説明

透明タッチパネル

【課題】 プラスチック基板の上に透明導電膜を設けた可動側の透明電極基板と、プラスチック基板または硝子基板の上に透明導電膜を設けた固定側の透明電極基板とを、互いの電極面同士が間隙をおいて向かい合うように配置した透明タッチパネルにおける、耐久性向上。
【解決手段】 少なくとも固定側の透明電極基板上の透明導電膜は、粒界構造を有する膜とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はパーソナルコンピュータ、携帯情報端末等に搭載されたディスプレー(LCD等)上に取り付けられて用いられる透明タッチパネルに関する。
【0002】
【従来の技術】図1は透明タッチパネルの構成例を示す断面図である。プラスチック基板1の上面にハードコート層2、下面に透明導電膜3を設けてなる可動側の透明電極基板と、硝子基板4の上面に透明導電膜5とドットスペーサ6を設けてなる固定側の透明電極基板とが、互いの電極面同士が間隙をおいて向かい合うように配置し、基板の周縁部で貼り合わされて構成される。なお、本図は構成の一部であり、周囲の絶縁層、粘着層、外部への引き出し回路は省略してある。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】透明タッチパネルの主要な利用分野には携帯情報端末がある。携帯情報端末においてはLCD上に取り付けられた透明タッチパネル上面をペンで押し、上下透明電極基板の電極面を接触させる事により入力を行なう。入力モードとして、アイコンをペンでタッチして入力するモードと、ペンを摺動させて、文字、図形等を入力するモードがある。後者の入力モードでは、透明タッチパネルの同一箇所で入力を繰り返すと、入力された文字や図形に歪みが発生し、正常に入力できなくなる場合があった。本発明はかかる課題を解決して、筆記耐久性に優れた透明タッチパネルの提供を目的とするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明の透明タッチパネルは、プラスチック基板の上に透明導電膜を設けた可動側の透明電極基板と、プラスチック基板または硝子基板の上に透明導電膜を設けた固定側の透明電極基板とを、互いの電極面同士が間隙をおいて向かい合うように配置した透明タッチパネルにおいて、少なくとも固定側の透明電極基板上の透明導電膜は、粒界構造を有する膜であることを特徴としている。
【0005】透明タッチパネルの同一箇所で入力を繰り返すと、入力された文字や図形に歪みが発生し、正常に入力出来なくなる場合についてその原因を調べた結果、ペン摺動を繰り返した部分では、固定側の透明電極基板上の透明導電膜が損傷を受け、抵抗直線性(リニアリティ)が崩れるために、入力された文字や図形に歪みが生じることが分かった。そこで、透明タッチパネルの筆記耐久性を向上させるために、透明導電膜の膜構造と筆記耐久性との関係を調べた結果、固定側の透明電極基板上の透明導電膜が粒界構造を有する膜の場合には、筆記耐久性に優れるが、粒界構造がない膜の場合には、筆記耐久性に劣るという事実を見出した。ここで、粒界構造を有する膜とは、走査型電子顕微鏡(倍率10万倍)で粒界構造が観察される膜を言う。
【0006】固定側の透明電極基板上の透明導電膜の膜構造の違いにより、筆記耐久性が異なる理由は以下のように考察される。すなわち、固定側の透明電極基板上の透明導電膜が粒界構造を有する膜の場合には、ペン摺動時の応力が粒界で分散されるために透明導電膜は損傷しない。一方、粒界構造がない膜の場合には、ペン摺動時の応力の逃げ場がなく、ペン摺動部の透明導電膜が損傷すると考えられる。本発明においては、少なくとも固定側の透明電極基板上の透明導電膜が粒界構造を有する膜であることを特徴とするが、同時に可動側の透明電極基板上の透明導電膜が粒界構造を有する膜であることが筆記耐久性の点からはさらに好ましい。
【0007】プラスチック基板または硝子基板上に設けられる透明導電膜としては、不純物として錫、テルル、カドミウム、モリブデン、タングステン、フッ素等を添加した酸化インジウム、不純物としてアンチモン又はフッ素を添加した酸化錫、酸化錫と酸化カドミウムよりなる酸化物等の金属酸化物薄膜が挙げられる。中でも、不純物として酸化錫を2〜20重量%添加した酸化インジウム(ITO)や不純物としてアンチモンまたはフッ素を添加した酸化錫の薄膜が好ましい。透明導電膜の形成方法としては、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法等のPVD法あるいは、CVD法がある。透明導電膜の厚さは、透明性と導電性の点から5〜50nmが好ましい。本発明においては、透明タッチパネルの筆記耐久性の観点から、少なくとも固定側の透明電極基板上の透明導電膜は、粒界構造を有する必要がある。前述の様に、粒界構造を有する膜とは、走査型電子顕微鏡(倍率10万倍)で粒界構造が観察される膜を言う。
【0008】ここで、粒界を楕円に近似した時の長径の長さを粒界サイズと定義すると、筆記耐久性の観点から透明導電膜の粒界サイズは5〜150nmであることが好ましい。更に、固定側の透明電極基板がプラスチック電極基板の場合には、筆記耐久性の観点から透明導電膜の粒界サイズは5〜50nmであることがより好ましい。一方、固定側の透明電極基板が硝子電極基板の場合には、筆記耐久性の観点から透明導電膜の粒界サイズは10〜150nmであることがより好ましい。また、可動側のプラスチック電極基板上の透明導電膜が粒界構造を有する膜である場合には、筆記耐久性の観点から透明導電膜の粒界サイズは5〜50nmであることが好ましい。粒界構造を有する膜を製造する方法としては、基板温度を100℃未満にしてPVD法により透明導電膜を形成した後、130〜250℃の雰囲気で熱処理する方法や基板温度を100〜250℃にしてPVD法により透明導電膜を形成する方法等がある。
【0009】本発明において、プラスチック基板を構成する有機高分子化合物としては、耐熱性に優れた透明な有機高分子化合物であれば特に限定しない。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレート、ポリジアリルフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリルサルフォン等のポリサルフォン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、アクリル樹脂、セルローストリアセテート等のアセテート系樹脂が挙げられる。もちろんこれらはホモポリマー、コポリマーとして、また、単独あるいはブレンドとしても使用し得る。かかるプラスチック基板の形状は特に限定しないが、通常シート状、フィルム状のものが好ましい。また、2枚以上のフィルムおよび/またはシートを積層した構成であっても良い。
【0010】そして可動側に設けるプラスチック基板は、透明タッチパネルをスイッチとして動作させるための可撓性と平坦性を保つための強度の点からは、厚さが75〜400μmのフィルム状のものが好ましい。一方固定側に設けた場合のプラスチック基板としては、透明タッチパネルの平坦性を保つための強度の点からは、厚さが0.1〜2mmのフィルム状あるいはシート状のものが好ましい。
【0011】また本発明において硝子基板は、透明な硝子板であれば、特に限定しない。厚さは、透明タッチパネルの強度、重量の点から厚さ0.4〜2mmのものが好ましい。透明導電膜を形成する前にSiO2ディップコートをすることが好ましい。
【0012】可動側の透明電極基板の外力が加わる方の面、すなわち外界と接触する側の面には、ハードコート層を設けることが好ましい。ハードコート層を形成するための材料としては、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のオルガノシラン系熱硬化型樹脂やエーテル化メチロールメラミン等のメラミン系熱硬化型樹脂、ポリオールアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート等の多官能アクリレート系紫外線硬化型樹脂等があり、必要に応じてシリカ等の微粒子を混合したものを用いることができる。ハードコート層の厚さは、可撓性、耐摩耗性の点から2〜10μmが好ましい。
【0013】またプラスチック基板においては、密着性向上の目的で透明導電膜とプラスチック基板間に、中間層を形成しても良い。中間層としては、有機ケイ素化合物の加水分解により生成された層が好ましく用いられる。中でも特に筆記耐久性の点で、官能基としてアミノ基(−NH2)を含むものが好ましく、例えばNH2−(CH23−Si−(OCH33、および/またはNH2−(CH23−Si−(OC253、および/またはNH2−(CH22−NH−(CH23−Si−(OCH33、および/またはNH2−(CH22−NH−(CH23−Si−(OC253、および/またはNH2−(CH22−NH−(CH23−Si(CH3)−(OCH32、および/またはNH2−(CH22−NH−(CH23−Si(CH3)−(OC252、の単量体および/またはこれらの加水分解により生成した会合度10以下のオリゴマーからなる群から選ばれた1種または2種以上の化合物であることが特に好ましい。
【0014】こうした中間層の塗工には、ドクターナイフ、バーコーター、グラビアロールコーター、カーテンコーター、ナイフコーター、ダイコーター、リバースロールコーター等の公知の塗工機械を用いる方法、スプレー法、浸漬法等が用いられる。
【0015】本発明において、プラスチック基板として光学等方性プラスチック基板を用いれば、タッチパネル部と液晶表示部を挟む両側に2枚の偏光板を配置した構成も可能になる。この様な構成では、透明タッチパネル内部の光は、可動側偏光板通過時に光量の低下を伴うので、透明タッチパネルの内部構造(ドットスペーサ)が目立ちにくくなる。また、透明タッチパネルの内部構造を認識させる像は上記の様に偏光板を通過する光、すなわち液晶表示部での表示パターンを認識させる光と同質の光で認識されることになるので両者の一体感が増し、これによっても透明タッチパネルの内部構造は目立たなくなる。この様な構成にすることにより、視認性を向上させることができる。ここで光学等方性プラスチックフィルムまたはシートとは、リターデーション値が30nm以下、好ましくは20nm以下の光学等方性を有するものであり、例えば、ポリカーボネート系樹脂、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリアリルサルフォン等のポリサルフォン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルローストリアセテート等のアセテート系樹脂、ポリアリレート系樹脂等のフィルムまたはシートが挙げられる。
【0016】
【実施例1】厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人(株)製の商品名「HLE」)のプライマー処理面に、シリカ粒子を混合した紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂塗料を用いて厚さ3μmのハードコート層を形成した。次に反対面側に、分子式NH2−(CH23−Si−(OC253で表される化合物の加水分解により生成した会合度5のオリゴマーを1重量%含有するリグロイン・ブタノール・エタノール・エチルセロソルブ溶液をバーコーターで塗布後130℃で5分間乾燥し、厚さ30nmの中間層を形成した。次に中間層上にスパッタリング法により、厚さ18nmのITOの低級酸化物膜を形成後、150℃の熱風乾燥機中で10時間熱処理する事により透明導電膜に転化させた。こうしてプラスチック電極基板からなる可動側の透明電極基板を作製した。ここで透明導電膜面を走査型電子顕微鏡(倍率10万倍)で観察した所、粒界サイズ5〜20nmの粒界構造が観察された。
【0017】一方、厚さ1.1mmの硝子板の両面にSiO2ディップコートを行なった後、基板温度を250℃に設定し、真空蒸着法により、厚さ18nmのアンチモンドープ酸化錫膜を形成する事により、硝子電極基板からなる固定側の透明電極基板を作製した。ここで透明導電膜面を走査型電子顕微鏡(倍率10万倍)で観察した所、粒界サイズ20〜90nmの粒界構造が観察された。
【0018】可動側透明電極基板と固定側透明電極基板として、それぞれ上記のプラスチック電極基板と硝子電極基板とを用い、互いの電極面同士が間隙をおいて向かい合うように配置して、透明タッチパネルを作製した。なおその際、固定側の透明電極基板の透明導電膜上には、高さ7μm、直径70μm、ピッチ1.5mmのドットスペーサを設けた。
【0019】先端が0.8Rのポリアセタール製のペンを用いて、ここで得られた透明タッチパネルの上面を、荷重250gの条件で直線状に5000回摺動後、摺動した線を横切る方向に直線を入力したが、歪みは全く無く正常に入力できた。
【0020】
【実施例2】固定側にも可動側と同じプラスチック電極基板を用いた以外は、実施例1と同じ方法で、透明タッチパネルを作製した。すなわち一対のプラスチック電極基板からなる透明電極基板を、互いの電極面同士が間隙をおいて向かい合うように配置して、実施例1と同様にして透明タッチパネルを作製した。
【0021】そして先端が0.8Rのポリアセタール製のペンを用いて、ここで得られた透明タッチパネルの上面を、荷重250gの条件で直線状に5000回摺動後、摺動した線を横切る方向に直線を入力したが、歪みは全く無く正常に入力できた。
【0022】
【比較例1】実施例1と同じ方法で可動側のプラスチック電極基板を作製した。一方、厚さ1.1mmの硝子板の両面にSiO2ディップコートを行なった後、基板温度を50℃に設定し、スパッタリング法により、厚さ18nmのITO膜を形成することにより、固定側の硝子電極基板を作製した。ここで透明導電膜面を走査型電子顕微鏡(倍率10万倍)で観察した所、全く粒界構造が観察されなかった。可動側の透明電極基板と固定側透明電極基板として、これらのプラスチック電極基板と硝子電極基板とを用いた以外は、実施例1と同様にして透明タッチパネルを作製した。
【0023】そして先端が0.8Rのポリアセタール製のペンを用いて、ここで得られた透明タッチパネルの上面を、荷重250gの条件で直線状に5000回摺動後、摺動した線を横切る方向に直線を入力した所、線が歪み、正常に入力できなかった。
【0024】
【発明の効果】以上説明した様に、本発明の透明タッチパネルは筆記耐久性に優れる。本発明により、携帯情報端末に好適な透明タッチパネルが得られ、実用上の意義は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】透明タッチパネルの構成例
【符号の説明】
1 プラスチック基板
2 ハードコート層
3、5 透明導電膜
4 硝子基板
6 ドットスペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 プラスチック基板の上に透明導電膜を設けた可動側の透明電極基板と、プラスチック基板または硝子基板の上に透明導電膜を設けた固定側の透明電極基板とを、互いの電極面同士が間隙をおいて向かい合うように配置した透明タッチパネルにおいて、少なくとも固定側の透明電極基板上の透明導電膜は、粒界構造を有する膜であることを特徴とする透明タッチパネル。
【請求項2】 固定側の透明電極基板上の透明導電膜の粒界サイズが5〜150nmであることを特徴とする請求項1記載の透明タッチパネル。
【請求項3】 固定側の透明電極基板はプラスチック基板上に透明導電膜を設けたものであり、かつ固定側の透明電極基板上の透明導電膜の粒界サイズが5〜50nmであることを特徴とする請求項2記載の透明タッチパネル。
【請求項4】 固定側の透明電極基板が硝子電極基板であり、固定側の透明電極基板上の透明導電膜の粒界サイズが10〜150nmであることを特徴とする請求項2記載の透明タッチパネル。
【請求項5】 可動側の透明電極基板上の透明導電膜が粒界構造を有する膜であり、かつ可動側の透明電極基板上の透明導電膜がの粒界サイズが5〜50nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の透明タッチパネル。

【図1】
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