説明

通常不安軽減用組成物

【課題】 検査、診察、手術などの医療行為を受ける前に感じる不安を、副作用の少ない安全な手段で軽減する手段を提供する。
【解決手段】 不安を感じている者に対して、β−カリオフィレンを投与することにより、その不安を軽減する方法、及びその方法に用いる組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正常な不安を軽減するための組成物、正常な不安の軽減方法、乗り物酔いの予防又は治療剤、夜尿症の予防又は治療剤、ストレス性蕁麻疹の予防又は治療剤、及び睡眠障害の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
不安には、健常者が日常的に感じる通常の不安と、不安障害のような病的な不安とがある。病的な不安に対しては、従来からこれを改善するための薬剤の研究が進められてきており、現在では、非常に多くの種類の抗不安剤が使用されている(特許文献1)。
【0003】
一方、病的な不安以外の不安、即ち、通常の不安(以下、「通常不安」という)は、ヒトが危険を避けるために行う正常な反応であることから、「病気」という認識がなく、このため通常不安を軽減するような試みはほとんど行われてこなかった。しかし、通常不安も、ヒトに精神的な苦痛を与えるという点では、病的な不安とは変わりなく、特に、手術等の医療行為前に患者が感じる不安は、それが自己の命にかかわるものであることから、正常な不安といえども、その精神的な苦痛は非常に大きい。このような不安に対して、病的な不安に用いられている抗不安剤などが投与される場合もあるが、一般に抗不安剤には副作用の大きいものが多く、安易な使用は避けられるべきである。
【0004】
【特許文献1】特開2004-123655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような技術的背景の下になされたものであり、副作用の少ない安全な手段で通常不安を軽減する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、β−カリオフィレンの香りに通常不安を軽減する効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(18)を提供するものである。
【0008】
(1)β−カリオフィレンを有効成分として含有する通常不安軽減用組成物。
【0009】
(2)β−カリオフィレンを唯一の芳香物質として含有する(1)記載の通常不安軽減用組成物。
【0010】
(3)通常不安が、医療行為を受けることに対する不安、病気の再発に対する不安、未知の体験に対する不安、又は不安感が原因で発症する異常状態に対する不安であることを特徴とする(1)又は(2)記載の通常不安軽減用組成物。
【0011】
(4)医療行為を受けることに対する不安が、診察、カウンセリング、検査、手術、及び治療からなる群より選ばれる少なくとも1種に対する不安であることを特徴とする(3)記載の通常不安軽減用組成物。
【0012】
(5)医療行為を受けることに対する不安が、注射を受ける前の不安、内視鏡による検査を受ける前の不安、針生検を受ける前の不安、腎臓透析を受ける前の不安、歯科治療を受ける前の不安、麻酔を受ける前の不安、不妊治療を受ける前の不安からなる群より選ばれる少なくとも1種に対する不安であることを特徴とする(3)記載の通常不安軽減用組成物。
【0013】
(6)病気の再発に対する不安が、癌の再発に対する不安であることを特徴とする(3)記載の通常不安軽減用組成物。
【0014】
(7)不安感が原因で発症する異常状態に対する不安が、乗り物酔い、夜尿症、ストレス性蕁麻疹、又は睡眠障害に対する不安であることを特徴とする(3)記載の通常不安軽減用組成物。
【0015】
(8)通常不安を感じている者に対して、β−カリオフィレンを投与することを特徴とする通常不安の軽減方法。
【0016】
(9)β−カリオフィレンを投与する手段が、β−カリオフィレンによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達される手段であることを特徴とする(8)記載の通常不安の軽減方法。
【0017】
(10)β−カリオフィレンによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達される手段が、β−カリオフィレンを含む空気を通常不安を感じている者に鼻から吸入させる手段、又はβ−カリオフィレンを含む空気中に通常不安を感じている者を曝露する手段である、(9)記載の通常不安の軽減方法。
【0018】
(11)β−カリオフィレンを有効成分として含有する乗り物酔いの予防又は治療剤。
【0019】
(12)β−カリオフィレンを唯一の芳香物質として含有する(11)記載の乗り物酔いの予防又は治療剤。
【0020】
(13)β−カリオフィレンを有効成分として含有する夜尿症の予防又は治療剤。
【0021】
(14)β−カリオフィレンを唯一の芳香物質として含有する(13)記載の夜尿症の予防又は治療剤。
【0022】
(15)β−カリオフィレンを有効成分として含有するストレス性蕁麻疹の予防又は治療剤。
【0023】
(16)β−カリオフィレンを唯一の芳香物質として含有する(15)記載のストレス性蕁麻疹の予防又は治療剤。
【0024】
(17)β−カリオフィレンを有効成分として含有する睡眠障害の予防又は治療剤。
【0025】
(18)β−カリオフィレンを唯一の芳香物質として含有する(17)記載の睡眠障害の予防又は治療剤。
【発明の効果】
【0026】
β−カリオフィレンは、長年、香水の原料や食品の香り付けとして使用されてきた安全性の高い物質である。従って、このβ−カリオフィレンを有効成分として含有する本発明の組成物により、人体に害を与えることなく、正常な不安を軽減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0028】
β−カリオフィレンの香りには、通常不安を軽減させる効果がある。従って、β−カリオフィレンは「通常不安軽減用組成物」、「通常不安の軽減方法」に利用することができる。
【0029】
また、乗り物酔いの発症には、不安感が関与していることが知られている。即ち、一度車に乗って酔った体験をしたことが、次の乗車でまた酔うのではないかという不安を生じさせ、この不安が乗り物酔いを引き起こさせる。β−カリオフィレンは、乗り物酔いの原因となるこのような不安を軽減する効果があるので、「乗り物酔い予防又は治療剤」として利用することができる。夜尿症やストレス性蕁麻疹や睡眠障害についても、同様に不安感との関連性が指摘されている。即ち、「おねしょをするかもしれない」という不安、「蕁麻疹になるかもしれない」という不安、「眠れないかもしれない」という不安が、それぞれ夜尿症、ストレス性蕁麻疹、睡眠障害の原因の一つとなっている。β−カリオフィレンは、これらの不安に対しても軽減効果があるので、「夜尿症の予防又は治療剤」、「ストレス性蕁麻疹の予防又は治療剤」、「睡眠障害の予防又は治療剤」としても利用することができる。
【0030】
本発明の通常不安軽減用組成物は、β−カリオフィレンを有効成分として含有するものである。
【0031】
ここで「通常不安」とは、病的な不安以外の不安をいい、より具体的には、不安の対象が不明確な不安(例えば、わけもなく不安であるといった場合など)、合理的でない不安(例えば、妄想に基づく不安など)、身体の異常(例えば、ホルモンの異常)を原因とする不安以外の不安をいう。
【0032】
「医療行為を受けることに対する不安」、「病気の再発に対する不安」、「未知の体験に対する不安」、又は「不安感が原因で発症する異常状態に対する不安」は、少なくとも、本発明における通常不安に含まれる。
【0033】
「医療行為を受けることに対する不安」とは、例えば、診察、カウンセリング、検査、手術、及び治療からなる群より選ばれる少なくとも1種に対する不安をいい、より具体的には、注射を受ける前の不安、内視鏡による検査を受ける前の不安、針生検を受ける前の不安、腎臓透析を受ける前の不安、歯科治療を受ける前の不安、麻酔を受ける前の不安、不妊治療を受ける前の不安からなる群より選ばれる少なくとも1種に対する不安をいう。
【0034】
「病気の再発に対する不安」とは、例えば、癌、白血病の再発に対する不安をいう。
【0035】
「不安感が原因で発症する異常状態に対する不安」とは、例えば、乗り物酔い、夜尿症、ストレス性蕁麻疹、又は睡眠障害などをいう。
【0036】
「未知の体験に対する不安」とは、例えば、今まで飛行機に乗ったことがない者が初めて飛行機に乗るときに感じるような不安をいう。
【0037】
また、「試験の前に感じる不安」、「ビジネス交渉の前に感じる不安」、「プレゼンテーションの前に感じる不安」、「学会発表前に感じる不安」、「舞台に出る前に感じる不安」、「裁判を受ける前に感じる不安」、「育児不安」なども本発明における通常不安に含まれる。
【0038】
使用するβ−カリオフィレンは、天然物(例えば、イランイラン、ブラックペッパー)などから抽出されたものでもよく、人工的に合成されたものであってもよい。また、β−カリオフィレンは、試薬として販売されているので、それを用いてもよい。本発明の通常不安軽減用組成物中には、β−カリオフィレン以外の他の芳香物質が含まれていてもよいが、β−カリオフィレンが唯一の芳香物質として含まれていることが好ましい。ここでいう「β−カリオフィレン以外の他の芳香物質」とは、アロマテラピーに用いられるエッセンシャルオイル中に含まれるβ−カリオフィレン以外の芳香物質をいい、例えば、リナロール、シトラール、シベトン、エピジャスモン酸メチルなどを含む。
【0039】
本発明の通常不安軽減用組成物は、β−カリオフィレンのみからなっていてもよく、また、β−カリオフィレンを適当な溶媒で希釈して調製してもよい。溶媒としては、ジプロピレングリコール、ミネラルオイル、クエン酸トリエチル、エタノール、ベンジルベンゾエイトなどを使用することができ、希釈時のβ−カリオフィレンの濃度は1〜10%程度とすることができる。
【0040】
本発明の通常不安軽減用組成物の使用方法は、通常不安の軽減効果が発揮できるような方法であれば特に限定されず、例えば、本発明の通常不安軽減用組成物を少量染み込ませた布などを、鼻のあたりに近づけ、β−カリオフィレを含む空気を鼻から吸入する方法を示すことができる。このとき吸入させる時間は特に限定されないが、10分〜1時間程度が適当である。また、本発明の通常不安軽減用組成物中のβ−カリオフィレンをディフューザーなどによって空気中に揮発させ、この空気中に使用者が一定時間曝露されるような使用方法も例示できる。曝露時間は特に限定されないが、10分〜1時間程度が適当である。
【0041】
本発明の通常不安の軽減方法は、通常不安を感じている者に対して、β−カリオフィレンを投与することを特徴とするものである。
【0042】
β−カリオフィレンの投与方法は特に限定されず、通常の医薬等と同様に経口的、経静脈的、経皮的に投与してもよいが、好ましくは、β−カリオフィレンによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達されるような手段で投与する。このような投与方法としては、例えば、β−カリオフィレンを含む溶液を少量染み込ませた布などを、通常不安を感じている者の鼻のあたりに近づけ、β−カリオフィレンを含む空気を鼻から吸入させる方法などが考えられる。このとき吸入させる時間は特に限定されないが、10分〜1時間程度が適当である。また、ディフューザー等によってβ−カリオフィレンを空気中に揮発させ、この空気中に通常不安を感じている者を一定時間曝露することによってβ−カリオフィレンを投与してもよい。曝露する時間は特に限定されないが、10分〜1時間程度が適当である。
【0043】
本発明の乗り物酔いの予防又は治療剤、夜尿症の予防又は治療剤、ストレス性蕁麻疹の予防又は治療剤、睡眠障害の予防又は治療剤は、本発明の通常不安軽減用組成物と同様の方法で調製することができ、また、同様の方法で使用することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0045】
バネ指、陥入爪、抜釘の局所麻酔による手術を受ける患者を被験者とし、これらの患者が感じる不安に対して、β−カリオフィレンがどのような影響を与えるかをSTAI質問票を用いて調べた。
【0046】
まず、手術を始める前の被検者(β−カリオフィレン:6名、コントロール:5名)に、日本版STAI質問票に回答してもらった。次に、β−カリオフィレン又はコントロール物質(イランイランの精油、β−カリオフィレンを約17%程度含有)3ccをディフューザー(アテーム社)を使って10分間噴霧し、被検者にこれらの物質を吸入させた。その後、再度、日本版STAI質問票に回答してもらった。
【0047】
β−カリオフィレン及びコントロール物質吸入前後のSTAI質問票の状態不安のスコアをそれぞれ図1及び図2に示す。また、β−カリオフィレン及びコントロール物質吸入前後のスコアの差の平均値を図3に示す。
【0048】
これらの図に示すように、β−カリオフィレンを吸入させることにより、すべての被験者においてSTAI質問票のスコア値の減少がみられた。このことから、β−カリオフィレンは、被検者の不安を軽減させる効果を持つと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】β−カリオフィレン吸入前と後の被検者のSTAI質問票のスコアを示す図。
【図2】コントロール物質吸入前と後の被検者のSTAI質問票のスコアを示す図。
【図3】β−カリオフィレン及びコントロール物質吸入前後のSTAI質問票のスコアの差の平均値を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−カリオフィレンを有効成分として含有する通常不安軽減用組成物。
【請求項2】
β−カリオフィレンを唯一の芳香物質として含有する請求項1記載の通常不安軽減用組成物。
【請求項3】
通常不安が、医療行為を受けることに対する不安、病気の再発に対する不安、未知の体験に対する不安、又は不安感が原因で発症する異常状態に対する不安であることを特徴とする請求項1又は2記載の通常不安軽減用組成物。
【請求項4】
医療行為を受けることに対する不安が、診察、カウンセリング、検査、手術、及び治療からなる群より選ばれる少なくとも1種に対する不安であることを特徴とする請求項3記載の通常不安軽減用組成物。
【請求項5】
医療行為を受けることに対する不安が、注射を受ける前の不安、内視鏡による検査を受ける前の不安、針生検を受ける前の不安、腎臓透析を受ける前の不安、歯科治療を受ける前の不安、麻酔を受ける前の不安、不妊治療を受ける前の不安からなる群より選ばれる少なくとも1種に対する不安であることを特徴とする請求項3記載の通常不安軽減用組成物。
【請求項6】
病気の再発に対する不安が、癌の再発に対する不安であることを特徴とする請求項3記載の通常不安軽減用組成物。
【請求項7】
不安感が原因で発症する異常状態に対する不安が、乗り物酔い、夜尿症、ストレス性蕁麻疹、又は睡眠障害に対する不安であることを特徴とする請求項3記載の通常不安軽減用組成物。
【請求項8】
通常不安を感じている者に対して、β−カリオフィレンを投与することを特徴とする通常不安の軽減方法。
【請求項9】
β−カリオフィレンを投与する手段が、β−カリオフィレンによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達される手段であることを特徴とする請求項8記載の通常不安の軽減方法。
【請求項10】
β−カリオフィレンによる刺激が嗅覚神経を介して脳に伝達される手段が、β−カリオフィレンを含む空気を通常不安を感じている者に鼻から吸入させる手段、又はβ−カリオフィレンを含む空気中に通常不安を感じている者を曝露する手段である、請求項9記載の通常不安の軽減方法。
【請求項11】
β−カリオフィレンを有効成分として含有する乗り物酔いの予防又は治療剤。
【請求項12】
β−カリオフィレンを唯一の芳香物質として含有する請求項11記載の乗り物酔いの予防又は治療剤。
【請求項13】
β−カリオフィレンを有効成分として含有する夜尿症の予防又は治療剤。
【請求項14】
β−カリオフィレンを唯一の芳香物質として含有する請求項13記載の夜尿症の予防又は治療剤。
【請求項15】
β−カリオフィレンを有効成分として含有するストレス性蕁麻疹の予防又は治療剤。
【請求項16】
β−カリオフィレンを唯一の芳香物質として含有する請求項15記載のストレス性蕁麻疹の予防又は治療剤。
【請求項17】
β−カリオフィレンを有効成分として含有する睡眠障害の予防又は治療剤。
【請求項18】
β−カリオフィレンを唯一の芳香物質として含有する請求項17記載の睡眠障害の予防又は治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−342062(P2006−342062A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−166353(P2005−166353)
【出願日】平成17年6月7日(2005.6.7)
【出願人】(505212290)株式会社メディカル・フレグランス (1)
【Fターム(参考)】