説明

適合ノイズ制御システム

【課題】アクティブノイズキャンセルシステムを提供すること。
【解決手段】システムは、ノイズ信号を表す基準信号を受信し、補償信号を提供する出力を含む適合フィルタと、測定信号を提供する信号源と、該補償信号および該測定信号を該リスニング位置に放射する少なくとも1つの音響アクチュエータと、該放射された補償信号、該測定信号、および該ノイズ信号の重ね合わせを該リスニング位置で受信する少なくとも1つのマイクロフォンであって、該マイクロフォンは、マイクロフォン信号を提供する、少なくとも1つのマイクロフォンと、2次経路システムを含む2次経路であって、該2次経路は、該適合フィルタの出力から該マイクロフォンの出力への信号伝達経路を表す、2次経路と、該測定信号および該マイクロフォン信号に応答して、2次経路システムの伝達特性を推定するための推定ユニットとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクティブノイズ制御システムに関し、具体的には、アクティブノイズ制御システムにおけるシステム識別に関する。
【背景技術】
【0002】
擾乱ノイズは、有用な音響信号に比べて、特定の受信器(例えば、リスナーの耳)に合うようには意図されていない音である。通常、ノイズおよび騒音信号の生成プロセスは、3つのサブプロセスに分けられる。これらは、ノイズ源によるノイズの生成、ノイズのノイズ源から離れる伝播、およびノイズ信号の放射である。ノイズの抑制は、例えば、減衰手段によって、ノイズ源で直接起こり得る。抑制は、また、ノイズの伝達および/または放射を禁止するあるいは減衰することによって、達成され得る。しかしながら、多くの用途において、これらの効果は、リスニングルームにおけるノイズレベルを許容限度以下に減少するという所望の効果をもたらさない。特に、バス周波数領域において、ノイズリダクションの欠乏が観測され得る。加えて、あるいは代替として、リスニングルームに放射されたノイズを、弱め合う干渉によって(例えば、ノイズ信号を補償信号と重ねることによって)除くあるいは少なくとも減少するノイズ制御方法およびシステムが、採用され得る。そのようなシステムおよび方法は、用語「アクティブノイズキャンセリング」あるいは、「アクティブノイズ制御」(ANC)の元に集約される。
【0003】
「静寂の点(points of silence)」が、リスニングルームにおいて、補償音響信号を抑制されるべきノイズ信号に重ねることによって、弱め合う干渉が達成され得ることは公知であるが、道理にかなった技術実装は、しかしながら、十分な数の適切なセンサおよびアクチュエータと共に使用され得る、コストイフェクティブな高性能デジタルシグナルプロセッサの開発までは、実際的ではなかった。
【0004】
リスニングルームのノイズレベルをアクティブに抑制するあるいは減少するための現在のシステム(「アクティブノイズ制御」あるいは、「ANC」システムとして知られている)は、抑制されるべきノイズ信号と同じ振幅および同じ周波数成分であるが、ノイズ信号に関して位相が180°シフトした補償音響信号を生成する。補償信号は、ノイズ信号と弱め合う干渉をし、従って、ノイズ信号は、リスニングルーム内の少なくとも特定の位置において、除かれるあるいは抑制される。
【0005】
自動車の場合には、用語「ノイズ」は、例えば、エンジンあるいはファンおよびそれらに機械的に結合された部品の機械的振動によって生成されたノイズ、走行中に風によって生成されたノイズ、あるいは、タイヤノイズをカバーする。最新の自動車は、自動車の乗客コンパートメント内に構成された複数のラウドスピーカを使用する高忠実度音響表現を提供する、いわゆる「後部座席エンターテイメント」のような特徴を含む。音響再生の品質を改善するために、分布ノイズが、デジタルオーディオプロセッシングにおいて考慮されなければならない。これ以外に、アクティブノイズ制御の他のゴールは、後部座席と前部座席に座っている人の間の会話を容易にすることである。
【0006】
最新のANCシステムは、デジタルシグナルプロセッシングおよびデジタルフィルタ技術に依存する。ノイズセンサ、つまり例えばマイクロフォンあるいは非音響センサ、が、ノイズ源によって生成された雑音ノイズ信号を表す電気基準信号を得るために採用される。このいわゆる基準信号は、適合フィルタに送られ、フィルタされた基準信号は、その後、音響アクチュエータ(例えば、ラウドスピーカ)に供給され、音響アクチュエータは、リスニングルームの所定の部分内でノイズに対して逆位相である補償音響場を生成し、従って、リスニングルームのこの定められた部分内でノイズを除くあるいは少なくとも減衰する。残留ノイズ信号は、マイクロフォンによって測定され得る。結果のマイクロフォン出力信号は、「誤差信号」として使用され得、誤差信号は適合フィルタにフィードバックされ、ここでは、適合フィルタのフィルタ係数は修正され、誤差信号の標準(例えば、電力)が最小にされる。
【0007】
しばしば適合フィルタで使用される公知のデジタルシグナルプロセッシング法は、それによって誤差信号を最小にするための、つまり、誤差信号の電力が正確であるための、公知の最小二乗平均(LMS)法の拡張である。この拡張LMS法は、例えば、フィルタード誤差−LMS(FELMS)アルゴリズムのような関連した方法と同じく、いわゆるフィルタードx−LMS(FXLMS)アルゴリズムあるいはその修正版である。音響アクチュエータ(つまり、ラウドスピーカ)から誤差信号センサ(つまり、マイクロフォン)への音響伝達経路を表すモデルが、それによって、FXLMS(あるいは任意の関連した)アルゴリズムの適用のために要求される。ラウドスピーカからマイクロフォンへの、この音響伝達経路は通常、ANCシステムの「2次経路」と言われ、ノイズ源からマイクロフォンへの音響伝達経路は、通常、ANCシステムの「1次経路」と言われる。
【0008】
ANCシステムの2次経路の伝達関数(つまり、周波数応答)は、適合フィルタの集束挙動にかなりのインパクトを有し、適合フィルタは、FXLMSアルゴリズムを使用し、従って、その安定性の挙動に、かつ、適合のスピードに、かなりのインパクトを有する。2次経路システムの周波数応答(つまり、振幅応答および/または、位相応答)は、ANCシステムの動作中の変動の対象である。変化する2次経路の伝達関数は、アクティブノイズ制御の性能に、特に、FXMLSアルゴリズムによって達成されるスピードと適合の品質に、負のインパクトを伴う。これは、実際の2次経路の伝達関数が、変動の対象となっている場合、もはやアプリオリに識別された、FXLMS(あるいは関連した)アルゴリズム内で使用される2次経路伝達関数にマッチしないという事実による。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
全シングルチャネルあるいは、マルチチャネルアクティブノイズ制御システムの構造安定性に加えて、適合の改善されたスピードと品質とを有するアクティブノイズ制御のための、方法およびシステムをそれぞれ提供する一般のニーズがある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
リスニング位置での、ノイズ源からリスニング位置に放射されるノイズ信号の電力を減少するためのアクティブノイズキャンセルシステムが本明細書に開示されている。システムは、ノイズ信号を示し補償信号を提供する出力を含む基準信号を受信する適合フィルタと、測定信号を提供する信号源と、補償信号および測定信号をリスニング位置に放射する少なくとも1つの音響アクチュエータと、放射された補償信号の重ね合わせ、測定された信号、およびリスニング位置におけるノイズ信号を受信する少なくとも1つのマイクロフォンと、適合フィルタの出力からマイクロフォンの出力への伝達経路である2次経路システムを含む2次経路と、2次経路システムの伝達特性を推定するための、測定信号および誤差信号に応答する推定ユニットを含む。
【0011】
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
リスニング位置においてノイズ源から該リスニング位置に放射されているノイズ信号の電力を減少するためのアクティブノイズキャンセリングシステムであって、該システムは、
該ノイズ信号を表す基準信号を受信し、補償信号を提供する出力を含む適合フィルタと、
測定信号を提供する信号源と、
該補償信号および該測定信号を該リスニング位置に放射する少なくとも1つの音響アクチュエータと、
該放射された補償信号、該測定信号、および該ノイズ信号の重ね合わせを該リスニング位置で受信する少なくとも1つのマイクロフォンであって、該マイクロフォンは、マイクロフォン信号を提供する、少なくとも1つのマイクロフォンと、
2次経路システムを含む2次経路であって、該2次経路は、該適合フィルタの出力から該マイクロフォンの出力への信号伝達経路を表す、2次経路と、
該測定信号および該マイクロフォン信号に応答して、2次経路システムの伝達特性を推定するための推定ユニットと
を含む、システム。
(項目2)
上記2次経路システムの上記伝達特性を推定するための上記推定ユニットは、上記マイクロフォン信号中の、上記測定信号に起因する上記信号の成分を少なくとも部分的に取り除き、誤差信号を提供するように構成されている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目3)
上記2次経路システムの上記伝達特性を推定するための上記推定ユニットは、上記測定信号および上記誤差信号に応答するさらなる適合フィルタを含み、上記マイクロフォンによって受信された該測定信号の推定を提供する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目4)
上記2次経路システムの上記伝達特性を推定するための上記推定ユニットは、上記測定信号の上記推定を上記マイクロフォン信号から減じ、該マイクロフォン信号の、該測定信号に起因する上記信号の成分を少なくとも部分的に取り除き、誤差信号を提供する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目5)
少なくとも1つのさらなるマイクロフォンであって、上記1つのマイクロフォンおよび該さらなるマイクロフォンは、上記ノイズ信号の上記電力が減少されるべき異なるリスニング位置に配置されており、該マイクロフォンは、マイクロフォン信号のベクトルを提供する、少なくとも1つのさらなるマイクロフォンと、
少なくとも1つのさらなる音響アクチュエータであって、該音響アクチュエータは、上記適合フィルタによって提供された補償信号のベクトルを放射し、かつ、上記信号源によって提供された測定信号のベクトルを放射する、少なくとも1つのさらなる音響アクチュエータと
をさらに含む、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目6)
上記2次経路システムの上記伝達特性を推定するための上記推定ユニットは、上記マイクロフォン信号のベクトル中の測定信号の上記ベクトルに起因する上記信号の成分を少なくとも部分的に取り除くように構成されている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目7)
上記2次経路システムの上記伝達特性を推定するための上記推定ユニットは、上記測定信号のベクトルおよび上記誤差信号のベクトルに応答するさらなるマルチ入力/マルチ出力適合フィルタを含み、上記マイクロフォンによって受信された該測定信号の推定を提供し、該推定は、推定測定信号の行列であり、それによって、それぞれの行列成分は、対応する1対の音響アクチュエータとマイクロフォンの該推定測定信号を表す、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目8)
上記2次経路システムの上記伝達特性を推定するための上記推定ユニットは、上記推定された測定信号の行列の成分を、上記マイクロフォン信号のベクトルの対応する成分から減じ、誤差信号の行列を提供し、該行列のそれぞれの成分は1対の音響アクチュエータおよびマイクロフォンに対応する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目9)
測定信号および補償信号を重ね合わせ、結果の(1または複数の)合算信号を上記(1または複数の)音響アクチュエータに供給するように構成されている、第1のプロセッシングユニットをさらに含む、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目10)
さらなる測定信号を提供する少なくとも1つのさらなる信号源をさらに含み、上記第1のプロセッシングユニットは、上記測定信号、該さらなる測定信号、および上記補償信号を重ね合わせ、上記合算信号を少なくとも1つの音響アクチュエータに供給するように構成されている、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目11)
上記測定信号は、あるサンプルレートでサンプリングされ、上記第1のプロセッシングユニットは、サンプルレート変換器を含み、上記測定信号のうちの少なくとも1つの上記サンプリングレートを調整し、音響アクチュエータを駆動するオーディオシステムのサンプルレートにマッチさせる、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目12)
上記測定信号のうちの1つは、第1のサンプルレートでサンプリングされ、上記第1のプロセッシングユニットは、サンプルレート変換器を含み、該1つの測定信号の上記第1のサンプリングレートを調整し、上記推定ユニットのサンプルレートにマッチさせ、上記2次経路システムの上記伝達特性を推定する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目13)
上記第1のプロセッシングユニットは、異なる測定信号間の位相差を補償するためのオールパスを含む、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目14)
音響アクチュエータの上流側で、上記適合フィルタの下流側に結合されたプレプロセッシングユニットをさらに含み、該プレプロセッシングユニットは、周波数依存ゲインを上記測定信号に課する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目15)
上記2次経路システムの上記推定の品質をモニタし、評価するように構成された制御ユニットをさらに含む、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目16)
上記制御ユニットは、上記プレプロセッシングユニットの上記周波数依存ゲインを制御するための制御信号を提供するように構成され、該制御信号は、上記推定の上記品質に依存する、上記項目のいずれかに記載のシステム。
(項目17)
リスニング位置においてノイズ源から該リスニング位置に放射されているノイズ信号の電力を減少するための方法であって、該方法は、
該ノイズ信号を表す基準信号を適合してフィルタリングし、フィルタ出力信号として補償信号を提供するステップと、
測定信号を提供するステップと、
該補償信号および該測定信号を該リスニング位置に少なくとも1つの音響アクチュエータを介して放射するステップと、
第1の信号を受信するステップであって、該第1の信号は、該放射された補償信号と、該放射された測定信号と、該ノイズ信号とを、該リスニング位置で重ね合わせているステップと、
該測定信号および該第1の信号に応答して、2次経路システムの伝達特性を推定するステップと
を含み、
該2次経路は、2次経路システムによって特徴付けられ、該2次経路システムは、該適合フィルタの出力から少なくとも1つのマイクロフォンの出力への該信号伝達経路を表している、
方法。
(項目18)
上記伝達特性を推定するステップは、
上記第1の信号中の、上記測定信号に起因する上記(1または複数の)信号成分を少なくとも部分的に取り除き、誤差信号を提供するステップを含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目19)
上記伝達特性を推定するステップは、
上記測定信号を適合してフィルタリングし、出力として、上記少なくとも1つのマイクロフォンによって受信された該測定信号の推定を提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
(項目20)
上記伝達特性を推定するステップは、
上記測定信号の上記推定を上記第1の信号から減じ、上記第1の信号の、上記測定信号に起因する上記(1または複数の)信号成分を少なくとも部分的に取り除き、上記誤差信号を提供するステップをさらに含む、上記項目のいずれかに記載の方法。
【0012】
(概要)
リスニング位置での、ノイズ源からリスニング位置に放射されるノイズ信号の電力を減少するためのアクティブノイズキャンセルシステムが本明細書に開示されている。システムは、ノイズ信号を示し補償信号を提供する出力を含む基準信号を受信する適合フィルタと、測定信号を提供する信号源と、補償信号および測定信号をリスニング位置に放射する少なくとも1つの音響アクチュエータと、放射された補償信号の重ね合わせ、測定された信号、およびリスニング位置におけるノイズ信号を受信する少なくとも1つのマイクロフォンと、適合フィルタの出力からマイクロフォンの出力への伝達経路である2次経路システムを含む2次経路と、2次経路システムの伝達特性を推定するための、測定信号および誤差信号に応答する推定ユニットを含む。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明は、以下の図面および記述を参照することによって、より良く理解され得る。図におけるコンポーネントは、必ずしも正確な縮尺ではなく、本発明の主題を図示するときに、強調されている。さらに、図において、同様な参照番号は、対応する部品を指定する。
【図1】図1は、フィードフォワード構造の単純化したダイアグラムを示す。
【図2】図2は、フィードバック構造の単純化したダイアグラムを示す。
【図3】図3は、適合フィルタの基本原理を図示するブロックダイアグラムである。
【図4】図4は、フィルタードx−LMS(FXLMS)アルゴリズムを使用する、シングルチャネルアクティブノイズ制御システムを図示している。
【図5】図5は、図4のシングルチャネルANCシステムをより詳細に図示するブロックダイアグラムである。
【図6】図6は、2−バイ−2マルチチャネルANCシステムの2次経路を図示するブロックダイアグラムである。
【図7a】図7aは、2次経路のシステム識別のための手段を含む、シングルチャネルANCシステムを図示するブロックダイアグラムである。
【図7b】図7bは、2次経路のシステム識別のための手段を含む、シングルチャネルANCシステムを図示するブロックダイアグラムである。
【図8】図8は、2次経路のシステム識別のための手段を含む、マルチチャネルANCシステムを図示するブロックダイアグラムである。
【図9】図9は、図8のシステムをより詳細に図示するブロックダイアグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
例示のアクティブノイズ制御システム(ANCシステム)は、与えられる音響信号の品質を増加するために、音楽再生あるいは、自動車内部の会話明瞭度の再現性、または、望まれないノイズの抑制を有するアクティブヘッドセットの動作を改善する。そのようなアクティブノイズ制御システム基本原理は、従って、存在する望まれない擾乱信号(つまり、「ノイズ」)を補償信号に重畳することに基づいており、補償信号は、アクティブノイズ制御システムの助けにより生成され、望まれない擾乱ノイズ信号に、それに逆位相で重畳され、従って、弱めあう干渉をもたらす。理想的な場合には、望まれないノイズ信号の完全な削減がそれにより達成される。
【0015】
いわゆる「フィードフォワードANCシステム」においては、望まれない擾乱ノイズ(たびたび、「基準信号」と言われる)に相関付けられた信号が、補償アクチュエータに供給される補償信号を生成するために使用される。音響ANCシステムでは、前記補償アクチュエータはラウドスピーカである。しかしながら、補償信号が、擾乱ノイズに相関付けられている測定された基準信号からは出されなくシステム応答のみから引き出される場合、いわゆる「フィードバックANCシステム」が存在する。実際には、「システム」は、ノイズ源からノイズキャンセルが望まれるリスニング位置への全体の伝送経路である。ノイズ源からのノイズ入力に対する「システム応答」は、少なくとも1つのマイクロフォン出力信号によって表され、マイクロフォン出力信号は、所望位置における実際のノイズ信号を抑制するための「アンチノイズ」を生成する補償アクチュエータ(ラウドスピーカ)へ、制御システムを介してフィードバックされる。図1および図2は、フィードフォワード構造(図1)およびフィードバック構造(図2)を基本ブロックダイアグラムによってそれぞれ図示しており、望まれない擾乱ノイズ信号を少なくとも部分的に補償する(理想的には消滅する)補償信号を生成する。これらの図では、ノイズ源の位置におけるノイズ信号を表す基準信号が、x[n]で示されている。ノイズキャンセルが望まれるリスニング位置で結果としてもたらされる擾乱信号は、d[n]で示されている。リスニング位置の擾乱信号d[n]を弱め合って抑制する補償信号は、y[n]で示され、結果の誤差信号(つまり、残留ノイズ)d[n]−y[n]は、e[n]で示される。
【0016】
フィードフォワードシステムは、特に、擾乱ノイズの幅広い減少の可能性のため、フィードバック構成よりも高い効果を囲み得る。これは、擾乱ノイズを表す信号(つまり、基準信号x[n])が、擾乱ノイズ信号d[n]にアクティブに反作用するために、直接処理され使用され得る。そのようなフィードフォワードシステムが、例示の方法で図1に示されている。
【0017】
図1は、基本的なフィードフォワード構成の信号フローを例示している。例えばノイズ源でのノイズ信号あるいは、それから引き出されそれに相関付けられた信号のような入力信号x[n]は、1次経路システム10および制御システム20に供給される。入力信号x[n]は、しばしば、アクティブノイズ制御の基準信号x[n]と言われる。1次経路システム10は、例えば、ノイズ源から、擾乱ノイズ信号の抑制が達成されるべき(つまり、所望の「静寂点」)リスニングルームの一部分(つまり、リスニング位置)へのノイズの伝播のため、基本的に入力信号x[n]に遅延を強制する。遅延入力信号は、d[n]で示され、リスニング位置で抑制されるべき擾乱ノイズを表す。制御システム20においては、基準信号x[n]は、フィルタされ、フィルタされた基準信号(y[n]で示さる)が、擾乱ノイズ信号d[n]に重ねられる場合、リスニングルームの想定位置において弱め合う干渉によってノイズを補償する。図1のフィードフォワード構成の出力信号は、誤差信号e[n]としてみなされ、誤差信号e[n]は、フィルタされた基準信号y[n]による抑制によっては抑制されなかった擾乱ノイズ信号d[n]を含む残留信号である。誤差信号e[n]の信号電力は、達成されたノイズキャンセルの質の測度であると見られ得る。
【0018】
フィードバックシステムにおいては、システム上のノイズ擾乱の影響は、初期に予測されなければならない。センサが擾乱の影響を判定する場合にのみ、ノイズ抑制(アクティブノイズ制御)は実行され得る。フィードバックシステムの有利な効果は、それ故、擾乱ノイズと相関する適切な信号(つまり、基準信号)が、アクティブノイズ制御構成を制御するために利用可能ではない場合であっても、効果的に動作され得る。これは、例えば、ANCシステムを、アプリオリには公知ではない周辺に適用する場合、および、ノイズ源についての特定の情報が利用可能でない場合である。
【0019】
フィードバック構成の原理が、図2に例示されている。図2によると、望まれない音響ノイズの信号d[n]は、フィードバック制御システム20によって提供されたフィルタされた入力信号(補償信号y[n])によって抑制される。残留信号(誤差信号e[n])は、フィードバックループ20の入力として作用する。
【0020】
ノイズ抑制の構成の実際的使用では、ノイズレベルおよび減少されるべきノイズのスペクトル成分は、例えば、周辺状況の変化が原因で経時変化の対象となり得るので、大部分において適合可能なように前記構成が実装される。例えば、ANCシステムが自動車に使用された場合、周囲状況の変化は異なるドライブスピード(風の音、タイヤの回転ノイズ)、異なる負荷状態およびエンジンスピード、あるいは1つまたは複数の解放窓によって起こされ得る。さらに、1次および2次経路システムの伝達関数は、経時変化をし得る。
【0021】
未知のシステムが適合フィルタによって相互的に推定される。それによって、適合フィルタのフィルタ係数は修正され、適合フィルタの伝達特性が未知システムの伝達特性にほぼマッチする。ANCアプリケーションでは、デジタルフィルタが適合フィルタとして使用され、デジタルフィルタには、例えば、有限インパルス応答(FIR)あるいは、無限インパルス応答(IIR)フィルタがあり、それらのフィルタ係数は、所与の適合アルゴリズムに従って修正される。
【0022】
フィルタ係数の適合は、本質的に未知システムの出力と適合フィルタとの間の差である誤差信号を最小化することによって、適合フィルタのフィルタ特性を恒久的に最適化する再帰的プロセスであり、双方とも同じ入力信号によって供給される。誤差信号の標準がゼロに近づく場合、適合フィルタの伝達特性は未知のシステムの伝達特性に近づく。ANCアプリケーションにおいては、未知のシステムはそれによって、ノイズ源からノイズ抑制が達成されるべきスポットへのノイズ信号の経路(1次経路)を表す。ノイズ信号は、それ故、信号経路の伝達特性によって「フィルタされ」、その信号経路は、自動車の場合、本質的に乗客の居住区(一次経路伝達関数)を含む。1次経路は、使用されるマイクロフォンの伝達特性に加えて、実際のノイズ源(例えば、エンジン、タイヤ)から車体、さらに乗客居住区への伝達経路を、選択的に含む。
【0023】
図3は、未知システム10の推定を、適合フィルタ20によって概略例示している。入力信号x[n]は、未知システム10および適合フィルタ20に供給される。未知システムの出力信号d[n]および適合フィルタの出力信号y[n]は、弱め合って重ねられ(つまり、減算され)、残留信号、つまり誤差信号e[n]は、適合フィルタ20に実装された適合アルゴリズムにフィードバックされる。最小二乗法(LMS)アルゴリズムは、例えば、誤差信号e[n]の標準(例えば、電力)が最小になるように、修正フィルタ係数を計算するために採用され得る。この場合、未知システム10の出力信号d[n]の最適抑制が達成され、適合制御システム20の伝達特性は、未知システム10の伝達特性にマッチする。
【0024】
LMSアルゴリズムは、それにより、例えば、デジタルシグナルプロセッサで実現される適合フィルタを利用する場合にしばしば使用されるように、最小二乗法問題の解の近似のためのアルゴリズムを表す。アルゴリズムは、いわゆる最急峻低下(勾配低下法)法に基づいており、単純な方法で傾斜を計算する。それ故、このアルゴリズムは、時間リカーシブ法において動作する。つまり、それぞれの新データセットによって、アルゴリズムが再び走らされ、解が更新される。比較的小さい複雑性のためと、小さいメモリ必要量のため、LMSアルゴリズムは、しばしば適合フィルタおよび適合制御に使用され、デジタルシグナルプロセッサによって実現される。さらに、方法は、それ故、例えば、次の方法であり得、再帰最小二乗法、QR成分分解最小二乗法、最小二乗格子、QR成分分解格子、あるいは、勾配適合格子、ゼロフォース、確率勾配、等である。
【0025】
アクティブノイズ制御構成、いわゆるフィルタードx−LMS(FXLMS)アルゴリズム、およびそれらの修正あるいは拡張はそれぞれ、LMSアルゴリズムの特定の実施形態としてかなり頻繁に使用される。そのような修正は、例えば、修正フィルタード−xLMS(MFXLNS)アルゴリズムである。
【0026】
FXLMSを採用するANCシステムの基本構造が、図4に例示の方法により図示されている。また、デジタルフィードフォワードアクティブノイズ制御システムのベーシック原理を例示している。ことを単純にするため、例えば、実際の実現にはさらに要求される、アンプリファイヤおよびアナログ−デジタル変換器およびデジタル−アナログ変換器は、本明細書には図示されていない。すべての信号は、角かっこの中に配置された時間指標nにより示されるデジタル信号として示される。
【0027】
図4のANCシステムのモデルは、ノイズ源とノイズが抑制されるべきリスニングルームの一部分との間の信号経路の伝達特性を表す(個別時間の)伝達関数P(z)を有する1次経路10を含む。モデルは、フィルタ伝達関数W(z)および適合フィルタ22のためのフィルタ係数w=(w、w、w、・・・)の最適セットを計算するための適合ユニット23を有する適合フィルタ22をさらに含む。伝達関数S(z)を有する2次経路システム21は、適合フィルタ22の下流側に配置され、適合フィルタ22によって提供された補償信号を放射するラウドスピーカから、ノイズd[n]が抑制されるべきリスニングルームの一部への信号経路を表わす。2次経路は、適合フィルタ21の下流側のすべてのコンポーネントの伝達特性を含み、コンポーネントは、例えば、増幅器、デジタルアナログ変換器、ラウドスピーカ、音響伝達経路、マイクロフォン、およびアナログデジタル変換器である。最適フィルタ係数の計算のためのFXLMSアルゴリズムを使用する場合、2次経路伝達関数S(z)の推定S(z)(システム24)が必要である。1次経路システム10および2次経路システム21は、「リアル」システムであり、本質的にリスニングルームの物理特性を表し、他の伝達関数は、デジタルシグナルプロセッサに実装される。
【0028】
入力信号x[n]は、ノイズ源によって生成されたノイズ信号を表し、従って、しばしば、「基準信号」と呼ばれる。これは、例えば、音響あるいは非音響センサによって測定され、さらなる処理がされる。入力信号x[n]は、1次経路システム10を介してリスニング位置に伝達され、ノイズキャンセルが望まれるリスニング位置での擾乱ノイズ信号d[n]を出力として提供する。非音響センサを使用する場合、入力信号は、間接的にセンサ信号から引き出される。基準信号x[n]は、適合フィルタ22にさらに供給され、適合フィルタ22は、フィルタード信号y[n]を提供する。フィルタード信号y[n]は、2次経路システム21に提供され、2次経路システム21は修正フィルタード信号(つまり、擾乱ノイズ信号d[n]に弱め合うように重なる補償信号)y’[n]を提供すし、擾乱ノイズ信号は1次経路システム10の出力である。従って、適合フィルタは、さらなる180度位相シフトを信号経路に課さなければならない。重ね合わせの「結果」は、測定可能な残留信号であり、適合ユニット23のための誤差信号e[n]として使用される。更新されたフィルタ係数wの計算のために、2次経路伝達関数S(z)の推定モデルS(z)が必要とされる。これは、フィルタード基準信号y[n]と補償信号y’[n]との間の、2次経路の信号歪が原因のデコリレーションのための補償に必要とされる。推定2次経路伝達関数S(z)はまた入力信号x[n]を受信し、修正基準信号x’[n]を適合ユニット23に提供する。
【0029】
ダイアグラムの機能は、以下のようにまとめられる。適合プロセスにより、適合フィルタW(z)および2次経路伝達関数S(z)全体の伝達関数W(z)・S(z)は1次経路伝達関数P(z)に近づき、追加の180°位相シフトが適合フィルタ22の信号経路に課され、従って、擾乱ノイズ信号d[n](1次経路10の出力)および補償信号y’[n](二次経路21の出力)が弱め合うように重なり合い、それにより、リスニングルームのかなりの部分における擾乱ノイズ信号d[n]を抑制する。
【0030】
推定2次経路伝達関数S’(z)によって提供された修正入力信号x'[n]と同様に、マイクロフォンで測定され得る放射誤差信号e[n]は、適合ユニット23に供給される。適合ユニット23は、修正基準信号x’[n](「フィルタードx」)および誤差信号e[k]から、適合フィルタ伝達関数W(z)のフィルタ係数wを計算するように構成されており、誤差信号の標準(例えば、電力あるいはL−標準)‖e[k]‖が最小になる。この目的のために、LMSアルゴリズムは、すでに議論したように良い選定であり得る。回路ブロック22、23、24は、共にアクティブノイズ制御ユニット20を形成し、デジタルシグナルプロセッサに完全に実装され得る。もちろん、例えば、「フィルタード−e LSM」アルゴリズムのような、「フィルタード−x LSM」アルゴリズムの代替あるいは修正が適用可能である。
【0031】
例えば、上述のFXLMSのようなアルゴリズムの、デジタルANCシステムに実現されたアルゴリズムの適合性は、構成のアルゴリズム可能性のある不安定性の望まれない危険性に導く。例えば、そのような不安定性はまた、多くのさらなる適合方法に固有である。非常に望まれない場合には、そのような不安定性は、例えば、ANCシステムの自己発振をもたらし、口笛、叫び等のような特定の不快なノイズとして受容される望まれない同様な効果をもたらす。
【0032】
フィルタ特性の適合のためのLMSファミリーのアルゴリズムを使用する適合アクティブノイズ制御構成では、例えば、構成の基準信号(図4の入力信号x[n]を参照)が時間的に急激な変化をする場合、従って、例えば、遷移的、インパルス含有音響部分を含む場合、不安定性が生じ得る。例えば、そのような不安定性は、集束パラメータあるいは適合LMSアルゴリズムのステップサイズが、インパルス含有音響への適合に対して適切に選定されなかったことの結果であり得る。
【0033】
伝達関数S(z)を有するアクティブノイズ制御構成の2次経路伝達関数S(z)の推定の品質(伝達関数S(z)、図4参照)は、図4に例示したようなFXLMSアルゴリズムに基づくアクティブノイズ制御構成の安定性に対するさらなるファクタを表す。大きさおよび位相に関する2次経路の実際に存在する伝達関数S(z)からの2次経路の推定S(z)は、適合アクティブノイズ制御構成のFXLMSアルゴリズムの収束および安定性挙動、従って、適合のスピードおよび全体のシステム性能において重要な役割を果たす。このコンテクストで、これは、しばしば90°標準と言われる。2次経路伝達関数S*(z)の推定と +/−90°より大きい2次経路の実際に存在する伝達関数S(z)との間の位相のずれは、従って、適合ノイズ制御構成の不安定性に導く。さらに、アクティブノイズ制御構成が使用される周囲の状況の変化が、また、不安定性に導く。この例は、自動車の内装における音響ANCシステムの用途である。ここで、自動車の窓の開放は、例えば、音響環境をかなり変化し、従って、また、アクティブノイズ制御構成の2次経路の伝達関数を、これがしばしばANCシステムの全体の不安定性に導く程度にまでする。実際の応用においては、2次経路の伝達関数S(z)は、図4の例の場合のようなアプリオリに定められた推定S(z)によっては、もはや十分に高い品質で近似され得るものではない。ANCシステムの動作中に、それ自身を周囲の状況の変化にリアルタイムに適合する2次経路の動的システム識別が、2次経路の伝達関数S(z)の動的変化によって起きた問題の解を表し得る。
【0034】
そのような2次経路システムの動的なシステム識別は、他の適合フィルタ構成によって実現され得、図3に例示された原理を適用することによって、到達されるべき2次経路に平行に接続されている。選択として、ANC信号の基準信号から独立し、基準信号には相関のない適切な測定信号は、2次経路にフィードされ得、探し求められた2次経路伝達関数S(z)の動的なおよび適合可能なシステム識別を改善する。動的システム識別の測定信号は、それ故、例えば、ノイズ様な信号あるいは音楽であり得る。動的2次経路近似を有するANCの1つの例は、後に図7を参照して記述される。
【0035】
図5は、図4の構成によるアクティブノイズ制御のためのシステムを例示している。単純明確に保つために、図5はシングルチャネルANCシステムの例を示している。しかしながら、本発明は、シングルチャネルシステムに限定されるべきではなく、以下にさらに議論されるように、問題なくマルチチャネルANCシステムに一般化され得る。基本原理のみを示す図4に加えて、図5は、ANCシステムの入力ノイズ信号(つまり、基準信号x[n])を生成するノイズ源31、フィルタード基準信号y[n]を放射するラウドスピーカLSI、および残留誤差信号e[n]を感知するマイクロフォンM1を例示している。ノイズ源31によって生成されたノイズ信号は、1次経路への入力信号x[n]として働く。1次経路システム10の出力d[n]は、リスニング位置で抑制されるべきノイズ信号d[n]を表す。入力信号x[n]の電気的表示x[n]は、つまり基準信号は、音響センサ32によって提供され得、音響センサには、例えば、マイクロフォンM1あるいは、可聴周波数スペクトルまたは、その少なくとも所望のスペクトル領域において敏感な振動センサがある。入力信号x[n]の電気的表示x[n]、つまり、センサ信号、は適合フィルタ22に供給され、フィルタされた信号y[n]は、2次経路21に供給される。2次経路21の出力信号は、補償信号y’[n]であり、1次経路10によってフィルタされたノイズd[n]と弱め合う干渉をする。残留信号は、マイクロフォン33で測定され、その出力信号は、適合ユニット23に誤差信号e[n]として供給される。適合ユニットは、適合フィルタ22のために最適フィルタ係数w[n]を計算する。この計算では、FXLMSアルゴリズムが上記のように使用され得る。音響センサ32がノイズ源31によって生成されたノイズ信号を、可聴スペクトルの幅広い周波数帯域において検出できるので、図5の構成は広帯域ANCアプリケーションに使用され得る。
【0036】
狭帯域ANCアプリケーションでは、音響センサ32は、非音響センサ(例えば、回転スピードセンサ)および、基準信号x[n]の電気的気表示x[n]を合成する信号生成器によって置き換えられ得る。信号生成器は、非音響センサで測定される基本周波数をまた、基準信号x[n]を合成する高次の高調波を使用し得る。非音響センサは、例えば、主なノイズ源であると考えられる車のエンジンの回転スピードに関する情報を与える回転センサであり得る。
【0037】
全体の2次経路伝達関数S(z)は、フィルタされた基準信号y[n]を受信するラウドスピーカLSIの伝達特性、伝達関数S11(z)によって特徴付けられる音響伝達経路、マイクロフォンM1の伝達特性、および必要な増幅器としての電気成分の伝達特性、A/D変換器およびD/A変換器等を含む。シングルチャネルANCシステムの場合、図5に例示されたように、ただ1つの音響送信経路伝達関数S11(z)が関係する。いくつかのVラウドスピーカLSv(v=1、・・・、V)および、いくつかのWマイクロフォンMw(w=1、・・・、W)を有する通常のマルチチャネルANCシステムでは、2次経路は、伝達関数S(z)=SVW(z)のV×W伝達行列によって特徴付けられる。例として、V=2のラウドスピーカおよびW=2のマイクロフォンに対する2次経路モデルが図6に例示されている。マルチチャネルANCシステムにおいて、適合フィルタ22は、各チャネルに1つのフィルタW(z)を含む。適合フィルタW(z)は、V次元フィルタード基準信号y[n](v=1、・・・、V)を提供し、各信号成分は、対応するラウドスピーカLSvに供給されている。Wマイクロフォンのそれぞれは、音響信号をVラウドスピーカのそれぞれから受信し、合計V×Wの音響伝達経路、つまり、図6の例では4つの伝達経路をもたらす。補償信号y’[n]は、マルチチャネルの場合、W次元のベクトルy’[n]であり、各成分は対応する擾乱ノイズ信号成分d[n]に、マイクロフォンが配置されたそれぞれのリスニング位置において重ねられている。重ね合わせy’[n]+d[n]は、W次元の誤差信号e[n]をもたらし、補償信号y’[n]は、想定リスニング位置において少なくとも概略でノイズ信号d[n]に位相で反対である。さらに、A/D変換器およびD/A変換器が図6に例示されている。
【0038】
図7aのシステムは、図5のシングルチャネルANCシステムに対応し、2次経路伝達関数S’(z)の追加の動的推定を有しており、とりわけFXLMSアルゴリズム内で必要である。図7aのシステムは、図5のシステムのすべての成分を含み、2次経路伝達関数S(z)のシステム推定のための追加の手段50を有する。推定2次経路伝達関数S’(z)は、FXLMSアルゴリズム内で使用され得、すでに上で説明したように、適合フィルタ22のフィルタ係数を計算する。2次経路の推定は、すでに図3に例示された構造を実現する。適合可能な伝達関数G(z)を有するさらなる適合フィルタ51が、求められた2次経路システム21の伝達経路に平行に接続される。測定信号m[n]が測定信号生成器53によって生成され、補償信号y[n]、つまり適合フィルタ22の出力信号に重ねられ(つまり、加えられ)る。さらなる適合フィルタ51の出力信号m’[n]estがマイクロフォン信号dm[n]=e[n]+m’[n]から差し引かれ、結果の残留信号etot[n]=e[n]+(m’[n]−m’[n]est)が誤差信号として使用され、さらなる適合フィルタ51の更新されたフィルタ係数g[n]を計算する。更新されたフィルタ係数g[n]は、さらなるLMS適合ユニット52によって計算される。そのようなセットアップ内では、伝達関数S(z)が時間的に変化したとしても、適合フィルタ51の伝達関数G(z)は、2次経路21の伝達関数S(z)に従う。伝達関数G(z)は、FXLMS内の2次経路伝達関数の推定値S(z)として使用され得る。そのような動的な2次経路システムの推定の良好な性能のために、測定信号m[n]が基準信号x[n]と相関していないことが望ましく、従って擾乱ノイズ信号d[n]および補償信号y’[n]とも相関していないことが望ましい。この場合、ANC誤差信号e[n]に加えて、基準信号は、2次経路システム推定50のための単に相関のないノイズ信号であり、従って、どんな系統的な誤差ももたらさない。
【0039】
さらに、たとえ測定信号が可変2次経路(システム識別)のそれぞれのアクティブスペクトル範囲をカバーしていても、それは同時に、リスナーの音響環境のようなところにおいて不聴であるような方法で、そのレベルおよびそのスペクトル成分を参照して、測定信号m[n]を、動的に調整することが望ましい。これは、この測定信号が常に、会話あるいは音楽のような他の信号によって信頼可能にカバーあるいはマスクされているような方法で、測定信号のレベルおよびスペクトル成分が動的に調整されることで達せられ得る。さらに、誤差信号e[n]の電力(2次経路システム推定50には相関しないノイズである)が1つ以上の周波数帯で増加する場合、測定信号m[n](および従って、2次経路システムm’[n]の出力信号に加えて適合フィルタ51の出力信号m’est[n])がまた対応する周波数依存ゲインに与えられ、対応する周波数帯における信号対ノイズ比(SNR(m’[n]、e[n])を増加する。そのような測定信号の「ゲイン整形」は、システム推定の品質を顕著に改善する。システム識別の良好な性能は、それぞれの関係ある周波数範囲において、測定信号m[n]に起因する2次経路システムm’[n]の出力信号のその部分の電力が、ANC誤差信号である「ノイズ」e[n]よりも高い場合に、達成される。信号生成器53によって提供された測定信号m[n]の振幅は、(周波数に依存する)品質関数QLTYに依存して(周波数依存的に)設定され得、QLTYは例えば、上述の信号対ノイズ比SNRあるいはそれらから導出された任意の関数あるいは値である。マルチチャネルANCシステムの場合、品質関数は、V×Wの2次元行列QLTYv,wであり、v番目のラウドスピーカLSvから放射された測定信号m[n]とw番目のマイクロフォンMwでのノイズ信号e[n]との信号対ノイズ比(あるいは任意の導出された値)を表す。
【0040】
品質関数QLTY(あるいはマルチチャネルにおいてはQLTYv,w)の実際の値に依存して、閾値よりも大きい品質関数値を達成するために、測定信号生成器53の増幅ファクタが設定され得、閾値は、適合フィルタ51の適合プロセスの所望の最小品質を表す。例えば、品質関数QLTYの実際の値が所定の値よりも大きい場合、2次経路のシステム識別の品質は十分であり、増幅ファクタは不変に保たれ、あるいは、むしろ減少されてもよい。品質関数QLTYの値が閾値よりも小さい場合、2次経路識別は信頼できなく、測定信号m[n]の信号振幅は、測定信号の増幅をより大きくすることによって増加されるべきである。上記の品質関数の評価および測定信号振幅の調整は、ANCシステムの動作中に一定の時間間隔で行われ得る。測定信号生成器53の増幅ファクタは、つまり信号ゲインは、従って適合可能に調整される。上記の測定信号ゲインの適合は、図7bに図示されている。上に説明したように、品質関数計算ユニットは、例えば、ラウドスピーカ信号y[n]+m[n]およびマイクロフォン信号dm[n]=e[n]+m’[n]を受信し、品質関数値を計算し、それに依存して測定信号ゲインを設定するように構成されている。しかしながら、マルチチャネルの場合の品質関数QLTYを計算するための他の例は、以下に図8に関連して説明される。
【0041】
図7aは、単純なシングルチャネルANCシステムの例によって、本2次経路システム推定の基本構造のみを例示している。図8は、マルチチャネルANCシステムを例示しており、その構造は図7aのANCシステムに本質的に対応している。明確にするために、伝達行列Svw(z)を有する2次経路21および、システム識別に必要なコンポーネントのみが例示されている。本例において、マルチチャネルANCシステムは、V=2ラウドスピーカおよびW=2マイクロフォンを有している。2次経路伝達関数S(z)のシステム識別および推定に使用される測定信号は、測定信号源61のうちの1つによって生成される。測定信号m[n]として、ノイズ信号、線形あるいは対数の周波数掃引信号あるいは音楽信号が使用され得る。しかしながら、任意の測定信号m[n]は基準信号x[n]と、従って、ANCシステムの残留誤差信号e[n]と無相関であるべきである。第1の処理ユニット62が測定信号源61に接続される。処理ユニット61は、信号源のうちの1つを選択し、あるいは、測定信号を提供するように構成されており、測定信号は、信号源61によって提供された異なる信号の重ね合わせである。
【0042】
さらに、第1の処理ユニット62は、上述のように周波数依存性ゲイン整形能力を提供し、周波数依存性ゲインは、測定信号m[n]に課され、周波数依存性ゲインは、制御信号CTIに依存する。さらに、第1の処理ユニット62は、測定信号m[n]を、ラウドスピーカを供給するVチャネルにそれぞれ分配するように構成されている。本例では、第1の処理ユニット62は、ラウドスピーカLS1およびLS2にそれぞれ供給されている測定信号m[n]およびm[n]を含む2次元ベクトルm[n]を提供する。実際には、測定信号m[n]がラウドスピーカに供給されるだけでなく、フィルタード基準信号y[n]も供給され、重ね合わせm[n]+y[n]が対応するラウドスピーカから放射される。
【0043】
Wマイクロフォンに到着する音響信号は、重ね合わせm’[n]+y’[n]であり、m’[n]は修正測定信号のベクトルであり、y’[n]は補償信号のベクトルであり、補償信号は、ノイズキャンセルが望まれるそれぞれのリスニング位置における対応する分配ノイズ信号d[n]である。修正測定信号ベクトルm’[n]のz変換m’(z)は、次のように計算され得る。
【0044】
【化1】

ここで、m(z)は、対応する測定信号m[n]のz変換ベクトルである。補償信号y’[n]はアナログ手法で計算され得る。
【0045】
マイクロフォンM1およびM2は、ANC誤差信号e[n]およびe[n]をそれぞれ提供し、誤差信号は、通常w次元の誤差ベクトルe[n]=y’[n]+d[n]で表され得る。誤差ベクトルは、修正測定信号m’[n]に重ねられる。プリプロセッシングユニット210およびポストプロセッシングユニット211は、後に図9を参照して説明されるように、とりわけ、アナログデジタルおよびデジタルアナログ変換器、サンプルレート変換手段(サンプリング解除およびダウンサンプリング)、およびフィルタを含む。
【0046】
修正測定信号m’[n]は、誤差信号e[n]に重ねられるが、アクティブノイズ制御システム20(適合フィルタ22、LMS適合ユニット23)を擾乱する。これらは、従って、マイクロフォン出力信号から除去されるべきである。これは、推定2次経路システムSvw(z)(図8のシステム51を参照)によってなされ得、推定2次経路システムは、測定信号ベクトルm[n]によりまた提供される。2次経路システム推定に対して、ANC誤差信号e[n]は相関のないノイズであり、従って、システム推定においてどんな系統的な誤差をも導入しない(しかしながら、統計誤差はある)。従って重ね合わせdm[n]=e[n]+m’[n]は、システム推定のための所望の「目的信号」として使用され得る。つまり、適合フィルタ51は、平均においてその出力が所望の目的信号にマッチするように適合される。この場合、適合フィルタの伝達関数Svw(z)は、2次経路システム21の実際の伝達特性を表す。
【0047】
システム51は、修正測定信号ベクトルm’[n]estを「シミュレート」し得る。シミュレートされた(つまり、推定された)修正測定信号ベクトルm’[n]estは、そしてマイクロフォン信号から減じられ得、残留誤差信号は、etot,w[n]=e[n]+(m’[n]−m’[n]est)=e[n]+em’[n]に等しい。これは、2次経路推定の品質が十分に高い場合、近似的にe[n]に等しい、つまり、Svw(z)≒S(z)の場合、e[n]+(m’[n]−m’[n]est)≒e[n]である。しかしながら、システム推定による誤差em[n]は、アクティブノイズ制御の非相関ノイズであり、従って、いかなる系統的な誤差も生じない。結果として、全誤差信号etot,w[n]がアクティブノイズ制御に使用され得る。
【0048】
推定伝達関数Svw(z)は、行列であり、行列の各成分は、Vラウドスピーカのうちの1つからWマイクロフォンのうちの1つへの伝達特性を表す。結果として、修正測定信号のW×V成分は、計算され得、mvw’[n]で表される。重ね合わせ
【0049】
【化2】

は、インデックスwの各マイクロフォンにおける全シミュレートされた修正測定信号をもたらす。
【0050】
伝達行列Svw(z)の適合は、成分ごとに実施され得る。この場合、誤差信号の対応するW×V成分が計算されなければならない。しかしながら、ただWのマイクロフォン信号が利用可能であり、各マイクロフォン信号dm[n]は、Vラウドスピーカから放射されたV測定信号の重ね合わせである。適合のための伝達行列のi番目の成分Siw’(z)を考慮すると、対応する所望の目的信号dmiw[n]は、マイクロフォン信号dm[n]から、それから、i番目を除くすべての他のシミュレートされた成分を差し引くことによって計算される。つまり、
【0051】
【化3】

対応する総計は、このように計算され、次のようになる。
【0052】
【化4】

上の誤差信号etot,iw[n]に基づいて、Siw’(z)の適合が実行され、次いで、次の成分Si+1,w’(z)のための適合が実行される。上の誤差計算は、誤差計算ユニット70によって図8に表されている。
【0053】
LMS適合ユニット52は、2次経路伝達関数Svw(z)の行列の最適推定を提供するために、適合フィルタSvw(z)のフィルタ係数をLMSアルゴリズムに従って計算する。誤差信号etot,vw[n]は、m[n]に相関する加数emvw’[n]と、補償信号y’[n]とノイズ信号d[n]とに相関する加数e[n]とに分離され得る。もちろん、これらの成分(加数)は、容易には分離されない。しかしながら、これは、必ずしも2次経路推定およびアクティブノイズ制御への逆の影響を伴わない。システム(適合フィルタ22および適合フィルタ51を有する2次経路システム識別)の両方のパーツのアクティブノイズ制御出力信号y’[n]およびm’[n]と、それぞれの誤差信号成分evw[n]およびemvw’[n]は、相関していないので、誤差信号成分evw[n]は、2次経路システム識別の非相関ノイズであり、誤差信号成分emvw’[n]は、アクティブノイズ制御の非相関ノイズである。上に説明したように、非相関ノイズは、それぞれのSNRが規定の閾値異常である限り、システム識別に負のインパクトを与えない。ANCシステムによるさらなるプロセッシングのために、ラウドスピーカがもたらすベクトル信号により、誤差信号etot,vw[n]はV成分にわたって集計され得る。
【0054】
【化5】

制御ユニット60は、推定修正測定信号mvw’[n]estおよび誤差信号etot,vw[n]を受信する。制御ユニット60は、2次経路推定をモニタし評価するように構成されており、品質評価に依存し、制御信号CT1およびCT2をLMS適合ユニット52および第1のプロセッシングユニット62に提供する。図7bに関して上で説明されたように、信号対ノイズ比は、例えば、システム推定に対する品質の測度として使用される。上述の品質関数は、また、全誤差信号etot,vw[n]および所望の目的信号dmvw[n]を用いて計算される。この場合、推定2次経路伝達関数Svw’(z)のV×W成分のそれぞれに対して、対応する品質関数QLTYvwが決定され得る。さらに、品質関数は、周波数の関数であり、システム推定の品質が異なるスペクトル範囲において、あるいは異なる周波数で個別に評価され得る。例えば、品質関数は、FFT(高速フーリエ変換アルゴリズム)を用いて計算され得、
【0055】
【化6】

ここで、記号nは、時間インデックスであり、記号kは、周波数インデックスである。すでに図7(シングルチャネルANC)に関して上で記述したように、品質関数は、推定が受容可能な品質であるか否かを決定するために、閾値と比較される。もちろん、閾値は、周波数依存性であり、求められた伝達行列関数の想定成分とは異なる。
【0056】
例えば、2次経路システム識別の品質が時間のある期間に対して悪い場合、測定信号m[n]のゲインは、上げられてもよく、品質関数が周波数に対して変化するので、前記ゲインが周波数に対して変化し得る。システム識別は、そして、調整された測定信号m[n]によって繰り返される。2次経路システム識別の品質が良好な場合、推定2次経路システム伝達関数Svw(z)(つまり、それぞれのインパルス応答)は、アクティブノイズ制御におけるさらなる使用のために、格納され得る。さらに、測定信号m[n]の周波数依存ゲインは、減少され得、および/または、品質が高く留まっている限り、システム識別は停止され得る。測定信号m[n]の測定信号ゲインは、上で説明したように、品質関数に依存する制御信号CT2を解して、制御ユニット60によって設定される。さらに、適合フィルタ51の適合を制御する適合ユニット52は、制御信号CT1を介して制御され得る。すでに述べたように、適合は、良好な品質が達成されたら停止され得る。例えば、適合フィルタ22(図7を参照)の適合ユニット23のように、さらなる制御信号CTRLを介して、アクティブノイズ制御システムのさらなる成分が制御され得る。実際の推定2次経路伝達関数が悪い品質である場合、例えば、品質関数が所定の閾値より下である場合、2次経路システム識別を実行する部分を除いて、全体のアクティブノイズ制御システムを停止することは有用であり得る。
【0057】
2次経路システム識別を含む全体のアクティブノイズシステム(マルチチャネルと同様にシングルチャネル)は、少なくとも3つの動作モードを含む。アクティブノイズ制御は、停止され得るあるいはスイッチが切られる得、2次経路システム識別のみがアクティブであり得る。これは、推定されている実際の2次経路伝達関数が悪い品質の場合に、有用であり得、あるいは必要でさえあり得る。この場合、ANCシステムは、不正確に動作するかも知れなく、ノイズを抑制する代わりにノイズレベルを上げさえもし、結論として、推定2次経路伝達関数が十分な品質(例えば、所与の閾値を超える)になるまでは停止されるべきである。代替として、アクティブノイズキャンセリングに加えて2次経路システム識別は、アクティブであり得る。この場合、測定信号m[n]は、ノイズキャンセリングに影響を与え、逆に、ANCシステムによって生成されたアンチノイズ(例えば、補償信号y’[n])が2次経路識別に影響を与える。上に説明したように、2つの部分のシステムにおいて関連信号は非相関であるので、相互影響は実際には問題ではない。つまり、ANCシステムの補償信号y’[n]とマイクロフォンによって受信された測定信号m’[n]は相関なく、結果としてそれぞれのフィルタユニット51、22は、信号対ノイズ比が所定の限度より上である限り、適正に動作し得る。さらに、ANCシステムが実際に利用可能な推定2次経路伝達関数が良好な品質の場合、つまり、品質関数が所定の閾値を超えている場合、測定信号m[n]がアクティブノイズ制御上に有する可能性のあるいかなる逆の影響をも避けるために、2次経路システム識別は停止され得る。すべての場合において、2次経路システム識別はアクティブであり、適合プロセスのステップサイズ(適合ユニット52を参照)は、品質関数QLTYの実際の値に依存して調整され得る。
【0058】
いわゆるシステム距離が、また、品質関数QLTYあるいはQLTYvwとしてそれぞれ使用され得る。システム距離は、推定2次経路システムが実際のシステムから「どれだけ遠く離れているか」(つまり、推定と実際のシステムとの距離)を評価するために使用され得る。結論として、項
【0059】
【化7】

は、システム距離の測度として使用され得る。完全な推定(例えば、Svw(z)=Svw(z))はシステム距離ゼロをもたらす。システム距離の絶対値が高ければ高いほど、推定の品質が低くなる。上の式に従った品質関数が示され得、
【0060】
【化8】

は、また、システム距離DISvwを表す。
【0061】
図9の2次経路システム推定は、プリプロセッシング210およびポストプロセッシング211を有する図8のうちの1つに本質的に対応しており、より詳細に例示されている。音響フロントエンド(音響AD変換器およびDA変換器)は、例えば、サンプリング周波数f=44.1kHzあるいはf=48kHzで動作し、ここではANCシステムがサンプリング周波数f/32、つまり、≒1375Hzあるいは1500Hzでそれぞれ動作しており、プリおよびポストプロセッシングユニット210および211は、サンプルレート変換器(インターポレータおよびデシメータ)を含み、インターポレーションおよびデシメーションフィルタに対応している。ノイズが測定信号として使用される場合、m[n]は、2次経路に供給される前に、音響フロントエンドのサンプリング周波数fにアップサンプルされる。さらに、マイクロフォン信号はサンプリング周波数fでデジタイズされ得、そして、ANCシステムのクロック周波数にダウンサンプルされる。プリプロセッシングユニットは、さらにノイズおよび音楽の(選択として重み付け)重ね合わせを測定信号m[n]として提供するように構成されている。図9から見られるように、音楽信号は、一方で、プリプロセッシングユニット210のD/A変換器、「実際の」2次経路システム21、ポストプロセッシングユニット211を介して、誤差計算ユニット70に送信され、他方では、プリプロセッシングユニット210のフィルタおよびダウンサンプリングユニット、「シミュレートされた]2次経路システム(つまり、適合フィルタ51)を介して誤差計算ユニット70に送信される。誤差計算ユニット70においては、音楽信号が(近似的に)マイクロフォン信号dm[n]=e[n]+m’[n]から、すでに図8を参照して上に説明したように、次のシミュレートされた、音楽信号mvw’[n]に起因する2次経路出力を、マイクロフォン信号から減ずることによって取り除かれる。この目的のため、「実際の」2次経路システム21を介して送信された音楽信号および「シミュレートされた]2次経路システム51を介して送信された信号は、誤差計算ユニット70に到着したとき、同一の位相を有さなければならない。しかしながら、実際の2次経路システム21を含む信号経路と、シミュレートされた2次経路システム51を含む信号経路とは、異なる信号プロセッシングコンポーネント(アップサンプリングユニット、ダウンサンプリングユニット、フィルタ、A/DおよびD/A変換器等)を含んでおり、実際の2次経路21を含む経路および、シミュレートされた2次経路51を含む経路の両方の信号において同一信号位相シフトを提供するために、すべての通過はプリプロセッシングユニット21に配置され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リスニング位置においてノイズ源から該リスニング位置に放射されているノイズ信号の電力を減少するためのアクティブノイズキャンセリングシステムであって、該システムは、
該ノイズ信号を表す基準信号を受信し、補償信号を提供する出力を含む適合フィルタと、
測定信号を提供する信号源と、
該補償信号および該測定信号を該リスニング位置に放射する少なくとも1つの音響アクチュエータと、
該放射された補償信号、該測定信号、および該ノイズ信号の重ね合わせを該リスニング位置で受信する少なくとも1つのマイクロフォンであって、該マイクロフォンは、マイクロフォン信号を提供する、少なくとも1つのマイクロフォンと、
2次経路システムを含む2次経路であって、該2次経路は、該適合フィルタの出力から該マイクロフォンの出力への信号伝達経路を表す、2次経路と、
該測定信号および該マイクロフォン信号に応答して、2次経路システムの伝達特性を推定するための推定ユニットと
を含む、システム。
【請求項2】
前記2次経路システムの前記伝達特性を推定するための前記推定ユニットは、前記マイクロフォン信号中の、前記測定信号に起因する前記信号の成分を少なくとも部分的に取り除き、誤差信号を提供するように構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記2次経路システムの前記伝達特性を推定するための前記推定ユニットは、前記測定信号および前記誤差信号に応答するさらなる適合フィルタを含み、前記マイクロフォンによって受信された該測定信号の推定を提供する、請求項1または請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記2次経路システムの前記伝達特性を推定するための前記推定ユニットは、前記測定信号の前記推定を前記マイクロフォン信号から減じ、該マイクロフォン信号の、該測定信号に起因する前記信号の成分を少なくとも部分的に取り除き、誤差信号を提供する、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
少なくとも1つのさらなるマイクロフォンであって、前記1つのマイクロフォンおよび該さらなるマイクロフォンは、前記ノイズ信号の前記電力が減少されるべき異なるリスニング位置に配置されており、該マイクロフォンは、マイクロフォン信号のベクトルを提供する、少なくとも1つのさらなるマイクロフォンと、
少なくとも1つのさらなる音響アクチュエータであって、該音響アクチュエータは、前記適合フィルタによって提供された補償信号のベクトルを放射し、かつ、前記信号源によって提供された測定信号のベクトルを放射する、少なくとも1つのさらなる音響アクチュエータと
をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記2次経路システムの前記伝達特性を推定するための前記推定ユニットは、前記マイクロフォン信号のベクトル中の測定信号の前記ベクトルに起因する前記信号の成分を少なくとも部分的に取り除くように構成されている、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記2次経路システムの前記伝達特性を推定するための前記推定ユニットは、前記測定信号のベクトルおよび前記誤差信号のベクトルに応答するさらなるマルチ入力/マルチ出力適合フィルタを含み、前記マイクロフォンによって受信された該測定信号の推定を提供し、該推定は、推定測定信号の行列であり、それによって、それぞれの行列成分は、対応する1対の音響アクチュエータとマイクロフォンの該推定測定信号を表す、請求項5または請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記2次経路システムの前記伝達特性を推定するための前記推定ユニットは、前記推定された測定信号の行列の成分を、前記マイクロフォン信号のベクトルの対応する成分から減じ、誤差信号の行列を提供し、該行列のそれぞれの成分は1対の音響アクチュエータおよびマイクロフォンに対応する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
測定信号および補償信号を重ね合わせ、結果の(1または複数の)合算信号を前記(1または複数の)音響アクチュエータに供給するように構成されている、第1のプロセッシングユニットをさらに含む、請求項1から8のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
さらなる測定信号を提供する少なくとも1つのさらなる信号源をさらに含み、前記第1のプロセッシングユニットは、前記測定信号、該さらなる測定信号、および前記補償信号を重ね合わせ、前記合算信号を少なくとも1つの音響アクチュエータに供給するように構成されている、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記測定信号は、あるサンプルレートでサンプリングされ、前記第1のプロセッシングユニットは、サンプルレート変換器を含み、前記測定信号のうちの少なくとも1つの前記サンプリングレートを調整し、音響アクチュエータを駆動するオーディオシステムのサンプルレートにマッチさせる、請求項9または10に記載のシステム。
【請求項12】
前記測定信号のうちの1つは、第1のサンプルレートでサンプリングされ、前記第1のプロセッシングユニットは、サンプルレート変換器を含み、該1つの測定信号の前記第1のサンプリングレートを調整し、前記推定ユニットのサンプルレートにマッチさせ、前記2次経路システムの前記伝達特性を推定する、請求項9から11のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項13】
前記第1のプロセッシングユニットは、異なる測定信号間の位相差を補償するためのオールパスを含む、請求項9から12のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項14】
音響アクチュエータの上流側で、前記適合フィルタの下流側に結合されたプレプロセッシングユニットをさらに含み、該プレプロセッシングユニットは、周波数依存ゲインを前記測定信号に課する、請求項1から13のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項15】
前記2次経路システムの前記推定の品質をモニタし、評価するように構成された制御ユニットをさらに含む、請求項1から14のいずれか1つに記載のシステム。
【請求項16】
前記制御ユニットは、前記プレプロセッシングユニットの前記周波数依存ゲインを制御するための制御信号を提供するように構成され、該制御信号は、前記推定の前記品質に依存する、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
リスニング位置においてノイズ源から該リスニング位置に放射されているノイズ信号の電力を減少するための方法であって、該方法は、
該ノイズ信号を表す基準信号を適合してフィルタリングし、フィルタ出力信号として補償信号を提供するステップと、
測定信号を提供するステップと、
該補償信号および該測定信号を該リスニング位置に少なくとも1つの音響アクチュエータを介して放射するステップと、
第1の信号を受信するステップであって、該第1の信号は、該放射された補償信号と、該放射された測定信号と、該ノイズ信号とを、該リスニング位置で重ね合わせているステップと、
該測定信号および該第1の信号に応答して、2次経路システムの伝達特性を推定するステップと
を含み、
該2次経路は、2次経路システムによって特徴付けられ、該2次経路システムは、該適合フィルタの出力から少なくとも1つのマイクロフォンの出力への該信号伝達経路を表している、
方法。
【請求項18】
前記伝達特性を推定するステップは、
前記第1の信号中の、前記測定信号に起因する前記(1または複数の)信号成分を少なくとも部分的に取り除き、誤差信号を提供するステップを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記伝達特性を推定するステップは、
前記測定信号を適合してフィルタリングし、出力として、前記少なくとも1つのマイクロフォンによって受信された該測定信号の推定を提供するステップをさらに含む、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
前記伝達特性を推定するステップは、
前記測定信号の前記推定を前記第1の信号から減じ、前記第1の信号の、前記測定信号に起因する前記(1または複数の)信号成分を少なくとも部分的に取り除き、前記誤差信号を提供するステップをさらに含む、請求項17から18のうちの1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−176120(P2010−176120A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−289669(P2009−289669)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(504147933)ハーマン ベッカー オートモーティブ システムズ ゲーエムベーハー (165)
【Fターム(参考)】