説明

遠心分離機

【課題】
冷却機構の蒸発温度を段階的に可変にすることにより、製造コストの上昇を抑えつつ、冷却タイムラグを短縮化できるようにした遠心分離機を提供する。
【解決手段】
試料を保持して遠心分離するためのロータ1と、ロータ1を回転させるモータ2と、ロータを収容する回転室を画定するチャンバ4と、チャンバ4の外周に配置され回転室3を冷却するための蒸発器5と、蒸発器5に冷媒を循環させるための圧縮機7と、圧縮機7で圧縮された冷媒を放熱するための凝縮器9と、圧縮され放熱した冷媒を断熱膨張させて蒸発器に供給する絞り機構10A、10Bと、これらを制御する制御部12を備えた遠心分離機において、絞り機構10A、10Bを複数設け、絞り機構10A、10Bへの冷媒供給を制御部12より操作可能な開閉弁11Aを設け、開閉弁11Aを用いて凝縮器9から複数の絞り機構10A、10Bへの冷媒供給を段階的に可変に制御するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却機構を有する遠心分離機に関し、特に、温度制御のために用いられる絞り機構を安価にて実現しつつ高精度の制御が可能な冷却機構を実現した遠心分離機に関する。
【背景技術】
【0002】
遠心分離機は、チューブ等の容器に収容した試料をロータに格納し、ロータを回転室内で高速回転させることにより遠心分離を行う。ロータを回転させる駆動装置として、電気式のモータが広く使われている。ロータを高速で回転させると、効率よく試料を遠心分離できるが、ロータの回転速度が高くなりすぎると、ロータの空気摩擦により発生する熱量(風損)によってロータ内に収容した試料の温度が上昇する恐れがある。例えば、回転速度5,000min−1〜30,000min−1クラスの遠心分離機においては、ロータの温度が上昇するのを防ぐために、圧縮機を使用したカルノーサイクル形冷却機構が広く使用されている。
【0003】
また、遠心分離機を多用する生物化学系の試料は、温度で失活する特性を持つことが多く、遠心分離中に試料の温度を適切に制御することが重要である。従来の遠心分離機では、圧縮機を断続運転することにより、ロータの温度を制御することが一般的に行われている。この冷却機構の絞り機構には、最も安価な固定絞り機構キャピラリチューブを用いられることが多く、キャピラリチューブにより影響される冷却能力が、概ね最も温度上昇を起こしやすいロータ、例えば、回転速度が高いロータの負荷に合わせて設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−228400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遠心分離機の冷却機構は、概ね最も回転速度の高いロータの負荷に合わせて設計されるのが通常であるが、これは、高速回転のロータを冷却する場合、低速のロータを冷却するより、回転室温度をより低温にする必要があるためである。高速ロータ用に設計された冷却機構では、蒸発温度が低いため、低い圧力になるように絞り機構が設定される。そのため、冷却機構の冷媒循環量及び冷却容量はどうしても低くならざるを得ない。一方、最高回転速度15、000min−1以下の中低速の大形ロータは、高速ロータよりも回転室温度が高くても冷却可能である。
【0006】
一例を挙げると、外気温25℃において、直径約215mmのロータを18、000min−1で運転した場合、その風損は約700W、運転中の回転室空気温度は−8℃、試料温度は概ね0℃となるが、同室温・同設置条件下で、直径約340mmのロータを10、000min−1で運転した場合、風損は1,000Wを越すにもかかわらず、運転中の回転室空気温度は−8℃、試料温度は−3℃まで冷却可能である。これは直径約340mmのロータの表面積が大きく、また、ロータ単位表面積当たりの風損が小さく、冷却するのに必要な回転室空気との温度差が小さくてもロータを十分冷却できるためである。約300W大きい風損は、風損負荷増大により若干蒸発温度が高めにシフトするのと、冷媒の液分が蒸発した乾燥ガス冷媒の冷却容量を利用して冷却しているが、乾燥ガス冷媒は湿りガス冷媒と異なり、わずかな熱量を吸収しただけで温度上昇し、ロータの冷却に寄与しなくなる。そのため、中低速で回転する大形ロータのさらなる大形化もしくは高速化は、高速ロータ用に設定したキャピラリチューブのような固定式の絞り機構を利用している限りでは対応が難しいという課題があった。
【0007】
この問題解決のために、絞り機構を中低速の大形ロータ用に合わせ、高速ロータより高めの蒸発温度に設定すると、同じ圧縮機を使用しても冷却容量は大幅に増加するため、大形ロータの風損を冷却することが可能となる。一方で、高速ロータを使う場合には、蒸発温度を下げることができずに、冷却不足になる問題が発生する恐れがある。これらの対策として、電子膨張弁を採用して絞り機構の絞り量を可変にすれば、中低速の大形ロータ使用時は蒸発温度を高く制御し、高速ロータの場合は蒸発温度を低く制御することが可能であるが、電子膨張弁は高価であり遠心分離機の望ましくないコストアップにつながってしまう。さらに可変速圧縮機を採用し、圧縮機の回転数を上げ、冷媒循環量を上げても、固定絞り機構のままでは、最大能力の更に大きな圧縮機が必要となると同時に所要動力も増大し、成績係数(冷却能力KW÷冷却消費電力KW)が下がり非常に不経済なもののとなるので、製造コストとの兼ね合いからそのまま採用することは難しい。
【0008】
遠心分離機は、ロータを高速回転させ、その際発生する風損を冷却機構により冷却するように構成されるが、ロータが最高回転速度に達する所要時間は1〜3分程度であり、その間に回転室を低温の設定温度から更に数度から十数度低い回転室の制御温度まで冷却することが重要である。しかしながら、回転室の急激な冷却は過大な圧縮機や凝縮器を装備しなければ実現が難しい。遠心分離機もロータも予め使用者の意図した温度に事前に冷却してあっても、ロータの風損を冷却しながら回転室の温度を制御温度まで冷却するには、ロータが設定回転速度に到達した後、数分余計にかかり、この間にロータ内の試料温度が上昇する恐れがある。これが遠心分離機は電源投入したばかりで回転室の温度は室温、ロータも室温からのスタートとなると、ロータが設定回転速度に到達した後、回転室の温度が制御温度に達するは10分〜15分もかかってしまうことになる。本問題は絞り機構を可変にし、運転開始直後の蒸発温度より冷却容量の必要な期間に、蒸発温度を上げてやれば、冷却のタイムラグは縮小させることができるが、遠心分離機の冷却機構は固定式の絞り機構を使用しているものが多く、圧縮機や凝縮器の能力が足りていたとしても、蒸発圧力を変えることができなかった。仮に可変速圧縮機を採用し、一時的に冷却容量を増大させたとしても、高速用ロータに合わせた固定式の絞り機構だと、前記のとおり、より最大能力の大きい圧縮機が必要となるだけで不経済である。
【0009】
一般の遠心分離機は、回転室の温度制御を圧縮機の断続運転制御で行っている。定速回転の圧縮機の場合、その冷却効果を減ずるには、凝縮器での熱交換を風量や水量を調整し冷却容量を減じる、電子膨張弁を使用し冷媒循環量を減じるくらいしか方法がなく、各々風量可変のファン、冷却水の電動調整弁、電子膨張弁等高価な機器が必要となるため採用すると遠心分離機の大幅なコストアップにつながってしまう。冷却効果を止めるには、冷媒を蒸発器に流さず、バイパスさせて圧縮機に戻す、又は冷媒を蒸発器の前で止めるなどの手法もあるが、蒸発器をバイパスして圧縮機に戻した場合は、液分の多い冷媒を圧縮機が吸入し圧縮することになり、シリンダ内で冷媒の液分圧縮が起こり、シリンダの吐出弁を破壊する危険がある。蒸発器の前で冷媒を止めると、圧縮機に冷媒が吸入されないため、圧縮機が温度上昇を起こし短寿命になりやすい。
【0010】
従って、圧縮機の断続運転が機構的に最も単純で安価であるが、一度圧縮機を停止させると、圧縮機の高圧側と低圧側の圧力差が小さくなるまで圧縮機が再起動できないという問題があり、ロータの風損が大きい場合、圧縮機停止中に回転室の温度が急上昇する恐れがあり、温度制御が粗くなるという問題があった。また、冷却機構をフル稼働させれば、所望の冷却温度は達成できるが、圧縮機の断続運転による温度制御の為、製品仕様の冷却温度近傍では温度制御の精度を向上させることが難しく、製品の冷却仕様を高くせざる得ない問題も発生していた。
【0011】
本発明は上記背景に鑑みてなされたもので、その目的は、蒸発温度を段階的に可変にすることにより、製造コストの上昇を抑えつつ、冷却のタイムラグを短縮化できる遠心分離機を提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、複数の固定絞り機構と開閉弁を用いて、蒸発温度を段階的に可変にでき、回転室の温度変動(ハンチング)を小さくし、温度制御精度の高い遠心分離機を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、同じ圧縮機能力の冷却機構を用いて、高速ロータと、風損の大きい大容量化した又は高遠心加速度化した中低速大形ロータを運転可能とした遠心分離機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願において開示される発明のうち代表的なものの特徴を説明すれば次の通りである。
【0015】
本発明の一つの特徴によれば、試料を保持して遠心分離するためのロータと、ロータを回転させるモータと、ロータを収容する回転室を画定するチャンバと、チャンバの外周に配置され回転室を冷却するための蒸発器と、蒸発器に冷媒を循環させるための圧縮機と、圧縮機で圧縮された冷媒を放熱するための凝縮器と、圧縮され放熱した冷媒を断熱膨張させて蒸発器に供給する絞り機構と、これらを制御する制御部を備えた遠心分離機において、絞り機構を複数設け、絞り機構への冷媒供給を制御部より操作可能な開閉弁を設け、この開閉弁を用いて凝縮器から複数の絞り機構への冷媒供給を段階的に可変に制御するようにした。複数の絞り機構には、それぞれ開閉弁を設けるようにしても良いし、複数の絞り機構のうち一部の絞り機構にだけ開閉弁を設けて残りの絞り機構は常時開状態としても良い。
【0016】
本発明の他の特徴によれば、制御部は、回転室の冷却を高速化する必要がある際には開閉弁を開いて、蒸発器へ供給する冷媒量を多くなるように制御する。また制御部は、圧縮機の運転中に絞り機構への開閉弁を操作することにより、回転室の温度制御を行う。
【0017】
本発明のさらに他の特徴によれば、制御部は、装着されたロータを識別し、ロータの種類及び遠心分離回転速度に応じて開閉弁の制御の有無を選択する。制御部には記憶手段を設け、ロータの種類と開閉弁の制御情報を対応させて格納しておく。開閉弁の制御情報は、制御弁を開閉制御するための回転速度である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、冷却機構を有する遠心分離機において絞り機構を複数設け、絞り機構への冷媒供給を制御部より操作可能な開閉弁を設け、開閉弁を用いて凝縮器から複数の絞り機構への冷媒供給を段階的に可変に制御するようにした。この結果、蒸発温度を段階的に操作でき、冷却に温度差を必要とする高速ロータは開閉弁を閉じることにより蒸発器への冷媒供給量を減らして、蒸発温度を低くして冷却することができる。
【0019】
請求項2の発明によれば、複数の絞り機構にそれぞれ開閉弁を設けるので、複数の固定絞り機構を個別に制御することができ、蒸発温度を段階的に操作することができる。また、高風損時の回転室の温度制御を圧縮機の断続運転でなく、蒸発温度の切り替えで制御できるため、回転室の温度変化の少ない精度の高い温度制御が可能となる。
【0020】
請求項3の発明によれば、複数の絞り機構のうち一部の絞り機構に開閉弁を設け、残りの絞り機構は常時開状態とされるので、複数の蒸発温度を設定することができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、制御部は、回転室の冷却を高速化する必要がある際には開閉弁を開いて、蒸発器へ供給する冷媒量を多くなるように制御するので、風損が大きくても冷却に温度差を必要としない中低速の大形ロータを使用する際は開閉弁を開いて蒸発器への冷媒供給量を増やし蒸発温度を高くすることにより、効果的に冷却することが可能になる。
【0022】
請求項5の発明によれば、制御部は、圧縮機の運転中に絞り機構への開閉弁を操作することにより、回転室の温度制御を行うので、回転室のハンチングを小さくし、温度制御精度の高い遠心分離機を実現することができる。
【0023】
請求項6の発明によれば、制御部は、装着されたロータを識別し、ロータの種類及び遠心分離回転速度に応じて開閉弁の制御の有無を選択するので、装着されたロータの種類に応じて適切な開閉弁の制御を行うことができる。
【0024】
請求項7の発明によれば、制御部に記憶手段を設け、ロータの種類と開閉弁の制御情報を対応させて格納しておくので、装着されるロータにあわせて蒸発温度を効率よく操作できる。この結果、回転室を急速に冷却する必要のある運転初期に開閉弁を開き、蒸発器への冷媒供給量を増やすことにより回転室を早く冷却することが可能となり、運転初期の試料温度上昇を抑えることができる。
【0025】
請求項8の発明によれば、開閉弁の制御情報は、制御弁を開閉制御するための回転速度であるので、使用者によって設定された遠心分離回転速度に応じて適切に制御弁を開閉制御することができる。
【0026】
本発明の上記及び他の目的ならびに新規な特徴は、以下の明細書の記載及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例に係る遠心分離機の構成を示す模式図である。
【図2】コンデンシングユニットの蒸発温度と冷却容量の関係を示すグラフである。
【図3】遠心分離機の各冷却機構の動作と冷却関連部の温度変化の一例を表す図である。
【図4】従来技術と本発明による温度制御における冷却機構動作と冷却関連部の温度変化の一例を示す図である。
【図5】装着されるロータとキャピラリチューブ選択との対応関係を示すデータテーブルである。
【図6】本発明の実施例に係る遠心分離機の制御手順を示すフローチャートである。
【図7】複数の絞り機構と開閉弁を有する本発明の第2の実施例に係る遠心分離機の構成を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施例に係る、装着されるロータとキャピラリチューブ選択との対応関係を示すデータテーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0028】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。図1は本発明の実施例に係る遠心分離機の構成を示す模式図である。
【0029】
ロータ1は試料を収容した容器を保持し、チャンバ4の内部に装着され、駆動部2によって高速に回転される。チャンバ4により画定される回転室3は、ドア14により密閉可能であり、チャンバ4の外周に蒸発器5が配置されることにより回転室3の内部が所定の低温状態に冷却される。チャンバ4の所定の箇所には温度センサ6が設けられ、温度センサ6によって回転室3の内部の空気温度を計測することによりロータ1の温度を間接的に測定する。回転室3を冷却するための冷却機構は、蒸発器5、圧縮機7、凝縮器9、ファン8、キャピラリチューブ(固定絞り機構)10A及び10Bを含んで構成され、これらは戻り配管15及び配管16〜18を介して接続される。本実施例のおける冷却機構では空冷式の凝縮器9を用いているが、水冷式の凝縮器を用いることも可能であり、その場合はファン8を省くことも可能である。
【0030】
凝縮器9の出力側の配管17と蒸発器5側の配管18の間には、2つのキャピラリチューブ10A及び10Bが並列に接続される。キャピラリチューブ10A、10Bは、圧縮機7で圧縮され、凝縮器9及びファン8で冷却された液化した高圧の冷媒を、低圧になっている蒸発器5に導入する部品で、キャピラリチューブ10A、10Bの内径とその長さで冷媒流量がおおよそ決まる。ここで、キャピラリチューブ10A、10Bの内径が細ければ冷媒は少量しか流れず、蒸発器5での蒸発温度は低くなり、キャピラリチューブ10A、10Bの内径が太ければ冷媒が大量に流れるため、蒸発器5での蒸発温度は高くなる。
【0031】
キャピラリチューブ10A、10Bは、例えば銅管で製造され、お互いが同じ径で同じ長さで構成される。本実施例においては、一方のキャピラリチューブ10Bにだけ開閉弁11Aが設けられ、キャピラリチューブ10Bへの流路を開放又は閉鎖することができる。本実施例では、開閉弁11Aを閉鎖することにより絞り流路はキャピラリチューブ10Aだけとなり、開閉弁11Aを開放することにより絞り流路はキャピラリチューブ10Aと10Bの2本分となる。このように1つの開閉弁を操作することにより、キャピラリチューブ10Bへの冷媒の流れを操作することができ、使用するキャピラリチューブの数を1本又は2本のいずれかを選択することが可能となる。
【0032】
回転室3には温度センサ6が設けられ、回転室3の空気温度が計測される。蒸発器5から圧縮機7への戻り配管15には温度センサ19が設けられ、これにより圧縮機7の入口における冷媒の温度が測定される。温度センサ6及び19の出力は制御部12に伝達される。制御部12は、ロータ1の回転制御、圧縮機7の稼働と停止の指示、ファン8の回転、開閉弁11Aの開閉駆動等を含む遠心分離機全体の制御を行うもので、図示しないマイクロプロセッサや記憶装置を含む電子回路で構成される。制御部12は、温度センサ6の出力を用いて制御することにより蒸発器5の冷却能力を調整する。尚、蒸発器5の冷却能力の調整は、温度センサ6の出力だけを用いて調整することが可能である(その場合、温度センサ19を省くことも可能である)が、これに加えて又はこれとは別に温度センサ19の出力を用いて蒸発器5の冷却能力を調整することも可能である。温度センサ19の出力を用いることにより圧縮機7の入口における冷媒の温度が測定され、開閉弁11Aが開放される急速冷却時の、蒸発器5の冷却状態が判別でき、開閉弁11Aを閉じ、より低い蒸発温度へ移行するタイミングを正確に計ることができる。
【0033】
本実施例においては、回転するロータ1の温度を直接測定することができないので、制御部12は温度センサ6の計測した回転室3の空気温度と、ロータ1の種類と、回転速度から間接的にロータ1の温度を算出する。
一般的に、温度差のある媒体間での移動熱量Qは、
Q=A・K・(T−T
但し、Aは伝熱面積、Kは伝熱係数、Tは被冷却物の温度、Tは冷却体の温度、
となる。これを遠心分離機のロータ1の熱交換に当てはめると蒸発器5からロータ1への移動熱量Q、つまりロータ1の空気摩擦発熱量(風損)Qは、
Q=A・K・(T−T
但し、Aはロータ1の表面積、Kは総括伝熱係数、Tはロータの温度、Tは蒸発器温度、となる。
【0034】
遠心分離機において、風損が大きく冷却が問題となる回転速度領域では、回転室3内部の空気は十分に乱流に達し、総括伝熱係数Kはほとんど変わらないため、支配的因子はロータ1の表面積Aと、ロータ1と蒸発器5の温度差(T−T)となる。これらの式より表面積の大きいロータ1は同じ風損量であっても、より少ないロータ1と蒸発器5の温度差(T−T)で冷却可能なことがわかる。逆に高回転速度で回転する表面積Aの小さいロータ1は必要なロータ1と蒸発器5の温度差(T−T)が大きくなるため、より低い蒸発温度Tが必要となる。
【0035】
一方、圧縮機7の冷却容量は凝縮器9の大きさにより制限を受けるが、冷媒の蒸発温度が高いほど冷却容量は増加する。その関係の一例を図2にて示す。図2は圧縮機7、凝縮器9、ファン8を一体化した公知のコンデンシングユニットの蒸発温度と冷却容量の関係を示したものである。実線は圧縮機吸入温度4.4℃の時の冷却容量であり、破線は圧縮機吸入温度4.4℃時の冷媒の蒸発潜熱による冷却容量を示す。蒸発温度を−30℃から−27℃に高くすると、冷却容量が355Wから419Wになり64W上昇し、冷却容量が18%ほど向上する。この際、実際に冷却に寄与する蒸発潜熱は、272Wから327Wへと55W上昇し、20%増加する。本発明は、このような遠心分離機特有の負荷形態と、圧縮機の一般的特性に着目し、使用するキャピラリチューブの本数を選択することにより蒸発温度を段階的に切り替えるように構成し、冷却機構を安価に実現するものである。
【0036】
図1に示すように本実施例では、冷却機構に2個のキャピラリチューブ10A、10Bを設け、キャピラリチューブ10Aは開閉弁11Aの開閉により冷媒を流したり止めたりする制御が可能として、キャピラリチューブ10Bには開閉弁を設けずに常に導通状態とした。本発明の目的を達成するために、キャピラリチューブ10B側にも開閉弁を設けても良いが、製造コストの上昇を招くので、本実施例では開閉弁の数を少なく構成した。
【0037】
遠心分離機の使用者は、ロータ1に試料を収容し、ロータ1を回転室3内の駆動部2の回転軸先端にセットする。次に、ロータ1の種類、回転速度、温度設定等の運転情報を、図示しない操作パネル等の入力部を介して制御部12に入力する。この運転情報より、装着されたロータ1の風損の大きさと、中低速で回転される大形ロータか、高速で回転される小形ロータかを判別し、開閉弁11Aを開閉操作する。装着されたロータ1が、冷却容量よりロータ1と蒸発器5の温度差が優先される高速ロータの場合は開閉弁11Aを閉じるように制御し、蒸発器5に流れる冷媒流量を少なくすることによって蒸発器5の蒸発温度を低くし、ロータ1と蒸発器5の温度差を大きくする。
【0038】
一方、装着されたロータ1が、ロータ1と蒸発器5の温度差より冷却容量を優先する中低速の大形ロータの場合は、開閉弁11Aを開き、冷媒流量を増やすことにより蒸発器5の蒸発温度を上げ、冷却容量を増大させる。本発明になる冷却機構を備えた遠心分離機は、蒸発温度を段階的であるが可変にすることが可能となり、従来の冷却機構と同じ圧縮機7の能力のまま、従来と同様の高速ロータと、従来より風損の大きい大容量化又は高遠心加速度化した中低速大形ロータをも運転可能にすることができる。
【0039】
図3は、遠心分離機の各冷却機構の動作と冷却関連部の温度変化の一例を示すグラフである。各グラフの横軸は経過時間であり、(1)から(6)のグラフで同一スケールにて表示している。図3(1)は、ロータ1の回転速度31である。回転速度31は駆動部2に含まれるモータの回転速度を検出することにより検出できる。回転速度31は、遠心分離運転が開始されてロータ1の加速により上昇し、設定された回転速度Nに到達した後に一定回転速度にて回転する。
【0040】
制御部12は、装着されたロータ1の種類を識別し、使用者により設定されたロータ1の回転速度、回転室3の現在温度に応じて、設定された回転速度Nでロータ1を回転させた場合に、回転室3の内部の空気温度は何度であるべきかを算出し、冷却機構を制御する。設定温度が低温であれば、制御部12はスタートとほぼ同時に圧縮機7、ファン8を動作させ、回転室3の急速な冷却を開始する。図3(2)はその際のロータ温度32を示す。実線で示す曲線が本実施例におけるロータ温度32である。ロータ1が回転を開始して設定された回転速度Nに近づくと、風損の影響によりロータ1の温度がわずかに上昇するが、一方で稼働を開始した冷却機構の冷却作用によって回転室3内が冷却されるため、ロータ1の温度上昇が防止されて、ほぼ元の温度に止まる。図3(2)において点線で示す曲線が、従来の遠心分離機におけるロータ温度42であり、ロータ温度32はロータ温度42に比べて、ロータ1が整定された後の温度上昇部分が大幅に小さくなっていることが理解できるであろう。
【0041】
図3(3)に示す曲線は、回転室3の内部温度(空気温度)を示す空気温度33である。本実施例の遠心分離機では、2つのキャピラリチューブ10A、10Bを用いて冷媒の流れを制御できるように構成した。従って、冷却容量より蒸発温度が重要視される高速ロータの高速運転の場合は、運転開始から所定時間だけ、又は、温度センサ6(又は19)の測定値が所定温度を下回るまで開閉弁11Aを開き、冷媒の流量を多くする制御を行う。この結果、ロータ1の回転開始直後から回転室3の空気温度が制御温度にまで下がるのに要する所要時間を低減し、その期間のロータ1の温度上昇を抑制することができる。図3(3)において点線で示す空気温度43は従来技術による回転室3の内部温度(空気温度)を示す。本実施例によれば、開閉弁11Aを開いて2つのキャピラリチューブ10A、10Bを用いて冷媒の流量を多くする制御が可能となるので、回転室3の温度を急速に低下させることが可能となる。
【0042】
図3(4)は、蒸発器5の入口温度曲線と出口温度曲線であり、実線で示すのが本実施例による入口温度曲線34と出口温度曲線35であり、点線で示すのが従来技術による入口温度曲線44と出口温度曲線45である。本実施例の場合は、ロータと蒸発器の温度を大きくする為に、蒸発潜熱だけの冷却能力を用いるようにするので、稼働後一定時間が経過して温度が安定した後においては蒸発器5の入口温度と出口温度はほとんど同じになる。冷却機構の運転直後においては出口温度の方が高くなり、入口温度が低くなる。しかしながら、本実施例では早い段階で入口温度曲線34と出口温度曲線35がほぼ同じ温度に収束するので、早期に冷却機構を安定して動作させることが可能となる。尚、従来に示す冷却機構では、始動直後に入口温度曲線44が低くなり、出口温度曲線45が高くなり、両者の温度差が大きい。また、両者の温度がほぼ同じになるのは、入口温度曲線34と出口温度曲線35の収束ポイントに比べて大幅に遅いポイントとなる。
【0043】
図3(5)は開閉弁11Aの開閉状態36を示すグラフである。従来の冷却機構においてはキャピラリチューブ10Bだけの制御となるので、開閉弁11Aが閉状態、つまり開閉状態46で示す制御と同等である。本実施例では、入口温度曲線34と出口温度曲線35の温度差が十分小さくなるまでは、開閉弁11Aを開き、十分小さくなった後には開閉弁を閉じるように制御し、遠心分離運転の最中に開閉弁11Aの開閉動作を行うようにした。図3(6)は圧縮機7の動作状況37を示すグラフであるが、本実施例においては圧縮機7を断続駆動させるものではなく、連続駆動させて開閉弁11Aを用いて冷却能力を調整するようにした。
【0044】
次に図4を用いてロータ1が整定中の冷却機構の動作について説明する。図4は本実施例による温度制御における冷却機構の動作と冷却関連部の温度変化を示すもので、実線で示すグラフが本実施例の制御によるものであり、点線で示す曲線が従来例における制御によるものを示している。遠心分離機は使用者の設定したロータの種類、回転速度、温度より、従来の圧縮機断続運転(1本のキャピラリチューブを使用)では回転室3の空気温度のハンチング幅が大きくなると判断される場合、2本目のキャピラリチューブを用いた温度制御方法へ切り替える。このため、制御部12は使用者が設定した運転条件により、回転室3の空気温度の制御温度を算出する。回転室3の空気温度が圧縮機7の運転により、算出した制御温度より低くなった場合、開閉弁11Aを開き、蒸発器5内の圧力を上げ、冷媒の蒸発温度を高くし、回転室3の空気温度を上昇させる。回転室3の空気温度が所定温度まで上昇した後、開閉弁11Aを閉じれば、回転室温度は下がる為、電磁弁の開閉のみで温度制御が可能となる。点線で示す部分は、従来技術の圧縮機断続運転による温度制御での冷却機構の動作と冷却関連部の温度変化を示したものである。
【0045】
本実施例では、図4(4)の64に示すように圧縮機7を断続駆動させる従来の制御方法と異なり、54のように圧縮機7を連続駆動させたままで制御する。一方、図4(3)の53に示すように必要に応じて開閉弁11Aを開閉するようにして冷却能力を制御している。そのため、図4(1)に示すようにロータ1の温度が、従来の温度曲線61に比べて本実施例の温度曲線51の振幅が小さい上に周期が短くなる。したがって、ロータ1の温度の変動幅を小さくすることができる。図4(2)は回転室3の温度であり、回転室の温度が低くなったら開閉弁11Aを開き、回転室3の温度が高くなったら開閉弁11Aを閉じるように制御しているので、従来の温度曲線62に比べて本実施例の温度曲線52が大幅に小さくなる。
【0046】
図5は、装着されるロータとキャピラリチューブ選択との対応関係を示すデータテーブルである。通常、遠心分離機においては回転室3内に装着されるロータ1の種類が制御部12により識別され、ロータ名71、ロータID72、そのロータの許容される最高回転速度73、回転半径74、インバランス検出レベル75等の各種制御情報があらかじめ制御部12に格納されている。これは図5に示す内容がデータテーブル形式で、制御部12の含まれる図示しない記憶装置に記録される。本実施例においてはこのデータテーブルにキャピラリ選択回転速度76を追加した。キャピラリ選択回転速度76は、使用者によって設定される遠心分離のための回転速度が、キャピラリ選択回転速度76よりも大きい場合には、開閉弁11Aを開く制御を行うことを意味する。回転速度がキャピラリ選択回転速度76よりも小さい場合には、開閉弁11Aを開かないので、キャピラリチューブ10A側の通路は用いられずに、キャピラリチューブ10B側だけが使われる。
【0047】
以上のように、本実施例における制御では装着されたロータ1の種類を識別して、識別されたロータごとに異なるキャピラリ選択回転速度76を用いて冷却機構を制御するようにした。このように制御することにより、キャピラリチューブ10A、10Bと開閉弁11Aを用いたシンプルな冷却機構を用いて精度の良い冷却制御を行うことができる。
【0048】
次に図6のフローチャートを用いて、本発明の実施例に係る遠心分離機の制御手順を説明する。図6に示す制御手順は、制御部12に含まれるマイコンによってプログラムを実行することによりソフトウェアで実現される。まず、使用者は遠心分離を行う試料容器、遠心分離の回転速度に適したロータ1を選択し、回転室3内に装着して、図示しない操作パネルから遠心分離のための運転設定情報を入力する(ステップ81)。ここで操作パネルから入力される情報は、遠心分離を行う際の設定回転速度、ロータ1の設定温度、ロータ1の運転時間、ロータNo等である。
【0049】
これら必要な情報が入力されると、制御部12は設定された回転速度が適切であるか、即ち、設定回転速度が、図5のデータテーブルに格納された最高回転速度73によって規定された回転速度以下であるかを判定する(ステップ82)。ここで、使用者によって設定された回転速度がデータテーブルに格納された最高回転速度73より大きい場合は、設定エラーである旨のアラーム表示をして(ステップ83)、ステップ81に戻る。設定された回転速度がデータテーブルに格納された最高回転速度73以下の場合は、使用者による遠心分離のスタートスイッチが入力されるのを待ち、入力されたら駆動部2を起動することによりロータ1の加速を開始する(ステップ84)。
【0050】
次に、ロータ1の回転が開始した直後に、ロータ1に表示される識別子を識別することによりロータIDを検出し、使用者によって入力されたロータ名とロータID72の対応関係が正しいかを判定する(ステップ85)。ロータ1を識別するための識別装置は、これまで種々の方法が提案されている。例えば、ロータ1の回転軸を中心とした同一円周上の等角度間隔の格子点上にロータの種類に応じて互いの配置角度を異ならしめた4個のマグネットを配置したアダプタを取付け、マグネットの配置角度を検出する磁気センサを回転室内に所定問隔で配置し、隣接する磁気センサがマグネットを検出した検出強度に対して所定の演算を行うことによりマグネットの位置を算出し、ロータの種類を特定することができる。ステップ86で対応関係が正しくない場合は、制御部12は図5のデータテーブルを用いて、設定された回転速度が、識別子によって検出されたロータID72に対応する最高回転速度73よりも低いか否かを判定する。最高回転速度73よりも低い場合は、そのままロータIDを変更することで遠心分離運転が可能であるので、ロータ名の表示を変更してステップ89に進む(ステップ88)。最高回転速度73よりも低い場合は、遠心分離運転を継続させることができないので、アラーム表示をするとともにロータ1を減速させてステップ81に戻る(ステップ87)。
【0051】
ステップ85において、使用者によって入力されたロータ名とロータID72の対応関係が正しい場合は、図5に示すデータテーブルを参照して、検出されたロータIDから対応するキャピラリ選択回転速度76の値を得て、使用者により設定された回転速度が、得られたキャピラリ選択回転速度76よりも高いか否かを判定する(ステップ89)。設定回転速度がキャピラリ選択回転速度76よりも高い場合は、開閉弁11Aの開閉有りの制御を選択し(ステップ90)、設定回転速度がキャピラリ選択回転速度76よりも低い場合は、開閉弁11Aを常に閉のまま、つまりキャピラリチューブ10Aを使わずにキャピラリチューブ10Bだけを使用する制御を選択する(ステップ91)。
【0052】
次に、ステップ90又は91で選択された制御モードを用いて、設定された時間の遠心分離運転を行う(ステップ92)。ステップ90にて開閉弁11Aを用いる制御が選択された場合は、図3、図4で説明した制御方法に基づいて冷却機構が制御される。また、ステップ90にて開閉弁11Aを用いない制御(開閉弁は常に閉鎖)が選択された場合は、キャピラリチューブ10Bだけを使用して公知の制御方法を用いて冷却機構が制御される。
【0053】
次に、設定された時間だけ遠心分離運転が行われたかを判定し(ステップ93)、設定時間が経過していない場合はステップ92に戻る。設定時間が経過した場合は、駆動部2を停止するように制御することによりロータ1の回転を停止させ、圧縮機7を停止することにより冷却機構の運転を停止させて、遠心分離運転を終了する(ステップ94)。
【0054】
以上のように、本実施例によれば、操作可能な冷媒流路の開閉弁と、複数の固定絞り機構(キャピラリチューブ)を装備することにより、蒸発温度を段階的に操作することが可能となり、コストをかけずに可変絞り機構と同等の制御を実現することが可能となる。しかも、この蒸発温度の段階的な操作は、装着されるロータ1と遠心分離のための設定回転速度に応じて制御されるので、冷却機構を高精度で制御することができる。尚、本実施例ではキャピラリチューブを2本用い、開閉弁を1つ用いたが、これだけに限られずに、キャピラリチューブをm本用い、開閉弁をn本(但し0<n≦m)用いるようにしても良い。また、本実施例では固定絞り機構としてキャピラリチューブを用いたが、その他の絞り機構を用いるようにしても良い。
【実施例2】
【0055】
次に図7及び図8を用いて本発明の第2の実施例を説明する。図7は、複数の絞り機構と開閉弁を有する第2の実施例に係る遠心分離機の構成を示す模式図である。図7において、図1と同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。図7の遠心分離機において、第1の実施例と異なることは、3本のキャピラリチューブ110A、110B、110Cを用いることと、キャピラリチューブ110A、110B、110Cへの冷媒の流れを開閉操作する開閉弁111A、111B、111Cをそれぞれに設けたことである。キャピラリチューブ110A、110B、110の流路径や長さは、いずれも同じとしても良いし、それぞれ異なるように設定しても良い。本冷却機構の場合は、キャピラリチューブの使用の有無、使用する場合の開閉弁111(111A、111B、111C)の開閉の有無の組合せにより最大で6つの蒸発温度が選択できることになる。この開閉弁111の制御は、図8に示すデータテーブルを用いて制御部12によって制御される。
【0056】
図8は、装着されるロータとキャピラリチューブ選択との対応関係を示すデータテーブルである。このデータテーブルは制御部12内の図示しない記憶装置に予め格納しておくもので、ロータ1に関する情報として実施例1で示したデータテーブルと同様に、ロータ名101、ロータID102、そのロータの許容される最高回転速度103、回転半径104等の各種制御情報が格納される。第2の実施例においては、さらに開閉弁111により制御可能な3つのキャピラリ選択情報105〜107が格納される。各キャピラリ選択情報105〜107には、回転速度の範囲と、開閉弁111(111A、111B、111C)の開閉状態を格納する。これらの開閉状態はロータ1の回転速度に応じて3段階で細かく規定される。
【0057】
例えば、装着されたロータ1が“R10A”の場合は、使用者によって設定される遠心分離のための回転速度が、0〜5、000min−1、5,001〜8,000min−1、8,001〜10,010min−1の範囲で異なる。例えば、設定回転速度が7,000min−1の場合は、キャピラリ選択情報106の範囲に該当するため、開閉弁111(111A、111B、111C)=(開、開、閉)の状態で制御されることになる。つまり、開閉弁111Aと111bは、開閉を伴う制御がされるが、開閉弁111Cは常時閉鎖した状態とされる。
【0058】
第2の実施例によれば、3組のキャピラリチューブと開閉弁を用いることにより、装着されるロータにあわせて蒸発温度を多段階に制御でき、回転室を急速に冷却する必要のある運転初期に開閉弁を開き、蒸発器への冷媒供給量を増やすことにより回転室を素早く冷却することか可能となる。また、このような多段階の制御を、構造が簡素で安価なキャピラリチューブと開閉弁で実現できるので、製造コストの上昇を抑えた遠心分離機を実現できる。
【0059】
第2の実施例によれば、複数の絞り機構にそれぞれ開閉弁を設けるので、複数の固定絞り機構を個別に制御することができ、蒸発温度を段階的に操作することができる。この結果、回転室の温度変化の少ない精度の高い温度制御が可能となる。
【0060】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、図1においてキャピラリチューブ10B側には開閉弁が設けられていないが、キャピラリチューブ10B側にも同様に開閉弁を設けるようにしても良い。また、図7に示す遠心分離機のように複数の絞り機構と開閉弁を持つ冷却機構の場合、任意の複数の開閉弁を非同期に操作するように制御しても良い。
【符号の説明】
【0061】
1 ロータ 2 駆動部 3 回転室 4 チャンバ
5 蒸発器 6 温度センサ 7 圧縮機 8 ファン
9 凝縮器 10A、10B キャピラリチューブ 11A 開閉弁
12 制御部 14 ドア 15 戻り配管
16、17、18 配管 19 温度センサ
31、41 回転速度 32、42 ロータ温度 33、43 空気温度
34、44 入口温度曲線 35、45 出口温度曲線
36、46 開閉状態 37 動作状況 51、61 温度曲線
52、62 温度曲線 71 ロータ名 72 ロータID
73 最高回転速度 74 回転半径
75 インバランス検出レベル 76 キャピラリ選択回転速度
82 設定回転速度 101 ロータ名 102 ロータID
103 最高回転速度 104 回転半径
105〜107 キャピラリ選択情報
110A、110B、110C キャピラリチューブ
111(111A、111B、111C) 開閉弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持して遠心分離するためのロータと、該ロータを回転させるモータと、該ロータを収容する回転室を画定するチャンバと、該チャンバの外周に配置され前記回転室を冷却するための蒸発器と、該蒸発器に冷媒を循環させるための圧縮機と、該圧縮機で圧縮された冷媒を放熱するための凝縮器と、圧縮され放熱した冷媒を断熱膨張させて前記蒸発器に供給する絞り機構と、これらを制御する制御部を備えた遠心分離機において、
前記絞り機構を複数設け、
前記絞り機構への冷媒供給を前記制御部より操作可能な開閉弁を設け、
前記開閉弁を用いて前記凝縮器から複数の前記絞り機構への冷媒供給を段階的に可変に制御することを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
前記複数の絞り機構にそれぞれ開閉弁を設けることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項3】
前記複数の絞り機構のうち一部の前記絞り機構に開閉弁を設け、
残りの前記絞り機構は、常時開状態とされることを特徴とする請求項1に記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記制御部は、回転室の冷却を高速化する必要がある際には前記開閉弁を開いて、前記蒸発器へ供給する冷媒量を多くなるように制御することを特徴とする請求項2又は3に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記制御部は、前記圧縮機の運転中に前記絞り機構への開閉弁を操作することにより、前記回転室の温度制御を行うことを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記制御部は、装着された前記ロータを識別し、前記ロータの種類及び遠心分離回転速度に応じて前記開閉弁の制御の有無を選択することを特徴とする請求項5に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記制御部に記憶手段を設け、
前記ロータの種類と前記開閉弁の制御情報を対応させて格納しておくことを特徴とする請求項6に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記開閉弁の制御情報は、前記開閉弁を開閉制御するための回転速度であることを特徴とする請求項7に記載の遠心分離機。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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