説明

運動ニューロン疾患の調節物質を用いる処置方法および組成物

本明細書に開示の発明は、運動ニューロン疾患(ニューロンにおける変化した微小管動的挙動)の新規治療標的;確定、初期、または潜在的運動ニューロン疾患を呈する対象における本治療標的の活性状態を測定するための方法;運動ニューロン疾患を呈する生存対象におけるニューロンの微小管動的挙動を調節する薬剤の発見;かかる薬剤の単独または併用投与により「カーゴ」分子の軸索に沿ったかつ軸索を介したMT依存性輸送を改善することができるという発見;変化した微小管動的挙動のかかる調節および軸索に沿った分子のMT‐輸送の改善により運動ニューロン疾患を呈する生存対象に症状の遅延と延命を含む著しい神経保護療法を提供できることの発見;ならびに運動ニューロン疾患を呈する対象における治療的介入に対するニューロンの微小管動的挙動をモニタリングすることにより個々の対象または薬剤試験の治療レジメンと治療戦略を最適化するための診断的モニタリングが可能であることの発見について説明する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本発明は、米国特許法(35U.S.C.)第119条(e)に基づいて、2008年5月21日に出願された米国仮出願第61/128,522号に対する、および米国特許法(35U.S.C.)第120条に基づいて、2007年1月5日に出願された米国特許第11650,020号に対する(2006年1月5日に出願された米国仮出願第60/756,836号および2006年1月5日に出願された同第60/756,952号に対する米国特許法(35U.S.C.)第119条(e)に基づく優先権の利益を主張している)優先権の利益を主張するものであり、すべての出願の内容がそれらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、運動ニューロンの活性および動的性に影響を与える新規医薬化合物に関する。本発明は、さらに運動ニューロン障害(筋萎縮性側索硬化症など)の処置におけるかかる新規医薬化合物の使用に関する。本発明は、さらにかかる運動ニューロン障害の存在について試験対象をスクリーニングおよびモニタリングすることに関する。
【背景技術】
【0003】
運動ニューロン疾患は、随意筋活性(会話、歩行、呼吸、および嚥下など)を管理する細胞である運動ニューロンを損傷または破壊する一群の進行性神経障害である。運動ニューロン疾患の特徴的症状としては、進行性脱力;脱力および筋肉量の減少(萎縮);不随意運動(筋痙攣など);四肢の痙縮もしくは硬直;ならびに腱反射亢進が挙げられる。運動ニューロン疾患の他の症状としては、随意運動の緩慢化(動作緩慢)、運動の欠如(運動機能低下、仮面顔)、型通りの反復的不随意運動(舞踏病アテトーゼ)、ならびに冷淡な態度もしくは情動不安(静座不能)を挙げることができる。感覚、知性、記憶、および人格は純粋な運動ニューロン疾患において影響を受けない。一部のタイプの運動ニューロン疾患(筋萎縮性側索硬化症(ALS、一般にルー・ゲーリック病と呼ばれる)など)では、筋力低下は進行性であり、典型的には呼吸筋機能喪失に合併して最終的に死に至る。他のタイプの運動ニューロン疾患は多年にわたって徐々に進行する。
【0004】
運動ニューロン疾患は、成人と小児に生じ、女性より男性で一般的である。成人では、症状は通常40歳を過ぎて現れ、非特異的で診断を困難にすることがある。小児では、特にこの疾患の遺伝形態では、症状は出生時から現れることがある。遺伝形態の運動ニューロン疾患は、運動ニューロンの変性を生じる遺伝子の突然変異や欠失により生じる。遺伝性運動ニューロン疾患は、脊髄性筋萎縮症として知られる一群の小児障害を含む。非遺伝性(孤発性とも呼ばれる)運動ニューロン疾患は、環境有害毒素またはウイルスが疾患の引き金として作用することがあるが、病因は知られていない。非遺伝性運動ニューロン疾患としては、ALS(ただし、いくつかの遺伝形態が存在する)、進行性球麻痺、偽球麻痺、原発性側索硬化症、進行性筋萎縮症、パーキンソン病、糖尿病性ニューロパシー、ポリオ後症候群、および他の多くのものが挙げられる。運動ニューロン疾患を診断するための特定の臨床検査はない。
【0005】
ALSは、容赦なく進行性で常に致死的な末梢神経系疾患である。具体的には、ALSは、軸索の機能不全を特徴とする運動ニューロン疾患である。現在、有効な処置はない。リルゾール(Rilutek(登録商標))は、1995年にFDAにより承認されたが、疾患進行をやや遅くするだけである。非遺伝性ALSに加え、遺伝形態のALSが存在する。最大20%までの家族性ALS患者がスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)遺伝子の突然変異を有する。この所見は、ALSの忠実なマウスモデルの開発を可能にした。このモデル、すなわちSOD1‐G93Aトランスジェニックマウス(「SOD1‐G93A TGNマウス」)は、ALSによく似た18〜19週齢までに死に至る神経障害を発現する。
【0006】
SOD1‐G93A TGNマウスは、薬剤の前臨床的発見と試験に非常に有用になっている。ALSのこの特定のトランスジェニックマウスモデルは、ヒトCu、Zn SOD突然変異体のより高い発現と疾患のより短い経過(18〜19週間)を示す。それにより潜在的な治療剤の検討はより速く、より効率的となる。また、このより積極的な(すなわち、高発現)マウスモデルの治療的利点の実証は、臨床における成功を予測するための最も厳しい基準を提供し得る。ヒトの臨床試験を行なうのに必要な費用と時間を考慮すると、最も活性のある有力な候補薬のみを患者評価へと進めるべきである。種々の潜在的な治療剤がSOD1‐G93A TGNマウスにおいて試験されている。他の治療方法もこのモデルで試験されている(ヒト神経幹細胞の移植など)。今までに試験された処置法(リルゾールおよび神経幹細胞移植など)はすべて、このモデルで疾患の発現と死亡を20〜30日間遅らせるだけである。
【0007】
SOD1‐G93A TGNマウスにおいて候補薬が比較的成功しないことは、運動ニューロン疾患の基本的機序に対する理解の根本的な欠如を反映している可能性がある。疾患進行に関与する基礎分子標的および経路が分かれば、運動ニューロン疾患のより有効な処置が見出されて開発される可能性がある。
【0008】
米国仮出願第60/722,897号、PCT/米国特許第2005/028069号および米国特許第10/279,399号は、すべてその全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。
【発明の概要】
【0009】
したがって、1つの態様では、本発明は第一神経保護剤および第二神経保護剤を含む医薬組成物を提供する。通常、少なくとも、そのうちの1つの神経保護剤は微小管標的調節剤(MTMA)(ノスカピンなど)である。時としてその医薬組成物は、ただ1つの神経保護剤、特に微小管標的調節剤(MTMA)(ノスカピンなど)を含む。時としてその医薬組成物は、3つの神経保護剤(特に神経保護剤の1つまたは2つがMTMAである)を含む。神経保護剤は、MTMA;抗炎症剤(チアゾリジンジオンおよび非チアゾリジンジオンペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)アゴニストなど);イオンチャンネル調節物質(選択的および非選択的グルタメート受容体アンタゴニスト(N‐メチル‐D‐アスパラギン酸(NMDA)受容体など、電位依存性ナトリウムチャンネル(VGNH)および電位依存性カルシウムチャンネル(VGCH)を含む電位依存性イオンチャンネルのアンタゴニストなど);α‐アミノ‐3‐ヒドロキシ‐5‐メチル‐4‐イソキサゾールプロピオン酸(AMPA)アンタゴニスト;グリア調節物質;低電位感受性カルシウムチャンネル(L‐VSCC)遮断薬;N型およびP/Q型電位依存性カルシウム電流阻害剤;CB1受容体およびCB2受容体アゴニスト(エンドカンナビノイドおよびカンナビノイド受容体アゴニストを含むカンナビノイドなど);AEA輸送、加水分解、および再吸収阻害剤(脂肪酸アミドヒドロラーゼ(FAAH)阻害剤など;抗酸化剤(誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)阻害剤、フリーラジカルトラッパー/スカベンジャー、および金属イオンキレート剤(銅(II)および亜鉛(II)キレート剤を含む)など);神経栄養因子;ならびにアポトーシス阻害剤から選ばれる。組成物の各神経保護剤は他と分離したバイアル中にあってよい。
【0010】
1つの追加の態様では、本発明は1、2、3、またはそれ以上の神経保護剤を含む医薬組成物を投与することを含む運動ニューロン疾患を処置する方法を提供する。その医薬組成物はさらに医薬担体を含んでよい。
【0011】
さらなる1つの態様では、本発明は、1、2、3、またはそれ以上の神経保護剤を含む医薬組成物を投与することを含むALSを処置する方法を提供する。その医薬組成物はさらに医薬担体を含んでよい。かかる治療はALS症状の発症を遅延またはALS症状の重症度を低減し得る。
【0012】
1つの追加の態様では、本発明は、MTMAおよび医薬担体を患者に投与することを含む患者のALS症状を軽減する方法を提供する。
【0013】
さらなる1つの態様では、本発明は、MTMAおよび医薬担体をそれらを必要とする患者に、患者にとっての治療的有効量で投与することを含む運動ニューロン疾患の処置方法を提供する。
【0014】
さらなる1つの態様では、本発明は、運動ニューロン疾患を呈する対象における薬剤効果をモニタリングする方法を提供する。この方法は、試験生物系を1つまたは複数の薬剤に曝露させ、同位体標識基質が1つまたは複数のチューブリンサブユニットに入ることにより、1つまたは複数の微小管分子中に入ってそれを標識するのに十分な期間、その生物系に同位体標識基質を投与することを含む。次いで、運動ニューロンを含む第一試料をその生物系から採取し、第一試料からの微小管サブポピュレーションの同位体富化を定量する。対照系からの微小管サブポピュレーションの同位体富化を定量してまたは得て、その生物系中の微小管における富化率を対照生物系における富化率と比較して運動ニューロンにおける微小管標識に対するその薬剤の効果を決定する。
【0015】
さらなる1つの態様では、この方法は、さらに標識微小管の動的性を計算し、比較工程は遊離チューブリンの同位体富化に対する微小管の同位体富化または動的性の比率を計算し、この比率を対照生物系における同一比率と比較することを含む。
【0016】
1つの追加の態様では、この方法は、試験生物系からの成長円錐微小管由来の微小管の同位体富化または動的性を、対照生物系からの成長円錐微小管由来の標識微小管の同位体富化または動的性と比較することを含む。
【0017】
さらなる1つの態様では、この方法は、試験生物系からの軸索微小管由来の微小管の同位体富化または動的性を、対照生物系からの軸索微小管由来の微小管の同位体富化と比較することを利用する。
【0018】
1つの追加の態様では、試験生物系を曝露する薬剤は神経保護因子である。この薬剤は単独でまたは他の薬剤と併用して投与することができる。
【0019】
さらなる1つの態様では、本発明は、ニューロン微小管の動的性を改変する薬剤を投与することにより運動ニューロン疾患を治療する方法を提供する。
【0020】
1つの追加の態様では、本発明は、微小管の動的性を改変する薬剤とニューロンを接触させることを含む運動ニューロン疾患に有効な薬剤をスクリーニングする方法を提供する。
【0021】
さらなる1つの態様では、本発明は、運動ニューロン疾患を呈する対象における治療効果を診断またはモニタリングする方法を提供し、その方法は、同位体標識基質を、その同位体標識基質が1つまたは複数のチューブリンサブユニットに入ることにより1つまたは複数の微小管ポリマー分子中に入ってそれを標識するのに十分な期間、生物系に投与し、その生物系から運動ニューロンを含む第一試料を採取することを含む。第一試料からの軸索コンパートメント中の微小管サブポピュレーションの同位体富化、ならびに軸索コンパートメントからの非取り込み標識チューブリンのサブポピュレーションの同位体富化を定量する。軸索コンパートメント中の微小管サブポピュレーションの富化率を軸索コンパートメントからの非取り込み標識チューブリンの前記サブポピュレーションの富化率と比較して運動ニューロン疾患の存在を決定する。
【0022】
さらなる1つの態様では、本発明は、運動ニューロン疾患を呈する対象における治療効果を診断またはモニタリングする非侵襲的方法を提供し、その方法は、同位体標識基質を、ニューロンから輸送されて通常分泌される1つもしくは複数のニューロン分子(例えば成長因子、神経伝達物質、神経ペプチド、タンパク質(酵素および糖タンパク質などを含む))または微小管輸送系を介して軸索方向に沿って輸送された他の分子(「カーゴ分子」または「カーゴ」)中に同位体標識基質が入るのに十分な期間で生物系に投与して、その生物系の組織もしくは体液から第一試料もしくは時間的に連続した試料を採取することを含む。軸索に沿ってかつ軸索を介して輸送された分泌分子における同位体富化の経時変化を、サンプリングした1つまたは複数の体液または組織中の分泌分子における同位体標識の経時変化に基づき測定する。個体でサンプリングした分泌分子における富化の経時変化を、治療介入に応答した、比較対象または同一個体の分泌分子における富化の経時変化と比較する。この手段により、分泌分子の微小管(MT)介在軸索輸送の障害に関与する運動ニューロン疾患の有無を個体において検討できる。同様に、対象の個体または集団における介入前後の輸送速度を比較することにより、このタイプの病態による治療に対する反応を評価できる。成長因子、神経伝達物質、神経ペプチド、分泌酵素、糖タンパク質または他のニューロンから分泌される「カーゴ」分子の輸送速度の動力学的分析を、微小管依存性軸索輸送の障害がこれらの対象のニューロンに存在するかどうかを検討する目的のために、患者から脳脊髄液(CSF)、血液、尿または組織試料をサンプリングすることにより実施できる。
【0023】
さらなる1つの態様では、本発明は、運動ニューロン疾患を呈する対象において臨床試験で試験している候補薬の治療有効性を検討およびモニタリングする方法を提供し、その方法は、同位体標識基質が1つまたは複数のチューブリンサブユニットに入ることにより、1つまたは複数の微小管ポリマー分子内に入ってそれを標識するのに十分な期間、生物系に同位体標識基質を投与し、その生物系から運動ニューロンを含む第一試料を採取することを含む。第一試料からの軸索コンパートメント中の微小管サブポピュレーションの同位体富化ならびに軸索コンパートメントからの非取り込み標識チューブリンのサブポピュレーションの同位体富化を定量する。軸索コンパートメント中の微小管サブポピュレーションの富化率を軸索コンパートメントからの非取り込み標識チューブリンの前記サブポピュレーション富化率と比較し、運動ニューロン疾患の存在を決定する。異なる処置群を統計的に比較し、前記候補薬の治療有効性を検討し、反復測定および分析を行なって処置期間にわたる前記候補薬の治療の活性または有効性の変化をモニタリングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1A】図1A及び図1Bは、同位体標識水から選択した遊離アミノ酸内への標識水素(HまたはH)の交換経路を示す。2つのNEAA(アラニン、グリシン)と1つのEAA(ロイシン)を例として示す。アラニンとグリシンを図1Aに提示する。ロイシンを図1Bに提示する。略号:TA、トランスアミナーゼ;PEP‐CK、ホスホエノールピルベートカルボキシキナーゼ;TCAC、トリカルボン酸回路;STHM、セリンテトラヒドロ葉酸メチルトランスフェラーゼ。図1Cはタンパク質合成のためのH18Oによる遊離アミノ酸の18O標識を示す。
【図1B】同上
【図1C】同上
【図2】微小管ポリマーへのH標識チューブリン二量体の取り込みを示す。
【図3】マウス脳におけるチューブリン二量体および微小管のインビボ交換。(A)ニューロン微小管(MT)集団を単離するための戦略の模式的表示。(B)インプット(レーン1)、タウ非結合(レーン2)、およびタウ結合(レーン3)分画(抗タウカラムで分離)の抗タウおよび抗MAP2ウエスタンブロットは、タウ結合MTの定量的捕捉を示す;MAP2結合MTは非結合分画にある。(C)重水(O)からチューブリン二量体および異なるMT分画へのHの取り込みの動力学。マウスを様々な時間、体水の約5% Oで標識し、脳を解剖し、(A)のごとく単離したMT集団を加水分解した。アラニンのC‐H結合へのHの取り込みをNCI‐GC/MS(平均±標準偏差;n=3)により測定し、分画の代謝回転(標識期間中に新たに合成されたアラニン%)として表した。単指数曲線適合を、皮質でt1/2約5〜6時間、海馬でt1/2約3時間で示し、チューブリン二量体について約20%新アラニン、またはタウおよびMAP2/STOP‐MTについてそれぞれこの値の2分の1または3分の1で横ばい状態になる。
【図4】SOD‐G93A TGNマウスの進行性軸索機能不全の経過中の微小管動的挙動の測定。野生型およびSOD1‐G93A TGNマウス(n=3/群)をそれぞれOで7週齢(A)、8.5週齢(B)、および12.5週齢(C)時に標識した。坐骨神経を解剖し、精製した異なる微小管集団(成長円錐および軸索シャフト)を加水分解した。アラニンのC‐H結合へのHの取り込みをNCI‐GC/MSで測定し、機能的合成(標識期間中に新たに合成された%;平均±標準偏差)として表した。動物をOで48時間標識した(約5%体水を富化)。
【図5】歩幅の測定値に基づく野生型およびSOD1‐G93A TGNマウスにより生じた歩行足跡パターンの定量分析。7週齢時、SOD1‐G93A TGNマウスの歩幅測定値は野生型マウスにより生じたものと区別できないが、8.0週齢までにSOD1‐G93A TGNマウスは、野生型対照マウスに比べて歩幅の縮小を示し始める。グラフは、各年齢および各測定値につき各群マウスn=3の平均±標準偏差を示す。
【図6】ノスカピンとMK801の併用はSOD1‐G93A TGNマウスの疾患発現および死亡発生を遅らせる。1剤および2剤の薬剤処置を疾患初期(すなわち未発症期)(7週齢)に開始した。SOD1‐G93A TGNマウスを、ノスカピン(0.2mg/kg体重)および/またはMK‐801(12mg/kg体重/日)で週3回処置した。マウスに、ノスカピンを腹腔内で、MK‐801を飲水で投与した。歩幅測定中に、ノスカピンとMK801の併用で処置したマウスは、各化合物単独で処置したマウスより有意に好成績であった。ノスカピンとMK‐801との併用は、未処置SOD1‐G93A TGNマウスに比べて症状発症を有意に遅らせ(32日間)、死亡発生を遅らせた(21日間)。グラフは、各年齢および各測定値につき各群マウスn=3の平均±標準偏差を示す。
【図7】12.5週齢SOD1‐G93A TGNマウスの坐骨神経の微小管サブポピュレーションの相対動的挙動(H標識の取り込み)に対するノスカピンとMK801併用の効果。SOD1‐G93A TGNマウスにおけるノスカピンとMK801併用は、未処置マウスに比べて、微小管動的挙動を成長円錐で約35%、軸索シャフトで50%減少させた。動物をOで48時間標識した。グラフは各測定につきマウスn=3の平均±標準偏差を示す。
【図8】ニューロン内の微小管集団の特異的分布を示す。
【図9】いくつかの異なるNMDA受容体アンタゴニストを示す。
【図10】ノスカピンとMK801をALSのSOD1マウスモデルに投与した18週間の結果を示す。
【図11A】本発明を用いた最初の症状までの時間、臨床的発症時間、および死亡までの時間の差を示す。
【図11B】同上
【図11C】同上
【図12】異なる処置の生存率の全体の統計を示す。
【図13】取り組みを継続するか中断するかを決定する手段としてニューロン微小管動的挙動に対する効果(すなわち、本発明方法により収集したデータ)を用いた薬剤の発見、開発、および承認(Drug Discovery, Development, and Approval:DDDA)の過程を示す模式図である。
【図14】薬剤発見過程における本発明の使用を例示する。
【図15】ノスカピン単独およびMK801単独投与の結果を示す。
【図16】MTMA/KM‐ID05は、13週齢SOD1G93Aマウスの中枢神経系(CNS)および末梢神経系(PNS)における微小管の亢進を大幅に低減する(n=3;平均±標準偏差)。
【図17】MTMA/KM‐ID05は、SOD1G93Aマウスの自発運動活性を改善し、疾患の発現を遅らせた。処置を症候期(10週齢時)に開始した。歩幅の測定を用いてマウスの自発運動活性の異常をスコア付けした(n=20;平均±標準偏差)。
【図18】15週齢のSOD1G93AマウスにおけるMTMA/KM‐ID05処置の神経保護効果。(A)野生型(WT)未処置および処置SOD1G93Aマウスの坐骨神経運動プール(矢頭)における運動ニューロンを示すNisslについて染色した脊髄切片。(B)各実験群における運動ニューロンの生存(平均±標準偏差)。
【図19】微小管動的挙動アッセイを症候性SOD1G93Aマウスにおける新規治療剤の前臨床的薬剤発見のための基盤として用いる。神経保護活性は、微小管動的挙動をWT同腹仔で観察されたレベルに回復させる様々な薬剤の能力を比較することにより測定した。神経保護の割合(%)は、未処置SOD1G93AのWT同腹仔に比べて亢進した微小管を安定化させる薬剤の能力として定義した。したがって、高値(最大で100%)は高い神経保護活性を表す。処置はすべて10週齢時の症候期に開始した(n=3マウス/群)。3週間の処置後(13週齢時)にマウスを屠殺し、脊髄運動ニューロンのニューロンコンパートメントにおける微小管動的挙動を測定した(すべてのコンパートメントの平均を本明細書において平均±標準偏差で示す)。
【図20】(A)5つの神経保護候補薬についての生存プロットおよび生存の統計分析。(B)各種薬剤に関するSOD1G93Aマウスの生存転帰対微小管動的挙動としてグラフ化したバイオマーカー予測性(平均±SD)。
【図21】FDA承認薬Rilutek(登録商標)と比較したALS‐SOD1動物試験から選択した潜在的臨床薬。
【図22】ノスカピンの構造を示す。
【図23】トランスジェニック症候性SDO1G93Aの坐骨神経運動軸索においてH標識チューブリンの遅いMT依存性の軸索輸送は、正常な野生型(WT)同腹仔に比べて低減する。各データポイントは、30〜35mL/kg O単ボーラス投与から21日後に屠殺した13週齢マウスのL5神経根および坐骨神経の2mm連続部分を表す。しかしながら、3週間のMTMA処置後、微小管動的挙動とH‐チューブリンの遅い軸索輸送は大幅に回復する。一方、リルゾールに有意な効果はなかった。
【図24】健常運動ニューロンおよび変性運動ニューロンの神経シナプス小胞カーゴ分子の分泌速度を測定するための動力学技法の代表モデルを例示する。目標は、疾患に罹患したニューロン中のMT依存性輸送障害の特定の即時指標を提供することである。MTに基づく輸送系は主要な細胞骨格系の1つであり、それに沿って、キネシンおよびダイニンモータータンパク質が力を生じ、多くの細胞成分(例えばシナプス小胞)の輸送を促す。MT依存性軸索輸送は主なニューロンの伝達および輸送網であり、分泌小胞カーゴ(成長因子、神経伝達物質、酵素および糖タンパク質など)の経路として働く。本明細書で試験した基本的な戦略は、MT動的挙動障害が発生すると、輸送され、次いで分泌されたH標識小胞「カーゴ」の速度(すなわち細胞体内での合成からシナプスから放出されるまでの時間)はMT輸送系の影響を受け、CSF収集によりインビボで測定可能であることである。重水(O)のパルス投与後、CSF中の出現、脊髄運動ニューロン中の同時保持、変性運動ニューロン中の2H標識小胞カーゴ分子の動力学の遅延に基づき、MT依存性の速い軸索輸送は遅くなる。
【図25】(A)SOD G93Aトランスジェニックマウス(ALS動物モデルを表す)に重水(O)を投与して運動ニューロン中の分泌分子を標識する様子を例示する(総マウスn=30)。MT依存性軸索輸送に基づく、160nm小胞からなる輸送物質の最速移動速度は、約250mm/日、またはトランスゴルジ網(TGN)から血漿膜(軸索末端)まで約3μm/秒と報告されている。したがって、小胞は細胞体から3cmの軸索末端まで約1.2日間で移動すると予期される(1メートルの軸索を有するヒト対象において、これは約4〜5日かかる可能性がある)。マウス(n=6/時点)における連続時点(24時間、48時間、72時間、5日および10日)で、CSF(5〜7マイクロリットル/マウス)と血漿(100マイクロリットル/マウス)を収集する。運動ニューロンは小胞成長因子(例えば神経栄養因子‐1[NueR‐1])を分泌し、糖タンパク質クロモグラニンB[Chr‐B]を、市販の抗体を用いた免疫沈降によりCSFから単離する。(B)30〜35mL/kg O腹腔内パルス投与後、13週齢の野生型(WT)と症候性SOD1G93Aマウスから標識後24、48および72時間目、5日および10日目にCSFを収集した。CSF試料を最初にタンパク質A/Gビーズを用いてIgG免疫枯渇させ、次いで神経栄養因子‐1抗体ビーズへの逐次結合により分画した。溶出液を6N HClで、110℃において16時間処理することにより加水分解した。タンパク質由来アミノ酸を誘導体化してペンタフルオロベンジル誘導体とし、神経栄養因子‐1から放出されたアラニンへのHの取り込みを、GC/MSにより測定した。同一プロトコールを用いて、糖タンパク質クロモグラニン‐B[Chr‐B]をクロモグラニン‐B[Chr‐B]抗体への逐次結合により神経栄養因子‐1[NeuR‐1]非結合物質から捕捉する。(C)13週齢の正常な野生型(WT)およびトランスジェニック症候性SOD1G93AマウスのCSF神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびクロモグラニン‐B[Chr‐B]中のH標識出現の経時変化を示す。CSFおよび血液から単離後の分泌タンパク質(神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびクロモグラニンB[Chr‐B])を、6N HClにより、110℃において16時間処理することにより加水分解する。タンパク質由来アミノ酸を誘導体化してペンタフルオロベンジル誘導体とし、誘導体化したアラニンへのO由来Hの取り込みを、他に詳述しているGC/MSにより測定する[Fanara, P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279, 49940‐49947 (2004);Fanara P. et al. Stabilization of hyperdynamic microtubule is neuroprotective in ALS. J. Biol. Chem. 282, 23465‐23472, (2007)(それぞれ参照することにより本明細書に組み込まれる)]。H富化は、アラニン誘導体の(M+1)質量アイソトポマーの天然存在比に対する増加パーセントとして計算する。これらの結果は、MT依存性の速い軸索輸送の緩慢化を示すSOD1G93Aトランスジェニックマウスモデルと一致する。
【図26】神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびクロモグラニン‐B[Chr‐B](正常な野生型(WT)と症候性SOD1G93Aトランスジェニックマウスの腰椎部脊髄運動ニューロン由来シナプス小胞を含む)のMT‐輸送依存性分泌速度を測定するパルスO標識方法論を示す。(A)シナプス小胞を、シナプス小胞単離キット(SIGMA)を用いて腰椎部脊髄から単離した。抗シナプトフィジン抗体を用いた免疫ブロッティングアッセイを最初に用いて、富化したシナプス小胞分画の存在を確認し、富化工程を確認した。抗シナプトフィジン抗体は小胞膜結合タンパク質シナプトフィジンに特異的である[Gingel. et al. The synaptic vesicle protein Synaptophasyn: purification and characterization of its channel activity. Biophys.J., 83, 3223‐3229, (2002)(参照することにより本明細書に組み込まれる)]。(B)30〜35mL/kg Oの腹腔内パルス投与後、腰椎部脊髄を13週齢の野生型(WT)と症候性SOD1G93Aマウスから標識後24、48および72時間目に収集した(n=3;平均±標準偏差)。腰椎部脊髄由来の富化したシナプス小胞分画を神経栄養因子‐1抗体ビーズへの逐次結合により分画した。溶出液を6N HClで、110℃において16時間処理することにより加水分解した。タンパク質由来アミノ酸をペンタフルオロベンジル誘導体に誘導体化し、神経栄養因子‐1から放出されたアラニンへのHの取り込みをGC/MSにより測定した。同一プロトコールを用いて、糖タンパク質クロモグラニン‐B[Chr‐B]をクロモグラニン‐B[Chr‐B]抗体への逐次結合により神経栄養因子‐1[NeuR‐1]非結合物質から捕捉する。13週齢の野生型(WT)と症候性SOD1G93Aトランスジェニックマウスの腰椎部脊髄由来のシナプス小胞を含む、H標識神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびH標識クロモグラニン‐B[Chr‐B]保持の動力学の経時変化を示す。これらの結果は、同一カーゴ分子H標識神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびH標識クロモグラニン‐B[Chr‐B]のCSF内出現の動力学の遅延と一致する。これらのデータにより、SOD1G93AトランスジェニックマウスはMT依存性の速い軸索輸送の緩慢化を示すことが確認される。
【図27】MTMAノスカピン処置後の、シナプス小胞を含むH標識神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびH標識クロモグラニン‐B[Chr‐B]のMT依存性の速い軸索輸送速度の正常化を示す。3週間のMTMAノスカピン(100mg/kg/日および200mg/kg/日)処置後、30〜35mL/kg Oを腹腔内パルス投与し、CSFならびに腰椎部脊髄を13週齢の野生型(WT)と症候性SOD1G93Aマウスから24、48および72時間目にそれぞれ収集した。H標識神経栄養因子‐1[NeuR‐1]またはH標識クロモグラニン‐B[Chr‐B](シナプス小胞を含む)保持のニューロン動力学およびCSF分泌速度を上記の通り測定した(図23および図24)。これらの結果は、SOD1G93Aトランスジェニックマウスが速い軸索輸送の緩慢化を示し、ノスカピンがSOD1G93Aトランスジェニックマウスにおけるこの速い軸索輸送の遅延を改善するモデルと一致する。サンプリングした体水または組織の標識分泌シナプス小胞「カーゴ」分子の出現の経時変化、範囲またはパターンを正常化させる能力を比較することにより薬剤の神経保護作用を検討する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
運動ニューロンおよび運動ニューロン疾患の生化学および細胞生物学
細胞体の直径が数桁の長さに達し得る軸索樹状突起間突起の存在を特徴とするニューロンの高度に非対称の形態は、かかる突起を維持し、非常に長い距離にわたり細胞小器官、小胞、もしくはタンパク質サブユニットならびに複合体(「カーゴ」)の輸送を支える細胞骨格の能力により決定される。主な細胞骨格系の1つは、それに沿ってキネシンおよびダイニンモータータンパク質が力を生じ、多くの細胞成分(例えばシナプス小胞)の輸送を促す微小管に基づく輸送系である。微小管(MT)依存性軸索輸送は主要ニューロンの伝達および輸送網であり、これは様々なタイプの分泌された神経伝達物質(成長因子(例えば神経栄養因子‐1[NueR‐1])、神経伝達物質(例えばアセチルコリン[Ach])、神経ペプチド(例えばアセチルコリン[Ach])、酵素(例えばアセチルコリンエステラーゼ[AChE])および糖タンパク質(例えばクロモグラニンB[Chr‐B])など)の経路として働く。「カーゴ」分子は、「カーゴ」分子生成の原発部位である運動ニューロンの細胞体から神経末端へと移動し、そこで「カーゴ」分子はシナプス間隙に放出される。脳脊髄液(CSF)はニューロンから分泌される神経ペプチド、酵素および糖タンパク質の媒介物である。分泌された成長因子(例えば神経栄養因子‐1[NueR‐1])、神経伝達物質(例えばアセチルコリン[Ach])、神経ペプチド(例えばアセチルコリン[Ach])、酵素(例えばアセチルコリンエステラーゼ[AChE])および糖タンパク質(例えばクロモグラニンB[Chr‐B])は、血中に放出されて循環し得る。血液または腰CSF中の成長因子、神経伝達物質、神経ペプチド、酵素または糖タンパク質のインビボ動力学測定値をMT機能の直接指標として用い得、速い軸索輸送の改善および神経系における分泌機能を誘発する治療のモニタリングが可能となる。ALSなどの運動ニューロン疾患、糖尿病性ニューロパシーなどの様々なニューロパシー、およびパーキンソン病などは、軸索輸送障害および変更された分泌機能などの変化を共有する病態である。
微小管(「MT」)はニューロンに豊富にあり、そこで神経突起(軸索および樹状突起)の形成を促して安定性を付与する。微小管はニューロン形態の主な決定要因であり、神経突起(軸索および樹状突起)の形成を促進して安定性を付与する。軸索微小管の会合および脱会合過程(「微小管動的挙動」として知られている)は、ニューロン形態を決定して維持する微小管の能力に基づく。ニューロンの構造的安定性に必須のこの過程は、ニューロン内のシグナル伝達経路も表す。微小管動的挙動は、大部分が微小管結合タンパク質(MAP)により制御される。ニューロンMAPは、特異的極性分布を有し、微小管の安定化において顕著な役割を果たす。
【0026】
運動ニューロンなどのニューロンは、一般的にニューロンが結合するMAPにより分類されるニューロン微小管のいくつもの異なる集団を有する。「ニューロン微小管」とは、生細胞中で一本、一対、トリプレット、または束で生じるチューブリンのポリマーからなるタンパク質構造を意味する。「チューブリン」とは、微小管の主要タンパク質成分を意味する。チューブリンは、2個の球状ポリペプチド、すなわちアルファ‐チューブリンおよびベータ‐チューブリン(α‐およびβ‐チューブリン)からなる二量体である。微小管は、二量体α‐およびβ‐チューブリンから組み立てられる。
【0027】
ニューロン微小管は、各種ニューロンコンパートメント(例えば、体細胞、樹状突起、および軸索)に、各種MAP(例えばタウ、MAP2、およびSTOP)と関連して存在する。微小管は、ニューロン分化の確立と維持、および遠位シナプスまでの軸索に沿った神経伝達物質の長距離輸送に必要である。
【0028】
一般に、ニューロン微小管には3つの主なクラスがある。それらは、成長円錐(「遠位軸索」または「軸索先端」としても知られる)微小管(本明細書および図面中では「タウ‐MT」とも呼ぶ);樹状突起微小管(本明細書では「MAP‐2MT」とも呼ぶ)、ならびに小丘および軸索シャフト微小管(本明細書および図面中では「STOP‐MT」とも呼ぶ)である。一般に、これらの用語は、各種類に結合する微小管結合タンパク質に由来する。「MAP」または「微小管結合タンパク質」とは、微小管と結合するとその機能および/または行動を改変するタンパク質である。すなわち、例えば、成長円錐および遠位軸索微小管の捕捉は、タウ抗体に対する結合親和性を用いて行なう。タウ非結合物質(樹状突起微小管)は、次にMAP2抗体との親和性結合により捕捉され、MAP2‐非結合分画中に小丘および軸索シャフト微小管(STOP‐MT)のみを残す。あるいは、STOP‐MTは、他のMTサブ集団に比べて低温およびミリモル濃度のCaCl中の脱重合に抵抗するその独自の能力を利用して直接単離することができる。
【0029】
本明細書で使用される「タウ」または「タウタンパク質」または「タウMAP」とは、脳から単離された、主要クラスの微小管結合タンパク質(MAP)である。神経細胞において、タウは、軸索成長円錐中に高度に富化される。タウタンパク質は、インビトロにおけるチューブリン重合の核生成(開始)過程を促進する。タウは、脳の動的な軸索成長円錐微小管の代謝回転/会合の調節物質であることが知られている。化学修飾されたタウタンパク質もアルツハイマー病に見られる神経原線維変化および神経網スレッドの形成および/または組成に関与していると思われる。
【0030】
本明細書で使用される「MAP2」または「微小管結合タンパク質‐2」とは、ニューロン樹状突起微小管中に高度に富化されている高分子量微小管結合タンパク質である。ある条件下でMAP2は、チューブリンの微小管への会合に必要であり、会合した微小管を安定化させ、その動的挙動を調節する。
【0031】
本明細書で使用される「STOP」または「安定な細管のみのポリペプチド(Stable Tubule Only Polypeptide)」とは、ニューロンCa2+‐カルモジュリンにより調節される微小管結合タンパク質である。STOPは、低温、ミリモルのカルシウムまたは薬剤に誘導されるインビトロ脱会合に対して無期限に微小管を安定化させる。
【0032】
「ニューロン低温安定微小管」とは、薬剤および低温の両方により誘導される脱会合に対して安定な豊富な軸索微小管サブ集団を意味する。薬剤および低温による微小管脱会合に対する抵抗性はSTOPとのポリマー結合に起因するところが大きい。
【0033】
本発明の概説
本明細書に開示の発明は、以下に関する:(1)微小管動的挙動を直接測定するための新規同位体標識技術の使用による、運動ニューロン疾患に対する新規治療標的、つまり、ニューロン微小管の動的性(すなわち、チューブリン二量体からの微小管の特定のサブ集団の会合および脱会合速度)の発見;(2)ニューロン微小管の動的性を、同位体標識技術の使用により生存動物またはヒト対象で測定することができ、それは、動物またはヒト対象における身体症状または神経機能喪失の発現前でも、ALSなどの運動ニューロン疾患において著しく変更されているという発見;(3)ALSなどの運動ニューロン疾患におけるニューロン微小管の変更された動的性を、ノスカピン、ノコダゾール、タキサン、および他の薬剤が挙げられるが、これらに限定されないある種の薬剤を単独で、または他のニューロン系、受容体、または経路を標的とする薬剤と併用して投与することにより調節することができるという所見;(4)確定または初期の運動ニューロン疾患(ALSなど)を呈する動物またはヒト対象に対して、ニューロンの微小管動的挙動を調節する薬剤の単独投与または薬剤の併用投与が、運動ニューロン疾患の神経機能喪失を著しく遅延または予防でき(運動ニューロン疾患の徴候および症状の発症を遅らせ、徴候および症状の進行を緩慢化し、死亡までの時間を延ばすこと(すなわち、延命)など)、それにより成功した神経保護療法であることを表すことができることの発見;(5)神経保護療法をもたらすことを意図した薬剤の投与に応答した、確定または初期の運動ニューロン疾患(ALSなど)を呈する動物またはヒト対象におけるニューロン微小管動的挙動のモニタリングが、運動ニューロン疾患を呈する個々の対象または対象の薬剤試験における最適用量、薬剤、薬剤併用、レジメン、治療のタイミング、治療期間、または他の最適な治療戦略の態様の同定(すなわち、診断的モニタリング)を可能にすることの発見。
【0034】
要約すると、本明細書に開示の発明は、運動ニューロン疾患に対する新規治療標的(ニューロンにおける微小管の変更された動的挙動);確定、初期、もしくは潜在的運動ニューロン疾患を呈する対象におけるこの治療標的の活性状態を測定する方法;運動ニューロン疾患を呈する生存対象におけるニューロン微小管動的挙動を調節する薬剤の発見;かかる薬剤の単独または併用投与が運動ニューロン疾患を呈する生存対象に、症状の遅延および延命を含む著しい神経保護療法をもたらすことができることの発見;ならびに治療的介入に応答した運動ニューロン疾患を呈する対象におけるニューロン微小管動的挙動のモニタリングが個々の対象もしくは薬剤試験の治療レジメンおよび戦略の最適化のための診断的モニタリングを可能にすることの発見、について説明する。
【0035】
ALSにおける神経保護戦略の使用はかなり魅力がある。しかしながら、今まで、このアプローチには特有の問題があった。それには、ALSリスクがある患者を同定する手段がないこと;臨床症状発現前の疾患活性を反映する臨床検査マーカーがないこと;実績ある神経保護剤がないこと;ならびに治療の最適タイミング、用量またはレジメンを知ることができないこと、などが含まれる。孤発性ALSおよびほとんどのタイプの家族性ALSに特異的な生化学マーカーがないことも、リスクのある個体を臨床症状発現前に同定することを不可能にしてきた。本発明は、ALSの十分確立した動物モデル(SOD1‐G93A TGNマウス)における異常な微小管動的挙動の生化学的測定方法を開示し、それは、この疾患の真の生化学的発現が臨床的欠陥の発現に先立つことを初めて実証した。したがって、ニューロン微小管動的挙動の測定は、ニューロン死に至る事象の最終カスケードを予防する神経保護化合物を使用するための「治療域」を提供し得る。多因子の下流病因経路がALSなどの運動ニューロン疾患によって活性化するため、疾患の進行速度を遅くして延命するには併用アプローチが必要な場合がある。
【0036】
本発明は、ニューロン微小管動的挙動が、ALSなどの運動ニューロン疾患では著しく変更されることと、小丘および軸索シャフト(構造的)微小管の微小管動的挙動を調節することにより、初期、確定、または潜在的運動ニューロン疾患を呈する対象において運動ニューロン機能喪失を最小化できるという発見に関する。これは、運動ニューロン疾患を処置するのに用いる組成物、ならびに微小管、運動ニューロン、および運動ニューロン疾患を調節する能力のために候補薬をスクリーニングし、治療レジメンを最適化する(例えば、診断的モニタリングを介して)方法を含む種々の適用をもたらす。加えて、本発明は、運動ニューロン生理学における異なる時点で作用することによって運動ニューロン機能を保つように相乗作用する複数の組成物を用いる運動ニューロン機能および疾患の調節に関する。
【0037】
したがって、本発明は、運動ニューロンにおける微小管動的挙動を調節する組成物およびその能力について候補薬をスクリーニングする方法にも関する。加えて、本発明は運動ニューロン疾患を処置、軽減、または予防するための組成物(単一化合物および併用化合物の両方)を提供する。
【0038】
本発明は、運動ニューロン疾患を呈する生存動物またはヒト対象の末梢神経に存在する長く伸長した安定な微小管ポリマーの会合および分解の速度を初めて測定したことに基づく。理論に束縛されないが、一部の運動ニューロン疾患は、軸索突起に沿った栄養および他の重要な要素の輸送を担う重要な細胞内細胞骨格成分の機能不全に起因すると思われる。運動ニューロン疾患を呈する動物の末梢神経におけるニューロン微小管動的挙動を直接測定する新規同位体/質量分析技術を用いることによる、軸索突起の微小管ポリマーの著しく増加した代謝回転(すなわち、分解および再構築の定常状態)の本明細書に開示の発見は、分子(軸索突起それ自身の安定性を維持するのに必要な栄養および他の構成成分を含む)の流れに障害を与えると思われる。したがって、本出願人らは、本明細書において、新規の基本的機序、つまり、運動ニューロン疾患を呈する生存対象において初めて記載された軸索突起(axonal process)(すなわち「軸索突起(axonal projection)」)の安定性を担う微小管の代謝回転の増大(軸索の不安定性および運動ニューロン疾患と関連して生じた症状)の発見を開示する。
【0039】
正常マウスにおいて、坐骨神経の構造的微小管は、チューブリン二量体からの会合および脱会合、または代謝回転の速度が著しく低いことを示す(図1および図3参照)。反対に、SODマウスは、坐骨神経の同じ構造的微小管の著しい不安定性または動的性を示す(図4参照)。重要なことは、坐骨神経の構造的微小管のこの安定性の喪失は、行動徴候または症状がこれらの動物において観察できる前に存在することであり、疾患の病因において二次的ではなく一次的役割であることが確認される。したがって、SODマウスの運動ニューロンにおける軸索輸送損失に先立ち、次いでこれを続発するALSの軸索機能不全は、通常はこれらニューロンにおいて軸索微小管ポリマーを安定に保つ制御過程の不全によると思われる。
【0040】
すなわち、会合および脱会合速度(すなわち、それらの「動的性」)を調節することにより微小管を調節する薬剤は、ALSおよび他の運動ニューロン疾患の核となる病因を治療し得る。微小管調節剤は知られているが、それらが、ALS、パーキンソン病、および糖尿病性ニューロパシーなどの運動ニューロン疾患において治療的使用の可能性があると認識されたことはこれまでに一度もなかった。ALSのSODトランスジェニックマウスモデルにおける軸索機能不全の動力学的原理の出願人らによる特定は、潜在的に新たな治療的役割を有する微小管動的性の潜在的調節物質をもたらした。
【0041】
他のニューロン受容体、経路、もしくは系に作用する薬剤と併用してまたは単独で微小管系と相互作用することが知られている薬剤の生存動物への続く投与の結果、微小管動的性は運動ニューロン疾患における新規および基本的治療標的を表すという発見を確認した。特に、SOD1G93A TGNマウスに対するノスカピンとMK801の併用投与は、疾患症状の発症を遅らせ、生存時間を延長させる(図6参照)だけでなく、ニューロン微小管動的性を正常化の方に低減させた(図7参照)。異常な微小管動的性の一部正常化(生化学的計量)と臨床疾患の一部軽減(機能的神経転帰)の相関は、微小管動的挙動と運動ニューロン疾患との間の病因学的関連を裏付け、さらなる治療的改善の余地も示唆する(すなわち、変更された微小管動的挙動を完全に正常化する薬剤を同定できる場合)。
【0042】
薬剤活性のバイオマーカーとして、本明細書に概説したSODトランスジェニックマウスの坐骨神経における微小管動的挙動のアッセイの使用は、ALS、パーキンソン病、および糖尿病性ニューロパシーなどの運動ニューロン疾患の新規クラスの療法の速やかな最適化も可能にする。一般的スクリーニングまたは特定クラスの薬剤スクリーニングのいずれかを用いて、最適投与量、化合物、レジメンなどを、症状スコアや死亡を待つ必要なく、症状発症前のSODトランスジェニックマウスにおいて速やかに(例えば、数日または数週間以内に)試験することができる。
【0043】
本発明は、さらにALS、パーキンソン病、および糖尿病性ニューロパシーなどの、ニューロパシーまたは運動ニューロン疾患の患者における微小管動的挙動をアッセイする方法を提供する。第I/II相臨床試験は、原則として微小管動的挙動の定量のための坐骨神経の生検を含み得る。すなわち、ALSなどの運動ニューロン疾患の真のバイオマーカー(すなわち、ALS患者が共有する、該疾患における病因論的役割を果たし、薬剤介入の標的および薬剤有効性の計量を表す、測定可能な生化学的異常)の利用可能性は、ALS(および他の運動ニューロン疾患)薬剤のクラスを試験するためのいくつもの独特な利点を提供する。無効な薬剤を速やかに特定し、貴重な臨床試験時間、費用、および患者資源の浪費を避ける。運動ニューロン疾患臨床試験において動力学的バイオマーカーが提供する役に立つものとしては他に、用量の最適化、患者の層別化、およびサブグループ分析が挙げられる。
【0044】
同位体標識前駆体(1つまたは複数)の投与
本発明方法の第一工程として、同位体標識前駆体を生物系に投与する。「生物系」としては、細胞、細胞株、患動物モデル、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、他のペット動物、マウス、ラット、非ヒト霊長類、およびヒトが挙げられるが、これらに限定されない。「個体」は、脊椎動物、通常、哺乳類(特にヒト)であり、「哺乳類」としては、ヒト、ならびにチンパンジーおよび他の類人猿ならびにサル種などの非ヒト霊長類;ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、およびウマなどの家畜;イヌおよびネコなどの飼育哺乳類;マウス、ラット、およびモルモットなどの齧歯類を含む実験動物が挙げられるが、これらに限定されない哺乳綱の任意のメンバーを意味する。これらの用語は特定の年齢または性別を示さない。したがって、雄または雌の、成体および新生対象、ならびに胎児に及ぶことを意図する。一般に、本明細書で使用される「試験対象」とは、脊髄運動ニューロン微小管動的挙動の変化、および/または運動ニューロン疾患症状の変化を検討されている個体である。
【0045】
試験生物系では種々の生体試料を採取できるが、一般的に本明細書では運動ニューロン試料を用いる。運動ニューロン試料の例としては、坐骨もしくは末梢神経組織、ならびに脳の運動皮質由来の試料が挙げられるが、これらに限定されない。
【0046】
分子流動速度の測定における第一工程は、生物系に同位体標識前駆体分子を投与することを伴う。同位体標識前駆体分子の投与様式は、同位体標識前駆体分子の吸収特性および各化合物が標的化される特定の生合成プールに応じて変わり得る。前駆体をインビボ分析のために実験動物およびヒトなどの生物に直接投与してよい。
【0047】
一般に、好適な投与様式は、少なくとも一時的に生合成プール内および/またはかかるプールを供給するリザーバー中の前駆体レベルを定常にするものである。静脈内または経口投与経路は、かかる前駆体をヒトなどの生物に投与するのに一般的に使用される。所望により徐放前駆体組成物と併用使用時は、皮下投与または筋肉内投与などの他の投与経路も好適である。注射用組成物は、一般的に無菌の医薬的賦形剤内で調製される。同位体標識前駆体分子の投与経路の選択は当該技術分野の技術内である。
【0048】
同位体標識前駆体分子は、安定な同位体または放射性同位体であってよい。使用できる同位体標識としては、H、13C、15N、18O、H、14C、35S、32P、125I、131I、または有機系に存在する元素の他の同位体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
1つの実施形態では、同位体標識はHである。
【0050】
前駆体分子は、対象とする「単量体」または「サブユニット」に取り込まれる同位体標識を有する任意の分子であってもよいし、単量体それ自身であることもできる。同位体標識を用いて本明細書に開示のすべての前駆体分子を修飾して同位体標識前駆体分子を形成してよい。「同位体標識基質」は、生物系の対象とする分子内に取り込むことができる任意の同位体標識前駆体分子を含む。同位体標識基質の例としては、O、O、H‐グルコース、H標識アミノ酸、H標識有機分子、13C標識有機分子、14C標識有機分子、13CO14CO15N標識有機分子、および15NHが挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
前駆体分子の全体が、1つまたは複数のチューブリン二量体サブユニットに取り込まれてよい。あるいは、前駆体分子の一部がチューブリン二量体サブユニットに取り込まれてよい。
【0052】
タンパク質前駆体分子は、当該技術分野で知られた任意のタンパク質前駆体分子であってよい。これらの前駆体分子としては、CO、NH、グルコース、乳酸塩、HO、酢酸塩、および脂肪酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0053】
タンパク質の前駆体分子は1つまたは複数のアミノ酸を含んでいてもよい。前駆体は任意のアミノ酸であってよい。前駆体分子は単または多重水素化アミノ酸であってよい。例えば、前駆体分子は1つまたは複数の13C‐リジン、15N‐ヒスチジン、13C‐セリン、13C‐グリシン、H‐ロイシン、15N‐グリシン、13C‐ロイシン、‐ヒスチジン、および任意の重水素化アミノ酸であってよい。標識アミノ酸は、例えば、非標識アミノ酸で希釈して投与してもよいし、希釈せずに投与してもよい。すべての同位体標識前駆体の市販品を、例えば、Cambridge Isotope Labs (Andover, MA)から購入し得る。
【0054】
タンパク質前駆体分子は、翻訳後または翻訳前修飾アミノ酸の任意の前駆体も含み得る。これらの前駆体としては、グリシン、セリン、またはHOなどのメチル化の前駆体;HOまたはOなどの水酸化の前駆体;リン酸塩、HO、またはOなどのリン酸化の前駆体;脂肪酸、酢酸塩、HO、エタノール、ケトン体、グルコース、またはフルクトースなどのプレニル化の前駆体;CO、O、HO、またはグルコースなどのカルボキシル化の前駆体;酢酸塩、エタノール、グルコース、フルクトース、乳酸塩、アラニン、HO、CO、またはOなどのアセチル化の前駆体;グリコシル化の前駆体、および当該技術分野で知られた他の翻訳後修飾が挙げられるが、これらに限定されない。
【0055】
遊離アミノ酸中に存在する標識度は、実験的に測定してもよいし、アミノ酸中の標識部位数に基づいて推測してもよい。例えば、水素同位体を標識として用いる場合は、体水中のOに曝露中に、遊離アミノ酸(またはより具体的にはtRNA‐アミノ酸)のC‐H結合中に存在する標識を同定し得る。各非必須アミノ酸中のC‐H結合の総数は知られている(例えば、アラニン中に4つ、グリシン中に2つなど)。
【0056】
タンパク質の前駆体分子は水(例えば、重水)であってよい。タンパク質のO‐HおよびN‐H結合は水溶液中で不安定なため、C‐H結合の水素原子は、Oからのタンパク質合成を測定するのに有用なアミノ酸の水素原子である。したがって、O由来のH標識のO‐HまたはN‐H結合への交換は、遊離アミノ酸からのタンパク質の合成なしに起きる。C‐H結合は、特異的酵素触媒中間代謝反応中にHOから遊離アミノ酸への取り込みを受ける。O投与後のタンパク質結合アミノ酸のC‐H結合中のH標識の存在は、したがって、タンパク質がO曝露期間中に遊離形態であったアミノ酸から組み立てられた(例えば、そのタンパク質が新たに合成される)ことを意味する。分析的には、用いられるアミノ酸誘導体は、すべてのC‐H結合を含まなくてはならないが、すべての潜在的な夾雑N‐HおよびO‐H結合を除去しなくてはならない。
【0057】
体水由来の水素原子(例えば、重水素またはトリチウム)は遊離アミノ酸に取り込まれ得る。標識水由来のHまたはHは、中間代謝反応を介して細胞中の遊離アミノ酸中に入ることができるが、HまたはHは、ペプチド結合に存在するかまたは転移RNAと結合しているアミノ酸中に入ることはできない。遊離必須アミノ酸は、急速可逆性アミノ基転移反応を介して体水由来の1個の水素原子をα‐炭素C‐H結合中に取り込み得る。遊離非必須アミノ酸は、無論、多数の代謝的に交換可能なC‐H結合を含むことから、新たに合成されたタンパク質中のOからの1分子当たりでより高い同位体富化値を示すと予期される。
【0058】
当業者は、体水由来の標識水素原子は他の生化学的経路を介して他のアミノ酸内に取り込まれ得ることを認識するであろう。例えば、水由来の水素原子は、クエン酸回路中の前駆体α‐ケトグルタレートの合成を介してグルタメートに取り込まれ得ることは当該技術分野で知られている。グルタメートは次いでグルタミン、プロリン、およびアルギニンの生化学的前駆体であることが知られている。別の例として体水由来の水素原子は、3‐メチル‐ヒスチジン中のメチル基、ヒドロキシプロリンもしくはヒドロキシリジン中の水酸基などの翻訳後修飾アミノ酸に取り込まれ得る。他のアミノ酸合成経路は当業者に知られている。
【0059】
酸素原子(H18O)は、酵素触媒反応を介して18からアミノ酸に取り込まれ得る(ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、または他の翻訳後修飾アミノ酸など)。例えば、アミノ酸のカルボン酸部分への酸素交換は酵素触媒反応中に生じ得る。標識酸素のアミノ酸への取り込みは当業者に知られている。
【0060】
標識水由来の水素および酸素標識は、翻訳後修飾を介してアミノ酸に取り込まれ得る。1つの実施形態では、翻訳後修飾は翻訳後修飾前に、既に生合成経路を介して標識水素または酸素を含み得る。別の実施形態では、翻訳後修飾は、翻訳後修飾工程(例えば、メチル化、水酸化、リン酸化、プレニル化、硫酸化、カルボキシル化、アセチル化、グリコシル化、または他の既知の翻訳後修飾)の前または後のいずれかに、体水由来の遊離交換標識水素に関与する代謝誘導体から標識水素、酸素、炭素、または窒素を取り込み得る。
【0061】
対象に投与するのに適したタンパク質前駆体としては、上記タンパク質中に見られる標準的なアミノ酸に加えて、HO、CO、NHおよびHCOが挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
水はタンパク質ならびに他の生体分子の前駆体である(米国特許第10/279,399号(その全体を参照することにより本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。したがって、標識水は、本明細書で教示した方法において前駆体として働き得る。「同位体標識水」は、水素または酸素のいずれかの特定の重同位体の1つまたは複数で標識された水を含む。同位体標識水の具体例としては、O、O、およびH18Oが挙げられる。
【0063】
Oの利用可能性は、おそらく細胞の生合成反応を決して制限しない(なぜなら、HOは細胞含有量の70%近くまたは35モル濃度超に相当するからである)。しかし、HO由来の水素および酸素原子は、生合成経路に関与する多くの反応に化学量論的に寄与する(例えば:R-CO-CH2-COOH+NADPH+HO→R-CHCH2COOH(脂肪酸合成))。
【0064】
結果として、H‐またはO‐同位体標識水の形態で提供される同位体標識は、合成経路の一部として生体分子中に取り込まれる。水素の取り込みは次の2通りで生じる可能性がある。すなわち、分子の不安定な位置(すなわち、急速に交換可能で、酵素触媒反応は不要)または安定な位置(すなわち、急速な交換不能で、酵素触媒が必要)である。酸素の取り込みは安定な位置で生じる。
【0065】
生体分子のC‐H結合への細胞水由来の水素取り込み工程の一部は、連続した生合成反応中の明確な酵素触媒工程中のみで生じ、成熟した最終生成物分子中に存在後は不安定(組織中の溶媒水と交換可能)ではない。例えば、グルコースのC‐H結合は溶液中で交換不能である。反対に、以下のC‐H位はそれぞれ特異的酵素反応の逆反応中に体水と交換される:クレブス回路のオキサロ酢酸/コハク酸シーケンスおよび乳酸塩/ピルビン酸塩反応におけるC1およびC6位;グルコース‐6‐リン酸/フルクトース‐6‐リン酸反応におけるC2位;グリセルアルデヒド‐3‐リン酸/ジヒドロキシアセトン‐リン酸反応におけるC3およびC4位;3‐ホスホグリセラート/グリセルアルデヒド‐3‐リン酸およびグルコース‐6‐リン酸/フルクトース‐6‐リン酸反応におけるC5位。
【0066】
分子の特定の非不安定位に共有結合的に取り込まれる水由来の標識水素または酸素原子は、それにより分子の「生合成歴」を明らかにする。すなわち、標識の取り込みは、細胞水中に同位体標識水が存在した期間中にその分子が合成されたことを示す。
【0067】
これら生体分子中の不安定な水素(非共有結合しているか、交換可能な共有結合中に存在する)は、分子の生合成歴を明らかにしない。しかしながら、不安定水素原子は、非標識水(HO)とインキュベーションすることにより(すなわち、HまたはHが第一に取り込まれた同じ非酵素交換反応の逆反応により)容易に除去することができる:
【化1】

【0068】
結果として、生合成歴を反映しないが非合成交換反応を介して取り込まれる潜在的夾雑水素標識は、実際には天然の豊富なHOとインキュベーションすることにより容易に除去できる。
【0069】
図1は、選択した遊離アミノ酸への同位体標識水由来の標識水素(HまたはH)の交換、次いで、選択した遊離アミノ酸が微小管サブユニットであるチューブリン二量体に取り込まれる経路を示す。図2は、チューブリン二量体の微小管への取り込みを示す。図3は、ニューロン微小管集団を単離および測定する実験的戦略を示す。
【0070】
生体分子への標識水素原子の取り込みを定量的に測定する分析法が利用可能である(例えば、Hでは液体シンチレーション計測;Hおよび18Oでは質量分析、レーザー分光法、NMR分光法、または当該技術分野で知られた他の方法)。同位体標識水取り込みの理論に関するさらなる考察については、例えば、Jungas RL. Biochemistry. 1968 7:3708‐17(参照することにより本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0071】
標識水は市販品として容易に入手し得る。例えば、OはCambridge Isotope Labs (Andover, MA)から購入し得、Oは例えばNew England Nuclear, Inc.から購入し得る。「重水」とは、1つまたは複数のH同位体を取り込んだ水を指す。一般に、Oは非放射性であるため、放射性であるOより毒性の懸念が少ない。Oは、例えば、水の総量の何パーセントかとして、例えば、消費される全体の水の1%として投与し得る(例えば、1日に消費される3リットルの水につき30マイクロリットルのOが消費される)。Oを利用する場合は、当業者により容易に測定される非毒性量を投与する。
【0072】
Oの比較的高い体水富化(例えば、全体の水の1〜10%が標識される)は、本発明技術を用いて比較的安価に達成し得る。このレベルはいかなる毒性徴候もなくヒトおよび実験動物で数週間または数ヶ月間維持されるので、この体水富化は、比較的一定で、安定している。多数のヒト対象(100人超)におけるこの所見は、高用量Oの前庭に対する毒性に関する先の懸念と異なる結果を示す。出願人らの一人は、体水富化の急速な変化が妨げられる限り(例えば、分割した低用量での初回投与によって)、毒性を伴わずにOの高い体水富化を維持できることを見出した。例えば、安価で市販されているOは、富化を比較的安価で1〜5%の範囲に長期間維持することができる(例えば、計算により、2% O富化、すなわちアラニン前駆体プール中7〜8%富化で2ヶ月間標識するのは、12時間、10%遊離ロイシン富化、すなわち当期間ロイシン前駆体プール中7〜8%富化で標識するより安価であることが明らかにされる)。
【0073】
18O同位体は毒性がなく、結果として著しい健康的リスクを示さないので、H18Oを投与するための比較的高く、比較的一定した体水富化も達成し得る。
【0074】
同位体標識水は、同位体標識水の連続投与、同位体標識水の不連続投与を介して、または同位体標識水投与の単回もしくは複数回投与後に投与してよい。同位体標識水の連続投与において、個体に同位体標識水を、該個体内で比較的一定した水富化を長期間維持するのに十分な期間投与する。連続方法では、標識水を、定常状態の濃度を達成するのに十分な期間(例えば、ヒトでは3〜8週間、齧歯類では1〜2週間)最適に投与する。
【0075】
同位体標識水の不連続投与において、同位体標識水量を測定し、次いで1回または複数回投与し、次いで同位体標識水への曝露を中止し、体水プールから同位体標識水を洗い流すことを可能にする。次いで、脱標識の時間経過をモニタリングし得る。水を、生体分子中で検出可能なレベルに達するのに十分な期間、最適に投与する。
【0076】
同位体標識水は、当該技術分野で知られた様々な方法で個体または組織に投与してよい。例えば、同位体標識水は、経口的、非経口的、皮下、血管内(例えば、静脈内、動脈内)、または腹腔内に投与してよい。OおよびH18Oの市販品のいくつもの供給源(Isotec, Inc. (Miamisburg OH, and Cambridge Isotopes, Inc. (Andover, MA))など)が利用可能である。投与する同位体標識水の同位体含有量は、約0.001%〜約20%の範囲であり得、生体分子の同位体含有量を測定するのに用いる装置の分析感度による。1つの実施形態では、飲水中4% Oを経口投与する。別の実施形態では、ヒトに50mLのOを経口投与する。
【0077】
標識水を投与する個体は哺乳類であり得る。1つの変形では、この個体は齧歯類、霊長類、ハムスター、モルモット、イヌ、またはブタが挙げられるが、これらに限定されない実験動物であり得る。薬剤、薬剤候補、薬剤リード、またはそれらの併用投与を含む変形では、この個体は、哺乳類(許容される患動物モデルなどの実験動物またはヒトなど)であり得る。食品添加物、工業用もしくは職業用化学物質、環境汚染物質、または化粧品の投与を含む変形では、この個体は、齧歯類、霊長類、ハムスター、モルモット、イヌ、またはブタが挙げられるが、これらに限定されない任意の実験動物であり得る。
【0078】
対象とする1つまたは複数の標的化チューブリンまたは微小管ポリマー分子の採取
本発明方法の実施において、1つの態様では、タンパク質は当該技術分野で知られた方法により生物系から得られる。一般に、試料は、運動ニューロンを含み、それらは試験対象の種々の部位(例えば、脳の運動皮質、坐骨神経、末梢神経)から採取でき、坐骨神経が特に有用である。
【0079】
複数の微小管ポリマーおよび/または遊離チューブリン二量体サブユニットが、神経生物学の分野で周知の技術を用いて生物系から採取される。1つまたは複数の生体試料は、1つまたは複数の生体液または組織(神経組織など)であり得る。タンパク質は、ニューロンなどの特定の細胞群、または他の増殖もしくは非増殖細胞から採取し得る。タンパク質は、当該技術分野で知られた標準的な生化学的方法を用いて生体試料から採取し得、所望により部分精製または単離し得る。特に、各種微小管分画(タウ‐MT、STOP‐MTなど)はPCT/米国特許第2005/028069号に概説されているように単離される。
【0080】
生体のサンプリング頻度は各種要因に応じて変わり得る。かかる要因としては、サンプリングの容易さと安全性、タンパク質の合成および分解/除去速度、ならびに細胞、動物、もしくはヒトに投与する治療候補薬の半減期が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
タンパク質は、アッセイの必要性に応じて、1つまたは複数の生体試料から部分精製および/または単離され得る。一般に、微小管ポリマーおよび/またはチューブリン二量体サブユニットは、他にどのような成分が試料中に存在するかによって、当業者に知られた種々の方法で単離または精製し得る。標準的な精製方法としては、電気泳動、分子的、免疫学的、およびクロマトグラフィー技術(イオン交換、疎水性、親和性、および逆相HPLCクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(FPLC)、化学抽出、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、ならびにクロマトフォーカシングなど)が挙げられる。例えば、一部のタンパク質は、標準的な抗体カラムを用いて精製してよい。タンパク質の濃縮と併せて限外ろ過および膜分離技術も有用である。適切な精製技術の一般的指針についてはScopes, R., Protein Purification, Springer‐Verlag, NY (1982)を参照されたい。必要な精製度はアッセイおよびその系の成分に応じて変化するであろう。一部の場合には、精製は不要である。
【0082】
別の実施形態では、タンパク質を加水分解または分解して、より小さな分子を形成してよい。加水分解方法としては、化学的加水分解(酸加水分解など)および生化学的加水分解(ペプチダーゼ分解など)が挙げられるが、これらに限定されない当該技術分野で知られた任意の方法が含まれる。加水分解または分解は、タンパク質の精製および/または単離の前に実施しても後に実施してもよい。タンパク質は、HPLC、FPLC、ガスクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、および/または他に当業者に知られた任意の化学的および/または生化学的化合物の分離方法を含む常套的精製方法により部分精製、または所望により単離してもよい。
【0083】
分析
タンパク質中の同位体富化は、NMR、レーザー分光法、液体シンチレーション計測、ガイガーカウンター、および質量分析法などの当該技術分野で知られた様々な方法により測定することができる。質量分析法を用いる方法において本発明で用途が見出されるいくつもの異なるタイプの質量分析器があり、ガスクロマトグラフィー‐質量分析法(GC‐MS)、同位体‐比質量分析法、GC‐同位体比‐燃焼‐MS、GC‐同位体比‐熱分解‐MS、液体クロマトグラフィー‐MS、電気スプレーイオン化‐MS、マトリックス支援レーザー脱離‐飛行時間‐MS、フーリエ変換‐イオン‐サイクロトロン‐共鳴‐MS、およびサイクロイダル‐MSが挙げられるが、これらに限定されない。
【0084】
質量分析計は、分子(タンパク質など)を急速に動くガス状イオンに変換し、そのガス状イオンをその質量電荷比に基づいて分離する。すなわち、イオンもしくはイオン断片の同位体もしくはアイソトポローグの分布を用いて、複数タンパク質の同位体富化を測定し得る。
【0085】
一般に、質量分析計は、イオン化手段と質量分析器を含む。いくつかの異なるタイプの質量分析器が当該技術分野で知られている。これらとしては、磁場分析器、電気スプレーイオン化、四重極、イオントラップ、飛行時間質量分析器、およびフーリエ変換分析器が挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
質量分析計は、いくつかの異なるイオン化方法も含み得る。これらのイオン化方法としては、ガス相イオン化供給源(電子衝撃、化学イオン化、および電場イオン化など)、ならびに脱離供給源(電場脱離、高速原子衝撃、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化、および表面増強レーザー脱離/イオン化など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0087】
加えて、2つ以上の質量分析器を併用して(MS/MS)、まず前駆体イオンを分離し、次いでガス相断片イオンを分離かつ測定し得る。これらの装置は、タンパク質の最初の一連のイオン化断片を生成し、次いで最初のイオンの第二断片を生成する。
【0088】
異なるイオン化方法も当該技術分野で知られている。ある重要な進歩は、タンパク質を含む大きな非揮発性高分子のイオン化技術の開発である。この種の技術としては、電気スプレーイオン化(ESI)およびマトリックス支援レーザー脱離が挙げられる。これらは、MSを強力な試料分離導入技術(液体クロマトグラフィーおよびキャピラリーゾーン電気泳動など)と併用適用することを可能にしている。
【0089】
加えて、質量分析計を、分離手段(ガスクロマトグラフィー(GC)および高速液体クロマトグラフィー(HPLC)など)と連結し得る。ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)において、ガスクロマトグラフィーからのキャピラリーカラムを、所望によりジェット分離器を用いて質量分析計と直接連結する。かかる適用において、ガスクロマトグラフィー(GC)カラムは試料ガス混合物から試料成分を分離し、分離した成分をイオン化して、質量分析計で化学的に分析する。
【0090】
一般に、タンパク質のベースライン質量アイソトポマー頻度分布を測定するため、かかる試料を採取してから、同位体標識前駆体を注入する。かかる測定は、細胞、組織、または生物中のタンパク質の天然質量アイソトポマー頻度を確定する一手段である。細胞、組織、または生物が同様の環境歴を有する対象集団の一部である場合は、集団アイソトポマー頻度分布をかかるバックグラウンド測定に用いてよい。さらに、かかるベースラインアイソトポマー頻度分布は、同位体の既知の平均天然存在比を用いて推定し得る。例えば、天然では有機炭素中に存在する13Cの天然存在比は1.11%である。かかるアイソトポマー頻度分布を測定する方法については以下に論じる。典型的には、タンパク質試料を同位体標識前駆体の投与前および投与後に採取する。
【0091】
1つの実施形態では、相対および絶対質量アイソトポマー存在比を測定する。測定した質量スペクトルのピークの高さ、あるいはピーク下の面積を親(ゼロ質量同位体)アイソトポマーに対する比率として表し得る。試料中のアイソトポマーの存在比の相対値および絶対値を得る任意の計算手段を本発明の目的でかかるデータを説明するのに用い得ることを理解されたい。
【0092】
1つの実施形態では、タンパク質(微小管ポリマーなど)の標識:非標識の割合を計算する。対象とする分子(例えば、チューブリン二量体、微小管ポリマー)の標識および非標識の割合を次に計算する。実施者は初めに分子の単離アイソトポマー種の測定される過剰モル比を測定する。実施者は次に理論的パターンに対する過剰比の測定した内在パターンを比較する。かかる理論的パターンは、米国特許第5,338,686号、同第5,910,403号、および同第6,010,846号(それらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載の二項式または多項式分布関係を用いて計算することができる。計算法としては、質量アイソトポマー分布分析(MIDA)を挙げ得る。質量アイソトポマー分布分析(MIDA)コンビナトリアルアルゴリズムの変形は当業者に知られたいくつかの異なる情報源において論じられている。この方法は、Hellerstein and Neese (1999)、ならびにChinkes, et al. (1996)、およびKelleher and Masterson (1992)、および米国特許第10,279,399号(それらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる)において論じられている。
【0093】
上に引用した参考文献に加え、この方法を実行する計算ソフトウエアは、Professor Marc Hellerstein, University of California, Berkeleyから公的に利用可能である。
【0094】
理論的パターンに対する過剰モル比の比較は、対象とする分子について作製した表を用いるか、または図式的に測定した関係を用いて行なうことができる。これらの比較から、前駆体サブユニットプール中のサブユニットの質量同位体富化の確率を説明する値(p値など)を測定する。この富化を次に用いて各質量アイソトポマーについて新たに合成されたタンパク質の富化を説明する値(A値)を測定し、すべてのアイソトポマーが新たに合成された場合に存在すると予期されるアイソトポマー過剰比を明らかにする。
【0095】
分画存在比を次に計算する。個々の同位体(元素について)または質量アイソトポマー(分子について)の分画存在比は、その特定の同位体または質量アイソトポマーにより表される総存在比の分画である。これは相対存在比と区別され、最も豊富な種が値100を与えられ、すべての他の種が100に対して正規化され、相対存在比パーセントとして表される。質量アイソトポマーMについて、
【0096】
Mxの分画存在比=A
【数1】

式中0〜nは存在比が生じる最低質量(M0)質量アイソトポマーに関する整数質量の範囲である。
【0097】
△分画存在比(富化または枯渇)=
【数2】

式中、下付き文字eは富化を示し、bはベースラインまたは天然存在比を示す。
【0098】
前駆体の投与期間中に実際に新たに合成されたポリマー分画を決定するため、測定した過剰モル比(EM)を、各質量アイソトポマーについて新たに合成された生体ポリマー(例えば、微小管)の富化を説明する計算した富化値A*と比較して、すべてのアイソトポマーが新たに合成されていた場合に存在すると予期されるアイソトポマー過剰比を明らかにする。
【0099】
1つの実施形態では、分子流量比を計算する。微小管の重合および/または脱重合速度を測定する方法は、前駆体プール中の微小管の質量同位体標識サブユニットの割合を計算し、この割合を用いて微小管の少なくとも1つの質量同位体標識サブユニットを含む微小管の期待度数を計算することを含む。この期待度数を次に実際の実験的に測定したアイソトポマー度数と比較する。これらの値から、選択した取り込み期間中に加えた同位体標識前駆体から形成される微小管の割合を測定することができる。そのようにして、かかる期間中の合成速度も測定する。定常期濃度の系において、または系の濃度の任意の変化が測定可能であるかもしくは当期間中に既知である場合、それにより脱会合速度も当該技術分野で知られた計算法を用いて知ることができる。前駆体‐生成物関係を次に適用する。連続標識方法において、同位体富化を漸近(例えば、可能な限り最大の)富化と比較し、動力学的パラメータ(例えば、合成速度)を前駆体‐生成物方程式から計算する。分画合成速度(ks)は、連続標識前駆体‐生成物式:
=[‐ln(1‐f)]/t
(式中、f=分画合成=生成物の富化/漸近前駆体/富化、およびt=試験系において接触する標識投与時間)
を適用することにより測定し得る。
【0100】
不連続標識法では、同位体富化の減少速度を計算し、サブユニットの動力学的パラメータを指数関数減衰方程式から計算する。この方法の実施において、微小管は、微小管の複数の質量同位体標識サブユニットを通常含む質量アイソトポマーに富化される。微小管のこれら高質量アイソトポマー(例えば、3または4個の質量同位体標識チューブリン二量体を含むタンパク質)の形成量は、外因性前駆体(例えば、O)の非存在下では天然質量同位体標識前駆体(例えば、O)の存在比が比較的低いために無視し得る量であるが、前駆体取り込み期間中(例えば、細胞、組織、器官、または生物へのO投与中)では著しい量が形成される。微小管を、連続時点で細胞、組織、器官、または生物から採取し、質量分析法により分析して高質量アイソトポマーの相対度数を測定するか、微小管由来のサブユニットの高質量アイソトポマーの相対度数を測定する。高質量アイソトポマーは第一時点の前にほぼ排他的に合成されるので、2つの時点間のその減衰によりそのサブユニットの減衰速度の直接測定値が得られる。複数の質量同位体標識サブユニットを含まない質量アイソトポマーの減衰速度は本明細書に記載の方法により計算および使用することもできる。
【0101】
通常、第一時点は、投与様式に依存して、前駆体(例えば、O)の投与中止から少なくとも2〜3時間後であり、質量同位体標識サブユニット(例えば、微小管ポリマーでは標識チューブリン二量体)の割合が前駆体投与後のその最高レベルから実質的に減衰していることを保証する。1つの実施形態では、次の時点は典型的には第一時点の1〜4時間後であるが、このタイミングは生体ポリマープールの交換速度による。
【0102】
微小管の減衰速度は、同位体標識サブユニットの減衰曲線から測定する。減衰曲線がいくつもの時点で定義されるこの例では、曲線を指数減衰曲線に適合させて、これから減衰定数を測定することによって減衰動力学を測定することができる。
【0103】
分解速度定数(kd)は、指数または他の動力学的減衰曲線:
=[‐ln f]/t
に基づいて計算し得る。
【0104】
運動ニューロン疾患の調節物質をスクリーニングする方法
本発明は、運動ニューロン疾患の調節物質をスクリーニングする方法を提供する(図4〜7、10参照)。この文脈において「調節物質」とは、活性のアゴニストおよびアンタゴニストを意味し、アンタゴニストが特に有用である。調節物質は、機能異常の活性を抑制し、任意の関連担体の副作用を最小限にするように選択される。
【0105】
本発明は、部分的に、運動ニューロンの微小管動的挙動をもたらす生化学的経路が運動ニューロン疾患の処置に至るという発見に関する。したがって、1つの実施形態では、本発明は、軸索微小管動的性を改変させることにより、運動ニューロン疾患症状を処置、予防、または軽減できる薬剤を同定するための候補薬をスクリーニングする方法を提供する。
【0106】
一般に、本発明で用途が見出される3つのクラスの候補薬がある。第一のクラスは、微小管動的挙動を調節する能力、特に、軸索シャフト微小管と成長円錐および/またはMAP2微小管を識別する能力について評価される一般候補薬を含む。すなわち、本発明が概説するように、微小管のこれら2つのプールは非常に異なるチューブリン交換動力学を示し、軸索微小管を選択的に安定化させる薬剤を特に使用する。すなわち、候補薬ライブラリーのスクリーニングは、微小管動的挙動および運動ニューロン機能不全を改変する(例えば、修飾する)薬剤について行なわれる。
【0107】
次に、経路特異的候補薬を試験することができる。この実施形態では、微小管交換動力学に影響することが疑われるか知られている薬剤を本明細書に概説した運動ニューロン系で試験する。
【0108】
さらに、運動ニューロン疾患に関連することが知られているが、微小管以外のニューロン系に作用すると一般に考えられているいくつかの生化学的事象がある。一部の場合には、これら生化学的事象は運動ニューロンのレベルで作用しており、他の場合にはこれら事象は、CNSおよび末梢神経系(PNS)疾患の両方の進行に影響し得る後期の事象と関連する。例えば、後期パーキンソン病において、運動ニューロン活性は崩壊し得る。同様に、後期ALSにおいて、小グリア活性化が生じる。したがって、本明細書に概説するものを含む併用療法アプローチは非常に有用であり得る。したがって、本発明は、神経保護活性のリードアウトとして微小管動的挙動を用い、これら疾患状態に関与することが知られている薬剤および薬剤の組み合わせを評価するために提供される。これらのさらなる経路には、小グリア活性化と関連する炎症および酸化ストレスと関連する経路、ならびに当該技術分野で知られた他のものが含まれる。
【0109】
一般候補薬
1つの実施形態では、候補薬の運動ニューロンの微小管活性を調節する能力についてスクリーニングする。本明細書で使用される「候補薬剤(candidate agent)」または「候補薬(candidate drug)」とは、本明細書に概説した活性についてスクリーニングすることができる、任意の分子、例えば、生体治療法剤(抗体および酵素など)を含むタンパク質、既知の薬剤および薬剤候補を含む小有機分子、多糖類、脂肪酸、ワクチン、核酸などを説明する。この文脈において、「一般」候補薬は、微小管、運動ニューロン、および/または運動ニューロン疾患の調節との関連が未知である。
【0110】
候補薬は、多くの化学物質クラスを包含する。1つの実施形態では、候補薬は有機分子であり、通常は分子量100超および約2,500ダルトン未満の小有機化合物である。分子量100超および約2,000ダルトン未満の小有機化合物が特に有用であり、約1500ダルトン未満がより有用であり、約1000ダルトン未満がより有用であり、500ダルトン未満がより有用である。候補薬はタンパク質との構造的相互作用(特に水素結合)に必要な官能基を含み、典型的にはアミン基、カルボニル基、水酸基、またはカルボキシル基の少なくとも1つ、通常、化学官能基の少なくとも2つを含む。候補薬は、しばしば、環状炭素もしくは複素環構造、ならびに/または上記官能基の1つもしくは複数で置換された芳香族もしくは多芳香族構造を含む。候補薬は、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、誘導体、構造的類似体、またはそれらの組み合わせを含む生体分子にも見出される。
【0111】
候補薬は、合成または天然化合物のライブラリーを含む多種多様の供給源から得られる。例えば、無作為化オリゴヌクレオチドおよびペプチドの発現および/または合成を含む、多種多様の有機化合物および生体分子の無作為および方向性のある合成のために多くの手段が利用可能である。あるいは、細菌、真菌、植物、および動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリーを利用できるか、または容易に製造される。さらに、天然または合成的に生成したライブラリーおよび化合物は常套的、化学的、物理的、および生化学的手段を通して容易に修飾される。既知の薬剤を、アシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指向性または無作為化学修飾に供して、構造的類似体を製造し得る。
【0112】
候補生物活性剤はタンパク質であり得る。本明細書において「タンパク質」は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびペプチドを含む少なくとも2つの共有結合アミノ酸を意味する。タンパク質は、天然アミノ酸、およびペプチド結合、または合成ペプチド模倣構造からなり得る。したがって、本明細書で使用される「アミノ酸」または「ペプチド残基」は、天然アミノ酸と合成アミノ酸の両方を意味する。例えば、ホモフェニルアラニン、シトルリン、およびノルロイシンは、本発明の目的のためのアミノ酸とみなされる。「アミノ酸」は、プロリンおよびヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基も含む。側鎖は、(R)または(S)配置のいずれでもよい。1つの特に有用な実施形態では、アミノ酸は(S)または(L)配置である。非天然側鎖を用いる場合は、非アミノ酸置換基を用いて、例えばインビボ分解を防ぐか遅らせてよい。
【0113】
候補生物活性剤は、天然タンパク質であっても天然タンパク質の断片であってもよい。すなわち、例えばタンパク質を含む細胞抽出物、またはタンパク質様細胞抽出物の無作為または指向性消化物を用いてよい。このように、原核性および真核性タンパク質のライブラリーを、本明細書に記載の系においてスクリーニングするために作製してよい。この実施形態で有用なものは、細菌、真菌、ウイルス、および哺乳類タンパク質のライブラリーであり、後者が特に有用であり、ヒトタンパク質がその中でも特に有用である。
【0114】
候補薬は、タンパク質の1クラスである抗体であってよい。用語「抗体」は、完全長ならびに当該技術分野で知られた抗体断片、例えばFab、Fab2、一本鎖抗体(例えばFv)、キメラ抗体、ヒト化およびヒト抗体など(完全抗体の修飾により製造されるかまたは組換えDNA技術を用いて新規に合成されるもの)およびその誘導体を含む。
【0115】
候補生物活性剤は核酸であり得る。「核酸」または「オリゴヌクレオチド」または本明細書中の文法的等価表現は互いに共有結合した少なくとも2つのヌクレオチドを意味する。本発明の核酸は、一般的にリン酸ジエステル結合を含むが、一部の場合には下記に概説するように、例えばホスホラミド(Beaucage, et al., Tetrahedron, 49(10):1925 (1993)およびその中の参考文献; Letsinger, J. Org. Chem., 35:3800 (1970); Sprinzl, et al., Eur. J. Biochem., 81:579 (1977); Letsinger, et al., Nucl. Acids Res., 14:3487 (1986); Sawai, et al., Chem. Lett., 805 (1984), Letsinger, et al., J. Am. Chem. Soc., 110:4470 (1988);ならびにPauwels, et al., Chemica Scripta, 26:141 (1986)、ホスホロチオエート(Mag, et al., Nucleic Acids Res., 19:1437 (1991);ならびに米国特許第5,644,048号)、ホスホロジチオエート(Briu, et al., J. Am. Chem. Soc., 111:2321 (1989))、O‐メチルホスホロアミダイト結合(Eckstein, Oligonucleotides and Analogues: A Practical Approach, Oxford University Pressを参照されたい)、ならびにペプチド核酸骨格および結合(Egholm, J. Am. Chem. Soc., 114:1895 (1992); Meier, et al., Chem. Int. Ed. Engl., 31:1008 (1992); Nielsen, Nature, 365:566 (1993); Carlsson, et al., Nature, 380:207 (1996)(これらのすべてが参照することにより取り込まれる)を参照されたい)を含む代替骨格を有し得る核酸類似体を含む。他の類似体核酸には、正の骨格(Denpcy, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:6097 (1995));非イオン性骨格(米国特許第5,386,023号;同第5,637,684号;同第5,602,240号;同第5,216,141号;および同第4,469,863号; Kiedrowshi, et al., Angew. Chem. Intl. Ed. English, 30:423 (1991); Letsinger, et al., J. Am. Chem. Soc., 110:4470 (1988); Letsinger, et al., Nucleoside & Nucleotide, 13:1597 (1994); Chapters 2 and 3, ASC Symposium Series 580, “Carbohydrate Modifications in Antisense Research”, Ed. Y.S. Sanghui and P. Dan Cook; Mesmaeker, et al., Bioorganic & Medicinal Chem. Lett., 4:395 (1994); Jeffs, et al., J. Biomolecular NMR, 34:17 (1994); Tetrahedron Lett., 37:743 (1996))および非リボース骨格(米国特許第5,235,033号および同第5,034,506号、ならびにChapters 6 and 7, ASC Symposium Series 580, “Carbohydrate Modifications in Antisense Research”, Ed. Y.S. Sanghui and P. Dan Cookに記載のものを含む)を有するもの、およびペプチド核酸が挙げられる。1つまたは複数の炭素環状糖を含む核酸も核酸の定義内に含まれる(Jenkins, et al., Chem. Soc. Rev., (1995) pp. 169‐176を参照されたい)。いくつもの核酸類似体がRawls, C & E News, June 2, 1997, page 35に記載されている(これらの参照文献はすべて参照することにより本明細書に明白に取り込まれる)。リボース‐リン酸骨格のこれらの修飾は、さらなる成分(標識など)の付加を促進するか、または生理環境におけるかかる分子の安定性および半減期を増大するために行ない得る。加えて、天然核酸と類似体の混合物を作製することができる。あるいは、異なる核酸類似体の混合物および天然核酸と類似体の混合物を作製してよい。核酸は、規定したように一本鎖でも二本鎖でもよく、または二本鎖と一本鎖配列(制限断片、ウイルス、プラスミド、クロモソームなどを含む)の両部分を含んでもよい。核酸は、DNA(ゲノムDNAおよびcDNAの両方)、RNA、またはハイブリッドであってよく、ここで、核酸は、デオキシリボ‐およびリボヌクレオチドの任意の組み合わせおよび塩基の任意の組み合わせ(ウラシル、アデニン、チミン、シトシン、グアニン、イノシン、キサンチン、ヒポキサンチン、イソシトシン、イソグアニン、4‐アセチルシトシン、8‐ヒドロキシ‐N‐メチルアデノシン、アジリジニルシトシン、シュードイソシトシン、5‐(カルボキシヒドロキシルメチル)ウラシル、5‐フルオロウラシル、5‐ブロモウラシル、5‐カルボキシメチルアミノメチル‐2‐チオウラシル、5‐カルボキシメチル‐アミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、イノシン、N‐イソペンテニルアデニン、1‐メチルアデニン、1‐メチルプソウラシル、1‐メチルグアニン、1‐メチルイノシン、2,2‐ジメチルグアニン、2‐メチルアデニン、2‐メチルグアニン、3‐メチルシトシン、5‐メチルシトシン、N‐メチルアデニン、7‐メチルグアニン、5‐メチルアミノメチルウラシル、5‐メトキシアミノメチル‐2‐チオウラシル、β‐D‐マンノシルクエオシン、5‐メトキシカルボニルメチルウラシル、5‐メトキシウラシル、2‐メチルチオ‐N‐イソペンテニルアデニン、ウラシル‐5‐オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル‐5‐オキシ酢酸、オキシブトキソシン、プソウラシル、クエノシン、2‐チオシトシン、5‐メチル‐2‐チオウラシル、2‐チオウラシル、4‐チオウラシル、5‐メチルウラシル、N‐ウラシル‐5‐オキシ酢酸メチルエステル、ウラシル‐5‐オキシ酢酸、プソウラシル、クエノシン、2‐チオシトシン、および2,6‐ジアミノプリンなどを含む)を含む。本発明の文脈において、特記しない限り、ヌクレオシド(リボース+塩基)とヌクレオチド(リボース、塩基、および少なくとも1つのリン酸)は本明細書において同義的に使用されることに留意されたい。
【0116】
タンパク質について上で一般的に記したように、核酸候補生物活性剤は、天然核酸、無作為および/または合成核酸であり得る。例えば、原核性または真核性ゲノムの消化物をタンパク質について上に概説したように用いてよい。加えて、RNAはこの中に含まれる。
【0117】
経路に基づく候補薬のスクリーニング
上に概説したように、一般的候補薬に加え、本発明は、微小管活性、運動ニューロン機能不全、および/または運動ニューロン疾患の調節物質のスクリーニングに用途が見出される。本明細書において「微小管活性」とは、種々の微小管生物活性のうちの1つを意味し、これには微小管重合および/または脱重合の速度、ある細胞位置から別の位置への細胞成分の輸送を持続させる能力、微小管の細胞骨格機能などが含まれるが、これらに限定されない。
【0118】
一般に、スクリーニングされる経路に基づく候補薬には2つの種類、すなわち、微小管活性に関与することが知られているかもしくは疑われるもの、ならびに運動ニューロン疾患と関連する他の生化学的事象に関与するもの、がある。
【0119】
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、経路に基づく候補薬のスクリーニングを利用する。
【0120】
微小管標的調節剤(MTMA)
1つの実施形態では、微小管標的調節剤を試験する。本明細書において「微小管標的調節剤」または「MTMA」とは、微小管重合および/または脱重合の速度に影響し、特に微小管の不安定性(すなわち、動的性)を低減するか遅くすることが先に認識されているか提唱されている薬剤を意味する。
【0121】
1つの実施形態では、MTMAは、オピオイドおよびオピオイド誘導体である。オピオイドは次の4つに広く分類される:体内で生成される内因性オピオイドペプチド;モルヒネ(原型的オピオイド)およびコデインなどのオピウムアルカロイド;ヘロインおよびオキシコドンなどの半合成オピオイド;ならびにオピウムアルカロイドと無関係な構造を有するペチジンおよびメタドンなどの完全合成オピオイド。
【0122】
1つの実施形態では、MTMAはオピウムアルカロイドである。1つの実施形態では、オピウムアルカロイドは、米国特許第6,376,516号(その全体を参照することにより本明細書に組み込まれる)に概説されるようなノスカピンまたはノスカピン誘導体である。ノスカピンは、鎮痛または抗痙攣活性を欠くオピウムアルカロイドであり、他のオピオイド(例えば、モルヒネ)と異なり、麻薬性または中毒性化合物ではない。さらに、パクリタキセル、ノコダゾール、ビンブラスチン、およびコルヒチンなどの他の微小管相互作用薬とは異なり、ノスカピンは、総チューブリンポリマー質量に影響を与えず、インビトロおよび生細胞の両方で微小管会合の定常期二量体/ポリマー平衡を変化させずに微小管動的挙動を修飾する。ノスカピンは、血液脳関門を通過し、CNS組織(脳および脊髄)およびPNSにも長い半減期を有する。したがって、本発明者らは、ノスカピンが、細胞骨格の異常(本発明者らが見出した改変した微小管動的挙動など)に関連したCNSおよびPNS障害の潜在的微小管相互作用化学療法剤であることを確認した(図4〜7参照)。ノスカピンは、現在、ヒトで鎮咳剤として使用可能である。MTMAとして有用な他のオピウムアルカロイドは、フェナントレン、イソキノリン、およびパパベリンがある。
【0123】
加えて、カンナビノイドは、単独または他の薬剤と併用したスクリーニングに用途が見出される。カンナビノイドは、CB1およびCB2受容体を含む、体内の内在性カンナビノイド受容体を活性化する一群の化学物質である。現在、カンナビノイドには以下の3つの一般的な種類がある:草本カンナビノイドは大麻植物に独自に生じ;内因性カンナビノイドはヒトおよび他の動物体内で産生され;合成カンナビノイドは実験室で製造される同様の化合物である。適切な薬剤としては、アナンダミドおよびアナンダミド類似体、ドコサテトラエニルエタノールアミド、およびホモ‐γ‐リノエニルエタノールアミド;エンドカンナビノイド(2‐アラキドノイルグリセロール(2‐AG)、パルミトイルエタノールアミド、およびオレアミドなど);テトラヒドロカンナビノール(THC)、特にマリノール(Δ‐THC)、カンナビジオール(CDB);カンナビノール(CBN);カンナビゲロール;カンナビクロメン;カンナビシクロール;カンナビバロール;テトラヒドロカンナビバリン;カンナビジバリン;カンナビクロメバリン;カンナビゲロバリン;カンナビゲロールモノエチルエーテル、CP‐55940;HU‐210 100;SR‐144526;ならびにナビロンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0124】
他の経路に基づく候補薬は、イオン、特にカルシウムおよびナトリウムの細胞内濃度を標的とするものである。カルシウムの細胞内濃度は、微小管形成および安定性に関与することが知られているため、(特に細胞内カルシウム濃度を低減することにより)細胞内カルシウムを調節する薬剤は、特にスクリーニングの対象となる。
【0125】
イオンチャンネルアンタゴニスト
主な興奮性神経伝達物質であるL‐グルタメート経路に関与するリガンド依存性イオンチャンネル(イオノトロピック受容体)には3つの主なタイプがある。これらはNMDA、AMPA、およびカイネート受容体であり、その各調節物質は本発明の経路スクリーニングに用途が見出される。
【0126】
NMDA受容体アンタゴニスト
NMDA受容体は、N‐メチル‐D‐アスパラギン酸(NMDA)による選択的活性化により最初に同定された。NMDA受容体は、NR1サブユニット、および4つの分離した遺伝子産物の1つ(NR2A‐D)であり得るNR2サブユニットの組立体からなる。両サブユニットの発現は機能的チャンネルを形成するのに必要である。グルタメート結合ドメインは、NR1およびNR2サブユニットの接合部に形成される(したがって、発現する両サブユニットに必要)。グルタメートに加えて、NMDA受容体は、その受容体を機能させるために結合させるコアゴニストであるグリシンを必要とする。グリシン結合部位はNR1サブユニット上に見出される。NR2Bサブユニットは、NMDA受容体の機能を調節する調節分子であるポリアミンに対する結合部位も有する。グルタメート(NMDA)結合部位に加えて、NMDA受容体上には調節化合物に対する複数の結合部位もある。効率的なNMDA受容体の活性化には、NMDAだけでなくグリシンも必要である。活性化はポリアミンの結合により調節することもできる。各結合部位(グルタメート、グリシン、ポリアミン)は、受容体とサブタイプ選択的化合物の両方の開発用の潜在的標的として用いられている。
【0127】
NMDA阻害剤は競合阻害剤でも非競合阻害剤でもあり得、任意の結合部位に結合できる。したがって、適切なNMDA受容体アンタゴニストとしては、アマンタジン;ケタミン;デキストロメトルファン(3‐メトキシ‐17‐メチル‐9(アルファ)、13(アルファ)、14(アルファ)‐モルフィナン臭化水素酸塩水和物);ジゾシルピン(MK‐801としても知られている);AP‐7(2‐アミノ‐7‐ホスホノヘプタン酸);APV(AP‐5とも呼ばれる);2‐アミノ‐5‐ホスホノ吉草酸;DCKA(5,7‐ジクロロキヌレン酸;グリシン部位で作用する)、ハーコセライド(アセトアミド‐N‐ベンジル‐3‐メトキシプロピオネートおよびその代謝産物、H‐209);ホモキノリン酸、(R)‐AP5;(R)‐CPP‐エン;PBPD;メマンチン;ケタミン;L‐701‐324;L‐689,560;GV196771A;Ro 25‐6981;イフェンプロジル;Co‐101676;GW468816(グリシン部位アンタゴニスト)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
これらの阻害剤のいくつかを図6に示す。
【0129】
特定の興味対象はジゾルシピンである。ジゾルシピンは、イオンチャンネルNMDA受容体を介したニューロン内への過剰なカルシウム流入を低減するカルシウムチャンネル遮断薬として同定されている。ジゾルシピンはグルタミン酸作動性NMDA受容体サブタイプの競合アンタゴニストとしても分類され、血液脳関門を通過する。グルタメート誘発性興奮毒性は複雑かつ多因子性であるが、ニューロン損傷およびニューロン死を媒介する終了事象の主要成分である。ジゾルシピンはNMDA受容体を介した過剰なカルシウム流入に関与する。
【0130】
酸化ストレス調節物質
MTMAおよび受容体アンタゴニストに加え、他の経路‐選択薬として、運動ニューロンにおいて酸化ストレスをもたらすものが挙げられる。これらの薬剤としては、ビタミンE、プロシステイン、N‐アセチルシステイン、リポ酸、および様々なタイプのニトロンなどの一般の抗酸化剤が挙げられる。
【0131】
小グリア活性化
神経炎症が最近、運動ニューロン疾患に対する有意な誘因として浮上している。例えば、ALS組織は、孤発性と家族性の両ALSおよびSODトランスジェニックマウスモデルにおいて観察される炎症変化を特徴とする。炎症変化には、多数の活性化小グリアおよび星状細胞の蓄積が含まれる。腫瘍壊死因子(TNF)などの前炎症性サイトカインはALSにおいて確実に上方制御される。腫瘍壊死因子受容体(TNF‐R1)は、疾患の未発症期後半ならびに症候期で増加する。TNFはALSにおける神経炎症の主な促進物質として作用するのに対し、共刺激サイトカインおよびケモカインのいくつかはTNF効果を可能にするように作用する。これらの変化は、パーキンソン病、および糖尿病性ニューロパシーなどの様々な末梢ニューロパシーなどの他の運動ニューロン疾患でも観察される。
【0132】
ALSにおける有効性を試験している候補抗炎症剤はいくつもあり、ミノサイクリンおよびサリドマイドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
したがって、本発明は、これらの薬剤の検査を、他の候補薬、特に微小管標的調節剤(MTMA)(このうち一部は上に掲載あり)、イオンチャンネルアンタゴニスト(このうち一部は上に掲載あり)、抗酸化剤、銅キレート、一酸化窒素阻害剤およびペルオキシ亜硝酸スカベンジャー、ならびに神経栄養因子と併せて提供する。
【0134】
その他の薬剤
加えて、抗グルタメート剤、他の抗炎症剤および他の抗痙攣剤をすべて試験できる。無論、本発明は任意の特定クラスの化合物における任意の特定の化合物に制限されることはない。任意の化合物または任意の化合物の併用が、本発明方法における使用のために想定される。
【0135】
医薬組成物
本明細書に概説した通り、運動ニューロン疾患(特にALS)を治療するのに使用できる種々の医薬組成物がある。1つの実施形態では、該医薬組成物は本明細書に概説したMTMA剤および医薬担体を含む。この実施形態では、ノスカピンに特定の用途が見出される。
【0136】
多くの実施形態では、該医薬組成物は、2つの異なる薬剤を含む。本明細書に概説した任意の2種類の神経保護剤の任意の併用が可能である。一部の場合には、3つの神経保護剤を治療のために併用できる。
【0137】
1つの実施形態では、医薬組成物は、2つの異なるMTMAを含む。この実施形態では、例えば、ノスカピン、およびエンドカンナビノイドなどのカンナビノイドに用途が見出される。
【0138】
代替的な実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよび神経保護剤(非MTMA)を含む。
【0139】
1つの実施形態では、神経保護剤は、電位依存性ナトリウムおよびカルシウムチャンネルアンタゴニストなどの電位依存性イオンチャンネルアンタゴニストを含む。したがって、少なくとも1つのMTMAおよび1つのチャンネルアンタゴニストを含む組成物に特定の用途が見出される。
【0140】
多くの実施形態では、該医薬組成物は、MTMAおよびNMDA受容体アンタゴニストを含む。いくつかの実施形態では、ノスカピンおよびジゾルシピンを含む組成物に特定の用途が見出される。代替的な実施形態では、NMDA受容体アンタゴニストはメマンチンである。
【0141】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ(PPARγ)アゴニストを含む。いくつかの実施形態では、ノスカピンおよびピオグリタゾン(Actos(商標登録))を含む組成物に特定の用途が見出される。代替的な実施形態では、PPARγアゴニストは、とりわけロシグリタゾン(Avandia(商標登録))、L‐796449、RS5444、またはGI262570であり得る。
【0142】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMA、およびセラストロール、ニメスリドまたはイブプロフェンなどの抗炎症剤を含む。
【0143】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよび抗酸化剤(特にiNOS抗酸化剤)を含む。いくつかの実施形態では、ノスカピンおよびL‐NMMA(ティラルギニン)を含む組成物に特定の用途が見出される。代替的な実施形態では、抗酸化剤は、とりわけセフトリアキソン、セラストロール、CoQ10、ビタミンE、またはAEOL 10150から選定できる。
【0144】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよびフリーラジカルトラッパー/スカベンジャーを含む。いくつかの実施形態では、とりわけノスカピンおよびマンガノポルフィリン抗酸化剤を含む組成物に用途が見出される。
【0145】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよび金属イオンキレート(特に銅(II)および亜鉛(II)キレート)を含む。いくつかの実施形態では、ノスカピンおよび8‐ヒドロキシキノリンなどの金属イオンキレート;アセトヒドロキサム酸;またはとりわけN,N‐ジメチル‐2,3‐ジヒドロキシベンズアミド(DMB)を含む組成物に用途が見出される。
【0146】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよび低電圧感受性カルシウムチャンネル(L‐VSCC)アンタゴニストを含む。いくつかの実施形態では、ノスカピンおよびニモジピンを含む組成物に特定の用途が見出される。
【0147】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよび非競合α‐アミノ‐3‐ヒドロキシ‐5‐メチルイソオキサゾール‐4‐プロピオン酸(AMPA)/カイネート受容体アンタゴニストを含む。いくつかの実施形態では、ノスカピンおよびGYKI 52466を含む組成物に特定の用途が見出される。
【0148】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよび選択的もしくは非選択的グルタメート受容体アンタゴニストを含む。いくつかの実施形態では、ノスカピンおよび非選択的グルタメート受容体アンタゴニストSosei51(NC‐1200/MVL‐6976)を含む組成物に特定の用途が見出される。代替的な実施形態では、選択的もしくは非選択的グルタメート受容体アンタゴニストは、NBQX、ニメスリド、リルゾール(Rilutek)、タランパネル、セフトリアキソン、またはNAALADase阻害剤から選定できる。他の実施形態では、グルタメート受容体アンタゴニストは、ONO‐2506などのグリア調節物質であり得る。
【0149】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよびアナンダミド(AEA)輸送、加水分解または再吸収阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、ノスカピンおよびN‐(4‐ヒドロキシフェニル)‐アラキドンアミド(AM404)を含む組成物に特定の用途が見出される。代替的な実施形態では、AEA輸送、加水分解または再吸収阻害剤はN‐(5Z、8Z、11Z、14Zエイコサテトラエン酸)‐4‐ヒドロキシベンズアミド(AM1172)またはURB597などの脂肪酸アミドヒドロラーゼFAAH阻害剤であり得る。加えて、ノスカピン、AEAおよびAM404などの、2つのMTMAおよびAEA再吸収阻害剤を含む組成物も有用である。
【0150】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよび神経栄養因子を含む。いくつかの実施形態では、ノスカピンならびにIGF1もしくはIGF‐1‐AAVを含む組成物に用途が見出される。
【0151】
多くの実施形態では、医薬組成物は、MTMAおよびアポトーシス阻害剤を含む。いくつかの実施形態では、ノスカピンならびにミノサイクリン、TCH346もしくはタモキシフェンを含む組成物に用途を見出し得る。
【0152】
いくつかの実施形態では、2つのMTMAならびに追加の神経保護剤を使用する。
【0153】
本明細書において「運動ニューロン関連障害」または「運動ニューロン疾患」または「病態」は、2つの神経保護剤を含む、典型的には少なくとも1つのMTMAを含む(ただし、1つおよび2つを超える神経保護剤も意図する)医薬組成物の投与により軽減される可能性がある障害を意味する。1つの特定の有用な実施形態では、微小管標的調節剤を筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療に使用する。
【0154】
多くの実施形態では、治療有効量の神経保護剤を処置の必要な患者に投与する。本明細書における「治療有効量」とは、投与対象に効果をもたらす用量を意味する。正確な用量は治療目的に依存し、当業者は既知の技術を用いて確認できるであろう。1つの特定の有用な実施形態では、約5μg/kgの投与量が使用され、静脈内または皮下のいずれかにより投与される。当該技術分野において既知の通り、薬剤分解、全身対局所送達、および新規プロテアーゼ合成速度、ならびに年齢、体重、全体的健康感、性別、食事、投与時間、薬剤相互作用および病態の重症度に対する調整が必要であり得、当業者は日常的な実験で確認できるであろう。
【0155】
本発明の目的のための「患者」は、ヒトおよび他の動物(特に哺乳類)の両方、および生物を含む。したがって、該方法はヒトの治療および獣医学への適用の両方に適応可能である。1つの特定の有用な実施形態では、患者は哺乳類であり、1つの特定の有用な実施形態では患者はヒトである。
【0156】
本発明における用語「処置」は、疾患または障害の治療的処置、ならびに予防的、または抑制手段を含むことを意味する。したがって、例えば、運動ニューロン疾患の場合、疾患発現前に2つの神経保護剤、典型的には、少なくとも1つのMTMAを含む(ただし1つおよび2つを超える神経保護剤も意図する)の成功的な投与は、その疾患の「処置」となる。別の例として、疾患の臨床症状後の、神経保護剤の投与による疾患症状への対抗の成功はその疾患の「処置」を構成する。「処置」は、該疾患出現後に該疾患を根絶するための神経保護剤の投与も包含する。発現後および臨床症状の発症後の、臨床症状の可能な軽減およびおそらく疾患の改善を伴う薬剤投与の成功はその疾患の「処置」を構成する。
【0157】
「処置の必要な」ものは、既に疾患もしくは障害を呈している、ならびに疾患もしくは障害を呈する傾向がある(疾患または障害を予防すべきものなど)哺乳類を含む。
【0158】
本発明の組成物は、典型的には少なくとも2つの神経保護剤の併用であり、その組成物は単独投与形態で共に投与できる(例えば、2つの薬剤を配合した経口製剤)または以下に概説した任意の投与形態において単独で、同時または逐次投与できる。例えば、一方の薬剤を経口投与し、別の薬剤を共にまたは逐次で腹腔内投与できる。加えて、分けて投与する場合、投与の時間または頻度は異なってよい。あるいは、少なくとも2つの薬剤を別々にではあるが同じ投与形態で(例えば、経口投与により)投与してよい。
【0159】
ヒトへの投与に適した初回投与量は、インビトロアッセイまたは動物モデルから決定し得る。例えば、初回投与量は、インビトロアッセイで測定した、投与される化合物(1つまたは複数)の特定の代謝活性剤のIC50を含む血清濃度を達成するように製剤化し得る。あるいは、ヒトへの初回投与量はSODマウスなどのALS動物モデルにおいて有効であることが見出された投与量に基づき得る。1例として、本明細書に概説した医薬組成物の各成分の初回投与量の範囲は、約0.01mg/kg/日〜約200mg/kg/日であり得、または約0.1mg/kg/日〜約100mg/kg/日、または約1mg/kg/日〜約50mg/kg/日、または約10mg/kg/日〜約50mg/kg/日も使用できる。しかしながら、投与量は、患者の要件、処置する病態の重症度、および使用する化合物(1つまたは複数)に応じて変更し得る。用量サイズは、特定の患者における特定の化合物(1つまたは複数)の投与に伴う任意の有害な副作用の存在、性質、および範囲によっても決定される。特定状況における適切な投与量の決定は、実施者の技術の範囲内である。通常、処置は化合物(1つまたは複数)の最適用量より低用量で開始する。その後、この条件下で最適効果に到達するまで投与量を漸増する。便宜上、1日の総投与量は所望により1日で分割投与してよい。
【0160】
薬剤組成物中の活性化合物の濃度は、この薬剤の吸収、分布、不活性化および排泄速度ならびに当業者に既知の他の要因に依存する。投与量は緩和すべき病態の重症度によっても変化することに留意されたい。さらに、いかなる特定の対象に対しても、その個体の必要性ならびにこの組成物の投与者もしくは投与監督者の専門的判断に従って特定の投与レジメンを経時的に調整すべきであって、本明細書に示す濃度範囲は単に例として挙げたに過ぎず、特許請求の範囲の組成物の実施範囲を限定するものではないことを理解されたい。活性成分は、一度に投与してもよいし、低用量に複数分割して様々な時間間隔で投与してもよい。
【0161】
経口投与に適した剤形は、(a)水、生理食塩水またはPEG 400などの希釈剤中に懸濁した有効量の化合物(1つまたは複数)などの溶液;(b)それぞれ、所定量の活性成分を液体、固体、顆粒またはゼラチンとして含む、カプセル剤、サシェ剤または錠剤;(c)好適な液体中の懸濁液;ならびに(d)適切なエマルション、からなることができる。錠剤形態は、ラクトース、ショ糖、マンニトール、ソルビトール、リン酸カルシウム、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、微結晶性セルロース、ゼラチン、コロイド状二酸化ケイ素、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、および他の賦形剤(excipient)、着色剤、賦形剤(filler)、結合剤、希釈剤、緩衝剤、湿潤剤、防腐剤、香味剤、染料、崩壊剤、および製薬的の適合する担体のうちの1つ以上を含むことができる。トローチ剤(lozenge)形態は、香味料中の活性成分(例えば、ショ糖)、ならびに不活性塩基中の活性成分を含むトローチ(pastilles)、(ゼラチンおよびグリセリンまたはショ糖およびアカシアエマルション、ゲル、ならびに活性成分に加え、当該技術分野において既知の担体を含むものなどを含むことができる。
【0162】
経口組成物は、一般に、不活性な希釈剤または食用の担体を含む。これらはゼラチンカプセルに封入されてもよいし、錠剤に打錠されてもよい。経口治療投与の目的のために、活性化合物を賦形剤に包含して錠剤、トローチ、またはカプセルの形態で用いることができる。製薬的に適合する結合剤および/またはアジュバント物質も組成物の一部として含むことができる。
【0163】
活性化合物またはその製薬上許容可能な塩は、エリキシル、懸濁液、シロップ、ウェファー、チューインガムなどの成分として投与できる。シロップは、活性化合物に加え、甘味剤としてのショ糖およびある種の防腐剤、染料ならびに着色料および香味料を含んでよい。
【0164】
活性化合物またはその製薬上許容可能な塩は、所望の作用を損なわない他の活性物質、または所望の作用を補足する他の物質と混合することもできる。
【0165】
本明細書で使用される用語「製薬上許容可能な塩(1つまたは複数)」とは、上の同定された化合物の所望の生物活性を保持し、望ましくない毒性作用は最小限しか示さないか全く示さない塩を指す。かかる塩の例としては、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸など)により形成される酸付加塩、および有機酸(酢酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、安息香酸、タンニン酸、パモン酸、アルギン酸、ポリグルタミン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、およびポリガラクツロン酸など)により形成される塩が挙げられるが、これらに限定されない。この化合物は、当業者により知られている製薬上許容可能な第四級塩として投与することもでき、具体的には、式‐NR+Z‐の第四級アンモニウム塩を含み、式中Rは、水素、アルキル、またはベンジルであり、Zは対イオン(塩化物、臭化物、ヨウ化物、‐O‐アルキル、トルエンスルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、またはカルボン酸塩(安息香酸塩、コハク酸塩、酢酸塩、グリコール酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、アスコルビン酸塩、安息香酸塩、ケイ皮酸塩、マンデル酸塩、ベンジロン酸塩、およびジフェニル酢酸塩など)が挙げられる)である。
【0166】
選択した化合物(1つまたは複数)は、単独または他の適切な成分との併用において、吸入投与されるエアゾール剤形(すなわち、それらは「噴霧化」できる)に製造してよい。エアゾール剤形は、加圧した許容可能な高圧ガス(ジクロロジフルオロメタン、プロパン、窒素など)、などの中に入れることができる。
【0167】
直腸投与に適した剤形は、例えば、坐剤ベースでパッケージ化した化合物(1つまたは複数)からなる坐剤が挙げられる。適切な坐剤の基剤としては、天然または合成のトリグリセリドまたはパラフィン炭化水素が挙げられる。加えて、選択した化合物(1つまたは複数)と、例えば、液体トリグリセリド、ポリエチレングリコール、およびパラフィン炭化水素などの基剤の併用からなるゼラチン直腸的カプセル剤の使用も可能である。
【0168】
非経口投与、例えば、関節内(intraarticular)(関節中(in the joints))、静脈内、筋肉注射、皮内、腹腔内、および皮下経路などに適した剤形としては、水性および非水性、等張無菌注射液が挙げられ、これらは抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、ならびに意図したレシピエントの血液と製剤を等張にする溶質、ならびに水性および非水性無菌懸濁液(懸濁剤、溶解剤、増粘剤、安定剤、および防腐剤を含むことができる)を含むことができる。本発明の実践において、組成物は、例えば、静脈内注入、経口、局所、腹腔内、膀胱内または髄腔内投与できる。非経口投与、経口投与、皮下投与および静脈内投与は特に有用な投与方法である。適切な液体製剤の1つの具体例では、約0.1〜100mg/mLの化合物(1つまたは複数)および約1000mg/mLのプロピレングリコール水溶液を含み得る。適切な液体の別の具体例としては、約0.1または約0.2〜約100mg/mLの化合物(1つまたは複数)および約800〜1000mg/mLのポリエチレングリコール400(PEG400)水溶液を含み得る。
【0169】
適切な懸濁製剤の1つの具体例は、約0.2〜30mg/mLの化合物(1つまたは複数)ならびに1つもしくは複数の賦形剤(約200mg/mLのエタノール、約1000mg/mLの植物油(例えば、コーン油)、約600〜1000mg/mLの果汁(例えば、葡萄汁)、約400〜800mg/mLの乳汁、約0.1mg/mLのカルボキシメチルセルロース(または微結晶性セルロース)、約0.5mg/mLのベンジルアルコール(またはベンジルアルコールと塩化ベンザルコニウムの併用)およびpH7の約40〜50mM緩衝液(例えば、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液またはクエン酸緩衝液、あるいは緩衝液の代わりに5%デキストロースを使用してよい)からなる群から選択される)を含み得る。
【0170】
適切なリポソーム懸濁製剤の1つの具体例は、約0.5〜30mg/mLの化合物(1つまたは複数)、約100〜200mg/mLのレシチン(または他のリン脂質またはリン脂質の混合物)および任意に約5mg/mLのコレステロール水溶液を含み得る。化合物(1つまたは複数)の皮下投与において、5mg/mLの化合物(1つまたは複数)の100mg/mLのレシチン水溶液および5mg/mLの化合物(1つまたは複数)の100mg/mLのレシチン水溶液および5mg/mLのコレステロールを含む、リポソーム懸濁液は良好な結果をもたらす。
【0171】
化合物(1つまたは複数)の製剤は、単回用量または複数回用量の密封容器(アンプルおよびバイアルなど)内に含むことができる。注射液および懸濁液は、前述のような無菌粉末剤、顆粒、および錠剤から調製できる。
【0172】
製剤調製は単位投与量形態で特に有用である。かかる形態では、調製は好適な量の化合物(1つまたは複数)を含む単位用量に細分される。単位投与量形態はパッケージ化された調製物、調製物の個々の量を含むパッケージ(バイアルもしくはアンプル中の小包錠剤、カプセル剤、および粉末剤など)であることができる。また、単位投与量形態はカプセル、錠剤、封印、もしくはトローチ剤それ自身であることができ、またはそれはパッケージ形態にある好適な数の任意のこれらであることができる。組成物は、所望の場合、以下に詳細に論じられる他の適合する治療薬も含むことができる。
【0173】
1つの実施形態では、活性化合物は、この化合物が体から急速に排出されることを防ぐ担体(インプラントおよびマイクロカプセルに封入された送達系を含む制御放出製剤など)と共に調製される。エチレン酢酸ビニル、ポリアンヒドリド、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル類、およびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用できる。かかる製剤の調製方法は当業者に明らかであろう。これらの材料は、市販の、Alza Corporation (Mountain View, CA)およびGilford Pharmaceuticals (Baltimore, MD)から入手することもできる。リポソーム懸濁液も製薬上許容可能な担体であり得る。これらは、当業者に既知の方法、例えば、米国特許第4,522,811号(その全体を参照することにより本明細書に組み込まれる)に記載されている方法により調製してよい。例えば、リポソーム製剤は、好適な脂質(1つまたは複数)(ステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ステアロイルホスファチジルコリン、アラキドニルホスファチジルコリン、およびコレステロールなど)を無機溶媒に溶解し、次いでこれを蒸発させ、乾燥した脂質の薄いフィルムを容器の表面に残すことにより調製し得る。活性化合物またはその誘導体の水溶液を次にこの容器内に導入する。この容器を次に手で攪拌して容器の側面から脂質物質を遊離させて脂質の凝集体を拡散させることにより、リポソーム懸濁液を形成する。
【0174】
対象および臨床試験における運動ニューロン疾患の診断および薬剤活性のモニタリング
1つの実施形態では、本発明の方法は、症状発症前に運動ニューロン疾患の検出を可能にする本明細書に概説した生化学マーカーの使用により、運動ニューロン疾患の初期診断を可能にする。したがって、本発明方法を利用することにより、ならびに例えば、小丘および軸索シャフト(STOP)微小管の過剰な動的性(例えば、不安定性、高速代謝回転)を検出することにより、運動ニューロン疾患(ALSなど)の存在を検出できる。通常、軸索微小管は非常に安定しているため(本質的に標準アッセイ時間にわたりチューブリン交換はない)、この文脈における「不安定性」とは、運動ニューロン微小管内への新規チューブリンの取り込み百分率の増大である。
【0175】
1つの関連する実施形態では、本発明方法は、例えば、小丘および軸索シャフト微小管の動的性変化を検出することにより、運動ニューロン疾患を呈する個々の対象の治療的介入に対する反応をモニタリングすることを可能にする。
【0176】
別の関連する実施形態では、本発明方法は、運動ニューロン疾患の処置として臨床試験において試験される候補薬の有効性の評価を可能にする。(例えば、候補治療薬による処置中の)小丘および軸索シャフト微小管の動的性変化を処置群で評価し、統計的に比較して治療レジメンの生化学的有効性を決定することができる。
【0177】
薬剤の発見および開発
1つの実施形態では、本方法は、生物系を化合物または化合物併用に曝露後に観察される微小管動的性に対する効果を評定することを可能にする。したがって、得られたおよび分析したデータは、薬剤の発見、開発、および承認(Drug Discovery, Development, and Approval:DDDA)過程において有用である。なぜなら、そのデータは、DDDA意思決定過程を促進する;すなわち、化合物または併用化合物の開発をさらに継続するか(例えば、微小管動的性安定化データが有望と思われる場合)、あるいは前記活動を中断するか(例えば、微小管動的性安定化データが不振と思われる場合)を決定する上で意思決定者にとって有用な情報を提供するからである(この過程の図解表示については、図13を参照されたい)。
【0178】
さらに、本方法は、当業者が化合物のあるクラス内での「最高製品(best in breed)」(すなわち、「その種で最高のもの(best in class)」)を同定、選択、および/または特性決定することを可能にする。いったん同定、選択、および/または特性決定後は、当業者は、本発明方法により得られた情報に基づき、「最高製品(best in breed)」をさらに検討するか、またはその化合物を別の事業体(製薬会社またはバイオテクノロジー企業など)にライセンス付与するか決めることができる(図14参照)。
【0179】
図14は、薬剤発見過程における本明細書に記載の発明の使用を例示する。工程01では、複数の候補薬を選択する。工程03では、微小管動的性を細胞中または動物全体で、通常、本明細書で論じられる方法により試験する。代替的な実施形態では、工程03は、本発明が、例えば、標的発見過程において使用される際に最初に実施する。工程05では、関連微小管動的挙動のデータを同定する。例えば、微小管動的性を減らすことが望ましい場合、動的性を減らす化合物は一般的により有用であるとみなされ、反対に動的性を増大する化合物は一般的にあまり望ましくないとみなされる。標的発見過程において、別の表現型に比べて微小管動的性が増大または減少した特定の表現型(例えば、非罹患または対照に対する罹患)は、良好な治療標的もしくは診断的標的、または良好な治療標的もしくは診断的標的の経路にあるとみなしてよい。工程07では、対象とする化合物、対象とする標的、または診断法を選択し、さらに使用し、さらに開発する。標的の場合、かかる標的は、例えば、周知の低分子スクリーニング過程(例えば、新規化学物質の高速大量スクリーニング)の対象であり得る。あるいは、生体要因、または承認済みの薬剤、または他の候補薬(または候補薬の併用および/もしくは混合物)を使用し得る。工程09では、化合物または診断を販売または配給する。販売品または配給品は、本発明方法により特定9された「最高製品(best in breed)」であり得る。言うまでもなく、図14の過程における1つまたは複数の工程は、ほとんどの場合、最適な結果を得るために何度も反復されることが認識される。
【実施例1】
【0180】
チューブリン二量体およびポリマーの単離
チューブリンは先に記載されたプロトコールを少し修正したものを用いて精製した(Fanara, P., Oback, B., Ashman, K., Podtelejnikov, A., Brandt, R. Identification of MINUS, a small polypeptide that functions as a microtubule nucleation suppressor. EMBO J. 18, 565‐577 (1999); Fanara, P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279, 49940‐49947 (2004)。体外(ex vivo)精製のため、マウスをイソフルランで麻酔し、頸椎脱臼により安楽死させた。坐骨神経を解剖し、次の通り単離した。皮膚を引き下げて下半身の筋肉を露出させた。腰部直下で広域仙骨部の真上にある脊髄をはさみで横に切断した。半ば開いたはさみを、臀部の広域腸骨部にほぼ当たるまで腰部の背骨に滑り下ろした。こうすることにより脊髄のできるだけ近くで坐骨神経を切断することとなる。鉗子を用いて筋層を肢の大腿部(大腿)上方に持ち上げた。次いで、筋肉の表層を注意深く切断して筋層間の白質神経を露出させた。神経上の筋肉を横に切断し、切断部を足と臀部に向かって広げた。臀部で神経は向きを変えて骨盤骨中を下降する。小さなはさみの先端を背骨と平行に第一脊髄切断部に向かって筋肉に差し入れた。これにより坐骨神経の最後の部分(神経筋接合部の成長円錐)を露出させた。鉗子を用いて、白質神経をつかんで持ち上げた。より小さなはさみを使って筋肉に残ったわずかな付着部を切断した。組織を次に速やかにチューブに入れ、MSB中で穏やかにホモゲナイズした。微小管ポリマーから細胞質チューブリン二量体を分離するため、核除去後の上清を20℃で190,000×g、35分間遠心した。上清または非微小管分画(可溶性二量体チューブリンを含む)をペレットまたは微小管分画(重合チューブリンを含む)から分離し、急速冷凍して‐20℃で保存した。微小管ペレットを連続イムノ親和性クロマトグラフィー工程によりさらに分画した。タウ結合微小管を単離するため、タウ5抗体を0.25mg/mLの濃度でエポキシ活性化セファロースビーズ(Amersham Pharmacia Biotech)と共有結合させた。約0.2mgの微小管ペレットを室温で1時間0.5mL MSB中のタウ‐5ビーズとインキュベーションした。非結合物質を除去し、ビーズを0.5mLのMSBで3回洗浄し、結合物質を1M NaCl含有0.5mL MSBで溶出させた。一部の実験では、MAP2結合微小管を、同じプロトコールを用いてMAP2抗体と結合させたエポキシ活性化セファロースビーズ(0.5mg抗体/mLビーズ)上のイムノ親和性クロマトグラフィーによりタウ5非結合物質から捕捉した。各調製物(チューブリン二量体およびタウ5‐結合、MAP2‐結合、および非結合微小管分画)中のチューブリンの相対存在比をウエスタンブロットにより定量し、これらの分画由来のチューブリンを先に記載のごとくイオン交換およびサイズ排除クロマトグラフィーによりさらに精製した(Fanara, P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279, 49940‐49947 (2004))。
【実施例2】
【0181】
低温安定微小管の単離
低温安定微小管を先に記載のプロトコールを少し修正したものを用いて単離した(Pirollet, F., Derancourt, J., Haiech, J., Job, D., Margolis, R. L. Ca (2+)‐calmodulin regulated effectors of microtubule stability in bovine brain. Biochemistry 31, 8849‐8855 (1992))。簡単に述べると、細胞または組織粗ホモジネートを1.5mM CaCl含有氷冷MSB中で調製し、緩衝液の細胞塊または脳組織に対する割合は1.4:1(vol/wt)の比率に設定した(Fanara, P., Oback, B., Ashman, K., Podtelejnikov, A., Brandt, R. Identification of MINUS, a small polypeptide that functions as a microtubule nucleation suppressor. EMBO J. 18, 565‐577 (1999)。氷上で2分後、EGTAを添加して最終濃度3mMとし、混合物をさらに1分間氷上でホモゲナイズした。抽出物を4℃で150,000×g、30分間遠心し、上清を収集した。上清を30℃でインキュベーションして微小管会合を開始した。1時間後、抽出物を4℃で20分間冷却し、微小管安定化緩衝液中の50%(wt/vol)ショ糖クッションを介して200,000×gで30分間遠心した。4℃で微小管脱安定化緩衝液に最終ペレット(低温安定微小管)を懸濁してから、チューブリンを先に記載のごとく精製した(Fanara, P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279, 49940‐49947 (2004))。
【実施例3】
【0182】
GC/MS分析のためのチューブリンの処理
チューブリン試料は、6N HClで110℃にて16時間処理することにより加水分解した。タンパク質由来アミノ酸を誘導体化してペンタフルオロベンジル誘導体とし、アラニンへのHの取り込みを他に詳述されているGC/MSにより測定した(Fanara, P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279, 49940‐49947 (2004))。H富化は、(M+1)質量アイソトポマーとして存在するアラニン誘導体の百分率の天然存在比に対する増加パーセントとして計算した。
【実施例4】
【0183】
体水のO富化の測定
体水のO富化および培地は上記のごとく測定した。簡単に述べると、炭化カルシウムとの反応により血漿水由来のプロトンをアセチレンに転移させた。アセチレン試料を、次にm/z 26および27(MおよびM)でイオンを記録するよう改変し、99.9% Oを非標識水と混合して作製した標準曲線に対して較正したSeries 3000サイクロイダル質量分析計(Monitor Instruments, Cheswick, PA)を用いて分析した。体水のH富化は薬剤処置の影響を受けなかった(データ示さず)。
【実施例5】
【0184】
SOD1‐G93A TGNマウスのノスカピンとMK801での処置
雌SOD‐1 G93A TGNマウスをジャクソンラボラトリー(系統#2726)から入手した。対照は適合同腹仔とした。処置群は3匹/群とした。ノスカピンを、3回/週(0.2mg/kg腹腔内)大腿部に腹腔内注射し、MK801を飲水にて連続投与した(12mg/kg/日)。歩行分析を、Wooley et al., Muscle Nerve 2005 32(1):43‐50およびCarter et al. J. Neurosci., 19(8):3248‐3257(それらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる)の方法により行なった。
【0185】
臨床評価エンドポイントのスコア付けは以下の通り選択した。
【0186】
群分類:症状発症前
臨床徴候:完全な運動性、および年齢適合対照の行動と観察し得る差なし(歩行または歩幅分析)。
【0187】
群分類:発現
臨床徴候:異常な歩行もしくは歩幅の分析、ならびに下肢脱力:年齢適合同腹仔に対して歩幅が40%超低減。
【0188】
群分類:終末期(安楽死)
臨床徴候:顕著な下肢完全麻痺(この系統では一方の肢に、他方より多く生じる)、および5秒間の時間枠での直立不能。この終末期は、通常、マウスが歩行分析試験に合格せず、終末期に入る際、開始する。したがって、SOD1‐G93A TGNトランスジェニックマウスは、顕著な下肢完全麻痺および5秒間の時間枠での直立不能の発現時に安楽死させる。
【0189】
未処置トランスジェニックマウスは、15週齢(疾患発現の約17日後)で下肢完全麻痺を示し始め、16週齢で最終的に安楽死させた(次の症状を示した:広範な麻痺、完全な一歩のために片肢を引くことができない[歩行分析で「0」とスコア付けした]、および5秒間の時間枠での直立不能)。
【0190】
処置マウス1匹が、16週齢時(疾患発現後25日)下肢完全麻痺を示し始め、最終的に17週齢で安楽死させた(次の症状を示した:広範な麻痺、完全な一歩のために片肢を引くことができない[歩行分析で「0」とスコア付けした]、および5秒間の時間枠での直立不能)。
【0191】
処置トランスジェニックマウスの残りの2匹は約18週齢で下肢脱力(歩行分析でスコア付けした)が発現し始めたが、その時点ではまだ顕著な下肢完全麻痺は発現していなかった。
【表1】

【表2】

【表3】

【実施例6】
【0192】
症候性SOD1G93Aマウスにおける治療的介入。
新規の2剤の薬剤療法の成功の確認を図16に示す。MTMA/KM‐ID05薬を症候性SOD1G93Aマウス(10週齢)に投与し、3週間処置を行なった(n=3)。処置の最終2日間にO(8%)をマウスに投与し、標識48時間後に屠殺した。腰椎部脊髄(L2〜L5レベル)および坐骨神経の全長を解剖し、注意深く取り出した。脊髄運動ニューロンおよび坐骨神経のすべてのニューロンコンパートメントで微小管動的挙動を測定した。
【0193】
図16に詳しく示すように、MTMA/KM‐ID05処置SOD1G93Aマウスは、微小管の亢進の有意な低減(野生型マウスに近いレベルまで低下)を示した。MTMA/KM‐ID05の陽性効果がすべてのニューロンコンパートメントに検出された。
【0194】
SOD1G93Aマウスの疾患進行に対するMTMA/KM‐ID05の効果を確認するため、本発明者らは歩幅測定を実施した(図17)。歩幅は、食用着色料で薄く着色したグリセロールを肢に塗ることにより測定した。試験は、マウスが直線上に歩き、明瞭な連続歩幅測定値を4回得ることができるまで反復した。歩幅は同じ肢が残す足跡間の距離であり、1つの足跡の中心から次の足跡の中心までを計る。
【0195】
分析は常に、同性の年齢適合トランスジェニック未処置、処置、および対照動物(n=20)を用いて日の同じ時間に行なった。対照マウスとは異なり、SOD1G93Aマウスは運動能力の年齢依存性低下を示した(図17)。SOD1G93Aマウスにおける疾患の発現は、歩幅の40%低減(12.5週齢時)を特徴とし、その後に急速な減少期となり、下肢完全麻痺の段階(17週齢)に進行した。2剤処置は、SOD1G93Aマウスの疾患の発現を有意に遅らせ、試験期間全体を通じて運動能力を改善したことに留意されたい(図17)。MTMA/KM‐ID05は、SOD1G93Aマウスの体重減少も30%有意に低減した(データ示さず)。
【0196】
MTMA/KM‐ID05処置が運動ニューロンの変性を低減したかどうかを評価するため、本発明者らは各脊髄の坐骨神経運動プール部分の運動ニューロン数を計算した。処置の効果を15週齢のSOD1G93Aマウスで評価した。
【0197】
野生型対照(WT)未処置(SOD1G93A)および処置(SOD1G93A MTMA/KM‐ID05)マウスのニッスル染色脊髄切片の例を図18Aに示す。MTMA/KM‐ID05処置SOD1G93Aマウスに観察された運動ニューロン生存の改善は、運動ニューロン生存の増加に反映された。結果を図18Bに要約する。15週齢の未処置SOD1G93Aマウスにおいて、坐骨神経プールで既に有意な数の運動ニューロン死が起こっており、WT同腹仔の387(±6.2)に比べて197(±10.2)運動ニューロンのみが生存していた。しかしながら、MTMA/KM‐ID05による処置は、運動ニューロンの多くの部分を救い、298(±4.4)運動ニューロンが生存した。したがって、MTMA/KM‐ID05処置SOD1G93Aマウスにおいて、未処置SOD1G93A同腹仔に比べて50%超の運動ニューロンが15週齢でも生存する。
【0198】
SOD1G93Aマウス(n=20)の寿命に対するMTMA/KM‐ID05処置の効果を次に評価した。未処置SOD1G93Aマウスは、平均118.5(±4.2)日間生存する。これらの実験の終末期を、マウスの体重が15%減少して完全下肢麻痺を示し、毛繕いをせず、独力で直立できない年齢によって決定する。
【0199】
MTMA/KM‐ID05は、SOD1G93Aマウスを25.6日間有意に延命し、寿命を22%延ばした。
【0200】
結論として、MTMA/KM‐ID05を症候期に投与すると、微小管の亢進を大幅に低減できた。MTMA/KM‐ID05の作用機序は、顕著に疾患症状を軽減し、それは、SOD1G93Aマウスの寿命および運動ニューロン生存の有意な増大に反映された。
【0201】
遅い軸索輸送の変化は、突然変異SOD1トランスジェニックマウスの病因と関連付けられている。遅い軸索輸送は、移動速度に基づいて2つの構成要素を有することが先に示され(1つは〜0.5mm/日で他方は〜1〜2mm/日)。両輸送要素はチューブリンを含む。MTMA/KM‐ID05処置が軸索輸送障害を回復させることができるかどうかを確認するため、本発明者らはSOD1G93AトランスジェニックマウスのL5神経根および坐骨神経におけるH‐標識チューブリンの輸送速度を測定した。13週齢時、WT同腹仔に比べて未処置SOD1G93AのL5神経根、小丘、および近位軸索起始部にH‐チューブリンの有意な蓄積が見られる。しかしながら、MTMA/KM‐ID05処置は軸索に沿ったH標識チューブリンの輸送速度を完全に正常に回復させた。したがって、MTMA/KM‐ID05処置SOD1G93Aマウスにおいて、微小管ベースの軸索輸送は未処置SOD1G93A同腹仔に比べて完全に回復する。
【0202】
総合すると、これらの結果は微小管動的挙動が疾患活性のバイオマーカーであることを実証する。したがって、微小管動的挙動を、ALSにおける新しい療法を評価して臨床有効性を予測するのに用いることができる。
【0203】
図19に詳述するように、本発明者らは、微小管動的挙動アッセイを用いてインビボで試験したいくつかの候補薬併用の相対的な神経保護活性を評価および比較した。「強力な」神経保護と「弱い」神経保護の臨床有効性の予測を評価した(図19)。5種類の2剤併用を選択し、SOD1G93Aマウス(各群、n=20マウス)の疾患進行の遅延、延命における有効性をさらに評価した(図20)。処置SOD1G93Aマウスは、神経保護(微小管安定性)における効果に応じて寿命が10%〜32%延びた。本発明者らは、微小管動的挙動のインビボ生化学測定値と明確に観察される臨床転帰(歩幅および生存)間の顕著で密接な相関性を記載した(図20)。これらの所見は、微小管動的挙動が疾患活性と治療反応の強力なALSバイオマーカーであることを実証する(図21)。
【0204】
実施例6
MT依存性の遅い軸索輸送の侵襲的なインビボでの測定。図23に示すように、症候性SDO1G93Aトランスジェニックの坐骨神経運動軸索において2H標識チューブリンのMT依存性の遅い軸索輸送は正常な野生型(WT)同腹仔に比べて低減する。各データポイントは、30〜35mL/kg O単ボーラス投与から21日後に屠殺した13週齢マウスのL5神経根および坐骨神経の2mmの連続部分を表す。しかしながら、3週間のMTMA処置後、微小管動的挙動およびH‐チューブリンの遅い軸索輸送は大幅に回復する。一方、リルゾールに有意な効果はなかった。
【0205】
実施例7
MT依存性の速い軸索輸送の非侵襲的なインビボでの測定。変性運動ニューロンに対する健常運動ニューロンの神経シナプス小胞カーゴ分子の分泌速度を測定するための動力学技法の代表モデルを図24に示す。目標は、疾患に罹患したニューロン中のMT依存性輸送障害の特定の即時指標を提供することである。MTに基づく輸送系は主要な細胞骨格系の1つであり、それに沿って、キネシンおよびダイニンモータータンパク質が力を生じ、多くの細胞成分(例えばシナプス小胞)の輸送を促す。MT依存性軸索輸送は主なニューロンの伝達および輸送網であり、分泌小胞カーゴ(成長因子、神経伝達物質、酵素および糖タンパク質など)の経路として働く。本明細書で試験した基本的な戦略は、MT動的挙動障害のもと、輸送され、次いで分泌された2H標識小胞「カーゴ」の速度(すなわち細胞体内での合成からシナプス放出までの時間)がMT輸送系の影響を受け、CSF収集によりインビボで測定可能であることである。重水(O)のパルス投与後、CSF中の出現、脊髄運動ニューロン中の同時保持、変性運動ニューロン中の2H標識小胞カーゴ分子の動力学の遅延に基づき、MT依存性の速い軸索輸送は遅くなる。
【0206】
図25(A)に詳しく示すように、SOD G93Aトランスジェニックマウス(ALS動物モデルを表す)に重水(O)を投与して運動ニューロン中の分泌分子を標識する(総マウスn=30)。MT依存性軸索輸送に基づく、160nm小胞からなる輸送物質の最速移動速度は、約250mm/日、またはトランスゴルジ網(TGN)から血漿膜(軸索末端)まで約3μm/秒と報告されている。したがって、小胞は細胞体から3cmの軸索末端まで約1.2日間で移動すると予期される(1メートルの軸索を有するヒト対象において、これは約4〜5日かかり得る)。連続時点(24時間、48時間、72時間、5日および10日)で、マウス(n=6/時点)において、CSF(5〜7マイクロリットル/マウス)と血漿(100マイクロリットル/マウス)を収集する。運動ニューロンは小胞成長因子(例えば神経栄養因子‐1[NueR‐1])を分泌し、糖タンパク質クロモグラニンB[Chr‐B]を、市販の抗体を用いた免疫沈降によりCSFから単離する。(B)30〜35mL/kg O腹腔内パルス投与後、CSFを13週齢の野生型(WT)と症候性SOD1G93Aマウスから標識後24、48および72時間目、5日および10日目に収集した。CSF試料を最初にタンパク質A/Gビーズを用いてIgG免疫枯渇させ、次いで神経栄養因子‐1抗体ビーズへの逐次結合により分画した。溶出液を6N HClで、110℃において16時間処理することにより加水分解した。タンパク質由来アミノ酸を誘導体化してペンタフルオロベンジル誘導体とし、神経栄養因子‐1から放出されたアラニンへのHの取り込みを、GC/MSにより測定した。同一のプロトコールを用いて、糖タンパク質クロモグラニン‐B[Chr‐B]をクロモグラニン‐B[Chr‐B]抗体への逐次結合により神経栄養因子‐1[NeuR‐1]非結合物質から捕捉する。(C)13週齢の正常な野生型(WT)およびトランスジェニック症候性SOD1G93AマウスのCSF神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびクロモグラニン‐B[Chr‐B]中のH標識出現の経時変化を示す。CSFおよび血液から単離後の分泌タンパク質(神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびクロモグラニンB[Chr‐B])を、6N HClにより、110℃において16時間処理することにより加水分解する。タンパク質由来アミノ酸を誘導体化してペンタフルオロベンジル誘導体とし、誘導体化したアラニンへのO由来Hの取り込みを、他に詳述しているGC/MSにより測定する[Fanara, P. et al. In vivo measurement of microtubule dynamics using stable isotope labeling with heavy water. Effect of taxanes. J. Biol. Chem. 279, 49940‐49947 (2004);Fanara P. et al. Stabilization of hyperdynamic microtubule is neuroprotective in ALS. J. Biol. Chem. 282, 23465‐23472, (2007)]。H富化は、アラニン誘導体の(M+1)質量アイソトポマーの天然存在比に対する増加パーセントとして計算する。これらの結果は、MT依存性の速い軸索輸送の緩慢化を示すSOD1G93Aトランスジェニックマウスモデルと一致する。
【0207】
図26に示すように、本発明者らは、パルスO標識方法論を用いて、神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびクロモグラニン‐B[Chr‐B](正常な野生型(WT)と症候性SOD1G93Aトランスジェニックマウスの腰椎部脊髄運動ニューロン由来シナプス小胞を含む)のMT‐輸送依存性分泌速度を測定した。(A)シナプス小胞を、シナプス小胞単離キット(SIGMA)を用いて腰椎部脊髄から単離した。抗シナプトフィジン抗体を用いた免疫ブロッティングアッセイを最初に用いて、富化したシナプス小胞分画の存在を確認し、富化工程を確認した。抗シナプトフィジン抗体は小胞膜結合タンパク質シナプトフィジンに特異的である[Gingel. et al. The synaptic vesicle protein Synaptophasyn: purification and characterization of its channel activity. Biophys.J., 83, 3223‐3229, (2002)]。(B)30〜35mL/kg Oの腹腔内パルス投与後、13週齢の野生型(WT)と症候性SOD1G93Aマウスから標識後24、48および72時間目に腰椎部脊髄を収集した(n=3;平均±標準偏差)。腰椎部脊髄由来の富化したシナプス小胞分画を神経栄養因子‐1抗体ビーズへの逐次結合により分画した。溶出液を6N HClで、110℃において16時間処理することにより加水分解した。タンパク質由来アミノ酸をペンタフルオロベンジル誘導体に誘導体化し、神経栄養因子‐1から放出されたアラニンへのHの取り込みをGC/MSにより測定した。同一プロトコールを用いて、糖タンパク質クロモグラニン‐B[Chr‐B]をクロモグラニン‐B[Chr‐B]抗体への逐次結合により神経栄養因子‐1[NeuR‐1]非結合物質から捕捉する。13週齢の野生型(WT)と症候性SOD1G93Aトランスジェニックマウスの腰椎部脊髄由来のシナプス小胞を含む、H標識神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびH標識クロモグラニン‐B[Chr‐B](保持の動力学の経時変化を示す。これらの結果は、同一カーゴ分子H標識神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびH標識クロモグラニン‐B[Chr‐B]のCSF内出現の動力学の遅延と一致する。これらのデータにより、SOD1G93AトランスジェニックマウスはMT依存性の速い軸索輸送の緩慢化を示すことが確認される。
【0208】
図27に詳しく示すように、MTMA、ノスカピン投与は、亢進したMTの調節を介して、H標識神経栄養因子‐1[NeuR‐1]およびH標識クロモグラニン‐B[Chr‐B](シナプス小胞を含む)のMT依存性の速い軸索輸送速度を正常化した。3週間のMTMAノスカピン(100mg/kg/日および200mg/kg/日)処置後、30〜35mL/kg Oを腹腔内パルス投与し、13週齢の野生型(WT)と症候性SOD1G93Aマウスから24、48および72時間目にCSFならびに腰椎部脊髄をそれぞれ収集した。H標識神経栄養因子‐1[NeuR‐1]またはH標識クロモグラニン‐B[Chr‐B](シナプス小胞を含む)保持のニューロン動力学およびCSF分泌速度を上記の通り測定した(図23および図24)。これらの結果は、SOD1G93Aトランスジェニックマウスが速い軸索輸送の緩慢化を示し、ノスカピンがSOD1G93Aトランスジェニックマウスにおけるこの速い軸索輸送の遅延を改善するモデルと一致する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動ニューロン疾患を呈する対象における薬剤効果をモニタリングする方法であり:
a)試験生物系を1つまたは複数の薬剤に曝露し;
b)前記生物系に同位体標識基質を、前記同位体標識基質が運動ニューロン軸索における1つまたは複数のカーゴ分子中に入るのに十分な期間投与し;
c)前記生物系から複数の試料を採取し;
d)前記複数の試料中、分泌シナプス小胞カーゴ分子における同位体富化の経時変化、パターンもしくは量を定量し;
e)対照系からの試料中の分泌シナプス小胞カーゴ分子における同位体富化の経時変化、パターンもしくは量を測定し;
f)前記生物系において単離された前記シナプス小胞カーゴ分子における同位体富化の経時変化、パターンもしくは量を対照生物系における同一パラメータと比較し;ならびに
g)運動ニューロンにおける微小管(MT)依存性の遅いおよび速い軸索輸送速度に対する前記薬剤の効果を決定すること
を含む前記モニタリング方法。
【請求項2】
前記分泌シナプス小胞カーゴ分子が、成長因子、神経伝達物質、糖タンパク質、および分泌酵素からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記成長因子が神経栄養因子‐1を含み、前記神経伝達物質がアセチルコリンを含み、前記糖タンパク質がクロモグラニンBを含み、前記分泌酵素がアセチルコリンエステラーゼを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記分泌シナプス小胞カーゴ分子における同位体富化の経時変化、パターンもしくは量、ならびにそれによる前記試験生物系の運動ニューロン中のMT依存性軸索輸送効率を分泌カーゴ分子中の同位体富化の経時変化、パターンもしくは量、ならびにそれによる前記対照生物系の運動ニューロン中の速い軸索輸送効率と比較する、請求項1による方法。
【請求項5】
前記複数の薬剤が単独または併用投与される、請求項1〜4による方法。
【請求項6】
前記試料がCSF、血液または組織試料を含む、請求項1〜5による方法。
【請求項7】
前記試料が複数時点に収集される、請求項1〜6による方法。
【請求項8】
運動ニューロンにおけるMT依存性の遅いおよび速い軸索輸送効率を改変する薬剤を投与し、運動ニューロンにおいて前記運動ニューロン疾患を処置することを含む、運動ニューロン疾患の処置方法。
【請求項9】
運動ニューロンにおけるMT依存性の遅いおよび速い軸索輸送効率を改変する薬剤とニューロンを接触させることを含む、運動ニューロン疾患において有効な薬剤をスクリーニングする方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【公表番号】特表2011−523848(P2011−523848A)
【公表日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−510708(P2011−510708)
【出願日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際出願番号】PCT/US2009/044881
【国際公開番号】WO2009/143365
【国際公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(504014325)キネメッド, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】