説明

透水性付与剤およびそれが付着した透水性繊維

【課題】 吸収性物品の構造を改良するまでもなく液戻り量の低減が達成でき、高い耐久透水性と良好なカード通過性とを繊維に付与する透水性付与剤、および、それが付着した透水性繊維を提供することである。
【解決手段】 透水性付与剤は、(ポリ)アミンのカチオン化物(a)と、エステル(b)と、ジアルキルスルホサクシネート塩(c)と、アルキルホスフェート塩(d)と、トリアルキルグリシン誘導体および(アルキルアミド基含有アルキル)ジアルキルグリシン誘導体から選ばれた少なくとも1種のグリシン誘導体(e)と、ポリオキシアルキレン変性シリコーン(f)とを含み、成分(a)が10〜40重量%、成分(b)が10〜40重量%、成分(c)が1〜40重量%、成分(d)が10〜60重量%、成分(e)が10〜40重量%、成分(f)が1〜20重量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透水性付与剤およびそれが付着した透水性繊維に関する。
本発明は、詳しくは、繊維製品のうちでも紙おむつ、合成ナプキン等のトップシートに用いられる不織布用繊維に好適な透水性付与剤と、この透水性付与剤が付着した透水性繊維に関する。本発明は、さらに詳しくは、単に透水性の付与だけではなく、表面シートを通して一旦吸収された尿や体液等が再び表面シートから逆流して着用者に付着すること、いわゆる「液戻り」現象を防止するとともに、表面シートの液吸収特性や耐久透水性を改善する透水性付与剤と、この透水性付与剤が付着した透水性繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、紙おむつや生理用品等の吸収性物品は、疎水性の高いポリオレフィン系やトリアセテート繊維を含むポリエステル系繊維を主材とする各種不織布に透水性(親水性)を付与した表面シートと、撥水性のバックシートとの間に、綿状パルプや高分子吸収体等からなる材料を配置した構造になっている。そして、表面シートは、通常、透水性付与剤が付与されており、透水性を有するようになっている。
【0003】
尿や体液等の液体は表面シートを通過して吸収体に吸収されるが、この時、表面シートのベトツキ感をなくすために、透水性の良いこと、すなわち、液体が表面シート上から内部の吸収体に完全に吸収されるまでの時間が極めて短いことが必要である。また、一度吸収体に吸収された液体が再び表面シート上に戻らないようにすることも必要である。さらに、僅か1〜2回の液体吸収で表面シート上の透水性付与剤が流出してしまうことによって透水性が急激に低下すると、吸収性物品の取替えを頻繁に行う必要があり、好ましくない。したがって、透水性付与剤は、耐久性のある透水性が要求される。さらに、長期的に耐久透水性が維持されること、すなわち、耐久透水性の経日劣化の少ないことも要求される。
【0004】
また、不織布が円滑に製造できるように、繊維の帯電防止が確保されることや、カード工程を通る場合に、シリンダーへの巻付きが無く、均一なウェブが形成されること、つまり、良好なカード通過性が要求される。
【0005】
吸収性物品を快適に着用するためには、透水性が良く且つ液戻りが少なく、液体の繰り返しの透水に対しても親水性を維持(耐久透水性)していることが重要である。これらの特性が透水性付与剤によって改善されることが知られている。たとえば、特許文献1では、炭素数12〜22の直鎖アルキルホスフェートカリウム塩で繊維を処理する方法が提案されている。特許文献2では、炭素数10〜30のアルキル燐酸エステル塩に炭素数10〜30のベタイン化合物や硫酸エステル塩あるいはスルホネート塩を配合した透水性付与剤が提案されている。特許文献3では、アルキル燐酸エステル塩にポリエーテル変性シリコーンを併用する方法が提案されている。特許文献4では、アルキル燐酸エステル塩に2種類のベタイン化合物を併用する方法が提案されている。
【0006】
また、特許文献5では、ポリオキシアルキレン脂肪酸アミドにアシル化ポリアミンカチオン化物やアルキルホスフェート塩、トリアルキルグリシン誘導体、ポリオキシアルキレン変性シリコーンを併用する方法が提案されている。更に、特許文献6では、アルキルホスフェート塩にトリアルキルグリシン誘導体、ポリオキシアルキレン変性シリコーン、アルコキシル化リシノレイン型化合物を併用して繊維を処理する方法が提案されている。
【特許文献1】特公昭63−14081号公報
【特許文献2】特開昭60−215870号公報
【特許文献3】特開平4−82961号公報
【特許文献4】特開2000−170076号公報
【特許文献5】特開2002−161474号公報
【特許文献6】特開2002−161477号公報
【0007】
これらの提案された方法は、要求される不織布の表面特性の性能に一長一短があり、しかも、液戻り性についてはいずれの方法でも十分ではない。透水性の向上には親水性の透水性付与剤が好ましいのに対して、液戻りの低減には疎水性の透水性付与剤が好ましい。このようなことから、これらの特性は単に透水性付与剤成分の親水性や疎水性といった性質だけでなく、成分の化学構造や親水性と疎水性とのバランスや成分間の相互作用等に影響される。しかしながら、透水性向上と液戻り防止とを両立させ、さらに耐久透水性の経日劣化を少なくすることが難しいため、液戻り防止は不織布表面層に親水性性能の異なる不織布を用いて二重構造にすることや綿状パルプや高分子吸収体の配置や量を調整する等、吸収性物品の構造に工夫を凝らすというような手段に頼らざるを得なかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、吸収性物品の構造を改良するまでもなく液戻り量の低減が達成でき、高い耐久透水性と良好なカード通過性とを繊維に付与する透水性付与剤、および、それが付着した透水性繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる透水性付与剤は、ポリオキシアルキレン基とアシル基とを有した(ポリ)アミンのカチオン化物(a)と、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(b)と、ジアルキルスルホサクシネート塩(c)と、アルキルホスフェート塩(d)と、トリアルキルグリシン誘導体および(アルキルアミド基含有アルキル)ジアルキルグリシン誘導体から選ばれた少なくとも1種のグリシン誘導体(e)と、ポリオキシアルキレン変性シリコーン(f)とを含む透水性付与剤であって、前記透水性付与剤全体に占める各成分の配合割合について、成分(a)が10〜40重量%、成分(b)が10〜40重量%、成分(c)が1〜40重量%、成分(d)が10〜60重量%、成分(e)が10〜40重量%、成分(f)が1〜20重量%であることをそれぞれ満たす透水性付与剤である。
本発明の透水性付与剤において、以下に示す要件(1)〜(6)をさらに満足すると好ましい。
【0010】
(1)成分(a)において、ポリオキシアルキレン基が付加モル数2〜20のポリオキシエチレン基であり、アシル基の炭素数が16〜28であり、(ポリ)アミンがポリエチレンポリアミンに由来すること
(2)成分(b)において、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルが炭素数6〜22のヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルのアルキレンオキシド付加物であり、ジカルボン酸の炭素数が2〜10であり、脂肪酸の炭素数が10〜22であること
【0011】
(3)成分(c)が炭素数6〜18のアルキル基を有し、ナトリウム塩および/またはカリウム塩であること
(4)成分(d)が炭素数6〜22のアルキル基を有し、カリウム塩、ナトリウム塩、炭素数1〜9のアルキルアミン塩およびアンモニウム塩から選ばれた少なくとも1種の塩であること
(5)成分(e)が下記一般式(1)で表現される化合物であること
【0012】
【化1】

(但し、Rは炭素数7〜22の炭化水素基、aは1〜3の整数、bは0または1、RおよびRは、いずれも炭素数1〜3の炭化水素基である。)
【0013】
(6)成分(f)の分子量が1,000〜100,000であり、ポリオキシアルキレン全体のうちポリオキシエチレンが占める割合が20重量%以上であること
本発明にかかる透水性繊維は、繊維本体とこれに付着した上記透水性付与剤とから構成される透水性繊維であって、前記透水性付与剤の付着割合が前記透水性繊維に対して0.1〜2重量%である。
【発明の効果】
【0014】
本発明にかかる透水性付与剤は、吸収性物品の構造を改良するまでもなく液戻り量の低減が達成でき、高い耐久透水性を繊維に付与する処理剤である。この透水性付与剤は、静電気防止性が良好であるので低湿時の静電気トラブルを防止でき、さらに、潤滑性が良いのでカード通過性をも向上させることができる。
【0015】
本発明にかかる透水性繊維は、上記透水性付与剤が付着しているので、液戻り量の低減が達成でき、高い耐久透水性を有している。この透水性繊維は、透水性付与剤の静電気防止性が良好であるので、製造や使用する際に低湿下であっても静電気トラブルが発生せず、しかも、透水性繊維は、透水性付与剤によって潤滑性が良く、開繊性が向上するので良好なカード通過性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の透水性付与剤は、以下の6つの成分を必須とし、それぞれの成分は括弧に示した所定量を含有している。
成分(a):ポリオキシアルキレン基とアシル基とを有した(ポリ)アミンのカチオン化物(透水性付与剤全体の10〜40重量%)
【0017】
成分(b):ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(透水性付与剤全体の10〜40重量%)
成分(c):ジアルキルスルホサクシネート塩(透水性付与剤全体の1〜40重量%)
【0018】
成分(d):アルキルホスフェート塩(透水性付与剤全体の10〜60重量%)
成分(e):トリアルキルグリシン誘導体および(アルキルアミド基含有アルキル)ジアルキルグリシン誘導体から選ばれた少なくとも1種のグリシン誘導体(透水性付与剤全体の10〜40重量%)
【0019】
成分(f):ポリオキシアルキレン変性シリコーン(透水性付与剤全体の1〜20重量%)
以下、各成分を詳しく説明する。
〔成分(a)〕
【0020】
成分(a)は、ポリオキシアルキレン基とアシル基とを有した(ポリ)アミンのカチオン化物である。成分(a)は、液戻り量を低減させ、高い耐久透水性と経日劣化の少ない耐久透水性を繊維に付与する成分である。
(ポリ)アミンは、遊離のアミノ基を2つ以上有するポリアミン類(ジアミン類、トリアミン類、テトラミン類等)であってもよく、遊離のアミノ基を1つ有するモノアミン類であってもよい。
【0021】
ポリオキシアルキレン基は、(ポリ)アミン中の窒素原子と直接結合している。ポリオキシアルキレン基は、後述の原料ポリアミンに含まれる(N−置換)アミノ基の少なくとも1つと結合していると表現することもできる。
ポリオキシアルキレン基としては、たとえば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシエチレンオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基等を挙げることができ、ポリオキシエチレン基、ポリオキシエチレンオキシプロピレン基が好ましい。ポリオキシアルキレン基が2種以上のオキシアルキレン基から構成される場合、ポリオキシアルキレン基はブロック状に付加した基であってもよく、ランダム状に付加した基であってもよい。
【0022】
(ポリ)アミンに含まれるポリオキシアルキレン基の数については、特に限定はないが、好ましくは2〜20、さらに好ましくは5〜15であり、特に好ましくは9〜12である。付加モル数が20を超えると、耐久透水性の低下と耐久透水性の経日劣化が多く観察されるようになり、液戻り量も増加することがある。ポリオキシエチレンオキシプロピレン基の場合、ポリオキシエチレンの付加モル数はポリオキシプロピレンの付加モル数と同等またはそれ以上が好ましい。ここで、ポリオキシアルキレン基の付加モル数は、1つ(1モル)のポリオキシアルキレン基を構成するオキシアルキレン基の個数(モル数)で定義される。
アシル基は、(ポリ)アミン中の窒素原子と直接結合して、アミド基を形成している。アシル基は、後述の原料ポリアミンに含まれるアミノ基の少なくとも1つと結合することによって、アミド基を形成していると表現することもできる。
【0023】
アシル基の炭素数は、好ましく16〜28、さらに好ましくは16〜22である。アシル基の炭素数が16未満であると、親水性が強くなるために液戻り量が増加し、耐久透水性が低下することがある。一方、アシル基の炭素数が28を超えると、成分(a)が硬くなり取扱いにくくなることがある。アシル基としては、たとえば、オレイン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の飽和または不飽和の脂肪酸からOH基を除いた構造の基を挙げることができる。
(ポリ)アミンに含まれるアシル基の数については、特に限定はないが、好ましくは1〜3である。アシル基の数が3を超える場合は、透水性付与剤の水溶性が低下することがある。
【0024】
カチオン化物は、上記(ポリ)アミンとアルキル化剤との反応生成物である。アルキル化剤としては特に限定はないが、たとえば、メチルクロライド、メチルブロマイド、ベンジルクロライド、長鎖アルキルクロライド、エピクロルヒドリン、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸、トリメチルリン酸等を挙げることができる。
(ポリ)アミンは、たとえば、上記飽和または不飽和の脂肪酸と、原料ポリアミンとの反応で得られるモノアルキルアミド(ポリ)アミンまたはジアルキルアミド(ポリ)アミン等を、アルキレンオキシドと反応させて得ることができる。
【0025】
原料ポリアミンとしては、たとえば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン等のポリエチレンポリアミン;プロピレンジアミン、ジプロピレントリアミン、トリプロピレンテトラミン等のポリプロピレンポリアミン;ブチレンジアミン、ジブチレントリアミン等のポリブチレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミンを挙げることができる。ポリアルキレンポリアミンの炭素数については、特に限定はないが、好ましくは2〜4である。
【0026】
原料ポリアミンは、アミノ基またはイミノ基の水素原子をアルキル基やヒドキシエチル基で置換したポリアミン(たとえば、エチルジエチレントリアミン等のアルキルポリアルキレンポリアミン)であってもよい。
アルキレンオキシドとしては、たとえば、以下の成分(b)の説明で例示するアルキレンオキシドを挙げることができる。アルキレンオキシドは2種以上を併用してもよい。その場合は、エチレンオキシドおよびプロピレンオキシドの組合せが好ましく、プロピレンオキシドよりもエチレンオキシドのモル数が大きいとさらに好ましい。
【0027】
(ポリ)アミンは、分子内に少なくとも1つのアルキルアミド基と、窒素原子と直接結合した少なくとも1つのポリオキシアルキレン基とがあるアミンと表現してもよく、そのカチオン化物は、分子内に少なくとも1つのアルキルアミド基と、窒素原子と直接結合した少なくとも1つのポリオキシアルキレン基とがある4級アンモニウム塩と表現してもよい。ここで、アルキルアミド基からアミンに由来する部分を除いた基が、アシル基に対応する。
成分(a)である(ポリ)アミンのカチオン化物は、たとえば、以下の一般式(2)で表現することもできる。
【0028】
【化2】

(但し、cは2≦c≦4を満足し;X1〜X5は、水素原子、RCO−(Rは、炭素数が15〜27の炭化水素基)、−(AO)−H(Aは、炭素数が1〜5のアルキレン基;2≦d≦20)のいずれかであるが、RCO−および−(AO)−Hを少なくとも1つ含む。なお、X1とX、X3とXが同時にRCO−になる場合を除く。一般式(2)において、−(AO)−Hが複数ある場合は、各−(AO)−Hのポリオキシアルキレン基の付加モル数は必ずしも同数でもなくてもよく、その合計付加モル数が2〜20の範囲であればよい。;YおよびZは、アルキル化剤(Y−Z)に由来する基である。)
【0029】
上記一般式(2)の説明で示したアルキル化剤の具体例としては、上記カチオン化物の説明で述べた各種アルキル化剤を挙げることができる。
成分(a)の配合比率は、透水性付与剤全体の10〜40重量%が好ましく、15〜35重量%がさらに好ましい。成分(a)の配合比率が10重量%未満では、耐久透水性が低下するとともに液戻り量も増加することがある。一方、成分(a)の配合比率が40重量%超であると、製品粘度および溶液粘度が高くなり作業性が低下することがある。
【0030】
本発明の透水性付与剤は、成分(a)を含有するので、経日劣化の少ない耐久透水性を繊維に付与することができるという効果も有する。
〔成分(b)〕
【0031】
成分(b)は、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステル(以下、ポリヒドロキシエステルということがある)とジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルである。成分(b)は、耐久透水性を補助し、液戻り量を低減させる成分である。
ポリヒドロキシエステルは、構造上、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルであり、多価アルコールの水酸基のうち、2個以上(好ましくは全部)の水酸基がエステル化されている。したがって、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルは、複数の水酸基を有するエステルである。
【0032】
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸は、脂肪酸主鎖に酸素原子を介してポリオキシアルキレン基が結合した構造を有し、ポリオキシアルキレン基の脂肪酸主鎖と結合していない片末端が水酸基となっている。
ポリヒドロキシエステルとしては、たとえば、炭素数6〜22のヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステル化物のアルキレンオキシド付加物を挙げることができる。ヒドロキシ脂肪酸の炭素数が6未満であると、親水性が強くなり、一方、22を超えると疎水性が強くなる。いずれの場合も他の成分との相溶性が悪くなるため、十分な耐久透水性を得られないことがある。
【0033】
炭素数6〜22のヒドロキシ脂肪酸としては、たとえば、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸、サリチル酸等が挙げられ、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸が好ましい。
多価アルコールとしては、たとえば、エチレングリコール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン等が挙げられ、グリセリンが好ましい。アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等の炭素数2〜4のアルキレンオキシドが挙げられる。
【0034】
アルキレンオキシドの付加モル数は、上記エステル化物の水酸基1モル当り、好ましくは80以下、さらに好ましくは5〜30である。付加モル数が80を超えると液戻り量が増加することがあるので好ましくない。高い耐久透水性を得るためには、親水基と疎水基のバランスを調整することが重要である。そのためには、アルキレンオキシドの付加モル数は、このエステル1モル当りでは、好ましくは5〜150、さらに好ましくは10〜80である。アルキレンオキシドに占めるエチレンオキシドの割合は、好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。エチレンオキシドの割合が50モル%未満では、疎水性が強くなるために十分な耐久透水性が得られないことがある。
ポリヒドロキシエステルは、たとえば、多価アルコールとヒドロキシ脂肪酸(ヒドロキシモノカルボン酸)を通常の条件でエステル化してエステル化物を得て、次いでこのエステル化物にアルキレンオキシドを付加反応させることによって製造できる。ポリヒドロキシエステルは、エステル化物として、ひまし油などの天然から得られる油脂やこれに水素を添加した硬化ひまし油を用い、さらにアルキレンオキシドを付加反応させることによって、好適に製造できる。
【0035】
成分(b)のエステルは、ポリヒドロキシエステルとジカルボン酸との縮合物において、その少なくとも1つの水酸基が脂肪酸で封鎖されたエステルである。上記で説明するように、ポリヒドロキシエステルは水酸基を有している。縮合物は、たとえば、ポリヒドロキシエステル2分子がジカルボン酸1分子と脱水縮合反応して得られる生成物が主成分となる。この主成分となる縮合物(以下、縮合物Aということがある。)の構造は、ポリヒドロキシエステルに由来する構造をX、X’(ここで、XおよびX’は同一であってもよい)とし、ジカルボン酸に由来する構造をYとすると、X−Y−X’と表現することができる。X−Y間およびX’−Y間の結合は、ポリヒドロキシエステル中の水酸基と、ジカルボン酸中のカルボキシル基との反応で形成されたエステル結合である。
成分(b)のエステルは、縮合物の少なくとも1つの水酸基が脂肪酸で封鎖されたエステルである。上記縮合物Aにおいて、Xは1個以上の水酸基を有しているから、縮合物Aは2個以上の水酸基を有している。成分(b)のエステルでは、その水酸基の少なくとも1つが脂肪酸で封鎖されている。
【0036】
ジカルボン酸の炭素数については、2〜10が好ましく、2〜8がさらに好ましい。ジカルボン酸の炭素数が10を超えると十分な耐久透水性を付与できないことがある。ジカルボン酸としては、たとえば、オキシジプロピオン酸、コハク酸、マレイン酸、セバシン酸、フタル酸等およびこれらのジカルボン酸の無水物等が挙げられる。ポリヒドロキシエステルとジカルボン酸との縮合物を製造する場合、それぞれの原料比率(モル比)は、好ましくは1:1〜2:1、さらに好ましくは1.5:1〜2:1である。エステル化の反応は通常の条件で良く、特に限定はない。
縮合物の少なくとも1つの水酸基を封鎖する脂肪酸の炭素数については、10〜22が好ましく、12〜22がさらに好ましい。脂肪酸の炭素数が10未満であると親水性が強くなり、一方、22を超えると疎水性が強くなる。このように、親水性と疎水性とがアンバランスであると、十分な耐久透水性を得ることができないことがある。このような脂肪酸としては、たとえば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イコサン酸、ベヘン酸等が挙げられる。縮合物と脂肪酸とのエステルを製造する場合、それぞれの原料比率(モル比)は、好ましくは1:0.2〜1:1のモル比で反応されるが、さらに好ましくは1:0.4〜1:0.8のモル比である。エステル化の反応条件については特に限定はない。
【0037】
成分(b)は、アルコキシル化リシノレイン型化合物および/またはその水素添加物とジカルボン酸とのエステルであって、そのエステルの少なくとも一つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステルと表現することもできる。ここで、ジカルボン酸および脂肪酸は上記で説明したとおりである。
アルコキシル化リシノレイン型化合物としては、ひまし油などの天然から得られる油脂やこれに水素を添加した硬化ひまし油等が挙げられる。
成分(b)のエステルは、縮合物Aを主成分として含む多数の成分の混合物であることが多い。縮合物Aは、たとえば、以下の一般式(3)で表現することができる。
【0038】
【化3】

(但し、XおよびXは、同一であってもよく、異なっていてもよい;Xは、−O−CO−R−(OA−または−(OA−である;Xは、−O−CO−R−(OA−または−(OA−である;XおよびXにおいて、Aは炭素数1〜5のアルキレン基であり、Aおよびgは、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい、gはいずれも80以下であり、gの総和は10〜80の範囲を満足する;Rは、ヒドロキシ脂肪酸(HO−R−COOH、OH基はRの側鎖で結合していてもよく、末端で結合していてもよい)からOH基とCOOH基を除いた部分である;Rは、ヒドロキシ脂肪酸(HO−R−COOH、OH基はRの側鎖で結合していてもよく、末端で結合していてもよい)からOH基とCOOH基を除いた部分である;Rは2価の有機基である;Rは、多価アルコール(R(OH))から全てのOH基を除いた部分であり、eは2≦e≦4を満足する整数である;Rは、多価アルコール(R(OH))から全てのOH基を除いた部分であり、fは2≦f≦4を満足する整数である;Yは−CO−R10であり、Yが複数ある場合は、その一部が水素原子であってもよい。);R10は、炭素数12〜22の炭化水素基である。)
【0039】
上記一般式(3)において、Aとしては、たとえば、エチレン基、プロピレン基等を挙げることができ、1種または2種以上を併用してもよい。gの総和は、好ましくは5〜30である。
上記一般式(3)において、RやRを含有するヒドロキシ脂肪酸としては、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸、サリチル酸等を挙げることができ、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸が好ましい。
【0040】
上記一般式(3)において、Rとしては、オキシジプロピオン酸、コハク酸、マレイン酸、セバシン酸、フタル酸等およびこれらのジカルボン酸の無水物等からカルボキシル基(または酸無水物基)を除いた2価の有機基を挙げることができ、(無水)コハク酸、(無水)マレイン酸からカルボキシル基(または酸無水物基)を除いた2価の有機基が好ましい。
上記一般式(3)において、Rを含有する多価アルコールとしては、エチレングリコール、グリセリン、ソルビタン、トリメチロールプロパン等を挙げることができ、グリセリンが好ましい。
【0041】
上記一般式(3)において、R10としては、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、イコサン酸、ベヘン酸等からカルボキシル基を除いた1価の炭化水素基を挙げることができ、1種または2種以上を併用してもよい。
成分(b)の配合比率は、透水性付与剤全体の10〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がさらに好ましい。成分(b)の配合比率が10重量%未満では、耐久透水性が低下することがある。一方、成分(b)の配合比率が40重量%超であると、カードの通過性低下し、作業性が低下することがある。
〔成分(c)〕
【0042】
成分(c)は、ジアルキルスルホサクシネート塩である。成分(c)は、高い初期透水性を繊維に付与し、液体が繊維に浸透するのを速くする作用を有する成分である。成分(c)のジアルキルスルホサクシネート塩は、α位にスルホン酸塩の基を有するコハク酸のジアルキルエステルである。
ジアルキルエステルを構成するアルキル基について、成分(c)が、炭素数6〜18のアルキル基を有すると好ましく、炭素数8〜18のアルキル基を有するとさらに好ましい。アルキル基の炭素数が6未満ではカード通過性が低下することがある。一方、アルキル基の炭素数が18超であると、初期透水性が低下することがある。
【0043】
成分(c)のスルホン酸塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、アミン塩を挙げることができ、ナトリウム塩および/またはカリウム塩であると、透水性付与剤が付着した繊維に液体が速やかに浸透するので好ましい。
成分(c)の配合比率は、透水性付与剤全体の1〜40重量%が好ましく、1〜20重量%がさらに好ましい。成分(c)の配合比率が1重量%未満では、透水性付与剤が付着した繊維に液体が速やかに浸透しなくなることがある。一方、成分(c)の配合比率が40重量%超であると、カード通過性が低下することがある。
〔成分(d)〕
【0044】
成分(d)は、アルキルホスフェート塩である。成分(d)は、カード通過性を高め、耐久透水性を高め、液戻り量を少なくする成分である。
アルキルホスフェート塩を構成するアルキル基について、成分(d)が、炭素数6〜22のアルキル基を有すると好ましく、炭素数8〜18のアルキル基を有するとさらに好ましい。アルキル基の炭素数が6未満ではカード工程通過性が低下することがある。一方、アルキル基の炭素数が22超であると、初期透水性および耐久透水性がともに低下することがある。なお、アルキル基の炭素数は分布があっても良く、2種類以上のアルキルホスフェート塩の混合物でも良い。
【0045】
成分(d)としては、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、炭素数1〜9のアミン塩、アンモニウム塩等を挙げることができ、これらの塩は、静電気防止性が高く、取扱い性が容易という理由から好ましい。
成分(d)の配合比率は、透水性付与剤全体の10〜60重量%が好ましく、15〜55重量%がさらに好ましい。成分(d)の配合比率が10重量%未満ではカード通過性が低下することがある。一方、成分(d)の配合比率が60重量%超であると、耐久透水性が低下することがある。
【0046】
上記アルキルホスフェート塩の親水性を補うために、ポリオキシアルキレン基を付加したポリオキシアルキレンアルキルホスフェート塩を併用してもよい。その併用量はアルキルホスフェート塩に対して10〜30重量%である。
〔成分(e)〕
成分(e)は、トリアルキルグリシン誘導体および(アルキルアミド基含有アルキル)ジアルキルグリシン誘導体から選ばれた少なくとも1種のグリシン誘導体である。成分(e)は、耐久透水性を高める成分である。
【0047】
トリアルキルグリシン誘導体は、グリシン分子構造中の窒素原子に3つのアルキル基が結合している第4級アンモニウムとカルボキシル基の分子内塩、いわゆるベタイン構造を有する化合物である。トリアルキルグリシン中のアルキル基としては炭素数1〜22のアルキル基であれば、特に限定はない。トリアルキルグリシン誘導体としては、たとえば、ジメチルドデシルグリシンヒドロキサイド、ジメチルテトラデシルグリシンヒドロキサイド、ジメチルオクタデシルグリシンヒドロキサイド、β−ヒドロキシオクタデシルジメチルグリシンヒドロキサイド等の分子内塩が挙げられる。中でも、3つのアルキル基のうち、2個のアルキル基がメチル基やエチル基等の低級のアルキル基で、1個が炭素数12以上の長鎖アルキル基を有するトリアルキルグリシン誘導体が好ましい。このようなトリアルキルグリシン誘導体としては、ジメチルドデシルグリシンヒドロキサイド、ジメチルテトラデシルグリシンヒドロキサイド、ジメチルヘキサデシルグリシンヒドロキサイド、ジメチルオクタデシルグリシンヒドロキサイド等を挙げることができる。
(アルキルアミド基含有アルキル)ジアルキルグリシン誘導体としては、たとえば、上記一般式(1)で表現される化合物(1)を挙げることができ、そのうちでもb=1である化合物(1)を代表例として挙げることができる。一般式(1)中の2つのアルキル基R、Rがメチル基やエチル基等の低級アルキル基であり、アルキルアミド基含有アルキルのRが、炭素数7以上の長鎖アルキル基である(アルキルアミド基含有アルキル)ジアルキルグリシン誘導体が好ましい。このような(アルキルアミド基含有アルキル)ジアルキルグリシン誘導体としては、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ステアリン酸アミドエチルベタイン等を挙げることができる。
【0048】
成分(e)の配合比率は、透水性付与剤全体の10〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がさらに好ましい。成分(e)の配合比率が10重量%未満では耐久透水性が低下することがある。一方、成分(e)の配合比率が40重量%超であると、耐久透水性は向上するものの、液戻り量が多くなると共に不織布等の繊維表面のサラリ感が低下することがある。
〔成分(f)〕
成分(f)は、ポリオキシアルキレン変性シリコーンである。成分(f)は、高い耐久透水性とカード通過性を繊維に付与する成分である。
成分(f)としては、たとえば、下記の一般式(4)で表される化合物(4)を挙げることができる。
【0049】
【化4】

(式中、R11はメチレン基、プロピレン基、N−(アミノエチル)メチルイミノ基およびN−(アミノプロピル)プロピルイミノ基から選ばれる1種であり、Xはポリオキシアルキレン基であり;hおよびiは、Si含有率が20〜70重量%で、分子量が1,000〜100,000となるように選ばれる数である。)
【0050】
化合物(4)中のSi含有率(化合物(4)中にSiが占める重量%)は20〜70%である。Si含有率が70%超であると、本発明の透水付与剤を付着させて得られる透水性繊維の安定性が低下し、製造コストが高くなる。一方、Si含有率が20%未満であると、耐久透水性が得られないことがある。
化合物(4)中のポリオキシアルキレン基としては、たとえば、ポリオキシエチレン基、ポリオキシプロピレン基、ポリオキシブチレン基、これらの基を構成する単量体から2種以上を選び重合して得られる基等を挙げることができる。ポリオキシアルキレン(基)全体のうちポリオキシエチレン(基)が占める割合が20重量%以上であることが好ましく、20重量%未満では透水性が低下することがある。
【0051】
化合物(4)の重量平均分子量については特に限定はないが、1,000〜100,000であると好ましく、2,000〜80,000であるとさらに好ましい。重量平均分子量がこの範囲を外れると透水性が低下し、特に1,000未満の場合にこの傾向が著しい。
成分(f)の配合比率は、透水性付与剤全体の1〜20重量%が好ましく、5〜15重量%がさらに好ましい。成分(f)の配合比率が1重量%未満では十分な耐久透水性が得られないことがある。一方、成分(f)の配合比率が20重量%超であると、耐久透水性は向上するものの、液戻り量が多くなると共に、製綿工程や不織布製造工程において、スカム発生が多くなることがある。
〔透水性付与剤に含まれるその他の成分〕
【0052】
本発明の透水性付与剤は、所望によりアルカンスルフォネートナトリウム塩等の帯電防止剤、N−アルキルスルフォピロリドン等の両性乳化剤、ノニオン性の乳化剤、カルナバワックス等の潤滑剤、消泡剤、防腐剤等の添加剤を含有してもよい。これらの添加剤の配合比率については特に限定はない。
本発明の透水性付与剤は、後述するとおり、繊維本体に付着させることによって、透水性繊維が得られる。また、本発明の透水性付与剤は繊維に含有させ、繊維の内部添加剤として使用してもよい。その場合は、繊維を構成するポリマーに対し、その重量の2〜30重量%、好ましくは3〜15重量%添加される。透水性付与剤の添加量が2重量%未満では透水性能が不足し、一方、透水性付与剤の添加量が30重量%を超えると、繊維強度が低下し、生産性が大幅に低下することがある。
〔透水性繊維〕
【0053】
本発明の透水性繊維は、繊維本体とこれに付着した上記透水性付与剤とから構成される透水性繊維である。
透水性付与剤の付着割合は、前記透水性繊維に対して0.1〜2重量%であり、好ましくは0.3〜1重量%である。透水性繊維に対する透水性付与剤の付着割合が0.1重量%未満では、液戻り量が多く、透水耐久性が低下することがある。一方、透水性付与剤の付着割合が2重量%を超えると、繊維をカード処理する時に巻付きが多くなって生産性が大幅に低下し、不織布等の繊維製品が透水後にベトツキが大きくなることがある。
【0054】
繊維本体としては、たとえば、疎水性繊維;(フィブリル化)ポリオレフィン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、塩ビ繊維、芯鞘構造のポリエステル−ポリエチレン系複合繊維、ポリプロピレン−ポリエチレン系複合繊維、コポリプロピレン−ポリプロピレン系複合繊維、コポリエステル−ポリプロピレン系複合繊維、コポリエステル−コポリエステル系複合繊維等の熱融着繊維を挙げることができる。また、繊維本体の形態については、特に限定はなく、フィラメント糸、スパン糸、これらの複合体や加工体(たとえば、スパンボンド、スパンレース、メルトブロー等の不織布やウエブ)や、最終製品たる肌着等の衣料製品等を挙げることができる。
本発明の透水性付与剤は、そのまま希釈等せずに繊維本体に付着させてもよく、水等で1〜30重量%濃度に希釈してエマルジョンとして繊維本体に付着させてもよく、低粘度の炭化水素化合物等に1〜30重量%濃度に希釈して繊維本体に付着させてもよい。
【0055】
本発明の透水性付与剤を繊維本体に付着させる手段については、特に限定はなく、ローラー給油、ノズルスプレー給油、ディップ給油等の手段を使用してもよい。
〔透水性繊維の物性〕
本発明の透水性繊維は、液戻りしにくいという優れた物性を有している。透水性繊維の液戻り量は、通常1.2g以下、好ましくは1.0g以下、さらに好ましくは0.8g以下、より好ましくは0.6g以下、特に好ましくは0.4g以下、最も好ましくは0.2g以下である。液戻り量の測定方法については、実施例で詳細に説明する。
【0056】
本発明の透水性繊維は、耐久透水性および経日劣化の少ない耐久透水性に優れている。透水性繊維について実施例で詳細に説明した耐久透水性評価を行い、3回目において生理食塩水の消失時間を20箇所で測定し、消失時間5秒未満となる箇所の個数は、通常10個以上、好ましくは12個以上、さらに好ましくは14個以上、より好ましくは16個以上、特に好ましくは18個以上、最も好ましくは20個である。経日劣化の少ない耐久透水性とは、経日劣化前の耐久透水性評価結果が良好であり、しかも経日後の耐久透水性の評価結果も経日前の結果に比べ変化が小さいことである。この変化が小さい方が良い。
本発明の透水性付与剤を繊維本体に付着させることによって、上記物性が得られる。
【実施例】
【0057】
以下に本発明を実施例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各実施例および比較例における評価項目と評価方法は以下の通りである。以下では、「%」はいずれも「重量%」を表す。
(実施例1〜7および比較例1〜9)
【0058】
表1および3に示す各成分を混合して、透水性付与剤(1)〜(7)および比較透水性付与剤(1)〜(9)をそれぞれ調製した。表1および3には、各成分の混合割合(重量%)を示した。得られた透水性付与剤をそれぞれ約60℃の温水で1%濃度に希釈して希釈液を得た。繊維本体100gに対しそれぞれの透水性付与剤の希釈液50gをスプレーで付着させた。繊維本体は、透水性付与剤等の繊維処理剤が付着していない、ポリプロピレン(芯)−ポリエチレン(鞘)系複合繊維であり、単繊維繊度が1.5dTex、繊維長が38mmのものであった。それぞれの透水性付与剤の希釈液を付着させた繊維を、60℃の温風乾燥機の中に2時間入れた後、室温で8時間以上放置して乾燥させて、透水性繊維を得た。
【0059】
得られた透水性繊維をそれぞれ混打綿工程およびカード試験機を用いたカード工程に通し、目付30g/mのウェブを作製した。その際、それぞれの透水性繊維について、下記に示す評価方法でカード工程における物性(カード通過性:シリンダー巻付きおよび静電気防止性)を評価し、結果を表2および4に示した。得られたウェブをエァースルー型熱風循環乾燥機中130℃で熱処理してウェブを固定し、不織布を得た。得られた不織布について、下記に示す評価方法で物性(初期透水性、耐久透水性および液戻り量)をそれぞれ評価し、結果を表2および4に示した。
〔評価方法〕
【0060】
(1)シリンダー巻付き
カード試験機を用いて30℃×70%RHの条件で混打綿工程で得られた試料短繊維40gをカーディングした後にシリンダーを観察し、以下の基準で評価する。なお、5が最も良い評価である。
5…巻付きなし、4…シリンダー面の1/10に巻付きあり、3…シリンダー面の1/5に巻付きあり、2…シリンダー面の1/3に巻付きあり、1…全面に巻付きあり
【0061】
(2)静電気防止性
カード試験機を用いて20℃×45%RHの条件で混打綿工程で得られた試料短繊維40gをウェブとし、ウェブに発生した静電気の電圧を測定し、以下の基準で評価する。なお、5が最も良い評価であり、100V未満であれば実用に供し得る。
5…50V未満、4…0.5〜1.0KV、3…1.0〜1.5KV、
2…1.5〜2.0KV、1…2.0KVより大
【0062】
(3)不織布の初期透水性
不織布を濾紙(東洋濾紙、No.5)の上に重ね、不織布表面から10mmの高さに設置したビューレットより1滴(約0.05ml)の生理食塩水を滴下して、不織布表面から水滴が消失するまでの時間を測定する。不織布表面の20箇所でこの測定を行って5秒未満の個数を表示する。この個数が18個以上であれば初期透水性は良好である。
【0063】
(4)不織布の耐久透水性
不織布(10cm×10cm)を市販の紙おむつに重ね、その上に内径60mmの円筒を置き、生理食塩水80mlを円筒内に注入して不織布を通して紙おむつに吸収させる。注水後3分間放置した後に、不織布を2枚の濾紙(東洋濾紙、No.5)の間に挟み、その上に板(10cm×10cm)と重り(合計3.5Kg)を乗せて3分間放置して脱水し、その後さらに5分間風乾する。風乾後の試料不織布に上記円筒内で生理食塩水が通過した箇所について、不織布の初期透水性の試験方法によって、生理食塩水の消失時間を20箇所で測定し、消失時間5秒未満の個数を表示する。この個数が18個以上であれば耐久透水性は良好である。試験に供した不織布について、同様の作業を繰り返して行う。この繰り返し試験では回数を重ねても生理食塩水の消失個数(消失時間5秒未満となる箇所の個数)が多い方が良い。
【0064】
(5)経日変化後の透水性
上記の不織布(10cm×10cm)を40℃×70%RHの環境試験器に30日放置する。この不織布を30日後に環境試験器から取り出して、上記に示した不織布の初期透水性および耐久透水性試験を行う。環境試験器投入前後の初期透水性および耐久透水性の差が小さいほど、耐久透水性の経日変化が小さいとする。この経日変化が小さい方が良い。
【0065】
(6)液戻り量
市販の紙おむつの上に不織布(10cm×10cm)を置き、さらにその上に内径60mmの円筒を置き、生理食塩水100mlを円筒内に注入して不織布を通して紙おむつに吸収させる。生理食塩水が全て紙おむつに吸収されたら円筒を取り除き、予め秤量した濾紙(東洋濾紙、No.5)を20枚重ね、これに5Kgの荷重を乗せる。5分間放置後、濾紙の重さを計り、重量増加分を測定して液戻り量(g)とする。1.2g以下を許容範囲としているが、1.0g以下が望ましい。
【0066】
【表1】


成分a:ポリオキシエチレンベヘン酸ジエチレントリアミンのエピクロルヒドリンを反応させたカチオン化物(ポリオキシエチレン基の付加モル数:15)
成分b:ポリオキシエチレンカスターワックスのマレイン酸とステアリン酸とのエステル(ポリオキシエチレン基の付加モル数:20)
成分c:ジオクチルスルホサクシネートNa塩
成分d:ステアリルホスフェートK塩
成分e:ジメチルオクタデシルグリシンヒドロキサイド
成分f2:ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン変性シリコーン(Si含有率:35%、POE含有率:60%、分子量:7000)
成分f3:ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン変性シリコーン(Si含有率:65%、POE含有率:100%、分子量:10000)
成分f4:ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン変性シリコーン(Si含有率:70%、POE含有率:80%、分子量:55000)
なお、POE含有率は、ポリオキシアルキレン中のポリオキシエチレンの含有率(重量%)を示す。
【0067】
【表2】

【0068】
【表3】


表3で使用した成分a〜成分e、成分f3および成分f4は、表1で使用した成分と同じ成分である。
成分f1:ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレン変性シリコーン(Si含有率:15%、POE含有率:50%、分子量:2000)
成分g:ポリオキシエチレンベヘン酸ジエタノールアミド(ポリオキシエチレン基の付加モル数:15)
成分h:ステアリン酸ジエタノールアミドとエピクロルヒドリンを反応させたカチオン化物
成分i:ラウリルホスフェートK塩
【0069】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオキシアルキレン基とアシル基とを有した(ポリ)アミンのカチオン化物(a)と、
ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルとジカルボン酸との縮合物の少なくとも1つの水酸基を脂肪酸で封鎖したエステル(b)と、
ジアルキルスルホサクシネート塩(c)と、
アルキルホスフェート塩(d)と、
トリアルキルグリシン誘導体および(アルキルアミド基含有アルキル)ジアルキルグリシン誘導体から選ばれた少なくとも1種のグリシン誘導体(e)と、
ポリオキシアルキレン変性シリコーン(f)とを含む透水性付与剤であって、
前記透水性付与剤全体に占める各成分の配合割合について、成分(a)が10〜40重量%、成分(b)が10〜40重量%、成分(c)が1〜40重量%、成分(d)が10〜60重量%、成分(e)が10〜40重量%、成分(f)が1〜20重量%であることをそれぞれ満たす、
透水性付与剤。
【請求項2】
成分(a)において、ポリオキシアルキレン基が付加モル数2〜20のポリオキシエチレン基であり、アシル基の炭素数が16〜28であり、(ポリ)アミンがポリエチレンポリアミンに由来する、請求項1に記載の透水性付与剤。
【請求項3】
成分(b)において、ポリオキシアルキレン基含有ヒドロキシ脂肪酸多価アルコールエステルが炭素数6〜22のヒドロキシ脂肪酸と多価アルコールとのエステルのアルキレンオキシド付加物であり、ジカルボン酸の炭素数が2〜10であり、脂肪酸の炭素数が10〜22である、請求項1または2に記載の透水性付与剤。
【請求項4】
成分(c)が炭素数6〜18のアルキル基を有し、ナトリウム塩および/またはカリウム塩である、請求項1〜3のいずれかに記載の透水性付与剤。
【請求項5】
成分(d)が炭素数6〜22のアルキル基を有し、カリウム塩、ナトリウム塩、炭素数1〜9のアルキルアミン塩およびアンモニウム塩から選ばれた少なくとも1種の塩である、請求項1〜4のいずれかに記載の透水性付与剤。
【請求項6】
成分(e)が下記一般式(1)で表現される化合物である、請求項1〜5のいずれかに記載の透水性付与剤。
【化1】

(但し、Rは炭素数7〜22の炭化水素基、aは1〜3の整数、bは0または1、RおよびRは、いずれも炭素数1〜3の炭化水素基である。)
【請求項7】
成分(f)の分子量が1,000〜100,000であり、ポリオキシアルキレン全体のうちポリオキシエチレンが占める割合が20重量%以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の透水性付与剤。
【請求項8】
繊維本体とこれに付着した透水性付与剤とから構成される透水性繊維であって、
前記透水性付与剤が、請求項1〜7のいずれかに記載の透水性付与剤であり、その付着割合が前記透水性繊維に対して0.1〜2重量%である、
透水性繊維。

【公開番号】特開2007−247128(P2007−247128A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−856(P2007−856)
【出願日】平成19年1月6日(2007.1.6)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】