説明

透明樹脂成形体及び光学レンズ

【課題】優れたリフロー耐熱性と、優れた光学特性、即ち可視光域を含む広い波長の範囲の光に対する高い透明性を兼ね備え、さらに優れた耐光性を有する透明樹脂成形体、及び該透明樹脂成形体よりなり耐熱性、光学的特性及び耐光性に優れた光学レンズを提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を20重量%以上含有する成形材料を成形するとともに、前記熱可塑性樹脂を架橋して得られる透明樹脂成形体であって、該成形体を、厚さ2mmとし200℃で10分間加熱したとき、波長400〜1000nmの全範囲において光の透過率が80%以上であることを特徴とする透明樹脂成形体、及びこの透明樹脂成形体よりなることを特徴とする光学レンズ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品中に実装される光学レンズ等の部材を形成する透明樹脂成形体、及び該透明樹脂成形体より形成される光学レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
各種小型電子部品の中に組み込まれる光学レンズ、光学フィルム、光ピックアップ等やストロボ等に使用されるフレネルレンズ等の透明性を必要とする部材には、無機ガラスや透明な熱可塑性樹脂の成形体が使用されていた。ここで、無機ガラスは、透明性に優れるものの、比重が大きく又脆いため破損しやすい等の欠点があり、かつ成形に時間がかかる問題があるので、熱可塑性樹脂の成形体が広く使用されている(非特許文献1)。
【0003】
しかし近年、電子部品の部材に対する要求は益々厳しくなってきている。例えば、電子機器の小型化に対応するため、電子部品を回路基板へ実装する方法としては、高い実装密度が得られる所謂ハンダリフローが一般的になりつつあり、しかも、環境問題から融点の高い鉛フリーハンダの使用が望まれているので、前記電子部品の部材にも、鉛フリーハンダを使用したハンダリフローにおける220〜270℃という高温に耐えられる耐熱性(リフロー耐熱性)が求められている。
【0004】
又、より短波長の光での使用やより広範囲の波長での使用に適した部材や、より大光量の光の長時間の照射に耐えられる部材も求められている。例えば、ブルーレイ方式に対応した光ピックアップ等に用いようとすれば、400nm程度の光に対する良好な透明性と、レーザー光の長時間の照射によっても劣化(例えば、黄変、白化)しないとの耐光性が求められる。又、ストロボに使用するためには、400nm程度の光を含む可視領域の全ての波長に対する良好な透明性が求められるとともに、100℃程度の高温で大光量の照射が繰り返されても劣化しないとの耐光性が求められる。
【非特許文献1】「ここまできた透明樹脂」(株)工業調査会、第48頁、2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂は、可視光域での透明性に優れるものの、近年の要請に対応するリフロー耐熱性を有しない。又、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等は、前記の樹脂より耐熱性は優れるが、これらから得られる樹脂成形体は、可視光域では透明性が低くかつ樹脂がベンゼン環を含むために複屈折が高いとの問題があった。このように、従来の熱可塑性樹脂には、前記の要請を全て満たすものは知られておらず、従って、優れたリフロー耐熱性、優れた光学特性、さらに耐光性、特に400nm程度の光に対する優れた耐光性を有する透明樹脂成形体の開発が求められていた。
【0006】
本発明は、優れたリフロー耐熱性と優れた光学特性、即ち可視光域を含む広い波長の範囲の光に対する高い透明性を兼ね備えさらに優れた耐光性を有する透明樹脂成形体、及び該透明樹脂成形体よりなり、耐熱性、光学的特性及び耐光性に優れた光学レンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意研究の結果、特定の熱可塑性樹脂を用い、この熱可塑性樹脂を架橋することによって、好ましくはさらに熱可塑性樹脂を架橋する際の架橋助剤の選定、成形や架橋の際の雰囲気条件等を選択することにより、優れたリフロー耐熱性と優れた光学特性(即ち可視から近赤外の範囲における高い透過率)、さらに耐光性にも優れる透明樹脂成形体が得られることを見出し、本発明を完成した。以下、各請求項の発明を説明する。
【0008】
請求項1に記載の発明は、
熱可塑性樹脂を20重量%以上含有する成形材料を、コンパウンド化し、成形するとともに、前記熱可塑性樹脂を架橋して得られる透明樹脂成形体であって、
該成形体を、厚さ2mmとし200℃で10分間加熱したとき、波長400〜1000nmの全範囲において光の透過率が80%以上であることを特徴とする透明樹脂成形体である。
【0009】
本発明の透明樹脂成形体は、加熱や放射線照射等により架橋することができ、波長400〜1000nmの全範囲において光の透過率が80%以上である熱可塑性樹脂を20重量%以上含有する成形材料を、先ずコンパウンド化して成形しその後架橋を施すことにより得ることができる。架橋することにより耐熱性、リフロー耐熱性さらに耐光性に優れた成形体を得ることができる。さらに、優れた剛性、耐クリープ性、耐摩耗性等も得やすくなる。一方、架橋される前の段階では成形が容易であるので、この段階で所定の成形を行い、成形後加熱や放射線照射等を施して架橋することにより、容易に優れた特性を有し、所望の形状も有する成形体を得ることができる。
【0010】
成形方法は特に制限されず公知の成形方法を採用することができる。例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、プレス成形法、押出成形法、ブロー成形法、真空成形法等が挙げられる。フィルム状に成形する場合は、Tダイを用いた押出成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法、プレス、キャスティング、熱成形等を用いることもできるが、形状の自由度及び量産性が特に優れる点で、射出成形法が好ましい。熱可塑性樹脂を、後述する透明ポリアミド及び透明フッ素樹脂とし、さらに特定の架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート等)を含有させることにより、射出成形法に特に好ましい成形材料を得ることができる。
【0011】
架橋の方法としては、加熱による方法、電子線や他の放射線を照射して架橋する方法等が挙げられるが、放射線を照射して架橋する方法は、成形時の温度、流動性の制限を伴わず、制御が容易であるため好ましい。放射線としては、電子線の他、γ線等を挙げることができる。架橋の程度は特に限定されず、目的とする樹脂成形体に応じて設定される。
【0012】
本発明の透明樹脂成形体は、厚さ2mmとし200℃で10分間加熱したとき、400〜1000nmの全範囲において、透過率は80%以上であることを特徴とする。即ち、本発明の透明樹脂成形体から厚さ2mmの成形体を切り出し、さらに、この切り出された成形体を200℃で10分間加熱した後、その透過率を測定すると、実質的に400〜1000nmの全範囲において透過率は80%以上となることを特徴とする。
【0013】
200℃で10分間の加熱とは、鉛フリーのハンダを用いた際の耐ハンダリフローを考慮した条件である。200℃で10分間の加熱により透過率が低下し、80%未満となる場合は、ハンダリフローの際に製品の透明性が低下し、光学的性能に問題が生じる可能性がある。
【0014】
なお、厚さ2mmの無機ガラスのこの範囲の波長に対する透過率は80%以上である。従って、本発明の透明樹脂成形体は、無機ガラスに匹敵する透明性を有し、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂よりも優れた透明性を有し、無機ガラスに換えて広く用いることが可能である。又、本発明の透明樹脂成形体は、近赤外域においても透明性が高いので、近赤外用としても好ましく用いられる。
【0015】
本発明の透明樹脂成形体は、可視から近赤外の範囲において高い透過率を有する架橋性の熱可塑性樹脂を20重量%以上含有する成形材料を原料とすることにより、好ましくは、さらにこの熱可塑性樹脂を架橋する際の架橋助剤の選定等、成形し架橋する際の雰囲気条件等を選択することにより得ることができる。この架橋性の熱可塑性樹脂の含有量が20重量%未満の場合には、成形材料の固化が遅く、粘度も低下しすぎるため、押出し、射出成形が困難となるとの問題が生じる。
【0016】
前記成形材料を構成する熱可塑性樹脂は、好ましくは、透明ポリアミド及び透明フッ素樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂である(請求項2)。1種の樹脂を単独で使用してもよいが、前記の群より選ばれる2種以上の樹脂を混合して使用してもよい。
【0017】
これらの樹脂は架橋性と熱可塑性を有するだけでなく、本来良好な光透過性を有している。このため、これらの樹脂を用いて成形し架橋をした場合には、例えば厚さ2mmの成形体を作製したときには、この該成形体の400〜1000nmの全範囲における光の透過率を80%以上とすることが可能となる。さらに、優れた耐熱性、耐光性が得られやすい。
【0018】
さらにこれらの樹脂は、射出成形性が優れる点でも好ましく、架橋助剤を混合した場合であっても射出成形機により容易に成形品を製造できる。特に特定の架橋助剤(トリアリルイソシアヌレート等)を配合することにより射出成形性が優れる成形材料となる。ここで「樹脂」とは、ポリマーを主体とするものであるが、オリゴマーやモノマーを含んでいてもよい。好ましくは、重量平均分子量が5000以上のものである。
【0019】
前記透明ポリアミドは、波長400〜1000nmの全範囲において光の透過率が80%以上となる透明性を有し、放射線照射等により架橋するポリアミド樹脂であり、例えば、特開昭62−121726号公報、特開昭63−170418号公報、特開2004−256812号公報等に開示されているものを用いることができる。これらは、芳香環、脂環等の環を有するモノマーを用いて得られるものであり、非晶性でかつガラス転位点の高いポリアミドである。中でも1,10−デカンジカルボン酸及び3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体が好ましく用いられる(請求項3)。
【0020】
前記透明フッ素樹脂とは、波長400〜1000nmの全範囲において光の透過率が80%以上となる透明性を有し、放射線照射等により架橋するフッ素樹脂であり、ポリビニリデンフロライド(PVdF)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフロライド共重合体(THV)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、及びこれらのポリマーブレンド等を挙げることができ、これらからなる群より選ばれるものが好ましく用いられる(請求項4)。
【0021】
本発明の透明樹脂成形体の製造における熱可塑性樹脂の架橋は、前記熱可塑性樹脂やその他の原料物質を溶融、混錬しつつ行われるが、架橋を促進し優れた耐熱性や耐光性を得るために、架橋助剤の存在下行われることが好ましい。従って、前記成形材料はさらに架橋助剤を含むことが好ましい。
【0022】
請求項5に記載の発明は、前記成形材料が、さらに架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを含有するとともに、前記コンパウンド化、成形及び熱可塑性樹脂の架橋が酸素の遮断下でされることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の透明な樹脂成形体である。
【0023】
前記の架橋助剤の中でも、トリアリルイソシアヌレートを使用し、かつ、成形材料を、コンパウンド化し、成形し熱可塑性樹脂の架橋をするまでの全工程を、酸素の遮断下で行うことが好ましい。トリアリルイソシアヌレートを架橋助剤として用い、コンパウンド化、成形及び架橋を酸素の遮断下で行うことにより、厚さ2mmとし200℃で10分間加熱したとき、波長400〜1000nmの全範囲において光の透過率が80%以上である成形体を容易に得ることができる。又、コンパウンド化、成形及び架橋を酸素の存在下で行うと、成形体が黄変することがあるが、酸素の遮断下で行うことにより、この問題を防ぐことができる。
【0024】
例えば、架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを使用することにより、成形材料の射出成形性が向上するので好ましい。即ち、透明ポリアミド及び透明フッ素樹脂からなる群より選ばれる熱可塑性樹脂を20重量%以上含有することにより、射出成形性に優れた成形材料が得られ架橋助剤を配合した場合でも射出成形が容易であるが、架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを用いた場合は、配合量が多い場合でも前記熱可塑性樹脂と均一混合し、容易に射出成形することができる。前記のように、本発明の透明な樹脂成形体の製造における成形方法として、射出成形法は、形状の自由度及び量産性が優れる点で、特に好ましい方法である。
【0025】
トリアリルイソシアヌレートを用いる場合、熱可塑性樹脂を架橋する際のその配合量は、成形材料全量に対して1〜20重量%が好ましい。この範囲内の配合量とすることにより、架橋が適切となり、優れた耐熱性、リフロー耐熱性を有し、耐光性もより優れた透明樹脂成形体を得ることができ、かつこの範囲内で特に優れた射出成形性が得られる。請求項9の発明は、透明ポリアミド及び透明フッ素樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂からなる熱可塑性樹脂を20重量%以上含有し、かつ架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを1〜20重量%含有する成形材料を、コンパウンド化し射出成形する工程、及び前記工程後、前記熱可塑性樹脂を架橋する工程を有するとともに、コンパウンド化、射出成形及び架橋の全工程が、酸素の遮断下でされることを特徴とする透明樹脂成形体の製造方法である。この製造方法は、前記の特定の成形材料を用いることにより、射出成形が容易になり、その結果、優れた形状の自由度及び量産性が達成され、前記本発明の透明樹脂成形体を容易に製造できるとの特徴を有するものである。
【0026】
前記熱可塑性樹脂として、主分極率が0.6×10−23以下のモノマーのみにより構成されているものを用いると、光弾性定数が高くなり、成形や応力による複屈折が大きくなり鮮明な像が得られにくい等の問題が生じにくくなる。分子量が大きいモノマーは方向により分極率が異なる場合が多いが、「主分極率」とは最も大きくなる方向の分極率を意味する。
【0027】
請求項6に記載の発明は、270℃における貯蔵弾性率が0.1MPa以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の透明樹脂成形体である。透明樹脂成形体の270℃での貯蔵弾性率を0.1MPa以上とすることにより、室温からリフロー温度を越える高温まで満足する剛性が得られる。従って、リフロー加熱時でも熱変形の問題を生じにくい。より好ましくは、270℃での貯蔵弾性率は1MPa以上であり、熱変形の問題をより生じにくいより優れた成形体が得られる。
【0028】
ここで、「貯蔵弾性率」とは、粘弾性体に正弦的振動ひずみを与えたときの応力と、ひずみの関係を表わす複素弾性率を構成する1項(実数項)であり、粘弾性測定器(DMS)により測定した値である。より具体的には、アイティー計測制御社製DVA−200による粘弾性測定器により10℃/minの昇温速度にて測定される値である。
【0029】
請求項7に記載の発明は、フィラーを含有することを特徴とする請求項6に記載の透明樹脂成形体である。透明樹脂成形体がフィラーを含有することにより、270℃での貯蔵弾性率を0.1MPa以上、特に1MPa以上とするために必要な加熱量(加熱温度、時間)や放射線の照射量を低減することができる。
【0030】
以上の他、本発明の透明樹脂成形体には、そのリフロー耐熱性、光学的特性が損なわれない範囲で、他の成分、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候性安定剤、銅害防止剤、難燃剤、滑剤、導電剤、メッキ付与剤等を添加することができる。
【0031】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の透明樹脂成形体よりなることを特徴とする光学レンズである。請求項1ないし請求項7のいずれかに記載の透明樹脂成形体は、リフロー耐熱性とともに光学特性に優れているので、各種光学部材に好適に用いられるが、中でも、レーザービームプリンター用Fθレンズ、光ピックアップ用レンズ、ストロボ用フレネルレンズ、LED用のレンズや赤外通信用レンズ等の光学レンズとして好適に用いることができる。
【0032】
又、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の透明樹脂成形体は、優れた透明性と耐光性を有し、特に、400nm程度の波長の光に対する優れた透明性と、100℃程度の高温での大光量、長時間の照射でも白化等の劣化を生じない耐光性を有するので、ブルーレイ方式に対応した光ピックアップに使用される光学レンズやキセノンランプを使用したストロボ用フレネルレンズ等、より短波長の光や広範囲の波長の光が、大光量で長時間照射される光学レンズとして好適に用いられ、優れた効果を発揮することとなる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の透明樹脂成形体は、優れた耐熱性、リフロー耐熱性、及び優れた光学的特性を有し、かつ耐光性にも優れている。従って、この透明樹脂成形体からなる本発明の光学レンズも、優れた耐熱性、リフロー耐熱性、光学的特性、及び耐光性を有するので、各種小型電子機器に使用される光学部材として好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明とは同一及び均等の範囲内において以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0035】
[透明ポリアミドについて]
本発明の透明樹脂成形体の成形材料を構成する熱可塑性樹脂として用いられる透明ポリアミドは、例えばジアミンとジカルボン酸とを縮合して得ることができるが、ここで用いられるジアミンとしては、
6〜14個のC原子を有する分枝鎖状又は非分枝鎖状の脂肪族ジアミン、例えば1,6−ヘキサメチレンジアミン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,12−デカメチレンジアミン;
6〜22個のC原子を有する環状脂肪族ジアミン、例えば4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルプロパン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)−シクロヘキサン、2,6−ビス(アミノメチル)−ノルボルナン、又は3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン;
8〜22個のC原子を有する芳香脂肪族ジアミン、例えばm−キシリレンジアミン、又はp−キシリレンジアミン又はビス(4−アミノフェニル)プロパン等、を挙げることができる。
【0036】
又、ジカルボン酸としては、
6〜22個のC原子を有する分枝鎖状又は非分枝鎖状の脂肪族ジカルボン酸、例えばアジピン酸、2,2,4−トリメチルアジピン酸、2,4,4−トリメチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、又は1,12−ドデカン二酸;
6〜22個のC原子を有する環状脂肪族ジカルボン酸、例えばシクロヘキサン−1,4−ジカルボン酸、4,4’−ジカルボキシルジシクロヘキシルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジカルボキシルジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジカルボキシルジシクロヘキシルプロパン、又は1,4−ビス(カルボキシメチル)シクロヘキサン;
8〜22個のC原子を有する芳香脂肪族ジカルボン酸、例えば4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸;
8〜22個のC原子を有する芳香族ジカルボン酸、例えばイソフタル酸、トリブチルイソフタル酸、テレフタル酸、1,4−ナフタリンジカルボン酸、1,5−ナフタリンジカルボン酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸、2,7−ナフタリンジカルボン酸、ジフェン酸、又はジフェニルエーテル−4,4’−ジカルボン酸等、を挙げることができる。
【0037】
本発明に使用可能な透明ポリアミドは、又、ラクタムの開環重合やω−アミノカルボン酸の縮合等によっても得ることができる。このとき用いられる原料モノマーとしては、
6〜12個のC原子を有するラクタムもしくは相応するω−アミノカルボン酸、ε−カプロラクタム、ε−アミノカプロン酸、カプリルラクタム、ω−アミノカプリル酸、ω−アミノウンデカン酸、ラウリンラクタム、又はω−アミノドデカン酸等、を挙げることができる。
【0038】
本発明に使用可能な透明ポリアミドのより具体的な例としては、
テレフタル酸、及び2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンと2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンとの異性体混合物からなるポリアミド、
イソフタル酸及び1,6−ヘキサメチレンジアミンからなるポリアミド、
テレフタル酸/イソフタル酸、及び1,6−ヘキサメチレンジアミンからなるコポリアミド、
イソフタル酸、及び3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、及びラウリンラクタム又はカプロラクタムからなるコポリアミド、
1,12−ドデカン二酸又は1,10−ドデカン二酸、及び3,3’−ジメチル−4,4′−ジアミノジシクロヘキシルメタン、場合によってはさらにラウリンラクタム又はカプロラクタムからなる(コ)ポリアミド、
イソフタル酸、及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、及びラウリンラクタム又はカプロラクタムからなるコポリアミド、
1,12−ドデカン二酸、及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンからなるポリアミド、
テレフタル酸/イソフタル酸混合物、及び3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、及びラウリンラクタムからなるコポリアミド、等を挙げることができる。
【0039】
又、本発明に使用可能な透明ポリアミドは、多種類のポリアミドの配合物であってよい。配合物自体が透明であれば、この配合物成分に結晶性のものが含まれていてもよい。透明ポリアミドの具体的商品例としては、透明ナイロン12(商品名グリルアミドTR−55、TR−90(エムスケミー・ジャパン製))等が挙げられる。これらの透明ポリアミドは耐光性に優れており、キセノンの発光等に対しても、変色や変形等を生じにくいので好ましい。ここで、TR−90は、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体であり、前記のように、特に好ましい透明ポリアミドである。
【0040】
[透明フッ素樹脂について]
PVdFとしては、アルケマ社製のカイナー2801、THVとしては、3M社製THV220、ETFEとしては、ダイキン社製RP4020の商品名で市販されてものを例示することができる。中でもカイナー2801は、結晶性が低く透明であるため好ましい。
【0041】
[架橋助剤について]
架橋助剤としては、トリアリルイソシアヌレート以外にも、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート等のアクリレート又はメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等のアリル化合物類;N,N’−m−フェニレンビスマレイミド、N,N’−(4,4’−メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等が挙げられるが、トリアリルイソシアヌレートは、その配合量が多い場合でも優れた射出成形性が得られ、さらに、少量の配合でも優れた架橋促進効果を奏するので好ましい。架橋助剤は1種を単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することもできる。
【0042】
[フィラーについて]
フィラーとしては、成形体の透明性を損なわないためにも、その屈折率が樹脂に近い所謂透明フィラーを使用することが望ましい。透明フィラーの一例として、透明ガラス繊維が挙げられる。添加量は、樹脂100重量部に対して、0.1〜50重量部が好ましく、より好ましくは1〜50重量部である。又、粒子径が光の波長以下であるフィラー、ヒュームドシリカ、ナノ金属フィラーやナノコンポジッドフィラーを使用することもできる。有機フィラーの例としては、バイオナノファイバー(京都大学)を挙げることもできる。
【0043】
フィラーの含有量を0.1重量部以上とすることにより、加熱量や電子線等の照射量を低減しても、優れたリフロー耐熱性や剛性が得られやすくなり、その結果、架橋の際の成形体の着色や脆くなる等の問題の発生を低減しやすくなる。フィラーの含有量が50重量部を越える場合は、得られる成形体が脆くなったり、透過率が低下する傾向がある。
【実施例】
【0044】
実施例1〜5及び比較例1〜3
(1)先ず、実施例と比較例の透明樹脂成形体の製造に用いた原料について説明する。
[架橋性の熱可塑性樹脂]
・グリルアミドTR−90: 透明ポリアミド樹脂: エムスケミー・ジャパン社製
(表中では「TR90」と記す。)
Tg=155℃、600〜1000nmでの平均透過率(厚さ2mm)91%
・カイナー2801: ポリビニリデンフロライド(PVdF): アルケマ社製
・THV220: テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフロライド共重合体(THV): 3M社製
【0045】
[架橋助剤]
・トリアリルイソシアヌレート: 日本化成社製(表中では「TAIC」と記す。)
・ジプロピレングリコールジアクリレート: 新中村化学社製(表中では「DPGD」と記す。)
【0046】
(2)透明樹脂成形体の製造
表1の配合処方欄に示す原料を表1に示す処方(全て重量部である。)に基づいて、ブレンダーで混合した後2軸押出し機(TEM58BS、東芝機械社製)に投入し、加熱下で混合して、コンパウンド化したペレット(成形材料)を製造した。その後、比較例3以外は、窒素雰囲気下で、射出成形機(SE−185、住友重機社製)により射出成形し、5cm×7cm×厚さ2mmのプレートを得た。この射出成形が安定的に可能か否かで射出成形性を判定した。その結果を表1に示す。
【0047】
射出成形後、成形したプレートに、比較例3以外は、窒素雰囲気下で、表1の電子線照射量欄に示す線量の電子線を照射し、プレートを構成する熱可塑性樹脂の架橋を行い、透明樹脂成形体の試験用試料を作製した。なお、比較例3以外は、前記の射出成形、電子線照射だけでなく、ブレンダーでの混合、2軸押出し機での混合も窒素雰囲気下、より具体的には純度99.95%の工業用窒素ガスのフロー下で行った。一方、比較例3では、窒素ガスのフローを行わず、ブレンダーでの混合、2軸押出し機での混合、射出成形、電子線照射を大気中、即ち酸素存在下で行った。作製した試料について、リフロー耐熱、全透過率、貯蔵弾性率(270℃)を、以下の方法で測定した。その測定結果を表1に示す。
【0048】
[全透過率]
200℃で10分間加熱した後の試料(厚さ2mm)について、400nm〜1000nmの範囲内で光の全透過率を測定した。
【0049】
[貯蔵弾性率]
200℃で10分間加熱した後の試料について、アイティー計測制御社製DVA−200による粘弾性測定器により、10℃/minの昇温速度にて測定した270℃での貯蔵弾性率である。
【0050】
[リフロー耐熱]
試料を260℃の恒温槽に1分間放置し、以下の基準に基づき変形の有無を評価した。
○:変形しない。
△:変形するが形状を維持する。
×:完全に溶融する。
【0051】
【表1】

【0052】
表1において、射出成形性が○とは、架橋性の熱可塑性樹脂と架橋助剤が均一に混合し、安定した射出成形ができた場合である。射出成形性が×とは、架橋助剤が熱可塑性樹脂と均一に混合せず、架橋助剤の液体と樹脂のペレットが混在している状態である。この為、ペレットを安定して可塑化できず射出成形できない。射出成形性が△とは、架橋助剤の液体が樹脂のペレットと一部混在しているが、安定した射出成形ができた場合である。
【0053】
表1の結果が示すように、透明ポリアミド又は透明フッ素樹脂を主成分とする成形材料を用い、架橋助剤がTAICの場合(実施例1〜4、及び比較例3)は、その配合量が2重量%程度の場合でも、優れた射出成形性が得られ、かつ優れたリフロー耐熱、全透過率、貯蔵弾性率も得られている。ただし、TAICの配合量が50重量%である実施例2は、射出成形性が少し低下している。成形材料が、透明ポリアミドを主成分としているが架橋助剤がDPGDの場合(実施例5)は、優れた射出成形性や透過率が得られるものの、貯蔵弾性率やリフロー耐熱性が低い。この結果及び実施例1の結果の比較より、優れた貯蔵弾性率やリフロー耐熱性を得るためには、架橋助剤としてTAICが好ましいことが明らかである。又、DPGDの配合量が20重量%である比較例1は、射出成形性が悪く射出成形できない。この結果及び実施例2の結果の比較より、優れた射出成形性を得るためには、架橋助剤としてDPGDよりもTAICが好ましいことが示されている。透明ポリアミドの配合量が20重量%未満の比較例2でも射出成形性が悪く射出成形できない。
比較例3は、配合処方や電子線照射条件等は実施例3と同じであるが、ブレンダーでの混合、2軸押出し機での混合、射出成形、電子線照射を大気中で行った結果、全透過率も80%未満となり、又成形体の黄変も生じている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を20重量%以上含有する成形材料を、コンパウンド化し、成形するとともに、前記熱可塑性樹脂を架橋して得られる透明樹脂成形体であって、
該成形体を、厚さ2mmとし200℃で10分間加熱したとき、波長400〜1000nmの全範囲において光の透過率が80%以上であることを特徴とする透明樹脂成形体。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、透明ポリアミド及び透明フッ素樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の透明樹脂成形体。
【請求項3】
前記透明ポリアミドが、1,10−デカンジカルボン酸及び3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンの縮合重合体からなることを特徴とする請求項2に記載の透明樹脂成形体。
【請求項4】
透明フッ素樹脂は、ポリビニリデンフロライド、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフロライド共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びこれらのポリマーブレンドからなる群より選ばれることを特徴とする請求項2に記載の透明樹脂成形体。
【請求項5】
前記成形材料が、さらに架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを含有するとともに、前記コンパウンド化、成形及び熱可塑性樹脂の架橋が、酸素の遮断下でされることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の透明樹脂成形体。
【請求項6】
前記透明樹脂成形体は、270℃における貯蔵弾性率が0.1MPa以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の透明樹脂成形体。
【請求項7】
前記透明樹脂成形体は、フィラーを含有することを特徴とする請求項6に記載の透明樹脂成形体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の透明樹脂成形体よりなることを特徴とする光学レンズ。
【請求項9】
透明ポリアミド及び透明フッ素樹脂からなる群より選ばれる1種又は2種以上の樹脂からなる熱可塑性樹脂を20重量%以上含有し、かつ架橋助剤としてトリアリルイソシアヌレートを1〜20重量%含有する成形材料を、コンパウンド化し射出成形する工程、及び前記工程後、前記熱可塑性樹脂を架橋する工程を有するとともに、コンパウンド化、射出成形及び架橋の全工程が、酸素の遮断下でされることを特徴とする透明樹脂成形体の製造方法。

【公開番号】特開2010−37475(P2010−37475A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203880(P2008−203880)
【出願日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(599109906)住友電工ファインポリマー株式会社 (203)
【Fターム(参考)】