説明

遠心分離機

【課題】
遠心分離機に使用されている油拡散真空ポンプの油を気化させるためのヒータを熱容量の大きい物を使用して、早期に油の温度を気化温度以上に熱することが望ましいが、必要以上に加熱してしまうと、油が早期に揮発して消耗してしまうため、ヒータを適切な温度に制御しようとした場合に、ヒータの温度は時間経過に従いオーバーシュートとアンダーシュートが発生し易く、真空度もハンチングしてしまい真空度が大きく変動しながら高真空に到達していた。

【解決手段】
油拡散ポンプのヒータ温度を検出する手段と、油拡散ポンプのヒータ温度を制御する手段と、制御手段は油拡散ポンプのヒータ部温度を加熱制御開始から所定期間経過後に於いて第一の所定温度から第二の所定温度へ変化させて制御する手段を備える

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心分離機の回転室を高真空に保つための油拡散ポンプの温度制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】

遠心分離機は、チューブなどに収容された試料をロータに保持し、このロータの風損による温度上昇を防止するために減圧される回転室(ロータ室)に設置し、電動モータ等で構成される駆動装置で高速回転させることによって、ロータに保持した上記試料を遠心分離するものである。
【0003】
一般的に、ロータの回転数が毎分40,000回転を越えるいわゆる超遠心分離機は、下記特許文献1に開示されているように、ロータの回転による回転室内の空気とロータとの風損による摩擦熱によりロータおよび試料の温度が上昇するのを抑制するために、回転室内を高真空状態にまで減圧する真空ポンプ装置、ならびに回転室内の真空度を検出するセンサおよびセンサ検出回路からなる真空度検出手段とを備えている。
【0004】
大気圧から高真空状態にまで減圧する真空ポンプ装置は、大気から13パスカル程度の高真空まで減圧する補助真空ポンプと高真空から1パスカル程度の超高真空まで減圧する油拡散ポンプを直列に接続した構成となっている。油拡散ポンプは、貯蔵した油を加熱するボイラと、ボイラを加熱するヒータと、ボイラで加熱されて蒸発・気化した油分子がその中心部を上り周囲部から下向きに勢いよく一方向に噴射するジェット部と、ジェット部で噴射された高速の油分子が壁面に当たり冷却され油を液化させ、この間周囲にある気体分子は油分子に飛ばされ下の方に圧縮される冷却部と、ロータ室に接続される空気の入気口と、真空ポンプに接続される空気の排気口等から構成される。
【0005】
ロータの回転による回転室内の空気とロータの風損による摩擦熱によって、ロータおよび試料の温度上昇を抑制するために、通常、回転室内を真空ポンプ装置で大気圧から減圧して例えば133パスカル程度の中真空度に達するまでは、予め設定された例えば毎分5,000回転の一定低回転数の状態でロータを回転させるいわゆる真空待機動作を行い、この中真空に達した後に毎分数万或いは十数万回転にロータを加速し遠心分離している。
【0006】
或いは、ロータ回転に伴う風損によって試料の温度が上昇するのを極力抑制したい試料の遠心分離を行う場合には、13パスカル程度の高真空度に到達した後にロータを初めて回転させるいわゆる高真空スタートの動作を行う。
【0007】
このような、真空ポンプ装置を備える遠心分離機では、下記特許文献1に開示されるように、温度センサにより油拡散ポンプのボイラの拡散油を蒸発・気化させるヒータ温度を調整して油拡散ポンプの動作を制御することが行われている。また、下記特許文献2に開示されるように、回転室の真空度を真空センサで検出することにより油拡散ポンプの動作を制御することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−104826号公報
【特許文献2】特開2008−23477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記真空ポンプ装置を備えるこの種の遠心分離機に於いて、上記したように高真空スタートの場合、13パスカル程度の高真空度に達するまでの時間は従来10分間以上を要するため、遠心開始までの時間が長く作業能率が悪かった。また、13パスカル程度の高真空度では毎分数万或いは十数万回転数にロータを回転させる高遠心力による長時間の遠心分離では、この高真空条件下でもロータ回転に伴う風損により試料の温度が上昇するため、1パスカル程度の超高真空度の状態でロータを回転させる必要がある。
【0010】
もちろんロータ室となる回転室の内壁面はペルチェ素子などで適切な温度に保ち高速回転中のロータを冷却する手段を設けているが、高真空度の状態では空気の密度が低くいため空気の対流による冷却はできないため、輻射熱による冷却に頼るためロータを冷やす力すなわち冷力は小さいので、ロータの周囲はできるだけ超高真空に保ち空気とロータの摩擦熱による風損を低く抑える必要がある。
【0011】
これらを解決するために、油拡散ポンプ内の油を加熱するヒータを強力なものにし、更には、上記ヒータを例えばカートリッジ・ヒータなどを用い、ヒータ部の熱が油へ効率よく伝達するようにして、油拡散ポンプ内の油が蒸発・気化するまでの時間を短くして大気圧から高真空度まで減圧する時間を短時間にし、半分程度まで短縮することは可能であり、更に、油拡散ポンプ内の油から活発に蒸気が発生するようにボイラを高温に保ち、超高真空度に維持することも可能である。
【0012】
承知のように、ボイラを高温に保つと、油拡散ポンプのボイラの加熱量が増加してジェット部から噴射する蒸発・気化した油分子の量は増加し、その気化した油分子の冷却されなかった一部は油拡散ポンプの排気口から補助真空ポンプへ連続して排出されるため、油拡散ポンプ内の油貯蔵量が減少して、頻繁に給油メンテナンスを必要とするという問題が発生する。更に、油拡散ポンプの排気口と補助真空ポンプは多くの場合ゴム製の真空ホースで接続されているため、ヒータを高温に保つと油拡散ポンプの排気口いわゆるエルボ部とゴム製の真空ホースの接続部が高温になり、安価な天然ゴム製の真空ホースが早期に熱劣化するため、高価なシリコン製のゴムの使用を余儀なくされ、製品のコスト増を招いてしまう。
【0013】
これらを満足する特性を得るには、強力なヒータを使用して油拡散ポンプ内の油の蒸発を短時間で活発にして超高真空状態に到達させると共に、その後は、ボイラの温度として温度レスポンスの良いヒータの温度を検出してボイラの温度を油消費が少なく、エルボが高温にならない適切な温度に維持制御すれば良い。
【0014】
しかし、上記の良好な特性を実現するための適切な油拡散ポンプ内の油の温度制御範囲はかなり狭い上、ヒータの温度を検知するセンサ自身の温度測定誤差や、センサの検出誤差を考慮しなくてはならないため、ヒータの目標設定温度は最適温度より低く設定し制御するのが得策である。説明のため、ヒータの目標設定温度(油拡散真空ポンプの油の目標設定温度)をTctlとする。
【0015】
油拡散真空ポンプ内の油を短時間で目標設定温度Tctlに到達させるために、強力なヒータを使用した油拡散ポンプでは、ヒータによって油拡散ポンプ内の油の温度を急速に上昇させ、目標設定温度に近づいたらヒータの温度を制御して拡散ポンプ内の油の温度を目標設定温度に制御するが、この時、ヒータの温度または油の温度は時間経過に従いオーバーシュートとアンダーシュートを(ハンチング)が発生し易く、真空度も油の温度が高い時(オーバーシュート)には真空度が高くなり、逆に油の温度が低い時(アンダーシュート)には真空度が悪化する。
【0016】
この動作について、従来の遠心分離機のヒータ温度制御に於いて、図6に示した油拡散ポンプヒータ制御のフローチャートと、図8に示したヒータの温度と真空度の関係を時間の経過で測定した例を用いて説明する。
【0017】
図6に於いて、真空ポンプ装置を動作開始すると、補助真空ポンプにより回転室内は大気圧から減圧を始め、同時に油拡散ポンプのヒータで油拡散ポンプ内の油を加熱開始する。油拡散ポンプ内の油の温度制御は、油拡散ポンプ内の油温度に対応したヒータ部に取付けた温度センサからの出力信号を元に制御する。S31処理で油拡散ポンプのヒータを連続通電開始して、ヒータの温度を急速に上昇させ、S32処理でヒータの温度を監視してヒータの温度が目標設定温度Tctl−10℃に達するまでヒータを連続通電する。
【0018】
ヒータの温度が目標設定温度Tctl−10℃に達した後、S33処理でヒータの温度がヒータ目標設定温度Tctlに一致するようPIDフィードバック制御等によりヒータに加えられる電力を調節するパルス幅制御をする。ヒータ目標設定温度Tctlのパルス幅制御は、S34処理で遠心分離動作を終了しロータを減速停止させるヒータ通電終了時まで継続する。
【0019】
図7に於いて、上記の制御によるヒータの温度(油拡散ポンプ内の油の温度)と真空度の関係は、油拡散ポンプのヒータで油拡散ポンプ内の油の加熱を始めてから、ヒータ目標設定温度Tctlから10℃引いた温度まで連続してヒータを加熱するので直線状にヒータの温度が上昇し、ヒータ温度が目標設定温度Tctlから10℃引いた温度に到達するとPIDフィードバック制御により電力を調整するパルス幅制御に移行し、ヒータ温度が目標設定温度Tctlとなるように制御する。
【0020】
しかし、油拡散ポンプを強力なヒータで加熱しているので、ヒータ目標設定温度Tctlに一致安定するまで、ヒータ温度はヒータ温度Tov1へのオーバーシュート及びヒータ温度Tun1へのアンダーシュートを繰り返すハンチング動作を行いながら目標設定温度に徐々に近ずいて行く。
【0021】
このヒータ温度の変動によって、油拡散真空ポンプ内の油の温度が変動するから油拡散真空ポンプ内のジェット部から噴射する油の分子量は変動し、真空度は真空度Pun1へのアンダーシュートとPov1へのオーバーシュートを繰り返すハンチング動作を行いながら超高真空度に到達する。従い、真空ポンプ装置が動作開始してから目標超高真空度Pmgに達するまでの時間tmgを短く出来ない欠点があった。
【0022】
このとき、前述した通り、ヒータ制御温度Tctlを上げて連続制御すると、油拡散ポンプ内の油貯蔵量の減少が進行して早い時期に油貯蔵量が不足し、一方、ヒータ制御温度Tctlを下げて連続制御すると、油拡散ポンプの油温度が下がるのでジェット部から噴射する気化した油分子の量は減少し、回転室内は短時間の内に超高真空に到達することができない欠点が生じる。
【0023】
本発明の目的は、上記した従来技術の欠点をなくし、短時間に回転室内を高真空状態に到達させ、その後超高真空度まで真空度の途中悪化を排除して安定させて到達させ、しかも油拡散ポンプの油消費が少なく、エルボが高温にならない適切な温度に制御しながら回転室内の真空度を超高真空度に維持可能な遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの特徴を説明すれば、次のとおりである。
【0025】
本発明の一つの特徴によれば、回転室と、該回転室内に設置されるロータと、前記回転室内を減圧するための油拡散真空ポンプ及び補助真空ポンプと、前記油拡散真空ポンプのヒータ部温度を制御する制御装置とを具備する遠心分離機において、前記制御装置は前記油拡散真空ポンプの前記ヒータ部温度を所定期間経過後に第一の所定温度から第二の所定温度に変化させて制御し回転室内真空度を大気圧から超高真空まで安定させて到達させる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の上記特徴によれば、補助真空ポンプと油拡散真空ポンプで構成されている真空ポンプ装置が動作開始すると、補助真空ポンプにより回転室内は大気圧から減圧を始め、同時に油拡散ポンプのヒータは油への熱伝導の良いカートリッジヒータなどを用い、油拡散ポンプ内の油を加熱開始してから油拡散ポンプが超高真空度に減圧可能で油拡散ポンプの油消費が少なく、エルボが高温にならない適切な温度となるヒータ制御温度Tctlに、制御上発生するアンダーシュートとそのハンチング動作時間分を補うために、10分から1時間程度の所定期間において、目標所定制御温度に、2から10deg程度加算した目標制御温度で加熱動作することによって、回転室内の真空度は安定して高真空に到達して減圧時間を短縮することができる。
【0027】
また、目標所定制御温度に加算した温度から目標所定制御温度に戻す時に、温度0.1deg程度の割合で、時間20秒程度に1回制御温度を低下させる制御を50回程度の回数で目標所定制御温度に戻す制御にすることによって真空度のはなくなり、回転室内の真空度は安定して高真空に到達することができる。
【0028】
さらに、上記の油拡散ポンプのヒータを加熱開始後の30分程度の短い時間、ヒータ制御温度Tctlに所定温度を加算した温度で加熱動作すると、この加熱動作が無い場合と比べると、到達及び維持される真空度は更に超高真空になる実験結果を得ている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る遠心分離機の構成図。
【図2】油拡散真空ポンプの構成図。
【図3】本発明の実施形態の遠心分離機の動作フローチャート。
【図4】本発明の第一の実施形態の遠心分離機の真空度と温度の測定例を示した特性図。
【図5】本発明の第二の実施形態の遠心分離機の真空度と温度の測定例を示した特性図
【図6】油拡散ポンプヒータ制御のフローチャート。
【図7】外気温に応じた目標設定温度の決定例を示す。
【図8】従来の遠心分離機の真空度と温度の測定例を示した特性図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための各図面において、同一の機能を有する部材または要素については同一の符号を付し、その繰り返しの説明を省略する。
【0031】
以下に本発明の実施例に於ける超遠心分離機の構成について図1を用いて詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係る遠心分離機の構成図である。遠心分離機を100で示す。1は試料を装着して遠心分離するためのロータである。2はロータを高速に回転駆動する駆動部(モータ)であり、3はロータが設置される回転室であり、回転室3内部は高真空度に減圧される。4は回転室3を例えば20パスカルの中真空まで減圧するための油回転真空ポンプやドライスクロール真空ポンプなどの補助真空ポンプであり、その中真空状態で油拡散ポンプの排気動作が開始するとさらに減圧する。5は回転室3を超高真空まで減圧するための油拡散真空ポンプであり、補助真空ポンプ4と油拡散真空ポンプ5は直列に接続されている。補助真空ポンプ4と油拡散真空ポンプ5で真空ポンプ装置を構成している。6は補助真空ポンプ4と油拡散真空ポンプ5の間を接続する真空ホースであり、7は回転室3と油拡散真空ポンプ5の間を接続するパイプである。8は油拡散真空ポンプ5に内蔵されるヒータ5cの温度を検出する温度センサで、このヒータ5cの温度を検出することで油拡散真空ポンプ5内の油5bの温度としている。9は遠心分離機100の制御装置であり、ロータ1の回転駆動制御、補助真空ポンプ4や油拡散真空ポンプ5の駆動及び温度制御及び、温度センサ8からの信号をもとに温度の算出などを行う。10は運転条件の入力やスタート及びスットプをする入力装置である。11は回転室3の真空度を検出する真空センサであり、真空センサからの信号をもとに制御装置9が回転室3の真空度を算出し、真空待機、高真空スタートの情報に用いる。
【0032】
図2は、図1に示した遠心分離機100の油拡散真空ポンプ5の部分断面構成図である。5aは貯蔵した油をヒータで過熱して蒸発・気化させるボイラであり、5bはボイラ5a内に貯蔵する油拡散ポンプ用の油であり、油の沸点は種類によって異なり例えば215℃である。5cは油5bのヒータであり、例えばカートリッジヒータのように油の中にヒータを実装するタイプでありヒータから油への熱伝導が良く短時間で油の温度が上昇する。5dはボイラ5aで過熱されて蒸発・気化した油分子を一方向に噴射するジェット気流発生部である。5eはジェット部5dで噴射された高速の気化した油分子を冷却して油を液化させる冷却部である。5fは回転室3とパイプ7で接続された入気口である。5hは油拡散真空ポンプの胴部である。5gは油拡散真空ポンプ5の排気口であり、補助真空ポンプ4と真空ホース6で接続されている。
上記図1の構成になる本発明の第一の実施例を、図4の真空度と温度の測定例を示した特性図により説明する。
【0033】
本発明の真空度と温度の測定例を実線で示し、従来の遠心分離機の真空度と温度の測定例を破線で示す。本実施例では、例えば30分の所定期間tctlにおいて、第一の所定温度として、ヒータ目標設定温度Tctlに例えば7degの所定温度T1を加算した温度で制御する。
【0034】
所定温度T1を加算した第一の所定温度(Tctl+T1)は、ヒータ5cを温度制御した場合に生じるハンチングで油拡散真空ポンプ5内の油の温度が低下した場合に、目標設定温度Tctl以下にならないようにするためである。なお、第一の所定温度(Tctl+T1)となるようにヒータ5cを温度制御する時間を30分程度としてのは、ハンチングによる温度の上下動がほぼおさまる時間を実験により導き出している。
【0035】
これにより、油拡散真空ポンプ5のヒータ5cで油拡散真空ポンプ5内の油5bの加熱を始めてから、ヒータ5cの制御開始温度(Tctl+T1−10℃)になるまで連続でヒータを加熱し、その後、ヒータ5cの温度がヒータ5cの制御開始温度(Tctl+T1−10℃)になってからヒータ5cに供給する電力をパルス幅制御を開始して、ヒータ5cの温度が第一の所定温度(Tctl+T1)となるように制御する。
【0036】
よって、油拡散真空ポンプ5内の油5bの温度はハンチングによって油拡散真空ポンプ5内の油の温度が低下した場合でも目標設定温度Tctlを下回ることがなくなり、油拡散真空ポンプ5のジェット部5dから噴射する気化した油分子の量を安定して発生させることができ、安定して高真空に到達することができる。
【0037】
上記動作を図3に示す遠心分離機100の動作フローチャートを参照しながら説明する。入力装置10のスタートスイッチを押下するとスタート信号が制御装置9に入力され、S1処理でロータ運転開始を判別して運転を開始する。S2処理で補助真空ポンプ4の運転を開始し、S3処理で油拡散真空ポンプ5のヒータ5cの制御を開始する。そのS3処理の油拡散真空ポンプ5のヒータ5cの制御は、図6に示した油拡散真空ポンプ5のヒータ5cの制御のフローチャートによる。次にS4処理で、ロータを回転させるモータの運転開始処理を行う。S5処理で油拡散真空ポンプ5のヒータ5bの温度を第一の所定温度である目標設定温度Tctlに所定温度T1加算した温度(Tctl+T1)となるように制御を行い、S6処理で時間カウントをして時間tctlが経過するまで第一の所定温度(Tctl+T1)でヒータ制御を継続する。
【0038】
ヒータ温度制御は、油拡散真空ポンプ内の油温度に対応したヒータ温度すなわちヒータ部に取付けた温度センサ8の検出温度で制御を行い、目標設定温度Tctlは油拡散真空ポンプ5が排気動作をして回転室3を減圧する実験で求めた最適な温度である。
【0039】
また、油拡散ポンプ内の油貯蔵量の減少を防止するため、第一の所定温度(Tctl+T1)となるようにヒータ5cへの通電時間をtctlに限定し、時間tctlの経過後、S7処理で油拡散真空ポンプ5のヒータ5bの温度を第二の所定温度である目標設定温度Tctl変更して加熱を継続する。入力装置10でスットプスイッチを押下するとスットプ信号が制御装置9に入力され、S8処理でロータ運転の停止処理を行い、S9処理でモータの運転停止させてロータを停止させる。ロータ停止後、S10処理で補助真空ポンプを停止させ、S11処理で油拡散真空ポンプ5のヒータ5cの通電を停止する。
【0040】
このようにして、目標真空度Pmg(13Pa)に減圧する目標時間Tmg(5分)を十分に達成することができる。また、油拡散真空ポンプ5の排気能力は向上して目標設定温度Tctlだけで制御する場合では1.3パスカル程度だたのが、本発明の場合では、より高い真空度の0.4パスカル程度の超高真空にまで到達できる。
【0041】
さらに、ヒータ5cを第一の所定温度(Tctl+T1)で連続通電すると、ジェット部5dから噴射する気化した油分子の量は冷却部で冷却しきれずその一部は油拡散真空ポンプ5の排気口5gから補助真空ポンプ4へ長時間にわたり流れてしまうため、油拡散ポンプ内の油貯蔵量の減少を惹起する恐れがあるが、第一の所定温度(Tctl+T1)の通電時間を所定期間tctlに限定することにより、真空度が安定して超高真空に到達し、且つ油拡散ポンプ内の油貯蔵量の減少量を極力抑制することができる。
【0042】
しかし、所定期間tctl経過後にヒータ5cの温度を第一の所定温度(Tctl+T1)からヒータ5cの目標設定温度である第二の所定温度(Tctl)にするときT1の温度が7degと大きいため、目標設定温度である第二の所定温度(Tctl)となるようにパルス幅制御をするが第一の所定温度(目標設定温度)Tctlに安定するまでヒータ温度はオーバーシュートとアンダーシュート(ハンチング)が発生してしまい、真空度もそれに対応して上下動してしまう。
【0043】
そこで、第一の所定温度である第一の制御温度(Tctl+T1)から第二の所定温度である目標設定温度(Tctl)にするとき、第一の所定温度から第二の所定温度へ徐々に変化させて制御するときの特性を第二の実施例として、図5の真空度と温度の測定例を示した特性図より説明する。真空度と温度の測定例を実線で示し、従来の遠心分離機の真空度と温度の測定例を破線で示す。以下に説明する図5の特性図は、図4の真空度と温度の測定例を示した特性図に、第一の所定温度(Tctl+T1)からヒータ5cの目標設定温度である第二の所定温度(Tctl)にするとき、第一の所定温度から第二の所定温度へ徐々に変化させて制御する手段を備えたときの特性を示す。所定期間tctl経過後、ヒータ制御温度Tctl+T1からヒータ制御温度Tctlにするとき、ヒータ制御温度を20秒程度の所定時間tsoft1ごとに0.166deg程度の温度Tsoftづつ低下させ、42回程度の所定回数繰り返して所定期間tsoft2まで続け、ヒータ制御温度を極端に小さく変化させヒータ制御温度Tctlにすることでヒータ温度は安定して変化するので、回転室内の真空度は安定して高真空に到達することができる。図5は、所定時間tsoft1と所定温度Tsoftを図示しやすくするため、所定時間tsoft1を長く、所定温度Tsoftを大きく、そして繰り返し回数を少なく図示してある。
【0044】
また、断続的に温度を変化させるのではなく、連続的に変化させても良い。
【0045】
次に図7に基板温度と実験的に得られた最適なヒータの目標設定温度Tctlとの関係を示す。
油拡散真空ポンプ5のボイラで噴射する蒸発・気化した油分子は、外気温の低下と共に冷却部5eでの凝縮が促進され空気分子のトラップ効率が上昇するため、超高真空に維持するためのヒータ温度は低下する。従い、外気温に対応して拡散ポンプが超高真空に維持可能でしかも油の消耗を少なくし、排気口5gの温度上昇を抑制する最適なヒータ制御温度Tctlは変化するため、ヒータの温度制御は気温補正されたヒータ制御温度Tctlにより行う。
【0046】
実際に外気温を測定することはセンサが外部に出るので実用性が低いため、遠心分離機100は通常内部にファンなどの換気装置を有することからこれの替わりに遠心分離機100の内部の周囲温度で読み替え代用することが可能である。最も至便なのは、制御装置9内の図示しない制御基板上に設けた温度センサで外気温の代用をすることである。この場合、外気温と制御基板上に設けた温度センサの間には約3deg程度の温度差があり、温度センサの方が高いので、この関係を利用して外気温の代用とする。
【符号の説明】
【0047】
1:ロータ 2:駆動部(モータ) 3:回転室
4:補助真空ポンプ
5:油拡散真空ポンプ 5a:ボイラ 5b:油
5c:ヒータ 5d:ジェット気流発生部 5e:放熱フィン
5f:入気口 5g:排気口 5h:胴部
6:真空ホース 7:パイプ
8:温度センサ 9:制御装置 10:入力装置
11:真空センサ 100:遠心分離機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転室と、該回転室内に設置されるロータと、該ロータを回転させるモータと、前記回転室内を減圧するための油拡散ポンプ及び補助真空ポンプと、前記油拡散ポンプのヒータ部温度を制御する制御装置とを備える遠心分離機に於いて、
前記制御装置は前記油拡散ポンプの前記ヒータの温度を所定期間経過後に第一の所定温度から第二の所定温度に変化させことを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記第一の所定温度から前記第二の所定温度への変化を徐々に変化させさせることを特徴とする請求項1記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記第二の所定温度は、外気温度に応じて変化させることを特徴とする請求項1または2記載の遠心分離機

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−25176(P2011−25176A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174538(P2009−174538)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【出願人】(000005094)日立工機株式会社 (1,861)
【Fターム(参考)】