説明

過酸化物測定用センサー及びそれを用いた過酸化物の測定方法

【課題】測定試薬の調製などの測定前の準備が不要な過酸化物の測定方法及びそのためのセンサーを提供する。
【解決手段】基板上に、ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬を含有する高分子組成物からなる薄膜が形成された過酸化物測定用センサーを用い、該センサー上に、過酸化物を含有する試料液を滴下し、蛍光強度を検出又は測定することにより、過酸化物を検出又は測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血清等の生体組織、油脂などの加工食品又は合成化合物等に含有される過酸化物の測定に用いられる過酸化物測定用センサー及びそれを用いた過酸化物の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酸化物、たとえば脂質の酸化により生じる過酸化物は、特に生体内において老化現象、動脈硬化、或いは糖尿病などの種々の疾患と関連することが知られている。また、化粧品や食品中に含有される化合物の酸化による劣化なども問題となっている。
【0003】
これまで、過酸化物を測定するため、化学発光法(非特許文献1)、Ferrous oxidation-xylenol orange(FOX)法(非特許文献2)、蛍光法(非特許文献3)等のバッチ測定や、高速液体クロマトグラフ(HPLC)による測定(非特許文献4)が行われており、特に、蛍光法では、ジフェニルホスフィン骨格を有する試薬が用いられている(特許文献1、2)。本発明者らは、従来のジフェニル−1−ピレニルホスフィンの励起波長及び蛍光波長よりも長波長側にシフトさせることにより、照射する光による生体試料へのダメージ及び自己蛍光の影響を軽減した蛍光試薬を提案している(特許文献3)。
また、電気化学的に測定する方法として、ホースラディッシュペルオキシダーゼを用いた過酸化水素センサーも報告されている(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−122593号公報
【特許文献2】特開2006−342135号公報
【特許文献3】特願2008−153991
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K.Nakashima, BUNSEKI KAGAKU,2000,49,135.
【非特許文献2】Ricard Bou, Rafael Codony, Alba Tres, Eric A. Decker, Francesc Guardiol, Analytical Biochemistry, 2008, 377,1.
【非特許文献3】Kazuaki Akasaka et al., Analytical Letters, 20, 731-745(1987)
【非特許文献4】Stefan Baj, Tomasz Krawczyk, Analytica Chimica Acta , 2007,585, 147.
【非特許文献5】Yonghai Song, Li Wang, Chunbo Ren, Guoyi Zhu, Zhuang Li, Sensors and Actuators B , 2006, 114 ,1001.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでの測定法は、いずれも測定試薬の調製などの測定前の準備が必要なものが殆どであった。
また、ホースラディッシュペルオキシダーゼを用いた過酸化水素センサーは、ホースラディッシュペルオキシダーゼ溶液のpHを調製する必要があった。
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、測定試薬の調製などの測定前の準備が不要な過酸化物の測定方法及びそのためのセンサーを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬を含有する高分子組成物を用いて基板上の塗布することにより、過酸化物測定用センサーとすることで、解決しうることを見いだした。
本発明は該知見に基いてなされたものであって、以下のとおりである。
[1]基板上に、ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬を含有する高分子組成物からなる薄膜が形成されていることを特徴とする過酸化物測定用センサ
[2]基板上に形成された、ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬を含有する高分子組成物からなる薄膜上に、過酸化物を含有する試料液を滴下し、蛍光強度を測定することを特徴とする過酸化物の測定方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、測定のための前準備が簡素化されるため、測定のための時間短縮するうえ、本発明のセンサーに、試料溶液を滴下し蛍光強度を測定するのみで、過酸化物を簡単に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の過酸化物センサーの作成手順を示す図
【図2】本発明の過酸化物センサーを用いた、過酸化物の測定方法の手順を示す図
【図3】本発明の過酸化物センサーに、過酸化水素水溶液を滴下して得られた、蛍光スペクトルを示す図
【図4】過酸化水素溶液の各濃度における再現性測定を行った結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の過酸化物センサーは、基板上に、ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬を含有する高分子組成物からなる薄膜が形成されていることを特徴とする。
図1は、本発明の過酸化物センサーの作成方法の手順を示している。
該図に示すように、本発明において、基板上に形成される薄膜は、少なくとも、ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬、及び高分子化合物を有機溶剤に混合した溶液の適量を、スピンコーター等を用いて形成される。該溶液中には、抗酸化剤を含有させることが好ましい。
【0012】
本発明における基板は、過酸化物センサーに求められる機械的強度を確保するための支持体としての役割を果たすものであり、その形状は、とくに限定されるものではないが、カード状又はディスク状に形成されているのが好ましい。
基板を形成するための材料は、過酸化物センサーの支持体として機能することができれば、とくに限定されるものではなく、例えば、ガラス、石英、セラミックス、プラスチックス、金属、金属酸化物又は珪素を主成分とするものなどによって形成することができ、プラスチックスとしては、ポリカーボネート樹脂、オレフィン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、シリコン樹脂、フッ素系樹脂、ABS樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリイソブチルメタクリレート樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。本発明においては、コスト等の面から、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムが好ましく用いられる。
【0013】
本発明において、基板上に高分子化合物とともに塗布される測定試薬には、ジフェニル−1−ピレニルホスフィン(DPPP)等のジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬を用いる。
該試薬は、過酸化物と化学量論的に反応して、蛍光分子を形成するものであり、例えば、ジフェニル−1−ピレニルホスフィン(DPPP)では、過酸化物と反応してジフェニル−1−ピレニルホスフィンオキシド(DPPP=O)を生成する。ジフェニル−1−ピレニルホスフィン(DPPP)は非蛍光分子であるが、ジフェニル−1−ピレニルホスフィンオキシド(DPPP=O)は蛍光分子であるので、その蛍光を検出或いは測定することにより、検体中の過酸化物を検出或いは測定できる。
【0014】
本発明において、ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬は、特に限定されず、上記のDPPPをはじめとする公知のものを用いることができるが、上記特許文献3に記載の本発明者らが提案した下記の化合物も勿論用いることができる。
【0015】
【化1】

(式中、R、R、R、R、R、Rは、それぞれ同一または異なって、水素原子、芳香族炭化水素基、脂肪族炭化水素基又は、ハロゲン元素を有していてもよい。R11及びR12は、ハロゲン元素又は、芳香族炭化水素基を有していても良い。R10はアルキル鎖及びアミド基を有していても良い又は、R10は存在せずにリン原子とフェニル基が直接結合していても良い。)
【0016】
さらに、本発明において用いられる高分子化合物は、ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬を含有しうるものであれば特に限定されないが、支持体への塗布性及びジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬との相溶性を考慮して選ばれる。
本発明において、基板として前述のPETフィルムを使用した場合、支持体への塗布性及びジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬との相溶性の観点から、高分子化合物としてはポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましく用いられる。
【0017】
図2は、本発明の過酸化物センサーを用いた過酸化物の検出又は測定方法を示すものであり、過酸化物を含有する試料溶液を、前記薄膜が形成された基板上に滴下し、形成される蛍光分子を、分光蛍光光度計などを用いて検出又は測定する。
【0018】
前記試料溶液は、検出すべき過酸化物を充分に溶解しうる溶媒を用いて溶液とする。こうして調製された試料溶液を前記薄膜が形成された基板上に滴下し、しばらく静置して該試料溶液中の過酸化物質と前記ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬との反応を充分に行わせ、その後、試料溶液を除去し、該基板表面に励起光を照射して、該試料溶液中の過酸化物と前記ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬との反応により形成された物質から発生される蛍光を検出する。
例えば、前記DPPP=Oを検出する場合には、励起光として352nmの光を照射し、380nm付近にピークを有する蛍光の有無を検出する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0020】
〈使用した試薬〉
・ポリメチルメタクリレート(PMMA)(SIGMA-ALDRICH Japan K.K.)
・ジフェニル−1−ピレニルホスフィン(DPPP)(同仁化学)
・2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(BHT)(東京化成)(抗酸化剤)
・過酸化水素(和光純薬)
・クロロホルム(和光純薬)
【0021】
〈使用した試薬溶液〉
・DPPP溶解用BHT溶液:15mgBHT/50mlクロロホルム
・センサー用BHT溶液:4.58gBHT/50mlクロロホルム
・センサー用PMMA溶液:20.85g(14ml)クロロホルムに1.2gPMMAを溶解。
・DPPP溶液:10.5mgDPPP/10ml(BHT−クロロホルム)
【0022】
〈使用した器具〉
・ミカサスピンコーター MS-A100 (MIKASA Co., Ltd., Japan)、
・分光蛍光光度計FP-6500(固体試料セルホルダー付き)(日本分光)
【0023】
〈センサー膜の作成〉
DPPP溶液とセンサー用PMMA液、センサー用BHT液を混合し(体積比1:3:1)PETフィルムに滴下し、スピンコーターにより薄膜を作製し、遮光したデシケーター内で減圧乾燥を行った。
【0024】
〈過酸化水素の測定〉
0〜9.79Mの過酸化水素溶液を調整し、ペルオキシドセンサー膜に滴下した。5分後、膜上の過酸化水素を除去し、分光蛍光光度計で測定を行った。
図3は、過酸化水素溶液と反応後のペルオキシドセンサー膜を、分光蛍光光度計により測定し(励起波長352nm)、得られた蛍光スペクトルからバックグランド(反応前のセンサー膜のスペクトル)を差し引いたスペクトルである。
また、過酸化水素溶液の各濃度における再現性測定を行った結果を図4にしめす(蛍光波長380nm)。
図3及び図4が示すように、過酸化水素濃度増加に伴い過酸化物センサー膜の蛍光強度が増加した。
このことから、本発明のジフェニルホスフィン骨格を有する試薬を含有する高分子化合物からなる薄膜は、試料溶液を滴下するのみの簡単な測定操作が可能な過酸化物センサーとしての機能が実証された。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の過酸化物センサーは、過酸化脂質などの過酸化物の高感度分析法に利用できる。また、定量分析だけでなく、医療分野においては、口腔や鼻腔などから挿入できる器具の先端に取り付け、患部の正確な過酸化脂質量を把握可能な過酸化脂質診断機器などへも応用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬を含有する高分子組成物からなる薄膜が形成されていることを特徴とする過酸化物測定用センサー。
【請求項2】
基板上に形成された、ジフェニルホスフィン骨格を有する過酸化物測定試薬を含有する高分子組成物からなる薄膜上に、過酸化物を含有する試料液を滴下し、蛍光強度を測定することを特徴とする過酸化物の測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−271051(P2010−271051A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−120598(P2009−120598)
【出願日】平成21年5月19日(2009.5.19)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「高集積・複合MEMS製造技術開発事業バイオ材料(タンパク質など)の選択的修飾技術」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】