説明

連続鋳造のブレークアウト予知方法

【課題】溶融金属の連続鋳造において発生しうるブレークアウト、特に拘束性ブレークアウトを予知する方法において、ブレークアウト誤検出を防止する方法を提供する。
【解決手段】連続鋳造鋳型の溶融金属に接する表面近傍の鋳型温度を計測し、計測した温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点をピークpとして認識し、ピークpに基づいてブレークアウトを予知する連続鋳造のブレークアウト予知方法において、ピークpの温度をTp、時刻をt0とし、時刻t0より後の時刻t1における鋳型温度をTtとし、下記(1)式により求めた温度降下率θが、予め定めたしきい値θbよりも小さいときは、ピークpをブレークアウト予知に用いないこととする。これにより、ブレークアウト誤検出を大幅に減少することができる。
θ=(Tp−Tt)/(t1−t0) (1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の連続鋳造において発生しうるブレークアウト、特に拘束性ブレークアウトを予知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属の連続鋳造において、鋳型内に溶融金属が注入され、鋳型に接した部分で溶融金属が凝固して凝固シェルを形成し、凝固シェルは凝固を進行させながら下方に引き抜かれる。凝固シェルが鋳型下端から引き出された以降は、連続鋳造ロールに保持されつつさらに引き抜かれ、最終的に凝固が完了して連続鋳造鋳片となる。
【0003】
鋳型下端以降において凝固シェルが破断すると、凝固シェルの破断箇所から内部の溶融金属が流出する事故となる。このような事故をブレークアウトと称する。
【0004】
ブレークアウトのうちに拘束性ブレークアウトと呼ばれる種類がある。引き抜かれる凝固シェルの一部が鋳型に固着し、固着部の下方で凝固シェルが引きちぎられ、以後、凝固シェルの下降とともに破断部はV字型の形状を形成して下方に移動し、最終的に破断部のV字型先端が鋳型下端に到達したときに内部の溶融金属がその破断部から流出し、ブレークアウトに至るものである。
【0005】
正常な凝固シェルが形成されている場合、溶融金属から鋳型への抜熱は凝固シェルの厚さによって制限されるため、鋳型への抜熱量は鋳型の下方に行くに従って減少する。そころが、拘束性ブレークアウトの原因となる破断部が下方に向けて移動する際には、破断部においては凝固シェル厚が薄いので鋳型への抜熱量が増大し、破断部が通過する際に鋳型温度が急上昇し、その後温度降下するという温度変化を生じる。
【0006】
そこで、特許文献1においては、鋳型に埋設された複数の熱電対によって鋳型各部の温度を測定し、一つの熱電対の検出温度が検出平均温度より一旦上昇してから下降した場合に、隣接する他の熱電対によっても同様な温度変化バターンが検出されたときに、それをブレークアウトの可能性ありと見なして予知警報を発生する。
【0007】
拘束性ブレークアウトの発生が予知されると、ブレークアウト発生に至ることを予防するため、直ちに鋳造速度を急減して鋳造を停止し、凝固シェルの破断部の修復を図り、しかる後に鋳造を再開する。このような一時的な引き抜きの停止は、鋳片の鋳造温度履歴やクレーターエンド位置の変動をきたすため、鋳片品質に悪影響を及ぼす。
【0008】
従来のブレークアウト予知方法においては、実際には破断部が発生していないのにブレークアウトを予知する誤検出が発生する頻度が高かった。誤検出であっても、予知に対応して鋳片の引き抜きを停止するので、引き抜き停止による品質悪影響部が増大し、鋳造品質を低下させる原因となる。
【0009】
特許文献2においては、拘束性ブレークアウトに先立って現れる凝固シェル破断部の位置分布パターンがV字状もしくはU字状になること、及びその位置分布が下方に移動することに着目し、互いに位置の異なる3種類の点において異常温度上昇の有無を検知し、各点間の異常温度上昇発生タイミングのずれに基づいて、拘束性ブレークアウトの予知を行うことにより、精度の高い予知を行っている。
【0010】
特許文献3においては上記特許文献2に記載のものに加え、異常な温度上昇が発生した部分に着目し、それの位置分布を識別するとともに、それが下方へ所定の速度で進行するか否かを識別することによって、拘束性ブレークアウトの予知を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭63−47545号公報
【特許文献2】特公平5−75503号公報
【特許文献3】特公平7−24927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載のブレークアウト予知方法においては、実際には破断部が発生していないのにブレークアウトを予知する誤検出が発生する頻度が高かった。誤検出であっても、予知に対応して鋳片の引き抜きを停止するので、引き抜き停止による品質悪影響部が増大し、鋳造品質を低下させる原因となる。特許文献2、3に記載の発明を適用した場合にも、異常温度上昇が破断によるものか別の原因によるものか判別ができず、破断以外の原因によるものでもブレークアウトとみなして引き抜きを停止してしまうという課題が残っていた。
【0013】
本発明は、上記課題を解決し、ブレークアウト誤検出をすることのない連続鋳造のブレークアウト予知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
(1)連続鋳造鋳型の溶融金属に接する表面近傍の鋳型温度を計測し、計測した温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点をピーク(以下「当ピーク」という。)として認識し、前記ピークに基づいてブレークアウトを予知する連続鋳造のブレークアウト予知方法において、
前記当ピークの温度をTp、時刻をt0とし、時刻t0より後の時刻t1における前記鋳型温度をTtとし、下記(1)式により求めた温度降下率θが、予め定めたしきい値θbよりも小さいときは、当該当ピークをブレークアウト予知に用いないことを特徴とする連続鋳造のブレークアウト予知方法。
θ=(Tp−Tt)/(t1−t0) (1)
(2)前記時刻t1は、t0から予め定めた一定時間Δt後であることを特徴とする上記(1)に記載の連続鋳造のブレークアウト予知方法。
(3)前記鋳型温度を鋳型の他の箇所においても計測し、時刻t0より以降の時刻において、当該他の計測箇所で計測した鋳型温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点を他のピークとして認識し、当該他のピークの発生時刻を前記時刻t1とすることを特徴とする上記(1)に記載の連続鋳造のブレークアウト予知方法。
(4)時刻t0より以降の時刻において、前記当ピークを計測した測定箇所(以下「当測定箇所」という。)の温度がTpよりも高い温度となったときには、当該当ピークをブレークアウト予知に用いないことを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の連続鋳造のブレークアウト予知方法。
(5)前記ピークに基づいてブレークアウトを予知する連続鋳造のブレークアウト予知方法は、前記鋳型温度を鋳型の他の箇所においても計測し、当該他の計測箇所で計測した鋳型温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点を他のピークとして認識し、時刻t0より以降の時刻において他のピークが検出されたときにブレークアウト発生として予知することを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の連続鋳造のブレークアウト予知方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の連続鋳造のブレークアウト予知方法は、連続鋳造鋳型の溶融金属に接する表面近傍の鋳型温度を計測し、計測した温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点(ピーク)に基づいてブレークアウトを予知する連続鋳造のブレークアウト予知方法において、ピーク発生から所定の時間経過までの温度降下率が予め定めたしきい値よりも小さいときは、当該当ピークをブレークアウト予知に用いないこととする。これにより、実際には破断部が発生していないのにブレークアウトを予知する誤検出が発生する頻度を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】鋳型温度計測結果から、ブレークアウト予知に使用するピークを選択する本発明方法について説明する図である。
【図2】鋳型温度計測結果から、ブレークアウト予知に使用するピークを選択する本発明方法について説明する図である。
【図3】鋳型温度計測結果から、ブレークアウト予知に使用するピークを選択する本発明方法について説明する図である。
【図4】鋳型温度計測結果からブレークアウトを予知する方法について説明する図である。
【図5】鋳型温度計測結果からブレークアウトを予知する方法について説明する図である。
【図6】鋳型温度を計測する場所を示す図である。
【図7】鋳型温度を計測する場所を示す図である。
【図8】拘束による破断部が発生した鋳片の表面形状を示す図である。
【図9】凝固シェルの拘束によって破断部が成長する状況を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
拘束性ブレークアウトは、凝固シェルの一部が鋳型に拘束されることに起因して発生する。鋳型上部の凝固シェルが形成された初期において、図9(a)に示すように凝固シェル3の一部が鋳型1に固着し、固着部6の下方で凝固シェルが引きちぎられると、固着した凝固シェルは鋳型に拘束される。鋳片として下方に引き抜かれる凝固シェル3と、鋳型に拘束された固着部6との境界が破断部5となる。引き抜かれる凝固シェルと固着部ともに鋳型冷却によってシェル厚が増大し、図9(b)に示すように破断部についても薄いシェルが形成されるが、さらに引き抜きが継続することによって薄いシェルが形成された破断部は再度の破断を繰り返す(図9(c)(d))。その結果、凝固シェルの引き抜きに伴って破断部は下方に移動する。以後、凝固シェルの下降とともに破断部はV字型の形状を形成して下方に移動し(図8)、最終的に破断部のV字型先端が鋳型下端に到達したときに内部の溶融金属がその破断部から流出し、ブレークアウトに至るものである(図9(e))。
【0018】
本発明の連続鋳造のブレークアウト予知方法において、連続鋳造鋳型の溶融金属に接する表面近傍の鋳型温度を計測する。鋳型温度の計測は、連続鋳造に用いる銅鋳型に背面側から非貫通穴を設け、その非貫通穴に熱電対を挿入し、非貫通穴の先端位置に熱電対の温接点を接触させることによって行われる。具体的には、コンスタンタンで構成されるロッドを先端以外を絶縁材で被覆し、それを前記非貫通穴に挿入し、ロッドの先端を非貫通穴の最奥部に固着して熱電対を形成している。鋳型温度を計測する計測位置は、例えば図7に示すように鋳型1の多数位置に温度計測点2を設けて温度測定を行う。
【0019】
正常な鋳造が行われている際、鋳型に設けた熱電対で計測される温度は、鋳型内の上下方向位置によって定まる。鋳型内のメニスカス付近は凝固シェルが最も薄いので、溶湯からの抜熱量が最も多く、鋳型温度も高い温度となる。メニスカスから下方に離れるに従って、凝固シェルの厚さが厚くなるので、熱電対で計測される鋳型温度も低い温度となる。
【0020】
鋳型内で凝固シェルの拘束が発生し、図9に示すように破断部5が下降すると、破断部が温度計測位置を通過することとなる。正常な凝固であればその温度計測位置における鋳型温度は凝固シェル厚に応じた正常な温度を示すが、破断部が通過すると、破断部においては凝固シェルがほとんど成長していないため、鋳型への抜熱量が急増して計測する鋳型温度が急上昇する。そして破断部通過後は、当該温度計測位置においては鋳型に拘束された凝固シェルが成長し、シェル厚が時間経過と共に厚くなるので、急上昇した鋳型温度はその後低下することとなる。
【0021】
拘束に伴う破断部はV字状の形状で下降していくので、図7に示すように鋳型に多数の温度計測点を設けておけば、そのうちの1点において破断部が通過して温度が上昇しその後下降するピークが観察された場合、その温度計測点の近傍に設けた別の温度計測点についても、相前後して破断部が通過するので同じように温度が上昇しその後下降するピークが観察される。従って、鋳型に複数の温度計測点を設け、2以上の温度計測点において相前後して温度が上昇しその後下降するピークが観察された場合をもって、拘束性ブレークアウト予知とすることができる。
【0022】
上記のように拘束性ブレークアウトが予知された場合、そのまま鋳造を継続すると、V字状の破断部の下方先端が鋳型下端に到達したときに、その破断部から凝固シェル内の溶湯が外部に流出し、ブレークアウトが実際に発生することとなる。そこで、ブレークアウトが予知された場合には、直ちに鋳造速度を急減して鋳造を停止する。すると、停止時間内において、凝固シェルの破断部を含めて鋳型内の全域において凝固シェルの厚さが厚くなる。こうして破断部の修復を図り、しかる後に鋳造を再開すると、元の破断部が鋳型下端に到達しても溶湯が流出する事故を防止することができ、即ちブレークアウト発生を防止することができる。
【0023】
鋳造が正常に行われている場合、上述のとおり、計測される鋳型温度は鋳型内の上下方向位置により定まり、上方は温度が高く、下方に行くほど温度が低くなる。そして、鋳造中において、鋳造速度が変化するなどの条件変化がない限り、特定位置における計測温度はほぼ一定に保持される。
【0024】
ところが、鋳型拘束発生による破断部通過の場合以外であっても、図1(b)に示すように、鋳型温度の計測結果が時間的に大きく変動する場合がある。連続鋳造においては、鋳型の溶湯表面に供給した連続鋳造パウダーが溶融し、溶融したパウダーが鋳型と凝固シェルとの間に流入し、鋳型と接する面で溶融パウダーが冷却されて固着層を形成している。連続鋳造パウダーの種類によっては、形成された固着層が剥離しやすいことがある。このような場合、パウダー固着層が剥離すると凝固シェルから鋳型への抜熱量が増加して計測鋳型温度が上昇し、その後再度固着層が形成されて鋳型温度は下降し元の温度に戻る。このような現象が発生した場合、計測した鋳型温度が上昇してその後下降するので、温度のピークとして認識される。このような現象が発生しやすい条件の場合には、たまたま隣接する複数の温度計測箇所において、相次いで温度のピークが発生することもあり得る。その結果、拘束性ブレークアウトの原因となる破断部が通過したわけではないのに、ブレークアウト予知条件が成立してしまい、予知信号を発生することとなる。
【0025】
従来のブレークアウト予知方法においては、上述のように、実際には破断部が発生していないのにブレークアウトを予知する誤検出が発生する頻度が高かった。誤検出であっても、予知に対応して鋳片の引き抜きを停止するので、引き抜き停止による品質悪影響部が増大し、鋳造品質を低下させる原因となる。
【0026】
ブレークアウト予知信号が出されて鋳造速度急減速を行った連続鋳造部位において、鋳造後の鋳片表面を観察することにより、実際に拘束が発生していたか否かを検証することができる。図8に示すようなV字状の破断部が鋳片表面に観察されれば、拘束が発生していたことが明らかである。逆にV字状の破断部が観察されなければ、実際には拘束が発生していなかったと推認できる。そこで、実際に拘束が発生していた場合と発生していなかった場合のそれぞれについて、計測した鋳型温度の時間推移を比較してみた。その結果、実際に拘束が発生していた場合には、図1(a)に示す鋳型温度推移を示していたのに対し、拘束が発生していないのに予知信号が出された場合には、図(b)に示す鋳型温度推移を示していた。
【0027】
実際に拘束が発生していた場合の図1(a)において、p点で温度がピークを示す。拘束が発生していなかった図1(b)において、p1点とp2点で温度がピークを示す。図1(a)と図1(b)とを対比すると、拘束が発生していなかった図1(b)の場合には、ピーク以降の温度降下の勾配が、拘束が発生していた図1(a)の場合に比較してゆるやかであることがわかった。従って、ピーク以降の温度降下の勾配にしきい値を設け、温度勾配が当該しきい値よりも緩い場合には、検出したピークをブレークアウト予知のためのピークとして用いないこととすれば、ブレークアウトの誤検出を防止できることがわかった。
【0028】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、連続鋳造鋳型の溶融金属に接する表面近傍の鋳型温度を計測し、計測した温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点をピーク(以下「当ピーク」という。)として認識し、前記ピークに基づいてブレークアウトを予知する連続鋳造のブレークアウト予知方法において、前記当ピークの温度をTp、時刻をt0とし、時刻t0より後の時刻t1における前記鋳型温度をTtとし、下記(1)式により求めた温度降下率θが、予め定めたしきい値θbよりも小さいときは、当該当ピークをブレークアウト予知に用いないことを特徴とする。
θ=(Tp−Tt)/(t1−t0) (1)
しきい値θbとして、0.7〜10(℃/sec)程度の値を用いると好ましい。
【0029】
勾配を計算するための時刻t1としては、図1(a)に示すように、t0から予め定めた一定時間Δt後とすることができる。一定時間Δtとして、例えば4秒程度とすると良い。
【0030】
拘束性ブレークアウトの予知において通常は、鋳型の多数の位置に温度計測点を設け、複数の温度計測点で相次いでピークが計測された場合にブレークアウト予知としている。時刻t0に当ピークが検出され、t0から上記Δtが経過する前に他の計測点で他のピークが計測された場合には、Δtが経過するまでブレークアウト予知信号を出さず、Δt経過後に(1)式のθがしきい値θb以上であることを確認してからブレークアウト予知信号を出すこととしても良い。
【0031】
また、鋳型の多数の位置に温度計測点を設け、複数の温度計測点で相次いでピークが計測された場合にブレークアウト予知する場合においては、図2に示すように、鋳型温度を鋳型の他の箇所においても計測し、当ピークpxが発生した時刻t0より以降の時刻において、当該他の計測箇所で計測した鋳型温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点を他のピークpyとして認識し、他のピークpyの発生時刻を前記時刻t1とすると好ましい。
【0032】
図3に現れるピークのうち、p1点については、ピークを示して温度が低下した後、再度温度が上昇している。拘束が発生して破断部が通過したのであれば、その後に温度計測点の温度が上昇することはないので、このようにピークを示した後に再度温度が上昇した場合は、当該ピークは破断部の通過ではなかったことが明らかである。そこで本発明においては、ピーク後の温度低下の勾配についてしきい値との比較を行うことに加え、ピークを計測した時刻t0より以降の時刻において、前記当ピークを計測した測定箇所(当測定箇所)の温度がq点を超えてTpよりも高い温度となったときには、当該当ピークp1をブレークアウト予知に用いないこととすると好ましい。
【0033】
本発明は、連続鋳造鋳型の溶融金属に接する表面近傍の鋳型温度を計測し、計測した温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点をピーク(当ピーク)として認識し、前記ピークに基づいてブレークアウトを予知する連続鋳造のブレークアウト予知方法において、ブレークアウトの誤認識を防止するための方法である。以下、ピークに基づいてブレークアウトを予知する連続鋳造のブレークアウト予知方法として、採用し得る方法を以下に例示する。
【0034】
第1の例示方法として、鋳型温度の計測箇所を2箇所以上設け、それぞれの計測箇所において温度の時間変化を評価し、図4に示すように、そのうちの1箇所で計測した温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点をピーク(当ピークpx)として認識し、他の計測箇所で計測した鋳型温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点を他のピークpyとして認識し、時刻t0より以降の時刻において他のピークpyが検出されたときにブレークアウト発生として予知することができる。
【0035】
連続鋳造鋳型において、ブレークアウト予知のための温度計測点は、図7に示すように多数点を配置する。上記ブレークアウト予知方法において、当ピークpxと対比する他の測定箇所は、当ピークpxを認識した計測箇所に隣接した計測箇所とすると好ましい。また、他のピークpyが検出される時期が、当ピークpxを検出した時刻t0よりもはるかに遅い時期であれば、当ピークpxと他のピークpyは同じ破断部の通過を検出したものではないことが明らかである。そこで、当ピークpxと他のピークpyの時間差が、2点のピーク温度計測点間距離÷鋳造速度÷0.35秒以内の場合に、ブレークアウト予知とすると好ましい。また、当ピークpx及び他のピークpyとして温度変動が極めて小さいピークまで検出したのでは、破断部が通過した場合以外の温度変動まで検出することになりかねない。本発明において、検出した鋳型温度の移動平均を算出し、現在の鋳型温度が同じ計測箇所の過去の移動平均に対して所定温度以上高い場合にのみ、ピークとして検出すると好ましい。移動平均は過去30秒程度の範囲の移動平均とすればよい。また、所定温度として6℃程度の温度差を設定すると好ましい。
【0036】
第2の例示方法として、破断部通過による異常温度の位置分布パターンを識別するために、図5(a)に示すように、基準点、基準点のすぐ上に位置する上方向関連点、基準点のすぐ横に位置する横方向関連点、上方向関連点のすぐ横に位置する上方向横関連点の4種類の温度計測位置に着目する。まず、基準点のピーク識別条件は、基準点において検出した鋳型温度の移動平均(例えば30秒の移動平均)を算出し、現在の鋳型温度が同じ計測箇所の過去の移動平均に対して所定温度(例えば6℃)以上高い場合にピークとして検出する。上方向関連点、横方向関連点、上方向横関連点については、基準点と同じように移動平均に対して所定温度以上高い温度となることに加え、ピークを経過した後、所定時間(例えば2秒)にわたって温度が降下し続ける条件を付加する。そして、基準点のピーク識別条件が成立するとともに、所定時間(例えば前後30秒)の間に関連点のうち2つ以上の関連点のピーク識別条件が成立したときに、ブレークアウト予知条件が成立するものとする。
【実施例】
【0037】
スラブ厚240mm、スラブ幅1000〜2200mmの鋼スラブ連続鋳造において、本発明を適用した。鋳型壁の図6に示す位置に熱電対を埋め込み、鋳型温度計測箇所とした。
【0038】
計測した温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点をピーク(当ピークpx)として認識し、前記ピークに基づいてブレークアウトを予知する連続鋳造のブレークアウト予知方法として、前記第1の例示方法を用いた。即ち、図6に示す計測箇所のうち、上から4段の計100点において温度の時間変化を評価することにより、そのうちの1箇所で計測した温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点をピーク(当ピークpx)として認識する。また、図6に示すうち計測箇所100点であって、上記当ピークを計測した箇所に隣接あるいは直下である他の計測箇所で計測した鋳型温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点を他のピークpyとして認識し、時刻t0より以降の時刻において他のピークpyが検出されたときにブレークアウト発生として予知する。
【0039】
当ピークpxと対比する他の測定箇所は、当ピークpxを認識した計測箇所に隣接した計測箇所とする。また、当ピークpxと他のピークpyの時間差が、2点のピーク温度計測点間距離÷鋳造速度÷0.35秒以内の場合に、ブレークアウト予知とする。各計測箇所において、検出した鋳型温度の過去30秒間の移動平均を算出し、現在の鋳型温度が同じ計測箇所の過去の移動平均に対して6℃以上高い場合にのみ、ピークとして検出する。この方法のみを用いた場合を比較例とした。
【0040】
ブレークアウトの誤検出を防止するための本発明方法として、当ピークpxの温度をTp、時刻をt0とし、時刻t0より後の時刻t1における前記鋳型温度をTtとし、下記(1)式により求めた温度降下率θが、予め定めたしきい値θbよりも小さいときは、当該当ピークをブレークアウト予知に用いないことを特徴とする連続鋳造のブレークアウト予知方法を用いた。
θ=(Tp−Tt)/(t1−t0) (1)
【0041】
本発明方法1として、図1に示すように、時刻t1は、t0から予め定めた一定時間Δt後であることとした。Δt=4秒、θb=0.7とした。
【0042】
本発明方法2として、図2に示すように、当ピークが検出された計測箇所以外の他の計測箇所について、時刻t0より以降の時刻において、当該他の計測箇所で計測した鋳型温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点を他のピークpyとして認識し、当該他のピークpyの発生時刻を前記時刻t1とした。t0とt1の時間差が、2点のピーク温度計測点間距離÷鋳造速度÷0.35秒の場合のみを対象とした。θbは上記本発明方法1と同様である。
【0043】
本発明方法3、4として、上記本発明方法1、2それぞれに加え、図3に示すように、時刻t0より以降の時刻において、前記当ピークを計測した測定箇所(当測定箇所)の温度がTpよりも高い温度となったときには、当該当ピークをブレークアウト予知に用いないこととした。
【0044】
比較例、本発明例1〜4について、ブレークアウトが予知された場合には鋳造速度をゼロとして鋳造を停止し、その後鋳造を再開することとした。鋳造終了後、ブレークアウトが予知された箇所の鋳片表面を観察し、図8に示すような破断部の形状が観察された場合には正しいブレークアウト予知とし、破断部が観察されなかった場合にはブレークアウト誤検出とした。
【0045】
【表1】

【0046】
結果を表1に示す。本発明例1〜4のいずれも、比較例と対比してブレークアウト予知発生件数が大幅に低減した。また、本発明例において、鋳造後の鋳片に破断部が何回か観察されているが、いずれもブレークアウトが実際に発生することは皆無であり、ブレークアウト予知が適正になされたことが明らかである。
【符号の説明】
【0047】
1 鋳型
2 温度計測箇所
3 凝固シェル
4 拘束点
5 破断部
6 固着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造鋳型の溶融金属に接する表面近傍の鋳型温度を計測し、計測した温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点をピーク(以下「当ピーク」という。)として認識し、前記ピークに基づいてブレークアウトを予知する連続鋳造のブレークアウト予知方法において、
前記当ピークの温度をTp、時刻をt0とし、時刻t0より後の時刻t1における前記鋳型温度をTtとし、下記(1)式により求めた温度降下率θが、予め定めたしきい値θbよりも小さいときは、当該当ピークをブレークアウト予知に用いないことを特徴とする連続鋳造のブレークアウト予知方法。
θ=(Tp−Tt)/(t1−t0) (1)
【請求項2】
前記時刻t1は、t0から予め定めた一定時間Δt後であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造のブレークアウト予知方法。
【請求項3】
前記鋳型温度を鋳型の他の箇所においても計測し、時刻t0より以降の時刻において、当該他の計測箇所で計測した鋳型温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点を他のピークとして認識し、当該他のピークの発生時刻を前記時刻t1とすることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造のブレークアウト予知方法。
【請求項4】
時刻t0より以降の時刻において、前記当ピークを計測した測定箇所(以下「当測定箇所」という。)の温度がTpよりも高い温度となったときには、当該当ピークをブレークアウト予知に用いないことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の連続鋳造のブレークアウト予知方法。
【請求項5】
前記ピークに基づいてブレークアウトを予知する連続鋳造のブレークアウト予知方法は、前記鋳型温度を鋳型の他の箇所においても計測し、当該他の計測箇所で計測した鋳型温度が時間経過と共に上昇しその後下降した点を他のピークとして認識し、時刻t0より以降の時刻において他のピークが検出されたときにブレークアウト発生として予知することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の連続鋳造のブレークアウト予知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−224582(P2011−224582A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94374(P2010−94374)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】