説明

遠心分離機

【課題】冷却容器をロータの近くに設置し、マグネットが埋め込まれたロータを回転させても冷却容器に渦電流による発熱が無く、効率よく温度制御が出来る遠心分離機を提供する。
【解決手段】真空容器1内でモータ2によって回転駆動されるロータ3と、真空容器1とロータ3との間に介在する冷却容器5と、冷却容器5を冷却するための冷却器6とを備え、冷却容器5は少なくともその一部が非導電材5Bで構成されている。このように、冷却容器5の一部を非導電材5Bで構成したことで渦電流損失を防止し、高精度なロータの温度制御を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空中でロータを回転し、冷却器によりロータ温度を制御する遠心分離機に係り、とくにその冷却構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、真空中で高速回転するロータの温度制御は電子冷却素子の吸熱側に接した冷却容器による輻射で行われる。従って、冷却容器は熱伝導性の良いアルミ材等で作られ、極力ロータの近くに設置することが冷却効率の良い構造となる。しかしながら、ロータとして、その底部に回転検知のためマグネット(永久磁石)が埋め込まれたものがあり、冷却容器とマグネットの間隔が小さいとロータの回転に伴い冷却容器に渦電流が発生し、その結果、モータの回転効率の低下と冷却容器の局所的な発熱によりロータの温度制御に支障がでる恐れがある。従来、渦電流による発熱を低減するために、例えば特許文献1に示すように、冷却容器とロータと間隔を大きくすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−141442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された従来例では、冷却容器とロータ間の間隔を大きくすると渦電流におよる発熱は低減するが、冷却容器とロータ間の熱交換効率が悪くなり、ロータの温度制御が悪くなる欠点があった。
【0005】
本発明はこうした状況を認識してなされたものであり、その目的は、冷却容器をロータの近くに設置し、マグネットが埋め込まれたロータを回転させても冷却容器に渦電流による発熱が無く、効率よく温度制御が出来る遠心分離機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は遠心分離機である。この遠心分離機は、真空容器内でモータによって回転駆動されるロータと、該真空容器と該ロータとの間に介在する冷却容器と、該冷却容器を冷却するための冷却器とを備えた構成において、該冷却容器は少なくともその一部が非導電材で構成されていることを特徴とする。
【0007】
本発明の第2の態様も遠心分離機であり、真空容器内でモータによって回転駆動されるロータと、該真空容器と該ロータとの間に介在する冷却容器と、該冷却容器を冷却するための冷却器とを備えた構成において、該冷却容器には該ロータの回転中心から放射状に複数の穴又は凹部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
前記第2の態様において、前記冷却容器の複数の穴又は凹部に非導電材が埋め込まれているとよい。
【0009】
それらの場合において、前記非導電材はセラミック、とくに窒化アルミニウムであるとよい。また、前記非導電材の前記ロータと対向する面の反対面に低輻射率の表面処理が施されているとよい。前記非導電材の前記表面処理はニッケルメッキであるとよい。
【0010】
前記第1の態様において、前記ロータが回転駆動されたときに、前記非導電材に対向可能な前記ロータの部位にマグネットが固定され、前記マグネットの磁界によって動作する磁気センサが前記真空容器側に固定配置されているとよい。
【0011】
前記第2の態様において、前記ロータが回転駆動されたときに、前記穴又は凹部に対向可能な前記ロータの部位にマグネットが固定され、前記マグネットの磁界によって動作する磁気センサが前記真空容器側に固定配置されているとよい。
【0012】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法やシステムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、冷却容器の一部を非導電材で構成する、あるいはロータの回転中心から放射状に複数の穴又は凹部を設けることにより、ロータにマグネットを埋め込んだ場合であっても、マグネットによる渦電流は発生せず、効率よく温度制御が出来る遠心分離機が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る遠心分離機の第1の実施の形態を示す側断面図。
【図2】第1の実施の形態における冷却容器の部分斜視図。
【図3】本発明の第2の実施形態を示す冷却容器の部分斜視図。
【図4】本発明の第3の実施形態を示す冷却容器の側断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態を詳述する。なお、各図面に示される同一又は同等の構成要素、部材、処理等には同一の符号を付し、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は発明を限定するものではなく例示であり、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0016】
図1及び図2を用いて本発明の第1の実施の形態を説明する。図1に示すように、真空容器1は、ベース部10と、この上に気密配置された筒体11と、筒体11の上部開口を気密に封止する蓋体12とからなり、モータ2によって回転駆動されるロータ3が真空容器1内に配置されている。なお、真空容器1内を真空にするための真空排気系の図示は省略する。
【0017】
モータ2はベース部10の下側に固定配置されており、その回転軸の上部に一体的に形成されたクラウン21上にロータ3が載置される構成である。ロータ3は、チタン合金等であり、遠心分離すべき試料を収容したチューブを挿入するための挿入穴31を等間隔で有する。ロータ3は、モータ2によって真空容器1の中で高速回転させられるようになっている。
【0018】
真空中で高速回転するロータ3を冷却し温度を一定に保つため、真空容器1とロータ3の間には、ボウル5Aと円盤状非導電材5Bによって構成されている冷却容器5が設けられ、冷却容器5とロータ3の熱交換は輻射で行われる。冷却容器5の下部には複数の電子冷却素子(ペルチェ素子)6があり、その冷却面は冷却容器5(ボウル5A)の底部に、その逆の排熱面は真空容器1の底部(ベース部10)に接している。
また、別の冷却方法としては、ボウル5Aの外周にパイプなどの配管を巻きつけ、配管の中に冷媒を流すことでロータ3を冷却しても良い。
【0019】
ボウル5Aは、熱伝導性の良好な金属であり、例えばアルミニウム板をプレス加工で円筒形状に加工したものであり、その底部中央部は円形に切り欠いてあり、この切り欠いた部分を覆うように円盤状非導電材5Bがボウル5Aの底面に螺子止めされている。円盤状非導電材5Bは非導電性でかつ熱伝導性の良好なセラミック等が好ましく、とくに熱伝導性に優れる窒化アルミニウムが好ましい。
【0020】
なお、万一のロータ破壊に備えて冷却容器5の外側に鋼鉄製プロテクタ8が配置されている。
【0021】
電子冷却素子6に電流を与え冷却容器5を冷却すると、真空中におかれたロータ3の熱は輻射により円盤状非導電材5B及びボウル5Aから電子冷却素子6を通り真空容器1のベース部10を介して外部に放出される。ベース部10はアルミ等の熱伝導性の良好な金属であり、放熱器を兼ねている。
【0022】
ロータ3の底部に形成された凹部には1個又は複数個のマグネット4が設置され、マグネット4の磁界をホール素子等の磁気センサ7で検出することによりロータ3の回転数を読み取ることができ、さらにマグネット4が複数個の場合にはロータ種類(ロータの許容回転速度)等の情報を遠心分離機が読み取ることが出来る。
【0023】
ロータ3の回転に従いマグネット4が回転磁界を発生するため、ロータ3の近傍に導電材を設置すると導電材の中に渦電流が流れ、導電材の局部的な発熱や、ロータ3を駆動するモータ2の回転効率の低下を引き起こす。
【0024】
このため従来の遠心分離機の冷却構造では、冷却容器5とロータ3との間隔を、マグネット4の磁界の影響を及ぼさないほど大きくするか、マグネット4の磁界の影響を受ける部分にプラスチック材を用いていた。間隔を大きく取ることにより渦電流におよる発熱は低減するが、冷却容器5とロータ3間の熱交換効率が悪くなり、ロータ3の温度制御が悪くなる欠点があった。また、プラスチック材を用いる場合は、熱伝導率が金属などに比べて悪いため、輻射による、熱交換が悪くなってしまうという欠点があった。
【0025】
そこで本実施の形態では、冷却容器5をロータ3に極力近づけた場合でもマグネット4の磁界により渦電流が発生しないように、冷却容器5の一部を非導電材で構成している。図2は図1で説明した冷却容器5の部分斜視図である。冷却容器5は、ボウル5Aの底部のマグネット4の磁界の影響が及ぶ範囲を切り欠いてあり、その切り欠いた部分を覆うように円盤状の非導電材5Bを螺子51で固着した構成である。非導電材5Bには、モータ2の回転軸を貫通させる中心孔52や磁気センサ7が臨む貫通孔53が形成されている。非導電材5Bとしては、セラミック材等色々考えられるが、熱伝導が良く、耐食性の良好な窒化アルミニウムで作製することが最も好ましい。
【0026】
また円盤状非導電材5Bのロータ3と対向する面の反対面に、低輻射率を示す表面処理、例えばニッケルメッキを施してある。これによりロータ以外の部位との熱交換が減少し、さらに効率よく温度制御が可能となる。
【0027】
本実施の形態によれば、下記の効果を奏することができる。
【0028】
(1) 冷却容器5の一部(マグネット4の磁界が及ぶ範囲)を非導電材5Bで構成したことにより、ロータ3に埋め込まれたマグネット4による渦電流は発生せず、冷却容器5をロータ3に近接配置できる。この結果、効率よく温度制御(例えば、ロータ温度を一定に保ち、ユーザの設定値に対して高精度にロータの温度制御を行うこと)が出来る遠心分離機を実現することができる。
【0029】
(2) 非導電材5Bは、熱伝導率が高く電気絶縁性が高い窒化アルミニウムで構成したことにより、効率よく温度制御が出来、さらに耐食性も良いため製品寿命の向上が図れる。
【0030】
(3) 非導電材5Bのロータ3と対向する面の反対面に、ニッケルメッキのような低輻射率を示す表面処理を施すことで、ロータ以外の部位との熱交換が減少し、さらに効率よく温度制御が出来る遠心分離機を実現することができる。
【0031】
図3は本発明の第2の実施形態における冷却容器5の部分斜視図を示す。図3において冷却容器5の底部に回転中心から放射状に複数のスリット状穴又は凹部5Cを設けている。渦電流は導電材の表面を流れるため、このようにスリット状穴又は凹部5Cを設けることにより、渦電流経路が短くなり冷却容器5をロータ3に近接配置した場合であっても渦電流損失の発生が低減できる。従って、この構成により効率よく温度制御が出来る遠心分離機を実現できる。
【0032】
図4は本発明の第3の実施形態を示す冷却容器5の部分斜視図であって、図3で説明したスリット状穴又は又は凹部5Cに棒状非導電材5Dを埋め込んで冷却容器5を構成した構造を示す。
【0033】
本構成によりロータ3と冷却容器5の熱交換効率が向上し、更に効率よく温度制御が出来る遠心分離機とすることが出来る。また、棒状非導電材5Dを窒化アルミニウムで作製することにより更に効率よく温度制御が可能で、耐食性が良く製品寿命の向上が図れる。
【0034】
以上、実施の形態を例に本発明を説明したが、実施の形態の各構成要素や各処理プロセスには請求項に記載の範囲で種々の変形が可能であることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0035】
1 真空容器
2 モータ
3 ロータ
4 マグネット
5 冷却容器
5A ボウル
5B 円盤状非導電材
5C スリット状穴又は凹部
5 棒状非導電材
6 電子冷却素子
7 磁気センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内でモータによって回転駆動されるロータと、該真空容器と該ロータとの間に介在する冷却容器と、該冷却容器を冷却するための冷却器とを備えた遠心分離機において、
該冷却容器は少なくともその一部が非導電材で構成されていることを特徴とする遠心分離機。
【請求項2】
真空容器内でモータによって回転駆動されるロータと、該真空容器と該ロータとの間に介在する冷却容器と、該冷却容器を冷却するための冷却器とを備えた遠心分離機において、
該冷却容器には該ロータの回転中心から放射状に複数の穴又は凹部が設けられていることを特徴とする遠心分離機。
【請求項3】
前記冷却容器の複数の穴又は凹部に非導電材が埋め込まれていることを特徴とする請求項2記載の遠心分離機。
【請求項4】
前記非導電材はセラミックであることを特徴とする請求項1又は3に記載の遠心分離機。
【請求項5】
前記非導電材は窒化アルミニウムであることを特徴とする請求項4に記載の遠心分離機。
【請求項6】
前記非導電材の前記ロータと対向する面の反対面に低輻射率の表面処理が施されていることを特徴とする請求項1,3乃至5のいずれか1項に記載の遠心分離機。
【請求項7】
前記非導電材の前記表面処理はニッケルメッキであることを特徴とする請求項6に記載の遠心分離機。
【請求項8】
前記ロータが回転駆動されたときに、前記非導電材に対向可能な前記ロータの部位にマグネットが固定され、前記マグネットの磁界によって動作する磁気センサが前記真空容器側に固定配置されている請求項1,3乃至7のいずれか1項に記載の遠心分離機。
【請求項9】
前記ロータが回転駆動されたときに、前記穴又は凹部に対向可能な前記ロータの部位にマグネットが固定され、前記マグネットの磁界によって動作する磁気センサが前記真空容器側に固定配置されている請求項2に記載の遠心分離機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate