通信端末装置
【課題】コイルアンテナを搭載した通信端末装置において、通信端末装置の長手方向へのコイルアンテナの指向性を従来よりも高める。
【解決手段】通信端末装置は、長手方向LDを有する筐体2と、コイルアンテナ10と、磁性体シート14とを備える。コイルアンテナ10は、筐体2の長手方向の先端部2Cに近接して設けられ、長手方向と平行な1層または積層された複数層の平面コイルを含む。磁性体シート14は、コイルアンテナ10の巻回軸方向から見て、コイルアンテナ10を構成するコイル導体12と部分的に重なるように、コイルアンテナ10に貼り付けられる。具体的には、コイルアンテナ10の巻回軸方向から見て、コイル導体12の一部は、最外周から最内周に至るまで磁性体シートと重なっていない。コイル導体12のうち磁性体シート14と重なっていない部分の少なくとも一部は、筐体2の先端部2Cに面する位置に配置される。
【解決手段】通信端末装置は、長手方向LDを有する筐体2と、コイルアンテナ10と、磁性体シート14とを備える。コイルアンテナ10は、筐体2の長手方向の先端部2Cに近接して設けられ、長手方向と平行な1層または積層された複数層の平面コイルを含む。磁性体シート14は、コイルアンテナ10の巻回軸方向から見て、コイルアンテナ10を構成するコイル導体12と部分的に重なるように、コイルアンテナ10に貼り付けられる。具体的には、コイルアンテナ10の巻回軸方向から見て、コイル導体12の一部は、最外周から最内周に至るまで磁性体シートと重なっていない。コイル導体12のうち磁性体シート14と重なっていない部分の少なくとも一部は、筐体2の先端部2Cに面する位置に配置される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コイルアンテナを備えた通信端末装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リーダライタとRFID(Radio Frequency Identification)タグとを非接触方式で通信させ、リーダライタとRFIDタグとの間で情報を伝達するRFIDシステムが知られている。こうしたRFIDシステムにおいて、RFIDタグは、無線信号を処理するためのRFIC素子と高周波信号を送受するためのアンテナとを備えている。ここで、たとえばHF帯のRFIDシステムであれば、高周波信号は主に磁界を利用して伝搬する。したがって、HF帯のRFIDシステムには、平面コイルアンテナが利用されることが多い。
【0003】
ただし、この平面コイルアンテナは、近くに金属体があると、磁界がこの金属体にて渦電流として失われてしまうため、十分な通信距離が得られない。そこで、たとえば特開2003−108966号公報(特許文献1)には、コイル導体に磁性体シートを部分的に貼り付けることにより、金属物の影響を抑制する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−108966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、RFIDシステムを搭載した携帯通信端末が普及している。RFIDシステムの用途の1つに携帯端末同士のピア・ツー・ピア(Peer to Peer)接続がある(図10(A)、図11(A)を参照)。ピア・ツー・ピア接続では、携帯端末の長手方向への通信距離を十分に確保できるようにすることが望ましい。
【0006】
しかしながら、上記の平面コイルアンテナは、通常、プリント基板上または筐体の内面(表面側または裏面側)に取付けられる。したがって、プリント基板に垂直な方向(筐体の長手方向と直交する方向)に強い指向性を有するが、筐体の長手方向には十分な通信距離を確保できない。
【0007】
このように、RFIDシステムを携帯通信端末に搭載する場合には、コイルアンテナの指向性の制御が求められるのであるが、これまで余り検討されていない。たとえば、前述の特開2003−108966号公報(特許文献1)には、コイルアンテナの指向性について具体的に開示されていない。
【0008】
この発明の目的は、コイルアンテナを搭載した通信端末装置において、コイルアンテナ近傍に設けられた金属物の影響を抑制するとともに、通信端末装置の長手方向へのコイルアンテナの指向性を従来よりも高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の一局面による通信端末装置は、長手方向を有する筐体と、コイルアンテナと、磁性体シートとを備える。コイルアンテナは、筐体の長手方向の先端部に近接して設けられ、長手方向と平行な1層または積層された複数層の平面コイルを含む。磁性体シートは、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、コイルアンテナを構成するコイル導体と部分的に重なるように、コイルアンテナに貼り付けられる。具体的には、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、コイル導体の一部は、最外周から最内周に至るまで磁性体シートと重なっていない。コイル導体のうち磁性体シートと重なっていない部分の少なくとも一部は、筐体の先端部に面する位置に配置される。
【0010】
好ましくは、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、コイル導体のうち磁性体シートと重なっている部分の少なくとも一部は、コイルアンテナの開口はさんで先端部と反対側に配置される。
【0011】
好ましくは、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、コイル導体の外周の形状は、4本の直線または曲線によって構成された四角形または擬似四角形の形状である。この場合、コイル導体は、筐体の先端部に面する位置に配置され、四角形または擬似四角形の第1の辺に対応する第1の部分と、コイルアンテナの開口を挟んで筐体の先端部と反対側に設けられ、四角形または擬似四角形の第2の辺に対応する第2の部分と、第1の部分の両端と第2の部分の両端とを接続する、四角形または擬似四角形の第3および第4の辺にそれぞれ対応する第3および第4の部分とを含む。コイルアンテナの巻回軸方向から見て、第1の部分は磁性体シートと重なっておらず、第2の部分は磁性体シートと重なっている。
【0012】
好ましくは、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、第3および第4の部分は磁性体シートと重なっていない。
【0013】
好ましくは、第1および第2の部分の周方向に沿った長さは、第3および第4の部分の周方向に沿った長さよりも長い。
【0014】
好ましくは、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、コイルアンテナの開口は全て磁性体シートと重なっている。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、コイルアンテナに磁性体シートが部分的に貼り付けられるとともに、コイル導体のうち磁性体シートと重なっていない部分は、筐体の先端部に面する位置に配置される。この結果、コイルアンテナ近傍に設けられた金属物の影響を抑制するとともに、通信端末装置の先端部方向へのコイルアンテナの指向性を従来よりも高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の一形態による通信端末装置1の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1のコイルアンテナ10の部分を拡大して示した平面図である。
【図3】コイルアンテナ10のより詳細な構成を示す図である。
【図4】図3のコイルアンテナ10の変形例としてのコイルアンテナ10Aの構成を示す図である。
【図5】リーダライタ側のコイルアンテナ20と携帯通信端末側のコイルアンテナ10との角度について説明するための図である。
【図6】端末装置側のコイルアンテナ10において、コイル導体12と磁性体シート14との位置関係を示す図である。
【図7】図6の(A),(B),(C),(D)の各場合において、リーダライタ側のコイルアンテナ20と端末装置側のコイルアンテナ10との結合係数を計算した結果を示す図である。
【図8】図6の(B),(E),(F)の各場合において、リーダライタ側のコイルアンテナ20と端末装置側のコイルアンテナ10との結合係数を計算した結果を示す図である。
【図9】図7、図8で示した計算結果が得られる理由を説明するための図である。
【図10】図2のコイルアンテナ10の第1の変形例を示す平面図である。
【図11】図2のコイルアンテナ10の第2の変形例を示す平面図である。
【図12】水平面に対して斜め方向に携帯端末1A,1Bを傾けてピア・ツー・ピア接続を行なう場合を示す図である。
【図13】携帯端末1A,1Bを水平にしてピア・ツー・ピア接続を行なう場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0018】
[通信端末装置の概略構成]
図1は、この発明の実施の一形態による通信端末装置1の構成を模式的に示す断面図である。
【0019】
図1を参照して、通信端末装置1は、直方体の形状を有する筐体2と、筐体2の内部に設けられたプリント基板3と、コイルアンテナ10とを含む。コイルアンテナ10は、たとえば13.56MHzのようなHF帯RFIDシステム用のアンテナである。以下、筐体2の長手方向LDをX方向とし、筐体2の正面2Aおよび裏面2BをXY平面に沿うものとする。筐体2の正面2Aおよび裏面2Bに垂直な方向をZ方向とする。筐体の先端部2Cは図1の左側(−X方向)に配置され、筐体の基端部2Dは図1の右側(+X方向)に配置される。
【0020】
なお、この発明が適用される通信端末装置の形状は、直方体に限られるものでなく、長手方向を有する形状であればどのような形状でもよい。たとえば、先端部2Cの形状は、外部方向に膨らんだ曲面形状であってもよい。
【0021】
プリント基板3は、XY平面に沿って設けられ、内部にグランド層4を有する。プリント基板3の正面側および裏面側には、抵抗素子やコンデンサなどの複数の電子部品5A〜5H、集積回路6A〜6C、およびバッテリーパック7が搭載される。
【0022】
コイルアンテナ10は、筐体2の先端部2Cに近接して設けられる。具体的には、コイルアンテナ10は、筐体2の裏面2Bの内側に絶縁性接着材を用いて貼り付けられる。コイルアンテナ10に設けられた給電端子とプリント基板3上の配線とを電気的に接続するために給電ピン8が設けられる。
【0023】
[コイルアンテナの構成]
図2は、図1のコイルアンテナ10の部分を拡大して示した平面図である。図2を参照して、コイルアンテナ10は、熱可塑性樹脂などの誘電体からなる基材シート11と、基材シート11に形成されたコイル導体12と、コイル導体12の両端部に設けられた給電電極15A,15Bと、基材シート11上に貼り付けられたフェライトなどからなる磁性体シート14とを含む。図2では、図解を容易にするために磁性体シート14にハッチングを付している。図2に示すように、コイル導体12はXY平面に沿って設けられ、コイルアンテナ10の巻回軸はZ軸方向である。
【0024】
Z方向から見て、磁性体シート14は、コイル導体12と部分的に重なるように基材シート11上に貼り付けられる。具体的には、コイル導体12の一部が、最外周から最内周に至るまで磁性体シート14と重なっていない。そして、コイル導体12のうち磁性体シート14と重なっていない部分は、筐体2の先端部2Cに面する位置に配置される。コイル導体12のうち磁性体シート14と重なっている部分の一部は、コイルアンテナ10の開口13を挟んで先端部2Cと反対側に配置される。
【0025】
図2の場合には、Z軸方向から見たコイル導体12の外周の形状は矩形状である。コイル導体12は、筐体2の先端部2Cに面する位置に配置され、矩形の第1の長辺に相当する導体部分12Aと、コイルアンテナ10の開口13を挟んで筐体2の先端部2Cと反対側に設けられ、矩形の第2の長辺に相当する導体部分12Dと、導体部分12Aの両端と導体部分12Dの両端とを接続する、矩形の第1および第2の短辺にそれぞれ相当する導体部分12B,12Cとを含む。導体部分12B〜12Dおよび開口13は磁性体シート14と重なっているが、筐体2の先端部2Cに面した導体部分12Aは磁性体シート14と重なっていない。
【0026】
図5〜図9を参照して後述するように、コイル導体12のうち磁性体シート14と重なっていない部分の少なくとも一部を、筐体2の先端部2Cに面する位置に配置することによって、先端部2C方向への指向性を高めることができる。
【0027】
なお、図2に示すような矩形状のコイルアンテナ10の場合には、矩形の長辺に対応する導体部分12Aを筐体2の先端部2Cに面する位置に配置するほうが、短辺に対応する導体部分を先端部2Cに面する位置に配置するよりも、より先端部2C方向への指向性を増すことができるので望ましい。すなわち、コイル導体12のうち、導体部分12A,12Dの周方向に沿った長さは、導体部分12B,12Cの周方向に沿った長さよりも長いほうが好ましい。
【0028】
図3は、コイルアンテナ10のより詳細な構成を示す図である。
図3を参照して、本実施例のコイルアンテナ10は、複数の平面アンテナを積層することによって構成することができる。すなわち、基材シート11_1の表面に設けられたコイル導体12_1と、基材シート11_2の表面に設けられたコイル導体12_2とを層間接続導体(ビア導体)16Aで接続することで、全体として平面状のコイルアンテナ10を構成することができる。
【0029】
ここで、コイル導体12_1とコイル導体12_2とは、共通の巻回軸を有し、平面視して開口が重なるように配置されるとともに、同方向に電流が流れるように同方向に巻回されている。コイル導体12_1,12_2の直列接続体の一端は給電電極15Aに接続されており、他端はビア導体16Bを介して給電電極15Bに接続されている。磁性体シート14は、基材シート11_1の表面に、コイルアンテナ10のコイル導体12_1を部分的に覆うように設けられている。
【0030】
図4は、図3のコイルアンテナ10の変形例としてのコイルアンテナ10Aの構成を示す図である。図4のコイルアンテナ10Aは、コイル導体12_1,12_2間を接続するビア導体16Aが設けられていない点で、図3のコイルアンテナ10と異なる。図4に示すように、コイルアンテナ10Aを平面視したときにコイル導体12_1とコイル導体12_2とを重なるように積層し、コイル導体12_1とコイル導体12_2との間に形成される容量を利用して、コイル導体12_1とコイル導体12_2とが接続される。図4のその他の点は図3の場合と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0031】
[コイルアンテナ10の作用効果]
まず、リーダライタ側のコイルアンテナと携帯通信端末側のコイルアンテナとのなす角度について定義する。
【0032】
図5は、リーダライタ側のコイルアンテナ20と携帯通信端末側のコイルアンテナ10との角度について説明するための図である。図5に示すように、端末装置内のプリント基板3上にコイルアンテナ10が取付けられているとする。この場合、端末側のコイルアンテナ10のアンテナ面(巻回軸に垂直な方向の面)を、リーダライタ側のコイルアンテナ20のアンテナ面(平面コイルアンテナの平面方向)に対向するようにかざす場合(図5(A))を0°、垂直するようにかざす場合(図5(C))を90°として定義する。図5(B)の場合は、アンテナ間のなす角度が45°の場合である。
【0033】
図6は、端末装置側のコイルアンテナ10において、コイル導体12と磁性体シート14との位置関係を示す図である。いずれの図もZ方向からコイルアンテナを平面視した場合を示している。図の上方(−X方向)が端末装置の先端部側であり、図の下方(+X方向)が端末装置の基端部側である。
【0034】
図6(A)は、コイル導体12と開口13の全てが磁性体シート14によって覆われている場合を示す。図6(B)は、先端部に面する導体部分12Aのみ磁性体シート14によって覆われておらず、その他の部分が磁性体シート14によって覆われている場合を示す。図6(C)は、コイル導体12および開口13のうち基端部寄りの半分の部分が磁性体シート14によって覆われている場合を示す。図6(D)は、図6(C)よりもさらに磁性体シート14によって覆われている部分を減らした場合を示し、図6(E)は、コイルアンテナ10に磁性体シート14が貼り付けられていない場合を示す。図6(F)は、導体部分12A,12B,12Cが磁性体シート14によって覆われておらず、開口13と基端部寄りの導体部分12Dが磁性体シート14によって覆われている場合を示す。
【0035】
図7は、図6の(A),(B),(C),(D)の各場合において、リーダライタ側のコイルアンテナ20と端末装置側のコイルアンテナ10との結合係数を計算した結果を示す図である。
【0036】
図6、図7を参照して、図6(A)のようにコイル導体12と開口13の全てを磁性体シート14で覆った場合には、コイル間の角度が0°の場合の結合係数は他の場合に比べて大きくなるが、斜め方向(45°〜90°)の結合係数は他の場合に比べて劣化する。図6(B),(C),(D)のように、基端部側の領域は磁性体シート14で覆うが先端部側の領域を磁性体シート14で覆わないようにした場合は、斜め方向(45°〜90°)の結合係数が図6(A)の場合に比べて向上する。
【0037】
特に、図6(B)のように、先端部に面する導体部分12Aのみ磁性体シート14によって覆われておらず、その他の部分が磁性体シート14によって覆われている場合が、45°〜90°における結合係数が最も大きくなる。図6(B)の場合は、コイル導体12の短手方向の外径寸法をT1、磁性体シート14の短手方向の寸法をT2、コイル導体12の幅をT3としたとき、T2+T3=T1となる。このような関係を満たすように磁性体シート14を貼り付けることが好ましい。
【0038】
図8は、図6の(B),(E),(F)の各場合において、リーダライタ側のコイルアンテナ20と端末装置側のコイルアンテナ10との結合係数を計算した結果を示す図である。
【0039】
図6、図8を参照して、矩形の短辺に相当する導体部分12B,12Cが磁性体シート14によって覆われている場合(図6(B))と、覆われていない場合(図6(F))とでは結合係数にほとんど差がないことがわかる。すなわち、先端部に面する導体部分12Aを磁性体シート14で覆わないようにするとともに、開口13および開口13を挟んで先端部と反対側の導体部分12Dを磁性体シート14で覆うようにすれば十分である。導体部分12B,12Cを磁性体シート14で覆わないようにすることで磁性体シート14を節約できる。
【0040】
なお、コイルアンテナ10に磁性体シート14が貼り付けられていない場合(図6(E))には、斜め方向(45°〜90°)の結合係数が図6(B),(F)に比べて劣化する。
【0041】
図9は、図7、図8で示した計算結果が得られる理由を説明するための図である。図9(A),(B)はアンテナ間の角度が45°の場合を示し、図9(C),(D)はアンテナ間の角度が90°の場合を示す。図9(A),図9(C)は、図6(A)の場合にようにコイルアンテナ10の全領域に磁性体シート14を貼り付けた場合を示し、図9(B),図9(D)は、図6(B)または(F)の場合のように先端部に面する導体部分12Aには磁性体シート14を貼り付けていない場合を示す。
【0042】
コイルアンテナ10の全領域に磁性体シート14を貼り付けた場合において、アンテナ面に対して45°〜90°の方向から磁束FLがコイルアンテナに到達したときは、磁束がコイルの開口13を通過せずに、磁性体シート14の面内を磁束が通過する割合が増加する(図9(A),(C)参照)。
【0043】
これに対して、先端部に面した導体部分12Aに磁性体シート14を貼り付けないようにすると、アンテナ面に対して45°〜90°の方向から磁束FLがコイルアンテナに到達した場合でも磁束がコイルの開口13を通過するようになる(図9(B),(D)参照)。この結果、コイル間の結合係数が増加したと考えられる。
【0044】
[変形例]
図2では、コイルアンテナ10の巻回軸方向から見て、コイル導体12の外周の形状が矩形の場合を示したが、コイル導体12の外周の形状は矩形に限定されるものでない。たとえば、図10、図11に示すように、コイル導体12の外周の形状が、平行四辺形などの四角形もしくは、4本の直線または曲線(少なくとも1本が曲線である)によって構成された擬似四角形の形状であってもよいし、その他の多角形または擬似多角形の形状であってもよい。
【0045】
図10は、図2のコイルアンテナ10の第1の変形例を示す平面図である。
図10を参照して、筐体102の先端部102Cの形状は、図面左方向(−X方向)に突出した曲面形状である点で図2の筐体2の先端部2Cの形状と異なる。コイルアンテナ10Bを構成するコイル導体12のうち、擬似四角形の第1の辺に対応する導体部分12Aの外周は、この先端部102Cに沿うような曲線形状を有している。磁性体シート14は、導体部分12Aと重ならないように配置されるので、磁性体シート14のうち線端部102Cに面する端部も曲線状になっている。導体部分12Aを先端部102Cに沿うような形状とすることによって、筐体102の先端部102Cの方向へのコイルアンテナ10Bの指向性を高めることができる。
【0046】
図10のその他の部分は図2〜図9を参照して説明したコイルアンテナ10の場合と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。たとえば、図10の場合においても、コイル導体12のうち導体部分12A,12Dの周方向の長さは、導体部分12B,12Dの周方向の長さよりも長いほうが好ましい。筐体102の先端部102Cに沿った導体部分12Aの長さをより長くすることによって、先端部102Cの方向への指向性を高めることができる。
【0047】
図11は、図2のコイルアンテナ10の第2の変形例を示す平面図である。
図11を参照して、プリント基板3にはコイルアンテナ10Cに近接して電子部品5I,5Jが設けられる。コイルアンテナ10C(基材シート11、コイル導体12、開口13、および磁性体シート14)の形状は、これらの電子部品5I,5Jの避けるように平行四辺形となっている。図11のその他の点は図2〜図9を参照して説明したコイルアンテナ10の場合と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0048】
[ピア・ツー・ピア接続への適用例]
本実施の形態で示したコイルアンテナ10を搭載した通信端末装置間で、ピア・ツー・ピア接続を行なう場合について説明する。
【0049】
図12は、水平面に対して斜め方向に携帯端末1A,1Bを傾けてピア・ツー・ピア接続を行なう場合を示す図である。
【0050】
図13は、携帯端末1A,1Bを水平にしてピア・ツー・ピア接続を行なう場合を示す図である。図12(B)、図13(B)は、各場合においてコイルアンテナ10の位置関係を示す断面図である。
【0051】
ピア・ツー・ピア接続を行なう場合は、通常、図12または図13のようなコイルアンテナ10の配置になる。本実施の形態によるコイルアンテナの場合には、アンテナ面に対して45°〜90°の方向の指向性が従来よりも増加するので、十分な通信距離を確保することができる。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1,1A,1B 通信端末装置、2,102 筐体、2A 正面、2B 裏面、2C,102C 先端部、2D 基端部、3 プリント基板、4 グランド層、10,10A,10B,10C コイルアンテナ、11 基材シート、12 コイル導体、12A〜12D 導体部分、13 開口、14 磁性体シート、15A,15B 給電電極、16A,16B ビア導体、LD 長手方向。
【技術分野】
【0001】
この発明は、コイルアンテナを備えた通信端末装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リーダライタとRFID(Radio Frequency Identification)タグとを非接触方式で通信させ、リーダライタとRFIDタグとの間で情報を伝達するRFIDシステムが知られている。こうしたRFIDシステムにおいて、RFIDタグは、無線信号を処理するためのRFIC素子と高周波信号を送受するためのアンテナとを備えている。ここで、たとえばHF帯のRFIDシステムであれば、高周波信号は主に磁界を利用して伝搬する。したがって、HF帯のRFIDシステムには、平面コイルアンテナが利用されることが多い。
【0003】
ただし、この平面コイルアンテナは、近くに金属体があると、磁界がこの金属体にて渦電流として失われてしまうため、十分な通信距離が得られない。そこで、たとえば特開2003−108966号公報(特許文献1)には、コイル導体に磁性体シートを部分的に貼り付けることにより、金属物の影響を抑制する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−108966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、RFIDシステムを搭載した携帯通信端末が普及している。RFIDシステムの用途の1つに携帯端末同士のピア・ツー・ピア(Peer to Peer)接続がある(図10(A)、図11(A)を参照)。ピア・ツー・ピア接続では、携帯端末の長手方向への通信距離を十分に確保できるようにすることが望ましい。
【0006】
しかしながら、上記の平面コイルアンテナは、通常、プリント基板上または筐体の内面(表面側または裏面側)に取付けられる。したがって、プリント基板に垂直な方向(筐体の長手方向と直交する方向)に強い指向性を有するが、筐体の長手方向には十分な通信距離を確保できない。
【0007】
このように、RFIDシステムを携帯通信端末に搭載する場合には、コイルアンテナの指向性の制御が求められるのであるが、これまで余り検討されていない。たとえば、前述の特開2003−108966号公報(特許文献1)には、コイルアンテナの指向性について具体的に開示されていない。
【0008】
この発明の目的は、コイルアンテナを搭載した通信端末装置において、コイルアンテナ近傍に設けられた金属物の影響を抑制するとともに、通信端末装置の長手方向へのコイルアンテナの指向性を従来よりも高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の一局面による通信端末装置は、長手方向を有する筐体と、コイルアンテナと、磁性体シートとを備える。コイルアンテナは、筐体の長手方向の先端部に近接して設けられ、長手方向と平行な1層または積層された複数層の平面コイルを含む。磁性体シートは、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、コイルアンテナを構成するコイル導体と部分的に重なるように、コイルアンテナに貼り付けられる。具体的には、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、コイル導体の一部は、最外周から最内周に至るまで磁性体シートと重なっていない。コイル導体のうち磁性体シートと重なっていない部分の少なくとも一部は、筐体の先端部に面する位置に配置される。
【0010】
好ましくは、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、コイル導体のうち磁性体シートと重なっている部分の少なくとも一部は、コイルアンテナの開口はさんで先端部と反対側に配置される。
【0011】
好ましくは、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、コイル導体の外周の形状は、4本の直線または曲線によって構成された四角形または擬似四角形の形状である。この場合、コイル導体は、筐体の先端部に面する位置に配置され、四角形または擬似四角形の第1の辺に対応する第1の部分と、コイルアンテナの開口を挟んで筐体の先端部と反対側に設けられ、四角形または擬似四角形の第2の辺に対応する第2の部分と、第1の部分の両端と第2の部分の両端とを接続する、四角形または擬似四角形の第3および第4の辺にそれぞれ対応する第3および第4の部分とを含む。コイルアンテナの巻回軸方向から見て、第1の部分は磁性体シートと重なっておらず、第2の部分は磁性体シートと重なっている。
【0012】
好ましくは、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、第3および第4の部分は磁性体シートと重なっていない。
【0013】
好ましくは、第1および第2の部分の周方向に沿った長さは、第3および第4の部分の周方向に沿った長さよりも長い。
【0014】
好ましくは、コイルアンテナの巻回軸方向から見て、コイルアンテナの開口は全て磁性体シートと重なっている。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、コイルアンテナに磁性体シートが部分的に貼り付けられるとともに、コイル導体のうち磁性体シートと重なっていない部分は、筐体の先端部に面する位置に配置される。この結果、コイルアンテナ近傍に設けられた金属物の影響を抑制するとともに、通信端末装置の先端部方向へのコイルアンテナの指向性を従来よりも高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の一形態による通信端末装置1の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】図1のコイルアンテナ10の部分を拡大して示した平面図である。
【図3】コイルアンテナ10のより詳細な構成を示す図である。
【図4】図3のコイルアンテナ10の変形例としてのコイルアンテナ10Aの構成を示す図である。
【図5】リーダライタ側のコイルアンテナ20と携帯通信端末側のコイルアンテナ10との角度について説明するための図である。
【図6】端末装置側のコイルアンテナ10において、コイル導体12と磁性体シート14との位置関係を示す図である。
【図7】図6の(A),(B),(C),(D)の各場合において、リーダライタ側のコイルアンテナ20と端末装置側のコイルアンテナ10との結合係数を計算した結果を示す図である。
【図8】図6の(B),(E),(F)の各場合において、リーダライタ側のコイルアンテナ20と端末装置側のコイルアンテナ10との結合係数を計算した結果を示す図である。
【図9】図7、図8で示した計算結果が得られる理由を説明するための図である。
【図10】図2のコイルアンテナ10の第1の変形例を示す平面図である。
【図11】図2のコイルアンテナ10の第2の変形例を示す平面図である。
【図12】水平面に対して斜め方向に携帯端末1A,1Bを傾けてピア・ツー・ピア接続を行なう場合を示す図である。
【図13】携帯端末1A,1Bを水平にしてピア・ツー・ピア接続を行なう場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰返さない。
【0018】
[通信端末装置の概略構成]
図1は、この発明の実施の一形態による通信端末装置1の構成を模式的に示す断面図である。
【0019】
図1を参照して、通信端末装置1は、直方体の形状を有する筐体2と、筐体2の内部に設けられたプリント基板3と、コイルアンテナ10とを含む。コイルアンテナ10は、たとえば13.56MHzのようなHF帯RFIDシステム用のアンテナである。以下、筐体2の長手方向LDをX方向とし、筐体2の正面2Aおよび裏面2BをXY平面に沿うものとする。筐体2の正面2Aおよび裏面2Bに垂直な方向をZ方向とする。筐体の先端部2Cは図1の左側(−X方向)に配置され、筐体の基端部2Dは図1の右側(+X方向)に配置される。
【0020】
なお、この発明が適用される通信端末装置の形状は、直方体に限られるものでなく、長手方向を有する形状であればどのような形状でもよい。たとえば、先端部2Cの形状は、外部方向に膨らんだ曲面形状であってもよい。
【0021】
プリント基板3は、XY平面に沿って設けられ、内部にグランド層4を有する。プリント基板3の正面側および裏面側には、抵抗素子やコンデンサなどの複数の電子部品5A〜5H、集積回路6A〜6C、およびバッテリーパック7が搭載される。
【0022】
コイルアンテナ10は、筐体2の先端部2Cに近接して設けられる。具体的には、コイルアンテナ10は、筐体2の裏面2Bの内側に絶縁性接着材を用いて貼り付けられる。コイルアンテナ10に設けられた給電端子とプリント基板3上の配線とを電気的に接続するために給電ピン8が設けられる。
【0023】
[コイルアンテナの構成]
図2は、図1のコイルアンテナ10の部分を拡大して示した平面図である。図2を参照して、コイルアンテナ10は、熱可塑性樹脂などの誘電体からなる基材シート11と、基材シート11に形成されたコイル導体12と、コイル導体12の両端部に設けられた給電電極15A,15Bと、基材シート11上に貼り付けられたフェライトなどからなる磁性体シート14とを含む。図2では、図解を容易にするために磁性体シート14にハッチングを付している。図2に示すように、コイル導体12はXY平面に沿って設けられ、コイルアンテナ10の巻回軸はZ軸方向である。
【0024】
Z方向から見て、磁性体シート14は、コイル導体12と部分的に重なるように基材シート11上に貼り付けられる。具体的には、コイル導体12の一部が、最外周から最内周に至るまで磁性体シート14と重なっていない。そして、コイル導体12のうち磁性体シート14と重なっていない部分は、筐体2の先端部2Cに面する位置に配置される。コイル導体12のうち磁性体シート14と重なっている部分の一部は、コイルアンテナ10の開口13を挟んで先端部2Cと反対側に配置される。
【0025】
図2の場合には、Z軸方向から見たコイル導体12の外周の形状は矩形状である。コイル導体12は、筐体2の先端部2Cに面する位置に配置され、矩形の第1の長辺に相当する導体部分12Aと、コイルアンテナ10の開口13を挟んで筐体2の先端部2Cと反対側に設けられ、矩形の第2の長辺に相当する導体部分12Dと、導体部分12Aの両端と導体部分12Dの両端とを接続する、矩形の第1および第2の短辺にそれぞれ相当する導体部分12B,12Cとを含む。導体部分12B〜12Dおよび開口13は磁性体シート14と重なっているが、筐体2の先端部2Cに面した導体部分12Aは磁性体シート14と重なっていない。
【0026】
図5〜図9を参照して後述するように、コイル導体12のうち磁性体シート14と重なっていない部分の少なくとも一部を、筐体2の先端部2Cに面する位置に配置することによって、先端部2C方向への指向性を高めることができる。
【0027】
なお、図2に示すような矩形状のコイルアンテナ10の場合には、矩形の長辺に対応する導体部分12Aを筐体2の先端部2Cに面する位置に配置するほうが、短辺に対応する導体部分を先端部2Cに面する位置に配置するよりも、より先端部2C方向への指向性を増すことができるので望ましい。すなわち、コイル導体12のうち、導体部分12A,12Dの周方向に沿った長さは、導体部分12B,12Cの周方向に沿った長さよりも長いほうが好ましい。
【0028】
図3は、コイルアンテナ10のより詳細な構成を示す図である。
図3を参照して、本実施例のコイルアンテナ10は、複数の平面アンテナを積層することによって構成することができる。すなわち、基材シート11_1の表面に設けられたコイル導体12_1と、基材シート11_2の表面に設けられたコイル導体12_2とを層間接続導体(ビア導体)16Aで接続することで、全体として平面状のコイルアンテナ10を構成することができる。
【0029】
ここで、コイル導体12_1とコイル導体12_2とは、共通の巻回軸を有し、平面視して開口が重なるように配置されるとともに、同方向に電流が流れるように同方向に巻回されている。コイル導体12_1,12_2の直列接続体の一端は給電電極15Aに接続されており、他端はビア導体16Bを介して給電電極15Bに接続されている。磁性体シート14は、基材シート11_1の表面に、コイルアンテナ10のコイル導体12_1を部分的に覆うように設けられている。
【0030】
図4は、図3のコイルアンテナ10の変形例としてのコイルアンテナ10Aの構成を示す図である。図4のコイルアンテナ10Aは、コイル導体12_1,12_2間を接続するビア導体16Aが設けられていない点で、図3のコイルアンテナ10と異なる。図4に示すように、コイルアンテナ10Aを平面視したときにコイル導体12_1とコイル導体12_2とを重なるように積層し、コイル導体12_1とコイル導体12_2との間に形成される容量を利用して、コイル導体12_1とコイル導体12_2とが接続される。図4のその他の点は図3の場合と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0031】
[コイルアンテナ10の作用効果]
まず、リーダライタ側のコイルアンテナと携帯通信端末側のコイルアンテナとのなす角度について定義する。
【0032】
図5は、リーダライタ側のコイルアンテナ20と携帯通信端末側のコイルアンテナ10との角度について説明するための図である。図5に示すように、端末装置内のプリント基板3上にコイルアンテナ10が取付けられているとする。この場合、端末側のコイルアンテナ10のアンテナ面(巻回軸に垂直な方向の面)を、リーダライタ側のコイルアンテナ20のアンテナ面(平面コイルアンテナの平面方向)に対向するようにかざす場合(図5(A))を0°、垂直するようにかざす場合(図5(C))を90°として定義する。図5(B)の場合は、アンテナ間のなす角度が45°の場合である。
【0033】
図6は、端末装置側のコイルアンテナ10において、コイル導体12と磁性体シート14との位置関係を示す図である。いずれの図もZ方向からコイルアンテナを平面視した場合を示している。図の上方(−X方向)が端末装置の先端部側であり、図の下方(+X方向)が端末装置の基端部側である。
【0034】
図6(A)は、コイル導体12と開口13の全てが磁性体シート14によって覆われている場合を示す。図6(B)は、先端部に面する導体部分12Aのみ磁性体シート14によって覆われておらず、その他の部分が磁性体シート14によって覆われている場合を示す。図6(C)は、コイル導体12および開口13のうち基端部寄りの半分の部分が磁性体シート14によって覆われている場合を示す。図6(D)は、図6(C)よりもさらに磁性体シート14によって覆われている部分を減らした場合を示し、図6(E)は、コイルアンテナ10に磁性体シート14が貼り付けられていない場合を示す。図6(F)は、導体部分12A,12B,12Cが磁性体シート14によって覆われておらず、開口13と基端部寄りの導体部分12Dが磁性体シート14によって覆われている場合を示す。
【0035】
図7は、図6の(A),(B),(C),(D)の各場合において、リーダライタ側のコイルアンテナ20と端末装置側のコイルアンテナ10との結合係数を計算した結果を示す図である。
【0036】
図6、図7を参照して、図6(A)のようにコイル導体12と開口13の全てを磁性体シート14で覆った場合には、コイル間の角度が0°の場合の結合係数は他の場合に比べて大きくなるが、斜め方向(45°〜90°)の結合係数は他の場合に比べて劣化する。図6(B),(C),(D)のように、基端部側の領域は磁性体シート14で覆うが先端部側の領域を磁性体シート14で覆わないようにした場合は、斜め方向(45°〜90°)の結合係数が図6(A)の場合に比べて向上する。
【0037】
特に、図6(B)のように、先端部に面する導体部分12Aのみ磁性体シート14によって覆われておらず、その他の部分が磁性体シート14によって覆われている場合が、45°〜90°における結合係数が最も大きくなる。図6(B)の場合は、コイル導体12の短手方向の外径寸法をT1、磁性体シート14の短手方向の寸法をT2、コイル導体12の幅をT3としたとき、T2+T3=T1となる。このような関係を満たすように磁性体シート14を貼り付けることが好ましい。
【0038】
図8は、図6の(B),(E),(F)の各場合において、リーダライタ側のコイルアンテナ20と端末装置側のコイルアンテナ10との結合係数を計算した結果を示す図である。
【0039】
図6、図8を参照して、矩形の短辺に相当する導体部分12B,12Cが磁性体シート14によって覆われている場合(図6(B))と、覆われていない場合(図6(F))とでは結合係数にほとんど差がないことがわかる。すなわち、先端部に面する導体部分12Aを磁性体シート14で覆わないようにするとともに、開口13および開口13を挟んで先端部と反対側の導体部分12Dを磁性体シート14で覆うようにすれば十分である。導体部分12B,12Cを磁性体シート14で覆わないようにすることで磁性体シート14を節約できる。
【0040】
なお、コイルアンテナ10に磁性体シート14が貼り付けられていない場合(図6(E))には、斜め方向(45°〜90°)の結合係数が図6(B),(F)に比べて劣化する。
【0041】
図9は、図7、図8で示した計算結果が得られる理由を説明するための図である。図9(A),(B)はアンテナ間の角度が45°の場合を示し、図9(C),(D)はアンテナ間の角度が90°の場合を示す。図9(A),図9(C)は、図6(A)の場合にようにコイルアンテナ10の全領域に磁性体シート14を貼り付けた場合を示し、図9(B),図9(D)は、図6(B)または(F)の場合のように先端部に面する導体部分12Aには磁性体シート14を貼り付けていない場合を示す。
【0042】
コイルアンテナ10の全領域に磁性体シート14を貼り付けた場合において、アンテナ面に対して45°〜90°の方向から磁束FLがコイルアンテナに到達したときは、磁束がコイルの開口13を通過せずに、磁性体シート14の面内を磁束が通過する割合が増加する(図9(A),(C)参照)。
【0043】
これに対して、先端部に面した導体部分12Aに磁性体シート14を貼り付けないようにすると、アンテナ面に対して45°〜90°の方向から磁束FLがコイルアンテナに到達した場合でも磁束がコイルの開口13を通過するようになる(図9(B),(D)参照)。この結果、コイル間の結合係数が増加したと考えられる。
【0044】
[変形例]
図2では、コイルアンテナ10の巻回軸方向から見て、コイル導体12の外周の形状が矩形の場合を示したが、コイル導体12の外周の形状は矩形に限定されるものでない。たとえば、図10、図11に示すように、コイル導体12の外周の形状が、平行四辺形などの四角形もしくは、4本の直線または曲線(少なくとも1本が曲線である)によって構成された擬似四角形の形状であってもよいし、その他の多角形または擬似多角形の形状であってもよい。
【0045】
図10は、図2のコイルアンテナ10の第1の変形例を示す平面図である。
図10を参照して、筐体102の先端部102Cの形状は、図面左方向(−X方向)に突出した曲面形状である点で図2の筐体2の先端部2Cの形状と異なる。コイルアンテナ10Bを構成するコイル導体12のうち、擬似四角形の第1の辺に対応する導体部分12Aの外周は、この先端部102Cに沿うような曲線形状を有している。磁性体シート14は、導体部分12Aと重ならないように配置されるので、磁性体シート14のうち線端部102Cに面する端部も曲線状になっている。導体部分12Aを先端部102Cに沿うような形状とすることによって、筐体102の先端部102Cの方向へのコイルアンテナ10Bの指向性を高めることができる。
【0046】
図10のその他の部分は図2〜図9を参照して説明したコイルアンテナ10の場合と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。たとえば、図10の場合においても、コイル導体12のうち導体部分12A,12Dの周方向の長さは、導体部分12B,12Dの周方向の長さよりも長いほうが好ましい。筐体102の先端部102Cに沿った導体部分12Aの長さをより長くすることによって、先端部102Cの方向への指向性を高めることができる。
【0047】
図11は、図2のコイルアンテナ10の第2の変形例を示す平面図である。
図11を参照して、プリント基板3にはコイルアンテナ10Cに近接して電子部品5I,5Jが設けられる。コイルアンテナ10C(基材シート11、コイル導体12、開口13、および磁性体シート14)の形状は、これらの電子部品5I,5Jの避けるように平行四辺形となっている。図11のその他の点は図2〜図9を参照して説明したコイルアンテナ10の場合と同じであるので、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。
【0048】
[ピア・ツー・ピア接続への適用例]
本実施の形態で示したコイルアンテナ10を搭載した通信端末装置間で、ピア・ツー・ピア接続を行なう場合について説明する。
【0049】
図12は、水平面に対して斜め方向に携帯端末1A,1Bを傾けてピア・ツー・ピア接続を行なう場合を示す図である。
【0050】
図13は、携帯端末1A,1Bを水平にしてピア・ツー・ピア接続を行なう場合を示す図である。図12(B)、図13(B)は、各場合においてコイルアンテナ10の位置関係を示す断面図である。
【0051】
ピア・ツー・ピア接続を行なう場合は、通常、図12または図13のようなコイルアンテナ10の配置になる。本実施の形態によるコイルアンテナの場合には、アンテナ面に対して45°〜90°の方向の指向性が従来よりも増加するので、十分な通信距離を確保することができる。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1,1A,1B 通信端末装置、2,102 筐体、2A 正面、2B 裏面、2C,102C 先端部、2D 基端部、3 プリント基板、4 グランド層、10,10A,10B,10C コイルアンテナ、11 基材シート、12 コイル導体、12A〜12D 導体部分、13 開口、14 磁性体シート、15A,15B 給電電極、16A,16B ビア導体、LD 長手方向。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向を有する筐体と、
前記筐体の長手方向の先端部に近接して設けられ、前記長手方向と平行な1層または積層された複数層の平面コイルを含むコイルアンテナと、
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記コイルアンテナを構成するコイル導体と部分的に重なるように、前記コイルアンテナに貼り付けられた磁性体シートとを備え、
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記コイル導体の一部は、最外周から最内周に至るまで前記磁性体シートと重なっておらず、
前記コイル導体のうち前記磁性体シートと重なっていない部分の少なくとも一部は、前記筐体の前記先端部に面する位置に配置される、通信端末装置。
【請求項2】
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記コイル導体のうち前記磁性体シートと重なっている部分の少なくとも一部は、前記コイルアンテナの開口はさんで前記先端部と反対側に配置される、請求項1に記載の通信端末装置。
【請求項3】
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記コイル導体の外周の形状は、4本の直線または曲線によって構成された四角形または擬似四角形の形状であり、
前記コイル導体は、
前記筐体の前記先端部に面する位置に配置され、四角形または擬似四角形の第1の辺に対応する第1の部分と、
前記コイルアンテナの開口を挟んで前記筐体の前記先端部と反対側に設けられ、四角形または擬似四角形の第2の辺に対応する第2の部分と、
前記第1の部分の両端と前記第2の部分の両端とを接続する、四角形または擬似四角形の第3および第4の辺にそれぞれ対応する第3および第4の部分とを含み、
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記第1の部分は前記磁性体シートと重なっておらず、前記第2の部分は前記磁性体シートと重なっている、請求項1に記載の通信端末装置。
【請求項4】
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記第3および第4の部分は前記磁性体シートと重なっていない、請求項3に記載の通信端末装置。
【請求項5】
前記第1および第2の部分の周方向に沿った長さは、前記第3および第4の部分の周方向に沿った長さよりも長い、請求項3または4に記載の通信端末装置。
【請求項6】
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記コイルアンテナの開口は全て前記磁性体シートと重なっている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の通信端末装置。
【請求項1】
長手方向を有する筐体と、
前記筐体の長手方向の先端部に近接して設けられ、前記長手方向と平行な1層または積層された複数層の平面コイルを含むコイルアンテナと、
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記コイルアンテナを構成するコイル導体と部分的に重なるように、前記コイルアンテナに貼り付けられた磁性体シートとを備え、
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記コイル導体の一部は、最外周から最内周に至るまで前記磁性体シートと重なっておらず、
前記コイル導体のうち前記磁性体シートと重なっていない部分の少なくとも一部は、前記筐体の前記先端部に面する位置に配置される、通信端末装置。
【請求項2】
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記コイル導体のうち前記磁性体シートと重なっている部分の少なくとも一部は、前記コイルアンテナの開口はさんで前記先端部と反対側に配置される、請求項1に記載の通信端末装置。
【請求項3】
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記コイル導体の外周の形状は、4本の直線または曲線によって構成された四角形または擬似四角形の形状であり、
前記コイル導体は、
前記筐体の前記先端部に面する位置に配置され、四角形または擬似四角形の第1の辺に対応する第1の部分と、
前記コイルアンテナの開口を挟んで前記筐体の前記先端部と反対側に設けられ、四角形または擬似四角形の第2の辺に対応する第2の部分と、
前記第1の部分の両端と前記第2の部分の両端とを接続する、四角形または擬似四角形の第3および第4の辺にそれぞれ対応する第3および第4の部分とを含み、
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記第1の部分は前記磁性体シートと重なっておらず、前記第2の部分は前記磁性体シートと重なっている、請求項1に記載の通信端末装置。
【請求項4】
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記第3および第4の部分は前記磁性体シートと重なっていない、請求項3に記載の通信端末装置。
【請求項5】
前記第1および第2の部分の周方向に沿った長さは、前記第3および第4の部分の周方向に沿った長さよりも長い、請求項3または4に記載の通信端末装置。
【請求項6】
前記コイルアンテナの巻回軸方向から見て、前記コイルアンテナの開口は全て前記磁性体シートと重なっている、請求項1〜5のいずれか1項に記載の通信端末装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−226474(P2012−226474A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−91981(P2011−91981)
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月18日(2011.4.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】
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