説明

透明な導電性単層カーボンナノチューブフィルム

光学的に透明な導電性単層カーボンナノチューブ(SWNT)フィルムは、複数の相互貫入した単層カーボンナノチューブを含み、100nmのフィルムにおいて、フィルムは、200ohm/sq未満の25℃シート抵抗を提供するのに十分な相互貫入を有する。フィルムはまた、0.4μmから5μmの波長域にわたり、少なくとも20%の光透過率を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブの分野に関し、より具体的には、導電性で光学的に透明である単層カーボンナノチューブ(SWNT)の均一フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素は、ダイヤモンド、グラファイト、フラーレンおよびカーボンナノチューブを含む、4つの知られた一般的構造を有する。結晶構造は、原子の格子配列を指す。カーボンナノチューブは、単層または多層を有して成長した管状構造であり、複数の六角形で形成された、巻かれたシートとして考えることができ、シートは、そのそれぞれの炭素原子を3つの隣接炭素原子と結合させることにより形成される。カーボンナノチューブは、約数オングストロームから数百ナノメートルの直径を有する。カーボンナノチューブは、チューブ軸に対する炭素原子の六方格子の配向およびチューブ直径に従い、金属と類似した導電体として、または半導体として機能し得る。
【0003】
カーボンナノチューブは、飯島澄男による「Helical Microtubules of Graphitic Carbon」(Nature、Vol.354、1991年11月7日、56〜58ページ)というタイトルの論文で報告されたように、2本のグラファイトロッド間のアーク放電により初めて生成された。この手法は、主に多層カーボンナノチューブを生成した。後に、D.S.Bethuneら(Nature、Vol.363、605ページ(1993))により、主に単層カーボンナノチューブを生成する方法が発見および報告された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Sumio Iijima、Nature、Vol.354、1991年11月7日、56〜58
【非特許文献2】D.S.Bethuneら、Nature、Vol.363、605ページ(1993)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学的に透明な導電性フィルムには、数多くの用途が存在する。生成直後、単層ナノチューブは、相当な割合の本質的に金属的なナノチューブ(典型的には約1/3)を含有することが知られているため、ナノチューブフィルムは、フィルムが光学的に透明であり、その面積にわたって均一な光学密度を有し、フィルム全体にわたり良好な導電性を有していれば、そのような用途において有用となり得る。光学的透明性のためには、フィルムは十分薄く作製されなければならない。光学的開口にわたる均一な光学密度のためには、ナノチューブはフィルム全体にわたり一様に分布していなければならない。最後に、フィルム全体にわたる良好な導電性のためには、フィルム全体にわたる十分なナノチューブ間の重複が必要である。
【0006】
これらの薄さ、一様性および良好なチューブ間接触の要件を満たすナノチューブフィルムの生成における主な問題は、ナノチューブがいずれの既知の揮発性溶剤に対しても溶解性に乏しいことである。そのような溶剤があれば、単にナノチューブを希薄濃度で溶解し、表面上に薄い均一層としてキャストまたはスプレーし、溶剤の蒸発後に望まれる透明ナノチューブ層を残すことができる。ナノチューブに対するそのような溶剤は知られていないため、エタノール等の溶剤中にナノチューブが(例えば超音波照射により)分散した状態で堆積を試みても、堆積領域の面積にわたり不均一なナノチューブ塊が残る。
【0007】
ナノチューブは、界面活性剤およびポリマー等の安定化剤の補助により、またはナノチューブ側壁の化学修飾により、溶液中に均一に懸濁させることができる。しかし、安定化剤は、必要とされるナノチューブフィルムの電気的連続性に干渉する。安定化剤は、一般に電気絶縁体である。溶剤の蒸発後、ナノチューブおよび安定化剤が共に残留し、安定化剤がチューブ間の電気的接触に干渉する。ナノチューブ側壁の化学修飾の場合、ナノチューブ自体の導電性が低下する。
【0008】
結果として、光透過スペクトルの記録のため等のある特定の目的において、薄く適度に透明なナノチューブのフィルムが生成されているが、これらのフィルムは、光学的に透明な電極用等、高い導電性および光学的透明性の両方を提供するフィルムを必要とする用途に求められる、十分な導電性を提供しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
光学的に透明な導電性単層カーボンナノチューブ(SWNT)フィルムは、複数の相互貫入した単層カーボンナノチューブSWNTを備え、100nmのフィルムにおいて、フィルムは、200ohm/sq未満の25℃シート抵抗を提供するのに十分な相互貫入を有する。フィルムはまた、0.4μmから5μmの波長域にわたり少なくとも20%の光透過率を提供する。好ましい実施形態において、フィルムの形態は、積層平面を備え、SWNTは、面内においてランダムな配向を有する。光透過率は、0.4μmから5μmにおいて少なくとも30%となり得る。
【0010】
SWNTフィルムは、少なくとも1種のドーパントを含み得る。この実施形態では、厚さ100nmのフィルムにおいて、シート抵抗は概して50ohm/square未満である。ドーパントは、ハロゲンおよびアルカリ金属等のグラファイトインターカラントからなる群から選択され得る。フィルムは、概して、実質的に(99重量%を超える)SWNTからなる。
【0011】
添付の図面とともに以下の詳細な説明を吟味して、本発明ならびにその特徴および利益のより完全な理解が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】アルミニウムプレート上の穴にわたり引き伸ばされた厚さ300nmの透明SWNTフィルムの走査画像を示す図であり、フィルムは、本発明によるフィルムを形成するための好ましい方法に従い形成された。
【図2】プラスチックシート上に設置された、図1に示すフィルムと比較してより薄い(約90nm)が直径がより大きいフィルムの、透明性および清澄性を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に従い形成された、石英基板上の50nmのSWNTフィルム、および厚さ240nmの自立SWNTフィルム(ドープおよび脱ドープされたフィルム両方)に対する透過スペクトルを示す図であり、可視域および近赤外域にわたり高い透過率を示している。より厚い自立フィルムでは、支持基板による干渉する吸収なしに、広いスペクトル域にわたる透過率の記録が可能であった。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、高い導電性、光学的透明性およびその面積にわたる均一な光学密度を同時に示す単層カーボンナノチューブ(SWNT)フィルム、ならびにこれらのフィルムを生成するための方法を提供する。本発明によるフィルムは、電磁スペクトルの可視および赤外部分両方の光を透過する。
【0014】
ナノチューブ凝集体におけるバルク導電性は、ある程度高い割合のナノチューブが導電性であること、および、この割合が、バルク全体にわたり電荷を移動するために互いに電気的に十分密接していることを必要とする。ナノチューブ自体の導電性は、2つの要因に起因し得る。第1の要因は、試料中の金属的ナノチューブによるものであり、これは、商業的に得られるSWNT材料の約1/3を構成する。第2の要因は、試料中の半導体的ナノチューブによるものであるが、但し該半導体的ナノチューブは好適な電荷移動種でドープされている。例えば、臭素およびヨウ素等のハロゲン、またはアルカリ金属原子、ならびにある種の他の原子もしくは分子を、電荷移動種として使用することができる。フィルムのバルク導電性は、高度のナノチューブ接触により、および、安定化剤は電気絶縁材料である傾向があるため、概していかなる残留安定化剤も含まないナノチューブ表面により最大化される。
【0015】
本発明によるフィルムは、概して、本質的に純粋なナノチューブフィルムであり、本明細書において、少なくとも99重量%のナノチューブを有するフィルムとして定義される。しかし、本発明は、80重量%または90重量%のナノチューブ等、より低いパーセンテージのナノチューブ、ならびに1種または複数種の概して導電性の材料を含み得るナノチューブ複合体を含む。
【0016】
フィルム厚は、数十ナノメートルから数マイクロメートルの範囲となるよう調整することができる。本発明を使用して生成されたフィルムは、光学的な清澄性をもたらす、その面積にわたり実質的に均一なナノチューブ密度を有する。光学的透明性は、より厚いフィルム(例えば3μメートル)と比較して、薄いフィルム(例えば≦100nm)において高くなる。より上の範囲のフィルム厚は、概して不透明となる。特に赤外に対する透過率では、光学的透明性は、低いナノチューブキャリア密度により向上すると考えられる。
【0017】
その面積にわたり均一な光学密度を示す導電性および光学的に透明なSWNTフィルムを形成するための好ましい方法は、ナノチューブを懸濁させるために十分な濃度の安定化剤を含有する、水溶液等の溶液中に、0.005mg/ml等の低濃度のSWNTを分散させる工程を含む。Carbon Nanotechnologies Incorporated社(テキサス州ヒューストン)等からの市販の単層カーボンナノチューブは、約1/3が金属的ナノチューブ、および2/3が半導体的ナノチューブである。好ましくは、使用されるナノチューブは、その形成において利用されている触媒大粒子を除去するために精製される。
【0018】
安定化剤は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびTRITON X−100(商標)等の様々な界面活性剤、または表面安定化ポリマーを含み得る。TRITON X−100(商標)は、ミシガン州のDow Chemical Corporation社(以前のUnion Carbide Corporation社)により製造されている。TRITON X−100(商標)は、オクチルフェノールエチレンオキサイド縮合物であり、OCTOXYNOL−9(商標)とも称される。この材料は、625amuの分子量を有する。
【0019】
この好ましい方法において、SWNT溶液は、次いで多孔質材料に塗布される。多孔質材料は、好ましくは、ポリカーボネートまたは混合セルロースエステル等のフィルタ膜材料を含む。フィルタ膜は、好ましくは以下の特徴を備える。
1)望まれる光学的開口よりも大きい直径、
2)複数のサブミクロン細孔を有する高容量の空隙、
3)溶剤中での膜材料の溶解または酸中での膜材料の消化等により、薄いSWNTフィルムを破壊することなく膜材料を除去することができる組成。
【0020】
次いで、ナノチューブフィルムが膜表面上に堆積したまま溶液が除去される。得られるナノチューブフィルムは、概して非常に柔軟である。一実施形態において、溶液は真空濾過され、SWNTフィルムがフィルタ膜表面上に形成される。残留したいかなる表面安定化剤(例えば界面活性剤)も、後に洗浄除去することができ、次いでフィルムを乾燥させることができる。
【0021】
元の溶液中のSWNTの良好な分散と濾過を組み合わせることにより、得られるフィルムにおいて高度のナノチューブ相互貫入が提供される。これは、高分散されると、ナノチューブはより直線性を保ち、溶液中でより長い持続長を有する傾向があるためである。
【0022】
平坦な濾過膜表面上に沈積する最初のバンドルは、表面と本質的に平行に横たわるように強制される。フィルムは、概して均一な速度で成長する(ナノチューブバンドルが、それより前に堆積したバンドルと交差して横たわる)ため、後に堆積したバンドルは、同じ平面配向を呈する。その結果、ナノチューブがランダムな平面内配向を有するが、積層面内に横たわり、2軸延伸ポリマーフィルムに類似した2次元異方性を有するフィルム形態が得られる。
【0023】
結果として、得られるフィルムにおいて、ナノチューブは、濾過プロセスの間に膜表面上に押し付けられた際に、選択的に互いに交差して横たわる傾向を有する。これは、薄いナノチューブフィルムを生成するための他の利用可能な方法に勝る、改善された電気的連続性およびより良好な機械的完全性を有するフィルムをもたらす。さらに、濾過により、高度の光学的均一性および清澄性へとつながる、組成、構造および厚さにおける高度の均一性を有するフィルムが得られる。光学的均一性および清澄性のためには、可視光放射波長の半分の領域にわたり平均したフィルム厚のばらつきが小さくなければならない。本発明によるフィルムにおいて、そのようなばらつきは10%以内である。
【0024】
ほとんどの用途において、ナノチューブフィルムが濾過膜等の多孔質材料上に形成されたら、好適な方法を使用して、典型的には不透明な多孔質材料からフィルムを取り外さなければならない。例えば、以下の例示的方法のうちの1つを使用することができる。
1)膜溶解を使用することができる。例えば、混合セルロースエステル膜(MCEM)に対しては、膜を溶解するがナノチューブフィルムは溶剤中に浮遊したままとなるアセトンまたはメタノール中に膜を含浸することができる。フィルム表面上のセルロースエステル残渣を最小限とするために、第2の層上に置いて乾燥させる前に、フィルムを新鮮な溶剤に移すことができる。乾燥する溶剤の表面張力は、乾燥後のナノチューブフィルムと選択された層との間の密接を確実とする。
2)膜のナノチューブ側を選択された層に押し付けることができる。選択された層とナノチューブフィルムとの間の密接を得る上での補助として、純水等の膜を溶解しない少量の溶液を、選択された層とナノチューブフィルムとの間に塗布し、表面張力を使用して2つの各表面の密接をもたらすことができる。次いで、膜、ナノチューブフィルムおよび選択された層を含む一組を乾燥させることができる。次いで、膜は可溶であるがナノチューブフィルムは選択された層上に配置されたままとなる溶剤中に、膜を溶解することができる。
【0025】
分離工程は、必ずしも必要であるとは限らない。例えば、選択された多孔質材料が対象となる波長域において光学的に透明である場合は、一般に分離工程は必要ではない。
【0026】
上述の方法の考えられる制限は、フィルム面積が、真空濾過装置が提供する大きさと同じ大きさしかないということである。そのような装置は任意に大きく作製することができるため、これは概して大きな制限ではなく、または代替的に、以下に述べるような連続プロセスを使用してフィルムを形成することができる。
【0027】
代替の実施形態において、連続プロセスが使用される。1つの連続プロセスの実施形態において、濾過膜は、真空濾過フリットの一方側でスプールから巻き出され、フリットの他方側でナノチューブフィルムとともに巻き取られることが可能である。フィルタフリットは、長手方向においては膜の幅であるが、膜の移動方向においては狭い長方形形状を有することができる。下部の開口部がフリットに整合する、ナノチューブ溶液を含有する濾過漏斗は、漏斗とその下を移動する膜との間のシールを形成するために磁性流体を使用して、フリット上に載置され得る。フリットを狭く維持することにより、膜に対する吸引力に起因する力を低減することができ、より容易にデバイスを通して引き出すことができる。SWNTフィルムの厚さは、懸濁液中のSWNT濃度および膜の移動速度により制御可能である。
【0028】
したがって、本発明は、導電性および光学的に清澄なSWNTフィルムを形成するための方法を提供する。大面積をカバーすることができ、ディスプレイ、太陽電池および類似のデバイスを作製するための薄型フィルム加工技術に適合する非SWNTフィルムを作製するための、現在利用可能な透明電極フィルム堆積技術は、他にもある。しかし、これらの透明電極フィルム堆積方法は、高価な高真空機器を必要とするため、技術的に厳しい。したがって、本発明の大きな利点は、高価な高真空機器を必要とすることなく、光学的に透明な導電性SWNTフィルムを形成することができるということである。
【0029】
本発明を使用して形成されるSWNTフィルムは、高度な柔軟性を含む高い機械的完全性を示す。高い機械的完全性の1つの利点は、フィルムが十分な厚さを有していれば、SWNTフィルムは自立状態で作製され得るということである。望まれる光学的開口に依存するある程度の厚さを超えると、フィルムは自立状態で作製され得る。自立フィルムは、いかなる支持基板も含まない清澄な開口を備える。
【0030】
例えば、1cmの開口にわたる厚さ240nmの自立SWNTフィルムが実証された。そのようなフィルムは、透明なナノチューブフィルムに被覆されると光学的に清澄な開口を構成する穴を含有する枠上に支持することができる。
【0031】
図1は、アルミニウムプレート上の穴にわたり引き伸ばされた、背後から光を当てた本発明によるSWNTフィルムを示す。フィルムは、上述のように、SWNT/1wt%Triton−X−100(商標)界面活性剤水溶液を、多孔質混合セルロースエステル膜上で真空濾過することにより生成された。脱イオン水を使用して界面活性剤を洗い流した後、フィルムを乾燥させた。次いで、SWNTフィルムがプレートに接触した状態で、膜をアルミニウムプレートに留めた。続いてその一組をアセトンバスに含浸し、膜を溶解させてフィルムをAlプレートに転写した。アルミニウムプレートにおける穴は、直径0.59cmであった。フィルムは、可視光に対し高レベルの透明性および光学的清澄性を示すことが観察できる。
【0032】
図2は、MYLAR(登録商標)として流通している2軸延伸ポリエチレンテレフタレート(boPET)ポリエステルフィルム等のプラスチックシート上に設置された、より大きな直径を有するがより薄い(約90nm)SWNTフィルムの透明性および清澄性を示す走査画像である。電気絶縁性支持体(MYLAR(登録商標))上で測定された類似フィルムの抵抗は、酸ドープされた場合は約35ohms/square、および脱ドープされた場合は175ohms/squareのシート抵抗を示した。脱ドープされたフィルムは、概して、ドープされたフィルムと比較して、赤外でより大きな透過率を示す。これは、特に、電磁スペクトルの赤外部分に十分に至るまで高レベルの光透過率が維持されることが判明したため、光学的透明性を考慮すると非常に高い導電性である。
【0033】
図3は、本発明の実施形態に従い形成された厚さ50nmおよび240nmのSWNTフィルムに対し、実験的に得られた透過スペクトルを示しており、可視域および近赤外域の両方において高い透過性を示している。厚さ50nmのフィルムでは、酸ドープされた場合の表面抵抗は約60ohms/squareであることが分かり、また不活性ガス中での600℃へのベーキングにより脱ドープされた場合(灰色のスペクトル曲線)は、約300Ohms/squareである。重大なことに、ドープされた厚さ50nmのフィルムの透過スペクトルは、可視スペクトル(0.4ミクロンから0.75ミクロン)にわたり70%以上であることが分かることに留意されたい。ベーキングされたフィルムとベーキングされていないフィルムとの間に示されるスペクトル差は、ナノチューブ精製において使用された硝酸が、ナノチューブに電荷移動ドープし、ベーキングによりドーパント種が脱着されてナノチューブが脱ドープされるために生じる。そのようなドーピングはまた、フィルムの導電性に影響し、ドープされたフィルムの導電性は、室温において、脱ドープされたフィルムの導電性の3倍を超えるものとなる。
【0034】
3〜5ミクロンの範囲は、概して大気中の水の吸収がなく、大気透過率に一般に使用されるため、赤外に対する高透過率は有用である。スペクトルの可視部分において有用である、利用可能な光学的に透明な導電性酸化物材料は数多くあるが、赤外においては、良好な透明性および導電性を維持する利用可能な材料の数は劇的に少なくなる。ほとんどの導電性材料は、約2μmを超えると、一般に「自由キャリア吸収」と称されるものに起因して、透過性が低くなる。
【0035】
IRに対する透明度は、主に、フィルムの約1/3を成す金属的ナノチューブの自由キャリア吸収により制限されると考えられる。純粋な、または割合が増加した半導体的SWNTが利用可能となった場合、フィルムは、より金属的なナノチューブと比較して、例えば少なくとも40μmの波長等、より赤外に対する光学的透明性を維持することができる。上述のように、半導体的フィルムは、臭素またはヨウ素ドーピング等、電荷移動ドーピングにより導電性を持たせることができる。
【0036】
図3においてM1と標示されたピークの短波長側の吸収は、多くの組み合わされたバンド間遷移に起因する。ナノチューブ独特の特性は、電子状態密度における鋭いVan Hove(VH)特異点構造である。M1と標示された吸収特性は、試料中の金属的ナノチューブの、最も高い占有価電子帯のVH特異点から最も低い空の伝導帯のVH特異点への遷移に起因して生じる。S1およびS2と標示された吸収特性は、それぞれ、試料中の半導体的ナノチューブの、最も高い価電子VH特異点から最も低い伝導VH特異点への遷移、および2番目に高い価電子帯のHV特異点から2番目に低い伝導帯のVH特異点への遷移に起因して生じる。ベーキングされていない試料において約2.4μmの波長、およびベーキングされた試料において約4μmの波長からちょうど始まる吸収は、自由キャリアに起因すると考えられる。
【0037】
酸による電荷移動ドーピングは正孔ドーパントであり、これは、電子がナノチューブから除去され、電子受容体として機能するドーパント分子に移動することを意味する。このVH特異点からの価電子帯電子の枯渇は、図3に示されるベーキングなし(ドープ)対ベーキングあり(脱ドープ)のスペクトルにおけるS1に見られる、より低い吸収特性をもたらす。他の結果としては、ドープされていない場合に対して、ドープされた場合、半導体的ナノチューブに注入された正孔キャリアに起因して、赤外における自由キャリア吸収が高くなっている。これは、ベーキングされた(脱ドープされた)試料において4ミクロンを超える波長に対し見られる吸収は、主に金属的ナノチューブのみにおける自由キャリア吸収に起因するものである証拠を示している。したがって、半導体的ナノチューブのみを含むSWNTフィルムは、それよりもさらに赤外に対し透明となる。
【0038】
SWNTフィルム中に金属的ナノチューブがないと、導電性の損失がもたらされる。しかし、上述のように、半導体的ナノチューブは、ドープされてより導電性となることができる。したがって、半導体的SWNTフィルムに対して、制御されたドーピングにより、赤外に対する追加的な透明度のある程度の損失を伴いながら、導電性を高めることができる。そのような制御されたドーピングは、硝酸に加え、臭素またはヨウ素の蒸気等の他の空気中で安定な正孔ドーパントにナノチューブを曝露することにより達成される。代替として、フィルムが大気中の水および酸素から保護されれば、アルカリ金属等の電子供与ドーパントを使用することができる。約1/3の金属的ナノチューブを含む現在利用可能なナノチューブ源から形成されるSWNTフィルムであっても、ドーピングは、得られるフィルムの透明性および導電性に対するある程度の制御対策を提供する。
【0039】
本発明を使用して生成されたSWNTフィルムは、様々な用途に使用することができる。例えば、本発明を使用して形成されたSWNTフィルムは、太陽電池、ビデオディスプレイ、固体光源、レシーバ、または、光学的に透明でもある導電性層を必要とする用途に使用することができる。
【0040】
本発明を使用して形成されたSWNTフィルムは、従来の光学的に透明な電極材料に勝る、少なくとも2つの大きな利点を提供する。第1に、SWNTフィルムは、高い導電性だけでなく、0.4μmから5μmのスペクトル域において良好な光透過率を提供する。第2に、形成されるフィルムは、広範なデバイスにおいて今後現れるポリマー活性層等、他の多くの材料に適合する。いくつかの用途において考えられる追加の利点は、精製されたSWNTを得ることにより、または精製工程を追加することにより、金属触媒を本質的に含まないSWNTを、本発明に従い濾過に供することができ、その結果、本発明による得られるフィルムは、空気中で450℃、または不活性雰囲気中で1000℃を超える温度まで耐えることができることである。
【0041】
最も利用可能な光学的に透明な電極材料は、製造に200℃を超える温度を必要とする。ほとんどのポリマーはそのような温度に耐えることができないため、透明電極は、例えば別個の基板上で別個に生成されなければならず、その後、活性ポリマーが塗布される。本発明を使用して、それとは対照的にナノチューブフィルムを直接それらのポリマー層上に配置することができる。
【0042】
また、SWNTフィルムが大きな利点を提供することができるいくつかの用途がある。1つの例は、ナノチューブの不活性が追加の利点を提供し得る、透明分光化学電極である。
【0043】
また、本発明を使用して生成された薄いSWNTフィルムに基づき、光変調器を形成することもできる。例えば、SWNTフィルムは、透明SWNTフィルムで被覆された薄い酸化アルミニウム層で被覆されたガラス上のインジウムスズ酸化物(ITO)からなる、コンデンサのようなデバイスの1つの電極を提供することができる。ITO電極とSWNT電極との間に電圧を印加することにより、SWNTフィルムはわずかに帯電し、それによりSWNTフィルムの特定の吸収帯にわたりその光透過性を変化させる。
【0044】
また、本発明を使用して化学センサを形成することもできる。例えば、SWNTフィルムの光学特性は、ハロゲンもしくはアルカリイオン、またはおそらくは他の種の存在下で変化し得る。特定の種の存在下で得られるSWNTフィルムの特定の光学特性の同定により、特定の種の存在を他の種の存在から区別することも可能となり得る。例えば、本発明を使用して形成されたSWNTフィルムを通した透過レベルを監視することにより、ある化学物質の存在を検出することができる。そのような用途におけるフィルムの導電性の1つの利点は、それらに十分な電流を流すことにより自己発熱して、検出された後に化学種を脱着し得ることである。そのような感度回復は、フィルムを光学的開口にわたり自立させ、より低い電流での効率的な自己発熱を可能とすることにより高められる。
【0045】
その好ましい特定の実施形態と併せて本発明を説明したが、上記説明およびそれに続く実施例は、本発明を例示することを意図し、本発明の範囲を制限する意図はないことを理解されたい。他の態様、利点および本発明の範囲内の修正は、本発明が関連する技術分野の当業者に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の単層カーボンナノチューブ(SWNT)を含む、光学的に透明な導電性単層カーボンナノチューブ(SWNT)フィルムであって、
前記ナノチューブは、前記フィルム全体にわたりナノチューブ同士の重複が遮られることなく一様に相互貫入しており、前記フィルムは10nmから1,000nmの厚さであり、厚さ100nmにおいて、前記フィルムは、200ohm/sq未満の最大25℃シート抵抗、および0.4μmから5μmの波長域にわたり少なくとも20%の光透過率を提供するのに十分な相互貫入を有する、単層カーボンナノチューブ(SWNT)フィルム。
【請求項2】
前記フィルムの形態が、積層平面を備え、前記SWNTが、前記平面内においてランダムな配向を有する、請求項1に記載のSWNTフィルム。
【請求項3】
前記光透過率が、少なくとも30%である、請求項1に記載のSWNTフィルム。
【請求項4】
SWNTが少なくとも1種のドーパントを含み、前記厚さ100nmのフィルムにおいて、前記シート抵抗が50ohm/square未満である、請求項1に記載のSWNTフィルム。
【請求項5】
前記ドーパントが、ハロゲンおよびグラファイトインターカラントからなる群から選択される、請求項4に記載のSWNTフィルム。
【請求項6】
前記SWNTから本質的になり、前記SWNTが、前記フィルムの99重量%超を構成する、請求項1に記載のSWNTフィルム。
【請求項7】
80重量%から90重量%のSWNTを含み、少なくとも1種の他の導電性材料をさらに含む、請求項1に記載のSWNTフィルム。
【請求項8】
前記他の導電性材料が、金属、導電性酸化物、活性ポリマー、またはこれらの任意の組合せを含む、請求項7に記載のSWNTフィルム。
【請求項9】
複数の単層カーボンナノチューブ(SWNT)を含む、光学的に透明な導電性単層カーボンナノチューブ(SWNT)フィルムであって、
前記ナノチューブは、前記フィルム全体にわたりナノチューブ同士の重複が遮られることなく一様に相互貫入しており、前記フィルムは10nmから240nmの厚さであり、厚さ50nmにおいて、前記フィルムは、300ohm/sq以下の最大25℃シート抵抗、および0.4μmから0.75μmの波長域にわたり少なくとも70%の光透過率を提供するのに十分な相互貫入を有する、単層カーボンナノチューブ(SWNT)フィルム。
【請求項10】
前記フィルムが、厚さ約50nmのドープされたSWNTを含み、前記シート抵抗が、約25℃で約60ohm/sqであり、0.4μmから0.75μmの光透過率が、約70%である、請求項9に記載のSWNTフィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−506824(P2010−506824A)
【公表日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533521(P2009−533521)
【出願日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/081770
【国際公開番号】WO2008/118201
【国際公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(508055353)ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション、インク. (10)
【Fターム(参考)】