説明

運動能力を高めるための方法

本明細書では、被験体にPPARδアゴニスト(例えばGW1516)を運動プログラムと組み合わせて投与することによって、被験体における運動の1種または複数種の効果を高めるための方法を開示する。アゴニストによって誘導されるPPARδの活性化と運動の組み合わせに固有の遺伝子発現プロファイルも開示する。このようなプロファイルは少なくとも、運動被験体(職業選手または競技者など)の運動能力向上薬の使用を特定するための方法において有用である。PPARδと運動誘導性キナーゼ(例えばAMPKまたはそのサブユニットであるAMPKα1および/もしくはAMPKα2)の直接的な相互作用についても開示する。このようなタンパク質間相互作用は、有用な化合物の同定のための新たな標的を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み入れられる、2006年12月29日に出願された米国特許出願第60/882,774号の恩典を主張する。
【0002】
政府による支援に関する記載
本研究は、アメリカ国立衛生研究所の助成金番号1 F32 AR053803-01(NRSA Fellowship)による支援を受けた。したがって米国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0003】
分野
本開示は、被験体の運動能力を改善するためのペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)δアゴニストの使用、被験体の運動能力を高める物質を同定する方法、およびPPARδと運動誘導性キナーゼの相互作用に影響を及ぼす化合物を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
骨格筋は、酸化型遅筋(I型)、混合型の酸化型/解糖型速筋(IIa型)、および解糖型速筋(IIb型)の筋繊維を含む、代謝特性および収縮特性が異なる多数の筋繊維を含む適応的な組織である(Fluck et al., Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol., 146:159-216, 2003;Pette and Staron, Microsc. Res. Tech., 50:500-509, 2000)。I型筋繊維は、脂肪酸を酸化し、収縮タンパク質の遅いイソ型を含み、かつ疲労に対する耐性が解糖型筋繊維より強い酵素を選択的に発現する(Fluck et al., Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol., 146:159-216, 2003;Pette and Staron, Microsc. Res. Tech., 50:500-509, 2000)。II型繊維は、グルコースを選択的に代謝し、かつ収縮タンパク質の速いイソ型を発現する(Fluck et al., Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol., 146:159-216, 2003;Pette and Staron, Microsc. Res. Tech., 50:500-509, 2000)。
【0005】
持久運動トレーニングは、マラソンランナー、登山家、およびサイクリストなどの運動選手の能力を徐々に高める複雑なリモデリングプログラムを、骨格筋に引き起こす。これは、筋肉疲労を低下させるように作用するエネルギー基質の、利用率および収縮特性を変化させる筋繊維内における、代謝プログラムおよび構造タンパク質の変化を含む(Fluck et al., Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol., 146:159-216, 2003;Pette and Staron, Microsc. Res. Tech., 50:500-509, 2000)。筋肉におけるトレーニングを基礎とする適応は、遅筋の収縮装置、ミトコンドリア呼吸、および脂肪酸酸化に関与する遺伝子の発現の上昇と関連している(Holloszy and Coyle, J. Appl. Physiol., 56:831-838, 1984;Booth and Thomason, Physiol. Rev., 71:541-585, 1991;Schmitt et al., Physiol. Genomics, 15:148-157, 2003;Yoshioka et al., FASEB J., 17:1812-1819, 2003;Mahoney et al., FASEB J., 19:1498-1500, 2005;Mahoney and Tarnopolsky, Phys. Med. Rehabil. Clin. N. Am., 16:859-873, 2005;Siu et al., J. Appl. Physiol., 97:277-285, 2004;Garnier et al., FASEB J., 19:43-52, 2005;Short et al., J. Appl. Physiol., 99:95-102, 2005;Timmons et al., FASEB J., 19:750-760, 2005)。このような運動トレーニングに関連する適応は、能力を改善可能であり、ならびに肥満および関連代謝障害を予防可能である(Wang et al., PLoS Biol., 2:e294, 2004;Koves et al., J. Biol. Chem., 280:33588-33598, 2005)。さらに、酸化型遅筋繊維に富む骨格筋は、筋肉疲労に対する耐性が高い(Minnaard et al., Muscle Nerve. 31: 339-48, 2005)。
【0006】
PPARは、リガンド誘導性の転写因子の核内受容体スーパーファミリーの成員である。PPARは、レチノイドX受容体(RXR)と異型二量体を形成し、1 bpを挟む六量体DNA配列のダイレクトリピートを含むコンセンサスDNA部位に結合する。リガンドの非存在下では、PPAR-RXR異型二量体は、コリプレッサーならびに関連するヒストンデアセチラーゼおよびクロマチン修飾酵素を動員し、転写をいわゆる能動的抑制(active repression)によってサイレンシングする(Ordentlich et al., Curr. Top. Microbiol. Immunol., 254:101-116, 2001;Jepsen and Rosenfeld, J. Cell Sci., 115:689-698, 2002;Privalsky, Ann. Rev. Physiol., 66:315-360, 2004)。リガンドの結合は、PPAR-RXR複合体のコンホメーション変化を誘導し、補助活性化因子と交換に抑制因子を放出する。リガンド活性化複合体は、基礎転写装置を動員し、これは遺伝子発現の亢進につながる。PPARは、食物脂肪または細胞内代謝から生じた低親和性リガンドに結合する。脂質センサーとしての役割に従って、リガンド活性化PPARは、フィードフォワードの代謝カスケードをオンにして、脂質のホメオスタシスを、脂質の代謝、貯蔵、および輸送に関与する遺伝子の転写を介して調節する。
【0007】
哺乳類には、α(NR1C1としても知られる)、γ(NR1C3としても知られる)、およびδ(βまたはNR1C2としても知られる)の3種類のPPARのイソ型が存在する。PPARδは、大半の細胞タイプで比較的豊富に発現され(Smith, Biochem. Soc. Trans., 30(6):1086-1090, 2002)、このためにPPARδが「一般的ハウスキーピング的役割」を果たしている可能性があるという初期の推定に至った(Kliewer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A., 91:7355-7359, 1994)。最近になって、PPARδトランスジェニックマウスモデル、および高親和性PPARδアゴニストの開発による発見の結果、PPARδが、脂肪、骨格筋、および心臓を含む多様な組織における作用を有する重要な転写調節因子であることが明らかとなっている(総説として例えば、Barish et al., J. Clin. Invest., 116(3):590-597, 2006を参照)。
【0008】
齧歯類の骨格筋における、構成的活性型のPPARδ受容体(VP16-PPARδ)導入遺伝子の標的発現は、骨格筋のリモデリングを酸化型表現型へと促進し、かつ非運動成体マウスのランニング持久力を高めた(Wang et al., PLoS Biol., 2:e294, 2004)。観察された、筋繊維のPPARδを介した再プログラミングには、脂肪酸酸化、ミトコンドリア呼吸、酸化的代謝、および遅筋収縮装置に関連する遺伝子の発現上昇が関与していた(Wang et al., PLoS Biol., 2:e294, 2004)。持久力トレーニングを行っている運動選手に類似した表現型を有するものの運動トレーニングを行わなかったこのようなVP16-PPARδトランスジェニックマウスにより、成体の安静な被験体における内因性PPARδの薬剤による活性化が、実際の運動なしに運動の効果を提供する可能性があることが示唆される。全身の健康に対する運動の数多くの利益を考えれば、運動の効果を模倣する、経口活性を有する薬剤の同定は、困難なものの長年にわたる医学上の目標である。
【発明の概要】
【0009】
概要
本出願は、予想に反して、成体の安静被験体における薬剤による内因性PPARδの活性化が、このような被験体における骨格筋の酸化型表現型へのリモデリングを促進せず、ランニング持久力を高めなかったことを説明する。しかしながら、驚くべきことに、少なくとも最大下運動と組み合わせた、薬剤によるPPARδの活性化は、骨格筋の構造を相乗的に改変し(例えば、疲労耐性のI型繊維の特異化およびミトコンドリアの生合成を誘導し)、運動能力(例えばランニング持久力)を高めた。加えて、運動と組み合わせた、アゴニスト誘導性の内因性PPARδの活性化は、運動または薬物摂取のみのいずれかによって得られる遺伝子発現プロファイルとは異なる骨格筋における固有の「遺伝子発現特性」をもたらし、かつPPARδと運動誘導性キナーゼ(AMPKα1および/またはAMPKα2など)が直接相互作用することが判明した。
【0010】
本明細書に記載したこれらおよび他の知見は、開示する方法の基礎となる。例えば今日では、運動と組み合わせて使用されるPPARδアゴニスト(例えばGW1516)は、運動持久力(例えばランニング持久力)を、運動のみによって達成可能な場合より改善するような、運動誘導型の効果を高めることが可能なことが見出されている。別の例では、運動とPPARδアゴニスト投与の組み合わせによって固有に調節される1種もしくは複数種の遺伝子および/またはタンパク質の発現を、運動能力を高めるために薬剤を使用する被験体の見極めに使用することができる。さらに他の例では、PPARδおよび運動誘導性キナーゼ(AMPKα1および/またはAMPKα2など)を含む新規に同定されたタンパク質複合体は、PPARδによる調節を受ける遺伝子ネットワークならびに対応する下流の生化学的および/または生理学的な作用に影響を及ぼす可能性を有する薬剤の同定に使用することができる。
【0011】
前述および他の特徴は、複数の態様に関する以下の詳細な説明からさらに明らかになるであろう。まず、添付図面を参照して進める。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1Aは、安静溶媒投与マウス(V)、安静GW1516投与マウス(GW)、安静VP16-PPARδトランスジェニックマウス(TG)、およびVP16-PPARδトランスジェニックマウスの安静野生型同腹仔(WT)から単離された四頭筋における、脱共役タンパク質3(UCP3)、カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI(mCPT I)、およびピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼのアイソザイム4(PDK4)の3種類の脂肪酸酸化のバイオマーカーのmRNAの発現レベルに対する、経口投与されたPPARδアゴニスト(GW1516)の効果を示す一連の棒グラフである。データは、それぞれ3回解析された、N=4〜9のマウスの平均±SEMとして示す。*は、V群とGW1516群の間に(p<0.05、対のないスチューデントのt検定)、またはTG群とWT群の間に(p<0.05、対のないスチューデントのt検定)、統計的有意差があることを示す。図1B〜Dは、野生型(WT)の初代筋細胞およびPPARδヌル(KO)の初代筋細胞において、酸化遺伝子であるUCP3、mCPT I、およびPDK4が、GW1516(GW)によって調節されることを示す一連の棒グラフである。*は、V群と記載の群の間に統計的有意差があることを示す(p<0.05、一元配置ANOVA;事後:Dunnettの多重比較検定)。図1Eは、溶媒が投与された安静マウス(V;白いバー)、およびGW1516が投与された安静マウス(GW;黒いバー)の、投与前(第0週)および投与後(第5週)におけるランニング持久力を示す一連の棒グラフである。ランニング持久力は、各群の個体がトレッドミル上を走る時間(左のパネル)または距離(右のパネル)によって定量される。データは、N=6のマウスの平均±SD値で表される。
【図2】図2A〜Cは、安静(VもしくはGW)マウス、またはトレーニングを行った(TrもしくはTr+GW)マウスの腓腹筋に対する、PPARδアゴニストGW1516の投与の効果を示す。図2Aは、溶媒が投与された安静(V)マウス、GW1516が投与された安静(GW)マウス、溶媒が投与された運動(Tr)マウス、およびGW1516が投与された運動(Tr+GW)マウスに由来する腓腹筋の、代表的なメタクロマティックな方法で染色された凍結断面のデジタル画像を示す。I型(遅延酸化型)繊維は濃く染色されている。図2Bは、V、GW、Tr、およびTr+GWの腓腹筋(N=3)のI型繊維のパーセンテージ(全繊維に対するパーセンテージとして)を示す棒グラフである。図2Cは、V群のマウス(左のバー)、GW群のマウス(左中央のバー)、Tr群のマウス(右中央のバー)、およびTr+GW群のマウス(右のバー)(N=9)における、核DNAに対するミトコンドリアDNAの比の倍数変化を示す棒グラフである。(B)および(C)のデータは、平均±SEMとして示す。各棒グラフにおいて、*は、V群と星印が付された群の間に統計的に差があることを示す(p<0.05、一元配置ANOVA;事後:Dunnettの多重比較検定)。
【図3】図3A〜Cは、V群、GW群、Tr群、およびTr+GW群から単離された四頭筋における遺伝子発現を示す一連の棒グラフである。図3Aは、脂肪酸酸化のバイオマーカー(UCP3、mCPT I、PDK4;左から右へ)の相対的な遺伝子発現レベルを示す。図3Bは、脂肪酸貯蔵のバイオマーカー(SCD1、FAS、SREBP1c)の相対的な遺伝子発現レベルを示す。図3Cは、脂肪酸取り込みのバイオマーカー(FAT/CD36、LPL)の相対的な遺伝子発現レベルを示す。データは、それぞれ3回ずつ解析された、N=9のマウスの平均±SEMとして示す。*は、V群と星印が付された群の間に統計的有意差があることを示す(p<0.05、一元配置ANOVA;事後:Dunnettの多重比較検定)。図3Dは、四頭筋(N=3)から調製されたタンパク質溶解物中の酸化型バイオマーカー(ミオグロビン、UCP3、CYCS、SCD1)、およびローディング対照(チューブリン)のタンパク質の発現レベルを示すウエスタンブロットのイメージ。
【図4】V群のマウス、GW群のマウス、Tr群のマウス、およびTr+GW群のマウスの腓腹筋における筋トリグリセリドのレベルのグラフ。データは、それぞれ3回ずつ解析された、N=9のマウスの平均±SEMとして示す。*は、V群と星印が付された群の間に統計的有意差があることを示す(*p<0.05、一元配置ANOVA;事後:Dunnettの多重比較検定)。
【図5】図5AおよびBは、運動トレーニングマウスのランニング持久力に対するGW1516投与の効果を示す棒グラフである。トレッドミル上を走らせた溶媒投与マウス(V;白いバー)、およびGW1516投与マウス(GW;黒いバー)の、運動トレーニング前(第0週)および運動トレーニング後(第5週)における時間(A)および距離(B)の棒グラフ。データは、N=6のマウスの平均±SDとして示す。***は、V群とGW群の間に統計的有意差があることを示す(p<0.001;一元配置ANOVA;事後:Tukeyの多重比較検定)。図5Cは、V群のマウス、GW群のマウス、Tr群のマウス、およびTr+GW群のマウスの体重に対する精巣上皮の白色脂肪の比を示す棒グラフである。データは、それぞれ3回ずつ解析された、N=9のマウスの平均±SEMとして示す。*は、V群と星印が付された群の間に統計的有意差があることを示す(*p<0.05、一元配置ANOVA;事後:Dunnettの多重比較検定)。図5Dは、V群のマウス、GW群のマウス、Tr群のマウス、およびTr+GW群のマウスの精巣上体の白色脂肪のH&E染色された横断面のデジタル画像である。類似の結果が、N=3のマウスについて得られた。*は、V群と星印が付された群の間に統計的有意差があることを示す(*p<0.05、一元配置ANOVA;事後:Dunnettの多重比較検定)。
【図6】四頭筋のマイクロアレイ解析で同定された、GW、Tr、およびTr+GWの標的遺伝子を比較したベン図。データは、各群N=3の試料の平均である。選択基準は、Bonferroniの多重比較検定ではp<0.05を、および倍数変化では1.5以上を使用した。
【図7】図7Aは、運動によるAMPKの活性化を示す一連のウエスタンブロットイメージである。安静(Sed/C57B1)マウス、および運動トレーニング(Tr/C57B1)マウス(N=5〜7)の四頭筋における、ホスホAMPK(ホスホAMPK)および全AMPKのレベルを示す。図7Bは、VP16-PPARδの過剰発現によるAMPKの活性化を示す一連のウエスタンブロットイメージである。安静野生型マウスまたは安静トランスジェニックマウス(Sed/WTもしくはSed/TG)の四頭筋におけるホスホAMPK(ホスホAMPK)および全AMPKのレベルを示す。
【図8】図8AおよびBは、PPARδおよびAMPKによる筋における遺伝子発現の相乗的な調節を示す。(A)四頭筋のマイクロアレイ解析で同定された、GW、AI、およびAI+GWの標的遺伝子を比較したベン図。データは、各群N=3の試料の平均である。選択基準は、Bonferroniの多重比較検定ではp<0.05を使用し、および倍数変化では1.5以上を使用した。(B)四頭筋で同定されたTr+GWおよびAI+GWに依存する遺伝子特性の比較。データは、各群N=3の試料の平均である。使用した選択基準は、図8Aに使用したものと同等である。
【図9】図9A〜Hは、溶媒(V)、GW1516(GW)、AICAR(AI)、および2種類の薬剤の組み合わせ(GW+AI)が6日間にわたって投与されたマウスの四頭筋における、(A)UCP3、(B)mCPT I、(C)PDK4、(D)SCD1、(E)ATPクエン酸リアーゼ、(F)HSL、(G)mFABP、および(H)LPLの転写物の発現を示す。データは、3回ずつ解析された、各群N=6のマウスの平均±SEMとして示す。*は、V群と記載の群との間に統計的有意差があることを意味する(p<0.05、一元配置ANOVA;事後:Dunnettの多重比較検定)。
【図10】図10A〜Lは、AMPK-PPARδの相互作用を示す。(A〜D)V、GW、AI、およびGW+AI(バー、左から右へ)が24時間にわたって投与された、野生型の初代筋細胞およびPPARδヌル(KO)初代筋細胞における代謝遺伝子の発現を示す。(E〜F、J)では、AD293細胞に、PPARδ+RXRα+Tk-PPREが上述の手順で、対照ベクター、AMPKα1、AMPKα2、および/またはPGC1αとともにトランスフェクトされた。(E)AMPKα1またはAMPKα2による基礎PPARδ転写活性の誘導。(F)PPARδの転写活性の用量依存性の誘導は、対照(白三角)と比較して、AMPKα1(黒丸)またはAMPKα2(黒四角)によって促進される。(G〜I、K)では、AD293細胞が上述の手順でトランスフェクトされて処理された。(G〜H)Flag-PPARδによってトランスフェクトされたAMPK(G)または内因性(H)のAMPKの共免疫沈降を示す代表的なブロット。(I)上述の手順でトランスフェクトされたAD293細胞におけるPPARδの代謝追跡目的のp32標識。(J)AMPKα2サブユニットおよびPGC1αによる、基礎(V)転写活性およびリガンド(GW)依存性のPPARδの転写活性の相乗的な調節。(K)PPARδはFlag-PGC1αと共免疫沈降を生じるが、AMPKα2サブユニットとは生じない。(L)再プログラム中の筋肉ゲノムにおける運動-PPARδの相互作用を示すモデル。
【0013】
配列情報
本明細書では、核酸およびアミノ酸の配列はGenBankアクセッション番号によって示す。このようなGenBankアクセッション番号が付された配列は、2006年12月29日の時点で存在し、かつ既知であるとして、参照により組み入れられると理解される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
I.はじめに
本明細書では、運動の効果を生じるのに十分な身体活動(有酸素運動(例えばランニング)など)を被験体が行う段階;および有効量のPPARδアゴニスト(例えばGW1516)を被験体に投与する段階を含む、被験体における運動の効果を高める方法を開示する。高められる運動の効果は例えば、ランニング持久力の改善(ランニング距離の改善、またはランニング時間の改善、またはこれらの組み合わせ、被験体の少なくとも1本の骨格筋における脂肪酸酸化の上昇、および/または体脂肪(例えば白色脂肪組織)の減少など)の場合がある。いくつかの方法の態様では、被験体は、哺乳類(ウマ、イヌ、もしくはヒトのような競技哺乳類(racing mammal)など)被験体、および/または成体の被験体、および/または運動トレーニングを行った被験体である。他の例示的な方法では、PPARδアゴニストは、身体活動が行われる日と同じ日に投与される。いくつかの方法では、PPARδアゴニストの投与は、経口投与、静脈内注射、筋肉内注射、および/または皮下注射による。他の方法の態様では、PPARδアゴニストの有効量は、単回投与で、または分割投与で約1 mg/日〜約20 mg/日である。
【0015】
本明細書では、運動トレーニング被験体から採取された生物学的試料(例えば骨格筋生検)において、表2もしくは表4に列挙された少なくとも1種類、少なくとも5種類、少なくとも10種類、少なくとも20種類、少なくとも40種類の分子の発現など、表2に列挙された分子もしくは表4に列挙された分子、またはこれらのサブセットの分子の発現を判定する段階を含む、運動トレーニング被験体における運動能力向上物質の使用を見極める方法も開示する。
【0016】
運動トレーニング被験体における運動能力向上物質の使用を見極めるいくつかの方法では、(i)発現は、脂肪分化関連タンパク質;ステアロイル補酵素Aデサチュラーゼ2;アセチル補酵素Aアセチルトランスフェラーゼ2;ATPクエン酸リアーゼ;アディポネクチン、C1Qおよびコラーゲンドメイン含有;ジアシルグリセロールO-アシルトランスフェラーゼ2;リパーゼ、ホルモン感受性;モノグリセリドリパーゼ;レジスチン;CD36抗原;脂肪酸結合タンパク質4、脂肪細胞;リポタンパク質リパーゼ;ミクロソームグルタチオンSトランスフェラーゼ1;GPIアンカー型膜タンパク質1;二重特異性ホスファターゼ7;ホメオドメイン相互作用タンパク質キナーゼ3;インスリン様成長因子結合タンパク質5;タンパク質ホスファターゼ2(かつての2A)、調節サブユニットA(PR 65)、ベータイソ型;タンパク質チロシンホスファターゼ様(触媒性アルギニンの代わりにプロリン);メンバーb;CCAAT/エンハンサー結合タンパク質(C/EBP)、アルファ;核内受容体サブファミリー1、グループD、メンバー2(Reverb-b);トランスフェリン;archain 1;溶質担体ファミリー1(中性アミノ酸輸送体)、メンバー5;RIKEN cDNA 1810073N04遺伝子;ハプトグロビン;レチノール結合タンパク質4、血漿;ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1、細胞質;細胞死誘導性DFFA様エフェクターc;インターフェロン、アルファ誘導性タンパク質27;炭酸脱水酵素3;システインジオキシゲナーゼ1、細胞質;DNAセグメント、Chr 4、Wayne State University 53、発現型;ダイニン細胞質1中間鎖2;Kruppel様因子3(塩基性);甲状腺ホルモン応答性SPOT14ホモログ(ラット);シトクロムP450、ファミリー2、サブファミリーe、ポリペプチド1;補体因子D(アジプシン);および/またはトランスケトラーゼのうちの1つもしくは複数(これらのうちの少なくとも5つ、少なくとも10個、少なくとも20個、少なくとも35個、もしくは全てなど)においてアップレギュレートされ;かつ/または(ii)発現は、ガンマ-グルタミルカルボキシラーゼ;3-オキソ酸CoAトランスフェラーゼ1;溶質担体ファミリー38、メンバー4;アネキシンA7;CD55抗原;RIKEN cDNA 1190002H23遺伝子;融合、t(12;16)悪性脂肪肉腫(ヒト)由来;リソソーム膜糖タンパク質2;および/またはneighbor of Punc E11のうちの1つもしくは複数、例えばこれらの分子の1、2、3、4、5、6、7、8、もしくは9個などにおいてダウンレギュレートされる。
【0017】
運動トレーニング被験体による運動能力向上物質の使用を見極める例示的な方法は、タンパク質の発現を判定する段階、および/またはタンパク質をコードする遺伝子の発現を判定する段階を含む。このような方法は当技術分野で常用されている。いくつかの例では、タンパク質または核酸の発現レベルが定量される。
【0018】
被験体の運動能力を高める可能性を有する薬剤を同定する方法も本明細書で開示される。このような方法は以下の段階を含んでもよい:(i)PPARδ受容体またはこのAMPK結合断片を含む第1の成分を提供する段階;(ii)AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)、AMPKα1、AMPKα2、またはこれらの任意のPPARδ結合断片を含む第2の成分を提供する段階;(iii)少なくとも1種類の試験薬剤の非存在下で第1の成分と第2の成分が相互に特異的に結合することを可能とする条件で、第1の成分および第2の成分に少なくとも1種類の試験薬剤を接触させる段階;ならびに(iv)少なくとも1種類の試験薬剤が、第1の成分と第2の成分の相互の特異的結合に影響するか否かを判定する段階。第1の成分と第2の成分の相互の特異的結合に対する作用から、少なくとも1種類の試験薬剤が、被験体の運動能力を高める可能性を有する薬剤であることが同定される。
【0019】
運動能力を高める可能性を有する薬剤を同定するいくつかの方法では、第3の成分、すなわちPPARδアゴニスト(例えばGW1516)が関与し、かつ第1の成分、第2の成分、および第3の成分が、上記の手順で接触される。
【0020】
II.略記および用語
AMPK AMP活性化タンパク質キナーゼ
bps 1秒間あたりの拍動
MAPK マイトジェン活性化タンパク質キナーゼ
mCPT I 筋カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI
QPCRまたはqPCR 定量PCR
PDK4 ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ4
PES 運動能力向上物質(performance-enhancing substance)
PPAR ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体
UCP3 脱共役タンパク質3
【0021】
特に説明した部分を除いて、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、開示する対象が属する技術分野の当業者によって一般に理解される表現と同じ意味を有する。分子生物学における一般用語の定義は、Benjamin Lewin, Genes V, published by Oxford University Press, 1994(ISBN-0-19-854287-9);Kendrew et al.(eds.), The Encyclopedia of Molecular Biology, published by Blackwell Science Ltd., 1994(ISBN 0-632-02182-9);および/または、Robert A. Meyers(ed.), Molecular Biology and Biotechnology: A Comprehensive Desk Reference, published by VCH Publishers, Inc., 1995(ISBN 1-56081-569-8)に記載されている。本開示のさまざまな態様の理解を容易にするために、一部の表現について以下に説明する。
【0022】
発現:
核酸の転写単位(例えば、ゲノムDNAもしくはcDNAを含む)のコードされた情報が、細胞の機能性部分、非機能性部分、または構造部分に変換される過程であり、ポリペプチドの合成が含まれることもある。遺伝子の発現は、例えば遺伝子発現を促進する薬剤への細胞、組織、または被験体の曝露といった外部シグナルの影響を受ける場合がある。遺伝子の発現は、DNAからRNAを経てポリペプチドに至る経路のどこかで調節される場合もある。例えば転写、翻訳、RNAの輸送とプロセシング、mRNAなどの中間分子の分解に作用する制御を介して、または生成後の特定のタンパク質分子の活性化、不活性化、区画化もしくは分解を介して、またはこれらの組み合わせによって、遺伝子発現は調節される。遺伝子の発現(例えば、表2および表4に列挙された遺伝子の1種もしくは複数種の発現)は、RNAレベルもしくはタンパク質レベルで、ノーザンブロット、RT-PCR、ウエスタンブロット、またはインビトロ、インサイチュー、もしくはインビボにおけるタンパク質活性アッセイ法を含むがこれらに限定されない当技術分野で既知の任意の方法で測定することができる。
【0023】
核酸の発現は、対照時間(例えば、観察中の核酸の調節に影響を及ぼす物質もしくは薬剤の投与前)などの対照状態、または対照となる細胞もしくは被験体と比較して、または別の核酸と比較して、調節されていてもよい。このような調節は、過剰発現、低発現、または発現の抑制を含むが、必ずしもこれらに限定されない。加えて、核酸発現の調節は、コードされたポリペプチドまたはさらには核酸にコードされていないポリペプチド(下流の調節型ポリペプチドなど)の発現の調節と関連してもよく、実際にこれらをもたらす可能性があることが理解される。
【0024】
ポリペプチドの発現は、対照時間(例えば、ポリペプチドをコードするまたは調節する核酸の発現に影響を及ぼす物質または薬剤の投与前)もしくは対照となる細胞もしくは被験体などの対照状態と比較して、または別のポリペプチドと比較して、調節されていてもよい。ポリペプチド発現の調節は、ポリペプチドの過剰発現または発現低下、ポリペプチドの細胞内局在または標的輸送の変化、一時的に調節されるポリペプチド発現の変化(ポリペプチドが、通常発現されない時点で発現されるか、もしくは通常発現される時点で発現されない)、ポリペプチドの安定性の変化、タンパク質の空間的局在の変化(ポリペプチドが、通常発現される部位で発現されないか、もしくは通常発現されない部位で発現される)を含むが、これらに限定されない。
【0025】
単離された:
「単離された」生物学的成分(ポリヌクレオチド、ポリペプチド、または細胞など)は、混合試料(細胞もしくは組織の抽出物など)中の他の生物学的成分から精製されている。例えば、「単離された」ポリペプチドまたはポリヌクレオチドとは、ポリペプチドまたはポリヌクレオチドが存在した細胞(組換えポリペプチドまたはポリヌクレオチド用の発現宿主細胞など)の他の成分から分離されたポリペプチドまたはポリヌクレオチドである。
【0026】
「精製された」という表現は、試料からの1種もしくは複数種の外来成分の除去を意味する。例えば、組換えポリペプチドが宿主細胞で発現される場合、ポリペプチドは例えば、宿主細胞のタンパク質の除去によって精製されることにより、試料中の組換えポリペプチドのパーセンテージは高まる。同様に、組換えポリヌクレオチドが宿主細胞中に存在する場合、ポリヌクレオチドは例えば、宿主細胞のポリヌクレオチドの除去によって精製されることにより、試料中の組換えポリヌクレオチドのパーセンテージは高まる。単離されたポリペプチド分子または核酸分子は典型的に、試料の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、もしくはさらには99%以上(w/wもしくはw/v)を構成する。
【0027】
ポリペプチド分子および核酸分子は、当技術分野で既知の方法および本明細書に記載した方法で単離される。ポリペプチド分子または核酸分子の純度は、ポリペプチドについてはポリアクリルアミドゲル電気泳動で、または核酸分子についてはアガロースゲル電気泳動などのいくつかの周知の方法で、決定することができる。
【0028】
配列同一性:
2つの核酸配列間または2つのアミノ酸配列間の類似性は、配列間で共通する配列同一性のレベルによって表される。配列同一性は通常、同一性のパーセンテージで表され;パーセンテージが高くなるほど、2つの配列間の類似性は増す。
【0029】
比較目的で配列を整列させる方法は当技術分野で周知である。さまざまなプログラムおよびアライメントアルゴリズムが文献に記載されている:Smith and Waterman, Adv. Appl. Math. 2:482, 1981;Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:443, 1970;Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:2444, 1988;Higgins and Sharp, Gene 73:237-244, 1988;Higgins and Sharp, CABIOS 5:151-153, 1989;Corpet et al., Nucleic Acids Research 16:10881-10890, 1988;Huang, et al., Computer Applications in the Biosciences 8:155-165, 1992;Pearson et al., Methods in Molecular Biology 24:307-331, 1994;Tatiana et al.,(1999), FEMS Microbiol. Lett., 174:247-250, 1999。Altschulらは、配列アライメント法およびホモロジー計算に関する詳細な考察を述べている(J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990)。
【0030】
The National Center for Biotechnology Information(NCBI)のBasic Local Alignment Search Tool(BLAST(商標), Altschul et al., J. Mol. Biol. 215:403-410, 1990)は、配列解析プログラム(blastp、blastn、blastx、tblastn、およびtblastx)に関連する使用のために、National Center for Biotechnology Information(NCBI, Bethesda, MD)を含む複数の供給源からおよびインターネット上で入手することができる。このプログラムによる配列同一性の決定法に関する記載は、インターネット上のBLAST(商標)のヘルプセクションから利用できる。
【0031】
約30アミノ酸を上回るアミノ酸配列の比較では、BLAST(商標)(Blastp)プログラムの「Blast 2配列」関数が、以下のデフォルトパラメータに設定したデフォルトのBLOSUM62行列を利用して使用される:(cost to open a gap[デフォルト=5];cost to extend a gap[デフォルト=2];penalty for a mismatch[デフォルト=-3];reward for a match[デフォルト=1];expectation value(E)[デフォルト=10.0];word size[デフォルト=3];number of one-line descriptions(V)[デフォルト=100];number of alignments to show(B)[デフォルト=100])。短いペプチド(約30アミノ酸未満)をアライメントさせる場合は、デフォルトのパラメータ(open gap 9、extension gap 1 penalties)を設定したPAM30マトリックスをBlast 2配列関数を使用してアライメントを実施すべきである。標準配列に対する類似性がさらに高いタンパク質は、この方法で評価する場合、高い同一性(%)を示す。
【0032】
核酸配列の比較では、BLAST(商標)(Blastn)プログラムの「Blast 2配列」関数が、以下のデフォルトパラメータに設定したデフォルトのBLOSUM62行列をを利用して使用される:(cost to open a gap[デフォルト=11];cost to extend a gap[デフォルト=1];expectation value(E)[デフォルト=10.0];word size[デフォルト=11];number of one-line descriptions(V)[デフォルト=100];number of alignments to show(B)[デフォルト=100])。標準配列に対する類似性がさらに高い核酸配列は、この方法で評価する場合、高い同一性(%)を示す。
【0033】
特異的結合:
特異的結合とは、1つの結合パートナー(結合剤など)と別の結合パートナー(標的など)の間の特異的な相互作用を意味する。このような相互作用には、結合パートナー間における(または、しばしば個々の結合パートナーの特定の領域もしくは部分間の)1か所、典型的には複数の非共有結合が関与する。非特異的結合部位とは対照的に、特異的結合部位は飽和し得る。したがって、特異的結合を解析する1つの例示的な方法は、特異的結合曲線による方法である。特異的結合曲線は例えば、1つの結合パートナー(第1の結合パートナー)の濃度の関数としての、固定量の他の結合パートナーに結合する第1の結合パートナーの量を示す。このような条件で第1の結合パートナー濃度が高まると、結合状態の第1の結合パートナーの量は飽和する。非特異的な結合部位とはまた対照的に、相互の直接的な結合(例えばタンパク質間相互作用)に関与する特異的な結合パートナーは、そのような結合(例えばタンパク質複合体)から、過剰な量のいずれかの特異的な結合パートナーによって競合的に除去され得る(または置換され得る)。このような競合アッセイ法(または置換アッセイ法)は当技術分野で周知である。
【0034】
単数形の「1つの(a、an)」および「その(the)」は、文脈上で特に明記されない限り、複数の対象を含む。同様に、「または(or)」という表現は、文脈上で特に明記されない限り、「および(and)」を含むことが意図される。「〜を含む(comprising)」は、「〜を包含する(including)」を意味する。したがって、「AもしくはBを含む(comprising A or B)」は、「AもしくはBを包含する(including A or B)」、または「AおよびBを包含する(including A and B)」を意味する。
【0035】
材料、方法、および例は、説明を目的とするだけであり、制限する意図はない。本明細書に記載した方法および材料と類似または等価の方法および材料を、本開示の実施または試験に使用することができる(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2d ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989;Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3d ed., Cold Spring Harbor Press, 2001;Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates, 1992(およびSupplements to 2000);Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, 4th ed., Wiley & Sons, 1999;Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1990;ならびに、Harlow and Lane, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1999を参照)。
【0036】
III.運動の効果を高める方法
運動は、運動を行う被験体に対して多くの効果を有することが知られている。分子レベル、生化学的レベル、および/または細胞レベルにおける運動効果(例えば、筋肉のエネルギー基質の利用率および収縮特性に関与する遺伝子および/または遺伝子ネットワーク、ならびに対応するタンパク質の調節の修飾)は、組織、器官、および/または全身のレベルで観察される生理学的効果(例えば、心肺持久力、筋力、筋持久力、および/もしくは柔軟性の上昇、ならびに/または身体の外観の改善)の基礎を成す。本明細書では、少なくとも、身体活動を1種または複数種のPPARδアゴニストの投与と組み合わせることによって、1種もしくは複数種の運動効果を高める方法を開示する。いくつかの例では、身体活動は、AMPK活性化因子(例えばAICAR)の投与と置き換えられる。
【0037】
大まかに言えば、運動は何らかの身体活動の能力である。身体活動の1つのエピソード(一回(a bout)とも呼ばれる)が、特定の期間にわたって、特定の強度で行われる。複数回の運動が行われる場合は、個々の運動は、同じかもしくは異なる期間、および/または同じかもしくは異なる強度を有する場合がある。
【0038】
ある方法の態様では、単回運動は、最大30分間、最大45分間、最大60分間、最大90分間、最大2時間、最大2.5時間、最大3時間、またはさらにはこれ以上にわたって続けられる場合がある。典型的には、過去の運動歴がない場合、運動誘導効果(有酸素運動能力の上昇やランニング持久力の上昇など)を達成するためには、反復的に行われる身体活動が必要とされる。したがって、いくつかの開示する方法では、身体活動の回数は、1日のうちに繰り返される場合がある;例えば、1日に最大2回の運動、1日に最大3回の運動、1日に最大4回の運動、1日に最大5回の運動、またはさらには1日にこれ以上の回数。一部のプロ運動選手または競争哺乳類は、1日に計8時間以上にわたって運動を反復して行う場合がある。他の方法の態様では、複数回の運動(すなわち反復運動)は、1日ベースで、週に6回、週に5回、週に4回、または週に3回にわたって行われる。開示する少なくともいくつかの方法では、運動は、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも3か月間、少なくとも6か月間、少なくとも1年間、少なくとも3年間にわたって、または無制限に(被験体の生涯にわたって)継続される場合がある。
【0039】
運動は一般に、被験体にとって通常の(例えば、平均、中央値、正常標準、もしくは正常活動(normoactive)の)活動を上回る強度で、および/または特定の運動を行う被験体によって達成されうる最大活動もしくは最大活動未満で行われる。例えば、心拍数、反復率(例えば、1秒間あたりの回転、1マイルに要する時間(分)、1分間あたりの上げ下げ(lift)ほか)、および/または力出力の測定を含む、身体能力の任意の既知の指標を、被験体が通常量を上回る活動を行っているか否かの判定に使用することができる。いくつかの方法では、運動は、最大下の強度;例えば、最大強度の約10%、最大強度の約25%、最大強度の約50%、または最大強度の約75%で行われる。他の方法では、単回運動は、最大心拍数の40%〜50%、最大心拍数の50%〜60%、最大心拍数の60%〜70%、または最大心拍数の75%〜80%で行われ、ヒト被験体の最大心拍数は、「220 bps−(被験体の年齢)」の式で計算される。
【0040】
運動は一般に、以下の3つのタイプに分類される:(i)筋肉および関節の動く範囲を少なくとも改善すると考えられている柔軟運動(ストレッチングなど);(ii)有酸素運動;ならびに(iii)筋肉の強度および量を少なくとも高めると考えられている無酸素運動(ウエイトトレーニング、ファンクショナルトレーニング、または短距離走など)。
【0041】
有酸素運動とは、運動骨格筋において(解糖系代謝すなわち無酸素代謝と比較して)酸化的代謝すなわち有酸素代謝が実質的に優勢な身体活動を意味する。特定の方法の態様では、被験体は、1種または複数種の有酸素運動を行う。例示的な有酸素運動は、エアロビクス、美容体操、サイクリング、ダンス、エクササイズマシーン(ローイングマシーン、サイクリングマシーン(例えば傾斜型もしくは垂直型)、クライミングマシーン、エリプティカルトレーナー、および/またはスキーマシーン)、バスケットボール、フットボール、野球、サッカー、フットバッグ、家事、ジョギング、武術、マッサージ、ピラティス、ローイング、ランニング、縄跳び、水泳、ウォーキング、ヨガ、ボクシング、体操、バドミントン、クリケット、陸上競技、ゴルフ、アイスホッケー、ラクロス、ラグビー、テニス、またはこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない。
【0042】
開示する方法は、運動(ウォーキングやランニングのような有酸素運動など)の任意の既知または観察可能な効果を高めることを想定している。特定の方法では、ランニング持久力(例えば、ランニング距離および/またはランニング時間)が高められる。
【0043】
運動効果(ランニング持久力など)を高めることは、そのような効果が被験体において、運動のみによって生じる可能性のある場合より改善されることを意味する。いくつかの方法の態様では、被験体へのPPARδアゴニストの投与を中止して関心対象の運動効果(例えばランニング持久力などの有酸素持久力)の低下を(例えば定性的または定量的に)観察することによって、運動効果の増強が判定される。場合によっては、関心対象の運動効果である、PPARδ投与の中断によって失われるPPARδによって高められる部分は、運動のみによる効果の規模と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、または少なくとも約50%低下する。
【0044】
A.PPARδアゴニスト
開示する方法は、任意のPPARδアゴニストの使用を想定している。好ましくは、このようなアゴニストは、同アゴニストが投与される被験体に毒性を生じない。例示的なPPARδアゴニストは、GW1516、L-165041(例えば、Leibowitz et al., FEBS Lett., 473(3):333-336, 2000に記載)、PCT公開番号WO/2006/018174、WO/2005/113506、WO/2005/105754、WO/2006/041197、WO/2006/032023、WO/01/00603、WO/02/092590、WO/97/28115、WO/97/28149、WO/97/27857、WO/97/28137、WO/97/27847、および/またはWO/98/27974、および/または公開された米国国内段階出願もしくは任意の前述の出願に対応する発行された米国特許(それぞれは参照により明示的に本明細書に組み入れられる)に記載された任意の1種もしくは複数種の化合物を含む。さらに、他のPPARδアゴニストは、例えばPCT 公開番号WO/1998/049555、または任意の対応する公開された米国国内段階出願もしくは発行された米国特許(それぞれは参照により明示的に本明細書に組み入れられる)に記載の方法で同定可能である。
【0045】
特定の例では、PPARδアゴニストはGW1516(当技術分野ではGW501516とも呼ばれる)である。GW1516は、ヒトにおいて生物活性を有することが報告されている、(2-メチル-4(((4-メチル-2-(4-トリフルオロメチルフェニル)-1,3-チアゾール-5-イル)メチル)スルファニル)フェノキシ)酢酸である(Sprecher et al., Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 27(2): 359-65, 2007)。特定の例では、GW1516は、例えば1 mg〜20 mg/日(2.5 mg/日または10 mg/日など)で経口投与される。
【0046】
B.被験体
開示する方法は、身体活動(例えば有酸素運動)を実施可能な任意の被験体で実施することができる。いくつかの方法の態様では、被験体は、生きている多細胞脊椎動物(例えばヒトおよび/または非ヒト動物)である。他の例示的な方法では、被験体は哺乳類(ヒトおよび/または獣医学的哺乳類や実験用の哺乳類などの非ヒト哺乳類を含む)であり、具体的な例では競争哺乳類(ウマ、イヌ、もしくはヒトなど)である。さらに他の方法では、被験体は、成人の運動トレーニング被験体または健康な被験体である。いくつかの代表的な成人のヒト被験体は、16歳以上、18歳以上、または21歳以上である。いくつかの代表的な運動トレーニング被験体は、(詳細に上述したような)身体活動を、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも3か月間、または少なくとも6か月間にわたって行った。いくつかの例では、被験体は健常者であり、例えば、既知の疾患もしくは障害であると診断されていないか、または疾患もしくは障害が関連する当技術分野の医師に対する可能性のある被験体である。
【0047】
C.投与法、製剤化、および投与量
開示する方法は、薬学領域の当業者に周知の投与法、投与量、および製剤化を含むがこれらに限定されない、製剤の投与を受けた被験体における運動効果を高める望ましい成果を有するPPARδアゴニストの、任意の投与法、投与量、および/または製剤化の使用を想定している。
【0048】
開示する方法における、PPARδアゴニスト(またはPPARδアゴニストを含む製剤)の投与様式は、髄腔内、皮内、筋肉内、腹腔内(ip)、静脈内(iv)、皮下、鼻腔内、硬膜外、硬膜内、頭蓋内、脳室内、および経口の経路を含むがこれらに限定されない。具体的な例では、PPARδアゴニストは経口投与される。PPARδアゴニスト(もしくはPPARδアゴニストを含む製剤)の他の簡便な投与経路は例えば、注入もしくはボーラス注射、局所、上皮もしくは皮膚粘膜(例えば、口腔粘膜、直腸および腸管の粘膜など)のライニング、眼、鼻、および皮膚を通じた吸収を含む。投与は、全身投与または局所投与とすることができる。例えば、エアロゾル剤を含む製剤を使用する(例えば吸入器またはネブライザーを使用する)肺内投与を利用することもできる。
【0049】
特定の方法の態様では、PPARδアゴニストを局所的に投与することが望ましい場合がある。これは例えば、局所注入もしくは限局的注入、または潅流、局所塗布(例えば創傷包帯)、注射、カテーテル、坐薬、またはインプラント(例えば、シラスティック(sialastic)膜や繊維などの膜を含む多孔性、非多孔性、もしくはゼラチン状の材料から作製されたインプラント)などによって達成可能である。
【0050】
他の方法の態様では、ポンプ(埋め込み型小型ポンプなど)を使用して、PPARδアゴニスト(またはPPARδアゴニストを含む製剤)を送り込むことができる(例えば、Langer Science 249, 1527, 1990;Sefton Crit. Rev. Biomed. Eng. 14, 201, 1987;Buchwald et al., Surgery 88, 507, 1980;Saudek et al., N. Engl. J. Med. 321, 574, 1989を参照)。別の態様では、PPARδアゴニスト(またはPPARδアゴニストを含む製剤)は、小胞中、特にリポソーム中に収容した状態で送り込まれる(例えば、Langer, Science 249, 1527, 1990;Treat et al., in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer, Lopez-Berestein and Fidler(eds.), Liss, N.Y., pp. 353-365, 1989を参照)。
【0051】
さらに別の方法の態様では、PPARδアゴニストは徐放製剤として送り込むことができる。Langerによる総説(Science 249, 1527 1990)に記載された系などの徐放系が知られている。同様に、徐放製剤に有用なポリマー材料が知られている(例えば、Ranger et al., Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23, 61, 1983;Levy et al., Science 228, 190, 1985;During et al., Ann. Neurol. 25, 351, 1989;Howard et al., J. Neurosurg. 71, 105, 1989を参照)。例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸とポリグリコール酸の共重合体、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルトエステル、ポリアセタール、ポリジヒドロピラン、ポリシアノアクリレート、およびヒドロゲルの架橋型または両親媒性のブロック共重合体を含む、化合物の徐放を達成するのに有用な一群の生分解性ポリマーに、PPARδアゴニストを結合させてもよい。
【0052】
開示する方法は、PPARδアゴニストを送り込み、望ましい結果を達成するPPARδアゴニスト(またはPPARδアゴニストを含む製剤)の任意の投与剤形の使用を想定している。投与剤形は一般に知られており、例えば、Allen et al., Ansel's Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems, Eighth Edition, Philadelphia, PA:Lippincott Williams & Wilkins, 2005の738ページを含む、さまざまな教科書に記載されている。開示する方法に使用される投与剤形は、固体投与剤形および固体修飾型(solid modified)放出用薬物送達システム(例えば、粉末剤および顆粒剤、カプセル剤、および/または錠剤);半固体投与剤形および経皮システム(例えば、軟膏、クリーム、および/またはゲル);経皮薬物送達システム;薬学的挿入物(例えば坐剤および/または挿入物);液体投与剤形(例えば溶液系および分散系);および/または無菌性の投与剤形および送達システム(例えば非経口剤および/または生物製剤)を含むが、これらに限定されない。特定の例示的な投与剤形は、エアロゾル(服用計量、粉末、溶液を含むか、および/または噴霧剤を含まない);ビーズ;カプセル(従来の制御送達、徐放、腸溶コーティング、および/または持続放出を含む);カプレット;濃縮物;クリーム;結晶;ディスク(持続放出を含む);ドロップ;エリキシル;乳濁液;泡剤;ゲル(ジェリーおよび/または徐放を含む);小球;顆粒;ガム;インプラント;吸入;注射;挿入物(長期放出を含む);リポソーム;液体(徐放を含む);ローション;トローチ;定量噴霧(例えばポンプ);ミスト;洗口剤;噴霧溶液;視覚系;オイル;軟膏;膣坐薬;粉末(パケット、発泡剤、懸濁用粉末、懸濁持続放出用粉末、および/または溶液用の粉末を含む);ペレット;ペースト;溶液(長期作用性および/または再構成用を含む);ストリップ;坐薬(持続放出を含む);懸濁剤(Lente、Ultrelente、再構成型を含む);シロップ(持続放出を含む);錠剤(咀嚼、舌下、持続放出、徐放、遅延作用、遅延放出、腸溶コーティング、発泡剤、フィルムコート、迅速溶解、遅延放出を含む);経皮系;チンキ;および/またはウェハーを含む。
【0053】
典型的に投与剤形は、薬学的に許容される賦形剤および/または他の要素(1種もしくは複数種の他の活性成分など)が添加された、有効量(治療的有効量など)の少なくとも1種類の活性薬学成分(PPARδアゴニストなど)の製剤である。薬剤製剤の望ましい目標は、被験体への活性成分(PPARδアゴニストなど)の適切な投与を可能とすることである。製剤は、投与様式に適したものとすべきである。「薬学的に許容される」という表現は、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって承認されていること、または米国薬局方、もしくは動物、特にヒトにおける使用に関する他の一般に認められた薬局方に収載されていることを意味する。
【0054】
例示的な製剤に使用される賦形剤は例えば、以下の1つもしくは複数を含む:結合剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤、被覆剤、甘味剤、香料、着色剤、保存剤、希釈剤、補助剤、および/または溶媒。いくつかの例では、賦形剤はまとめて、特定の投与剤形の総重量(および/または総体積)の約5%〜95%を占めてもよい。
【0055】
薬学的賦形剤は例えば、ラッカセイ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などの、石油、動物、植物、または合成起源の液体を含む、水および/または油などの無菌性の液体の場合がある。水は、製剤が静脈内投与される際の例示的な担体である。生理食塩水、血漿溶媒、水性デキストロース、およびグリセロール溶液も液体担体として、特に注射溶液に使用することができる。経口製剤は、製薬グレードのマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含む場合があるがこれらに限定されない。非経口的な薬学的賦形剤に関するさらに詳しい説明は、Remington, The Science and Practice of Pharmacy, 19th Edition, Philadelphia, PA:Lippincott Williams & Wilkins, 1995, Chapter 95に記載されている。賦形剤は例えば、浸透圧を調節するための薬学的に許容される塩類、シクロデキストリンなどの脂質担体、血清アルブミンなどのタンパク質、メチルセルロース、界面活性剤、緩衝液、保存剤などの親水性薬剤を含む場合もある。薬学的賦形剤の他の例は、デンプン、グルコース、乳糖、ショ糖、ゼラチン、マルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなどを含む。製剤には、望ましいならば、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を含めることもできる。
【0056】
PPARδアゴニストを利用する投与計画は、被験体のタイプ、種、年齢、体重、性別、および身体状態;投与経路;および/または利用される特定のPPARδアゴニスト製剤を含む、さまざまな因子を考慮して選択される。当技術分野の医師または獣医師であれば、被験体における運動効果を高めるのに有用なPPARδアゴニスト(またはこの製剤)の有効量を容易に決定することができる。
【0057】
経口投与を含むいくつかの方法の態様では、PPARδアゴニストの経口投与量は一般に、1日あたり体重1 kgあたり約0.001 mg〜約100 mg(mg/kg/日)、および約0.01〜10 mg/kg/日などの範囲に含まれる(特に言及しない限り、活性成分の量は、遊離酸または遊離塩基の場合のある中性分子に基づく)。例えば、80 kgの被験体は、約0.08 mg/日〜8 g/日(約0.8 mg/日〜800 mg/日など)が投与されることになる。したがって、1日1回投与される適切に調製された薬物は、0.08 mg〜8 g(0.8 mg〜800 mgなど)を含む。場合によっては、PPARδアゴニストを含む製剤は、1日に2回、3回、または4回の用量に分けて投与可能である。1日2回の投与時は、上記の適切に調製された薬物は、0.04 mg〜4 g(0.4 mg〜400 mgなど)を含む。場合によっては、前述の範囲外の投与量が必要とされる場合がある。0.08 mg〜8 g/日の範囲で投与可能な1日投与量の例は、0.1 mg、0.5 mg、1 mg、2.5 mg、5 mg、10 mg、25 mg、50 mg、100 mg、200 mg、300 mg、400 mg、500 mg、600 mg、800 mg、1 g、2 g、4 g、および8 gを含む。これらの量は、1日に複数回投与される場合には、より少量の用量に分けることができる(例えば、薬剤が1日に2回摂取される場合には各投与の半分)。
【0058】
注射(例えば静脈内注射または皮下注射)による投与を含むいくつかの方法の態様では、被験体は、活性成分をほぼ上記の量で輸送する注射量を受ける。量は、消化器系を迂回する注射用薬剤形状に起因する輸送効率の差を考慮して調節することができる。このような量は、いくつかの適切な方法で投与することができ、例えば、大量の低濃度の活性成分を一回に長時間かけて、または1日に複数回、少量の高濃度の活性成分を短時間に、例えば1日に1回。典型的には、約0.01〜1.0 mg/ml、例えば0.1 mg/ml、0.3 mg/ml、または0.6 mg/mlなどの活性成分の濃度を含む従来の静脈内製剤を調製し、上記の量/日に等しい量/日で投与することができる。例えば、1日に2回、0.5 mg/mlの活性成分濃度の8 mlの静脈内製剤が投与される80 kgの被験体には、1日に8 mgの活性成分が投与されることになる。
【0059】
他の方法の態様では、PPARδアゴニスト(またはこの製剤)を、投与期間の全体にわたって、ほぼ同じ用量で、用量を増加させる投与法で、または負荷投与法で投与することができる(例えば負荷用量は維持用量の約2〜5倍)。いくつかの態様では、組成物が投与される被験体の条件、組成物に対する見かけ上の反応、および/または当業者によって判断される他の因子に基づいて、PPARδアゴニストの使用の過程において、用量は変動する。いくつかの態様では、例えば運動効果(有酸素持久力、例えばランニング持久力など)の持続的な強化をもたらすために、PPARδアゴニスト(またはこの製剤)の長期投与が想定される。
【0060】
IV.薬剤により誘導される運動能力強化を判定するための方法
特に小児およびプロ運動選手による運動能力向上物質(PES)の使用は、健康に及ぼす有害な結果の可能性があることと、個人の道徳的発達および公正な競技に関してこのような行為が議論の余地のある影響を有するとの理由で、報道の対象となっている(Committee on Sports Medicine and Fitness, Reginald L. Washington, MD, Chairperson, Pediatrics, 115(4):1103-1106, 2005)。本明細書に記載した知見の1つは、特定の遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)が、運動と、身体能力の強化をもたらす薬物(PPARδアゴニスト)の組み合わせによって固有に調節されるということである(表2参照)。場合によっては、特定の遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)は、併用処置によってアップレギュレートまたはダウンレギュレートされたが、いずれか一方の介入のみの影響は受けなかった。他のケースでは、特定の遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)は、併用処置による影響を受けなかったが、単独で実施時に、一方もしくは両方の介入によってアップレギュレートもしくはダウンレギュレートされた。これらの遺伝子(および/またはコードされたタンパク質)が固有に調節されることから、これらは、PESを摂取している(もしくは投与を受けている)運動被験体を同定する際の(単独で、もしくは任意の組み合わせのいずれかで)有用なマーカーとなる。
【0061】
PESは、特にスポーツの成績を改善する目的で(例えば、強度、力、速度、持久力を高めること(エルゴジェニック(ergogenic))によって、または体重もしくは身体組成を変化させることによって)、非薬学的用量で摂取される任意の物質である。例示的なPESは以下を含む:(i)推奨される治療的用量を上回る用量で摂取されるか、または治療指標が存在しない場合に摂取される薬物(処方薬もしくは非処方薬)(例えば、刺激効果用の充血除去剤の使用、運動によって誘導される気管支痙攣が存在しない場合の気管支拡張薬の使用、これは運動競技時のベースラインにおける塩酸メチルフェニデートの用量を高める);(ii)使用者が、体重別クラスのあるスポーツか、またはやせていることが有利なスポーツを行う際の、興奮剤、やせ薬、利尿剤、および緩下薬を含む、体重管理に使用される薬剤;(iii)筋量の増加を促すと宣伝されている市販の製品を含む、体重の増加に使用される薬剤;(iv)エリトロポイエチンおよび赤血球の輸血(血液ドーピング)を含む、酸素運搬能力を高めるために使用される生理学的薬剤(physiologic agent)もしくは他の戦略;(v)記載の疾患状態もしくは欠乏症を治療する以外の理由で使用される任意の物質;(vi)別の運動能力向上物質の有害作用もしくは検出能を隠すことが既知である任意の物質、および/または(vii)超生理学的用量で、もしくは疾患状態、トレーニング、および/またはスポーツへの参加によって生じた欠乏を回復させるために必要な量を上回るレベルで摂取される栄養補給剤。一例では、PESはGW1516である。
【0062】
本明細書で特定されかつ開示する方法に有用な、物質によって誘導される能力の強化のバイオマーカーは、表2に列挙された遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)、および表4に列挙されたいくつかの例のうちの1つもしくは複数(または任意の組み合わせ)を含む。特定の方法の態様では、表2(もしくは表4)に列挙された少なくとも2種類、少なくとも3種類、少なくとも5種類、少なくとも7種類、少なくとも10種類、少なくとも15種類、少なくとも20種類、少なくとも30種類、もしくは少なくとも40種類の遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)が、開示する方法で検出される。一例では、表2に列挙された各クラス(例えば、サイトカイン、脂肪代謝)の少なくとも1種類の遺伝子(および/または遺伝子にコードされるタンパク質)が解析される。
【0063】
より特異的な方法の態様では、アップレギュレートされた発現は、以下のうちの1つもしくは複数の遺伝子(または遺伝子にコードされたタンパク質)に関して検出される:脂肪分化関連タンパク質;ステアロイル補酵素Aデサチュラーゼ2;アセチル補酵素Aアセチルトランスフェラーゼ2;ATPクエン酸リアーゼ;アディポネクチン、C1Qおよびコラーゲンドメイン含有;ジアシルグリセロールO-アシルトランスフェラーゼ2;リパーゼ、ホルモン感受性;モノグリセリドリパーゼ;レジスチン;CD36抗原;脂肪酸結合タンパク質4、脂肪細胞;リポタンパク質リパーゼ;ミクロソームグルタチオンSトランスフェラーゼ1;GPIアンカー型膜タンパク質1;二重特異性ホスファターゼ7;ホメオドメイン相互作用タンパク質キナーゼ3;インスリン様成長因子結合タンパク質5;タンパク質ホスファターゼ2(かつての2A)、調節サブユニットA(PR 65)、ベータイソ型;タンパク質チロシンホスファターゼ様(触媒性アルギニンの代わりにプロリン);メンバーb;CCAAT/エンハンサー結合タンパク質(C/EBP)、アルファ;核内受容体サブファミリー1、グループD、メンバー2(Reverb-b);トランスフェリン;archain 1;溶質担体ファミリー1(中性アミノ酸輸送体)、メンバー5;RIKEN cDNA 1810073N04遺伝子;ハプトグロビン;レチノール結合タンパク質4、血漿;ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1、細胞質;細胞死誘導性DFFA様エフェクターc;インターフェロン、アルファ誘導性タンパク質27;炭酸脱水酵素3;システインジオキシゲナーゼ1、細胞質;DNAセグメント、Chr 4、Wayne State University 53、発現型;ダイニン細胞質1中間鎖2;Kruppel様因子3(塩基性);甲状腺ホルモン応答性SPOT14ホモログ(ラット);シトクロムP450、ファミリー2、サブファミリーe、ポリペプチド1;補体因子D(アジプシン);および/またはトランスケトラーゼ。特定の方法の態様では、前述の遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)のうちの少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも5つ、少なくとも7つ、少なくとも10個、少なくとも15個、少なくとも20個、少なくとも30個、または少なくとも38個のアップレギュレーションが、開示する方法で検出される。
【0064】
他の方法の態様では、ダウンレギュレートされた発現は、以下のうちの1つもしくは複数の遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)で検出される:ガンマ-グルタミルカルボキシラーゼ;3-オキソ酸CoAトランスフェラーゼ1;溶質担体ファミリー38、メンバー4;アネキシンA7;CD55抗原;RIKEN cDNA 1190002H23遺伝子;融合、t(12;16)悪性脂肪肉腫(ヒト)由来;リソソーム膜糖タンパク質2;および/またはneighbor of Punc E11。特定の方法の態様では、前述の遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)のうちの少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも5つ、または少なくとも7つのダウンレギュレーションが、開示する方法で検出される。
【0065】
さらに他の方法の態様では、上記のアップレギュレートされた遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)とダウンレギュレートされた遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)の組み合わせは、被験体(運動被験体や運動トレーニング被験体など)に由来する試料中で検出される。
【0066】
さらに他の方法の態様は、上記のアップレギュレートされた遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)、および/または上記のダウンレギュレートされた遺伝子(および/または遺伝子にコードされたタンパク質)、および/またはPPARδの投与と運動の組み合わせの影響を受けない上記の運動調節遺伝子の組み合わせの、試料中での検出を含む。
【0067】
開示する方法は、1種または複数種のこのようなPESの摂取または投与が可能な任意の被験体におけるPES使用の検出に使用することができる。いくつかの方法の態様では、被験体は、生きている多細胞脊椎動物(例えばヒトおよび/または非ヒト動物)である。他の例示的な方法では、被験体は、(ヒトおよび/または非ヒト哺乳類を含む)哺乳類であり、具体的な例では、競争哺乳類(ウマ、イヌ、もしくはヒトなど)である。さらに他の方法では、被験体は、運動トレーニング被験体である。いくつかの代表的な運動トレーニング被験体は、(詳細を上述したような)身体活動を、少なくとも4週間、少なくとも6週間、少なくとも3か月間、または少なくとも6か月間にわたって実施する。他の運動トレーニング被験体は、学生の運動選手および/またはプロの運動選手(いくつかの例では、競走馬および/またはドッグレース用の犬などの非ヒトのプロフェッショナルな運動個体を含む)の場合がある。
【0068】
PPARδアゴニストの摂取を組み合わせた運動によって固有に調節される1種もしくは複数種の遺伝子および/またはタンパク質を検出可能な、被験体に由来する任意の試料(例えば生物学的試料)(本明細書を通して詳細に説明するような)が、開示する方法における使用に想定される。開示する方法で使用される例示的な試料は、血液、唾液、尿、筋生検(例えば骨格筋生検)、頬内スワブ、糞便試料、汗、および/または精子を含む。
【0069】
試料(例えば生物学的試料)中の遺伝子および/またはタンパク質の発現を検出する方法は周知である(例えば米国特許第6,911,307号;第6,893,824号;第5,972,692号;第5,972,602号;第5,776,672号;第7,031,847号;第6,816,790号;第6,811,977号;第6,806,049号;第6,203,988;および/または第6,090,556号を参照)。
【0070】
特定の方法の態様では、本明細書に記載した1種もしくは複数種の遺伝子の発現は、核酸増幅の任意の方法(ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)もしくはこの任意の応用、リガーゼ鎖反応、転写増幅システム、サイクリングプローブ反応、Qβレプリカーゼ増幅、鎖置換増幅、および/またはローリングサークル増幅など)、固体表面ハイブリダイゼーションアッセイ法(ノーザンブロット、ドットブロット、遺伝子チップ、および/または可逆的標的捕捉など)、溶液ハイブリダイゼーションアッセイ法((個々のビーズの内部が、固有のスペクトルアドレスを割り当てるための異なる比の2種類のスペクトルの異なるフルオロフォアで染色されている100セットの5.5ミクロンのプローブ結合ビーズの懸濁液アレイを使用する)MAP法など)、および/またはインサイチューハイブリダイゼーションによって検出可能である。前述のさまざまな核酸検出法は、Wolcottによる総説(Clin. Microbiol. Rev., 5(4):370-386, 1992)に詳述されている。いくつかのこのような核酸検出法の実施に関する他の詳細かつ確立済みのプロトコルは、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989;Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 3rd edition, Cold Spring Harbor Press, 2001;Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing Associates, 1992(and Supplements to 2000);および/またはAusubel et al., Short Protocols in Molecular Biology: A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology, 4th edition, Wiley & Sons, 1999に記載されている。
【0071】
他の方法の態様では、本明細書に記載した対応する遺伝子にコードされた1種または複数種のタンパク質の発現は、ウエスタンブロット、免疫組織化学的方法、免疫沈降、抗体マイクロアレイ、ELISAによって、および/または機能アッセイ法(例えば、キナーゼアッセイ法、ATPaseアッセイ法、基質(もしくはリガンド)結合アッセイ法、タンパク質間結合アッセイ法、または特定のタンパク質の機能の測定に適した他のアッセイ法)によって検出可能である。
【0072】
試験された被験体において同定された発現のパターンが、表2に示された発現パターンと似ている場合(例えば、表2でアップレギュレートまたはダウンレギュレートされると示された遺伝子が、それぞれ被験体でアップレギュレートまたはダウンレギュレートされることが認められる)、これは、被験体がPPARδアゴニスト(例えばGW1516)などのPESを摂取していることを意味する。対照的に、試験された被験体で同定された発現のパターンが、表2に示された発現パターンと異なる場合(例えば、表2でアップレギュレートまたはダウンレギュレートされると示された遺伝子が、被験体で異なって発現されるか、または異なる調節のパターンを示すと認められる)、これは、被験体がPPARδアゴニスト(例えばGW1516)などのPESを摂取していないことを意味する。
【0073】
V.潜在的に関心対象の薬剤を同定するための方法
本開示は、PPARδと特定の運動誘導性キナーゼ(例えば、AMPKのAMPKα1サブユニットおよび/またはAMPKα2サブユニットなどのAMPK)の間における、これまで未知であったタンパク質間相互作用を同定する。PPARδとAMPKの間の相互作用は、被験体の運動能力(例えばランニング持久力などの有酸素運動能力)の強化など重要な機能的成果を有する場合がある。
【0074】
上記の知見によって、例えば、被験体の運動能力(例えばランニング持久力などの有酸素運動能力)を高める可能性を有する薬剤を同定する方法が可能となる。いくつかのこのような方法では、タンパク質間相互作用に影響を及ぼす(例えば、高める、弱める、または実質的に破壊する)薬剤が同定される。他のこのような方法では、PPARδ複合体のAMPK依存性のリン酸化に影響する(例えば、高める、低める、または実質的に失わせる)薬剤が同定される。
【0075】
A.例示的な薬剤
「薬剤」は、目的または結果を達成するのに有用な任意の物質または物質の任意の組み合わせであり;例えば、タンパク質の活性(例えばPPARδ複合体のAMPK依存性のリン酸化)の調節に有用な、またはタンパク質間相互作用(例えばPPARδ-AMPKの相互作用)の修飾もしくは影響に有用な、物質または物質の組み合わせである。本明細書に開示するPPARδ-AMPKの相互作用の任意の局面を調節する可能性を有する任意の薬剤は(究極的に現実化してもしなくても)、本開示のスクリーニング法における使用が想定される。
【0076】
例示的な薬剤は、ランダムペプチドライブラリーの成員を含むがこれらに限定されない、例えば可溶性ペプチドなどのペプチド類(例えば、Lam et al., Nature, 354:82-84, 1991;Houghten et al., Nature, 354:84-86, 1991を参照)、ならびにD型および/またはL型のアミノ酸から作られるコンビナトリアル化学由来の分子ライブラリー、ホスホペプチド類(無作為もしくは部分的に縮重した、標的ホスホペプチドライブラリーの成員を含むがこれらに限定されない;例えば、Songyang et al., Cell, 72:767-778, 1993を参照)、抗体(ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、抗イディオタイプ抗体、キメラ抗体、もしくは1本鎖抗体、ならびにFab、F(ab')2、およびFab発現ライブラリーの断片、ならびにこれらのエピトープ結合断片を含むがこれらに限定されない)、小型の有機分子もしくは無機分子(いわゆる天然物またはコンビナトリアル化学ライブラリーの成員など)、分子複合体(タンパク質複合体など)、または核酸を含むがこれらに限定されない。
【0077】
開示する方法に有用なライブラリー(コンビナトリアル化学ライブラリーなど)は、ペプチドライブラリー(例えば、米国特許第5,010,175号;Furka, Int. J. Pept. Prot. Res., 37:487-493, 1991;Houghton et al., Nature, 354:84-88, 1991;PCT公開番号WO 91/19735を参照)、コードペプチド(例えば、PCT公開WO 93/20242)、ランダム生物オリゴマー(例えば、PCT公開番号WO 92/00091)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドなどのダイバーソマー(diversomer)(Hobbs et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6909-6913, 1993)、ビニル性ポリペプチド(Hagihara et al., J. Am. Chem. Soc., 114:6568, 1992)、グルコースの足場(glucose scaffolding)を有する非ペプチド性ペプチド模倣体(Hirschmann et al., J. Am. Chem. Soc., 114:9217-9218, 1992)、小型化合物ライブラリーの類似有機合成物(Chen et al., J. Am. Chem. Soc., 116:2661, 1994)、オリゴカルバメート(Cho et al., Science, 261:1303, 1003)、および/またはホスホン酸ペプチジル(Campbell et al., J. Org. Chem., 59:658, 1994)、核酸ライブラリー(Sambrook et al. Molecular Cloning, A Laboratory Manual, Cold Springs Harbor Press, N.Y., 1989;Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, Green Publishing Associates and Wiley Interscience, N.Y., 1989を参照)、ペプチド核酸ライブラリー(例えば米国特許第5,539,083号を参照)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughn et al., Nat. Biotechnol., 14:309-314, 1996;PCT出願番号PCT/US96/10287を参照)、炭水化物ライブラリー(例えば、Liang et al., Science, 274:1520-1522, 1996;米国特許第5,593,853号を参照)、小型有機分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Baum, C&EN, Jan 18、33ページ、1993;イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン(methathiazone)、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、第5,288,514号を参照)などを含むがこれらに限定されない。
【0078】
開示するスクリーニング法に有用なライブラリーは、空間的に整列されたマルチピンペプチド合成(Geysen, et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 81(13):3998-4002, 1984)、「ティーバッグ」ペプチド合成(Houghten, Proc. Natl. Acad. Sci., 82(15):5131-5135, 1985)、ファージディスプレイ(Scott and Smith, Science, 249:386-390, 1990)、スポットもしくはディスク合成(Dittrich et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 8(17):2351-2356, 1998)、またはビーズ上における分裂・混合固相合成(Furka et al., Int. J. Pept. Protein Res., 37(6):487-493, 1991;Lam et al., Chem. Rev., 97(2):411-448, 1997)を含むがこれらに限定されないさまざまな様式で、作製可能である。ライブラリーは、最大約100種類の成員など、最大約1000種類の成員など、最大約5000種類の成員など、最大約10,000種類の成員など、最大約100,000種類の成員など、最大約500,000種類の成員など、またはさらには500,000種類の成員を上回る数などの、さまざまな数の組成物(成員)を含む場合がある。
【0079】
1つの好都合な態様では、高スループットスクリーニング法には、多数の潜在的な治療用化合物(例えば、AMPK-PPARδタンパク質間相互作用の影響因子)を含むコンビナトリアル化学ライブラリーまたはペプチドライブラリーを提供する段階が含まれる。次に、このようなコンビナトリアルライブラリーを、本明細書に記載した1つまたは複数のアッセイ法でスクリーニングして、(AMPK-PPARδのタンパク質間相互作用を亢進するまたは低減するといった)望ましい特徴的な活性を示すライブラリーの成員(具体的には化合物種またはサブクラス)を同定する。このようにして同定された化合物は、典型的な「リード化合物」となり得る、またはそれだけで潜在的なまたは実際の治療薬として使用可能である。いくつかの例では、候補薬剤のプールが同定可能であり、さらにスクリーニングを行うことで、集団中のどの個々の薬剤または薬剤のサブプールが望ましい活性を有するかを判定することが可能である。
【0080】
B.例示的なアッセイ法
本明細書に開示するように、PPARδは、AMPKまたはその1つもしくは複数のサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)とタンパク質間相互作用を形成する。AMPK-PPARδの相互作用またはPPARδ複合体のAMP依存性のリン酸化に影響を及ぼす(例えば亢進するまたは低減する)薬剤は、被験体の運動能力(例えばランニング持久力などの有酸素運動能力)を高める効果を有する可能性があるので、同定することが望まれる。
【0081】
本明細書に記載したスクリーニング法では、組織試料、単離された細胞、単離されたポリペプチド、および/または試験薬剤は、高スループットスクリーニングに適切な様式で提供することが可能であり;例えば、1種もしくは複数種の単離された組織試料、単離された細胞、または単離されたポリペプチドを、マイクロタイタープレートのウェル中に挿入することができ、かつ1種もしくは複数種の試験薬剤をマイクロタイタープレートのウェルに添加することができる。あるいは、1種または複数種の試験薬剤を、マイクロタイタープレートのウェル中(溶液中に存在するまたはプレートの表面に吸着した状態)など高スループットフォーマットで提供して、1種もしくは複数種の単離された組織試料、単離された細胞、および/または単離されたポリペプチドに、組織試料、または単離された細胞、または望ましいポリペプチドの機能および/または構造を少なくとも維持する条件で接触させることが可能である。組織試料、単離された細胞、または単離されたポリペプチドに、組織もしくは細胞に致死的ではないかまたはポリペプチドの構造および/または機能に有害な作用を及ぼさない任意の濃度で、試験薬剤を添加することができる。試験薬剤が異なれば有効濃度も異なることが予想される。したがって、いくつかの方法では、さまざまな試験薬剤濃度を検討することが有利である。
【0082】
開示する方法は、適切であれば、被験体内、1種もしくは複数種の細胞もしくは細胞抽出物中、1種もしくは複数種の組織もしくは組織抽出物中に独立に含まれるものとして、または単離されたポリペプチドとして、PPARδもしくはAMPK(AMPKα1やAMPKα2など)またはこれらの任意の機能断片の使用を想定している。PPARδリガンドは任意で、開示する方法に含まれる(または省略される)。
【0083】
1.タンパク質間相互作用に影響を及ぼす薬剤
2種類以上のポリペプチド(PPARδおよびAMPK(AMPKα1やAMPKα2など)など)の間の「直接結合」は、親和性および特異性が十分な相互作用性ポリペプチドの少なくとも一部分の間の物理的接触によって特徴づけられ、例えば、一方のポリペプチドの免疫沈降は、免疫沈降性の抗体が、相互作用に関与する部位に影響を及ぼさないという条件で他のポリペプチドも特異的に沈殿させる。ポリペプチド間の直接結合は、「タンパク質間相互作用」と表現される場合もある。タンパク質間相互作用における1種類のポリペプチドと別のポリペプチド(例えば、PPARδとAMPK(またはAMPKα1および/またはAMPKα2)、およびこの逆)の結合は、「特異的結合」と見なされる。
【0084】
AMPK-PPARδの相互作用に影響を及ぼす薬剤は、固相または溶液ベースのアッセイ法を含むさまざまなアッセイ法で同定可能である。例示的な固相アッセイ法では、PPARδまたはこのAMPK結合断片、およびAMPKまたはこのサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)、すなわちこのPPARδ結合断片は、PPARδおよびAMPK(またはこのサブユニットもしくは機能断片)が通常相互作用する(例えば共免疫沈殿を生じる)条件で混合状態にある。結合パートナーの一方は、ビオチン、フルオレセイン、EGFP、または酵素などのマーカーによって標識されることで、標識成分の容易な検出が可能となる。非標識の結合パートナーは、マイクロタイターウェルやビーズなどの支持体に吸着される。次に、標識された結合パートナーが、非標識の結合パートナーが固定されている環境に、2つの結合パートナー間の相互作用に適した条件で添加される。上記のライブラリーの1つまたは複数に含まれる化合物など1種または複数種の試験化合物は、相互作用性の結合パートナーを含む個々の微小環境に個別に添加される。結合パートナー間の相互作用に影響を及ぼすことが可能な薬剤は例えば、反応微小環境中、例えばマイクロタイターウェル中または例えばビーズ上で、シグナル(すなわち標識された結合パートナー)の保持もしくは結合を増強するまたは低減する(例えば増強する)薬剤として同定される。既に説明したように、薬剤の組み合わせは、個別に検討される薬剤群を同定する最初のスクリーニングで評価することが可能であり、この過程は、現在利用可能な技術による自動化が容易である。
【0085】
他の方法の態様では、液相による選択によって、タンパク質間相互作用に特異的に影響を及ぼす薬剤に関して大規模な複合体ライブラリーをスクリーニングすることができる(例えば、Boger et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 8(17):2339-2344, 1998);Berg et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 99(6):3830-3835, 2002を参照)。このような例の1つでは、物理的な相互作用が可能な2種類のタンパク質のそれぞれ(例えば、PPARδ(またはこのAMPK結合断片)、およびAMPKまたはAMPKα1もしくはAMPKα2(またはこれらの任意のPPARδ結合断片))は、発光スペクトルが異なり、吸収スペクトルが重複する蛍光色素分子タグで標識される。タンパク質成分が個別の場合は、各成分の発光スペクトルは異なるので測定が可能である。タンパク質成分が相互作用すると、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が生じることで、光子を放出することなく、ドナー色素分子からアクセプター色素分子へとエネルギーが移動する。アクセプター色素分子単独の場合は、特徴的な波長の光子(光)を放出する。したがって、FRETによって、2種類の相互作用性分子の動態を、試料の発光スペクトルを元に判定することができる。このシステムを用いて、2種類の標識タンパク質成分が、それらの相互作用がFRET発光スペクトルを生じる条件で添加される。次に、上記のライブラリーの1種または複数種の化合物など、1種または複数種の試験化合物が、2種類の標識タンパク質成分の混合物の環境に添加されて発光スペクトルが測定される。同時に別個の成分の発光スペクトルの低下を伴うFRET発光の上昇は、薬剤(または候補薬剤のプール)が、タンパク質成分間の相互作用に影響を及ぼした(例えば強めた)ことを意味する。
【0086】
いずれの方法も当技術分野で標準的な方法である、関連成分ポリペプチドの(例えば細胞抽出物からの)共免疫沈降、GSTプルダウンアッセイ法(例えば精製済みのGST標識細菌タンパク質を使用する)、および/または酵母ツーハイブリッドアッセイ法によって、PPARδ(またはこのAMPK結合断片)とAMPKまたはAMPKα1もしくはAMPKα2(またはこれらの任意のPPARδ結合断片)の間の相互作用も判定する(例えば定量する)ことができる。試験化合物の非存在下と比較して、またはいくつかの他の標準もしくは対照と比較して、試験化合物の非存在下でのPPARδ(またはこのAMPK結合断片)とAMPKまたはAMPKα1もしくはAMPKα2(またはこれらの任意のPPARδ結合断片)の間の相互作用を改善または高める(または他の態様では低下または阻害する)薬剤を同定するために、任意の1つまたは複数のこのようなアッセイ法の試験化合物の存在下での実施および任意で試験化合物の非存在下での実施を使用することができる。
【0087】
ある方法の態様では、PPARδの1種もしくは複数種のAMPK(AMPKα1および/もしくはAMPKα2など)結合断片、ならびに/またはAMPK(AMPKα1および/もしくはAMPKα2など)の1種もしくは複数種のPPARδ結合断片が使用される。一連の特定のPPARδ断片および/またはAMPK(AMPKα1やAMPKα2など)断片を当技術分野で標準的な方法で作製することによって、望ましい結合活性を有するポリペプチド断片を同定することができる。例えば、関心対象のタンパク質(例えばPPARδまたはAMPK)をコードするcDNAは、好都合に位置する制限酵素切断部位(または他の方法)を使用して、3'端もしくは5'端から(開始コドンが5'切断物中に設計する条件で)連続的に切りつめることが可能であり、また適切な読み枠を損なわないか(または補正する)ことが可能である。好都合には、エピトープタグ(FLAGタグなど)をコードする核酸配列が、切断型タンパク質をコードする配列と共に(かつ実質的に隣接するように)インフレームで配置されることで、エピトープ標識されたタンパク質断片をコードする核酸配列が作られる。エピトープ標識されたタンパク質断片は、任意の簡便な発現系(細菌発現系など)で発現させ、単離するかまたは単離せずに、エピトープ標識されたタンパク質断片が結合可能なタンパク質または他のタンパク質断片を含む試料と混合することが可能である。タグ(またはタンパク質断片の他の領域)に特異的な抗体を使用することで、関心対象の断片を、これに結合する任意のタンパク質またはタンパク質断片とともに免疫沈殿させることができる。エピトープタグ付加された関心対象のタンパク質断片に結合するタンパク質またはタンパク質断片は特に、例えばウエスタンブロットによって同定可能である。
【0088】
特定の方法では、PPARδ-AMPK(AMPKα1および/またはAMPKα2など)の複合体(PPARδ結合AMPK断片および/またはAMPK結合PPARδ断片の一方または両方を含む複合体を含む)の形成、またはPPARδ(もしくはこのAMPK結合断片)とAMPK(もしくはこのPPARδ結合断片)の相互の親和性は、このような複合体の量もしくは結合親和性が、対照測定値より少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、または少なくとも250%高い場合は、上昇する(例えば、同じ試験系で試験薬剤の添加前、または同等の試験系で試験薬剤の非存在下)。
【0089】
他の特定の方法では、PPARδ-AMPK(AMPKα1および/またはAMPKα2など)の複合体(PPARδ結合AMPK断片および/またはAMPK結合PPARδ断片の一方または両方を含む複合体を含む)の形成、またはPPARδ(もしくはこのAMPK結合断片)とAMPK(もしくはこのPPARδ結合断片)の相互の親和性は、このような複合体の量もしくは結合親和性が、対照測定値より少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、または少なくとも250%低い場合は、低下する(例えば、同じ試験系で試験薬剤の添加前、または同等の試験系で試験薬剤の非存在下)。
【0090】
2.AMPK依存性のリン酸化に影響を及ぼす薬剤
AMPK(例えばAMPKα1および/またはAMPKα2)依存性のPPARδ複合体のリン酸化に影響を及ぼす(例えば、亢進するまたは低減する)薬剤に関して試験薬剤をスクリーニングする方法を開示する。PPARδ複合体のAMPK依存性のリン酸化に影響を及ぼす薬剤は、上記の固相ベースまたは溶液ベースのアッセイ法の応用などさまざまなアッセイ法で同定可能であり、検出対象となるエンドポイントがPPARδ複合体の1つまたは複数の成分のリン酸化である。
【0091】
タンパク質のリン酸化を検出する方法は周知であり(例えば、Gloffke, The Scientist, 16(19):52, 2002;Screaton et al., Cell, 119:61-74, 2004を参照)、検出用のキットは、さまざまな業者から入手可能である(例えば、Upstate(Charlottesville, VA, USA)、Bio-Rad(Hercules, CA, USA)、Marligen Biosciences, Inc.(Ijamsville, MD, USA)、Calbiochem(San Diego, CA, USA)。簡単に説明すると、リン酸化されたタンパク質(例えば、PPARδ複合体の1つの成分または複数の成分のリン酸化)は、リン酸化タンパク質に特異的な染色を使用することでゲル中に検出することができる。あるいは、リン酸化タンパク質に特異的な抗体を作製するか、または市販品を入手することができる。特に、リン酸化タンパク質に特異的な抗体を、(特定の色特性を有するビーズを含む)ビーズに固定することができ、またはELISAまたはウエスタンブロットアッセイ法に使用することができる。
【0092】
1つの例では、PPARδ複合体(またはAMPKリン酸化部位を含むこの断片)、およびAMPKまたはその1つもしくは複数のサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)、またはリン酸化が可能なこの機能断片は、PPARδ複合体がAMPKによってリン酸化される条件で混合される。PPARδ複合体は、マイクロタイターウェルやビーズなどの支持体に吸着される。次に、AMPK(またはこの1つもしくは複数のサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)、またはこのリン酸化可能な断片)が、複合体が固定されている環境に添加される。リン酸ドナーも典型的には、環境中に含められる。供与されるリン酸は任意で標識可能である。上記の1つもしくは複数のライブラリー中の化合物など、1種もしくは複数種の試験化合物は、個々の微小環境に個別に添加される。AMPK依存性のリン酸化に影響を及ぼすことが可能な薬剤は、例えば、固定化されたPPARδ複合体のリン酸化を促進する(または阻害する)薬剤として同定される。標識されたリン酸ドナーを含む態様では、固定化されたPPARδ複合体のリン酸化は、反応微小環境中、例えばマイクロタイターウェル中または例えばビーズ上での標識されたリン酸の保持または結合によって判定可能である。他の態様では、このような反応は、溶液中で(すなわち固定された成分を伴わず)生じることができ、PPARδ複合体は溶液から(例えば、PPARδに特異的な抗体またはリン酸に特異的な抗体との免疫沈降によって)単離可能であり、かつ1種もしくは複数種の試験薬剤の存在下(および任意で非存在下)でそのリン酸化のレベルが、上記の通り決定される。
【0093】
特定の方法では、このような翻訳後修飾が検出可能に測定される場合、またはこのような翻訳後修飾が、対照測定値(例えば、同じ試験系で試験薬剤の添加前、または同等の試験系で試験薬剤の非存在下、または同等の試験系でAMPKの非存在下)より少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、または少なくとも250%高い場合、PPARδ複合体のリン酸化は亢進される。
【0094】
特定の方法では、このような翻訳後修飾が検出可能に低下する場合、またはこのような翻訳後修飾が対照測定値(例えば、同じ試験系で試験薬剤の添加前、または同等の試験系で試験薬剤の非存在下、または同等の試験系でAMPKの非存在下)より少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも50%、少なくとも100%、または少なくとも250%低い場合、PPARδ複合体のリン酸化は低下する。
【0095】
C.スクリーニングアッセイ法の標的
1.PPARδ
開示するスクリーニング法に有用なPPARδポリペプチドは、任意の既知のPPARδ受容体である。開示するスクリーニング法には、原型的なPPARδポリペプチドに関して記載するように(実施例6参照)、AMPK結合活性を少なくとも保持するPPARδのホモログ、機能断片、または機能的な多型も有用である。
【0096】
原型的なPPARδポリペプチドのアミノ酸配列(およびPPARδをコードする核酸配列)は周知である。例示的なPPARδのアミノ酸配列およびPPARδをコードする核酸配列は例えば、米国特許第5,861,274号および米国特許出願第20060154335号(それぞれが参照により明示的に本明細書に組み入れられる)に、ならびにGenBankアクセッション番号NP_035275(GI:33859590)(マウス(Mus musculus)のアミノ酸配列);NM_011145.3(GI:89001112)(マウスの核酸配列);NP_006229(GI:5453940)(ヒト(Homo sapiens)のアミノ酸配列);NM_006238.3(GI:89886454)(ヒトの核酸配列);NP_037273(GI:6981384)(ラット(Rattus norvegicus)のアミノ酸配列);NM_013141.1(GI:6981383)(ラットの核酸配列);NP_990059(gi45382025)(ニワトリ(Gallus gallus)のアミノ酸配列)、またはNM_204728.1(GI:45382024)(ニワトリの核酸配列)に記載されている。いくつかの方法の態様では、PPARδのホモログまたは機能バリアントは、原型的なPPARδポリペプチドと少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を共有し;例えば、米国特許第5,861,274号、米国特許出願第20060154335号、またはGenBankアクセッション番号NP_035275(GI:33859590)(マウスのアミノ酸配列);NP_006229(GI:5453940)(ヒトのアミノ酸配列);NP_037273(GI:6981384)(ラットのアミノ酸配列);もしくはNP_990059(gi45382025)(ニワトリのアミノ酸配列)に記載されたアミノ酸配列と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%のアミノ酸配列の同一性を有する。他の方法の態様では、PPARδのホモログまたは機能バリアントは、原型的なPPARδポリペプチドと比較して、1つまたは複数か所の保存的アミノ酸置換を有し;例えば、米国特許第5,861,274号、米国特許出願第20060154335号、またはGenBankアクセッション番号NP_035275(GI:33859590)(マウスのアミノ酸配列);NP_006229(GI:5453940)(ヒトのアミノ酸配列);NP_037273(GI:6981384)(ラットのアミノ酸配列);もしくはNP_990059(gi45382025)(ニワトリのアミノ酸配列)に記載されたアミノ酸配列と比較して、わずか3か所、5か所、10か所、15か所、20か所、25か所、30か所、40か所、または50か所の保存的アミノ酸変化を有する。例示的な保存的アミノ酸置換を以下の表に示す。

【0097】
いくつかの方法の態様には、PPARδの機能断片(AMPK結合断片など)が含まれ、これは、断片が関心対象のPPARδの機能(例えばAMPKとの結合)を保持するという条件で、完全長の既知のPPARδポリペプチドの例えば約20残基、約30残基、約40残基、約50残基、約75残基、約100残基、約150残基、または約200残基の連続アミノ酸残基を含む、完全長の既知のPPARδポリペプチドの任意の一部分であり得る。PPARδは、既知の機能モチーフ(リガンド結合ドメイン、DNA結合ドメイン、およびトランス活性化ドメインなど)を含む。
【0098】
2.AMPK
哺乳類のAMP活性化キナーゼ(AMPK)は、1つのアルファサブユニット、1つのベータサブユニット、および1つのガンマサブユニットを含むヘテロ三量体タンパク質である。少なくとも、アルファサブユニットについて2種類の既知のイソ型(α1およびα2)が存在する。AMPKα1とAMPKα2は、それらの触媒コアに関して90%のアミノ酸配列同一性を有するが、C末端の尾部に関しては61%の同一性しか有さない(ncbi.nlm.nih.gov/entrez/dispomim.cgi?id=602739のウェブサイトで閲覧可能な、Online Mendelian Inheritance in Man(OMIM) Database Accession No. 602739を参照)。
【0099】
開示するスクリーニング法に有用なAMPK(AMPKα1および/またはAMPKα2など)のポリペプチドは、任意の既知のAMPKタンパク質またはこのサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)である。開示するスクリーニング法では、本明細書に記載した少なくともPPARδ結合活性を保持する、AMPKタンパク質またはこのサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)のホモログ、機能断片、または機能バリアントも有用である(実施例6参照)。
【0100】
原型的なAMPKサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)のアミノ酸配列(ならびに原型的なAMPKサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)をコードする核酸配列)は周知である。例示的なAMPKα1のアミノ酸配列および対応する核酸配列は例えば、GenBankアクセッション番号NM_206907.3(GI:94557298)(アミノ酸および核酸の配列を含む、ヒトの転写物バリアント2 REFSEQ);NM_006251.5(GI:94557300)(アミノ酸および核酸の配列を含む、ヒトの転写物バリアント1 REFSEQ);NM_001013367.3(GI:94681060)(アミノ酸および核酸の配列を含む、マウスのREFSEQ);NM_001039603.1(GI:88853844)(アミノ酸および核酸の配列を含む、ニワトリのREFSEQ );ならびにNM_019142.1(GI:11862979)(アミノ酸および核酸の配列を含む、ラットのREFSEQ)に記載されている。例示的なAMPKα2のアミノ酸配列および対応する核酸配列は例えば、GenBankアクセッション番号NM_006252.2(GI:46877067)(アミノ酸および核酸の配列を含む、ヒトのREFSEQ);NM_178143.1(GI:54792085)(アミノ酸および核酸の配列を含む、マウスのREFSEQ);NM_001039605.1(GI:88853850)(アミノ酸および核酸の配列を含む、ニワトリのREFSEQ);ならびにNM_214266.1(GI:47523597)(アミノ酸および核酸の配列を含む、ブタ(Sus scrofa)のREFSEQ)に記載されている。
【0101】
いくつかの方法の態様では、AMPKのサブユニットのホモログまたは機能バリアントは、原型的なAMPKα1および/またはAMPKα2のポリペプチドと少なくとも60%のアミノ酸配列同一性を共有し;例えば、GenBankアクセッション番号NM_206907.3;NM_006251.5;NM_001013367.3;NM_001039603.1;NM_019142.1;NM_006252.2;NM_178143.1;NM_001039605.1;またはNM_214266.1に記載されたアミノ酸配列と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも98%のアミノ酸配列同一性を共有する。他の方法の態様では、AMPKのサブユニットのホモログまたは機能バリアントは、原型的なAMPKα1および/またはAMPKα2のポリペプチドと比較して、1つまたは複数か所の保存的アミノ酸置換を有し;例えば、GenBankアクセッション番号NM_206907.3;NM_006251.5;NM_001013367.3;NM_001039603.1;NM_019142.1;NM_006252.2;NM_178143.1;NM_001039605.1;またはNM_214266.1に記載されたアミノ酸配列と比較して、わずか3か所、5か所、10か所、15か所、20か所、25か所、30か所、40か所、または50か所の保存的アミノ酸変化を有する。例示的な保存的アミノ酸置換については、本明細書で既に説明した。
【0102】
いくつかの方法の態様には、PPARδ結合断片またはPPARδリン酸化活性を有する断片を含む、AMPKまたはこのサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)の機能断片が含まれる。AMPKまたはこのサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)の機能断片は、その断片が少なくとも1つのAMPK(またはAMPKα1および/もしくはAMPKα2)の関心対象の機能(例えばPPARδの結合活性および/またはPPARδのリン酸化活性)を保持するという条件で、完全長すなわち完全なAMPKポリペプチド複合体またはこのサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)の任意の一部分(例えばこの約20残基、約30残基、約40残基、約50残基、約75残基、約100残基、約150残基、もしくは約200残基の連続アミノ酸残基を含む)の場合がある。PPARδとAMPKの間のタンパク質間相互作用には、少なくともAMPKαのサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)が関与すると考えられている。さらに、PPARδはAMPKα1とAMPKα2の両方に特異的に結合するので(実施例6参照)、このような相互作用には、最大の配列相同性(上述)を共有するこれらのAMPKαのイソ型の一部分が関与する可能性が高い。したがって、いくつかの方法の態様では、AMPKのPPARδ結合断片は、AMPKのアルファサブユニット(AMPKα1および/またはAMPKα2など)の触媒コアドメインを含む(またはこれらからなる)機能断片を含む。
【0103】
実施例
以下の実施例は、ある特定の特徴および/または態様を説明するために提供する。これらの実施例は、本発明を、記載した特定の特徴または態様に制限するものと解釈されるべきではない。
【0104】
実施例1
PPARδアゴニストの投与は驚くべきことに非運動被験体の身体能力を高めない
Wangらは過去に、構成的活性型のPPARδ受容体の骨格筋特異的な発現が、遅延酸化型(I型)の筋繊維が増え、およびランニング持久力が顕著に高められた骨格筋を有するトランスジェニックマウスを生じることを証明している(Wang et al., PLoS Biol., 2:e294, 2004)。この実施例では、非トランスジェニックマウスへのPPARδアゴニスト(GW1516)の投与が、酸化的代謝のいくつかのバイオマーカーの骨格筋における発現も生じることを示す。しかしながら、意外にも、PPARδ経路の遺伝的活性化によって得られた結果とは対照的に、薬剤投与によるPPARδの活性化は、非トランスジェニックの、安静(「非運動」または「非トレーニング」とも表現される)マウスにおいて、骨格筋の繊維タイプ組成を修飾せず、ランニング持久力も改善しなかった。
【0105】
雄のC57B/6Jマウス(8週齢)をジャクソン・ラボラトリー(Jackson Laboratory)から入手し、ソーク研究所(Salk Institute)の動物管理施設で飼育した。動物は、実験に先だつ1週間、周囲環境に馴化させ、標準マウス用飼料および水をいつでも自由に摂取可能とした。
【0106】
マウスは、1日おきに1週間の中程度のトレッドミルによるランニング(10 m/分を15分間)に馴化させた。馴化後に、各マウスをトレッドミル上に乗せ、速度を0から15 m/分に徐々に高めてゆき、マウスが疲労するまで15 m/分に維持することで、基礎ランニング持久力を決定した。疲労までの走行時間および走行距離を、基礎持久力値(第0週)として記録した。
【0107】
次にマウスに、溶媒またはPPARδアゴニストであるGW1516(5 mg/kg)を1回/日、4週間にわたって投与した。投与は経口投与とした。投与期間中はマウスを標準的な実験用ケージ内で飼育し、このようなケージによる正常な運動によってなされるわずかな量の身体活動を行わせた。
【0108】
動物は、最終投与の72時間後に、二酸化炭素による窒息によって安楽死させた。腓腹筋および四頭筋を単離し、凍結して-80℃で保存し、後の解析に使用することとした。四頭筋から全RNAを、TRIZOL(商標)試薬(Invitrogen, Calsbad, CA, USA)を使用して製造業者の指示書に従って調製した。リアルタイム定量PCR(QPCR)で、当業者に既知のプライマーを使用して、脱共役タンパク質3(UCP3)、筋カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼI(mCPT I)、およびピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼ4(PDK4)の発現レベルを決定した。
【0109】
図1Aに示したように、4週間にわたるGW1516投与は、投与マウスの四頭筋に、UCP3、mCPT I、およびPDK4の発現を誘導した(VとGWを比較)。遺伝子発現に見られるこのような変化は、早くも投与の4日後に、2〜5 mg/kg/日の範囲の薬剤濃度で検出された。さらに、遺伝子発現試験では、PPARδの活性化の最大効果は、主に速筋(四頭筋および腓腹筋)では検出されたが、遅筋(ヒラメ筋)では検出されなかった。
【0110】
野生型マウスおよびPPARδヌルマウスから培養された初代筋細胞(Chawla et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. 100(3): 1268-73, 2003;Man et al., J. Invest. Dermatol. 2007;Rando and Blau, J. Cell. Biol. 125(6): 1275-87, 1994)を使用することで、GW1516による酸化遺伝子の誘導に、骨格筋におけるPPARδの活性化が関与することが確認された(図1B〜D)。これはさらに、構成的活性型のVP16-PPARδ導入遺伝子を発現するマウスの筋中の同じ遺伝子セットに見られる発現の変化と似ている(Wang et al., PLoS Biol., 2:e294, 2004)(図1A、TGを参照)。総合すると、これらの結果から、薬剤によるPPARδの活性化が、成体の骨格筋における酸化応答を開始可能であることがわかる。
【0111】
骨格筋における酸化型表現型に特徴的なバイオマーカーの発現は、典型的には、このような骨格筋の酸化能の上昇(例えばランニング持久力の上昇)と相関していた。この相関は例えば、VP16-PPARδトランスジェニックマウスにおいて観察されている(Wang et al., PLoS Biol., 2:e294, 2004)。この理由および他の理由から、GW1516の投与は同様にランニング能力を高めることが予想された。したがって、リガンドの機能的効果を判定するために、投与マウスおよび対照マウスの年齢および体重をマッチさせたコホートを被験体に、持久力トレッドミル能力試験を、投与前(第0週)および投与後(第5週)に実施した。
【0112】
4週間の投与、および追加的な運動なしの標準実験用ケージ内における飼育後に、GW1516投与マウスおよび対照マウスのランニング持久力を上記手順で再び見極めた。注目すべきことに、また改善の予想にかかわらず、GW1516投与マウスでは、トレッドミル走行で疲労するまでの時間または距離のいずれに関しても対照と有意に変わらなかった(図1E)。さらに、最長5か月に及ぶ長期の薬剤投与も、ランニング持久力を変化させなかった。
【0113】
これらの結果から、非トレーニング成体の筋肉における薬剤によるPPARδの活性化は、ある程度の転写変化を誘導するが、繊維タイプ組成も持久力も変化させないことがわかる。要約すると、成体C57B1/6Jマウスにおける、PPARδ遺伝プログラムの薬剤による活性化は、トレッドミル持久力の測定可能な強化を促進するのに十分ではない。
【0114】
実施例2
PPARδアゴニストの投与は運動トレーニング被験体の骨格筋をリモデリングする
骨格筋における繊維タイプの割合は、遺伝因子、および身体活動レベルなどの環境因子によって決定されると考えられている(Simoneau and Bouchard, FASEB J., 9(11):1091-1095, 1995;Larsson and Ansved, Muscle Nerve, 8(8):714-722, 1985)。持久運動トレーニングは、I型の遅筋繊維、酸化酵素、およびミトコンドリア密度を高めることで骨格筋をリモデリングし、能力を徐々に変化させてゆくことが知られている(Holloszy et al., J. Appl. Physiol. 56:831-8, 1984;Booth et al., Physiol Rev. 71:541-85, 1991;Schmitt et al., Physiol. Genomics. 15:148-57, 2003;Yoshioka et al., FASEB J. 17:1812-9, 2003;Mahoney et al., Phys. Med. Rehabil. Clin. N. Am. 16:859-73, 2005;Mahoney et al., FASEB J. 19:1498-500, 2005;Siu et al., J. Appl. Physiol. 97:277-85, 2004;Garnier et al., FASEB J. 19:43-52, 2005;Short et al., J Appl Physiol. 99:95-102, 2005;Timmons et al., FASEB J. 19: 750-60, 2005)。この実施例では、PPARδアゴニストの投与が骨格筋に分子レベルで影響を及ぼすことについて説明する。
【0115】
持久運動の状況におけるGW1516の同時投与が、繊維タイプ組成およびミトコンドリア発生の変化を高めることが可能か否かを判定するために、筋繊維タイプ組成に対するGW1516投与の効果を、腓腹筋の凍結切片を、Wangら(PLoS Biol., 2:e294, 2004)に記載された手順でメタクロマティック(meta-chromatic)染色することで判定した。常用の筋原繊維ATPase反応後にメタクロマティック染色を用いて、さまざまな骨格筋の繊維タイプにおけるリン酸沈着の量的な差を実証し、かつそれによって骨格筋の繊維タイプを区別する(Doriguzzi et al., Histochem., 79(3):289-294, 1983;Ogilvie and Feeback, Stain Technol., 65(5):231-241, 1990)。このアッセイ法では、ATPase活性が高い筋繊維(例えばI型(遅延酸化型)筋繊維)は濃く染色される。
【0116】
図2Aに示すように、溶媒投与マウスとGW1516が投与された安静マウスの腓腹筋におけるI型(遅延酸化型)筋繊維の割合に有意差はなかった。これとは対照的に、VP16-PPARδトランスジェニックマウスの後肢の筋には、単色染色によるアッセイ法で、I型筋繊維の数の増加が認められた。トレーニングマウスでは、GW1516は、溶媒が投与された安静マウスと比較してI型繊維の割合を(約38%)高めた(図2Aおよび図2B)。したがって、安静被験体へのPPARδアゴニスト(例えばGW1516)のみの投与は、後肢筋のI型(遅筋、酸化型)筋繊維の数に有意に影響を及ぼさないが、トレーニング被験体の後肢筋におけるI型筋繊維の数を増やすことは可能である。
【0117】
運動トレーニングは、繊維のタイプに対する効果に加えて、定量リアルタイムPCR(QPCR)によってミトコンドリアDNAの発現レベルの関数として測定可能な、骨格筋のミトコンドリア発生を高めた。ミトコンドリアDNAの発現レベルを、V、GW、Tr、およびGW+Trの被験体の筋肉を被験体に、定量リアルタイムPCRによって決定した。図2Cに示すように、I型繊維の変化と同様に、ミトコンドリアDNAの発現は、薬剤単独の場合は変化しなかったが、運動とGW1516投与を組み合わせると約50%上昇した(図2C)。このような上昇は、持久能の強化に寄与することが知られている(例えば、Holloszy, Med. Sci. Sports 7:155-64, 1975)。
【0118】
遅筋繊維および速筋繊維は、ミオシンのイソ型の発現によっても区別できる(Gauthier and Lowey, J. Cell Biol. 81:10-25, 1979;Fitzsimons and Hoh, Biochem. J. 193:229-33, 1981)。骨格筋におけるミオシンイソ型の発現は、筋肉の動態、筋の神経支配、または運動パラダイムの変化などのさまざまな条件に適応する(総説として例えば、Baldwin and Haddad, J. Appl. Physiol., 90(1):345-57, 2001;Baldwin and Haddad, Am. J. Phys. Med. Rehabil., 81(11 Suppl):S40-51, 2002;Parry, Exerc. Sport Sci. Rev., 29(4):175-179, 2001を参照)。ミオシン重鎖(MHC)の発現(MHC I、MHC IIa、MHC IIb)に対するGW1516の投与の効果は、当業者に既知の方法で判定した。
【0119】
安静マウスへのGW1516の投与は、溶媒が投与された対照マウスと比較して、MHC I(遅筋、酸化型筋繊維のマーカー)の発現を高め、MHC IIb(速筋、解糖型筋繊維のマーカー)の発現を低下させた。相対的に、GW1516の投与は、安静マウスにおけるMHC IIa(速筋酸化型/解糖型筋繊維のマーカー)の発現を変化させなかった。したがって、少なくとも転写レベルでは、PPARδアゴニストは、遅筋繊維表現型に特徴的な一部のタンパク質を誘導可能であった。
【0120】
要約すると、VP16-PPARδトランスジェニックマウスの骨格筋における構成的活性型のPPARδの発現は、「筋繊維タイプの切り替えの3つの指標である、酸化酵素、ミトコンドリア発生、および特殊なI型繊維収縮タンパク質の産生の大きくかつ協調的な上昇」を伴う「長距離ランニング表現型(long-distance running phenotype)」を生じた(Wang et al., PLoS Biol., 2:e294, 2004)。これとは対照的に、正常被験体における薬剤によるPPARδの活性化は、いくつかの代謝遺伝子を調節することによって、VP16-PPARδの転換を部分的にしか再現しなかった。注目すべきことに、安静被験体にPPARδアゴニストを投与しても、(単色染色によって測定される)繊維タイプの特異化に変化を生じないか、または運動持久力を高めなかった。出生時における活性型PPARδの導入遺伝子の過剰発現は、新生筋繊維をプレプログラムして、遅筋繊維へとトランス分化させることにより、成体トランスジェニックマウスに高い基礎持久力を付与する。これとは対照的に、繊維タイプの特異化は、成体のPPARδアゴニスト曝露の前に完了しているので、薬剤投与のみに対する筋の潜在的な可塑性は実質的に存在しない。
【0121】
この実施例では、成体の安静被験体の骨格筋におけるPPARδ調節プログラムの遺伝子または薬剤による活性化が、同じアウトカムを有さないことを説明する。トランスジェニックマウスにおけるPPARδ受容体の活性化によって、運動の非存在下で初期発生から骨格筋の特異化を遺伝的に操作する能力は、安静正常成体においてPPARδプログラムを薬学的に活性化する結果の予測因子とは必ずしもならない。骨格筋に対するPPARδの効果に関する細胞の「テンプレート」は、正常被験体と遺伝的に改変されたトランスジェニック被験体とでは大きく異なる。例えば正常成体では、個々の筋群の筋繊維の特異化は既に決定されており、筋繊維と脊髄の運動ニューロン間の連結は、PPARδによって調節されるプログラムの薬剤による活性化に先だって確立している。トランスジェニックマウスでは、構成的活性型のPPARδ導入遺伝子は、筋繊維の特異化の決定中に、および筋繊維と運動ニューロンの結合が進行中の間中、活性である。加えて、一過的なピーク曝露と、これに続くクリアランスを有すると推定される、PPARδアゴニストの1日1回の投与による内因性PPARδ受容体の活性化の効果は、VP16-PPARδ導入遺伝子の構成的活性化の効果とは大きく異なる可能性が高い。
【0122】
実施例3
PPARδアゴニストの投与と運動トレーニングの組み合わせは脂肪酸代謝と脂肪酸酸化のマーカーとに有意に影響を及ぼした
運動トレーニングは、骨格筋の収縮装置に影響を及ぼすことに加えて、骨格筋のミトコンドリア密度も高める(例えば、Freyssenet et al., Arch. Physiol. Biochem., 104(2):129-141, 1996)。この実施例では、運動トレーニング被験体へのPPARδアゴニスト(例えばGW1516)の投与が、運動筋の脂肪酸代謝に影響を及ぼしたことを説明する。
【0123】
脂肪酸の酸化的代謝の成分に対する、GW1516投与のみおよび運動のみの場合の効果、または組み合わせの効果を、脂肪酸のβ酸化(FAO)に関する選択的なバイオマーカーの遺伝子発現レベルを測定することで決定した。雄のC57B/6Jマウス(8〜10週齢)を以下の4群に無作為に分けた(各群9匹):(i)溶媒が投与される安静マウス(V)、(ii)GW1516が投与される安静マウス(GW)、(iii)溶媒が投与される、運動トレーニングを行わせるマウス(Tr)、および(iv)GW1516が投与される、運動トレーニングを行わせるマウス(GW+Tr)。全群のマウスを中程度のトレッドミルによるランニングに馴化させ、基礎ランニング持久力を実施例1に記載した手順で決定した。続いて、運動トレーニング群のマウスについては、5°の傾斜のトレッドミルによる4週間(5日/週)にわたる運動トレーニングを行った。トレーニングの強度および時間を徐々に高めた。4週間の終わりに、全ての運動トレーニングマウスを、18 m/分で1日に50分間、走らせた。溶媒またはGW1516は、実施例1に記載した手順で、個々の運動実施群、または安静群に投与された。特に明記しない限りにおいて、この実施例および以下の実施例に記載する、V、GW、Tr、およびGW+Trの被験体は同様に処理した。薬剤投与および/またはトレーニングプロトコルの終了時に(第5週)、各群6匹のマウスを被験体にランニング試験を実施した。これらの介入は、マウスの体重および摂食に影響を及ぼさない。リアルタイム定量PCR用のRNAは、実施例1に記載した手順で調製した。
【0124】
UCP3、mCPT I、およびPDK4はGW1516によってアップレギュレートされるが、運動によるさらなる誘導は見られないという実施例1で得られた結果が確認された(図1Aおよび図3Aを参照)。意外なことに、第2の遺伝子群は、運動またはGW1516のみに対する反応を示さないが、組み合わせると確実に誘導されることが判明した。この興味深い反応プロファイルは、[ステアロイルCoA-デサチュラーゼ(SCD1)、脂肪酸アシル補酵素A合成酵素(FAS)、および血清反応エレメント結合タンパク質1c(SREBP1c)などの]脂肪酸の貯蔵、ならびに[脂肪酸輸送体(FAT/CD36)やリポタンパク質リパーゼ(LPL)などの]脂肪酸の取り込みの調節に関与する一連の遺伝子を含み、これらの遺伝子は、運動マウスおよび薬剤投与マウスに対する新たな一群の標的となる(図3B、図3C、および図6A〜C)。
【0125】
遺伝子発現に加えて、タンパク質の発現を、ミオグロビン、UCP3、シトクロムc(CYCS)、およびSCD1を含む、選択的な酸化バイオマーカーに関してウエスタンブロッティングで決定した。タンパク質ホモジネートを四頭筋から調製し、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離し、ブロッティング用膜にトランスファーし、ミオグロビンに特異的な抗体(Dako)、UCP3に特異的な抗体(Affinity Bioreagents)、シトクロムcに特異的な抗体(Santacruz)、SCD1に特異的な抗体(Santacruz)、およびローディング対照としてチューブリンに特異的な抗体(Sigma)でプローブ処理した。ミオグロビン、UCP3、シトクロムc、およびSCD1のタンパク質の発現の強いアップレギュレーションは、PPARδアゴニストの投与または運動が単独の場合と比較して、運動とGW1516投与の併用時に認められた(図3D)。
【0126】
トリグリセリドの変化は、筋肉の酸化能の変化の評価に使用することができる。筋トリグリセリド(mTG)量は、文献(Wang et al., PLoS Biol., 2:e294, 2004)に記載した手順で、Thermo Electron Corporation製のキットを使用して測定した。図4に示すように、mTG量は、溶媒投与マウスとGW1516が投与された安静マウスの間では同等であり、運動トレーニングのみを受けたマウスの筋では実質的に上昇した。これとは対照的に、運動筋におけるトリグリセリドの劇的な増加は、GW1516が投与された運動トレーニングマウスでは完全に逆転したことから、脂肪利用率が上昇したことがわかる(図4)。
【0127】
運動と薬剤投与(例えばPPARδアゴニストの投与)の組み合わせによっては誘導されるが、いずれかの入力単独時には遺伝子および/またはタンパク質の発現が誘導されないことは、新たな発見であると考えられる。このタイプの反応は、薬剤と生理学的な遺伝子ネットワークの交差をさらに解析するために使用することができる。例えば、1種もしくは複数種の薬剤(例えばPPARδアゴニスト)および運動によって特徴的に調節される1種もしくは複数種の遺伝子および/またはタンパク質は、例えば、プロおよび/またはアマチュアの運動選手の能力を違法に高めることのマーカーとして使用することができる。
【0128】
実施例4
PPARδアゴニストの投与は運動トレーニング被験体の身体能力を高める
実施例1に記載したように、GW1516の投与は、酸化的代謝と関連した広範囲に及ぶゲノム変化を誘導するが、単独時にはランニング持久力を高めることはできなかった。この知見は、(VP16-PPARδトランスジェニックマウスにおける)PPARδ遺伝子ネットワークの構成的な活性化が、長距離ランニング表現型(一般には「マラソンマウス」)に至ることが知られていることから意外であった。他方、実施例3に驚くべきことに示されているように、運動と組み合わせたPPARδアゴニスト(例えばGW1516)の投与は、骨格筋における一連の転写および翻訳後の適応を含む、強いリモデリングプログラムを生じた。これは、運動トレーニングが、PPARδ標的遺伝子群の遮蔽を解除する引き金となり得ることを意味する。この実施例では、PPARδアゴニスト(例えばGW1516)の投与が、驚くべきことに運動(トレーニング)被験体の身体能力を改善することを判定する際に使用される方法を提供する。
【0129】
雄のC57B/6Jマウス(8〜10週齢)を、(i)溶媒が投与される安静マウス(V)、(ii)GW1516が投与される安静マウス(GW)、(iii)溶媒が投与される運動トレーニングマウス(Tr)、ならびに(iv)GW1516が投与される運動トレーニングマウス(GW+Tr)の4群(各群9匹)に無作為に分け、実施例1に記載した中程度のトレッドミルによるランニングに馴化させ、実施例3に記載した運動トレーニングを実施した。薬剤投与および/またはトレーニングプロトコルの終了時に(第5週)、各群6匹のマウスを対象にランニング試験を実施した。
【0130】
薬剤投与および/またはトレーニングプロトコルの終了時に(第5週)、各群6匹のマウスのランニング持久力を、基礎ランニング持久力の場合と同じ様式で判定した。各群3匹のマウスについては、フォローアップの持久力試験を実施しないことで、骨格筋に観察された変化は実際のランニングに起因しないが、運動トレーニングとは関連することが確認された。
【0131】
図5Aおよび図5Bに示すように、安静マウスのランニング持久力を変化させなかったGW1516投与の同じ用量および期間は、4週間の運動トレーニングも行わせると、溶媒が投与されたトレーニングマウスよりランニング時間を68%、またランニング距離を70%高めた(図5Aおよび図5B、第5週を比較)。運動および薬剤投与の前(第0週)および運動後(第5週)におけるランニング時間およびランニング距離の比較から、各マウスの持久力に100%の増分が判明し、組み合わせパラダイムの頑健性が裏づけられた(図5Aおよび図5B)。これとは対照的に、GW1516の同時投与のない同じ運動プロトコルは、C57B1/6Jマウスのランニング持久力を有意に高めなかった。
【0132】
白色脂肪組織のパラフィン切片のヘマトキシリン・エオシン(H&E)染色を、文献(Wang et al., PLoS Biol., 2:e294, 2004;Wang et al., Cell, 113:159-70, 2003)に記載された手順で実施した。図5Cに示すように、GW1516の投与を運動と組み合わせると、体重に対する精巣上体脂肪の比が有意に(32%)低下した。これは、同群における脂肪細胞の断面積の縮小においてさらに明らかであった(図5D)。したがって、GW1516と運動の複合効果は筋肉に限定されない。
【0133】
実施例2に記載した方法で、GW1516の投与と運動トレーニングの組み合わせが、運動筋におけるI型筋繊維の数を有意に増やしたことも明らかとなった。しかしながら、GW1516の投与と運動の組み合わせは、MHC IおよびMHC IIbの発現の追加的な変化を誘導しなかった。したがって、PPARδアゴニスト(GW1516)の経口投与のみによって、PPARδの調節を受ける遺伝子ネットワークにおける収縮タンパク質の少なくとも一部の発現を誘導可能であるが(実施例5参照)、観察された転写作用は、GW1516が投与された運動マウスでメタクロマティック染色で観察されたように、繊維タイプ組成に関する転写後の変化を誘導するのに十分ではなかった。
【0134】
この実施例では、PPARδアゴニスト(例えばGW1516)の投与が、運動被験体の有酸素運動能力(例えばランニングの距離および持久力)を予想外に高めることを説明する。持久運動は、酸化要求量(oxidative demand)の上昇に見合った脂肪組織の脂肪分解を誘導することによって、筋肉外脂肪を筋トリグリセリドの貯蔵へと導くことが知られている(Despres et al., Metabolism, 33:235-9, 1984;Mauriege et al., Am. J. Physiol., 273:E497-506, 1997;Mader et al., Int. J. Sports Med., 22:344-9, 2001;Schmitt et al., Physiol. Genomics, 15:148-57, 2003;Schrauwen-Hinderling et al., J. Clin. Endocrinol. Metab., 88:1610-6, 2003)。加えて、実施例3に記載した、GW1516が投与された運動マウスにおけるFAO成分の誘導、ならびに脂肪酸の貯蔵および取り込みの成分の選択的なアップレギュレーションは、骨格筋における燃料としての脂肪の動員の促進を意味する。したがって、運動とGW1516の投与の組み合わせは、被験体の筋肉の酸化能を、例えば局所的な脂肪酸合成を高めることで、および/または脂肪酸貯蔵を脂肪組織から動員することで劇的に高める。
【0135】
これは、経口活性性のPPARδアゴニストと運動が、筋ゲノムを協調的に再プログラムして、持久力の限界を高めることがどのように可能かを示す最初の証明である。
【0136】
実施例5
PPARδアゴニストの投与と運動トレーニングの組み合わせは運動筋において固有の遺伝子発現特性を生じた
Vマウス、GWマウス、Trマウス、およびTr+GWマウスの骨格筋の転写プログラムに関する包括的試験をマイクロアレイ解析で実施した。Affymetrix(商標)高密度オリゴヌクレオチドアレイマウスゲノム430A 2.0チップを使用した。インビトロ転写産物の調製、オリゴヌクレオチドアレイハイブリダイゼーション、および走査を、Affymetrix(商標)提供によるプロトコルに従って実施した。変数に起因する不一致を最小化するために、生発現データを、Affymetrix(商標) MICROARRAY SUITE(商標) 5.0ソフトウェアを使用してスケーリングし、ペアワイズ比較を実施した。グローバルスケーリングを目的として、全プローブセットのトリム平均シグナルを、ユーザーが特定した各アレイに対する標的シグナル値(200)に対して調節した。特定の除外基準は適用しなかった。追加の解析を、フリーウェアプログラムBULLFROG 7(インターネットBarlow-LockhartBrainMapNIMHGrant.orgから入手可)、およびJavaベースの統計ツールVAMPIRE(Hsiao et al., Bioinformatics, 20:3108-3127, 2004)を使用して実施した。
【0137】
四頭筋を対象としたゲノムワイドな解析から、GW1516の投与、運動、およびこれらの組み合わせがそれぞれ、96個、113個、および130個の遺伝子を調節することが判明した(図6)。GW1516または運動のみによって調節される標的遺伝子の約50%は同じであったことから、遺伝子ネットワークのPPARδによる活性化は部分的に、同ネットワークに対する運動の効果に似ていることがわかる。
【0138】
GW1516の投与と運動トレーニングの組み合わせによって調節された130個の遺伝子、およびこのような各遺伝子の分類を表1に示す。130個の調節遺伝子は、30個の脂肪代謝遺伝子、5個の酸素担体、5個のミトコンドリア遺伝子、3個の炭水化物代謝遺伝子、15個のシグナル伝達遺伝子、16個の転写遺伝子、10個の輸送遺伝子、3個のステロイド生合成遺伝子、5個の熱ショック遺伝子、2個の血管形成遺伝子、5個の増殖およびアポトーシス遺伝子、2個のサイトカイン、ならびに29個の他の遺伝子を含む。表1に示す、運動トレーニング/GW1516投与(GW+Tr)時の遺伝子特性を示す遺伝子の大半が誘導された(109/130)。アップレギュレートされた109個の遺伝子を、表1で非太字フォントで示す(最終カラムは、>1)。ダウンレギュレートされた遺伝子は、表1で太い斜体字で示す(最終カラムは、<1)。
【0139】
(表1)GW1516の投与および運動トレーニングによって調節される遺伝子




データは、各群N=3の試料の平均である(p<0.05)。
【0140】
驚くべきことに、GW1516の投与と運動の組み合わせは、2つの介入の融合でも完全な重複でもない固有の遺伝子発現パターンを示した(図6)。この固有の特性は、GW1516および運動のみによって調節されない48個の新しい標的遺伝子(表2)を含み、ならびにGW1516または運動のみによって調節される74個の遺伝子を含まない(一部を表3に示す)。GW1516の投与と運動の組み合わせに関するこの特性(表2)は、持久力の適応(endurance adaptation)に関与する過程である、エネルギーホメオスタシス、血管形成、酸素運搬、シグナル伝達、転写、および基質輸送に関する調節酵素をコードする遺伝子に高度に濃縮されていた。特に、酸化的代謝に関与する遺伝子の大半は、運動と薬剤投与の組み合わせによって選択的にアップレギュレートされる(表1および表2における非太字の遺伝子を参照)。加えて、熱ショックタンパク質、メタロチオネイン、および他のストレスバイオマーカー(表3)を含む、いずれかの介入によって活性化される複数のストレス関連遺伝子は、運動ベースの損傷の潜在的な緩和をおそらく反映して、組み合わせによって変化しない。
【0141】
(表2)GW1516投与と運動トレーニングの組み合わせに固有の遺伝子標的


ダウンレギュレートされる遺伝子を太字の斜体字で示す(N=3、各3匹のマウスからプール、p<0.05)。
【0142】
(表3)GW1516投与または運動トレーニングのみによって調節される遺伝子標的

データは、各群N=3の試料の平均である(p<0.05)。
【0143】
GW+Trによって調節される遺伝子の32%は、脂肪酸の生合成/貯蔵(例えば、FAS、SCD 1および2)、取り込み[例えば、FAT/CD36、脂肪酸結合タンパク質(FABP)およびLPL]、ならびに酸化[例えば、アディポネクチン、ホルモン感受性リパーゼ(HSL)、PDK4、UCP3];ならびに炭水化物代謝[例えば、フルクトースビスリン酸2(FBP2)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1(PEPCK1)、乳酸デヒドロゲナーゼB](Ikeda et al., Biochem. Biophys. Res. Commun. 296:395-400, 2002;Achten and Jeukendrup, Nutrition. 20:716-27, 2004;Hittel et al., J. Appl. Physiol. 98: 168-79, 2005;Civitarese et al., Cell Metab. 4:75-87, 2006;Nadeau et al., FASEB J. 17:1812-9, 2006;Kiens, Physiol. Rev. 86:205-43, 2006;Yamauchi et al., Nat. Med. 8:1288-95, 2006)などの代謝経路の酵素をコードし、これは酸素輸送体およびミトコンドリアタンパク質とともに筋能力に直接関連する最大のクラスの遺伝子を形成する。予想に反して、確立されたPPARαの標的遺伝子である脂肪酸アシル-CoAオキシダーゼおよび中鎖アシル-CoAデヒドロゲナーゼ(MCAD)は、この特性中に示されていなかった。これらの代謝関連遺伝子の4つ以外が誘導されたことから、GW1516が投与された運動トレーニング被験体の骨格筋の酸化能が全般的に上昇することがわかる。
【0144】
運動とGW1516の投与の組み合わせによって四頭筋で調節される他の遺伝子は、血管形成(例えば、既知の脂質代謝調節因子でもあるアンジオポイエチン様4タンパク質)(例えば、アドレナリン受容体β3、インスリン様成長因子、インスリン様成長因子結合タンパク質5)、転写(例えば、C/EBP α、Reverb β、NURR1)、および基質輸送(例えば、トランスフェリン、クロライドチャネル5)などの経路に関与するタンパク質をコードしていた(Nagase et al., J. Clin. Invest. 97:2898-904, 1996;Singleton and Feldman, Neurobiol. Dis. 8:541-54, 2001;Adams, J. Appl. Physiol. 93:1159-67, 2002;Centrella et al., Gene. 342: 13-24, 2004;Lundby et al., Eur. J. Appl. Physiol. 96: 363-9, 2005;Mahoney et al., FASEB J. 19:1498-500, 2005;Mahoney et al., Phys. Med. Rehabil. Clin. N. Am. 16: 859-73, 2005;Ramakrishnan et al., J. Biol. Chem. 280:8651-9, 2005)。特定の理論に拘束されることなく、このような他の遺伝子は、GW1516が投与された運動トレーニング被験体に観察される筋リモデリングおよび持久力の上昇に少なくとも部分的に関与する可能性が高い。
【0145】
興味深いことに、いずれかの介入単独ではない、持久力特性の48個の遺伝子サブセットの比較発現解析(表2)から、「トレーニングを行っていない」VP16-PPARδトランスジェニックマウスに対する顕著な類似性が判明した。この観察から、48個の遺伝子が主にPPARδに依存することが確認され、また運動によって生じるシグナルがPPARδの転写活性を、導入遺伝子の過剰発現と同等のレベルに相乗作用するように機能する可能性があることがわかる。したがって、PPARδアゴニストを伴う運動の手がかりは、受容体の転写活性を過剰に活性化して成体の筋肉を再プログラムするように機能する可能性がある。
【0146】
1種もしくは複数種の薬物(例えばPPARδアゴニスト)の存在下で、運動によって固有の影響を受ける(例えばアップレギュレートされるか、もしくはダウンレギュレートされるか、または実質的に調節されない)遺伝子および/またはタンパク質は例えば、運動トレーニング被験体(例えば運動選手)における「薬物ドーピング(drug doping)」のマーカーとして使用することができる。GW1516の投与または運動トレーニング単独時ではなく、GW+Trによる調節を受ける固有の一群の48個の遺伝子を、さまざまな能力向上薬が投与された運動被験体の同定に使用することができることが期待される。
【0147】
実施例6
PPARδは運動によって活性化されるキナーゼであるp44/42 MAPKおよびAMPKと直接相互作用する
運動トレーニングは、骨格筋における遺伝子発現を調節するp44/42 MAPKやAMPKなどのキナーゼを活性化することが知られている(Chen et al., Diabetes, 52:2205-12, 2003;Goodyear et al., Am. J. Physiol., 271:E403-8, 1996)。AMPKは、骨格筋における遺伝子発現および酸化的代謝に影響を及ぼす(Chen et al., Diabetes. 52: 2205-12, 2003, Reznick et al., J. Physiol. 574: 33-9, 2006)。この実施例では、運動調節型のキナーゼとPPARδシグナル伝達間の相互作用について説明する。
【0148】
四頭筋のタンパク質ホモジネート中のホスホp44/42 MAPKおよびホスホAMPKαサブユニット、ならびに全AMPKのレベルをウエスタンブロットによって決定した。ホスホp44/42 MAPKに特異的な抗体であるホスホAMPKα1抗体および全AMPKα1抗体は、Cell Signalingから入手した。ホスホ特異的AMPKα1抗体は、活性化ループ中の重要な活性スレオニンを認識する。
【0149】
両キナーゼ(ホスホp44/42 MAPKおよびホスホAMPKのαサブユニット)の活性型は、安静対照に対して、運動マウスの四頭筋において、より高いレベルで発現されていた(図7A)。過去に、PPARδは培養細胞におけるGW1516によるAMPKの活性化に必要ではないことが報告されている(Kramer et al, Diabetes. 54(4):1157-63, 2005 and Kramer et al., J. Biol .Chem. 282(27):19313-2, 2007)。これとは対照的にGW1516は、p44/42またはAMPKを、安静時の、もしくはトレーニング後の筋肉のいずれにおいても活性化できないことが観察され、PPARδによる調節の作用は、これらのキナーゼを活性化する運動誘導シグナルの下流に位置することがわかった。さらにAMPKは、VP16-PPARδトランスジェニックマウスの筋肉において、運動または薬剤の非存在下で、構成的に活性なようである(図7B)。これらの結果は、相乗効果がAMPKとPPARδに共依存することを意味する。
【0150】
相乗効果がAMPKとPPARδに共依存するならば、AMPKとPPARδの選択的な同時活性化は、運動とPPARδの併用、ならびにVP16-PPARδの過剰発現によって引き起こされる変化に似た遺伝子発現の変化を誘導する可能性がある。これを証明するために、運動とGW1516投与の組み合わせによって骨格筋で誘導される転写の変化(実施例5に記載)を、6日間にわたるAMPK活性化因子(細胞透過性のAMPアナログAICAR;250 mg/kg/日、腹腔内注射)とGW1516(5 mg/kg/日、経口強制投与(oral gavage)処理の組み合わせと比較した。ゲノム解析を、実施例5に記載した方法で実施した。
【0151】
GW1516とAICARの6日間にわたる同時投与によって、GW1516投与と運動の組み合わせの場合と遺伝子の40%を共有する(図8B)、非トレーニングC57B1/6Jマウスの四頭筋における固有の遺伝子発現特性が得られた(図8A、翻訳、タンパク質のプロセシング、アミノ酸代謝、脂肪代謝、酸素運搬、炭水化物代謝、シグナル伝達、転写、輸送、ステロイド生合成、熱ショック応答、血管形成、増殖およびアポトーシス、サイトカイン、収縮タンパク質、ストレス、およびその他に関連する標的遺伝子を含む)。2つの特性に共通する52個の遺伝子の分類(PPARδの活性化と運動の組み合わせ、すなわちPPARδとAMPKの共活性化)(表4に列挙)から、標的の大半が酸化的代謝と関連することが判明した。
【0152】
(表4)運動-PPARδおよびAMPK-PPARδの遺伝子特性に共通の標的



データは、各群N=3の試料の平均である(p<0.05)。
【0153】
選択的な酸化遺伝子(表4に記載の8個)の定量的発現解析を、溶媒(V)、GW1516(GW、5mg/kg/日)、AICAR(AI、250 mg/kg/日)、および2種類の薬剤の組み合わせ(GW+AI)について6日間にわたって、実施例1に記載の方法で投与されたマウスの四頭筋を被験体に行った。図9A〜Hに示すように、PDK4、SCD1、ATPクエン酸リアーゼ、HSL、mFABP、およびLPLを含む、これらのバイオマーカーの一部は、四頭筋においてGW1516およびAICARによって相乗的に誘導された(図9C〜9H)。興味深いことに、相乗作用はUCP3およびmCPT Iについては検出されなかった(図9Aおよび図9B)。これらの遺伝子は、AMPKが構成的に活性な非トレーニングVP16-PPARδマウスの四頭筋において誘導された(表5)。
【0154】
(表5)PPARδとAMPKの活性化の組み合わせ、ならびにVP16-PPARδの過剰発現によって筋で誘導される選択的な酸化遺伝子

【0155】
以上を総合すると、これらの結果から、AMPKとPPARδの相互作用が、運動中の骨格筋のトランスクリプトームの再プログラミングに実質的に寄与する可能性がある一方で、追加的な変化は、運動シグナル伝達ネットワークの他の要素とPPARδ間のクロストークを含む可能性があることがわかる。
【0156】
要約すると、PPARδおよび運動はランニング持久力を相乗的に調節する。特定の理論に拘束されないが、キナーゼの活性化は、効果的に能力を高める「持久力遺伝子発現特性」の確立における運動中に、PPARδシグナル伝達に影響を及ぼす可能性がある。
【0157】
実施例7
AMPKはPPARδによる転写活性化を高める
実施例6に記載した遺伝的相乗作用から、AMPKが骨格筋におけるPPARδの転写活性を直接調節することがわかる。これを証明するために、野生型マウスおよびPPARδヌルマウスから単離された初代筋細胞における遺伝子発現に対するGW1516およびAICARの作用の解析を実施した。
【0158】
野生型マウスおよびPPARδヌルマウスから初代筋細胞を、文献(Rando and Blau, J. Cell. Biol. 125(6):1275-87, 1994)に記載された手順で単離した。骨格筋のC2C12細胞を、20%血清およびペニシリン/ストレプトマイシンのカクテルを含むDMEM中で培養した。分化に際しては、80%の集密度の細胞を分化用培地(DMEM+2%血清)に移し、4日間にわたって培養して、分化した筋小管を得た。細胞を溶媒、GW1516、AICAR、またはGW1516+AICAR(GW:0.1μM;AICAR:500μM)によって24時間かけて処理した。UCP3、PDK4、LPL、およびHSLのRNA発現をリアルタイム定量PCRにより、実施例1に記載した手順で決定した。
【0159】
図10A〜Dに示すように、相乗作用はPPARδに依存し、ヌル細胞では失われた。GW1516およびAICARによる遺伝子発現の類似の相乗的な調節は、分化したC2C12細胞でも観察された。これらの結果から、AMPKの活性化がPPARδのリガンド依存性の転写作用を筋で高める可能性があることがわかる。
【0160】
これをさらに直接的に明らかにするために、レポーター遺伝子発現アッセイ法を利用した。AD 293細胞を、10%血清および抗生物質カクテルを含むDMEM中で培養した。細胞に、CMX-Flag、CMX-Flag PPARδ、CMX-Tk-PPREもしくはCMX-βGAL、またはhAMPK(α1およびα2サブユニット、Origene)発現ベクターのうちの1つもしくは複数を、Lipofectamine(商標) 2000を製造業者の指示書に従って使用してトランスフェクトした。抗Flag抗体結合ビーズを、トランスフェクトされた細胞に由来する溶解物とともに4℃で一晩インキュベートした。Flagで標識されたタンパク質またはタンパク質複合体を、ビーズを非結合材料から分離することで免疫沈殿させた。ビーズを氷冷溶解緩衝液で洗浄後にLaemmli緩衝液で抽出した。共免疫沈降実験では、SDSを溶解緩衝液から除外した。ウエスタンブロッティングを、Flag標識またはAMPKαサブユニットに特異的な抗体を使用して行った。
【0161】
触媒性のAMPKα1またはAMPKα2サブユニットとPPARδのいずれかの同時トランスフェクションによって、PPARδが、AD293細胞におけるPPRE駆動型のレポーター遺伝子を誘導する基礎転写活性(図10E)およびGW1516依存性の転写活性(図10F)は上昇したが、対照ベクターとの同時トランスフェクションでは上昇は見られなかった。AMPKの過剰発現またはGW1516投与は、トランスフェクション時のレポーター活性を変化させなかったことから、PPARδ発現ベクターがRXRを介した作用を無効にするという可能性は除外される。別の結果は、AMPKが、受容体と直接相互作用することによって、PPARδの転写活性を調節する可能性があることを示している。Flag-PPARδによって、および触媒性のAMPKのα1サブユニットまたはα2サブユニットのいずれかによって同時にトランスフェクトされたAD293細胞では、いずれのサブユニットとも、Flag-PPARδとの複合体として共免疫沈降を生じた(図10G)。さらにFlag-PPARδは、AD293細胞から内因性のAMPKαサブユニットとも共免疫沈降を生じたことから、核内受容体とキナーゼが直接、物理的に相互作用することが確認された(図10H)。物理的な相互作用にもかかわらず、AMPKはPPARδのリン酸化を高めなかった。
【0162】
AMPKの潜在的なリン酸化部位がPPARδ中に存在するが、インビトロキナーゼアッセイ法で、AMPKによってリン酸化された部位はなかった。これは、AD 293細胞におけるPPARδのp32標識をAMPKの存在下または非存在下で測定することで、さらに確認された。AD 293細胞に、PPARδおよびhAMPk(α1サブユニットまたはα2サブユニット)発現ベクターを上述の手順でトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後に、細胞を、リン酸塩を含まないDMEMで3回洗浄し、リン酸塩非含有DMEMを溶媒とする32P-オルトリン酸(100μCi/5 ml)とともに20時間にわたってインキュベートした。細胞を氷冷リン酸塩非含有DMEMで3回洗浄し、氷冷溶解緩衝液に溶解した。
【0163】
図10Iに示すように、PPARδの全体的なリン酸化は、インビボでAMPKによって上昇していない。しかしながら、AMPKα2および補助活性化因子PGC1α(AMPKの既知のリン酸化標的)の同時トランスフェクションは協調的に相互作用して、PPARδの基礎転写活性とリガンド依存性の転写活性の両方をさらに誘導する(図10J)。注目すべきことに、Flag-PGC1αとAMPK間に有意な物理的相互作用は検出されず(図10K)、いずれも独立にPPARδと相互作用していた。総合すると、これらの観察から、AMPKが転写複合体中にPPARδとともに存在する可能性があり、そこで直接的なタンパク質間相互作用を介して、および/またはPGC1αなどの補助活性化因子をリン酸化することによって受容体活性を増強可能なことがわかる。
【0164】
以上の結果から、AMPKがPPARδと直接相互作用して、受容体を介して基礎転写およびリガンド依存性の転写を劇的に高めることがわかる。物理的な相互作用にかかわらず、AMPKはPPARδをリン酸化しない。AMPKおよびその基質PGC1αはPPARδの転写を相乗的に高めたことから、受容体がAMPKによって、補助調節因子の修飾を介して間接的に調節されることがわかる。
【0165】
運動によって活性化されたAMPKがPPARδと相互作用してインビボで遺伝子発現を調節するという結論は、動物へのAICAR(AMPK活性化因子)およびGW1516の投与が、運動とGW1516投与の組み合わせの最大40%の遺伝的の作用を再現する、骨格筋で遺伝子特性を生じるという観察によって裏づけられる(表4参照)。さらに、この特性に由来する複数の候補遺伝子は、GW1516およびAICARによって、野生型の初代筋細胞では相乗的に誘導されるがPPARδヌル初代筋細胞では誘導されないことから、2種類の薬剤の相互作用の効果にはPPARδが介することがわかる。共通して調節される遺伝子の45%は酸化的代謝に関連する一方で、筋能力に重要な役割を果たす他の共通標的は、血管形成、シグナル伝達、およびグルコースの節約に関連する遺伝子を含む(表4)。PPARδ-AMPKの相互作用に依存しないPPARδ-運動特性の一部(図8B)は、受容体と他の運動シグナル伝達因子(MAPK、カルシニューリン/NFAT、およびSIRT 1など)との間のクロストークに依存する可能性がある。これらの可能性は、AMPKおよびシグナル伝達ネットワークの追加成分が、リガンドと結合したPPARδと相互作用して、筋持久力遺伝子特性および高い持久力の適応を生じることが提案されている図10Lに要約されている。
【0166】
要約すると、この実施例では、合成PPARδの活性化が単独で、成体マウスの当初の筋構造および持久力レベルを変化させない一連のゲノム変化を誘導することが示される。しかしながら、PPARδの活性化と運動の組み合わせは、おそらくは、(図10Lに記載したように)AMPKなどのキナーゼとの相互作用を介して、新たな転写変化を生じ、筋肉のトランスクリプトームを、筋能力を劇的に高める表現型にリセットする。
【0167】
実施例8
被験体の運動効果の増強
この実施例では、健康な哺乳類被験体における運動効果を高める、すなわち増強するために使用可能な方法について説明する。特定の条件について説明するが、当業者であれば、このような条件にわずかな変更が可能なことを理解するであろう。
【0168】
健康な成人被験体が有酸素運動(例えばランニング)を少なくとも30分間(例えば30〜90分間)、週に少なくとも3〜4日(例えば週に3〜7日)にわたって、少なくとも2週間(例えば少なくとも4〜12週間)にわたって行う。運動は、最大心拍数の40%〜50%、最大心拍数の50%〜60%、最大心拍数の60%〜70%、または最大心拍数の75%〜80%で行われ、ヒト被験体の最大心拍数は、「220 bps-(被験体の年齢)」の式で計算される。
【0169】
上記の有酸素運動の実施中または実施後に、被験体にGW1516[(2-メチル-4(((4-メチル-2-(4-トリフルオロメチルフェニル)-1,3-チアゾール-5-イル)メチル)スルファニル)フェノキシ)酢酸]が、2.5 mg/日または10 mg/日などの1〜20 mg/日の用量で経口投与する。被験体は、GW1516が投与されている間、有酸素運動を継続することができる。被験体はGW1516を、少なくとも2週間、少なくとも4週間などの期間にわたって投与される場合がある。
【0170】
投与した被験体で達成された運動効果(例えばランニング持久力)を、投与していない被験体における同効果と比較することができる。運動の効果は、有酸素持久力すなわちランニング持久力の測定などの、当技術分野で既知の方法で測定することができる(例えば、疲労するまでの走行距離、または特定の距離を走った時間を測定する)。いくつかの例では、関心対象の運動効果は、投与した被験体では、投与していない被験体と比較して少なくとも5%(少なくとも10%など)高まる。
【0171】
実施例9
運動トレーニング被験体における運動能力向上物質の同定
この実施例では、運動トレーニング被験体における運動能力向上物質の同定に使用可能な方法について説明する。
【0172】
健康な成人から得られた生物学的試料を解析して、被験体がPES(例えばGW1516)を摂取しているか否かを、表2もしくは表4に列挙された1種または複数種の分子(核酸もしくはタンパク質)の発現を解析することで判定する。適切な生物学的試料は、末梢血、尿、唾液、組織生検、または頬内スワブ中などに存在する、被験体の細胞から得られたゲノムDNAもしくはRNA(mRNAを含む)、またはタンパク質を含む試料を含む。例えば、被験体の生物学的試料を、表2もしくは表4に列挙された少なくとも10種類、少なくとも20種類、少なくとも30種類、もしくは少なくとも40種類、例えば表2もしくは表4に列挙された分子の全ての任意の組み合わせなどの、表2もしくは表4に列挙された少なくとも4種類の分子(核酸またはタンパク質)の任意の組み合わせの発現の変化(上昇または低下など)に関して検討することができる。
【0173】
核酸分子の解析
生物学的試料から核酸分子を単離する方法は常用されており、例えばPCRによって試料由来の分子を増幅するか、または市販のキットを使用してmRNAもしくはcDNAを単離する。しかしながら、核酸は解析前に単離されている必要はない。核酸に、表2もしくは表4に列挙された1種または複数種の核酸分子とストリンジェントな条件でハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプローブを接触させることができる。次に、プローブとハイブリダイズする核酸を検出して定量する。オリゴヌクレオチドプローブの配列は、表2または表4に列挙された配列に代表される核酸分子に特異的に結合する。
【0174】
表2もしくは表4に列挙された分子の発現の上昇または低下は、細胞内mRNAレベルを測定することで検出できる。mRNAは、例えばノーザン解析、RT-PCR、およびmRNAインサイチューハイブリダイゼーションを含む、当技術分野で周知の手法で測定することができる。mRNA解析手順の詳細は例えば、記載の実施例に、およびSambrook et al.(ed.), Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed., vol. 1-3, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている。
【0175】
表2または表4に列挙された配列に特異的なオリゴヌクレオチドは、市販の装置を使用して化学的に合成することができる。次に、これらのオリゴヌクレオチドを、例えば放射性同位元素(32Pなど)によって、またはビオチン(Ward and Langer et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:6633-57, 1981)やフルオロフォアなどの非放射性標識によって標識し、膜または他の固体支持体上に固定された個々のDNA試料にドットブロットによってハイブリダイズさせるか、または電気泳動法後にゲルからトランスファーさせることができる。これらの特定の配列は、例えばオートラジオグラフィーや蛍光定量(Landegren et al., Science 242:229-37, 1989)、または比色反応(Gebeyehu et al., Nucleic Acids Res. 15:4513-34, 1987)などの方法で可視化される。
【0176】
タンパク質の解析
生物学的試料中のタンパク質を解析することもできる。いくつかの例では、タンパク質は、解析前に先だって常用の方法で単離される。
【0177】
一例では、表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間型(SELDI-TOF)質量分析によって、例えばProteinChip(商標)(Ciphergen Biosystems, Palo Alto, CA)を使用して、差次的なタンパク質発現の変化が検出される。このような方法は当技術分野で周知である(例えば米国特許第5,719,060号;米国特許第6,897,072号;および米国特許第6,881,586号を参照)。SELDIは、解析対象物が、解析物の捕捉または脱離を高める表面上のエネルギー流に提示される、脱離に関する固相法である。したがって特定の例では、クロマトグラフィー表面は、表2または表4に列挙されたタンパク質を認識する抗体を含む。試料中に存在する抗原は、クロマトグラフィー表面上の抗体を認識することが可能である。非結合のタンパク質、および質量分析に干渉する化合物は洗い流され、クロマトグラフィー表面上に保持されるタンパク質がSELDI-TOFによって解析されて検出される。次に、試料のMSプロファイルを、差次的なタンパク質の発現マッピングを使用して比較することにより、特定の分子量におけるタンパク質の相対的な発現レベルが、さまざまな統計手法およびバイオインフォマティクスソフトウェアシステムによって比較される。
【0178】
別の例では、表2または表4に列挙された分子に特異的な抗体を利用することで、HarlowおよびLane(Antibodies, A Laboratory Manual, CSHL, New York, 1988)に記載された方法などの、当技術分野で周知のいくつかの免疫アッセイ法の1つによるタンパク質の検出および定量が容易となる。このような抗体の構築法は当技術分野で既知である。任意の標準的な免疫アッセイ法フォーマット(ELISA、ウエスタンブロット、またはRIAアッセイ法など)を使用して、タンパク質のレベルを測定することができる。免疫組織化学的な手法を、タンパク質の検出および定量に使用することもできる。例えば、組織試料を被験体から得て、切片を所望のタンパク質の存在に関して、適切な特異的な結合剤、および任意の標準的な検出システム(西洋ワサビペルオキシダーゼに結合された二次抗体を含むものなど)を使用して染色することができる。このような手法に関する一般的な手引きは、BancroftおよびStevens(Theory and Practice of Histological Techniques, Churchill Livingstone, 1982)、ならびにAusubelら(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York, 1998)に記載されている。
【0179】
タンパク質または核酸の発現を検出するか、またはさらには定量する目的で、試験試料における発現を、PESを摂取していない被験体に由来する細胞に見られるレベルと比較することができる。あるいは、試験された被験体で同定された発現のパターンを、表2または表4に記載したパターンと比較することができる。
【0180】
例えば、試験試料が、表2または表4に記載したパターンに似た発現のパターンを示すならば(例えば、表2または表4において、アップレギュレートされているか、およびダウンレギュレートされていると示されている遺伝子は、被験体において、それぞれアップレギュレートおよびダウンレギュレートされていると観察される)、これは、被験体がPPARδアゴニスト(例えばGW1516)などのPESを摂取していることを意味する。これとは対照的に、試験された被験体で同定された発現のパターンが、表2または表4に記載したパターンと異なるならば(例えば、表2または表4において、アップレギュレートされているか、およびダウンレギュレートされていると示されている遺伝子は、被験体において異なって発現されるか、または異なる調節のパターンを示すと観察される)、これは、被験体がPPARδアゴニスト(例えばGW1516)などのPESを摂取していないことを意味する。
【0181】
正常ヒト細胞中に存在する同じタンパク質の量と比較時の、試験された被験体の細胞中で、表2に列挙された非太字のタンパク質の有意な増加は通常、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、またはこれを上回る差である。被験体の試料中で、表2に列挙された非太字のタンパク質の実質的な過剰発現は、被験体がPESを摂取していることを意味する場合がある。同様に、正常ヒト細胞中に存在する同じタンパク質の量と比較時の、試験された被験体の細胞中では、表2に列挙された太字のタンパク質の有意な減少は通常、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、またはこれを上回る差である。被験体の試料中では、表2に列挙された太字のタンパク質の実質的な低発現は、被験体がPESを摂取していることを意味する場合がある。
【0182】
本開示は、特定の態様に力点をおいて説明したが、特定の態様の変形が使用され得ること、および本開示が本明細書で特異的に記載した以外の様式で実施され得ることが、意図されることは当業者には明らかであろう。したがって本開示は、添付の特許請求の範囲によって定義される、本開示の趣旨および範囲に含まれるあらゆる変更を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運動の効果を生じるのに十分な身体活動が被験体によって行われる段階と、
有効量のPPARδアゴニストを被験体に投与することによって、被験体における運動の効果を高める段階と
を含む、被験体における運動の効果を高めるための方法。
【請求項2】
被験体が哺乳類である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
被験体が競争哺乳類(racing mammal)である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
競争哺乳類が、ウマ、イヌ、またはヒトである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
被験体が成体である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
被験体が、運動トレーニングを行う被験体である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
PPARδアゴニストがGW1516である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
PPARδアゴニストが、身体活動が行われた日と同じ日に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
身体活動が有酸素運動である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
有酸素運動がランニングである、請求項9記載の方法。
【請求項11】
運動の効果が、ランニング持久力の改善である、請求項9記載の方法。
【請求項12】
ランニング持久力の改善が、ランニング距離の改善もしくはランニング時間の改善、またはこれらの組み合わせである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
有効量が、単回用量または分割用量で約5 mg/kg/日〜約10 mg/kg/日である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
投与が、経口投与、静脈内注射、筋肉内注射、または皮下注射を含む、請求項1記載の方法。
【請求項15】
運動の効果が、被験体の少なくとも1つの骨格筋における脂肪酸酸化の上昇である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
運動の効果が体脂肪の減少である、請求項1記載の方法。
【請求項17】
体脂肪が白色脂肪組織である、請求項16記載の方法。
【請求項18】
運動トレーニング被験体から採取された生物学的試料中で表2または表4に列挙された1種または複数種の分子の発現を判定する段階を含む、運動トレーニング被験体における運動能力向上物質の使用を特定するための方法。
【請求項19】
(i)脂肪分化関連タンパク質;ステアロイル補酵素Aデサチュラーゼ2;アセチル補酵素Aアセチルトランスフェラーゼ2;ATPクエン酸リアーゼ;アディポネクチン、C1Qおよびコラーゲンドメイン含有;ジアシルグリセロールO-アシルトランスフェラーゼ2;リパーゼ、ホルモン感受性;モノグリセリドリパーゼ;レジスチン;CD36抗原;脂肪酸結合タンパク質4、脂肪細胞;リポタンパク質リパーゼ;ミクロソームグルタチオンSトランスフェラーゼ1;GPIアンカー型膜タンパク質1;二重特異性ホスファターゼ7;ホメオドメイン相互作用タンパク質キナーゼ3;インスリン様成長因子結合タンパク質5;タンパク質ホスファターゼ2(以前は2A)、調節サブユニットA(PR 65)、ベータイソ型;タンパク質チロシンホスファターゼ様(触媒性アルギニンの代わりにプロリン);メンバーb;CCAAT/エンハンサー結合タンパク質(C/EBP)、アルファ;核内受容体サブファミリー1、グループD、メンバー2(Reverb-b);トランスフェリン;archain 1;溶質担体ファミリー1(中性アミノ酸輸送体)、メンバー5;RIKEN cDNA 1810073N04遺伝子;ハプトグロビン;レチノール結合タンパク質4、血漿;ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ1、細胞質;細胞死誘導性DFFA様エフェクターc;インターフェロン、アルファ誘導性タンパク質27;炭酸脱水酵素3;システインジオキシゲナーゼ1、細胞質;DNAセグメント、Chr 4、Wayne State University 53、発現型;ダイニン細胞質1中間鎖2;Kruppel様因子3(塩基性);甲状腺ホルモン応答性SPOT14ホモログ(ラット);シトクロムP450、ファミリー2、サブファミリーe、ポリペプチド1;補体因子D(アジプシン);および/もしくはトランスケトラーゼのうちの1つもしくは複数において、発現がアップレギュレートされるか;または
(ii)ガンマ-グルタミルカルボキシラーゼ;3-オキソ酸CoAトランスフェラーゼ1;溶質担体ファミリー38、メンバー4;アネキシンA7;CD55抗原、RIKEN cDNA 1190002H23遺伝子;融合、t(12;16)悪性脂肪肉腫(ヒト)由来;リソソーム膜糖タンパク質2;および/もしくはneighbor of Punc E11のうちの1つもしくは複数において、発現がダウンレギュレートされるか;または
(iii)(i)と(ii)の組み合わせ
である、請求項18記載の方法。
【請求項20】
発現を判定する段階が、タンパク質の発現の判定、タンパク質をコードする遺伝子の発現の判定、またはこれらの組み合わせを含む、請求項18または19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
タンパク質をコードする遺伝子の発現の判定を含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
生物学的試料が骨格筋生検である、請求項18記載の方法。
【請求項23】
PPARδ受容体またはこのAMPK結合断片を含む第1の成分を提供する段階と、
AMP活性化タンパク質キナーゼ(AMPK)、AMPKα1、AMPKα2、またはこれらの任意のPPARδ結合断片を含む第2の成分を提供する段階と、
少なくとも1種類の試験薬剤の非存在下で第1の成分および第2の成分が相互に特異的に結合することを可能とする条件下で、第1の成分および第2の成分に少なくとも1種類の試験薬剤を接触させる段階と、
少なくとも1種類の試験薬剤が第1の成分と第2の成分の相互の特異的結合に作用するか否かを判定する段階であって、特異的結合に対する作用により、少なくとも1種類の試験薬剤が、被験体の運動能力を高める可能性を有する薬剤であると同定される、段階と
を含む、被験体の運動能力を高める可能性を有する薬剤を同定する方法。
【請求項24】
PPARδアゴニストを含む第3の成分を提供する段階と、
第1の成分、第2の成分、および第3の成分を接触させる段階と
をさらに含む、請求項23記載の方法。
【請求項25】
PPARδアゴニストがGW1516である、請求項24記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2010−514804(P2010−514804A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−544307(P2009−544307)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/089124
【国際公開番号】WO2008/083330
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
【出願人】(591198283)ザ・ソーク・インスティチュート・フォー・バイオロジカル・スタディーズ (3)
【氏名又は名称原語表記】THE SALK INSTITUTE FOR BIOLOGICAL STUDIES
【Fターム(参考)】