通信用アンテナ装置
【課題】良好な通信品質を保つ。
【解決手段】移動体と基地局との間で無線通信を行う際に用いる通信用アンテナ装置にであって、信号の送受信を行うアンテナ本体と、当該アンテナ本体を支持する前記移動体のベース側部材と、当該ベース側部材及び前記アンテナ本体の間に設けられ前記無線通信に影響する前記アンテナ本体の高周波振動を抑制する制振機構とを備えた。前記制振機構は、前記無線通信に影響する高周波振動を吸収する弾性部材を備えて構成した。前記弾性部材は、前記アンテナ本体からの送信信号の振幅又は周波数が、相手側アンテナで受信される際に復調エラーを生じる程度の変動を起こす前記アンテナ本体の高周波振動を吸収する特性を備えて構成した。
【解決手段】移動体と基地局との間で無線通信を行う際に用いる通信用アンテナ装置にであって、信号の送受信を行うアンテナ本体と、当該アンテナ本体を支持する前記移動体のベース側部材と、当該ベース側部材及び前記アンテナ本体の間に設けられ前記無線通信に影響する前記アンテナ本体の高周波振動を抑制する制振機構とを備えた。前記制振機構は、前記無線通信に影響する高周波振動を吸収する弾性部材を備えて構成した。前記弾性部材は、前記アンテナ本体からの送信信号の振幅又は周波数が、相手側アンテナで受信される際に復調エラーを生じる程度の変動を起こす前記アンテナ本体の高周波振動を吸収する特性を備えて構成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信に用いられる通信用アンテナ装置に関し、特に振動に起因する通信品質の低下を改善した通信用アンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動経路に沿って移動する移動体と、当該移動体の移動経路に沿って配設された漏洩伝送路を用いて前記移動体との間で無線通信を行う基地局とを備えた無線通信システムは一般に知られている。
【0003】
このような無線通信システムにおいては、前記移動体が前記漏洩伝送路から一定間隔を保って移動しながら、これら移動体と基地局との間で通信が行われる。
【0004】
この無線通信システムの例としては特許文献1がある。
【特許文献1】特開2000−11294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の無線通信システムでは、漏洩伝送路に並走する車両等の移動体に設置されたアンテナと漏洩伝送路との間で通信が行われるが、通常の使用状態では、特に通信品質が低下することはない。
【0006】
しかし、パケット通信において、移動体が移動する際にアンテナが高周波振動を起こすと、通信エラーを生じることがある。この点について以下に説明する。
【0007】
パケット通信においては、図2に示すようなフレーム構成のパケットが用いられる。なお、図2は802.11aのフレーム構成の例である。図示するように、パケットは、プリアンブル部とペイロード部とから構成されている。ここでは、リンク速度が54Mbpsのときの時間として、1パケットが約250μsとなっている。なお、この1パケットの時間長はリンク速度とデータサイズによって異なる。
【0008】
プリアンブル部は、STS(ショートトレーニングシンボル)とLTS(ロングトレーニングシンボル)から構成されている。ペイロード部は、信号長や変調方式情報等を含むシグナル部と、伝送したい情報の本体を含むデータ部とから構成されている。
【0009】
前記フレーム構成のパケットを用いたパケット通信においては、プリアンブル部を用いて、パケット信号検出、タイミング検出(同期)、キャリア周波数の誤差補正、基準振幅や位相の補正が行われる。
【0010】
一方、前記移動体のアンテナは、前記漏洩伝送路に対して、一定間隔を保って平行移動されるが、移動体の移動に伴ってアンテナが振動すると、このアンテナと漏洩伝送路との間隔がアンテナの高周波振動によって変化することがある。この場合において、アンテナが高周波振動を起こしているときにパケット通信が行われると、このアンテナで受信する信号の振幅や周波数が変動することがある。そして、この信号の振幅や周波数の変動によって、受信信号と前記プリアンブル部の値との間で誤差が生じて、復調エラーを生じることがある。この復調エラーが生じると、通信品質が低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明は、相対的に移動する第1通信装置及び第2通信装置と、一方の前記通信装置に設けられた漏洩伝送路とを有する無線通信システムの、前記漏洩伝送路に対向して他方の前記通信装置に設けられて無線通信を行う通信用アンテナ装置において、前記漏洩伝送路との間で信号の送受信を行うアンテナ本体と、当該アンテナ本体を支持する前記通信装置のベース側部材と、当該ベース側部材及び前記アンテナ本体の間に設けられ前記無線通信に影響する前記アンテナ本体の、前記漏洩伝送路の電波輻射方向への高周波振動を抑制する制振機構とを備えたことを特徴とする。
【0012】
前記制振機構は、前記無線通信に影響する高周波振動を吸収する弾性部材を備えて構成されることが望ましい。前記弾性部材は、前記漏洩伝送路からの送信信号の振幅又は周波数が前記アンテナ本体で受信される際に、復調エラーを生じる程度の変動を起こす前記アンテナ本体の高周波振動を吸収する特性を備えて構成されることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
移動体の移動に伴う振動に起因する通信品質の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。本実施形態に係る通信用アンテナ装置は無線通信システムに用いられる装置である。以下では、通信用アンテナ装置を含む無線通信システム全体について説明する。
【0015】
この無線通信システム11は図3に示すように主に、移動体12、基地局(AP:Access Point)13、漏洩伝送路14(14−1及び14−2)、漏洩伝送路14(14−1及び14−2)に接続する終端器15(15−1及び15−2)、を有して構成される。なお、移動体12と基地局13とで、相対的に移動する第1通信装置及び第2通信装置を構成している。
【0016】
移動体12は、所定の経路に沿って移動するもので、この移動体12の移動経路に沿って漏洩伝送路14−1及び14−2が延設されている。これにより、移動体12は漏洩伝送路14−1及び14−2に沿って移動する。移動体12としては例えば、無線搬送車等の車両、移動可能ロボットなどを適用することができる。
【0017】
移動体12は、指向性アンテナ17及び18と、無線通信端末19とを少なくとも有して構成される。移動体12において、無線通信端末19は、各指向性アンテナ17及び18とそれぞれ接続されている。さらに、無線通信端末19は、2個の指向性アンテナ17及び18の受信電波を調整する合成器20(例えば、合成ダイバーシティなど)を備える。これにより、2個の指向性アンテナ17及び18の受信電波を合成することができるので、受信レベルの揺れを少なくすることができる。指向性アンテナ17及び18は、それぞれ指向性が異なるアンテナ部であり、例えば、平面アンテナ、八木アンテナなどを適用することができる。無線通信端末19は、既存のシステムで用いられるものを適用することができる。合成器20は、種々の既存技術を広く適用することができる。
【0018】
指向性アンテナ17は、漏洩伝送路14−1の電波輻射方向に対向する指向性を有するものであり、また指向性アンテナ18は、漏洩伝送路14−2の電波輻射方向に対向する指向性を有するものである。さらに、これらの指向性アンテナ17及び18は、漏洩伝送路14−1、14−2に対して、例えば50cm〜1m程度の間隔を保って平行移動される。
【0019】
ここで、指向性アンテナの指向方向が、漏洩伝送路の電波輻射方向と対向する場合と対向しないの場合との受信レベルの違いについて図4及び図5を参照しながら説明する。
【0020】
図4及び図5は、移動体12の指向性アンテナ21での受信レベルを説明する説明図である。なお、図4及び図5では、説明便宜上、移動体12が1個の指向性アンテナのみを備えた場合の受信レベルの変化を示す。
【0021】
図4は、指向性アンテナ21の指向方向が漏洩伝送路14からの電波輻射方向に対向する場合を示す図である。また、図5は、指向性アンテナ21の指向方向が漏洩伝送路14からの電波輻射方向に対向しない場合を示す図である。
【0022】
図4(A)及び図5(A)を参照すると、図4(A)のように指向性アンテナ21の指向性が漏洩伝送路14の電波輻射方向と対向する場合、漏洩伝送路14に平行に移動体12が移動するときでも、移動体12における受信レベルは比較的高く、かつ、受信レベルの変動幅は比較的少ない。これに対して、図5(A)のように指向性アンテナ21の指向性が漏洩伝送路14の電波輻射方向と対向しない場合、受信レベルが比較的低く、かつ、受信レベルの変動幅は比較的大きくなる。
【0023】
従って、漏洩伝送路14−1及び漏洩伝送路14−2のそれぞれの電波輻射方向に対向する指向性を有する2個の指向性アンテナ17及び18を備えることにより、漏洩伝送路14−1を介する区間では移動体12の指向性アンテナ17の指向方向が漏洩伝送路14−1の電波輻射方向と対向し、漏洩伝送路14−2を介する区間では移動体12の指向性アンテナ18の指向方向が漏洩伝送路14−2の電波輻射方向と対向するので、良好な通信が可能となる。
【0024】
なおここでは、2個の指向性アンテナ17及び18を備える場合を例示したが、漏洩伝搬路14−1及び14−2の延設状況や適用状況等に応じて、3個以上の指向性アンテナを備えるようにしてもよい。
【0025】
これらの指向性アンテナ17及び18は、後述する制振機構23で支持されている。
【0026】
基地局13は、移動体12が備える無線通信端末19との間で通信を行う局装置であり、2本の漏洩伝送路14−1及び14−2のそれぞれの一端に接続されるものである。つまり、基地局13は、2本の漏洩伝送路14−1及び14−2の両方と接続するものである。このように、複数の漏洩伝送路14−1及び14−2に基地局13が接続することにより、1台の基地局13が漏洩伝送路14−1及び14−2を介して無線通信する通信エリアを拡大することができる。勿論、基地局13は3本以上の漏洩伝送路と接続するようにしてもよい。
【0027】
各漏洩伝送路14−1及び14−2は、前記のように一端には共通の基地局13が接続され、他端には終端器15−1及び15−2が接続されるものである。各漏洩伝送路14−1及び14−2は、例えば漏洩同軸ケーブル(LCX;Leaky CoaXial Cable)や、漏洩導波管など既存のシステムに使用される漏洩伝送路を適用することができる。
【0028】
また、2本の漏洩伝送路14−1及び14−2は、基本的にはそれぞれ同種類の漏洩伝送路を用いるが、使用態様によっては異なる種類の漏洩伝送路を適用してもよい。さらに、各漏洩伝送路14−1及び14−2は、移動体12が備える漏洩同軸ケーブル(LCX)2と同種類のものであってもよいし、又は異なるものであってもよい。
【0029】
基地局13に接続する2本の漏洩伝送路14−1及び14−2は、基地局13から反対方向に水平に延設されるものとして説明する。なお、各漏洩伝送路14−1及び14−2が反対方向に水平に延設される場合に限らず、ある漏洩伝送路に対して垂直方向に別の漏洩伝送路を延設したり、又はある漏洩伝送路に対して所定の角度をもって別の漏洩伝送路を延設したりしてもよい。
【0030】
前記指向性アンテナ17及び18は、後述する制振機構23と、支持金具25とで、ベース側部材24側に支持されている。なお、ベース側部材24は、指向性アンテナ17及び18を支持するための移動体12側の部材であって、移動体12の本体フレーム等である。
【0031】
制振機構23は、指向性アンテナ17及び18の振動を制御するための機構である。具体的には、漏洩伝送路14−1の電波輻射方向への指向性アンテナ17及び18の高周波振動を制御するための機構である。この制振機構23の構成を以下に詳述する。
【0032】
指向性アンテナ17及び18は、図1に示すように、制振機構23を介してベース側部材24に取り付けられている。即ち、これまでは図6に示すように、ベース側部材24に指向性アンテナ17及び18が支持金具25を用いて取り付けられていたが、本実施形態ではベース側部材24と指向性アンテナ17及び18との間に制振機構23を設け、この制振機構23で指向性アンテナ17及び18の高周波振動を問題にならない程度まで抑える構成にした。
【0033】
制振機構23は、ベース側部材24と指向性アンテナ17及び18との間に設けられたベース部材としての支持金具25の中間位置に設けられている。即ち、制振機構23は、支持金具25の基端側部材25Aと先端側部材25Bとの間に設けられている。制振機構23は具体的には、支持金具25の基端側部材25Aの先端部に取り付けられた基端側板部27と、先端側部材25Bの基端部に取り付けられた先端側板部28と、これら基端側板部27と先端側板部28との間に取り付けられた弾性部材29とから構成されている。
【0034】
前記弾性部材29としては、高周波振動を吸収できる部材を用いる。即ち、弾性部材29としては、前記漏洩伝送路14からの送信信号の振幅又は周波数がアンテナ本体である指向性アンテナ17及び18で受信される際に、復調エラーを生じる程度の変動を起こす前記指向性アンテナ17及び18の高周波振動を吸収する特性を備えた部材を用いる。この弾性部材29は具体的には、天然ゴム系の部材、弾性を有する合成樹脂、ジェル、高分子ゲル等の高周波振動を吸収する機能の高い材料を用いる。これらの部材の成分調整等によって、目標振動数(復調エラーを生じる程度の指向性アンテナ17及び18の変動を起こす高周波振動)以上の振動を吸収して、この目標振動数よりも高い振動数で振動することができない特性に設定する。なお、ジェルや高分子ゲル等の部材の場合は、その部材単体で弾性部材29を構成するのは難しい場合がある。この場合は、弾性を有するチューブ状の部材にジェル等を充填させて弾性部材29を構成する。このチューブ状の部材は、伸縮性のあるゴム等の材料を用いる。
【0035】
なおここでは、前記指向性アンテナ17及び18と、制振機構23と、支持金具25とで、通信用アンテナ装置が構成されている。
【0036】
以上のように構成された無線通信システムは次のように動作する。なお、システム全体の動作は従来の無線通信システムと同様であるため、ここでは通信用アンテナ装置の部分を中心に説明する。
【0037】
無線搬送車等の車両や移動可能ロボットなどである移動体12は、基地局13の漏洩伝送路14−1及び14−2に沿って移動しながら、荷物を搬送したり、ロボットアームで作業をしたりする。これと同時に、移動体12は、漏洩伝送路14−1及び14−2に沿って移動しながら、通信も行う。
【0038】
この移動体12の移動中に通信において、移動体12の移動に伴う移動体12の振動で、指向性アンテナ17及び18も振動することがある。
【0039】
この振動は、移動体12のベース側部材24から支持金具25を伝って指向性アンテナ17及び18に伝わり、この指向性アンテナ17及び18を振動させる。このとき、支持金具25では、基端側部材25Aから制振機構23に伝わり、この制振機構23で振動が問題にならない程度まで抑えられて先端側部材25Bに伝わり、指向性アンテナ17及び18に伝わる。
【0040】
制振機構23では、支持金具25の基端側部材25Aから伝わった振動は、基端側板部27を介して弾性部材29に伝わり、この弾性部材29で問題にならない周波数まで減衰されて先端側板部28に伝わり、支持金具25の先端側部材25Bを介して指向性アンテナ17及び18を問題にならない周波数で振動させる。
【0041】
以上により、指向性アンテナ17及び18が高周波振動を起こしても、受信信号とパケットのプリアンブル部の値との間で誤差が生じることはなく、復調エラーによる通信品質の低下を防止することができる。この結果、良好な通信品質を保つことができる。
【0042】
[試験例]
ここで、平面アンテナの振動周波数とスループットとの関係を試験した結果を説明する。ここでは、平面アンテナを振動試験機で振動させて、スループットを測定した。具体的には図7に示すように主に、対向して配設された2つの平面アンテナ1,2と、振動試験機3とを備えた。一方の平面アンテナ1は、基地局(AP)である漏洩伝送路に対応するものであって、装置内に固定されている。この平面アンテナ1は、基地局(AP)を介してコンピュータ4に接続され、試験信号が発信される。
【0043】
他方の平面アンテナ2は、子局(クライアント)である移動体に対応するもので、振動試験機3に取り付けられている。この平面アンテナ2は子局(クライアント)を介してコンピュータ5に接続され、平面アンテナ2で受信した信号がコンピュータ5で処理される。
【0044】
振動試験機3は、他方の平面アンテナ2を支持して高周波で振動させる装置である。この振動試験機3は、振動部6と、電力増幅器兼発信器7と、ブロワ8とを備えて構成されている。振動部6は、平面アンテナ2を直接振動させるための振動源である。電力増幅器兼発信器7は、振動部6を振動させる周波数の信号を発生させると共に、その信号を増幅するための装置である。ブロワ8は、振動部6に冷却用空気を送風して冷却するための装置である。この振動試験機3によって、他方の平面アンテナ2が高周波で振動される。
【0045】
前記平面アンテナ1,2及び振動試験機3は、外部からのノイズ電波を除去するために電波暗室9内に収納されている。
【0046】
この試験装置において、2つの平面アンテナ1,2の間隔は、50cm、他方の平面アンテナ2の振幅は1.5mm、送信データサイズは1400bytes、リンク速度は自動、送信方向は下り(基地局→子局)、測定時間は300秒とした。そして、振動なし、振動周波数f1Hz、振動周波数f2Hzの3つのパターンでアンテナを振動させて試験した。その結果を図8〜図10に示す。具体的な振動数は、移動体12の使用環境等の諸条件によって異なるため、ここではランダムに設定した3つのパターンで試験した。
【0047】
この試験の結果、振動がない場合、スループットは、図8に示すように、一定値に保たれ、良好な通信品質を保った。振動がf1Hzの場合、スループットは、図9に示すように、試験開始当初から低い状態を170秒ほど維持した後、急に乱れて不安定になり、良好な通信品質が得られなかった。振動がf2Hzの場合、スループットは、図10に示すように、試験開始当初から乱れて不安定になり、良好な通信品質を得られなかった。
【0048】
この試験結果から分かるように、理想的には平面アンテナ2が振動しないのが望ましい。しかし、移動体は移動するため、平面アンテナ2は必ず振動し、振動しない状態は考えられない。また、振動周波数f2Hzの場合は、試験開始当初からスループットの値が乱れて不安定であった。振動周波数f1Hzの場合は、当初から170秒間くらいはスループットの値が低くかったが、その後乱れて不安定になった。このことから分かるように、振動周波数f2Hz前後で平面アンテナ2が振動すると、通信品質が大きく悪化することが分かる。
【0049】
このように、アンテナが高周波振動を起こすと、パケット構造等に起因して通信品質が悪化する。
【0050】
なお、ここでは3つの振動周波数パターンでアンテナを振動させて試験したが、多数の振動周波数パターンでアンテナを振動させて試験することが望ましい。これにより、各アンテナの特性に応じて、通信品質に悪影響を及ぼす振動周波数を特定して、アンテナの振動が前記振動周波数よりも低い振動周波数になるように、制振機構23の弾性部材29の特性を設定する。
【0051】
このように、弾性部材29として、前記漏洩伝送路14からの送信信号の振幅又は周波数がアンテナ本体である指向性アンテナ17及び18で受信される際に、復調エラーを生じる程度の変動を起こす前記指向性アンテナ17及び18の高周波振動を吸収する特性を備えた部材を用いると、通信品質の悪化を防止できる。
【0052】
[変形例]
前記実施形態では、制振機構23として図1に示す構成例を説明したが、本発明はこれに限らず、図11や図12のように構成でもよい。図11の制振機構31は、ベース側部材24と指向性アンテナ17及び18との間に設けられた、側面形状が四角形の中実の弾性部材32で構成されている。この弾性部材32としては、前記実施形態の弾性部材29と同様の材料を用いることができる。
【0053】
また、図12の制振機構33は、ベース側部材24と指向性アンテナ17及び18との間に設けられた、側面形状が棒状の2つの弾性部材34で2点支持する構成となっている。この弾性部材34としては、前記実施形態の弾性部材29と同様の材料を用いることができる。
【0054】
前記実施形態では、制振機構23を指向性アンテナ17及び18の振動を抑制するために用いたが、本発明の制振機構23は、これに限らず、振動を抑制する必要のある全てのアンテナに適用することができる。
【0055】
また、図13に示すように、指向性アンテナ17及び18を弾性紐36で弾性的に吊り下げるようにしてもよい。弾性紐36は、4本のベース側部材24で支持され、指向性アンテナ17及び18を8方向から弾性的に支持する。また、弾性紐36は、電磁波に影響を及ぼさない非金属製のコイルスプリングやゴム紐等を用いる。これによっても、高周波振動が指向性アンテナ17及び18に伝わるのを防止することができる。なお、ベース側部材24を2本、弾性紐36を4本又は2本で支持しても良い。これによっても、指向性アンテナ17及び18を弾性的に支持することができる。
【0056】
また、図14に示すように、指向性アンテナ17及び18を弾性部材37に埋め込んでもよい。弾性部材37は容器38に充填されている。弾性部材37としては、容器38に充填されるジェルや高分子ゲル等の流動体や、シリコンゴム等の弾性体等を用いることができる。なお、シリコンゴム等の弾性体を用いる場合は、シリコンゴム等で指向性アンテナ17及び18の周囲を覆った状態で、容器38を設けずに、シリコンゴム等を直接支持するようにしてもよい。ジェルや高分子ゲル等の流動体を用いる場合は、この流動体を容器38に充填して指向性アンテナ17及び18を流動体の中に浸して吊り下げることになる。この場合、前記弾性体や流動体は、電磁波の伝搬に影響を及ぼさない特性を備えたものを用いる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る通信用アンテナ装置を示す側面図である。
【図2】無線通信に用いられるパケットのフレーム構成例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る無線通信システムを示す概略構成図である。
【図4】指向性アンテナの指向方向が漏洩伝送路からの電波輻射方向に対向する場合の受信レベルを示す図である。
【図5】指向性アンテナの指向方向が漏洩伝送路からの電波輻射方向に対向しない場合の受信レベルを示す図である。
【図6】指向性アンテナをベース側部材に直付けした状態を示す側面図である。
【図7】振動試験装置を示す構成図である。
【図8】指向性アンテナに振動を与えないで試験した場合のスループットと測定時間との関係を示すグラフである。
【図9】指向性アンテナにf1Hzの振動を与えて試験した場合のスループットと測定時間との関係を示すグラフである。
【図10】指向性アンテナにf2Hzの振動を与えて試験した場合のスループットと測定時間との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第1変形例に係る通信用アンテナ装置を示す側面図である。
【図12】本発明の第2変形例に係る通信用アンテナ装置を示す側面図である。
【図13】本発明の第3変形例に係る通信用アンテナ装置を示す側面図である。
【図14】本発明の第4変形例に係る通信用アンテナ装置を示す側面図である。
【符号の説明】
【0058】
11:無線通信システム、12:移動体、13:基地局、14:漏洩伝送路、15:終端器、17、18:指向性アンテナ、19:無線通信端末、20:合成器、21:指向性アンテナ、23、制振機構、24:ベース側部材、25:支持金具、25A:基端側部材、25B:先端側部材、27:基端側板部、28:先端側板部、29:弾性部材。
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信に用いられる通信用アンテナ装置に関し、特に振動に起因する通信品質の低下を改善した通信用アンテナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動経路に沿って移動する移動体と、当該移動体の移動経路に沿って配設された漏洩伝送路を用いて前記移動体との間で無線通信を行う基地局とを備えた無線通信システムは一般に知られている。
【0003】
このような無線通信システムにおいては、前記移動体が前記漏洩伝送路から一定間隔を保って移動しながら、これら移動体と基地局との間で通信が行われる。
【0004】
この無線通信システムの例としては特許文献1がある。
【特許文献1】特開2000−11294号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の無線通信システムでは、漏洩伝送路に並走する車両等の移動体に設置されたアンテナと漏洩伝送路との間で通信が行われるが、通常の使用状態では、特に通信品質が低下することはない。
【0006】
しかし、パケット通信において、移動体が移動する際にアンテナが高周波振動を起こすと、通信エラーを生じることがある。この点について以下に説明する。
【0007】
パケット通信においては、図2に示すようなフレーム構成のパケットが用いられる。なお、図2は802.11aのフレーム構成の例である。図示するように、パケットは、プリアンブル部とペイロード部とから構成されている。ここでは、リンク速度が54Mbpsのときの時間として、1パケットが約250μsとなっている。なお、この1パケットの時間長はリンク速度とデータサイズによって異なる。
【0008】
プリアンブル部は、STS(ショートトレーニングシンボル)とLTS(ロングトレーニングシンボル)から構成されている。ペイロード部は、信号長や変調方式情報等を含むシグナル部と、伝送したい情報の本体を含むデータ部とから構成されている。
【0009】
前記フレーム構成のパケットを用いたパケット通信においては、プリアンブル部を用いて、パケット信号検出、タイミング検出(同期)、キャリア周波数の誤差補正、基準振幅や位相の補正が行われる。
【0010】
一方、前記移動体のアンテナは、前記漏洩伝送路に対して、一定間隔を保って平行移動されるが、移動体の移動に伴ってアンテナが振動すると、このアンテナと漏洩伝送路との間隔がアンテナの高周波振動によって変化することがある。この場合において、アンテナが高周波振動を起こしているときにパケット通信が行われると、このアンテナで受信する信号の振幅や周波数が変動することがある。そして、この信号の振幅や周波数の変動によって、受信信号と前記プリアンブル部の値との間で誤差が生じて、復調エラーを生じることがある。この復調エラーが生じると、通信品質が低下するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するために本発明は、相対的に移動する第1通信装置及び第2通信装置と、一方の前記通信装置に設けられた漏洩伝送路とを有する無線通信システムの、前記漏洩伝送路に対向して他方の前記通信装置に設けられて無線通信を行う通信用アンテナ装置において、前記漏洩伝送路との間で信号の送受信を行うアンテナ本体と、当該アンテナ本体を支持する前記通信装置のベース側部材と、当該ベース側部材及び前記アンテナ本体の間に設けられ前記無線通信に影響する前記アンテナ本体の、前記漏洩伝送路の電波輻射方向への高周波振動を抑制する制振機構とを備えたことを特徴とする。
【0012】
前記制振機構は、前記無線通信に影響する高周波振動を吸収する弾性部材を備えて構成されることが望ましい。前記弾性部材は、前記漏洩伝送路からの送信信号の振幅又は周波数が前記アンテナ本体で受信される際に、復調エラーを生じる程度の変動を起こす前記アンテナ本体の高周波振動を吸収する特性を備えて構成されることが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
移動体の移動に伴う振動に起因する通信品質の低下を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。本実施形態に係る通信用アンテナ装置は無線通信システムに用いられる装置である。以下では、通信用アンテナ装置を含む無線通信システム全体について説明する。
【0015】
この無線通信システム11は図3に示すように主に、移動体12、基地局(AP:Access Point)13、漏洩伝送路14(14−1及び14−2)、漏洩伝送路14(14−1及び14−2)に接続する終端器15(15−1及び15−2)、を有して構成される。なお、移動体12と基地局13とで、相対的に移動する第1通信装置及び第2通信装置を構成している。
【0016】
移動体12は、所定の経路に沿って移動するもので、この移動体12の移動経路に沿って漏洩伝送路14−1及び14−2が延設されている。これにより、移動体12は漏洩伝送路14−1及び14−2に沿って移動する。移動体12としては例えば、無線搬送車等の車両、移動可能ロボットなどを適用することができる。
【0017】
移動体12は、指向性アンテナ17及び18と、無線通信端末19とを少なくとも有して構成される。移動体12において、無線通信端末19は、各指向性アンテナ17及び18とそれぞれ接続されている。さらに、無線通信端末19は、2個の指向性アンテナ17及び18の受信電波を調整する合成器20(例えば、合成ダイバーシティなど)を備える。これにより、2個の指向性アンテナ17及び18の受信電波を合成することができるので、受信レベルの揺れを少なくすることができる。指向性アンテナ17及び18は、それぞれ指向性が異なるアンテナ部であり、例えば、平面アンテナ、八木アンテナなどを適用することができる。無線通信端末19は、既存のシステムで用いられるものを適用することができる。合成器20は、種々の既存技術を広く適用することができる。
【0018】
指向性アンテナ17は、漏洩伝送路14−1の電波輻射方向に対向する指向性を有するものであり、また指向性アンテナ18は、漏洩伝送路14−2の電波輻射方向に対向する指向性を有するものである。さらに、これらの指向性アンテナ17及び18は、漏洩伝送路14−1、14−2に対して、例えば50cm〜1m程度の間隔を保って平行移動される。
【0019】
ここで、指向性アンテナの指向方向が、漏洩伝送路の電波輻射方向と対向する場合と対向しないの場合との受信レベルの違いについて図4及び図5を参照しながら説明する。
【0020】
図4及び図5は、移動体12の指向性アンテナ21での受信レベルを説明する説明図である。なお、図4及び図5では、説明便宜上、移動体12が1個の指向性アンテナのみを備えた場合の受信レベルの変化を示す。
【0021】
図4は、指向性アンテナ21の指向方向が漏洩伝送路14からの電波輻射方向に対向する場合を示す図である。また、図5は、指向性アンテナ21の指向方向が漏洩伝送路14からの電波輻射方向に対向しない場合を示す図である。
【0022】
図4(A)及び図5(A)を参照すると、図4(A)のように指向性アンテナ21の指向性が漏洩伝送路14の電波輻射方向と対向する場合、漏洩伝送路14に平行に移動体12が移動するときでも、移動体12における受信レベルは比較的高く、かつ、受信レベルの変動幅は比較的少ない。これに対して、図5(A)のように指向性アンテナ21の指向性が漏洩伝送路14の電波輻射方向と対向しない場合、受信レベルが比較的低く、かつ、受信レベルの変動幅は比較的大きくなる。
【0023】
従って、漏洩伝送路14−1及び漏洩伝送路14−2のそれぞれの電波輻射方向に対向する指向性を有する2個の指向性アンテナ17及び18を備えることにより、漏洩伝送路14−1を介する区間では移動体12の指向性アンテナ17の指向方向が漏洩伝送路14−1の電波輻射方向と対向し、漏洩伝送路14−2を介する区間では移動体12の指向性アンテナ18の指向方向が漏洩伝送路14−2の電波輻射方向と対向するので、良好な通信が可能となる。
【0024】
なおここでは、2個の指向性アンテナ17及び18を備える場合を例示したが、漏洩伝搬路14−1及び14−2の延設状況や適用状況等に応じて、3個以上の指向性アンテナを備えるようにしてもよい。
【0025】
これらの指向性アンテナ17及び18は、後述する制振機構23で支持されている。
【0026】
基地局13は、移動体12が備える無線通信端末19との間で通信を行う局装置であり、2本の漏洩伝送路14−1及び14−2のそれぞれの一端に接続されるものである。つまり、基地局13は、2本の漏洩伝送路14−1及び14−2の両方と接続するものである。このように、複数の漏洩伝送路14−1及び14−2に基地局13が接続することにより、1台の基地局13が漏洩伝送路14−1及び14−2を介して無線通信する通信エリアを拡大することができる。勿論、基地局13は3本以上の漏洩伝送路と接続するようにしてもよい。
【0027】
各漏洩伝送路14−1及び14−2は、前記のように一端には共通の基地局13が接続され、他端には終端器15−1及び15−2が接続されるものである。各漏洩伝送路14−1及び14−2は、例えば漏洩同軸ケーブル(LCX;Leaky CoaXial Cable)や、漏洩導波管など既存のシステムに使用される漏洩伝送路を適用することができる。
【0028】
また、2本の漏洩伝送路14−1及び14−2は、基本的にはそれぞれ同種類の漏洩伝送路を用いるが、使用態様によっては異なる種類の漏洩伝送路を適用してもよい。さらに、各漏洩伝送路14−1及び14−2は、移動体12が備える漏洩同軸ケーブル(LCX)2と同種類のものであってもよいし、又は異なるものであってもよい。
【0029】
基地局13に接続する2本の漏洩伝送路14−1及び14−2は、基地局13から反対方向に水平に延設されるものとして説明する。なお、各漏洩伝送路14−1及び14−2が反対方向に水平に延設される場合に限らず、ある漏洩伝送路に対して垂直方向に別の漏洩伝送路を延設したり、又はある漏洩伝送路に対して所定の角度をもって別の漏洩伝送路を延設したりしてもよい。
【0030】
前記指向性アンテナ17及び18は、後述する制振機構23と、支持金具25とで、ベース側部材24側に支持されている。なお、ベース側部材24は、指向性アンテナ17及び18を支持するための移動体12側の部材であって、移動体12の本体フレーム等である。
【0031】
制振機構23は、指向性アンテナ17及び18の振動を制御するための機構である。具体的には、漏洩伝送路14−1の電波輻射方向への指向性アンテナ17及び18の高周波振動を制御するための機構である。この制振機構23の構成を以下に詳述する。
【0032】
指向性アンテナ17及び18は、図1に示すように、制振機構23を介してベース側部材24に取り付けられている。即ち、これまでは図6に示すように、ベース側部材24に指向性アンテナ17及び18が支持金具25を用いて取り付けられていたが、本実施形態ではベース側部材24と指向性アンテナ17及び18との間に制振機構23を設け、この制振機構23で指向性アンテナ17及び18の高周波振動を問題にならない程度まで抑える構成にした。
【0033】
制振機構23は、ベース側部材24と指向性アンテナ17及び18との間に設けられたベース部材としての支持金具25の中間位置に設けられている。即ち、制振機構23は、支持金具25の基端側部材25Aと先端側部材25Bとの間に設けられている。制振機構23は具体的には、支持金具25の基端側部材25Aの先端部に取り付けられた基端側板部27と、先端側部材25Bの基端部に取り付けられた先端側板部28と、これら基端側板部27と先端側板部28との間に取り付けられた弾性部材29とから構成されている。
【0034】
前記弾性部材29としては、高周波振動を吸収できる部材を用いる。即ち、弾性部材29としては、前記漏洩伝送路14からの送信信号の振幅又は周波数がアンテナ本体である指向性アンテナ17及び18で受信される際に、復調エラーを生じる程度の変動を起こす前記指向性アンテナ17及び18の高周波振動を吸収する特性を備えた部材を用いる。この弾性部材29は具体的には、天然ゴム系の部材、弾性を有する合成樹脂、ジェル、高分子ゲル等の高周波振動を吸収する機能の高い材料を用いる。これらの部材の成分調整等によって、目標振動数(復調エラーを生じる程度の指向性アンテナ17及び18の変動を起こす高周波振動)以上の振動を吸収して、この目標振動数よりも高い振動数で振動することができない特性に設定する。なお、ジェルや高分子ゲル等の部材の場合は、その部材単体で弾性部材29を構成するのは難しい場合がある。この場合は、弾性を有するチューブ状の部材にジェル等を充填させて弾性部材29を構成する。このチューブ状の部材は、伸縮性のあるゴム等の材料を用いる。
【0035】
なおここでは、前記指向性アンテナ17及び18と、制振機構23と、支持金具25とで、通信用アンテナ装置が構成されている。
【0036】
以上のように構成された無線通信システムは次のように動作する。なお、システム全体の動作は従来の無線通信システムと同様であるため、ここでは通信用アンテナ装置の部分を中心に説明する。
【0037】
無線搬送車等の車両や移動可能ロボットなどである移動体12は、基地局13の漏洩伝送路14−1及び14−2に沿って移動しながら、荷物を搬送したり、ロボットアームで作業をしたりする。これと同時に、移動体12は、漏洩伝送路14−1及び14−2に沿って移動しながら、通信も行う。
【0038】
この移動体12の移動中に通信において、移動体12の移動に伴う移動体12の振動で、指向性アンテナ17及び18も振動することがある。
【0039】
この振動は、移動体12のベース側部材24から支持金具25を伝って指向性アンテナ17及び18に伝わり、この指向性アンテナ17及び18を振動させる。このとき、支持金具25では、基端側部材25Aから制振機構23に伝わり、この制振機構23で振動が問題にならない程度まで抑えられて先端側部材25Bに伝わり、指向性アンテナ17及び18に伝わる。
【0040】
制振機構23では、支持金具25の基端側部材25Aから伝わった振動は、基端側板部27を介して弾性部材29に伝わり、この弾性部材29で問題にならない周波数まで減衰されて先端側板部28に伝わり、支持金具25の先端側部材25Bを介して指向性アンテナ17及び18を問題にならない周波数で振動させる。
【0041】
以上により、指向性アンテナ17及び18が高周波振動を起こしても、受信信号とパケットのプリアンブル部の値との間で誤差が生じることはなく、復調エラーによる通信品質の低下を防止することができる。この結果、良好な通信品質を保つことができる。
【0042】
[試験例]
ここで、平面アンテナの振動周波数とスループットとの関係を試験した結果を説明する。ここでは、平面アンテナを振動試験機で振動させて、スループットを測定した。具体的には図7に示すように主に、対向して配設された2つの平面アンテナ1,2と、振動試験機3とを備えた。一方の平面アンテナ1は、基地局(AP)である漏洩伝送路に対応するものであって、装置内に固定されている。この平面アンテナ1は、基地局(AP)を介してコンピュータ4に接続され、試験信号が発信される。
【0043】
他方の平面アンテナ2は、子局(クライアント)である移動体に対応するもので、振動試験機3に取り付けられている。この平面アンテナ2は子局(クライアント)を介してコンピュータ5に接続され、平面アンテナ2で受信した信号がコンピュータ5で処理される。
【0044】
振動試験機3は、他方の平面アンテナ2を支持して高周波で振動させる装置である。この振動試験機3は、振動部6と、電力増幅器兼発信器7と、ブロワ8とを備えて構成されている。振動部6は、平面アンテナ2を直接振動させるための振動源である。電力増幅器兼発信器7は、振動部6を振動させる周波数の信号を発生させると共に、その信号を増幅するための装置である。ブロワ8は、振動部6に冷却用空気を送風して冷却するための装置である。この振動試験機3によって、他方の平面アンテナ2が高周波で振動される。
【0045】
前記平面アンテナ1,2及び振動試験機3は、外部からのノイズ電波を除去するために電波暗室9内に収納されている。
【0046】
この試験装置において、2つの平面アンテナ1,2の間隔は、50cm、他方の平面アンテナ2の振幅は1.5mm、送信データサイズは1400bytes、リンク速度は自動、送信方向は下り(基地局→子局)、測定時間は300秒とした。そして、振動なし、振動周波数f1Hz、振動周波数f2Hzの3つのパターンでアンテナを振動させて試験した。その結果を図8〜図10に示す。具体的な振動数は、移動体12の使用環境等の諸条件によって異なるため、ここではランダムに設定した3つのパターンで試験した。
【0047】
この試験の結果、振動がない場合、スループットは、図8に示すように、一定値に保たれ、良好な通信品質を保った。振動がf1Hzの場合、スループットは、図9に示すように、試験開始当初から低い状態を170秒ほど維持した後、急に乱れて不安定になり、良好な通信品質が得られなかった。振動がf2Hzの場合、スループットは、図10に示すように、試験開始当初から乱れて不安定になり、良好な通信品質を得られなかった。
【0048】
この試験結果から分かるように、理想的には平面アンテナ2が振動しないのが望ましい。しかし、移動体は移動するため、平面アンテナ2は必ず振動し、振動しない状態は考えられない。また、振動周波数f2Hzの場合は、試験開始当初からスループットの値が乱れて不安定であった。振動周波数f1Hzの場合は、当初から170秒間くらいはスループットの値が低くかったが、その後乱れて不安定になった。このことから分かるように、振動周波数f2Hz前後で平面アンテナ2が振動すると、通信品質が大きく悪化することが分かる。
【0049】
このように、アンテナが高周波振動を起こすと、パケット構造等に起因して通信品質が悪化する。
【0050】
なお、ここでは3つの振動周波数パターンでアンテナを振動させて試験したが、多数の振動周波数パターンでアンテナを振動させて試験することが望ましい。これにより、各アンテナの特性に応じて、通信品質に悪影響を及ぼす振動周波数を特定して、アンテナの振動が前記振動周波数よりも低い振動周波数になるように、制振機構23の弾性部材29の特性を設定する。
【0051】
このように、弾性部材29として、前記漏洩伝送路14からの送信信号の振幅又は周波数がアンテナ本体である指向性アンテナ17及び18で受信される際に、復調エラーを生じる程度の変動を起こす前記指向性アンテナ17及び18の高周波振動を吸収する特性を備えた部材を用いると、通信品質の悪化を防止できる。
【0052】
[変形例]
前記実施形態では、制振機構23として図1に示す構成例を説明したが、本発明はこれに限らず、図11や図12のように構成でもよい。図11の制振機構31は、ベース側部材24と指向性アンテナ17及び18との間に設けられた、側面形状が四角形の中実の弾性部材32で構成されている。この弾性部材32としては、前記実施形態の弾性部材29と同様の材料を用いることができる。
【0053】
また、図12の制振機構33は、ベース側部材24と指向性アンテナ17及び18との間に設けられた、側面形状が棒状の2つの弾性部材34で2点支持する構成となっている。この弾性部材34としては、前記実施形態の弾性部材29と同様の材料を用いることができる。
【0054】
前記実施形態では、制振機構23を指向性アンテナ17及び18の振動を抑制するために用いたが、本発明の制振機構23は、これに限らず、振動を抑制する必要のある全てのアンテナに適用することができる。
【0055】
また、図13に示すように、指向性アンテナ17及び18を弾性紐36で弾性的に吊り下げるようにしてもよい。弾性紐36は、4本のベース側部材24で支持され、指向性アンテナ17及び18を8方向から弾性的に支持する。また、弾性紐36は、電磁波に影響を及ぼさない非金属製のコイルスプリングやゴム紐等を用いる。これによっても、高周波振動が指向性アンテナ17及び18に伝わるのを防止することができる。なお、ベース側部材24を2本、弾性紐36を4本又は2本で支持しても良い。これによっても、指向性アンテナ17及び18を弾性的に支持することができる。
【0056】
また、図14に示すように、指向性アンテナ17及び18を弾性部材37に埋め込んでもよい。弾性部材37は容器38に充填されている。弾性部材37としては、容器38に充填されるジェルや高分子ゲル等の流動体や、シリコンゴム等の弾性体等を用いることができる。なお、シリコンゴム等の弾性体を用いる場合は、シリコンゴム等で指向性アンテナ17及び18の周囲を覆った状態で、容器38を設けずに、シリコンゴム等を直接支持するようにしてもよい。ジェルや高分子ゲル等の流動体を用いる場合は、この流動体を容器38に充填して指向性アンテナ17及び18を流動体の中に浸して吊り下げることになる。この場合、前記弾性体や流動体は、電磁波の伝搬に影響を及ぼさない特性を備えたものを用いる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施形態に係る通信用アンテナ装置を示す側面図である。
【図2】無線通信に用いられるパケットのフレーム構成例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る無線通信システムを示す概略構成図である。
【図4】指向性アンテナの指向方向が漏洩伝送路からの電波輻射方向に対向する場合の受信レベルを示す図である。
【図5】指向性アンテナの指向方向が漏洩伝送路からの電波輻射方向に対向しない場合の受信レベルを示す図である。
【図6】指向性アンテナをベース側部材に直付けした状態を示す側面図である。
【図7】振動試験装置を示す構成図である。
【図8】指向性アンテナに振動を与えないで試験した場合のスループットと測定時間との関係を示すグラフである。
【図9】指向性アンテナにf1Hzの振動を与えて試験した場合のスループットと測定時間との関係を示すグラフである。
【図10】指向性アンテナにf2Hzの振動を与えて試験した場合のスループットと測定時間との関係を示すグラフである。
【図11】本発明の第1変形例に係る通信用アンテナ装置を示す側面図である。
【図12】本発明の第2変形例に係る通信用アンテナ装置を示す側面図である。
【図13】本発明の第3変形例に係る通信用アンテナ装置を示す側面図である。
【図14】本発明の第4変形例に係る通信用アンテナ装置を示す側面図である。
【符号の説明】
【0058】
11:無線通信システム、12:移動体、13:基地局、14:漏洩伝送路、15:終端器、17、18:指向性アンテナ、19:無線通信端末、20:合成器、21:指向性アンテナ、23、制振機構、24:ベース側部材、25:支持金具、25A:基端側部材、25B:先端側部材、27:基端側板部、28:先端側板部、29:弾性部材。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に移動する第1通信装置及び第2通信装置と、一方の前記通信装置に設けられた漏洩伝送路とを有する無線通信システムの、前記漏洩伝送路に対向して他方の前記通信装置に設けられて無線通信を行う通信用アンテナ装置において、
前記漏洩伝送路との間で信号の送受信を行うアンテナ本体と、当該アンテナ本体を支持する前記通信装置のベース側部材と、当該ベース側部材及び前記アンテナ本体の間に設けられ前記無線通信に影響する前記アンテナ本体の、前記漏洩伝送路の電波輻射方向への高周波振動を抑制する制振機構とを備えたことを特徴とする通信用アンテナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信用アンテナ装置において、
前記制振機構が、前記無線通信に影響する高周波振動を吸収する弾性部材を備えて構成されたことを特徴とする通信用アンテナ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の通信用アンテナ装置において、
前記弾性部材は、前記漏洩伝送路からの送信信号の振幅又は周波数が前記アンテナ本体で受信される際に、復調エラーを生じる程度の変動を起こす前記アンテナ本体の高周波振動を吸収する特性を備えて構成されたことを特徴とする通信用アンテナ装置。
【請求項1】
相対的に移動する第1通信装置及び第2通信装置と、一方の前記通信装置に設けられた漏洩伝送路とを有する無線通信システムの、前記漏洩伝送路に対向して他方の前記通信装置に設けられて無線通信を行う通信用アンテナ装置において、
前記漏洩伝送路との間で信号の送受信を行うアンテナ本体と、当該アンテナ本体を支持する前記通信装置のベース側部材と、当該ベース側部材及び前記アンテナ本体の間に設けられ前記無線通信に影響する前記アンテナ本体の、前記漏洩伝送路の電波輻射方向への高周波振動を抑制する制振機構とを備えたことを特徴とする通信用アンテナ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の通信用アンテナ装置において、
前記制振機構が、前記無線通信に影響する高周波振動を吸収する弾性部材を備えて構成されたことを特徴とする通信用アンテナ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の通信用アンテナ装置において、
前記弾性部材は、前記漏洩伝送路からの送信信号の振幅又は周波数が前記アンテナ本体で受信される際に、復調エラーを生じる程度の変動を起こす前記アンテナ本体の高周波振動を吸収する特性を備えて構成されたことを特徴とする通信用アンテナ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−224863(P2009−224863A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64373(P2008−64373)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000003562)東芝テック株式会社 (5,631)
【Fターム(参考)】
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