説明

通信システム、通信方法及び携帯可能電子装置

【課題】従来の衝突回避方法に比べて、通信手順を簡略化して通信時間を短縮化する通信システム、通信方法及び携帯可能電子装置を提供する。
【解決手段】ICカード処理装置との間で非接触で通信を実行する、少なくとも一つのアプリケーションを保有する非接触ICカードであって、ICカード処理装置から、アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識別子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に含めて受信する受信部と、送信された識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを保有している場合に、ICカード処理装置に対して初期応答を返信する返信部と、当該アプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させる選択部とを有し、識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施の形態は、携帯可能電子装置と処理装置との間で非接触により情報通信を行う通信システム、通信方法及び携帯可能電子装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、携帯可能電子装置として用いられるICカードは、プラスチックなどで形成されたカード状の本体と本体に埋め込まれたICモジュールとを備えている。ICモジュールは、ICチップを有している。ICチップは、電源が無い状態でもデータを保持することができるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read−Only Memory)またはフラッシュROMなどの不揮発性メモリと、種々の演算を実行するCPUとを有している。
【0003】
ICカードは、携帯性に優れ、且つ、外部装置との通信及び複雑な演算処理を行う事ができる。また、偽造が難しい為、ICカードは、機密性の高い情報などを格納してセキュリティシステム、電子商取引などに用いられることが想定される。
【0004】
近年では、非接触通信によりデータの送受信を行うことができるICカードが一般的に普及している。上記したような非接触ICカードは、ICチップとアンテナとを備えている。この非接触ICカードは、ICカードを処理する端末装置のリーダライタから発せられる磁界を受けて、カード内のアンテナを電磁誘導により起電させることにより動作する。
【0005】
ところで、通信可能範囲内に複数枚のICカードが存在する場合、初期応答においてICカード処理装置がこれらの複数のICカードを正しく識別できない状態「コリジョン」が発生し得る。このコリジョンを防止して、複数枚のICカードを正しく識別するために、衝突回避処理が規定されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ISO/IEC(International Organization For Standardization/International Electro technical Commission)14443
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1には、衝突回避方法としてビット・オリエンテッド・アンチコリジョン(TypeA)、及びスロットマーカ方式(TypeB)が規定されている。これらの方式では、一回目の初期応答要求で衝突が発生した場合、ICカード処理装置は衝突が発生しないように、通信相手を指定するデータあるいは通信時間帯を指定するデータを含む二回目の初期応答要求を行う。
【0008】
しかし、この2回目の初期応答要求で、対象とするアプリケーションをもつ非接触ICカードが応答するとは限らない。この場合、ICカード処理装置が、対象とするアプリケーションを持つ非接触ICカードを認識し、目的に応じた処理を開始するまでの手順が増加する結果、通信時間が長くなる。
【0009】
従って、このような従来の衝突回避方法に比べて、通信手順を簡略化して通信時間を短縮化することのできる通信システム、通信方法及び携帯可能電子装置に対するニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の実施の形態によれば、携帯可能電子装置との間で非接触で通信を実行する、少なくとも一つのアプリケーションを保有する携帯可能電子装置であって、前記処理装置から、前記アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識別子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に含めて受信する受信部と、送信された識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを保有している場合に、前記処理装置に対して初期応答を返信する返信部と、当該アプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させる選択部とを有し、前記識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含むことを特徴とする携帯可能電子装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係るICカードと通信を行うICカード処理装置の構成例について説明するためのブロック図。
【図2】本発明の実施形態に係るICカードの構成例について説明するためのブロック図。
【図3】ISO/IEC14443 TypeA準拠の非接触ICカードとICカード処理装置が実行する衝突回避処理の通信フローを示す図。
【図4】ISO/IEC14443 TypeB準拠の非接触ICカードとICカード処理装置が実行する衝突回避処理の通信フローを示す図。
【図5】本発明の実施の形態に係るアプリケーション識別子の構成を示す図。
【図6】第1の実施の形態の非接触ICカードとICカード処理装置が実行する初期応答処理のフローチャートを示す図。
【図7】第2の実施の形態の非接触ICカードとICカード処理装置が実行する初期応答処理のフローチャートを示す図。
【図8】第3の実施の形態の非接触ICカードとICカード処理装置が実行する初期応答処理のフローチャートを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係る携帯可能電子装置について詳細に説明する。なお、以下には携帯可能電子装置としてICカードを例として説明するが、本発明はICカードに限られない。
【0013】
図1は、本実施形態に係るICカード2と通信を行うICカード処理装置1の構成例について説明するためのブロック図である。
図1に示すようにICカード処理装置1は、端末装置11、ディスプレイ12、キーボード13、及びカードリーダライタ14などを有している。
【0014】
端末装置11は、CPU、種々のメモリ、及び各種インターフェースなどを備える。端末装置11は、ICカード処理装置1全体の動作を制御する。
ディスプレイ12は、端末装置11の制御により種々の情報を表示する。キーボード13は、ICカード処理装置1の操作者による操作を操作信号として受け取る。
カードリーダライタ14は、ICカード2と通信を行うためのインターフェース装置である。カードリーダライタ14は、ICカード2に対して、電源供給、クロック供給、リセット制御、及びデータの送受信を行う。
【0015】
端末装置11は、カードリーダライタ14によりICカード2に対して種々のコマンドを入力する。ICカード2は、例えば、カードリーダライタ14からデータの書き込みコマンドを受信した場合、受信したデータを内部の不揮発性メモリに書き込む処理を行う。
また、端末装置11は、ICカード2に読み取りコマンドを送信することにより、ICカード2からデータを読み出す。端末装置11は、ICカード2から受信したデータに基づいて種々の処理を行う。
【0016】
図2は、図1に示すICカード2の構成例について説明するためのブロック図である。
図2に示すように、ICカード2は、カード状の本体21と、本体21内に内蔵されたICモジュール22とを備えている。ICモジュール22は、1つ又は複数のICチップ23と、通信部24とを備える。ICチップ23と通信部24とは、互いに接続された状態でICモジュール22に形成されている。
【0017】
ICチップ23は、データバス20、通信部24、CPU25、ROM26、RAM27、不揮発性メモリ28、コプロセッサ29及び乱数生成回路30などを備えている。通信部24、CPU25、ROM26、RAM27、不揮発性メモリ28、コプロセッサ29及び乱数生成回路30は、データバス20を介して互いに接続されている。
【0018】
ICカード2は、ICカード処理装置1などの上位機器から電力の供給を受けた場合、動作可能な状態になる。例えば、ICカード2が非接触式のICカードとして構成される場合、ICカード2は、通信部としてのアンテナなどを介してICカード処理装置1からの電波を受信し、その電波から図示しない電源部により動作電源及び動作クロックを生成して活性化する。
【0019】
通信部24は、ICカード処理装置1のカードリーダライタ14との通信を行うためのインターフェースである。通信部24は、例えば、ICカード処理装置1のカードリーダライタ14と無線通信を行う送受信アンテナ、送信データの変調及び受信データの復調を行う変復調部を備える。
【0020】
CPU25は、ICカード2全体の制御を司る制御部として機能する。CPU25は、ROM26あるいは不揮発性メモリ28に記憶されている制御プログラム及び制御データに基づいて種々の処理を行う。
【0021】
ROM26は、予め制御用のプログラム及び制御データなどを記憶する不揮発性のメモリである。ROM26は、製造段階で制御プログラム及び制御データなどを記憶した状態でICカード2内に組み込まれる。即ち、ROM26に記憶される制御プログラム及び制御データは、予めICカード2の仕様に応じて組み込まれる。
【0022】
RAM27は、ワーキングメモリとして機能する揮発性のメモリである。RAM27は、CPU25の処理中のデータなどを一時的に格納する。例えば、RAM27は、通信部24を介してICカード処理装置1から受信したデータを一時的に格納する。また、RAM27は、CPU25が実行するプログラムを一時的に格納する。
【0023】
不揮発性メモリ28は、例えば、EEPROMあるいはフラッシュROMなどのデータの書き込み及び書換えが可能な不揮発性のメモリにより構成される。不揮発性メモリ28は、ICカード2の運用用途に応じて制御プログラム、アプリケーション、及び種々のデータを格納する。
【0024】
たとえば、不揮発性メモリ28では、プログラムファイル及びデータファイルなどが創成される。創成された各ファイルには、制御プログラム及び種々のデータなどが書き込まれる。CPU25は、不揮発性メモリ28、または、ROMに記憶されているプログラムを実行することにより、種々の処理を実現することができる。
【0025】
コプロセッサ29は、暗号鍵を用いて暗号化されたデータの復号、及び、平文のデータの暗号化を行う。即ち、コプロセッサ29は、暗号処理部として機能する。例えば、CPU25は、暗号処理を行うデータをコプロセッサ29にバス20を介して入力する。この場合、CPU25は、データ入力部として機能する。コプロセッサ29は、入力されるデータに対して暗号処理を施し、CPU25にバス20を介して出力する。
乱数生成回路30は、乱数を生成する。
【0026】
本発明の実施の形態の通信方法を説明する前に、従来の衝突回避処理方法について説明する。
図3は、ISO/IEC14443 TypeA準拠の非接触ICカード2とICカード処理装置1が実行する衝突回避処理(ビット・オリエンテッド・アンチコリジョン)の通信フローを示す図である。ここで、カードAは、個別番号(UID:Unique Identifier)「b”000・・・”(4Byte)」、カードBはUID「b”001・・・”(4Byte)」をもつものとする。
【0027】
ステップS01において、ICカード処理装置1からの初期応答要求を受信したカードA、カードBは、ステップS02において、初期応答を実施する。ステップS03において、ICカード処理装置1は衝突を認識し、UID読み出し要求を送信する。ステップS04において、UID読み出し要求を受信したカードA、カードBはそれぞれUIDを含めた応答を実施する。
【0028】
ICカード処理装置1はその返信に対して、どのbit位置で衝突したかを認識し、衝突があった箇所までのUIDと衝突箇所のbit「0」,「1」を確定する。ステップS05において、ICカード処理装置1は、衝突箇所のbitを「0」とし、ここまでのUID(b”000”)をカードA、カードBに送信して、これに一致するカードの返信を要求する。この場合、カードBが応答することになり、ステップS06において、カードBが残りのUIDを含めた応答をする。次に、ステップS07において、ICカード処理装置1はUID(b”001”)をもつカードの返信を要求する。ステップS08において、該当するカードAが残りのUIDを含めた応答をする。
【0029】
このような手順に従って、ICカード処理装置1は複数のカードを認識していく。
【0030】
図4は、ISO/IEC14443 TypeB準拠の非接触ICカード2とICカード処理装置1が実行する衝突回避処理(スロットマーカ)の通信フローを示す図である。
【0031】
ステップS11において、ICカード処理装置1は初期応答要求を送信する。ステップS12において、初期応答要求(スロット数1を指定)を受信したカードA及びカードBは、初期応答する。このときICカード処理装置1は衝突を認識すると、ステップS13において、再度初期応答要求(スロット数2を指定)を送信する。
【0032】
再度の初期応答要求を受信したカードA、カードBは乱数生成回路30により乱数を生成し、乱数の一部の1bitを確認する。この1bitが示す値に「1」を加えた値をカード自身のスロット番号とする。このようにして、非接触ICカード2は初期応答要求で指定された値2から1までの数の内、任意の数を選択する。図4においては、カードAがスロット2を、カードBがスロット1を選択しているため、ステップS14において、カードBが初期応答することになる。続いて、ステップS15において、ICカード処理装置1はスロット2を選択したカードに対して、応答要求を送信し、ステップS16において、スロット2を選択したカードAが応答する。
【0033】
ステップS17において、ICカード処理装置1は、カードBに対して選択指示を送信する。カードBは、選択されたアプリケーションを実行可能な状態に遷移させ、ICカード処理装置1に対して選択完了を送信する。ステップS18において、ICカード処理装置1は、カードAに対して選択指示を送信する。カードAは、選択されたアプリケーションを実行可能な状態に遷移させ、ICカード処理装置1に対して選択完了を送信する。
【0034】
図3〜4に示すように、従来の衝突回避方式では、カードAが対象とするアプリケーションをもつカードであった場合、ICカード処理装置1が、対象とするアプリケーションを持つカードAを認識し、目的に応じた処理を開始するまでの手続きが多くなり、通信時間が長くなる問題がある。
【0035】
続いて、本発明の実施の形態の通信方法として、複数のカードがそれぞれ複数のアプリケーションを備えている場合の初期応答手順を説明する。
このような例として、金融機関のカードAに、所有者の口座からの引き落としを処理するアプリケーションAP1と所有者の個人情報(住所、氏名、顔写真など)を提供するアプリケーションAP2を備えている場合が挙げられる。同様に、カードBはアプリケーションBP1とアプリケーションBP2とを備えている。
【0036】
そして、それぞれのアプリケーションには、ユニークなアプリケーション識別子が付与されている。例えば、アプリケーションAP1とアプリケーションAP2には、それぞれアプリケーション識別子A1とA2とが付与され、アプリケーションBP1とアプリケーションBP2には、それぞれアプリケーション識別子B1とB2とが付与されている。
ここで、アプリケーション識別子A1、A2、B1、B2は互いに異なっているものとする。
【0037】
図5は、本発明の実施の形態に係るアプリケーション識別子の構成を示す図である。
アプリケーション識別子は、分類番号とアプリケーション番号とを備えている。分類番号は、アプリケーションを提供した機関を識別する番号である。例えば、上述の例では特定の金融機関を識別する番号である。アプリケーション番号は、当該アプリケーションを特定するために上記機関が定めたユニークな番号である。
【0038】
それぞれの機関がユニークなアプリケーション番号をアプリケーションに付与すれば、この体系のアプリケーション識別子も、ユニークである。なお、アプリケーション識別子は、数字に限られず、アルファベット、特殊記号なども任意に組合わせて構成することができる。
【0039】
図6は、第1の実施の形態の非接触ICカード2とICカード処理装置1が実行する初期応答処理のフローチャートを示す図である。このフローは、アプリケーション識別子を1つ指定した初期応答処理の例を示している。
【0040】
ステップS21において、ICカード処理装置1は、アプリケーション識別子を1つ含めた初期応答要求を送信する。ICカード処理装置1からのアプリケーション識別子A1が付与された初期応答要求を受信したカードA、カードBは、指定されたアプリケーション識別子A1をもつアプリケーションがあるかどうかを確認する。図6においては、カードAがアプリケーション識別子A1をもつアプリケーションを格納している。従って、カードAが初期応答をする。
【0041】
ステップS22において、カードAはICカード処理装置1に初期応答を返送する。このとき返送する内容には、カードAと、アプリケーション識別子A1とを示す情報が含まれる。また、初期応答したカードAは、その時点で提示された識別子A1のアプリケーションを選択して実行可能とする。
【0042】
初期応答を受信したICカード処理装置1は、アプリケーション識別子A1をもつアプリケーションを備えたカードが存在していること、及び当該カードがこの時点で識別子A1をもつアプリケーションを選択して実行可能としていることを認識する。
【0043】
第1の実施の形態によれば、初期応答要求においてアプリケーション識別子を非接触ICカード2に提示することでアンチコリジョンを実現することができる。更に初期応答した非接触ICカード2は、その時点において、提示されたアプリケーション識別子をもつアプリケーションを選択して実行可能としている。従って、従来の通信方式で規定されているアプリケーションの選択指示手順が不要となる。
【0044】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態では、初期応答の手順が第1の実施の形態と異なっている。第1の実施の形態と同一の部位には同一の符号を付してその詳細の説明は省略する。
【0045】
図7は、第2の実施の形態の非接触ICカード2とICカード処理装置1が実行する初期応答処理のフローチャートを示す図である。このフローは、アプリケーション識別子を複数含めて指定した初期応答処理の例を示している。
【0046】
ステップS31において、ICカード処理装置1は、アプリケーション識別子を複数含めた初期応答要求を送信する。そして、この複数のアプリケーション識別子のいずれかをもつアプリケーションを備えた非接触ICカード2の初期応答を要求する。ここで複数のアプリケーション識別子をA1及びA3とする。
【0047】
ICカード処理装置1からのアプリケーション識別子A1及びA3が付与された初期応答要求を受信したカードA、カードBは、指定されたアプリケーション識別子A1またはA3をもつアプリケーションがあるかどうかを確認する。図7においては、カードAがアプリケーション識別子A1をもつアプリケーションを格納している。従って、カードAが初期応答をする。
【0048】
ステップS32において、カードAはICカード処理装置1に初期応答を返送する。このとき返送する内容には、カードAと、アプリケーション識別子A1とを示す情報が含まれる。また、初期応答したカードAは、その時点で提示された識別子A1のアプリケーションを選択して実行可能とする。
【0049】
初期応答を受信したICカード処理装置1は、アプリケーション識別子A1をもつアプリケーションを備えたカードが存在していること、及び当該カードがこの時点で識別子A1をもつアプリケーションを選択して実行可能としていることを認識する。
【0050】
もし、アプリケーション識別子A1とA3とを両方備えたカードがある場合は、そのカードは、当該カードを特定する情報と、提示された識別子の内最初に指示されたアプリケーション識別子A1を示す情報をICカード処理装置1に返送する。そして、初期応答したカードは、その時点で提示された識別子の内最初に指示された識別子A1のアプリケーションを選択して実行可能とする。
【0051】
初期応答を受信したICカード処理装置1は、アプリケーション識別子A1またはA3をもつアプリケーションを備えたカードが存在していること、及び当該カードがこの時点で識別子A1をもつアプリケーションを選択して実行可能としていることを認識する。
【0052】
(第3の実施の形態)
第3の実施の形態では、初期応答の手順が第1の実施の形態と異なっている。第1の実施の形態と同一の部位には同一の符号を付してその詳細の説明は省略する。
【0053】
図8は、第3の実施の形態の非接触ICカード2とICカード処理装置1が実行する初期応答処理のフローチャートを示す図である。このフローは、アプリケーション識別子を複数含めて指定した初期応答処理の例を示している。
【0054】
ステップS41において、ICカード処理装置1は、アプリケーション識別子を複数含めた初期応答要求を送信する。そして、この複数のアプリケーション識別子を全てもつアプリケーションを備えた非接触ICカード2の初期応答を要求する。ここで複数のアプリケーション識別子をA1及びA2とする。
【0055】
ICカード処理装置1からのアプリケーション識別子A1及びA2が付与された初期応答要求を受信したカードA、カードBは、指定されたアプリケーション識別子A1及びA2をもつアプリケーションがあるかどうかを確認する。図7においては、カードAがアプリケーション識別子A1をもつアプリケーションとアプリケーション識別子A2をもつアプリケーションとを格納している。従って、カードAが初期応答をする。
【0056】
ステップS42において、カードAはICカード処理装置1に初期応答を返送する。このとき返送する内容には、カードAと、提示された識別子の内最初に指示されたアプリケーション識別子A1とを示す情報が含まれる。また、初期応答したカードAは、その時点で提示された識別子の内最初に指示された識別子A1のアプリケーションを選択して実行可能とする。
【0057】
初期応答を受信したICカード処理装置1は、アプリケーション識別子A1及びA2をもつアプリケーションを備えたカードが存在していること、及び当該カードがこの時点で識別子A1をもつアプリケーションを選択して実行可能としていることを認識する。
【0058】
なお、上述の実施の形態では初期応答で通信する情報にアプリケーション識別子を含めていたが、この情報は、アプリケーション識別子の一部であっても良い。例えば、アプリケーション識別子に当該アプリケーションの機能を表す情報の部分と、さらにユーザに関する情報の部分とが含まれて構成されていたとしても、カードがアプリケーションを特定することができるだけの情報であれば良い。
【0059】
次に、本実施の形態の適用例について説明する。
本実施の形態では、アプリケーションにユニークなアプリケーション識別子を付与している。このアプリケーション識別子は、アプリケーションを提供した機関を識別する番号と当該アプリケーションを特定する番号を含んで構成されている。この態様では、アプリケーションそれぞれが1枚のカードに相当するように独立して取り扱うことが可能である。従って、ICカード処理装置1が直接アプリケーションを指定することにより、従来の初期応答で必要であったカードを特定するフェーズが不要となっている。
【0060】
一方、この態様を可能とするためには、ICカード処理装置1が処理しようとするアプリケーション識別子を通信前の状態において把握しておくことが必要な前提である。この態様の例として以下のものが考えられる。
【0061】
(1)従来の複数枚のICカードを、1枚の共通のICカードにまとめる場合の態様
例えば、金融機関Xと金融機関YのICカードを1枚の共通のICカードにまとめる。それぞれのカードに含まれていたアプリケーションは、図5に示す体系のアプリケーション識別子を付与されるため、ユニークに識別することが可能である。ユーザは、ICカード処理装置1に対して、処理対象となる金融機関を指定または入力する。そうすると、ICカード処理装置1は、取り扱おうとするアプリケーションを特定する情報にこの金融機関に対応した分類番号を組合わせることで所望のアプリケーションを指定することが可能となる。
【0062】
(2)専用のICカード処理装置1により、1枚読みを前提として複数の異なるアプリケーションを非接触ICカードから読取る場合の態様
例えば、パスポートを処理するICカード処理装置1でパスポートカードのアプリケーションを指定する場合、また運転免許証を処理するICカード処理装置1で運転免許カード内のアプリケーションを指定する場合が該当する。この態様では、処理する対象の非接触ICカードは固定されている。従って、ユーザの入力が無くともICカード処理装置1が分類番号を起番してアプリケーション識別子を生成することができる。アプリケーション識別子はユニークであるため、ICカード処理装置1は、所望のアプリケーションを指定することが可能となる。
【0063】
[効果]
以上説明した実施の形態によれば、種々の効果を奏することができる。
【0064】
本実施の形態では、ICカード処理装置1からの初期応答要求に、非接触ICカード2所有のアプリケーション識別子、またはその一部を提示することで、特定のアプリケーションをもつ非接触ICカード2のみが応答するため、一回の初期応答要求で衝突回避が実現できる。
【0065】
また、初期応答した非接触ICカード2は、その時点でアプリケーションを選択し、実行可能状態となっているため、初期応答後のアプリケーション選択指示を省略することが可能になる。
【0066】
従って、本実施の形態を用いることで、従来の衝突回避方式に比べ、通信手順の簡略化が可能となり、通信時間の短縮化も望める。
【0067】
なお、上述の各実施の形態で説明した機能は、ハードウェアを用いて構成するに留まらず、ソフトウェアを用いて各機能を記載したプログラムをコンピュータに読み込ませて実現することもできる。また、各機能は、適宜ソフトウェア、ハードウェアのいずれかを選択して構成するものであっても良い。
【0068】
尚、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1…ICカード処理装置、2…ICカード、11…端末装置、12…ディスプレイ、13…キーボード、14…カードリーダライタ、20…データバス、21…本体、22…ICモジュール、23…ICチップ、24…通信部、25…CPU、26…ROM、27…RAM、28…不揮発性メモリ、29…コプロセッサ、30…乱数生成回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのアプリケーションを保有する携帯可能電子装置と、この携帯可能電子装置との間で非接触で通信を実行する処理装置とを備えた通信システムにおいて、
前記処理装置は、前記アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識別子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に含めて送信する送信部を有し、
前記携帯可能電子装置は、
送信された識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを保有している場合に、前記処理装置に対して初期応答を返信する返信部と、
当該アプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させる選択部とを有し、
前記識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含むことを特徴とする通信システム。
【請求項2】
少なくとも一つのアプリケーションを保有する携帯可能電子装置と、この携帯可能電子装置との間で非接触で通信を実行する処理装置とを備えた通信システムにおいて、
前記処理装置は、前記アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識別子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に複数含めて送信する送信部を有し、
前記携帯可能電子装置は、
送信された少なくとも一つの識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを保有している場合に、前記処理装置に対して初期応答を返信する返信部と、
当該アプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させる選択部とを有し、
前記識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含むことを特徴とする通信システム。
【請求項3】
少なくとも一つのアプリケーションを保有する携帯可能電子装置と、この携帯可能電子装置との間で非接触で通信を実行する処理装置とを備えた通信システムにおいて、
前記処理装置は、前記アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識別子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に複数含めて送信する送信部を有し、
前記携帯可能電子装置は、
送信された全ての識別子または識別子情報を含む識別子をもつ複数のアプリケーションを保有している場合に、前記処理装置に対して初期応答を返信する返信部と、
送信された最初の識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させる選択部とを有し、
前記識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含むことを特徴とする通信システム。
【請求項4】
前記携帯可能電子装置が返信する初期応答には、当該携帯可能電子装置を表す情報と、前記選択されたアプリケーションに対応する前記識別子または識別子情報とが含まれることを特徴とする請求項1乃至3の内いずれか1項に記載の通信システム。
【請求項5】
処理装置との間で非接触で通信を実行する、少なくとも一つのアプリケーションを保有する携帯可能電子装置において、
前記処理装置から、前記アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識別子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に含めて受信する受信部と、
送信された識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを保有している場合に、前記処理装置に対して初期応答を返信する返信部と、
当該アプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させる選択部とを有し、
前記識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含むことを特徴とする携帯可能電子装置。
【請求項6】
処理装置との間で非接触で通信を実行する、少なくとも一つのアプリケーションを保有する携帯可能電子装置において、
前記処理装置から、前記アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に複数含めて受信する受信部と、
送信された少なくとも一つの識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを保有している場合に、前記処理装置に対して初期応答を返信する返信部と、
当該アプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させる選択部とを有し、
前記識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含むことを特徴とする携帯可能電子装置。
【請求項7】
処理装置との間で非接触で通信を実行する、少なくとも一つのアプリケーションを保有する携帯可能電子装置において、
前記処理装置から、前記アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識別子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に複数含めて受信する受信部を有し、
送信された全ての識別子または識別子情報を含む識別子をもつ複数のアプリケーションを保有している場合に、前記処理装置に対して初期応答を返信する返信部と、
送信された最初の識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させる選択部とを有し、
前記識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含むことを特徴とする携帯可能電子装置。
【請求項8】
前記携帯可能電子装置が返信する初期応答には、当該携帯可能電子装置を表す情報と、前記選択されたアプリケーションに対応する前記識別子または識別子情報とが含まれることを特徴とする請求項5乃至7の内いずれか1項に記載の携帯可能電子装置。
【請求項9】
少なくとも一つのアプリケーションを保有する携帯可能電子装置と、この携帯可能電子装置との間で非接触で通信を実行する処理装置とを備えた通信システムの通信方法において、
前記処理装置は、前記アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識別子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に含めて送信し、
前記携帯可能電子装置は、
送信された識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを保有している場合に、前記処理装置に対して初期応答を返信し、
当該アプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させ、
前記識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含むことを特徴とする通信方法。
【請求項10】
少なくとも一つのアプリケーションを保有する携帯可能電子装置と、この携帯可能電子装置との間で非接触で通信を実行する処理装置とを備えた通信システムの通信方法において、
前記処理装置は、前記アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識別子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に複数含めて送信し、
前記携帯可能電子装置は、
送信された少なくとも一つの識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを保有している場合に、前記処理装置に対して初期応答を返信し、
当該アプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させ、
前記識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含むことを特徴とする通信方法。
【請求項11】
少なくとも一つのアプリケーションを保有する携帯可能電子装置と、この携帯可能電子装置との間で非接触で通信を実行する処理装置とを備えた通信システムの通信方法において、
前記処理装置は、前記アプリケーション毎に付与されている識別子、またはこの識別子の一部を表す識別子情報を初期応答要求に複数含めて送信し、
前記携帯可能電子装置は、
送信された全ての識別子または識別子情報を含む識別子をもつ複数のアプリケーションを保有している場合に、前記処理装置に対して初期応答を返信し、
送信された最初の識別子または識別子情報を含む識別子をもつアプリケーションを選択して実行可能状態に遷移させ、
前記識別子は、アプリケーションを提供する機関を識別する情報と、アプリケーションを特定する情報とを含むことを特徴とする通信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−8888(P2012−8888A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145567(P2010−145567)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】