説明

遠心式血液ポンプおよび遠心式血液ポンプ装置

【課題】ピボット軸受機構を用いるものであって、ピボット軸受部における発熱が少なく、血液損傷の発生も少ない遠心式血液ポンプを提供する。
【解決手段】遠心式血液ポンプ1は、ハウジング2と、インペラ3とを備える。
ハウジング2は、中央部上方に延びる血液流入ポート22と、ハウジング2の側部に設けられた血液流出ポート23と、内部底面より、血液流入ポート方向に所定長延びる突出部25とを備える。インペラ3は、中央部に設けられ、血液流入ポート22より流入する血液流が当接可能な板状部材35とを備える。ハウジング2の内面とインペラの板状部材の下面にピボット軸受機構28,39が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液を送液するための遠心式血液ポンプおよびそれを用いた遠心式血液ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近では、人工心肺装置における体外血液循環、人工心臓用ポンプなどに遠心式血液ポンプを使用する例が増加している。遠心ポンプとしては、外部とポンプ内の血液室との物理的な連通を完全に排除し、細菌等の侵入を防止できることにより、外部モータからの駆動トルクを磁気結合を用いて伝達する方式のものが用いられている。
そして、このような遠心式血液ポンプとして、特開2002−349482号公報(特許文献1)に示される人工心臓用遠心ポンプがある。
この人工心臓用遠心ポンプは、インペラ軸部を円筒部1とし、その下部に遠心羽根3を配置し、底部に永久磁石11を設け、ケーシング底部に設けた回転磁界を発生する駆動装置によってインペラを回転させる。インペラの底部中心にはピボット軸受を設け、図示実施例においてはインペラ側にピボット軸6を、ケーシングの底壁側にはピボット受け10を設けている。ピボット軸6とピボット受け10の材質は、例えばセラミックスと超高分子量ポンプの組のように、互いに硬度の異なる材質のものを選択する。また、ピボット軸とピボット受けの球面の直径を略等しく形成するものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−349482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のものでは、ピボット軸とピボット受けにより構成されたハウジング内でのインペラの軸受機構を有しているため、ベアリング機構等が不要であり、小型化等の利点を備えている。
しかし、インペラの回転により、ピボット軸受部において発熱が生じ、その発熱による血液損傷を与えるおそれがあった。
そこで、本発明は、ピボット軸受機構を用いる遠心式血液ポンプであっても、ピボット軸受部における発熱が少なく、発熱に起因する血液損傷の発生も少ない遠心式血液ポンプおよびそれを用いた遠心式血液ポンプ装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
(1) ハウジングと、前記ハウジング内に回転可能に収納されたインペラとを備え、かつ、前記ハウジングの外部より前記インペラを吸引しかつ回転させるためのインペラ回転トルク発生手段による前記インペラの回転によって血液を送液する遠心式血液ポンプであって、
前記ハウジングは、中央部上方に延びる血液流入ポートと、前記ハウジングの側部に設けられた血液流出ポートとを備え、
前記インペラは、中央部に設けられ、前記血液流入ポートより流入する血液流が当接可能な板状部材と、磁性体とを備え、
さらに、前記ハウジングと前記インペラの板状部材の下面部に形成されたピボット軸受機構を備える遠心式血液ポンプ。
(2) 前記インペラは、前記中央部の上面に設けられた開口部と、前記開口部と連通し、前記インペラの下面方向に延びる通路とを備え、前記板状部材は、前記通路を横切るように設けられている上記(1)に記載の遠心式血液ポンプ。
(3) 前記ハウジングは、前記ハウジングの内部底面より、前記血液流入ポート方向に所定長延びる突出部を備え、前記インペラは、前記インペラの中央部の下面より前記開口部方向に所定長延び、かつ、前記ハウジングの前記突出部の進入が可能な突出部収納部を備え、さらに、前記ピボット軸受機構の一方は、前記ハウジングの前記突出部の頂点部に形成されており、前記ピボット軸受機構の他方は、前記インペラの板状部材の下面部に形成されている上記(2)に記載の遠心式血液ポンプ。
(4) 前記インペラは、前記開口部と連通し、前記インペラの側部まで延びる複数の血液流路を有し、前記板状部材は、前記血液流路を閉塞することなく、前記通路を前記開口部側と前記突出部収納部側に区分するように、かつ、前記開口部付近に設けられている上記(2)または(3)に記載の遠心式血液ポンプ。
【0006】
(5) 前記ハウジングの前記血液流入ポートの中心軸の延長線上に、前記インペラの前記板状部材が位置するものとなっている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
(6) 前記ハウジングの前記突出部は、頂点部に向かってテーパー状に縮径している上記(3)ないし(5)のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
(7) 前記板状部材は、熱伝導性材料にて形成されている上記(1)ないし(6)のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
(8) 前記板状部材は、前記開口部と前記突出部収納部間の連通を阻止している上記(3)ないし(7)のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
(9) 前記ピボット軸受機構は、前記ハウジングの前記突出部の頂点部および前記インペラの前記板状部材の底面のいずれかの一方に形成された凹部からなるピボット軸受と、前記ハウジングの前記突出部の頂点部および前記インペラの前記板状部材の底面のいずれかの他方に形成され、前記凹部の形状に対応した形状を有するピボット軸とにより構成されている上記(3)ないし(8)のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
(10) 前記ピボット軸受の前記凹部および前記ピボット軸は、略半球形状となっており、かつ両者の半径はほぼ等しいものとなっている上記(9)に記載の遠心式血液ポンプ。
【0007】
(11) 前記ピボット軸受機構は、前記ハウジングの前記突出部の頂点部に形成された凹部からなるピボット軸受と、前記インペラの前記板状部材の底面に一体に形成され、かつ、前記凹部の形状に対応した形状のピボット軸とにより構成されている上記(3)ないし(10)のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
(12) 前記ピボット軸受機構は、前記インペラの前記板状部材の底面に形成された凹部からなるピボット軸受と、前記ハウジングの前記突出部の頂点部に形成され、かつ、前記凹部の形状に対応した形状のピボット軸とにより構成されている上記(3)ないし(10)のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
(13) 前記ピボット軸受機構は、前記ハウジングの前記突出部の頂点部に形成された凹部からなるピボット軸受と、前記インペラの前記板状部材の中央開口に装着された球状体のピボット軸とにより構成されている上記(3)ないし(10)のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
【0008】
また、上記目的を達成するものは、以下のものである。
(14) 上記(1)ないし(13)のいずれかに記載の遠心式血液ポンプと、前記インペラの前記磁性体を吸引するとともに該インペラを回転させるためのインペラ回転トルク発生手段とからなる遠心式血液ポンプ装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の遠心式血液ポンプは、ハウジングと、ハウジング内に回転可能に収納されたインペラとを備え、かつ、ハウジングの外部よりインペラを吸引しかつ回転させるためのインペラ回転トルク発生手段よるインペラの回転によって血液を送液する遠心式血液ポンプであって、ハウジングは、中央部上方に延びる血液流入ポートと、ハウジングの側部に設けられた血液流出ポートとを備え、インペラは、中央部に設けられ、血液流入ポートより流入する血液流が当接可能な板状部材と、磁性体とを備え、さらに、ハウジングとインペラの板状部材の下面部に形成されたピボット軸受機構を備えている。このため、ピボット軸受機構を構成するインペラの板状部材には、血液流入ポートより流入した血液流が確実に当接するため、板状部材に形成されたピボット軸受機構は、血液流により冷却され、ピボット軸受機構における発熱およびその発熱による血液損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の実施例の遠心式血液ポンプの正面図である。
【図2】図2は、図1に示した遠心式血液ポンプの平面図である。
【図3】図3は、図1に示した遠心式血液ポンプの斜視図である。
【図4】図4は、図2のA−A線(インペラについてはB−B線)断面図である。
【図5】図5は、図1に示した遠心式血液ポンプに用いられる上部ハウジングの正面図である。
【図6】図6は、図1に示した遠心式血液ポンプに用いられる下部ハウジングの斜視図である。
【図7】図7は、図1に示した遠心式血液ポンプに用いられるインペラの斜視図である。
【図8】図8は、図1に示した遠心式血液ポンプに用いられるインペラの正面図である。
【図9】図9は、図8に示したインペラの平面図である。
【図10】図10は、図1に示した遠心式血液ポンプに用いられるインペラの分解図である。
【図11】図11は、図1に示した遠心式血液ポンプに用いられるインペラ(磁性体を除く)の分解図である。
【図12】図12は、本発明の他の実施例の遠心式血液ポンプの断面図である。
【図13】図13は、図4の部分拡大図である。
【図14】図14は、本発明の他の実施例の遠心式血液ポンプの部分拡大断面図である。
【図15】図15は、本発明の他の実施例の遠心式血液ポンプの部分拡大断面図である。
【図16】図16は、本発明の遠心式血液ポンプ装置の部分破断断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の遠心式血液ポンプおよび遠心式血液ポンプ装置を図面に示す実施例を用いて説明する。
本発明の遠心式血液ポンプ1は、ハウジング2と、ハウジング2内に回転可能に収納されたインペラ3とを備え、かつ、ハウジング2の外部よりインペラを吸引しかつ回転させるためのインペラ回転トルク発生手段50によるインペラ3の回転によって血液を送液するものである。
そして、本発明の遠心式血液ポンプ1では、ハウジング2は、中央部上方に延びる血液流入ポート22と、ハウジング2(具体的には、下部ハウジング21)の側部に設けられた血液流出ポート23とを備え、インペラ3は、中央部の上面に設けられ、血液流入ポート22より流入する血液流が当接可能な板状部材35と、磁性体41とを備え、さらに、ハウジング2とインペラ3の板状部材35の下面部に形成されたピボット軸受機構を備えている。
【0012】
図1ないし図11に示すように、この実施例の遠心式血液ポンプ1は、ハウジング2とその内部に回転可能に収納されたインペラ3とからなる。 インペラ3は、ハウジング2内で回転し、回転時の遠心力によって血液を送液する。
そして、ハウジング2は、図1ないし図6に示すように、上部ハウジング20と上部ハウジングに液密に固定された下部ハウジング21とを備える。ハウジング2内には、血液流入ポート22および血液流出ポート23と連通するインペラ収納室(血液室)が形成されている。特に、この実施例の遠心式血液ポンプ1では、ハウジング2は、中央部上方に延びる血液流入ポート22と、ハウジング2(具体的には、下部ハウジング21)の側部に設けられた血液流出ポート23と、ハウジング2(具体的には、下部ハウジング21)の内部底面より、血液流入ポート方向に所定長延びる突出部25とを備える。
上部ハウジング20は、血液流入ポート22と血液流出ポート23とを備え、非磁性材料により形成されている。上部ハウジング20内には、血液流入ポート22および血液流出ポート23と連通する血液室が形成されている。血液流入ポート22は、上部ハウジング20の上面の中央付近よりほぼ垂直に突出するように設けられている。なお、血液流入ポート22は、このようなストレート管に限定されるものでなく、湾曲管もしくは屈曲管でもよい。血液流出ポート23は、図2および図3に示すように、薄くかつほぼ円筒状に形成された上部ハウジング20の側面よりほぼ接線方向に突出するように設けられている。
また、下部ハウジング21は、図4および図6に示すように、フランジ部27とフランジ部より突出する中央凹部24と、中央凹部24のほぼ中心部より、血液流入ポート22方向に突出する突出部25とを有している。下部ハウジング21の突出部25は、頂点部に向かってテーパー状に縮径している。特に、この実施例では、突出部25は、血液流入ポートに向かって延びるとともに、テーパー状に縮径している。そして、突出部25の頂点部には、ピボット軸受機構形成部材26が、埋設されている。ピボット軸受機構形成部材26の中央には、ピボット軸受機構の軸受部を形成する凹部28が形成されている。ピボット軸受機構形成部材26としては、樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリアセタール)、金属、セラミックスなどが好ましく、特に、上述した樹脂が好ましい。
なお、後述するインペラ3が、厚さが薄いものである場合には、下部ハウジング21は、上述した突出部を持たないものであってもよい。
【0013】
インペラ3は、図4、図7ないし図11に示すように、インペラ本体と、インペラ本体内に収納された複数の磁性体41を備える。
また、この実施例の遠心式血液ポンプ1では、インペラ3は、中央部の上面に設けられた開口部36と、開口部36と連通し、インペラの下面方向に延びる通路30と、通路30を横切るように設けられ、血液流入ポートより流入し、開口部36を通過した血液(血液流)が接触可能な板状部材35を備える。
さらに、この実施例では、インペラ3は、中央部の上面に設けられた開口部36と、中央部の下面より開口部36方向に延び、かつ、ハウジング2の突出部25の進入が可能な突出部収納部(通路の一部により構成)48と、開口部36と連通し、インペラ3の側部まで延びる複数の血液流路31と、血液流路31を閉塞することなく開口部36と突出部収納部48を区分するように開口部36付近に設けられた板状部材35と、磁性体41とを備える。さらに、ハウジング2の底面より所定長上方となる突出部25の頂点とインペラ3の板状部材35の下面にピボット軸受機構28,39を有するものとなっている。
なお、インペラ3としては、クローズドタイプの血液流路を有するものに限定されるものではなく、上面が開口したタイプの血液流路を有するものであってもよい。例えば、インペラとしては、いわゆる羽根タイプのものであってもよい。また、インペラ3としては、厚さが薄いものを用いてもよく、この場合には、下部ハウジング21は、上述した突出部を持たないものであり、インペラも突出部収納部を持たないものであってもよい。
この実施例のインペラ本体は、インペラ上部部材32と、インペラ上部部材32の下面に取り付けられたインペラ中間部材33と、インペラ中間部材33の下面に取り付けられるとともに、内部に磁性体41を収納したインペラ下部部材34を備えている。そして、インペラ上部部材32とインペラ中間部材33間に、上面および下面が開口せず、かつ、一端が開口部36と連通し、他端がインペラ3の側部にて開口する複数の血液流路31が形成されている。この実施例では、血液流路31は、ほぼ同じ幅にて直線状に延びるものとなっており、かつ、血液流路は、開口部36の中心に対して、ほぼ等角度となるように設けられている。さらに、インペラ3は、図7に示すように、血液流路間に形成された複数の突出部32bを備えている。
インペラ上部部材32は、図9ないし図11に示すように、中心部に開口部36を有する所定の肉厚を有し、若干中央部に向かって盛り上がる傘状となっている円盤状部材であり、底面には、開口部36と連通する複数の凹部32aが形成されており、この凹部32aが、血液流路31を構成している。
【0014】
また、インペラ中間部材33は、中心部に貫通部(通路30の一部を構成)を有する所定の肉厚を有し、若干中央部に向かって盛り上がる傘状となっている円盤状部材であり、上面には、インペラ上部部材32の凹部32a内に進入する複数のリブ33bを備えている。そして、インペラ中間部材33の上部開口部33aは、インペラの開口部36の下部および突出部収納部48の上部を形成する。
さらに、インペラ中間部材33の下面には、中心部に開口34a(突出部収納部48の下部側部分を構成する)を備えるインペラ下部部材34が固定されている。開口部34aは、突出部収納部48の下部側部分を構成する。インペラ下部部材34は、図4、図10および図11に示すように、複数の磁性体収納用凹部43と、磁性体収納用凹部間を形成する壁部34bを備えている。また、この実施例では、複数(好ましくは、3〜10)の磁性体収納用凹部43は、開口34aの中心に対して等角度となるように、複数、好ましくは、3〜10、特に、好ましくは、4〜8である。そして、各磁性体収納用凹部43には、磁性体41が収納されている。磁性体41としては、磁性ステンレス、永久磁石等が使用される。また、インペラ本体のインペラ下部部材34は、下部ハウジング21の形状(内面形状)に対応するように、下面に向かって縮径するものとなっている。インペラ3は、図8に示すような中央上部にフランジ部を有するコマ状のものとなっている。
【0015】
そして、インペラ3は、インペラ上部部材32の血液流路31を閉塞することなく開口部36と突出部収納部48を区分する、言い換えれば、通路30を開口部側(血液流入側)と突出部収納部側とに区分するように設けられた板状部材35を有している。具体的には、インペラ本体のインペラ中間部材33は、図10および図11に示すように、上部開口部33aに設けられた環状凹部を備え、板状部材35は、環状凹部に収納されており、さらに、板状部材35は、環状凹部内に配置されたリング状固定部材37により、インペラ本体(インペラ中間部材)に固定されている。このため、インペラ中間部材33の上部開口部33aは、板状部材35により、インペラの開口部36の下部と突出部収納部48の上部を形成する部分に区分されている。言い換えれば、板状部材35は、インペラ中間部材33の上部開口部33aの中間部において、上部開口部33aを横切るように設けられている。そして、この血液ポンプ1では、板状部材35は、インペラ3の開口部36付近に設けられている。開口部36の開口端と板状部材35間の距離は、1〜10mm程度が好ましい。また、リング状固定部材37は、図13に示すように、内面上部の角が丸められた形態となっていることが好ましい。
なお、インペラは、図12に示す実施例の遠心式血液ポンプ10のように、インペラ3の上面から下面に到達する複数の小径の貫通孔38を備えるものであってもよい。この貫通孔38は、インペラ3の血液流路31と連通することなく、インペラの突出部32bが形成された部分を貫通するものとなっている。貫通孔38は、複数(例えば、3〜8)備えることが好ましい。このような複数の貫通孔38を有することにより、インペラ3の上面と上部ハウジング20の内面間とインペラの下面と下部ハウジング21の内面間の圧力バランスを良好化することが期待できる。
【0016】
そして、この実施例では、ハウジング2の血液流入ポート22の中心軸の延長線上に、インペラ3の板状部材35が位置するものとなっている。さらに、板状部材35は、インペラ3の開口部36と突出部収納部48との連通を阻害している。このため、インペラは、開口部36と突出部収納部48を通過し、インペラの底面に流れる血液流が形成されないものとなっている。なお、板状部材35は、開口部を有し、開口部36と突出部収納部48を通過する少量の血液流が形成されるものであってもよい。
そして、インペラ3の板状部材35の下方に位置する突出部収納部48は、板状部材35方向に向かって縮径するものとなっているとともに、下部ハウジング21の突出部35を内側面に所定の空隙を有する状態にて受入可能となっている。この実施例の板状部材35は、インペラ中間部材33の環状凹部に対応した円形のものとなっている。そして、板状部材35は、熱伝導性材料にて形成されていることが好ましい。特に、板状部材35の形成材料としては、ステンレス鋼、アルミ、アルミ合金、チタン、チタン合金などの金属材料が好ましい。また、板状部材35の厚さとしては、0.05〜5mmであることが好ましい。
【0017】
そして、本発明の血液ポンプは、図4および図13に示すように、ハウジング2(具体的には、ハウジング2のインペラ3の底面と向かい合う内面)とインペラ3の板状部材35の下面部に形成されたピボット軸受機構を備えている。特に、この実施例のポンプ1は、ハウジング2の底面より所定長上方となる突出部25の頂点とインペラ3の板状部材35の下面にピボット軸受機構28,39を備えている。そして、ピボット軸受機構の一方は、ハウジング2の突出部25の頂点部に形成されており、ピボット軸受機構の他方は、インペラ3の板状部材35の下面部に形成されている。
このため、この血液ポンプ1では、ピボット軸受機構28,39は、インペラ3の開口部付近に位置する。具体的には、ピボット軸受機構28,39は、インペラ3の開口部と近接し、かつ、インペラの所定長内側に位置する。
そして、図4および図13に示す実施例では、ピボット軸受機構は、ハウジング2の突出部25の頂点部に埋設されたピボット軸受機構形成部材26に形成された凹部28からなるピボット軸受と、インペラ3の板状部材35の底面に形成され、凹部28の形状に対応した形状のピボット軸39とにより構成されている。そして、ピボット軸39は、突出部である。そして、ピボット軸受の凹部28およびピボット軸39は、ともに略半球形状となっており、かつ両者の半径はほぼ等しいものとなっている。さらに、この実施例では、板状部材35に形成されたピボット軸39の内部は、凹部となっており、血液の流入が可能なものとなっており、ピボット軸39の冷却を良好なものとしている。
【0018】
また、ピボット軸受機構としては、図14に示す実施例のように、インペラ3の板状部材35aの底面に形成された凹部からなるピボット軸受46と、ハウジング2の突出部25の頂点部に埋設されたピボット軸受機構形成部材26に形成されたピボット軸47とにより構成されているものであってもよい。そして、ピボット軸47は、凹部からなるピボット軸受46に対応した形状の突出部である。そして、ピボット軸受の凹部46およびピボット軸47は、ともに略半球形状となっており、かつ両者の半径はほぼ等しいものとなっている。さらに、この実施例では、板状部材35aに形成されたピボット軸受46は、内面が突出部を形成するため、流入する血液との接触が良好であり、ピボット軸受46の冷却を良好なものとしている。
また、ピボット軸受機構としては、図15に示す実施例のように、ピボット軸受機構は、ハウジング2の突出部25の頂点部に埋設されたピボット軸受機構形成部材26に形成された凹部28からなるピボット軸受と、インペラ3の板状部材35bの中央開口に装着され、凹部28の形状に対応した球状体49からなるピボット軸とにより構成されているものであってもよい。そして、ピボット軸(球体)49は、板状部材35bの上下に突出するものとなっている。そして、球状体49の半径は、ピボット軸受の凹部28の半径より、若干小さいものとなっている。球状体49としては、セラミックスボール、金属球などが使用できる。
【0019】
また、本発明の遠心式血液ポンプの血液接触面には、抗血栓性材料が固定されていることが好ましい。
抗血栓性材料としては、ヘパリン、ポリアルキルスルホン、エチルセルロース、アクリル酸エステル系重合体、メタアクリル酸エステル系重合体(例えば、ポリHEMA[ポリヒドロキシエチルメタクリレート])、疎水性セグメントと親水性セグメントの両者を有するブロックまたはグラフト共重合体(例えば、HEMA−スチレン−HEMAのブロック共重合体、HEMA−MMA[メチルメタアクリレート]のブロック共重合体、HEMA−LMA[ラウリルメタアクリレート]のブロック共重合体、PVP[ポリビニルピロリドン]−MMAのブロック共重合体、HEMA−MMA/AA[アクリル酸]のブロック共重合体、さらにこのブロック共重合体にアミノ基を有するポリマーを混合したブレンドポリマー、および含フッ素樹脂などが使用できる。好ましくは、HEMA−スチレン−HEMAのブロック共重合体、HEMA−MMA[メチルメタアクリレート]のブロック共重合体、HEMA−MMA/AA[アクリル酸]のブロック共重合体などが好ましい。そして、上記のヘパリンを除く親水性樹脂を血液接触面に被覆した後、さらにその上にヘパリンを固定することが好ましい。この場合、ヘパリンをこの親水性樹脂の表面に固定するためには、親水性樹脂は、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、イソシアネート基、エポキシ基、チオシアネート基、酸クロリド基、アルデヒド基および炭素−炭素二重結合のうちのいずれかを有するか、もしくは容易にこれらの基に変換可能な基を有していることが好ましい。特に好ましくは、上記親水性樹脂にアミノ基を有するポリマーを混合したブレンドポリマーを用いることであり、アミノ基を有するポリマーとしては、ポリアミン、特にPEI[ポリエチンイミン]が好ましい。
【0020】
上述した実施例の血液ポンプでは、血液流入ポート22より流入した血液は、回転するインペラ3の中央部の開口部36に流入し、板状部材35に当接した後、分流し、各血液流路31内に流入する。このため、板状部材35には、血液流入ポートより流入した速度をほぼ維持する血液流が当接するため、板状部材は、当接する血液により冷却されるとともに、血液流との当接は継続するため、板状部材35の軸受形成部での発熱の発生を防止する。
【0021】
そして、本発明の遠心式血液ポンプ装置は、遠心式血液ポンプ1と、インペラ3の磁性体41を吸引するとともにインペラ3を回転させるためのインペラ回転トルク発生手段50とからなる。
遠心式血液ポンプ1としては、上述した実施例のものを用いることができる。
インペラ回転トルク発生手段50は、図16に示すように、ハウジング内に収納されたロータ51とロータ51を回転させるためのモータ(図示せず)を備える。ハウジングは、血液ポンプ1の下部ハウジングの外方突出部を収納する凹部を備えている。ロータ51は、血液遠心ポンプ1側の面に設けられ、インペラ3に設けられた磁性体41の傾斜配置形態に対応して、傾斜配置された複数の永久磁石52を備える。ロータ51の中心は、モータの回転軸に固定されている。永久磁石52は、インペラ3の磁性体41の配置形態(数および配置位置)に対応するように、複数かつ等角度ごとに設けられている。また、ロータ51を回転駆動させるモータとしては、DCブラシレスモータを含む同期モータ、インダクションモータを含む非同期モータなどが使用されるが、モータの種類はどのようなものであってもよい。また、モータの回転時における複数の永久磁石52の中心とロータの中心は一致している。
【符号の説明】
【0022】
1 遠心式血液ポンプ
2 ハウジング
3 インペラ
25 突出部
35 板状部材
36 開口部
48 突出部収納部
28,39 ピボット軸受機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジング内に回転可能に収納されたインペラとを備え、かつ、前記ハウジングの外部より前記インペラを吸引しかつ回転させるためのインペラ回転トルク発生手段による前記インペラの回転によって血液を送液する遠心式血液ポンプであって、
前記ハウジングは、中央部上方に延びる血液流入ポートと、前記ハウジングの側部に設けられた血液流出ポートとを備え、
前記インペラは、中央部に設けられ、前記血液流入ポートより流入する血液流が当接可能な板状部材と、磁性体とを備え、
さらに、前記ハウジングと前記インペラの板状部材の下面部に形成されたピボット軸受機構を備えることを特徴とする遠心式血液ポンプ。
【請求項2】
前記インペラは、前記中央部の上面に設けられた開口部と、前記開口部と連通し、前記インペラの下面方向に延びる通路とを備え、前記板状部材は、前記通路を横切るように設けられている請求項1に記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項3】
前記ハウジングは、前記ハウジングの内部底面より、前記血液流入ポート方向に所定長延びる突出部を備え、前記インペラは、前記インペラの中央部の下面より前記開口部方向に所定長延び、かつ、前記ハウジングの前記突出部の進入が可能な突出部収納部を備え、さらに、前記ピボット軸受機構の一方は、前記ハウジングの前記突出部の頂点部に形成されており、前記ピボット軸受機構の他方は、前記インペラの板状部材の下面部に形成されている請求項2に記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項4】
前記インペラは、前記開口部と連通し、前記インペラの側部まで延びる複数の血液流路を有し、前記板状部材は、前記血液流路を閉塞することなく、前記通路を前記開口部側と前記突出部収納部側に区分するように、かつ、前記開口部付近に設けられている請求項2または3に記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項5】
前記ハウジングの前記血液流入ポートの中心軸の延長線上に、前記インペラの前記板状部材が位置するものとなっている請求項1ないし4のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項6】
前記ハウジングの前記突出部は、頂点部に向かってテーパー状に縮径している請求項3ないし5のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項7】
前記板状部材は、熱伝導性材料にて形成されている請求項1ないし6のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項8】
前記板状部材は、前記開口部と前記突出部収納部間の連通を阻止している請求項3ないし7のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項9】
前記ピボット軸受機構は、前記ハウジングの前記突出部の頂点部および前記インペラの前記板状部材の底面のいずれかの一方に形成された凹部からなるピボット軸受と、前記ハウジングの前記突出部の頂点部および前記インペラの前記板状部材の底面のいずれかの他方に形成され、前記凹部の形状に対応した形状を有するピボット軸とにより構成されている請求項3ないし8のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項10】
前記ピボット軸受の前記凹部および前記ピボット軸は、略半球形状となっており、かつ両者の半径はほぼ等しいものとなっている請求項9に記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項11】
前記ピボット軸受機構は、前記ハウジングの前記突出部の頂点部に形成された凹部からなるピボット軸受と、前記インペラの前記板状部材の底面に一体に形成され、かつ、前記凹部の形状に対応した形状のピボット軸とにより構成されている請求項3ないし10のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項12】
前記ピボット軸受機構は、前記インペラの前記板状部材の底面に形成された凹部からなるピボット軸受と、前記ハウジングの前記突出部の頂点部に形成され、かつ、前記凹部の形状に対応した形状のピボット軸とにより構成されている請求項3ないし10のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項13】
前記ピボット軸受機構は、前記ハウジングの前記突出部の頂点部に形成された凹部からなるピボット軸受と、前記インペラの前記板状部材の中央開口に装着された球状体のピボット軸とにより構成されている請求項3ないし10のいずれかに記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれかに記載の遠心式血液ポンプと、前記インペラの前記磁性体を吸引するとともに該インペラを回転させるためのインペラ回転トルク発生手段とからなることを特徴とする遠心式血液ポンプ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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