説明

連続鋳造用鋳型

【課題】 長時間連続で鋳造しても鋳造材に表面の荒れやちぎれが生じず、良好な表面性状を有する鋳造材を高い生産性で生産することができる連続鋳造用鋳型を提供する。
【解決手段】 連続鋳造用鋳型1は、内面1aが、テーパ角度0.1度以上、1.3度以下で鋳造方向に向かって広がるテーパ状に形成され、熱伝導率が0.7cal/cm・sec・℃以上、かつ、降伏応力が250MPa以上の材料からなることを特徴とする。更に、連続鋳造用鋳型1は、材料が銅合金であることを特徴とする

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミニウム合金という)の連続鋳造用鋳型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、効率よく生産することができる鋳造方法として連続鋳造がある。この連続鋳造では、アルミニウム合金の溶湯を筒状の鋳型に導入し、アルミニウム合金を冷却しながら鋳型の内面を滑らせて外部に徐々に排出することで、所定の径の鋳造材を連続して製造することができる。連続鋳造としては、一般的に縦(垂直)型連続鋳造と横(水平)型連続鋳造とが行われている。
【0003】
縦型連続鋳造では、上下が開放された鋳型の上部から溶湯を導入し、鋳造材を下部の開口から自重によって排出、あるいは、下方向に引き抜くことで、連続的に鋳造材が製造される。また、横型連続鋳造では、水平方向に開放された鋳型の一方の開口から溶湯を導入し、他方の開口側から鋳造材を支えながら引き抜くことで、連続的に鋳造材が製造される。横型連続鋳造は、縦型連続鋳造に比べて、鋳型内においてアルミニウム合金が自重で下がるために鋳型の内面に供給された潤滑油の潤滑皮膜の分布が不均一になりやすく、鋳造材を引き抜く際の制御を厳密に行う必要が生じる一方、鉛直方向に小さい設備となるため、設備にかかるコストが小さく、また、長い鋳造材を製造しやすいという特徴がある。
【0004】
また、自動車用サスペンション等の鍛造部品を鍛造する前の鍛造素材として、従来、押出加工によって加工された押出材が一般的に使用されてきたが、近年、更にコストダウンを図るため、鍛造素材として押出材に替わり鋳造材が用いられるようになってきた。そのため、押出材のサイズである直径50〜100(mm)程度の従来よりも比較的小さい径の鋳造材を連続鋳造によって製造する必要が生じている。
【0005】
そして、従来の連続鋳造では、鋳造材の直径が小さいと鋳造中に冷却の不均一等により鋳造材がちぎれやすくなり、生産性や品質を著しく損なうという問題があった。このような問題点を解決する技術として、鋳型の内径を鋳造材の鋳造時の収縮にあわせた冷却構造とすることや(特許文献1参照)、鋳型部において潤滑油を均一に分布させて鋳造材表面性状の低下を防止することが(特許文献2参照)開示されている。
【特許文献1】特開昭56−39152号公報(第1頁右下欄第12行目〜第2頁右下欄第18行目、図面)
【特許文献2】特開平11−170009号公報(段落番号0006〜0009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、鋳型に特許文献1に記載されるような冷却構造を設けても、アルミニウム合金は鋳造時の収縮が小さいため、鋳造材がアルミニウム合金の場合には鋳型と鋳造材との間に隙間ができず、鋳型内部において接触抵抗が大きくなることがあり、鋳造時に鋳造材がちぎれるという問題があった。
【0007】
また、特許文献2に記載されるように潤滑油を供給しても、アルミニウム合金の引き抜き時の荷重や鋳型内における鋳造材の位置にバラつきが生じる場合があり、これによって潤滑油の分布が不均一になり、冷却・抜熱が不均一となることがあった。そしてこのとき、数時間連続で鋳造すると鋳造材の表面に荒れが生じ、やがてちぎれが生じるという問題があった。
【0008】
本発明は前記の問題点に鑑みて創案されたものであり、長時間連続で鋳造しても鋳造材に表面の荒れやちぎれが生じず、良好な表面性状を有する鋳造材を高い生産性で生産することができる連続鋳造用鋳型を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、請求項1に記載の連続鋳造用鋳型は、内面が、テーパ角度0.1度以上、1.3度以下で鋳造方向に向かって広がるテーパ状に形成され、熱伝導率が0.7(cal/cm・sec・℃)以上、かつ、降伏応力が250(MPa)以上の材料からなる構成とした。
【0010】
また、請求項2に記載の連続鋳造用鋳型は、請求項1に記載の連続鋳造用鋳型において、前記材料が銅合金である構成とした。
【0011】
このように構成すれば、鋳造材の引き抜きの際の鋳型との接触抵抗を小さくできるとともに、抜熱・冷却が均一に行われ、良好な表面性状を有する鋳造材を長時間連続して生産できる連続鋳造用鋳型を提供することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る連続鋳造用鋳型では、テーパ角度及び鋳型の材質を適正に設定しているので、長時間鋳造しても表面性状の良い鋳造材を得ることができる。そのため、鋳造材を高い生産性で生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、ここでは、本発明に係る連続鋳造用鋳型を横型連続鋳造を行う連続鋳造装置に装着した場合について説明する。
[連続鋳造装置の構成]
まず、図1を参照して、本発明に係る連続鋳造用鋳型1を備える連続鋳造装置Aの構成について説明する。図1は、本発明に係る連続鋳造用鋳型を備える連続鋳造装置の構成を模式的に示す側面断面図である。
【0014】
連続鋳造装置Aは、横型連続鋳造によって、アルミニウム合金の鋳造材Bを製造するものである。連続鋳造装置Aは、連続鋳造用鋳型1と、セラミックノズル2と、溶湯溜槽3と、固定手段4と、引抜手段5とを備える。また、連続鋳造装置Aは、図示しない冷却水輸送管と潤滑油輸送管とを介して、後記する連続鋳造用鋳型1の冷却水供給孔12、12、…(図2参照)と潤滑油供給孔13、13、…とに外部から冷却水と潤滑油とが導入されている。
【0015】
連続鋳造用鋳型1は、セラミックノズル2から導入されたアルミニウム合金の溶湯Mを冷却し、所定の径の鋳造材Bを製造するものである。連続鋳造用鋳型1は、水平方向に開放された筒状の形状を有し、一方の開口にはセラミックノズル2が接続されている。
【0016】
セラミックノズル2は、耐熱性を有するセラミックからなるノズルであり、溶湯溜槽3内のアルミニウム合金の溶湯Mを連続鋳造用鋳型1に供給するものである。セラミックノズル2は、溶湯溜槽3の側面を貫通して設けられている。
【0017】
溶湯溜槽3は、アルミニウム合金の溶湯Mを貯留するものである。固定手段4は、溶湯溜槽3の外部側面に取り付けられ、連続鋳造用鋳型1とセラミックノズル2とを、溶湯溜槽3に固定するものである。
【0018】
引抜手段5は、鋳造材Bを支持するとともに、連続鋳造用鋳型1から引き抜くものである。この引抜手段5は、連続鋳造用鋳型1内において冷却され所定の径に鋳造された鋳造材Bを一定の速度で水平方向に引き抜くため、鋳造材Bが連続鋳造される。
【0019】
[連続鋳造用鋳型の構成]
次に、図2を参照(適宜図1参照)して、連続鋳造用鋳型1の構成について説明する。図2は、本発明に係る連続鋳造鋳型の構成を模式的に示す模式図、(a)は、連続鋳造用鋳型とセラミックノズルの一部とを模式的に示す側面断面図、(b)は、(a)においてCで示した連続鋳造用鋳型の内面の一部を拡大して示す模式図である。連続鋳造用鋳型1は、鋳造材B(図1参照)に冷却水を供給するための冷却水供給孔12、12、…と、当該連続鋳造用鋳型1の内面1aと鋳造材Bとの間に潤滑油を供給するための潤滑油供給孔13、13、…とが形成されている。この冷却水供給孔12、12、…と潤滑油供給孔13、13、…は、連続鋳造用鋳型1を貫通して複数設けられている。
【0020】
ここで、連続鋳造用鋳型1は、テーパ状の内面1aを有する。この内面1aは、図2(b)に示すように、鋳造進行方向に向かって径が大きくなるテーパ状に形成され、そのテーパ角度(勾配)θは0.1度以上、1.3度以下に設定される。更に、連続鋳造用鋳型1は、熱伝導率が0.7(cal/cm・sec・℃)以上であり、降伏応力が250(MPa)以上の材料からなる。なお、ここでは、連続鋳造用鋳型1は、冷却水供給孔12、12、…の出口付近から鋳造方向に向かって、内面1aより大きいテーパ角度で広がるようにテーパ状に形成された出口側開口部1bを更に有することとした。
【0021】
次に、本発明に係る連続鋳造用鋳型1の内面1aのテーパ角度θと、連続鋳造用鋳型1を構成する材料の熱伝導率及び降伏応力を数値限定した理由について説明する。
【0022】
(テーパ角度θ:0.1〜1.3度)
連続鋳造用鋳型1のテーパ角度θが0.1度未満であると、鋳造材Bの引き抜き時における連続鋳造用鋳型1と鋳造材Bとの接触抵抗が大きくなるとともに、連続鋳造用鋳型1と鋳造材Bとの間の潤滑油の分布に偏りが生じる。そのため、鋳造材Bに不均一な潤滑皮膜が形成され、鋳造開始から数時間後にちぎれが生じる。一方、テーパ角度θが1.3度より大きいと、鋳造材Bの表面と連続鋳造用鋳型1の内面1aとの隙間が広くなり、冷却水供給孔12、12、…から供給している冷却水が連続鋳造用鋳型1内に流れ込み、鋳造不能となる。従って、テーパ角度θは、0.1度以上、1.3度以下とする必要がある。なお、このテーパ角度θは、本発明の目的をよりよく達成するためには、0.1度以上、1.0度以下であることがより好ましく、0.3度以上、0.7度以下であることが更に好ましい。
【0023】
(熱伝導率:0.7(cal/cm・sec・℃)以上)
連続鋳造用鋳型1を構成する材料の熱伝導率が0.7(cal/cm・sec・℃)より低いと、鋳造材Bの凝固時の抜熱が不充分となり、鋳造材Bの表面が荒れ、数時間鋳造すると鋳造材Bにちぎれが生じる。従って、連続鋳造用鋳型1の熱伝導率は0.7(cal/cm・sec・℃)以上とする必要がある。なお、連続鋳造用鋳型1の熱伝導率は、本発明の目的をよりよく達成するためには、0.8(cal/cm・sec・℃)以上とすることが更に好ましい。
【0024】
(降伏応力:250(MPa)以上)
降伏応力が250(MPa)より低い材料を用いると、鋳造中に連続鋳造用鋳型1が変形し、鋳造時間が進むにつれて鋳造材Bの表面が荒れ、最終的にはちぎれが生じる。従って、連続鋳造用鋳型1の降伏応力250(MPa)以上とすることが必要である。なお、この降伏応力は、本発明の目的をよりよく達成するためには、300(MPa)以上であることが更に好ましい。
【0025】
以上のように、連続鋳造用鋳型1の内面1aのテーパ角度θと、連続鋳造用鋳型1を構成する材料の熱伝導率及び降伏応力を規制することで、長時間鋳造しても鋳造材B(図1参照)にちぎれが生じず、表面性状の良い鋳造材Bを得ることができる連続鋳造用鋳型1とすることができる。
【0026】
[連続鋳造装置の動作]
次に、図1及び図2を参照して、本発明に係る連続鋳造用鋳型1を備える連続鋳造装置Aの動作について説明する。
【0027】
図1に示すように、連続鋳造装置Aにおいて、溶湯溜槽3に貯留されたアルミニウム合金の溶湯Mが、溶湯溜槽3からセラミックノズル2を通り、連続鋳造用鋳型1内に導入される。そして、連続鋳造用鋳型1内において内面1aを介して抜熱され、アルミニウム合金は内面1aと接触する面(表面)から凝固する。
【0028】
ここで、アルミニウム合金の表面と連続鋳造用鋳型1の内面1aとの間には、潤滑油供給孔13、13、…から供給された潤滑油によって、潤滑皮膜が形成されている。また、引抜手段5によって鋳造材Bが所定の速度で引かれているため、凝固したアルミニウム合金は、連続鋳造用鋳型1の内面1aに沿って所定の速度で移動する。そして、内面1aはテーパ状に形成されているので、アルミニウム合金が鋳造方向に進むにつれて接触抵抗が低くなるとともに、接触している連続鋳造用鋳型1の内面1aから抜熱され、アルミニウム合金は内部に向かって徐々に凝固する。そして、冷却水供給孔12、12、…の出口付近において、アルミニウム合金は、冷却水供給孔12、12、…から供給された冷却水によって強制冷却される。
【0029】
以上の動作により、連続鋳造装置Aによって、連続的に鋳造材Bが鋳造される。なお、ここでは、本発明に係る連続鋳造用鋳型1を、横型連続鋳造を行う連続鋳造装置Aに適用する場合について説明したが、縦型連続鋳造を行う連続鋳造装置(図示せず)に適用することとしてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明に係る実施例について具体的に説明する。まず、表1に示すようなテーパ角度と材質の鋳型を作製した。また、各々の材料について、熱伝導率と、JIS−Z−2241に従って降伏応力を測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1〜4は、0.1重量%のクロム(実施例1)又は鉄(実施例2〜4)を含む銅合金を材料に用い、いずれも本発明で規制した条件を満足するものである。一方、比較例1は材料にT651の調質が施された6061アルミニウム合金(6061−T651、JIS−H−4000に規定)を使用し、熱伝導率及び降伏応力が本発明で数値限定した範囲の下限値未満のものであり、比較例2は、材料に純銅を使用し、降伏応力が本発明で数値限定した範囲の下限値未満のものである。また、比較例3は、テーパ角度が本発明で数値限定した範囲の下限値未満のものであり、比較例4は、テーパ角度が本発明で数値限定した範囲の上限値を超えたものである。
【0033】
このようにして製造された本発明に係る実施例1〜4及び本発明で規制した条件を満足しない比較例1〜4の鋳型を水平型の連続鋳造装置に設置して、6ストランドで連続鋳造した。鋳造材の原料には、6000系アルミニウム合金(合金番号6061)を使用し、直径70(mm)の丸棒の鋳造材を作製した。鋳造速度は、300〜400(mm/分)とし、潤滑油量を5〜20(ml/分/本)の範囲で行い、また、冷却水量は100〜120(l/分/本)の範囲で行った。以下、各々の鋳型及び鋳造材について行った評価方法について説明する。
【0034】
(連続鋳造時間)
各々の鋳型について、ちぎれを生じることなく連続して鋳造できた連続鋳造時間を計測した。そして、連続鋳造時間を最長48時間まで測定し、48時間以上であれば実用上問題がないと判断した。
【0035】
(鋳造材表面性状)
各々の鋳型によって作製された鋳造材の表面性状(鋳造材表面性状)の評価を目視で行い、表面に荒れが生じていない場合は「○(良好)」、荒れが生じているものにはその度合いに応じて「△(やや不良)」又は「×(不良)」とした。
【0036】
表1に示すように、本発明で規制した条件を満足しない比較例(比較例1〜4)では、前記評価項目のすべてを満足するものは得られなかった。
【0037】
すなわち、比較例1は、鋳造時の抜熱効率が悪く、また、鋳造中に鋳型が変形するため、連続鋳造時間が5時間と短く、また、鋳造材表面性状が「×(不良)」であった。また、比較例2は、鋳型の変形のため、鋳造時間が20時間と短く、鋳造材表面性状が「△(やや不良)」であった。比較例3は、潤滑油の分布に偏りが生じるため、連続鋳造時間が5時間と短く、また、鋳造材表面性状が「×(不良)」であった。比較例4は、冷却水が鋳型内に流れ込み、鋳造不能となった。
【0038】
一方、本発明に係る実施例(実施例1〜4)は、連続鋳造時間、鋳造材表面性状のいずれの評価項目においてなんら問題のないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る連続鋳造用鋳型を備える連続鋳造装置の構成を模式的に示す側面断面図である。
【図2】本発明に係る連続鋳造鋳型の構成を模式的に示す模式図、(a)は、連続鋳造用鋳型とセラミックノズルの一部とを模式的に示す側面断面図、(b)は、(a)においてCで示した連続鋳造用鋳型の内面の一部を拡大して示す模式図である。
【符号の説明】
【0040】
1 連続鋳造用鋳型
1a 内面
1b 出口側開口部
12 冷却水供給孔
13 潤滑油供給孔
2 セラミックノズル
3 溶湯溜槽
4 固定手段
5 引抜手段
A 連続鋳造装置
B 鋳造材
M 溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造材を連続して鋳造する連続鋳造装置に使用する連続鋳造用鋳型において、
内面が、テーパ角度0.1度以上、1.3度以下で鋳造方向に向かって広がるテーパ状に形成され、
熱伝導率が0.7cal/cm・sec・℃以上、かつ、降伏応力が250MPa以上の材料からなる連続鋳造用鋳型。
【請求項2】
前記材料が銅合金であることを特徴とする請求項1に記載の連続鋳造用鋳型。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−110558(P2006−110558A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297518(P2004−297518)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】