説明

透明高分子導電膜およびその製造方法

【課題】高導電性、高耐久性、高透明性、易成型性などを有する透明高分子導電膜を提供する。
【解決手段】電気泳動法により測定した重量平均分子量が200万以上2000万以下であるデオキシリボ核酸、およびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含有する透明高分子導電膜。および、重量平均分子量が200万以上2000万以下であるデオキシリボ核酸の水溶液と、ポリスチレンスルホン酸を含有したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の水分散液とを混合し、その混合液をキャストして形成する透明高分子導電膜の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機ELディスプレイ、タッチパネル、スマートウィンドウ、あるいは電子ペーパーなどに用いられる透明電極、あるいは液晶ディスプレイのシールドなどに用いられる透明導電性基材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
無機ELディスプレイ、タッチパネル、液晶の透明化、不透明化のスイチング機能を利用したスマートウィンドウ、電子ペーパー、あるいは液晶ディスプレイなどに用いられる電極は導電性であると同時に透明性を要求される。このため、通常電極として用いられる金属は不透明なため使用できず、基材に酸化インジュ−ム(以下ITOと呼称する。) などの導電性の酸化物金属をスパッタリングなどの方法で蒸着した透明導電膜を使用することが提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。また、可撓性付与のために酸化物金属に変え導電性高分子を基材にコーティングした透明導電膜を用いることが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。なお、ガラスに透明電極としてITOを積層し、次いで発光層へ正孔を容易にするために導電性高分子層を積層した高分子EL素子が提案されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0003】
上記の例のように、導電性高分子化合物として広く用いられているものとしては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどがある。これらは、重合が容易であり、優秀な電気伝導性のため、長い間、合成金属(synthetic metal)として注目を浴び、電子波材料、二次電池の電極、透明電極など、いろいろの導電性材料としての応用可能性が提案されてきたが、加工上の難点、熱的、大気的問題、紫外線に対する安全性不足などの問題のため、実際に商業化に成功した例は極めて一部に過ぎなかった。
【0004】
最近、既存の導電性高分子の前記のような諸般問題点を解決して、導電性材料として注目を浴びているものとしては、ポリチオフェン系導電性高分子であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(以下、PEDOTと呼称する。)がある(例えば、特許文献3、4参照。)。これは、ポリアニリン系、ポリピロール系だけでなく、同種のポリチオフェン系のような他の導電性高分子に比べ、卓越した可溶性、優秀な大気、熱的、紫外線安定性の性質を有することから、これまで耐久性の問題に起因して、殆ど使用できなかった外部露出部位の導電性コーティング膜として使用されてきた。
【0005】
前記PEDOTは高分子酸塩(例えば、ポリスチレンスルホン酸:PSSが挙げられる。)でドーピングされているため、水分散が可能な特性を保有する。この水分散液は低沸点を有しながらもC1 〜C4アルコール溶媒との相溶性に優れており、アルコール溶媒で希釈した後、多様なコーティング液に製造し得る利点がある。特に、薄膜フィルムを形成した場合、優秀な透過度のため、CRTガラス表面、透明プラスチック表面(パネル、フィルム)などの透明基質にコーティングして、電子波遮蔽材料、静電気防止材のような導電性コーティング材として使用できる。このようなPEDOTの代表的な例としては、現在市販されているバイエル社(Bayer Corp.)のバイトロン(登録商標) ピー(Baytron(登録商標) P)(1.2〜1.5重量%水溶液)が挙げられる。
【0006】
しかし、PEDOTは上記のような多くの利点を有するものの、ITOなど既存の無機材料との性能差が依然としてあり、また溶解性や分散性などの各種加工特性が不十分であったことなどから、そもそもの導電性能の向上に加えて、加工技術や成型技術の向上が望まれていた。
【0007】
一方、デオキシリボ核酸(以下、DNAと呼称する。)は、地球上の全ての生物が持っている有機化合物であり、2本のポリヌクレオチド鎖が螺旋状に巻いた分子構造を有する。ヌクレオチド鎖の構成分子である核酸塩基には、アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種がある。これらの核酸塩基は、中心に対して垂直な平面内で互いに内側に突出した形で存在して、いわゆるワトソン−クリック型塩基対を形成する。このように、DNAは特徴的な化学構造を有しており、さまざまな物質と極めて特異性、選択性の高い相互作用をする機能性高分子素材といえる。そこで、DNAを天然の高分子素材として機能材料へ応用しようとする試みがなされている。その例として、DNA中に有機色素等の芳香族化合物を導入し、機能材料として利用することが試みられ、既に、DNA中に有機色素等の芳香族化合物が導入されることは知られている。
【0008】
また、DNAを導電性高分子と組み合わせることによって、導電性高分子の弱点を補完し、さらには導電性高分子の性能向上を図った試みもいくつかなされている。この例としては、DNAとカチオン性脂質とカーボンナノチューブの複合体マトリックスフィルム(例えば、特許文献5参照。)や、DNAと脂質とポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子との複合体より得られる導電性高分子膜(例えば、特許文献6参照。)などが知られている。
【0009】
上記の発明により、確かに導電性高分子を油溶化させることに成功し、導電性高分子膜の成型性向上につなげることができたが、未だ導電性能、透明性、成型性は実用レベルには不十分であり、さらなる成型性の向上が望まれていた。また、上記のような発明は、いずれもDNAを用いた材料という特徴を有しているに過ぎず、導電性高分子膜の導電性能を高めたものではなかったために、抜本的な導電性高分子膜の性能向上が望まれていた。
【非特許文献1】日本学術振興会 透明酸化物光・電子材料第166委員会編「透明導電膜の技術」、オーム社、(平成14年1月20日 第1版第4刷発))、pp25−26
【特許文献1】特開2001−89555号公報
【特許文献2】特開2001−93624号公報
【非特許文献2】社団法人電子情報通信学会「ポリフルオレン系材料による高分子EL素子の発光特性の検討」 Vol.102、No.592、(2003)
【特許文献3】米国特許第5,035,926号明細書
【特許文献4】米国特許第5,391,472号明細書
【特許文献5】特開2004−82663号公報
【特許文献6】特開2003−213098号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記欠点を改善し、高導電性、高耐久性、高透明性、易成型性などを有する透明高分子導電膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ね、重量平均分子量が200万以上2000万以下であるDNA、およびPEDOTをともに含有した透明高分子導電膜が、高導電性、高耐久性、高透明性を有し、さらには成型性にも優れた材料であることを見いだした。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1]電気泳動法により測定した重量平均分子量が200万以上2000万以下であるデオキシリボ核酸、およびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含有する透明高分子導電膜。
[2]ポリスチレンスルホン酸を含有する[1]に記載の透明高分子導電膜。
[3]透明高分子導電膜中に占める前記デオキシリボ核酸の割合が0.5重量%以上15重量%以下である[1]または[2]に記載の透明高分子導電膜。
[4]電気泳動法により測定した重量平均分子量が200万以上2000万以下であるデオキシリボ核酸の水溶液と、ポリスチレンスルホン酸を含有したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の水分散液とを混合し、その混合液をキャストして形成することを特徴とする透明高分子導電膜の製造方法。
により構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によって得られた透明高分子導電膜は、以下に示す効果がある。
(1)優秀な電気伝導性、および非常に高い大気、熱的、紫外線安定性を有し、外部露出部位での使用も可能な透明導電膜を提供できる。
(2)成型が容易であり、複雑な加工工程を必要としないため、簡便かつ安価に透明導電膜を提供できる。
(3)高分子複合材料により構成されるため、フレキシブル性を有する透明導電膜を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明は、電気泳動法により測定した重量平均分子量が200万以上2000万以下であるデオキシリボ核酸、およびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含有する透明高分子導電膜である。
【0015】
ここで、デオキシリボ核酸(DNA)とは、生物の遺伝情報を司る単位遺伝子であり、2本のポリヌクレオチド鎖が一つの中心軸の回りに螺旋状に巻いた分子構造を有する。それぞれのポリヌクレオチド鎖は共に右巻きで互いに逆方向に走る。ヌクレオチド鎖の構成分子である核酸塩基には、アデニン、チミン、グアニン、シトシンの4種がある。これらの核酸塩基は、中心軸に対して垂直な平面内で互いに内側に突出した形で存在して、いわゆるワトソン−クリック型塩基対を形成する。即ち、アデニンに対してはチミン、グアニンに対してはシトシンが特異的に水素結合する。これにより、DNAを構成する2本のヌクレオチド鎖は相補的に結合している。なお、一般にDNAはリン酸ナトリウム塩の形であるため、水溶性を示す。
【0016】
本発明において用いられるDNAの由来は特に限定されないが、原料として例えばホタテ、サケ、マス、ニシン、サバ、タラ等の魚類の白子が挙げられる。魚類の白子は、通常廃棄されるものがほとんどであるため、資源の効率的な利用の観点から、本発明において魚類の白子由来のDNAを好ましく用いることができる。
【0017】
DNAの重量平均分子量は、様々な範囲のものが入手可能であるが、本発明で用いられるDNAにおいては、電気泳動法により測定した場合の数値で200万以上2000万以下であることが必要である。詳細な理由は後述するが、該重量平均分子量が200万未満であれば、透明高分子導電膜の導電性が、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)単独の導電膜の場合と比べて高くならないため、DNAを用いる効果が得られない。また、該重量平均分子量が2000万を超えると、水への溶解性が著しく低下するなどハンドリング性が悪化することに加え、天然物からの入手がそもそも困難であるという問題もある。
【0018】
DNAの重量平均分子量の測定方法である上述の電気泳動法とは、電場中でDNA分子を移動させ、分子ふるいの効果により分子量の大きさに応じて分離する手法のことであり、予め分子量が分かっている分子量マーカーとともに泳動させることで、試料DNAの分子量を判別することが可能である。本発明においては、アガロースゲル電気泳動法やポリアクリルアミドゲル電気泳動法、キャピラリー電気泳動法など、広く一般に用いられる電気泳動法のいずれも好適に用いることができる。
【0019】
本発明において用いられるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)とは、以下の一般式(1)で示される高分子化合物であり、好ましくはポリスチレンスルホン酸(PSS)をドーパントとして組み合わせた形(一般式(2)に相互作用の様子を示す。)で使用される。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
PEDOTとPSSとを組み合わせることで、PEDOTが水あるいはその他の溶媒に溶解あるいは分散可能となり、熱的安全性および紫外線安定性に非常に優れた性質を示すため、高分子フィルムなどにコーティングして、透明性と導電性に優れた膜を形成することができる。PEDOTとPSSからなる導電性高分子の水あるいはその他の溶媒に溶解、または分散した樹脂液の作成方法は特開平7−90060号公報、特許第3210211号公報などに提案されており、通常はPEDOTおよびPSSの固形分率が1.2〜1.5重量%に調整された形で提供される。市販されているPEDOT/PSSの分散液としては、例えばバイエル社(Bayer Corp.)のバイトロン(登録商標) ピー(Baytron(登録商標) P)(1.2〜1.5重量%水分散液)が挙げられる。
【0023】
上で述べたPEDOTは、既に優れた導電性高分子材料として広く知られ、実用化へ向け検討が進められてきたが、本発明者らはこのPEDOTに重量平均分子量が200万以上2000万以下であるDNAを組み合わせることで形成される透明高分子導電膜が、PEDOTを単独で用いた場合の透明高分子導電膜よりも優れた導電性を発揮することを鋭意検討の末導き出した。この現象の作用機序は定かでないが、透明高分子導電膜中で配向した剛直な構造の高分子量DNAに沿ってPEDOTも配向するため、透明高分子導電膜が優れた導電性を発揮するものと推測している。
【0024】
ここで用いられるDNAについて、重量平均分子量が200万未満であれば導電性の向上が認められず、DNAを含有させる効果が不十分となる。これは、DNAの分子量が小さいと分子長が短くなるが、それに伴いDNAの配向性、ひいてはPEDOTの配向性が低下するために導電性の向上が認められないのだと推測している。また、重量平均分子量が2000万を超えると、DNAのハンドリング性が著しく低下するため、PEDOTとDNAの複合膜においてもハンドリング性が著しく低下し、導電膜の形成が困難であったり形成した導電膜の平滑性が損なわれたりする不具合が発生する。
【0025】
本発明の透明高分子導電膜中に占めるDNAの割合は、導電膜の成形性や塗液の混合性が損なわれない範囲で含有させることができるが、好ましい範囲は0.5重量%以上15重量%以下である。DNAの割合が0.5重量%未満であると、DNAを含有させた効果が認められにくく、また15重量%を超えると導電性がPEDOT単独の場合よりも劣ったり、さらにDNAの割合を上げた場合には塗液の混合性が損なわれるなどの不具合が発生しやすくなったりする。
【0026】
本発明の透明高分子導電膜を製造する方法については、電解重合法、蒸着法、コーティング法(塗工法)などがあり、用途や適用基材によって適宜選択でき、特に限定されない。しかし、高分子フィルムや高分子シートなどの上に導電膜を形成する場合など多くの場面で、高分子フィルムや高分子シートのように幅が広く、長さが長い基材に一様に、規定の厚みで形成することができるコーティング法を適用することが好ましい。コーティングの方法は特に限定されるものではなく、用途に応じて適切な方法を選択できる。コーティングの種々の方法は、「コーティング方式」第1章から第18章(原崎勇次著、槇書店発行)などの文献に詳細に記述されており、例えば、マイクログラビアコーティング、スピンコーティング、ディップコーティング、カーテンフローコーティング、ロールフローコーティング、スプレーコーティングなどの方法が挙げられる。
【0027】
前記コーティング法で用いられるDNAとPEDOTの混合塗液を製造する方法としては、得られた混合塗液中にDNAおよびPEDOTが所定量だけ含有され、またゲル化物などの不溶物が存在することなく良く溶解、分散されていれば特に制限されないが、前記DNAの水溶液と前記PSSを含有した前記PEDOTの分散液とを所定量ずつ混合する方法であることが好ましい。この方法であれば、予めDNAの水溶液を調製しておき、通常入手できるPEDOT/PSSの水分散液と混合するだけで簡便に混合塗液を製造することができる。ここで得た混合液を基材の上にキャストすることで、好ましく本発明の透明高分子導電膜を形成することができる。
【0028】
なお、前記混合液には、必要に応じて紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱重合防止剤などの安定剤、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、沈降防止剤、顔料、分散剤、防曇剤などの界面活性剤類、潤滑性付与剤、指紋付着防止剤、スリッピング剤を適宜配合して用いても良い。
【0029】
本発明の透明高分子導電膜の厚みは、用途に応じて要求される表面抵抗値、全光線透過率、および可撓性によって、適宜決定すべきであるが、通常10nmから0.5μmの範囲で選択される。10nm未満では膜厚が薄すぎるために表面抵抗値が高くなり、0.5μmを超えると、透明高分子導電膜の光吸収により全光線透過率が著しく低下するためである。
【0030】
形成された透明高分子導電膜の測定方法としては、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた断面観察法、繰り返し反射干渉法、X線光電子分光分析法など公知の方法を用いることができる。
【0031】
本発明の透明高分子導電膜を形成する基材となる高分子フィルムや高分子シートの素材は特に限定されないが、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルなどの透明性が高い樹脂が通常選択される。その中でも、耐熱性、透明性に優れたポリエチレンテレフタレート、特に全光線透過率が80%以上のポリエチレンテレフタレートがより好ましく用いられる。
【0032】
なお、本発明の透明高分子導電膜と基材との密着性が不十分である場合は、透明高分子導電膜を形成する前に、必要に応じて基材の上に接着樹脂をコーティング、あるいは放電処理などの表面処理を行うことができる。また、高分子フィルムや高分子シートは熱によって収縮することがあるため、前もって熱処理を施し、これらの収縮を取り除いておくことは好ましい処理である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。なお、形成後の透明高分子導電膜の評価は次の方法で行った。
【0034】
1.外観
目視にて観察し、透明でありクラックや白濁などの不良が無いものを○、いずれかの不良があるものを×とした。
【0035】
2.表面抵抗値
表面抵抗計(Siltec社製「SLT−YKH4101」)を用いて、温度25℃、湿度60%RHの条件下で、印加電圧12Vにて形成された膜の表面抵抗値を測定した。
【0036】
3.全光線透過率
SMカラーコンピュータ(スガ試験機株式会社製「MODEL SM−7」)を用いて、基板を含めた試料全体の全光線透過率を測定した。
【0037】
(実施例1)
(1)DNAとPEDOT/PSSの混合液の調製
鮭白子由来のDNA(日本化学飼料社製;重量平均分子量=662万)5gとイオン交換水1000gをサンプル瓶に取り、マグネチックスターラーを用いて室温で24時間攪拌し、0.5重量%のDNA水溶液を調製した。
【0038】
続いてBayer社製PEDOT/PSS水分散液「Baytron(登録商標) P HC V4(固形分率1.2%)」と、先に調製したDNA水溶液とを、表1の配合比となるようにそれぞれサンプル瓶内で混合させた。混合後、DNAとPEDOT/PSSの合計の固形分率が0.5%となるように、適宜イオン交換水を追加し、コーティング用の混合塗液とした。
【0039】
【表1】

【0040】
(2)透明高分子導電膜の形成
厚み105μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製「ルミラー(登録商標)」)の上に、(1)で調製した混合塗液を、コーティング装置(マイクログラビアコーター)を用いて乾燥後の膜厚が100nmになるようコーティングし、表面に透明高分子導電膜を設けたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。得られたサンプルについて、外観評価、および表面抵抗値と全光線透過率の測定を行った。評価結果は表1の通りであった。
【0041】
(実施例2〜4、比較例1、2)
DNAとPEDOT/PSSの配合比を表1に示した比に変更した以外は、全て実施例1と同様にして表面に透明高分子導電膜を設けたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。得られた各サンプルについて、外観評価、および表面抵抗値と全光線透過率の測定を行った。評価結果は表1の通りであった。
【0042】
(比較例3〜5)
使用したDNAを鮭白子由来のDNA(和光純薬製;平均分子量=33万)に変更し、DNAとPEDOT/PSSの配合比を表1に示した比に変更した以外は、全て実施例1と同様にして表面に透明高分子導電膜を設けたポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。得られた各サンプルについて、外観評価、および表面抵抗値と全光線透過率の測定を行った。評価結果は表1の通りであった。
【0043】
上記比較例1が、PEDOT/PSSのみを用いて形成された透明高分子導電膜に相当するが、表1から読み取れる通り、実施例1〜4の条件によって高分子量のDNAを含有させ形成された透明高分子導電膜は、比較例1の場合よりも表面抵抗値が低く、全光線透過率が高くなっていることが分かる。したがって、本発明によって得られた透明高分子導電膜は、PEDOT/PSS単独で形成される透明高分子導電膜よりも、高導電性、高透明性を有する優れた透明高分子導電膜であることが分かる。
【0044】
一方、比較例2および比較例3では、DNA単独で形成される透明高分子導電膜が得られたが、比較例1で得た透明高分子導電膜よりも高い全光線透過率を示すものの、表面抵抗値が著しく上昇するため、高い透明導電性を要求される用途において好適に使用することができない。
【0045】
また、比較例4および比較例5では、本発明によって得られた透明高分子導電膜と同じくDNAおよびPEDOT/PSSを含有する透明高分子導電膜を得たが、本発明の透明高分子導電膜と比べてほぼ同等の表面抵抗値および全光線透過率を示すに過ぎないことが分かる。したがって、DNAを新たに系に導入する意義が見出せず、工程面やコスト面で不利になるため、透明導電性基材に好適に用いることができない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明により得られる透明高分子導電膜は、高導電性、高耐久性、易成型性、フレキシブル性を有することから、無機ELディスプレイ、タッチパネル、スマートウィンドウ、あるいは電子ペーパーなどに用いられる透明電極、あるいは液晶ディスプレイのシールドなどに用いられる透明導電性基材に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気泳動法により測定した重量平均分子量が200万以上2000万以下であるデオキシリボ核酸、およびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)を含有する透明高分子導電膜。
【請求項2】
ポリスチレンスルホン酸を含有する請求項1に記載の透明高分子導電膜。
【請求項3】
透明高分子導電膜中に占める前記デオキシリボ核酸の割合が0.5重量%以上15重量%以下である請求項1または2に記載の透明高分子導電膜。
【請求項4】
電気泳動法により測定した重量平均分子量が200万以上2000万以下であるデオキシリボ核酸の水溶液と、ポリスチレンスルホン酸を含有したポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)の水分散液とを混合し、その混合液をキャストして形成することを特徴とする透明高分子導電膜の製造方法。

【公開番号】特開2010−49810(P2010−49810A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210336(P2008−210336)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】