説明

連結制震構造

【課題】高さおよび固有周期が実質的に同等である複数の建物への適用を可能とする連結制震構造を提供する。
【解決手段】高さおよび固有周期が実質的に同等である複数の建物A,Bを対象とする連結制震構造であって、いずれかの建物Aに対して回転慣性質量ダンパー3を付加することにより当該建物Aを制震構造建物としてその建物A全体の固有周期を他の建物Bの固有周期よりも長周期化せしめたうえで、当該建物Aと他の建物Bとをダンパー1により連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の建物をダンパーにより連結して双方の建物に対する制震効果を得る連結制震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の連結制震構造は特許文献1,2に示されるように周知である。
これは、たとえば図3(a)に示すように2棟の建物A,Bどうしをダンパー(減衰要素)1およびバネ2(バネ要素)で接続することにより、地震時に互いの位相ずれを利用してダンパー1を作動させてそれぞれの建物の応答を低減するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−56204号公報
【特許文献2】特開2010−24708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高さが同等である建物は固有周期もほぼ同一であることが通常であり、そのため、図3(b)に示すように双方の建物A,Bの高さが同等である場合にはそれらをそのまま連結しても双方が同期して振動するだけで相対振動が生じず、したがってダンパー1が有効に作動し得ないので連結制震効果は得られない。
そのため、従来の連結制振構造は図3(a)に示したように建物A,Bの高さが異なっていて固有周期も自ずと異なる場合に適用されるに留まるが、そのような好都合な条件に合致する計画は多くはないことから、この種の連結制震構造は広く普及するに至っていない。
【0005】
上記事情に鑑み、本発明は高さが同等であって固有周期が同等である複数の建物に対しても適用が可能な有効適切な連結制震構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、高さおよび固有周期が実質的に同等である複数の建物を対象とする連結制震構造であって、いずれかの建物に対して回転慣性質量ダンパーを付加することにより当該建物を制震構造建物としてその建物全体の固有周期を他の建物の固有周期よりも長周期化せしめ、当該建物と他の建物とをダンパーにより連結してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、連結するべき建物の高さが同等であってそれらの固有周期も同等である場合に、一方の建物に対して回転慣性質量ダンパーを付加することにより、当該建物の固有周期は自ずと伸張されて当該建物は長周期化された制震構造建物として機能し、したがって双方の建物の固有周期に有意な差が生じて地震時にはそれらの間に相対振動が生じ、その結果、双方を連結するダンパーが有効に作動する。したがって本発明によれば、高さが同等の建物どうしであっても、一方の建物に回転慣性質量ダンパーを付加することのみで従来の連結制震構造と同様に双方の建物に対して優れた連結制震効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の連結制震構造の一実施形態を示すモデル図であり、(a)は立面図、(b)は平面図である。
【図2】同、他の実施形態を示すモデル図であり、(a)は立面図、(b),(c)は平面図である。
【図3】連結制震構造の概念を示すモデル図であり、(a)は連結される建物の高さが異なる場合、(b)は高さが同等の場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の連結制震構造の一実施形態を図1に示す。これは、図3(b)に示したように高さが実質的に同等であって基本的には固有周期も実質的に同等な2棟の建物A,Bを対象として、それら建物A,Bどうしをダンパー1およびバネ2により連結することを基本とするものである。
但し、上述したように固有周期が同等の建物A,Bどうしをそのまま連結したのではダンパー1が有効に作動し得ないことから、本実施形態ではいずれか一方の建物の所望階(図示例では建物Aにおける1階〜7階)には各層の層間変位により作動する回転慣性質量ダンパー3を付加するとともにそれに並列に適宜の付加減衰4を設置している。なお、回転慣性質量ダンパー3として減衰要素を一体に組み込んだ形式のものを用いる場合には他に格別の減衰要素を設けることはなく、その場合は図示例の付加減衰4は省略可能である。
【0010】
上記のように、連結するべき建物の一方に回転慣性質量ダンパー3を付加することにより、当該建物の固有周期は自ずと伸張されてこの建物は長周期化された制震構造建物として機能し、したがって他方の建物(図示例の場合には建物B)とは固有周期に有意な差が生じて地震時には双方の建物A,Bの間に固有周期の差に基づく相対振動が生じ、それにより双方の建物A,Bを連結しているダンパー1が支障なく作動して双方に対して優れた制震効果が得られる。
【0011】
図2は本発明の連結制震構造の他の実施形態を示す。これは、高さが同等の3棟の建物A,B,Cを対象とするもので、それらの建物を(a)、(b)に示すように横一列に配置するか、あるいは(c)に示すように直角をなすように鉤の手に配置したうえで、両側の建物A,Cを中央の建物Bに対してダンパー1およびバネ2により連結することを基本とするものである。
この場合も、各建物の固有周期が基本的に同等であるのでそのままではダンパー1が作動し得ないから、本実施形態では中央の建物Bに回転慣性質量ダンパー3と付加減衰4を付加して当該建物Bの固有周期を他の建物A,Cよりも長周期化して制震構造建物として機能せしめる。
これにより、本実施形態では中央の建物Bとその両側にそれぞれ連結される建物A,Cとの間でそれぞれ固有周期の差に基づく相対振動が生じ、したがってダンパー1が有効に作動して各建物A,B,Cの全てに対して連結制震効果が得られる。
【0012】
以上のように、本発明によれば、高さが同等の建物どうしであっても、連結される建物のいずれか1棟に対して回転慣性質量ダンパー3を付加することのみで、図3(a)に示したように高さが異なることを前提としている従来一般の連結制震構造と同様に優れた連結制震効果が得られる。
したがって本発明によれば、この種の連結制震構造を高さが同等の建物どうしに対しても支障なく適用することが可能となり、この種の連結制震構造のさらなる普及を図ることができる。
【0013】
なお、上記実施形態はあくまで基本的な一例であって本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、要は連結対象の建物の一方にのみ回転慣性質量ダンパー3を付加してその固有周期を伸張し、それにより双方の建物の固有周期に有意な差を持たせれば良いのであって、その限りにおいて連結対象の建物の高さや平面形状、規模、基本構造(主架構の構造形式)、用途、建物相互の位置関係等の基本的な条件は任意であるし、建物どうしを連結するためのダンパーの仕様やその位置、バネの有無等はもとより、いずれかの建物を制震化するための具体的な制震化手法つまり回転慣性質量ダンパー3の具体的な仕様やその設置位置等についても、所期の効果が得られるように任意に設計すれば良い。
【0014】
たとえば、図1〜図2ではいずれも10階建ての建物を対象として7階の位置で建物どうしを連結するようにし、かつ図1の場合には制震化する建物の1〜7階に回転慣性質量ダンパー3と付加減衰4を設置するようにし、図2の場合には全階に回転慣性質量ダンパー3と付加減衰4を設置するように図示しているが、それはあくまで一例をモデル的に示したもので実際の設計例を示すものではないし、本発明をそのようなものに限定する主旨ではない。要は、いずれかの建物に回転慣性質量ダンパー3を設置することで連結する建物間に相対振動が生じるように、つまり他の建物と同期して振動してしまわないように、いずれかの建物の振動特性を最適にチューニングすれば良い。
より具体的には、たとえば図1に示したように2棟の建物A,Bを連結する場合においては、建物Aを制震化することに代えて建物Bを制震化することでも同様であることはいうまでもない。また、図2に示したように3棟の建物A,B,Cを連結する場合においては中央の建物Bのみを制震化することが現実的であるが、必要であれば中央の建物Bは制震化せずに両側の建物A,Cを制震化することでも良いし、その場合において建物A,Cを同様に制震化してそれらの固有周期を同等とすることでも良いし、あるいはそれら建物A,Cの固有周期が異なるように制震化する(結果として3棟の建物A,B,Cの固有周期が全て異なるようにする)ことでも良い。
【0015】
また、本発明は2棟以上の建物群を計画し新築するに当たって適用するのみならず、既存の建物群を対象とする耐震補強対策としての制震化を行う場合にも好適に適用可能である。
すなわち、高さが同等の複数の既存建物が隣接配置されている場合において、それら既存建物の全てを制震化する場合には、従来においては全ての既存建物内に何らかの制震要素を設置する必要があったが、本発明によればいずれかの既存建物に対してのみ回転慣性質量ダンパー3を設置したうえで他の既存建物とダンパー1により連結すれば良く、したがって他の既存建物内には制震要素を設置する必要がないから、本発明によれば従来に比べて改修範囲を大幅に軽減して建物群全体に対する制震化を安価に実施することが可能である。
【符号の説明】
【0016】
A,B,C 建物
1 ダンパー
2 バネ
3 回転慣性質量ダンパー
4 付加減衰

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高さおよび固有周期が実質的に同等である複数の建物を対象とする連結制震構造であって、
いずれかの建物に対して回転慣性質量ダンパーを付加することにより当該建物を制震構造建物としてその建物全体の固有周期を他の建物の固有周期よりも長周期化せしめ、当該建物と他の建物とをダンパーにより連結してなることを特徴とする連結制震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−226096(P2011−226096A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94987(P2010−94987)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】