説明

連続鋳造におけるスラグ流出検出方法

【課題】シール管を用いた高級鋼の連続鋳造を行っている場合にも、注入末期のスラグ流出を迅速かつ確実に検出することができる連続鋳造におけるスラグ流出検出方法を提供する。
【解決手段】鍋2とタンディッシュ1間に設置されるシール管6の上部側壁に測定用孔10を設け、遠隔位置に設置した放射エネルギー測定装置11で測定用孔10を介して注入流7の放射エネルギーを測定する。スラグが流出し始めると放射エネルギーレベルが上昇するので、その変化に基づいてスラグ流出を検出する。シール管6の内部に不活性ガスを吹込み、空気と溶湯との接触を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入末期に、スラグが鍋から流出し始めたことを迅速かつ正確に検出することができる連続鋳造におけるスラグ流出検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造は鍋から溶鋼をタンディッシュへ注入しながら行われるが、その注入末期においては鍋内の溶鋼表面に浮上しているスラグがタンディッシュに向かって流出し、鋳片の品位を低下させる。このため注入末期にはスラグが鍋から流出し始めたことを迅速に検出し、鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入を停止する必要がある。
【0003】
また鍋から注入される溶鋼に空気が巻き込まれると、空気中の酸素量や窒素量が上昇(ピックアップ)して鋳片の品位を低下させる。このため酸素や窒素のピックアップを嫌う高級鋼を製造する場合には、鍋とタンディッシュとの間にシール管を設置して溶鋼を注入している。この場合にはシール管が邪魔になって注入流を外部から観察することができず、スラグ流出を検出することができない。
【0004】
このため、シール管を用いた連続鋳造においてスラグ流出を検出するには、注入末期に鍋をシール管の上端から少し上昇させ、その隙間から注入流を目視観察する方法が取られていた。しかし、目視観察ではスラグ流出の発見が遅れ、溶鋼汚染源であるスラグが大量に流出して製品品質を低下させ易いという問題があった。また観察する作業者によるバラツキも大きく、検知遅れの場合には鋳片の品位を低下させ、逆に早期の誤検知の場合には溶鋼歩留まりを悪化させることとなっていた。更にシール管の隙間から溶鋼流に巻き込まれる空気も溶鋼汚染源となるので、鋳片品位の低下を避けることができなかった。
【0005】
そこで特許文献1に示されるように、シール管の側壁に測定装置を取り付け、注入流の放射エネルギーの大きさと分布からスラグ流出を検出する方法が開発されている。この方法によれば、スラグ流出の検出遅れや作業者による検出のバラツキをなくすることができる。しかしこの方法は測定装置に熱負荷がかかるうえに、シール管の交換の都度、測定装置を取付け直さねばならない。シール管の交換は頻繁に行われるため、その度に測定装置を取付け直すことは非現実的である。さらに、溶鋼がシール管の内面に付着し凝固することにより測定装置の視野を防ぐことがあり、信頼性に欠けるという問題もある。
【0006】
また特許文献2には、転炉から鍋に出鋼される溶鋼流を離れた位置に設置した撮像装置により撮影し、スラグを検出する方法が開示されているが、シール管を用いていないので空気巻き込みの問題があり、高級鋼の製造に適用できる方法ではなかった。
【特許文献1】特開平2−251362号公報
【特許文献2】特開2003−183720号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した従来の問題点を解決し、シール管を用いた高級鋼の連続鋳造を行っている場合にも、注入末期のスラグ流出を迅速かつ確実に検出することができる連続鋳造におけるスラグ流出検出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するためになされた本発明は、鍋とタンディッシュ間に設置されるシール管の側壁に測定用孔を設け、遠隔位置に設置した放射エネルギー測定装置により上記測定用孔を介して注入流の放射エネルギーを測定し、その変化に基づいてスラグ流出を検出することを特徴とするものである。
【0009】
なお、シール管の内部に不活性ガスを吹き込み、溶湯汚染の原因となる空気のシール管内への侵入を防止しつつ、注入流の放射エネルギーを測定することが好ましく、注入流の特定範囲内の平均放射エネルギーまたは最高放射エネルギーを測定し、閾値を越えたときにスラグ流出と判定することが好ましい。また、測定用孔はシール管の上部の側壁に設けることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、シール管の側壁に設けた測定用孔を介して、遠隔位置に設置した放射エネルギー測定装置により注入流の放射エネルギーを直接測定するため、測定装置が熱負荷を受けることがないうえ、シール管のみの交換が可能であるため、作業者の負担増加がない。また測定用孔のサイズを適切に設定することにより、測定装置の視野を確保することができるので、放射エネルギーの変化に基づいてスラグ流出を迅速かつ確実に検出することができる。なお、シール管をガラス製とすることは、注入流による曇りの恐れがあるうえ、熱負荷の問題もあるので好ましくない。
【0011】
請求項2の発明によれば、シール管の内部に不活性ガスを吹き込み、溶湯汚染の原因となる空気のシール管内への侵入を防止できるので、測定用孔を設けても空気巻き込みによる鋳片品位の低下がない。
【0012】
請求項3の発明によれば、注入流の特定範囲内の平均放射エネルギーまたは最高放射エネルギーを測定し、閾値を越えたときにスラグ流出と判定するので、自動的な判断が可能となり、作業者の負担を軽減することができる。
【0013】
請求項4の発明によれば、シール管の上部の側壁に測定用孔を設けたので、シール管内面への溶湯の付着の影響を受けにくく、測定装置の視野を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
図1において、1は連続鋳造用のタンディッシュ、2はこのタンディッシュ1に溶鋼3を運搬する鍋であり、溶鋼の上面にはスラグ4が浮上している。鍋2の底部にはスライディングノズル5が設けられており、溶鋼はスライディングノズル5によって流量制御されながらタンディッシュ1に注入される。
【0015】
酸素や窒素のピックアップを嫌う高級鋼の場合には、鍋2とタンディッシュ1との間にシール管6を設置し、注入流7への空気巻き込みを防止している。シール管6は、外周に設けた突起8をタンディッシュ1の蓋9に載せることによって保持されている。このシール管6の内部には不活性ガスが吹き込まれており、内部の空気をパージして注入流7と空気との接触を防止している。
【0016】
図2に示すように、シール管6の上部の側壁を切り欠いて測定用孔10が形成されている。測定用孔10を形成する位置はタンディッシュ1の蓋9よりも上方であればどこでもよいが、図1に示すように溶鋼が飛散してシール管6の下部内面に付着するため、できるだけ上方位置とすることが好ましく、この実施形態では上端面からシール管6の一部を切り欠いて測定用孔10を形成している。そのサイズは外部から注入流7を観察するに十分な大きさとするものとし、空気混入を防止できるサイズ、例えば幅が70〜150mm、高さが50〜75mm程度とすることが好ましい。
【0017】
図1に示すように、シール管6から十分離れた位置に放射エネルギー測定装置11を設置し、測定用孔10を介して注入流7を観察し、その表面からの放射エネルギーを測定する。市販の放射エネルギー測定装置11を用いた場合、10メートル程度の遠隔位置から観察可能であり、放射エネルギー測定装置11が熱負荷を受けることは回避することができる。
【0018】
図3に示すように、溶鋼の表面からの放射エネルギーに比較してスラグからの放射エネルギーは大きく、注入流7中にスラグが混入すると放射エネルギーレベルが急速に上昇する。このため、測定用孔10から見える注入流7の特定範囲内の平均放射エネルギーまたは最高放射エネルギーを測定し、閾値を越えたときにスラグ流出と自動判定させることにより、スラグ流出を迅速かつ正確に検出することが可能である。
【0019】
検出結果は警報等によって作業者に伝達することができる。またスラグ流出を検出すると同時にスライディングノズル5を閉じ、タンディッシュ1へのスラグ流入を自動的に停止することもできる。
【実施例】
【0020】
本発明の効果を確認するため、(1)従来法として説明した鍋をシール管6の上端面よりも吊り上げてその間隙からスラグ流出を目視観察し、スライディングノズル5の操作も手動で行う方法、(2)測定用孔10を形成したシール管6を用いるが、観察は目視で行いスライディングノズル5の操作も手動で行う方法、(3)測定用孔10を形成したシール管6を用い、観察は放射エネルギー測定装置11で行うがスライディングノズル5の操作は手動で行う方法、(4)測定用孔10を形成したシール管6を用い、観察を放射エネルギー測定装置11で行いスライディングノズル5の操作は自動で行う方法の4つの場合について、タンディッシュ内のスラグ厚みと、タンディッシュ内溶鋼中の酸素濃度とを測定した。
その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1のデータに示されるように、(3)(4)の本発明方法によれば、タンディッシュ内のスラグ厚みを従来法に比較して半減させることができる。また空気の巻き込みを防止できるので、溶鋼中の酸素濃度を従来の1/3〜1/2とすることができる。特にスライディングノズルの操作をも自動化した(4)の場合に、最も好ましい結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態を示す断面図である。
【図2】シール管の上半部の斜視図である。
【図3】放射エネルギーの変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
1 タンディッシュ
2 鍋
3 溶鋼
4 スラグ
5 スライディングノズル
6 シール管
7 注入流
8 突起
9 蓋
10 測定用孔
11 放射エネルギー測定装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋とタンディッシュ間に設置されるシール管の側壁に測定用孔を設け、遠隔位置に設置した放射エネルギー測定装置により上記測定用孔を介して注入流の放射エネルギーを測定し、その変化に基づいてスラグ流出を検出することを特徴とする連続鋳造におけるスラグ流出検出方法。
【請求項2】
シール管の内部に不活性ガスを吹き込み、溶湯汚染の原因となる空気のシール管内への侵入を防止しつつ、注入流の放射エネルギーを測定することを特徴とする請求項1記載の連続鋳造におけるスラグ流出検出方法。
【請求項3】
注入流の特定範囲内の平均放射エネルギーまたは最高放射エネルギーを測定し、閾値を越えたときにスラグ流出と判定することを特徴とする請求項1記載の連続鋳造におけるスラグ流出検出方法。
【請求項4】
シール管の上部の側壁に測定用孔を設けることを特徴とする請求項1記載の連続鋳造におけるスラグ流出検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−173672(P2008−173672A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−9911(P2007−9911)
【出願日】平成19年1月19日(2007.1.19)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】