説明

過塩素酸イオン含有水の処理装置および過塩素酸イオン含有水の処理方法

【課題】過塩素酸イオン含有水の処理において、過塩素酸イオンの処理を効率的に行うことができる過塩素酸イオン含有水の処理装置を提供する。
【解決手段】過塩素酸イオン含有水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行うための嫌気性生物処理手段と、嫌気性生物処理手段により生物処理された嫌気性生物処理水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行うための吸着処理手段と、を有する過塩素酸イオン含有水の処理装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過塩素酸イオン含有水の処理装置および過塩素酸イオン含有水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過塩素酸イオンは、水溶性の陰イオンであり、水に対する溶解度が高く、また非常に安定性の高い物質であるために分解されにくい。過塩素酸イオンは、通常、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸アンモニウム等の過塩素酸塩あるいは過塩素酸の形態で生産および使用される。過塩素酸イオンは、ロケット等の推進剤の他に、火薬、花火、マッチ等、様々な製品に使用される。このような過塩素酸イオンを用いた製品の製造工程等において、過塩素酸イオンを含む過塩素酸イオン含有水が発生する。過塩素酸イオンは、通常の浄水処理では分解、除去しがたい物質であり、これまで過塩素酸イオンの分解、除去方法について様々な検討が行われている。
【0003】
過塩素酸イオンを含む過塩素酸イオン含有水の処理方法としては、例えば、特許文献1に記載されているような、嫌気性条件下で微生物の働きによって過塩素酸イオンを還元処理する生物処理方法や、特許文献2に記載されているような、イオン交換樹脂によって過塩素酸イオンを除去する方法が知られている。
【0004】
特許文献1のような生物処理方法は、高濃度の過塩素酸イオンを低減するには有効な技術であるが、生物処理の特性上、その分解率および処理水の水質には自ずと限界があり、また、流入する被処理水の水質やpH、水温等の要因により処理性能が不安定となりやすい。
【0005】
特許文献2のようなイオン交換樹脂による除去方法は、低濃度の過塩素酸イオン含有水まで処理することが可能であるが、吸着処理であるため、過塩素酸イオンを分解することはできない。また、イオン交換樹脂の吸着容量には限界があるため、吸着量が飽和に達する前にイオン交換樹脂を交換、廃棄処分するか、再生を行う必要がある。しかし、流入する被処理水の過塩素酸イオン濃度が高いほど、少ない処理量で吸着量が飽和に達してしまう。また、イオン交換樹脂を交換、廃棄処分するには多大なコストがかかり、交換作業にも労力を必要とする。イオン交換樹脂を再生する場合、イオン交換樹脂に対する過塩素酸イオンの親和性が非常に高いため、通常10%程度の非常に高濃度の塩化ナトリウム溶液等の再生液を必要とし、再生処理で発生する高濃度の過塩素酸イオンを含有する再生排水の処分が別途必要となる。
【0006】
非特許文献1では、これらの問題を考慮して、イオン交換樹脂の再生排水を生物処理することを想定し、再生液の塩濃度による過塩素酸イオン還元微生物への阻害の影響を検討している。0.5%の塩化ナトリウム濃度では生物処理活性は約30%低下し、1.0%の塩化ナトリウム濃度では約40%低下することが報告されている。イオン交換樹脂の再生排水には通常6%程度の高濃度の塩化ナトリウムが含まれることから、再生排水の生物処理が困難であることが言及されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4160225号公報
【特許文献2】特開2004−346299号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Tina M.Gingras and R.Batista,J.Environmen.Monit.,4,p.96−101(2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、過塩素酸イオン含有水の処理において、過塩素酸イオンの処理を効率的に行うことができる過塩素酸イオン含有水の処理装置および過塩素酸イオン含有水の処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、過塩素酸イオン含有水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行うための嫌気性生物処理手段と、前記嫌気性生物処理手段により生物処理された嫌気性生物処理水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行うための吸着処理手段と、を有する過塩素酸イオン含有水の処理装置である。
【0011】
また、前記過塩素酸イオン含有水の処理装置において、前記アニオン交換樹脂を再生する再生手段と、前記再生手段による再生により発生した再生排水を前記嫌気性生物処理手段へ返送する再生排水返送手段と、を有することが好ましい。
【0012】
また、本発明は、過塩素酸イオン含有水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行うための吸着処理手段と、前記アニオン交換樹脂を再生する再生手段と、前記再生手段による再生により発生した再生排水を希釈する希釈手段と、前記希釈手段により希釈された希釈再生排水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行うための嫌気性生物処理手段と、を有する過塩素酸イオン含有水の処理装置である。
【0013】
また、前記過塩素酸イオン含有水の処理装置において、前記嫌気性生物処理手段により生物処理された生物処理再生排水を前記吸着処理手段へ返送する生物処理再生排水返送手段を有することが好ましい。
【0014】
また、本発明は、過塩素酸イオン含有水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行う嫌気性生物処理工程と、前記嫌気性生物処理工程において生物処理された嫌気性生物処理水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行う吸着処理工程と、を含む過塩素酸イオン含有水の処理方法である。
【0015】
また、前記過塩素酸イオン含有水の処理方法において、前記アニオン交換樹脂を再生する再生工程と、前記再生工程における再生により発生した再生排水を前記生物処理工程へ返送する再生排水返送工程と、を含むことが好ましい。
【0016】
また、本発明は、過塩素酸イオン含有水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行う吸着処理工程と、前記アニオン交換樹脂を再生する再生工程と、前記再生工程における再生により発生した再生排水を希釈する希釈工程と、前記希釈工程において希釈された希釈再生排水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行う嫌気性生物処理工程と、を含む過塩素酸イオン含有水の処理方法である。
【0017】
また、前記過塩素酸イオン含有水の処理方法において、前記嫌気性生物処理工程において生物処理された生物処理再生排水を前記吸着処理工程へ返送する生物処理再生排水返送工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、過塩素酸イオン含有水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行い、この嫌気性生物処理水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行うことにより、過塩素酸イオンの処理を効率的に行うことができる過塩素酸イオン含有水の処理装置および過塩素酸イオン含有水の処理方法を提供することができる。
【0019】
また、本発明では、過塩素酸イオン含有水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行い、アニオン交換樹脂の再生により発生した再生排水を希釈した希釈再生排水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行うことにより、過塩素酸イオンの処理を効率的に行うことができる過塩素酸イオン含有水の処理装置および過塩素酸イオン含有水の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る過塩素酸イオン含有水の処理装置の構成の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る過塩素酸イオン含有水の処理装置の構成の他の例を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係る過塩素酸イオン含有水の処理装置の構成の他の例を示す概略図である。
【図4】本発明の参考例における原水および嫌気性生物処理水の過塩素酸イオン濃度を示す図である。
【図5】本発明の参考例における過塩素酸イオンの容積負荷および除去速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明の実施形態に係る過塩素酸イオン含有水の処理装置の一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。過塩素酸イオン含有水処理装置1は、嫌気性生物処理手段としての嫌気性生物処理槽10と、吸着処理手段としてのアニオン交換処理装置12とを備える。
【0023】
図1の過塩素酸イオン含有水処理装置1において、原水配管14が嫌気性生物処理槽10の入口に接続され、嫌気性生物処理水配管16により嫌気性生物処理槽10の出口とアニオン交換処理装置12の入口とが接続され、処理水配管18がアニオン交換処理装置12の出口に接続されている。また、再生手段としての再生薬品配管20がアニオン交換処理装置12の再生薬品入口に接続され、再生排水返送手段としての再生排水返送配管22によりアニオン交換処理装置12の再生排水出口と原水配管14とが接続されていてもよい。嫌気性生物処理槽10には、撹拌手段としてモータ等の回転駆動手段および撹拌羽根等を有する撹拌装置24が設置されていてもよい。再生排水返送配管22の途中には再生排水貯槽が設けられ、嫌気性生物処理槽10へ導入される再生排水の量が調整されてもよい。
【0024】
本実施形態に係る過塩素酸イオン含有水の処理方法および過塩素酸イオン含有水処理装置1の動作について説明する。
【0025】
過塩素酸イオンを含有する原水(過塩素酸イオン含有水)は、必要に応じて原水槽に貯留された後、原水配管14を通して嫌気性生物処理槽10に導入される。嫌気性生物処理槽10において、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理が行われる(嫌気性生物処理工程)。
【0026】
処理対象となる過塩素酸イオン含有水中の過塩素酸イオンの濃度としては、特に制限はないが、例えば、1mg/L以上であり、1mg/L〜10,000mg/Lの範囲である。特に、10mg/L以上の比較的高濃度の過塩素酸イオンを含有する過塩素酸イオン含有水の処理に有効である。
【0027】
嫌気性生物処理槽10において、過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元に利用する有機物として、酢酸等の有機酸類、エタノール、メタノール、イソプロパノール等のアルコール類等のうちの1つまたは複数が添加されることが好ましい。これらのうち、反応速度が速い等の点から酢酸やエタノールが好ましい。
【0028】
嫌気性生物処理槽10における水温は、例えば、20℃〜40℃の範囲に維持される。
【0029】
過塩素酸イオンの還元に伴い、pHが低下する場合は、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の中和用のアルカリ剤が適宜添加されて、嫌気性生物処理槽10においてpH6.0〜8.0の範囲に維持されることが好ましい。
【0030】
過塩素酸イオン還元微生物としては、過塩素酸イオンを還元することができるものであればよく、特に制限はない。
【0031】
なお、嫌気性生物処理槽10において、原水中に硝酸イオン等が共存する場合には、脱窒菌等の働きによって窒素ガスに、硫酸イオン等が共存する場合には、硫酸還元菌等の働きによって硫化水素に還元することもできる。
【0032】
嫌気性生物処理槽10において、流動性担体が投入され、過塩素酸イオン還元微生物が担体に保持されてもよい。
【0033】
嫌気性生物処理槽10において、通常、原水は撹拌装置24等により撹拌され、過塩素酸イオン還元微生物、または過塩素酸イオン還元微生物が保持された担体が槽内で流動され、原水と接触される。
【0034】
過塩素酸イオン還元微生物の保持手段としては、流動床方式に限らず、固定床方式、活性汚泥法や膜分離活性汚泥法等、いずれの方式のものであってもよい。
【0035】
嫌気性生物処理槽10において、過塩素酸イオン還元微生物の活性を高め、良好な嫌気性生物処理水質を得るために、原水にモリブデン化合物が添加されることが好ましい。これにより、過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元速度が向上される。特に、100mg/L以上の高濃度の過塩素酸イオンを含有する過塩素酸イオン含有水の処理に有効である。
【0036】
モリブデン化合物は、嫌気性生物処理槽10に直接添加されてもよいし、嫌気性生物処理槽10の前段側、例えば、原水配管14において添加されてもよいし、原水を貯留する原水槽において添加されてもよい。
【0037】
モリブデン化合物としては、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸アンモニウム等のモリブデンの塩等が挙げられる。モリブデン化合物の形態としては、特に制限はないが、例えば溶液の状態であれば、過塩素酸イオン還元微生物が利用しやすく、例えば、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム等の水溶液が予め調製されて、添加されることが好ましい。
【0038】
モリブデン化合物の添加量は、原水の過塩素酸イオンの濃度に比例した量として過不足ないように調製されることが好ましく、過塩素酸1gあたりのモリブデンの添加量として、例えば、0.05mg−Mo/g−ClO以上、0.05mg−Mo/g−ClO〜1mg−Mo/g−ClOの範囲である。処理対象となる過塩素酸イオンの濃度が100〜10,000mg/Lの場合、モリブデン添加量は0.005〜0.5mgMo/Lの範囲が好ましい。
【0039】
嫌気性生物処理槽10において、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物の働きによって、過塩素酸イオンが還元処理される。しかし、嫌気性生物処理工程における過塩素酸イオンの除去率には限界があり、1ppm〜10ppm程度の過塩素酸イオンが嫌気性生物処理水中に残留してしまう場合がある。
【0040】
そこで、嫌気性生物処理工程において嫌気性生物処理された嫌気性生物処理水は、嫌気性生物処理水配管16を通してアニオン交換処理装置12に導入される。アニオン交換処理装置12において、アニオン交換樹脂に通水されることにより残留した過塩素酸イオンの吸着処理が行われる(吸着処理工程)。
【0041】
過塩素酸イオンは、嫌気性生物処理槽10において1ppm〜10ppmにまで低減されており、アニオン交換樹脂への負荷が減じられている。残留する過塩素酸イオンは、アニオン交換樹脂に吸着除去され、過塩素酸イオン濃度が200ppb以下の低濃度の処理水を得ることができる。
【0042】
アニオン交換樹脂としては、特に制限はないが、弱塩基性アニオン交換樹脂を用いる場合には、pHが中性であると過塩素酸イオンの吸着が不十分となることがあるので、塩酸や硫酸を添加して、あらかじめpHを酸性に調整する、あるいは、前段に設置した強酸性カチオン交換樹脂に通液して、やはりpHを酸性とした後に通液するといった操作が必要となる場合がある。一方、強塩基性アニオン交換樹脂であれば、pHが中性でも十分に過塩素酸イオンを吸着するので、単独で処理することができ、好ましい。このような強塩基性アニオン交換樹脂としては、例えば、アンバーライトIRA402BL(ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0043】
アニオン交換樹脂が飽和状態に達する前の適切なタイミングで、アニオン交換樹脂を再生する再生処理が行われてもよい(再生工程)。再生処理を行うタイミングは、通常、アニオン交換樹脂量の1,000〜100,000倍量程度の被処理水(嫌気性生物処理水)が通液された時点となる。
【0044】
アニオン交換樹脂の再生処理は、通常、再生薬品等がアニオン交換樹脂に通液されることにより行われる。再生処理において用いられる再生薬品としては、例えば、塩化ナトリウム溶液等の溶液が用いられる。溶液の濃度は、例えば、3%〜15%程度の高濃度のものが用いられる。
【0045】
この塩化ナトリウム溶液等の再生薬品がアニオン交換樹脂に通液された後、押し出し、再生された結果、生じる再生排水には通常、1%以上の塩化ナトリウム等の塩が含まれる。再生排水の量は、例えば、アニオン交換樹脂量の10倍〜30倍程度となる。
【0046】
この再生排水は嫌気性生物処理工程へ返送、還流されてもよい(再生排水返送工程)。再生排水は、嫌気性生物処理槽10の前段側、例えば、原水配管14の途中に返送されて、嫌気性生物処理工程へ返送されればよい。
【0047】
再生排水の返送は、原水の流入量に対して、できるだけ平均的に返送されることが好ましく、流量比から原水によって10倍〜1,000倍程度に希釈されることが好ましい。
【0048】
再生排水ができるだけ平均的に返送されるために、再生排水は再生排水槽等に一旦貯留され、返送される流量を原水の流量に対して、所定の希釈倍率になるように適宜設定されればよい。
【0049】
本実施形態において、原水として流入される過塩素酸イオンのうち、大部分が嫌気性生物処理槽10において過塩素酸イオン還元微生物によって還元処理される。また、嫌気性生物処理槽10内では、共存する陰イオンである硝酸イオンや硫酸イオン等も同じく嫌気性微生物の働きによって、還元除去される。そして、残留した過塩素酸イオンがアニオン交換樹脂によって吸着処理されることで、低濃度の処理水が得られる。
【0050】
すなわち、生物処理単独では得られない処理水質が安定して得られるとともに、アニオン交換樹脂への負荷を低減することができ、アニオン交換樹脂の容量が飽和するまでの通液量を大きくすることができる。その結果、省力化、再生薬品使用量の低減、アニオン交換樹脂の交換頻度低減を図ることができ、過塩素酸イオンの処理を効率的に行うことができる。
【0051】
再生排液は通常、高濃度の塩を含み、微生物の活性を著しく損なうことがあるから、再生排液の生物処理を直接行うことは困難である。再生排水を嫌気性生物処理工程へ返送することにより、再生排水は原水によって希釈されることになるので、塩濃度を低減することができ、微生物活性をほとんど損なうことなく、再生排水を処理することができる。
【0052】
また、本実施形態に係る過塩素酸イオン含有水の処理装置および過塩素酸イオン含有水の処理方法によれば、本装置内で過塩素酸イオンを分解することができるので、飽和したイオン交換樹脂の破棄処分を行わなくても、再生を行うことで繰り返し利用可能となる。
【0053】
本発明の実施形態に係る過塩素酸イオン含有水の処理装置の他の例の概略を図2に示し、その構成について説明する。過塩素酸イオン含有水処理装置3は、嫌気性生物処理手段としての嫌気性生物処理槽10と、吸着処理手段としてのアニオン交換処理装置12とを備える。
【0054】
図2の過塩素酸イオン含有水処理装置3において、原水配管14がアニオン交換処理装置12の入口に接続され、処理水配管18がアニオン交換処理装置12の出口に接続されている。また、再生手段としての再生薬品配管20がアニオン交換処理装置12の再生薬品入口に接続され、再生排水配管26によりアニオン交換処理装置12の再生排水出口と嫌気性生物処理槽10の入口とが接続され、希釈手段としての希釈水配管30が嫌気性生物処理槽10の希釈水入口に接続されている。生物処理再生排水返送手段としての生物処理再生排水返送配管28により嫌気性生物処理槽10の出口と原水配管14とが接続されていてもよい。嫌気性生物処理槽10には、撹拌手段としてモータ等の回転駆動手段および撹拌羽根等を有する撹拌装置24が設置されていてもよい。再生排水配管26の途中には再生排水貯槽が設けられ、嫌気性生物処理槽10へ導入される再生排水の量が調整されてもよい。
【0055】
過塩素酸イオンを含有する原水(過塩素酸イオン含有水)は、必要に応じて原水槽に貯留された後、原水配管14を通してアニオン交換処理装置12に導入される。アニオン交換処理装置12において、アニオン交換樹脂に通水されることにより過塩素酸イオンの吸着処理が行われる(吸着処理工程)。
【0056】
処理対象となる過塩素酸イオン含有水中の過塩素酸イオンの濃度としては、特に制限はないが、例えば、100mg/L未満であり、1mg/L〜100mg/L未満の範囲である。特に、10mg/L未満の比較的低濃度の過塩素酸イオンを含有する過塩素酸イオン含有水については生物処理が有効に機能しがたいため、このような過塩素酸イオン含有水の処理に有効である。
【0057】
アニオン交換樹脂が飽和状態に達する前の適切なタイミングで、再生薬品等がアニオン交換樹脂に通液されることにより、アニオン交換樹脂を再生する再生処理が行われる(再生工程)。再生処理を行うタイミングは、通常、アニオン交換樹脂量の1,000〜100,000倍量程度の原水(過塩素酸イオン含有水)が通液された時点となる。
【0058】
この再生排水は、再生排水配管26を通して嫌気性生物処理槽10に導入される。また、希釈水が希釈水配管30を通して嫌気性生物処理槽10に導入され、再生排水が希釈される(希釈工程)。なお、再生排水の希釈は、別途、希釈槽等を設けて、希釈槽等において行われてもよい。この希釈された希釈再生排水について、嫌気性生物処理槽10において、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理が行われる(嫌気性生物処理工程)。生物処理された生物処理再生排水は、生物処理再生排水返送配管28を通して、アニオン交換処理装置12の前段側、例えば、原水配管14の途中に返送されてもよい(生物処理再生排水返送工程)。
【0059】
これにより、過塩素酸イオン還元微生物の微生物活性を損なわない塩濃度に再生排水を希釈することができ、安定して再生排液を処理することができる。ここで、希釈水は、水道水や工業用水等、塩濃度が低く、微生物への影響が少ない水を用いればよい。また、例えば、原水配管14を分岐して嫌気性生物処理槽10の希釈水入口に接続して、原水の一部を希釈水として用いることにより、使用水量を低減することができる。このとき、原水の過塩素酸イオンの濃度等に応じて、アニオン交換処理装置12への流入量と、嫌気性生物処理槽10への希釈水としての流入量とを調整してもよい。
【0060】
また、生物処理再生排水では、再生排水中の過塩素酸イオンが分解されているため、嫌気性生物処理工程において生物処理された生物処理再生排水がアニオン交換処理装置12の前段側へ返送されて、吸着処理工程へ返送されることが可能となり、過塩素酸イオンの処理を効率的に行うことができる。
【0061】
図1に示す過塩素酸イオン含有水処理装置1において、嫌気性生物処理槽10とアニオン交換処理装置12との間、すなわち嫌気性生物処理槽10の後段側でアニオン交換処理装置12の前段側に好気性生物処理手段として好気性生物処理槽を備えてもよい。そのような処理装置の構成の一例の概略を図3に示す。
【0062】
図3の過塩素酸イオン含有水処理装置5において、原水配管14が嫌気性生物処理槽10の入口に接続され、嫌気性生物処理水配管16により嫌気性生物処理槽10の出口と好気性生物処理槽32の入口とが接続され、好気性生物処理水配管38により好気性生物処理槽32の出口と凝集加圧浮上装置34の入口とが接続され、凝集処理水配管40により凝集加圧浮上装置34の出口と砂濾過装置36の入口とが接続され、砂濾過処理水配管42により砂濾過装置36の出口とアニオン交換処理装置12の入口とが接続され、処理水配管18がアニオン交換処理装置12の出口に接続されている。また、再生手段としての再生薬品配管20がアニオン交換処理装置12の再生薬品入口に接続され、再生排水返送手段としての再生排水返送配管22によりアニオン交換処理装置12の再生排水出口と原水配管14とが接続されていてもよい。再生排水返送配管22の途中には再生排水貯槽が設けられ、嫌気性生物処理槽10へ導入される再生排水の量が調整されてもよい。
【0063】
図1の塩素酸イオン含有水処理装置1と同様に、嫌気性生物処理槽10において、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理が行われる(嫌気性生物処理工程)。嫌気性生物処理水は、嫌気性生物処理水配管16を通して好気性生物処理槽32に導入され、好気性条件にて残留する有機物の分解処理が行われる(好気性生物処理工程)。原水中にアンモニア等の窒素化合物が含まれる場合には、硝化菌の働きによって硝酸が生じるので、好気性生物処理槽32の好気性生物処理水の少なくとも一部を嫌気性生物処理槽10へ循環返送して、硝酸等の除去が行われてもよい。
【0064】
好気性生物処理槽32において、流動性担体が投入され、微生物が担体に保持されてもよい。
【0065】
好気性生物処理槽32において、通常、被処理水(嫌気性生物処理水)は曝気装置等により曝気撹拌され、微生物が保持された担体が槽内で流動され、被処理水と接触される。
【0066】
微生物の保持手段としては、流動床方式に限らず、固定床方式、活性汚泥法や膜分離活性汚泥法等、いずれの方式のものであってもよい。
【0067】
好気性生物処理水には、増殖した微生物に由来する濁質等が含まれるので、凝集加圧浮上装置34による凝集加圧浮上処理、砂濾過装置36による砂濾過処理等によって除濁処理されてもよい。除濁処理としては、膜処理等の方法を用いてもよい。
【0068】
除濁処理された砂濾過処理水について、図1の塩素酸イオン含有水処理装置1と同様に、アニオン交換処理装置12においてアニオン交換樹脂に通水されることにより過塩素酸イオンの吸着処理が行われる(吸着処理工程)。
【0069】
このようにして、好気性生物処理、凝集加圧浮上処理、砂濾過処理等を行うことにより、処理水質がより向上する。
【0070】
<参考例1>
過塩素酸イオンを含有する原水(過塩素酸イオン含有水)にモリブデン化合物を添加して嫌気性生物処理を行った実験結果を以下に示す。
【0071】
[試験条件]
嫌気性生物処理槽容量:2L
微生物保持用担体:ポリビニルアルコールゲル状担体
担体充填率:20%(かさ容量/槽容量)
供試原水:井水に過塩素酸ナトリウムを過塩素酸イオン濃度100〜300mg/L相当量添加し、必須栄養素として窒素、リンを添加したものを模擬排水とした。
過塩素酸イオン還元微生物の基質となる有機物としてエタノールを過塩素酸イオン濃度の2倍量添加した。
嫌気性生物処理槽内の水温:20〜25℃
嫌気性生物処理槽内のpH:7〜8に維持
【0072】
原水の過塩素酸イオン濃度を100mg/Lとして通水を開始した。徐々に嫌気性生物処理水の過塩素酸イオン濃度が低下し、10mg/L以下となった。65日目より、原水の過塩素酸イオン濃度を150mg/Lに上昇させて通水したところ、嫌気性生物処理水の過塩素酸イオン濃度が50mg/L程度に残留し、良化が認められなかった。このとき、処理速度は5mg−ClO/L/h程度に留まった。95日目以降、原水にモリブデン化合物としてモリブデン酸ナトリウムをモリブデン量として0.02mg/L添加したところ、嫌気性生物処理水の水質が急激に良化し、その後、容積負荷を上昇させるのに合わせて、処理速度は飛躍的に上昇した。モリブデン化合物添加前の20倍以上となる、100mg−ClO/L/h以上の処理速度となった。図4に原水および嫌気性生物処理水の過塩素酸イオン濃度を示し、図5に、過塩素酸イオンの容積負荷および除去速度を示す。
【符号の説明】
【0073】
1,3,5 過塩素酸イオン含有水処理装置、10 嫌気性生物処理槽、12 アニオン交換処理装置、14 原水配管、16 嫌気性生物処理水配管、18 処理水配管、20 再生薬品配管、22 再生排水返送配管、24 撹拌装置、26 再生排水配管、28 生物処理再生排水返送配管、30 希釈水配管、32 好気性生物処理槽、34 凝集加圧浮上装置、36 砂濾過装置、38 好気性生物処理水配管、40 凝集処理水配管、42 砂濾過処理水配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過塩素酸イオン含有水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行うための嫌気性生物処理手段と、
前記嫌気性生物処理手段により生物処理された嫌気性生物処理水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行うための吸着処理手段と、
を有することを特徴とする過塩素酸イオン含有水の処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の過塩素酸イオン含有水の処理装置であって、
前記アニオン交換樹脂を再生する再生手段と、
前記再生手段による再生により発生した再生排水を前記嫌気性生物処理手段へ返送する再生排水返送手段と、
を有することを特徴とする過塩素酸イオン含有水の処理装置。
【請求項3】
過塩素酸イオン含有水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行うための吸着処理手段と、
前記アニオン交換樹脂を再生する再生手段と、
前記再生手段による再生により発生した再生排水を希釈する希釈手段と、
前記希釈手段により希釈された希釈再生排水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行うための嫌気性生物処理手段と、
を有することを特徴とする過塩素酸イオン含有水の処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の過塩素酸イオン含有水の処理装置であって、
前記嫌気性生物処理手段により生物処理された生物処理再生排水を前記吸着処理手段へ返送する生物処理再生排水返送手段を有することを特徴とする過塩素酸イオン含有水の処理装置。
【請求項5】
過塩素酸イオン含有水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行う嫌気性生物処理工程と、
前記嫌気性生物処理工程において生物処理された嫌気性生物処理水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行う吸着処理工程と、
を含むことを特徴とする過塩素酸イオン含有水の処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の過塩素酸イオン含有水の処理方法であって、
前記アニオン交換樹脂を再生する再生工程と、
前記再生工程における再生により発生した再生排水を前記嫌気性生物処理工程へ返送する再生排水返送工程と、
を含むことを特徴とする過塩素酸イオン含有水の処理方法。
【請求項7】
過塩素酸イオン含有水について、アニオン交換樹脂による過塩素酸イオンの吸着処理を行う吸着処理工程と、
前記アニオン交換樹脂を再生する再生工程と、
前記再生工程における再生により発生した再生排水を希釈する希釈工程と、
前記希釈工程において希釈された希釈再生排水について、嫌気性条件にて過塩素酸イオン還元微生物による過塩素酸イオンの還元処理を行う嫌気性生物処理工程と、
を含むことを特徴とする過塩素酸イオン含有水の処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の過塩素酸イオン含有水の処理方法であって、
前記嫌気性生物処理工程において生物処理された生物処理再生排水を前記吸着処理工程へ返送する生物処理再生排水返送工程を含むことを特徴とする過塩素酸イオン含有水の処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−586(P2012−586A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139191(P2010−139191)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】