説明

造血器腫瘍の予防および/または治療剤

造血器腫瘍の特異的免疫療法に有用な標的分子を見出し、造血器腫瘍の予防および/または治療を可能にする手段を提供した。 具体的には、配列表の配列番号1から10から選ばれるいずれか1のアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤、アジュバントをさらに含む前記造血器腫瘍の予防および/または治療剤、造血器腫瘍用癌ワクチンとして使用する前記予防および/または治療剤を提供することにより、造血器腫瘍、例えばHLA−A24陽性造血器腫瘍またはHLA−A24陽性であり且つ前記ペプチドを含む蛋白質を発現している造血器腫瘍の予防および/または治療を可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。より詳しくは、細胞傷害性T細胞を誘導し得るペプチドを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。また、造血器腫瘍用癌ワクチンとして使用する上記造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。さらに、細胞傷害性T細胞を誘導し得るペプチドを投与することを特徴とする造血器腫瘍の予防方法および/または治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造血器腫瘍の治療には従来、非特異的な化学療法が行われてきた。また、同種骨髄移植や自己末梢血幹細胞移植等による治療も実施されている。しかし、化学療法には合併する有害事象の問題があり、同種骨髄移植や自己末梢血幹細胞移植には合併症および拒絶反応の問題やドナー確保の問題がある。また、これらの療法は、若年者においては高い効果が得られているが、癌の多発年齢層である中高齢者では、副作用の影響により必ずしも高い効果を得られていない。
【0003】
近年、より副作用の少ない治療法として悪性腫瘍の分子メカニズムに基づく分子標的療法が注目されている。この療法によれば、分子標的剤が癌細胞に選択的且つ効率的に作用し、正常細胞への影響が少ないため、副作用が少なく且つ高い効果が得られることが多い。しかし、腫瘍細胞が薬剤耐性を獲得する場合もあり、必ずしも高い効果が得られない。
【0004】
かかる現状において、造血器腫瘍に対する有効性が高く且つ副作用の少ない治療法の開発が期待されている。
【0005】
悪性腫瘍に対する治療法の1つとして免疫療法が開発されている。例えば、腫瘍抗原ペプチドを用いた特異的免疫療法は、悪性腫瘍、特に悪性黒色腫においてその有効性が報告されている(非特許文献1〜6)。例えば欧米では、腫瘍抗原投与により癌患者の体内の細胞傷害性T細胞を活性化させる癌ワクチン療法の開発がなされつつあり、メラノーマ特異的腫瘍抗原については臨床試験における成果が報告されている。
【0006】
造血器腫瘍に対する免疫療法としては数種の治療方法が提案されている。例えば、放射線照射した自己白血病細胞によるワクチン療法が知られている。また、Bcr/abl変異抗原およびPML/RARα変異抗原はそれぞれ慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia、CMLと略称することもある)および急性前骨髄球性白血病に対するT細胞免疫療法の標的と見られている(非特許文献7および8)。B細胞腫瘍細胞由来の免疫グロブリン由来ペプチドは腫瘍細胞に対するT細胞反応の標的になり得ると考えられている(非特許文献1および9)。白血病関連抗原、例えば、CMLにおけるプロテイナーゼ3(非特許文献10)、リンパ腫におけるALK、および白血病におけるウイルムス抑制遺伝子WT1等についても特異的免疫療法への利用可能性が報告されている(非特許文献8および11)。
【0007】
造血器腫瘍に対する免疫療法においては数例の腫瘍退縮が報告されているのみであり、ほとんどの癌患者においては腫瘍特異的免疫応答は得られず、現在のところその臨床効果は限られたものである。
【0008】
以下に本明細書において引用した文献を列記する。
【特許文献1】国際公開WO01/011044号パンフレット。
【非特許文献1】ベンダンディら(Bendandi,M.et al.)、「ネイチャー メディシン(Nature Medicine)」、1999年、第5巻、p.1171−1177。
【非特許文献2】トロージャンら(Trojan,A.et al.)、「ネイチャー メディシン(Nature Medicine)」、2000年、第6巻、p.667−672。
【非特許文献3】キクチら(Kikuchi,M.et al.)、「インターナショナル ジャーナル オブ キャンサー(International Journal of Cancer)」、1999年、第81巻、p.459−466。
【非特許文献4】ヤングら(Yang,D.et al.)、「キャンサー リサーチ(Cancer Research)」、1999年、第59巻、p.4056−4063。
【非特許文献5】ナカオら(Nakao,M.et al.)、「ジャーナル オブ イムノロジー(Journal of Immunology)」、2000年、第164巻、p.2565−2574。
【非特許文献6】ニシザカら(Nishizaka,S.et al.)、「キャンサー リサーチ(Cancer Research)」、2000年、第60巻、p.4830−4837。
【非特許文献7】ピニッラら(Pinilla−Ibarz,J.et al.)、「ブラッド(Blood)」、2000年、第95巻、p.1781−1787。
【非特許文献8】アッペルバウム(Appelbaum,F.R.)、「ネイチャー(Nature)」、2001年、第411巻、p.385−389。
【非特許文献9】スーら(Hsu,F.J.et al.)、「ブラッド(Blood)」、1996年、第89巻、p.3129−3135。
【非特許文献10】モルドレムら(Molldrem,J.et al.)、「ブラッド(Blood)」、1997年、第88巻、p.2450−2457。
【非特許文献11】パソーニら(Passoni,L.et al.)、「ブラッド(Blood)」、2002年、第99巻、p.2100−2106。
【非特許文献12】ハラシマら(Harashima,N.et al.)、「ヨーロピアン ジャーナル オブ イムノロジー(European Journal of Immunology)」、2001年、第31巻、p.323−332。
【非特許文献13】ミヤギら(Miyagi,Y.et al.)、「クリニカル キャンサー リサーチ(Clinical Cancer Research)」、2001年、第7巻、p.3950−3962。
【非特許文献14】イトウら(Ito,M.et al.)、「キャンサー リサーチ(Cancer Research)」、2001年、第61巻、p.2038−2046。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、造血器腫瘍の免疫療法に有用な標的分子を見出し、造血器腫瘍の予防および/または治療を可能にする手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ペプチド特異的であり且つ腫瘍反応性の細胞傷害性T細胞(cytotoxic T lymphocytes)を上皮癌患者の末梢血単核細胞(peripheral blood mononuclear cells、以下PBMCと略称する)から誘導し得る一連の上皮癌関連抗原および該抗原由来のペプチドを同定し既に報告している(特許文献1、非特許文献3〜6および12)。さらに、これらペプチドを用いたワクチン接種が、種々の上皮癌患者において免疫能の亢進および臨床効果に有効であることを明らかにした(非特許文献13)。
【0011】
本発明者らは、上記課題解決のため鋭意研究を重ね、既に報告した上皮癌関連抗原のいくつかが造血器腫瘍細胞株で発現していること、さらに該抗原由来ペプチドのワクチン接種により造血器腫瘍患者において悪性腫瘍細胞反応性細胞傷害性T細胞を誘導し得ることを見出し、本発明を完成した。造血器腫瘍患者由来PBMCからの白血病関連抗原による細胞傷害性T細胞誘導について報告があるが(非特許文献10)、造血器腫瘍患者における上皮癌関連抗原による細胞傷害性T細胞誘導およびペプチドワクチンの効果については今まで報告されていない。
【0012】
すなわち、本発明は、配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。
【0013】
また本発明は、配列表の配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。
【0014】
さらに本発明は、配列表の配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤に、さらに配列表の配列番号3、6、7および9からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。
【0015】
さらにまた本発明は、配列表の配列番号1、2および4からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。
【0016】
また本発明は、配列表の配列番号2、4および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。
【0017】
さらに本発明は、配列表の配列番号5および8からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。
【0018】
さらにまた本発明は、アジュバントをさらに含む上記造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。
【0019】
また本発明は、造血器腫瘍がHLA−A24分子を細胞表面上に有する造血器腫瘍である上記予防および/または治療剤に関する。
【0020】
さらに本発明は、造血器腫瘍がHLA−A24分子を細胞表面上に有し且つ予防および/または治療剤の有効成分であるペプチドを含む蛋白質を発現している造血器腫瘍である上記予防および/または治療剤に関する。
【0021】
さらにまた本発明は、造血器腫瘍用癌ワクチンとして用いることを特徴とする上記造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。
【0022】
また本発明は、配列表の配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つとアジュバントとを含有する、HLA−A24分子を細胞表面上に有する造血器腫瘍の予防および/または治療に用いる医薬に関する。
【0023】
さらに本発明は、治療に有効な用量の配列表の配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つをアジュバントとともに投与することを特徴とする、HLA−A24分子を細胞表面上に有する造血器腫瘍の予防方法および/または治療方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、上皮癌関連抗原由来のペプチドを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤を提供可能である。本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤は、その使用の一態様として癌ワクチンとして用いることができる。本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤は、造血器腫瘍患者において腫瘍を標的とする細胞傷害性T細胞を誘導することができるため、造血器腫瘍の特異的免疫療法に用いることができる。例えばHLA−A24陽性造血器腫瘍、さらにHLA−A24陽性であり且つ予防および/または治療剤の有効成分であるペプチドを含む蛋白質を発現する造血器腫瘍の予防および/または治療に有用である。HLA−A24対立遺伝子は多くの人種において頻度高くみられる遺伝子であり、アジア人の人口の約60%、白人の約20%、ラテンアメリカ人および黒人の約40%がこの対立遺伝子を有する。したがって、本発明は多数の造血器腫瘍患者においてその有用性が期待できる。また、本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤は副作用が少ないかほとんど観察されず、この観点からも有効な予防手段および/または治療手段である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1−A】一連の細胞株におけるp56lck蛋白質の発現を、抗p56lckモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット法で検出した結果を示す図である。成人T細胞白血病細胞株であるHPB−MLTおよび骨髄腫細胞株であるARH−77において高い発現が認められた。正常細胞であるPBMCおよびフィトヘマグルチニン(PHA)芽球化T細胞においても発現が認められた。(実施例2)
【図1−B】一連の細胞株におけるlck遺伝子の2つの異なったプロモーター転写物の発現を、RT−PCRにより検出した結果を示す図である。成人T細胞白血病細胞株であるHPB−MLTおよびPEER並びに骨髄性白血病細胞株ML−2では、I型およびII型の両方のプロモーター転写物が認められた。バーキットリンパ腫細胞株RAJI、B細胞白血病細胞株BALL−1、リンパ腫細胞株BHL−89および多発性骨髄腫細胞株RPMI−8226ではI型のプロモーター転写物のみが認められた。一方、正常細胞であるPBMCではII型のプロモーター転写物のみが検出された。GAPDH(glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenase)の発現は、RT−PCRのコントロールとして測定した。(実施例2)
【図2−A】成人T細胞白血病(ATL)患者(表2における患者#8)由来PBMCが、ペプチドLck486(配列番号3)を用いたインビトロ刺激後、HLA−A24ATL細胞株PEERに対して細胞傷害活性(図中、%lysisで表示)を示したが、HLA−A24腫瘍細胞株および正常細胞であるHLA−A24PHA芽球化T細胞に対して細胞傷害活性を示さなかったことを説明する図(右パネル)である。一方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来ペプチド(配列番号11)で刺激したPBMCは細胞傷害活性を示さなかった(左パネル)。(実施例3)
【図2−B】慢性リンパ球性白血病患者(表2における患者#2)由来PBMCが、ペプチドSART−2161(配列番号6)を用いたインビトロ刺激後、HLA−A24ATL細胞株REHに対して細胞傷害活性(図中、%lysisで表示)を示したが、HLA−A24腫瘍細胞株および正常細胞であるHLA−A24PHA芽球化T細胞に対して細胞傷害活性を示さなかったことを説明する図(右パネル)である。一方、エプスタインバーウイルス(EBV)由来ペプチド(配列番号12)で刺激したPBMCは細胞傷害活性を示さなかった(左パネル)。(実施例3)
【図2−C】非ホジキンリンパ腫患者(表2における患者#4)由来PBMCが、ペプチドSART−2899(配列番号7)を用いたインビトロ刺激後、HLA−A24ATL細胞株REHに対して細胞傷害活性(図中、%lysisで表示)を示したが、HLA−A24腫瘍細胞株および正常細胞であるHLA−A24PHA芽球化T細胞に対して細胞傷害活性を示さなかったことを説明する図(右パネル)である。一方、EBV由来ペプチド(配列番号12)で刺激したPBMCは細胞傷害活性を示さなかった(左パネル)。(実施例3)
【図3−A】多発性骨髄腫患者(表2における患者#6)由来PBMCにおいて、Lck208(配列番号1)、Lck488(配列番号2)またはART−1170(配列番号10)とインキュベーションすることにより誘導される、対応する各ペプチドをパルスしたC1R−A24細胞に対する細胞傷害活性(図中、%lysisで表示)がペプチドワクチン接種の回数に従って増強されたことを説明する図である。(実施例4)
【図3−B】多発性骨髄腫患者(表2における患者#6)由来PBMCにおいて、HLA−A24多発性骨髄腫細胞株KHM−11およびMIK−1に対する細胞傷害活性(図中、%lysisで表示)がペプチドワクチン接種の回数に従って増強されたことを説明する図である。一方、ペプチドワクチン接種によっても、HLA−A24多発性骨髄腫細胞株RPMI−8226に対する細胞傷害活性は認められなかった。(実施例4)
【図4−A】慢性リンパ球性白血病患者(表2における患者#1)由来PBMCにおいて、SART−293(配列番号5)またはSART−3109(配列番号8)をパルスしたC1R−A24細胞に対する反応におけるインターフェロン(IFN)−γ産生促進がペプチドワクチン接種の回数に従って増強されたことを説明する図である。(実施例5)
【図4−B】慢性リンパ球性白血病患者(表2における患者#1)由来PBMCが、ワクチン接種後に、SART−293(配列番号5)またはSART−3109(配列番号8)をパルスしたC1R−A24細胞に対してHIV由来ペプチドをパルスした細胞に対するよりも高い細胞傷害活性を示したことを説明する図である。(実施例5)
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、参照によりここに援用されるところの、日本特許出願番号第2003−287208号からの優先権を請求するものである。
【0027】
本発明の一態様は、被検体における造血器腫瘍に対する抗腫瘍免疫応答を誘発することを機能的特徴とする造血器腫瘍の予防および/または治療剤に関する。
【0028】
造血器腫瘍とは、骨髄やリンパ組織等の造血器官に発生する腫瘍をいう。造血器腫瘍には、急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫および多発性骨髄腫等の悪性腫瘍が含まれる。
【0029】
ここで被検体には、造血器腫瘍患者、造血器腫瘍患者から採取した血液、および造血器腫瘍患者の血液から調製した白血球画分等が含まれる。
【0030】
抗腫瘍免疫応答とは、腫瘍に対して惹起される免疫応答を意味し、主に細胞傷害性T細胞が関与する。すなわち、本発明においては、被検体において造血器腫瘍に対する細胞傷害性T細胞を誘導することを機能的特徴とする造血器腫瘍の予防および/または治療剤を提供する。
【0031】
造血器腫瘍の予防および/または治療剤とは、例えば、造血器腫瘍の発生または再発を予防する作用を有する医薬、造血器腫瘍の進行・増悪を抑制する作用を有する医薬、および血中白血球数の減少等造血器腫瘍の病態を改善するまたは治癒させる効果を示す医薬を意味する。
【0032】
本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤はその一態様において、有効成分として配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの1つまたは2つ以上をその有効量含有してなる。より好ましくは、配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの1つまたは2つ以上を有効成分としてその有効量含有してなる造血器腫瘍の予防および/または治療剤である。配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの1つまたは2つ以上に、さらに配列番号3、6、7および9からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの1つまたは2つ以上を含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤であることもできる。さらに好ましくは、配列番号1、2および4からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの1つまたは2つ以上を有効成分としてその有効量含有してなる造血器腫瘍の予防および/または治療剤である。また、配列番号2、4および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの1つまたは2つ以上を有効成分としてその有効量含有してなる造血器腫瘍の予防および/または治療剤であり得る。さらに、配列番号5および8からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの1つまたは2つ以上を有効成分としてその有効量含有してなる造血器腫瘍の予防および/または治療剤であり得る。
【0033】
配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9および10に記載の各アミノ酸配列を有するペプチドは、いずれも上皮癌関連抗原に由来するペプチド(以下、上皮癌関連抗原ペプチドと称する)である。配列番号1、2および3に記載の各アミノ酸配列を有するペプチドは、p56lck蛋白質由来のペプチドであり、以下、それぞれLck208、Lck488およびLck486と称することがある(非特許文献12)。配列番号4に記載のアミノ酸配列を有するペプチドは、SART−1由来のペプチドであり、以下、SART−1690と称することがある(非特許文献3)。配列番号5、6および7に記載の各アミノ酸配列を有するペプチドは、SART−2由来のペプチドであり、以下、それぞれSART−293、SART−2161およびSART−2899と称することがある(非特許文献5)。配列番号8および9に記載の各アミノ酸配列を有するペプチドは、SART−3由来のペプチドであり、以下、それぞれSART−3109およびSART−3315と称することがある(非特許文献4)。配列番号10に記載のアミノ酸配列を有するペプチドは、ART−1由来のペプチドであり、以下、ART−1170と称することがある(非特許文献6)。ここで、各ペプチドは、各ペプチドが由来した蛋白質の呼称と該蛋白質のアミノ酸配列における該ペプチドのN末アミノ酸残基の位置を示す数字で表される。例えば、Lck208は、Lck蛋白質由来のペプチドであり、該ペプチドのN末アミノ酸残基は該蛋白質のアミノ酸配列において第208番目のアミノ酸残基であることを意味する。
【0034】
本発明においては、造血器腫瘍患者に上記ペプチドをワクチン接種することにより、該患者において造血器腫瘍細胞を標的とする細胞傷害性T細胞をHLA−A24拘束性に誘導することができ、さらに腫瘍細胞の減少を伴う臨床効果を得ることができることを見出した。上記ペプチドについては、上皮癌患者のPBMCからペプチド特異的細胞傷害性T細胞をHLA−A24拘束性に誘導することが既に報告されている(非特許文献3〜6および12)。しかしながら、これらペプチドが造血器腫瘍患者のPBMCからペプチド特異的細胞傷害性T細胞を誘導することは報告されていない。
【0035】
ペプチドをワクチン接種するとは、ワクチン接種される対象において、ペプチドに対する特異的免疫応答の誘導および/または増強を目的として、ペプチドを投与することを意味する。
【0036】
「ペプチド特異的細胞傷害性T細胞をHLA−A24拘束性に誘導する」とは、「細胞表面上に発現された主要組織適合性抗原であるヒト白血球抗原(human leukocyte antigen)分子によって提示されたあるペプチドを認識するが、同様に提示されたそれ以外のペプチドはほとんどあるいは全く認識しない細胞傷害性T細胞」を、「HLAクラスI表現型がA24であるHLAクラスI分子によるペプチドの提示により誘導する」ことを意味する。
【0037】
ワクチン接種は、具体的には、多発性骨髄腫患者例(実施例4参照)において、Lck488(配列番号2)、SART−1690(配列番号4)およびART−1170(配列番号10)の各ペプチドそれぞれをアジュバントと混合して調製した3種のワクチンを組合せ使用して6回行った。ついでLck208(配列番号1)、Lck488(配列番号2)およびSART−1690(配列番号4)の各ペプチドそれぞれをアジュバントと混合して調製した3種のワクチンを組合せ使用してワクチン接種を続行した。ワクチン接種はペプチドを組合せ使用して行ったが、ワクチン接種回数に従って各ペプチドに特異的な細胞傷害性T細胞が患者由来PBMCにおいて増加した(図3−A参照)。
【0038】
別の臨床試験例である慢性リンパ球性白血病患者例(実施例6参照)においては、SART−293(配列番号5)およびSART−3109(配列番号8)の各ペプチドそれぞれをアジュバントと混合して調製した2種のワクチンを接種した。本臨床例においても、ワクチン接種回数に従って各ペプチドに特異的な細胞傷害性T細胞が患者由来PBMCにおいて増加した(図4−Aおよび図4−B参照)。
【0039】
ペプチドを組合せ使用してワクチン接種したときにおいても各ペプチド特異的な細胞傷害性T細胞が増加したことから、各ペプチドを単独でワクチン接種しても同様にペプチド特異的な細胞傷害性T細胞を誘導でき、さらには臨床効果を得ることができると考える。
【0040】
ワクチン接種においてペプチドとともにワクチンに含有させたアジュバントは、ペプチドによる抗腫瘍免疫応答の誘発をさらに増強することを目的として用いた。抗腫瘍免疫応答を誘発する有効成分はペプチドであり、ペプチドのみの使用によってもインビトロ(in vitro)で細胞傷害性T細胞を誘導できたことから、ペプチドのみを含む医薬も造血器腫瘍の予防および/または治療剤として有効である。アジュバントをともに含有させることによりさらに高い抗腫瘍効果が得られるため、アジュバントの使用がより好ましい。
【0041】
ワクチン接種に用いた配列番号1、2、4、5、8および10に記載の各アミノ酸配列を有するペプチドはいずれも、ワクチン接種前の様々な種類の造血器腫瘍患者由来のPBMCから、HLA−A24拘束性に細胞傷害性T細胞を誘導した。これらペプチドの他、Lck486(配列番号3)、SART−2161(配列番号6)、SART−2899(配列番号7)およびSART−3315(配列番号9)が、造血器腫瘍患者由来のPBMCからHLA−A24拘束性に細胞傷害性T細胞を誘導した。このことから、配列番号3、6、7および9に記載の各アミノ酸配列を有するペプチドも造血器腫瘍に対する予防および/または治療剤の有効成分として使用できると考えた。
【0042】
このように、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドは単独であるいは2種以上を組合せて本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤の有効成分として使用できる。
【0043】
本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤は、その使用の一態様において癌ワクチンとして用いることができる。ここでいう癌ワクチンとは、腫瘍細胞に対する特異的免疫応答の誘導および/または増強により、癌患者の体内の細胞傷害性T細胞を活性化させて腫瘍細胞を選択的に傷害する薬物を意味する。
【0044】
上記ペプチドを例えば癌ワクチンとして用いる場合、選択した数種のペプチドを全て含有する癌ワクチンをワクチン接種に用いることの他、各ペプチドを単独で含有する癌ワクチンを複数種類用いてワクチン接種を実施することが可能である。
【0045】
本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤は、抗腫瘍免疫応答を増強可能な補助剤を含むことができる。かかる補助剤として例えば、細胞傷害性T細胞の増殖に有効なインターロイキン2等が挙げられる。また、本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤を癌ワクチンとして用いるときは、補助剤として例えばアジュバントや担体等を含むことにより高い抗腫瘍効果が得られる。アジュバントは1種または2種以上を組合せて用いることができる。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、ミョウバン、リピドA、モノホスホリルリピドA、BCG(Bacillus−Calmette−Guerrin)等の細菌製剤、ツベルクリン等の細菌成分製剤、キーホールリンペットヘモシアニンや酵母マンナン等の天然高分子物質、ムラミルトリペプチドまたはムラミルジペプチドまたはそれらの誘導体、アラム(alum)、非イオン性ブロックコポリマー等を挙げることができる。本実施例においてはモンタニドISA−51(Montanide ISA−51)を用いた。使用できるアジュバントはこれら具体例に限定されることは無く、抗腫瘍免疫応答を増強可能な物質である限りにおいていずれを用いてもよい。アジュバントを用いるか否かは、例えばワクチン接種局所の炎症性反応の強さ、あるいはワクチン接種による抗腫瘍効果や被検体由来の末梢血単核細胞の細胞傷害活性の強さを指標にして判断できる。担体は、それ自体が人体に対して有害な作用を及ぼさず且つ抗原性を増強せしめるものであれば特に限定されず、例えばセルロース、重合アミノ酸、アルブミン等が例示される。
【0046】
本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤のより具体的な例として、配列表の配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの1つまたは2つ以上とアジュバントとを含む造血器腫瘍の予防および/または治療剤を挙げることができる。
【0047】
本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤は、上記ペプチドの他、造血器腫瘍に対する抗腫瘍免疫応答を誘発し得る他の抗腫瘍ペプチドをその有効量含むことも可能である。添加する他の抗腫瘍ペプチドは、HLA−A24拘束性に細胞傷害性T細胞を誘導し得るものであることができ、HLA−A24以外の表現型のHLAクラスI拘束性に細胞傷害性T細胞を誘導し得るものであってもよい。好ましくは、本予防および/または治療剤を適用する患者のPBMCからペプチド特異的細胞傷害性T細胞を誘導し得る抗腫瘍ペプチドが好ましい。ペプチドによるPBMCからの特異的細胞傷害性T細胞の誘導は、PBMCとペプチドとを適当な期間培養した後、対応するペプチドをパルスしたHLAクラスI分子を細胞表面に有する細胞と反応させて、産生されるインターフェロン−γ(IFN−γ)量を測定することにより評価できる(実施例3参照)。例えば、IFN−γ産生量が、ペプチド非存在下で培養したPBMCと比較して多ければ、細胞傷害性T細胞が誘導されたと判断できる。
【0048】
本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤を適用し得る造血器腫瘍は、HLA−A24陽性の造血器腫瘍が好ましく、さらにその有効成分であるペプチドを含む蛋白質、例えばp56lck蛋白質、SART−1、SART−2、SART−3およびART−1のうちの1種以上の発現が認められる造血器腫瘍がより好ましい。「HLA−A24陽性(HLA−A24と称することもある)」とは、HLA−A24分子を細胞表面上に発現していることを意味する。腫瘍は何らかの原因で異常増殖性を獲得した自己細胞である。そのため、ほとんどの場合、HLAクラスI表現型がHLA−A24であるヒトにおいては、正常細胞および腫瘍細胞の区別なく、細胞表面上にHLA−A24分子が発現している。HLAクラスI表現型の決定は、造血器腫瘍患者から採取した末梢血単核細胞または造血器腫瘍の一部等を用いて、自体公知の方法に従って行うことができる(非特許文献5)。あるいは簡便には、造血器腫瘍患者から採取した血液を用いて、慣用の血清学的方法により判定することも可能である(非特許文献14)。造血器腫瘍における各種蛋白質の発現の検出は、造血器腫瘍患者から採取した一部の造血器腫瘍について、例えば検出目的の蛋白質に対する抗体を用いたウエスタンブロット法により、あるいは目的の蛋白質をコードする遺伝子のプロモーター転写物の逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)による検出等により実施可能である。
【0049】
造血器腫瘍の具体例としては、成人T細胞白血病(adult T cell leukemia、ATLと略称することもある);T細胞急性リンパ球性白血病(T−cell acute lymphocytic leukemia、T−ALLと略称することもある);T細胞リンパ腫(T−cell lymphoma);骨髄性白血病(myelogenous leukemia);多発性骨髄腫(multiple myeloma、MMと略称することもある);骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome、MDSと略称することもある);急性単球性白血病(acute monocytic leukemia);B細胞急性リンパ球性白血病(B−cell acute lymphocytic leukemia、B−ALLと略称することもある);B細胞リンパ腫(B−cell lymphoma);バーキットリンパ腫(Burkitt lymphoma);慢性リンパ球性白血病(chronic lymphocytic leukemia、CLLと略称することもある);マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma、MCLと略称することもある);および非ホジキンリンパ腫(non−Hodgkin’s lymphoma、NHLと略称することもある)等が例示できるが、これら具体例に制限されることはない。好ましくは、MM、MDS、ATL、T−ALLまたはCLLに、より好ましくはMMまたはCLLに、本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤が適用される。
【0050】
ペプチドの製造は、一般的なアミノ酸の化学合成法により実施できる。化学合成法には、通常の液相法および固相法によるペプチド合成法、例えばFmoc法が包含される。または市販のアミノ酸合成装置を用いて製造可能である。あるいは遺伝子工学的手法により取得することもできる。例えば目的とするペプチドをコードする遺伝子を宿主細胞中で発現できる組換えDNA(発現ベクター)を作成し、これを適当な宿主細胞、例えば大腸菌にトランスフェクションして形質転換した後に該形質転換体を培養し、次いで得られる培養物から目的とするペプチドを回収することにより製造可能である。
【0051】
本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤は、有効成分であるペプチドの他に、アジュバント等の補助剤を含んでなるものであることができ、さらに1種または2種以上の医薬担体を含有することもできる。利用できる医薬担体としては、製剤の使用形態に応じて通常使用される、安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、pH調整剤、界面活性剤、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、無痛化剤、希釈剤あるいは賦形剤等を例示でき、これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択使用される。
【0052】
製剤形態は投与形態に応じて選択することができる。代表的な製剤形態としては、溶液剤、乳剤、リポソーム製剤、脂肪乳剤、シクロデキストリン等の包接体、けん濁剤、軟膏剤、クリーム剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤丸剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、細粒剤、シロップ剤等の作製も可能であるが、これらに限定されない。これらは更に投与経路に応じて経口剤、非経口剤、経鼻剤、経膣剤、坐剤、舌下剤、吸入剤、点眼剤、点耳剤等に分類され、それぞれに適した通常の方法に従い、調合、成形ないし調製することができる。また、溶液製剤として使用できる他に、凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水等を含む緩衝液等で溶解して適当な濃度に調製した後に使用することも可能である。
【0053】
注射用の溶液は、塩溶液、グルコース溶液、または塩水とグルコース溶液の混合物からなる担体を用いて調製可能である。
【0054】
リポソーム製剤は、例えばリン脂質を有機溶媒(クロロホルム等)に溶解した溶液に、有効成分および/または補助剤や医薬担体等を溶媒(エタノール等)に溶解した溶液を加えた後、溶媒を留去し、これにリン酸緩衝液を加え、振とう、超音波処理および遠心処理した後、上清をろ過処理して回収することにより調製できる。
【0055】
脂肪乳剤化は、例えば当該物質、油成分(大豆油、ゴマ油、オリーブ油等の植物油、MCT等)、乳化剤(リン脂質等)等を混合、加熱して溶液とした後に、必要量の水を加え、乳化機(ホモジナイザー、例えば高圧噴射型や超音波型等)を用いて、乳化・均質化処理して行い得る。また、これを凍結乾燥化することも可能である。なお、脂肪乳剤化するとき、乳化助剤を添加してもよく、乳化助剤としては、例えばグリセリンや糖類(例えばブドウ糖、ソルビトール、果糖等)が例示される。
【0056】
シクロデキストリン包接化は、例えば当該物質を溶媒(エタノール等)に溶解した溶液に、シクロデキストリンを水等に加温溶解した溶液を加えた後、冷却して析出した沈殿をろ過し、滅菌乾燥することにより行い得る。このとき、使用されるシクロデキストリンは、当該物質の大きさに応じて、空隙直径の異なるシクロデキストリン(α、β、γ型)を適宜選択すればよい。
【0057】
懸濁剤は、水、シュークロース、ソルビトール、フラクトース等の糖類、ポリエチレングリコール等のグリコール類、油類を使用して製造できる。
【0058】
その他の剤形についても、通常用いられる方法により調製可能である。
【0059】
製剤中に含有される有効成分の量およびその用量範囲は、特に限定されないが、ペプチドの有効性、投与形態、疾病の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断により適宜選択することが望ましい。一般的には、適当な用量範囲は、例えば1用量当り約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜10mg程度、さらに好ましくは1μg〜1mg程度とするのが望ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれら用量の変更を行うことができる。
【0060】
投与形態は、局所投与または全身投与のいずれも選択することができる。いずれにおいても、疾患、症状等に応じた適当な投与形態を選択する。全身投与は例えば、経口、静脈内、動脈内等への投与により実施できる。局所投与は例えば、皮下、皮内、筋肉内等に投与することができる。
【0061】
その他、患者の末梢血より単核細胞画分を採取して、本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤とともに培養した後に、細胞傷害性T細胞の誘導および/または活性化が認められた該単核細胞画分を患者の血液中に戻すことによっても、有効な抗腫瘍効果が得られる。培養するときの単核細胞濃度、造血器腫瘍の予防および/または治療剤の濃度、培養期間等の培養条件は、簡単な繰り返し実験により決定できる。培養時に、インターロイキン−2等のリンパ球増殖能を有する物質を添加してもよい。
【0062】
ワクチン接種を行う場合、皮内、皮下および筋肉内等に注射により局所投与することが好ましい。投与は上記用量を1日1回〜数回に分けて行うことができる。ワクチン接種は単回のみ行ってもよいが、同一局所あるいは別の局所に投与を繰り返し行うことが好ましい。例えば、週に1回の割合、あるいは1ヶ月〜数ヶ月に1回の割合での間欠的な投与が可能である。より具体的には、2週に1回の割合で1年以上の長期に亘って投与することができる。癌ワクチンがアジュバントを含まないものである場合、癌ワクチンのみを投与してもよいが、アジュバントを同一局所に投与することが可能である。癌ワクチンがアジュバントを含むものであれば、そのまま局所投与に用いることができる。ワクチン接種のプロトコルは、被検体の症状に応じてワクチン接種の効果を確認しつつ適切な投与量と投与期間を勘案して、個々に適したプロトコルを実施し得る。
【0063】
本発明の別の一態様は、治療に有効な用量の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの1つまたは2つ以上を投与することを特徴とする、造血器腫瘍の予防方法および/または治療方法である。投与するペプチドは、より好ましくは、配列表の配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドである。これら各ペプチドは、アジュバントとともに投与することがさらに好ましい。またこれらペプチドは、その2つ以上を組合せてアジュバントとともに投与することもできる。本発明に係る造血器腫瘍の予防方法および/または治療方法を適用し得る造血器腫瘍は、HLA−A24陽性の造血器腫瘍が好ましく、さらに該方法において投与するペプチドを含む蛋白質、例えばp56lck蛋白質、SART−1、SART−2、SART−3およびART−1のうちの1種以上の発現が認められる造血器腫瘍がより好ましい。
【0064】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されない。
実施例に記載した全ての実験は、試料提供者である患者のインフォームドコンセントを得て行なった。ペプチドワクチン療法の臨床検討は、久留米大学倫理委員会の承認を受けた臨床プロトコール(プロトコール番号:2031)に従い、患者のインフォームドコンセントを得て実施した。
【実施例1】
【0065】
(ワクチン接種に用いたペプチドの調製1)
臨床検討に用いたペプチドは、p56lck蛋白質由来のペプチドであるLck208(配列番号1)およびLck488(配列番号2)、SART−1由来のペプチドであるSART−1690(配列番号4)、並びにART−1由来のペプチドであるART−1170(配列番号10)である。これらペプチドは、マルチプルペプチドシステム(Multiple Peptide System)社のグッドマニュファクチャリングプラックティス(Good Manufacturing Practice)の条件に基づいて調製した。
【0066】
アジュバントは、モンタニド ISA−51(Montanide ISA−51)アジュバント(セピック社製)を用いた。
【0067】
各ペプチドについて、その3mgを滅菌生理食塩水とともにMontanide ISA−51に1:1容量で添加し、ボルテックスミキサーで撹拌し、乳剤を調製した。かくして、Lck208(配列番号1)、Lck488(配列番号2)、SART−1690(配列番号4)またはART−1170(配列番号10)を含む4種類の乳剤を得た。
【実施例2】
【0068】
(造血器腫瘍における上皮癌関連抗原発現の測定)
上皮癌関連抗原であるp56lck蛋白質、ART−1、SART−1、SART−2およびSART−3の発現を、一連の造血器腫瘍細胞株について検討した。検討には次の細胞株を用いた:B細胞急性リンパ球性白血病(B−ALL)細胞株であるREH、HALL1、NALM6、NALM16、KOPN−K、BALM1−2およびBALL−1;T細胞急性リンパ球性白血病(T−ALL)細胞株であるKOPT、RPMI−8402、CCRF−CEM、HPB−ALL、MOLT−4、CCRF−HSB−2およびPEER;急性骨髄性白血病細胞株であるML1、ML2、ML3およびKG1;急性単球性白血病細胞株であるTHP−1およびU−937;バーキットリンパ腫細胞株であるRAJIおよびNAMALWA;慢性骨髄性白血病細胞株であるNALM1およびK562;多発性骨髄腫(MM)細胞株であるARH−77、U−266、KHM−11、MIK−1およびRPMI−8226;それぞれB細胞リンパ腫細胞株、T細胞リンパ腫細胞株および赤白血病細胞株であるBHL−89、HuT−102およびHEL;並びに成人T細胞白血病(ATL)細胞株であるHPB−MLT。これら細胞株は全て、10%牛胎児血清(FCS)を含むRPMI1640培地(Gibco BRL社製)中で維持培養した。
【0069】
各細胞株におけるp56lck蛋白質、SART−1およびSART−2の発現を、抗p56lck蛋白質モノクローナル抗体(Lck3A5、Santa Cruz Biotec社製)、抗SART−1ポリクローナル抗体および抗SART−2ポリクローナル抗体を用いてウエスタンブロット法により検出した。さらに、Cell Questソフトウエア(Becton Dickinson社製)を用いてフローサイトメトリーによりp56lck蛋白質およびSART−3の発現を分析した。細胞内染色は、細胞を4%パラホルムアルデヒドと0.1%サポニンで前処理し、ついで抗p56lck蛋白質モノクローナル抗体および抗SART−3モノクローナル抗体を添加することにより行った。二次抗体として、FITC結合抗マウスIgG抗体(ICN Biomedicals社製)を用いた。
【0070】
lck遺伝子プロモーターには異なった2つの型が知られており、腫瘍細胞および正常末梢血単核細胞においてはそれぞれI型およびII型が主に使用されている(非特許文献12)。そこで、lck遺伝子の2つのプロモーターの検出を、特異的プライマー対を用いてRT−PCRにより常法に従って行った(非特許文献12)。試料として用いた総RNAは、細胞からRNA−Bee(TEL−TEST社製)を用いて抽出した。cDNAはスーパースクリプトファーストストランドシンセシスシステム(Invitrogen社製)を用いて調製した。PCRはタックDNAポリメラーゼ(Taq DNA polymerase)を用いてDNAサイクラー(iCycler、Bio−Rad Laboratories社製)中で30サイクル(94℃で1分間、60℃で2分間および72℃で1分間)実施した。
【0071】
ART−1遺伝子のmRNA発現の検出は、常法に従ってノザンブロット分析により行った(非特許文献6)。コントロールプローブとしてヒトβアクチンcDNA(Clontech社製)を用いた。
【0072】
p56lck蛋白質の発現は、ウェスタンブロット法による分析において、HPB−MLT白血病細胞株およびARH−77骨髄腫細胞株、並びにPBMCおよびPHA芽球化T細胞(PHA−blastoid T cell)で認められた(図1−A)。また、lck遺伝子プロモーターの分析により、HPB−MLT、PEERおよびML−2は両方のプロモーターを用いており、一方BALL−1、BHL−89およびRAJIはI型プロモーターのみを使用していることが判明した(図1−B)。検討に用いた造血器腫瘍細胞株のほとんどがp56lckmRNAを発現していることが明らかになった。
【0073】
SART−1、SART−2およびSART−3はいずれも試験した全ての造血器腫瘍細胞株において発現していたが、PBMCでは発現が認められなかった。
【0074】
ART−1は試験した全ての造血器腫瘍細胞株およびPBMCで発現しており、ほとんどの細胞株でPBMCより高い発現が認められた。
【0075】
これら蛋白質の造血器腫瘍株における発現検討結果を表1に示した。表中、NTとは検討を行わなかったことを示す。
【0076】
【表1】

【実施例3】
【0077】
(上皮癌関連抗原ペプチドによる造血器腫瘍患者PBMCからの細胞傷害性T細胞誘導)
造血器腫瘍患者PBMCからのペプチド特異的細胞傷害性T細胞の誘導を、既報に従って行った(非特許文献5)。
【0078】
細胞傷害性T細胞の誘導には次のペプチドを用いた:p56lck蛋白質由来ペプチドであるLck208(配列番号1)、Lck488(配列番号2)およびLck486(配列番号3);SART−1由来ペプチドであるSART−1690(配列番号4);SART−2由来ペプチドであるSART−293(配列番号5)、SART−2161(配列番号6)およびSART−2899(配列番号7);SART−3由来ペプチドであるSART−3109(配列番号8)およびSART−3315(配列番号9);並びにART−1由来ペプチドであるART−1170(配列番号10)。これらはいずれも上皮癌関連抗原由来ペプチドであり、HLA−A24拘束性細胞傷害性T細胞を上皮癌患者のPBMCから誘導する能力を有する(非特許文献3〜6および12)。HLA−A24結合モチーフを有する陰性コントロールペプチドおよび陽性コントロールペプチドとして、それぞれヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来ペプチド(配列番号11)およびエプスタインバーウイルス(EBV)由来ペプチド(配列番号12)を用いた。ペプチド(純度95%以上)は全てサワディーラボラトリーから購入し、それぞれジメチルスルホキシドに10mg/mlの濃度で溶解して使用した。
【0079】
PBMCは、造血器腫瘍患者から採取した末梢血より、フィコールコンレイ密度勾配遠心法を用いて調製した。PBMC上のHLA−A24分子発現の測定は、フローサイトメトリーを用いて公知方法に従って行った(非特許文献5)。
【0080】
PBMCからの細胞傷害性T細胞の誘導は、以下の様に実施した。まず、PBMC(細胞数1×10/well)を各ペプチド10μMとともに96ウエルU底型マイクロカルチャープレート(Nunc社製)において200μlの培養培地中でインキュベーションした。培養培地の組成は、45%RPMI−1640、45%AIM−V(Invitrogen社製)、10%FCS、100U/mlのインターロイキン2(IL−2)、および0.1mM MEMノンエッセンシャルアミノアシッドソリューション(Invitrogen社製)からなる。培養3日目、6日目および9日目に、培地の半量を除去し、対応するペプチド(20μg/ml)を含む新鮮培地と交換した。培養12日目に細胞を回収し、対応するペプチドまたは陰性コントロールであるHIV由来ペプチド(配列番号11)を前もってパルスしたHLA−A24発現C1R細胞(C1R−A24と呼称する)に対する反応におけるIFN−γの産生能を試験した。HIV由来ペプチド(配列番号11)に対する反応において産生されたIFN−γをバックグランドとして、データの値から減算した。対応するペプチドに対する反応においてペプチドで刺激されたPBMCにより産生されたIFN−γの平均値が、HIV由来ペプチド(配列番号11)に対する反応において産生されたものより高い場合、ペプチド特異的細胞傷害性T細胞前駆体がPBMCに存在し、ペプチドによりペプチド特異的細胞傷害性T細胞が誘導されたと判定した。
【0081】
細胞傷害性T細胞誘導の検討は、HLA−A24造血器腫瘍患者10例(CLL2例、MCL1例、NHL1例、B−ALL1例、MM1例、MDS1例、ATL2例、およびT−ALL1例)のPBMCについて、p56lck蛋白質、SART−1、SART−2、SART−3およびART−1由来のペプチドを用いて行った。用いたペプチドは、HLA−A24上皮癌患者のPBMCからペプチド特異的腫瘍反応性細胞傷害性T細胞を誘導したペプチドであり、現在、上皮癌患者に対するワクチンとして臨床試験を行っている。該ペプチドでインビトロにてPBMCを刺激し、ペプチド特異的IFN−γ産生を測定した結果を表2に示した。
【0082】
【表2】

【0083】
Lck208(配列番号1)、Lck486(配列番号3)およびLck488(配列番号2)により刺激したPBMCによるIFN−γ産生の促進が、それぞれ10例中2例、3例および4例で認められた。Lck208(配列番号1)は、ATL1例およびT−ALL1例のPBMCによるIFN−γ産生を促進した。Lck486(配列番号3)はATL2例およびT−ALL1例のPBMCによるIFN−γ産生を促進した。Lck488(配列番号2)はMM1例、MDS1例、およびATL2例のPBMCによるIFN−γ産生を促進した。一方、陽性コントロールであるEBV由来ペプチド(配列番号12)による刺激では10例中6例でPBMCによるIFN−γ産生の促進が認められたが、陰性コントロールであるHIV由来ペプチド(配列番号11)では全ての例でIFN−γ産生が認められなかった。
【0084】
上記試験においてペプチドとのインキュベーションにより該ペプチドをパルスしたC1R−A24に対するIFN−γ産生を促進したPBMCについて、さらにIL−2(100U/ml)のみの存在下で2週間培養した後に、造血器腫瘍細胞株に対する細胞傷害活性を標準的な51Cr遊離試験(非特許文献5)により検討した。具体的には、得られたPBMCをエフェクターとして用い、51Cr標識した標的細胞(以下、ターゲットと称する)と、エフェクター/ターゲット比3、10または30で混合して6時間インキュベーションした後に、上清中に遊離された51Crの放射活性を測定した。得られた結果は、ターゲットを完全に溶解したときの放射活性を100%として算出した%溶解(%lysis)で表した。ターゲットとして、HLA−A24造血器腫瘍細胞株であるPEER、HLA−A24造血器腫瘍細胞株であるHPB−MLTおよびHLA−A24PHA芽球化T細胞を用いた。
【0085】
代表的な結果を図2−A、図2−Bおよび図2−Cに示す。Lck486(配列番号3)、SART−2161(配列番号6)またはSART−2899(配列番号7)で刺激し、さらにIL−2存在下で培養したPBMC(それぞれ表2における患者#8、患者#2、患者#4)はいずれも、HLA−A24造血器腫瘍株に対して有意に細胞傷害活性を示したが、HLA−A24造血器腫瘍株またはHLA−A24PHA芽球化T細胞に対しては細胞傷害活性を示さなかった(それぞれ図2−A、図2−B、図2−C)。かかる細胞傷害活性は、HIV由来ペプチド(配列番号11)またはEBV由来ペプチド(配列番号12)で培養したPBMCには認められなかった。
【0086】
Lck486(配列番号3)、SART−2161(配列番号6)およびSART−2899(配列番号7)は造血器腫瘍患者のPBMCからHLA−A24拘束性に腫瘍特異的細胞傷害性T細胞を誘導し得ることが明らかになった。
【実施例4】
【0087】
(造血器腫瘍患者における癌ワクチン接種の検討1)
臨床試験を実施した患者(表2における患者#6)は、74歳のHLA−A24男性患者であり、デュリーアンドサーモン分類法(Durie&Salmon’s classification)によりステージIIIに分類されたIgAタイプ多発性骨髄腫を罹患していた。該患者は、本臨床試験参加以前に一連の化学療法を多回数受け、化学療法耐性を獲得していた。しかし、ペプチドワクチン接種以前の4週間は、化学療法、またはステロイドや他の如何なる免疫抑制剤の投与も受けていない。
【0088】
患者骨髄由来CD38多発性骨髄腫細胞(MM細胞)上にHLA−A24分子が発現していることは、抗HLA−A24モノクローナル抗体を用いてフローサイトメトリーにより確認した。さらに、これらCD38MM細胞がLck蛋白質を発現していることは、抗Lck抗体を用いて同様に確認した。
【0089】
ワクチン接種に用いたペプチドは、Lck488(配列番号2)、SART−1690(配列番号4)およびART−1170(配列番号10)である。これらペプチドはワクチン接種前の該患者由来のPBMCにおいてインビトロで細胞傷害性T細胞を誘導した。したがって、該患者のPBMCには、これらペプチドに対して反応し得るペプチド特異的細胞傷害性T細胞前駆体が存在していると考えた。
【0090】
これら各ペプチドとアジュバントとを含む3種類の乳剤を実施例1記載の方法に従って調製し、患者の大腿側面のそれぞれ別の部位に皮下注射することによりワクチン接種を行った。ワクチン接種は、患者がペプチドに対する即時型過敏反応を示さないことを皮膚試験により確認した後に実施した。皮膚試験は、生理食塩水中50μgの各ペプチドを皮内注射することにより行い、注射20分後または24時間後に即時型過敏反応または遅延型過敏反応をそれぞれ観察した。
【0091】
ワクチン接種は、SART−1690(配列番号4)、Lck488(配列番号2)およびART−1170(配列番号10)を用いて、2週間隔で7回行った。6回目のワクチン接種後に得たPBMCの細胞障害活性を実施例3記載のインビトロ試験に従って測定した。その結果、該PBMCにおいて、SART−1690(配列番号4)、Lck488(配列番号2)およびLck208(配列番号1)それぞれに対するペプチド特異的細胞傷害活性が認められた。そこで、8回目以降のワクチン接種には、SART−1690(配列番号4)、Lck488(配列番号2)またはLck208(配列番号1)とアジュバントとを含む3種の乳剤を実施例1記載の方法に従って調製し使用した。
【0092】
ワクチン接種後、患者由来のPBMCの、用いたペプチド特異的な細胞傷害活性を、該ペプチドをパルスしたC1R−A24細胞を用いて51Cr遊離試験により測定した。その結果、ワクチン接種回数に従ってペプチド特異的な細胞傷害活性が増強されたことが明らかになった(図3−A)。3回目、6回目および9回目のワクチン接種の後にPBMCを採取し、骨髄腫細胞株に対する細胞傷害活性を試験したところ、該PBMCはHLA−A24骨髄細胞株KHM−11およびMIK−1に対して有意なレベルの細胞傷害活性を示した(図3−B)。一方、HLA−A24骨髄細胞株RPMI−8226に対する細胞傷害活性は非常に低かった。これら細胞傷害活性は抗HLAクラスI抗体(W6/32、IgG2a)、抗CD8抗体(Nu−Ts/c、IgG2a)または抗HLA−A24抗体(A11.1、IgG3)により有意に阻害されたが、抗CD14抗体(JML−H14、IgG2a)によっては阻害されなかった。
【0093】
ペプチドのワクチン接種により多発性骨髄腫患者の血液中において、HLA−A24拘束性腫瘍特異的細胞傷害性T細胞が誘導されたことが明らかになった。
【0094】
臨床反応については、骨髄検査により形質細胞が46%減少したことが判明し(ワクチン接種前46.6×10/μlから6回目のワクチン接種後21.5×10/μlに減少した)、安定状態(stable condition)は9ヶ月以上継続した。
【0095】
ワクチン接種の副作用は、投与部位において局所的反応が認められたのみ(グレードII)であり、これに対する治療の必要がない程度であった。ワクチン接種に用いたペプチドに対する遅延型過敏反応は全く観察されなかった。また、本例においては、自己免疫反応を示す症状は認められなかった。
【0096】
これらから、上記ペプチドのワクチン接種が、造血器腫瘍の治療に有効であり、副作用も極めて少ないことが明らかになった。
【実施例5】
【0097】
(ワクチン接種に用いたペプチドの調製2)
SART−2由来のペプチドであるSART−293(配列番号5)およびSART−3由来のペプチドであるSART−3109(配列番号8)について、実施例1と同様のアジュバントを用いて同様の方法で2種類の乳剤を調製した。
【実施例6】
【0098】
(造血器腫瘍患者における癌ワクチン接種の検討2)
臨床試験を実施した患者(表2における患者#1)は、63歳のHLA−A24女性患者であり、バーネット分類法(Bernet’s classification)によりステージAに分類された慢性リンパ球性白血病を罹患していた。該患者は、本臨床試験開始時に、白血球数増加および血小板数減少の進行が認められた。
【0099】
患者PBMC由来CD19慢性リンパ球性白血病細胞(CLL細胞)上にHLA−A24分子が発現していることは、抗HLA−A24モノクローナル抗体を用いてフローサイトメトリーにより確認した。
【0100】
ワクチン接種前の該患者由来のPBMCにおいてインビトロで細胞傷害性T細胞を誘導したペプチドであるART−1170(配列番号10)は、ワクチン接種前に行った皮膚試験(実施例4参照)において即時型過敏反応を惹起した。そのため、ワクチン接種には、SART−293(配列番号5)およびSART−3109(配列番号8)を用いた。これらぺプチドに対して反応するイムノグロブリンG抗体がワクチン前の血清中に有意に高いレベルで検出されたことから、該患者においてワクチン接種前にこれらペプチドに対する液性免疫が惹起されていることが判明した。上皮癌患者におけるペプチドワクチンの臨床試験において、患者の生存率とワクチンに用いたペプチドに対する液性免疫応答の亢進との間に相関が認められている。このことから、SART−293(配列番号5)およびSART−3109(配列番号8)が本患者に有効に作用すると考えた。
【0101】
これらペプチドを用いて実施例5で調製した2種類の乳剤を患者の大腿側面のそれぞれ別の部位に皮下注射することによりワクチン接種を行った。
【0102】
ワクチン接種後に毎回、患者由来のPBMCについて、用いたペプチド特異的な細胞傷害T細胞の誘導を、該ペプチドをパルスしたC1R−A24細胞に対するIFN−γの産生量を指標にして測定した(実施例3参照)。その結果、ワクチン接種回数に従ってIFN−γ産生量が増加した(図4−A)。PBMCによるIFN−γ産生は、抗CD8抗体(Nu−Ts/c、IgG2a)または抗HLA−A24抗体(A11.1、IgG3)により有意に阻害されたが、抗CD14抗体(JML−H14、IgG2a)によっては阻害されなかった。
【0103】
これら結果から、ワクチン接種により、ペプチド反応性細胞傷害性T細胞が誘導されたことが明らかになった。さらに、これらペプチド反応性細胞傷害性T細胞は、SART−293(配列番号5)またはSART−3109(配列番号8)をパルスしたC1R−A24細胞に対して、HIV由来ペプチド(配列番号11)をパルスした細胞に対するよりも高い細胞傷害活性を示すことが51Cr遊離試験により判明した(図4−B)。
【0104】
ペプチドのワクチン接種により慢性リンパ球性白血病患者の血液中において、HLA−A24拘束性のペプチド特異的細胞傷害性T細胞が誘導されたことが明らかになった。
【0105】
臨床反応については、ワクチン接種前20×10/μlであった血中リンパ球数が、6回目のワクチン接種後に一時的ではあるが12.8×10/μlに著しく減少した。血小板数は、ワクチン接種前には10×10/μlと低かったが、6回目のワクチン接種後には増加し、17回のワクチン接種期間を通して正常範囲内に保たれていた。
【0106】
ワクチン接種の副作用は、投与部位において局所的反応が認められたが治療不要であった(グレードI)。また、3回目のワクチン接種後にSART−3109(配列番号8)に対する免疫反応の指標の1つである遅延型過敏反応が観察された。副作用は極めて少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明に係る造血器腫瘍の予防および/または治療剤は、造血器腫瘍の特異的免疫療法に用いることができ、医薬分野における利用可能性が非常に高く有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0108】
配列番号1:p56lck蛋白質の部分ペプチド。
配列番号2:p56lck蛋白質の部分ペプチド。
配列番号3:p56lck蛋白質の部分ペプチド。
配列番号4:SART−1の部分ペプチド。
配列番号5:SART−2の部分ペプチド。
配列番号6:SART−2の部分ペプチド。
配列番号7:SART−2の部分ペプチド。
配列番号8:SART−3の部分ペプチド。
配列番号9:SART−3の部分ペプチド。
配列番号10:ART−1の部分ペプチド。
配列番号11:ヒト免疫不全ウイルス由来ペプチド。
配列番号12:エプスタインバーウイルス由来ペプチド。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤。
【請求項2】
配列表の配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤。
【請求項3】
配列表の配列番号3、6、7および9からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分としてさらに含有する請求項2に記載の造血器腫瘍の予防および/または治療剤。
【請求項4】
配列表の配列番号1、2および4からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤。
【請求項5】
配列表の配列番号2、4および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤。
【請求項6】
配列表の配列番号5および8からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つを有効成分として含有する造血器腫瘍の予防および/または治療剤。
【請求項7】
アジュバントをさらに含む請求項1から6のいずれか1項に記載の造血器腫瘍の予防および/または治療剤。
【請求項8】
造血器腫瘍がHLA−A24分子を細胞表面上に有する造血器腫瘍である請求項1から7のいずれか1項に記載の予防および/または治療剤。
【請求項9】
造血器腫瘍がHLA−A24分子を細胞表面上に有し且つ予防および/または治療剤の有効成分であるペプチドを含む蛋白質を発現している造血器腫瘍である請求項1から7のいずれか1項に記載の予防および/または治療剤。
【請求項10】
造血器腫瘍用癌ワクチンとして用いることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の造血器腫瘍の予防および/または治療剤。
【請求項11】
配列表の配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つとアジュバントとを含有する、HLA−A24分子を細胞表面上に有する造血器腫瘍の予防および/または治療に用いる医薬。
【請求項12】
治療に有効な用量の配列表の配列番号1、2、4、5、8および10からなる群から選ばれるアミノ酸配列を有するペプチドの少なくとも1つをアジュバントとともに投与することを特徴とする、HLA−A24分子を細胞表面上に有する造血器腫瘍の予防方法および/または治療方法。

【図1−A】
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【図1−B】
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【図2−A】
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【図2−B】
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【図2−C】
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【図3−A】
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【図3−B】
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【図4−A】
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【図4−B】
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【国際公開番号】WO2005/011723
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【発行日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512574(P2005−512574)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011232
【国際出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(304058240)株式会社グリーンペプタイド (10)
【Fターム(参考)】