説明

連続鋳造方法、連続鋳造の制御装置及びプログラム

【課題】鋳型内における浸漬ノズルの左右での溶鋼の偏流に伴う操業トラブルを回避できるようにする。
【解決手段】溶鋼1から鋳型用の冷却水までの間に凝固シェル2、モールドパウダー層3、鋳型4の各熱伝導体が存在する連続鋳造において、浸漬ノズル6を挟む左右位置それぞれにおいて鋳型長辺4L内に鋳造方向に位置をずらして埋設された複数の測温手段を用いて、右位置での熱伝達係数αR及び熱伝達係数βRを同時に決定し、また、左位置での熱伝達係数αL及び熱伝達係数βLを同時に決定する。そして、熱伝達係数αR及びαLが共に500〜50000W/m2・Kの場合であって、熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとの比が所定の値を超えて異なるとき、浸漬ノズル6の左右で溶鋼の偏流が発生していると推定されるので、鋳造速度を減少させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶鋼から鋳型用の冷却水までの間に凝固シェル、モールドパウダー層、鋳型の各熱伝導体が存在する連続鋳造において、鋳型内状態を支配する主要因である伝達係数を決定する手法を利用して、鋳型内における浸漬ノズルの左右での溶鋼の偏流状態を診断し、鋳造状態を適正な条件に制御する連続鋳造方法、連続鋳造の制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
図13に連続鋳造設備の概要を示す。転炉及び二次精錬で作られた溶鋼は取鍋51に入れられ、タンデッシュ52を介して鋳型53へと注がれる。鋳型53に接触した溶鋼は冷やされて凝固し、鋳造速度がコントロールされながらロール54で運ばれて、ガス切断機55で適当な長さに切断される。かかる鋼の連続鋳造においては、鋳型53内の溶鋼流動状態や凝固状態が鋳片の性状の悪化トラブルによる鋳造停止を招くことがあり、安定鋳造や欠陥のない鋳片を製造するためには、鋳型内状態をオンラインで推定し、制御することが必要である。
【0003】
鋳型内での溶鋼の流動は、浸漬ノズルへの付着や溶損、鋳造速度の変化により時々刻々変化する。特に浸漬ノズルの吐出孔への介在物の付着による吐出孔の閉塞は、鋳型の左右短辺に向かう吐出流量の不均等を生じせしめる。その結果、吐出流量が増大した側では短辺への吐出流速の増大に起因したストランド内下降流速の増加、気泡や介在物の侵入量の増加を招く他、メニスカスへの流速の増加によりモールドパウダーの巻き込みを招きやすくなるという問題がある。そのため、鋳片の品質低下を招き、ひいては製品歩留まりの低下やユーザからのクレームの増加につながることが多い。
【0004】
ここで、鋳型内の状態を推定する方法として、例えば特許文献1には、鋳型銅板の溶鋼側表面の法線上の1点で鋳型銅板に埋設された測温素子にて鋳型鋼板内温度を測定し、この測温値から凝固シェルに沿った溶鋼の流速を求める手法が開示されている。
【0005】
具体的には、測温値から鋳型銅板を通過する熱流束を求め、その熱流束から総括熱抵抗(溶鋼から冷却水までの熱伝導体の熱抵抗を合成したもの)Rを決定して、下式(101)より、溶鋼と凝固シェルとの間の対流熱伝達係数βを求める。なお、λsは凝固シェルの熱伝導率、λpはモールドパウダー層の熱伝導率、λmは鋳型銅板の熱伝導率、hmはモールドパウダー層と鋳型銅板との間の熱伝達係数、hwは鋳型銅板と冷却水との間の熱伝達係数、dsは凝固シェル厚み、dpはモールドパウダー層厚み、dmは鋳型銅板厚みである。
R=(1/β)+(ds/λs)+(dp/λp)+(1/hm)+(dm/λm)+(1/hw)・・・(101)
【0006】
式(101)から求めた熱伝達係数βを用いて、下式(102)より、ヌッセルト数Nuを求め、このヌッセルト数Nuを下式(103)又は(104)に代入してレイノルズ数Reを求める。そして、レイノルズ数Reを下式(105)に代入して溶鋼流速Uを求める。なお、λ1は溶鋼の熱伝導率、X1は伝熱代表長さ、Prはプラントル数、νは溶鋼の動粘性係数、X2は溶鋼流代表長さである。
β=Nu×λ1×X1・・・(102)
Nu=0.664×Pr1/3×Re4/5(U<U0)・・・(103)
Nu=0.036×Pr1/3×Re1/2(U≧U0)・・・(104)
Re=U×X2/ν・・・(105)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3230513号公報
【特許文献2】特開平10−277716号公報
【特許文献3】特開2008−260046号公報(段落[0020])
【特許文献4】特開平08−276257号公報(段落[0008])
【特許文献5】特開2000−317594号公報
【特許文献6】特開2001−239353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、凝固シェルと鋳型銅板との間の熱伝達係数αは、下式(106)で記述できる(式(101)の右辺第3項及び第4項)。特許文献1では、モールドパウダー層厚みdpは、モールドパウダーの種類と鋳型振動の振幅、周波数、及び振動波形と、鋳造速度が決まれば一定に決まる数値であり、また、モールドパウダー層の熱伝導率λpは、モールドパウダーの種類によらず、ほぼ一定であることが知られており、また、モールドパウダー層と鋳型銅板との間の熱伝達係数hmも、モールドパウダーの種類が決まればほぼ一定の値に決まるとしている。
1/α=(dp/λp)+(1/hm)・・・(106)
【0009】
つまり、特許文献1の手法において、凝固シェルと鋳型銅板との間の熱伝達係数αは、時間的に変化しない一定値として取り扱うことが前提条件となっている。
【0010】
しかしながら、エアーギャップの発生等の報告事例から判るように、モールドパウダー層の厚みは時間的に大きく変動する可能性が高く、凝固シェルと鋳型銅板との間の熱伝達係数αを一定値として取り扱うことは、実用上、同手法の適用領域を、平均的な正常操業領域に限定したものにしている。また、特許文献1では凝固シェルの厚みも一定としているので、鋳型の左右短辺に向かう溶鋼の偏流状態を検知するために必要な熱伝達係数の時間変動の推定精度が悪く、十分な偏流状態の検知精度を得ることができない。
【0011】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、鋳型内における浸漬ノズルの左右での溶鋼の偏流に伴う操業及び品質トラブルを回避できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の連続鋳造方法は、鋳型の中央に配置された浸漬ノズルから左右の鋳型短辺に向かって溶鋼を吐出し、溶鋼から鋳型用の冷却水までの間に凝固シェル、モールドパウダー層、鋳型の各熱伝導体が存在する連続鋳造において、凝固シェルと鋳型との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼と凝固シェルとの間の熱伝達係数βを求めて、これら熱伝達係数α、βに基づいて連続鋳造を制御する連続鋳造方法であって、前記浸漬ノズルを挟む左右位置それぞれにおいて鋳型長辺内に鋳造方向に位置をずらして埋設された複数の測温手段を用いて、鋳型を通過する熱流束を取得する熱流束取得手順と、熱伝達係数α及び熱伝達係数βを含み、鋳型を通過する熱流束を表わす式と、前記熱流束取得手順で取得した熱流束とを用いて、前記右位置での熱伝達係数αR及び熱伝達係数βRを同時に決定し、また、前記左位置での熱伝達係数αL及び熱伝達係数βLを同時に決定する熱伝達係数決定手順と、前記熱伝達係数決定手順で決定した熱伝達係数αR及びαLが共に500〜50000W/m2・Kの場合であって、熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとの比、又は、熱伝達係数βRから求めた溶鋼の流速と熱伝達係数βLから求めた溶鋼の流速との比が所定の値を超えて異なるとき、鋳造速度を減少させる制御手順とを有することを特徴とする。
また、本発明の連続鋳造方法の他の特徴とするところは、前記左右位置の測温手段は前記浸漬ノズルを挟んで左右対称に配置されており、前記浸漬ノズルの中心から左右の鋳型短辺までの鋳型幅方向距離をそれぞれW/2とした場合に、前記左右位置は、それぞれ前記浸漬ノズルの中心からW/6以上離れた位置で、かつ、鋳型のコーナから40mm以上離れた位置である点にある。
また、本発明の連続鋳造方法の他の特徴とするところは、前記制御手順では、熱伝達係数βR、βLのうち大きい方を小さい方で除した値が1.5以上となったとき、鋳造速度を減少させる点にある。
また、本発明の連続鋳造方法の他の特徴とするところは、前記制御手順では、鋳造速度を20%以上減少させる点にある。
また、本発明の連続鋳造方法の他の特徴とするところは、前記熱伝達係数決定手順では、Tを凝固シェルの温度、T0を溶鋼の温度、Tsを溶鋼と凝固シェルとの界面温度、uを鋳造速度、λsを凝固シェルの熱伝導率、csを凝固シェルの比熱、ρsを凝固シェルの密度、Lを凝固シェルの潜熱、dを鋳型の凝固シェル側の表面から測温手段までの距離、λmを鋳型の熱伝導率として、鋳造方向をz軸、鋳造方向に直交する方向をx軸とする2次元座標上で、凝固シェルの厚みs(z,t)及び凝固シェルの鋳型側の表面温度T(0,z,t)を表わす式(A)、(B)と、凝固シェルの鋳型側の表面−モールドパウダー層−熱電対間の熱収支に基づいて、鋳型を通過する熱流束qm(z,t)を表わす式(C)とを用いて、熱伝達係数α及び熱伝達係数βを同時に決定し、凝固シェルの厚みs(z,t)を計算する点にある。
【数1】

また、本発明の連続鋳造方法の他の特徴とするところは、前記熱流束取得手順では、dwを測温手段から水冷位置までの距離、hwを鋳型と冷却水との間の熱伝達係数、Twを冷却水温度、λmを鋳型の熱伝導率として、前記複数の測温手段の温度計測値Tm_obs(z,t)に基づいて、式(D)より、鋳型を通過する熱流束qm(z,t)を計算する点にある。
【数2】

本発明の連続鋳造の制御装置は、鋳型の中央に配置された浸漬ノズルから左右の鋳型短辺に向かって溶鋼を吐出し、溶鋼から鋳型用の冷却水までの間に凝固シェル、モールドパウダー層、鋳型の各熱伝導体が存在する連続鋳造において、凝固シェルと鋳型との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼と凝固シェルとの間の熱伝達係数βを求めて、これら熱伝達係数α、βに基づいて連続鋳造を制御する連続鋳造の制御装置であって、前記浸漬ノズルを挟む左右位置それぞれにおいて鋳型長辺内に鋳造方向に位置をずらして埋設された複数の測温手段を用いて、鋳型を通過する熱流束を取得する熱流束取得手段と、熱伝達係数α及び熱伝達係数βを含み、鋳型を通過する熱流束を表わす式と、前記熱流束取得手段で取得した熱流束とを用いて、前記右位置での熱伝達係数αR及び熱伝達係数βRを同時に決定し、また、前記左位置での熱伝達係数αL及び熱伝達係数βLを同時に決定する熱伝達係数決定手段と、前記熱伝達係数決定手段で決定した熱伝達係数αR及びαLが共に500〜50000W/m2・Kの場合であって、熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとの比、又は、熱伝達係数βRから求めた溶鋼の流速と熱伝達係数βLから求めた溶鋼の流速との比が所定の値を超えて異なるとき、鋳造速度を減少させる制御手段とを備えることを特徴とする。
本発明のプログラムは、鋳型の中央に配置された浸漬ノズルから左右の鋳型短辺に向かって溶鋼を吐出し、溶鋼から鋳型用の冷却水までの間に凝固シェル、モールドパウダー層、鋳型の各熱伝導体が存在する連続鋳造において、凝固シェルと鋳型との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼と凝固シェルとの間の熱伝達係数βを求めて、これら熱伝達係数α、βに基づいて連続鋳造を制御するためのプログラムであって、前記浸漬ノズルを挟む左右位置それぞれにおいて鋳型長辺内に鋳造方向に位置をずらして埋設された複数の測温手段を用いて、鋳型を通過する熱流束を取得する熱流束取得処理と、熱伝達係数α及び熱伝達係数βを含み、鋳型を通過する熱流束を表わす式と、前記熱流束取得処理で取得した熱流束とを用いて、前記右位置での熱伝達係数αR及び熱伝達係数βRを同時に決定し、また、前記左位置での熱伝達係数αL及び熱伝達係数βLを同時に決定する熱伝達係数決定処理と、前記熱伝達係数決定処理で決定した熱伝達係数αR及びαLが共に500〜50000W/m2・Kの場合であって、熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとの比、又は、熱伝達係数βRから求めた溶鋼の流速と熱伝達係数βLから求めた溶鋼の流速との比が所定の値を超えて異なるとき、鋳造速度を減少させる制御処理とをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鋳型内状態を支配する2つの主要因である凝固シェルと鋳型との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼と凝固シェルとの間の熱伝達係数βを求めて、これら熱伝達係数α、βに基づいて連続鋳造を制御することにより、鋳型内における浸漬ノズルの左右での溶鋼の偏流に伴う操業及び品質トラブルを回避でき、連続鋳造の鋳片品質及び操業性向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】連続鋳造設備の鋳型の断面の一部を示す図である。
【図2】凝固シェルの外表面−モールドパウダー層−熱電対間の熱収支の概念を示す図である。
【図3】実施例での各熱電対の温度計測値及び各熱電対位置での熱流束を示す特性図である。
【図4】実施例での鋳造速度の変化を示す特性図である。
【図5】実施例での溶鋼温度の変化を示す特性図である。
【図6】実施例において本発明を適用して求めたモールドパウダー層の総括熱伝達係数α及び溶鋼側熱伝達係数βを示す特性図である。
【図7】本発明を適用して求めた凝固シェルの厚み、時間、z方向位置を軸とする特性図である。
【図8】実施形態に係る連続鋳造設備の鋳型を示す図である。
【図9】実施形態に係る連続鋳造の制御装置の機能構成を示すブロック図である。
【図10】実施形態に係る連続鋳造方法を示すフローチャートである。
【図11】実施形態に係る連続鋳造方法を示すフローチャートである。
【図12】本発明の連続鋳造の制御装置として機能しうる情報処理装置のハードウェアの概略構成の一例を示すブロック図である。
【図13】連続鋳造設備の概要を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。
まず、本発明において利用する、凝固シェルと鋳型との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼と凝固シェルとの間の熱伝達係数βの決定手法について説明する。
図1は、鋳型内凝固状態を示す概念図であり、連続鋳造設備の鋳型の断面の一部を示す。図1において、1は溶鋼である。2は鋳片たる凝固シェル(凝固層)である。3はモールドパウダー層である。4は鋳型銅板(単に鋳型とも呼ぶ)であり、冷却水を流すための水冷溝が形成されている。図1に示すように、溶鋼1から鋳型用の冷却水までの間に凝固シェル2、モールドパウダー層3、鋳型銅板4の各熱伝導体が存在する。
【0016】
また、鋳型銅板4には複数の熱電対5が鋳造方向に位置をずらして埋設されている。熱電対5は、鋳造方向(図1に示すz軸方向)に一列に並べるのが好ましいが、鋳造方向に直交する方向(図1に示すx軸方向)にずれている場合でも、以下に説明する演算の際に補間演算等を行って位置補正すればよい。
【0017】
鋳型銅板4に接する溶鋼1の湯面を座標軸の原点(0,0)にとり、鋳造方向をz軸、鋳造方向に直交する凝固層成長方向をx軸とする2次元座標上で、凝固層成長を記述する偏微分方程式を下式(1)〜(4)のように設定する。Tは凝固シェル2の温度、T0は溶鋼1の温度、Tsは溶鋼1と凝固シェル2との界面温度(凝固温度)である。s(z,t)は凝固シェル2の厚みである。β(z,t)は溶鋼1と凝固シェル2との間の対流熱伝達係数(「溶鋼側熱伝達係数」と称する)、α(z,t)は凝固シェル2と鋳型銅板4との間の熱伝達係数(「モールドパウダー層の総括熱伝達係数」と称する)である。uは鋳造速度である。λs、cs、ρs、Lは凝固シェル2の物性値であり、熱伝導率、比熱、密度、凝固潜熱である。Tm(0,z,t)は鋳型銅板4の凝固シェル2側の表面(鋳型銅板4の内表面)の温度である。
【0018】
【数3】

【0019】
すなわち、式(1)は凝固シェル2内での熱収支を表わす。式(2)は凝固シェル2と溶鋼1との境界条件を表わす。式(3)は凝固シェル2と溶鋼1との界面での熱収支を表わす。式(4)は凝固シェル2とモールドパウダー層3との界面での熱収支を表わす。
【0020】
ここで、凝固シェル2の温度Tがxの2次式で記述できると仮定し、下式(5)で近似する。
【0021】
【数4】

【0022】
式(5)を式(1)〜式(4)に代入し、係数a(z,t)と係数b(z,t)を決定する。
【0023】
【数5】

【0024】
係数a(z,t)と係数b(z,t)から、凝固シェル2の厚みs(z,t)と、凝固シェル2の鋳型銅板4側の表面(凝固シェル2の外表面)の温度T(0,z,t)は、下式(6)、(7)で記述することができる。
【0025】
【数6】

【0026】
ここで、基準となる時刻t0を任意に固定し、新変数η(≧0)を導入し、z=u・η、t=t0+ηとおく。これにより、式(6)は、下式(8)、(9)のように変形することができる。
【0027】
【数7】

【0028】
また、式(7)は、下式(10)のように変形することができる。
【0029】
【数8】

【0030】
式(8)の差分近似式は、下式(11)のようになる。
【0031】
【数9】

【0032】
一方、式(10)を離散化すると、下式(12)のようになる。
【0033】
【数10】

【0034】
更に、式(12)を下式(13)のように変形する。
【0035】
【数11】

【0036】
以下の記号で定義し、式(13)を式(14)のように書き換える。
【0037】
【数12】

【0038】
式(14)は、下式(15)のように、yに関する2次方程式に書き換えることができる。
【0039】
【数13】

【0040】
以下に、凝固シェル2の厚みs(ηk)を計算する手順を記す。熱伝達係数α(ηk)、β(ηk)が与えられたとする。溶鋼1の湯面上では、s(η1)=0である。これを式(15)に代入して2次方程式を解き、T(0,η1)を得る。次に、s(η1)、T(0,η1)を式(11)に代入して、Ψ(η2)を求める。(9)式の左辺にΨ(η2)を代入、右辺にT(0,η1)を代入して、s(η2)を求め、それを式(15)に代入して2次方程式を解き、T(0,η2)を得る。以下、同様の操作を繰り返すことにより、凝固シェル2の厚みの時間履歴s(ηk)を計算することができる。
【0041】
また、特許文献2に示されているように、式(1)〜(4)を差分法等の数値計算手法を用いて計算することも可能であるが、上述した手法を用いることにより格段に演算速度が速くなるので、オンラインで凝固シェル2の凝固状態を推定することが可能になる。
【0042】
次に、熱伝達係数α(ηk)、β(ηk)の決定方法について述べる。図2に示すように、凝固シェル2の鋳型銅板4側の表面(凝固シェル2の外表面)−モールドパウダー層3−熱電対5間の熱収支を擬定常状態と仮定して、下式(16)で記述する。図2において、点線は温度の変化の関係を示す。qmは鋳型銅板4をx軸方向に通過する熱流束である。dは鋳型銅板4の凝固シェル2側の表面(鋳型銅板4の内表面)から熱電対5までの距離である。λmは鋳型銅板4の熱伝導率である。式(7)に示すように、T(0,zk,t)にはβ(zk,t)を含んでおり、式(16)は熱伝達係数α、βを未知数とする式となっている。
【0043】
【数14】

【0044】
ここで、鋳型銅板4をx軸方向に通過する熱流束qm(zi,t)は、鋳型銅板4の鋳造方向に埋設した複数の熱電対5の温度計測値Tm_obs(zi,t)に基づいて、鋳造方向に対し、下式(17)より計算する(iは熱電対を表わす添え字である)。熱流束qm(zi,t)を補間計算(内外挿計算)することにより、任意の鋳造方向において鋳型銅板4をx軸方向に通過する熱流束qmを求めることができる。dwは熱電対5から水冷位置までの距離である。hwは鋳型銅板4と冷却水との間の熱伝達係数である。Twは冷却水温度である。
【0045】
【数15】

【0046】
式(16)を、式(8)〜式(15)に合わせるために、前に定義した変数ηを用い、下式(18)のように書き換える。
【0047】
【数16】

【0048】
熱伝達係数α(ηk)、β(ηk)は、式(18)より、下式(19)で表される最小二乗法による最小化問題として同時に決定されるとともに、凝固シェル2の厚みの時間履歴s(ηk)も計算される。
【0049】
【数17】

【0050】
以上述べたように、凝固シェル2と鋳型銅板4との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼1と凝固シェル2との間の熱伝達係数βを同時に決定し、凝固シェル2の厚みを計算することができる。凝固シェル2と鋳型銅板4との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼1と凝固シェル2との間の熱伝達係数βは鋳型内凝固状態を支配する主要因であり、それを同時に決定できるので、これらの要因が鋳型内鋳片の凝固厚みに及ぼす影響を定量的に評価することができる。これにより、パウダー流入状態や溶鋼流動が鋳片凝固厚みに及ぼす影響を見積もることができ、連続鋳造の鋳片品質及び操業性向上に寄与する。
【0051】
なお、特許文献5には、鋳造方向に複数点配置された鋳型温度検出手段より伝熱逆問題手法を使って予測した熱流束値を境界条件にした熱伝導方程式を解き、溶融金属の凝固厚みと凝固シェル温度プロフィールを得て、更には鋳造方向に複数点配置された鋳型温度検出手段より伝熱逆問題手法を使って計算した熱流束値と鋳型内面表面温度及び前記凝固シェル温度プロフィール計算結果から、熱伝導方程式を解きパウダー流入厚みを得る構成が開示されている。また、特許文献6には、鋳造方向に間隔をおいて鋳型の複数箇所に埋設した温度計測手段で鋳型温度を計測し、鋳型温度計測値に基づいて鋳型内面での熱流束を伝熱逆問題手法を用いて推定し、熱流束推定値に基づき鋳片内部の熱流束より溶融金属流動起因の対流熱伝達量を推定し、対流熱伝達量推定値により鋳型内溶融金属流動の異常を検出する構成が開示されている。しかしながら、いずれの先行技術も、上述したように凝固シェル2と鋳型銅板4との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼1と凝固シェル2との間の熱伝達係数βを同時に決定し、凝固シェル2の厚みを計算するものではない。
【0052】
ここで、上述した凝固シェル2と鋳型銅板4との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼1と凝固シェル2の間の熱伝達係数βの決定方法の実施例を説明する。
図3(a)は各熱電対L1〜L7の温度計測値を示す特性図、図3(b)は各熱電対L1〜L7の温度計測値から得られた各熱電対L1〜L7位置での熱流束を示す特性図である。熱電対L1〜L7は、各々、湯面から10mm、30mm、40mm、70mm、100mm、160mm、270mmの位置に設置されている。また、鋳型銅板の内表面か各熱電対L1〜L7までの距離dは10mm、各熱電対から水冷位置までの距離dwは5mmである。図3(b)に示す熱流束は、式(17)により求めたものである。
【0053】
凝固シェル2の熱伝導率λsは29W/m・K、比熱csは0.670kJ/kg・K、密度ρsは7650kg/m3は、潜熱Lは268kJ/kgである。また、鋳型銅板の熱伝導率λmは251W/m・Kである。また、鋳型銅板4と冷却水との間の熱伝達係数hwは30000kcal/m3・Hr・℃である。また、凝固温度Tsは1497度である。
【0054】
図4は鋳造速度uの変化を示す特性図、図5は溶鋼温度T0の変化を示す特性図である。
【0055】
図6(a)は本発明を適用した求めたモールドパウダー層の総括熱伝達係数αを示す特性図、図6(b)は本発明を適用して求めた溶鋼側熱伝達係数βを示す特性図である。本実施例では、鋳造方向において湯面〜90mm、90mm〜180mm、180mm〜270mmに3分割して、それぞれでモールドパウダー層の総括熱伝達係数αと溶鋼側熱伝達係数βを求めている。
【0056】
また、図7は本発明を適用して求めた凝固シェル2の厚み、時間、z方向位置を軸とする特性図である。100sピッチで演算を行い、その結果をドットで示すとともに、内挿計算を行っている。同図に示すように、凝固シェル2の厚みは鋳造方向に向かうに従って成長していることがわかる。
【0057】
以下では、ここまで説明した凝固シェル2と鋳型銅板4との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼1と凝固シェル2との間の熱伝達係数βの決定手法を利用して、鋳型内における浸漬ノズルの左右での溶鋼の偏流状態を診断し、連続鋳造を制御する実施形態を説明する。
【0058】
図8(a)、(b)は本実施形態に係る連続鋳造設備の鋳型を示す。図8(a)は鋳型短辺4Sの断面図、図8(b)は鋳型4の平面図である。図8(a)、(b)では溶鋼1のメニスカス付近のモールドパウダー層3しか図示しないが、モールドパウダーは凝固シェル2と鋳型銅板4の間に流入し、溶鋼1から鋳型用の冷却水までの間には凝固シェル2、モールドパウダー層3、鋳型銅板4の各熱伝導体が存在する。
【0059】
鋳型4の中央には浸漬ノズル6が配置されており、浸漬ノズル6の左右の吐出孔6aから左右の鋳型短辺4Sに向かって溶鋼が吐出される。鋳型長辺4Lにおいて、浸漬ノズル6に挟んで右位置に2つの熱電対5a、5bが鋳造方向に一列に並んで埋設され、また、左位置に2つの熱電対5c、5dが鋳造方向に一列に並んで埋設されている。右位置の熱電対5a、5bと左位置の熱電対5c、5dとは浸漬ノズル6を挟んで左右対称に配置される。なお、図8(a)、(b)では左右一対の吐出孔6aしか図示しないが、吐出孔6aは複数対あってもよい。
【0060】
図9は、本実施形態に係る連続鋳造の制御装置の機能構成を示す図である。11は熱流束取得部であり、既述した手法により、熱電対5a、5b及び熱電対5c、5dを用いて鋳型4の右位置及び左位置を通過する熱流束を取得する。
【0061】
12は熱伝達係数決定部であり、既述した手法により、熱伝達係数α及び熱伝達係数βを同時に決定し、凝固シェル2の厚みを計算する。本実施形態では、熱電対5a、5bを用いて右位置におけるメニスカスから所定の深さ位置での熱伝達係数αR及び熱伝達係数βRを決定する。同様に、熱電対5c、5dを用いて左位置におけるメニスカスから所定の深さ位置での熱伝達係数αL及び熱伝達係数βLを決定する。この場合に、右位置での熱伝達係数αR及び熱伝達係数βRと、左位置での熱伝達係数αL及び熱伝達係数βLとは、同じ深さ位置での値とするのが好適である。
【0062】
13は制御部であり、熱伝達係数決定部12で決定した熱伝達係数αR及びαLが共に500〜50000W/m2・Kの場合であって、熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとの比が所定の値を超えて異なるとき、鋳造速度を減少させる。本実施形態では、熱伝達係数βR、βLのうち大きい方を小さい方で除した値(ξ:「偏流率」と称する)を求めて、偏流率ξが1.5以上となったとき、鋳造速度を減少させる。
【0063】
図10は、本実施形態に係る制御装置による連続鋳造方法を示すフローチャートである。図10に示す一連の処理は、例えば定周期で実行される。熱流束取得部11は、熱電対5a、5b、5c、5dを用いて鋳型4の右位置及び左位置を通過する熱流束を取得する(ステップS101)。
【0064】
次に、熱伝達係数決定部12は、右位置においてメニスカスから所定の深さ位置での熱伝達係数αR及び熱伝達係数βRを同時に決定し、また、左位置においてメニスカスから所定の深さ位置での熱伝達係数αL及び熱伝達係数βLを同時に決定する(ステップS102)。
【0065】
次に、制御部13は、ステップS102において決定した熱伝達係数αR及びαLが、予め定められている熱伝達係数αl以上であり、かつ、予め定められている熱伝達係数αh以下であるか否かを判定する(ステップS103)。αl≦(αR及びαL)≦αhであればステップS104に進み、そうでなければ本処理を抜ける。ここで、αlは500W/m2・Kである。凝固シェル2と鋳型4との間の熱伝達係数αが500W/m2・Kより小さい場合、凝固シェル2に異物が噛み込んで通常とは異なる熱伝導状態となっていることが多く、ここでの目的である鋳型4内での溶鋼の偏流状態の診断には使えないという知見があるからである。一方、αhは50000W/m2・Kである。凝固シェル2と鋳型4との間の熱伝達係数αが50000W/m2・Kを越える場合、モールドパウダー層3の厚みが薄くなり、凝固シェル2と鋳型4との焼き付きが発生する懸念があり、通常操業範囲を外れているので、ここでの目的である鋳型4内での溶鋼の偏流状態の診断から除外するのが妥当であるからである。
【0066】
次に、制御部13は、ステップS102において決定した熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとの比が所定の値を超えて異なるか否かを判定する(ステップS104)。本実施形態では、偏流率ξ(=βR/βL又はβL/βR(βR、βLのうち小さい値が分母、大きい値が分子))を求め、偏流率ξ≧1.5であるか否かを判定する。その結果、偏流率ξ≧1.5であればステップS105に進み、そうでなければ本処理を抜ける。上述した式(103)〜式(105)からもわかるように、溶鋼の流速は溶鋼1と凝固シェル2との間の熱伝達係数βに依存する。換言すれば、浸漬ノズル6の左右で溶鋼の偏流が発生して溶鋼の流速に差が生じている場合、左右位置での熱伝達係数βRと熱伝達係数βLに差が生じるので、ξ≧1.5となる場合は、浸漬ノズル6の左右で溶鋼の偏流が発生しているものと推定される。
【0067】
なお、熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとの比を偏流率ξと説明したが、ステップS102において決定した熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとから、例えば上述した式(103)〜式(105)を用いて浸漬ノズル6の左右での溶鋼の流速を求め、その比を偏流率ξとしてもよい。
【0068】
浸漬ノズル6の左右での溶鋼の偏流への対策として、制御部13は鋳造速度を減少させる(ステップS105)。鋳造速度を減少させるときは、20%以上減少させる。鋳造速度を減少させることにより、鋳型4内での溶鋼の流動を抑え、浸漬ノズル6の左右での溶鋼の偏流を抑えることができる。
【0069】
以上のように鋳造速度を減少させたときは、例えば一定時間経過した後に、元の鋳造速度に復帰(増大)させるようにすればよい。
【0070】
或いは、鋳造速度を減少させたときは、その後、図11に示す一連の処理を例えば定周期で実行するようにしてもよい。ステップS201〜S203までは、図10のステップS101〜S103と同じである。そして、偏流率ξが所定の値以上となったか否かを判定する(ステップS204)。ここでいう所定の数値は、図10でいう値と同程度の値でなく、浸漬ノズル6の左右での溶鋼の偏流が略確実になくなっていると考えられる値とする。本実施形態では、偏流率ξ≦1.2となっていればステップS205に進み、元の鋳造速度に復帰させるが、そうでなければ本処理を抜ける。元の鋳造速度に復帰させた後は、再び図10に示す一連の処理を定周期で実行する。
【0071】
以上のように、浸漬ノズル6を挟む左右位置での熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとを比較することにより、浸漬ノズル6の左右での溶鋼の偏流状態を診断するものである。図10(a)に示すように、浸漬ノズル6の中心から左右の鋳型短辺4Sの上端部までの鋳型幅方向距離をそれぞれW/2とした場合に、左右位置は、それぞれ浸漬ノズル6の中心からW/6以上離れた範囲で設定する。浸漬ノズル6からW/6までの範囲では、吐出孔6aから吐出される溶鋼の流れが鋳型長辺4Lから離れており(図10(b)を参照)、浸漬ノズル6の左右での溶鋼の流速の差を捉えにくくなるためである。また、左右位置は、鋳型4のコーナから40mm以上離れた範囲で設定する。鋳型4のコーナから40mmまでの範囲では、凝固シェル2の凝固遅れ等の外乱が発生しやすく、浸漬ノズル6の左右での溶鋼の流速の差を捉えにくくなるためである。
【0072】
また、熱伝達係数αR、αL及び熱伝達係数βR、βLを決定する深さ位置は、メニスカスより100mm以上深く、600mm以下までの深さ範囲で設定する。メニスカスに近くなると、メニスカスでの反転流れの影響を受け、浸漬ノズル6の左右での溶鋼の流速の差を捉えにくくなるためである。また、浸漬ノズル6から深さ方向に離れると、浸漬ノズル6の左右での溶鋼の流速の差を捉えにくくなるためである。
【0073】
表1に、各条件別の浸漬ノズル6の左右での溶鋼の偏流に起因するヘゲ・スリバー等の製品品質異常の発生率を示す。製品品質異常の発生率は、スラブ本数比率で表している。鋼種は低炭Al−K鋼であり、鋳造厚は250mm、鋳造幅は1250mm、鋳造速度は1.4m/minとした。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示すように、偏流率ξが1.5より小さければ、鋳造速度を1.4m/minのままとしても製品品質異常の発生率を許容値(0.6%)以下とできるが、偏流率ξが1.5以上では、鋳造速度を1.4m/minのままとすると発生率が許容値(0.6%)を超えてしまう。
【0076】
偏流率ξが1.5以上の場合に、鋳造速度を1.3m/min(速度ダウン率7.1%)、1.2m/min(速度ダウン率14.3%)に減少させると、発生率は低くなるものの、まだ許容値(0.6%)を超えている。それに対して、鋳造速度を1.1m/min(速度ダウン率21.4%)、1.0m/min(速度ダウン率28.6%)まで減少させると、偏流率ξが1.5、1.6、1.7、1.8いずれの場合でも発生率を許容値(0.6%)以下に抑えることができている。この結果から、偏流率ξが1.5以上の場合に、鋳造速度を20%以上減少させるのが好適であることがわかる。
【0077】
図12は、本発明の連続鋳造の制御装置として機能しうる情報処理装置100のハードウェアの概略構成の一例を示すブロック図である。この情報処理装置100は、上述した演算処理を実行する中央処理装置であるCPU101、各種入力条件や演算結果等を表示する表示部102、演算結果等を保存するハードディスク等の記憶部103を有する。また、演算プログラム、各種アプリケーションプログラム、データ等を記憶するROM(リードオンリーメモリ)104を有する。また、演算プログラムに基づいてCPU101が処理を行うときに用いる作業領域であるRAM(ランダムアクセスメモリ)105、及びキーボード、マウス等の入力部106等を有する。
【0078】
また、コンピュータ装置を連続鋳造の制御装置として機能させるためのプログラムは本発明を構成する。プログラムを供給するための記憶媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、CD−R、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【0079】
以上、本発明を種々の実施形態と共に説明したが、本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。例えば上記実施形態では測温手段として熱電対を用いているが、例えば特許文献3にあるような光ファイバーグレーティングセンサー(FBG:Fiber Bragg Grating)や特許文献4にあるようなラマン散乱型光ファイバ式分布型温度計測器等を用いてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、鋳型長辺4Lのうち一方を対象にして説明したが、他方の鋳型長辺4においても、浸漬ノズル6の左右での溶鋼の偏流状態を診断してもよいことは明らかである。
【符号の説明】
【0081】
1:溶鋼
2:凝固シェル
3:モールドパウダー層
4:鋳型銅板
5、5a、5b、5c、5d:熱電対
6:浸漬ノズル
11:熱流束取得部
12:熱伝達係数決定部
13:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型の中央に配置された浸漬ノズルから左右の鋳型短辺に向かって溶鋼を吐出し、溶鋼から鋳型用の冷却水までの間に凝固シェル、モールドパウダー層、鋳型の各熱伝導体が存在する連続鋳造において、凝固シェルと鋳型との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼と凝固シェルとの間の熱伝達係数βを求めて、これら熱伝達係数α、βに基づいて連続鋳造を制御する連続鋳造方法であって、
前記浸漬ノズルを挟む左右位置それぞれにおいて鋳型長辺内に鋳造方向に位置をずらして埋設された複数の測温手段を用いて、鋳型を通過する熱流束を取得する熱流束取得手順と、
熱伝達係数α及び熱伝達係数βを含み、鋳型を通過する熱流束を表わす式と、前記熱流束取得手順で取得した熱流束とを用いて、前記右位置での熱伝達係数αR及び熱伝達係数βRを同時に決定し、また、前記左位置での熱伝達係数αL及び熱伝達係数βLを同時に決定する熱伝達係数決定手順と、
前記熱伝達係数決定手順で決定した熱伝達係数αR及びαLが共に500〜50000W/m2・Kの場合であって、熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとの比、又は、熱伝達係数βRから求めた溶鋼の流速と熱伝達係数βLから求めた溶鋼の流速との比が所定の値を超えて異なるとき、鋳造速度を減少させる制御手順とを有することを特徴とする連続鋳造方法。
【請求項2】
前記左右位置の測温手段は前記浸漬ノズルを挟んで左右対称に配置されており、
前記浸漬ノズルの中心から左右の鋳型短辺までの鋳型幅方向距離をそれぞれW/2とした場合に、前記左右位置は、それぞれ前記浸漬ノズルの中心からW/6以上離れた位置で、かつ、鋳型のコーナから40mm以上離れた位置であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記制御手順では、熱伝達係数βR、βLのうち大きい方を小さい方で除した値が1.5以上となったとき、鋳造速度を減少させることを特徴とする請求項1又は2に記載の連続鋳造方法。
【請求項4】
前記制御手順では、鋳造速度を20%以上減少させることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の連続鋳造方法。
【請求項5】
前記熱伝達係数決定手順では、
Tを凝固シェルの温度、T0を溶鋼の温度、Tsを溶鋼と凝固シェルとの界面温度、uを鋳造速度、λsを凝固シェルの熱伝導率、csを凝固シェルの比熱、ρsを凝固シェルの密度、Lを凝固シェルの潜熱、dを鋳型の凝固シェル側の表面から測温手段までの距離、λmを鋳型の熱伝導率として、
鋳造方向をz軸、鋳造方向に直交する方向をx軸とする2次元座標上で、凝固シェルの厚みs(z,t)及び凝固シェルの鋳型側の表面温度T(0,z,t)を表わす式(A)、(B)と、凝固シェルの鋳型側の表面−モールドパウダー層−熱電対間の熱収支に基づいて、鋳型を通過する熱流束qm(z,t)を表わす式(C)とを用いて、熱伝達係数α及び熱伝達係数βを同時に決定し、凝固シェルの厚みs(z,t)を計算することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の連続鋳造方法。
【数1】

【請求項6】
前記熱流束取得手順では、
wを測温手段から水冷位置までの距離、hwを鋳型と冷却水との間の熱伝達係数、Twを冷却水温度、λmを鋳型の熱伝導率として、
前記複数の測温手段の温度計測値Tm_obs(z,t)に基づいて、式(D)より、鋳型を通過する熱流束qm(z,t)を計算することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の連続鋳造方法。
【数2】

【請求項7】
鋳型の中央に配置された浸漬ノズルから左右の鋳型短辺に向かって溶鋼を吐出し、溶鋼から鋳型用の冷却水までの間に凝固シェル、モールドパウダー層、鋳型の各熱伝導体が存在する連続鋳造において、凝固シェルと鋳型との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼と凝固シェルとの間の熱伝達係数βを求めて、これら熱伝達係数α、βに基づいて連続鋳造を制御する連続鋳造の制御装置であって、
前記浸漬ノズルを挟む左右位置それぞれにおいて鋳型長辺内に鋳造方向に位置をずらして埋設された複数の測温手段を用いて、鋳型を通過する熱流束を取得する熱流束取得手段と、
熱伝達係数α及び熱伝達係数βを含み、鋳型を通過する熱流束を表わす式と、前記熱流束取得手段で取得した熱流束とを用いて、前記右位置での熱伝達係数αR及び熱伝達係数βRを同時に決定し、また、前記左位置での熱伝達係数αL及び熱伝達係数βLを同時に決定する熱伝達係数決定手段と、
前記熱伝達係数決定手段で決定した熱伝達係数αR及びαLが共に500〜50000W/m2・Kの場合であって、熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとの比、又は、熱伝達係数βRから求めた溶鋼の流速と熱伝達係数βLから求めた溶鋼の流速との比が所定の値を超えて異なるとき、鋳造速度を減少させる制御手段とを備えることを特徴とする連続鋳造の制御装置。
【請求項8】
鋳型の中央に配置された浸漬ノズルから左右の鋳型短辺に向かって溶鋼を吐出し、溶鋼から鋳型用の冷却水までの間に凝固シェル、モールドパウダー層、鋳型の各熱伝導体が存在する連続鋳造において、凝固シェルと鋳型との間の熱伝達係数α、及び、溶鋼と凝固シェルとの間の熱伝達係数βを求めて、これら熱伝達係数α、βに基づいて連続鋳造を制御するためのプログラムであって、
前記浸漬ノズルを挟む左右位置それぞれにおいて鋳型長辺内に鋳造方向に位置をずらして埋設された複数の測温手段を用いて、鋳型を通過する熱流束を取得する熱流束取得処理と、
熱伝達係数α及び熱伝達係数βを含み、鋳型を通過する熱流束を表わす式と、前記熱流束取得処理で取得した熱流束とを用いて、前記右位置での熱伝達係数αR及び熱伝達係数βRを同時に決定し、また、前記左位置での熱伝達係数αL及び熱伝達係数βLを同時に決定する熱伝達係数決定処理と、
前記熱伝達係数決定処理で決定した熱伝達係数αR及びαLが共に500〜50000W/m2・Kの場合であって、熱伝達係数βRと熱伝達係数βLとの比、又は、熱伝達係数βRから求めた溶鋼の流速と熱伝達係数βLから求めた溶鋼の流速との比が所定の値を超えて異なるとき、鋳造速度を減少させる制御処理とをコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−251308(P2011−251308A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126226(P2010−126226)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】