説明

通信システム

フィルタからアウトプットされる信号内のリンギングを減少するための方法であって、信号をフィルタ内にインプットする工程と、インプット信号の第1の部位をフィルタしてアウトプット信号のフィルタされた部位を生成する工程と、アウトプット信号のフィルタされた部位を解析する工程と、上記解析に基づいて、アウトプット信号のフィルタされた部位にリンギングが存在するかどうか検出する工程と、リンギングが存在すると判定されるとアウトプット信号のその後のフィルタされた部位内のリンギングを減少するようにフィルタ特徴を調整する工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号処理に関する。特に本発明は、信号内のリンギングを除去する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通信システムでは、2つの通信端末を結合しそれら端末が通話若しくは他の通信イベントにて相互に情報を送信できる、通信ネットワークが設けられる。情報は、スピーチ、テキスト、画像若しくは映像を含む。
【0003】
今日の通信システムは、デジタル信号の伝達に基づく。スピーチなどのアナログ情報は、一つの端末の送信器にてマイクロホンからアナログデジタルコンバータの中にインプットされ、デジタル信号にコンバートされる。ここでデジタル信号は符号化され、目的の端末の受信器へのチャネルを超えて伝達されるように、データパケット内に配置される。デジタル信号が目的の端末で受信されると、信号が復号化され、デジタルアナログコンバータ内にインプットされる。デジタルアナログコンバータはアナログ信号をラウドスピーカ若しくは他のアウトプットインタフェースにアウトプットする。
【0004】
アナログ信号は、電力網からの電磁気的干渉により、しばしば汚染される。マイクロホン信号では、例えば、これは一様な“ハム”として理解される。地理的位置に拠るが、このハムは、調波をプラスした50若しくは60ヘルツの信号からなり、一般的にエネルギが最も低い調波に集中している。これらの干渉する調波を除去すると、マイクロホン信号の認識される品質は大きく改善され得る。
【0005】
従来のナローバンドのスピーチ符号化アルゴリズムは、約300−3400ヘルツの周波数範囲内で信号を符号化する。300ヘルツ以下の信号情報を除去することで、最も低い、且つ通常最も強い、電力網調波が既にフィルタされ、このことにより電力網の干渉の課題が顕著に縮小される。
【0006】
しかしながら近来、改良された品質を備え自然に聞こえるスピーチアウトプットを提供する、スピーチエンコーダを求める要求が、存在する。このことは、50−7000ヘルツの周波数を符号化するAMR−WB(アダプティブマルチレート−ワイドバンド)などのワイドバンドスピーチ符号化メソッドの開発に繋がった。ワイドバンドスピーチ符号化メソッドに対しては、最も低い電力網調波がコード化された周波数帯の範囲内となる。その結果、より低い周波数を符号化する符号化技術を採用すると、電力網調波により生じる、把握されるハムは、より重いものである。
【0007】
電力網信号の周波数は非常に安定しているので、多くの周知の方法は、固定の周波数帯の干渉信号を除去するための簡素で実効的な方法を与える、固定の周波数帯を除去するノッチフィルタを採用する。ノッチフィルタにより除去される周波数帯域は、ノッチフィルタ域とも称され得る。例えば、狭い周波数帯を除去する周波数応答を伴うノッチフィルタは、狭域ノッチフィルタと称される。
【0008】
図1は、ノッチフィルタの実装を示す。フィルタは、信号サンプル遅延素子10、12、利得素子14、16、及びミキサ素子18、20、22、24を含む。信号s(n)は、フィルタにインプットされ、信号y(n)がフィルタからアウトプットされる。
【0009】
時間領域では、アウトプット信号y(n)及びインプット信号s(n)は次のように表され得る。
【0010】
【数1】

上式にて、A、Bは、夫々、利得素子16、14の利得係数である。
【0011】
信号処理の分野で一般的に利用されるZ変換と称される関数は、離散時間領域信号を周波数領域表現にコンバートするのに利用され得る。
【0012】
時間信号x(n)のZ変換は次のように規定され得る。
【0013】
【数2】

上式にてzは複素数である。
【0014】
【数3】

上式にてKはzの大きさであり、φは角周波数である。
【0015】
時間領域アウトプット信号y(n)のZ変換Y(z)、及び、インプット信号s(n)のZ変換S(z)は、フィルタの伝達関数H(z)を示すのに利用され得る。
【0016】
【数4】

【0017】
図2は、図1に示すノッチフィルタの周波数応答を示す。特に、図2は、0ヘルツから100ヘルツの、最も低い部分のスペクトルの周波数応答を示す。図示されるように、以降、ノッチ領域と称される、グラフ内の領域Rは、ノッチフィルタにより除去される周波数を表す。ノッチ領域の幅は、ノッチフィルタにより除去される周波数帯の幅、よってノッチフィルタの幅に対応する。
【0018】
利得係数Aはノッチ領域の幅を決定し、利得係数Bは、以降、中心周波数Fcと称する、ノッチ領域の中心周波数を決定する。よって、ノッチフィルタの幅は、第1の利得素子16の利得係数の値を選択することで、セットされ得る。同様に、ノッチフィルタにより除去される周波数の中心値は、第2の利得素子14の利得係数Bの値を選択することで、セットされ得る。
【0019】
特に、−3dBにおけるノッチ幅は以下の式により係数Aと関連する。
【0020】
【数5】

上式において、W3dBは、−3dBにおけるノッチ領域Rの2つのスロープ間の、ヘルツ(Hz)のノッチ幅であり、FはHzのサンプリング周波数である。よって、狭いノッチフィルタに対しては、係数Aはゼロよりもわずかに大きくされることが、見て取れる。
【0021】
ノッチ中心周波数は、以下の式により係数Bと関連する。
【0022】
【数6】

上式において、Fはヘルツの中心周波数であり、Fはヘルツのサンプリング周波数であり、arccosはアークコサインマッピングである。第2の利得素子14の係数Bを2よりも僅かに小さい値に設定すると、ノッチフィルタは50ヘルツの中心周波数Fを有するように構成され得る。
【0023】
所望の信号の重要な部分を除去することを回避するため、そのノッチフィルタの幅は非常に狭くなければならない。A=0.001、B=1.9996137の係数を利用すると、ノッチフィルタは、16kHzのサンプリング周波数Fに対して、50ヘルツを中心とし2.6ヘルツの幅W3dBを伴うノッチを有するように構成される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】H.C.Soの“Adaptive Algorithm for Sinusoidal Interference Cancellation”、Electronics Letters、33巻、No.22、1910−1912ページ、1997年10月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
しかしながら、狭いノッチフィルタを利用すると、リンギングとして知られる望ましくない現象に繋がってしまう。リンギングは、インパルスに対する、フィルタの、指数関数的に減衰する正弦応答である。例えば、インプット信号がスピーチであると、ノッチフィルタは、ノッチ周波数に適合するスピーチ信号の調波により、時折励起され得る。スピーチが一気に生じた後、ノッチフィルタは、ノッチ幅に依存して、おそらく数秒間ノッチ周波数で減衰余弦を生成し続ける。このリンギングは音に対して望ましくない残響のような属性を与えてしまう。ノッチフィルタのリンギング時間は、周波数のノッチ幅に反比例して増加する。従って、狭いフィルタに対して、リンギング時間は特に言明される。
【0026】
図1に示すノッチフィルタの時間応答は図3に示され、該図3は約0.5秒間の重大なリンギングを示す。図3は、非ゼロフィルタ状態を想定する、即ち、フィルタの時間遅延素子10、12は、前の非ゼロインプットにより生じた残余のエネルギを有する。同様の時間応答は、ゼロフィルタ状態を有し前のインプットからの残余のエネルギを有さないフィルタへのインパルスインプットに応じることでも実現される。このことは、フィルタのインパルス応答として知られる。
【0027】
信号の可聴部分を除去しない十分に狭いノッチフィルタは、信号に可聴のリンギングを取り込んでしまう。逆にノッチフィルタの幅が信号内にリンギングを発生しない程度に十分に広く設計されると、フィルタはインプットスピーチ信号の一部を音声的に取り除いてしまう。
【0028】
インプット信号から一様の正弦成分を除去する別の方法は、適応的除去を採用する。例えば、後述の非特許文献1を参照されたい。適応的除去は3つのステップで動作する。先ず、一つ若しくはそれ以上の干渉正弦のパラメータが、適応に向けて見積もられる。続いて、これらのパラメータに基づいて、正弦が合成される。最後に、合成された正弦がインプット信号から引かれ、ハム除去された信号を作成する。電力網の調波の場合、周波数パラメータは知られており本質的に一定であるので、大きさ及び位相のパラメータのみが見積もられる必要がある。これらのパラメータは、最小二乗法(LMS)アルゴリズムなどの周知の適応方法を用いて適応に向けて評価され得る。
【0029】
リンギングと、インプット信号の所望の成分の歪みとの間でトレードオフが為されるという点で、適応的除去はノッチフィルタと同じ問題に非常に悩まされる。パラメータ見積もりがあまりに素早く適応すると歪みが生じ、パラメータ見積もりがあまりに遅く適応するとリンギングが生じ得る。
【0030】
従って、先行技術の示す課題を克服することが、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本発明の第1の形態によると、
フィルタからアウトプットされる信号内のリンギングを減少するための方法であって、
信号をフィルタ内にインプットする工程と、
インプット信号の第1の部位をフィルタしてアウトプット信号のフィルタされた部位を生成する工程と、
アウトプット信号のフィルタされた部位を解析する工程と、
上記解析に基づいて、アウトプット信号のフィルタされた部位にリンギングが存在するかどうか検出する工程と、
リンギングが存在すると判定されるとアウトプット信号のその後のフィルタされた部位内のリンギングを減少するようにフィルタ特徴を調整する工程と
を含む方法が、提供される。
【0032】
本発明の第2の形態によると、
アウトプット信号内のリンギングを減少するように構成されたデバイスであって、
インプット信号を受け取るように構成されたレシーバと、
インプット信号の第1の部位をフィルタしアウトプット信号のフィルタされた部位を生成するフィルタと、
アウトプット信号のフィルタされた部位を解析し、上記解析に基づいてアウトプット信号のフィルタされた部位内にリンギングが存在するかどうか検出し、リンギングが存在すると判定されればアウトプット信号のその後のフィルタされた部位内のリンギングを減少するようにフィルタ特徴を調整するコントローラと
を含むデバイスが、提供される。
【発明の効果】
【0033】
本発明の実施形態に従ってノッチフィルタインパルス応答を動的に調整することの一つの利点は、アウトプット信号内のリンギングを実効的に防ぎつつ、信号重要部分の除去を生じることなく、電力網調波などの、一様の周波数の望ましくない信号成分を、ノッチフィルタの利用により効果的に除去できることである。
【図面の簡単な説明】
【0034】
本発明をよりよく理解するために、及び、同一物がどのように実行され得るか示すために、本発明の実施形態を添付の図面を参照しつつ、以下説明する。
【図1】先行技術に係るノッチフィルタを示す。
【図2】図1に示すノッチフィルタの周波数応答を示す。
【図3】図1に示すノッチフィルタの時間応答を示す。
【図4】本発明の実施形態に係る調整可能なノッチフィルタを示す。
【図5】本発明の更なる実施形態に係る調整可能なノッチフィルタを示す。
【図6】本発明の実施形態に係るノッチフィルタの減衰周波数応答を示すグラフである。
【図7】本発明の実施形態に係るノッチフィルタの減衰時間応答を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態に係る調整可能なノッチフィルタを制御する回路を示す。
【図9】本発明の実施形態に係る、多重調波を除去するのに利用される一連の調整可能なフィルタを示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明の発明者は、先行技術で示された課題はフィルタからアウトプットされる信号の特徴に従ってノッチフィルタのインパルス応答を調整することで克服され得ることを見出した。特に、ノッチフィルタのインパルス応答は、フィルタからアウトプットされる信号でリンギングが検出されるときにリンギングを減少するように動的に調整され得る。リンギングがアウトプット信号に存在するときにリンギングを減少するためにノッチフィルタのインパルス応答を調整することにより、リンギングが存在しないときに信号の重要な部分を除去してしまうこと無しにアウトプット信号内のリンギングの可聴度が大きく下がる。
【0036】
本発明の実施形態により、リンギングが検出されるときのフィルタのインパルス応答に対して減衰を適用できる。アウトプット信号内にリンギングを検出することに拠ってフィルタの周波数応答を調整することで、上記事項が達成され得る。
【0037】
本発明の一つの実施形態においては、リンギングの間にノッチ領域の幅が増加されそれによりノッチフィルタのインパルス応答を減衰しリンギングを減少するように、フィルタの周波数応答が調整され得る。一方、若しくは更に、リンギングの間にノッチ領域の深さが減少されそれによりノッチフィルタのインパルス応答を減衰しリンギングを減少するように、フィルタの周波数応答が調整され得る。
【0038】
ノッチ領域の幅を増加しノッチ領域の深さを減少することで、アウトプット信号は、よりインプット信号に近接して追随しよってノッチフィルのインパルス応答を減衰するように為される。
【0039】
本発明の実施形態が実装される様子が、まず図4を参照して記載される。図4は、調整可能なノッチ幅を有する調整可能なノッチフィルタ26を示す。図1の示す固定式のノッチフィルタに関して記載した要素は、同様の参照番号を用いて図4内で参照される。
【0040】
図4では、図1に示す第1の利得素子16が、調整可能な利得素子16’に置換される。ノッチフィルタ26の幅は、調整可能な利得素子16’の利得係数Aを調整することで、調整され得る。ミキサ素子24は、調整可能な利得素子16’のアウトプットをインプット信号s(n)から差し引くように、配置される。係数Aを増加することにより、ミキサ素子24に適用される周波数帯は増加する。本発明の一つの実施形態では、リンギングがアウトプット信号y(n)で検出されるとノッチフィルタの幅を増加するように、利得係数Aが調整される。ノッチフィルタの幅を増加するとフィルタ26のインパルス応答が減衰し、よってリンギング時間が減少する。
【0041】
アウトプット信号y(n)内のリンギングを減少させるため係数Aを増加することは、しかしながら、調整可能な利得素子17’からアウトプットされる信号内にアーチファクトを生じることがある。本発明の好適な実施形態では図5に示す調整可能なノッチフィルタが、信号をフィルタするのに利用される。図5に示す調整可能なノッチフィルタ26’は、ノッチ幅及び深さで調整可能であり、図4に示すフィルタよりも生成するアーチクラフトが少なくなるように構成される。フィルタ係数を変更することに応じて、様々な可能なフィルタの構成は様々なアーチクラフトを生じる、ということは、当業者には理解されるところである。
【0042】
図1の示す固定式のノッチフィルタに関して記載した要素は、同様の参照番号を用いて図5内で参照される。図1に関して記載した固定式ノッチフィルタに含まれる要素に加えて、調整可能なノッチフィルタ26’は、利得Gを加える第3の利得素子28も含む。第3の利得素子28は調整可能である。
【0043】
図5に示すように、第1のミキサ素子22は、アウトプット信号y(n)に第2のミキサ20のアウトプットを加え、ここから第3の利得素子28のアウトプットを差し引き、第1のシングルサンプル遅延素子10へアウトプットを提供する。第1の利得素子14、第2の遅延素子12及び第3のミキサ18へ信号をアウトプットする前に、遅延素子10は第1のミキサ22からアウトプットされる信号に対して遅延を入れる。第1の利得素子14は、遅延素子10から受け取る信号に対して利得Bを加える。
【0044】
第2のミキサ20は、第1の利得素子14のアウトプットから第2の遅延素子12のアウトプットを差し引きし、その結果の信号を第1のミキサ素子22へアウトプットする。
【0045】
第3のミキサ18は、第1の遅延素子10のアウトプットから第2の遅延素子12のアウトプットを差し引きし、その結果の信号を、利得Aが加えられる第2の利得素子16へアウトプットする。第2の利得素子16のアウトプットは第4のミキサ24に加えられ、そこではインプット信号s(n)から第2の利得素子16のアウトプットが差し引かれる。第2の利得素子16のアウトプットは第3の利得素子28の中にもインプットされ、そこでは利得Gが信号に加えられる。
【0046】
図5に示すフィルタに対して、インプット信号s(n)とアウトプット信号y(n)との間の関係は、以下の式で表され得る。
【0047】
【数7】

【0048】
インプット信号のz変換S(z)及びアウトプット信号のz変換Y(z)を利用して、図5に示す調整可能なノッチフィルタは、伝達関数を備えることが示され得る。
【0049】
【数8】

上式において、Aは第2の利得素子16の利得係数であり、Bは第1の利得素子14の利得係数であり、Gは第3の利得素子28の調整可能な利得係数である。
【0050】
第3の利得素子28の利得係数Gがゼロと等しくされると、図5に示される調整可能なノッチフィルタの周波数応答は図1に示すノッチフィルタの周波数応答と同じになる。しかしながら、利得係数Gをゼロより大きくすることにより、利得係数のAとBの値を変更することなく、ノッチフィルタの幅が増加しノッチがより浅くなるようにフィルタの周波数応答は変化する。結果として、フィルタのインパルス応答は減衰する。
【0051】
図6は、G=10であるときの図5に示す調整可能なフィルタの周波数応答のグラフを示す。図6に示すグラフを図2に示す周波数応答のグラフと比べると、図6に示すノッチ領域Rが図2に示すノッチ領域よりも幅広く且つ浅いことがわかる。
【0052】
図7は、係数Gが10に等しくされたときの図5に示す調整可能なフィルタの時間応答のグラフを示す。図7に示す時間応答を図3に示す時間応答に対照すると、図7に示すリンギング時間が大きく減少し、この場合は焼く50ミリ秒にまで減少していることがわかる。
【0053】
本発明の一つの実施形態では、アウトプット信号にリンギングが存在しないとき、Gが0にセットされるように調整可能なノッチフィルタが利用され、ノッチフィルタはそれが合わせられる周波数での一様の音成分を除去する。リンギングが存在するときのみ、調整可能な係数Gはノッチフィルタを抑制するように増大され、これによりリンギングが即座に消滅し、その後Gは0に戻される。
【0054】
本発明の発明者は、リンギングの間、いくつかの例ではアウトプットエネルギがインプットエネルギよりも大きいことを確認した。従って、所与の例でアウトプットエネルギの大きさがインプットエネルギよりも大きいと判定されるならば、アウトプット信号内にリンギングが検出され得る、ということに気付いた。
【0055】
本発明の好適な実施形態によると、アウトプット信号のエネルギの大きさがインプット信号のエネルギの大きさよりも大きいことを検出することにより、アウトプット信号y(n)内のリンギングが検出され得る。
【0056】
図8は、本発明の実施形態に係る調整可能なノッチフィルタ26を制御する回路を示す。図8に示す制御回路は、調整可能なノッチフィルタ26、コントローラブロック34、インプットエネルギ計測ブロック32及びアウトプットエネルギ計測ブロック30を含む。
【0057】
調整可能なノッチフィルタは、インプット信号s(n)を受け取り、信号y(n)をアウトプットするように構成されている。インプット信号s(n)はインプットエネルギ計測ブロック32の中にもインプットされる。アウトプット信号はアウトプットエネルギ計測ブロック30の中にもインプットされる。コントローラブロック34は、インプットエネルギ計測ブロック32とアウトプットエネルギ計測ブロック30とから、インプットを受け取る。調整可能なノッチフィルタ26は、コントローラブロック34からコントロール信号を受け取る。
【0058】
インプット及びアウトプット信号は、一連のフレームを含むものとして捉えることができ、個々のフレームは信号の等しい部位を含む。例えば、個々のフレームは10ミリ秒のフレーム長を含み得る。動作時には、インプットエネルギ計測ブロック32は、インプット信号の個々のフレームのためのエネルギを決定する。同様に、アウトプットエネルギ計測ブロック30は、アウトプット信号y(n)の個々のフレームのためのエネルギを決定する。インプット信号とアウトプット信号の個々のフレームのために決定されたエネルギはコントローラブロック34にレポートされる。
【0059】
コントローラブロック34は、個々のフレームに対して、インプット信号s(n)のために決定されたエネルギと、アウトプット信号y(n)のために決定されたエネルギとを比較するように、構成されている。アウトプット信号のフレームのエネルギの大きさがインプット信号のフレームのエネルギの大きさを超えると、コントローラは、調整可能なノッチフィルタ26にコントロール信号をアウトプットして、フィルタ26の時間応答を抑制するように、構成されている。本発明の好適な実施形態では、フィルタ26の時間応答は、ノッチフィルタの幅を増加させノッチ領域の深さを減少させることにより、減衰される。図5を参照して記載される調整可能なノッチフィルタを利用する場合、第3の利得ブロック28の利得係数を0から10にまで増加することにより、このことは達成され得る。他の係数のAとBは、不変更を保持される。
【0060】
アウトプット信号y(n)のその後のフレームのエネルギの大きさが、インプット信号s(n)のエネルギの大きさより小さくなると即座に、Gパラメータが0にリセットされ、これによりフィルタ26のノッチが狭くされる。
【0061】
次に図9を参照すると、本発明の実施形態に係る、端末の送信回路48が示される。多重調波を除去するために、インプット信号s(n)は一連の調整可能なノッチフィルタを介して処理されるが、各々のノッチフィルタは様々な調波の周波数に合わせられる。
【0062】
送信回路48は、多重調波を除去するのに利用される一連の調整可能なフィルタを含む。図9に示されるように、4つの調整可能なノッチフィルタ40、42、44、46が設けられ、ノッチは夫々、50ヘルツ、60ヘルツ、100ヘルツ、120ヘルツに合わせられている。より多い若しくはより少ない調波を除去するために、より多い若しくはより少ない調整可能なノッチフィルタが用いられてもよい。
【0063】
送信回路は、マイクロホン50、アナログデジタルコンバータ52、ハイパスフィルタ54、スピーチエンコーダ56、インプットエネルギ計測ブロック32、アウトプットエネルギ計測ブロック30及びコントローラ34も含む。
【0064】
マイクロホンは、通信ネットワークを介して目標の端末に送信されるべきインプット信号を受け取るように、構成されている。インプット信号は、端末のユーザによりインプットされるスピーチを含む。マイクロホンは、アナログデジタルコンバータ52に対してアナログインプット信号をアウトプットする。アナログデジタルコンバータ52は、アナログインプット信号をデジタルインプット信号s(n)にコンバートする。デジタルインプット信号は続いて、インプット信号s(n)から低周波数を除去するハイパスフィルタ54の中にインプットされる。
【0065】
ハイパスフィルタ54は、一連の調整可能なノッチフィルタに信号s(n)をアウトプットする。信号s(n)は、インプットエネルギ計測ブロックの中にもインプットされる。一連の調整可能なノッチフィルタからアウトプットされる信号y(n)は、信号y(n)を送信する前に信号y(n)をエンコードするのに利用されるエンコーダ56の中にインプットされる。信号y(n)は、一連の調整可能なノッチフィルタからアウトプットエネルギ計測ブロック30へ、アウトプットされる。
【0066】
インプットエネルギ計測ブロック32とアウトプットエネルギ計測ブロック30は、図8に関して記載したように、インプットとアウトプットの信号夫々のエネルギの大きさをコントローラブロックにレポートする。アウトプット信号のフレームのエネルギの大きさがインプット信号のフレームのエネルギの大きさを超えるとコントローラブロックが判定すると、コントローラは、調整可能なノッチフィルタの各々にコントロール信号をアウトプットして、各々のフィルタのインパルス応答を抑制するように、構成されている。
【0067】
アウトプット信号y(n)その後のフレームのエネルギの大きさが、インプット信号s(n)のエネルギの大きさよりも小さくなると即座に、フィルタのインパルス応答に加えられている抑制が、除去される。
【0068】
本発明の別の実施形態によると、個々の調整可能なノッチフィルタの幅を制御するのに、送信回路内に設けられた別個のコントロールブロックが用いられてもよい。本発明のこの実施形態によると、個々のフィルタのためにインプットエネルギ計測ブロックとアウトプットエネルギ計測ブロックが設けられ、個々のフィルタのインプット信号とアウトプット信号のエネルギを計測する。個々のフィルタの幅は、一連の他のフィルタとは独立して、制御される。
【0069】
本発明の更に別の実施形態によると、フィルタのインパルス応答は、フィルタの幅を必ずしも増加することなく、調整可能なノッチフィルタのノッチ領域の深さを減少することで、減衰され得る。図5に示すフィルタにおいて、利得素子28の利得係数を変更することで生じるノッチ幅変動を実効的にキャンセルするように、利得素子16の利得係数Aを調整することにより、フィルタのノッチ領域の深さはノッチ領域の幅とは独立して変化し得る。
【0070】
上述の実施形態は、端末内のハードウエアとして、若しくは、端末内のプロセッサ上で稼動するソフトウエアとして、実装され得る。これまでの動作を行うためのソフトウエアは、キャリアディスク、カード若しくはテープなどの、キャリア媒体上に格納されてもよく、更にそれらキャリア媒体により提供されてもよい。データネットワークを介してソフトウエアをダウンロードしてもよい。これは実装上の課題に過ぎない。
【0071】
本発明は好適な実施形態を参照して特に示され記載されているが、形式的な及び詳細な、様々な変更は、本発明の範囲から乖離することなく、請求項に規定されるものとなり得る、ということは当業者には理解されるところである。
【符号の説明】
【0072】
10・・・第1の遅延素子、12・・・第2の遅延素子、14・・・第1の利得素子、18・・・第3のミキサ素子、16・・・第2の利得素子、20・・・第2のミキサ素子、
22・・・第1のミキサ素子、24・・・第4のミキサ素子、26、26’・・・調整可能なノッチフィルタ、28・・・第3の利得素子、30・・・アウトプットエネルギ計測ブロック、32・・・インプットエネルギ計測ブロック、34・・・コントローラブロック、40・・・50ヘルツ適応ノッチフィルタ、42・・・60ヘルツ適応ノッチフィルタ、44・・・100ヘルツ適応ノッチフィルタ、46・・・120ヘルツ適応ノッチフィルタ、54・・・ハイパスフィルタ、56・・・スピーチエンコーダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタからアウトプットされる信号内のリンギングを減少するための方法であって、
信号をフィルタ内にインプットする工程と、
インプット信号の第1の部位をフィルタしてアウトプット信号のフィルタされた部位を生成する工程と、
アウトプット信号のフィルタされた部位を解析する工程と、
上記解析に基づいて、アウトプット信号のフィルタされた部位にリンギングが存在するかどうか検出する工程と、
リンギングが存在すると判定されるとアウトプット信号のその後のフィルタされた部位内のリンギングを減少するようにフィルタ特徴を調整する工程と
を含む方法。
【請求項2】
フィルタ特徴を調整する工程によりアウトプット信号がインプット信号を追随する
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
インプット信号の部位がインプット信号のフレームである
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
アウトプット信号の部位がアウトプット信号のフレームである
請求項1乃至3のうちのいずれか一に記載の方法。
【請求項5】
フィルタ特徴が、フィルタのインパルス応答を減衰することにより調整される
請求項1乃至4のうちのいずれか一に記載の方法。
【請求項6】
フィルタがノッチフィルタである
請求項1乃至5のうちのいずれか一に記載の方法。
【請求項7】
フィルタ特徴が、ノッチフィルタの幅を増加することにより調整される
請求項6に記載の方法。
【請求項8】
フィルタ特徴が、ノッチフィルタの深さを減少することにより調整される
請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
ノッチフィルタが少なくとも一つの利得素子を含む
請求項6乃至8のうちのいずれか一に記載の方法。
【請求項10】
ノッチフィルタの幅が、上記少なくとも一つの利得素子の利得係数を調整することにより増加する
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ノッチフィルタの深さが、上記少なくとも一つの利得素子の利得係数を調整することにより減少する
請求項9に記載の方法。
【請求項12】
更に、
アウトプット信号のその後のフィルタされた部位を解析する工程と、
上記解析に基づいてアウトプット信号のその後のフィルタされた部位にリンギングが存在するかどうか検出する工程と、
リンギングが存在しないと判定されれば、大きさが等しいが方向が反対の調整を伴うフィルタリング調整を、リンギングを除去するように為された調整に対して適合する工程と
を含む請求項1乃至11のうちのいずれか一に記載の方法。
【請求項13】
アウトプット信号のフィルタされた部位を解析する上記工程が、
インプット信号のフレームのエネルギを判定する工程と、
アウトプット信号のフィルタされた部位のフレームのエネルギを判定する工程とを含み、
アウトプット信号のフィルタされた部位にリンギングが存在するかどうか検出する上記工程が、
アウトプット信号のフィルタされた部位のフレームのエネルギを、インプット信号のフレームのエネルギに対照させる工程と、
アウトプット信号のフィルタされた部位のフレームのエネルギがインプット信号のフレームのエネルギより大きいならば、アウトプット信号にリンギングが存在すると判定する工程とを含む
請求項1乃至12のうちのいずれか一に記載の方法。
【請求項14】
アウトプット信号内のリンギングを減少するように構成されたデバイスであって、
インプット信号を受け取るように構成されたレシーバと、
インプット信号の第1の部位をフィルタしアウトプット信号のフィルタされた部位を生成するフィルタと、
アウトプット信号のフィルタされた部位を解析し、上記解析に基づいてアウトプット信号のフィルタされた部位内にリンギングが存在するかどうか検出し、リンギングが存在すると判定されればアウトプット信号のその後のフィルタされた部位内のリンギングを減少するようにフィルタ特徴を調整するコントローラと
を含むデバイス。
【請求項15】
プロセッサ上での稼動時に請求項1乃至13のうちのいずれか一に記載の方法を実行するように適応されたプログラムコードを含むコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−521855(P2010−521855A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553225(P2009−553225)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004442
【国際公開番号】WO2008/110867
【国際公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(506016691)スカイプ・リミテッド (16)
【氏名又は名称原語表記】SKYPE LIMITED
【Fターム(参考)】