説明

通信装置、共振回路、及び、制御電圧の印加方法

【課題】 強誘電体材料を用いた可変容量素子を有する共振アンテナの共振周波数を、長期間、安定して制御する。
【解決手段】 通信装置は、共振アンテナと、制御電圧発生部とを備える構成とし、各部を次のように構成する。共振アンテナは、強誘電体材料で形成された誘電体部を有する可変容量素子を含み、外部と非接触通信を行う。そして、制御電圧発生部は、可変容量素子の容量を制御する制御電圧を生成し、生成した制御電圧を可変容量素子の誘電体部に印加し、かつ、誘電体部に印加する制御電圧の印加方向を所定のタイミングで反転させる

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可変容量素子に制御電圧を印加して共振アンテナの共振周波数を調整する機能を備えた通信装置、共振回路、及び、制御電圧の印加方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば交通乗車券や電子マネー等で使用される非接触IC(Integrated Circuit)カードや、非接触ICカードと同等の機能を備える情報処理端末などの通信装置の普及が著しい。このような通信装置では、専用のリーダ/ライタ(以下、R/Wと記す)装置の送信アンテナから放射される送信信号(電磁波)を通信装置内に設けられた受信アンテナ(共振回路)で電磁誘導作用により受信する。
【0003】
上述のような非接触通信機能を備える通信装置では、従来、受信アンテナに可変容量コンデンサ(可変容量素子)を設けて、受信アンテナの共振周波数を調整する技術が提案されている。そして、そのような可変容量コンデンサとしては、例えばバリキャップと呼ばれる可変容量ダイオードや、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサなどが用いられる。
【0004】
また、従来、上述のような可変容量コンデンサを備える共振アンテナでは、その受信特性の改善するための様々な技術が提案されている(例えば特許文献1及び2参照)。
【0005】
特許文献1には、非接触通信装置において、共振アンテナで受信した信号に基づいて生成した直流電圧を、共振回路を構成する可変容量コンデンサにフィードバックすることにより、通信ヌル特性を改善する技術が提案されている。
【0006】
また、特許文献2には、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサのヒステリシス特性(制御電圧の印加履歴特性)の影響を解消するための技術が提案されている。
【0007】
強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサでは、可変容量コンデンサに制御電圧を印加することにより、その容量が変化する。しかしながら、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサでは、その容量は現在印加されている制御電圧のみで決定されず、過去の制御電圧の印加履歴(ヒステリシス特性)の影響を受ける。より具体的には、可変容量コンデンサの制御電圧に対する容量の変化特性が、制御電圧を0Vから所定の制御電圧Vccに上昇させたときと、所定の制御電圧Vccから0Vに低下させたときとで、異なる。
【0008】
それゆえ、特許文献2では、このようなヒステリシス特性の影響を解消するために、可変容量コンデンサの飽和電圧以上の制御電圧を一旦印加してから、可変容量コンデンサを制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特願2008−199536号公報
【特許文献2】特開2001−77437号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、非接触通信機能を備える通信装置、特に、強誘電体材料を用いた可変容量素子を含む共振アンテナを備える通信装置の技術分野では、共振アンテナの共振周波数を、長期間、安定して制御することができる技術の開発が望まれている。
【0011】
本開示は、上記要望に応えるためになされたものである。本開示の目的は、強誘電体材料を用いた可変容量素子を有する共振アンテナの共振周波数を、長期間、安定して制御することのできる通信装置、共振回路、及び、制御電圧の印加方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本開示の通信装置は、共振アンテナと、制御電圧発生部とを備える構成とし、各部を次のように構成する。共振アンテナは、強誘電体材料で形成された誘電体部を有する可変容量素子を含み、外部と非接触通信を行う。そして、制御電圧発生部は、可変容量素子の容量を制御する制御電圧を生成し、生成した制御電圧を可変容量素子の誘電体部に印加し、かつ、誘電体部に印加する制御電圧の印加方向を所定のタイミングで反転させる。
【0013】
また、本開示の共振回路は、可変容量素子と、制御電圧発生部とを備える構成とし、各部を次のように構成する。可変容量素子は、強誘電体材料で形成された誘電体部を有する。そして、制御電圧発生部は、可変容量素子の容量を制御する制御電圧を生成し、生成した制御電圧を可変容量素子の誘電体部に印加し、かつ、誘電体部に印加する制御電圧の印加方向を所定のタイミングで反転させる。
【0014】
さらに、本開示の制御電圧の印加方法は、上記本開示の通信装置における制御電圧の印加方法であり、次の手順で行う。まず、制御電圧発生部が、誘電体部に対して所定方向に第1の制御電圧を印加する。次いで、制御電圧発生部が、所定方向に第1の制御電圧を印加した後、所定のタイミングで制御電圧の印加方向を反転させて第2の制御電圧を印加する。
【発明の効果】
【0015】
本開示では、上述のように、制御電圧発生部が、所定のタイミングで、可変容量素子に印加する制御電圧の印加方向を反転させる。これにより、本開示では、可変容量素子の容量を長期間、安定して制御する。それゆえ、本開示によれば、強誘電体材料を用いた可変容量素子を有する共振アンテナの共振周波数を、長期間、安定して制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】各種検証試験で用いた測定系の概略回路図である。
【図2】検証試験1の測定結果を示す図である。
【図3】検証試験2で用いた第1制御電圧信号及び第2制御電圧信号の信号波形例である。
【図4】制御電圧3V時、及び、制御電圧0V時における可変容量コンデンサの容量の測定手法を説明するための図である。
【図5】検証試験2で用いた第1制御電圧信号及び第2制御電圧信号の波形図である。
【図6】本開示の実施形態に係る可変容量コンデンサへの制御電圧の印加手法の一例を示す図である。
【図7】本開示の実施形態に係る可変容量コンデンサへの制御電圧の印加処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】検証試験2の正極性条件における容量の可変幅の経時変化を示す模式図である。
【図9】本開示の実施形態に係る制御電圧の印加手法における正極性条件での容量の可変幅の経時変化を示す模式図である。
【図10】本開示の実施形態に係る通信装置及び共振回路の概略回路構成図である。
【図11】可変容量コンデンサの概略構成図である。
【図12】変形例1の通信装置における電圧発生回路付近の概略構成図である。
【図13】変形例2の制御電圧印加手法で用いた第1制御電圧信号及び第2制御電圧信号の信号波形例である。
【図14】変形例2の通信装置における電圧発生回路付近の概略構成図である。
【図15】変形例2における制御電圧の可変手法を説明するための図である。
【図16】変形例2における制御電圧の可変手法を説明するための図である。
【図17】変形例4の制御電圧の印加手法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本開示の実施形態に係る通信装置、共振回路、及び、可変容量素子への制御電圧の印加手法の一例を、図面を参照しながら下記の順で説明する。ただし、本開示は下記の例に限定されない。
1.可変容量コンデンサへの制御電圧の印加手法
2.通信装置及び共振回路の構成例
3.各種変形例
【0018】
<1.可変容量コンデンサへの制御電圧の印加手法>
まず、本開示における可変容量コンデンサ(可変容量素子)への制御電圧の印加手法の原理を説明する前に、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサの性質、及び、その性質に伴い発生する課題について説明する。
【0019】
[強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサの性質と課題]
可変容量コンデンサとして一般的に用いられるバリキャップは、有極性であり(電圧印加方向が決まっている)、耐圧が低いという特徴を有する。それに対して、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサは、極性が無い、耐圧が高い、容量の設定自由度が高いなどの利点を有する。
【0020】
しかしながら、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサは、その強誘電性により、上述したヒステリシスや、容量エージングという性質を有する。なお、容量エージングとは、例えば、放置するだけで可変容量コンデンサの容量が減少したり、制御電圧を印加し続けることにより容量が変化したり、又は、制御電圧を0Vに戻したときの容量が変化したりする性質である。このような容量エージングの影響があると、可変容量コンデンサの容量だけでなく、その可変幅も変化する。
【0021】
すなわち、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサでは、容量の可変特性へのヒステリシス特性(過去の制御電圧の印加履歴特性)の影響が大きいだけでなく、容量エージングの特性(以下、エージング特性という)により容量が低下するなどの欠点がある。さらに、このタイプの可変容量コンデンサは、温度に対する容量の変化が大きいという欠点もある。
【0022】
このような強誘電体材料に特有の性質(ヒステリシス、容量エージング等)に基づく欠点は、可変容量コンデンサによる共振アンテナの共振周波数の安定制御を阻害する要因になる。それゆえ、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサを備える共振アンテナでは、長期間、安定した容量で可変容量コンデンサを動作させることが重要な課題となる。
【0023】
なお、上記特許文献2では、可変容量コンデンサのヒステリシス対策が提案されているが、この手法では、可変容量コンデンサに印加する電圧の大きさ及び印加時間により、可変容量コンデンサの容量が変化する可能性がある。それゆえ、可変容量コンデンサによる共振周波数の安定制御の観点では、特許文献2の手法で十分とは言えない。
【0024】
[待ち受け手法の影響]
また、非接触通信機能を備える通信装置において、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサを適用する場合、受信信号の待ち受け状態の制御手法(以下、待ち受け手法という)により、可変容量コンデンサのエージング特性の影響が変化する。
【0025】
ここで、下記表1に、通信装置で一般に用いられる各種待ち受け手法の特徴及び差異を示す。なお、表1には、信号受信時の共振アンテナの共振周波数が13.56MHzである通信装置の例を示す。また、表1に示す例では、可変容量コンデンサに制御電圧を印加した場合、可変容量コンデンサの容量が低下して共振周波数が高くなる例を示す。
【0026】
【表1】

【0027】
待ち受け手法としては、待ち受け時に、可変容量コンデンサに制御電圧を印加しない手法(表1中の「V_MIN」)と、制御電圧として所定の電圧を印加する手法(表1中の「V_CENTER」、「V_MAX」)とがある。また、制御電圧を印加する手法には、最大電圧(3V)を印加する手法(表1中の「V_MAX」)と、それ以外の所定電圧を印加する手法とがある。なお、表1には、最大電圧以外の所定電圧を印加する手法として、最大電圧(3V)の1/2の電圧(センター電圧:1.5V)を印加する手法の例を示すが、共振回路の共振周波数を予め設定された待ち受け周波数になるように制御電圧を印加する場合もある。そして、表1の最右欄には、通信装置を3年間使用し続けた場合の制御電圧の印加時間の累積値(累計時間)を示す。なお、可変容量コンデンサに制御電圧を印加しない待ち受け手法(表1中の「V_MIN」)における制御電圧の累計時間は、1日当たり18回通信し、その通信時に制御電圧を1秒間印加した場合の値である。
【0028】
可変容量コンデンサに制御電圧を印加しない待ち受け手法(V_MIN)は、例えば電源を備えない非接触ICカード等の通信装置で用いられる待ち受け手法である。この待ち受け手法では、待ち受け時に消費する制御電力は0となる。また、この待ち受け手法では、表1に示すように、通信時間の総計が、制御電圧を印加している累計時間となる。それゆえ、この待ち受け手法では、通信装置の使用時間(3年)に対する制御電圧の印加時間(28時間)が非常に短くなり、上述した可変容量コンデンサのエージング特性の影響は最小となる。
【0029】
なお、表1に示すように、可変容量コンデンサに制御電圧を印加しない待ち受け手法では、待ち受け時の共振周波数は13.10MHzとなり、信号受信時のシステム周波数(13.56MHz)より低くなる。
【0030】
この待ち受け手法では、外部のR/Wから非接触ICカードに送信された13.56MHzのキャリアを受信し整流回路により生成されたDC電圧が非接触ICカード内のRF(Radio Frequency)ICなどに電源として供給される。次いで、制御回路により受信信号から生成された制御電圧が可変容量コンデンサに印加され、最適な通信状態(共振周波数)となり、これにより、通信ヌルが回避される。また、通信ヌルの回避以外に、通信距離の最大化、IC保護のためのデチューンによる受信レベルダウンなど、共振周波数を変化させる目的は複数ある。
【0031】
一方、可変容量コンデンサに所定の制御電圧を印加する待ち受け手法(V_CENTER、V_MAX)は、例えば、非接触通信機能及び電源を備える携帯電話等の通信装置で用いられる待ち受け手法である。
【0032】
可変容量コンデンサにセンター電圧(1.5V)の制御電圧を印加する待ち受け手法(V_CENTER)では、表1に示すように、待ち受け時の共振周波数は13.50MHzとなり、システム周波数(13.56MHz)とほぼ同じ周波数になる。この場合には、より遠方でのキャリア検出が可能になるので、通信距離が延びるという利点がある。しかしながら、この待ち受け手法では、制御電圧の印加時間の累計時間が通信装置の使用時間と同じなる。それゆえ、この待ち受け手法では、制御電圧を印加しない待ち受け手法(V_MIN)に比べて、消費電力が増大し、可変容量コンデンサのエージング特性の影響も大きくなる。
【0033】
また、可変容量コンデンサに最大電圧(3.0V)の制御電圧を印加する待ち受け手法(V_CENTER)では、表1に示すように、待ち受け時の共振周波数は13.90MHzとなり、システム周波数(13.56MHz)より高くなる。この手法では、制御電圧の印加時間の累計時間が通信装置の使用時間と同じなり、消費電力が増大する。ただし、制御電圧印加時に生じる可変容量コンデンサからの漏れ電流の大きさは、制御電圧の大きさに比例しないので、この待ち受け手法での消費電力は、センター電圧の制御電圧を印加する待ち受け手法(V_CENTER)より、非常に大きくなる。また、この待ち受け手法では、可変容量コンデンサに最大電圧を印加するので、可変容量コンデンサのエージング特性の影響が最も大きくなる。しかしながら、回路設計上、電源電圧の最小値(0.0V)及び最大値(3.0V)は、システムLSIがスタンバイ状態であっても容易に発生させることができるので、この待ち受け手法では、低コストという利点がある。
【0034】
上述のように、通信装置の待ち受け手法の違いにより、可変容量コンデンサのエージング特性の影響も変化するので、可変容量コンデンサの容量の安定性も変化する。
【0035】
[検証試験]
そこで、上述した強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサの性質及び課題を具体的に検証するために、実際に、様々な検証試験を行い、制御電圧の印加による可変容量コンデンサの容量変化を調べた。
【0036】
(1)測定系
図1に、以下に説明する各種検証試験で用いる測定系の回路構成を示す。測定系1では、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサ2の一方の端子(第1制御端子2a)に、抵抗3を介して、第1制御電圧信号DC1を入力する。また、可変容量コンデンサ2の他方の端子(第2制御端子2b)には、抵抗4を介して、第2制御電圧信号DC2を入力する。すなわち、測定系1では、可変容量コンデンサ2に印加する検証用の制御電圧を、第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2の2つの信号パルスにより生成する。
【0037】
さらに、測定系1では、可変容量コンデンサ2の両端子を、それぞれ、十分大きな容量を有するDCカット用コンデンサ5を介してインピーダンスアナライザ(不図示)に接続する。DCカット用コンデンサ5は、可変容量コンデンサ2に検証用の制御電圧を印加した際に、電流がインピーダンスアナライザ側に漏れないようにするために設けられる。
【0038】
なお、図1には、説明を簡略化するため、可変容量コンデンサ2が、DCカット用コンデンサ5に接続する接続端子と、制御端子とが共通である2端子タイプの可変容量コンデンサである例を示す。しかしながら、この測定系1に用いる可変容量コンデンサ2は、DCカット用コンデンサ5に接続する2つの接続端子と、2つの制御端子(第1制御端子2a及び第2制御端子2b)とを別個に設けた4端子タイプの可変容量コンデンサであってもよい。
【0039】
また、ここでは、周囲の温度の影響を無くすために、温度が25℃一定である恒温槽(不図示)中に、測定系1を配置して以下の各種検証試験を行った。
【0040】
(2)検証試験1
検証試験1では、まず、測定系1において、0.5VrmsのAC信号(バイアス電圧0V)からなる第1の検証用制御電圧を、可変容量コンデンサ2に4時間印加して、可変容量コンデンサ2の容量の経時変化を測定した。さらに、検証試験1では、0.5VrmsのAC信号+バイアス電圧3Vからなる第2の検証用制御電圧を、可変容量コンデンサ2に4時間印加して、可変容量コンデンサ2の容量の経時変化を測定した。なお、この第2の検証用制御電圧を印加する手法は、表1中の「V_MAX」の待ち受け手法に相当する。
【0041】
検証試験1の結果を図2に示す。図2は、各検証用制御電圧の印加時間に対する可変容量コンデンサ2の容量変化を示す特性図である。また、図2に示す特性の横軸は各検証用制御電圧の印加時間を示し、縦軸は各検証用制御電圧の印加開始時の容量を「1」としたときの可変容量コンデンサ2の容量の相対値(容量比Cratio)を示す。なお、図2中の特性6が、第1の検証用制御電圧(0.5VrmsのAC信号+バイアス電圧0V)を可変容量コンデンサ2に印加したときの容量変化特性である。また、図2中の特性7が、第2の検証用制御電圧(0.5VrmsのAC信号+バイアス電圧3V)を可変容量コンデンサ2に印加したときの容量変化特性である。
【0042】
第1の検証用制御電圧を可変容量コンデンサ2に印加したときには、図2中の特性6に示すように、容量比Cratioが時間とともに緩やかに減少する。ただし、特性6における容量比Cratioの減少率は0.1%程度であり、無視できる程度であった。
【0043】
また、第2の検証用制御電圧を可変容量コンデンサ2に印加したとき(特性7)には、特性6と同様に、容量比Cratioが時間とともに緩やかに減少する。しかしながら、この場合には、図2に示すように、容量比Cratioは、第2の検証用制御電圧の印加開始時に大きく減少し、その後、緩やかに減少する特性が得られた。また、特性7における容量の減少量は、特性6のそれに比べて大きくなる。
【0044】
上述した検証試験1から、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサ2に制御電圧を連続して印加した場合には、可変容量コンデンサ2の容量が時間とともに低下することが分かった。これは、可変容量コンデンサ2のエージング特性の影響によるものと考えられる。
【0045】
(3)検証試験2
次に、図1に示す測定系1において、可変容量コンデンサ2にデューティー比50%のパルス信号(制御電圧)を連続的に印加したときの可変容量コンデンサ2の容量変化を調べた(検証試験2)。この検証試験2における制御電圧の印加手法は、可変容量コンデンサ2に制御電圧を印加しない待ち受け手法(表1中の「V_MIN」の待ち受け手法)に相当する。
【0046】
図3に、この検証試験2で可変容量コンデンサ2の第1制御端子2aに印加する第1制御電圧信号DC1、及び、第2制御端子2bに印加する第2制御電圧信号DC2の信号波形例を示す。なお、図1には示さないが、可変容量コンデンサ2は、強誘電体材料で形成された誘電体層(誘電体部)を有し、第1制御端子2a及び第2制御端子2bは、誘電体層の厚さ方向において、誘電体層を間に挟むようにして配置される(後述の図11参照)。
【0047】
検証試験2では、第1制御電圧信号DC1として、振幅3V、パルス幅2.2sec及びパルス周期4.4secのパルス信号を用いる。また、第2制御電圧信号DC2としては、0V一定の信号を用いる。この検証試験2では、この2つの信号により、デューティー比50%のパルス信号(制御電圧)を生成する。この場合、図3に示すように、第1制御電圧信号DC1において振幅3Vの直流パルス電圧が印加される期間が通信期間に対応し、その他の期間が待ち受け期間に対応する。
【0048】
なお、以下では、可変容量コンデンサ2の第1制御端子2aに直流パルス電圧を印加する場合の制御電圧の印加条件を「正極性条件」という。この正極性条件では、制御電圧の印加方向は、可変容量コンデンサ2の誘電体層(不図示)の厚さ方向において、第1制御端子2aから第2制御端子2bに向かう方向となる。
【0049】
検証試験2では、まず、図3に示す第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を可変容量コンデンサ2に4時間印加した。そして、制御電圧の印加開始時及び4時間印加後のそれぞれにおいて、制御電圧3V時(通信時)及び制御電圧0V時(待ち受け時)の可変容量コンデンサ2の各容量を測定した。なお、この検証試験2では、4時間の間に、約3300回の直流パルス電圧を可変容量コンデンサ2に印加することになるので、3Vの制御電圧の印加時間の積算値は2時間となる。
【0050】
また、図4に、検証試験2において制御電圧3V時(通信時)及び制御電圧0V時(待ち受け時)の可変容量コンデンサ2の各容量の測定する際の測定手法の概要を示す。通常、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサ2では、制御電圧が印加されるとその容量は低下する。それゆえ、図4に示すように、第1制御電圧信号DC1の直流パルス電圧が印加されたときには、容量は低下する。しかしながら、図4に示すように、第1制御電圧信号DC1(直流パルス電圧)のON/OFF切り替え時には、容量の変化は過渡応答となる。それゆえ、検証試験2では、容量変化が略一定となるタイミングで容量を計測する。
【0051】
具体的には、第1制御電圧信号DC1のパルス立ち上がり時間から100msec後(図4中の丸印)の容量値を、制御電圧3V時(通信時)の容量値とした。また、第1制御電圧信号DC1のパルス立ち下がり時間から100msec後(図4中の四角印)の容量値を、制御電圧0V時(待ち受け時)の容量値とした。なお、この例で、第1制御電圧信号DC1のパルス幅を2.2secとしたのは、この容量測定の時間等を考慮したものである。
【0052】
上述した正極性条件で、可変容量コンデンサ2にデューティー比50%の制御電圧(第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2)を連続して4時間印加した際の可変容量コンデンサ2の容量変化の測定結果を、下記表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
また、検証試験2では、第1制御電圧信号DC1を0V一定の信号とし、第2制御電圧信号DC2を、振幅3V、パルス幅2.2sec及びパルス周期4.4secのパルス信号とした場合についても、可変容量コンデンサ2の容量変化を測定した。図5に、その第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2の信号波形例を示す。
【0055】
なお、このように可変容量コンデンサ2の第2制御端子2bに直流パルス電圧を印加する場合、制御電圧3V時(通信時)における制御電圧の印加方向は、上述した正極性条件における制御電圧の印加方向と反対になる。すなわち、制御電圧の印加方向は、可変容量コンデンサ2の誘電体層(不図示)の厚さ方向において、第2制御端子2bから第1制御端子2aに向かう方向となる。それゆえ、以下では、可変容量コンデンサ2の第2制御端子2bに直流パルス電圧を印加する場合の制御電圧の印加条件を「負極性条件」という。
【0056】
上述した負極性条件で、可変容量コンデンサ2にデューティー比50%の制御電圧(第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2)を連続して4時間印加した際の可変容量コンデンサ2の容量変化の測定結果を、下記表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
上記表2及び3中の「Cratio」は、制御電圧0V時(待ち受け時)の容量値C0と、制御電圧3V時(通信時)の容量値C1との容量比(C1/C0)である。なお、表2及び3に示す可変容量コンデンサ2の容量値は、制御電圧の印加開始時であり、かつ、制御電圧0V時(待ち受け時)の容量を「1」としたときの相対値である。
【0059】
また、表2及び3中の「Δ」は、4時間、制御電圧を印加した際の容量の変化量、並びに、容量比Cratioの変化量(開始時の値−4時間後の値)である。さらに、表2及び3中の「Δ/Cratio」は、容量比Cratioの変化量(Δ)を、容量比Cratioで規格化した値である。
【0060】
なお、容量比Cratioの変化量(Δ)及び「Δ/Cratio」はいずれも、可変容量コンデンサ2の容量の可変幅の経時変化量を表すパラメータである。具体的には、容量比Cratioの変化量(Δ)及び「Δ/Cratio」がプラスの値である場合には、制御電圧を4時間印加した後、可変容量コンデンサ2の容量の可変幅が広がることを意味する。一方、容量比Cratioの変化量(Δ)及び「Δ/Cratio」がマイナスの値である場合には、制御電圧を4時間印加した後、可変容量コンデンサ2の容量の可変幅が狭くなることを意味する。例えば、表3の例では、制御電圧を4時間印加した後、可変容量コンデンサ2の容量の可変幅は、制御電圧の印加開始時の可変幅に比べて、2%程度狭くなる(容量比Cratioの変化量Δ=−0.020)。
【0061】
上記表2及び3から明らかなように、可変容量コンデンサ2にデューティー比50%の制御電圧を4時間印加した後の制御電圧0V時(待ち受け時)の容量は、正極性条件で3.0%減少し、負極性条件では2.1%減少した。一方、可変容量コンデンサ2にデューティー比50%の制御電圧を4時間印加した後の制御電圧3V時(通信時)の容量は、正極性条件で1.5%増加し、負極性条件では0.6%増加した。この制御電圧3V時(通信時)の容量変化の結果は、上記検証試験1において、約3Vの制御電圧を連続して印加した場合の結果(図2中の特性7)とは逆の結果になった。この違いは、可変容量コンデンサ2のヒステリシス特性(電圧履歴特性)の影響によるものと考えられる。
【0062】
また、容量比Cratioの変化量(Δ)は、正極性条件で−3.5%となり、負極性条件では−2.0%となった。すなわち、検証試験2の制御電圧の印加手法では、デューティー比50%の制御電圧を4時間印加した場合、可変容量コンデンサ2の容量の可変幅は、正極性条件で3.5%程度狭くなり、負極性条件で2%程度狭くなった。
【0063】
上記検証試験2の測定結果から、図3に示す第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2により生成されたデューティー比50%の制御電圧を連続して印加した場合には、可変容量コンデンサ2の容量の可変幅が狭くなることが分かった。
【0064】
[ヒステリシス特性及びエージング特性の影響の抑制原理]
本開示では、上述した強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサ2のヒステリシス特性及びエージング特性の影響を抑制するために、次のような手法で、可変容量コンデンサ2に制御電圧を印加する。
【0065】
(1)制御電圧の印加方式
図6及び7に、本開示の一実施形態に係る可変容量コンデンサ2への制御電圧の印加手法の一例を示す。なお、図6は、可変容量コンデンサ2の第1制御端子2aに印加する第1制御電圧信号DC1、及び、第2制御端子2bに印加する第2制御電圧信号DC2の信号波形例である。また、図7は、本実施形態の可変容量コンデンサ2への制御電圧の印加手法の手順を示すフローチャートである。
【0066】
図6に示す例では、第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2の両信号を、振幅3V、パルス幅2.2sec、及び、パルス周期8.8secのパルス信号とする。そして、図6に示す例では、第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2の各直流パルス電圧が4.4sec周期で交互に可変容量コンデンサ2に印加される。
【0067】
すなわち、図6に示す制御電圧の印加手法の例では、まず、第1制御電圧信号DC1において振幅3Vの直流パルス電圧を印加する(可変容量コンデンサ2の第1制御端子2aから第2制御端子2bに向かう方向に振幅3Vの直流パルス電圧を印加する)。すなわち、正極性条件で制御電圧を可変容量コンデンサ2に印加する(ステップS1)。
【0068】
次いで、第2制御電圧信号DC2において振幅3Vの直流パルス電圧を印加する(可変容量コンデンサ2の第2制御端子2bから第1制御端子2aに向かう方向に振幅3Vの直流パルス電圧を印加する)。すなわち、制御電圧の印加方向を反転して、負極性条件で制御電圧を可変容量コンデンサ2に印加する(ステップS2)。図6に示す例では、上述した正極性条件での制御電圧の印加動作と、負極性条件での制御電圧の印加動作とを、4.4sec周期で交互に行う。
【0069】
上述した制御電圧の印加動作及び反転動作は、第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を生成する後述の電圧発生回路により制御される(後述の図10参照)。また、以下では、このように、正極性条件での制御電圧の印加動作と、負極性条件での制御電圧の印加動作とを所定のタイミングで反転させる制御電圧の印加方式を極性反転ドライブ方式という。
【0070】
なお、ここでは、説明を簡略化するため、及び、上記検証試験2の測定条件と整合をとるため、制御電圧3Vを印加する動作(通信動作)を4.4sec周期で行う例を説明した。しかしながら、通常、通信装置での非接触通信動作は周期的に行われるものではなく、実際の通信装置では、上述した正極性条件での制御電圧の印加動作と、負極性条件での制御電圧の印加動作とを反転させるタイミングは任意になる。
【0071】
さらに、図6では、検証試験2の測定条件と整合をとるため、各制御電圧信号のパルス幅を2.2secとするが、本開示はこれに限定されない。各制御電圧信号のパルス幅は、例えば、用途(本開示の制御電圧の印加手法を適用する通信装置の種類等)に応じて、適宜設定される。
【0072】
また、共振周波数を所定の周波数に設定するために所定の制御電圧を可変容量コンデンサ2に印加し続けるオープンループタイプの通信装置では、図6に示すように、パルス信号の振幅は3Vで一定となる。しかしながら、通信特性を検知しながら最適な共振周波数が得られるように制御電圧を制御するクローズドタイプの通信装置では、直流パルス電圧の振幅は適宜変更される。
【0073】
(2)検証試験3
検証試験3では、図1に示す測定系1において、図6に示す本実施形態の極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法により、可変容量コンデンサ2に制御電圧を8時間連続して印加した。そして、検証試験3では、上記検証試験2と同様にして、制御電圧の印加開始時及び8時間印加後のそれぞれにおいて、制御電圧3V時(通信時)及び制御電圧0V時(待ち受け時)の各容量を測定した。なお、検証試験3では、可変容量コンデンサ2に8時間、制御電圧を印加しているが、これは、検証試験3における正極性条件及び負極性条件での制御電圧の各印加時間(4時間)を上記検証試験2の測定条件と合わせるためである。
【0074】
検証試験3の結果を、下記表4及び5に示す。なお、表4は、正極性条件における可変容量コンデンサ2の容量変化の測定結果であり、表5は、負極性条件における可変容量コンデンサ2の容量変化の測定結果である。また、表4及び5に示す可変容量コンデンサ2の容量値は、正極性条件において、制御電圧の印加開始時であり、かつ、制御電圧0V時(待ち受け時)の容量を「1」としたときの相対値である。
【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
上記表4及び5から明らかなように、図6に示す極性反転ドライブ方式で制御電圧を印加した場合には、8時間後の制御電圧0V時(待ち受け時)の容量は、正極性条件で1.1%増加し、負極性条件で0.5%増加した。すなわち、検証試験3で得られた制御電圧0V時の容量の経時変化の測定結果は、上記検証試験2(正極性条件又は負極性条件のみでの制御電圧印加手法)の測定結果とは逆の結果になった。
【0078】
一方、8時間後の制御電圧3V時(通信時)の容量は、正極性条件で0.5%減少し、負極性条件で0.7%増加した。この結果、容量比Cratioの変化量(Δ)は、正極性条件で+1.1%となり、負極性条件では−0.4%となった。
【0079】
上記検証試験3の結果から明らかなように、極性反転ドライブ方式で制御電圧を印加した場合には、制御電圧0V時及び3V時の容量変化量の絶対値、並びに、容量比Cratioの変化量の絶対値はいずれも、上記検証試験2の結果より小さくなった。すなわち、正極性条件及び負極性条件を所定のタイミングで切り替える極性反転ドライブ方式で可変容量コンデンサ2を駆動することにより、可変容量コンデンサ2の容量及びその可変幅の経時変化を小さくすることができることが分かった。
【0080】
さらに、ここでは、上記本実施形態の制御電圧の印加手法と比較するため、正極性条件のみで制御電圧を可変容量コンデンサ2に8時間印加した場合についても、検証試験3と同様にして、可変容量コンデンサの容量変化を調べた。その結果を下記表6に示す。
【0081】
【表6】

【0082】
この場合にも、表6から明らかなように、検証試験2の測定結果(表2)と同様の結果が得られる。すなわち、正極性条件のみで制御電圧を8時間印加した場合にも、制御電圧0V時及び3V時の容量変化量の絶対値、並びに、容量比Cratioの変化量の絶対値はいずれも、極性反転ドライブ方式で制御電圧を印加した場合に比べて大きくなる。
【0083】
上述のように、本実施形態の極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法では、正極性条件又は負極性条件で制御電圧を印加する手法より、可変容量コンデンサ2の容量の経時変化を小さくすることができる。また、本実施形態の極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法では、可変容量コンデンサ2の容量比Cratioの経時変化、すなわち、容量の可変幅の経時変化も小さくすることができる。
【0084】
(3)可変容量コンデンサの容量の可変幅の経時変化
ここで、本実施形態の極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法における可変容量コンデンサ2の容量の可変幅(容量比Cratioの変化量(Δ))の変化特性(経時変化)の特徴をより具体的に説明する。
【0085】
検証試験2のように正極性条件のみで制御電圧を印加し続けた場合には、表2に示すように、制御電圧を4時間印加した後、可変容量コンデンサ2の容量の可変幅(容量比Cratioの変化量)は、制御電圧印加開始時の可変幅に対して3.5%程度狭くなる。それに対して、本実施形態の制御電圧の印加手法では、表4に示すように、制御電圧を8時間印加した後、正極性条件における可変容量コンデンサ2の容量の可変幅は、制御電圧印加開始時の可変幅に対して1.1%程度広くなる。
【0086】
すなわち、本実施形態では、検証試験2の手法に比べて、正極性条件における可変容量コンデンサ2の容量の可変幅の経時変化を小さくすることができるとともに、容量の可変幅を広げることができる。この両者の容量の可変幅の経時変化の違いを図8及び9に示す。
【0087】
図8は、検証試験2のように、正極性条件のみで可変容量コンデンサ2に制御電圧を印加した場合の制御電圧0V時(待ち受け時)の容量及び制御電圧3V時(通信時)の容量の経時変化を模式的に示した図である。また、図9は、本実施形態の極性反転ドライブ方式で可変容量コンデンサ2に制御電圧を印加した際の正極性条件における制御電圧0V時(待ち受け時)の容量及び制御電圧3V時(通信時)の容量の経時変化を模式的に示した図である。なお、図8及び9中の太実線で示す特性が制御電圧0V時の容量の経時変化特性であり、太破線で示す特性が制御電圧3V時の容量の経時変化特性である。
【0088】
正極性条件のみで可変容量コンデンサ2に制御電圧を印加した場合、図8に示すように、時間とともに、制御電圧0V時(待ち受け時)の容量は減少し、かつ、制御電圧3V時(通信時)の容量は増加する。その結果、この場合には、時間とともに、容量の可変幅が狭くなる。
【0089】
それに対して、本実施形態の極性反転ドライブ方式では、図9に示すように、時間とともに、制御電圧0V時の容量は増大し、かつ、制御電圧3V時の容量は減少する。その結果、本実施形態では、時間とともに、容量の可変幅が広くなる。
【0090】
また、本実施形態の制御電圧の印加手法では、表5に示すように、制御電圧を8時間印加した後、負極性条件における可変容量コンデンサ2の容量の可変幅(容量比Cratioの変化量(Δ))は、制御電圧印加開始時の可変幅に対して0.4%程度狭くなる。それに対して、検証試験2のように負極性条件のみで制御電圧を印加し続けた場合には、表3に示すように、制御電圧を4時間印加した後、可変容量コンデンサ2の容量の可変幅は、制御電圧印加開始時の可変幅に対して2.0%程度狭くなる。
【0091】
すなわち、負極性条件では、本実施形態の極性反転ドライブ方式においても、検証試験2の場合と同様に、可変容量コンデンサ2の容量の可変幅は時間とともに狭くなる。しかしながら、本実施形態では、検証試験2の手法に比べて、負極性条件における可変容量コンデンサ2の容量の可変幅の経時変化を小さくすることができる。
【0092】
上述のように、本実施形態の極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法では、検証試験2に比べて制御電圧の印加時間を2倍にしたにも関わらず、可変容量コンデンサ2の容量の経時変化だけでなく、容量の可変幅の経時変化も小さくすることができる。また、場合によっては、可変容量コンデンサ2の容量の可変幅を広げることもできる。すなわち、本実施形態の極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法では、可変容量コンデンサ2の容量及びその可変幅を、長期間安定して制御することができる。
【0093】
これは、極性反転ドライブ方式で制御電圧を印加した場合、正極性条件及び負極性条件においてそれぞれ発生する可変容量コンデンサ2のヒステリシス特性及びエージング特性の影響が、互いにキャンセルし合うように作用するためであると考えられる。それゆえ、ヒステリシス特性やエージング特性の影響をより確実にキャンセルするために、正極性条件での制御電圧の印加条件(電圧値及びパルス幅)は、負極性条件での制御電圧の印加条件と同等にすることが好ましい。
【0094】
<2.通信装置及び共振回路の構成例>
次に、上記実施形態で説明した極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法を適用した通信装置及び共振回路の一構成例を説明する。
【0095】
[通信装置の構成]
図10に、本実施形態に係る通信装置及び共振回路の概略回路構成を示す。なお、図10には、例えば非接触通信機能を備える情報処理端末等の通信装置の概略回路構成を示す。また、図10では、説明を簡略化するため、通信装置の受信系(復調系)回路部の構成のみを示す。信号の送信系(変調系)回路部を含む他の構成は、従来の通信装置と同様に構成することができる。
【0096】
通信装置100は、受信部10(共振回路)と、信号処理部20とを備える。なお、図10には示さないが、通信装置100は、その動作全般を制御するための例えばCPU(Central Processing Unit)等の回路を含む制御部を備える。また、信号処理部20は、受信部10で受信した交流信号に対して所定の処理を施し、交流信号を復調する。
【0097】
受信部10は、共振アンテナ11と、電圧発生回路12(制御電圧発生部)と、2つの抵抗13,14とを有する。なお、受信部10は、外部のR/W(不図示)から送信される信号を共振アンテナ11で受信し、その受信信号を信号処理部20に出力する。
【0098】
受信部10において、電圧発生回路12の一方の出力端子は、抵抗13を介して後述の可変容量コンデンサ24の一方の端子(第1制御端子24a)に接続される。そして、電圧発生回路12で生成された第1制御電圧信号DC1は、可変容量コンデンサ24の第1制御端子24aに入力される。また、電圧発生回路12の他方の出力端子は、抵抗14を介して後述の可変容量コンデンサ24の他方の端子(第2制御端子24b)に接続される。そして、電圧発生回路12で生成された第2制御電圧信号DC2は、可変容量コンデンサ24の第2制御端子24bに入力される。
【0099】
共振アンテナ11は、共振コイル21と、共振コンデンサ22とを有する。なお、図10には、共振コイル21をそのインダクタンス成分21a(L)と抵抗成分21b(r:数オーム程度)とに分けて図示する。
【0100】
共振コンデンサ22は、容量Coの定容量コンデンサ23と、可変容量コンデンサ24(可変容量素子)と、可変容量コンデンサ24の両端子にそれぞれ接続された2つのバイアス除去用コンデンサ25,26とで構成される。そして、定容量コンデンサ23と、可変容量コンデンサ24及び2つのバイアス除去用コンデンサ25,25からなる直列回路とは、共振コイル21に並列接続される。
【0101】
定容量コンデンサ23は、比誘電率の低い誘電体材料(常誘電体材料)からなる誘電体層(不図示)を有する。そして、定容量コンデンサ23の容量は、入力信号の種類(交流または直流)及びその信号レベルに関係なくほとんど変化しない。
【0102】
可変容量コンデンサ24は、比誘電率の大きな強誘電体材料で形成された誘電体層(図10では不図示)を有する。そして、本実施形態では、可変容量コンデンサ24の容量Cvは、2つの抵抗13,14を介して電圧発生回路12からそれぞれ入力される第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2に応じて変化する。
【0103】
なお、可変容量コンデンサ24としては、バイアス除去用コンデンサとの接続端子と、制御電圧の入力端子とが共通である、2端子タイプの可変容量コンデンサを用いることができる。ここで、図11に、2端子タイプの可変容量コンデンサ24の概略構成を示す。なお、ここでは、説明を簡略化するため、誘電体層が1層構成である可変容量コンデンサ24の例を説明する。2端子タイプの可変容量コンデンサ24は、強誘電体材料で形成された誘電体層24c(誘電体部)と、誘電体層24cを挟み込むように形成された上電極24d及び下電極24eとで構成される。そして、上電極24d及び下電極24eにより、第1制御端子24a及び第2制御端子24bがそれぞれ構成される。
【0104】
また、可変容量コンデンサ24としては、バイアス除去用コンデンサとの接続端子と、制御電圧信号の入力端子とが別個に設けられた、4端子タイプの可変容量コンデンサを用いることもできる。
【0105】
なお、2つのバイアス除去用コンデンサ25,26、及び、2つの抵抗13,14は、電圧発生回路12と可変容量コンデンサ24との間で流れる直流バイアス電流(制御電流)と、受信信号電流との干渉による影響を抑制するために設けられる。
【0106】
電圧発生回路12は、可変容量コンデンサ24に印加する第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を生成する。そして、電圧発生回路12は、生成した第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を上述した極性反転ドライブ方式の印加手法に従って、可変容量コンデンサ24に出力する。
【0107】
具体的には、例えば、電圧発生回路12は、上記図6で説明したパルス状の第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を生成して可変容量コンデンサ24に出力する。この際、電圧発生回路12は、上述した極性反転ドライブ方式に従って第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を出力する。例えば、所定の通信期間において、正極性条件で第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を印加した後、次の通信期間では、負極性条件で第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を印加する。なお、このような電圧発生回路12の制御電圧の印加動作は、図10には示さない制御部(CPU)により制御される。
【0108】
また、上記図6で説明したパルス状の第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2は、例えば、電圧発生回路12内に、D/A(Digital to Analog)変換器を含む電圧源を制御電圧信号毎に設けることにより、生成することができる。この場合、マイナス電圧の電圧源を用いることなく、可変容量コンデンサ24の誘電体層24cの厚さ方向における制御電圧の印加方向を反転させることができる。なお、D/A変換器の駆動電源は、電圧発生回路12の外部に設けてもよいし、内部に設けてもよい。
【0109】
本実施形態の通信装置100では、上述のように、受信部10内の可変容量コンデンサ24の容量を、例えば図6で説明した極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法に従って制御する。それゆえ、本実施形態の通信装置100では、可変容量コンデンサ24を含む受信部10の共振周波数を長期間、より安定して制御することができ、これにより、通信装置の非接触通信動作の長期安定性を向上させることができる。
【0110】
なお、オープンループ、すなわち、共振周波数を所定の周波数に設定するために所定の制御電圧を可変容量コンデンサに印加し続けるタイプの通信装置では、待ち受け時(0V)及び通信時(3V)の容量変化がともに小さいことが好ましい。それに対して、通信特性を検知しながら最適な共振周波数が得られるように制御電圧を制御するクローズドタイプの通信装置では、容量の可変幅が狭くならないようにすることが好ましい。上述のように、本実施形態における極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法では、可変容量コンデンサ2の容量の経時変化を小さくすることができ、かつ、容量の可変幅の経時変化も小さくすることができる。それゆえ、本実施形態における制御電圧の印加手法は、オープンループタイプの通信装置及びクローズドタイプの通信装置のいずれにも好適である。
【0111】
<3.各種変形例>
[変形例1]
上記実施形態で説明したように、図6に示すようなパルス状の第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2は、例えば、電圧発生回路12内において、制御電圧信号毎に電圧源を設けることにより生成することができる。しかしながら、電圧発生回路12の構成はこれに限定されず、図6に示すようなパルス状の第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を個別に生成できる構成であれば、電圧発生回路12を任意に構成することができる。例えば、電圧発生回路12を、1つの電圧源で第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を生成できる構成にしてもよい。変形例1では、その一構成例を説明する。
【0112】
図12に、変形例1の通信装置における電圧発生回路30及び可変容量コンデンサ24付近の概略構成を示す。なお、図12に示すこの例の通信装置において、図10に示す上記実施形態の通信装置100の構成と同じ構成には同じ符号を付して示す。また、この例の通信装置では、電圧発生回路30の構成が上記実施形態と異なること以外は、上記実施形態と同様の構成とする。それゆえ、ここでは、電圧発生回路30の構成についてのみ説明する。
【0113】
この例の電圧発生回路30は、第1切替スイッチ31と、第2切替スイッチ32と、図12には示さない1つの電圧源(D/A変換器を含む)とを備える。
【0114】
第1切替スイッチ31の入力端子には電圧源の出力端子が接続され、電圧源から出力されるパルス信号DC0が第1切替スイッチ31に印加される。また、第1切替スイッチ31の一方の出力端子は、抵抗13を介して可変容量コンデンサ24の第1制御端子24aに接続され、第1切替スイッチ31の他方の出力端子は、抵抗14を介して可変容量コンデンサ24の第2制御端子24bに接続される。
【0115】
一方、第2切替スイッチ32の入力端子は接地される。また、第2切替スイッチ32の一方の出力端子は、抵抗14を介して可変容量コンデンサ24の第2制御端子24bに接続され、第2切替スイッチ32の他方の出力端子は、抵抗13を介して可変容量コンデンサ24の第1制御端子24aに接続される。
【0116】
この例の電圧発生回路30では、まず、第1切替スイッチ31により可変容量コンデンサ24の第1制御端子24aが選択され、かつ、第2切替スイッチ32により可変容量コンデンサ24の第2制御端子24bが選択される(図12の状態)。この選択状態では、電圧源から出力されるパルス信号DC0が第1制御端子24aに印加され、第2制御端子24bは接地される。この場合、正極性条件での制御電圧の印加動作が実現される。
【0117】
次いで、所定時間後、電圧発生回路30は、第1切替スイッチ31で可変容量コンデンサ24の第2制御端子24bを選択し、かつ、第2切替スイッチ32で可変容量コンデンサ24の第1制御端子24aを選択する。この選択状態では、電圧源から出力されるパルス信号DC0が第2制御端子24bに印加され、第1制御端子24aは接地される。この場合、負極性条件での制御電圧の印加動作が実現される。
【0118】
この例の電圧発生回路30では、上述のようにして、第1切替スイッチ31及び第2切替スイッチ32の選択状態を切り替えて、正極性条件での制御電圧の印加動作と負極性条件での制御電圧の印加動作とを切り替える。
【0119】
より具体的には、例えば、電圧源から振幅3V及びハルス幅2.2secの直流パルス信号DC0を生成する。そして、第1切替スイッチ31及び第2切替スイッチ32の上記切替動作を4.4sec周期で行うことにより、図6に示すような第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を生成することができる。それゆえ、この例の構成の電圧発生回路30を用いても上記実施形態と同様にして、可変容量コンデンサ24の容量を制御することができるので、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0120】
また、この例の電圧発生回路30では、D/A変換器を含む電圧源を1つだけ設ければよいので、電圧発生回路30(通信装置)の構成を、低コストでかつ簡易な構成にすることができる。
【0121】
[変形例2]
図6に示す例では、3Vの直流パルス電圧が印加されるタイミングは異なるが、第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2の信号波形を同じにする例を説明したが、本開示は、これに限定されない。可変容量コンデンサに対して、正極性条件での制御電圧の印加動作と負極性条件での制御電圧の印加動作とを切り替える(交互に実施する)ことができる第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2であれば、任意の制御電圧信号を用いることができる。
【0122】
変形例2では、上記実施形態とは異なる信号波形の第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を用いて、極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法を実現する例を説明する。
【0123】
(1)第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2の構成
図13に、この例で用いる第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2の信号波形例を示す。この例では、第1制御電圧信号DC1として、振幅1.2V及びパルス幅2.2secの直流パルス電圧と、振幅1.8V及びパルス幅2.2secの直流パルス電圧とを4.4sec周期で交互に発生させるパルス信号を用いる。また、この例では、第2制御電圧信号DC2として、第1制御電圧信号DC1の振幅1.8V及びパルス幅2.2secの直流パルス電圧の発生タイミングに同期して、振幅3.0V及びパルス幅2.2secの直流パルス電圧を発生させるパルス信号を用いる。
【0124】
図13に示すパルス構成の第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2を用いた場合、第1制御電圧信号DC1中の振幅1.2V及びパルス幅2.2secの直流パルス電圧の発生期間では、第2制御電圧信号DC2は0Vになる。この場合、可変容量コンデンサ24の誘電体層24cの厚さ方向における制御電圧の印加方向は、第1制御端子24aから第2制御端子24bに向かう方向となり、上述した正極性条件での制御電圧の印加状態となる。
【0125】
一方、第1制御電圧信号DC1中の振幅1.8V及びパルス幅2.2secの直流パルス電圧の発生期間では、第2制御電圧信号DC2の電圧は3Vになる。この場合、可変容量コンデンサ24の第2制御端子24bの電位が、第1制御端子24aの電位より、1.2V高くなる。それゆえ、この場合には、可変容量コンデンサ24の誘電体層24cの厚さ方向における制御電圧の印加方向は、第2制御端子24bから第1制御端子24aに向かう方向となり、上述した負極性条件での制御電圧の印加状態と同等になる。
【0126】
すなわち、図13に示す例の制御電圧の印加動作は、振幅1.2V及びパルス幅2.2secの直流パルス電圧を、4.4sec周期で、可変容量コンデンサ24の第1制御端子24a及び第2制御端子24bに交互に印加する動作と同等になる。それゆえ、この例においても、上記実施形態と同様に、正極性条件での制御電圧の印加動作と負極性条件での制御電圧の印加動作とを切り替えることができる。
【0127】
なお、図13の例では、説明を簡略化するため、上記実施形態(図6)と同様に制御電圧を印加する動作(通信動作)を4.4sec周期で行う例を説明した。しかしながら、通常、通信装置での非接触通信動作は周期的に行われるものではなく、実際の通信装置では、上述した正極性条件での制御電圧の印加動作と、負極性条件での制御電圧の印加動作とを反転させるタイミングは任意になる。また、図13の例では、上記実施形態(図6)と同様に、直流パルス電圧のパルス幅を2.2secとするが、本開示はこれに限定されない。直流パルス電圧のパルス幅は、例えば用途等に応じて、適宜設定される。
【0128】
(2)電圧発生回路の構成
次に、図13に示す極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法を実現するための電圧発生回路の構成例を説明する。図14に、この例の通信装置における電圧発生回路付近の概略回路構成を示す。なお、図14に示すこの例の通信装置において、図10に示す上記実施形態の通信装置100の構成と同じ構成には同じ符号を付して示す。また、この例の通信装置では、電圧発生回路40の構成が上記実施形態と異なること以外は、上記実施形態と同様の構成とする。それゆえ、ここでは、電圧発生回路40の構成についてのみ説明する。
【0129】
この例の電圧発生回路40は、電圧源41と、入出力ポート42とを有する。
【0130】
電圧源41は、D/A変換器を含み、図13に示す信号波形を有する第1制御電圧信号DC1を生成し、その第1制御電圧信号DC1を、抵抗13を介して可変容量コンデンサ24の第1制御端子24aに出力する。
【0131】
入出力ポート42は、通信装置内の制御部(不図示)のCPUポートに接続される。そして、入出力ポート42の電位状態は、CPUから印加される制御信号により、ハイ状態(3V)、又は、ロー状態(0V)のいずれかに設定される。それゆえ、この例では、入出力ポート42の電位状態の変化信号が第2制御電圧信号DC2となり、その第2制御電圧信号DC2が抵抗14を介して可変容量コンデンサ24の第2制御端子24bに入力される。
【0132】
このような構成の電圧発生回路40では、電圧源41から出力される種々の電圧値と、入出力ポート42に設定される電位状態との組み合わせを適宜組み合わせることにより、様々な制御電圧を生成することができる。電圧源41から出力される種々の電圧値(第1制御電圧信号DC1)、及び、入出力ポート42に設定される電位状態(第2制御電圧信号DC2)の組み合わせと、可変容量コンデンサ24に印加される制御電圧との関係を、図15及び図16に示す。
【0133】
図15は、可変容量コンデンサ24に対して、正極性条件で制御電圧を印加する際の第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2の組み合わせと、生成される制御電圧との関係を示す図である。また、図16は、可変容量コンデンサ24に対して、負極性条件で制御電圧を印加する際の第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2の組み合わせと、生成される制御電圧との関係を示す図である。なお、図15及び図16では、電圧源41から0V〜3Vの範囲の電圧信号を出力する例を示す。また、図15及び16には、正極性条件での制御電圧を正の値で記載し、負極性条件での制御電圧を負の値で記載する。
【0134】
この例において、可変容量コンデンサ24に正極性条件で制御電圧を印加する際には、図15に示すように、入出力ポート42の電位状態(第2制御電圧信号DC2)をロー状態(0V)に設定する。そして、正極性条件では、入出力ポート42の電位状態をロー状態(0V)に維持した状態で、電圧源41の出力電圧値(第1制御電圧信号DC1)を、0V〜3Vの範囲で種々変化させる。これにより、図15に示すように、可変容量コンデンサ24に印加する制御電圧を0V〜3Vの範囲で変化させることができ、正極性条件における制御電圧を所望に電圧値に設定することができる。
【0135】
また、可変容量コンデンサ24に負極性条件で制御電圧を印加する際には、図16に示すように、入出力ポート42の電位状態(第2制御電圧信号DC2)をハイ状態(3V)に設定する。そして、負極性条件では、入出力ポート42の電位状態をハイ状態(3V)に維持した状態で、電圧源41の出力電圧値(第1制御電圧信号DC1)を、0V〜3Vの範囲で種々変化させる。これにより、図16に示すように、可変容量コンデンサ24に印加する制御電圧を0V〜−3Vの範囲で変化させることができ、負極性条件における制御電圧を所望に電圧値に設定することができる。
【0136】
そして、この例の電圧発生回路40では、電圧源41からの出力電圧値と入出力ポート42の電位状態との組み合わせを適宜変更することにより、正極性条件での制御電圧の印加動作と負極性条件での制御電圧の印加動作とを切り替える(反転させる)ことができる。
【0137】
上述のように、この例においても、例えば図14に示すような構成の電圧発生回路40を用いることにより、上記実施形態と同様に、正極性条件での制御電圧の印加動作と負極性条件での制御電圧の印加動作とを切り替えることができる。それゆえ、この例においても、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0138】
また、この例では、変形例1と同様に、電圧発生回路40内の電圧源の数を1つにすることができる。さらに、この例では、変形例1のように、電圧発生回路40内に切替スイッチを設ける必要が無い。それゆえ、この例では、電圧発生回路40(通信装置)の構成を、より一層、低コストでかつ簡易な構成にすることができる。
【0139】
[変形例3]
上記実施形態では、第1制御電圧信号DC1の直流パルス電圧の電圧値及びパルス幅(印加時間)と、第2制御電圧信号DC2の直流パルス電圧の電圧値及びパルス幅とをそれぞれ同じにする例を説明した。これは、第1制御電圧信号DC1の印加時(正極性条件時)における可変容量コンデンサのヒステリシス特性(電圧履歴特性)の影響を、第2制御電圧信号DC2の印加時(負極性条件時)においてキャンセルするためである。しかしながら、可変容量コンデンサにおけるヒステリシス特性の影響のキャンセル手法は、この例に限定されない。
【0140】
強誘電体材料によるヒステリシス特性の影響は、[印加する電圧値]×[印加時間]で決まる。それゆえ、第2制御電圧信号DC2の直流パルス電圧の電圧値を、第1制御電圧信号DC1のそれより高くし、かつ、第2制御電圧信号DC2の直流パルス電圧の印加時間を第1制御電圧信号DC1のそれより短くしてもよい。また、逆に、第2制御電圧信号DC2の直流パルス電圧の電圧値を、第1制御電圧信号DC1のそれより低くし、かつ、第2制御電圧信号DC2の直流パルス電圧の印加時間を第1制御電圧信号DC1のそれより長くしてもよい。
【0141】
この場合も、第1制御電圧信号DC1の印加時(正極性条件時)における可変容量コンデンサのヒステリシス特性の影響を、第2制御電圧信号DC2の印加時(負極性条件時)においてキャンセルすることが可能であり、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0142】
[変形例4]
上記実施形態では、通信期間毎に、制御電圧の印加条件を正極性条件及び負極性条件間で反転させる例を説明したが、本開示はこれに限定されない。先の通信期間に発生したヒステリシス特性やエージング特性の影響を、例えば待ち受け期間等の通信期間以外の期間でキャンセルするようにしてもよい。変形例4では、その一例を示す。
【0143】
図17に、変形例4で用いる第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2の信号波形例を示す。この例では、次のようにして、制御電圧を印加する。
【0144】
まず、所定のタイミングで、可変容量コンデンサ24の第1制御端子24aに振幅3Vの直流パルス電圧(第1制御電圧信号DC1)を印加して、正極性条件により通信動作を行う(図17中の直流パルス電圧の印加動作51)。
【0145】
次いで、待ち受け期間中に、可変容量コンデンサ24の第2制御端子24bに振幅3Vのダミーパルス電圧(第2制御電圧信号DC2)を印加する(図17中の直流パルス電圧の印加動作52)。これにより、先の通信動作の期間に発生したヒステリシス特性やエージング特性の影響をキャンセルする。
【0146】
そして、ダミーパルス電圧の印加後、次の通信動作では、可変容量コンデンサ24の第1制御端子24aに振幅3Vの直流パルス電圧(第1制御電圧信号DC1)を印加して、正極性条件により通信動作を行う(図17中の直流パルス電圧の印加動作53)。その後は、上述したダミーパルス電圧の印加動作52以降の動作を繰り返す。
【0147】
すなわち、この例の制御電圧の印加手法においても、上記実施形態と同様に、極性反転ドライブ方式で制御電圧を印加するが、通信動作は、正極性条件においてのみ行う。そして、通信期間に発生したヒステリシス特性やエージング特性の影響をキャンセルするために、待ち受け期間(通信期間以外の時間帯)に、負極性条件でダミーパルス電圧(第2制御電圧信号DC2)を可変容量コンデンサに印加する。
【0148】
なお、この例の手法では、通信期間に発生したヒステリシス特性やエージング特性の影響をより確実にキャンセルするために、ダミーパルス電圧の印加条件(電圧値及びパルス幅)を、通信期間のそれと同等にすることができる。しかしながら、この例の手法では、ダミーパルス電圧の印加期間に通信動作を行うことができないので、ダミーパルス電圧の印加時間(パルス幅)は、通信期間より短い方が好ましい。この場合には、通信期間に発生したヒステリシス特性やエージング特性の影響をより確実にキャンセルするために、ダミーパルス電圧の振幅を、通信期間の制御電圧の振幅より大きくすることが好ましい。
【0149】
また、図17に示す例では、正極性条件で通信動作を行い、負極性条件でダミーパルス電圧を印加する例を説明したが、本開示はこれに限定されず、正極性条件でダミーパルス電圧を印加し、負極性条件で通信動作を行ってもよい。
【0150】
さらに、図17に示す例では、待ち受け状態の制御電圧が0Vである例を説明したが、上記表1で説明したように、待ち受け時の制御電圧は、例えば通信装置の種類等の条件により変わる。それゆえ、ダミーパルス電圧の印加条件(電圧値及びパルス幅)もまた、例えば通信装置の種類等の条件により適宜変更することができる。
【0151】
上述のように、この例の手法もまた、上記実施形態と同様に、極性反転ドライブ方式で可変容量コンデンサに制御電圧を印加することができるので、上記実施形態と同様の効果が得られる。
【0152】
また、この例の手法では、次のような利点も得られる。上記実施形態の手法では、表4及び5に示す測定結果から明らかなように、可変容量コンデンサの正極性条件における容量及びその可変幅の経時変化特性は、負極性条件における容量及びその可変幅の経時変化特性と若干異なる。この場合、可変容量コンデンサの容量の可変特性が制御電圧の印加条件(正極性条件又は負極性条件)により若干変化する。
【0153】
それに対して、この例の手法では、通信時の制御電圧の印加条件を正極性条件及び負極性条件の一方に固定することができる。それゆえ、この例の手法では、上述した正極性条件及び負極性条件間での容量の経時変化の違いに関係なく、可変容量コンデンサの容量の可変特性を長期間安定して制御することができる。
【0154】
[変形例5]
上述のように、上記実施形態の手法では、極性反転ドライブ方式で制御電圧の印加手法を制御しても、可変容量コンデンサの正極性条件での容量の可変幅の経時変化と、負極性条件でのそれとが若干異なる。それゆえ、正極性条件及び負極性条件間における可変幅の経時変化の差を解消するために、次のような手法で制御電圧を制御してもよい。
【0155】
この例では、まず、予め、正極性条件及び負極性条件のそれぞれにおいて、種々の制御電圧に対する容量変化の特性をデータベース化する。そして、実際の可変容量コンデンサのドライブ時には、データベースに格納された特性データに基づいて、正極性条件及び負極性条件における可変容量コンデンサの容量の可変幅が同じになるように、各極性条件での制御電圧の値を適宜制御する。この例の手法を用いた場合には、可変容量コンデンサの容量の可変幅を、より一層、長期間安定して制御することができる。
【0156】
[変形例6]
上記実施形態では、制御電圧の印加条件を、正極性条件、負極性条件、正極性条件、負極条件…の順で反転させる例(例えば図6及び7参照)を説明したが、本開示はこれに限定されない。可変容量コンデンサのヒステリシス特性やエージング特性の影響をキャンセルできる手法であれば、制御電圧の印加条件の動作順序は任意である。
【0157】
例えば、正極性条件、負極性条件、負極性条件、正極性条件…の順で制御電圧の印加条件を反転させてもよいし、負極性条件、正極性条件、正極性条件、負極性条件…の順で制御電圧の印加条件を反転させてもよい。
【0158】
また、正極性条件及び負極性条件の一方を所定回数続けた後、印加条件を反転させ、その後、正極性条件及び負極性条件の他方を所定回数続けてもよい。例えば、正極性条件、正極性条件、負極性条件、負極性条件…の順で制御電圧の印加条件を反転させてもよい。
【0159】
ただし、上述した順序で制御電圧の印加する場合、可変容量コンデンサのヒステリシス特性やエージング特性の影響をキャンセルする観点から、所定期間内において、正極性条件での動作回数と、負極性条件での動作回数とが略同一になるようにすることが好ましい。
【0160】
また、可変容量コンデンサのヒステリシス特性やエージング特性の影響をキャンセルするという観点では、所定期間内において、1回程度、印加条件を反転してもよい。さらに、制御電圧の印加条件の反転動作を、予め決められた所定のタイミングで行ってもよいし、ランダムなタイミングで行うようにしてもよい。
【0161】
[変形例7]
上記実施形態では、マイナスの制御電圧を生成する電圧源を用いない例を説明したが、本開示はこれに限定されない。プラスの制御電圧を生成する電圧源と、マイナスの制御電圧を生成する電圧源とを用い、それらの2つの電圧源を適宜切り替えることにより、上述した極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法を実現してもよい。
【0162】
[変形例8]
上記実施形態では、待ち受け時の制御電圧を0Vに設定する例を説明したが、本開示は、これに限定されない。上記表1で説明したように、待ち受け時の制御電圧は、例えば通信装置の種類等の条件により変わる。それゆえ、待ち受け時の制御電圧は、例えば通信装置の種類等の条件に応じて適宜変更することができる。
【0163】
[変形例9]
上記実施形態では、極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法を、例えば非接触通信機能を備える情報処理端末等の通信装置の受信部に適用する例を説明したが、本開示はこれに限定されない。
【0164】
例えば、非接触通信機能を備える通信装置の送信部においても、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサで送信周波数を調整する場合には、この送信部に上述した極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法を適用してもよい。
【0165】
また、上述した極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法は、非接触通信機能を備え、かつ、強誘電体材料を用いた可変容量コンデンサで非接触通信機能の共振周波数を調整する通信装置であれば、任意の通信装置に適用可能である。例えば、非接触ICカードにも、上述した極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法を適用することができる。この場合には、非接触ICカード内の整流回路で生成された直流電圧から上述した第1制御電圧信号DC1及び第2制御電圧信号DC2が生成される。
【0166】
さらに、上述した極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法は、例えば、非接触給電装置にも適用することができる。上述した極性反転ドライブ方式の制御電圧印加手法を非接触給電装置に適用した場合には、長期間安定した給電動作を実現することができる。
【0167】
なお、本開示は、以下のような構成を取ることもできる。
(1)
強誘電体材料で形成された誘電体部を有する可変容量素子を含み、外部と非接触通信を行う共振アンテナと、
前記可変容量素子の容量を制御する制御電圧を生成し、該生成した制御電圧を前記可変容量素子の前記誘電体部に印加し、かつ、前記誘電体部に印加する該制御電圧の印加方向を所定のタイミングで反転させる制御電圧発生部と
を備える通信装置。
(2)
前記制御電圧の印加方向を反転させるタイミングの直前の第1の制御電圧印加動作、及び、直後の第2の制御電圧印加動作の少なくとも一方が、外部との非接触通信動作である
(1)に記載の通信装置。
(3)
前記第1の制御電圧印加動作、及び、前記第2の制御電圧印加動作が、ともに、外部との非接触通信動作である
(2)に記載の通信装置。
(4)
前記第1の制御電圧印加動作が外部との非接触通信動作であり、及び、前記第2の制御電圧印加動作が外部との非接触通信動作以外の動作である
(2)に記載の通信装置。
(5)
前記制御電圧発生部は、前記第1の制御電圧印加動作を所定回数行った後、前記制御電圧の印加方向を反転させて前記第2の制御電圧印加動作を所定回数行う
(2)〜(4)のいずれか一項に記載の通信装置。
(6)
前記所定回数が1回である
(5)に記載の通信装置。
(7)
前記第1の制御電圧印加動作の期間と、前記第2の制御電圧印加動作の期間とが同じ時間長さである
(2)〜(6)のいずれか一項に記載の通信装置。
(8)
前記第2の制御電圧印加動作の期間が、前記第1の制御電圧印加動作の期間より短い
(2)〜(6)のいずれか一項に記載の通信装置。
(9)
強誘電体材料で形成された誘電体部を有する可変容量素子と、
前記可変容量素子の容量を制御する制御電圧を生成し、該生成した制御電圧を前記可変容量素子の前記誘電体部に印加し、かつ、前記誘電体部に印加する該制御電圧の印加方向を所定のタイミングで反転させる制御電圧発生部と
を備える共振回路。
(10)
強誘電体材料で形成された誘電体部を有する可変容量素子と、該可変容量素子の容量を制御する制御電圧を生成し、該生成した制御電圧を前記可変容量素子の前記誘電体部に印加する制御電圧発生部とを有する通信装置の制御電圧発生部が、前記誘電体部に対して所定方向に第1の制御電圧を印加するステップと、
前記制御電圧発生部が、前記所定方向に前記第1の制御電圧を印加した後、所定のタイミングで制御電圧の印加方向を反転させて第2の制御電圧を印加するステップと
を含む制御電圧の印加方法。
【符号の説明】
【0168】
10…受信部、11…共振アンテナ、12…電圧発生回路、13,14…抵抗、20…信号処理部、21…共振コイル、22…共振コンデンサ、23…定容量コンデンサ、24…可変容量コンデンサ、25,26…バイアス除去用コンデンサ、100…通信装置、DC1…第1制御電圧信号、DC2…第2制御電圧信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強誘電体材料で形成された誘電体部を有する可変容量素子を含み、外部と非接触通信を行う共振アンテナと、
前記可変容量素子の容量を制御する制御電圧を生成し、該生成した制御電圧を前記可変容量素子の前記誘電体部に印加し、かつ、前記誘電体部に印加する該制御電圧の印加方向を所定のタイミングで反転させる制御電圧発生部と
を備える通信装置。
【請求項2】
前記制御電圧の印加方向を反転させるタイミングの直前の第1の制御電圧印加動作、及び、直後の第2の制御電圧印加動作の少なくとも一方が、外部との非接触通信動作である
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
前記第1の制御電圧印加動作、及び、前記第2の制御電圧印加動作が、ともに、外部との非接触通信動作である
請求項2に記載の通信装置。
【請求項4】
前記第1の制御電圧印加動作が外部との非接触通信動作であり、及び、前記第2の制御電圧印加動作が外部との非接触通信動作以外の動作である
請求項2に記載の通信装置。
【請求項5】
前記制御電圧発生部は、前記第1の制御電圧印加動作を所定回数行った後、前記制御電圧の印加方向を反転させて前記第2の制御電圧印加動作を所定回数行う
請求項2に記載の通信装置。
【請求項6】
前記所定回数が1回である
請求項5に記載の通信装置。
【請求項7】
前記第1の制御電圧印加動作の期間と、前記第2の制御電圧印加動作の期間とが同じ時間長さである
請求項2に記載の通信装置。
【請求項8】
前記第2の制御電圧印加動作の期間が、前記第1の制御電圧印加動作の期間より短い
請求項4に記載の通信装置。
【請求項9】
強誘電体材料で形成された誘電体部を有する可変容量素子と、
前記可変容量素子の容量を制御する制御電圧を生成し、該生成した制御電圧を前記可変容量素子の前記誘電体部に印加し、かつ、前記誘電体部に印加する該制御電圧の印加方向を所定のタイミングで反転させる制御電圧発生部と
を備える共振回路。
【請求項10】
強誘電体材料で形成された誘電体部を有する可変容量素子と、該可変容量素子の容量を制御する制御電圧を生成し、該生成した制御電圧を前記可変容量素子の前記誘電体部に印加する制御電圧発生部とを有する通信装置の制御電圧発生部が、前記誘電体部に対して所定方向に第1の制御電圧を印加するステップと、
前記制御電圧発生部が、前記所定方向に前記第1の制御電圧を印加した後、所定のタイミングで制御電圧の印加方向を反転させて第2の制御電圧を印加するステップと
を含む制御電圧の印加方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−209828(P2012−209828A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74937(P2011−74937)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】