説明

遮光フィルタおよび赤外線光源

【課題】
赤外線を透過するとともに可視光を良好に遮断する特性を有する製造が容易な光学フィルタを備えた所望の防眩性を満足する遮光フィルタおよび赤外線光源を提供する。
【解決手段】
赤外線光源10は、少なくとも赤外線を含む光を放射する発光手段2を収容したバルブ1と;このバルブ1の外表面に鉄(Fe)およびビスマス(Bi)を主成分とする複合酸化物微粒子21を主体として形成され、赤外線を透過し、可視光を遮断する特性を有する光学フィルタ20と;を具備している。複合酸化物微粒子を主体として形成された光学フィルタ20によって赤外線を透過するとともに可視光を良好に遮断するので、製造が容易で所望の防眩性を備えた赤外線光源10を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線を透過し、可視光を遮断する特性を有する光学フィルタが形成された遮光フィルタおよび赤外線光源に関する。
【背景技術】
【0002】
内部にタングステンフィラメントを収納した透光性バルブの外表面に複数の高屈折率および低屈折率の層を形成して所望の波長帯域を透過するとともに、その他の波長帯域の透過を阻止する特性を有する光学フィルタを備えた管形ヒータが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1によれば、前記光学フィルタは、高屈折率の層がTaからなり、低屈折率の層がSiOの多層干渉膜からなる。この管形ヒータは、暖房用、工業加熱用、スタジオ用といった赤外および可視光を発光するランプや赤外線のみを発光するランプとして用いられる旨記載されている。
【0003】
また、赤外線光源として用いられるランプのバルブ外表面に形成される可視光の波長域をカットし赤外線の波長域を選択的に透過させる多層膜フィルタの高屈折率膜の少なくとも一層を600〜1000nmの波長の光に吸収特性の上限があり、それ以下の波長の光を吸収する特性を有する光吸収膜によって構成することが知られている(特許文献2参照)。特許文献2の光吸収膜は、ITO膜、ZnO膜、In膜またはFe膜からなる。そして、特許文献2によれば、波長380〜780nmの可視光がカットされ、800nm以上の赤外光を透過する旨記載されている。
【0004】
さらに、光学特性の異なる複数の層を有したアンバーコーティング膜に可視光域に吸収性のある可視光吸収層を設けることで、所望発光色の光透過率を高くして、積層数を減らすことが知られている(特許文献3参照)。可視光吸収層としては、a−Si、poly−Si、Si(x、yは整数)、Fe、Crを用いる旨記載されている。
【特許文献1】特開昭60−1751号公報
【特許文献2】特開2000−352612号公報
【特許文献3】特開2001−154014号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているような光学フィルタは、多層干渉膜であるため材質の異なる層を交互に複数層形成する必要があり、製造が煩雑である。もちろん、バルブ材料に着色ガラスを利用することも考えられるが、このガラスは赤外線透過率も低下するため赤外線放射効率が低下すると言う問題がある。
【0006】
特許文献2および3に記載されているような光吸収膜は、Fe、Fe+SiOなどの着色膜単層であり、これを複数層設けた多層膜構造とした場合であっても波長600nm以上の赤色光をかなり透過するため透過光には色が着くだけで可視光の遮断効果としては不十分であり、所望の防眩性を満足することができない。また、Fe層に金(Au)粒子を分散させて波長600nm以上の赤色光を遮断することが可能であるが、コストが問題である。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、赤外線を透過するとともに可視光を良好に遮断する特性を有する製造が容易な光学フィルタを備えた所望の防眩性を満足する遮光フィルタおよび赤外線光源を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の遮光フィルタは、透光性基体と;この基体表面に鉄(Fe)およびビスマス(Bi)を主成分とする複合酸化物微粒子を主体として形成され、赤外線を透過し、可視光を遮断する特性を有する光学フィルタと;を具備していることを特徴とする。
【0009】
基体は、表面に光学フィルタが形成されるものであり、光学フィルタは基体を透過した光を遮断するように機能するものである。したがって、基体は、光学フィルタが遮光する波長の光の少なくとも一部を透過する特性を有するものであり、光透過材料である。基体は、例えば窓ガラスなどの建築材や、電気機器、産業用機械などの電気部品、照明用器材といった部材に利用可能なものである。基体の材料としては、ガラス、セラミックス(磁器を含む。)合成樹脂などであることを許容する。
【0010】
複合酸化物微粒子は、鉄およびビスマスを主成分とするものであり、他の副成分が10質量%以下、好ましくは5質量%以下の範囲で含まれているものを許容する。
【0011】
本発明者が実験を重ねた結果、鉄(Fe)にビスマス(Bi)を加えて複合酸化物とした微粒子は、赤外線の透過が高く、可視光を良好に吸収する光学特性を有していることを見出した。この複合酸化物としては、ぺロブスカイト酸化物であるBiFeOが一般的であるが、本発明の作用効果を奏するものであれば、この複合酸化物に限定されない。
【0012】
請求項2は、請求項1記載の遮光フィルタにおいて、前記光学フィルタの複合酸化物微粒子は、鉄およびビスマスが質量比で5:5〜8:2の範囲内であることを特徴とする。
【0013】
鉄の質量比が50%未満だと可視光の吸収特性が低下して、赤外線光源から可視光が多く照射されるので所望の防眩性が得られない。鉄の質量比が80%を超えると、ビスマスを混合することによって赤色光を遮断する作用効果が低下するので好ましくない。
【0014】
請求項3は、請求項1または2記載の遮光フィルタにおいて、前記光学フィルタは、酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)または酸化ジルコニウム(ZrO)のうち少なくとも一種の微粒子がバインダー成分として混合されていることを特徴とする。
【0015】
酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)または酸化ジルコニウム(ZrO)は、化学的安定性に優れた材料であり、光学特性に大きく影響を及ぼすこともなくかつ被膜形成も比較的容易なので前記複合酸化物微粒子のバインダー成分として使用しても可視光の遮断効果を損なうことなく耐久性に優れた光学フィルタを成膜することができる。
【0016】
請求項4は、請求項1ないし3いずれか一記載の遮光フィルタにおいて、前記光学フィルタの膜厚は0.5〜5.0μmであり、波長400〜750nmの可視光の平均透過率が5%以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項4の遮光フィルタは、赤外線の透過量をできるだけ多くしながら、可視光の透過量を極力抑えたものである。この光学フィルタの膜厚が0.5μm未満だと波長400〜750nmの可視光の平均透過率を5%以下にすることが困難となり、5.0μmを超えると赤外線の透過量が低下するので好ましくない。この光学フィルタの膜厚は、好ましくは0.8〜3.0nmの範囲とするのが望ましい。
【0018】
請求項5は、請求項1ないし3いずれか一記載の遮光フィルタにおいて、前記光学フィルタの膜厚は10〜100μmであり、波長400〜800nmの可視光の平均透過率が5%以下であることを特徴とする。
【0019】
請求項5の遮光フィルタは、可視光の透過を極力少なくしながら、赤外線の透過量をできるだけ多くしたものである。この光学フィルタの膜厚が10μm未満だと波長400〜800nmの可視光の平均透過率を5%以下にすることが困難となり、100μmを超えると赤外線の透過量が低下するので好ましくない。この光学フィルタの膜厚は、好ましくは10〜100μmの範囲とするのが望ましい。
【0020】
請求項6の赤外線光源は、請求項1ないし5いずれか一記載の遮光フィルタの透光性基体が少なくとも赤外線を含む光を放射する発光手段を収容し、前記光学フィルタが外表面に配設されるに構成されたバルブを具備していることを特徴とする。
【0021】
「光源」とは、白熱電球、ハロゲン電球またはHIDランプや蛍光ランプなどの放電ランプを意味する。発光手段とは、白熱電球およびハロゲン電球の場合にはフィラメントを指し、放電ランプの場合には放電空間(蛍光体層を含む)を指す。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、鉄およびビスマスを主成分とする複合酸化物微粒子を主体として形成された光学フィルタによって赤外線を透過するとともに可視光を良好に遮断するので、製造が容易で所望の防眩性を備えた遮光フィルタおよび赤外線光源を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0024】
図1ないし図3は、本発明の赤外線光源における第1の実施の形態を示し、図1は正面図、図2は図1の光学フィルタ部分を拡大して示す要部拡大断面図、図3は光学フィルタの分光透過特性を示すグラフである。
【0025】
赤外線光源は、図1に示すように、管形ヒータとして構成されており、赤外線および可視光を放射する管形ハロゲン電球10および赤外線を透過し、可視光を遮断する光学フィルタ20を具備している。
【0026】
管形ハロゲン電球10は、基体としてのバルブ1、白熱フィラメント2、内部導入線3、アンカー4、導入金属箔5、外部導入線6、不活性ガスおよびハロゲンを備えて構成されている。
【0027】
バルブ1は、外径10mmの細長い石英ガラス管の両端に封止部1aをそれぞれ形成して構成されていて直管状をなしている。バルブ1の長さは、用途に応じて適宜設定することができる。封止部1aは、ピンチシール構造をなしている。白熱フィラメント2は、いわゆるタングステンフィラメントからなる。そして、タングステン線を2重コイルに巻回して形成されていて、バルブ1の内部にその管軸に沿って張設されている。また、白熱フィラメント2は、その作動すなわち点灯時に白熱して可視光から赤外線までの連続スペクトルを発生する。
【0028】
内部導入線3は、白熱フィラメントをバルブ1内の所定の位置に支持するとともに、外部から電流を導入するために作用する。本実施の形態においては、白熱フィラメント2の両端の2次コイルを両端方向に引き伸ばすことによって白熱フィラメント2と一体に形成されている。
【0029】
外部導入線6は、モリブデン棒からなり、その基端がバルブ1の両端から外部に導出して図示しない電源に接続する。また、先端が封着金属箔5の一端に溶接されていることによって、白熱フィラメント2に接続している。
【0030】
不活性ガスは、バルブ内部に封入され、白熱フィラメントの蒸発を抑制するのに効果的であり、Xe、Kr、Arなどの希ガスまたはこれらの希ガスに加えてアーク防止のためにNを例えば10%程度の分圧で混合した混合ガスを、適当圧で封入することができる。
【0031】
ハロゲンは、ハロゲンサイクルを行わせて白熱フィラメントから蒸発したタングステンを再びフィラメント上に戻すいわゆるハロゲンサイクルを行わせるために、その少量をバルブ内部に封入している。
【0032】
光学フィルタ20は、図2に示すように、バルブ1の主要部の外面に膜厚0.5〜5.0μmの範囲、好ましくは0.8〜3.0nmの範囲で形成されている。光学フィルタ20は、鉄およびビスマスを主成分とする複合酸化物微粒子21を主体として形成されており、この複合酸化物微粒子21にバインダー成分として酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)または酸化ジルコニウム(ZrO)の微粒子を添加し、焼成して成膜されている。
【0033】
複合酸化物微粒子21は次の方法で得ることができる。まず、Bi及びFeの粉末を質量比で5:5〜8:2の割合で混合し、ボールミルで24時間湿式粉砕する。そして、有機バインダーを添加して混練したあと乾燥、造粒し、平均粒径5〜100nmの微粒子が得られる。そして、得られた複合酸化物微粒子21を酸化アルミニウム微粒子等のバインダー成分とともに有機溶媒へ分散してコーティング液が調製される。
【0034】
このように調整されたコーティング液で成膜された光学フィルタ20の分光透過率特性を図3のグラフに示す。このグラフの線aによれば、波長750nmを超える赤外線の透過率が高く、波長750nm以下の可視光はほとんど透過していないことが分かる。測定の結果、波長400〜750nmの可視光の平均透過率が5%以下であることが分かった。
【0035】
なお、上記実施形態の光学フィルタ20は、赤外線光源以外にも、医療機器や建築構造物の光学フィルタにも適用することが可能である。用途によっては可視光が極力透過しない遮光フィルタにするため、光学フィルタの膜厚を10〜100μm、好ましくは20〜70μmの範囲とし、波長400〜800nmの可視光の平均透過率が5%以下となるように形成してもよい。この被膜は、上記と同一の成分のコーティング液を厚膜に製膜することで得ることができる。このように厚膜化された場合の分光透過率特性を図3のグラフの線bに示す。このように厚膜化された光学フィルタ20によれば、赤外線の透過量が少ないが可視光の透過を確実に抑えることができ、防眩性に優れた遮光フィルタを構成することが可能となる。
【0036】
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。図4は、第2実施形態のメタルハライドランプを示す正面図である。図において、70は発光管7、71は外管、8は口金を示す。外管71は、紫外線カット性能を備えており、内部にメタルハライドランプを構成する発光管70を収納していて、両端が封止部にガラス溶着されている。また、外管71は、その外面の所要の部位に遮光膜20が形成されている。遮光膜20は、第1の実施形態と同一構成の光学フィルタであり、可視光の透過を遮断するマンガンフリーの被膜である。口金8は、絶縁性の口金基体に組み付けられた一対の受電端子を備えている。本実施形態のメタルハライドランプは、2つの車両用照明装置のランプソケットに口金8を介して2個ずつ装着され、4灯式の自動車用前照灯装置が構成される。各メタルハライドランプの発光部70の発光中心は、自動車用前照灯装置本体のリフレクタの焦点にほぼ位置するように配設されている。また、遮光膜20は、対向車へ放射ビームが照射されないように遮光して自動車用前照灯装置としての防眩性を発揮するような位置に形成されている。
【0037】
本発明によれば、赤外線を放射する光源のバルブ外表面に鉄およびビスマスを主成分とする複合酸化物微粒子を主体とした光学フィルタを設けることで、本来不要である可視光の放射を極力抑えることができ、製造コストも低く抑えた赤外光源を提供することが可能となる。これにより、産業用または民生用ヒータもしくは赤外線センサ用の赤外線光源の防眩性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第1の実施形態である赤外線光源を示す概略正面図。
【図2】図1の赤外線光源の光学フィルタを示す拡大断面図。
【図3】図1の赤外線光源の光学フィルタの分光透過特性を示すグラフ。
【図4】本発明の第2の実施形態であるメタルハライドランプを示す概略正面図。
【符号の説明】
【0039】
1…基体(バルブ)、2…発光手段、10…赤外線光源、20…光学フィルタ、21…複合酸化物微粒子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基体と;
この基体表面に鉄(Fe)およびビスマス(Bi)を主成分とする複合酸化物微粒子を主体として形成され、赤外線を透過し、可視光を遮断する特性を有する光学フィルタと;
を具備していることを特徴とする遮光フィルタ。
【請求項2】
前記光学フィルタの複合酸化物微粒子は、鉄およびビスマスが質量比で5:5〜8:2の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の遮光フィルタ。
【請求項3】
前記光学フィルタは、酸化珪素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)または酸化ジルコニウム(ZrO)のうち少なくとも一種の微粒子がバインダー成分として混合されていることを特徴とする請求項1または2記載の遮光フィルタ。
【請求項4】
前記光学フィルタの膜厚は0.5〜5.0μmであり、波長400〜750nmの可視光の平均透過率が5%以下であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の遮光フィルタ。
【請求項5】
前記光学フィルタの膜厚は10〜100μmであり、波長400〜800nmの可視光の平均透過率が5%以下であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか一記載の遮光フィルタ。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか一記載の遮光フィルタの透光性基体が少なくとも赤外線を含む光を放射する発光手段を収容し、前記光学フィルタが外表面に配設されるに構成されたバルブを具備していることを特徴とする赤外線光源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−65005(P2007−65005A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247239(P2005−247239)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000003757)東芝ライテック株式会社 (2,710)
【Fターム(参考)】