説明

逸脱防止ガード付きマクラギ

【課題】脱線時のラダーマクラギ本体に作用する衝撃を緩和すると共に、車輪の衝突による損傷を可能な限り少なくして迅速な復旧を可能にした逸脱防止ガード付きマクラギを提供する。
【解決手段】レールが敷設されるラダーマクラギ本体1と当該ラダーマクラギ本体1の側部に、前記レールに沿って取り付けられた逸脱防止ガード2とから構成する。前記逸脱防止ガード2の取付け部Aを当該逸脱防止ガード2に作用する衝撃荷重によって塑性変形するように構成する。前記逸脱防止ガード2の取付け部Aに逸脱防止ガード2とラダーマクラギ本体1の縦マクラギ1a間に跨ってヒンジ鉄筋3を配筋する。ヒンジ鉄筋3には塑性変形能力に優れた素材からなる鉄筋または鋼材を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は逸脱防止ガード付きマクラギに関し、特に走行中の列車が脱線した際の衝撃をマクラギ本体に伝達しにくくすると共に、列車が脱線した際の衝撃による破損を少なくして迅速な復旧を可能にしたもので、主としてラダーマクラギに用いられる。
【背景技術】
【0002】
近年、従来の横マクラギをレールと同じ縦型にし、複数の鋼材で連結することにより梯子状に構成されたラダーマクラギが広く使用されている。
【0003】
ラダーマクラギには特にバラスト区間に敷設された際に、通常の横マクラギに比べて保守作業が少ないことや、バラスト受圧面積が大きいことにより列車の荷重分散性に優れ、特に騒音や振動の低減効果が大きい等のメリットがある。
【0004】
ところで、近年、走行中の列車が脱線して多くの負傷者がでて大惨事に至った事故や、大惨事に至らなくても復旧が大幅に遅れる等の脱線事故が発生しており、走行中の列車の安全性と脱線事故後の迅速な復旧が大きな課題になっている。
【0005】
従来、列車の脱線を未然に防止する方法として、ラダーマクラギに当該マクラギに敷設されたレールの内側または外側に沿って逸脱防止ガードを取り付けることにより、走行中の列車が脱線しにくいようにした逸脱防止ガード付きラダーマクラギが知られており、当出願人もすでに出願している(特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2007−063910号公報
【特許文献2】特開平11−247102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の逸脱防止ガード付きラダーマクラギに用いる逸脱防止ガードは、一般に鋼材または鉄筋コンクリートによってラダーマクラギ本体と一体に形成されているため、列車が脱線して車輪が衝突した際、車輪の衝突による衝撃がラダーマクラギ本体にそのまま作用し、そのため逸脱防止ガードだけでなく、ラダーマクラギ本体も大きく破損することがあり、また、その復旧が長期化するという課題があった。
【0008】
さらに、逸脱防止ガードを取り付けたことにより、ラダーマクラギ本体の曲げ剛性が大きくなりすぎて、バラスト道床への変位・追従がほとんど無いか非常に小さいく、このためマクラギの敷設・整正が非常に困難になる等の課題があった。
【0009】
本発明は、以上の課題を解決するためになされたもので、列車脱線時のマクラギ本体に作用する衝撃を緩和すると共に、車輪の衝突による損傷を可能な限り少なくして迅速な復旧を可能にした逸脱防止ガード付きマクラギを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の逸脱防止ガード付きマクラギは、レールが敷設されたマクラギ本体と当該マクラギ本体の側部に、前記レールに沿って取り付けられた逸脱防止ガードとから構成され、前記逸脱防止ガードの取付け部は、当該逸脱防止ガードに作用する衝撃荷重に対して塑性変形するように構成されてなることを特徴とするものである。
【0011】
本発明は、逸脱防止ガード付きマクラギにおいて、特に逸脱防止ガードの取付け部が、脱線した列車の車輪が逸脱防止ガードに衝突した際の衝撃荷重によって塑性変形することにより、逸脱防止ガードを介してマクラギ本体に作用する衝撃荷重が低減されるため、マクラギ本体の衝撃荷重による損傷を少なくすることができ、また逸脱防止ガードのみの補修で早期に復旧させることができるものである。
【0012】
逸脱防止ガードの取付け部は、例えばラダーマクラギ本体と逸脱防止ガートとの間に双方に跨るヒンジ鉄筋またはメナーゼ鉄筋を配筋することにより、逸脱防止ガードに作用する衝撃荷重によって塑性変形するように構成することができる。
【0013】
ラダーマクラギ本体と逸脱防止ガードは、一つのマクラギ成形型枠を用いて同時に成形することができる。また、逸脱防止ガードをラダーマクラギ本体と別に成形し、ラダーマクラギ本体に後付けすることによっても、逸脱防止ガードの取付け部を塑性変形するように構成することができる。
【0014】
その方法として、例えば、ラダーマクラギ本体と逸脱防止ガードの取付け部に塑性変形可能な素材からなる取付け金具をそれぞれ突設し、この取付け金具どうしを連結ボルトまたは溶接などで結合する等の方法がある。
【0015】
ラダーマクラギ本体と逸脱防止ガードは、共にRCコンクリートやPCコンクリートによって成形してもよいが、特に逸脱防止ガードのみを衝撃荷重に備えて繊維補強コンクリートや超高強度コンクリートで成形してもよい。
【0016】
なお、マクラギ本体が横マクラギの場合は、逸脱防止ガードは横マクラギ本体の長手方向の端部に取り付けられるが、その取付け部(結合部)の構造は、縦マクラギ本体と逸脱防止ガードとの取付け部の構造と同じでよい。
【0017】
特に、逸脱防止ガードは、各横マクラギの端部に個々に取り付けることもできるし、また複数の横マクラギ間に架け渡された状態に取り付けることもできる。
【0018】
請求項2記載の逸脱防止ガード付きマクラギは、請求項1記載の逸脱防止ガード付きマクラギにおいて、逸脱防止ガードのレールと対向する上端面に突起が設けられてなることを特徴とするものである。
【0019】
本発明は、脱線した列車の車輪を逸脱防止ガードの特に突起に衝突させ、車輪が逸脱防止ガードの上部への衝突を回避することにより、逸脱防止ガードおよび逸脱防止ガードの取付け部、さらには逸脱防止ガードを介してマクラギ本体に作用する衝撃荷重を軽減するようにしたものである。
【0020】
この場合、車輪が逸脱防止ガードの突起に衝突し、突起より上の部分への衝突が回避されることで、逸脱防止ガードの取付け部に作用する、主として曲げ応力が小さくなるため、逸脱防止ガードを介してマクラギ本体に作用する衝撃荷重を軽減させることができる。また、脱線した車輪が逸脱防止ガードの側面に沿って上昇する、いわゆる「乗り上がり」を防止することができる。
【0021】
なお、この場合の突起の形状は、逸脱防止ガードのレールとの対向面がレール側に断面円弧状に突出した形状などでよい(図8参照)。また、図7に図示するように、逸脱防止ガードのレールとの対向面に上端部から下端部側にかけてレール側に傾斜するテーパをつけた形状などでもよい。
【0022】
請求項3記載の逸脱防止ガード付きマクラギは、請求項1または2記載の逸脱防止ガード付きマクラギにおいて、逸脱防止ガードのレールと対向する上端面に補強部材が取り付けられていることを特徴とするものである。
【0023】
RC構造の逸脱防止ガードが車輪の衝突で容易に損傷しないようにしたものである。この場合の補強部材には帯鋼などの鋼材を用いることができる。
【0024】
請求項4記載の逸脱防止ガード付きマクラギは、請求項1〜3のいずれかに記載の逸脱防止ガード付きマクラギにおいて、逸脱防止ガードの取付け部に目地が設けられていることを特徴とするものである。
【0025】
目地で衝撃荷重を吸収するようにしたものである。なお、目地にはゴム等の弾性部材を充填してもよい。
【0026】
請求項5記載の逸脱防止ガード付きマクラギは、請求項1〜4のいずれかに記載の逸脱防止ガード付きマクラギにおいて、逸脱防止ガードにその長手方向に一定間隔をおいて目地が設けられていることを特徴とするものである。
【0027】
本発明は、脱線した列車の車輪が逸脱防止ガードに当った際の衝撃荷重が、逸脱防止ガードの全体に及ばないようにすることで、逸脱防止ガードの衝撃による損傷を最小限に留めて早期の復旧を可能にしたものである。
【0028】
なお、逸脱防止ガードのレールと対向する上端面に、帯鋼などからなる補強部材を取り付けて逸脱防止ガードを補強する場合、補強部材は逸脱防止ガードの全長に渡って取り付けてもよく(図5(a))、あるいは目地間ごとに取り付けてもよい(図5(b))。さらに、逸脱防止ガート内にPC鋼材または鉄筋などを逸脱防止ガートの長手方向に連続して挿通してもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明は、逸脱防止ガード付きマクラギにおいて、逸脱防止ガードの取付け部が、脱線した列車の車輪が逸脱防止ガードに当った際の衝撃荷重に対して塑性変形するように構成されているため、マクラギ本体に作用する衝撃荷重を低減してマクラギ本体の衝撃荷重による損傷を少なくすることができ、また逸脱防止ガードのみの補修で早期の復旧ができる等の効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
図1と図2は、ラダーマクラギ本体と逸脱防止ガードとからなる逸脱防止ガード付きラダーマクラギの一実施形態を示し、図において、ラダーマクラギ本体1は、平行に伸びる2本の縦マクラギ1a,1aと、当該縦マクラギ1a,1a間に設置された複数の連結部材1bとから構成されている。
【0031】
縦マクラギ1aは、鉄筋コンクリートから横長のほぼ矩形断面形に成形されている。連結部材1bは鋼管などの鋼材から形成され、縦マクラギ1a,1aの長手方向に所定間隔おきに設置され、各連結部材1bの両端は縦マクラギ1a,1aのコンクリート内に定着することにより縦マクラギ1a,1aと一体的に結合されている。なお、各連結部材1bの両端は、連結部材1bの端部をその軸直角方向に貫通する複数の定着筋1cによって縦マクラギ1a内に定着されている。
【0032】
逸脱防止ガード2,2は、縦マクラギ1a,1aと同様に鉄筋コンクリートから縦長のほぼL形断面形に成形され、それぞれ縦マクラギ1a,1aの外側に当該縦マクラギ1a,1aの長手方向に沿って取り付けられている。
【0033】
図2(b),(c)に図示する逸脱防止ガード2の取付け部Aにおいて、縦マクラギ1aと逸脱防止ガード2の水平部分との間に複数のヒンジ鉄筋3が双方に跨って配筋され、当該ヒンジ鉄筋3を介して逸脱防止ガード2は縦マクラギ1aの外側部に結合することにより取り付けられている。
【0034】
ヒンジ鉄筋3には塑性変形能力に優れた素材からなる鉄筋または鋼材が用いられ、縦マクラギ1aと逸脱防止ガード2との間のコンクリート内に、図2(b),(c)にそれぞれ図示するように直線状(直鉄)またはX形状(メナーゼタイプ)に配筋されている。
【0035】
また、逸脱防止ガード2と縦マクラギ1a間に目地4がこれらの長手方向に連続して形成され、当該目地4内にゴム等の弾性材が充填されている。
【0036】
このような構成において、列車の通過時は縦マクラギ1aと逸脱防止ガード2の両方で列車荷重を受けることによりバラスト受圧面積が非常に大きくなり、これにより列車荷重をバラスト道床に均等に分散させることができ、かつ騒音と振動を今まで以上に低減させることができる(図7(a)参照)。
【0037】
また、走行中に列車が脱線して車輪が逸脱防止ガード2の内側に激しく衝突したとしても、その衝撃荷重によってヒンジ鉄筋3が塑性変形して衝撃荷重を吸収することにより、逸脱防止ガード2の損傷を最少に留めることができる。
【0038】
さらに、逸脱防止ガード2を介してラダーマクラギ本体1に作用する衝撃荷重も最少に留められることで、ラダーマクラギ本体1の損傷も少なくすることができる。また、仮に損傷したとしても逸脱防止ガード2だけの補修で早期の復旧が可能になる(図7(b)参照)。
【0039】
図3(a)〜(c)は、逸脱防止ガード2のレールと対向する側に凸曲面状の突部2aを設けることで、脱線した列車の車輪が突起2aに衝突し、突部2aより上の部分には衝突しないため、逸脱防止ガード2および逸脱防止ガード2を介してラダーマクラギ本体1に作用する衝撃荷重を低減させることができる。
【0040】
また、図4と図5は、逸脱防止ガード2にその長手方向に所定間隔おきに目地4aを設け、さらに逸脱防止ガード2のレールと対向する側にL形鋼などの鋼材からなる補強鋼材5を取り付けることにより、逸脱防止ガード2の損傷を最小限に留めるようにしたものである。
【0041】
逸脱防止ガード2に目地4aを設けることで、列車の車輪が衝突した際の衝撃が逸脱防止ガード2の全体に及ばないようにすることができ、また逸脱防止ガード2のレールと対向する側に補強鋼材5を取り付けることで、列車の車輪が衝突した際の逸脱防止ガード2そのものの損傷を防止することができる。
【0042】
なお、補強部材5は逸脱防止ガード2の長手方向に連続して取り付けてもよく(図5(a)参照)、あるいは各目地4a,4a間に取り付けてもよい。
【0043】
さらに、図6(a)〜(c)は、逸脱防止ガード2の取付け部Aに設けられた目地4の変形例を示したものである。この場合、目地4をヒンジ鉄筋3の下側にのみ設けられ、ヒンジ鉄筋3の上側部は縦マクラギ1aと逸脱防止ガード2が一体に形成されていることで、列車通過時の逸脱防止ガード2側の圧縮力は、図7(a)に図示するように、ラダーマクラギ1側に確実に伝達させることができ、一方列車の車輪が衝突した際の衝撃荷重は、図7(b)に図示するように、ヒンジ鉄筋3が塑性変形することにより吸収し、縦マクラギ1aの損傷を防止することができる。
【0044】
また、図9(a)〜(c)は、図6(a)〜(c)に図示する実施形態において、特に目地4の逸脱防止ガード2側の縁端部2bを断面ほぼ円弧状に形成することにより、逸脱防止ガード2が車輪の衝撃を受けて図9(b)に図示するように外側に変位した際に、目地4の縦マクラギ1a側の縁端部2bが破損しないようにしたものである。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、列車が脱線した際の車輪の衝突による衝撃荷重を吸収してマクラギの損傷を少なく、迅速な復旧が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】逸脱防止ガード付きラダーマクラギの一実施形態を示す平面図である。
【図2】逸脱防止ガード付きラダーマクラギの一実施形態を示し、(a)はその断面図、(b),(c)は逸脱防止ガードの取付け部Aを示す拡大断面図である。
【図3】逸脱防止ガード付きラダーマクラギの一実施形態を示し、(a)はその断面図、(b),(c)は逸脱防止ガードの取付け部Aを示す拡大断面図である。
【図4】逸脱防止ガード付きラダーマクラギの一実施形態を示し、(a)はその平面図、(b)はその断面図である。
【図5】(a),(b)は、逸脱防止ガードが取り付けられた縦マクラギの一部斜視図である。
【図6】逸脱防止ガード付きラダーマクラギの一実施形態を示し、(a)はその断面図、(b),(c)は逸脱防止ガードの取付け部Aを示す拡大断面図である。
【図7】(a)は、逸脱防止ガードが変位する前の状態を示す断面図、(b)は、逸脱防止ガードが車輪の衝撃で変位した状態を示す断面図である。
【図8】(a)は、逸脱防止ガードが変位する前の状態を示す断面図、(b)は、逸脱防止ガードが車輪の衝撃で変位した状態を示す断面図である。
【図9】(a)は、逸脱防止ガードが変位する前の状態を示す断面図、(b)は、逸脱防止ガードが車輪の衝撃で変位した状態を示す断面図、(c)は図(a)におけるB部拡大図である。
【符号の説明】
【0047】
1 ラダーマクラギ本体
1a 縦マクラギ
1b 連結部材
2 逸脱防止ガード
2a 突起
2b 縁端部
3 ヒンジ鉄筋
4 目地
4a 目地
5 補強部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールが敷設されたマクラギ本体と当該マクラギ本体の側部に、前記レールに沿って取り付けられた逸脱防止ガードとから構成され、前記逸脱防止ガードの取付け部は、当該逸脱防止ガードに作用する衝撃荷重に対して塑性変形するように構成されてなることを特徴とする逸脱防止ガード付きマクラギ。
【請求項2】
逸脱防止ガードのレールと対向する上端側面に突起が設けられていることを特徴とする請求項1記載の逸脱防止ガード付きマクラギ。
【請求項3】
逸脱防止ガードのレールと対向する上端側面に補強部材が取り付けられていることを特徴とする請求項1または2記載の逸脱防止ガード付きマクラギ。
【請求項4】
逸脱防止ガードとマクラギ本体との取付け部に目地が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の逸脱防止ガード付きマクラギ。
【請求項5】
逸脱防止ガードにその長手方向に一定間隔おきに目地が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の逸脱防止ガード付きマクラギ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−243131(P2009−243131A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−90476(P2008−90476)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(591121111)株式会社安部日鋼工業 (38)