説明

過電流保護素子及びその製造方法

【課題】抵抗値が増大した後に室温に復帰する場合に低い抵抗値を得ることのできる過電流保護素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】複数の導電性微粒子2を分散させて含有する高分子マトリクス1を一対の電極箔3の間に挟持して使用する素子であって、高分子マトリクス1中に有機金属化合物を含有する。有機金属化合物は、モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族ハイドロキシルカルボン酸系の金属化合物のいずれかとする。導電性微粒子2及び有機金属化合物を加熱混合した後、高分子マトリクス1を加えて加熱混合するので、抵抗値が増大した後に室温に復帰する場合に、導電性微粒子2同士の距離に微妙なズレが生じ、通電に影響する電子のやり取りが加熱前と変化することが実に少ない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器の回路や電子機器に内蔵された電池や部品を保護する過電流保護素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の過電流保護素子は、図示しないが、導電性微粒子を分散させて含有する高分子マトリクスを一対の電極間に挟持する公知の構造に構成され、電気電子機器の回路に接続されており、(1)室温での抵抗値が十分に低いこと、(2)室温抵抗値と動作時の抵抗値の変化率が十分に大きいこと、(3)動作後の抵抗値の変化率が小さいことが特性として求められている(特許文献1、2参照)。
【0003】
このような過電流保護素子は、高温雰囲気下や過電流が通電され、加熱されて高温になると、高分子マトリクスが熱膨張してその内部の導電性微粒子を離隔させ、絶縁状態を形成して電気電子機器の回路の部品を保護するよう機能する。
【特許文献1】特開2007−027412号公報
【特許文献2】特開2006−210046号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来における過電流保護素子は、以上のように構成され、高分子マトリクス中に導電性微粒子が単に分散しているので、抵抗値が増大した後に室温に復帰する場合に、導電性微粒子同士の距離に微妙なズレが生じ、通電に影響する電子のやり取りが加熱前と変化することとなる。この結果、過電流が通電され、抵抗値が増大した後に室温に復帰する場合に、抵抗値が初期の抵抗値よりも大幅に上昇してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は上記に鑑みなされたもので、抵抗値が増大した後に室温に復帰する場合に低い抵抗値を得ることのできる過電流保護素子及びその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、高分子マトリクスの混合前に、導電性微粒子と有機金属化合物とを加熱混合すれば、上記課題を解決することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明においては上記課題を解決するため、導電性微粒子を分散させて含有する高分子マトリクスを一対の電極の間に挟んで使用するものであって、高分子マトリクスは、有機金属化合物を含むことを特徴としている。
【0007】
なお、高分子マトリクスは、有機金属化合物とキレート化合物の少なくともいずれか一方を含んでも良い。
また、有機金属化合物は、モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族ハイドロキシルカルボン酸系の金属化合物のいずれかであることが好ましい。
【0008】
また、本発明においては上記課題を解決するため、請求項1又は2記載の過電流保護素子の製造方法であって、
導電性微粒子と有機金属化合物とを加熱混合し、その後、高分子マトリクスを加えて加熱混合することを特徴としている。
ここで、特許請求の範囲における有機金属化合物は、キレート化合物を含んでいても良いし、そうでなくても良い。
【0009】
本発明によれば、導電性微粒子と有機金属化合物とを加熱混合し、その後、高分子マトリクスを加えて加熱混合した後、過電流保護素子を製造するので、導電性微粒子の周囲に有機金属化合物が位置することとなり、抵抗値が増大した後に室温に復帰する場合にも、通電に影響する電子のやり取りがスムーズになる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、過電流保護素子の抵抗値が増大した後に室温に復帰する場合に、低い抵抗値を得ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係る過電流保護素子の好ましい実施形態を説明すると、本実施形態における過電流保護素子は、図1に示すように、複数の導電性微粒子2を分散させて含有する高分子マトリクス1を一対の電極箔3の間に挟持して使用する素子であって、高分子マトリクス1中に、有機金属化合物とキレート化合物のうち、少なくとも有機金属化合物を含有しており、電子機器の回路に接続される。
【0012】
高分子マトリクス1は、例えば耐薬品性、電気特性、加工性に優れる安価なポリエチレン等の結晶性樹脂が使用され、最終的にはブロック形あるいは薄板に成形される。この高分子マトリクス1中には、無水化物により変性されたエラストマーが無水マレイン酸を付加してなるエチレン−αオレフィン−ジエン共重合体、スチレン−ブタジエン系重合体で構成されているエラストマーが一種類以上含有される。
【0013】
導電性微粒子2は、例えば樹脂の物性に対する影響の少ない導電性のカーボンブラックが使用される。また、各電極箔3は、例えば導電性を有するニッケル、銅、あるいはこれらの合金等を使用して薄く平坦な板に形成され、図示しない回路接続用のリード線が接続されており、高分子マトリクス1に接着性に優れるEPDMを介してプレス成形される。
【0014】
有機金属化合物とキレート化合物としては、モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族ハイドロキシルカルボン酸系の金属化合物、芳香族ジカルボン酸系の金属化合物等があげられる。またこれら以外にも、芳香族ハイドロキシルカルボン酸、芳香族モノ及びポリカルボン酸とその金属塩、無水物、エステル類、ビスフェノール等のフェノール誘導体類があげられる。さらに、尿素誘導体、含金属サリチル酸系化合物、含金属ナフトエ酸系化合物、ホウ素化合物、4級アンモニウム塩、カリックスアレーン、ケイ素化合物、スチレン−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸共重合体、スチレン−アクリル−スルホン酸共重合体等が該当する。
【0015】
これらの中でも、導電性の観点からアゾ金属化合物の選択が好ましい。具体的には、安価なボントロンS34やボントロンS44〔オリエント化学社製:商品名〕を選択するのが良い。有機金属化合物は、染料に含まれるものでも良いし、そうでなくても良い。
【0016】
上記において、過電流保護素子を製造する場合には、先ず、複数の導電性微粒子2、有機金属化合物及びキレート化合物中、少なくとも導電性微粒子2と有機金属化合物を所定の温度(例えば、180〜250℃)の加圧ニーダ等で攪拌し、導電性微粒子2の周囲に有機金属化合物やキレート化合物を位置させ、所定の温度を維持したまま攪拌物に高分子マトリクス1や接着性のEPDMを投入して加圧混合し、混練物を調製する。こうして混練物を調製したら、この混練物をカレンダー加工機にセットしてシーティングし、所定の厚さのシートを製造する。
【0017】
次いで、シートを一対の電極箔3間にサンドイッチしてプレス成形機にセットし、セットしたシートを所定の条件で加熱加圧してラミネート体を製造した。こうしてラミネート体を製造したら、ラミネート体に電子線を電子線架橋装置により照射してラミネート体の高分子配合物を架橋し、ラミネート体を所定の大きさ・形状に加工すれば、過電流保護素子を製造することができる。
【0018】
上記によれば、高分子マトリクス1、導電性微粒子2及び有機金属化合物とキレート化合物の少なくともいずれか一方を単に混合するのではなく、導電性微粒子2と少なくとも有機金属化合物とを加熱混合した後に、高分子マトリクス1を加えて加熱混合するので、抵抗値が増大した後に室温に復帰する場合に、導電性微粒子2同士の距離に微妙なズレが生じ、通電に影響する電子のやり取りが加熱前と変化することが実に少ない。
【0019】
したがって、抵抗値が増大した後に室温に復帰する場合に、抵抗値が初期の抵抗値よりも大幅に上昇してしまうのをきわめて有効に抑制防止することができる。これにより、長時間のトリップ状態の後でも、安定した緩和抵抗状態を迅速に得ることができる。また、過電流が通電され、加熱されて高温になると、過電流保護素子の高分子マトリクス1が熱膨張してその内部の導電性微粒子2を離隔させるので、絶縁状態を形成して回路の部品を有効に保護することもできる。
【0020】
なお、導電性微粒子2と有機金属化合物のみを攪拌しても良いし、導電性微粒子2と有機金属化合物及びキレート化合物とを攪拌しても良い。また、ラミネート体にX線を照射してラミネート体の高分子配合物を架橋しても良い。
【実施例】
【0021】
以下、本発明に係る過電流保護素子の製造方法の実施例を比較例と共に説明するが、本発明に係る過電流保護素子の製造方法は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0022】
実施例1〜10
先ず、表1、2に示す配合下でカーボンブラックと有機金属化合物又はキレート化合物を180℃に温度調整した加圧ニーダで30分間攪拌し、180℃の温度を維持したまま攪拌物にポリエチレンとEPDMを投入して15分間加圧混合し、混練物を調製した。こうして混練物を調製したら、この混練物をカレンダー加工機にセットしてシーティングし、厚さ150μmのシートを形成した。
【0023】
次いで、シートを一対のニッケル箔間にサンドイッチしてプレス成形機にセットし、セットしたシートを所定の条件で加熱(250℃)加圧(10kgf/cm)して総厚200μmのラミネート体を製造した。各ニッケル箔は、厚さ20μmの東洋製箔製を使用した。こうしてラミネート体を製造したら、ラミネート体に10MRadの電子線を電子線架橋装置により照射してラミネート体の高分子配合物を架橋し、その後、ラミネート体を5×12cmの大きさ・形状に打ち抜いて実施例1〜10の過電流保護素子を製造した。
【0024】
比較例
先ず、表1に示す配合下でカーボンブラックとEPDMとを180℃に温度調整した加圧ニーダで30分間攪拌し、180℃の温度を維持したまま攪拌物にポリエチレンを投入して15分間加圧混合し、混練物を調製した。混練物を調製したら、この混練物をカレンダー加工機にセットしてシーティングし、厚さ150μmのシートを形成し、その他は実施例と同様にして比較例の過電流保護素子を製造した。
【0025】
抵抗値−温度特性の測定
実施例と比較例の過電流保護素子をそれぞれ製造したら、これら実施例と比較例の過電流保護素子の抵抗値−温度特性(R−T特性)をそれぞれ測定し、表1、2にまとめた。
【0026】
具体的な測定方法としては、測定対象の過電流保護素子に抵抗測定器を接続して20℃から15分毎に順次10℃昇温し、その都度抵抗値を測定して160℃まで昇温した。160℃まで昇温したら、温度を順次10℃降温し、20℃まで測定して20℃に戻った時の抵抗値を緩和抵抗値として記録し、初期抵抗値との比率を緩和抵抗値とした。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
測定の結果、実施例の過電流保護素子の場合には、良好な緩和状態を示し、1000時間後の緩和抵抗率でも優れた結果を得ることができた。これに対し、比較例の過電流保護素子の場合には、緩和抵抗率が200%と高い数値を示した。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る過電流保護素子の実施形態を模式的に示す説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 高分子マトリクス
2 導電性微粒子
3 電極箔(電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性微粒子を分散させて含有する高分子マトリクスを一対の電極の間に挟んで使用する過電流保護素子であって、
高分子マトリクスは、有機金属化合物を含むことを特徴とする過電流保護素子。
【請求項2】
有機金属化合物は、モノアゾ金属化合物、アセチルアセトン金属化合物、芳香族ハイドロキシルカルボン酸系の金属化合物のいずれかである請求項1記載の過電流保護素子。
【請求項3】
請求項1又は2記載の過電流保護素子の製造方法であって、導電性微粒子と有機金属化合物とを加熱混合し、その後、高分子マトリクスを加えて加熱混合することを特徴とする過電流保護素子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−81256(P2009−81256A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249000(P2007−249000)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】