説明

透明性樹脂積層体の製造方法、成形体および樹脂積層体

【課題】透明性が向上する透明性樹脂積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性樹脂の中間層と、この中間層の少なくとも一面に、中間層を形成する結晶性樹脂のメルトフローレートより大きく、かつ緩和時間が短い結晶性樹脂により、表面層を形成する。中間層と表面層とのうちの少なくともいずれか一方に、メタロセン触媒を用いて製造したメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体を含有させる。それぞれの結晶性樹脂を溶融状態で押し出しシート状に積層する状態で冷却して原反シート2を形成し、この原反シート2を結晶化温度以上融点以下の温度で熱処理し透明性樹脂積層体3を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明性樹脂積層体の製造方法、成形体および樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンに代表される結晶性樹脂は、その結晶性の高さ(結晶化度、結晶化速度、球晶サイズ等)から通常の製膜方法では不透明である。透明な結晶性樹脂のフィルムあるいはシートを得ようとした場合、例えば特許文献1に記載のように、添加剤処方(造核剤)により、微細結晶を多量に造り、球晶の成長を抑えるといったポリマーデザインの手法が一般的に採られている。
その他の透明性の発現手段として、例えば特許文献2に記載のようなベルトプロセスを用いた急冷法が挙げられる。このベルトプロセスを用いた急冷法では、ポリプロピレンを溶融状態から低温に保持したベルトおよびロールで挟圧し、急冷する製膜工程で透明性を付与している。すなわち、急冷することにより、結晶の成長が抑制され低結晶化および微細球晶化が図られ、造核剤を添加せずともそれ以上の透明性を実現している。
また、特許文献3に記載のようなポリプロピレン系樹脂シートでは、ポリプロピレンに特定の直鎖状低密度ポリエチレンを添加し、急冷することで、高透明性および耐衝撃性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3725955号公報
【特許文献2】特許第4237275号公報
【特許文献3】特開2006−297876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の造核剤入りポリプロピレンシートでは、透明性が従来に比べ向上しているものの、その白濁感を完全に解消するには至っていない。このため、さらに透明性が要求される用途分野への展開上、透明性のさらなる向上が望まれる。
さらに、ポリプロピレンはもともと結晶性樹脂であるために融点付近で急激に粘度が下がり、熱成形が難しいとされているが、造核剤の添加は結晶化度を高め熱成形性の範囲をさらに狭め、より一層熱成形が難しいものとなってしまうおそれがある。
また、特許文献2に記載のようなベルトプロセスや水冷法による押出製膜急冷プロセスを経たシートは、シート表面近傍に数多くの球晶ができ、この球晶の存在が透明性を低下させるおそれがある。
また、特許文献3に記載のようなポリプロピレンに特定の直鎖状低密度ポリエチレンを添加した場合でも、その透明性のさらなる向上が望まれている。
【0005】
本発明は、透明性が向上する透明性樹脂積層体の製造方法、成形体および樹脂積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者の鋭意研究により、樹脂の押出時に掛かる応力を制御することで、その後の急冷によってできる結晶に変化を起こすことが分かってきた。本発明は、この知見に基づいて完成されたものである。
本発明に記載の透明性樹脂積層体の製造方法は、結晶性樹脂により形成される中間層と、この中間層の少なくとも一面に設けられ結晶性樹脂により形成される表面層と、を具備する透明性樹脂積層体の製造方法であって、前記表面層の結晶性樹脂は、前記中間層を形成する結晶性樹脂に比べて、メルトフローレート(Melt Flow Rate:以下、MFRと称す)が大きく、緩和時間が短いものであり、前記中間層を形成する結晶性樹脂と前記表面層を形成する結晶性樹脂とのうちの少なくともいずれか一方は、メタロセン触媒を用いて製造したメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体が含まれ、前記中間層を形成する結晶性樹脂と、前記表面層を形成する結晶性樹脂とをそれぞれ溶融し、押し出されてシート状に積層する状態で冷却して樹脂積層体を形成し、この樹脂積層体を結晶化温度以上融点以下の温度で熱処理することを特徴とする。
【0007】
そして、本発明では、前記中間層は、アイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下、MFRが0.5g/10分以上5.0g/10分以下のプロピレン系樹脂(a)80質量%以上99.5質量%以下と、メタロセン触媒を用いて製造され、密度が898kg/m3以上913kg/m3以下、MFRが0.5g/10分以上6.0g/10分以下のメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)0.5質量%以上20質量%以下と、から形成される構成とすることが好ましい。
また、本発明では、前記中間層と前記表面層とを形成する結晶性樹脂は、ともにプロピレン系樹脂である構成とすることが好ましい。
さらに、本発明では、前記メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体は、直鎖状低密度ポリエチレンである構成とすることが好ましい。
また、本発明では、結晶性樹脂により形成される基材層の両面に前記中間層を設け、該中間層の表面に前記表面層を設ける構成とすることが好ましい。
そして、本発明では、前記基材層を形成する結晶性樹脂は、プロピレン系樹脂である構成とすることが好ましい。
【0008】
本発明に記載の成形体は、結晶性樹脂により形成される中間層と、この中間層の少なくとも一面に設けられ結晶性樹脂により形成される表面層と、を具備する成形体であって、前記表面層の結晶性樹脂は、前記中間層を形成する結晶性樹脂に比べて、メルトフローレート(Melt Flow Rate:以下、MFRと称す)が大きく、緩和時間が短いものであり、前記中間層を形成する結晶性樹脂と前記表面層を形成する結晶性樹脂とのうちの少なくともいずれか一方は、メタロセン触媒を用いて製造したメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体が含まれ、前記中間層を形成する結晶性樹脂と、前記表面層を形成する結晶性樹脂とが、溶融状態でシート状に積層され急冷されて得られた樹脂積層体が、結晶化温度以上融点以下の温度で熱成形されたことを特徴とする。
【0009】
本発明に記載の樹脂積層体は、熱処理されることで透明性樹脂積層体が形成される樹脂積層体であって、結晶性樹脂により形成される中間層と、この中間層の少なくとも一面に設けられ結晶性樹脂により形成される表面層と、を具備し、前記中間層の結晶性樹脂は、アイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下、MFRが0.5g/10分以上5.0g/10分以下のプロピレン系樹脂(a)80質量%以上99.5質量%以下と、メタロセン触媒を用いて製造され、密度が898kg/m3以上913kg/m3以下、MFRが0.5g/10分以上6.0g/10分以下のメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)0.5質量%以上20質量%以下と、を含み、前記表面層の結晶性樹脂は、前記中間層を形成する結晶性樹脂に比べてMFRが大きく、緩和時間が短いことを特徴とする。
【0010】
そして、本発明では、結晶性樹脂により形成される基材層の両面に前記中間層を設け、該中間層の両面に前記表面層を設ける構成とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、結晶性樹脂の中間層と、この中間層の少なくとも一面に、該中間層を形成する結晶性樹脂よりメルトフローレートが大きく、かつ緩和時間が短い結晶性樹脂により、表面層を形成する。さらに、中間層と表面層とのうちの少なくともいずれか一方に、メタロセン触媒を用いて製造したメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体を含有させる。
このため、シート状に押し出された時に掛かる応力が、表面層によって緩和され、表面からある程度の深さの位置で生成し易い球晶の生成原因となる残留応力が低減される。
しかし、残留応力の低減のみでは球晶の発生は抑えきれないため、球晶が発生する深さの位置にメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体を含有させることで、球晶の生成と成長が抑制され、球晶の量が減少するとともに球晶のサイズも小さくなる。したがって、球晶による光の散乱が減少して透明性を向上(ヘイズを低減)できる。
そして、それぞれの結晶性樹脂を溶融状態で押し出しシート状に積層する状態で冷却して樹脂積層体を形成し、この樹脂積層体を結晶化温度以上融点以下の温度で熱処理する。
急冷シートの熱処理では、冷却により得られた良好な結晶化度の樹脂積層体における微細な高次構造が維持されたまま結晶化するため、損なわれる不都合がなく、良好にシート状に形成でき、高透明性なシート状の透明性樹脂積層体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の透明性樹脂積層体の製造方法における一実施形態にかかる透明性樹脂積層体を製造する製造装置を示す概略図。
【図2】上記製造装置における引き取り部を示す概略図。
【図3】本発明を説明するためのポリプロピレンシートの屈折率と密度との関係を示すグラフで、横軸が密度、縦軸が屈折率。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態にかかる透明性樹脂積層体の製造方法を、図1を参照して説明する。
なお、本実施形態では、透明性樹脂積層体として、ポリプロピレン系のシート状の透明性樹脂積層体を例示して説明するが、この限りではない。例えば、各種ポリプロピレン以外の結晶性樹脂を利用でき、また容器などに加熱成形するなども対象とすることができる。
【0014】
[製造装置の構成]
図1において、製造装置1は、原料樹脂を溶融混練してシート状に押し出し、急冷する原反シート成形装置10と、この原反シート成形装置10にて製造された樹脂積層体としての原反シート2(図2参照)を熱処理して透明性樹脂積層体3を製造する熱処理装置20とを備えている。
ここで、原反シート2は、詳細は後述するが、図2に示すように、シート状の中間層2Aの両面に表面層2Bが設けられた2種3層構造である。
【0015】
原反シート成形装置10は、Tダイ押出装置100と、冷却押圧装置110とを備えている。
Tダイ押出装置100は、押出機101と、Tダイ102とを備えている。
押出機101としては、例えば単軸押出機や多軸押出機などが用いられる。押出機101は、原反シート2の中間層2Aに対応したものと、表面層2Bに対応したものと、複数設けられる。
Tダイ102は、各押出機101の先端に着脱可能に取り付けられ、押出機101からそれぞれ押し出される溶融樹脂2Cをシート状に積層する状態で成形する。このTダイ102は、例えば、コートハンガーダイおよびスロットダイなどが例示できる。なお、Tダイ102は、多層シートを形成できるダイスであれば、コートハンガーダイおよびスロットダイに限られない。また、押出機から溶融した原料樹脂を積層させる構成としては、例えば、フィードブロック方式またはマルチマニホールドダイ方式が例示できる。
【0016】
原反シート成形装置10の冷却押圧装置110は、Tダイ102にてシート状に積層して押出成形された溶融樹脂2Cを、冷却しつつ原反シート2に押圧成形する。この冷却押圧装置110は、図1および図2に示すように、第一冷却ロール111、第二冷却ロール112、第三冷却ロール113、第四冷却ロール114、冷却用無端ベルト115、冷却水吹き付けノズル116、水槽117、吸水ロール118、および剥離ロール119を備えている。
第一冷却ロール111、第二冷却ロール112、第三冷却ロール113、および第四冷却ロール114は、回転可能に軸支され、熱伝導性に優れた材質の金属製ロールである。そして、第一冷却ロール111と、第三冷却ロール113と、第四冷却ロール114とのうちの少なくともいずれか一つは、その回転軸が図示しない回転駆動手段と連結され、回転駆動手段の駆動により回転される。
なお、第一冷却ロール111、第二冷却ロール112、第三冷却ロール113および第四冷却ロール114は、冷却用無端ベルト115の耐久性の点で径寸法が大きい方が好ましく、実用上特に直径が100〜1500mmに設計されたものが好ましい。
【0017】
第一冷却ロール111の周面には、弾性材111Aが被覆されている。弾性部材としては、例えばニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、フッ素系ゴム、ポリシロキサン系ゴム、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体)などが用いられる。
この弾性材111Aは、弾性変形して良好な面圧を得るために、例えば硬度(JIS K 6301Aに準拠した方法で測定)が80度以下、厚さが10mm程度であるのが好ましい。
【0018】
第二冷却ロール112は、周面の表面粗さ(JIS B 0601「表面粗さ−定義および表示」に基づく表面粗さ:Rmax)が、0.3μm以下の鏡面とされた金属製ロール(鏡面冷却ロール)である。第二冷却ロール112の内部には、表面の温度調節を可能にするために、図示しない水冷式などの冷却手段が内蔵されている。第二冷却ロール112の表面粗さ(Rmax)が0.3μmを超えると、得られる原反シート2の光沢度や透明性が低下するおそれがあるためである。
このような第二冷却ロール112は、ステンレスなどにて形成された金属製の冷却用無端ベルト115を介して第一冷却ロール111との間に、Tダイ102から溶融押出された中間層2Aおよび表面層2Bを挟むように配置されている。
【0019】
冷却用無端ベルト115は、例えばステンレス、炭素鋼、チタン合金などにて無端ベルト状に形成され、第一冷却ロール111と、第三冷却ロール113と、第四冷却ロール114とに巻装されている。この冷却用無端ベルト115は、外周面すなわちTダイ102から溶融押出された中間層2Aおよび表面層2Bと接する面の表面粗さ(Rmax)が0.3μm以下の鏡面に形成されている。
なお、第三冷却ロール113および第四冷却ロール114は、内部に図示しない水冷式などの冷却手段を内蔵させることにより、冷却用無端ベルト115の温度調節が可能となるようにすることができる。
【0020】
冷却水吹き付けノズル116は、第二冷却ロール112の鉛直方向における下方に位置して、冷却用無端ベルト115の裏面に冷却水116Aを吹き付ける状態で配設されている。
冷却水吹き付けノズル116は、冷却水116Aを吹き付けることで、冷却用無端ベルト115を急冷するとともに、第一冷却ロール111および第二冷却ロール112により面状圧接された中間層2Aおよび表面層2Bをも急冷する。
【0021】
水槽117は、上面が開口した箱状に形成され、第二冷却ロール112の下面全体を覆うように設けられ、冷却用無端ベルト115の裏面に吹き付けられた冷却水116Aを回収する。
水槽117には、回収した水117Aを水槽117の下面から排出する排水口117Bが設けられている。
【0022】
吸水ロール118は、第二冷却ロール112における第三冷却ロール113側の側面部に、冷却用無端ベルト115に接するように設置されている。
吸水ロール118は、冷却用無端ベルト115の裏面に付着した余分な冷却水を除去するためのものである。
【0023】
剥離ロール119は、中間層2Aおよび表面層2Bを第三冷却ロール113、および冷却用無端ベルト115にガイドするように配置されるとともに、冷却終了後の原反シート2を冷却用無端ベルト115から剥離するものである。
なお、剥離ロール119は、原反シート2を第三冷却ロール113側に圧接するように配置してもよいが、図示するように第三冷却ロール113に対して離間して配置し、原反シート2を圧接しないようにするのが好ましい。
【0024】
製造装置1の熱処理装置20は、予熱装置210と、熱処理装置本体220と、冷却装置230とを備えている。
予熱装置210は、原反シート成形装置10にて成形された原反シート2を加温して予熱する。この予熱装置210は、図1に示すように、第一予熱ロール211と、第二予熱ロール212と、第三予熱ロール213とを備えている。これら第一予熱ロール211、第二予熱ロール212および第三予熱ロール213は、例えば金属などの熱伝導性に優れた材質のものが用いられる。
これら第一予熱ロール211、第二予熱ロール212および第三予熱ロール213には、表面の温度調整を可能とする蒸気加熱式などの図示しない温度調整手段が設けられている。なお、温度調整手段としては、各予熱ロール211〜213に直接設ける構成に限らず、別途予熱専用のロールを設けたり、外部に設けた予熱装置により予熱する構成としたりしてもよい。
なお、予熱装置210は、これら3つの予熱ロール211〜213を配設した構成に限られるものではなく、1つあるいは複数の予熱ロールを設けた構成や無端ベルトを用いる構成など、原反シート2を予熱可能ないずれの構成でもできる。
【0025】
熱処理装置20の熱処理装置本体220は、予熱装置210にて予熱された原反シート2を加熱しつつ走行する。この熱処理装置本体220は、第一加熱ロール221と、第二加熱ロール222と、第三加熱ロール223と、第四加熱ロール224と、加圧ロールであるラバーロール225と、ガイドロール226と、金属製の加熱用無端ベルト227と、図示しない駆動手段とを備えている。
そして、第一加熱ロール221、第二加熱ロール222、第三加熱ロール223、第四加熱ロール224およびガイドロール226は、金属などの熱伝導性に優れた材質のものが用いられる。また、第一加熱ロール221、第二加熱ロール222、第三加熱ロール223および第四加熱ロール224は、金属製の加熱用無端ベルト227の耐久性の点で径寸法が大きい方が好ましく、実用上特に直径が100〜1500mmに設計されたものが好ましい。
これら第一加熱ロール221、第二加熱ロール222、第三加熱ロール223および第四加熱ロール224には、表面の温度調整を可能とする蒸気加熱式などの図示しない温度調整手段が設けられている。なお、温度調整手段としては、各加熱ロール221〜224に直接設ける構成に限らず、別途加熱専用のロールを設けたり、外部に設けた加熱装置により加熱する構成としたりしてもよい。
そして、加熱の条件は、原反シート2の結晶化温度以上融点以下の温度、例えば原反シート2が上述したプロピレン系樹脂(a)およびメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)からなるものである場合には、原反シート2の表面温度が120℃以上融点未満となる条件である。
また、駆動手段は、第一加熱ロール221、第二加熱ロール222および第三加熱ロール223のうちの少なくともいずれか1つに連結されている。そして、駆動手段は、駆動により連結された第一加熱ロール221、第二加熱ロール222および第三加熱ロール223のうちの少なくともいずれか1つを回転させる。
【0026】
加熱用無端ベルト227は、例えばステンレス、炭素鋼、チタン合金などにて無端ベルト状に形成されている。なお、厚さ寸法は、任意に設定できるが、強度的に0.3mm以上が好ましい。
そして、この加熱用無端ベルト227は、第一加熱ロール221、第二加熱ロール222および第三加熱ロール223に掛け渡され、駆動手段の駆動により回転移動する。なお、駆動手段は、加熱用無端ベルト227の移動速度が、上述した冷却押圧装置110の駆動手段の駆動により回転移動する冷却用無端ベルト115の移動速度と略同一となるように駆動制御される。
【0027】
第四加熱ロール224は、外周面が加熱用無端ベルト227の外周面に対向し、第一加熱ロール221および第二加熱ロール222の外側接線に交差する状態で配置されている。第四加熱ロール224は、この第四加熱ロール224の外周面と加熱用無端ベルト227の外周面との間に、予熱装置210で予熱された原反シート2を導入可能に、回転自在に配設されている。
【0028】
ラバーロール225は、外周面が第一加熱ロール221に巻き付く状態で掛け渡された部分の加熱用無端ベルト227の外周面に対向する。
そして、ラバーロール225は、少なくとも外周面に図示しないクッション材が被覆形成されている。このクッション材は、冷却押圧装置110の第二冷却ロール112と同様の材料が用いられる。なお、ラバーロール225は、クッション材を外周面のほぼ全体に被覆形成したり、ほぼ全体がクッション材にて形成したりしたものなどでもできる。
そして、ラバーロール225は、予熱装置210からの原反シート2を加熱用無端ベルト227の外周面に押圧して熱密着させる。すなわち、ラバーロール225は、予熱された原反シート2および加熱用無端ベルト227を介して第一加熱ロール221に接触する状態に配設されている。そして、原反シート2は、加熱用無端ベルト227に密着した状態で走行し、次いで第四加熱ロール224で押圧挟持されて走行する。
【0029】
ガイドロール226は、外周面が加熱用無端ベルト227の外周面に対向して回転自在に配設され、加熱用無端ベルト227および第四加熱ロール224間で加熱および押圧されたシート状の透明性樹脂積層体3をガイドする。すなわち、ガイドロール226は、透明性樹脂積層体3の移動方向の下流側である製造下流側に位置する第二加熱ロール222を介して第四加熱ロール224より製造下流側に位置して配設されている。
このことにより、ガイドロール226は、加熱用無端ベルト227および第四加熱ロール224間で加熱および押圧されて得られた透明性樹脂積層体3を、第四加熱ロール224の外周面から剥離させた後に加熱用無端ベルト227の外周面から剥離するようにガイドする。
【0030】
熱処理装置20の冷却装置230は、熱処理装置本体220にて熱処理された透明性樹脂積層体3を冷却する。この冷却装置230は、第一冷却ガイドロール231と、第二冷却ガイドロール232と、一対の案内ロール233とを備えている。これら第一冷却ガイドロール231、第二冷却ガイドロール232および一対の案内ロール233は、例えば金属などの熱伝導性に優れた材質のものが用いられる。
第一冷却ガイドロール231、第二冷却ガイドロール232および一対の案内ロール233は、熱処理装置本体220にて熱処理された透明性樹脂積層体3を蛇行するように掛け渡す状態に略直線上に位置して配設されている。これら第一冷却ガイドロール231および第二冷却ガイドロール232には、表面の温度調整を可能とする蒸気加熱式などの図示しない温度調整手段が設けられている。なお、温度調整手段としては、各冷却ガイドロール231,232に直接設ける構成に限らず、別途冷却専用のロールを設けたり、外部に設けた冷却装置により冷却する構成としたりしてもよい。
また、一対の案内ロール233は、第二冷却ガイドロール232の製造下流側に位置して配設されている。そして、これら案内ロール233は、外周面が対向し外周面間に冷却された透明性樹脂積層体3を挟持する状態に、透明性樹脂積層体3の移動方向に対して交差する上下方向に並設されている。
なお、冷却装置230は、第一冷却ガイドロール231、第二冷却ガイドロール232および一対の案内ロール233を配設した構成に限られるものではなく、1つあるいは複数のロールを設けた構成や無端ベルトを用いる構成など、透明性樹脂積層体3を冷却可能ないずれの構成でもできる。
【0031】
[原反シートの構成]
次に、上記製造装置1で透明性樹脂積層体を製造する原反シート2の構成を説明する。
原反シート2は、例えば、シート状の中間層2Aの両面に表面層2Bが設けられた2種3層構造である。
中間層2Aは、結晶性樹脂、例えばポリプロピレン系樹脂により形成される。特に、中間層2Aは、プロピレン系樹脂(a)と、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)とを主成分とするポリプロピレン系樹脂にて形成されることが好ましい。
【0032】
プロピレン系樹脂(a)は、アイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下、メルトフローレート(Melt Flow Rate:以下、MFRと称す)が0.5g/10分以上5.0g/10分以下であることが好ましい。さらに、アイソタクチックペンタッド分率が90%以上99%以下、MFRが2.0g/10分〜4.0g/10分であることがより好ましい。
ここで、アイソタクチックペンタッド分率とは、樹脂組成の分子鎖中のペンタッド単位(プロピレンモノマーが5個連続してアイソタクチック結合したもの)でのアイソタクチック分率である。この分率の測定法は、例えばマクロモレキュールズ(Macromolecules)第8巻(1975年)687頁に記載されており、13C-NMRにより測定できる。
また、MFRの測定については、JIS−K7210に準拠し、測定温度230℃、荷重2.16kgで測定できる。
【0033】
そして、プロピレン系樹脂(a)は、アイソタクチックペンタッド分率が85%より低いと、成形品の剛性が不足するおそれがある。一方、アイソタクチックペンタッド分率が99%より高いと、透明性が低下するおそれがある。このため、プロピレン系樹脂(a)は、アイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下に設定されることが好ましい。
また、プロピレン系樹脂(a)は、MFRが0.5g/10分より小さいと、押出成形時のダイスリップ部でのせん断応力が強くなり、結晶化を促進して透明性が低下するおそれがある。一方、MFRが5.0g/10分より大きいと、熱成形時にドローダウンが大きくなって成形性が低下するおそれがある。このため、プロピレン系樹脂(a)は、MFRが0.5g/10分以上5.0g/10分以下に設定されることが好ましい。
【0034】
一方、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)は、メタロセン触媒を用いて製造され、密度が898kg/m3以上913kg/m3以下、MFRが0.5g/10分以上6.0g/10分以下のものである。
ここで、密度は、試験温度23℃で、JIS−K7112の「プラスチック−非発泡プラスチックの密度及び比重の測定方法」に準拠して、測定した。
MFRの測定については、JIS−K7210に準拠し、測定温度190℃、荷重2.16kgで測定できる。
そして、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)としては、プロピレン系樹脂との屈折率がほぼ同等の材料、特に、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)は、密度が898kg/m3より小さい、もしくは密度が913kg/m3より大きいと、マトリックスのプロピレン系樹脂(a)との屈折率が合わなくなり、プロピレン系樹脂(a)とメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)との界面で光の屈折が大きくなって透明性を損なうおそれがある。
すなわち、プロピレン系樹脂(a)と、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)との屈折率がほぼ同じとなれば、製造される透明性樹脂積層体3の透明性が向上する。
【0035】
図3は、急冷によりシート状に成形、熱処理により結晶化させたポリプロピレンシートの屈折率と密度との関係を示すグラフである。図3を参照するに、急冷したポリプロピレンシートを熱処理して結晶化させた際、屈折率が1.504〜1.509で、密度が900〜907kg/m3の範囲内にある。よって、添加するメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)の屈折率が1.504〜1.509の範囲内にあれば透明性を損なうことは無くなる。
ここで、物質の屈折率と密度との関係は、下記式(1)に示すLorentz-Lorenzの式で表すことができる。nは対象物質の屈折率、ρは対象物質の密度、Mは対象物質の分子量、Nはアボガドロ数、Pは対象物質の分極率である。
【0036】
【数1】

【0037】
アボガドロ数N、分極率P、分子量Mが定数であるため、屈折率nは密度ρをパラメータとする下記式(2)で表現できる。
【0038】
【数2】

【0039】
上記式(2)に示すように、密度と屈折率とは相関があるため、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)は密度で選択することができる。
このため、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)は、密度が898kg/m3以上913kg/m3以下に設定されることが好ましい。
また、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)は、MFRが0.5g/10分より小さいと、マトリックスのプロピレン系樹脂(a)の分子中への分散がしにくくなり、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)の分散径が大きくなって光の散乱が生じ、透明性が損なわれるおそれがある。一方、MFRが6.0g/10分より大きいと、マトリックスのプロピレン系樹脂(a)との相溶性が悪くなり、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)が分散しきれずに巨大な粒子として存在してしまう。このような状態では、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)の粒子によって光の散乱が生じ、透明性が損なわれるがあるためである。
【0040】
各種ポリマーブレンド物を平衡状態まで混練した時、ブレンドの分散相径Dは下記式(3)に示す、Wuの式で表すことができる。ここで、Dは分散相径、γは界面張力、ηはマトリックスの粘度、Gはせん断速度、ηは分散相粘度である。
【0041】
【数3】

【0042】
マトリックスの粘度η、せん断速度Gは一定なので、分散相径Dは分散相粘度ηと界面張力γとがパラメータとなる。上記式(3)が示すように、マトリックスと分散相の粘度が1に近づくほど分散相径Dは小さくなり、光の散乱が減少して透明性は向上することがわかる。本発明では、せん断速度60sec-1の時の粘度比が1.0〜3.0にて良好な透明性を示した。上記の粘度範囲に入るメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)のMFRは、0.5g/10分以上6.0g/10分となる。
【0043】
そして、中間層2Aは、プロピレン系樹脂(a)80質量%以上99.5質量%以下、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)0.5質量%以上20質量%以下で配合されることが好ましい。
すなわち、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)の配合量が多くなると、得られる原反シート2の剛性が低下するおそれがある。一方、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)の配合量が少なくなると、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)がプロピレン系樹脂(a)中に十分に分散されず、球晶の成長の抑制が不十分となって、透明性の向上が得られにくくなるためである。
【0044】
一方、表面層2Bは、中間層2Aよりメルトフローレート(Melt Flow Rate:以下、MFRと称す)が大きく、かつ、緩和時間が短い結晶性樹脂、例えばポリプロピレン系樹脂により形成される。具体的には、表面層2Bは、中間層2AよりMFRが1.5倍以上大きいことが好ましい。MFRが1.5倍未満では、透明性の改善効果が小さいからである。さらに、緩和時間が中間層2Aの80%以下であることが好ましい。緩和時間が80%より大きいと透明性の改善効果が小さいからである。
【0045】
MFRの測定については、JIS−K7210に準拠し、測定温度230℃、荷重2.16kgで測定した。
また、緩和時間(τ)は、レオメトリックス社製回転型レオメーターにおいて、コーンプレートを25mmφ、コーンアングルを0.1ラジアン(rad)とし、温度175℃にお
いて周波数分散測定を行った時の角周波数ω=0.01rad/秒における緩和時間を求め
た。具体的には、樹脂ペレットについて測定した複素弾性率G(iω)を下記式(4)に
示すように、応力σと歪γによりσ/γで定義し、緩和時間τは下記式(5)により求めた。
[式(4)]
(iω)=σ=G’(ω)+IG"(ω) ・・・(4)
[式(5)]
τ(ω)=G’(ω)/(ωG"(ω)) ・・・(5)
(式中、G’は貯蔵弾性率を示し、G”は損失弾性率を示す。)
【0046】
ここで、緩和時間(τ)について詳しく説明する。
平衡状態にある物質系に外力を加え、新しい平衡状態または定常状態に達した後、外力を取り去ると、その系の内部運動によって、系が初めの平衡状態に回復する現象を緩和現象といい、緩和に要する時間の目安となる特性的な時間定数を緩和時間という。高分子の成形加工(例えば押出成形)の場合、溶融した高分子を流動させるが、この時に分子鎖は流動方向に引き伸ばされて引き揃えられる(配向する)。そして、流動が終了し、冷却が始まると、分子に加わる応力がなくなり、各分子鎖は動き出し、やがて勝手な方向に向いてしまう(これを分子鎖の緩和という)。
緩和時間は、押出成形時において、押出方向に配向した分子鎖の戻りやすさに関係しており、緩和時間が短い場合には、元に戻りやすいことを示している。
【0047】
なお、本実施形態では、原反シート2は、3層としたが、これに限らず、中間層2Aの片面のみに表面層2Bを形成した2層としてもよい。また、原反シート2は、基材層の少なくとも一面に中間層2Aを設け、中間層2Aの表面に表面層2Bを設けた3層以上としてもよい。
また、樹脂原料としては、ポリプロピレン系樹脂に限られない。
【0048】
[透明性樹脂積層体の製造方法]
次に、上記製造装置1によりシート状の透明性樹脂積層体3を製造する動作を説明する。
【0049】
まず、原反シート成形装置10の冷却押圧装置110の冷却用無端ベルト115および第三冷却ロール113の外周面温度が、溶融樹脂2Cの露点以上50℃以下に保たれるように、温度調整手段にて温度制御する。ここで、温度が50℃を超える場合には、原反シート2の良好な透明性が得られなくなるとともに、α晶が多くなって熱成形しにくくなる可能性がある。このため、50℃以下、好ましくは30℃以下に制御する。また、露点より低い場合には、表面に結露が生じてシートに水滴斑が発生し均一な製膜が困難になる可能性があるため、露点以上に制御される。
また、熱処理装置20の熱処理装置本体220では、加熱用無端ベルト227または第四加熱ロール224の外周面温度が、原反シート2の結晶化温度以上融点以下に保たれるように、温度調整手段にて温度制御する。なお、熱処理装置20の予熱装置210では、原反シート成形装置10の冷却押圧装置110にて冷却された温度である50℃以上結晶化温度以下に予熱するように温度制御するとよい。
【0050】
この状態で、Tダイ押出装置100のTダイ102から、中間層2Aおよび表面層2Bの溶融樹脂2Cをシート状に積層する状態で押し出し、冷却押圧装置110の回転移動する冷却用無端ベルト115および回転する第三冷却ロール113の外周面間に導入させる。
この導入された中間層2Aおよび表面層2Bのシート状で積層する溶融樹脂2Cは、面状圧接するとともに急冷される。
この急冷の際、第二冷却ロール112および第三冷却ロール113間の押圧力で弾性材111Aが圧縮される状態に弾性変形する。そして、溶融樹脂2Cは、弾性材111Aが弾性変形している第二冷却ロール112および第三冷却ロール113の中心からの角度θ1部分(図2参照)において、冷却用無端ベルト115とともに挾持されて弾性材111Aの復元力により面状押圧される。
なお、この際の面圧は、0.1MPa以上20.0MPa以下が好ましい。ここで、面圧が0.1MPaより低くなると、冷却用無端ベルト115と第三冷却ロール113と溶融樹脂2Cとの間に空気を巻き込み、シート外観が不良となるおそれがある。一方、面圧が20.0MPaより高くなると、冷却用無端ベルト115の寿命の点から好ましくない。このことから、面状押圧の面圧を0.1MPa以上20.0MPa以下に設定する。
【0051】
続いて、第二冷却ロール112と、冷却用無端ベルト115との間に挟まれた中間層2Aおよび表面層2Bは、第二冷却ロール112の略下半周に対応する円弧部分において、第二冷却ロール112と、冷却用無端ベルト115とにより面状圧接される。さらに、中間層2Aおよび表面層2Bは、冷却水吹き付けノズル116による冷却用無端ベルト115の裏面側への冷却水116Aの吹き付けにより、さらに急冷される。
なお、このときの面圧は、0.01MPa以上0.5MPa以下に設定することが好ましい。また、冷却水116Aの温度は、0℃以上30℃以下に設定することが好ましい。なお、吹き付けられた冷却水116Aは、水槽117に回収されるとともに、回収された水117Aは排水口117Bより排出される。
ここで、面圧が0.01MPaより低くすると、冷却用無端ベルト115の蛇行制御が困難となり、安定生産できなくなるおそれがある。一方、面圧が0.5MPaより高くなると、冷却用無端ベルト115に作用する張力が高くなって寿命の点から好ましくない。このことから、面状押圧の面圧を0.01MPa以上0.5MPa以下に設定することが好ましい。
【0052】
このようにして、第二冷却ロール112と、冷却用無端ベルト115との間で、中間層2Aおよび表面層2Bに対して面状圧接と、冷却がなされた後、冷却用無端ベルト115に密着した中間層2Aおよび表面層2Bは、冷却用無端ベルト115の回転移動とともに第三冷却ロール113上に移動される。そして、剥離ロール119によりガイドされた中間層2Aおよび表面層2Bは、冷却用無端ベルト115を介して第三冷却ロール113で冷却される。
なお、冷却用無端ベルト115の裏面に付着した水は、第二冷却ロール112から第三冷却ロール113への移動途中に設けられている吸水ロール118により除去される。
【0053】
第三冷却ロール113上で冷却された中間層2Aおよび表面層2Bは、剥離ロール119により冷却用無端ベルト115から剥離され、原反シート2が成形される。
この得られた原反シート2は、内部ヘイズが20%以下で、かつ少なくとも片面の表面粗さがRmax=0.5μm以下となっている。すなわち、冷却押圧装置110では、内部ヘイズが20%以下で、かつ少なくとも片面の表面粗さがRmax=0.5μm以下に原反シート2が得られる条件で急冷および面状圧接することが好ましい。
ここで、ヘイズ(曇り度)は、JIS−K−7105に準拠して、原反シート2に光を照射して透過した光線の全量を表す全光線透過率(Tt)と、原反シート2によって拡散された透過した拡散光線透過率(Td)との比によって、下記式(6)で求められる。なお、全光線透過率(Tt)は、入射光と同軸のまま透過した平行光線透過率(Tp)と拡散光線透過率(Td)との和である。
[式(6)]
ヘイズ(H)=(Td/Tt)×100 …(6)
【0054】
また、内部ヘイズとは、シート表面粗さに影響されずに、シート内部の透明性を測定するため、シート表面にシリコーンを塗布し、ヘイズを測定したものである。ここで、内部ヘイズの値が20%より大きい場合、後段での熱処理装置本体220による加熱および面状押圧の処理を施しても、内部ヘイズが高くなり、高透明な透明性樹脂積層体3が得られなくなるおそれがある。
一方、表面粗さがRmax=0.5μmより粗いと、後段での熱処理装置本体220における第四加熱ロール224および加熱用無端ベルト227に熱密着する際に空気を巻き込んでいわゆるブリスタを生じるおそれがある。このため、内部ヘイズが20%以下、表面粗さがRmax=0.5μm以下となるように原反シート2を成形することが好ましい。
【0055】
次に、冷却押圧装置110にて成形された原反シート2を、予熱装置210の第一予熱ロール211、第二予熱ロール212および第三予熱ロール213の外周面に掛け渡して移動させ、予熱する。
そして、予熱装置210で予熱した原反シート2を、熱処理装置本体220のラバーロール225および加熱用無端ベルト227の外周面間に導入する。この導入された原反シート2は、ラバーロール225により加熱用無端ベルト227の外周面に面状押圧されて熱密着される。この熱密着された原反シート2を、回転移動する加熱用無端ベルト227とともに移動させ、加熱用無端ベルト227および第四加熱ロール224の外周面間に導入する。この導入された原反シート2は、原反シート2を介在する第四加熱ロール224と、この第四加熱ロール224により張力が作用する加熱用無端ベルト227とに、面状圧接される。
この原反シート2の熱処理における加熱温度は、原反シート2の結晶化温度以上融点以下である。例えば、原反シート2が上述したプロピレン系樹脂(a)およびメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)からなるものである場合、原反シート2の表面温度が120℃以上融点未満となる条件で加熱する。また、熱処理時の面圧は、成形する形状に応じて適宜設定される。
ここで、原反シート2の結晶化温度より低い温度では、原反シート2の軟化が不十分となって、所望の形状に形成できない。一方、原反シート2の融点より高い温度では、冷却押圧装置110における急冷で得られた高次構造が破壊され、白濁して透明性が得られなくなるためである。
この後、原反シート2は、第四加熱ロール224の外周面から剥離され、加熱用無端ベルト227に密着する状態で移動されつつ加熱される。そして、加熱された原反シート2は、ガイドロール226のガイドにより、加熱用無端ベルト227から剥離されて、シート状の透明性樹脂積層体3として繰り出される。
【0056】
この得られた透明性樹脂積層体3を、冷却装置230の第一冷却ガイドロール231および第二冷却ガイドロール232の外周面に掛け渡して蛇行するように移動して冷却し、一対の案内ロール233間から送り出す。
なお、送り出された製品である透明性樹脂積層体3は、例えば図示しない巻取装置に巻き取る。
【0057】
以上の製造方法により、得られる透明性樹脂積層体3の総厚さ寸法は、160μm以上500μm未満とすることが好ましい。
ここで、透明性樹脂積層体3の総厚さ寸法が160μmより薄い場合、冷却押圧装置110の各冷却ロール111〜114による急冷効果が十分に得られ、敢えて積層する必要性がない程度に透明性が得られるためである。一方、透明性樹脂積層体3の総厚さ寸法が500μm以上の場合、熱伝導による急冷効果が期待できず、結果として積層の効果が発現できないためである。
【0058】
[実施形態の作用効果]
上記実施形態では、結晶性樹脂の中間層2Aと、この中間層2Aの少なくとも一面に、中間層2Aを形成する結晶性樹脂のMFRより大きくかつ緩和時間が短い結晶性樹脂により、表面層2Bを形成している。そして、中間層2Aと表面層2Bとのうちの少なくともいずれか一方、具体的には中間層2Aにメタロセン触媒を用いて製造したメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体を含有させている。
このため、シート状に押し出された時に中間層2Aに掛かる応力が、表面層2Bによって緩和され、表面からある程度の深さの位置で生成し易い球晶の生成原因となる残留応力が低減される。さらに、球晶が発生する深さの位置にメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体を含有させることで、球晶の生成と成長が抑制され、球晶の量が減少するとともに球晶のサイズも小さくなる。したがって、球晶による光の散乱が減少して透明性を向上(ヘイズを低減)できる。
そして、中間層2Aおよび表面層2Bのそれぞれの結晶性樹脂を溶融状態で押し出してシート状に積層する状態で冷却して原反シート2を形成し、この原反シート2を結晶化温度以上融点以下の温度で熱処理する。
このため、冷却により得られた良好な結晶化度の原反シート2における高次構造が破壊されて透明性が損なわれる不都合がなく、良好にシート状に形成でき、高透明性なシート状の透明性樹脂積層体3が得られる。
【0059】
そして、中間層2Aとして、アイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下、MFRが0.5g/10分以上5.0g/10分以下のプロピレン系樹脂(a)80質量%以上99.5質量%以下と、メタロセン触媒を用いて製造され、密度が898kg/m3以上913kg/m3以下、MFRが0.5g/10分以上6.0g/10分以下のメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)0.5質量%以上20質量%以下と、から形成している。
このため、中間層2Aにおけるプロピレン系樹脂(a)と球晶成長を抑制するメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)との屈折率がほぼ同程度であり、透明性を向上できる。
さらに、プロピレン系樹脂(a)とメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)との粘度比の値が1.0以上3.0以下であることから、良好に均一分散でき、均一分散できないことによる透明性の低下を防止できる。
そして、プロピレン系樹脂(a)が80質量%以上99.5質量%以下、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)が0.5質量%以上20質量%以下で配合している。このため、プロピレン系樹脂(a)に対して不純物となるメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)が多くなり過ぎることにより剛性が低下する不都合を防止できる。一方、球晶成長を抑制するメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)が少なすぎて、プロピレン系樹脂(a)全体に十分に分散されず、球晶成長を十分に抑制できず、透明性が十分に向上できなくなるおそれも防止できる。
【0060】
また、中間層2Aと表面層2Bとを形成する結晶性樹脂として、プロピレン系樹脂を用いることが好ましい。
このため、広く利用されシート状の成形や熱処理などが容易にでき、人体に影響がないプロピレン系樹脂を用いることで、透明性樹脂積層体3を各種分野で利用でき、透明性樹脂積層体3を安価に提供できる。
【0061】
そして、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体として、直鎖状低密度ポリエチレンを用いる。
このため、プロピレン系樹脂(a)との屈折率がほぼ同じで、かつ容易に均一分散混合でき、容易に透明性を向上することができる。したがって、高透明性の透明性樹脂積層体3を容易に形成できる。
【0062】
また、シート状の中間層2Aの両面に表面層2Bを設けた2種3層構造に原反シート2を形成している。
このため、片面に設ける場合に比して、中間層2Aの押し出し時に掛かる応力をより緩和でき、残留応力をより低減でき、透明性をさらに向上できる。
【0063】
そして、基材となる結晶性樹脂から形成される基材層の両面に中間層2Aを設け、これら中間層2Aの表面にさらに表面層2Bを設けた5層構造としてもよい。
このような3種5層構造とすると、表面層に低粘度のプロピレン系樹脂(a)を積層しても残ってしまう球晶の成長を阻害でき、光の散乱による透明性低下の原因である巨大な球晶の発生を抑えられる。さらに、メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)が添加されている層厚みを減らすことで、異なる物質であるメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)による光の屈折を防止しできるため、さらに透明性を向上できる。
特に、基材層の結晶性樹脂としてプロピレン系樹脂を用いることで、基材層と中間層2Aおよび表面層2Bとの屈折率がほぼ同じとなるので、3種5層構造でも高透明性の透明性樹脂積層体3を得ることができる。
【0064】
また、本実施形態の製造装置1では、冷却押圧装置110で原反シート2を製造し、そのまま熱処理装置20で熱処理して透明性樹脂積層体3を一連に製造している。
このため、所望とする高透明性の透明性樹脂積層体3を効率よく製造できる。
【0065】
[変形例]
なお、以上に説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではない。本発明の目的および効果を達成できる範囲内での変形や改良は、本発明の内容に含まれるものである。
例えば、原反シート2を製造した後に巻き取り、別体の熱処理装置20に製造した原反シート2を供給して熱処理し、透明性樹脂積層体3を製造してもよく、製造装置1の構成は、上記実施形態に限られるものではない。
また、原反シート2として、中間層2Aの両面に表面層2Bを設けた構成としたが、中間層2Aの片面のみに表面層2Bを設けた2層構成としてもよい。また、基材層の片面に中間層2Aを設け、この中間層2Aの表面に表面層2Bを設けた3種3層構造としてもよい。さらに、基材層の両面に設けた中間層2Aのうち一方の中間層2Aの表面のみに表面層2Bを設けた3種4層構造とするなどしてもよい。
その他、プロピレン系樹脂(a)およびメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)の物性や配合量など、結晶性樹脂の中間層2Aに対して表面層2BのMFRが大きく緩和時間が短い条件であれば、所望とする透明性樹脂積層体3に応じて適宜設定できる。さらに、プロピレン系樹脂(a)およびメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)に限られるものではない。
【実施例1】
【0066】
〔実施例1〜8、比較例1〜5〕
上記実施形態において、製造装置及び製造方法の具体的条件を下記の通りとした。また、各実施例並びに各比較例における原料樹脂を表1に、層構成を表2〜4に示す。
原料樹脂のメルトフローレートの測定は、
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示す原料樹脂を用いて、原反シート2から上記製造装置1の熱処理装置20で容器を製造した。この製造条件は、以下の通りである。
◎押出機:
・第一基材層用;直径90mm
・第二基材層用;直径50mm
◎コートハンガーダイの幅寸法:900mm
(フィードブロック方式による溶融樹脂2Cの積層)
◎冷却ロールの表面粗さ:Rmax=0.1μm
◎冷却用無端ベルト:
・材質;析出硬化系ステンレススチール
・表面粗さ;Rmax=0.1μm
・幅寸法;900mm
・長さ寸法;7700mm
・厚さ寸法;0.8mm
◎溶融樹脂2Cが冷却押圧装置110に導入される冷却用無端ベルト115と第三冷却ロール113との温度:16℃
◎原反シート2の引き取り速度:10m/分
◎原反シート2の幅寸法:780mm
◎容器の加熱成形時の温度:原反シート2の表面温度130℃
【0069】
そして、得られた原反シート2の内部ヘイズ、および、容器のヘイズを測定した。
ここで、内部ヘイズは、ヘイズ測定機(NDH−300A、日本電色工業株式会社製)を使用して測定した。内部ヘイズは、シートの両面にシリコーンオイルを塗布した後、ガラス板でこのシートの両面を挟み、シート外側の影響を消去してヘイズ測定機で測定した。容器のヘイズは、シートに光を照射して透過した光線の全量を表す全光線透過率(Tt)と、シートによって拡散され透過した拡散光線透過率(Td)との比によって、上述した実施形態の式(3)で求めた。
【0070】
また、容器の平均厚みは、マイクロゲージ(ID−C112C、株式会社ミツトヨ製)を使用して測定した。容器天面を5cm×5cmに切り抜き、中心、端2点の計3点の平均を1サンプルとし、5サンプルの平均を容器の平均厚みとした。
メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のMFRおよび密度は、上記実施形態に記載の通りである。
【0071】
測定結果を表2〜4に示す。
【表2】

【0072】
【表3】

【0073】
【表4】

【0074】
[結果]
表2〜4に示す結果から、密度が898kg/m3以上913kg/m3以下、MFRが0.5g/10分以上6.0g/10分以下のメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)を中間層に添加したシートでは、良好な透明性を得ることができた。メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)の添加による、透明性向上効果が大きいということがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、例えば食品、医薬品、化粧品などの包装用途の他、透明性が要求される各種用途に利用できる。
【符号の説明】
【0076】
1……製造装置
2……樹脂積層体としての原反シート
2A…中間層
2B…表面層
3……透明性樹脂積層体
10……原反シート成形装置
20……熱処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性樹脂により形成される中間層と、この中間層の少なくとも一面に設けられ結晶性樹脂により形成される表面層と、を具備する透明性樹脂積層体の製造方法であって、
前記表面層の結晶性樹脂は、前記中間層を形成する結晶性樹脂に比べて、メルトフローレート(Melt Flow Rate:以下、MFRと称す)が大きく、緩和時間が短いものであり、
前記中間層を形成する結晶性樹脂と前記表面層を形成する結晶性樹脂とのうちの少なくともいずれか一方は、メタロセン触媒を用いて製造したメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体が含まれ、
前記中間層を形成する結晶性樹脂と、前記表面層を形成する結晶性樹脂とをそれぞれ溶融し、押し出されてシート状に積層する状態で冷却して樹脂積層体を形成し、
この樹脂積層体を結晶化温度以上融点以下の温度で熱処理する
ことを特徴とする透明性樹脂積層体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の透明性樹脂積層体の製造方法において、
前記中間層は、アイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下、MFRが0.5g/10分以上5.0g/10分以下のプロピレン系樹脂(a)80質量%以上99.5質量%以下と、
メタロセン触媒を用いて製造され、密度が898kg/m3以上913kg/m3以下、MFRが0.5g/10分以上6.0g/10分以下のメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)0.5質量%以上20質量%以下と、から形成される
ことを特徴とする透明性樹脂積層体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の透明性樹脂積層体の製造方法において、
前記中間層と前記表面層とを形成する結晶性樹脂は、ともにプロピレン系樹脂である
ことを特徴とする透明性樹脂積層体の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の透明性樹脂積層体の製造方法において、
前記メタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体は、直鎖状低密度ポリエチレンである
ことを特徴とする透明性樹脂積層体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の透明性樹脂積層体の製造方法において、
結晶性樹脂により形成される基材層の両面に前記中間層を設け、
該中間層の表面に前記表面層を設ける
ことを特徴とする透明性樹脂積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の透明性樹脂積層体の製造方法において、
前記基材層を形成する結晶性樹脂は、プロピレン系樹脂である
ことを特徴とする透明性樹脂積層体の製造方法。
【請求項7】
結晶性樹脂により形成される中間層と、この中間層の少なくとも一面に設けられ結晶性樹脂により形成される表面層と、を具備する成形体であって、
前記表面層の結晶性樹脂は、前記中間層を形成する結晶性樹脂に比べて、メルトフローレート(Melt Flow Rate:以下、MFRと称す)が大きく、緩和時間が短いものであり、
前記中間層を形成する結晶性樹脂と前記表面層を形成する結晶性樹脂とのうちの少なくともいずれか一方は、メタロセン触媒を用いて製造したメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体が含まれ、
前記中間層を形成する結晶性樹脂と、前記表面層を形成する結晶性樹脂とが、溶融状態でシート状に積層され急冷されて得られた樹脂積層体が、結晶化温度以上融点以下の温度で熱成形された
ことを特徴とする成形体。
【請求項8】
請求項7に記載の成形体において、
結晶性樹脂により形成される基材層の両面に前記中間層を設け、
該中間層の両面に前記表面層を設ける
ことを特徴とする成形体。
【請求項9】
熱処理されることで透明性樹脂積層体が形成される樹脂積層体であって、
結晶性樹脂により形成される中間層と、この中間層の少なくとも一面に設けられ結晶性樹脂により形成される表面層と、を具備し、
前記中間層の結晶性樹脂は、アイソタクチックペンタッド分率が85%以上99%以下、MFRが0.5g/10分以上5.0g/10分以下のプロピレン系樹脂(a)80質量%以上99.5質量%以下と、メタロセン触媒を用いて製造され、密度が898kg/m3以上913kg/m3以下、MFRが0.5g/10分以上6.0g/10分以下のメタロセン系エチレン−α−オレフィン共重合体(b)0.5質量%以上20質量%以下と、を含み、
前記表面層の結晶性樹脂は、前記中間層を形成する結晶性樹脂に比べてMFRが大きく、緩和時間が短い
ことを特徴とする樹脂積層体。
【請求項10】
請求項9に記載の樹脂積層体において、
結晶性樹脂により形成される基材層の両面に前記中間層を設け、
該中間層の両面に前記表面層を設ける
ことを特徴とする樹脂積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−45783(P2012−45783A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188696(P2010−188696)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(500163366)出光ユニテック株式会社 (128)
【Fターム(参考)】