説明

運転シミュレーション装置

【課題】自動車教習及び自動車開発において使用でき、より現実的な運転感覚を体験できるとともに、しかもその機構が簡易で故障が生じ難く安全な運転シミュレーション装置を提供する。
【解決手段】車輪F,Rの軸回転に従動して回転する複数本のローラー21を搭載したローラー台22と、ローラー台22を昇降可能とした昇降機構23と、前輪Fが上載されたローラー台22を左右に水平回転させる回転機構24と、実車両Jの速度を検出する車両速度検出部25と、ローラー台22の水平回転量を検出する車両回転量検出部26と、仮想道路の映像を表示するディスプレー27と、速度と水平回転量に対応して変化する仮想道路の映像をディスプレー27に表示させるとともに、仮想道路の勾配を算出し、算出された勾配に対応して実車両Jの姿勢を合わせるように、昇降機構23を介してローラー台22を昇降させる制御部28と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実車両を用いた運転シミュレーション装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車教習用やアミューズメント用として、自動車等の運転を模擬する運転シミュレーション装置が開示されている(例えば、特許文献1及び2参照)。
この運転シミュレーション装置10は、図6に示すように、自動車等の形状を模した筐体11にユーザが乗り、ディスプレー12に映し出された道路や景色等の映像に従って、ユーザが自動車等の運転を模擬体験するものである。
【0003】
このような運転シミュレーション装置10を使用すると、新規に運転免許を取得するユーザが運転に慣れていない段階において、他の自動車等が走行している現実の道路で運転しなくてもよいので、安心して教習を受けられるという利点がある。また、運転免許の取得後に運転経験を積まずに長年経過してしまったいわゆるペーパードライバーの再教習や、高齢ドライバーの運転技能確認も安全に行うことができる。さらに、アミューズメント用として、ユーザは自動車レース等を模擬体験し、爽快感を味わうことができる。
【0004】
また、より現実的な運転感覚を得るために、実車両を用いた運転シミュレーション装置も開示されている(例えば特許文献3乃至9参照)。
【0005】
一方、このような自動車教習用以外にも、自動車の開発時に車両の性能評価においてコンピュータによるシミュレーションが行われている。しかし、いくらコンピュータが高性能になった今日といえども、開発段階において実車両を用いた測定は必要であり、一般に実車両をテストコースで走行させて各種データを取得し、性能評価を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−65419号公報
【特許文献2】特開2000−122523号公報
【特許文献3】特公昭41−6059号公報
【特許文献4】特開平5−88604号公報
【特許文献5】実公昭40−18573号公報
【特許文献6】特開昭52−82527号公報
【特許文献7】特開昭61−255380号公報
【特許文献8】特表2007−522500号公報
【特許文献9】特開2008−216332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図6の運転シミュレーション装置10は、自動車を模した筐体11内においてユーザが運転操作を行うので、運転シミュレーション装置10での運転感覚と実車両の運転感覚には少なからず差異が生じてしまうという問題がある。この差異が大きいと、運転シミュレーション装置10で教習を行ったユーザが、実車両を操作した場合に違和感を覚える。これでは、運転シミュレーション装置10による教習は、効果的な模擬体験とはいえない。とはいえ、いきなり実車両で実走という教習のスタイルでは、敷居が高いと感じてしまうユーザも存在する。
【0008】
また、特許文献3及び4に記載の発明は、実車両を用いているがそのエンジンをかけずに運転シミュレーションを行うので、そのような自動車教習で現実的な運転感覚を得られるとは言い難い。
一方、特許文献5乃至8に記載の発明は、実車両のエンジンをかけ、実際に実車両のアクセルを踏んで運転シミュレーションを行うが、それであっても定位置走行での運転シミュレーションという性質上、実車両で実際の道路を走行するものとは運転感覚が異なり、この運転感覚の差は小さくはない。例えば、現実の道路には坂があるが、特許文献5乃至8に記載の発明においてはこれを全く考慮していないので、運転シミュレーションと現実の運転との感覚に差異がある。
【0009】
ここで、特許文献9に記載の発明は、六本の油圧シリンダを備えるヘキサポッドによって、坂に対応できるようになっているが、その機構及び制御は複雑であるので、故障が生じ易い。
また、実車両の車輪の下に配置されたフラットベルト装置の回転をコンピュータによって制御しているが、この制御も複雑であるので、故障する可能性はゼロとはいえない。万が一、フラットベルト装置が故障した場合には、実車両がフラットベルト装置の前方に飛び出してしまうので、大変危険である。ここで、特許文献9の段落番号(0047)には、「回転体は大径のローラであってもよい」とあるが、実車両の車輪とローラとの位置関係が不明確であり、これをもって当業者が実施することができる程度に具体的に発明が開示され、安全性が確保できているとはいえない。
【0010】
また、テストコースで自動車を実走させ性能評価を行う場合においては、実車両に測定機器を搭載し、実走しながら各種データを取得するので、搭載できる測定機器が限られている。つまり、測定できる項目が限られており、必ずしも性能評価に十分なデータが得られているとはいえない。また、データを取得するために、テストドライバーが危険を冒しながら高速走行を行っているのが現状である。
【0011】
つまり、自動車教習においても、自動車開発段階においても、シミュレーション及び実走にはそれぞれメリットもあるが、デメリットも存在する。
【0012】
そこで、本発明の目的とするところは、自動車教習及び自動車開発において使用でき、より現実的な運転感覚を体験できるとともに、しかもその機構が簡易で故障が生じ難く安全な運転シミュレーション装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の運転シミュレーション装置(20)は、実車両(J)を用いた運転シミュレーション装置(20)であって、前記実車両(J)の車輪(F,R)の軸に平行で車輪(F,R)が上載されるように車輪(F,R)の前後に配置され、車輪(F,R)の軸回転に従動して回転する複数本(少なくとも二本以上)のローラー(21)を搭載したローラー台(22)を、各車輪(F,R)毎に計四台設けるとともに、前記実車両(J)の前輪(F)が上載された前記ローラー台(22)、及び前記実車両(J)の後輪(R)が上載された前記ローラー台(22)のうち少なくとも一組を昇降可能とした昇降機構(23)を設け、仮想道路の勾配に対応して前記実車両(J)の姿勢を合わせるように、前記昇降機構(23)を昇降可能にしたことを特徴とする。
【0014】
また、請求項2に記載の運転シミュレーション装置(20)は、前記実車両(J)のハンドルを左右に切って前記前輪(F)が左右に振れた場合に、前記前輪(F)が上載された前記ローラー台(22)の複数本のローラー(21)を前記前輪(F)の軸に平行に保つように、前記前輪(F)が上載された前記ローラー台(22)を左右に水平回転させる回転機構(24)を設けたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項3に記載の運転シミュレーション装置(20)は、前記回転機構(24)は、前記ローラー台(22)を上載し、前記前輪(F)が左右に振れた場合に、前記前輪(F)から前記ローラー(21)にかかる前記実車両(J)の重量及び摩擦力に従動して水平回転するターンテーブルであることを特徴とする。
【0016】
また、請求項4に記載の運転シミュレーション装置(20)は、前記ローラー(21)の回転から前記実車両(J)の速度を検出する車両速度検出部(25)と、前記仮想道路の映像を表示するディスプレー(27)と、前記車両速度検出部(25)で検出された速度に対応して変化する前記仮想道路の映像を前記ディスプレー(27)に表示させるとともに、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出し、算出された前記勾配に対応して前記実車両(J)の姿勢を合わせるように、前記昇降機構(23)を介して前記ローラー台(22)を昇降させる制御部(28)と、を備えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項5に記載の運転シミュレーション装置(20)は、前記ローラー(21)の回転から前記実車両(J)の速度を検出する車両速度検出部(25)と、前記ローラー台(22)の水平回転量を検出する車両回転量検出部(26)と、前記仮想道路の映像を表示するディスプレー(27)と、前記車両速度検出部(25)及び車両回転量検出部(26)で検出された速度と水平回転量に対応して変化する前記仮想道路の映像を前記ディスプレー(27)に表示させるとともに、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出し、算出された前記勾配に対応して前記実車両(J)の姿勢を合わせるように、前記昇降機構(23)を介して前記ローラー台(22)を昇降させる制御部(28)と、を備えることを特徴とする。
【0018】
また、請求項6に記載の運転シミュレーション装置(20)は、前記ローラー(21)の回転から前記実車両(J)の速度を検出する車両速度検出部(25)と、前記仮想道路の映像を表示するディスプレー(27)と、前記車両速度検出部(25)で検出された速度に対応して変化する前記仮想道路の映像を前記ディスプレー(27)に表示させるとともに、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出する映像処理部(29)と、前記映像処理部(29)で算出された前記勾配に対応して前記実車両(J)の姿勢を合わせるように、前記昇降機構(23)を介して前記ローラー台(22)を昇降させる制御部(28)と、を備えることを特徴とする。
【0019】
また、請求項7に記載の運転シミュレーション装置(20)は、前記ローラー(21)の回転から前記実車両(J)の速度を検出する車両速度検出部(25)と、前記ローラー台(22)の水平回転量を検出する車両回転量検出部(26)と、前記仮想道路の映像を表示するディスプレー(27)と、前記車両速度検出部(25)及び車両回転量検出部(26)で検出された速度と水平回転量に対応して変化する前記仮想道路の映像を前記ディスプレー(27)に表示させるとともに、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出する映像処理部(29)と、前記映像処理部(29)で算出された前記勾配に対応して前記実車両(J)の姿勢を合わせるように、前記昇降機構(23)を介して前記ローラー台(22)を昇降させる制御部(28)と、を備えることを特徴とする。
【0020】
また、請求項8に記載の運転シミュレーション装置(20)は、前記車両速度検出部(25)で検出された速度に対応した強さの風を前記実車両(J)に送る送風装置(30)をさらに備えることを特徴とする。
【0021】
また、請求項9に記載の運転シミュレーション装置(20)は、前記ディスプレー(27)に表示される映像内で発生する音を出力するスピーカー(31)をさらに備えることを特徴とする。
【0022】
ここで、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0023】
本発明の請求項1に記載の運転シミュレーション装置によれば、実車両の車輪の軸に平行で車輪が上載されるように車輪の前後に配置され、車輪の軸回転に従動して回転する複数本のローラーを搭載したローラー台を、各車輪毎に計四台設けたので、自動車教習中のユーザは定位置にて実車両のアクセルを踏むことができ、安心して自動車教習を受けることができる。また、ローラー台の構造が単純であるので、ローラー台が故障して実車両が前方に飛び出してしまうということが生じ難い。
しかも、実車両の前輪が上載されたローラー台及び実車両の後輪が上載されたローラー台のうち少なくとも一組を昇降可能とした昇降機構を設けたので、仮想道路の勾配に対応して実車両の姿勢を合わせることができる。よって、ユーザはさらに効果的な運転の模擬体験が可能である。しかも、実車両の姿勢を合わせるためには、少なくとも一組のローラーを昇降させるだけであるので、その機構は簡易であり、故障が生じ難い。
さらには、自動車の開発段階で、室内しかも定位置において、例えば坂道での走行性能や実車両の各部位にかかる負荷等を測定することができるので、各種データの取得が安全に行える。しかも、定位置で各種性能を測定できるので、車両内に搭載できない大型の測定機器によっても測定することができ、より多くの重要なデータを取得できる。
【0024】
また、請求項2に記載の運転シミュレーション装置によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加え、実車両のハンドルを左右に切って前輪が左右に振れた場合に、前輪が上載されたローラー台の複数本のローラーを前輪の軸に平行に保つように、前輪が上載されたローラー台を左右に水平回転させる回転機構を設けたので、ローラー台のローラーの上で高速走行している実車両の脱輪防止となる。つまり、実車両が不意に脱輪して室内を暴走してしまうことがないので、自動車教習中のユーザは定位置で実車両のハンドルを切ることができ、より効果的な運転の模擬体験が可能である。
もちろん、開発時のデータ取得中も脱輪せず、安全である。
【0025】
また、請求項3に記載の運転シミュレーション装置によれば、請求項2に記載の発明の作用効果に加え、回転機構は、ローラー台を上載し、前輪が左右に振れた場合に、前輪からローラーにかかる実車両の重量及び摩擦力に従動して水平回転するターンテーブルであるので、確実に脱輪防止として作用する。すなわち、脱輪防止機構の動作原理が単純であるので、故障が起こり難く安全である。
【0026】
また、請求項4に記載の運転シミュレーション装置によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加え、ローラーの回転から実車両の速度を検出する車両速度検出部と、仮想道路の映像を表示するディスプレーと、車両速度検出部で検出された速度に対応して変化する仮想道路の映像をディスプレーに表示させる制御部と、を備えるので、ユーザは現実的な運転感覚を疑似体験できる。特に、ユーザ所有の自家用車を用い、ユーザの居住地近辺の映像をディスプレーに表示した場合には、一層運転感覚に現実感が増す。
しかも、制御部は、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出し、算出された勾配に対応して実車両の姿勢を合わせるように、昇降機構を介してローラー台を昇降させるので、さらに現実的な運転感覚となる。
【0027】
また、請求項5に記載の運転シミュレーション装置によれば、請求項2又は3に記載の発明の作用効果に加え、車両速度検出部及び車両回転量検出部で検出された速度と水平回転量に対応して変化する仮想道路の映像をディスプレーに表示させる制御部を備えるので、ユーザが実車両のハンドルを左右に切ると、ディスプレーに表示される映像もそれに従い、現実的な運転感覚を疑似体験できる。
【0028】
また、請求項6及び7に記載の運転シミュレーション装置によれば、制御部での処理の一部を映像処理部に役割分担させることもできるので、制御部の処理上の負担が軽減され、システム全体の処理速度が上がる。したがって、ユーザにとって、さらに現実的な運転感覚となる。
【0029】
また、請求項8に記載の運転シミュレーション装置によれば、請求項4乃至7に記載の発明の作用効果に加え、車両速度検出部で検出された速度に対応した強さの風を実車両に送る送風装置をさらに備えるので、定位置でエアロダイナミクスの検証を行うことができる。
【0030】
また、請求項9に記載の運転シミュレーション装置によれば、請求項4乃至8に記載の発明の作用効果に加え、ディスプレーに表示される映像内で発生する音を出力するスピーカーをさらに備えるので、自車のエンジン音や走行音のみならず、仮想道路を走行する他の車両の走行音等をユーザは聞くことができ、より現実的な環境下で模擬体験を行える。
【0031】
なお、本発明の運転シミュレーション装置のように、実車両を用い、速度とローラー台の水平回転量に対応して変化する仮想道路の映像をディスプレーに表示させるとともに、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出し、算出された勾配に対応して実車両の姿勢を合わせるように、昇降機構を介してローラー台を昇降させる点は、上述した特許文献1乃至9には全く記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施形態に係る運転シミュレーション装置を示す側面図である。
【図2】図1に示す運転シミュレーション装置におけるローラー台を示す平面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る運転シミュレーション装置の電気構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る運転シミュレーション装置の制御を示すフローチャートである。
【図5】本発明の他の実施形態に係る運転シミュレーション装置の制御を示すフローチャートである。
【図6】従来例に係る運転シミュレーション装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1乃至図4を参照して、本発明の実施形態に係る、実車両Jを用いた運転シミュレーション装置20を説明する。
この運転シミュレーション装置20は、図1及び図3に示すようにローラー台22、昇降装置23、及び回転機構24(回転機構24は前輪Fの部分だけに設けられている)からなる支持機構と、車両速度検出部25と、車両回転量検出部26と、ディスプレー27と、コンピュータCと、送風装置30と、スピーカー31と、を備えるものである。
ここでは、ペーパードライバーであるユーザが再教習を行う場合を想定する。
【0034】
実車両Jは、ユーザの家族等が自動車を所有し、ユーザが教習後にその自動車を運転する予定がある場合には、教習にもその自動車を用いる。教習とその後にユーザが単独で一般道を走行する場合の差異をなくし、ユーザに少しでも違和感を覚えさせないためである。
【0035】
ローラー台22は、図1に示すように、一台につき少なくとも二本のローラー21(ここでは三本)を備えている。
この二本のローラー21は、実車両Jの車輪F,Rの軸に平行で、車輪F,Rが上載されるように車輪F,Rの前後に配置されている。そして、車輪F,Rが軸回転すると、それに従動して回転する。
ここでは二本のローラー21に平行なもう一本ローラー21が、その二本のローラー21の中間に配置されている。実車両J毎に車輪F,Rの直径が異なるため、中央のローラー21は直径に合わせて上下動することができ、三本のローラー21が均等に車輪F,Rに接する。また、ローラー21の表面には、通常の路面と同程度の摩擦係数になるような加工が施されている。
さらに、教習終了後に実車両Jが円滑に運転シミュレーション装置20から退出できるように、ローラー21を回転しないようにロックすることもできる。
【0036】
回転機構24は、前輪Fが上載されたローラー21を搭載したローラー台22を左右に水平回転させるターンテーブルである(ここではローラー台22と回転機構24を一体化している。)。実車両Jのハンドルを左右に切って前輪Fが左右に振れた場合に、回転機構24により前輪Fが上載されたローラー台22の二本のローラー21を前輪Fの軸に平行に保つ。このターンテーブル24は、水平回転方向の抵抗(摩擦力)が極めて小さいので、ローラー21に上載された前輪Fが左右に振れた場合に、前輪Fからローラー21にかかる実車両Jの重量及び摩擦力に従動して容易に水平回転する。
【0037】
昇降機構23は、実車両Jの車輪F,Rが上載されたローラー21を搭載したローラー台22を昇降可能にするものである。前輪Fの場合は、ローラー台22とともに回転機構24を昇降させる。
【0038】
このようなローラー台22、昇降装置23、及び回転機構24からなる支持機構が、実車両Jの前輪F用として二台設けられている。
一方、後輪R用のローラー台22は水平回転する必要がないので、前輪F用の支持機構から回転機構24を除いたものが、実車両Jの後輪R用として設けられている。ここで、前輪F用の支持機構と後輪R用の支持機構との距離を調節できるように、後輪R用の支持機構は前後に延びるレール34によって前後に移動可能に設けられている。実車両J毎に前輪Fと後輪Rとの距離が異なるため、前輪F用の支持機構と後輪R用の支持機構との距離を、後輪R側の支持機構をレール34によって前後に移動して調節する。また、運転シミュレーション装置20において、仮想道路の勾配に対応して実車両Jの姿勢を合わせるように、昇降機構23が稼動して実車両Jを前傾又は後傾させる場合、昇降機構23の昇降量に応じて、後輪R側の支持機構を前進させて、支持機構間の水平方向距離を調整する。もちろん、実車両Jの姿勢が水平状態に戻ったときには、後輪R側の支持機構を後退させて元の位置に戻す。
【0039】
車両速度検出部25は、単位時間あたりのローラー21の回転数を検出することで実車両Jの速度を検出するセンサーである。この車両速度検出部25は、教習等で用いられる実車両Jが前輪駆動車、後輪駆動車のどちらであっても実車両Jの速度を検出できるように、前輪F用のローラー台22と、後輪R用のローラー台22のいずれにも配置されている。
【0040】
車両回転量検出部26は、前輪Fが正面を向いている方向を基準とし、そこからのローラー台22(ターンテーブル24)の水平回転量を検出する。
【0041】
ディスプレー27は、仮想道路の動的な映像をローラー台22に載置された実車両Jの全周に表示する。ディスプレー27は半球状であり、実車両Jが運転シミュレーション装置20に進入退出可能なように、ディスプレー27の一部が昇降(開閉)可能となっている。
実車両Jの側方にも映像が表示されるので、ユーザは仮想現実中の並走車を確認することができる。また実車両Jの後方にも映像を表示するので、ルームミラーやサイドミラーに後方の景色が映る。
【0042】
送風装置30は、車両速度検出部25で検出された速度に対応した強さの風を実車両Jに送る。教習用としてはそれほど重要ではないが、自動車メーカーが車両の開発時にエアロダイナミクスの検証を行う場合には極めて重要な装置である。正面から送風することはもちろん、実車両Jの横風安定性も検証できるようにしている。
【0043】
スピーカー31は、ディスプレー27に表示される映像内で発生する音を出力する。これらの音には、仮想現実内で走行する他の車の走行音やクラクション、踏切の遮断機の警告音がある。
【0044】
コンピュータCは記憶部としてのROM32及びRAM33、それと制御部28を備える。
コンピュータCに接続されたモニタ等の出力装置35で確認しながら、キーボード等の入力装置36でシミュレーションを行う仮想道路等の情報等を選択する。
【0045】
ROM32は、実在の道路や景色の三次元情報を季節、昼夜、天候別にそれぞれ記憶している。また、この三次元情報には、仮想道路を走行する他の車や、歩行者の情報もある。これらは、ユーザが自宅の車庫入れの練習さえも行えるように、ユーザの居住地近辺等、町の隅々まで詳細にデータ化されている。つまり、ROM32には、現実の道路環境を可能な限り再現し得る情報がある。
また、例えば海外の高速道路や観光地等の情報をROM32に記憶させておくと、アミューズメント用として有用である。
ROM32には記憶量に限界があるので、運転シミュレーション装置20の使用目的別に外部記憶装置を用意し、それに三次元情報を記憶させておくのもよい。
【0046】
RAM33には、教習中のユーザの操作等を、仮想道路のどこを走行していたか、またそのときの対向車等の動きとともに記憶することができる。仮想現実中で交通事故やユーザの不適切な運転操作があった場合には、そのときのデータを読み出すことで、効率的に教習の復習を行うことが可能である。
一方、自動車開発の場面においては、RAM33で各種性能測定の測定データを記憶することができる。
【0047】
制御部28は、車両速度検出部25及び車両回転量検出部26で検出された速度と水平回転量に対応して変化する仮想道路の映像を生成し、ディスプレー27に表示させる。
また、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出し、算出された勾配に対応して実車両Jの姿勢を合わせるように、昇降機構23を介してローラー台22(前輪Fの場合はローラー台22に加え回転機構24)を昇降させ、昇降機構23の昇降量に応じて、両車輪F,R用の支持機構の間隔を調整させることで、ピッチング運動をさせる。また、勾配に実車両Jの姿勢を合わせるだけでなく、仮想道路の左右の傾きにも合わせてローリング運動もさせる。
この仮想道路の勾配とは、坂が含まれることは当然であるが、微視的には仮想道路の凹凸も含まれる。
【0048】
次に、図4に示すフローチャートを参照して、本発明の実施形態に係る運転シミュレーション装置20の制御(ステップS(以下、「ステップ」という語を省略する)1)について説明する。
まず、RAM33に記憶されたデータ等、システム全体の初期化を行う(S101)。
次に、制御部28はディスプレー27に初期画像を出力する(S102)。
【0049】
次に、制御部28は車両速度検出部25からの信号を読み込み、ローラー21が回転しているか否か判断する(S103)。
【0050】
このとき、ローラー21が回転していれば、車両回転量検出部26からの信号を読み込む(S104)。これと同時に、車両速度検出部25から実車両Jの速度を読み込む(S105)。
【0051】
次に、ROM32に記憶された道路の三次元情報を読み込み、水平回転量と速度に対応した映像を生成し、ディスプレー27に出力する(S106)。
【0052】
次に、制御部28は映像中の道路の勾配を算出し(S107)、算出された勾配に対応して実車両Jの姿勢を合わせるように、昇降機構23に指示を出してローラー台22(前輪Fの場合はローラー台22に加え回転機構24)を昇降させ(S108)、昇降機構23の昇降量に応じて、両車輪F,R用の支持機構の間隔を調整させる。このとき制御部28は前輪Fと後輪Rとの間隔を把握しているので、昇降量と後輪R側の支持機構の移動量は決まる。
これで運転シミュレーション装置20の制御の1サイクルは終了する(S109)。このとき、シミュレーションを終了しない場合にはS103に戻る。
また、S103でローラー21の回転を検出できないが、シミュレーションを終了しない場合には、ローラー21の回転を検出できるまで待つ。
【0053】
以上のように構成された運転シミュレーション装置20によれば、車輪F,Rの軸回転に従動して回転する二本のローラー21を搭載したローラー台22を、各車輪F,R毎に計四台設けるとともに、ローラー台22(前輪Fの場合はローラー台22に加え回転機構24)を昇降可能とした昇降機構23を設け、さらにローラー21の回転から実車両Jの速度を検出する車両速度検出部25と、仮想道路の映像を表示するディスプレー27と、車両速度検出部25で検出された速度に対応して変化する仮想道路の映像をディスプレー27に表示させる制御部28と、を備えるので、ユーザは現実的な運転感覚を疑似体験できる。特に、ユーザ所有の自家用車を用い、ユーザの居住地近辺の映像をディスプレー27に表示しているので、運転感覚に現実感が増す。
また、制御部28は、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出し、算出された勾配に対応して実車両Jの姿勢を合わせるように、昇降機構23を介してローラー台22(前輪Fの場合はローラー台22に加え回転機構24)を昇降させ、昇降機構23の昇降量に応じて、両車輪F,R用の支持機構の間隔を調整させるので、さらに現実的な運転感覚となる。しかも、ローラー台22を上昇させるか下降させ、後輪R側の支持機構を前進させるか後退させるかという、非常に単純な機構及び制御であるので、故障が生じ難い。
【0054】
また、実車両Jのハンドルを左右に切って前輪Fが左右に振れた場合に、前輪Fが上載されたローラー台22の二本のローラー21を前輪Fの軸に平行に保つように、前輪Fが上載されたローラー台22を左右に水平回転させるターンテーブル24を設けたので、ローラー台22のローラー21の上で高速走行している実車両Jの脱輪防止となる。よって、教習中に、実車両Jが不意に脱輪して室内を暴走してしまうことがないので、実車両Jを用いていても安全である。
しかも、そのターンテーブル24は、ローラー台22を上載し、前輪Fが左右に振れた場合に、前輪Fからローラー21にかかる実車両Jの重量及び摩擦力に従動して水平回転するので、確実に脱輪防止として機能する。すなわち、脱輪防止機構としての動作原理が単純であるので、故障が起こり難く信頼性が高い。
また、ローラー台22は、ローラー21の回転を制御せず前輪Fの軸回転に従動しているという単純な機構であるので、前輪Fが左右に振れない(ハンドルを操作しない)場合についても、ローラー台22が故障して実車両Jが前方に飛び出してしまうことが生じ難い。
【0055】
また、ローラー台22の水平回転量を検出する車両回転量検出部26を備え、ディスプレー27に表示される映像は、この水平回転量にも対応して変化するので、より運転感覚に現実味が増す。
また、ディスプレー27に表示される映像内で発生する音を出力するスピーカー31をさらに備えるので、自車のエンジン音や走行音のみならず、仮想道路を走行する他の車両の走行音等をユーザは聞くことができ、より現実的な環境下で模擬体験を行うことができる。
【0056】
一方、このような運転シミュレーション装置20を自動車開発用に使用すると、室内しかも定位置において、各種データを安全に取得できる。しかも、定位置で各種性能を測定できるので、車両内に搭載できない大型の測定機器によっても測定することができ、より多くの重要なデータを取得できる。
【0057】
なお、本実施形態において、ディスプレー27への映像の出力は制御部28が行ったが、映像処理部29を設けてこの映像処理部29に映像の出力等を行わせてもよい。
このときは、図5に示すフローチャートに示すように、制御部28は、まずシステム全体の初期化を行い(S201)、次にディスプレー27に初期画像を出力する指示を映像処理部29に出す(S202)。
次に、制御部28はローラー21の回転の有無判断(S203)、ローラー台22の水平回転量の読み込み(S204)、速度の読み込み(S205)を行う。S203からS205は、映像処理部29を設けない場合と同じ制御である。
【0058】
次に、制御部28はROM32に記憶されたデータを読み込んだ後、映像処理部29に対し水平回転量と速度に対応した映像を生成し、ディスプレー27に出力するよう指示を出す(S206)。
【0059】
次に、映像処理部29が表示された映像内の仮想道路の勾配を算出し、その勾配を制御部28が読み込む(S207)。
次に、映像処理部29がない場合と同様に、実車両Jの傾きが勾配と等しくなるようにローラー台22を昇降させて(S208)、システムを終了させるか判断を行う(S209)。
【0060】
このように映像処理部29をさらに備え、制御部28と映像処理部29の役割を分けると、制御部の処理上の負担が軽減され、システム全体の処理速度が上がる。したがって、映像の変化及びローラー台22の昇降に伴う実車両Jの制動が滑らかになるので、ユーザにとって、さらに現実的な運転感覚となる。
【0061】
本実施形態において、前輪Fでは、ローラー21を搭載したローラー台22、昇降機構23、及び回転機構24を含むものを支持機構とし、ローラー台22を回転機構24に上載したが、回転機構24に直接ローラー21を搭載して回転してもよい。
【0062】
さらには、運転シミュレーション装置20は、回転機構24及びディスプレー27を備えることなく、ローラー台22と昇降機構23を備えるものでもよい。この場合、自動車教習中のユーザは定位置にて実車両Jのアクセルを踏むことができ、安心して自動車教習を受けることができる。また、仮想道路の勾配に対応して実車両Jの姿勢を合わせることができることは変わりなく、効果的な運転の模擬体験となる。
また、自動車開発においては、昇降機構23を作動させて、例えば坂道での走行性能や実車両Jの各部位にかかる負荷等の測定は可能である。
もちろん、回転機構24やディスプレー27等の運転シミュレーション装置20の構成要素が多いと、より現実的、効果的な自動車教習となり、他方自動車開発においては、評価可能な実車両Jの性能(機能)は増えるが、これらの要素は必須ではない。
【0063】
また、車輪F,Rが上載されたローラー21全て(四輪分)を昇降可能としたが、これに限られるものではなく、前輪Fが上載されたローラー21、又は後輪Rが上載されたローラー21のうちいずれか一組(前輪F分又は後輪R分)を昇降可能としておけば足りる。
また、ディスプレー27によって実車両Jの全周に表示するとしたが、これに限られるものではなく、最低限、実車両Jの前方に表示されればよい。
【0064】
また、一台のコンピュータCによって処理を行ったとしたが、これに限られるものではなく、複数台のコンピュータCを用い、それぞれ役割を分担させてもよい。
また、実車両Jの速度は、ローラー21の回転から車両速度検出部25が検出したが、これに限られるものではなく、例えば実車両Jを制御する実車両Jに組み込まれているコンピュータから取得してもよい。
同様に、前輪F用のローラー台22の水平回転量は、車両回転量検出部26が検出したが、これも実車両Jに組み込まれているコンピュータがステアリング角度を検出して、これを制御部28が読み込んでもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 運転シミュレーション装置
11 筐体
12 ディスプレー
20 運転シミュレーション装置
21 ローラー
22 ローラー台
23 昇降機構
24 回転機構(ターンテーブル)
25 車両速度検出部
26 車両回転量検出部
27 ディスプレー
28 制御部
29 映像処理部
30 送風装置
31 スピーカー
32 ROM
33 RAM
34 レール
35 出力装置
36 入力装置
C コンピュータ
F 前輪
J 実車両
R 後輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実車両を用いた運転シミュレーション装置であって、
前記実車両の車輪の軸に平行で車輪が上載されるように車輪の前後に配置され、車輪の軸回転に従動して回転する複数本のローラーを搭載したローラー台を、各車輪毎に計四台設けるとともに、
前記実車両の前輪が上載された前記ローラー台、及び前記実車両の後輪が上載された前記ローラー台のうち少なくとも一組を昇降可能とした昇降機構を設け、
仮想道路の勾配に対応して前記実車両の姿勢を合わせるように、前記昇降機構を昇降可能にしたことを特徴とする運転シミュレーション装置。
【請求項2】
前記実車両のハンドルを左右に切って前記前輪が左右に振れた場合に、前記前輪が上載された前記ローラー台の複数本のローラーを前記前輪の軸に平行に保つように、前記前輪が上載された前記ローラー台を左右に水平回転させる回転機構を設けたことを特徴とする請求項1に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項3】
前記回転機構は、前記ローラー台を上載し、前記前輪が左右に振れた場合に、前記前輪から前記ローラーにかかる前記実車両の重量及び摩擦力に従動して水平回転するターンテーブルであることを特徴とする請求項2に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項4】
前記ローラーの回転から前記実車両の速度を検出する車両速度検出部と、
前記仮想道路の映像を表示するディスプレーと、
前記車両速度検出部で検出された速度に対応して変化する前記仮想道路の映像を前記ディスプレーに表示させるとともに、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出し、算出された前記勾配に対応して前記実車両の姿勢を合わせるように、前記昇降機構を介して前記ローラー台を昇降させる制御部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項5】
前記ローラーの回転から前記実車両の速度を検出する車両速度検出部と、
前記ローラー台の水平回転量を検出する車両回転量検出部と、
前記仮想道路の映像を表示するディスプレーと、
前記車両速度検出部及び車両回転量検出部で検出された速度と水平回転量に対応して変化する前記仮想道路の映像を前記ディスプレーに表示させるとともに、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出し、算出された前記勾配に対応して前記実車両の姿勢を合わせるように、前記昇降機構を介して前記ローラー台を昇降させる制御部と、を備えることを特徴とする請求項2又は3に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項6】
前記ローラーの回転から前記実車両の速度を検出する車両速度検出部と、
前記仮想道路の映像を表示するディスプレーと、
前記車両速度検出部で検出された速度に対応して変化する前記仮想道路の映像を前記ディスプレーに表示させるとともに、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出する映像処理部と、
前記映像処理部で算出された前記勾配に対応して前記実車両の姿勢を合わせるように、前記昇降機構を介して前記ローラー台を昇降させる制御部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項7】
前記ローラーの回転から前記実車両の速度を検出する車両速度検出部と、
前記ローラー台の水平回転量を検出する車両回転量検出部と、
前記仮想道路の映像を表示するディスプレーと、
前記車両速度検出部及び車両回転量検出部で検出された速度と水平回転量に対応して変化する前記仮想道路の映像を前記ディスプレーに表示させるとともに、表示された映像内の仮想道路の勾配を算出する映像処理部と、
前記映像処理部で算出された前記勾配に対応して前記実車両の姿勢を合わせるように、前記昇降機構を介して前記ローラー台を昇降させる制御部と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の運転シミュレーション装置。
【請求項8】
前記車両速度検出部で検出された速度に対応した強さの風を前記実車両に送る送風装置をさらに備えることを特徴とする請求項4乃至7のうちいずれか一つに記載の運転シミュレーション装置。
【請求項9】
前記ディスプレーに表示される映像内で発生する音を出力するスピーカーをさらに備えることを特徴とする請求項4乃至8のうちいずれか一つに記載の運転シミュレーション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−133695(P2011−133695A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−293571(P2009−293571)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(806000011)財団法人岡山県産業振興財団 (12)