説明

遠心分離装置

【課題】遠心分離回転中心対称位置に架設するバケットの重量差を許容範囲以下に抑え、且つこの手段はシステムに搬入された検体順序で連続して行うことができる検体検査自動化システムを提供する。
【解決手段】検体21は遠心バッファライン11に搬入された時点でロードセルなどの重量測定手段31にて検体重量を測定する。遠心分離回転中心対称位置に架設する2個のアダプタ22をそれぞれアダプタA,アダプタBと名称定義した場合、1検体目はアダプタAに、2検体目はアダプタBに、3検体目以降はアダプタに載せた検体重量の総和をそれぞれ演算比較し、軽い方のアダプタに検体を載せるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を遠心分離処理するための遠心分離装置に係り、特に遠心分離処理の際に重量差によるアンバランス運転が回避できる遠心分離装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野では多様な自動化機器の導入により、検査業務の省力化が進められている。病院の検査では、入院患者や外来患者の検査検体は病院内の各課で集められ、検査室で一括して処理される。検体ごとの検査項目はオンラインの情報処理システムを利用して医師より検査室に伝えられ、検査結果はオンラインで逆に検査室より医師に報告される。血液,尿の検査項目の多くは、検査処理の前処理として遠心処理,開栓処理,分注処理等の前処理を必要とし、その作業が検査作業時間全体に占める割合は大きい。
【0003】
前記前処理のうち遠心処理は、患者から採取した血液を遠心分離により血清成分を抽出して検査試料とするための処理である。一般的に検体検査自動化システムで使用する遠心分離装置は回転するロータに揺動自在に保持された複数のバケット群を有している。バケット群は複数のバケットペアで構成され、各バケットペアは互いに回転対称位置に設けられたバケットで構成される。各バケットには、複数(例えば5〜10本程度)の検体が起立保持された状態で挿入される。従来、各バケットには人手により検体を挿入していたが、前処理を自動化した検体検査自動化システムでは、これらの作業を自動化することを目的としている。
【0004】
遠心分離作業はロータを高速回転することにより行われる。従って、ロータ回転対称位置に配置したバケット重量が大幅に異なる場合はロータの回転異常が発生し、正しく遠心分離作業を行うことができないため、ロータに架設する前段階で重量調整を実施する必要がある。この重量調整手段に関して、特許文献1では、ダミーラックと呼んでいるおもりを使用しバケット間の重量差を軽減している。一方、特開平7−80355号公報では、すべてのラックについて事前に重量測定を行ってそれらを一旦ストックしておき、ストックされたラック群の中から重量差が所定量以内のラックペアを選び出し、バケットペアに挿入する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−145968号公報
【特許文献2】特開平7−80355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された方法では、バケットに架設する重量を測定しておらず、架設するラックの数が違う場合のみダミーラックを使用しているため、試験管サイズが異なりこれらの重量差が大きい場合には、正確に重量バランスを取ることが困難であった。また、ダミーラックなどの部材を配置するスペースも必要であり、これにより装置が大型化していた。
【0007】
一方、特許文献2に記載の技術では、装置に投入された全ラックを一旦ストックしておいてから、重量差が少ないラックペアを決定しているため、組合せによっては投入順序でバケットに移載できない場合があり、また最終的に重量バランスがとれない場合には、ダミーラックを使用する必要があった。
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、遠心機の小型化およびロータの簡素化を図りながらも正常な遠心分離作業を行うことができる遠心分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の構成は以下の通りである。
【0010】
検体を収容する検体容器と、複数の該検体容器を載置可能なアダプタと、該アダプタを載置可能なバケットと、該バケットを回転させて遠心処理を行うロータと、を備え、前記ロータの遠心分離回転中心対称位置の1対のバケットに載置する前記アダプタの重量がほぼ等しくなるように、該アダプタに検体容器を選択的に載置する検体容器載置機構を備えた遠心分離装置。
【0011】
検体容器は1つの検体容器のみを保持するホルダに搭載された状態で搬送される方式でも、複数本の検体容器を搭載可能なラックに搭載された状態で搬送される方式でも適用可能である。アダプタは複数の検体容器が設置できるものであればどのような形状のものであっても良いが、一般的には、箱形状のもので、遠心分離しても検体容器が振動しないように、検体容器の形状にフィットするような穴が開いているものである。バケットはアダプタがセットされた状態で、遠心分離のため、高速回転(通常は1つの同一軸を中心にして複数のバケットが回転する)しても、アダプタが飛散しないように、形状が工夫されている。アダプタの重量は、予め個々の検体容器または検体容器を保持した状態のホルダの重量を測定しておき、その測定結果に基づいて、計算でアダプタの重量を求めても良いし、検体容器を搭載したアダプタそのものの重量を測定しても良い。
【0012】
より好ましくは以下のような構成である。
【0013】
検体を支持したホルダを搬送ラインにより搬送し、複数の検体を一時待機させる遠心バッファラインと複数検体を支持するアダプタを保持するためのターンテーブルと遠心機を有する遠心処理部を含む一連の処理部で処理する検体検査自動化システムにおいて、遠心バッファライン上で検体を支持したホルダを1セットずつ重量測定を行い、対称位置に架設するアダプタペアを決定し、各アダプタに移載された検体重量の総和を逐次演算し、検体重量の総和の軽い方のアダプタに順次検体を移載するように制御することを特徴とする。上記構成によれば、対称位置に架設するアダプタペアの重量差は最小化され、この重量差は最大でも試験管重量1本以下となり、実質的に許容アンバランス重量差以下とできるため、重量バランスをとるためのおもりの挿入/抜き取りの工程は不要となる。例えば、対称位置に架設するアダプタペアのうちのアダプタAとアダプタBに検体を移載するにあたり、1本目をアダプタAに、2本目をアダプタBに、3本目の検体は重量の軽い側のアダプタに移載する。同様の作業をアダプタに空きポジションが無くなるまで継続する。これにより、アダプタAとアダプタBの重量差は検体重量1本以下となり、実質的に対称バケットを常に許容アンバランス重量差以下に制御することが可能となり、ダミーラック等の重量調整手段は不要となる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、遠心分離時の対称バケットを常に許容アンバランス重量差以下に制御することが可能となり、ダミーラック等の重量調整手段は不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る遠心処理部の全体構成を示す斜視図である。
【図2】本発明に係る遠心処理部の上部を除いた構成を示す斜視図である。
【図3】本発明に係る制御動作フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る遠心処理部の全体構成斜視図を図1に、上部を取り除いた斜視図を図2に、制御動作フローチャートを図3に示す。
【0017】
遠心処理部主構成要素として、複数の検体21を一時待機させる遠心バッファライン11と、アダプタ22を保持するターンテーブル12と、検体の遠心分離を行う遠心機13からなる。
【0018】
図2に、前工程ユニットからベルトラインによってホルダ23に支持された状態で遠心バッファライン11に順次検体21が1本ずつ搬入される。ホルダ23は検体21を1本ずつ起立保持可能な構造であり、それぞれ固有のID番号を付与されている。遠心バッファライン搬入位置近傍には重量測定のためのロードセル31が配されており、当該位置において重量測定を行う。重量測定結果は、ホルダ23のID番号と共に1検体ごとに中央制御部に送信される。重量測定が完了したホルダ23は遠心バッファライン中央部へと順次搬送を継続する。本実施例では遠心バッファライン11内には、遠心処理を行うためにホルダからアダプタに検体を移載するためのポジション24と、遠心処理が完了した検体をアダプタからホルダに戻すためのポジション25を固定している。処理能力を低下させない望ましい実施例においては、前記検体を抜き取るポジション24から戻すポジション25までの間隔内にホルダ23が検体で満載される数の検体バッファ数を有していることが望ましい。また、遠心バッファライン11は搬入した順序が途中で入れ替わらないために1本のベルトラインにより構成している。ホルダ23は複数の検体21を起立保持可能な構造となっており、前記ホルダ23から検体21を抜き取るポジションにおいて検体チャック機構14により、アダプタ22に検体を移載する。ターンテーブル12には、遠心機バケット数の2倍の数のアダプタ22が架設可能であることが望ましい。本実施例では遠心機13のバケット数が4個であるため、アダプタ数は2倍の8個を記載している。これにより、遠心機13内で遠心分離作業を行っている間の待ち時間(一般的に遠心時間は5〜10分)を利用して、ホルダ23からアダプタ22への検体移載、あるいはアダプタ22からホルダ23への検体戻し作業をおこなうことが可能となり、処理全体のスループット低下を防止することができる。ターンテーブル12は回転駆動モータを有しており、アダプタ22を搭載した状態で回転し、任意位置で停止するように制御をおこなっている。検体チャック機構14は水平方向および垂直方向に自在に移動可能なXYZ機構16に固定しており、ホルダ23とアダプタ22間の検体移載を行う。このXYZ機構16には検体チャック機構14と同じく、アダプタ22を遠心機バケット内に搬送するアダプタチャック機構15を有する。遠心機13は図示しない遠心分離のための高速回転用駆動モータと、このモータに取り付けられたロータ18と、ロータ18の回転軸対称に取り付けられた複数のバケット17とを有している。アダプタ22に遠心処理すべき検体の移載作業が完了した後、アダプタチャック機構15により検体が載ったままの状態でアダプタ22をバケット17に挿入する。全てのバケット17にアダプタ22の挿入作業が完了した後、安全シャッタ19を閉じ、遠心分離作業を開始する。遠心分離作業を行っている間は、次のサイクルで遠心を行うための準備として、ホルダ23から検体を抜き取りアダプタ22に挿入する作業を継続する。この作業はスループットを低下させないために遠心時間内で完了させるようにすることが望ましい。そのため、本実施例ではホルダ23から検体を抜き取る位置とアダプタ22に挿入する位置までの距離を最短距離に配するようにしている。遠心分離作業が完了した後は、前述の作業と逆の工程を進める。まず、安全シャッタ19を開き、アダプタチャック機構15によりバケット17からアダプタ22をターンテーブル12まで戻す。遠心機13の待ち時間短縮のためには、遠心作業が完了した全てのアダプタ22をターンテーブル12に戻し、かつ連続して次の遠心分離作業のためのアダプタ22をバケット17に挿入することが望ましい。また、アダプタ22からホルダ23に戻すまでの距離を最短にするため、ターンテーブル12を回転させる。ターンテーブル12の停止後、検体チャック機構14により検体はアダプタ22からホルダ23に戻される。ホルダ23に戻す順序は装置に投入された順序と同じとするため、アダプタ22に載せた順序とする。ホルダ23に戻された検体はベルトラインにより次の工程に搬送される。
【0019】
図3は、遠心分離対称位置に載せるアダプタペアのうち、どちらのアダプタに載せるかを決定する制御フローチャートである。本実施例では、アダプタペアをそれぞれアダプタAとアダプタBに名称定義する。Start時(S10)、アダプタA,アダプタB共に検体は載っていないため、まずアダプタAに1本を載せ(S11)、次にアダプタBに1本を載せる(S12)。続いて、検体ごとの重量測定結果よりアダプタAとアダプタBの重量比較演算を行う(S13)。比較演算結果により、仮にアダプタAの重量の方が重い場合には、次の検体をアダプタBに載せる(S14)。逆にアダプタBの重量の方が重い場合には、次の検体をアダプタAに載せる(S15)。検体を載せた後は、再度アダプタAとアダプタBのそれぞれの重量の総和を比較演算し(S13)、アダプタに空きポジションが無くなるまで(S16,S17)、この作業を継続する。なお、本フローチャートでは図示していないが、装置に投入された検体の数が少ない場合は、予め入力しておいたタイムアウト時間を経過した時点でEnd(S18)に移行し、アダプタを遠心機バケット移送することが望ましい。この制御フローチャートによれば、途中で検体の架設を中断した場合でもアダプタAとアダプタBの重量差は検体重量1本以下となり、実質的に遠心許容アンバランス重量差以下となるため、ダミーラック等の重量調整手段は不要となる。また、アダプタA,アダプタBは交互に検体を載せる場合がほとんどであるため、ターンテーブル上の隣り合うアダプタを選択することが望ましい。
【0020】
また、上記とは別の実施手段として、検体毎の重量測定のためにCCDカメラを用いて検体液量を測定し、その結果を用いて検体重量を求める方法もある。
【0021】
なお、上記では、1つの検体容器のみを保持するホルダにより、検体容器を搬送する機構を記載したが、複数の検体容器を保持する検体ラック(通常は5つの検体容器を保持可能)で検体が搬送されるシステムであっても、本発明は適用可能である。
【符号の説明】
【0022】
11 遠心バッファライン
12 ターンテーブル
13 遠心機
14 検体チャック機構
15 アダプタチャック機構
16 XYZ機構
17 バケット
18 ロータ
19 安全シャッタ
21 検体
22 アダプタ
23 ホルダ
24 ホルダからアダプタに検体を移載するためのポジション
25 アダプタからホルダに戻すためのポジション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を収容する検体容器と、
複数の該検体容器を載置可能なアダプタと、
該アダプタを載置可能なバケットと、
該バケットを回転させて遠心処理を行うロータと、
を備え、
前記ロータの遠心分離回転中心対称位置の1対のバケットに載置する前記アダプタの重量がほぼ等しくなるように、該アダプタに検体容器を選択的に載置する検体容器載置機構を備えたことを特徴とする遠心分離装置。
【請求項2】
請求項1記載の遠心分離装置において、
前記検体容器を保持するホルダを備え、
該検体容器の重量をホルダ単位で測定する検体容器重量測定機構を備えたことを特徴とする遠心分離装置。
【請求項3】
請求項2記載の遠心分離装置において、
前記検体容器重量測定機構で測定された重量をホルダ単位で記憶する記憶機構を備え、 前記検体容器載置機構で検体容器を前記アダプタに選択的に載置するに当たって、該記憶機構に記憶された検体容器重量に基づいて載置する検体容器を選択する選択機構を備えたことを特徴とする遠心分離装置。
【請求項4】
請求項1記載の遠心分離装置において、
前記アダプタを複数保持するためのアダプタ待機機構を備えたことを特徴とする遠心分離装置。
【請求項5】
請求項4記載の遠心分離装置において、
前記アダプタ待機機構は、円周上に複数のアダプタを載置するターンテーブルであることを特徴とする遠心分離装置。
【請求項6】
請求項5記載の遠心分離装置において、
アダプタの重量がほぼ等しくなるように、前記ロータの遠心分離回転中心対称位置の1対のバケットに載置するように選択されたアダプタのペアを前記ターンテーブル上から、前記バケットに搬送するアダプタ搬送機構を備えたことを特徴とする遠心分離装置。
【請求項7】
請求項6記載の遠心分離装置において、
前記ターンテーブルに保持可能なアダプタの数は、前記バケットの数より多いことを特徴とする遠心分離装置。
【請求項8】
請求項2記載の遠心分離装置において、
前記検体容器載置機構が、前記検体容器を選択的に前記アダプタに載置できるよう、複数の前記ホルダを待機させるバッファラインを備えたことを特徴とする遠心分離装置。
【請求項9】
請求項8記載の遠心分離装置において、
前記バッファラインは、前記アダプタに移載するための検体容器を保持する領域と、
検体容器が移載された後のホルダのみを保持する領域と、
遠心分離処理が終了した検体容器をホルダに移載する領域の少なくとも3つの領域を備えたことを特徴とする遠心分離装置。
【請求項10】
請求項1記載の遠心分離装置において、
前記検体容器載置機構は、
前記ロータの遠心分離回転中心対称位置の1対のバケットに載置する前記アダプタをアダプタAとBと称した場合、
まずアダプタAに検体容器を載置し、次にアダプタBに別の検体容器を載置し、アダプタAとBの重量を比較し、アダプタAの方が重い場合は次の検体容器をアダプタBに載置する、逆にアダプタBの方が重い場合は、次の検体容器をアダプタAに載置する、
再度アダプタAとBの重量を比較する、ことをアダプタに空きポジションがなくなるまで繰り返す、ことを特徴とする遠心分離装置。
【請求項11】
請求項10記載の遠心分離装置において、
予めタイムアウト時間を設定し、該タイムアウト時間を過ぎた場合は、前記アダプタに空きポジションが残っている場合であっても、アダプタを前記バケットに移載するように制御する制御機構を備えたことを特徴とする遠心分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−25181(P2011−25181A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−174879(P2009−174879)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】