説明

通常燃料の性状判定装置

【課題】 測定用の特別のセンサを必要とせずに、作業機械に備わっているセンサを利用して通常燃料の性状を判定することができる性状判定装置を提供する。
【解決手段】 エンジン6と通常燃料を貯蔵した燃料タンク7又は正規燃料を貯蔵したサンプル燃料タンク8との選択的な接続を、切替手段によって制御する。エンジンの始動開始後の暖機運転が完了したあとに、サンプル燃料を供給してそのときのエンジン特性を測定してエンジン特性の基準値とする。また、通常燃料を供給したときのエンジン特性を測定し、基準値としたエンジン特性と比較することで、通常燃料として正規の燃料が使用されているのか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに供給される通常燃料が粗悪燃料であるか否かを、通常燃料の性状を測定して判定する性状判定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業機械としては、例えば、パワーショベルやホイールローダ等の各種建設機械や、ダンプトラック等の運搬車両等が知られている。これらの作業機械では、燃料コストを低減するために、ディーゼルエンジンが搭載されており、燃料としては軽油が使用されている。多くの作業機械の使用者は、正規の軽油を使用しているが、なかには軽油に灯油等の他の燃料を混ぜた粗悪燃料を使用している例も見受けられる。このような粗悪燃料は、正規の軽油よりも安価に手に入れることができる。
【0003】
しかし、近年では、環境問題への対応が社会から強く要請されてきており、作業機械メーカー等においても、より環境への影響が少なくなるように積極的に取り組んでいる。そこで、ディーゼルエンジンを高度に制御して、エンジンの排気ガスに含まれている窒素酸化物や硫黄化合物等の量が少なくなるように、主要部品の設計を行ってきている。
【0004】
このように設計したエンジンに設計どおりの機能を発揮させるためには、燃料として正規の軽油が使用されていることが前提となる。しかし、軽油に比べてオイル含有量の少ない灯油や不純物を含んだ粗悪な燃料が使用されると、予定されたエンジン性能を発揮させることができなくなってしまい、排気ガスに含まれている窒素酸化物や硫黄化合物等の量を減らすことができなくなる。また、エンジンの燃料噴射系等に対して損傷を与えてしまい、エンジンの寿命を低下させてしまう危険性がある。
【0005】
そこで、燃料の性状を測定する種々の技術が提案されている。エンジンの排気ガスに含まれている窒素酸化物や硫黄化合物等の量を測定して、正規の軽油が使用されているのか否かを判別する軽油識別方法(特許文献1参照)や、軽油の比重と灯油の比重とが相違していることを利用して、燃料の比重を計ることで軽油に灯油などが混入されているのか否かを判別する比重判別装置(特許文献2)などが提案されている。
【0006】
特許文献1に記載された軽油識別方法では、排気ガス中に含まれている窒素酸化物や硫黄化合物等の量を測定するための検出装置を別途用意しておかなければならない。しかも、窒素酸化物や硫黄化合物等の量を測定するに当たっては、排気ガスが排出される排気口の近傍における所定位置に検出装置を配置しなければならない。検出装置を配置する位置が異なると、測定精度に誤差が生じてしまう。
【0007】
また、特許文献1の軽油識別方法において記載されている実施例では、ディーゼル自動車からの排気ガスを測定する検出例が例示されているので、検出装置を車体の底部に配されている排気口の近傍に配設することは容易である。
【0008】
しかし、作業機械の場合には、一般に排気口が車体の上部から上方に向かって配置されている構成となっている。そこで、排気口の近傍における所定位置に検出装置を配設するためには、特別の取り付け装置等が必要となる。また、天候が不順なときに排気ガスの測定を行う場合には、排気口の周囲を天幕等で覆っておかなければならず、測定を行うこと自体が大掛かりなものになってしまう。
【0009】
また、特許文献2に記載された比重判別装置では、燃料タンク内に正規の燃料が残存している状態で、更に粗悪な燃料が給油されたような場合には、燃料タンク内に占める粗悪な燃料の割合が低下してしまい、燃料タンク内にある燃料の性状を測定する精度が低下してしまう。
【0010】
これらの問題を解決するため、本願出願人は給油時に給油された燃料の性状を測定することができる燃料性状検出装置(特許文献3参照)を提案している。特許文献3に記載された燃料性状検出装置では、燃料タンク内に測定室部材を設けた構成となっている。
【0011】
即ち、給油ノズルから注入された燃料の大部分は、給油口から測定室部材に形成した流出口を介して、燃料タンク内に落下する構成となっている。そして、給油された燃料の一部は、測定室部材に形成された流出口の下部と底部との間における測定空間内に、一時的に溜めておくことができる。
【0012】
測定空間に臨むようにして燃料タンク本体には、燃料性状検出センサが取付けられている。給油口に設けた給油キャップセンサによって給油口の施蓋が検出され、燃料残量センサによって燃料タンク内の燃料残量が増加していることが検出された場合や、エンジンが始動された場合には、燃料性状検出センサによって燃料の性状を測定する構成となっている。
【0013】
燃料性状検出センサで測定する燃料の性状としては、例えば、比重、屈折率、密度、光透過度等のような燃料の有する物理的性質である。そして、これらの物理的性質を測定することで、燃料の性質や状態を検出している。
このように構成されているので、給油された燃料の性状を直接測定することができる利点を有している。
【特許文献1】特開2004−219269号公報
【特許文献2】実開平2−20146号公報
【特許文献3】特開2008−14741号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1〜3に示されたものでは、燃料の性状を測定するのに、排気ガスに含まれている窒素酸化物や硫黄化合物等の量を測定するためのセンサや、燃料の有する物理的性質を測定するためのセンサが必要となる。しかし、これらのセンサは、測定時以外の時には不要なものとなってしまい、また、センサを配置又は格納しておくためのスペースが必要となる。
【0015】
本願発明では、測定用の特別のセンサを必要とせずに、作業機械に備わっているセンサを利用して通常燃料の性状を判定することができる性状判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本願発明の課題は請求項1〜3に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願発明は、作業機械に搭載されたエンジンに供給する通常燃料の性状判定装置であって、前記エンジンに供給する通常燃料を貯蔵する燃料タンクと、前記燃料タンクとは別に設けられ、サンプル燃料を貯蔵するサンプル燃料タンクと、前記エンジンへの燃料配管を、前記燃料タンクへの接続と前記サンプル燃料タンクへの接続とに切替える切替手段と、コントローラと、を備え、
前記コントローラは、前記エンジンの暖機運転完了後に、前記切替手段を制御して前記燃料配管を前記エンジンと前記サンプル燃料タンクとを繋ぐ接続に切替え、前記サンプル燃料タンクに貯蔵されたサンプル燃料を用いたときのエンジン特性を測定して記憶し、前記コントローラは、前記燃料タンクから供給された通常燃料を用いたときのエンジン特性と、前記サンプル燃料によるエンジン特性と、を比較し、比較結果を表示することを最も主要な特徴となしている。
【0017】
また、本願発明における通常燃料の性状判定装置では、前記コントローラによる通常燃料の性状判定が、前記エンジンをその日初めて始動させたときに又は前記燃料タンクに通常燃料を給油した度毎に行われることを主要な特徴となしている。
更に、本願発明における通常燃料の性状判定装置では、前記サンプル燃料によるエンジン特性の測定が、前記切替手段を切替えた後に、更に所定時間が経過した後に行われることを主要な特徴となしている。
【発明の効果】
【0018】
本願発明では、サンプル燃料を用いたときのエンジン特性と通常燃料を用いたときのエンジン特性とをそれぞれ測定して比較することで、正規の燃料が通常燃料として用いられているのか、あるいは粗悪品の燃料が通常燃料として用いられているのかについて判定を行うことができる。しかも、エンジン特性としては、エンジン回転数やエンジン出力トルクを測定することで求めることができる。このため、作業機械に備わっているエンジン回転数センサやエンジン出力トルクセンサをそのまま利用することができる。
【0019】
特に、粗悪燃料の使用時には、エンジン回転数が正規の燃料を用いた場合に比べて低い回転数になったり、エンジン回転が不安定になったりする。同じように、エンジン出力トルクに関しても、粗悪燃料の使用時には正規の燃料を用いた場合に比べて低いトルクが出力されたり、トルクの出力が不安定になったりしてしまう。
【0020】
このように、エンジン回転数やエンジン出力トルクを測定することで、あるいはエンジン回転数とエンジン出力トルクとの両方を測定することで、燃料タンク内に貯蔵されている通常燃料が、正規燃料であるか否かを判定することができる。特に、エンジン回転数とエンジン出力トルクとの両方を測定することにより、測定精度を高めることができる。
【0021】
従って、従来のような燃料の性状を測定するために必要としていた特別のセンサ等が不要となる。特別のセンサ等を用いる代わりに、作業機械に装備されている既存のセンサを用いて、通常燃料の性状を測定することができる。
【0022】
本発明では、暖機運転完了後にサンプル燃料を供給してエンジン特性を測定している。このため、エンジンが暖機された後における略同じ測定条件下で、通常燃料を用いたときのエンジン特性とサンプル燃料を用いたときのエンジン特性とを測定することができる。そのため、エンジン始動直後におけるエンジン回転数の低下やエンジントルクの落ち込み等が生じない状態で、エンジン特性の測定を行うことができる。
【0023】
しかも、切替手段を切替えてサンプル燃料によるエンジン特性を測定する前後におけるエンジン回転数の変動、エンジントルクの変動を測定することになるので、通常燃料として使用されている燃料が粗悪燃料か正規の燃料かを簡単に判定することができる。
【0024】
更に、エンジン特性を測定するために消費されるサンプル燃料の量としては、数ml程度の量であるので、サンプル燃料タンクの大きさとしては小さな容量のもので構成しておくことができる。従って、サンプル燃料タンクを設けたとしても、サンプル燃料タンクを設けるための設置スペースとしては、僅かなスペースですむ。
【0025】
また、サンプル燃料タンクは小さく構成しておくことができるので、サンプル燃料タンクを燃料タンクの周囲に配設しておくこともできる。更に、切替手段からエンジンまでの燃料配管の長さを限りなく「ゼロ」となるように構成しておくこともできる。この場合には、切替手段を切替えてからエンジン特性を測定するまでの時間を、短縮することができる。
【0026】
サンプル燃料によるエンジン特性と通常燃料によるエンジン特性とを比較した結果は、運転室内に配設されている既存の表示装置を利用して、文字、表示画面の背景色、音声等の形で、あるいは文字、表示画面の背景色、音声等を適宜組み合わせた形で表示させることができる。
【0027】
また、サンプル燃料によるエンジン特性と通常燃料によるエンジン特性との比較を行うタイミングとしては、エンジンをその日初めて始動させたときに行うことができる。又は、燃料タンクに通常燃料が給油された度毎に行うことができる。従って、一日の始めにエンジンを始動させるときに、通常燃料の良否を判定することができるので、粗悪燃料が用いられていることが分かれば、仕事を開始する前に正規の燃料に取り替えることができる。
【0028】
また、燃料タンクに通常燃料が給油された度毎に、エンジン特性の比較を行うことができるので、給油された燃料として正規燃料が用いられているのか否かを、給油された直後において簡単に確認することができる。
【0029】
このとき、サンプル燃料を用いたときのエンジン特性の測定値としては、エンジンの始動が開始されたときに測定した測定値を用いることもできる。この場合には、サンプル燃料を用いたときのエンジン特性を改めて測定しなくてすむので、サンプル燃料の消費量を減らすことができるとともに、比較判定を行うための時間を短縮することができる。
【0030】
サンプル燃料によるエンジン特性を測定するときには、切替手段を切替えた後に、更に所定時間が経過した後に行うことができる。このように、切替手段を切替えた後であって、更に所定時間が経過した後に行うことによって、切替手段からエンジンまでの間に存在していた通常燃料が消費された後に、サンプル燃料だけによるエンジン駆動状態でのエンジン特性を測定することができる。あるいは、切替手段からエンジンまでの間に存在していたサンプル燃料が消費された後に、通常燃料だけによるエンジン駆動状態でのエンジン特性を測定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明の通常燃料の性状判定装置の構成としては、以下で説明する形状、配置構成以外にも本願発明の課題を解決することができる形状、配置構成であれば、それらの形状、配置構成を採用することができるものである。このため、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
【実施例】
【0032】
図1は、本発明の実施形態に係わる作業機械として、パワーショベルを例に挙げてその側面図を模式的に示したものである。図1に示すように、パワーショベル1は、走行用のクローラが設置された下部走行体3と、下部走行体3の上部に図示せぬ旋回ベアリングを介して旋回自在に搭載された上部旋回体2とを備えている。上部旋回体2には、その上部に作業者用の運転室4が配設され、運転室4の前方には油圧駆動される作業機5が揺動自在に軸支されている。作業機5には、ブーム5a、アーム5b及びアーム5bの先端に軸着された掘削用のバケット5cが配設されている。
【0033】
上部旋回体2の内部には、エンジン6が搭載されており、エンジン6に供給する燃料噴射量を制御するコントローラ10も上部旋回体2の内部に設けられている。コントローラ10は、運転室4に配した作業機を操作する各種レバーの操作モード、パワーショベルの走行モード、エンジン回転数、エンジン出力トルク等の各種信号が入力されている。
【0034】
エンジン回転数を測定する回転数センサやエンジン出力トルクを測定するトルクセンサは、図示を行っていないが、従来から公知のようにエンジン6の出力軸等に設けられている。また、運転室4内には、作業機の操作モード、パワーショベルの走行モード、車速、エンジン回転数、エンジン出力トルク等のうちで必要なものを表示する表示部9が設けられている。表示部9は、コントローラ10からの出力信号によって、文字の表示、図柄の表示、表示画面における画面の色の表示、音声等を表示することができる。
尚、本発明では、音声等をスピーカ等によって出力させることも、表示部9における表示としての概念に含ませている。
【0035】
上部旋回体2の内部には、エンジン6に供給する通常燃料を溜めておく燃料タンク7と、正規の燃料をサンプル燃料としてエンジン6に供給するサンプル燃料タンク8とが配設されている。エンジン6と燃料タンク7及びサンプル燃料タンク8とを接続する燃料配管12a〜12cには、燃料配管を切替える切替手段11が設けられている。切替手段11としては、従来から公知の切換弁等を用いることができる。
【0036】
切替手段11は、通常の切替位置において、燃料配管12aと燃料配管12bとを接続している。即ち、通常状態において切替手段11は、エンジン6と燃料タンク7とを接続させており、燃料タンク7における通常燃料がエンジン6に供給されることになる。コントローラ10からの指令によって切替手段11は、燃料配管12aと燃料配管12bとを接続させている位置から燃料配管12aと燃料配管12cとを接続させる位置に切替る。切替手段11が切替ることによって、エンジン6とサンプル燃料タンク8とを接続させることができ、サンプル燃料タンク8内のサンプル燃料をエンジン6に供給することができる。
【0037】
サンプル燃料タンク8は、通常燃料を用いたときのエンジン特性と比較するために、正規燃料をサンプル燃料として貯蔵しているタンクである。エンジン特性を測定するのに消費される燃料の量としては、少量の数ml程度の量ですむので、サンプル燃料タンク8を小型タンクとして構成しておくことができる。そして、サンプル燃料タンク8を、燃料タンク7の周辺に配置したり、燃料タンク7に付属させた構成としておくこともできる。
【0038】
また、切替手段11からエンジン6までの燃料配管12aの長さを限りなく「ゼロ」に近い状態に構成しておくことにより、切替手段11を切替えてからサンプル燃料がエンジン供給されてエンジン特性を測定するまでの時間を、短縮することができる。即ち、切替手段11を切替えてから時間遅れなく測定を開始することができる。
【0039】
コントローラ10から切替手段11を切替える指令は、エンジン6の暖機運転が完了後に出力させることができる。暖機運転が完了することによって、エンジン6を始動させた直後のようにエンジン回転数が低下したり、エンジントルクが落ち込む等といった状態を生じさせずに、エンジン6が安定している状態でエンジン特性を測定することができる。
【0040】
エンジン特性は、エンジン6の出力軸等に既に設けられている図示せぬ回転数センサや図示せぬトルクセンサからの検出信号によって求めることができる。このため、特に専用の検出手段を用いることなく、エンジン特性を測定することができる。
【0041】
エンジン特性としては、サンプル燃料タンク8から供給されたサンプル燃料を用いたときのエンジン特性と、燃料タンク7から供給された通常燃料を用いたときのエンジン特性と、を測定することになる。
【0042】
次に、図2で示した通常燃料の性状を判定するコントローラ10で行われる判定ルーチンを用いて、エンジン特性の測定から、エンジン特性を比較した比較結果を表示部9に表示するまでの判定ルーチンについて説明する。
ステップS1では、エンジン6が駆動されているのか否かの判定が行われる。ステップS1において、エンジン6が駆動されていると判定したときには、ステップS2に移る。エンジン6が駆動されてないと判定したときには、エンジン6の駆動が行われていると判定されるまで、所定の制御インターバルでステップS1の判定が繰り返し行われることになる。
【0043】
ステップS2では、エンジン6の始動が今日初めての始動であるか否かの判定が行われる。今日初めてのエンジン始動であると判定したときにはステップS4に移り、今日初めてのエンジン始動ではないと判定したときには、ステップS3に移る。
【0044】
ステップS3では、通常燃料が燃料タンク7に給油されたか否かの判定を行う。燃料タンク7に給油されたか否かの判定は、給油キャップセンサや燃料タンク7内に配設されている液面センサ等を適宜組み合わせることによって測定することができる。通常燃料が燃料タンク7に給油されたと判定したときには、ステップS10に移り、通常燃料が燃料タンク7に給油されていないと判定したときには、ステップS1に戻り、ステップS1からの制御を繰り返すことになる。
【0045】
ステップS4では、エンジン6の暖機運転が完了したか否かの判定が行われる。暖機運転の完了が判定されると、ステップS5に移る。また、暖機運転の完了が判定されないときには、暖機運転の完了が判定されるまで、所定の制御インターバルでステップS4の判定が繰り返し行われることになる。
【0046】
ステップS5では、切替手段11を制御して、燃料配管12aと燃料配管12bとの接続状態から、燃料配管12aと燃料配管12cとの接続状態に切替える。即ち、サンプル燃料をエンジン6に供給できるようにする。切替手段11による燃料配管の切替えが終了したら、ステップS6に移る。
【0047】
ステップS6では、切替手段11による切替えを行ってから、所定時間T(L)が経過したか否かを判定する。所定時間T(L)は、燃料配管12aに残っていた通常燃料をエンジン6で消費させる時間として予め実験等により設定しておくことができる。所定時間T(L)を設けるのは、サンプル燃料を用いたときのエンジン特性を正確に測定するためである。
【0048】
所定時間T(L)が経過したと判定されたときには、ステップS7に移る。また、所定時間T(L)が経過していないと判定されているときには、所定時間T(L)の経過が判定されるまで、所定の制御インターバルでステップS6の判定が繰り返し行われることになる。
尚、燃料配管12aの長さを限りなく「ゼロ」に近づけることにより、所定時間T(L)を短く構成しておくことができる。
【0049】
ステップS7では、作業機械に設けられている回転数センサで測定したエンジン回転数Neとトルクセンサとで測定したエンジン出力トルクNtとを所定のメモリに記録する。このとき記録したエンジン回転数Ne及びエンジン出力トルクNtが、燃料タンク7内に貯蔵されている通常燃料の性状を判定するときに基準値となる。
測定したエンジン回転数Ne及びエンジン出力トルクNtをメモリに記憶すると、ステップS8に移る。
【0050】
ステップS8では、切替手段11を制御して、燃料配管12aと燃料配管12cとの接続状態から、燃料配管12aと燃料配管12bとの接続状態に切替える。即ち、通常の接続状態である、燃料タンク7とエンジン6との接続状態に戻すことになる。切替手段11による燃料配管の切替えが終了したら、ステップS9に移る。
【0051】
ステップS9では、ステップS6で行ったと同様に切替手段11による切替えを行ってから、所定時間T(L)が経過したか否かを判定する。ステップS9における所定時間T(L)は、ステップS6における所定時間T(L)と同じ時間長さとしておくことができる。所定時間T(L)を設けているのは、通常燃料を用いたときのエンジン特性を正確に測定するためである。
【0052】
所定時間T(L)が経過したと判定されたときには、ステップS10に移る。また、所定時間T(L)が経過していないと判定されているときには、所定時間T(L)の経過が判定されるまで、所定の制御インターバルでステップS9の判定が繰り返し行われることになる。
【0053】
ステップS10では、作業機械に設けられている回転数センサで測定したエンジン回転数Reとトルクセンサとで測定したエンジン出力トルクRtとを所定のメモリに記録する。このとき記録したエンジン回転数Re及びエンジン出力トルクRtの値が、燃料タンク7内に貯蔵されている通常燃料の性状を現している。
測定したエンジン回転数Re及びエンジン出力トルクRtをメモリに記憶すると、ステップS11に移る。
【0054】
尚、燃料タンク7内に貯蔵されている通常燃料を用いたときのエンジン特性を測定するタイミングとしては、サンプル燃料を用いたときのエンジン特性を測定した後に行う代わりに、サンプル燃料を用いたときのエンジン特性を測定する前に行うような構成としておくこともできる。
【0055】
その場合には、ステップS10と同じ制御を、例えば、ステップS4とステップS5との間において行わせるように構成し、ステップS9で「Yes」のときには、ステップS11に移るように構成しておくことができる。ただしこの場合でも、ステップS3において「Yes」と判定したときには、次にステップS10の制御が行われるように判定ルーチンを構成しておくことが必要である。即ち、ステップS10の制御は、図2で示しているようにステップS3とステップS11との間に設けておくことが必要となる。
【0056】
従って、燃料タンク7内に貯蔵されている通常燃料を用いたときのエンジン特性を測定するタイミングとしては、図2に示した判定ルーチンに限定されるものではなく、適宜の構成を採用することができる。
【0057】
ステップS11では、サンプル燃料を用いたときのエンジン回転数Neと、通常燃料を用いたときのエンジン回転数Reとを比較する。エンジン回転数Reがエンジン回転数Neよりも小さいとき、あるいは、閾値αを設けておき、エンジン回転数Reから閾値αを引いた値よりもエンジン回転数Reの方が小さいときには、燃料タンク7に貯蔵されている通常燃料は正規燃料ではないとしてステップS15に移る。
【0058】
エンジン回転数Reとエンジン回転数Neとが略等しいとき、あるいは、エンジン回転数Reから閾値αを引いた値よりもエンジン回転数Reの方が大きいときには、燃料タンク7に貯蔵されている通常燃料は正規燃料である可能性があるとしてステップS12に移る。
尚、閾値αの値としては、予め実験等によってエンジン6の性能上許容できる範囲として設定しておくことができる。
【0059】
ステップS12では、サンプル燃料を用いたときのエンジン出力トルクNtと、通常燃料を用いたときのエンジン出力トルクRtとを比較する。エンジン出力トルクRtがエンジン出力トルクNtよりも小さいとき、あるいは、閾値βを設けておき、エンジン出力トルクRtから閾値βを引いた値よりもエンジン出力トルクRtの方が小さいときには、燃料タンク7に貯蔵されている通常燃料は正規燃料ではないとしてステップS15に移る。
尚、閾値βの値としては、予め実験等によってエンジン6の性能上許容できる範囲として設定しておくことができる。
【0060】
エンジン出力トルクNtとエンジン出力トルクRtとが略等しいとき、あるいは、エンジン出力トルクRtから閾値βを引いた値よりもエンジン出力トルクRtの方が大きいときには、燃料タンク7に貯蔵されている通常燃料は正規燃料であるとしてステップS13に移る。即ち、エンジン回転数Neとエンジン出力トルクNtとの二つの条件を満たしている場合には、燃料タンク7に貯蔵されている通常燃料は正規燃料であると判定している。これにより、判定の信頼性を向上させている。
【0061】
また、エンジン回転数Ne及びエンジン出力トルクNtは、その日の作業において、初めてエンジン6を始動して暖機運転が完了した後に測定した値であるので、その日一日における基準値として扱っておくことができる。尚、必要に応じて、通常燃料の性状を判定する度毎に、エンジン回転数Ne及びエンジン出力トルクNtを測定することもできる。
【0062】
ステップS13では、燃料タンク7に貯蔵されている通常燃料は正規燃料であると判定してステップS14に移る。ステップS14では、運転室4内に配設されている表示部9に、例えば「通常燃料として、正規燃料が使用されています。」等の表示を行うことになる。表示部9の背景色として、例えば、「緑色」等を用いて作業者に安心感を与えておくこともできる。また、表示部9での表示と同時に音声による表示や、音声だけによる表示等を行わせることもできる。ステップS14の制御が終了すると、一連の判定ルーチンは終了する。
【0063】
ステップS15では、燃料タンク7に貯蔵されている通常燃料に粗悪燃料が用いられていると判定してステップS16に移る。ステップS16では、運転室4内に配設されている表示部9に、例えば「粗悪燃料が使用されています!」等の表示を行うことになる。表示部9の背景色として、例えば、「赤色」等を用いたり、背景色を点滅させたりして作業者に注意を喚起させることもできる。
【0064】
また、表示部9での表示と同時に音声による警告や、警告だけによる表示等を行わせることもできる。更に、粗悪燃料が使用されているとした判定結果を、判定した日付と共にメモリに記録させておくこともできる。
ステップS16の制御が終了すると、一連の判定ルーチンは終了する。尚、通常燃料の性状判定の日付、判定内容、そのときのエンジン回転数Ne、Re及びエンジン出力トルクNt、Rtを時系列順でメモリ内に記憶させておくこともできる。
【0065】
そして、サンプル燃料を用いたときのエンジン回転数Ne及びエンジン出力トルクNtの時間的変化を監視しておき、エンジン回転数Ne及びエンジン出力トルクNtがそれぞれ予め定めた基準値を下回ったときには、サンプル燃料タンク8内に貯蔵しているサンプル燃料を、新しい正規の燃料に交換することもできる。このように、サンプル燃料に関しても監視を行っておくことで、常に通常燃料の性状を判定するときの基準となる値を監視しておくことができるので、通常燃料の性状を正しく判定することができる。
【0066】
尚、上記説明では、エンジン回転数とエンジン出力トルクとの二つのファクターを測定して、通常燃料の性状を判定する構成例について説明を行ったが、エンジン回転数又はエンジン出力トルクの一方のファクターを測定して、通常燃料の性状を判定することもできる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本願発明は、本願発明の技術思想を適用することができる装置等に対しては、本願発明の技術思想を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】パワーショベルの側面図を模式的に示したものである。(実施例)
【図2】判定ルーチンを示したフローチャートである。(実施例)
【符号の説明】
【0069】
1・・・パワーショベル、6・・・エンジン、7・・・燃料タンク、8・・・サンプル燃料タンク、9・・・表示部、10・・・コントローラ、11・・・切替手段、12a〜12c・・・燃料配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作業機械に搭載されたエンジンに供給する通常燃料の性状判定装置であって、
前記エンジンに供給する通常燃料を貯蔵する燃料タンクと、
前記燃料タンクとは別に設けられ、サンプル燃料を貯蔵するサンプル燃料タンクと、
前記エンジンへの燃料配管を、前記燃料タンクへの接続と前記サンプル燃料タンクへの接続とに切替える切替手段と、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、前記エンジンの暖機運転完了後に、前記切替手段を制御して前記燃料配管を前記エンジンと前記サンプル燃料タンクとを繋ぐ接続に切替え、前記サンプル燃料タンクに貯蔵されたサンプル燃料を用いたときのエンジン特性を測定して記憶し、
前記コントローラは、前記燃料タンクから供給された通常燃料を用いたときのエンジン特性と、前記サンプル燃料によるエンジン特性と、を比較し、比較結果を表示することを特徴とする通常燃料の性状判定装置。
【請求項2】
前記コントローラによる通常燃料の性状判定が、前記エンジンをその日初めて始動させたときに又は前記燃料タンクに通常燃料を給油した度毎に行われることを特徴とする請求項1記載の通常燃料の性状判定装置。
【請求項3】
前記サンプル燃料によるエンジン特性の測定が、前記切替手段を切替えた後に、更に所定時間が経過した後に行われることを特徴とする請求項1又は2記載の通常燃料の性状判定装置。

【図1】
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【図2】
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