説明

連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体

【課題】 硬さ以外の物性の変化を抑制しつつ、硬さを調整することができる連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体を提供する。
【解決手段】 連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を水に溶解した水溶液を配合し、ポリウレタン発泡体原料を反応させ、発泡及び硬化させることにより得られる。その場合、炭酸水素塩としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素アルカリ金属塩であることが好ましい。また、炭酸水素塩の分解開始温度は50〜100℃であることが好ましい。炭酸水素塩の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.005〜0.5質量部であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のシート用クッションを形成する材料等として使用される連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車のシート用クッション材(座部及び背もたれ部)、椅子用クッション材等においては、各用途に応じた種々の硬さを有するものが要求されている。例えば、自動車のシート用クッション材で座部を柔らかくし、背もたれ部を硬くするように要求される場合がある。そのような場合、硬さ以外の物性をできるだけ変化させることなく、硬さのみを変化させることができるクッション材が求められる。従来、軟質ポリウレタン発泡体の硬度を下げる手法としては、原料中のポリオールに対するポリイソシアネートの量、すなわちイソシアネートインデックスを下げる手法や、塩化メチレン(メチレンクロライド)、炭酸ガス等の非反応性の補助発泡剤の使用比率を上げる手法(例えば、特許文献1及び2を参照)等が知られている。
【0003】
しかし、前者の手法では、軟質ポリウレタン発泡体の硬度は低下するが、発泡体全体の架橋密度が低下することから、発泡体の引張強度、伸び、圧縮残留歪等の物性が低下する。一方、後者の手法では、塩化メチレン等の非反応性の補助発泡剤が発泡体を溶解する性質を有するため、発泡体の製造過程で割れが発生したり、得られた発泡体の引張強度が低下したりする傾向があった。しかも、炭酸ガスを用いる場合には、ガス圧が急に上昇し、その制御が難しいため、セルの大きさが不均一になったり、割れが生じたりするという問題があった。
【0004】
また、リン酸類水溶液、炭酸金属塩及びイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーを用いて得られる無機有機複合スラブ発泡体も知られている(例えば、特許文献3を参照)。この技術では、炭酸金属塩がリン酸類と反応し、発泡体に無機質の骨格を形成すると同時に、二酸化炭素を発生して発泡を起こすのである。
【特許文献1】特開平6−211958号公報(第2頁及び第3頁)
【特許文献2】特開2003−238642号公報(第2頁及び第3頁)
【特許文献3】特開平11−279316号公報(第2頁及び第8頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献3に記載の技術においては、配合されているリン酸類水溶液と炭酸金属塩とを反応させて二酸化炭素を発生させ、その二酸化炭素により発泡させて低密度の発泡体を得るものである。さらに、炭酸金属塩がリン酸類と反応して形成される無機質の骨格により、難燃性を発揮できるものである。しかし、生成する二酸化炭素が発泡構造を形成するに足りる量であるため、得られる発泡体の物性に与える影響が大きい。従って、そのような技術では、硬さ以外の物性の変化を抑制した状態で発泡体の硬さを調整することはできないという問題があった。
【0006】
本発明は以上のような従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、硬さ以外の物性の変化を抑制しつつ、硬さを調整することができる連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を水に溶解した水溶液を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、請求項1に係る発明において、前記炭酸水素塩は、炭酸水素アルカリ金属塩であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項3に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記炭酸水素塩の分解開始温度は50〜100℃であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項4に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る発明において、前記炭酸水素塩の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.005〜0.5質量部であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体においては、そのポリウレタン発泡体原料に炭酸水素塩を水に溶解した水溶液が添加される。添加された炭酸水素塩は、ポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応、ポリイソシアネート類と発泡剤との泡化反応等による発熱で加熱されて分解され、生成する二酸化炭素により、泡化反応に基づくウレア(尿素)結合の生成が抑制され、ソフトセグメントとハードセグメントよりなるポリウレタンのハードセグメントの形成が抑えられるものと推測される。従って、同じ密度におけるポリウレタン発泡体の硬さを低く調整することができる。
【0012】
また、炭酸水素塩が分解して生成される炭酸ナトリウム(比重2.25)等の分解生成物は比重が、ポリエチレンパウダー(比重0.93)等の有機物の比重に比べて大きいことから、フィラーが充填されることで生じるポリウレタン発泡体の物性の変化に与える影響は小さく、従ってポリウレタン発泡体の硬さ以外の物性の変化を抑制することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体では、炭酸水素塩が炭酸水素アルカリ金属塩であることから、分解開始温度が低く、ポリウレタン発泡体の生成に沿って分解されて機能を発揮することができる。このため、請求項1に係る発明の効果を向上させることができる。
【0014】
請求項3に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体においては、炭酸水素塩の分解開始温度は50〜100℃であり、ポリウレタン発泡体の生成時の温度上昇に沿って炭酸水素塩の分解が開始されて機能を発揮することができる。このため、請求項1又は請求項2に係る発明の効果をさらに向上させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体では、炭酸水素塩の配合量がポリオール類100質量部当たり0.005〜0.5質量部に設定され、炭酸水素塩の分解が過剰又は不足することなく適度に行われる。従って、請求項1から請求項3のいずれか一項に係る発明の効果を一層向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
本実施形態の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体(以下、単に発泡体ともいう)は、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を水に溶解した水溶液を配合し、ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させることにより得られるものである。ここで、連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、発泡体中に存在する気泡(セル)が連通構造を有し、柔軟性があって圧縮荷重に対し復元性を示すものを意味し、軟質ポリウレタン発泡体、半硬質ポリウレタン発泡体等が含まれる。
【0017】
まず、前記ポリウレタン発泡体原料について説明する。ポリオール類としては、ポリエーテルポリオール又はポリエステルポリオールが用いられる。ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、それらの変性体、グリセリンにアルキレンオキサイドを付加した化合物等が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、アジピン酸、フタル酸等のポリカルボン酸を、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等のポリオールと反応させることによって得られる縮合系ポリエステルポリオールのほか、ラクトン系ポリエステルポリオール及びポリカーボネート系ポリオールが挙げられる。このポリオール類は、原料成分の種類、分子量、縮合度等を調整することによって、水酸基の数や水酸基価を変えることができる。
【0018】
ポリオール類の水酸基価は、250(mgKOH/g)未満であることが好ましく、50〜60(mgKOH/g)であることがより好ましい。このような水酸基価を有するポリエーテルポリオールを用いることにより、ポリイソシアネート類との反応性に優れ、適度に架橋された軟質ポリウレタン発泡体を得ることができる。ポリオール類の水酸基価が250(mgKOH/g)以上の場合、架橋密度が高くなり過ぎて発泡体が硬くなり、感触が低下する。一方、水酸基価が50(mgKOH/g)未満の場合、水酸基価が小さくなり過ぎ、ポリウレタン発泡体の架橋密度が低くなって発泡体が座屈しやすくなる傾向を示す。
【0019】
ポリウレタン発泡体原料には架橋剤を配合することができる。そのような架橋剤はポリイソシアネート類等と反応し、発泡体に架橋構造を形成するもので、例えば水酸基価が250〜650(mgKOH/g)で分子量が150〜500のポリオールである。係るポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が用いられる。ポリエーテルジオールを用いることにより、発泡体を形成する重合体の連鎖が直鎖状に延びる構造が形成され、発泡体の柔軟性を良好にすることができる。
【0020】
続いて、ポリオール類と反応させるポリイソシアネート類はイソシアネート基を複数有する化合物であって、具体的にはトリレンジイソシアネート(TDI)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフタレンジイソシアネート(NDI)、トリフェニルメタントリイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)等が用いられる。
【0021】
ここで、ポリイソシアネート化合物のイソシアネートインデックスは100〜120であることが好ましい。すなわち、イソシアネートインデックスは、ポリオール類の水酸基、架橋剤であるポリオールの水酸基及び発泡剤(水)に対するポリイソシアネート化合物のイソシアネート基の当量比を百分率で表したものであるが、その値が100を越えるということはイソシアネート基が水酸基より過剰であることを意味する。イソシアネートインデックスが100未満の場合には、ポリオール類に対するポリイソシアネート類の反応が不足し、発泡体が軟らかくなり過ぎる傾向を示す。一方、イソシアネートインデックスが120を越える場合には、発泡体が硬くなり過ぎる傾向を示し、軟らかい感触が得られなくなる。
【0022】
次いで、触媒はポリオール類及び架橋剤としてのポリオールとポリイソシアネート類とのウレタン化反応を促進するためのものである。係る触媒としては、N,N´,N´−トリメチルアミノエチルピペラジン、トリエチレンジアミン、ジメチルエタノールアミン等の3級アミン、オクチル酸スズ等の有機金属化合物、酢酸塩、アルカリ金属アルコラート等が用いられる。
【0023】
発泡剤はポリウレタンを発泡させてポリウレタン発泡体とするためのものである。この発泡剤としては、水のほか酸アミド等が用いられる。発泡剤の配合量は、ポリオール類100質量部当たり3〜7質量部であることが好ましい。発泡剤の配合量が3質量部未満では泡化反応が不十分となり、7質量部を越えると泡化反応及び架橋反応が過剰となり、発泡体が硬くなりやすい。この発泡剤のほか、必要により二酸化炭素、塩化メチレン、フロン系化合物(トリクロロフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン等)等の補助発泡剤を用いることができる。補助発泡剤として二酸化炭素を用いることにより、前記炭酸水素塩と同様の作用を奏することができる。ポリウレタン発泡体の原料として、界面活性剤等の整泡剤、縮合リン酸エステル等の難燃剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、着色剤等を添加することもできる。
【0024】
次に、ポリウレタン発泡体原料に添加される炭酸水素塩は、水に溶解された水溶液である。そのような水溶液として添加することにより、炭酸水素塩がポリウレタン発泡体原料中に分子レベルで分散されるものと考えられ、炭酸水素塩がウレア結合の生成を抑制する機能やポリウレタンのハードセグメントの形成を抑制する機能を十分に発揮させることができる。これは、例えば炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)が下記の反応式(1)に基づいて分解し、生成する二酸化炭素(CO2)によるものと考えられる。
【0025】
2NaHCO3 → Na2CO3+CO2+H2O ・・・(1)
炭酸水素塩としては、分解開始温度が低く、ポリウレタン発泡体の生成に沿って分解されて機能を発揮することができる点から、炭酸水素アルカリ金属塩であることが好ましい。炭酸水素アルカリ金属塩として具体的には、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。水に対する溶解度は、炭酸水素ナトリウムが10.6g/100g(25℃)であり、炭酸水素カリウムが36.2g/100g(25℃)である。この炭酸水素アルカリ金属塩は、溶解度の範囲内で水に溶解された状態の水溶液として用いられる。炭酸水素カリウムは炭酸水素ナトリウムに比べて溶解度が大きいため、配合量を増加させることができ、得られるポリウレタン発泡体の硬さを下げ、柔らかくすることができる。炭酸水素塩の粉末を例えばポリオール類に分散させた状態で使用すると、炭酸水素塩の効果が安定した状態で発揮されなくなる。
【0026】
また、ポリウレタン発泡体の生成時の温度上昇に沿って炭酸水素塩の分解が開始されて機能を発揮することができる点から、炭酸水素塩の分解開始温度は50〜100℃であることが好ましい。炭酸水素ナトリウムの分解開始温度は50℃であり、炭酸水素カリウムの分解開始温度は100℃である。この分解開始温度が50℃未満の場合には、分解開始の時期が早過ぎて炭酸水素塩の分解生成物である二酸化炭素によって発泡のバランスが崩れたり、分解生成物である水が発泡剤として機能したりして好ましくない。一方、分解開始温度が100℃を越える場合には、分解開始の時期が遅過ぎてその分解生成物による作用を十分に得ることができなくなる。
【0027】
炭酸水素塩の配合量は、炭酸水素塩の分解を過剰又は不足することなく適度に行うために、ポリオール類100質量部当たり0.005〜0.5質量部であることが好ましい。炭酸水素塩の水溶液の配合量としては、ポリオール類100質量部当たり0.1〜1.5質量部が好ましい。炭酸水素塩の配合量が0.005質量部未満のときには、炭酸水素塩の分解生成物である二酸化炭素の生成量が少なく、炭酸水素塩の機能を十分に果たすことができなくなる。一方、0.5質量部を越えるときには、二酸化炭素の生成量が多く、過剰な発泡により発泡体の物性が変化したり、分解生成物である過剰な水が発泡剤として機能したりして好ましくない。
【0028】
上述した炭酸水素塩を用いることにより、得られるポリウレタン発泡体の硬さを低下させることができる。この機能は、次のようにして発現されるものと考えられる。
ポリオール類とポリイソシアネート類との反応によるポリウレタンの生成反応(ウレタン結合の生成反応、樹脂化反応)は、次の反応式(2)に基づいて進行する。
【0029】
ROH+−R−NCO → −R−NH−CO−O−R ・・・(2)
また、ポリイソシアネート類と水との反応による泡化反応は次の反応式(3)に従って進行する。
【0030】
−R−NCO+H2O → −R−NH2+CO2 ・・・(3)
さらに、反応式(3)で生成したアミン化合物(−R−NH2)がポリイソシアネート類と反応し、ウレア(尿素)結合を生成する反応は、次の反応式(4)に従って進行する。
【0031】
−R−NCO+−R−NH2 → −R−NH−CO−NH−R ・・・(4)
炭酸水素塩の分解によって生成する二酸化炭素により、反応式(3)で右辺の二酸化炭素の濃度が高くなるため、反応式(3)で示される反応の進行が抑制され、アミン化合物(−R−NH2)の生成が抑えられる。そのため、反応式(4)において左辺の成分が少なくなって反応の進行が規制される。ウレア結合は、ウレタン結合に比べて水素結合による凝集力が強く、その存在により発泡体が硬くなるが、ウレア結合の生成が規制されることで、発泡体の硬さを下げることができると推測される。
【0032】
前記ポリオール類とポリイソシアネート類とのウレタン化反応を行なう場合には、ワンショット法又はプレポリマー法が採用される。ワンショット法は、ポリオール類とポリイソシアネート類とを直接反応させる方法である。プレポリマー法は、ポリオール類とポリイソシアネート類との各一部を事前に反応させて末端にイソシアネート基又は水酸基を有するプレポリマーを得、それにポリオール類及びポリイソシアネート類を反応させる方法である。ワンショット法はプレポリマー法に比べて製造工程が一工程で済み、製造条件の制約も少ないことから好ましい方法であり、製造コストを低減させることができる。
【0033】
ポリウレタン発泡体としては、スラブポリウレタン発泡体が好ましい。スラブポリウレタン発泡体は上記ワンショット法により混合攪拌されたポリウレタン発泡体原料をベルトコンベア上に吐出し、該ベルトコンベアが移動する間にポリウレタン発泡体原料が常温、大気圧下で自然発泡し、硬化することで得られる。その後、乾燥炉内で硬化(キュア)し、所定形状に裁断される。その他、モールド成形法、現場施工スプレー成形法等によってポリウレタン発泡体を得ることができる。
【0034】
得られるポリウレタン発泡体は、例えばJIS K6400に規定されている密度が20〜25(kg/m3)で、硬さを90〜120(N)の範囲で調整することができるとともに、引張強度を120〜140(kPa)、伸びを140〜150(%)及び圧縮残留歪を3〜4(%)の範囲に維持することができる。
【0035】
さて、ポリウレタン発泡体を製造する場合には、ポリオール類とポリイソシアネート類とを、触媒及び発泡剤としての水の存在下に反応させ、発泡させると共に、硬化させることによって行なわれる。その際、ポリイソシアネート類のイソシアネートインデックスを100〜120にすることにより、ポリオール類に対するポリイソシアネート類の反応性が高められ、ウレタン化反応(重合反応)が十分に進行すると共に、架橋反応も進行し、発泡体に一定の硬さが付与される。この場合、ポリウレタン発泡体原料には炭酸水素塩を水に溶解した水溶液が添加されている。その炭酸水素塩は、ポリウレタン発泡体の生成時における発熱で前述の反応式(1)に基づいて加熱分解され、生成する二酸化炭素により反応式(3)の進行が抑えられる。その結果、反応式(4)に基づくウレア結合の生成が抑制され、ポリウレタンのハードセグメントの形成が抑えられるものと推測される。
【0036】
ところで、ポリウレタン発泡体は、ウレタン結合やウレア結合よりなるハードセグメントと、メチレン基を有するエーテル結合よりなるソフトセグメントとで構成されている。そして、特にウレア結合よりなるハードセグメントの生成及び凝集が阻害され、分子量分布が乱されて発泡体の硬さが抑えられる。さらに、炭酸水素塩の分解で生成する二酸化炭素によって泡化反応や架橋反応が抑制され、発泡体に可塑性が付与され、柔軟化される。これらの作用が相俟って、ポリウレタン発泡体は、軟らかさを発現できる一方、引張強度、伸び及び圧縮残留歪等の物性の変化を抑えることができる。
【0037】
以上の実施形態によって発揮される効果について、以下にまとめて記載する。
・ 本実施形態の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体においては、そのポリウレタン発泡体原料に炭酸水素塩を水に溶解した水溶液が添加される。添加された炭酸水素塩は、ポリウレタン発泡体の生成時における発熱で加熱分解され、生成する二酸化炭素によりウレア結合の生成が抑制され、ソフトセグメントとハードセグメントよりなるポリウレタンのハードセグメントの形成が抑えられると考えられる。従って、炭酸水素塩の配合量や分解条件を設定することにより、同じ密度におけるポリウレタン発泡体の硬さを低く調整することができる。しかも、炭酸水素塩が分解して生成される炭酸ナトリウム(比重2.25)、炭酸カリウム(比重2.43)等の分解生成物はポリエチレンパウダー(比重0.93)等の有機物に比べて比重が大きい。このため、フィラーが充填されることで生じるポリウレタン発泡体の物性の変化に与える影響が小さく、ポリウレタン発泡体の硬さ以外の物性の変化を抑制することができる。
【0038】
・ また、炭酸水素塩が炭酸水素アルカリ金属塩であることにより、炭酸水素アルカリ金属塩は分解開始温度が低く、ポリウレタン発泡体の生成に沿って分解され、その機能を発揮することができる。
【0039】
・ さらに、炭酸水素塩の分解開始温度が50〜100℃であることにより、ポリウレタン発泡体の生成時における温度上昇に沿って炭酸水素塩の分解が開始され、その機能を発揮することができる。
【0040】
・ 加えて、炭酸水素塩の配合量がポリオール類100質量部当たり0.005〜0.5質量部であることにより、炭酸水素塩の分解が過剰又は不足することなく適度に進行する。
【0041】
・ そのうえ、炭酸水素塩の分解によって生成する水の蒸発潜熱に基づき、ポリウレタン発泡体の製造時における温度上昇を抑えることもでき、ポリウレタン発泡体のスコーチ(着色)を抑制することもできる。
【0042】
・ このような連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体は、例えば自動車のシート用クッション材、椅子用クッション材等として好適に使用することができる。その場合、ポリウレタン発泡体は、硬さの調整がなされることから、例えば自動車のシート用クッション材で座部を柔らかくし、背もたれ部を硬くするように構成することができ、座り心地の良いものとなる。
【実施例】
【0043】
以下に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜5及び比較例1〜3)
まず、各実施例及び比較例で用いた炭酸水素塩の混合物を以下に示す。
【0044】
混合物1: 炭酸水素ナトリウム(粉体)1質量部をポリエーテルポリオール10質量部に分散させた分散液。
混合物2: 炭酸水素ナトリウム1質量部を水10質量部に溶解させた水溶液。
【0045】
混合物3: 炭酸水素カリウム1質量部を水10質量部に溶解させた水溶液。
混合物4: 炭酸水素カリウム1質量部を水3質量部に溶解させた水溶液。
なお、混合物2、混合物3及び混合物4における炭酸水素塩を溶解するための水は、発泡剤としての水の一部を用いた。
【0046】
そして、表1及び表2に示すポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤、整泡剤及び触媒よりなるポリウレタン発泡体原料に、前記炭酸水素塩の混合物を添加して原料を調製した。ここで、比較例1及び比較例2では炭酸水素塩等の添加物を何も加えない例、及び比較例3では炭酸水素ナトリウムをポリエーテルポリオール(GP3000)に分散させた混合物1を用いた例を示した。
【0047】
これらの原料を縦、横及び深さが各500mmの発泡容器内に注入し、常温、大気圧下で発泡させた後、加熱炉に一時保管して加熱、反応(硬化)させることにより軟質スラブ発泡体を得た。得られた軟質スラブ発泡体を切り出すことによってシート状のポリウレタン発泡体を製造した。このポリウレタン発泡体について、密度、硬さ、引張強度、伸び及び圧縮残留歪を以下の測定方法に従って測定した。それらの結果を表1及び表2に示した。表1及び表2における略号の意味を以下に示す。
(測定方法)
密度(kg/m3)、硬さ(N)、引張強度(kPa)、伸び(%)及び圧縮残留歪(%): JIS K6400に準じて行った。
(表1及び表2における略号)
ポリオールGP3000: ポリエーテルポリオール、三洋化成工業(株)製、水酸基価56(mgKOH/g)
アミン触媒LV33: 中京油脂(株)製のアミン系触媒
シリコーン整泡剤 B8110: ゴールドシュミット社製
オクチル酸第1スズ MRH110: 城北化学工業(株)製
ポリイソシアネート T−80: 日本ポリウレタン工業(株)製、トリレンジイソシアネート(2,4-トリレンジイソシアネート80質量%と2,6-トリレンジイソシアネート20質量%との混合物)
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

表1に示したように、炭酸水素塩として炭酸水素ナトリウムを用いた実施例3、炭酸水素カリウムを用いた実施例4及び実施例5では、密度を24(kg/m3)前後に維持した状態で、比較例1に比べてポリウレタン発泡体の硬さのみを128Nから113〜119Nに低下させることができた。実施例2及び実施例1では、炭酸水素ナトリウムの配合量を増加させることにより、ポリウレタン発泡体の硬さを109N、さらに96Nにまで低下させることができた。
【0050】
このように、実施例1〜5においては、得られた軟質ポリウレタン発泡体の密度を23.9〜24.1の範囲に維持しつつ、硬さを96〜119Nの範囲で調整することができた。また、軟質ポリウレタン発泡体の引張強度が127〜135kPa、伸びが143〜150%及び圧縮残留歪が3.1〜3.9%であった。
【0051】
一般に、自動車のシート用クッション材や椅子用クッション材等に用いられる軟質ポリウレタン発泡体では圧縮残留歪が5%以下とされ、そのような基準を十分に満たすことができた。
【0052】
これに対し、表2に示したように、炭酸水素ナトリウム等の添加物を含まない場合(比較例1)には、硬さが128Nとなって高い値を示し、伸びも高い傾向を示した。比較例2では、比較例1においてイソシアネートインデックスを100に下げた例であるが、密度及び圧縮残留歪が大きくなる反面、硬さ、引張強度及び伸びが小さくなる傾向を示した。炭酸水素ナトリウムをポリエーテルポリオールに分散させた分散液を用いた場合(比較例3)には、比較例1の場合に近い物性を示した。
【0053】
なお、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 炭酸水素塩として複数種類を組合せ、それらの配合量を調整して使用することもできる。例えば、炭酸水素ナトリウムと炭酸水素カリウムとを等量ずつ使用することにより、ポリウレタン発泡体の製造過程で50℃を越えると炭酸水素ナトリウムが分解して二酸化炭素を生成し、100℃を越えると炭酸水素カリウムが分解して二酸化炭素を生成することから、炭酸水素塩の作用を十分に発揮させることができる。
【0054】
・ 炭酸水素塩として、炭酸水素マグネシウムカリウム(KMgH(CO32)、炭酸水素アンモニウム(NH4HCO3)等を用いることもできる。
・ 炭酸水素塩は、必要量を発泡剤としての水に溶解させて使用することもできる。
【0055】
・ ポリウレタン発泡体原料にプロパノール、ブタノール等の水酸基を有する化合物を添加し、ポリイソシアネート化合物のイソシアネートインデックスを調整することにより、発泡体の硬さを変化させるように構成することもできる。
【0056】
・ ポリウレタン発泡体原料に架橋剤として、2官能のポリエーテルジオールと、3官能のポリエーテルトリオール又は4官能基以上のポリオールを配合し、得られるポリウレタン発泡体の架橋度を調整し、硬さを変化させるように構成することもできる。
【0057】
・ ポリウレタン発泡体を、例えば自動車のドアトリム、センターピラーガーニッシュ等の緩衝材、シーリング材等の制振材、マットレス、枕等として使用することもできる。
さらに、前記実施形態より把握できる技術的思想について以下に記載する。
【0058】
・ 前記炭酸水素アルカリ金属塩は、炭酸水素ナトリウム又は炭酸水素カリウムであることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体。この構成によれば、請求項2から請求項4のいずれかに係る発明の効果を有効に発揮させることができる。
【0059】
・ ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を水に溶解した水溶液を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させることを特徴とする連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体の製造方法。この製造方法によれば、硬さ以外の物性の変化を抑制しつつ、硬さを調整することができるポリウレタン発泡体を容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤及び触媒を含有するポリウレタン発泡体原料に対し、炭酸水素塩を水に溶解した水溶液を配合し、前記ポリウレタン発泡体原料を反応させ発泡及び硬化させて得られることを特徴とする連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体。
【請求項2】
前記炭酸水素塩は、炭酸水素アルカリ金属塩であることを特徴とする請求項1に記載の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体。
【請求項3】
前記炭酸水素塩の分解開始温度は50〜100℃であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体。
【請求項4】
前記炭酸水素塩の配合量は、ポリオール類100質量部当たり0.005〜0.5質量部であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の連続気泡構造を有するポリウレタン発泡体。

【公開番号】特開2006−199897(P2006−199897A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16042(P2005−16042)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】