説明

遠隔診療システム

【課題】患者が医者と目が合ったと認識するに十分な視線の一致を実現することができる遠隔診療システムを提供すること。
【解決手段】遠隔診療システムにおいて、医者側端末装置10は、患者の顔を映し出すモニター11と、医者の顔を撮像する撮像部12とを備え、撮像部12は、レンズ中心が医者の顔の目の高さ位置に向けられるカメラ31と、医者17がモニター11に映し出された患者映像の目を見る際の視線vと一致する高さにカメラ31のレンズ面がくるようにカメラ31とモニター11との相対位置を調節する位置調節機構とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、離れた場所にいる患者に対して医者が診断・治療を行う遠隔診療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野における診断・治療(診療)は、医者と患者とが直接対面した状態で行われる対面診療が一般的である。しかしながら、距離的および時間的事情や、患者の心理的な事情により、医者と患者とが直接対面した状態で診断・治療を行うことが困難な場合も存在する。
【0003】
そこで、離れた場所にいる患者に対して、通信技術を利用して診断・治療を行う遠隔診療が行われている。
【0004】
ところで、医療、特に精神科目においては、患者は医者と視線が合った状態で診断・治療を受けることが、医者に対する信頼感を醸成するために重要である。このような医者に対する信頼感は特に治療の際に重要となる。このため、遠隔診療においても、患者が医者と視線が合った状態で診察・治療を受けることが求められる。
【0005】
被診療者と診療者とが視線が合った状態で遠隔診療を行う技術として、特許文献1に記載されたものが知られている。特許文献1には、第1対話者のいる第1地点に設置された第1端末装置と、該第1地点から相当距離離れた地点であって第2対話者のいる第2地点に設置された第2端末装置と、該第1端末装置と該第2端末装置の間において、少なくとも該第1対話者及び第2対話者の画像データを有する伝送情報の双方向通信を可能にするための伝送手段とを備え、少なくとも第1端末装置は、伝送手段を介して受信した、第2対話者の像をモニター上に表示する表示部と、表示部のモニター画面に対し、第1対話者の位置を規定する位置規定手段と、伝送手段を介して第2端末装置に、第1対話者の像の送信を可能にする装置であって、該第1対話者を直接撮像する撮像部と、該撮像部の撮像方向を直接該第1対話者に向けた状態で、第1対話者とモニターとの間に撮像部を設定させるための支持機構とを有する撮像装置と、撮像部の撮像方向が直接第1対話者に向けられた状態で、かつ第1対話者から見て、撮像部がモニター上に表示された人物像のうち該人物像の目の位置よりも上方部分と重なるよう、撮像部と人物像との相対位置を調節する手段とを備えた双方向対話型システムが開示されており、これにより、撮像部が視線の妨げとならずに両者の視線を一致させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許3074677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示された技術では、第1対話者と第2対話者の視線を一見一致させることができるように見えるものの、実際には、撮像部はモニター上で第2対話者の目に向かう第1対話者の視線に対し上方から第1対話者を撮像することになるため、厳密な意味での視線一致は実現されていない。患者は、医者の視線がしっかりと自分に向いて目と目が合ったと感じないと、医者に対する信頼感を十分に得られないのであり、上記特許文献1に開示された技術では視線の一致が未だ不十分である。
【0008】
したがって、本発明は、患者が医者と目が合ったと認識するに十分な視線の一致を実現することができる遠隔診療システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、離れた場所にいる患者に対して医者が診断・治療を行う遠隔診療システムであって、医者が情報の授受を行うための医者側端末装置と、医者側端末装置に対して通信回線を介して接続される、患者が情報の授受を行うための患者側端末装置とを具備し、前記医者側端末装置は、患者の顔を映し出すモニターと、医者の顔を撮像する撮像部とを備え、前記撮像部は、レンズ中心が医者の顔の目の高さ位置に向けられるカメラと、医者が前記モニターに映し出された患者映像の目を見る際の視線と一致する高さに前記カメラのレンズ面がくるように前記カメラと前記モニターとの相対位置を調節する位置調節機構とを有することを特徴とする遠隔診療システムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、レンズ中心が医者の顔の目の高さ位置に向けられるカメラのレンズ面の高さ位置が、医者がモニターに映し出された患者映像の目を見る際の視線の高さ位置と一致するように、位置調節機構によりカメラとモニターとの相対位置を調節するので、医者の視線がカメラに対していわゆる「カメラ目線」となり、患者側端末装置のモニターに映し出される医者映像の目からの視線が患者の目を見ている状態となり、患者が医者と目が合ったと認識するに十分な視線の一致を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態に係る遠隔診療システムを示す概略構成図である。
【図2】図1の遠隔診療システムにおける医者側端末装置の各構成要素の配置を示す概略側面図である。
【図3】図2の医者側端末装置の撮像部を詳細に示す側面図である。
【図4】医者側からモニターを見た際の撮像部とモニターに写し出された患者映像との関係を示す図である
【図5】医者の視線の仰角がθの場合のカメラ位置の調節の手法を説明するための図である。
【図6】図1の遠隔診療システムにおける患者側端末装置の各構成要素の配置を示す概略側面図である。
【図7】位置調節機構の変形例を示す側面図である。
【図8】位置調節機構の他の変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係る遠隔診療システム型システムについて説明する。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る遠隔診療システムを示す概略構成図である。本実施形態に係る遠隔診療システムは、離れた場所にいる患者に対して医者が診断・治療を行うものであり、医者が情報の授受を行うための医者側端末装置10と、医者側端末装置10に対して通信回線30を介して接続される、患者が情報の授受を行うための患者側端末装置20とを有している。
【0014】
医者側端末装置10は、主に患者の映像を出力するためのモニター11と、医者を撮像するカメラ、カメラを支持する支持機構、カメラを移動する移動機構等を有する撮像部12と、患者の音声を出力するためのスピーカー13と、医者側の音声を入力するマイク14と、モニター11、撮像部12、スピーカー13、マイク14等の構成要素を制御するための制御部15と、通信網30に接続するためのインターフェースとなる通信I/F16とを有している。
【0015】
患者側端末装置20は、主に医者の映像を出力するためのモニター21と、患者を撮影するカメラ、カメラを支持する支持機構、カメラを移動する移動機構等を有する撮像部22と、患者の音声を出力するためのスピーカー23と、医者側の音声を入力するマイク24と、モニター21、撮像部22、スピーカー23、マイク24等の構成要素を制御するための制御部25と、通信網30に接続するためのインターフェースとなる通信I/F26とを有している。
【0016】
通信回線30は、一般電話回線でも、有線または無線による専用回線でもよく、インターネット網や光ファイバ網をも含むものであってもよい。
【0017】
次に、医者側端末装置10の各構成要素の配置について説明する。図2は医者側端末装置10の各構成要素の配置を示す概略側面図であり、図3は撮像部12を詳細に示す側面図、図4は医者側からモニター11を見た際の撮像部12とモニター11に写し出された患者映像との関係を示す図である。モニター11は椅子18に座った医者17と対面するように設けられている。スピーカー13はモニター11の下に設けられており、モニター11およびスピーカー13は台19の上に配置されている。マイク14はモニター11の上部に取り付けられている。撮像部12はモニター11前面に設けられており、モニター11から所定の水平距離の位置に医者17と対向するように設けられた医者17を撮像するためのカメラ31を有している。カメラ31は上下左右に角度を調整することができるようになっており、レンズが医者17の顔の目の高さ部分に向くように調整される。より好ましくは、カメラ31のレンズの中心(光軸)が医者17の目の高さ位置であって、かつ顔の中央線になるように調整される。
【0018】
また、撮像部12は、カメラ31を上下方向に移動可能とし、医者17がモニター11に映し出された患者の映像の目を見る際の視線vにおける、カメラ31のレンズ面の水平位置(モニター11からの水平距離d)での高さ位置(高さh)に、カメラ31のレンズ面、好ましくはレンズ中心(光軸)がくるように、つまり、カメラ31のレンズ面、好ましくはレンズ中心(光軸)の高さ位置が視線vの高さ位置と一致するように位置調節する位置調節機構32を有している。位置調節機構32は、図3および図4に示すように、モニター11の前面の中央部分を鉛直方向に延び、カメラ31が上下に摺動可能に支持された摺動支持手段としてのガイドロッド33と、カメラ31がガイドロッド33の上で所望の位置になった際に、カメラ31をガイドロッド33に固定して移動を禁止させる固定手段としてのねじ34とを有している。このようにカメラの位置を調節することにより、図4に示すように、医者17からみてモニター11に映し出された患者映像27aの目の高さ位置にカメラ31が位置するように見えるようになる。なお、医者17の目の高さ位置hと医者17の目からモニター11までの距離D、モニター11に患者を映し出した際の患者の目の位置hからhを求めることができる。
【0019】
医者17の目の高さ位置hとモニター11に映し出された患者映像27aの目の高さ位置hが異なる場合、例えば、図5に示すように、医者17の視線vの仰角がθの場合、カメラ31のレンズの高さ位置hからモニター11に映し出された患者映像27aの目の高さ位置hまでの距離h−hはdtanθとなるから、h=h−dtanθになるようにカメラ31の位置を調節すればよい。
【0020】
予め、医者17の目の高さ位置hとモニター11に映し出された患者映像27aの目の高さ位置hとが一致するように調整されている場合には、h=h=hとなるから、カメラ31のレンズの高さ位置hをモニター11に映し出された患者映像27aの目の高さ位置hと一致するように位置調節すればよい(図2参照)。このとき、レンズの中心(光軸)の高さ位置を患者の映像27aの目の中心の高さ位置と一致させることが好ましい。
【0021】
次に、患者側端末装置20の各構成要素の配置について説明する。図6は患者側端末装置20の各構成要素の配置を示す概略側面図である。モニター21は椅子28に座った患者27と対面するように設けられている。スピーカー23はモニター21の下に設けられており、モニター21およびスピーカー23は台29の上に配置されている。マイク24はモニター21の上部に取り付けられている。撮像部22はカメラ41およびカメラ支持部材42を有している。カメラ41は、患者27がモニター21に映し出された医者映像を見るのに妨げにならない位置、すなわち、モニター21に映し出された医者の顔の映像から外れた位置に設けられ、図6の例ではモニター21の上方に設けられている。カメラ41は支持部材42に支持された状態で上下左右に角度を調整することができるようになっており、レンズが患者27の顔の目の高さ位置に向くように調整される。
【0022】
このように構成される遠隔診療システムにおいては、医者側端末装置10と患者側端末装置20とを通信回線30で接続し、医者側端末装置10の撮像部12で撮像した医者の映像およびマイク14による医者の音声を通信回線30を介して患者側端末装置20のモニター21およびスピーカー23に出力して患者が医者の映像および音声を認識できるようにし、患者側端末装置20の撮像部22で撮像した患者の映像およびマイク24による患者の音声を通信回線30を介して医者側端末装置10のモニター11およびスピーカー13に出力して医者が患者の映像および音声を認識できるようにする。これにより、遠隔診療が実現される。
【0023】
本実施形態においては、カメラ31のレンズ面、好ましくはレンズ中心(光軸)の高さ位置が、医者17がモニター11に映し出された患者映像の目を見る際の医者の視線vの高さ位置と一致するように、位置調節機構32がカメラ31を位置調節するので、医者の視線がカメラ31に対していわゆる「カメラ目線」となり、患者側端末装置20のモニター21に映し出される医者映像の目からの視線が患者の目を見ている状態となり、患者が医者と目が合ったと認識するに十分な視線の一致を実現することができる。
【0024】
このように医者を撮像するカメラ31がモニター11の前面の患者映像の目の高さ位置に存在することになるので、一見すると、診療の支障をきたすことが懸念されるが、医者は診療のプロであるから、患者映像の前にこのような邪魔物が存在しても、実際には診療に支障をきたさないことが判明した。
【0025】
従来は、医者側端末のモニターに映し出された相手側の顔の位置にこのような邪魔物を配置することは医者が映像を認識する妨げとなるとして、モニターの相手側の顔の部分を外してカメラを配置していたが、そのような邪魔物が存在していることよりも、むしろ、相手側の顔を外して医者を映すカメラを配置することにより、患者にとって医者の視線が自分に向いていない状態、つまり患者が医者と目が合わない状態で診療を受けている気分となり、医者に対する信頼感が醸成されないことのほうが、実際の診療の障害になるのである。
【0026】
このように本発明は、「カメラはモニターに映し出された相手側の顔を妨げる位置にあってはならない」という従来の固定観念を打ち破ったものである。
【0027】
一方、患者にとってモニター21に映し出された医者映像がカメラによって妨げられる影響が大きく、逆に医者は、患者の映像の視線が多少ずれていても問題がないので、図6に示すように、患者側端末装置20ではカメラ41をモニター21に映し出された医者の顔の映像から外れた位置に配置することが好ましいのである。
【0028】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、撮像部の位置調節機構として、鉛直方向に設けられたガイドロッドにカメラを摺動自在に支持するものを用いた例を示したが、図7に示すように、モニター11の上方からベルト51を垂下させ、そのベルト51の下端にカメラ31を取り付けて、ベルト51を上下に移動させ、所望の位置に固定可能とすることによりカメラ31の位置調節を行う等、他の機構を採用することもできる。
【0029】
また、上記実施形態では、カメラの位置調節機構としてカメラをガイドロッドに沿って摺動させ、所定の位置でねじ止めして固定する手動タイプのものを用いた例を示したが、図8に示すように、カメラ31を摺動可能に支持するガイドロッド33と平行にボールねじ等の螺棒61を設け、カメラ31を螺棒61に螺合させて、螺棒61をモータ62で回転させてカメラ31をガイドロッド33に沿って上下動させ、所望の位置でカメラを固定できる機構であってもよい。
【0030】
さらに、上記実施の形態ではカメラを移動させて位置調節する例を示したが、カメラとモニターとの間に相対移動を生じさせて位置調節すればよいのであって、モニターを移動させてもよい。
【符号の説明】
【0031】
10;医者側端末装置
11;モニター
12;撮像部
20;患者側端末装置
30;通信回線
31;カメラ
32;位置調節機構
33;ガイドロッド
34;ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
離れた場所にいる患者に対して医者が診断・治療を行う遠隔診療システムであって、
医者が情報の授受を行うための医者側端末装置と、医者側端末装置に対して通信回線を介して接続される、患者が情報の授受を行うための患者側端末装置とを具備し、
前記医者側端末装置は、患者の顔を映し出すモニターと、医者の顔を撮像する撮像部とを備え、
前記撮像部は、レンズ中心が医者の顔の目の高さ位置に向けられるカメラと、医者が前記モニターに映し出された患者映像の目を見る際の視線と一致する高さに前記カメラのレンズ面がくるように前記カメラと前記モニターとの相対位置を調節する位置調節機構とを有することを特徴とする遠隔診療システム。
【請求項2】
前記位置調節機構は、前記視線と一致する高さに前記カメラのレンズ中心がくるように前記カメラと前記モニターとの相対位置を調節することを特徴とする請求項1に記載の遠隔診療システム。
【請求項3】
医者の目の高さ位置と前記モニターに映し出された患者映像の目の高さ位置が一致するように調整されており、前記位置調節機構は、前記カメラのレンズの高さ位置と前記モニターに映し出された患者映像の目の高さ位置とが一致するように前記カメラと前記モニターとの相対位置を調節することを特徴とする請求項1に記載の遠隔診療システム。
【請求項4】
前記位置調節機構は、前記カメラのレンズ中心の高さ位置と前記モニターに映し出された患者映像の目の中心の高さ位置とが一致するように前記カメラと前記モニターとの相対位置を調節することを特徴とする請求項3に記載の遠隔診療システム。
【請求項5】
前記位置調節機構は、前記カメラが上下方向に摺動可能に支持された摺動支持手段と、前記摺動支持手段にて前記カメラを所望の位置に固定して移動を禁止させる固定手段とを有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の遠隔診療システム。
【請求項6】
前記摺動支持手段は鉛直方向に延びるガイドロッドを有し、前記固定手段は前記カメラを前記ガイドロッドの所望の位置で前記カメラを固定するねじを有することを特徴とする請求項5に記載の遠隔診療システム。
【請求項7】
前記位置調節機構は、前記カメラを支持し、上下動可能かつ所望の位置に固定可能に設けられたベルトを有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の遠隔診療システム。
【請求項8】
前記位置調節機構は、前記カメラが上下方向に摺動可能に支持されたガイドロッドと、前記ガイドロッドと平行に設けられ前記カメラが螺合された螺棒と、前記螺棒を回転させることにより、前記カメラを前記ガイドロッドに沿って上下同させ、所望の位置で固定させるモータとを有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の遠隔診療システム。
【請求項9】
前記患者側端末装置は、医者の顔を映し出すモニターと、患者の顔を撮像する撮像部とを備え、
前記撮像部は、レンズが患者の顔の目の高さ位置に向けられるカメラを有し、前記カメラは、患者が前記モニターに映し出された医者映像を見るのに妨げにならない位置に設けられていることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の遠隔診療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−50743(P2012−50743A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197014(P2010−197014)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(510237538)
【Fターム(参考)】