説明

遠心分離機

【課題】
油拡散真空ポンプを使用して回転室内を高真空にする遠心分離機において、油拡散真空ポンプを精度良く制御する。
【解決手段】
駆動装置8によって回転され試料を保持するロータ2と、ロータ2を収容する回転室3と、回転室3内を所定の真空まで減圧する油拡散真空ポンプ5及び油回転真空ポンプ4を有する遠心分離機1において、油拡散真空ポンプ5の拡散油の冷却部であって温度差の生ずる2箇所に第1及び第2の温度センサ10、11を設け、温度センサ10、11による検出温度差を用いて油拡散真空ポンプ5のヒータ54への通電を制御するように構成した。温度センサ10、11は、筒状の冷却部56の外壁の上下方向に隔てた2箇所に設けられ、その検出温度差を使用してヒータ54の駆動がフィードバック制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータを高速回転させる遠心分離機のように、ロータの風損による温度上昇を防止するために、回転室内を油拡散真空ポンプによって高真空まで減圧させる機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、分離する試料をチューブやボトルを介してロータに挿入しロータを高速に回転させることで試料の分離、精製を行う。回転速度は用途によって異なり、用途に合わせて低速(最高回転速度は毎分数千回転)から高速(最高回転速度は毎分150,000回転程度)までのものがある。中でも超遠心機と呼ばれる回転速度が毎分約40,000回転以上の遠心分離機は、酵素、タンパクなどの試料を分離する場合に試料の温度を低温に保つ必要があるため、ロータの回転中に試料の温度が上昇しないように冷却装置で回転室内を一定の温度に制御している。さらに超遠心機では、ロータを高速で回転させるため、空気との摩擦熱でロータの温度が上昇しないように回転室を真空ポンプにより高真空まで減圧できる構造となっている。従来から回転室を高真空状態に減圧するための真空ポンプとして、油拡散真空ポンプが広く用いられている。
【0003】
遠心分離機の油拡散真空ポンプの制御方法には、遠心分離機内の室温(筐体内部の温度)を測定してヒータへの通電をオン/オフする方法が知られているが、この方法により制御開始時のみ一定時間常時通電して油拡散真空ポンプのヒータを駆動すると、不具合が生ずるおそれがある。例えば、制御開始時にヒータの温度が高い場合には、ボイラが過温度になり気化した油分子が冷却部で液化しきれずに回転室に逆流するため真空度の悪化を招いたり、ボディー自体が高温になるため接続部においてOリングや真空ホース等の非金属部品の劣化を招く恐れがある。このような不具合を防ぐためにヒータの通電方法(駆動方法)を種々工夫してきたが、特許文献1の技術では、室温に加えて、温度センサにより油拡散真空ポンプの温度を測定することにより油拡散真空ポンプのヒータの制御することが提案された。この技術では、室温を基に油拡散真空ポンプの目標温度を設定し、目標温度になるように制御装置がヒータの通電を制御する。
【0004】
ここで図8を用いて特許文献1で開示された従来技術による遠心分離機101について説明する。遠心分離機101は、試料を入れるロータ102と、ロータ102を回転させる駆動装置108と、ロータ102を入れる回転室103と、回転室103内を高真空まで減圧する2つの真空ポンプ(油回転真空ポンプ104、油拡散真空ポンプ105)と、回転室103と油拡散真空ポンプ105を結ぶ真空配管107と、油拡散真空ポンプ105と油回転真空ポンプ104を結ぶ真空配管106が配置され、駆動装置108や油拡散真空ポンプ105や油回転真空ポンプ104などを制御する制御装置109、その制御装置109を操作するための操作部113等から構成される。油拡散真空ポンプ105を制御するために、遠心分離機101の筐体内には、室温(筐体内の温度)を測定するための温度センサ114が設けられ、回転室103の内部の真空度を測定する真空計112が設けられる。また、油拡散真空ポンプ105の冷却フィンの一部には、その温度を測定する温度センサ110が一つ設けられる。油回転真空ポンプ104は油拡散真空ポンプ105を機能させるための補助真空ポンプとしての役割を果たすもので、真空配管106を介して油拡散真空ポンプ105の下流側に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3870626号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、超高速回転の遠心分離機において、遠心分離機の電源を入れてから遠心分離を開始するまでの時間を短くしたいというニーズが高まっている。そのニーズに応じるためには、短時間で回転室の圧力を高真空状態にすることが重要であり、そのために回転室内を高真空にするために使用している油拡散真空ポンプのヒータにハイパワーのものを使用したり、ヒータに加熱効率の良いカートリッジヒータを使用したりして、短時間で油拡散真空ポンプの性能が発揮できる油温度に到達するようにしている。さらに、油拡散真空ポンプの性能が発揮できるまで油の温度が達した場合、油が必要以上の温度に上昇しないように、ヒータをPIDフィードバック制御やパルス幅制御で精度良く制御するようにしている。特に、短時間で油を目標温度に到達させるべくヒータ154を100%のパワーで加熱している状態から目標温度近傍になったときには、例えば目標温度に対して5%又は5℃低い時からPIDフィードバック制御やパルス幅制御に切り替えて、油の温度が必要以上に上昇しないように制御している。
【0007】
しかしながら、油の温度が目標温度近傍にあるときに、温度管理の基準となる遠心分離機の室温が変動すると制御条件が変動する。例えば室温が低下すると一般に目標温度も低下し、温度によっては即時にオーバーヒートとなってしまう。オーバーヒートになると目標温度の許容範囲に戻るまでヒータ154による加熱を停止するが、加熱が停止されることで油拡散真空ポンプ105の能力がダウンするので回転室の圧力は上昇する。この圧力上昇の度合いによっては圧力エラーとなり開始した遠心分離を中止せざる得ない状況に到ることもあり得るので、これらの不具合が出ないような制御が重要となる。
【0008】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたもので、その目的は、油拡散真空ポンプを使用して回転室内を高真空にする遠心分離機において、油拡散真空ポンプを精度良く制御することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、遠心分離機の周囲温度が変動しても、目標温度が変動せずに安定して油拡散真空ポンプを制御することができる遠心分離機を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、油拡散真空ポンプの油の急激温度上昇時から温度安定時に到る過程において、油拡散真空ポンプの油の加熱停止による回転室内の急激な圧力上昇が生じないように制御を可能とする遠心分離機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0012】
本発明の一つの特徴によれば、駆動装置と、駆動装置によって回転され試料を保持するロータと、ロータを収容する回転室と、回転室内を所定の真空まで減圧する油拡散真空ポンプを有する遠心分離機において、油拡散真空ポンプの拡散油の冷却部であって温度差の生ずる2箇所に第1及び第2の温度センサを設け、第1及び第2の温度センサによる検出温度差を用いて油拡散真空ポンプのヒータへの通電を制御するように構成した。油拡散真空ポンプには補助ポンプとして油回転真空ポンプが直列に接続され、回転室が第1の真空度まで到達したらロータを設定された回転数まで加速させるように制御する。第1及び第2の温度センサは、筒状の冷却部外壁の上下方向に隔てた2箇所に設けるのが好ましい。
【0013】
本発明の他の特徴によれば、冷却部の上下方向の略中央部には、径方向に延びる複数の冷却フィンが設けられ、第1の温度センサは冷却フィンよりも下側の冷却部外壁に設けられ、第2の温度センサは冷却フィンよりも上側の冷却部外壁に設けられるように構成した。また温度センサの別の設置位置として、第1の温度センサは下側の冷却フィンに設けられ、第2の温度センサは上側の冷却フィンに設けられる様にしても良い。
【0014】
本発明のさらに他の特徴によれば、油拡散真空ポンプを起動してから第1及び第2の温度センサによる検出温度差が所定値に達するまでヒータへのフルパワーの通電を行い、検出温度差が所定値に達したら、ヒータへの通電を調整することにより検出温度差を所定値に保つように制御する。この所定値に保つ制御は、ヒータへの通電をフィードバック制御することにより行うことができる。ヒータへの通電開始後一定時間が経過しても、第1及び第2の温度センサによる検出温度差が所定の温度差に達しない場合は、何らかの異常が発生している恐れがあるのでヒータへの通電を中止する。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、油拡散真空ポンプの冷却部の低温部と高温部に温度センサを設け、その温度差を使用してヒータの制御することにより、遠心分離機の周囲温度に関係なく油拡散真空ポンプの温度制御が可能になる。また、遠心分離機の設置環境温度の温度変化に影響受けず安定した遠心分離運転が可能になる。
【0016】
請求項2の発明によれば、第1及び第2の温度センサは、筒状の冷却部外壁の上下方向に隔てた2箇所に設けられので、従来の構造から外壁部に温度センサを1つ追加するだけで、遠心分離機の周囲温度に関係なく油拡散真空ポンプの温度制御が可能になる。
【0017】
請求項3の発明によれば、冷却部の上下方向の略中央部には、径方向に延びる複数の冷却フィンが設けられ、第1の温度センサは冷却フィンよりも下側の冷却部外壁に設けられ、第2の温度センサは冷却フィンよりも上側の冷却部外壁に設けられるので、冷却フィンによる冷却作用が働く前と後の部分の温度を効果的に検出でき、第1及び第2の温度センサから十分な温度差を得られることができ、精度の良い温度管理を行うことができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、冷却部の上下方向の略中央部には、径方向に延びる複数の冷却フィンが設けられ、第1の温度センサは下側の冷却フィンに設けられ、第2の温度センサは上側の冷却フィンに設けられるので、筒状の冷却部外壁に温度センサを取り付けるのが難しい場合であっても、本願発明を実現することができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、油拡散真空ポンプを起動してから第1及び第2の温度センサによる検出温度差が所定値に達するまでヒータへのフルパワーの通電をするので、最短時間で効率よく油拡散真空ポンプの拡散油を加熱することができ、短時間で回転室を高真空状態まで減圧できる。
【0020】
請求項6の発明によれば、検出温度差が所定値に保たれるようにヒータへの通電をフィードバック制御するので、遠心分離機の周囲温度が変動しても目標温度が変動せず、油の加熱停止やそれによる回転室内の圧力上昇が生じない制御を実現できる。
【0021】
請求項7の発明によれば、ヒータへの通電開始後一定時間が経過しても検出温度差が所定の温度差に達しない場合は、ヒータへの通電を中止させるので、油拡散真空ポンプの拡散油の量が必要量存在しない場合や、拡散油の劣化等による不具合を早期に発見することができる。
【0022】
請求項8の発明によれば、油拡散真空ポンプと直列に油回転真空ポンプを設け、回転室が第1の真空度まで到達したらロータを設定された回転数まで加速させるので、補助真空ポンプを用いて効率よく回転室を減圧することができる。
【0023】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機1の全体構成を示す図である。
【図2】図1の油拡散真空ポンプ5を示す全体構成図であり、左半分が側面図で示し、右半分を部分断面図で示している。
【図3】油拡散真空ポンプ5と油回転真空ポンプ4を稼働させた際の、経過時間と回転室3内の圧力との関係を示すグラフである。
【図4】油拡散真空ポンプ5を稼働させた際の温度センサ10と11による検出温度と経過時間の関係を示すグラフである。
【図5】温度センサ10と11の温度差(Δt)と経過時間(min)の関係を示す図である。
【図6】図1で示した遠心分離機の温度センサ検知温度差と回転室圧力の測定例を示した特性図である。
【図7】本発明の実施例に係る遠心分離機1の動作を示すフローチャートである。
【図8】従来技術に係る遠心分離機101の全体構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0025】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。
【0026】
図1は本発明に係る遠心分離機1の全体構成を示す図である。遠心分離機1は、試料を入れるロータ2と、ロータ2を回転させる駆動装置8と、ロータ2を収容する回転室3と、回転室3内を高真空まで減圧する油拡散真空ポンプ5と、油拡散真空ポンプ5を機能させるための補助真空ポンプとして作用する油回転真空ポンプ4と、回転室3と油拡散真空ポンプ5を結ぶ真空配管7と、油拡散真空ポンプ5と油回転真空ポンプ4を結ぶ真空配管6を含んで構成される。駆動装置8、油拡散真空ポンプ5、油回転真空ポンプ4は制御装置9により制御され、その制御装置9の操作するために操作部13が設けられる。また、制御装置9には、遠心分離機1の室温を測るための温度センサ14が設けられる。回転室3は図示しない開閉可能なドアにより密閉され、その状態で減圧される。回転室3の側面には回転室3内の圧力を測定する真空計12が設けられ、その出力は制御装置9に入力される。
【0027】
油拡散真空ポンプ5は、大気圧から真空引きができないため、初めに油回転真空ポンプ4である程度の真空度まで真空引きをし、その後、油拡散真空ポンプ5が動作し、所定の真空度に到達するまで2つの真空ポンプを用いて回転室3を減圧する。油拡散真空ポンプ5は、オイルを貯留するボイラと、ボイラを加熱するヒータと、ボイラで気化したオイル分子を一定方向に噴射させるジェットと、気化したオイル分子を冷却して液化するための冷却筒とで構成される。油拡散真空ポンプ5の冷却筒56の高温側(ヒータ54に近い側)に温度センサ(第1の温度センサ)10を、低温側(ヒータ54から遠い側)に温度センサ(第2の温度センサ)11を設けた。
【0028】
次に図2を用いて油拡散真空ポンプ5の原理を説明する。図2は図1の油拡散真空ポンプ5を示す全体構成図であり、左半分を側面図で示し、右半分を部分断面図で示している。油拡散真空ポンプ5は、油蒸気を発生させるボイラ51と、ボイラから上方に延びる煙突部52a、52bと、煙突部52a、52bの上方に設けられ油の蒸気を噴射するノズル55a、55bと、噴射された蒸気を凝縮させる冷却筒56を含んで構成される。ボイラ51には、中央内部に延在するように拡散油53を加熱するためのヒータ54が設けられ、ヒータ54のオンオフは制御装置9により制御される。ヒータ54には任意のヒータを用いることができるが、例えば、アルミ鋳込みヒータやカートリッジヒータを使用できる。冷却筒56は例えば円筒形であり、その壁部を冷却するために、外周壁に径方向に放射状に延びる複数の冷却用のフィン57が設けられる。尚、本実施例においては、フィン57からの放熱作用により冷却筒56を空気冷却しているが、図示されないファンで空気を吹き付けて冷やす強制空冷方式や、フィン57の代わりに水冷パイプを巻いて冷却する水冷方式を採用することも可能である。
【0029】
制御装置9の制御によりヒータ54に通電が開始されると拡散油53が加熱され、加熱された拡散油53は蒸発(気化)し、煙突52a、52bの内部を上昇し、その上に設けられたノズル55a、55bから径方向外側かつ斜め下方向に超音速で噴出する。拡散油53の噴流に飛び込んだ空気等の気体分子は、油という運動量の大きい重い蒸気分子と衝突しボイラ51方向にはね飛ばされ、その結果としてボイラ51近傍に設けられた排出口59に流され、排出口59から排出される。排出口59には、真空配管6を介して油回転真空ポンプ4が直列に接続されるので、油回転真空ポンプ4によって空気の排出が効果的に補助される。一方、冷却筒56に達した超音速の油蒸気噴流は冷却筒56の内壁に衝突すると衝撃波を作って一度に圧力を回復し正常な蒸気状態にもどる。同時に冷却筒56の内壁と衝突することにより、ほとんどの蒸気が液化して落下し、ボイラ51の内部に戻る。これらを繰り返すことにより、油拡散真空ポンプ5は接続された回転室3の中を減圧(真空化)することができる。従って、油拡散真空ポンプ5には、油を加熱するヒータ54と、油蒸気噴流を正常な蒸気又は液状に戻す冷却筒56を設けて、加熱された拡散油が効率よく蒸発するように制御することが重要である。
【0030】
本願の発明者が上述した油拡散真空ポンプ5の運転制御において着目したのが、円筒形の冷却筒56のフィン57を挟んだ上下の温度差である。本実施例のよる油拡散真空ポンプ5では、冷却筒56の下側(ボイラ51に近い側)部分に温度センサ10を設け、さらに、冷却筒56の上側(反ボイラ51側)部分に温度センサ11を設けた。これらの温度センサ10、11の検出値をモニターすると、ヒータ54の通電時には拡散油53が満たされたボイラ51に近い温度センサ10の方が高い温度値を示す。また、フィン57による放熱作用により温度センサ11は、温度センサ10よりも低い温度値を示す。発明者は、これら温度センサ10、11の温度差は、室温(温度センサ14によって検出された温度)によらずにほぼ一定の関係となることを見いだした。この現象を以下説明する。
【0031】
図3は、油拡散真空ポンプ5と油回転真空ポンプ4を稼働させた際の、経過時間と回転室3内の圧力との関係を示すグラフである。実線31は室温(図1の温度センサ14で検出される温度)が35℃の時の状態であり、破線32は室温が25℃の時の状態であり、点線33は室温が15℃の時の状態であり、一点鎖線34は室温が5℃の時の状態である。本図から理解できるように、いずれの室温においても油拡散真空ポンプ5と油回転真空ポンプ4を稼働させた際に順調にほぼ同等に回転室3内の圧力が減圧され、室温に関係なく5分前後で、回転室3内の圧力が1.33Paに到達している。ある所定の気圧にまで減圧された後(時間t付近以降)に、室温によって減圧の変化が異なるが、この辺りの圧力が使用した圧力計(例えばピラニ真空計)の精度限界であったためである。発明者の実験によると、時間t付近ではピラニ真空計の表示値が、室温35℃の時は0.6Pa、室温25℃の時は0.4Pa、室温15℃の時は0.2Pa、室温5℃の時は0.0Paであった。このように発明者の実験により、室温に関係なく油拡散真空ポンプ5と油回転真空ポンプ4を稼働させた際の減圧状態が同等であることが判明した。
【0032】
通常、遠心分離機1は空調装置の整った室内に配置されることが多いので、一定の温度下で動作することが多いが、空調装置が停止していた後のように温度変化が激しい状態で稼働させる場合もあり得る。例えば真夏の休日明けの朝のように、空調が十分働いておらずに遠心分離機1がおかれる外気温度(空調により制御される部分の気温)が高い状態で遠心分離機1の運転が開始された場合は、運転開始後に空調設備の稼働により徐々に外気温度と共に遠心分離機1の室温が下がってくる。従って、稼働後に時間t1だけ経過した頃には室温の変動もあり、従来の技術では、その室温の変化を考慮した制御をしないと適切な減圧状態の適切な管理ができない恐れがあった。同様に、真冬の休日明けの朝のような場合も同様な自体が起こりうる。このような短時間の室温の変化に対応するために発明者は、油拡散真空ポンプ5の温度差の生ずるさまざまな箇所に温度センサを設けて、それらの温度の関係等を検証した結果、図4のような事実を発見した。
【0033】
図4は、油拡散真空ポンプ5を稼働させた際の温度センサ10と11による検出温度と経過時間の関係を示すグラフである。出力群39は温度センサ10によって検出された温度のグラフであり、実線35は室温(図1の温度センサ14で検出される温度)が35℃の時の状態であり、破線36は室温が25℃の時の状態であり、点線37は室温が15℃の時の状態であり、一点鎖線38は室温が5℃の時の状態である。一方、出力群45は温度センサ11によって検出された温度のグラフであり、実線41は室温(図1の温度センサ14で検出される温度)が35℃の時の状態であり、破線42は室温が25℃の時の状態であり、点線43は室温が15℃の時の状態であり、一点鎖線44は室温が5℃の時の状態である。
【0034】
本グラフをみて理解できることは、室温が上昇するにつれて温度センサ10と11のいずれもが矢印40や46に見られるように上昇することである。しかしながら、発明者はその上昇の度合いは温度センサ10と11の温度の差がほぼ同じように推移することを見いだした。この関係を検証するために再プロットしたのが図5のグラフである。図5は、温度センサ10と11の温度差(Δt)と経過時間(min)の関係を示す図である。油拡散真空ポンプ5を稼働させた直後には温度センサ10と11の温度差Δtはほぼゼロである。稼働後の時間経過と共に温度差が大きくなるが、図5から理解できるように、室温がいずれの場合であってもほぼ同じ温度差に落ち着くようになる。従って、これら2つの温度センサ10、11の出力差を用いて油拡散真空ポンプ5の制御を行えば、温度センサ14によって検出される室温を考慮することなく油拡散真空ポンプ5の制御を適切に行うことが可能となる。本実施例ではこの特性を利用して、温度センサ10と11の温度差Δtが目標値になるように油拡散真空ポンプ5の制御を行うものである。尚、本実施例の油拡散真空ポンプ5の制御では、温度センサ14によって検出される室温データを用いる必要はないが、室温データは図示しない冷却装置の制御等で用いられるので、遠心分離機1から温度センサ14を省くことは好ましくないものである。
【0035】
図6は遠心分離機1の温度センサ検知温度差分と回転室圧力の測定例を示した特性グラフある。このグラフでは、複数の測定値をとってその上限値65aと下限値65bをある範囲で示しており、その範囲を斜線65にて示している。図6に示すように、回転室3内をある圧力以下に減圧するためにはボイラ温度と冷却壁の間にある一定の温度差が必要である。例えば回転室3の内部の気圧を13.3Pa以下にするためにはT13.3以上の温度差が必要である。逆に、温度差ΔtがT13.3以上に到達している場合は回転室3の内部の気圧が13.3Pa以下に到達していることがわかる。同様にして、回転室3の内部の気圧を1.33Pa以下にするためには、T1.33以上の温度差が必要にする。このT1.33の際の温度差Δtは、例えば53度である。温度差ΔtがT1.33に到達した場合は、この温度差Δtを下回らないように油拡散真空ポンプ5を制御すればよいことになる。
【0036】
発明者の実験によりこれらT13.3やT1.33の値は、油拡散真空ポンプの寸法構造が同じならば室温の変動によらずに、ほぼ一定の幅内に存在することが判明した。よって、冷却筒56のフィン57を挟んだボイラ51側と反ボイラ51側に温度センサ10と温度センサ11側を設置し、その2つの温度センサからの信号から温度差を読み取り、その温度差が所定の温度差となるようにヒータ54の温度をフィードバック制御することにより、遠心分離機1の置かれた環境の温度(設置温度)に関係なく安定した回転室3内の真空化が可能となる。
【0037】
次に、本発明の遠心分離機における油拡散真空ポンプ5の制御手順を図7に示すフローチャートを用いて説明する。まず、操作部13の運転開始を指示するスイッチを押すと(ステップ71)、運転開始信号が制御装置9に入力され、油回転真空ポンプ4の運転を開始し、回転室3内を減圧し始める。同時に油拡散真空ポンプ5のヒータ54がフルパワーで拡散油53を加熱し始める(ステップ72)。2つの真空ポンプの動作を開始させると、回転室3内の圧力(真空度)は、大気圧から徐々に低下する。一方、油拡散真空ポンプ5のヒータ54がONにされるため、時間の経過と共にボイラ51の温度が上昇する。油拡散真空ポンプ5が動作を始めるのには2つの条件があり、その一つは必要な背圧(臨界背圧)以下の真空度に達していることであり、もう一つはボイラの温度が一定値、即ち内部の油の沸騰温度に到達していることである。従って、油拡散真空ポンプ5が動作を始めるためには、早期にボイラ温度を十分加熱することが重要である。この時間は、例えば、当日最初に遠心分離機1を稼働させたときのように、油拡散真空ポンプ(DP)のボイラ温度が室温程度まで下がっているときは時間が長くなる。逆に、遠心分離動作を続けて行うときのように、直前の遠心分離動作によりボイラ温度が十分高いときは短くなる。
【0038】
次に、駆動装置8を駆動してロータ2を低速にて回転開始させる(ステップ73)。ロータ2の回転は、真空計12により回転室3の内部がある程度減圧(例えば13.3Pa)されたことを確認した後に設定された高速回転まで増速される。また拡散油53が加熱され始めると、制御装置9による温度センサ10、11の温度検知と、ヒータ54への加熱時間のカウントを始める(ステップ74)。本実施例では、拡散油53は温度センサ10と11の検出値の差が所定の値になるまでヒータ54のフルパワーで加熱され、検出値の差が所定の範囲になるとヒータ54への通電はPIDフィードバック制御及びパルス幅制御により温度差がある一定の幅となるように制御される。このように拡散油53の加熱時にはフルパワーでヒータ54を動作させるので、最短時間で拡散油53を加熱することができる。
【0039】
次に、ヒータ54により拡散油53の加熱を開始して所定の時間が経過した否かを判定する(ステップ75)。所定の時間が経過しても所定の温度差が得られない場合は、拡散油53の量が必要量存在しないか、拡散油53の劣化等による不具合の発生が考えられる。従って、所定時間経過の場合は、操作部13においてエラー表示を行い(ステップ80)、ロータ2の回転を停止させるべくステップ80に進む。
【0040】
ステップ75でヒータの加熱が所定時間経過していない場合は、温度センサ10と11で検出された温度差が所定値よりも小さいか否かを判定する(ステップ76)。ここで所定値には図6のT1.33で示す温度を設定すると良い。所定置としてT1.33を設定することにより、この温度差に到達するまでは回転室3の内部の気圧が1.33Paよりも高いことが間接的に判定できる。ステップ76で、温度センサ10と11で検出された温度差が所定値と等しくなった場合は、ヒータ54への加熱パワー100%の状態を継続したままステップ74に戻る(ステップ77)。ステップ76において温度センサ10と11で検出された温度差が所定値に到達した場合は、温度センサ10と11で検出された温度差が所定値と等しくなるようにヒータ54の通電を制御する(ステップ78)。この際、ヒータ54の制御のしかたは任意であるが、例えばPIDフィードバック制御やパルス幅制御に切り替えて、油の温度が所定位置を中心とした一定の範囲にとどまるように制御すれば良い。
【0041】
次に、ロータ2が設定速度にて所定の時間(=遠心分離時間)だけ回転したか否かを判定し、経過していない場合はステップ78に戻り、経過した場合は遠心分離運転が終了したことを意味するのでステップ81に進む(ステップ79)。ステップ81では、駆動装置8の回転を停止させることによりロータ2の回転を停止させ(ステップ81)、操作部13の真空解除スイッチ(図示せず)が押されたら(ステップ82)、油拡散真空ポンプ5のヒータ54への通電を停止させることにより拡散油53の加熱を停止する(ステップ83)。同様にして、油回転真空ポンプ4の運転を停止させて(ステップ84)、回転室内に大気を入れるためにリークバルブ(図示せず)を開けて回転室3内を大気と同じ気圧に戻し、処理を終了する。
【0042】
以上本発明の実施例によれば、油拡散真空ポンプの冷却部の低温部と高温部に温度センサを設け、その温度差を使用してヒータの制御することにより、遠心分離機の周囲温度に関係なく油拡散真空ポンプの温度制御が可能になった。また、遠心分離機の設置環境温度の温度変化に影響受けず安定した遠心分離運転が可能になった。
【0043】
本実施例による効果を確認するために、発明者は遠心分離機1を恒温室に入れ室温を30℃から10℃へ毎分1℃ずつ下げていき、20℃の時点で遠心分離機1を動作させて室温低下時の回転室3内の圧力を測定した。従来の室温を基準とした油拡散真空ポンプ5の制御方法では、2回に1回の割合でヒータ温度上昇時から安定化時に回転室の圧力上昇が見られたが、本発明に基づく油拡散真空ポンプ5の冷却筒56の低温側温度センサ10と高温側温度センサ11による制御の場合は回転室3内の圧力上昇は見られなかった。これにより本発明による油拡散真空ポンプの制御方法が、室温の変化に影響されないことが確認できた。
【0044】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば上述の実施例では油拡散真空ポンプ5で温度センサ10、11を設置する場所は、低温側の温度センサの位置はフィンや冷却筒による冷却効果が得られる位置なら比較的任意であり、高温側の温度センサをボイラにより近い位置に設けても良いし、ボイラの筐体に取り付けるのであっても良い。さらに、温度センサ10を図8の温度センサ110のように冷却用のフィンに取り付け、温度センサ11を冷却用のフィンのうちいちばん上のフィンに取り付けるようにしても良い。
【符号の説明】
【0045】
1 遠心分離機 2 ロータ 3 回転室
4 油回転真空ポンプ 5 油拡散真空ポンプ
6、7 真空配管 8 駆動装置 9 制御装置
10、11 温度センサ 12 真空計 13 操作部
14 温度センサ 51 ボイラ 52a、52b 煙突
53 拡散油 54 ヒータ 55a、55b ノズル
56 冷却筒 57 フィン 59 排出口
101 遠心分離機 102 ロータ 103 回転室
104 油回転真空ポンプ 105 油拡散真空ポンプ
106、107 真空配管 108 駆動装置
109 制御装置 110 温度センサ 112 真空計
113 操作部 114 温度センサ 154 ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置と、該駆動装置によって回転され試料を保持するロータと、該ロータを収容する回転室と、前記回転室内を所定の真空まで減圧する油拡散真空ポンプを有する遠心分離機において、
前記油拡散真空ポンプの拡散油の冷却部であって温度差の生ずる2箇所に第1及び第2の温度センサを設け、
前記第1及び第2の温度センサによる検出温度差を用いて前記油拡散真空ポンプのヒータへの通電を制御することを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記第1及び第2の温度センサは、筒状の前記冷却部外壁の上下方向に隔てた2箇所に設けられることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記冷却部の上下方向の略中央部には、径方向に延びる複数の冷却フィンが設けられ、
前記第1の温度センサは前記冷却フィンよりも下側の冷却部外壁に設けられ、前記第2の温度センサは前記冷却フィンよりも上側の冷却部外壁に設けられることを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記冷却部の上下方向の略中央部には、径方向に延びる複数の冷却フィンが設けられ、
前記第1の温度センサは下側の前記冷却フィンに設けられ、前記第2の温度センサは上側の前記冷却フィンに設けられることを特徴とする請求項2に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記油拡散真空ポンプを起動してから前記第1及び第2の温度センサによる検出温度差が所定値に達するまで前記ヒータへのフルパワーの通電を行い、
前記検出温度差が所定値に達したら、前記ヒータへの通電を調整することにより前記検出温度差を所定値に保つように制御することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記検出温度差が所定値に保たれるように前記ヒータへの通電をフィードバック制御することを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記ヒータへの通電開始後一定時間が経過しても、前記第1及び第2の温度センサによる検出温度差が所定の温度差に達しない場合は、前記ヒータへの通電を中止させることを特徴とする請求項6に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記油拡散真空ポンプと直列に油回転真空ポンプを設け、
前記回転室が第1の真空度まで到達したら前記ロータを設定された回転数まで加速させることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の遠心分離機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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