説明

過酸化水素を含有するリン酸塩処理液で金属表面を被覆する方法および溶液、製造された金属物品および該物品の使用

本発明は、亜鉛およびリン酸塩を含有する、酸性の水溶液により金属物品の表面を処理または前処理する方法に関し、この場合、リン酸塩処理液は亜鉛を0.1〜10g/L、リン酸塩をPOとして計算して4〜50g/L、少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物をニトログアニジンとして計算して0.03〜3g/L、および過酸化水素を0.001〜0.9g/L含有し、かつ80℃より低い温度を有する。本発明は相応する酸性の水性組成物にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素とならんで少なくとも1のグアニジン化合物、たとえばニトログアニジンを含有するリン酸塩処理液で金属表面を被覆する方法、相応するリン酸処理液ならびに本発明による方法により被覆された物品の使用に関する。
【0002】
従来技術
金属製の物品上にリン酸塩層を形成することは数十年来まさに種々の組成で利用されている。第一にこの被覆は腐食に対する保護として、およびその後に続く層、たとえば塗膜の接着強度を高めるために役立つ。この場合、リン酸塩層はしばしば1〜30μmの範囲の層厚さを有する。
【0003】
リン酸塩被覆は広い範囲で腐食保護層として、塗料およびその他の層のためのプライマーとして、ならびに場合により変形加工の補助としてその後に施与される滑剤層の下で冷間成形のために、あるいはまた自動的なネジ止めのための特殊なネジの回転モーメントを調節するための被覆としても使用される。特にリン酸塩被覆を短時間、とりわけ貯蔵の保護として使用し、かつその後にたとえば塗装する場合、これは塗装の前の前処理層とよばれる。しかしリン酸塩被覆上に塗膜およびその他の有機被覆を行わない場合、前処理ではなく、処理といわれる。この被覆は、少なくとも1のカチオンが金属表面から、つまり金属製の物品の表面から溶出し、かつ層構造に併用される場合には化成層ともよばれる。
【0004】
リン酸塩層による金属表面の被覆は多様な方法で行うことができる。この場合、しばしば亜鉛、マンガンおよび/またはニッケルを含有するリン酸塩処理液が使用される。浴もしくは装置中で被覆される金属製の支持体の表面上の一部は、場合により問題を生じうるアルミニウムもしくはアルミニウム合金の割合を有していることがある。リン酸塩層は多くの場合、少なくとも1のその後に施与される塗膜もしくは塗料に類似の被覆と一緒に良好な腐食保護および良好な塗料付着性を有しているべきである。1以上のリン酸塩層を施与する場合、たいていは前リン酸塩処理および後リン酸塩処理とよばれる。異なった金属表面を有する支持体を同時にリン酸塩処理することは重要である。特にアルミニウム含有表面の割合はこのような系中で成長するので、このような系におけるリン酸塩処理の場合、前よりもより容易に、および頻繁に問題を生じる。
【0005】
リン酸塩処理液中の高い重金属含有率、たとえばニッケルは必然的に廃水中、リン酸塩スラッジ中および研磨ダスト中の高い重金属含有率につながり、毒性および環境との非相容性に基づいて是認しがたい。従ってニッケルを含有しないか、または少なくともニッケルの少ないリン酸塩処理液を用いて作業をするという多数の構成が存在する。しかしこれらのリン酸塩処理液はこれまで広い範囲で使用されておらず、しばしばニッケルが富化されたリン酸塩処理法と比較してなお明らかな欠点を有する。自動車産業ではこれまでわずかなニッケル含有率でリン酸塩処理する場合、変動する塗料付着性により時折問題が生じるため、この試みはそれ以上実施されなかった。さらに毒性の重金属、たとえばカドミウムおよびクロムを低量であっても回避することも目標とされている。
【0006】
亜鉛−リン酸塩処理の場合、しばしば硝酸塩および亜硝酸塩による促進が選択される。この場合、部分的に硝酸塩のみを添加する必要がある。というのも、ここから独立的にレドックス反応によりわずかな亜硝酸塩含有率が形成されるからである。このようなリン酸塩処理系はしばしば良好であり、かつ安価である。硝酸塩および亜硝酸塩を添加するリン酸塩処理系は特にアルミニウムの多い表面のために特に有利である。しかしこのようなリン酸塩処理系は、その際に利用される高い硝酸塩含有率が多くの場合、約3〜15g/L硝酸塩の高さに維持され、かつこのことによって廃水が著しく負荷されるという欠点を有する。環境に対する要求が厳しくなったことに基づいて、有害な廃水成分をできる限り低減するか、または十分に化学的に処理する必要性が生じる。
【0007】
他方で、促進剤として過酸化水素のみを含有する亜鉛の多いリン酸塩処理液が公知である。環境に優しいという理由のみから促進剤の過酸化水素は理想的である。というのも、過酸化水素は水を形成するにすぎないからである。しかしまた、リン酸亜鉛処理は浸漬法の場合、促進剤として過酸化水素のみを使用する場合には、鋼およびその他の鉄材料の表面上にしばしば極めて薄いリン酸塩層を生じるのみであり、その際、しばしば青色の干渉色を示す。いわゆる非層形成リン酸塩処理よりも若干厚いリン酸塩層を形成し、かつ通常、リン酸亜鉛処理の際に適用されるいわゆる層形成リン酸塩処理の代わりに、非層形成リン酸塩処理の比率が調節される。これに関する詳細は、Werner Rausch、金属のリン酸塩処理(Die Phosphatierung von Metallen)、Saulgau 1988(特に第109〜118頁を参照のこと)に記載されている。このような層は多くの場合、約0.5μmまでの層厚さもしくは約1g/mまでの層質量を有する。このようなリン酸塩層は多くの使用目的のために、特にその耐食性に関して不十分な品質を有している。促進剤の過酸化水素のみを用いて製造されたリン酸塩層は比較的大きなリン酸塩結晶を有するので、比較的粗い、不均一で、かつ平坦ではないリン酸塩層が生じる。この場合、しばしば板状のリン酸塩結晶が現れる。この最も良好な過酸化水素促進リン酸塩処理系においてさえ、10μmより小さいリン酸塩結晶の平均エッジ長さを確実に維持することはできなかった。従ってリン酸塩層中でこのリン酸塩処理系の場合よりも小さいリン酸塩結晶が有利である。
【0008】
他方で、複数の刊行物はニトログアニジンのみ用いるリン酸亜鉛処理を記載している。この場合、薄すぎるリン酸塩層は鋼上に生じない。リン酸塩結晶の平均エッジ長さはしばしば約5〜20μmの範囲であり、かつこの場合、微粒子状の、均一で、平坦なリン酸塩層およびより柔らかい、良好に除去することができるスラッジが可能である。しかし該促進剤を単独で用いるリン酸亜鉛処理はニトログアニジンの比較的高い濃度(部分的には0.5〜3g/Lの範囲)を使用しなくてはならず、リン酸塩処理液中のニトログアニジンは高価な分析、たとえばHPLCによってのみ十分に正確に測定することができるものであり、リン酸塩処理液中で少なくとも約2.8g/Lの含有率の場合、冷却の際に約30℃より低い温度でニトログアニジンが晶出し、かつその場合には利用されずにスラッジ中に富化し、かつ場合によりリン酸塩処理すべき金属表面上に堆積し、かつ塗料の欠陥につながる可能性があり、かつこの場合、ニトログアニジンはリン酸塩処理において突出して高価な成分であるために、この比較的高価な促進剤の高い含有率は明らかにより高い原料コストにつながるという欠点を有する。
【0009】
これらの前記のリン酸塩処理系の場合、通常は約48〜60℃の範囲のリン酸塩処理温度が必要とされる。
【0010】
DE−C32327304はリン酸亜鉛被覆を金属表面上に施与するための促進剤として過酸化水素を、特にリン酸塩処理液中、0.03〜0.12g/Lの含有率であげている。
【0011】
DE−C22739006は亜鉛または亜鉛合金を水性の酸性で硝酸塩およびアンモニウムを含有しないリン酸塩処理液により表面処理する方法を記載しており、該溶液はニッケルおよび/またはコバルトの高い含有率ならびに過酸化水素0.5〜5g/Lおよび場合によりフッ化ホウ素もしくは遊離フッ化物も含有する。実施例ではニッケル2〜6.2g/Lおよび/またはコバルト1〜6.2g/Lの含有率と並んで、過酸化水素1.1〜2g/Lおよび部分的に付加的にフッ化ホウ素4.5g/Lの含有率も有する。
【0012】
EP−B10922123は、金属表面上にリン酸塩層を生じるためのリン酸塩含有水溶液を保護しており、該溶液はリン酸塩、亜鉛0.3〜5g/Lおよびニトログアニジン0.1〜3g/Lを含有する。実施例は0.5〜0.9g/Lのニトログアニジン含有率を有する。
【0013】
DE−A11018552は、亜鉛−リン酸塩処理法を教示しており、この場合、塩素酸塩、亜硝酸塩、ニトロベンゼンスルホン酸塩、ニトロ安息香酸塩、ニトロフェノールもしくは過酸化水素をベースとする化合物、ヒドロキシルアミン、還元糖、有機N−酸化物、たとえばN−メチルモルホリンおよび有機ニトロ化合物、たとえばニトログアニジン、ニトロアルギニンおよびニトロフルフリデンジアセテートから選択される1もしくは複数の促進剤を使用することができる。該リン酸塩処理液のこれらの有機ニトロ化合物の含有率は、その他の促進剤のみを使用するのでない限り、0.5〜5g/Lの範囲である。
【0014】
これらの上記の刊行物および類似の刊行物の場合、リン酸亜鉛処理のために過酸化水素またはニトログアニジンを使用するか、あるいは極めて多数の促進剤からの選択が問題になることが判明した。しかしこの場合、それにもかかわらず、調査した刊行物のいずれも促進剤として過酸化水素とニトログアニジンとを同時に使用する例は記載していない。
【0015】
DE−C977633は実施例中で、第一リン酸亜鉛Zn(HPO)から出発して、一方ではニトログアニジンまたは少なくとも1の他の窒素含有促進剤を、および他方では過酸化水素を同時に含有する亜鉛−リン酸塩処理液を記載している。有機促進剤の濃度はリン酸塩処理浴中で常に1g/L以上に維持すべきである。実施例は明らかに亜鉛約13.5g/L、PO 38g/Lの初期の組成から出発し、かつ実施例1ではニトログアニジン2g/Lおよび過酸化水素2g/Lから、および実施例2ではニトログアニジン1g/LおよびH 2g/Lから、実施例3ではニトログアニジン3g/LおよびH 1g/Lから、もしくは実施例4ではニトログアニジン2.3g/Lおよび詳細には記載されていない高い過酸化水素含有率から出発している。この場合、通常とは異なった高い温度、85もしくは95℃で、作業している。しかし作業温度を60℃に低下させると、リン酸塩処理のためにすでに今日の関係にとっては認容することができない10分という時間が必要とされていた。該特許文献中であげられている使用の平均値は過酸化水素に関して、本出願の本発明による方法の場合よりも約4倍高く、ニトログアニジンに関して本発明による方法の場合よりも36倍高い。
【0016】
特許出願DE10320313の対象を、特に組成、方法工程、実施例および適用に関して明文をもって本出願に取り入れる。
課題の設定
従って、リン酸塩処理の廃水の窒素負荷を特にわずかに維持することができ、かつアルミニウムを含有する表面の割合が低いおよび高い被覆のためにも適切な、金属表面をリン酸塩処理する方法を提供するという課題が生じた。この場合に形成されるリン酸塩層は閉じた、微粒子状の結晶(平均エッジ長さ20μm未満)であり、かつ少なくとも組成の一部は十分に高い耐食性を有し、かつ十分に良好な塗料付着性を有するべきである。この方法はできる限り簡単で、かつ確実に使用することができるべきである。
【0017】
意外にも、過酸化水素を含有するリン酸塩処理液にニトログアニジンを添加することによってリン酸塩層が明らかにより厚く、かつより耐食性に形成されることが判明した。この場合、鉄材料の表面上で特に1.5〜3g/mの範囲の層質量が形成され、アルミニウムの多い材料上では特に1〜6g/mの範囲の層質量が、および亜鉛の多い材料の表面上では特に2〜6g/mの範囲の層質量が形成される。噴霧および/または浸漬によるリン酸塩処理液との接触の際に、少なくともこの場合には0.8〜8g/mが達成される。いわゆる無洗浄法、たとえばベルト法では、ロール塗布および乾燥によりさらにより厚いリン酸塩層を得ることができる。
【0018】
反対に、ニトログアニジンを含有するリン酸塩処理液に過酸化水素を添加することによって、リン酸塩層は、リン酸塩処理法およびリン酸塩層の同一の品質において明らかにより安価に形成されたことが確認された。この場合、ニトログアニジンと過酸化水素の利点を組み合わせることができる。
【0019】
前記課題は、金属製の物品、たとえば金属表面を有し、場合によりこれらの表面の一部がアルミニウムおよび/または少なくとも1のアルミニウム合金からなっており、かつ場合により主として鉄合金、亜鉛および/または亜鉛合金からなる別の金属表面からなっている場合がある部材、異形材、ベルトおよび/またはワイヤの表面を、亜鉛およびリン酸塩を含有する酸性の水溶液により処理または前処理する方法により解決され、この方法では、リン酸塩処理液が、
− 亜鉛0.1〜10g/L、
− リン酸塩、POとして計算して4〜50g/L、
− 少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物、ニトログアニジンとして計算して0.03〜3g/L、および
− 過酸化水素0.001〜0.9g/L
を含有し、80℃より低い温度を有する。
【0020】
意外なことに、少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物、たとえばニトログアニジンおよび過酸化水素がリン酸塩処理液中に同時に存在することが、原料の消費、原料コスト、層の形成およびスラッジの形成に特に有利に作用することが判明した。この場合さらに意外なことは、比較的少ないグアニジン化合物および過酸化水素の含有率で、高価な被覆結果を得ることさえ可能であることが意外であった。
【0021】
ここで特にリン酸塩処理液とよばれる酸性の水性組成物、あるいはまた、所属する相応する濃縮液もしくは所属する補充液は溶液または懸濁液であってもよい。というのも、必然的に発生する沈殿生成物は、溶液から沈殿生成物の一定の割合が浮遊して存在している限り懸濁液となるからである。
【0022】
リン酸塩処理液は有利には亜鉛を少なくとも0.2g/Lまたは0.3g/L、特に有利には少なくとも0.4g/L、とりわけ有利には少なくとも0.5g/L、特に多くの場合には少なくとも0.8g/L、多くの場合、少なくとも1.2g/L、少なくとも1.7g/L、少なくとも2.4g/Lまたは少なくとも4g/L含有する。該溶液は有利には亜鉛を8g/Lまで、特に有利には6.5g/Lまで、とりわけ有利には5g/Lまで、特に多くの場合、4g/Lまで、とりわけ3g/Lまでまたは2g/Lまで含有する。
【0023】
リン酸塩処理液は有利にはリン酸塩を少なくとも5g/L、特に有利には少なくとも7g/L、とりわけ有利には少なくとも10g/L、特に多くの場合、少なくとも14g/L、少なくとも18g/L、少なくとも24g/L、または少なくとも30g/L含有する。該溶液は有利にはリン酸塩を40g/Lまで、特に有利には35g/Lまで、とりわけ有利には30g/Lまで、特に多くの場合25g/Lまで、とりわけ20g/Lまで、または15g/Lまで含有する。亜鉛対リン酸塩の比は有利には1:40の範囲、特に有利には1:30〜1:5の範囲、とりわけ有利には1:20〜1:6の範囲に維持することができる。
【0024】
亜鉛およびリン酸塩の含有率はこの場合、所望の濃度レベルに著しく依存するが、しかし部分的にその他のカチオン、たとえばMnおよび/またはNiの含有率にも依存する。特に亜鉛もしくは亜鉛とマンガンとの含有率はリン酸塩の含有率と相関しうる。亜鉛およびマンガンの全含有率対リン酸塩の比、ならびに亜鉛、マンガンおよびニッケルの全含有率対リン酸塩の比も有利には1:40〜1:3の範囲、特に有利には1:30〜1:3.5の範囲、とりわけ有利には1:20〜1:4の範囲に維持することができる。
【0025】
リン酸塩処理液は有利には少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物、たとえばニトログアニジンおよび/または少なくとも1のアルキルニトログアニジンを少なくとも0.03g/L、特に有利には少なくとも0.05g/L、とりわけ有利には少なくとも0.07g/L、特に少なくとも0.09g/Lまたは少なくとも0.12g/L含有する。該溶液は少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物を有利には2.5g/Lまで、特に有利には2g/Lまで、とりわけ有利には1.5g/Lまで、特に1.2g/L、とりわけ0.8g/Lまで、または0.5g/Lまで含有する。アルキルニトログアニジンとしてたとえばメチルニトログアニジン、エチルニトログアニジン、ブチルニトログアニジンおよび/またはプロピルニトログアニジンを使用することができる。ニトログアニジンからこの場合、有利にはアミノグアニジンが形成される。グアニジン化合物の少なくとも1のニトロ基(NO)は、レドックス反応の範囲で、少なくとも1のアミノ基(NH)へと反応する。このことにより促進剤は酸化剤として作用する。本発明によるリン酸塩処理液中で、強い酸化剤に基づいて実質的に亜硝酸塩は含有されているべきではなく、従って実質的に含硝硫酸ガス(NO)は形成され得ない。
【0026】
リン酸塩処理液は有利には過酸化水素を少なくとも0.001g/L、特に有利には少なくとも0.003g/L、特に有利には少なくとも0.005g/L、特に多くの場合、少なくとも0.01g/L、少なくとも0.05g/L、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.15g/Lまたは少なくとも0.2g/L含有する。該溶液は過酸化水素を有利には0.9g/Lまで、特に有利には0.8g/Lまで、とりわけ有利には0.7g/Lまで、特に多くの場合、0.5g/Lまで、特に0.3g/Lまで、または0.1g/Lまで含有する。実施される試験では過酸化水素の含有率はたとえば0.006g/L、0.0075g/L、0.009g/Lまたは0.011g/Lのオーダーで特に推奨される。この促進剤の高い含有率にもかかわらず、この場合、多くの場合、より良好な結果は生じない。むしろ過酸化水素の含有率に比例してその消費量も上昇する。本発明による方法では、該促進剤の含有率を著しく低下させることが可能である。処理量の試験では過酸化水素含有率は、不連続的な過酸化水素の添加にもかかわらず、数日間にわたって0.01〜0.4の範囲または0.02〜0.3g/Lの範囲に維持することができた。
【0027】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理液のマンガンの含有率は0.1〜10g/Lであり、かつ/またはニッケルの含有率は0.01〜1.8g/Lであってよい。
【0028】
リン酸塩処理液がマンガンを少なくとも0.2g/L、特に有利には少なくとも0.3g/L、とりわけ有利には少なくとも0.4g/L、特に多くの場合、マンガンを少なくとも0.8g/L、少なくとも1.5g/L、少なくとも3g/Lまたは少なくとも6g/L含有することが特に有利である。該溶液は有利にはマンガンを8g/Lまで、特に有利には6g/Lまで、とりわけ有利には4g/Lまで、特に多くの場合、2.5g/Lまで、特に1.5g/Lまで、または1g/Lまで含有する。マンガンを添加することは多くの場合に有利である。
【0029】
亜鉛対マンガンの比率は広い範囲で変更することができる。亜鉛対マンガンの比を1:20〜1:0.05gの範囲に、特に有利には1:10〜1:0.1の範囲、とりわけ有利には1:4〜1:0.2の範囲に維持することは有利でありうる。
【0030】
リン酸塩処理浴中のニッケルの含有率は特に亜鉛を含有する表面との接触の際に有利であり得る。これに対してリン酸塩処理浴中のニッケル含有率は、アルミニウムおよび/または鉄の多い表面の場合には通常、不要である。リン酸塩処理液がニッケルを少なくとも0.02g/L、特に有利には少なくとも0.04g/L、とりわけ有利には少なくとも0.08g/Lまたは少なくとも0.15g/L、特に多くの場合、少なくとも0.2g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、あるいは少なくとも1.5g/L含有することが特に有利である。該溶液はニッケルを有利には1.8g/Lまで、特に有利には1.6g/Lまで、とりわけ有利には1.3g/Lまで、特に多くの場合、1g/Lまで、特に0.75g/Lまで、または0.5g/Lまで含有する。
【0031】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、多くの場合にはリン酸塩処理液のFe2+の含有率は0.005〜1g/Lおよび/または錯化したFe3+の含有率は0.005〜0.5g/Lであってよい。
【0032】
多くの場合、本発明による組成物は過酸化水素の含有率に基づいて、Fe2+を0.2g/Lより多く含有せず、従ってたとえば0.01、0.03、0.05、0.08、0.1、0.14または0.18g/L含有する。さらにリン酸塩処理液は場合により錯化したFe3+を少なくとも0.01g/L、特に有利には少なくとも0.02g/L、とりわけ有利には少なくとも0.03g/L、または少なくとも0.05g/L、特に多くの場合、少なくとも0.08g/Lまたは少なくとも0.1g/L含有していてもよい。該溶液は有利には錯化したFe3+を0.3g/Lまで、特に有利には0.1g/Lまで、とりわけ有利には0.06g/Lまで、特に多くの場合、0.04g/Lまで含有する。しばしば溶解したFeの顕著な含有率は、鉄材料と接触するか、または接触した場合にリン酸塩処理液中に含有されている。それにもかかわらず、溶解したFe3+を特にニッケル鉄材料のリン酸塩処理の際に水性組成物に添加することは有利な場合がある。というのも、この場合、改善されたコンシステンシーのスラッジが形成され、該スラッジは離れやすく、かつより容易に洗浄除去することができるからである。さらにFe2+は良好な酸洗い剤である。通常、本発明による方法の場合、鉄側では作業をしない。というのも、Fe含有率はこのために十分な高さではないからである。
【0033】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理液のナトリウムの含有率は0.04〜20g/L、カリウムの含有率は0.025〜35g/Lおよび/またはアンモニウムの含有率は0.01〜50g/Lであってもよく、その際、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウムの合計は有利には0.025〜70g/Lである。
【0034】
リン酸塩処理液がナトリウムを少なくとも0.05g/L、特に有利には少なくとも0.07g/L、とりわけ有利には少なくとも0.1g/Lまたは少なくとも0.15g/L、特に多くの場合、少なくとも0.3g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも2g/Lまたは少なくとも4g/L含有することは特に有利である。該溶液はナトリウムを有利には15g/Lまで、特に有利には10g/Lまで、とりわけ有利には6g/Lまで、特に多くの場合、4g/Lまで、殊には3g/Lまでまたは2g/Lまで含有する。
【0035】
リン酸塩処理液がカリウムを少なくとも0.05g/L、特に有利には少なくとも0.07g/L、とりわけ有利には少なくとも0.1g/Lまたは少なくとも0.15g/L、特に多くの場合、少なくとも0.3g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも2g/Lまたは少なくとも4g/L含有することは特に有利である。該溶液はカリウムを有利には25g/Lまで、特に有利には15g/Lまで、とりわけ有利には8g/Lまで、特に多くの場合、5g/Lまで、殊には3g/Lまでまたは2g/Lまで含有する。
【0036】
リン酸塩処理液がアンモニウムを少なくとも0.03g/L、特に有利には少なくとも0.06g/L、とりわけ有利には少なくとも0.1g/Lまたは少なくとも0.15g/L、特に多くの場合、少なくとも0.3g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも2g/Lまたは少なくとも4g/L含有することは特に有利である。該溶液はアンモニウムを有利には35g/Lまで、特に有利には20g/Lまで、とりわけ有利には10g/Lまで、特に多くの場合、6g/Lまで、殊には3g/Lまでまたは2g/Lまで含有する。
【0037】
リン酸塩処理液が、少なくとも0.05g/Lのナトリウム、カリウムおよびアンモニウムの全含有率を有すること、特に有利には少なくとも0.1g/L、とりわけ有利には少なくとも0.2g/Lまたは少なくとも0.3g/L、特に多くの場合、少なくとも0.5g/L、少なくとも1g/L、少なくとも2g/L、少なくとも4g/Lまたは少なくとも8g/Lの含有率を有することは特に有利である。該溶液は有利には65g/Lまで、特に有利には35g/Lまで、とりわけ有利には20g/Lまで、特に多くの場合、10g/Lまで、特に6g/Lまでまたは3g/Lまでのナトリウム、カリウムおよび/またはアンモニウムの全含有率を有する。有利には組成物中で高められたアルミニウム含有率が生じる場合に、ナトリウム、カリウムおよび/またはアンモニウムを本発明による水性組成物に添加する。ナトリウムおよび/またはカリウムの添加は環境相容性の理由からアンモニウムに比べて有利である。
【0038】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理液の硝酸塩の含有率は有利には0.1〜30g/L、塩化物の含有率は有利には0.01〜0.5g/Lおよび/または硫酸塩の含有率は有利には0.005〜5g/Lであってよい。
【0039】
一方では本発明によるリン酸塩処理法は硝酸塩をほぼ、または全く含有しないで行うことができる。他方では、リン酸塩処理液が硝酸塩を少なくとも0.3g/L、特に有利には少なくとも0.6g/L、とりわけ有利には少なくとも1g/Lまたは少なくとも1.5g/L、特に多くの場合、少なくとも2g/L、少なくとも3g/L、少なくとも4g/L、少なくとも6g/Lまたは少なくとも8g/L含有することは特に有利でありうる。該溶液は硝酸塩を有利には22g/Lまで、特に有利には15g/Lまで、とりわけ有利には10g/Lまで、特に多くの場合、8g/Lまで、殊には6g/Lまでまたは4g/Lまで含有する。
【0040】
多くの場合、リン酸塩処理液が塩化物を少なくとも0.03g/L、特に有利には少なくとも0.05g/L、とりわけ有利には少なくとも0.08g/Lまたは少なくとも0.12g/L、特に多くの場合、少なくとも0.15g/L、少なくとも0.2g/Lまたは少なくとも0.25g/L含有することは特に有利でありうる。該溶液は塩化物を有利には0.35g/Lまで、特に有利には0.25g/Lまで、とりわけ有利には0.2g/Lまで、特に多くの場合、0.15g/Lまで、殊には0.1g/Lまでまたは0.08g/Lまで含有する。
【0041】
リン酸塩処理液が硫酸塩を少なくとも0.01g/L、特に有利には少なくとも0.05g/L、とりわけ有利には少なくとも0.1g/Lまたは少なくとも0.15g/L、特に多くの場合、少なくとも0.3g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも0.7g/Lまたは少なくとも1g/L含有することは特に有利である。該溶液は硫酸塩を有利には3.5g/Lまで、特に有利には2g/Lまで、とりわけ有利には1.5g/Lまで、特に多くの場合、1g/Lまでまたは0.5g/Lまで含有する。
【0042】
この場合、アルミニウムの多い表面もまた層を形成するように、つまりリン酸塩層が薄すぎることがないようにリン酸塩処理するためには硝酸塩の添加は有利な場合がある。たとえばナトリウム、鉄、マンガン、ニッケルおよび/または亜鉛の添加もまた、有利にはその良好な水溶性に基づいて少なくとも部分的に硝酸塩により行う。他方では、リン酸塩処理浴に塩化物および/または硫酸塩を添加しないことは有利である。特定の含有率の塩化物および/または硫酸塩はしばしばすでに水中に存在しており、かつ容易にその他の方法工程から導入されうる。
【0043】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理液の溶解したアルミニウムの含有率は錯化したアルミニウムを含めて有利には0.002〜1g/Lであってよい。
【0044】
多くの場合、溶解したアルミニウムの含有率は浴毒として作用するので、この場合、特に浸漬において溶解したアルミニウムがリン酸塩処理液中に0.03g/Lより多く存在しないことが有利であり得るが、しかしその際、多くの方法ではたとえば噴霧ではアルミニウムが0.1g/Lまで溶解していてもよく、かつ無洗浄法ではたとえばロール塗布の場合、アルミニウムが約1g/Lまで溶解していてもよい。従って、リン酸塩処理液中にアルミニウムが0.8g/L、0.5g/L、0.3g/L、0.1g/L、0.08g/L、0.06g/Lより多く、または0.04g/Lより多く現れないことがしばしば有利である。溶解したアルミニウムの含有率がほぼゼロであるか、またはゼロであるか、あるいはごくわずかな含有率である場合には特に有利である。意図的にアルミニウムを添加しないことも特に有利である。しかしアルミニウムまたはアルミニウムを含有する金属表面のリン酸塩処理の際に酸洗い作用に基づいてリン酸塩処理浴中で一定のアルミニウム含有率はほとんど避けることができない。しかし溶解したアルミニウムの含有率は有利には少なくとも1のアルカリ化合物および/またはアンモニウムならびに単純なフッ化物、たとえばフッ化水素酸および/またはフッ化水素アンモニウムの添加により制限される。この場合、クリオライト(氷晶石)NaAlFおよび類似のアルミニウムの多いフッ素化合物、たとえばエルパソライト、KNaAlFを沈殿させることが特に有利である。というのも、これらは水中で極めて低い溶解度を有するからである。すでに若干高い溶解したアルミニウムの含有率は特に鋼表面上で、たとえば層の形成を妨げることによって有害に作用し、従って回避されるべきである。あるいはナトリウムイオンと並んで、少なくとも1の別の種類のアルカリ金属イオンおよび/またはアンモニウムイオンから選択される少なくとも1の別のイオンの混合物も良好に使用することもできる。
【0045】
マグネシウムはリン酸塩処理液中で有利には1g/Lを越えないか、または0.5g/Lを越えない含有率で含有されており、特に有利には0.15g/Lを越えない含有率で含有されている。有利にはフッ化物含有のリン酸塩処理系の場合、カリウムを添加しない。
【0046】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理液の銅の含有率は0.002〜0.05g/Lであってよい。有利にはリン酸塩処理液の銅含有率は0.03g/Lを越えず、特に有利には0.015g/Lを越えず、特に0.01g/Lを越えない。しかし有利には銅はリン酸塩処理液中にわずかなニッケルが含有されているか、または含有されていない場合にのみ添加する。しかし特に有利には銅を意図的に添加しない。銅含有率は個々の事例で特に鉄材料の場合に有利であり得る。しかしコバルトもしくは銅の一部または全含有率は不純物、連行から、または装置もしくは導管の金属表面の酸洗いに由来しうる。コバルトの含有率もまた有利には0.05g/L未満である。コバルトを添加しないことは特に有利である。
【0047】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理液の遊離フッ化物の含有率は有利には0.005〜1g/Lであるか、および/または全フッ化物は有利には0.005〜6g/Lであってよい。遊離フッ化物は浴溶液中でFとして現れるが、その一方で全フッ化物は付加的にHFおよびすべてのフッ化物錯体の含有率を含みうる。
【0048】
リン酸塩処理液が遊離フッ化物を少なくとも0.01g/L、特に有利には少なくとも0.05g/L、とりわけ有利には少なくとも0.01g/Lまたは少なくとも0.03g/L、特に多くの場合、少なくとも0.05g/L、少なくとも0.08g/L、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.14g/Lまたは少なくとも0.18g/L含有することは特に有利である。該溶液は遊離フッ化物を有利には0.8g/Lまで、特に有利には0.6g/Lまで、とりわけ有利には0.4g/Lまで、特に多くの場合、0.3g/Lまでまたは0.25g/Lまで含有する。
【0049】
リン酸塩処理液が全フッ化物を少なくとも0.01g/L、特に有利には少なくとも0.1/L、とりわけ有利には少なくとも0.3g/Lまたは少なくとも0.6g/L、特に多くの場合、少なくとも0.9g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも0.8g/L、少なくとも1g/Lまたは少なくとも1.2g/L含有することは特に有利である。該溶液は全フッ化物を有利には5g/Lまで、特に有利には4g/Lまで、とりわけ有利には3g/Lまで、特に多くの場合、2.5g/Lまでまたは2g/Lまで含有する。
【0050】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理液のフッ化物錯体、特にMeFおよび/またはMeFの含有率は合計で0.005〜5g/Lまでであり、その際、MeFのxはMeFとして計算して、Me=B、Si、Ti、Hfおよび/またはZrであり、基本的に1〜6の間のすべての値をとることができることを考慮すべきである。Ti、HfおよびZrのフッ化物錯体は比較的高い含有率では浴毒として作用しうる。というのも、これらは表面を不動態化するのが速すぎるからである。従ってTi、HfおよびZrのフッ化物錯体の合計は0.8g/Lを越えないこと、特に有利には0.5g/L、とりわけ有利には0.3g/L、殊には0.15g/Lを越えないことが有利である。従ってBおよび/またはSiのフッ化物錯体のみはリン酸塩処理浴中に比較的大量で存在することが有利である。部分的にBまたはSiのフッ化物錯体のみがリン酸塩処理浴中に大量に存在し、その際、両方を一緒に使用することが有利であり得る。というのも、これらはわずかに異なって振る舞うからである。フッ化物錯体の添加は特に亜鉛を含有する表面の被覆の際に有利である。というのも、スペック(妨げとなる白色の斑点)を形成する傾向は、フッ化物錯体が少なくとも0.5g/L添加されている場合には、これにより効果的に抑制することができるからである。スペックを防止するために特にフッ化ケイ素の添加が必要とされる。ホウ素およびケイ素のフッ化物錯体はさらに、遊離のフッ化物に対する関係で緩衝作用を有しているのでこれらのフッ化物錯体の適切な含有率によってアルミニウムを含有する物品、たとえば亜鉛メッキした車体の間のアルミニウムの多い車体の割合が短時間増大することを遊離のフッ化物の形成が増大することによって阻止し、その際、浴をこの変更された仕様に合わせて個別的に適合させる必要がないという利点を有する。
【0051】
本発明によるリン酸塩処理の場合、リン酸塩処理液のフッ化ケイ素の含有率はSiFとして計算して0.005〜4.5g/Lであり、かつ/またはフッ化ホウ素の含有率はBFとして計算して0.005〜4.5g/Lであってよい。フッ化物錯体が添加される場合には、リン酸塩処理液のBおよびSiのフッ化物錯体の含有率は合計して、0.005〜5g/Lの範囲であること、特に有利には0.1〜4.5g/Lの範囲、とりわけ有利には0.2〜4g/Lの範囲、特に0.3〜3.5g/Lの範囲であることが有利である。このようなフッ化物錯体の全含有率はこの場合、たとえば0.5、0.8、1.0、1.2、1.4、1.6、1.8、2.0、2.4、2.8または3.2g/Lであってよい。
【0052】
フッ化物錯体を添加する場合には、リン酸塩処理液がフッ化ケイ素を少なくとも0.01g/L.特に有利には少なくとも0.1g/L、とりわけ有利には少なくとも0.2g/Lまたは少なくとも0.3g/L、特に多くの場合、少なくとも0.4g/L、少なくとも0.6g/L、少なくとも0.8g/L、少なくとも1g/Lまたは少なくとも1.2g/L含有することが特に有利である。該溶液はフッ化物錯体を添加する場合には、有利にはフッ化ケイ素を4g/Lまで、特に有利には3g/Lまで、とりわけ有利には2.5g/Lまで、特に多くの場合、2.2g/Lまで、または2g/Lまで含有する。
【0053】
フッ化物錯体を添加する場合には、リン酸塩処理液がフッ化ホウ素を少なくとも0.01g/L.特に有利には少なくとも0.1g/L、とりわけ有利には少なくとも0.2g/Lまたは少なくとも0.3g/L、特に多くの場合、少なくとも0.4g/L、少なくとも0.6g/L、少なくとも0.8g/L、少なくとも1g/Lまたは少なくとも1.2g/L含有することが特に有利である。該溶液はフッ化物錯体を添加する場合には、有利にはフッ化ホウ素を4g/Lまで、特に有利には3g/Lまで、とりわけ有利には2.5g/Lまで、特に多くの場合、2.2g/Lまで、または2g/Lまで含有する。
【0054】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理液のチタンの含有率は0.01〜2g/Lであり、かつ/またはジルコニウムの含有率は0.01〜2g/Lであってよい。特に有利にはリン酸塩処理液のチタンの含有率は1.5g/Lを越えず、とりわけ有利には1g/Lを越えず、殊には0.5g/Lを越えず、0.3g/Lを越えず、または0.1g/Lを越えない。特に有利にはリン酸塩処理液のジルコニウム含有率は1.5g/Lを越えず、とりわけ有利には1g/Lを越えず、殊には0.5g/Lを越えず、0.3g/Lを越えず、または0.1g/Lを越えない。チタンおよび/またはジルコニウムの含有率は特にチタンを含有する活性化またはジルコニウムを含有する後洗浄液を使用する場合、液体もしくは付属装置およびその他の装置により導入されうる。
【0055】
この場合、本発明によるリン酸塩処理液では酸洗い防止剤、たとえばジ−n−ブチル−チオ尿素をほぼ含有していないか、または含有しておらず、潤滑剤をほぼ含有していないか、または含有しておらず、かつ/または1g/Lより少ない全界面活性剤含有率を示す。というのも、これらの物質はリン酸塩層の形成の妨げとなる場合があるか、または起泡を生じうるからである。これらは多くの場合、カチオン、たとえばアンチモン、ヒ素、カドミウム、クロムおよび/またはスズをほぼ含有していないか、または含有していない。有機ポリマーの添加が有利である特別なケースも確かに存在しうるが、しかし本発明によるリン酸塩処理液は通常、連行されて1もしくは複数の導入される界面活性剤および/または油の含有率を含めて0.8g/Lより多い有機ポリマーの含有率は有していない。
【0056】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理液は少なくとも1の水溶性および/または水分散性の有機ポリマー化合物、たとえば少なくとも1の高分子電解質および/または少なくとも1のポリエーテル、たとえば少なくとも1の多糖類を含有していてもよい。これらのポリマーは、スラッジをさらに若干柔らかくし、かつ容易に除去することができるようにするために役立ちうる。その含有率は有利には0.001〜0.5g/L、特に0.003〜0.2g/Lである。本発明による促進剤の組合せを使用することにより確かにスラッジの量は通常、低減しないが、しかしスラッジのコンシステンシーおよびその除去しやすさは、促進剤のニトログアニジンもしくは過酸化水素のみを含有するリン酸塩処理系と比較して明らかに改善されている。さらに本発明による方法の場合、過酸化水素の促進剤のみを使用する場合よりもリン酸塩処理がより迅速に進行する。
【0057】
本発明による方法の場合、特にリン酸処理浴中で沈殿したスラッジのコンシステンシーが、リン酸塩処理液中で促進剤の過酸化水素のみを使用する場合よりも有利である。促進剤の組合せのグアニジン化合物と過酸化水素とを使用することにより過酸化水素のみを使用するよりもより小さいリン酸塩結晶が形成されるので、リン酸塩結晶の平均的なエッジ長さは多くの場合、10μmより小さい。結晶は微細な結晶の緩い堆積物として存在し、かつ従って浴容器および導管から容易に除去することができる。この場合、明らかにさらにグアニジン化合物の不動態化作用は肯定的に作用する。スラッジは実施した試験ではグアニジン化合物と過酸化水素と硝酸塩/亜硝酸塩の組合せの場合とほぼ同一のコンシステンシーを有していた。
【0058】
本発明によるリン酸塩処理液の場合、リン酸塩処理液は、
− 亜鉛0.1〜10g/L、
− 場合によりマンガン0.1〜10g/L、
− 場合によりニッケル0.01〜1.8g/L、
− ナトリウム、カリウムおよび/またはアンモニウム合わせて0.025〜70g/L、
− 場合によりチタン0.01〜2g/Lおよび/またはジルコニウム0.01〜2g/L、
− リン酸塩、POとして計算して4〜50g/L、
− 遊離フッ化物0.005〜1g/L、
− すべてのフッ化物0.005〜6g/L、
− 場合によりB、Si、Ti、Hfおよび/またはZrのフッ化物錯体合計で0.005〜5g/L、
− 場合によりフッ化ケイ素0.005〜4.5g/Lおよび/またはフッ化ホウ素0.005〜4.5g/L、
− 少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物、ニトログアニジンとして計算して0.03〜3g/L、
− 過酸化水素0.001〜0.9g/L、
− 硝酸塩0.1〜30g/L、
− 場合により塩化物0.01〜0.5g/L、
− 場合により硫酸塩0.005〜5g/Lおよび
− 場合により少なくとも1の水溶性および/または水分散性の有機ポリマー化合物0.001〜0.5g/L
を含有する。
【0059】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理液は
− 亜鉛0.2〜6g/L、
− 場合によりマンガン0.1〜5g/L、
− 場合によりニッケル0.01〜1.6g/L、
− ナトリウム、カリウムおよび/またはアンモニウム合わせて0.025〜40g/L、
− 場合によりチタン0.01〜2g/Lおよび/またはジルコニウム0.01〜2g/L、
− リン酸塩、POとして計算して5〜45g/L、
− 遊離フッ化物0.005〜1g/L、
− すべてのフッ化物0.005〜5g/L、
− 場合によりB、Si、Ti、Hfおよび/またはZrのフッ化物錯体合計で0.005〜4g/L、
− 場合によりフッ化ケイ素0.005〜3.6g/Lおよび/またはフッ化ホウ素0.005〜3.6g/L、
− 少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物、ニトログアニジンとして計算して0.03〜2g/L、
− 過酸化水素0.001〜0.9g/L、
− 硝酸塩0.1〜20g/L、
− 場合により塩化物0.01〜0.5g/L、
− 場合により硫酸塩0.005〜3g/Lおよび
− 場合により少なくとも1の水溶性および/または水分散性の有機ポリマー化合物0.002〜0.4g/L
を含有する。
【0060】
遊離酸を測定するために、リン酸塩処理液10mlを希釈しないでフッ化物錯体の分離の推移のためにKCLを飽和まで添加し、かつ指示薬としてジメチルイエローを使用して0.1MのNaOHにより赤色から黄色に変化するまで滴定する。0.1M NaOHのmlでの消費量は遊離酸(FS−KCl)の値を点数で表す。しかしリン酸塩処理液中にフッ化物錯体が含有されていない場合、遊離酸を100mlの完全脱塩水中で指示薬としてのジメチルイエローに対してNaOHにより赤色から黄色まで滴定する。0.1M NaOHのmlでの消費量は遊離酸(FS)の値を点数で表す。
【0061】
リン酸イオンの全含有率を測定するために、リン酸塩処理液10mlを200mlの完全脱塩水で希釈し、かつ指示薬としてブロモクレゾールグリーンを使用して0.1MのNaOHにより黄色からトルコブルーへ変化するまで滴定する。この滴定に引き続き30%の中性シュウ酸カリウム溶液20mlの添加後に指示薬としてのフェノールフタレインに対して青色から紫色に変化するまで0.1MのNaOHで滴定する。ブロモクレゾールグリーンによる変化と、フェノールフタレインによる変化との間の0.1M NaOHのmlでの消費が、フィッシャーによる全酸(GSF)の点数に相応する。この値に0.71を掛けるとPでのリン酸塩イオンの全含有率が生じるか、または0.969で掛けるとPOの含有率が生じる(W.Rauschの「金属のリン酸塩処理」、Eugen G. Leuze−Verlag、1988、第300頁以降を参照のこと)。
【0062】
いわゆるS値は遊離酸KClの値を、もしくはリン酸塩処理液中にフッ化物錯体が存在せずに、遊離酸の値をフィッシャーによる全酸の値で割ることによって生じる。
【0063】
希釈した全酸(GSverduennt)は、含有されている二価のカチオンならびに遊離の、および結合したリン酸(後者はリン酸塩である)からなる合計である。これは200mlの完全脱塩水により希釈したリン酸塩処理液10mlにおける、指示薬フェノールフタレインを使用して0.1モルの水酸化ナトリウム溶液の消費により測定される。この0.1M NaOHのmlでの消費量は全酸の点数に相応する。
【0064】
本発明による方法の場合、遊離酸KClの含有率、もしくは遊離酸のリン酸塩処理液中にフッ化物錯体が存在しないで、有利には0.3〜6点の範囲であり、希釈した全酸の含有率は有利には8〜70点の範囲であるか、かつ/または全酸フィッシャーの含有率は有利には「4〜50点の範囲であってよい。有利には遊離酸KClの範囲は0.4〜5.5点、特に0.6〜5点である。有利には希釈した全酸の範囲は12〜50点、特に18〜44点である。有利には全酸フィッシャーの範囲は7〜42点、特に10〜30点である。遊離酸KCl、もしくは遊離の酸の点数対全酸フィッシャーの点数の比率としてのS値は有利には0.01〜0.40の範囲、特に0.03〜0.35の範囲、とりわけ0.05〜0.30の範囲である。
【0065】
本発明による被覆法の場合、リン酸塩処理液のpH値は1〜4の範囲であってよく、有利には2.2〜3.6の範囲、特に有利には2.8〜3.3の範囲である。
【0066】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、金属表面を30〜75℃の範囲の温度で、特に35〜60℃で、とりわけ有利には55℃以下で、または50℃以下で、または48℃以下でリン酸塩処理することができる。
【0067】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、金属表面を、特に浸漬および/または噴霧の場合、有利に0.1〜8分の範囲の時間、特に0.2〜5分間、リン酸塩処理液と接触させることができる。ロール塗布および/またはベルトでの噴霧の場合、接触の時間は数分の一秒までに低下させることができる。
【0068】
本発明によるリン酸塩処理液は種々の金属表面のために、特にしかし浸漬での鉄材料のために適切である。他方で、本発明による方法は、特にアルミニウム、アルミニウム合金、1もしくは複数の鋼、亜鉛メッキした鋼および亜鉛合金から選択される異なった金属材料からなる物品の混合物のためにも特に良好にリン酸塩処理するために適切であることが判明した。この方法はアルミニウムの多い表面の大量に処理するためにも特に好適である。
【0069】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、金属表面をリン酸塩処理の前に洗浄、酸洗いおよび/または活性化することができ、場合によりそのつど少なくとも1のその後の洗浄工程を行う。有利であるのはリン酸塩処理の後に最終的な洗浄工程および場合により後洗浄の後に完全脱塩水による洗浄工程である。
【0070】
本発明によるリン酸塩処理法の場合、リン酸塩処理した金属表面を引き続き、洗浄し、後洗浄溶液で後洗浄し、乾燥させ、かつ/またはそのつど少なくとも1の塗料、塗料に類似の被覆、接着剤および/またはシートで被覆することができる。後洗浄溶液は要求プロファイルに応じてまったく異なった組成であってよい。組成は基本的に当業者に公知である。
【0071】
本発明はまた、
− 亜鉛0.1〜10g/L、
− リン酸塩、POとして計算して4〜50g/L、
− 少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物、ニトログアニジンとして計算して0.03〜3g/L、
− および過酸化水素0.001〜0.9g/L
を含有する酸性の水溶液にも関する。
【0072】
本発明による酸性の水溶液はさらに、
− ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム合わせて0.025〜70g/L、
− 遊離フッ化物0.005〜1g/L、
− すべてのフッ化物0.005〜6g/Lおよび/または
− 硝酸塩0.1〜30g/L
を含有していてもよい。
【0073】
本発明による酸性の水溶液はさらに
− マンガン0.1〜10g/L、
− ニッケル0.01〜1.8g/L、
− B、Si、Ti、Hfおよび/またはZrのフッ化物錯体合計で0.005〜5g/L、
− フッ化ケイ素0.005〜4.5g/L、
− フッ化ホウ素0.005〜4.5g/L、
− チタン0.01〜2g/L、
− ジルコニウム0.01〜2g/L、
− 塩化物0.01〜0.5g/L、
− 硫酸塩0.005〜5g/Lおよび/または
− 少なくとも1の水溶性および/または水分散性の有機ポリマー化合物0.001〜0.5g/L
を含有していてもよい。有利にはニッケルの含有率は1.5g/Lを越えない。
【0074】
本発明による酸性の水溶液は一方ではリン酸塩処理浴として使用されるリン酸塩処理液であってよく、他方ではリン酸塩処理液を希釈して調合するか、もしくは補充液で実質的な成分を所望の濃度レベルに維持するためには、場合により相応する濃縮液もしくは相応する補充液であってよい。
【0075】
本発明はさらに、本発明による方法により製造したリン酸塩層を有する金属製の物品にも関する。
【0076】
本発明により被覆した物品はたとえば車両構造において、特に自動車の大量生産において、車両または航空機産業における部材または車体部材もしくはあらかじめ搭載される部材を製造するために、建築産業、家具産業において、器機および装置、特に家庭用電気製品、測定装置、制御装置、試験装置、建築部材、ライニングならびに小部品の製造のために使用することができる。
【0077】
少なくとも1のグアニジン化合物、たとえばニトログアニジンの添加の明らかに低減した濃度で、ニトログアニジンのみで促進される系と同程度の結果が得られ、しかし促進剤の消費量は部分的に30%まで低減することができ、環境相容性をさらに改善することができたことは驚くべきことであった。というのも、廃水のアンモニウム、グアニジン化合物、硝酸塩および亜硝酸塩ひいては窒素負荷を明らかに低減することができたからである。
【0078】
ニトログアニジンのみを使用し、かつ場合により硝酸塩により促進されるリン酸塩処理系の場合、閉じた層および良好な層形成においてしばしば2.5〜3.5g/mの層質量が確認され、このことにより比較的高い消費量が生じる。しかし本発明による方法により、10μmより小さいオーダーのリン酸塩結晶の平均エッジ長さにおいて一般に約2〜2.5g/mのオーダーの層質量を有するか、または約6μmのオーダーのリン酸塩結晶の平均エッジ長さにおいて一般に約1.5〜2g/mのオーダーの層質量を有するリン酸塩層を、特に鋼上にも形成することに成功した。この場合、耐食性および塗料付着性の品質は低下していない。リン酸塩層が微粒子状に形成されるほど、リン酸塩層はより薄く形成することができる。特に薄いリン酸塩層はより安価に形成することができ、塗膜付着性が高く、かつ変形の際に柔軟性が高い。従って約1.5g/mのオーダーの層質量で約5μmのオーダーのリン酸塩結晶の平均エッジ長さを有するリン酸塩層はほぼ最適であるとみなすことができる。
【0079】
さらに、方法の質および層の質を損なうことなく、通常よりも3〜25℃低い温度でのリン酸塩処理ひいては安価な実施が可能であったことは驚くべきことであった。通常のリン酸塩処理液の場合の約48〜65℃の範囲の一般的なリン酸塩処理温度にかわって、本発明によれば30〜65℃の範囲、特に35〜55℃の範囲で良好に、または極めて良好に作業することができる。温度が低いほど浴の酸性度、特に全酸フィッシャーに対する遊離酸または遊離の酸KClの比率としてのS値をより低く維持することができる。
【0080】
実施例
例および比較例
本発明の対象を実施例に基づいて詳細に説明する:実施例は以下に記載する支持体もしくは方法工程に基づいている:試験板はそのつど1:1:1:1の比率での板の混合物からなる
A)AA6016に相応するアルミニウム合金AlMg0.4Si1.2
B)冷間圧延し、焼き鈍した合金化されていない鋼DC04Bからなる鋼板、
C)両面に電解亜鉛メッキしたファインメタル板、自動車品質、グレードDX54DZ100および
D)少なくとも100g/mを有するグレードDX53の溶融亜鉛メッキし、後圧延した、合金化されていない軟鋼からなる板、
そのつど約0.75mmの厚さを有する。それぞれの個々の板の表面は、両面で測定して400cmであり、これらからそのつど組成、板の種類および試験あたりそのつど少なくとも3枚の板を使用した。
1.支持体表面を緩アルカリ性洗浄剤の2%水溶液中、58〜60℃で5分間洗浄し、かつその際、十分に脱脂した。
2.水道水により室温で0.5分間すすぎを行った。
3.次いで表面を室温で0.5分間、リン酸チタンを含有する活性化剤中に浸漬することによって活性化した。
4.その後、表面をリン酸塩処理液中に53〜45℃で3分間浸漬することによってリン酸塩処理した。リン酸塩処理温度はすでに前試験で確認していた。
5.引き続き、まず水道水ですすぎ、次いでフッ化ジルコニウムを含有する水溶液で後洗浄し、かつ最後に完全脱塩水ですすいだ。
6.次いで被覆した支持体を乾燥室中80℃で10分間乾燥させた。この状態で層質量も確認した。
7.最後に乾燥した試験板に陰極浸漬塗装を行い、かつ自動車産業で車体のために通例の塗装構造の別の層で被覆した。
【0081】
そのつどのリン酸塩処理液の組成を第1表に記載する。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
比較例もしくは例1〜7はフッ化物もフッ化物錯体も含有していなかったので、アルミニウム合金上に目視可能なリン酸塩層は析出することができなかった。従って層質量を測定することもできなかった。全ての通例の試験において、良好に閉じたリン酸塩層が形成された。ちょうど閉じたリン酸塩層を形成するために必要とされる最低リン酸塩処理時間は、鋼表面上で比較例VB1の場合は2分、VB2およびVB3の場合には2.5〜3分、VB4の場合、4〜5分であり、かつVB5の場合には約15分間であった。しかしこの時間は全ての本発明による実施例の場合、鋼表面上で通常は1.5〜2分間であった。従ってその時間は明らかに短縮することができた。これに対してアルミニウムの場合の最低リン酸塩処理時間は一般に若干より短く、かつ亜鉛の多い表面の場合には明らかに短かった。鋼表面上のリン酸塩結晶の平均的なエッジ長さはREM撮影によりほぼ20〜50結晶と評価された。
【0085】
比較例1〜5の場合、鋼表面上では十分な量の促進剤が存在していた場合にのみ閉じたリン酸塩層が形成された。ニトログアニジンもしくは過酸化水素の含有率は比較例1および3の場合にのみ閉じたリン酸塩層の形成のために十分であった。
【0086】
しかし比較例1〜5の場合、鉄の多い表面、たとえは鋼表面上では、特に高い促進剤の濃度を選択した場合にのみ閉じたリン酸塩層を形成することが可能であるにすぎなかった。しかし促進剤としてニトログアニジンと過酸化水素とが存在している場合には、すでに明らかにより低い促進剤含有率で、これらの促進剤の合計においても、良好な層の形成に十分であった。本発明による例6以降は、すでにわずか0.008g/Lの過酸化水素が0.25g/Lのニトログアニジンと組み合わされるのみで良好な結果のために十分であることを証明している。従ってこの促進剤の組み合わせの場合、促進剤の添加を低減し、かつ方法をより安価に実施することができる。というのも、ニトログアニジンはリン酸塩処理液の最も高価な原料成分だからである。
【0087】
ナトリウム、カリウムおよびアンモニウムの添加もしくは含有率は一方では特に水の不純物から、他方では遊離酸もしくはS値の調整から生じ、その際、必要であれば水酸化ナトリウム溶液および/またはアンモニア溶液を使用した。この場合、ナトリウムの含有率は3.6g/Lまでであり、カリウムの含有率は0.05g/Lまでであり、もしくはアンモニアの含有率は3.0g/Lまでである。
【0088】
アルミニウム、カリウム、マグネシウムおよび鉄も意図的に添加しなくてもよい。リン酸塩処理液中のこのような含有率は水の痕跡不純物および添加物に基づいて、ならびに板表面上の酸洗い作用に基づいて生じる。リン酸塩処理液中の溶解したアルミニウムのために、この場合、試料に応じて数mg/Lの範囲の含有率が生じた。この場合、リン酸塩処理の欠陥は現れなかった。リン酸塩処理液の溶解した鉄(II)イオンの最小含有率のみがリン酸塩処理液の組成に基づいて生じた。というのも、過酸化水素により、溶解した鉄が直ちに沈殿するからである。リン酸塩処理液に促進剤としてニトログアニジンを0.1〜0.5g/Lの範囲の含有率で添加し、過酸化水素を0.005〜0.05g/Lの範囲で添加した。過酸化水素は直ちに消費されるので、過酸化水素を不連続的に補充した。Al、Fe、Znおよび場合によりその他のカチオンのフッ化物もしくはリン酸塩は、いわゆる「スラッジ」中に存在していた。しかしこれらの沈殿生成物は実質的に板表面には堆積しなかった。
【0089】
本発明によるリン酸塩処理浴の場合、スラッジをその微粒子状の緩いコンシステンシーに基づいて圧力ジェットを使用しないで、および機械的な作用を使用しないで容易に容器および導管の壁から除去することができる。
【0090】
被覆の良好な品質は、この試験の場合、リン酸塩処理液の化学組成の明らかな変化にもかかわらず広い範囲で維持されていた。従って本発明によるリン酸塩処理液は、より簡単で、より確実で、耐久性があり、良好で、安価であり、かつ迅速な方法で、わずかな、または高い割合のアルミニウムを含有する表面を有する金属の混合物も被覆するさらなる可能性を提供した。
【0091】
本発明による実施例のリン酸塩層は微粒子状であり、かつ閉じていた。その耐食性および付着性は、類似のリン酸亜鉛層の一般的な品質標準に相応していた。
【0092】
塗装した鋼板を用いて実施した試験は次の結果を生じた。
【0093】
【表3】

【0094】
この場合、屋外暴露におけるU2mmまでのアンダーマイグレーションの値もしくはストーンチップ試験におけU2.0mmおよび評点2までの値、10%までの塗装のフレーキングおよびGt1までの碁盤目試験の評価は十分に良好であるとみなすことができる。塗装付着性の評点は0〜5の間で変化することができ、その際0が最もよい評点である。
【0095】
本発明により製造したリン酸塩層は、特に鋼表面上で、比較例よりもより均一で、かつより美しい外観を示す。走査型電子顕微鏡の撮影は、リン酸塩結晶が15μmより小さい、および部分的には8μmより小さい範囲の平均エッジ長さを有していることを証明している。8μm未満ではリン酸塩結晶は実質的に等軸晶系で実質的に小板状で存在している。この場合、走査型電子顕微鏡による撮影はリン酸塩処理した鋼表面の垂直または斜めの視点で選択した。通常、特に鋼表面はリン酸塩処理品質の場合にはむしろ問題である。鋼表面上でも促進剤のニトログアニジンと過酸化水素との組み合わせに基づいて促進剤の添加を節約するにもかかわらず、過酸化水素のみ、またはニトログアニジンのみの促進剤系と比較して、リン酸塩層の均一性およびより良好な粒度に関してさらなる改善が判明し、この場合、比較系は硝酸塩を含有していてもよい。本発明による促進剤の組み合わせを用いた系は驚くべきことに過酸化水素のみを用いた、またはニトログアニジンのみを用いたリン酸塩処理系よりもはるかに良好に実施することができることが判明した。
【0096】
本発明による過酸化水素促進剤によるリン酸塩処理系を用いた試験では、リン酸塩結晶の平均的なエッジ長さは確実に10μmよりも小さく維持することができた。
【0097】
さらに、浸漬の場合の最適化されたリン酸塩処理温度は過酸化水素のみを用いた、またはニトログアニジンのみを用いたリン酸塩処理系に対して約8〜10℃低下させることができ、その際、系の取り扱いおよび被覆における品質が損なわれなかったことは驚くべきことであった。従って、これらの促進剤の組み合わせを40〜60℃の範囲の温度で浸漬および/または噴霧において、あるいはまたロール塗布によっても適用することが問題なく可能である。通常はリン酸塩処理系のために過酸化水素のみを用いて、またはニトログアニジンのみを用いて50℃より高い範囲の温度が必要である。というのも、リン酸塩層はさもないと十分に閉じたものが形成されないからである。温度の低下もまた著しいコストの節約につながった。
【0098】
3分までの浸漬時間の場合、試験をした全ての支持体を良好に微粒子状で、閉じたリン酸塩層により被覆することができた。この場合、該方法は極めて良好であることが判明した。というのも、金属板の種類の著しく変動する割合であってもまったく問題が生じないからである。さらにリン酸塩処理液の温度を低下させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛およびリン酸塩を含有する、酸性の水溶液で金属製の物品の表面を処理または前処理する方法において、リン酸塩処理液が、
− 亜鉛0.1〜10g/L、
− リン酸塩、POとして計算して4〜50g/L、
− 少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物、ニトログアニジンとして計算して0.03〜3g/L、および
− 過酸化水素0.001〜0.9g/L
を含有し、80℃より低い温度を有することを特徴とする、亜鉛およびリン酸塩を含有する、酸性の水溶液で金属製の物品の表面を処理または前処理する方法。
【請求項2】
リン酸塩処理液のマンガンの含有率が0.1〜10g/Lおよび/またはニッケルの含有率が0.01〜1.8g/Lであることを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
リン酸塩処理液のFe2+の含有率が0.005〜1g/Lおよび/または錯化したFe3+の含有率が0.005〜0.5g/Lであることを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
リン酸塩処理液のナトリウムの含有率が0.04〜20g/L、カリウムの含有率が0.025〜35g/Lおよび/またはアンモニウムの含有率が0.01〜50g/Lであり、その際、ナトリウム、カリウムおよびアンモニウムの合計は有利に0.025〜70g/L、好ましくは4g/Lまで、特に3g/Lまでであるか、または2g/Lであることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
リン酸塩処理液の硝酸塩の含有率が0.1〜30g/L、塩化物の含有率が0.01〜0.5g/Lおよび/または硫酸塩の含有率が0.005〜5g/Lであることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
リン酸塩処理液の溶解したアルミニウムの含有率が、錯化したアルミニウムを含めて0.002〜1g/Lであることを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
リン酸塩処理液の銅の含有率が0.002〜0.05g/Lであることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
リン酸塩処理液の遊離フッ化物の含有率が0.005〜1g/Lまで、および/または全てのフッ化物の含有率が0.005〜6g/Lまでであることを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
リン酸塩処理液がフッ化物錯体を0.005〜5g/L含有することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
リン酸塩処理液のフッ化ケイ素の含有率がSiFとして計算して0.005〜4.5g/Lまで、および/またはフッ化ホウ素の含有率がBFとして計算して0.005〜4.5g/Lまでであることを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
リン酸塩処理液のチタンの含有率が0.01〜2g/Lおよび/またはジルコニウムの含有率が0.01〜2g/Lであることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
リン酸塩処理液が水溶性および/または水分散性の有機ポリマー化合物少なくとも0.001g/Lの含有率を有することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
リン酸塩処理液が、
− 亜鉛0.1〜10g/L、
− 場合によりマンガン0.1〜10g/L、
− 場合によりニッケル0.01〜1.8g/L、
− ナトリウム、カリウムおよび/またはアンモニウム合わせて0.025〜70g/L、
− 場合によりチタン0.01〜2g/Lおよび/またはジルコニウム0.01〜2g/L、
− リン酸塩、POとして計算して4〜50g/L、
− 遊離フッ化物0.005〜1g/L、
− すべてのフッ化物0.005〜6g/L、
− 場合によりB、Si、Ti、Hfおよび/またはZrのフッ化物錯体合計で0.005〜5g/L、
− 場合によりフッ化ケイ素0.005〜4.5g/Lおよび/またはフッ化ホウ素0.005〜4.5g/L、
− 少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物、ニトログアニジンとして計算して0.03〜3g/L、
− 過酸化水素0.001〜0.9g/L、
− 硝酸塩0.1〜30g/L、
− 場合により塩化物0.01〜0.5g/L、
− 場合により硫酸塩0.005〜5g/Lおよび
− 場合により少なくとも1の水溶性および/または水分散性の有機ポリマー化合物0.001〜0.5g/L
を含有することを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
リン酸塩処理液が、
− 亜鉛0.2〜6g/L、
− 場合によりマンガン0.1〜5g/L、
− 場合によりニッケル0.01〜1.6g/L、
− ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム合わせて0.025〜40g/L、
− 場合によりチタン0.01〜2g/Lおよび/またはジルコニウム0.01〜2g/L、
− リン酸塩、POとして計算して5〜45g/L、
− 遊離フッ化物0.005〜1g/L、
− すべてのフッ化物0.005〜5g/L、
− 場合によりB、Si、Ti、Hfおよび/またはZrのフッ化物錯体合計で0.005〜4g/L、
− 場合によりフッ化ケイ素0.005〜3.6g/Lおよび/またはフッ化ホウ素0.005〜3.6g/L、
− 少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物、ニトログアニジンとして計算して0.03〜2g/L、
− 過酸化水素0.001〜0.9g/L、
− 硝酸塩0.1〜20g/L、
− 場合により塩化物0.01〜0.5g/L、
− 場合により硫酸塩0.005〜3g/Lおよび
− 場合により少なくとも1の水溶性および/または水分散性の有機ポリマー化合物0.002〜0.4g/L
を含有することを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
全酸フィッシャーの点数に対する遊離酸KClもしくは遊離酸の点数の比としてのS値が0.01〜0.40の範囲であることを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
金属表面を30〜75℃の範囲の温度で、特に35〜60℃でリン酸塩処理することを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
金属表面を、特に浸漬および/または噴霧の場合、0.1〜8分間の範囲の時間にわたってリン酸塩処理液と接触させ、ベルトを使用するロール塗りおよび/またはミスチングの際にベルトにおいて数分の1秒までのより短い接触時間で接触させることを特徴とする、請求項1から16までのいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
アルミニウム、アルミニウム合金、鋼、亜鉛メッキした鋼および/または亜鉛合金から選択される種々の金属材料からなる物品の混合物の金属表面をリン酸塩処理することを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
金属表面をリン酸塩処理の前に洗浄し、酸洗いおよび/または活性化し、場合によりそのつどその後の洗浄工程を行うことを特徴とする、請求項1から18までのいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
リン酸塩処理した金属表面を引き続き洗浄し、後洗浄液で後洗浄し、乾燥させ、かつ/またはそのつど少なくとも1の塗料、塗料状の被覆、接着剤および/またはシートで被覆することを特徴とする、請求項1から19までのいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
− 亜鉛0.1〜10g/L、
− リン酸塩、POとして計算して4〜50g/L、
− 少なくとも1のニトロ基を有する少なくとも1のグアニジン化合物、ニトログアニジンとして計算して0.03〜3g/L、
− および過酸化水素0.001〜0.9g/L
を含有する、酸性の水溶液。
【請求項22】
さらに
− ナトリウム、カリウムおよびアンモニウム合わせて0.025〜70g/L、
− 遊離フッ化物0.005〜1g/L、
− すべてのフッ化物0.005〜6g/Lおよび/または
− 硝酸塩0.1〜30g/L
を含有することを特徴とする、請求項21記載の酸性の水溶液。
【請求項23】
さらに
− マンガン0.1〜10g/L、
− ニッケル0.01〜1.8g/L、
− B、Si、Ti、Hfおよび/またはZrのフッ化物錯体合計で0.005〜5g/L、
− フッ化ケイ素0.005〜4.5g/L、
− フッ化ホウ素0.005〜4.5g/L、
− チタン0.01〜2g/L、
− ジルコニウム0.01〜2g/L、
− 塩化物0.01〜0.5g/L、
− 硫酸塩0.005〜5g/Lおよび/または
− 場合により少なくとも1の水溶性および/または水分散性の有機ポリマー化合物0.001〜0.5g/L
を含有することを特徴とする、請求項21または22記載の酸性の水溶液。
【請求項24】
請求項1から20までのいずれか1項記載の方法により製造されたリン酸塩層を有する金属製の物品。
【請求項25】
車両の製造における、特に自動車の大量生産における、車両または航空機産業における部材または車体の部材もしくはあらかじめ搭載された部材を製造するため、建築産業における、家具産業における、器機および装置、特に家庭用電気製品、測定装置、制御装置、試験装置、建設部材、ライニングならびに小部品を製造するための、請求項1から20までのいずれか1項記載の方法により製造された物品の使用。
【請求項26】
車両の製造における、特に自動車の大量生産における、車両または航空機産業における部材または車体の部材もしくはあらかじめ搭載された部材を製造するため、建築産業における、家具産業における、器機および装置、特に家庭用電気製品、測定装置、制御装置、試験装置、建設部材、ライニングならびに小部品を製造するための、請求項21から23までのいずれか1項記載の酸性の水性組成物の使用。

【公表番号】特表2006−528280(P2006−528280A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−529846(P2006−529846)
【出願日】平成16年5月17日(2004.5.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005282
【国際公開番号】WO2004/104266
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(500399116)ヒェメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (32)
【氏名又は名称原語表記】Chemetall GmbH
【住所又は居所原語表記】Trakehner Str. 3, D−60487 Frankfurt am Main,Germany
【Fターム(参考)】