連続鋳造用浸漬ノズル
【課題】吐出孔から吐出する溶鋼流の偏流及び湯面変動が小さいことに加え、流路面への溶鋼内介在物の付着を抑制して鋳造可能時間を延ばすことが可能な連続鋳造用浸漬ノズルを提供する。
【解決手段】上端部が溶鋼の流入口13とされ、流入口13から下方に延びる流路12が内部に形成された、底部15を有する管体11の下がわ側面部に、流路12と連通する一対の吐出孔14が対向して形成された連続鋳造用浸漬ノズル10において、一対の吐出孔14間に在って流路12を画成する内壁18に、内方に突出し内壁18を水平方向に横断する突条部16が対向配置されている。また、一対の吐出孔14の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部の対象領域25に、対象領域25以外の領域に配設された耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物が配設されている。
【解決手段】上端部が溶鋼の流入口13とされ、流入口13から下方に延びる流路12が内部に形成された、底部15を有する管体11の下がわ側面部に、流路12と連通する一対の吐出孔14が対向して形成された連続鋳造用浸漬ノズル10において、一対の吐出孔14間に在って流路12を画成する内壁18に、内方に突出し内壁18を水平方向に横断する突条部16が対向配置されている。また、一対の吐出孔14の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部の対象領域25に、対象領域25以外の領域に配設された耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物が配設されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュから鋳型内に溶鋼を注湯する連続鋳造用浸漬ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を連続的に冷却凝固させて所定形状の鋳片を形成する連続鋳造工程では、タンディッシュの底部に設置された連続鋳造用浸漬ノズル(以下では、単に「浸漬ノズル」と呼ぶこともある。)を介して鋳型内に溶鋼が注湯される。
一般に、浸漬ノズルは、上端部が溶鋼の流入口とされ、流入口から下方に延びる流路が内部に形成された、底部を有する管体からなり、管体の下がわ側面部には、流路と連通する一対の吐出孔が対向して形成されている。浸漬ノズルは、その下部を鋳型内の溶鋼中に浸漬させた状態で使用される。これにより、注湯された溶鋼の飛散を防止すると共に、溶鋼と大気との接触を遮断して酸化を防止している。また、浸漬ノズルを使用することにより鋳型内の溶鋼が整流化され、湯面を浮遊するスラグや非金属溶鋼内介在物などの不純物が溶鋼中へ巻き込まれないようにしている。
【0003】
近年、連続鋳造工程における鋼品質の高品位化及び高生産化が求められている。現有設備において高生産化を指向する場合、鋳込速度を上げる必要があり、限られた鋳型内で浸漬ノズルの流路径を大きくしたり、吐出孔を大きくしたりして通鋼量を稼ぐ工夫がなされている。
【0004】
しかし、吐出孔を大きくすると、吐出孔から吐出する吐出流の上下方向及び/又は左右方向の流速分布にアンバランスが生じる。そして、このアンバランスな流れ(偏流)が鋳型の短辺がわ側壁に衝突することにより、鋳型内において不安定な溶鋼流が引き起こされる。その結果、過大な反転流による湯面変動やモールドパウダーの巻き込みによる鋼品質の低下を招くと共に、ブレークアウト等の要因になっていた。
【0005】
そこで、例えば特許文献1では、管体の下がわ側面部に対向して形成された一対の吐出孔を、内方に突出する突起部によって上下2段又は3段に分割して総数4個又は6個の吐出孔とした浸漬ノズルの発明が開示されている(図25(A)、(B)参照)。そして、当該浸漬ノズルによれば、詰まりを抑制すると共に、より一様な吐出流速を有し、回転と渦が大幅に減少した、より安定且つ制御された吐出流が生成されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/049249号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、特許文献1に記載された浸漬ノズルと、管体の下がわ側面部に対向して形成された一対の吐出孔を有する従来の浸漬ノズルと、従来の浸漬ノズルにおいて対向する吐出孔間の流路中央部に内方に突出する突起部を設けたタイプ(図26参照)について水モデル試験を実施し、各浸漬ノズルから吐出される吐出流のバラツキについて検証した。
【0008】
図27は、各浸漬ノズルの水モデル結果を示したものである。同図では、鋳型を短辺方向から見て、浸漬ノズルを挟んで左右の反転流速の標準偏差の平均値σavを横軸、左右の反転流速の標準偏差の差Δσ及び左右の反転流速の平均値Vavを縦軸に採っている。また、試験体Aが特許文献1に記載された浸漬ノズル(4吐出孔タイプ)、試験体Bが従来の浸漬ノズル、試験体Cが流路中央部(浸漬ノズルの内壁面上かつ流路幅の中央部)に突起部を設けた浸漬ノズルに対応している。
図27(A)より、左右の反転流速の標準偏差の差Δσ、即ち左右の反転流速の差が最も大きい浸漬ノズルが従来タイプであり、特許文献1に記載された浸漬ノズルと流路中央部に突起部を設けた浸漬ノズルは、左右の反転流速の差が小さいことがわかる。一方、図27(B)より、従来の浸漬ノズルと特許文献1に記載された浸漬ノズルは左右の反転流速の平均値Vavが大きく、流路中央部に突起部を設けた浸漬ノズルは左右の反転流速の平均値Vavが小さいことがわかる。
【0009】
鋳込速度(スループット)が増大するにつれて、左右の反転流速の標準偏差の差Δσ及び左右の反転流速の平均値Vavは増大することが確認されているが、鋼品質の高品位化の観点からすれば、Δσは2cm/sec以下、Vavは10cm/sec〜30cm/secが望ましい。この点に関し、Δσについては全ての試験体において2cm/sec以下となっているが、Vavについては、全ての試験体が10cm/sec〜30cm/secの範囲から外れている。
【0010】
また、特許文献1に記載された浸漬ノズル(4吐出孔タイプ)の場合、図28(A)、(B)に示す流体解析結果が示すように、下側吐出孔からの吐出流が多く、上側吐出孔からの吐出流が少ない。その結果、反転流速が35cm/secと大きな値を示している。なお、流体解析時の鋳型サイズは1500mm×235mm、鋳込速度は3.0ton/minである。
加えて、特許文献1に記載された浸漬ノズルでは、吐出孔が4個以上有るため、製造が複雑になり過ぎると共に、吐出孔の閉塞や溶損が発生した場合、吐出流のバランスが崩れやすいという難点がある。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、吐出孔から吐出する溶鋼流の偏流及び湯面変動が小さな連続鋳造用浸漬ノズルを提供することを第1の目的とする。
さらに、前記第1の目的である、吐出孔から吐出する溶鋼流の偏流を少なくして湯面変動を小さくすることに成功しても、溶鋼の成分その他の個別の操業条件によっては、連続鋳造用浸漬ノズルの内壁に溶鋼由来の溶鋼内介在物が付着し、鋳造時間が長くなるにつれて付着量が増大して当該連続鋳造用浸漬ノズルの閉塞を招来し、ひいては鋳造を継続することができなくなる場合があることが判明した。
そこで、本発明では、連続鋳造用浸漬ノズルの流路面への溶鋼内介在物の付着を抑制して鋳造可能時間を延ばすことを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、上端部が溶鋼の流入口とされ、該流入口から下方に延びる流路が内部に形成された、管体の下がわ側面部に、前記流路と連通する一対の吐出孔が対向して形成された連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、一対の前記吐出孔間に在って前記流路を画成する内壁に、内方に突出し該内壁を水平方向に横断する突条部が対向配置され、一対の前記吐出孔の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部(以下、「対象領域」という)に、前記対象領域以外の領域(以下、「非対象領域」という)に配設された耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物が配設されていることを特徴としている。
【0013】
ここで、「内壁を水平方向に横断する」とは、内壁の一方の側端(一方の吐出孔との境界位置)から他方の側端(他方の吐出孔との境界位置)まで、突条部が水平方向に延在することを意味する。
また、「一対の前記吐出孔の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部」とは、溶鋼流速が低い領域、即ち、一対の吐出孔間に在って流路を画成する内壁、流路に底部が形成されている場合は該底部、及び突条部の一部又は全部を含む領域をいい、「対象領域以外の領域に配設された耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物」とは、溶鋼内介在物の付着に関する試験室又は実操業における評価において、対象領域用の耐火物への溶鋼内介在物の付着程度(付着量や付着厚さ)が、非対象領域用の耐火物への溶鋼内介在物の付着程度より相対的に小さな耐火物をいう。
なお、本明細書では、連続鋳造用浸漬ノズルを鉛直に立てた状態に基づいて各方向を設定している。
【0014】
従来の連続鋳造用浸漬ノズルでは、吐出孔から吐出する吐出流の流速分布が下方に偏り不均一となっていたが、本発明では、対向する突条部による堰き止め効果により、吐出孔上部においても吐出流を得ることができる。一方、対向する突条部間を下方に通過する溶鋼流は、突条部間のクリアランスによる整流効果によって、突条部の延在方向と平行な鉛直面内において管体軸を挟んで左右均等な流れとなる。また、吐出流が均等となることによって、鋳型の短辺がわ側壁に衝突する吐出流の最大速度が緩和され、反転流速が小さくなる。その結果、過大な反転流による湯面変動やモールドパウダーの巻き込みがなくなり、鋼品質の低下を防止することができる。
【0015】
ところで、連続鋳造用浸漬ノズルに関する実操業結果と溶鋼流動のシミュレーション結果とを対比すると、後述するように、溶鋼内介在物の付着程度と溶鋼流の速度との間には強い相関関係が見られる。即ち、溶鋼流速が小さくなる、一対の吐出孔の上端より下方に位置する流路面に溶鋼内介在物の付着が生じる。その付着の程度は、溶鋼流速が小さいほど大きく、内壁に突条部を設けた場合に、この現象が加速されることがある。
そこで、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、一対の吐出孔の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部の対象領域に、対象領域以外の領域に配設する耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物を配設するものである。
【0016】
具体的には、前記対象領域に配設された耐火物の化学組成を、前記非対象領域に配設された耐火物と異なる化学組成としてもよいし、あるいは、前記対象領域に配設された耐火物の一部又は全部から前記流路内に不活性ガスを吹き込むようにしてもよい。
【0017】
また、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、前記吐出孔を正面視して、該吐出孔の水平方向の幅をa’、鉛直方向の幅をb’とし、前記突条部端面の突出高さをa、鉛直方向の幅をbとすると、a/a’=0.05〜0.38、b/b’=0.05〜0.5であることを好適とする。さらに、該吐出孔の上縁から前記突条部端面の鉛直方向の幅の1/2までの鉛直距離をcとすると、c/b’=0.15〜0.7であることを好適とする。
【0018】
また、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、前記突条部の両端部が外方に向けて下方に傾斜する傾斜部とされていることが好ましい。またそれに伴い、前記吐出孔の上端面及び下端面が外方に向けて下方に傾斜し、該上端面及び該下端面の傾斜角度と前記傾斜部の傾斜角度とが同角度であることが好ましい。
吐出孔の上端面及び下端面が外方に向けて下方に傾斜した浸漬ノズルにおいて、延在方向の両端部に傾斜部の無い突条部を設けた場合、突条部上方における吐出流が突条部により遮られ、上方に向けて吐出する流れとなる。そして、この流れが、鋳型表面における反転流と衝突するため、反転流速の安定化が図れなくなる。このため、突条部の両端部に形成した傾斜部の傾斜角度は、吐出孔の上端面及び下端面の傾斜角度と同角度であることが望ましい。
【0019】
また、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、前記突条部の延在方向に関し、一対の前記吐出孔の直上における前記流路の幅をL1、前記傾斜部を除いた前記突条部の長さをL2とすると、L2/L1=0〜1であることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、前記上端面、前記下端面、及び前記傾斜部の傾斜角度は0〜45°であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、一対の吐出孔間に在って流路を画成する内壁に、内方に突出し、該内壁を水平方向に横断する突条部を対向配置することによって、吐出孔全域に亘って吐出流を分散、均一化させることができる。これにより、鋳型の短辺がわ側壁に衝突する吐出流の流速分布及び衝突位置を安定化させることができ、鋳型表面の反転流速を低減することができる。その結果、湯面変動が小さくなると共に、浸漬ノズル左右の流れも対称に近づき、鋼品質の高品位化及び高生産化が可能となる。
【0022】
加えて、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、一対の吐出孔の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部の対象領域に、対象領域以外の領域に配設された耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物が配設されているので、内壁への溶鋼内介在物の付着が抑制され、ひいては鋳造可能時間を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルを示し、(A)は側面図、(B)は縦断面図である。
【図2】同連続鋳造用浸漬ノズルの部分側面図である。
【図3】(A)、(B)は、同連続鋳造用浸漬ノズルの部分縦断面図とそのA−A矢視断面図である。
【図4】水モデル試験を説明するための模式図である。
【図5】(A)はa/a’とΔσとの関係、(B)はa/a’とVavとの関係を示すグラフである。
【図6】(A)はb/b’とΔσとの関係、(B)はb/b’とVavとの関係を示すグラフである。
【図7】(A)はc/b’とΔσとの関係、(B)はc/b’とVavとの関係を示すグラフである。
【図8】(A)はL2/L1とΔσとの関係、(B)はL2/L1とVavとの関係を示すグラフである。
【図9】(A)はR/a’とΔσとの関係、(B)はR/a’とVavとの関係を示すグラフである。
【図10】流体解析に使用した解析モデルの模式図を示し、(A)は実施例、(B)は従来例である。
【図11】実施例の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図12】従来例の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図13】ΔθとVavとの関係を示すグラフである。
【図14】実施例(θ=0°)の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図15】実施例(θ=25°)の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図16】実施例(θ=35°)の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図17】実施例(θ=45°)の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図18】本発明の一実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルにおける対象領域を示し、(A)は側面図、(B)は縦断面図である。
【図19】本発明の他の実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルを示し、(A)は吐出孔側から見た縦断面図、(B)は吐出孔と直交する方向から見た縦断面図である。
【図20】鋳造時間と吐出孔の開度との関係を示したグラフである。
【図21】吐出孔内に溶鋼内介在物が付着している状況を示した模式図である。
【図22】吐出孔内の溶鋼流速分布を示した模式図である。
【図23】化学組成の異なる耐火物の付着性評価試験に使用する装置の模式図である。
【図24】通気性を有する耐火物の付着性評価試験に使用する装置の模式図である。
【図25】特許文献1に記載された連続鋳造用浸漬ノズルを示し、(A)は縦断面図、(B)は平断面図である。
【図26】対向する吐出孔間の流路中央部に突起部を設けた連続鋳造用浸漬ノズルの部分縦断面図である。
【図27】(A)はσavとΔσとの関係、(B)はσavとVavとの関係を示すグラフである。
【図28】特許文献1に記載された浸漬ノズルの流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0025】
本発明の一実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズル(以下では、単に「浸漬ノズル」と呼ぶ。)10の形状を図1(A)、(B)に示す。
浸漬ノズル10は、円筒状の管体11からなり(本実施の形態では、底部15を有する場合を示す。)、内部に形成された流路12の上端は溶鋼の流入口13とされている。一方、管体11の下がわ側面部には、流路12と連通する一対の吐出孔14が対向して形成されている。なお、浸漬ノズル10には耐スポーリング性及び耐食性が要求されるため、管体11はアルミナ黒鉛質などの耐火物によって形成されている。
【0026】
吐出孔14は正面視してコーナー部にアールが設けられた矩形状とされ、一対の吐出孔14間に在って流路12を画成する内壁18には、内方に向けて突出し当該内壁18を水平方向に横断する突条部16が対向配置されている。即ち、対向する突条部16は、一対の吐出孔14の中心を通る鉛直面を挟んで対称に配置されている。突条部16間のクリアランスは一定とされ、延在方向の両端部は、外方に向けて下方に傾斜する傾斜部16aとされている(図3参照)。一方、各吐出孔14の上端面14a及び下端面14bも外方に向けて下方に傾斜しており、本実施の形態では、突条部16に形成された傾斜部16aと吐出孔14の上端面14a及び下端面14bとは同じ傾斜角度とされている。
【0027】
突条部16は、内壁18の一方の側端(一方の吐出孔14との境界位置)から他方の側端(他方の吐出孔14との境界位置)まで水平方向に延在している。突条部16の延在方向の端面は、図3(A)に示すように、延在方向と直交する鉛直面とすることが好ましい。但し、管体11が円筒状等の場合、図3(B)に示すように、突条部16の延在方向端面の形状を管体11の外周面の形状に合わせてもよく、これによって溶鋼の吐出流が影響を受けることはない。なお、図3(A)、(B)のA−A矢視断面図を部分縦断面図の下側にそれぞれ示す。
【0028】
ここで、突条部16を備えた吐出孔14の形状を規定するパラメータを定義しておく。
吐出孔14を正面視して、吐出孔14の水平方向の幅をa’、鉛直方向の幅をb’とする。突条部16は矩形状断面とし、突条部16の端面の突出高さをa、鉛直方向の幅をbとすると共に、吐出孔14の上縁から突条部16の端面の鉛直方向の幅の1/2までの鉛直距離をcとする(図2参照)。なお、「矩形状断面」は、矩形断面の角部にアールを有するものを含む。
また、突条部16の延在方向に関し、一対の吐出孔14の直上における流路12の幅をL1、傾斜部16aを除いた突条部16の長さ(水平部16bの長さ)をL2とし(図3参照)、突条部16に形成された傾斜部16a並びに吐出孔14の上端面14a及び下端面14bの下向き傾斜角度をθとすると共に、吐出孔14コーナー部の曲率半径をRとする。
【0029】
なお、管体11の底部15には、凹陥状の湯溜り部17を形成することが好ましい。このような凹陥状の湯溜り部17が管体11の底部15に無くても本発明の効果を得ることができるが、浸漬ノズル10に注湯された溶鋼を一旦、湯溜り部17で受けることにより、両吐出孔14へ、より均一かつ、より安定的に分散させることができる。
また、吐出孔14の水平方向の幅a’は、流路12の幅(円筒状の流路12の場合は直径)と同じ場合でも異なる場合でも本発明の効果に影響はない。
【0030】
ところで、本発明者らによる連続鋳造用浸漬ノズルの調査及び解析の結果、突条部を設けた連続鋳造用浸漬ノズルの場合、アルミナを主成分とする溶鋼内介在物の流路面への付着は、突条部から下方に集中し、この付着の程度は、溶鋼流速の程度と相関性があることが判明した。
吐出孔の下端位置が流路の底部位置にほぼ一致する構造である連続鋳造用浸漬ノズルを例に採り、実操業での溶鋼内介在物の付着状況とシミュレーションによる溶鋼流に関する流体解析結果に基づき、上記知見について説明する。
【0031】
図21は、実操業後の連続鋳造用浸漬ノズルの吐出孔部分の縦方向断面(吐出孔方向視)を示したものである。吐出孔14内に設けた突条部16付近から下方の流路面に溶鋼内介在物28が付着している。突条部16直下の吐出孔14の下側コーナー部付近が最も付着厚さが大きく、そこを起点にして突条部16の上方及び流路の底部中央に向かって付着厚さが漸減している。
【0032】
また、図22は、この連続鋳造用浸漬ノズルについて、流路を通過する溶鋼の流体解析を実施した結果を可視化したものである。図中、矢印の向きは溶鋼流の方向を示し、矢印の種類は溶鋼流速の大きさの度合を表している。溶鋼流速の大きさの度合は、吐出孔直上部における流路から吐出孔中央付近までの領域の溶鋼最大流速を100とし、溶鋼流速が0(ゼロ)までの範囲を概ね4段階に区分した範囲(それぞれの範囲は25の速度幅を有する。)に相当する。
流体解析には、フルーエント・アジア・パシフィック(株)製のFLUENT(流体解析ソフトウェア)を使用し、流体解析を実施した際のパラメータ値は以下の通りである。
a/a’=0.13、b/b’=0.13、c/b’=0.43、L2/L1=0.68、θ=15°、鋳込(注湯)速度=2.7ton/min
【0033】
同図より、突条部下面、突条部下方のコーナー部を含む突条部下側の内壁面、及び流路の底部の一部の領域が、吐出孔内で最も流速が小さい領域であることがわかる。また、突条部の先端面、及び突条部直上付近の内壁面(突条部の吐出孔中央方向に突出した長さと同程度の高さ)が、溶鋼流速が小さい(中位の)領域となっている。
【0034】
解析結果を実操業における溶鋼内介在物の付着状況と対比してみると、溶鋼内介在物の付着程度の大きい領域は、溶鋼流速が相対的に小さい領域にほぼ一致し、付着の程度も溶鋼流速の相対的な大きさと相関があること、即ち、溶鋼流速が小さいほど付着厚みが大きい傾向にあることがわかる。
そこで、本発明では、吐出孔上端から下方の流路面の一部又は全部(以下、「対象領域」という。)に、対象領域以外の領域(以下、「非対象領域」という。)に配設した耐火物に比べて相対的に溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物を配設する。
【0035】
具体的には、溶鋼流速が最も小さい領域である、突条部下面、突条部下方のコーナー部を含む突条部下側の内壁面、及び流路の底部の一部の領域を対象領域に含む。また、溶鋼内介在物に対する付着抑制効果を増大させるため、突条部の先端面、及び突条部直上付近の内壁面を対象領域に含むことが好ましい。
さらにまた、操業条件の変動等による溶鋼内介在物の付着抑制効果の低下等の可能性(鋼種や通鋼速度の変動等により溶鋼流速分布が変化し、低速領域が拡大する等の条件変動があった場合、溶鋼内介在物の付着位置、厚さ等の変動等が生じる可能性をいう。)がある場合には、より確実に溶鋼内介在物の付着を抑制ないし防止するため、図18(A)、(B)に示すように、吐出孔14上端から下方の流路面全域を対象領域25とすることがさらに好ましい。加えて、吐出孔14上端から下方の流路面全域を対象領域とすると、連続鋳造用ノズルの製造が容易となるので、この観点からも好ましい。
【0036】
対象領域に使用する耐火物としては、例えば以下のものが挙げられる。
(1)非対象領域用の耐火物と異なる化学組成を有する耐火物
(2)流路内に不活性ガスの吹き込みが可能とされている耐火物
【0037】
前記(1)に挙げた、非対象領域用の耐火物と異なる化学組成を有する耐火物の形態としては、対象領域用の耐火物を非対象領域用の耐火物に比べて、溶鋼由来のアルミナを主成分とする溶鋼内介在物に対する低融物生成等の反応性に富む組成とする方法が挙げられる。この例としては、非対象領域用の耐火物に含まれていないCaO成分を含有する、若しくは対象領域用の耐火物中のCaO含有量を非対象領域用の耐火物よりも多くする等がある。特に、CaOを30質量%以上40質量%以下、MgOを40質量%以上50質量%以下、炭素を5質量%以上25質量%以下含有する耐火物が溶鋼内介在物の付着抑制の効果が最も大きく、溶鋼内介在物の付着が多い鋼種等の操業には、この組成の耐火物を使用することが望ましい。
また、対象領域用の耐火物を非対象領域用の耐火物に比べて、溶鋼内介在物に対する反応性が小さい、あるいは濡れ性が小さい組成として、接着や付着に至る前に溶鋼内介在物を流下させる方法が挙げられる。この例としては、非対象領域用の耐火物に含まれていないZrO2成分を含有する、若しくは対象領域用の耐火物中のZrO2含有量を非対象領域用の耐火物よりも多くする等がある。
【0038】
前記(2)に挙げた、流路内に不活性ガスを吹き込む機能を有している耐火物を対象領域の一部又は全部に適用する作用効果としては、このような耐火物の表面から不活性ガスを流路内に広範囲に吹き込むことにより、溶鋼内介在物が耐火物表面に接触する頻度を小さくする、あるいは耐火物表面に付着した溶鋼内介在物を不活性ガスにより除去することができる。
【0039】
具体的な形態としては、対象領域用の耐火物の通気性を非対象領域用の耐火物の通気性より大きくする方法が挙げられる。この例としては、対象領域用の耐火物の気孔径及び気孔率の何れか一方又は両方が非対象領域用の耐火物のそれらよりも大きく、対象領域用の耐火物のほうが非対象領域用の耐火物に比べて、連続鋳造用ノズルの流路へのガス吹き込み能力が大きな耐火物を用いるものである。この場合、不活性ガスは耐火物表面の広い範囲から分散して流出する。
また、上述した通気性の大きな耐火物の表面から不活性ガスを広範囲に分散して流出させる方法とは別に、耐火物の通気性の大小にかかわらず、不活性ガスを流路内に吹き込むための、断面積が2mm2以下程度の貫通孔(ガス導入部と連通した孔)を任意の数及び配置で耐火物の一部に設け、この貫通孔から連続鋳造用ノズルの流路内に不活性ガスを吹き込む方法を採ることもできる。
【0040】
図19(A)、(B)に示すように、不活性ガスを吹き込む機能を有する耐火物26には、その背後の耐火物壁内又は連続鋳造用ノズルの外周面に、不活性ガスの導入口27aを上部に有する導入経路27を配設することが必要である。
なお、この場合、対象領域用の耐火物の化学組成と非対象領域用の耐火物の化学組成は同じででよいし異なっていてもよい。前記(1)の付着性を低下させる化学組成と不活性ガス吹き込みによる付着抑制との併用も可能である。
【0041】
次に、本実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルの製造方法について説明する。
本実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、一対の吐出孔間に在って流路を画成する内壁に突条部を対向して形成すればよいので、通常の浸漬ノズルにて吐出孔を形成する方法を適用することができる。通常の浸漬ノズルにて吐出孔を形成する方法としては、例えば、最終形状よりも小さな吐出孔を成形した後、当該吐出孔を正面方向からボーリング等により削孔して、設定した断面寸法を有する突条部を形成する方法や、CIP(Cold Isostatic Pressing)成形時に、突条部となる部分を凹状の空間として成形時の芯金に形成しておき、その凹状空間に、管体を形成する坏土を充填して圧縮し、設定した断面寸法を有する突条部を形成するなどの方法を採ることができる。
【0042】
非対象領域用の耐火物と異なる化学組成である、対象領域用の耐火物を配設する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、対象領域用の耐火物を別途成形しておき、連続鋳造用ノズル本体部のCIP成形時にその耐火物成形体を装着し、加圧して一体化する方法や、対象領域用の耐火物成形体と連続鋳造用ノズル本体部とを別々に成形して加工しておき、対象領域用の耐火物成形体を前記本体部にモルタル等を介して設置する、等の方法を採ることができる。
【0043】
一方、流路内に不活性ガスの吹き込みが可能とされている耐火物を対象領域用の耐火物の一部又は全部として使用する場合も、連続鋳造用ノズルの流路から不活性ガスを吹き込む通常の構造品の場合と同様の製造方法を採ることができる。例えば、対象領域用の耐火物を別途成形しておき、連続鋳造用ノズル本体部のCIP成形時に前記耐火物成形体を装着し、加圧して一体化する方法や、対象領域用の耐火物成形体と連続鋳造用ノズル本体部とを別々に成形して加工しておき、対象領域用の耐火物成形体を前記本体部にモルタル等を介して設置する、等の方法を採ることができる。但し、成形時又は成形後の加工時等に、不活性ガスを吹き込むための導入口ないし導入経路を連続鋳造用ノズルの内壁又は外周等に設置することが必要である。
【0044】
[水モデル試験]
次に、突条部16を備えた吐出孔14の最適形状を確定するため、上記構成からなる浸漬ノズル10の模型を用いて実施した水モデル試験について説明する。
【0045】
図4に、水モデル試験を説明するための模式図を示す。
鋳型21は、縮尺1/1とし、アクリル樹脂で作製した。鋳型21のサイズは、長辺方向の幅(図4では左右方向)を925mm、短辺方向の幅(紙面に垂直な方向)を210mmとした。また、浸漬ノズル10から鋳型21に流入される水は、ポンプを用いて、引抜き速度が1.4m/minに相当するように循環させた。
【0046】
浸漬ノズル10は、鋳型21の中央に配置し、各吐出孔14が鋳型21の短辺がわ側壁23に面するようにした。また、鋳型21の短辺がわ側壁23から325mm(長辺方向の幅の1/4)、水面から30mmの位置に、プロペラ型の流速検出器22を設置し、反転流Frの流速を3分間測定した。そして、測定された左右の反転流Frの流速について標準偏差の差Δσ及び平均流速Vavを算出して評価した。
【0047】
ここで、反転流速と鋳込速度(スループット)との関係について説明しておく。
浸漬ノズルを挟んで左右の反転流速の標準偏差の差Δσとスループットの関係及び左右の反転流速の平均値Vavとスループットとの関係について明らかにするために水モデル試験を実施したところ、スループットが増大するにつれてΔσ及びVavが比例的に増大することが確認された。その際、鋳型サイズ及び浸漬ノズルの流路断面積としては、スラブの連続鋳造において一般的に使用される、長辺方向700mm〜2000mm×短辺方向150mm〜350mmの鋳型及び15cm2〜120cm2(φ50mm〜φ120mm)の浸漬ノズルを想定している。
スループットが1.4ton/min未満の場合、湯面における反転流速が不足傾向となり、7ton/minを超えると、反転流速が増大し、湯面変動の増大やモールドパウダーの巻き込みなどによる鋼品質の低下が懸念される。因って、スループットは1.4ton/min〜7ton/minであることが望ましく、左右の反転流速の標準偏差の差Δσが2.0cm/sec以下且つ左右の反転流速の平均値Vavが10cm/sec〜30cm/secである場合に、スループットは上記最適範囲に収まることが判明した。従って、以下に示す水モデル試験結果では、Δσが2.0cm/sec以下且つVavが10cm/sec〜30cm/secであることを評価基準として、各パラメータを決定した。
なお、水モデル試験におけるスループット値は、溶鋼比重/水比重=7.0として溶鋼換算した値である。
【0048】
図5(A)はa/a’とΔσとの関係、図5(B)はa/a’とVavとの関係を示したグラフである。図中、◆が試験結果、実線は回帰曲線を示し、これらは以降のグラフにおいても同様である。同図より、a/a’が0.05〜0.38の範囲内にある場合に、Δσが2.0cm/sec以下且つVavが10cm/sec〜30cm/secであることがわかる。
a/a’が0.05未満の場合、遮流及び整流効果が充分発揮されず、鋳型内の浸漬ノズル左右の流れが非対称となり、反転流速も30cm/secを超える。その結果、湯面変動が激しく、モールドパウダー巻き込み等の悪影響が生じる。一方、a/a’が0.38を超えると、吐出孔下方の流速が不足気味、換言すれば吐出孔上方の流速が過大となり、反転流速も30cm/secを超える。その結果、湯面変動が激しく、モールドパウダー巻き込み等の悪影響が生じる。
なお、本試験を実施した際の他のパラメータ値は以下の通りである。
b/b’=0.25、c/b’=0.57、L2/L1=0.83、θ=15°、R/a’=0.14
【0049】
図6(A)はb/b’とΔσとの関係、図6(B)はb/b’とVavとの関係を示したグラフである。同図より、b/b’が0.05〜0.5の範囲内にある場合に、Δσが2.0cm/sec以下且つVavが10cm/sec〜30cm/secであることがわかる。
b/b’が0.05未満とb/b’が0.5を超える場合は、a/a’の場合と同様の現象が発生し、湯面変動が激しく、モールドパウダー巻き込み等の悪影響が生じる。
本試験を実施した際の他のパラメータ値は以下の通りである。
a/a’=0.21、c/b’=0.48、L2/L1=0.77、θ=15°、R/a’=0.14
【0050】
図7(A)はc/b’とΔσとの関係、図7(B)はc/b’とVavとの関係を示したグラフである。同図より、Δσはc/b’値の変化に敏感ではないが、Vavに関しては、c/b’が0.15〜0.7の範囲内にある場合に、Vavが10cm/sec〜30cm/secとなることがわかる。
c/b’が0.15未満とc/b’が0.7を超える場合は、a/a’の場合と同様の現象が発生し、湯面変動が激しく、モールドパウダー巻き込み等の悪影響が生じる。
本試験を実施した際の他のパラメータ値は以下の通りである。
a/a’=0.24、b/b’=0.25、L2/L1=0.77、θ=15°、R/a’=0.14
【0051】
図8(A)はL2/L1とΔσとの関係、図8(B)はL2/L1とVavとの関係を示したグラフである。同図より、L2/L1が0〜1の範囲内にある場合に、Δσが2.0cm/sec以下且つVavが10cm/sec〜30cm/secであることがわかる。L2/L1=0は、L2=0、即ち、水平部16bの無い逆V字状の突条部16であることを示している。一方、L2/L1が1を超えると、浸漬ノズルの製造が困難になるという製造上の問題がある。
なお、本試験を実施した際の他のパラメータ値は以下の通りである。また、図8における◇は、突条部16が無い場合の結果を比較例として示したものである。
a/a’=0.29、b/b’=0.25、c/b’=0.5、θ=15°、R/a’=0.14
【0052】
図9(A)はR/a’とΔσとの関係、図9(B)はR/a’とVavとの関係を示したグラフであり、R/a’=0.5は、吐出孔の形状が長円形又は円形であることを示している。同図より、R/a’が大きくなると、若干Δσの値が大きくなるものの、特に大きな変化はないことがわかる。一方、Vavについては、R/a’が大きくなると、吐出孔面積が小さくなることによる影響により、反転流速が増加する傾向にある。しかしながら、Vavは10cm/sec〜30cm/secの範囲内にあり、コーナー部のアールを大きくした場合でも、突条部が有効に作用することが確認された。
なお、本試験を実施した際の他のパラメータ値は以下の通りである。また、本試験における鋳型サイズは1500mm×235mm、鋳込速度は3.0ton/minである。
a/a’=0.13、b/b’=0.25、c/b’=0.4、L2/L1=1、θ=0°
【0053】
表1は、本実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルについて、管体の底部に湯溜り部が有る場合と無い場合に関して実施した水モデル試験結果を示したものである。同表より、Δσ及びVavは、湯溜り部の有無にかかわらずほぼ等しい値を示すと共に最適範囲内にあることがわかる。
なお、本試験を実施した際のパラメータ値は以下の通りである。また、本試験における鋳型サイズは1200mm×235mm、鋳込速度は2.4ton/minである。
a/a’=0.14、b/b’=0.33、c/b’=0.5、L2/L1=1、θ=0°、R/a’=0.14
【0054】
【表1】
【0055】
[流体解析]
次に、本実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズル及び従来の連続鋳造用浸漬ノズルの吐出流について、それぞれ実施した流体解析について説明する。
【0056】
流体解析には、前述したフルーエント・アジア・パシフィック(株)製のFLUENTを使用した。図10に流体解析に使用した解析モデルを示す。同図において(A)が実施例、(B)が従来例である。本解析では、従来例として、底部を有する円筒状管体の下がわ側面部に流路と連通する一対の吐出孔が対向して形成された浸漬ノズルを用いた。一方、実施例は、対向する突条部を従来例に設けたものであり、諸元は以下の通りである。a/a’=0.13、b/b’=0.13、c/b’=0.43、L2/L1=0.68、θ=15°。また、鋳型は長辺方向1540mm、短辺方向235mmとし、鋳込速度は2.7ton/minとした。
【0057】
図11(A)、(B)に実施例の流体解析結果を、図12(A)、(B)に従来例の流体解析結果をそれぞれ示す。これらの図より、実施例は、鋳型内における左右の偏流が従来例に比べて少なく、湯面の反転流速も低減されていることがわかる。その結果、湯面変動が小さくなり、優れたスラブ品質と高速鋳造による生産効率の向上が可能となる。
【0058】
また、図13は、実施例に関して、吐出孔の上端面及び下端面の傾斜角度に対して突条部に形成された傾斜部の傾斜角度を変化させた場合における左右の反転流速の平均値Vavの値を、流体解析により算出した結果を示したものである。同図において、Δθは、突条部に形成された傾斜部の傾斜角度と吐出孔の上端面及び下端面の傾斜角度との差であり、Δθが負の場合、突条部に形成された傾斜部のほうが、吐出孔の上端面及び下端面よりも上向きであることを意味している。
同図より、Δθがゼロの場合、即ち突条部に形成された傾斜部と吐出孔の上端面及び下端面が同じ傾斜角度である場合が、Vavが最も小さくなることがわかる。また、Δθが−10°〜+7°の範囲において、Vavが10cm/sec〜30cm/secとなり、良好な反転流速を示すことが確認された。
【0059】
さらに、実施例において、突条部に形成された傾斜部の傾斜角度と吐出孔の上端面及び下端面の傾斜角度とを同期させて変化させた場合における吐出流について、流体解析により検討した。その結果を図14〜図17に示す。その際の諸元は以下の通りである。
図14(A)、(B)の場合、a/a’=0.13、b/b’=0.25、c/b’=0.4、L2/L1=1、θ=0°、鋳込速度:3.0ton/min
図15(A)、(B)の場合、a/a’=0.13、b/b’=0.13、c/b’=0.43、L2/L1=0.68、θ=25°、鋳込速度:2.7ton/min
図16(A)、(B)の場合、a/a’=0.13、b/b’=0.13、c/b’=0.43、L2/L1=0.68、θ=35°、鋳込速度:2.7ton/min
図17(A)、(B)の場合、a/a’=0.13、b/b’=0.13、c/b’=0.43、L2/L1=0.68、θ=45°、鋳込速度:2.7ton/min
図14〜図17及び先に示したθ=15°の解析結果(図11)より、傾斜角度が0°〜45°の場合、鋳型内における吐出流の偏流は少なく、湯面の反転流速も低減されることがわかる。
【0060】
[化学組成の異なる耐火物の溶鋼内介在物付着性評価試験]
化学組成の異なる耐火物の溶鋼内介在物付着性を試験室にて相対的に評価した試験について説明する。
【0061】
溶鋼内介在物の付着性に関する試験室における評価方法としては、例えば、対象領域用の耐火物と非対象領域用の耐火物それぞれの試料を溶鋼内に浸漬し、設定した温度、溶鋼流速の下、一定時間保持し、耐火物試料に付着した溶鋼内介在物の厚さ等を測定する方法や、溶鋼を耐火物試料の表面に滴下して、その反応性や濡れ性を評価して溶鋼内介在物付着性を推定する、等の方法が挙げられる。
【0062】
本試験に使用した装置の模式図を図23に示す。試験装置は、溶融金属34が貯えられる耐火物製の容器33と、試料となる耐火物31が装着され、溶融金属34中で回転する回転体30とを備えている。本試験における回転体30は、鉛直方向に長い角柱状とされ、下端部の各側面に耐火物31を装着した状態で、回転体30の材軸回りに回転可能とされている。一方、容器33の外周部には高周波加熱装置35が配置されており、溶融金属34の温度制御を行うことができる。
試験時には、溶融金属34の温度を高周波加熱装置35の高周波出力の調整によって一定温度に維持しつつ、耐火物31が装着された回転体30を溶融金属34に浸漬する。そして、溶融金属34中で回転体30を一定速度で回転させ、所定時間経過後、回転体30を引き上げ、耐火物31に付着した溶鋼内介在物の付着性を評価する。
【0063】
試験条件は以下の通りである。
・溶鋼:極低炭素鋼(Alを0.2質量%添加)
・鋼中酸素濃度:10ppm以下
・溶鋼温度:1550〜1580℃
・試料回転速度:200rpm
・試験時間:90分
【0064】
溶鋼内介在物の付着性評価に使用した耐火物の化学組成及び試験結果の一覧を表2に示す。表中の付着速度は、耐火物A(非対象領域用の耐火物)の付着速度を100としたときの各耐火物の相対的指数であり、付着速度が小さいほうが付着抑制効果が大きい。また、表中の介在物付着抑制機能は、非対象領域用の耐火物を基準とした各耐火物の介在物付着抑制機能に関する相対的評価である。
【0065】
【表2】
【0066】
連続鋳造用ノズルの本体部を構成する非対象領域用の耐火物は、アルミナ及び黒鉛を主体とする材質とし、対象領域用の耐火物は、CaO、MgO、SiO2、ZrO2等を含有し、対象領域用の耐火物とは化学組成が異なっている。なお、その他の成分としては、上記以外の酸化物、非酸化物、金属などから選択する1種又は複数種を用いている。
表2より、対象領域用の耐火物として試験に供した耐火物B〜Hは、いずれも非対象領域用の耐火物Aに比べて溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れていることがわかる。なお、耐火物D、E、Fの付着速度が負になっているが、これは、本試験において付着よりも溶損が大きいことを示すものである。
【0067】
[耐火物表面からのガス吹き込みによる溶鋼内介在物付着性評価試験]
耐火物表面から不活性ガスを吹込む機能を有する対象領域用の耐火物の溶鋼内介在物付着性について、非対象領域用の耐火物を基準として試験室にて相対的に評価した試験について説明する。
【0068】
本試験に使用した装置の模式図を図24に示す。試料体40は、内部が中空部42とされた有底管状体である。その上端面は、栓体43をねじ込むことによって封止される。試料体40の管壁の一部に試験対象となる通気性を有する耐火物41が装着される。一方、試料体40の本体部分、即ち、通気性を有する耐火物41と栓体43を除いた部分は難通気性耐火物で形成されている。
試料体40の上端部を保持装置44で保持し、管壁に装着された耐火物41を、耐火物製の容器46内に貯えられた溶融金属48に浸漬する。容器46の外周部には高周波加熱装置47が配置されており、溶融金属48の温度制御を行うことができる。
試験時には、溶融金属48の温度を高周波加熱装置47の高周波出力の調整によって一定温度に維持しつつ、試料体40上端面に螺挿された栓体43を貫通する導入経路45から中空部42に不活性ガスを送給する。中空部42内に不活性ガスを充填して加圧すると、耐火物41の表面から溶融金属48中に不活性ガスが吹き出すので、送給した不活性ガス量を計測することにより、耐火物41の通気性を評価することができる。
【0069】
試験条件は以下の通りである。
・溶鋼:極低炭素鋼(Alを0.2質量%添加)
・鋼中酸素濃度:10ppm以下
・溶鋼温度:1550〜1570℃
・不活性ガスを吹き込む場合の不活性ガス量:0.01〜0.05NL/(min・cm2)
・背圧:0.1〜0.5MPa
・試験時間:120分
【0070】
表3に試験結果を示す。非対象領域用の耐火物と対象領域用の耐火物には、同じ化学組成で通気特性が異なるものを選択した。なお、表中の付着速度は、ケース1(耐火物A、即ち非対象領域用の耐火物のガス吹き込みを行わない場合)の付着速度を100としたときの相対的指数であり、付着速度が小さいほうが付着抑制効果が大きい。また、表中の介在物付着抑制機能は、ケース1を基準とした各ケースの介在物付着抑制機能に関する相対的評価である。また、通気率は、JIS R2115「耐火物の通気率の試験方法」に準じた方法で測定した値である。
【0071】
表3より、対象領域用の耐火物として試験に供した、ガス吹き込み機能を付加した耐火物はいずれも、非対象領域用のガス吹き込み機能のない耐火物に比べて溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れていることがわかる。
【0072】
【表3】
【0073】
[実操業における溶鋼内介在物付着性評価]
本実施の形態に係る連続鋳造用ノズルについて、実操業にて鋳型内溶鋼変動の程度と、溶鋼由来の溶鋼内介在物の付着の状況を相対的に評価した。
評価対象は以下の3ケースとした。
(1)実施例:吐出孔内壁に突条部を有し、突条部から下方を対象領域とし、対象領域に配設された耐火物が非対象領域に配設された耐火物とは異なる化学組成からなり、不活性ガスを吹き込む機能を有していない耐火物を適用した連続鋳造用ノズル
(2)比較例1:吐出孔内壁に突条部を有し、流路面全域が同一の化学組成からなり、不活性ガスを吹き込む機能を有していない耐火物を適用した連続鋳造用ノズル
(3)比較例2:吐出孔内壁に突条部が無く、流路面全域が同一の化学組成からなり、不活性ガスを吹き込む機能を有していない耐火物を適用した連続鋳造用ノズル
【0074】
実施例と比較例1の連続鋳造用ノズルの突条部のパラメータ値は、a/a’=0.13、b/b’=0.25、c/b’=0.4、L2/L1=1.0、θ=0°、R/a’=0.13である。
また、非対象領域用の耐火物には耐火物A、対象領域用の耐火物には耐火物Bをそれぞれ使用した。
【0075】
操業条件は以下の通りである。
・鋳込速度:2.4ton/min
・溶鋼:中炭素鋼、低炭素鋼(Al約0.005〜約0.1質量%)
・溶鋼温度:1550〜1570℃
・操業時間:約120〜約480分
【0076】
本評価方法では、各連続鋳造用ノズルについて複数の鋳造試験を行った。鋳造中の溶鋼流の変動については、吐出孔の開度の変化及び鋳型内の溶鋼面の乱れを目視観察し、溶鋼内介在物の付着状況については、使用後の連続鋳造用ノズルを切断してその最大付着厚さを測定した。
【0077】
試験結果を表4に、鋳込み経過時間と吐出孔の開度との相関性(付着状況)を図20にそれぞれ示す。表4中の付着速度は、図20に示す実操業における鋳造時間xと吐出孔の開度yとの相関性を直線回帰式y=αx+βで近似したときの傾きαの絶対値を付着物の成長速度とみなしたうえで、比較例1の付着速度を100としたときの相対的指数であり、付着速度が小さいほうが付着抑制効果が大きい。また、図20の縦軸に示す吐出孔の開度は、鋳造開始時の吐出孔の面積を1としたときの相対値である。
【0078】
【表4】
【0079】
比較例1の連続鋳造用ノズルは、本操業条件において、比較例2に比べて、鋳造初期から途中までの間の溶鋼流変動が極めて小さく、安定した溶鋼流動状態を得ることができたが、鋳造途中から吐出孔の開度が小さくなり、即ち溶鋼内介在物の付着が比較例2よりも大きくなった。使用後の調査においても、比較例1の溶鋼内介在物の付着程度は比較例2の約1.7倍強(平均)となっていた。
【0080】
一方、実施例の連続鋳造用ノズルでは、比較例1と比較して、鋳造初期から最後まで溶鋼流変動が極めて小さく、安定した溶鋼流動状態を得ることができた。鋳造中における吐出孔の開度も相対的に大きく、即ち溶鋼内介在物の付着が比較例1よりも小さかった。使用後の調査においても、実施例の溶鋼内介在物の付着程度は比較例1の約0.48倍(平均)となっており、溶鋼内介在物付着抑制効果を確認することができた。
また、実施例は、比較例2と比較しても、鋳造初期から最後まで溶鋼流変動が極めて小さく、安定した溶鋼流動状態を得ることができた。鋳造中における吐出孔の開度も比較例2よりも大きく、使用後の調査においても、実施例の溶鋼内介在物の付着程度は比較例2に対し約18%(平均)小さくなっており、溶鋼内介在物付着抑制効果を確認することができた。
【0081】
これらの結果から、実操業において、吐出孔内壁への突条部の設置により溶鋼流の変動は極めて小さくなることがわかる。それと同時に、対象領域、即ち吐出孔上端から下方の流路面の少なくとも一部に、非対象領域に配設される耐火物に比べて相対的に溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物を配設することにより、溶鋼内介在物の付着を大幅に抑制することができる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、連続鋳造用浸漬ノズルの管体は円筒状としているが、角形状など他の形状も含むものである。また、上記実施の形態では、突条部の両端部に傾斜部を設けているが、突条部に傾斜部を設けず、吐出孔の上端面及び下端面を水平としてもよい。なお、連続鋳造用浸漬ノズルの吐出孔の形状は矩形状が好ましいが、長円形や楕円形などでもよい。
【符号の説明】
【0083】
10:浸漬ノズル(連続鋳造用浸漬ノズル)、11:管体、12:流路、13:流入口、14:吐出孔、14a:上端面、14b:下端面、15:底部、16:突条部、16a:傾斜部、16b:水平部、17:湯溜り部、18:内壁、21:鋳型、22:流速検出器、23:短辺がわ側壁、25:対象領域、26:耐火物、27:導入経路、27a:導入口、28:溶鋼内介在物、30:回転体、31:耐火物、33:容器、34:溶融金属、35:高周波加熱装置、40:試料体、41:耐火物、42:中空部、43:栓体、44:保持装置、45:導入経路、46:容器、47:高周波加熱装置、48:溶融金属
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュから鋳型内に溶鋼を注湯する連続鋳造用浸漬ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
溶鋼を連続的に冷却凝固させて所定形状の鋳片を形成する連続鋳造工程では、タンディッシュの底部に設置された連続鋳造用浸漬ノズル(以下では、単に「浸漬ノズル」と呼ぶこともある。)を介して鋳型内に溶鋼が注湯される。
一般に、浸漬ノズルは、上端部が溶鋼の流入口とされ、流入口から下方に延びる流路が内部に形成された、底部を有する管体からなり、管体の下がわ側面部には、流路と連通する一対の吐出孔が対向して形成されている。浸漬ノズルは、その下部を鋳型内の溶鋼中に浸漬させた状態で使用される。これにより、注湯された溶鋼の飛散を防止すると共に、溶鋼と大気との接触を遮断して酸化を防止している。また、浸漬ノズルを使用することにより鋳型内の溶鋼が整流化され、湯面を浮遊するスラグや非金属溶鋼内介在物などの不純物が溶鋼中へ巻き込まれないようにしている。
【0003】
近年、連続鋳造工程における鋼品質の高品位化及び高生産化が求められている。現有設備において高生産化を指向する場合、鋳込速度を上げる必要があり、限られた鋳型内で浸漬ノズルの流路径を大きくしたり、吐出孔を大きくしたりして通鋼量を稼ぐ工夫がなされている。
【0004】
しかし、吐出孔を大きくすると、吐出孔から吐出する吐出流の上下方向及び/又は左右方向の流速分布にアンバランスが生じる。そして、このアンバランスな流れ(偏流)が鋳型の短辺がわ側壁に衝突することにより、鋳型内において不安定な溶鋼流が引き起こされる。その結果、過大な反転流による湯面変動やモールドパウダーの巻き込みによる鋼品質の低下を招くと共に、ブレークアウト等の要因になっていた。
【0005】
そこで、例えば特許文献1では、管体の下がわ側面部に対向して形成された一対の吐出孔を、内方に突出する突起部によって上下2段又は3段に分割して総数4個又は6個の吐出孔とした浸漬ノズルの発明が開示されている(図25(A)、(B)参照)。そして、当該浸漬ノズルによれば、詰まりを抑制すると共に、より一様な吐出流速を有し、回転と渦が大幅に減少した、より安定且つ制御された吐出流が生成されるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2005/049249号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、特許文献1に記載された浸漬ノズルと、管体の下がわ側面部に対向して形成された一対の吐出孔を有する従来の浸漬ノズルと、従来の浸漬ノズルにおいて対向する吐出孔間の流路中央部に内方に突出する突起部を設けたタイプ(図26参照)について水モデル試験を実施し、各浸漬ノズルから吐出される吐出流のバラツキについて検証した。
【0008】
図27は、各浸漬ノズルの水モデル結果を示したものである。同図では、鋳型を短辺方向から見て、浸漬ノズルを挟んで左右の反転流速の標準偏差の平均値σavを横軸、左右の反転流速の標準偏差の差Δσ及び左右の反転流速の平均値Vavを縦軸に採っている。また、試験体Aが特許文献1に記載された浸漬ノズル(4吐出孔タイプ)、試験体Bが従来の浸漬ノズル、試験体Cが流路中央部(浸漬ノズルの内壁面上かつ流路幅の中央部)に突起部を設けた浸漬ノズルに対応している。
図27(A)より、左右の反転流速の標準偏差の差Δσ、即ち左右の反転流速の差が最も大きい浸漬ノズルが従来タイプであり、特許文献1に記載された浸漬ノズルと流路中央部に突起部を設けた浸漬ノズルは、左右の反転流速の差が小さいことがわかる。一方、図27(B)より、従来の浸漬ノズルと特許文献1に記載された浸漬ノズルは左右の反転流速の平均値Vavが大きく、流路中央部に突起部を設けた浸漬ノズルは左右の反転流速の平均値Vavが小さいことがわかる。
【0009】
鋳込速度(スループット)が増大するにつれて、左右の反転流速の標準偏差の差Δσ及び左右の反転流速の平均値Vavは増大することが確認されているが、鋼品質の高品位化の観点からすれば、Δσは2cm/sec以下、Vavは10cm/sec〜30cm/secが望ましい。この点に関し、Δσについては全ての試験体において2cm/sec以下となっているが、Vavについては、全ての試験体が10cm/sec〜30cm/secの範囲から外れている。
【0010】
また、特許文献1に記載された浸漬ノズル(4吐出孔タイプ)の場合、図28(A)、(B)に示す流体解析結果が示すように、下側吐出孔からの吐出流が多く、上側吐出孔からの吐出流が少ない。その結果、反転流速が35cm/secと大きな値を示している。なお、流体解析時の鋳型サイズは1500mm×235mm、鋳込速度は3.0ton/minである。
加えて、特許文献1に記載された浸漬ノズルでは、吐出孔が4個以上有るため、製造が複雑になり過ぎると共に、吐出孔の閉塞や溶損が発生した場合、吐出流のバランスが崩れやすいという難点がある。
【0011】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、吐出孔から吐出する溶鋼流の偏流及び湯面変動が小さな連続鋳造用浸漬ノズルを提供することを第1の目的とする。
さらに、前記第1の目的である、吐出孔から吐出する溶鋼流の偏流を少なくして湯面変動を小さくすることに成功しても、溶鋼の成分その他の個別の操業条件によっては、連続鋳造用浸漬ノズルの内壁に溶鋼由来の溶鋼内介在物が付着し、鋳造時間が長くなるにつれて付着量が増大して当該連続鋳造用浸漬ノズルの閉塞を招来し、ひいては鋳造を継続することができなくなる場合があることが判明した。
そこで、本発明では、連続鋳造用浸漬ノズルの流路面への溶鋼内介在物の付着を抑制して鋳造可能時間を延ばすことを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明は、上端部が溶鋼の流入口とされ、該流入口から下方に延びる流路が内部に形成された、管体の下がわ側面部に、前記流路と連通する一対の吐出孔が対向して形成された連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、一対の前記吐出孔間に在って前記流路を画成する内壁に、内方に突出し該内壁を水平方向に横断する突条部が対向配置され、一対の前記吐出孔の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部(以下、「対象領域」という)に、前記対象領域以外の領域(以下、「非対象領域」という)に配設された耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物が配設されていることを特徴としている。
【0013】
ここで、「内壁を水平方向に横断する」とは、内壁の一方の側端(一方の吐出孔との境界位置)から他方の側端(他方の吐出孔との境界位置)まで、突条部が水平方向に延在することを意味する。
また、「一対の前記吐出孔の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部」とは、溶鋼流速が低い領域、即ち、一対の吐出孔間に在って流路を画成する内壁、流路に底部が形成されている場合は該底部、及び突条部の一部又は全部を含む領域をいい、「対象領域以外の領域に配設された耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物」とは、溶鋼内介在物の付着に関する試験室又は実操業における評価において、対象領域用の耐火物への溶鋼内介在物の付着程度(付着量や付着厚さ)が、非対象領域用の耐火物への溶鋼内介在物の付着程度より相対的に小さな耐火物をいう。
なお、本明細書では、連続鋳造用浸漬ノズルを鉛直に立てた状態に基づいて各方向を設定している。
【0014】
従来の連続鋳造用浸漬ノズルでは、吐出孔から吐出する吐出流の流速分布が下方に偏り不均一となっていたが、本発明では、対向する突条部による堰き止め効果により、吐出孔上部においても吐出流を得ることができる。一方、対向する突条部間を下方に通過する溶鋼流は、突条部間のクリアランスによる整流効果によって、突条部の延在方向と平行な鉛直面内において管体軸を挟んで左右均等な流れとなる。また、吐出流が均等となることによって、鋳型の短辺がわ側壁に衝突する吐出流の最大速度が緩和され、反転流速が小さくなる。その結果、過大な反転流による湯面変動やモールドパウダーの巻き込みがなくなり、鋼品質の低下を防止することができる。
【0015】
ところで、連続鋳造用浸漬ノズルに関する実操業結果と溶鋼流動のシミュレーション結果とを対比すると、後述するように、溶鋼内介在物の付着程度と溶鋼流の速度との間には強い相関関係が見られる。即ち、溶鋼流速が小さくなる、一対の吐出孔の上端より下方に位置する流路面に溶鋼内介在物の付着が生じる。その付着の程度は、溶鋼流速が小さいほど大きく、内壁に突条部を設けた場合に、この現象が加速されることがある。
そこで、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、一対の吐出孔の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部の対象領域に、対象領域以外の領域に配設する耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物を配設するものである。
【0016】
具体的には、前記対象領域に配設された耐火物の化学組成を、前記非対象領域に配設された耐火物と異なる化学組成としてもよいし、あるいは、前記対象領域に配設された耐火物の一部又は全部から前記流路内に不活性ガスを吹き込むようにしてもよい。
【0017】
また、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、前記吐出孔を正面視して、該吐出孔の水平方向の幅をa’、鉛直方向の幅をb’とし、前記突条部端面の突出高さをa、鉛直方向の幅をbとすると、a/a’=0.05〜0.38、b/b’=0.05〜0.5であることを好適とする。さらに、該吐出孔の上縁から前記突条部端面の鉛直方向の幅の1/2までの鉛直距離をcとすると、c/b’=0.15〜0.7であることを好適とする。
【0018】
また、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、前記突条部の両端部が外方に向けて下方に傾斜する傾斜部とされていることが好ましい。またそれに伴い、前記吐出孔の上端面及び下端面が外方に向けて下方に傾斜し、該上端面及び該下端面の傾斜角度と前記傾斜部の傾斜角度とが同角度であることが好ましい。
吐出孔の上端面及び下端面が外方に向けて下方に傾斜した浸漬ノズルにおいて、延在方向の両端部に傾斜部の無い突条部を設けた場合、突条部上方における吐出流が突条部により遮られ、上方に向けて吐出する流れとなる。そして、この流れが、鋳型表面における反転流と衝突するため、反転流速の安定化が図れなくなる。このため、突条部の両端部に形成した傾斜部の傾斜角度は、吐出孔の上端面及び下端面の傾斜角度と同角度であることが望ましい。
【0019】
また、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、前記突条部の延在方向に関し、一対の前記吐出孔の直上における前記流路の幅をL1、前記傾斜部を除いた前記突条部の長さをL2とすると、L2/L1=0〜1であることが好ましい。
【0020】
また、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、前記上端面、前記下端面、及び前記傾斜部の傾斜角度は0〜45°であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、一対の吐出孔間に在って流路を画成する内壁に、内方に突出し、該内壁を水平方向に横断する突条部を対向配置することによって、吐出孔全域に亘って吐出流を分散、均一化させることができる。これにより、鋳型の短辺がわ側壁に衝突する吐出流の流速分布及び衝突位置を安定化させることができ、鋳型表面の反転流速を低減することができる。その結果、湯面変動が小さくなると共に、浸漬ノズル左右の流れも対称に近づき、鋼品質の高品位化及び高生産化が可能となる。
【0022】
加えて、本発明に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、一対の吐出孔の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部の対象領域に、対象領域以外の領域に配設された耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物が配設されているので、内壁への溶鋼内介在物の付着が抑制され、ひいては鋳造可能時間を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルを示し、(A)は側面図、(B)は縦断面図である。
【図2】同連続鋳造用浸漬ノズルの部分側面図である。
【図3】(A)、(B)は、同連続鋳造用浸漬ノズルの部分縦断面図とそのA−A矢視断面図である。
【図4】水モデル試験を説明するための模式図である。
【図5】(A)はa/a’とΔσとの関係、(B)はa/a’とVavとの関係を示すグラフである。
【図6】(A)はb/b’とΔσとの関係、(B)はb/b’とVavとの関係を示すグラフである。
【図7】(A)はc/b’とΔσとの関係、(B)はc/b’とVavとの関係を示すグラフである。
【図8】(A)はL2/L1とΔσとの関係、(B)はL2/L1とVavとの関係を示すグラフである。
【図9】(A)はR/a’とΔσとの関係、(B)はR/a’とVavとの関係を示すグラフである。
【図10】流体解析に使用した解析モデルの模式図を示し、(A)は実施例、(B)は従来例である。
【図11】実施例の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図12】従来例の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図13】ΔθとVavとの関係を示すグラフである。
【図14】実施例(θ=0°)の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図15】実施例(θ=25°)の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図16】実施例(θ=35°)の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図17】実施例(θ=45°)の流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【図18】本発明の一実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルにおける対象領域を示し、(A)は側面図、(B)は縦断面図である。
【図19】本発明の他の実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルを示し、(A)は吐出孔側から見た縦断面図、(B)は吐出孔と直交する方向から見た縦断面図である。
【図20】鋳造時間と吐出孔の開度との関係を示したグラフである。
【図21】吐出孔内に溶鋼内介在物が付着している状況を示した模式図である。
【図22】吐出孔内の溶鋼流速分布を示した模式図である。
【図23】化学組成の異なる耐火物の付着性評価試験に使用する装置の模式図である。
【図24】通気性を有する耐火物の付着性評価試験に使用する装置の模式図である。
【図25】特許文献1に記載された連続鋳造用浸漬ノズルを示し、(A)は縦断面図、(B)は平断面図である。
【図26】対向する吐出孔間の流路中央部に突起部を設けた連続鋳造用浸漬ノズルの部分縦断面図である。
【図27】(A)はσavとΔσとの関係、(B)はσavとVavとの関係を示すグラフである。
【図28】特許文献1に記載された浸漬ノズルの流体解析結果を示し、(A)は流体の鉛直面内の流れを示す説明図、(B)は流体の水平面内の流れを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0025】
本発明の一実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズル(以下では、単に「浸漬ノズル」と呼ぶ。)10の形状を図1(A)、(B)に示す。
浸漬ノズル10は、円筒状の管体11からなり(本実施の形態では、底部15を有する場合を示す。)、内部に形成された流路12の上端は溶鋼の流入口13とされている。一方、管体11の下がわ側面部には、流路12と連通する一対の吐出孔14が対向して形成されている。なお、浸漬ノズル10には耐スポーリング性及び耐食性が要求されるため、管体11はアルミナ黒鉛質などの耐火物によって形成されている。
【0026】
吐出孔14は正面視してコーナー部にアールが設けられた矩形状とされ、一対の吐出孔14間に在って流路12を画成する内壁18には、内方に向けて突出し当該内壁18を水平方向に横断する突条部16が対向配置されている。即ち、対向する突条部16は、一対の吐出孔14の中心を通る鉛直面を挟んで対称に配置されている。突条部16間のクリアランスは一定とされ、延在方向の両端部は、外方に向けて下方に傾斜する傾斜部16aとされている(図3参照)。一方、各吐出孔14の上端面14a及び下端面14bも外方に向けて下方に傾斜しており、本実施の形態では、突条部16に形成された傾斜部16aと吐出孔14の上端面14a及び下端面14bとは同じ傾斜角度とされている。
【0027】
突条部16は、内壁18の一方の側端(一方の吐出孔14との境界位置)から他方の側端(他方の吐出孔14との境界位置)まで水平方向に延在している。突条部16の延在方向の端面は、図3(A)に示すように、延在方向と直交する鉛直面とすることが好ましい。但し、管体11が円筒状等の場合、図3(B)に示すように、突条部16の延在方向端面の形状を管体11の外周面の形状に合わせてもよく、これによって溶鋼の吐出流が影響を受けることはない。なお、図3(A)、(B)のA−A矢視断面図を部分縦断面図の下側にそれぞれ示す。
【0028】
ここで、突条部16を備えた吐出孔14の形状を規定するパラメータを定義しておく。
吐出孔14を正面視して、吐出孔14の水平方向の幅をa’、鉛直方向の幅をb’とする。突条部16は矩形状断面とし、突条部16の端面の突出高さをa、鉛直方向の幅をbとすると共に、吐出孔14の上縁から突条部16の端面の鉛直方向の幅の1/2までの鉛直距離をcとする(図2参照)。なお、「矩形状断面」は、矩形断面の角部にアールを有するものを含む。
また、突条部16の延在方向に関し、一対の吐出孔14の直上における流路12の幅をL1、傾斜部16aを除いた突条部16の長さ(水平部16bの長さ)をL2とし(図3参照)、突条部16に形成された傾斜部16a並びに吐出孔14の上端面14a及び下端面14bの下向き傾斜角度をθとすると共に、吐出孔14コーナー部の曲率半径をRとする。
【0029】
なお、管体11の底部15には、凹陥状の湯溜り部17を形成することが好ましい。このような凹陥状の湯溜り部17が管体11の底部15に無くても本発明の効果を得ることができるが、浸漬ノズル10に注湯された溶鋼を一旦、湯溜り部17で受けることにより、両吐出孔14へ、より均一かつ、より安定的に分散させることができる。
また、吐出孔14の水平方向の幅a’は、流路12の幅(円筒状の流路12の場合は直径)と同じ場合でも異なる場合でも本発明の効果に影響はない。
【0030】
ところで、本発明者らによる連続鋳造用浸漬ノズルの調査及び解析の結果、突条部を設けた連続鋳造用浸漬ノズルの場合、アルミナを主成分とする溶鋼内介在物の流路面への付着は、突条部から下方に集中し、この付着の程度は、溶鋼流速の程度と相関性があることが判明した。
吐出孔の下端位置が流路の底部位置にほぼ一致する構造である連続鋳造用浸漬ノズルを例に採り、実操業での溶鋼内介在物の付着状況とシミュレーションによる溶鋼流に関する流体解析結果に基づき、上記知見について説明する。
【0031】
図21は、実操業後の連続鋳造用浸漬ノズルの吐出孔部分の縦方向断面(吐出孔方向視)を示したものである。吐出孔14内に設けた突条部16付近から下方の流路面に溶鋼内介在物28が付着している。突条部16直下の吐出孔14の下側コーナー部付近が最も付着厚さが大きく、そこを起点にして突条部16の上方及び流路の底部中央に向かって付着厚さが漸減している。
【0032】
また、図22は、この連続鋳造用浸漬ノズルについて、流路を通過する溶鋼の流体解析を実施した結果を可視化したものである。図中、矢印の向きは溶鋼流の方向を示し、矢印の種類は溶鋼流速の大きさの度合を表している。溶鋼流速の大きさの度合は、吐出孔直上部における流路から吐出孔中央付近までの領域の溶鋼最大流速を100とし、溶鋼流速が0(ゼロ)までの範囲を概ね4段階に区分した範囲(それぞれの範囲は25の速度幅を有する。)に相当する。
流体解析には、フルーエント・アジア・パシフィック(株)製のFLUENT(流体解析ソフトウェア)を使用し、流体解析を実施した際のパラメータ値は以下の通りである。
a/a’=0.13、b/b’=0.13、c/b’=0.43、L2/L1=0.68、θ=15°、鋳込(注湯)速度=2.7ton/min
【0033】
同図より、突条部下面、突条部下方のコーナー部を含む突条部下側の内壁面、及び流路の底部の一部の領域が、吐出孔内で最も流速が小さい領域であることがわかる。また、突条部の先端面、及び突条部直上付近の内壁面(突条部の吐出孔中央方向に突出した長さと同程度の高さ)が、溶鋼流速が小さい(中位の)領域となっている。
【0034】
解析結果を実操業における溶鋼内介在物の付着状況と対比してみると、溶鋼内介在物の付着程度の大きい領域は、溶鋼流速が相対的に小さい領域にほぼ一致し、付着の程度も溶鋼流速の相対的な大きさと相関があること、即ち、溶鋼流速が小さいほど付着厚みが大きい傾向にあることがわかる。
そこで、本発明では、吐出孔上端から下方の流路面の一部又は全部(以下、「対象領域」という。)に、対象領域以外の領域(以下、「非対象領域」という。)に配設した耐火物に比べて相対的に溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物を配設する。
【0035】
具体的には、溶鋼流速が最も小さい領域である、突条部下面、突条部下方のコーナー部を含む突条部下側の内壁面、及び流路の底部の一部の領域を対象領域に含む。また、溶鋼内介在物に対する付着抑制効果を増大させるため、突条部の先端面、及び突条部直上付近の内壁面を対象領域に含むことが好ましい。
さらにまた、操業条件の変動等による溶鋼内介在物の付着抑制効果の低下等の可能性(鋼種や通鋼速度の変動等により溶鋼流速分布が変化し、低速領域が拡大する等の条件変動があった場合、溶鋼内介在物の付着位置、厚さ等の変動等が生じる可能性をいう。)がある場合には、より確実に溶鋼内介在物の付着を抑制ないし防止するため、図18(A)、(B)に示すように、吐出孔14上端から下方の流路面全域を対象領域25とすることがさらに好ましい。加えて、吐出孔14上端から下方の流路面全域を対象領域とすると、連続鋳造用ノズルの製造が容易となるので、この観点からも好ましい。
【0036】
対象領域に使用する耐火物としては、例えば以下のものが挙げられる。
(1)非対象領域用の耐火物と異なる化学組成を有する耐火物
(2)流路内に不活性ガスの吹き込みが可能とされている耐火物
【0037】
前記(1)に挙げた、非対象領域用の耐火物と異なる化学組成を有する耐火物の形態としては、対象領域用の耐火物を非対象領域用の耐火物に比べて、溶鋼由来のアルミナを主成分とする溶鋼内介在物に対する低融物生成等の反応性に富む組成とする方法が挙げられる。この例としては、非対象領域用の耐火物に含まれていないCaO成分を含有する、若しくは対象領域用の耐火物中のCaO含有量を非対象領域用の耐火物よりも多くする等がある。特に、CaOを30質量%以上40質量%以下、MgOを40質量%以上50質量%以下、炭素を5質量%以上25質量%以下含有する耐火物が溶鋼内介在物の付着抑制の効果が最も大きく、溶鋼内介在物の付着が多い鋼種等の操業には、この組成の耐火物を使用することが望ましい。
また、対象領域用の耐火物を非対象領域用の耐火物に比べて、溶鋼内介在物に対する反応性が小さい、あるいは濡れ性が小さい組成として、接着や付着に至る前に溶鋼内介在物を流下させる方法が挙げられる。この例としては、非対象領域用の耐火物に含まれていないZrO2成分を含有する、若しくは対象領域用の耐火物中のZrO2含有量を非対象領域用の耐火物よりも多くする等がある。
【0038】
前記(2)に挙げた、流路内に不活性ガスを吹き込む機能を有している耐火物を対象領域の一部又は全部に適用する作用効果としては、このような耐火物の表面から不活性ガスを流路内に広範囲に吹き込むことにより、溶鋼内介在物が耐火物表面に接触する頻度を小さくする、あるいは耐火物表面に付着した溶鋼内介在物を不活性ガスにより除去することができる。
【0039】
具体的な形態としては、対象領域用の耐火物の通気性を非対象領域用の耐火物の通気性より大きくする方法が挙げられる。この例としては、対象領域用の耐火物の気孔径及び気孔率の何れか一方又は両方が非対象領域用の耐火物のそれらよりも大きく、対象領域用の耐火物のほうが非対象領域用の耐火物に比べて、連続鋳造用ノズルの流路へのガス吹き込み能力が大きな耐火物を用いるものである。この場合、不活性ガスは耐火物表面の広い範囲から分散して流出する。
また、上述した通気性の大きな耐火物の表面から不活性ガスを広範囲に分散して流出させる方法とは別に、耐火物の通気性の大小にかかわらず、不活性ガスを流路内に吹き込むための、断面積が2mm2以下程度の貫通孔(ガス導入部と連通した孔)を任意の数及び配置で耐火物の一部に設け、この貫通孔から連続鋳造用ノズルの流路内に不活性ガスを吹き込む方法を採ることもできる。
【0040】
図19(A)、(B)に示すように、不活性ガスを吹き込む機能を有する耐火物26には、その背後の耐火物壁内又は連続鋳造用ノズルの外周面に、不活性ガスの導入口27aを上部に有する導入経路27を配設することが必要である。
なお、この場合、対象領域用の耐火物の化学組成と非対象領域用の耐火物の化学組成は同じででよいし異なっていてもよい。前記(1)の付着性を低下させる化学組成と不活性ガス吹き込みによる付着抑制との併用も可能である。
【0041】
次に、本実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルの製造方法について説明する。
本実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルでは、一対の吐出孔間に在って流路を画成する内壁に突条部を対向して形成すればよいので、通常の浸漬ノズルにて吐出孔を形成する方法を適用することができる。通常の浸漬ノズルにて吐出孔を形成する方法としては、例えば、最終形状よりも小さな吐出孔を成形した後、当該吐出孔を正面方向からボーリング等により削孔して、設定した断面寸法を有する突条部を形成する方法や、CIP(Cold Isostatic Pressing)成形時に、突条部となる部分を凹状の空間として成形時の芯金に形成しておき、その凹状空間に、管体を形成する坏土を充填して圧縮し、設定した断面寸法を有する突条部を形成するなどの方法を採ることができる。
【0042】
非対象領域用の耐火物と異なる化学組成である、対象領域用の耐火物を配設する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、対象領域用の耐火物を別途成形しておき、連続鋳造用ノズル本体部のCIP成形時にその耐火物成形体を装着し、加圧して一体化する方法や、対象領域用の耐火物成形体と連続鋳造用ノズル本体部とを別々に成形して加工しておき、対象領域用の耐火物成形体を前記本体部にモルタル等を介して設置する、等の方法を採ることができる。
【0043】
一方、流路内に不活性ガスの吹き込みが可能とされている耐火物を対象領域用の耐火物の一部又は全部として使用する場合も、連続鋳造用ノズルの流路から不活性ガスを吹き込む通常の構造品の場合と同様の製造方法を採ることができる。例えば、対象領域用の耐火物を別途成形しておき、連続鋳造用ノズル本体部のCIP成形時に前記耐火物成形体を装着し、加圧して一体化する方法や、対象領域用の耐火物成形体と連続鋳造用ノズル本体部とを別々に成形して加工しておき、対象領域用の耐火物成形体を前記本体部にモルタル等を介して設置する、等の方法を採ることができる。但し、成形時又は成形後の加工時等に、不活性ガスを吹き込むための導入口ないし導入経路を連続鋳造用ノズルの内壁又は外周等に設置することが必要である。
【0044】
[水モデル試験]
次に、突条部16を備えた吐出孔14の最適形状を確定するため、上記構成からなる浸漬ノズル10の模型を用いて実施した水モデル試験について説明する。
【0045】
図4に、水モデル試験を説明するための模式図を示す。
鋳型21は、縮尺1/1とし、アクリル樹脂で作製した。鋳型21のサイズは、長辺方向の幅(図4では左右方向)を925mm、短辺方向の幅(紙面に垂直な方向)を210mmとした。また、浸漬ノズル10から鋳型21に流入される水は、ポンプを用いて、引抜き速度が1.4m/minに相当するように循環させた。
【0046】
浸漬ノズル10は、鋳型21の中央に配置し、各吐出孔14が鋳型21の短辺がわ側壁23に面するようにした。また、鋳型21の短辺がわ側壁23から325mm(長辺方向の幅の1/4)、水面から30mmの位置に、プロペラ型の流速検出器22を設置し、反転流Frの流速を3分間測定した。そして、測定された左右の反転流Frの流速について標準偏差の差Δσ及び平均流速Vavを算出して評価した。
【0047】
ここで、反転流速と鋳込速度(スループット)との関係について説明しておく。
浸漬ノズルを挟んで左右の反転流速の標準偏差の差Δσとスループットの関係及び左右の反転流速の平均値Vavとスループットとの関係について明らかにするために水モデル試験を実施したところ、スループットが増大するにつれてΔσ及びVavが比例的に増大することが確認された。その際、鋳型サイズ及び浸漬ノズルの流路断面積としては、スラブの連続鋳造において一般的に使用される、長辺方向700mm〜2000mm×短辺方向150mm〜350mmの鋳型及び15cm2〜120cm2(φ50mm〜φ120mm)の浸漬ノズルを想定している。
スループットが1.4ton/min未満の場合、湯面における反転流速が不足傾向となり、7ton/minを超えると、反転流速が増大し、湯面変動の増大やモールドパウダーの巻き込みなどによる鋼品質の低下が懸念される。因って、スループットは1.4ton/min〜7ton/minであることが望ましく、左右の反転流速の標準偏差の差Δσが2.0cm/sec以下且つ左右の反転流速の平均値Vavが10cm/sec〜30cm/secである場合に、スループットは上記最適範囲に収まることが判明した。従って、以下に示す水モデル試験結果では、Δσが2.0cm/sec以下且つVavが10cm/sec〜30cm/secであることを評価基準として、各パラメータを決定した。
なお、水モデル試験におけるスループット値は、溶鋼比重/水比重=7.0として溶鋼換算した値である。
【0048】
図5(A)はa/a’とΔσとの関係、図5(B)はa/a’とVavとの関係を示したグラフである。図中、◆が試験結果、実線は回帰曲線を示し、これらは以降のグラフにおいても同様である。同図より、a/a’が0.05〜0.38の範囲内にある場合に、Δσが2.0cm/sec以下且つVavが10cm/sec〜30cm/secであることがわかる。
a/a’が0.05未満の場合、遮流及び整流効果が充分発揮されず、鋳型内の浸漬ノズル左右の流れが非対称となり、反転流速も30cm/secを超える。その結果、湯面変動が激しく、モールドパウダー巻き込み等の悪影響が生じる。一方、a/a’が0.38を超えると、吐出孔下方の流速が不足気味、換言すれば吐出孔上方の流速が過大となり、反転流速も30cm/secを超える。その結果、湯面変動が激しく、モールドパウダー巻き込み等の悪影響が生じる。
なお、本試験を実施した際の他のパラメータ値は以下の通りである。
b/b’=0.25、c/b’=0.57、L2/L1=0.83、θ=15°、R/a’=0.14
【0049】
図6(A)はb/b’とΔσとの関係、図6(B)はb/b’とVavとの関係を示したグラフである。同図より、b/b’が0.05〜0.5の範囲内にある場合に、Δσが2.0cm/sec以下且つVavが10cm/sec〜30cm/secであることがわかる。
b/b’が0.05未満とb/b’が0.5を超える場合は、a/a’の場合と同様の現象が発生し、湯面変動が激しく、モールドパウダー巻き込み等の悪影響が生じる。
本試験を実施した際の他のパラメータ値は以下の通りである。
a/a’=0.21、c/b’=0.48、L2/L1=0.77、θ=15°、R/a’=0.14
【0050】
図7(A)はc/b’とΔσとの関係、図7(B)はc/b’とVavとの関係を示したグラフである。同図より、Δσはc/b’値の変化に敏感ではないが、Vavに関しては、c/b’が0.15〜0.7の範囲内にある場合に、Vavが10cm/sec〜30cm/secとなることがわかる。
c/b’が0.15未満とc/b’が0.7を超える場合は、a/a’の場合と同様の現象が発生し、湯面変動が激しく、モールドパウダー巻き込み等の悪影響が生じる。
本試験を実施した際の他のパラメータ値は以下の通りである。
a/a’=0.24、b/b’=0.25、L2/L1=0.77、θ=15°、R/a’=0.14
【0051】
図8(A)はL2/L1とΔσとの関係、図8(B)はL2/L1とVavとの関係を示したグラフである。同図より、L2/L1が0〜1の範囲内にある場合に、Δσが2.0cm/sec以下且つVavが10cm/sec〜30cm/secであることがわかる。L2/L1=0は、L2=0、即ち、水平部16bの無い逆V字状の突条部16であることを示している。一方、L2/L1が1を超えると、浸漬ノズルの製造が困難になるという製造上の問題がある。
なお、本試験を実施した際の他のパラメータ値は以下の通りである。また、図8における◇は、突条部16が無い場合の結果を比較例として示したものである。
a/a’=0.29、b/b’=0.25、c/b’=0.5、θ=15°、R/a’=0.14
【0052】
図9(A)はR/a’とΔσとの関係、図9(B)はR/a’とVavとの関係を示したグラフであり、R/a’=0.5は、吐出孔の形状が長円形又は円形であることを示している。同図より、R/a’が大きくなると、若干Δσの値が大きくなるものの、特に大きな変化はないことがわかる。一方、Vavについては、R/a’が大きくなると、吐出孔面積が小さくなることによる影響により、反転流速が増加する傾向にある。しかしながら、Vavは10cm/sec〜30cm/secの範囲内にあり、コーナー部のアールを大きくした場合でも、突条部が有効に作用することが確認された。
なお、本試験を実施した際の他のパラメータ値は以下の通りである。また、本試験における鋳型サイズは1500mm×235mm、鋳込速度は3.0ton/minである。
a/a’=0.13、b/b’=0.25、c/b’=0.4、L2/L1=1、θ=0°
【0053】
表1は、本実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズルについて、管体の底部に湯溜り部が有る場合と無い場合に関して実施した水モデル試験結果を示したものである。同表より、Δσ及びVavは、湯溜り部の有無にかかわらずほぼ等しい値を示すと共に最適範囲内にあることがわかる。
なお、本試験を実施した際のパラメータ値は以下の通りである。また、本試験における鋳型サイズは1200mm×235mm、鋳込速度は2.4ton/minである。
a/a’=0.14、b/b’=0.33、c/b’=0.5、L2/L1=1、θ=0°、R/a’=0.14
【0054】
【表1】
【0055】
[流体解析]
次に、本実施の形態に係る連続鋳造用浸漬ノズル及び従来の連続鋳造用浸漬ノズルの吐出流について、それぞれ実施した流体解析について説明する。
【0056】
流体解析には、前述したフルーエント・アジア・パシフィック(株)製のFLUENTを使用した。図10に流体解析に使用した解析モデルを示す。同図において(A)が実施例、(B)が従来例である。本解析では、従来例として、底部を有する円筒状管体の下がわ側面部に流路と連通する一対の吐出孔が対向して形成された浸漬ノズルを用いた。一方、実施例は、対向する突条部を従来例に設けたものであり、諸元は以下の通りである。a/a’=0.13、b/b’=0.13、c/b’=0.43、L2/L1=0.68、θ=15°。また、鋳型は長辺方向1540mm、短辺方向235mmとし、鋳込速度は2.7ton/minとした。
【0057】
図11(A)、(B)に実施例の流体解析結果を、図12(A)、(B)に従来例の流体解析結果をそれぞれ示す。これらの図より、実施例は、鋳型内における左右の偏流が従来例に比べて少なく、湯面の反転流速も低減されていることがわかる。その結果、湯面変動が小さくなり、優れたスラブ品質と高速鋳造による生産効率の向上が可能となる。
【0058】
また、図13は、実施例に関して、吐出孔の上端面及び下端面の傾斜角度に対して突条部に形成された傾斜部の傾斜角度を変化させた場合における左右の反転流速の平均値Vavの値を、流体解析により算出した結果を示したものである。同図において、Δθは、突条部に形成された傾斜部の傾斜角度と吐出孔の上端面及び下端面の傾斜角度との差であり、Δθが負の場合、突条部に形成された傾斜部のほうが、吐出孔の上端面及び下端面よりも上向きであることを意味している。
同図より、Δθがゼロの場合、即ち突条部に形成された傾斜部と吐出孔の上端面及び下端面が同じ傾斜角度である場合が、Vavが最も小さくなることがわかる。また、Δθが−10°〜+7°の範囲において、Vavが10cm/sec〜30cm/secとなり、良好な反転流速を示すことが確認された。
【0059】
さらに、実施例において、突条部に形成された傾斜部の傾斜角度と吐出孔の上端面及び下端面の傾斜角度とを同期させて変化させた場合における吐出流について、流体解析により検討した。その結果を図14〜図17に示す。その際の諸元は以下の通りである。
図14(A)、(B)の場合、a/a’=0.13、b/b’=0.25、c/b’=0.4、L2/L1=1、θ=0°、鋳込速度:3.0ton/min
図15(A)、(B)の場合、a/a’=0.13、b/b’=0.13、c/b’=0.43、L2/L1=0.68、θ=25°、鋳込速度:2.7ton/min
図16(A)、(B)の場合、a/a’=0.13、b/b’=0.13、c/b’=0.43、L2/L1=0.68、θ=35°、鋳込速度:2.7ton/min
図17(A)、(B)の場合、a/a’=0.13、b/b’=0.13、c/b’=0.43、L2/L1=0.68、θ=45°、鋳込速度:2.7ton/min
図14〜図17及び先に示したθ=15°の解析結果(図11)より、傾斜角度が0°〜45°の場合、鋳型内における吐出流の偏流は少なく、湯面の反転流速も低減されることがわかる。
【0060】
[化学組成の異なる耐火物の溶鋼内介在物付着性評価試験]
化学組成の異なる耐火物の溶鋼内介在物付着性を試験室にて相対的に評価した試験について説明する。
【0061】
溶鋼内介在物の付着性に関する試験室における評価方法としては、例えば、対象領域用の耐火物と非対象領域用の耐火物それぞれの試料を溶鋼内に浸漬し、設定した温度、溶鋼流速の下、一定時間保持し、耐火物試料に付着した溶鋼内介在物の厚さ等を測定する方法や、溶鋼を耐火物試料の表面に滴下して、その反応性や濡れ性を評価して溶鋼内介在物付着性を推定する、等の方法が挙げられる。
【0062】
本試験に使用した装置の模式図を図23に示す。試験装置は、溶融金属34が貯えられる耐火物製の容器33と、試料となる耐火物31が装着され、溶融金属34中で回転する回転体30とを備えている。本試験における回転体30は、鉛直方向に長い角柱状とされ、下端部の各側面に耐火物31を装着した状態で、回転体30の材軸回りに回転可能とされている。一方、容器33の外周部には高周波加熱装置35が配置されており、溶融金属34の温度制御を行うことができる。
試験時には、溶融金属34の温度を高周波加熱装置35の高周波出力の調整によって一定温度に維持しつつ、耐火物31が装着された回転体30を溶融金属34に浸漬する。そして、溶融金属34中で回転体30を一定速度で回転させ、所定時間経過後、回転体30を引き上げ、耐火物31に付着した溶鋼内介在物の付着性を評価する。
【0063】
試験条件は以下の通りである。
・溶鋼:極低炭素鋼(Alを0.2質量%添加)
・鋼中酸素濃度:10ppm以下
・溶鋼温度:1550〜1580℃
・試料回転速度:200rpm
・試験時間:90分
【0064】
溶鋼内介在物の付着性評価に使用した耐火物の化学組成及び試験結果の一覧を表2に示す。表中の付着速度は、耐火物A(非対象領域用の耐火物)の付着速度を100としたときの各耐火物の相対的指数であり、付着速度が小さいほうが付着抑制効果が大きい。また、表中の介在物付着抑制機能は、非対象領域用の耐火物を基準とした各耐火物の介在物付着抑制機能に関する相対的評価である。
【0065】
【表2】
【0066】
連続鋳造用ノズルの本体部を構成する非対象領域用の耐火物は、アルミナ及び黒鉛を主体とする材質とし、対象領域用の耐火物は、CaO、MgO、SiO2、ZrO2等を含有し、対象領域用の耐火物とは化学組成が異なっている。なお、その他の成分としては、上記以外の酸化物、非酸化物、金属などから選択する1種又は複数種を用いている。
表2より、対象領域用の耐火物として試験に供した耐火物B〜Hは、いずれも非対象領域用の耐火物Aに比べて溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れていることがわかる。なお、耐火物D、E、Fの付着速度が負になっているが、これは、本試験において付着よりも溶損が大きいことを示すものである。
【0067】
[耐火物表面からのガス吹き込みによる溶鋼内介在物付着性評価試験]
耐火物表面から不活性ガスを吹込む機能を有する対象領域用の耐火物の溶鋼内介在物付着性について、非対象領域用の耐火物を基準として試験室にて相対的に評価した試験について説明する。
【0068】
本試験に使用した装置の模式図を図24に示す。試料体40は、内部が中空部42とされた有底管状体である。その上端面は、栓体43をねじ込むことによって封止される。試料体40の管壁の一部に試験対象となる通気性を有する耐火物41が装着される。一方、試料体40の本体部分、即ち、通気性を有する耐火物41と栓体43を除いた部分は難通気性耐火物で形成されている。
試料体40の上端部を保持装置44で保持し、管壁に装着された耐火物41を、耐火物製の容器46内に貯えられた溶融金属48に浸漬する。容器46の外周部には高周波加熱装置47が配置されており、溶融金属48の温度制御を行うことができる。
試験時には、溶融金属48の温度を高周波加熱装置47の高周波出力の調整によって一定温度に維持しつつ、試料体40上端面に螺挿された栓体43を貫通する導入経路45から中空部42に不活性ガスを送給する。中空部42内に不活性ガスを充填して加圧すると、耐火物41の表面から溶融金属48中に不活性ガスが吹き出すので、送給した不活性ガス量を計測することにより、耐火物41の通気性を評価することができる。
【0069】
試験条件は以下の通りである。
・溶鋼:極低炭素鋼(Alを0.2質量%添加)
・鋼中酸素濃度:10ppm以下
・溶鋼温度:1550〜1570℃
・不活性ガスを吹き込む場合の不活性ガス量:0.01〜0.05NL/(min・cm2)
・背圧:0.1〜0.5MPa
・試験時間:120分
【0070】
表3に試験結果を示す。非対象領域用の耐火物と対象領域用の耐火物には、同じ化学組成で通気特性が異なるものを選択した。なお、表中の付着速度は、ケース1(耐火物A、即ち非対象領域用の耐火物のガス吹き込みを行わない場合)の付着速度を100としたときの相対的指数であり、付着速度が小さいほうが付着抑制効果が大きい。また、表中の介在物付着抑制機能は、ケース1を基準とした各ケースの介在物付着抑制機能に関する相対的評価である。また、通気率は、JIS R2115「耐火物の通気率の試験方法」に準じた方法で測定した値である。
【0071】
表3より、対象領域用の耐火物として試験に供した、ガス吹き込み機能を付加した耐火物はいずれも、非対象領域用のガス吹き込み機能のない耐火物に比べて溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れていることがわかる。
【0072】
【表3】
【0073】
[実操業における溶鋼内介在物付着性評価]
本実施の形態に係る連続鋳造用ノズルについて、実操業にて鋳型内溶鋼変動の程度と、溶鋼由来の溶鋼内介在物の付着の状況を相対的に評価した。
評価対象は以下の3ケースとした。
(1)実施例:吐出孔内壁に突条部を有し、突条部から下方を対象領域とし、対象領域に配設された耐火物が非対象領域に配設された耐火物とは異なる化学組成からなり、不活性ガスを吹き込む機能を有していない耐火物を適用した連続鋳造用ノズル
(2)比較例1:吐出孔内壁に突条部を有し、流路面全域が同一の化学組成からなり、不活性ガスを吹き込む機能を有していない耐火物を適用した連続鋳造用ノズル
(3)比較例2:吐出孔内壁に突条部が無く、流路面全域が同一の化学組成からなり、不活性ガスを吹き込む機能を有していない耐火物を適用した連続鋳造用ノズル
【0074】
実施例と比較例1の連続鋳造用ノズルの突条部のパラメータ値は、a/a’=0.13、b/b’=0.25、c/b’=0.4、L2/L1=1.0、θ=0°、R/a’=0.13である。
また、非対象領域用の耐火物には耐火物A、対象領域用の耐火物には耐火物Bをそれぞれ使用した。
【0075】
操業条件は以下の通りである。
・鋳込速度:2.4ton/min
・溶鋼:中炭素鋼、低炭素鋼(Al約0.005〜約0.1質量%)
・溶鋼温度:1550〜1570℃
・操業時間:約120〜約480分
【0076】
本評価方法では、各連続鋳造用ノズルについて複数の鋳造試験を行った。鋳造中の溶鋼流の変動については、吐出孔の開度の変化及び鋳型内の溶鋼面の乱れを目視観察し、溶鋼内介在物の付着状況については、使用後の連続鋳造用ノズルを切断してその最大付着厚さを測定した。
【0077】
試験結果を表4に、鋳込み経過時間と吐出孔の開度との相関性(付着状況)を図20にそれぞれ示す。表4中の付着速度は、図20に示す実操業における鋳造時間xと吐出孔の開度yとの相関性を直線回帰式y=αx+βで近似したときの傾きαの絶対値を付着物の成長速度とみなしたうえで、比較例1の付着速度を100としたときの相対的指数であり、付着速度が小さいほうが付着抑制効果が大きい。また、図20の縦軸に示す吐出孔の開度は、鋳造開始時の吐出孔の面積を1としたときの相対値である。
【0078】
【表4】
【0079】
比較例1の連続鋳造用ノズルは、本操業条件において、比較例2に比べて、鋳造初期から途中までの間の溶鋼流変動が極めて小さく、安定した溶鋼流動状態を得ることができたが、鋳造途中から吐出孔の開度が小さくなり、即ち溶鋼内介在物の付着が比較例2よりも大きくなった。使用後の調査においても、比較例1の溶鋼内介在物の付着程度は比較例2の約1.7倍強(平均)となっていた。
【0080】
一方、実施例の連続鋳造用ノズルでは、比較例1と比較して、鋳造初期から最後まで溶鋼流変動が極めて小さく、安定した溶鋼流動状態を得ることができた。鋳造中における吐出孔の開度も相対的に大きく、即ち溶鋼内介在物の付着が比較例1よりも小さかった。使用後の調査においても、実施例の溶鋼内介在物の付着程度は比較例1の約0.48倍(平均)となっており、溶鋼内介在物付着抑制効果を確認することができた。
また、実施例は、比較例2と比較しても、鋳造初期から最後まで溶鋼流変動が極めて小さく、安定した溶鋼流動状態を得ることができた。鋳造中における吐出孔の開度も比較例2よりも大きく、使用後の調査においても、実施例の溶鋼内介在物の付着程度は比較例2に対し約18%(平均)小さくなっており、溶鋼内介在物付着抑制効果を確認することができた。
【0081】
これらの結果から、実操業において、吐出孔内壁への突条部の設置により溶鋼流の変動は極めて小さくなることがわかる。それと同時に、対象領域、即ち吐出孔上端から下方の流路面の少なくとも一部に、非対象領域に配設される耐火物に比べて相対的に溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物を配設することにより、溶鋼内介在物の付着を大幅に抑制することができる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、連続鋳造用浸漬ノズルの管体は円筒状としているが、角形状など他の形状も含むものである。また、上記実施の形態では、突条部の両端部に傾斜部を設けているが、突条部に傾斜部を設けず、吐出孔の上端面及び下端面を水平としてもよい。なお、連続鋳造用浸漬ノズルの吐出孔の形状は矩形状が好ましいが、長円形や楕円形などでもよい。
【符号の説明】
【0083】
10:浸漬ノズル(連続鋳造用浸漬ノズル)、11:管体、12:流路、13:流入口、14:吐出孔、14a:上端面、14b:下端面、15:底部、16:突条部、16a:傾斜部、16b:水平部、17:湯溜り部、18:内壁、21:鋳型、22:流速検出器、23:短辺がわ側壁、25:対象領域、26:耐火物、27:導入経路、27a:導入口、28:溶鋼内介在物、30:回転体、31:耐火物、33:容器、34:溶融金属、35:高周波加熱装置、40:試料体、41:耐火物、42:中空部、43:栓体、44:保持装置、45:導入経路、46:容器、47:高周波加熱装置、48:溶融金属
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端部が溶鋼の流入口とされ、該流入口から下方に延びる流路が内部に形成された、管体の下がわ側面部に、前記流路と連通する一対の吐出孔が対向して形成された連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、
一対の前記吐出孔間に在って前記流路を画成する内壁に、内方に突出し該内壁を水平方向に横断する突条部が対向配置され、
一対の前記吐出孔の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部(以下、「対象領域」という)に、前記対象領域以外の領域(以下、「非対象領域」という)に配設された耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物が配設されていることを特徴とする連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項2】
請求項1記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記対象領域に配設された耐火物は、前記非対象領域に配設された耐火物と異なる化学組成である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項3】
請求項1又は2記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記対象領域に配設された耐火物の一部又は全部から前記流路内に不活性ガスの吹き込みが可能とされている連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔を正面視して、該吐出孔の水平方向の幅をa’、鉛直方向の幅をb’とし、前記突条部端面の突出高さをa、鉛直方向の幅をbとすると、a/a’=0.05〜0.38、b/b’=0.05〜0.5である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項5】
請求項4記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔を正面視して、該吐出孔の上縁から前記突条部端面の鉛直方向の幅の1/2までの鉛直距離をcとすると、c/b’=0.15〜0.7である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記突条部の両端部が外方に向けて下方に傾斜する傾斜部とされている連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項7】
請求項6記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔の上端面及び下端面が外方に向けて下方に傾斜し、該上端面及び該下端面の傾斜角度と前記傾斜部の傾斜角度とが同角度である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項8】
請求項7記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記突条部の延在方向に関し、一対の前記吐出孔の直上における前記流路の幅をL1、前記傾斜部を除いた前記突条部の長さをL2とすると、L2/L1=0〜1である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項9】
請求項8記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記上端面、前記下端面、及び前記傾斜部の傾斜角度が0〜45°である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項1】
上端部が溶鋼の流入口とされ、該流入口から下方に延びる流路が内部に形成された、管体の下がわ側面部に、前記流路と連通する一対の吐出孔が対向して形成された連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、
一対の前記吐出孔間に在って前記流路を画成する内壁に、内方に突出し該内壁を水平方向に横断する突条部が対向配置され、
一対の前記吐出孔の上端より下方に位置する流路面の一部又は全部(以下、「対象領域」という)に、前記対象領域以外の領域(以下、「非対象領域」という)に配設された耐火物に比べて、溶鋼内介在物の付着を抑制する機能に優れる耐火物が配設されていることを特徴とする連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項2】
請求項1記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記対象領域に配設された耐火物は、前記非対象領域に配設された耐火物と異なる化学組成である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項3】
請求項1又は2記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記対象領域に配設された耐火物の一部又は全部から前記流路内に不活性ガスの吹き込みが可能とされている連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔を正面視して、該吐出孔の水平方向の幅をa’、鉛直方向の幅をb’とし、前記突条部端面の突出高さをa、鉛直方向の幅をbとすると、a/a’=0.05〜0.38、b/b’=0.05〜0.5である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項5】
請求項4記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔を正面視して、該吐出孔の上縁から前記突条部端面の鉛直方向の幅の1/2までの鉛直距離をcとすると、c/b’=0.15〜0.7である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記突条部の両端部が外方に向けて下方に傾斜する傾斜部とされている連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項7】
請求項6記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記吐出孔の上端面及び下端面が外方に向けて下方に傾斜し、該上端面及び該下端面の傾斜角度と前記傾斜部の傾斜角度とが同角度である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項8】
請求項7記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記突条部の延在方向に関し、一対の前記吐出孔の直上における前記流路の幅をL1、前記傾斜部を除いた前記突条部の長さをL2とすると、L2/L1=0〜1である連続鋳造用浸漬ノズル。
【請求項9】
請求項8記載の連続鋳造用浸漬ノズルにおいて、前記上端面、前記下端面、及び前記傾斜部の傾斜角度が0〜45°である連続鋳造用浸漬ノズル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
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【図26】
【図27】
【図28】
【公開番号】特開2011−73011(P2011−73011A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−224984(P2009−224984)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】
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