配位位置を占有する。例えばSi4+はガーネット構造をもつYAGのAl3+の4配位位置に置換することは公知であり、その理由の一つとして、Si4+の4配位のイオン半径は0.40Åに対して、Al3+の4配位のイオン半径は0.53ÅとAl3+の大きさがSi4+の大きさよりも大きいことがある。Ge4+の場合、Ge4+の4配位のイオン半径は0.53ÅでAl3+の4配位のイオン半径と同じであるため、Ge4+がAl3+の4配位位置に置換することができず、それによって焼結過程で生じるイオン拡散が阻害され、緻密化できないのではないかと思われる。
【0037】
実施例20〜27及び比較例8〜13
焼結助剤としてSrCO3又はBaCO3をボールミル混合前に添加した以外は、実施例1と同様の手法(真空炉で1600℃、8時間焼成)で、SrやBa含有量の異なるTGG焼結体を作製した。その結果を表3に示す。
【0038】
SrやBaの含有量が5wtppm未満では、透過率及び平均結晶粒径は焼結助剤無添加のTGGとほぼ同様であるが、SrやBaの合計含有量が5wtppm〜1000wtppm未満では、焼結助剤無添加のTGGと比較して平均結晶粒径が小さくなり、透過率が上回っている。Sr及びBaは粒成長を抑制し、粒径分布を制御する効果をもたらすためではないかと思われる。一方Sr及びBaの合計含有量が1000wtppm以上になると、粒成長抑制効果がさらに強まったことによって、緻密化が著しく阻害され、多くの気孔が残留してしまう。そのため透過率が著しく低下する。
【0039】
【表3】

【0040】
表2,表3から明らかなように、Ge,Sn,Sr,Baの作用は類似で、これらの元素を2種以上添加しても良く、またGe,Sn,Sr,Baの合計含有量を例えば5wtppm〜1000wtppm未満とし、好ましくは5wtppm〜800wtppm、より好ましくは40〜600wtppmとする。次にGeやSnとSrやBaとを比較すると、GeやSnはSrやBaに対して、直線透過率の点で優っており、焼結助剤は好ましくはGeまたはSnとして、これらの合計含有量を、好ましくは5wtppm〜800wtppm、より好ましくは40〜600wtppmとする。
【0041】
実施例28〜30及び比較例14〜16
成形圧力を種々変更してCIP成形を行った以外は、実施例14(Ge100wtppm添加、真空炉で1600℃、8時間焼成)と同様にしてTGG焼結体を作製した。得られた焼結体の成形密度と透過率と関係を表4に示す。成形密度の向上にともない透過率の向上していることが判る。成形時の成形密度が低いと、緻密化した部分以外に焼結不良による残留気孔が存在するため、透過率が低下すると推測される。したがって表4の結果から、透過率75%以上の透光性に優れた焼結体を得るためには、成形密度を58%以上にすることが必要である。
【0042】
【表4】

【0043】
実施例31〜38及び比較例17〜22
焼成温度及び時間を種々変更した以外は実施例14と同様にして、Ge100wtppm添加のTGG焼結体を作製した。得られた焼結体の、焼成温度と平均結晶粒径及び透過率との関係を表5に示す。その結果、焼成温度が1300℃では緻密な焼結体が得ることができず透過率を測定することができず、焼成温度が1350℃では焼結体の相対密度は99%以上であったが、透光性が低く、満足した透光性焼結体を得ることができなかった。またSEMで焼結体の微構造組織を観察したところ、1μm程度の気孔が多数存在していた。焼成温度が1400℃〜1650℃で、透過率は75%以上の透光性に優れた焼結体を得ることができ、焼結体の平均結晶粒径は1μm〜30μmであった。しかし1400℃〜1650℃の焼成温度でも、焼成時間が0.5時間未満の場合、結晶粒径は十分に成長しているが、気孔が十分に除去できていないため、満足した透光性焼結体を得ることができなかった。焼成温度が1650℃を越えると、焼結体の平均結晶粒径は30μmを越え、異常粒成長が生じるため、気孔の排除が十分できず、透過率が著しく低下する。以上の結果、焼成温度は1400℃〜1650℃が好ましく、平均結晶粒径は1μm〜30μmが好ましい。
【0044】
【表5】

【0045】
実施例39〜47及び比較例23〜26
実施例32と同様に作製したGe100wtppm添加のTGG焼結体をHIP処理することによって透過率の改善を図った。HIP処理時間を3時間に固定して、種々の温度及び圧力で行った場合の、平均結晶粒径及び波長500nmと600nmの透過率(1mm厚み)を表6に示す。図3に、代表例として実施例45のスペクトルを示す。HIP処理は、圧力媒体としてArガスを使用し、同時昇温昇圧法により、800℃/hrで昇温し、所望の保持温度後、1000℃/hrで冷却した。1000℃〜1650℃の処理温度及び49MPa〜196MPa圧力でHIP処理を行なった場合、測定波長600nm及びサブミクロン以下の小さい気孔の影響を受けやすい測定波長500nmにおいても直線透過率で75%以上であった。しかし処理温度が950℃で圧力が196MPaの場合、又は処理温度が1200℃で圧力が45MPaの場合では、測定波長500nmの影響を受けやすい焼結内部の微細な気孔を十分に排除することができなかったため、測定波長500nmで直線透過率は75%未満となり、透過率の改善は全くみられなかった。更にHIP処理温度が高すぎる場合、雰囲気焼成の場合と同様に、異常粒成長によって透過率は低下した。以上の結果より、1000℃〜1650℃の処理温度及び49MPa〜196MPa圧力でHIP処理を行なうことが好ましい。
【0046】
【表6】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】焼結助剤無添加で、真空炉で1600℃×8時間焼成したTb3Ga5O12(1mm厚み)での、直線透過率スペクトルを示す特性図
【図2】焼結助剤としてGeを100wtppm添加し、真空炉で1600℃×8時間焼成したTb3Ga5O12(1mm厚み)での、直線透過率スペクトルを示す特性図
【図3】焼結助剤としてGeを100wtppm添加し、196MpaのAr中で、1600℃で3時間HIP処理したTb3Ga5O12(1mm厚み)での、直線透過率スペクトルを示す特性図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式R3Ga5O12 (RはYを含むSm, Eu, Gd, Tb, Dy, Ho, Er, Tm, Yb及びLuからなる群の少なくとも1種類の希土類元素)で表される透光性希土類ガリウムガーネットであって、波長600nm〜1500nmにおける、特異吸収波長以外での、直線透過率が1mm厚みの焼結体で75%以上であることを特徴とする、透光性希土類ガリウムガーネット焼結体。
【請求項2】
焼結助剤として、Ge,Sn,Sr,Baからなる群の少なくとも一員の元素を、金属換算で5wtppm〜1000wtppm未満含有することを特徴とする、請求項1に記載の透光性希土類ガリウムガーネット焼結体。
【請求項3】
平均結晶粒径が1μm〜30μmであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の透光性希土類ガリウムガーネット焼結体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの透光性希土類ガリウムガーネット焼結体を、磁気光学素子もしくはレーザー活性元素を含むレーザー発振子材料として用いたことを特徴とする光学デバイス
【請求項5】
焼結助剤として、Ge,Sn,Sr,Baからなる群の少なくとも一員の元素を、金属換算で5wtppm〜1000wtppm未満含有する、純度99.9%以上の高純度希土類酸化物粉末を、バインダーを用いて、成形密度が理論密度比58%以上の成形体に成形し、該成形体を熱処理してバインダーを除去した後、水素、アルゴンガスあるいはこれらの混合ガス雰囲気中、もしくは真空中で、1400℃〜1650℃、0.5時間以上で焼成することを特徴とする、透光性希土類ガリウムガーネット焼結体の製造方法。
【請求項6】
前記焼成後に、1000℃〜1650℃の処理温度及び49MPa〜196MPaの圧力で、熱間静水圧加熱処理(HIP)を実施することを特徴とする、請求項5に記載の透光性希土類ガリウムガーネット焼結体の製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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