説明

連続溶融めっき装置

【課題】表面性状の良好な溶融Zn−55%Al系めっき鋼板の製造に好適な連続溶融めっき装置を提供する。
【解決手段】溶融めっき浴中のシンクロール周囲にスクレーパーと遮蔽板を設け、スクレーパーによってシンクロール表面からそぎ落とされた異物に起因するドロスを、特定の角度で設置された遮蔽板によって発生させた幅方向の溶融金属流動に乗せて、鋼帯がシンクロールと接触する位置から遠ざけることにより、ドロス噛み込みによる溶融めっき鋼板の表面欠陥を顕著に減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼帯を溶融めっき浴中に連続的に浸漬して引き上げる連続溶融めっき装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からZnめっき鋼板、Zn−Al−Mg系合金めっき鋼板、Zn−Al系合金めっき鋼板、Alめっき鋼板などの製造においては、鋼帯を溶融めっき浴中に連続的に搬送して、シンクロールによって鋼帯の進行方向を引き上げ方向に変え、鉛直に引き上げる連続溶融めっき装置を使用することが主流となっている。このような連続溶融めっき装置では、操業時間の経過とともにシンクロールの表面に異物が付着し、これがめっき鋼板の表面性状を劣化させることがある。特に溶融Zn−Al系合金めっき鋼板(いわゆるガルバリウム鋼板など)の製造に際しては硬質のAl−Si−Fe系金属間化合物を主体とする異物がシンクロール表面に巻き付きやすく、アブレーションと呼ばれる表面欠陥が多発して問題となることが多かった。この種のトラブルを軽減するためにはシンクロールを早期に交換することが有効であるが、それによって生産性は大きく低下する。
【0003】
そこで、シンクロール表面の異物の付着を防止するための手法として、スクレーパーによってシンクロール表面に付着する異物を操業中に機械的に除去する方法が提案されている(特許文献1)。この手法によれば、シンクロール全幅をスクレーパーで常に清浄化することによって異物の巻き付きを抑制することができる。
【0004】
しかしながら、実操業において、シンクロール表面の全幅に機械的外力を加えるための広幅のスクレーパーを使用した場合、安定したロールの清浄化を実現することは必ずしも容易ではない。シンクロールはある程度揺動することから、シンクロール全幅に常に均等な荷重を安定して負荷することは難しく、シンクロールの幅方向で異物の除去効果が不十分となる箇所が生じやすい。また、あまり大きな荷重をかけるとシンクロールの回転に対する抵抗が増大することから、幅広のスクレーパーでは幅方向単位長さあたりに付与される機械的外力を十分に確保することが難しいという欠点もある。
【0005】
そこで、幅方向長さの短いスクレーパーを適用して、スクレーパーとロール表面との接触力ができるだけ均等となるように調整しならが操業する手法が有望であると考えられた。この場合、スクレーパーをシンクロールの幅方向に定期的または連続的に移動させながら、部分的にシンクロール表面を清浄化する作業を全幅にわたって繰り返す。これにより、広幅のスクレーパーを使用するときよりも幅方向単位長さあたりに大きな機械的外力を付与することができるので異物をそぎ落とす性能が向上し、かつスクレーパーの幅方向における機械的外力の不均一さが減少するので、異物をそぎ落とす性能をシンクロール全幅にわたって均等に発揮させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−218057号公報
【特許文献2】特許第3993715号公報
【特許文献3】特許第4042912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように幅方向長さの短いスクレーパーを用いて、部分的にシンクロール表面を清浄化する作業を全幅にわたって繰り返す手法は、ロールの幅方向で均等な異物除去を実施できる点では極めて有利である。ところが、操業中にスクレーパーと接触していないロール表面において異物が少しずつ巻き付いていくので、スクレーパーを幅方向に移動させて新たな箇所を清浄化する際には、既に異物がある程度巻き付いている分だけ、そぎ落とされる異物の量が増大する傾向にある。そぎ落とされた異物はドロスとなってシンクロール周囲の溶融金属の流動に乗り、鋼帯とシンクロールの間に噛み込まれることがある。そぎ落とされた異物に起因するドロスは比較的粗大な粒子で構成される場合が多いので、当該ドロスの噛み込みは溶融めっき鋼板の表面に大きな欠陥を形成する要因となり、しばしば問題となる。
【0008】
一方、めっき浴中のドロスを除去する装置およびそれを用いたドロス除去方法も既に開発されている(特許文献2、3)。その技術は実操業において活用され、一定の効果が得られている。しかし、そのようなドロス除去技術を併用したとしても、短いスクレーパーでそぎ落とされた異物に起因するトラブルを抜本的に解決するには至っていないのが現状である。
【0009】
本発明は、シンクロール表面に付着した異物をスクレーパーでそぎ落とす連続溶融めっき鋼板の製造において、そぎ落とされた異物に起因するドロスが鋼帯とシンクロールの間に巻き込まれることを顕著に抑制するための実用的な技術を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、溶融めっき浴中に、連続的に搬送されてくる鋼帯の進行方向を引き上げ方向に変えるシンクロールが設置されている溶融めっき装置において、シンクロールから鋼帯が離脱する位置(鋼帯離脱位置)と、シンクロールに鋼帯が接触し始める位置(鋼帯接触開始位置)との間のシンクロール外周部に、シンクロール表面に付着する異物を機械的に除去するスクレーパーを備え、かつそのスクレーパー設置位置と鋼帯接触開始位置の間にシンクロール周囲の溶融金属の流動方向を変えるための遮蔽板を下記(a)〜(c)の設置条件を満たすように備えた、連続溶融めっき装置によって達成される。
〔遮蔽板設置条件〕
(a)シンクロールの全幅にわたってシンクロール表面と遮蔽板下端の隙間dが8mm以下であること。
(b)シンクロールの全幅にわたってシンクロールの回転軸から遮蔽板上端までの距離RTOPがシンクロール半径Rの1.5倍以上であること(ただし遮蔽板上端が浴面上に出る部分がある場合にはその部分にこの制限を適用しない)。
(c)シンクロールの回転軸と平行な方向を「幅方向」と呼び、シンクロールの幅方向中心を通り回転軸に垂直な平面を「幅中心面」と呼び、幅中心面からの幅方向距離がシンクロール幅WRの5%以上である領域を「幅中央部除外領域」と呼び、水平面内において幅中心面と当該水平面の交線を「幅中心線」と呼び、遮蔽板のスクレーパー側の表面を「前表面」と呼ぶとき、遮蔽板を切る水平断面のうち、幅中央部除外領域で遮蔽板の前表面を切るすべての水平断面(浴面下の水平断面に限る)において、遮蔽板の前表面の法線が幅中央部除外領域で幅中心線から遠ざかる方向を向いており、かつ幅中央部除外領域の全体にわたって前記法線と幅中心線とのなす角度が5〜45°であること。
【0011】
この装置は、例えば、質量%で、Al:50〜60%、Si:0.1〜3%、残部Znおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al系合金めっき浴に適用すると特に効果的である。
また、質量%で、Al:2〜20%、Mg:0.5〜5%、Si:0〜3%、Ti:0〜0.1%、B:0〜0.05%、残部Znおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al−Mg系合金めっき浴に適用した場合にも、めっき条件によっては大きな表面性状の改善効果が得られる。
【0012】
前記スクレーパーは、シンクロール表面と接触する部分の幅方向長さWSがシンクロール幅WRの0.1〜0.5倍であり、幅方向に移動可能な機構を介してめっき浴外部の部材に取り付けられていることが特に好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従えば、Znめっき鋼板、Zn−Al−Mg系合金めっき鋼板、Zn−Al系合金めっき鋼板、Alめっき鋼板などの製造に一般的に使用されている連続溶融めっき装置において、めっき浴中のシンクロール表面の清浄化と、それに伴って発生しやすかったドロス噛み込みの抑制とを、簡便な手法にて同時に実現することが可能となった。これにより、特に従来、シンクロール表面への異物巻き付きが生じやすかった溶融Zn−Al系合金めっき鋼板の製造においては、表面品質の大幅な改善およびシンクロール取り替え時期延長による生産性の向上がもたらされる。また、ドロス巻き込みがそれほど問題とならなかっためっき種(Znめっきや、Alめっきなど)においても、より一層の表面品質向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に従う溶融めっき装置における溶融めっき浴中のシンクロール回転軸に垂直な断面を模式的に例示した図。
【図2】本発明に従う溶融めっき装置における溶融めっき浴中の遮蔽板を切る水平断面を模式的に例示した図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に、本発明に従う溶融めっき装置における溶融めっき浴中のシンクロール回転軸に垂直な断面を模式的に例示する。断面の後ろに見えている部分は記載を省略してある。溶融めっき浴1の中にシンクロール2がある。鋼帯3が、矢印の方向に連続的に搬送され、溶融めっき浴1中でシンクロール2の表面に沿って進行方向が変えられ、鉛直方向に引き上げられていく。鋼帯3がシンクロール2の表面と接触を開始する位置(符号12)を「鋼帯接触開始位置」と呼び、鋼帯3がシンクロール2の表面から離れる位置(符号11)を「鋼帯離脱位置」と呼ぶ。シンクロール2の表面部材としてはステンレス鋼(例えばSUS316)などが採用される。なお、シンクロール2の回転軸10に平行な方向を本明細書では「幅方向」と呼んでいる。
【0016】
シンクロール2の外周部の鋼帯離脱位置11と鋼帯接触開始位置12の間に、シンクロール2の表面に付着する異物を機械的に除去するスクレーパー4が設けられている。スクレーパー4の先端は耐熱・耐摩耗性の特殊合金(例えばステライト(登録商標))などで構成される。スクレーパー4は支持部材41に取り付けられているが、ばね機構などを利用してスクレーパー4がシンクロール2の揺動に追従できるようになっていることが望ましい。
【0017】
スクレーパー4はシンクロール2の全幅WRをカバーする広幅のものを採用しても構わないが、幅方向の長さがWRよりもかなり短いものを適用することによって、スクレーパー接触部42での単位長さあたりの接触力をより増大させることができるとともに、幅方向における接触力の変動をより均一化させることができる。幅方向長さがWRよりも短いスクレーパー4は、幅方向に移動可能な機構を介してめっき浴外部の部材に取り付けられる。操業中、幅方向の位置を固定した状態で一定期間その部分のロール表面を清浄化した後、幅方向にシフトさせ、同様に一定期間その部分のロール表面を清浄化する。この動作をロール全幅にわたって繰り返すことにより、ロール表面全体の清浄状態が維持される。ただし、スクレーパー4を当てていないシンクロール2の表面部分には操業中に少しずつ異物が付着していく。したがって、めっき鋼板の表面品質に悪影響が生じるようになる前にロール表面全体を一巡するように、スクレーパー4のシフト時期を管理することが重要である。なお、スクレーパー4を幅方向に往復運動させながら操業できるように、幅方向への駆動装置を設けてもよい。
【0018】
種々検討の結果、スクレーパー4の幅方向長さWSは、シンクロール幅WRとの関係において、WS≦0.5WRとなる長さに制限することがより効果的である。WS≦0.4WRとしてもよい。ただし、あまり短いと幅方向へのシフト回数が増え生産性の低下に繋がるので、WS≧0.1WRとすることが望ましい。
【0019】
本発明に従う溶融めっき装置では、スクレーパー4に加え、さらにスクレーパー4の設置位置と鋼帯接触開始位置12の間に溶融金属の流動方向を変えるための遮蔽板5が設けられている。遮蔽板5の設置条件としては、まず以下の点を満たす必要がある。
(a)シンクロール2の全幅にわたってシンクロール2も表面と遮蔽板5の下端の隙間dが8mm以下であること。
【0020】
発明者らの多くの実験によれば、この隙間dが8mmを超えると、シンクロール2の回転に随伴してその隙間を通過する溶融金属の流動が増大し、スクレーパー4によってロール表面からそぎ落とされた異物に起因するドロスが溶融金属の流れに乗ってその隙間を通過しやすくなる。その隙間を通過したドロスは鋼帯接触開始位置12において鋼帯3とシンクロール2の間に噛み込まれ、めっき鋼板の表面欠陥を形成する。したがって、隙間dは8mm以下に調整されている必要があり、5mm以下とすることがより好ましい。
【0021】
隙間dは小さいほどドロス噛み込み防止には望ましいが、あまり接近しすぎると、操業中に回転軸機構の損耗によってシンクロール2が徐々に上昇してきた際、遮蔽板5の下端とシンクロール2の表面が接触する恐れがある。一方、スクレーパー4との機械的接触によってシンクロール2の表面は摩耗する。摩耗速度の大きい操業条件では隙間dが徐々に拡がっていくこともある。したがって、これらの条件を考慮して、隙間dが8mm以下、好ましくは5mm以下に維持されるように管理する必要がある。例えば、隙間dが徐々に狭くなっていく操業条件では、初期状態で隙間dを最も大きい部分で8mmに設定しておき、操業を開始して、遮蔽板5の下端がシンクロール2と接触する前(例えばdが最小部分で1mmとなる時期)に隙間dを初期状態と同様に再調整する、といった隙間管理手法が適用できる。
なお、遮蔽板5は、隙間dを精度良くコントロールするために、シンクロール2を収容しているフレームに直接取り付けることが望ましい。
【0022】
ここで、図1は回転軸10に垂直な一断面を例示したものであるが、「シンクロール2の全幅にわたって」とは、このような垂直断面のうちシンクロール2の表面を切るすべての断面について上記所定の条件を満たす必要があることを意味する(後述(b)において同じ)。
【0023】
遮蔽板5の設置条件として、さらに以下の点を満たす必要がある。
(b)シンクロール2の全幅にわたってシンクロール2の回転軸10から遮蔽板5の上端までの距離RTOPがシンクロール半径Rの1.5倍以上であること(ただし遮蔽板5の上端が浴面上に出る部分がある場合にはその部分にこの制限を適用しない)。
【0024】
本発明で適用する遮蔽板5は、後述するように溶融めっき浴1中で溶融金属の幅方向への流動を形成するという重要な役割を担うものである。そのためには、シンクロール2の全幅にわたって遮蔽板5の上端が十分に高い位置にあることが必要である。遮蔽板5の上端位置が低すぎると、シンクロール2の回転に伴って流動するシンクロール2の外周部付近の溶融金属が遮蔽板5を乗り越えて鋼帯接触開始位置12の側に流れ込みやすくなるため、幅方向への流動を優勢にすることが難しくなり、ドロス噛み込みの問題は十分に改善されない。
【0025】
発明者らの詳細な検討によれば、シンクロール2の回転軸10から遮蔽板5の上端までの距離RTOPを、シンクロール2の全幅にわたってシンクロール半径Rの1.5倍以上とすることによって、幅方向への流動を優勢にすることができる。1.8倍以上とすることがより効果的である。シンクロール2の表面から遠くなるに従ってシンクロール2の回転に伴って生じる溶融金属の流動は小さくなるので、遮蔽板5の上端位置を過剰に高くする必要はない。上端位置の上限に制限はないが、設置スペースを考慮すると、通常は幅方向で最も低くなる位置においてシンクロール半径Rの2.5倍以下の範囲にRTOPを設定すればよい。
【0026】
図2に、本発明に従う溶融めっき装置における溶融めっき浴中の遮蔽板5を切る水平断面(鉛直上方から見たもの)を模式的に例示する。図中には便宜上シンクロール2の投影形状を示した。この断面の背後に見える遮蔽板5の部分については複雑化を避けるために記載を省略してある。またシンクロール2の表面におけるスクレーパー2の接触部の投影位置も例示した(符号42)。このスクレーパー接触部42は幅方向(回転軸投影線13に平行な方向)にロール幅WRの全幅にわたって移動可能となっている。
【0027】
ここで、シンクロール2の幅方向中心を通り回転軸に垂直な平面を「幅中心面」と呼ぶ。幅中心面と、この水平断面との交線を「幅中心線」と呼ぶ(符号14)。幅中心面からの幅方向距離がシンクロール幅WRの5%未満である領域を「幅中央部領域」と呼ぶ(符号7)。幅中心面からの幅方向距離がシンクロール幅WRの5%以上である領域、すなわち幅中央部領域7を除く領域を「幅中央部除外領域」と呼ぶ(符号8A,8B)。遮蔽板5のスクレーパー側(鋼帯離脱位置11側)の表面を「前表面」と呼ぶ(符号51)。
【0028】
遮蔽板5の設置条件として、上記(a)(b)に加え、さらに以下の点を満たすことが重要である。
(c)遮蔽板5を切る水平断面のうち、幅中央部除外領域8A,8Bで遮蔽板5の前表面51を切るすべての水平断面(浴面下の水平断面に限る)において、遮蔽板5の前表面51の法線52A,52Bが幅中央部除外領域8A,8Bで幅中心線14から遠ざかる方向を向いており、かつ幅中央部除外領域8A,8Bの全体にわたって前記法線52A,52Bと幅中心線14とのなす角度θA,θBが5〜45°であること。
【0029】
本発明において、遮蔽板5はシンクロール2の外周部で生じる溶融金属の流動を幅方向両側へと導くという重要な機能を果たすものである。溶融めっき浴1内で幅方向の流動が形成されると、遮蔽板5を乗り越える流動が顕著に抑制され、ドロスの噛み込みが大幅に減少することがわかった。この流動作用を利用すると、幅方向長さWSがロール幅WRよりもかなり短いスクレーパー4を使用した際に生じやすい粗大粒子を含むドロスの噛み込みを効果的に抑制することができ、短いスクレーパー4を使用することによって得られるシンクロール2の表面の均一な清浄化効果と相俟って、一層優れた表面品質を有するめっき鋼板を製造することが可能となる。
【0030】
遮蔽板5は幅方向中央付近で前表面51の法線方向が両サイドに振り分けられるように設置される。遮蔽板5の配置が両サイドで対称となっていることが溶融めっき浴1内の溶融金属の流動状態を鋼帯の両側で均等化する上で有利となるが、多少は非対称であっても、完全対称の場合と同様の効果が得られることがわかった。種々検討の結果、前表面51ののなかで鋼帯離脱位置11に最も近い点(符号53;「折り返し点」という)が、前記の幅中央部領域7(幅方向距離がシンクロール幅WRの5%未満の領域)にあれば、折り返し点53が幅中心線14上にある場合と効果に大差はない。すなわち、幅中央部領域7においては前表面51の法線が幅方向どちら側を向いていても構わないし、この領域には正面(鋼帯離脱位置11の方向)を向いている前表面51の部分が存在しても差し支えない。なお、遮蔽板5の形状自体も、折り返し点53を境に必ずしも完全対称となっている必要はなく、使用するめっき浴ポットの内面形状等に応じて本発明に従う条件を満たす範囲で調整することができる。
【0031】
一方、幅中央部除外領域8A,8Bにおける前表面51の向きは重要となる。この領域では両サイドそれぞれにおいて、前表面51の法線52A,52Bがいずれも幅中心線14から遠ざかる方向を向いている必要がある。それによって、遮蔽板5の方向に進んできた溶融金属を幅方向へ逃がすための流れを形成することが可能となる。パイロットラインを用いた多くの実験の結果、幅中央部除外領域8A,8Bの全体にわたって法線52A,52Bと幅中心線14とのなす角度θA,θBを5°以上とすることによって、幅方向への流動を優勢にすることができる。前表面51の水平断面形状は直線形状であっても湾曲形状であってもよいが、湾曲形状とする場合は幅中央部除外領域8A,8Bのどの部分においてもθA,θBが5°以上となるようにする。θA,θBの上限は設置スペースによって制限を受けるが、45°以下の範囲で設定すればよい。30°以下としてもよい。前表面51の水平断面形状を直線形状とする場合は、既存の多くの溶融めっき装置への適用を考慮すると、θA,θBを5〜15°とすることが望ましい。
【0032】
図2はある高さ位置での水平断面を例示したものであるが、高さ位置によって、遮蔽板5を切る水平断面には、遮蔽板5の前表面51が幅中央部除外領域8A,8B内に現れる場合と現れない場合が生じうる。前表面51が幅中央部除外領域8A,8B内に現れない高さ位置の水平断面については、前表面51の法線の向きに関する制限はない。幅中央部除外領域8A,8B内の一部に前表面51が現れる高さ位置の水平断面については、当該断面内に現れている前表面51の部分について上記の法線の向きに関する規定を適用する。なお、遮蔽板5の下端部の形状は、前述の隙間dの規定を満たすことができるように、シンクロール半径Rに応じて所定の湾曲形状となるように設定される。
【0033】
以上の構成を有する溶融めっき装置は、種々の溶融めっきに適用可能であるが、特に、質量%で、Al:50〜60%、Si:0.1〜3%、残部Znおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al系合金めっき浴に適用した場合に非常に大きなメリットが得られる。
また、質量%で、Al:2〜20%、Mg:0.5〜5%、Si:0〜3%、Ti:0〜0.1%、B:0〜0.05%、残部Znおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al−Mg系合金めっき浴に適用した場合にも、良好な表面性状を実現するための溶融めっき条件の自由度が大幅に向上することがパイロットラインを用いた実験によって確認されている。
【0034】
本発明は種々の規模の溶融めっき装置に適用可能である。例えばシンクロール幅WRは200〜2000mmの広範囲において設定可能である。大量生産現場ではWRが1000〜1750mm程度のものが多い。シンクロール半径Rは、幅WRに応じて例えば30〜500mmの範囲で設定される。
【実施例】
【0035】
〔従来例〕
従来一般的な連続溶融めっきラインにおいて、スクレーパーによりシンクロール表面を清浄化しながら、下記の条件にて溶融Zn−Al系合金めっき鋼板を製造した。
・めっき浴組成; 質量%で、Al:55%、Si:1.5%、残部Znおよび不可避的不純物。
・シンクロール; 半径R:350mm、表面の幅WR:1500mm、表面材質:SUS316。
・スクレーパー; 幅方向長さWS:500mm、先端材質:ステライト(登録商標)、定期的に幅方向に位置をシフトさせ、シンクロール全表面を繰り返し清浄化した。
・遮蔽板; 設置せず。
・めっき浴温; 600℃±10℃
・めっき原板; 板厚:0.20〜2.30mm、板幅:610〜1320mmの普通鋼冷延焼鈍鋼板の鋼帯。
・ライン速度; 58〜185m/minの範囲。
【0036】
上記条件にて14日間連続操業を行い、得られた溶融めっき鋼板の表面性状を通常の品質管理における検査手法にてインラインで調査した。その際、一定の基準により、ドロス噛み込みが要因となって「肌厳規格材」として出荷できない格落ちコイルの発生数をカウントし、その数を全通板コイル数で除することにより不良率を算出した。なお、この格落ちコイルの中には、肌を重視しない一般規格材として使用可能なものが多数含まれる。
この従来例では多くの格落ちコイルが発生した。その発生率をK0(%)とし、これを後述の各例における効果を評価するための基準とする。
【0037】
〔本発明例〕
スクレーパー設置位置と鋼帯接触開始位置(図1の符号12)の間に以下の条件に従って遮蔽板を設置したことを除き、上記従来例と同様の溶融めっき条件にて溶融Zn−Al系合金めっき鋼板を製造した。
・遮蔽板; SUS316の平板2枚を溶接することにより、折り返し点53(図2)を境に形状が対称である遮蔽板(全幅は約1700mm)を作製した。上記2枚の平板の下端はシンクロールの表面に沿うようにそれぞれ円弧状に成形されている。この遮蔽板を、シンクロールを収容するフレームに取り付け、図1、図2に示すような構成の溶融めっき装置を構築した。シンクロール表面と遮蔽板下端の隙間dは8mm(初期状態)とした。シンクロールの回転軸から遮蔽板上端までの距離RTOPは、シンクロール全幅のうち最も低い位置で680mm(初期状態)とした。この場合、RTOPはシンクロール半径R(350mm)の1.94倍(初期状態)となる。遮蔽板の設置位置は、幅中心面に対して両サイドで対称となるようにした。すなわち、図2における折り返し点53が幅中心線14上にある。遮蔽板の前表面51の法線52A,52Bは幅中心線14から遠ざかる方向を向いており、法線52A,52Bと幅中心線14とのなす角度θA,θBはいずれも10°である。
【0038】
上記従来例と同様に14日間連続操業を行い、得られた溶融めっき鋼板の表面性状を上記従来例と同様の基準で評価し、格落ちコイル発生率K1(%)を求めた。その結果、上記従来例との対比において、K1/K0=0.21であり、大幅な品質改善効果が認められた。
【0039】
なお、スクレーパーの機械的接触によるシンクロール表面の摩耗は隙間dを拡げる方向に寄与し、回転軸機構の損耗によるシンクロールの上昇は隙間dを狭める方向に寄与する。この例の場合、上記両方の寄与による相殺分を考慮すると、隙間dはわずかに減少していく傾向にあるこがわかっている。したがって、この例では操業中、隙間dは8mm以下に維持されていたことになる。
【0040】
〔比較例〕
遮蔽板として、1枚の平板からなるものを採用し、上記の法線52A,52Bと幅中心線14とのなす角度θA,θBがいずれも0°となる条件としたことを除き、上記本発明例と同様の溶融めっき条件にて溶融Zn−Al系合金めっき鋼板を製造した。
ここでは、シンクロール全幅にわたってシンクロールの回転軸から遮蔽板上端までの距離RTOPは700mm(初期状態)となるようにした。この場合、RTOPはシンクロール半径R(350mm)の2倍(初期状態)となる。シンクロール表面と遮蔽板下端の隙間dは、上記本発明例と同様に8mm(初期状態)とした。
【0041】
上記従来例、本発明例と同様に14日間連続操業を行い、得られた溶融めっき鋼板の表面性状を上記従来例と同様の基準で評価し、格落ちコイル発生率K2(%)を求めた。その結果、上記従来例との対比において、K2/K0=0.82であり、多少の改善は認められたものの、上記本発明例と比べると改善効果は劣った。その理由として、遮蔽板を1枚の平板としたことにより溶融金属の幅方向への流動を優勢にすることができず、遮蔽板の上端を乗り越える流れによってスクレーパーでそぎ落とされた異物に起因するドロスが鋼板接触開始位置に運ばれ、噛み込みが多発したものと考えられる。
【符号の説明】
【0042】
1 溶融めっき浴
2 シンクロール
3 鋼帯
4 スクレーパー
5 遮蔽板
7 幅中央部領域
8A,8B 幅中央部除外領域
10 回転軸
11 鋼帯離脱位置
12 鋼帯接触開始位置
13 回転軸投影線
14 幅中心線
41 支持部材
42 スクレーパー接触部
51 前表面
52A,52B 前表面の法線
53 折り返し点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融めっき浴中に、連続的に搬送されてくる鋼帯の進行方向を引き上げ方向に変えるシンクロールが設置されている溶融めっき装置において、シンクロールから鋼帯が離脱する位置(鋼帯離脱位置)と、シンクロールに鋼帯が接触し始める位置(鋼帯接触開始位置)との間のシンクロール外周部に、シンクロール表面に付着する異物を機械的に除去するスクレーパーを備え、かつそのスクレーパー設置位置と鋼帯接触開始位置の間にシンクロール周囲の溶融金属の流動方向を変えるための遮蔽板を下記(a)〜(c)の設置条件を満たすように備えた、連続溶融めっき装置。
〔遮蔽板設置条件〕
(a)シンクロールの全幅にわたってシンクロール表面と遮蔽板下端の隙間dが8mm以下であること。
(b)シンクロールの全幅にわたってシンクロールの回転軸から遮蔽板上端までの距離RTOPがシンクロール半径Rの1.5倍以上であること(ただし遮蔽板上端が浴面上に出る部分がある場合にはその部分にこの制限を適用しない)。
(c)シンクロールの回転軸と平行な方向を「幅方向」と呼び、シンクロールの幅方向中心を通り回転軸に垂直な平面を「幅中心面」と呼び、幅中心面からの幅方向距離がシンクロール幅WRの5%以上である領域を「幅中央部除外領域」と呼び、水平面内において幅中心面と当該水平面の交線を「幅中心線」と呼び、遮蔽板のスクレーパー側の表面を「前表面」と呼ぶとき、遮蔽板を切る水平断面のうち、幅中央部除外領域で遮蔽板の前表面を切るすべての水平断面(浴面下の水平断面に限る)において、遮蔽板の前表面の法線が幅中央部除外領域で幅中心線から遠ざかる方向を向いており、かつ幅中央部除外領域の全体にわたって前記法線と幅中心線とのなす角度が5〜45°であること。
【請求項2】
溶融めっき浴が、質量%で、Al:50〜60%、Si:0.1〜3%、残部Znおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al系合金めっき浴である請求項1に記載の連続溶融めっき装置。
【請求項3】
溶融めっき浴が、質量%で、Al:2〜20%、Mg:0.5〜5%、Si:0〜3%、Ti:0〜0.1%、B:0〜0.05%、残部Znおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al−Mg系合金めっき浴である請求項1に記載の連続溶融めっき装置。
【請求項4】
前記スクレーパーは、シンクロール表面と接触する部分の幅方向長さWSがシンクロール幅WRの0.1〜0.5倍であり、幅方向に移動可能な機構を介してめっき浴外部の部材に取り付けられている請求項1〜3のいずれかに記載の連続溶融めっき装置。

【図1】
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【図2】
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